平成14(行コ)32 勧告無効等確認請求控訴事件(原審・熊本地方裁判所平成12年(行ウ)第3号)

裁判年月日・裁判所
平成15年7月17日 福岡高等裁判所 熊本地方裁判所 平成12(行ウ)3 警察関係
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判決文本文15,115 文字)

主文 1 原判決を取り消す。 2 本件を熊本地方裁判所に差し戻す。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文同旨第2 事案の概要 1  控訴人は,熊本県八代郡鏡町に救急医療を主体とする病院の開設を計画し,被控訴人に対し,平成9年4月15日付けで病床185床,仮称八代鏡病院の開設許可申請を行ったところ,これと相前後して社団法人八代市医師会及び社団法人八代郡医師会からも病院開設の許可申請がなされ,被控訴人は,控訴人を含む3者に対して病院の開設を許可したものの,控訴人に対しては,これに先立ち,同年11月5日付けで地域医療計画で定めた必要病床数を超えることを理由に医療法30条の7に基づく病院開設の中止勧告を行った。その後,社団法人八代郡医師会は,一旦なされた開設許可を取り消す旨の申請をし,病院の開設場所を変更した上,被控訴人からその旨の病院開設の許可を受けた。 本件は,控訴人が,社団法人八代郡医師会の病院開設許可申請の取下げにより,必要病床数に80床分の余剰が生じ,その結果,中止勧告のうち80床分につき失効したと主張して,主位的にその限度で中止勧告が失効したことの確認を求め,予備的に,中止勧告には重大かつ明白な瑕疵があるなどと主張して,その無効確認を求めた事案である。 原審は,中止勧告には処分性が認められないと判断して,控訴人の本件訴えをいずれも却下した。 2 本件事案の概要及び争点に関する当事者双方の主張は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1)  原判決3枚目9行目の「平成9年11月5日」を「平成9年11月18日」と改める。 (2)  原判決4枚目9行目の「開設許可をそれぞれ申請した」を「開設計画書をそれぞれ被控訴人に提出した。これらの病院の 判決3枚目9行目の「平成9年11月5日」を「平成9年11月18日」と改める。 (2)  原判決4枚目9行目の「開設許可をそれぞれ申請した」を「開設計画書をそれぞれ被控訴人に提出した。これらの病院の開設場所は,控訴人の申請にかかる病院も含めていずれも八代保健医療圏内にあり,これらの病院の病床数を合計すると前記不足病床数を超えることとなるため,熊本県は,八代地域保健医療推進協議会の意見等を踏まえた上,療養型病床群の整備を計画する八代市医師会及び八代郡医師会の病院開設を進め,控訴人,医療法人社団大森会及び医療法人芳和会の病院開設については不適当と判断し,その3者に対して病院開設計画の中止を要請した。 医療法人社団大森会からは病院開設許可申請がなされなかったが,医療法人芳和会は,控訴人と同様,被控訴人に対し病院開設許可申請を行ったので,被控訴人は,同年11月5日,医療法人芳和会に対し医療法30条の7に基づく病院開設の中止勧告を行った。同医療法人は,この中止勧告を受けて,病院の開設を取り止めた」と改める。 (3) 原判決4枚目10行目の「14,30,31」を「14ないし23,24の1ないし3,30,31,37,66,原審証人A」と改める。 (4) 原判決11枚目2行目の「医療法施行規則」の次に「(平成12年3月厚生省令77号による改正前のもの)」を加える。 (5) 原判決13枚目3行目の「はずである。」の次に「しかし,実際には,勧告を受けた者が病院開設の許可を得ても,この許可に勧告が付着しているかのように扱われ,保健医療機関の指定を拒否されて病院を開設することは事実上できない。したがって,知事の勧告は,単なる行政指導にすぎないものではなく,一定の法的な効力を認めざるをえないのであり,」を加える。 (6) 原判決13枚目12行目の「申請当時,」の次に「 とは事実上できない。したがって,知事の勧告は,単なる行政指導にすぎないものではなく,一定の法的な効力を認めざるをえないのであり,」を加える。 (6) 原判決13枚目12行目の「申請当時,」の次に「平成10年5月の医療計画の変更により,八代保健医療圏における必要病床数が1776床から1659床に減少していたため,」を加える。 (7) 原判決14枚目14行目の「通謀し,」の次に「八代地域保健医療推進協議会の救急医療を主体とした病院については体制がある程度整備されているとの誤った,かつ不公正な意思表明を拠り所にして,」を加える。 (8) 原判決14枚目23行目の次に行を改め,次のとおり加入する。 「 さらに,病院開設予定者に対する中止勧告の制度を定めた医療法30条の7の規定は,医療資源の効率的配分という名の下に,実質的には病院開設希望者の自由を抑制し,医療費の増大による医療保険の財政負担の軽減化を図り,加えて,既存の病院や医師といった既存事業者の既得権を擁護することを目的として導入されたものであり,しかも,その勧告の実効性を確保するために本来目的を異にする健康保険法をこれと結合させ,旧健康保険法43条ノ3第2項において,中止勧告を受けこれに従わなかった者に対して保険医療機関の指定を拒否する旨定めたのであって,これらの規定は,憲法22条ないし13条に違反するというべきである。」(9) 原判決14枚目25行目から同15枚目2行目までを削除し,これに代えて次のとおり加入し訂正する。 「  医療法30条の7が定める知事の勧告に処分性が認められるとしても,この勧告は,医療提供体制の適正化,効率化を図る医療計画制度の中核となるものであり,病院の開設,増床,病床の種別の変更の申請があった場合,知事は,医療圏における病床の不足をどのような種類の病床によ この勧告は,医療提供体制の適正化,効率化を図る医療計画制度の中核となるものであり,病院の開設,増床,病床の種別の変更の申請があった場合,知事は,医療圏における病床の不足をどのような種類の病床によって整備するかについて,限られた医療資源の中で医療保険の健全な財政運営を図りつつ医療計画を達成するため,医療供給体制の現状,今後の医療需要の推移等地域の実情を十分に勘案して判断するのである。そして,その判断は政策的専門的技術的見地からなされるものであって,知事に広範な裁量が認められるべきであり,その判断過程に看過しがたい過誤,欠落といった不合理な点があり,知事の判断が社会通念上著しく不相当であると認められる場合にのみ裁量の逸脱又は濫用があり,違法とされるにすぎないというべきである。 本件中止勧告は,控訴人,八代市医師会,八代郡医師会の病院開設の申請が競合し,八代保健医療圏における救急医療体制はある程度整備されていた反面,高齢化社会に対応する医療の供給体制の整備が急務であり,かつ県議会の議論や八代地域保健医療推進協議会の意見などを踏まえて,当該医療圏における不足病床を療養型病床群を主体とする八代市医師会及び八代郡医師会の病院開設により整備し,救急医療を主体とする控訴人の病院開設を不要と判断した結果なされたものである。 したがって,本件中止勧告は,医療法30条の7による被控訴人の適正な裁量に基づいてなしたものであるから,適法である。」第3 当裁判所の判断(本件中止勧告の処分性の有無について) 1 当裁判所は,原審判断とは異なり,本件中止勧告は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当し,抗告訴訟の対象になると判断するものであるが,その理由のうち,判断の前提となる事実,関係法令の規定の概要は,概ね原判決「 訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当し,抗告訴訟の対象になると判断するものであるが,その理由のうち,判断の前提となる事実,関係法令の規定の概要は,概ね原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1項の(1)及び(2)に記載のとおりである。ただ,便宜,その記載部分に当裁判所が付加,訂正した分(下線を付した)を加えて,改めて判示する。 (1) 本件において,控訴人は,本件中止勧告につき,主位的に一部失効の確認を,予備的に全部無効の確認を求めているが,控訴人の請求が認められるためには,いずれにしても本件中止勧告が,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当しなければならない(行政事件訴訟法3条2項,4項)。そして,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは,公権力の主体たる国又は地方公共団体が法令の規定に基づき行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁第一小法廷昭和39年10月29日判決・民集18巻8号1809頁)。 (2) そこで,本件で問題となっている病院開設許可及び保険医療機関の指定についての法令の規定について検討する。 ア医療法における病院開設許可及び医療計画等(甲43,53の1ないし3,乙13,58)① 病院開設許可平成9年法律第124号による改正前の医療法7条1項は「病院を開設しようとするとき・・・は,開設地の都道府県知事の許可を受けなければならない。」と規定し,同法7条3項は「都道府県知事は,前2項の許可の申請があった場合において,その申請に係る施設の構造設備及びその有する人員が,同法21条及び23条の規定に基づく省令の定める要件に適合するときは,前2項の許可を与えなけ 都道府県知事は,前2項の許可の申請があった場合において,その申請に係る施設の構造設備及びその有する人員が,同法21条及び23条の規定に基づく省令の定める要件に適合するときは,前2項の許可を与えなければならない。」と規定していた。そして,都道府県知事が許可を与えないことができる場合は,営利を目的として病院を開設しようとする者(同法7条4項)や公的医療機関等の申請において,病院の病床数が医療計画に定める必要病床数を超える場合(同法7条の2)とされていた。 ② 医療計画医療法は,医療資源の効率的な配置により国民の医療を充実させることを目的として,同法30条の3第1項に「都道府県は,当該都道府県における医療を提供する体制の確保に関する計画(以下「医療計画」という。)を定めるものとする。」と規定し,医療計画においては,その対象となる区域(以下「医療圏」という。)の設定及び必要病床数(平成12年法律第141号による改正以降は,基準病床数)に関する事項を定めるものとされているほか,病院の機能を考慮した整備の目標に関する事項,へき地の医療及び救急医療の確保に関する事項,医療に関する施設の相互の機能の分担及び業務の連係に関する事項,医療従事者の確保に関する事項,その他医療を提供する体制の確保に関し必要な事項を定めることができるとされていた(同条2項,3項)。 そして,熊本県においては,「熊本県保健医療計画」が策定され,一般の医療需要に対応するために設定する区域を第二次医療圏(同条2項1号所定の区域)として,八代地域保健医療圏を含む10の第二次医療圏が設定され,各第二次医療圏における必要病床数等が定められていた。さらに,八代地域保健医療圏では,地域の特性や実情に即した具体策を定めて医療供給計画全般の整備を図るために八代地域保健医療計画が策定され 定され,各第二次医療圏における必要病床数等が定められていた。さらに,八代地域保健医療圏では,地域の特性や実情に即した具体策を定めて医療供給計画全般の整備を図るために八代地域保健医療計画が策定されていた(乙20,42,45)。 ③ 医療計画の達成のために必要な措置等医療法30条の5第1項は,「国及び地方公共団体は,医療計画の達成を推進するため,病院又は診療所の不足している地域における病院又は診療所の整備その他必要な措置を講ずるように努めるものとする。」旨規定し,同法30条の7は,「都道府県知事は,医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合には,病院を開設しようとする者・・・に対し,都道府県医療審議会の意見を聴いて,病院の開設又は病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更に関して勧告することができる。」旨規定していた。 厚生省健康政策局長は,各都道府県知事宛に昭和61年通知を発し,医療計画作成後はその趣旨,内容の周知徹底を図り,病院等を開設する者等に対しては,当該開設等にかかる病院等の機能,規模,所在地等が医療計画に適合したものとなるように助言すること等により,その達成の推進に遺憾なきを期されたいとして,「医療法30条の7にいう医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合とは,原則として同法7条の2第1項に掲げる者以外の者が,病院の開設の申請等をした場合において,その病床の種別に応じ,その病院の所在地を含む二次医療圏又は都道府県の区域における病院の病床数が,医療計画に定める当該区域の必要病床数に既に達している場合又はその病院の開設等によって当該必要病床数を超えることとなる場合をいう。」,「同じく病院の開設又は病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更に関して勧告するとは,病院の開設等のそれぞれの行為の中止又はそれぞれの行為に よって当該必要病床数を超えることとなる場合をいう。」,「同じく病院の開設又は病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更に関して勧告するとは,病院の開設等のそれぞれの行為の中止又はそれぞれの行為にかかる申請病床数の削減を勧告することをいう。」,「医療法30条の7の規定に基づく勧告は,同法7条の許可又は不許可の処分が行われるまでの間に行う。」旨の通達をした。その後も,厚生省健康政策局長は,平成9年法律第125号による医療法の一部改正に当たって,各都道府県知事宛に発した平成10年6月1日付け「医療計画について」と題する通知(甲53の7)において,また,平成12年法律第141号による医療法の一部改正に当たって,各都道府県知事宛に発した平成13年4月27日付け「医療計画について」と題する通知(甲53の11)において,それぞれ昭和61年通知と同趣旨の通達を行っている。 イ健康保険法における保険医療機関の指定と医療計画① 保険医療機関の指定ところで,旧健康保険法は,「被保険者の疾病又は負傷に関して,診察,薬剤又は治療材料の支給,処置,手術その他の治療等の療養の給付をなす。」旨規定し(同法43条1項),「給付を受けようとする者は,都道府県知事の指定を受けた病院若しくは診療所(保険医療機関)又は薬局で受けるものとする。」旨規定していた(同条3項)。そして,同法43条ノ3第1項は,「保険医療機関ノ指定ハ命令ノ定ムル所ニ依リ病院若ハ診療所ニシテ其ノ開設者ノ申請アリタルモノニ就キ都道府県知事之ヲ行フ」旨規定して,開設許可を受けた病院が保険診療を行うためには,健康保険法に基づき,都道府県知事により,保険医療機関の指定を受けなければならないとされていた。 また,同条1項を受けた保険医療機関及び保険薬局の指定並びに特定承認保険医療機関の承認並びに保 ,健康保険法に基づき,都道府県知事により,保険医療機関の指定を受けなければならないとされていた。 また,同条1項を受けた保険医療機関及び保険薬局の指定並びに特定承認保険医療機関の承認並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する省令1条によると,保険医療機関の指定を受けるためには,医療法7条に基づく病院等の開設の許可を得た後,同法27条の定めるところにより,都道府県知事から使用許可証の交付を受けていなければならず,この使用許可を得るためには,同法21条に従い,所定の省令の定めるところにより,病院の建物等を建築し,医療設備を整え,医師や看護婦を雇うなどして,必要な人員及び施設を確保し,かつ記録を備えて置かなければならないことになっている。 なお,平成12年4月1日からは,厚生大臣が保険医療機関の指定をするものとされた(平成11年7月16日法律第87号による改正)。 ② 医療計画と保険医療機関の指定等旧健康保険法43条ノ3第2項は,「都道府県知事は,保険医療機関又は保険薬局の指定の申請があった場合に,当該病院若しくは診療所又は薬局が,保険医療機関若しくは保険薬局の指定若しくは特定承認保険医療機関の承認を取り消され,2年を経過しないものであるとき,保険給付に関し診療若しくは調剤の内容の適切を欠くおそれがあるとして,重ねて同法43条ノ7第1項の規定による指導を受けたものであるとき,『其ノ他保険医療機関若シクハ保険薬局等トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ』,その指定を拒むことができる。」旨規定していたが,厚生省保険局長は,「医療計画公示後における病院開設等の取扱いについて」と題する通知(昭和62年通知・乙1)において,都道府県知事と医療機関との契約である保険医療機関の指定等に際しては,国民に適正な医療を効率的に供給するとの観点から おける病院開設等の取扱いについて」と題する通知(昭和62年通知・乙1)において,都道府県知事と医療機関との契約である保険医療機関の指定等に際しては,国民に適正な医療を効率的に供給するとの観点から,地域医療計画に定める必要病床数を超える病床についてはこれを契約の対象としないという基本的な考え方に立つとして,「医療法30条の7に基づく知事の勧告を受けた病院の開設者が病院の開設をし,当該病院から保険医療機関の指定申請があった場合は,これが旧健康保険法43条ノ3第2項の「著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当するものとして,又は国民健康保険法37条2項の規定に基づき,地方社会保険医療協議会に対し,指定拒否又は受理拒否の諮問を行うこと」と通知し,そのように運用していた。 その後,上記運用を明文化して,平成10年改正健康保険法43条ノ3第4項2号は,「都道府県知事は,医療計画で定める必要病床数を勘案して厚生大臣の定めた方法により算定した病床数を超えることとなる場合で,病院開設者等が医療法30条の7による勧告を受け,これに従わないときは,申請に係る病床の全部又は一部を除いて指定を行うことができる。」旨規定した。なお,同法43条ノ3第3項は,旧健康保険法43条ノ3第2項の規定がほぼそのままの形で移された。 一方,厚生省老人保健福祉局長及び同省保険局長は,平成10年改正健康保険法等の施行に当たって,各都道府県知事宛に発した平成10年7月27日付け「国民健康保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法令の改正について」と題する通知において,昭和62年通知を廃止するとともに,平成10年改正健康保険法43条ノ3第3項にいう「著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」とは,指定を取り消された医療機関等の開設者が別の医療機関等として指定申請をしてきたときや, 通知を廃止するとともに,平成10年改正健康保険法43条ノ3第3項にいう「著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」とは,指定を取り消された医療機関等の開設者が別の医療機関等として指定申請をしてきたときや,指導監査を再三受けているにもかかわらず,指示事項について改善が見られずに指定更新時を迎えたときなど,再指定の拒否に関わる事項であることを明らかにしている(甲53の9)。また,同条4項2号に規定する厚生大臣の定める病床の数の算定方法については,平成10年7月厚生省告示211号によって定められたが(甲53の8),厚生省健康政策局指導課長は,各都道府県衛生主管部(局)長宛に発した同月27日付け「保険医療機関の病床の指定に係る国民健康保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う医療法第30条の7の規定に基づく勧告等の取扱いについて」と題する通知において,上記厚生省告示で定められた平成10年改正健康保険法43条ノ3第4項2号前段の要件は,医療法30条の7の勧告の要件と同一であることを明らかにしている(甲53の10)。 ウ地方社会保険医療協議会による審議都道府県知事が保険医療機関の指定を拒むとき(旧健康保険法43条ノ3第3項),あるいは,都道府県知事が申請に係る病床の全部又は一部を除いて指定を行うとき(平成10年改正健康保険法43条ノ3第7項)は,「地方社会保険医療協議会ノ議ニ依ルコトヲ要ス」と規定していた。 ところで,地方社会保険医療協議会は,各地方社会保険事務局に置かれ(社会保険医療協議会法1条),保険者・被保険者・事業主等を代表する委員8人,医師等を代表する委員8人,公益を代表する委員4人の合計20人をもって組織され,公益を代表する委員以外の委員は,関係団体の推薦に基づき任命され(同法3条),会長は公益を代表する委員のうちから委員によ 師等を代表する委員8人,公益を代表する委員4人の合計20人をもって組織され,公益を代表する委員以外の委員は,関係団体の推薦に基づき任命され(同法3条),会長は公益を代表する委員のうちから委員により選挙されることとされており(同法5条),都道府県知事(平成12年4月1日以降は厚生大臣)からは独立した組織になっている。そして,都道府県知事(前同日以降は厚生大臣)が保険医療機関の指定拒否を相当としても,地方社会保険医療協議会がこれと異なる決議をすれば,指定を拒否することはできないとされていた(乙50)。 2 以上の事実関係や関係法令の規定に基づき,本件中止勧告の処分性について検討する。 (1)  医療法30条の7に基づいて病院の開設等に関してなされる勧告は,都道府県知事が法律の規定を根拠に一方的に行う行為であるが,その勧告(中止勧告を含む)を受けたからといって,病院等の開設許可(同法7条)や使用許可(同法27条)の障害事由になっているわけではなく,その他医療法上不利益に扱われることはないのであって,その行為の目的が医療計画(同法30条の3)の達成の推進のため病院の開設等をある方向に誘導することにあると考えられることからしても,それで完結する限りは,その行為の性質は個人の権利義務に影響を及ぼさない行政指導にすぎないということができる。 ところで,医療法30条の7に基づく勧告は,「医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合」になされるものであるが,その意味するところについて,病院を開設しようとする者(同法7条の2第1項に掲げる者を除く。)等の申請によって,その医療圏又は区域における病院の病床数が,地域の医療計画に定める必要病床数に既に達している場合又は必要病床数を超えることとなる場合がこれに該当するとされ,厚生省健康政策局長が繰り返し 請によって,その医療圏又は区域における病院の病床数が,地域の医療計画に定める必要病床数に既に達している場合又は必要病床数を超えることとなる場合がこれに該当するとされ,厚生省健康政策局長が繰り返し行った通達により,そのような行政解釈が確立していると認められる。本件中止勧告も,控訴人の申請にかかる本件病院の開設によって,八代保健医療圏における地域医療計画で定めた必要病床数を超えることを理由としてなされたものである。そして,旧健康保険法43条ノ3第2項は,「保険医療機関若ハ保険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」,都道府県知事は保険医療機関等の指定を拒むことができる旨規定していたところ,医療法30条の7に基づく知事の勧告を受けた場合につき,ここにいう「著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当するものとして運用されていて,平成10年改正健康保険法43条ノ3第4項2号は,この運用を明文化し,上記勧告を受けてこれに従わないときは保険医療機関の指定を拒むことができる(申請の全部又は一部を除いて指定を行うことができる)旨規定するに至っている。そこで,医療法30条の7に基づく勧告を受けたとき,保険医療機関の指定との関係で申請者の権利利益に直接の影響を及ぼすものといえるか否かが問題となるのである。 (2) 保険医療機関の指定拒否に関して,前記のとおり,旧健康保険法43条ノ3第2項は「指定ヲ拒ムコトヲ得」と,平成10年改正健康保険法43条ノ3第4項は「其ノ申請ニ係ル病床ノ全部又ハ一部ヲ除キテ其ノ指定ヲ行フコトヲ得」とそれぞれ規定しており,条文上の体裁では,医療法30条の7に基づく勧告を受けてこれに従わなかったとしても,当然に保険医療機関の指定を拒否されることにはなっていない。また,保険医療機関の指定を拒否するに当たっては,地方社会保険 の体裁では,医療法30条の7に基づく勧告を受けてこれに従わなかったとしても,当然に保険医療機関の指定を拒否されることにはなっていない。また,保険医療機関の指定を拒否するに当たっては,地方社会保険医療協議会の議決を経なければならないことになっており(旧健康保険法43条ノ3第3項,平成10年改正健康保険法43条ノ3第7項),都道府県知事が保険医療機関の指定拒否を相当と判断する場合であっても,地方社会保険医療協議会の議決を得られなければ,保険医療機関の指定申請に対して拒否をすることができないとされている。 しかしながら,行政実務においては,厚生省から発せられた相次ぐ通達により,医療計画の達成の推進がつとに強調されており,民間病院の開設申請に当たり医療計画に定める必要病床数を超えるなどして,医療法30条の7の規定に基づく勧告(病院の開設の中止又は申請病床数の削減の勧告)がなされた場合につき,旧健康保険法43条ノ3第2項にいう「著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当するものとして,地方社会保険医療協議会に対し,保険医療機関の指定拒否又は受理拒否の諮問を行うこととされていたほか,知事が勧告を行うに至った経過等を十分に説明して理解を求めることとされていたのである(なお,平成10年改正健康保険法43条ノ3第4項2号は,この運用を明文化したもので,行政実務の取扱いは,改正前後において変わらない。)。そうすると,都道府県知事(平成12年4月1日以降は厚生大臣)は,医療法30条の7の規定に基づく勧告制度と健康保険法の規定に基づく保険医療機関の指定申請の拒否処分とを連動させ,条文の体裁にかかわらず,中止勧告等がなされた場合は保険医療機関の指定を拒むものとして,地方社会保険医療協議会にもその旨の強い働きかけをすることとしているのであって(なお,前記 否処分とを連動させ,条文の体裁にかかわらず,中止勧告等がなされた場合は保険医療機関の指定を拒むものとして,地方社会保険医療協議会にもその旨の強い働きかけをすることとしているのであって(なお,前記のとおり,本件事案について被控訴人が行政手続法9条2項の規定に基づいて行った情報の提供においても,被控訴人は,本件中止勧告を受けてこれを拒否している本件病院については保険医療機関の指定を拒否することになると明言している。),控訴人のような保険医療制度を利用することを予定した民間病院の開設申請者にとって,中止勧告を受けた(かつこれに従わない)場合に,保険医療機関の指定申請の拒否処分を受ける現実的かつ具体的な危険があるものというべきである。病院の開設申請者が中止勧告を受けて,地方社会保険医療協議会が保険医療機関の指定拒否等を諮問されながら,この諮問と異なる議決をなした事例が過去にあったことは全く窺えないことや地方社会保険医療協議会の組織的な構成からしても,地方社会保険医療協議会が都道府県知事から独立した組織になっているからといって,前記の理に変わりはないとみるべきである。 ところで,健康保険制度において都道府県知事(平成12年4月1日以降は厚生大臣)が行う保険医療機関の指定は,都道府県知事が保険者に代わり病院等医療機関との間で締結する一種の契約であると考えられているが,都道府県知事に契約を締結するか否かについて自由裁量があるわけではないのであって(前述の指定を拒否する場合には,地方社会保険医療協議会の議決を得ることを要するとされているのも,その表れである。),法で定めた除外事由がなく,法令の規定に則った申請がなされる限り指定をしなければならないのである(旧健康保険法43条ノ3,平成10年改正健康保険法43条ノ3)。また,それが契約であるとして ある。),法で定めた除外事由がなく,法令の規定に則った申請がなされる限り指定をしなければならないのである(旧健康保険法43条ノ3,平成10年改正健康保険法43条ノ3)。また,それが契約であるとしてもその約款の内容については細かく法によって定まっており(旧健康保険法43条,43条ノ2,43条ノ3,43条ノ4,43条ノ5,43条ノ6,43条ノ7,43条ノ9,43条ノ10等),いわゆる法定約款に該当するから,契約当事者が自由に約款の内容を決められるものではない。加えて,我が国は国民皆保険制を採用しており,保険医療機関の指定が拒否されると患者は健康保険を使うことができなくなるから,そのような病院には患者が集まらず,病院経営が成り立たなくなることは明らかである。これらを考え合わせると,保険医療機関の指定を受けるか否かは,病院開設者にとって重大な法的利益に関わる問題であるというべきであり,医療機関が健康保険制度から受ける利益について,単なる反射的利益にすぎないものではなく,病院経営の自由を背景とした法律上の地位ないし権利に基づいた利益であるとみるべきである。 以上を考え合わせると,本件中止勧告によって,控訴人が保険医療機関の指定申請の拒否処分を受ける現実的かつ具体的な危険があり,しかも,それによって保険医療機関としての指定を受けるという法的な利益が侵害されることになるから,本件中止勧告は処分性を有するものというべきである。 (3) なお,保険医療機関の指定が拒否された場合,それを不当として争う者は,保険医療機関の指定拒否処分の取消しを求めることも当然に可能であるところ,中止勧告がなされた段階では未だ事件としての成熟性がなく,事後的に保険医療機関の指定拒否処分を争えば足りるのではないかとの考え方もありえなくはない。 しかし,前記のとおり に可能であるところ,中止勧告がなされた段階では未だ事件としての成熟性がなく,事後的に保険医療機関の指定拒否処分を争えば足りるのではないかとの考え方もありえなくはない。 しかし,前記のとおり,病院の開設者が保険医療機関の指定申請をするためには,予め多額の費用を投下して必要な人員及び施設を確保しておかなければならず,その上で病院の使用許可(医療法27条)を得ておく必要があるのであり,しかも,我が国が国民皆保険制を採用していることからして,保険診療を行うことができない病院の経営は,よほどの特殊な医療分野を対象とする場合を除き事実上不可能である。したがって,保険医療機関の指定拒否処分がなされるまで争訟性を認めないとすると,中止勧告を受けた病院開設者としては,保険医療機関の指定申請が拒否される現実的な危険の下に多額の費用を投下して病院を開設し,指定拒否処分がなされた段階でこれを争うしか方法はないことになるのであって,保険医療機関としての指定を受けるという法的な利益を侵害された病院開設者に対する救済の方途として,誠に非現実的かつ不十分な結果になるといわざるをえない。そして,現実には,中止勧告がなされている以上は,このような危険に耐えられないために,申請者は病院の開設,使用自体を諦めているのが実態であるものと窺えるのである。 そうであれば前記のとおり中止勧告によって保険医療機関の指定拒否処分を受ける現実的かつ具体的な危険が生じるのであるから,中止勧告を受けた段階でその当否を争わせることによって,保険医療機関の指定を拒否される危険を排除することができるように解釈すべきなのであって,中止勧告の段階で争いの成熟性を認め,処分性を肯定するのが相当であるというべきである。 (4) したがって,本件中止勧告は,行政事件訴訟法3条2項に きるように解釈すべきなのであって,中止勧告の段階で争いの成熟性を認め,処分性を肯定するのが相当であるというべきである。 (4) したがって,本件中止勧告は,行政事件訴訟法3条2項にいう行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当し,抗告訴訟の対象になるというべきである。 3 補足的判断以上で判示したとおりであるが,事案に鑑み,視点を少し変えて,判断を補足する。 医療法30条の7に基づく中止勧告は,医療計画の達成推進のために,直接には病院開設自体の中止を勧告する医療法上の制度であるが,同法自体の規律領域においては,中止勧告があっても,そのことを理由に同法7条の病院開設許可が受けられなくなるものではないから,中止勧告の当不当が,医療法における病院開設不許可処分の効力を巡り争われることは起こりえないことになる。しかし,国民皆保険制度の下では,現実に病院を開設し,運営するためには,社会経済的な見地からみて,特殊な医療分野を目的とする場合を除けば保険医療機関として指定されることが不可欠であるといえるから,法的な判断枠組みとしても,医療法上の制度である本件中止勧告と健康保険法に基づく保険医療機関の指定制度を関連づけて理解すべきであり,こうした観点からは,昭和62年通知が,中止勧告を受けた病院開設者から,その病院の保険医療機関指定の申請があったときは,旧健康保険法43条ノ3第2項の「著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当するものとして,地方社会保険医療協議会に,指定拒否の諮問を行うように指示したことは,その後の運用実態からみても,中止勧告を受けた者は,病院開設自体は許可されても,保険医療機関の指定を受けて病院を運営する途が閉ざされたに等しいとみるべきであり,しかも,中止勧告自体を端的に争うことができ の運用実態からみても,中止勧告を受けた者は,病院開設自体は許可されても,保険医療機関の指定を受けて病院を運営する途が閉ざされたに等しいとみるべきであり,しかも,中止勧告自体を端的に争うことができないとすれば,殆ど指定されることはないとのリスクを覚悟の上で,多大な経済的な先行投資をして人的,物的な病院運営態勢を予め整備した上で,指定申請して,殆ど必然的な指定拒否処分を受け,これを争うの他はないことになるが,このような事態は,容認しがたいものと考えられる。 そして,病院の開設,経営という社会的にみれば一連の手続きの中にこの中止勧告を位置づけてみると,①中止勧告が,法的には,必然的に保険医療機関としての指定が拒否されるわけではない,②その指定申請のためには危険を覚悟で多額の投資を要する点も経済的な問題に過ぎず,法的には考慮の余地がない,などとして,中止勧告自体によっては,申請者の法的地位に変動がないと考えるときは,中止勧告自体の当不当を争う機会を封じたまま,病院開設者側がどんなに中止勧告を不当と感じても経済的リスクに耐えられないために,病院開設自体を諦めて保険医療機関の指定申請にまで及ばず,したがって,中止勧告の当不当が司法審査を受ける余地もないということになる。しかし,このように理解することは,いわば,申請者の意思(申請者が,現実的な判断として,保険医療機関の指定申請はもとより,病院開設自体を諦めること)を制度的に折り込み,介在させることにより,中止勧告とそれによる不利益とが直接に関連しないように制度設計されているとみるものであって,結果的に行政庁の専断を許す法システムを容認することになるが,これは,行政庁の公権力の行使により法的利益を侵害された国民の司法的救済に途を閉ざすものであって,行政事件訴訟法の理念にも反する不 あって,結果的に行政庁の専断を許す法システムを容認することになるが,これは,行政庁の公権力の行使により法的利益を侵害された国民の司法的救済に途を閉ざすものであって,行政事件訴訟法の理念にも反する不適当な解釈であるといわざるをえない。ひるがえって以上のような非難を免れるためには,病院開設,運営の基盤をなす医療法,健康保険法の一連の法体系の中で,端的に中止勧告に処分性を認めるのほかはない。そして,中止勧告に処分性を認める解釈が行政事件訴訟法3条の適用として十分に成り立つことは,前記2項で判断したとおりである。 第4 結論よって,控訴人の本件訴えをいずれも却下した原判決は不当であり,本案についてさらに審理を尽くさせるため,本件を原審裁判所に差し戻すこととして,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第3民事部裁判長裁判官小林克已裁判官内藤正之裁判官白石史子

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