主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は,控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人が控訴人に対し,平成12年9月7日付けでした行政情報部分公開決定のうち,土地売買契約書中の「買収単価」欄及び「金額」欄の情報及び同契約書に添付された「物件その他通常受ける損失補償明細書」中の「種類」,「単位」,「数量」,「単価」及び「金額」の各欄の情報を非公開とした部分を取り消す。 2 被控訴人控訴棄却第2 事案の概要 1 本件は,埼玉県民である控訴人が,埼玉県行政情報公開条例(昭和57年埼玉県条例第67号。以下「本件条例」という。)に基づき,実施機関である被控訴人に対し,A建設のための用地買収に係る土地の売買契約書及び丈量図のすべてに関する行政情報の公開を請求したところ,被控訴人が平成12年9月7日付けで上記請求に対応する土地売買契約書及び添付文書のうち,個人契約者の住所・氏名,印影,買収単価・金額等を非公開とし,その余を公開する旨の決定(ただし,平成13年3月6日付けの一部取消決定後のもの。以下「本件処分」という。)をしたため,これを不服とする控訴人が,本件処分のうち,土地売買契約書中の「買収単価・金額」,同契約書の添付文書である「物件その他通常受ける損失補償明細書」中の「種類」,「単位」,「数量」,「単価」及び「金額」各欄記載の情報(以下「本件非公開情報」という。)に係る部分の取消しを求めた事案である。 原判決は,本件非公開情報は公開しないことができる行政情報等を定める本件条例6条1項1号所定の個人情報(「個人に関する情報であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るもの」)に該当し,同号 。 原判決は,本件非公開情報は公開しないことができる行政情報等を定める本件条例6条1項1号所定の個人情報(「個人に関する情報であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るもの」)に該当し,同号ただし書ハ所定の例外となる情報(「法令等の規定に基づく許可,免許,届出等の際に作成し,又は入手した情報で,公開することが公益上必要であると認められるもの」)にも該当しないとし,本件処分のうち,本件非公開情報を非公開とした部分は適法であるとして,控訴人の請求を棄却した。これに対して,控訴人が不服を申し立てたものである。 2 以上のほかの事案の概要は,次のとおり付加するほか,原判決の事実及び理由欄第2(2頁以下)記載のとおりであるから,これを引用する。 (控訴人の当審における主張)(1) 原判決は,行政情報の公開請求権は,本件条例によって創設的に認められたものであり,いかなる情報を公開すべきかは,本件条例自体の各規定の解釈問題として判断されるべきであるとする。しかし,行政情報の公開請求権は,憲法21条によって保障されている知る権利が具体化されたものであるから,公開すべき情報か否かの判断は,本件条例の解釈問題に限局すべきではなく,憲法21条の趣旨,精神から判断されるべきものであり,可能な限り行政情報を公開する方向での解釈姿勢をとるべきである。個人に関する情報全般を個人情報として非公開とすべきではない。また,他の情報と照合することにより,特定の個人が識別され得るか否かにつき,公開請求の結果,初めてその一部が公開された土地契約書によって得られる情報との照合を考慮すべきではない。 (2) 本件の土地売買契約は,任意の用地買収としてされたものであるが,純粋な私人間の売買とは異なり,背後に収用という行政処分を控えた用地買収であり,A建設という膨大な公費を要 慮すべきではない。 (2) 本件の土地売買契約は,任意の用地買収としてされたものであるが,純粋な私人間の売買とは異なり,背後に収用という行政処分を控えた用地買収であり,A建設という膨大な公費を要する公共工事のための買収であって,その買収単価も客観的に損失補償基準により決定されるものである。また,用地買収のための土地売買については,被買収者は,租税特別措置法に定める特別控除や代替地取得の場合の優遇措置を受けられる場合があるのは,私人間の売買とは異なる公益性があることの証左である。また,用地買収の相手方となる各地権者においても,その公益性や公的性格を当然に認識しているはずである。本件の土地売買契約は,実質的には行政行為ないしこれに準ずるものというべきであり,本件条例6条1項1号ただし書ハ所定の情報に該当するというべきである。 (3) 原判決は,本件非公開情報が,個人の財産権の内容そのものに係る情報であり,保護されるべき個人情報としての性格が極めて高度であるとするが,土地の売買代金は,個人の属性に関する情報ではなく,土地そのものに属する情報というべきである。そして,土地の価格は,路線価価格,公示価格,固定資産評価額として,基本的には公開されている情報である。土地の譲渡価格は,個人の財産や所得の全体を明らかにするものではなく,一部に関する情報にすぎない。さらに,不動産取引の情報は消費者が不動産取引における相場を把握する情報の一種であり,わが国においても,土地の取引価格の公開を実施するという方向での改革が進められているところである。 (4) 原判決は,A建設に伴う損失補償基準が既に公開されていることを考慮すれば,本件非公開情報までも公開することが公益上特に必要であるとはいえないとするが,公益上特に必要である場合に限定されるべきものではない。また A建設に伴う損失補償基準が既に公開されていることを考慮すれば,本件非公開情報までも公開することが公益上特に必要であるとはいえないとするが,公益上特に必要である場合に限定されるべきものではない。また,当該損失補償基準自体は抽象的なものであり,個々の損失補償の適法性,妥当性を検証するためには,個別の単価を明らかにする必要がある。上記のとおり,土地の譲渡価格は,それがたとえ個人に関する情報に該当するとしても,要保護性が高いものではなく,本件における公開の公益性の高さからすれば,本件非公開情報は公開されるべきものである。 (5) 仮に,買収価格等を第三者に知られたくないとの地権者らの感情があるとしても,本件のような用地買収においては,買収価格に地権者の主観的事情などは反映されず,その価格自体公的な性格を帯びているのであるから,そのような感情は,そのままの形では法的に保護されるべきものとはいえない。地権者が後に買収価格が公開されることを理由として買収に難色を示すとしても,こうした公的性格を十分に説得して対処すべきものである。したがって,この点をもって,公共事業の円滑な執行に当たっての著しい支障ということはできず,本件条例6条1項3号及び5号にも該当しないというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,本件処分のうち,本件非公開情報を非公開とした部分は適法であり,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次に記載するほか(本判決の判示と原判決のそれとが抵触するときは,本判決の判示による趣旨である。),原判決の理由記載と同一であるからこれを引用する。 (1) 行政情報の公開条例の制定趣旨は,憲法の定める国民あるいは住民主権の実現に資するためのものと考えられる。本件条例も,その1条において,県民の行政情報の公開を求める権利を保障す を引用する。 (1) 行政情報の公開条例の制定趣旨は,憲法の定める国民あるいは住民主権の実現に資するためのものと考えられる。本件条例も,その1条において,県民の行政情報の公開を求める権利を保障することにより,県政の公正な執行と県民の信頼の確保を図るとともに,県民の県政参加を一層推進し,もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的として制定したものとしている。 他方で,個人に関する情報が保護され,尊重されるべきことも法の要請であるというべきである。本件条例も,その3条2項において,県は,この条例の解釈及び運用に当たっては,個人に関する情報が十分に保護されるように配慮するものとし,その6条1項1号において,行政情報のうち,個人に関する情報で,特定の個人が識別可能な情報を公開の対象から原則として除外している。 このような本件条例の目的,趣旨に基づいて,その規定を解釈する場合には,規定文言のみによる形式的解釈にとどまるべきではないことはいうまでもない。 (2) 本件条例6条1項1号は,行政情報のうち,「個人に関する情報であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るもの」については,同号ただし書のイないしハに掲げるものを除き,公開しないことができる旨規定している。ここでいう個人に関する情報については,その規定上何ら限定されていないから,これが個人の思想,信条,健康状態,学歴,家族構成等といった私事に関する情報に限定されていると解することはできない。 もっとも,本件条例の目的,趣旨からすれば,およそ個人と何らかのかかわりのある情報であれば,すべて個人に関する情報であるとして,直ちに非公開とすべきであるとすることは相当ではない。個人とのかかわりが希薄であるような情報や,その情報を整理し直し,直接的に個人情報を知り得ないよう加工した ば,すべて個人に関する情報であるとして,直ちに非公開とすべきであるとすることは相当ではない。個人とのかかわりが希薄であるような情報や,その情報を整理し直し,直接的に個人情報を知り得ないよう加工したものについてまで,これを個人に関する情報に当たるものとして非開示とすることが相当でない場合があり得る。 この点につき,控訴人は,本件非公開情報によって明らかになる土地の売買代金は,個人の属性に関する情報ではなく,土地そのものに属する情報である旨を主張する。 確かに,固定資産評価額や鑑定評価額というような当該土地の客観的価値の評価に関する一定の情報は,個人とのかかわりというよりは,当該土地そのものに関する情報とみる余地がある。しかしながら,本件非公開情報において問題とされているのは,土地売買契約書における当該土地の買収価格そのものの公開の可否である。すなわち,本件非公開情報を公開すべきものとすれば,当該売買契約により,特定の個人に支払われる買収価格そのものが明らかとなり,少なくとも,当該土地の売買に係る当該個人の具体的収入そのものが公開されることになる。また,場合によることではあるが,その買収価格から当該個人の財産の保有高等が推測できることもあり得るのである。 そして,土地の売主ないし被買収者は,たとえそれが公共事業の用地買収に係るもので,県民の立場からみれば公開を望むものであるとしても,未だ,このような土地売買に係る収入が直接的に公開されることが当然であるというような認識を一般的に有しているともいい難い。 このような直接的に個人の収入が判明する情報につき,個人とのかかわりが希薄であるとして,あるいは,公開すべき公益性が高いという理由のみから,個人に関する情報には当たらないとすべきではない。 なお,甲9によれば,国の土地政策審議会企画部会は, つき,個人とのかかわりが希薄であるとして,あるいは,公開すべき公益性が高いという理由のみから,個人に関する情報には当たらないとすべきではない。 なお,甲9によれば,国の土地政策審議会企画部会は,平成11年1月にまとめた「ポスト「右肩上がり」時代の土地関連諸制度のあり方」において,「土地の実売価格及び成約賃料は個人の基本的な人権にかかわる情報とはいえず,その開示がプライバシーの侵害に当たるとは考えられない」との考え方を示した。個人の土地の売買や賃貸に関する情報でも,必ずしもすべてが法の保護に値するものであるとはいえず,土地価格や賃料の持つ社会的な意義を考慮して,その保護の程度及び内容を検討すべきものとした点で,上記の考え方には重要な意義があるといえる。そして,これを強調すれば,土地の売買価格につき,個人とのかかわりが希薄な情報と解する余地もないではない。しかし,土地の売買契約書が作成される売買には様々なケースがあり,場合によっては個人の財産の保有高がこれにより判明したり,あるいは,売り急ぎなど個人の経済的な状況を示す情報が判明するものがあり,一概に個人とのかかわりが希薄な情報とまではいえない。同部会も,土地の実売価格情報が公開されていない現状において,実売価格の開示に関しては,まず,一般に存在するプライバシーや守秘義務に関する懸念を払拭することに努めるべきである旨の認識も示している。 したがって,本件非公開情報は,個人に関する情報に当たるというべきである。この点に関する控訴人の主張は,採用することができない。 そして,本件非公開情報は,公開された売買契約書の他の記載からすれば,特定の個人が識別が可能な情報であり,本件条例6条1項1号本文の情報に該当する。売買契約書の他の記載を考慮すべきではないとする控訴人の主張は,採用することができな れた売買契約書の他の記載からすれば,特定の個人が識別が可能な情報であり,本件条例6条1項1号本文の情報に該当する。売買契約書の他の記載を考慮すべきではないとする控訴人の主張は,採用することができない。 (3) 本件条例6条1項1号は,特定の個人の識別が可能な個人に関する情報であっても,同号ただし書のイないしハに掲げるものは,公開すべきものとしている。 控訴人は,本件非公開情報は,公共事業の用地買収における買収価格という公開することによる公益性の高い,かつ,行政行為に準じたものであるから,同号ただし書ハに該当する旨を主張する。しかしながら,同号ただし書ハの規定は,「法令等の規定に基づく許可,免許,届出等の際に作成し,又は入手した情報で,公開することが公益上必要であると認められるもの」を非公開情報から除くこととしており,その趣旨は,法令等の規定に基づく許可,免許,届出等の行為の中には,その性質上,県民生活に少なからぬ影響を及ぼすものがあることから,これらの行政上の手続の過程で作成し,又は入手した個人に関する情報のうち,公共の安全や秩序維持あるいは人の生命,身体,財産の保護といった公益を守るために公にすることが必要があるものに関しては,これを公開すべきとしたものと解される。そして,本件の土地の売買契約書は,行政上の手続の一部を構成するものではなく,その過程で作成されたものでもない。したがって,この売買契約書は,法令等の規定に基づく許可,免許,届出等の際に作成し,又は入手した情報に当たらないというべきである。この点に関する控訴人の主張は,その前提を欠き,採用することができない。 (4) また,控訴人は,わが国においても,土地の取引価格の公開を実施するという方向での改革が進められている旨を主張する。甲6,17,18によれば,国土交通省が.個別の ,採用することができない。 (4) また,控訴人は,わが国においても,土地の取引価格の公開を実施するという方向での改革が進められている旨を主張する。甲6,17,18によれば,国土交通省が.個別の不動産の取引価格を公表する方針で,検討を進めていることが認められる。しかし,そこで検討されている公表の方法は,購入者個人のプライバシー等に配慮し,個人が特定され難い方法によることとされているのであり,個別の売買契約書自体を公開するのと同視できるようなものではない。 こうした方向等を勘案すれば,本件条例における実施機関が,上記と同様に,被買収者個人の保護を考慮しつつ,用地買収全体についての相当性の検証の手掛かりとなるような情報を作成,整理して,これを公開することは,本件条例の目的,趣旨からすれば,これに合致し,もとより望ましいところといえる。実施機関においてそのような努力をすることが望まれるところである。しかし,本件において,被控訴人が個別の売買契約書自体を公開することとなる本件非公開情報の公開をしなかったことが違法とまではいえない。 また,上記のような国土交通省の方針がさらに推進されることにより,個別の不動産の取引価格が特定の個人を識別可能な状況で公開されるということが一般的なものとなり,不動産売却に伴う売主の収入は,公表されることがもともと予定されているような情報であるということになれば,その売買価格自体も本件条例6条1項1号ただし書ロに規定する公表目的情報の一つとされる可能性がある。しかしながら,現時点では,不動産売却に伴う売主の収入につき,社会通念上,これが公表されることが予定されているとはいい難い。これを同号ただし書ロの情報に当たるとすることは,なお時期尚早といわざるを得ない。 この点に関する控訴人の主張は,採用することができない。 念上,これが公表されることが予定されているとはいい難い。これを同号ただし書ロの情報に当たるとすることは,なお時期尚早といわざるを得ない。 この点に関する控訴人の主張は,採用することができない。 2 以上によれば,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結の日平成16年2月3日)東京高等裁判所第19民事部裁判長裁判官淺生重機裁判官及川憲夫裁判官竹田光広
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