平成29(ワ)2757 不当拒否損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成31年4月19日 福岡地方裁判所 棄却
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判決文本文14,319 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 被告は,原告A及び同Bに対し,それぞれ80万円及びこれに対する平成29年9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の非常勤職員であった亡Cの両親である原告らが,亡Cの死亡が公務災害であるとの認定を被告に請求したにもかかわらず,①被告が地方公 務員災害補償法(以下「地公災法」という。)の委任の範囲を超えた北九州市議会の議員その他非常勤の職員の公務災害補償等に関する条例(以下「本件条例」という。)を制定,放置したこと,②被告が,本件条例の解釈及び運用を誤って,原告らによる公務災害認定の申出に応答しなかったこと,③被告の担当者が,北九州市議会の議員その他非常勤の職員の公務災害補償等に関する 条例施行規則(以下「本件条例施行規則」という。)2条に定める報告義務を怠ったことにより,公務災害か否かの判断を受けることに対する期待権を不当に侵害され,精神的苦痛を被った旨主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,それぞれ慰謝料80万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成29年9月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による 遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)⑴ 当事者等ア亡C(昭和×年×月生まれ)は,平成24年4月,被告のa区役所の子 ども・家庭相談コーナー相談員となり,平成25年1月頃,うつ病を発症 し,同年3月31日をもって退職した後,別の職場で勤務しながらうつ病の治療を続けていた 年4月,被告のa区役所の子 ども・家庭相談コーナー相談員となり,平成25年1月頃,うつ病を発症 し,同年3月31日をもって退職した後,別の職場で勤務しながらうつ病の治療を続けていたが,平成27年5月21日,自殺した(当裁判所に顕著な事実)。 亡Cは,非常勤の嘱託員であった者であり,本件条例の適用を受ける「職員」に該当する(甲1・2条)。 イ原告Aは亡Cの父,原告Bは亡Cの母である。 ウ被告は,亡Cの任命権者であり,本件条例で定める補償の実施の責任を負う「実施機関」に該当する(甲1・3条1項3号)。 被告の非常勤職員に対する公務災害補償の定めア本件条例の規定 本件条例には,次のとおりの規定がある(甲1)。 3条(実施機関)2項実施機関は,職員について公務…により生じたと認定される災害が発生した場合には,その災害が公務…により生じたものであるかどうかを認定し,公務…により生じたものであると認定したときは, すみやかに補償を受けるべき者に通知しなければならない。 3項実施機関は,前項の規定による災害が公務または通勤により生じたものであるかどうかの認定をしようとするときは,北九州市公務災害補償等認定委員会(以下「認定委員会」という。)の意見をきかなければならない。 4条(認定委員会)1項市に認定委員会を置く。 2項認定委員会は,委員5人をもって組織する。 (3項以下省略)11条(遺族補償) 職員が公務上死亡し…た場合においては,遺族補償として,その遺族に 対して,遺族補償年金または遺族補償一時金を支給する。 14条(遺族補償一時金)2項遺族補償一時金を受けることができる遺族は,職員の死亡の当時において次の各号の一に ,その遺族に 対して,遺族補償年金または遺族補償一時金を支給する。 14条(遺族補償一時金)2項遺族補償一時金を受けることができる遺族は,職員の死亡の当時において次の各号の一に該当する者とする。 2号職員の収入によって生計を維持していた…父母… 4号第2号に該当しない…父母…15条(葬祭補償)職員が公務上死亡し…た場合においては,葬祭を行なう者に対して,葬祭補償として,通常葬祭に要する費用を考慮して規則で定める金額を支給する。 16条(この条例に定めがない事項)この章に定めるもののほか,…補償に関し必要な事項については,法(判決注・地方公務員災害補償法第3章(法…第25条…第45条…を除く。)の規定の例による。 18条(審査) 1項実施機関の行なう公務上の災害…による災害の認定,療養の方法,補償金額の決定その他補償の実施について不服がある者は,北九州市公務災害補償等審査会(以下「審査会」という。)に対し,審査を申し立てることができる。 2項前項の申立てがあったときは,審査会は,すみやかにこれを審査 して裁定を行ない,これを本人…に通知しなければならない。 イ本件条例施行規則本件条例施行規則には,次のとおりの規定がある(甲14)。 2条(災害の報告)実施機関は,その所管に属する職員について,公務…により生じたと認 められる災害が発生した場合は,その指定する者に,公務災害発生届… によりすみやかに報告させなければならない。 3条(認定および通知)実施機関は,前条の報告を受けたときは,認定委員会の意見を聞いてその災害が公務…により生じたものであるかどうかを認定し,公務により生じたも ばならない。 3条(認定および通知)実施機関は,前条の報告を受けたときは,認定委員会の意見を聞いてその災害が公務…により生じたものであるかどうかを認定し,公務により生じたものであると認定したときは公務災害補償通知書により,… 補償を受けるべき者に,すみやかに条例第3条第2項の規定による通知をしなければならない。 7条(補償の請求方法)補償…を受けようとする者は,次の各号に掲げる補償の種類に応じ,当該各号に定める請求書を,…第2号から第16号までに掲げる補償に あっては職員の勤務する公署(職員が死亡し,又は離職した場合にあっては,その死亡又は離職の直前に勤務した公署)を経由して実施機関に提出しなければならない。 14号遺族補償一時金遺族補償一時金請求書15号葬祭補償葬祭補償請求書 9条(補償の支給方法)実施機関は,補償の請求書を受理した場合には,これを審査し,補償に関する決定を行ない,すみやかに請求者に書面でその決定に関する通知をするとともに,補償を行なわなければならない。 21条(審査の申立て) 1項補償の実施について不服がある者が条例第18条第1項の規定により審査を申し立てようとするときは,書面でしなければならない。 地方公務員災害補償法の定め常勤の地方公務員を対象とした地公災法には,次のとおりの規定がある。 1条(この法律の目的) この法律は,地方公務員等の公務上の災害…の迅速かつ公正な実施を確保するため,地方公共団体等に代わって補償を行う基金の制度を設け,その行う事業に関して必要な事項を定めるとともに,その他地方公務員等の補償に関して必要な事項を定 務上の災害…の迅速かつ公正な実施を確保するため,地方公共団体等に代わって補償を行う基金の制度を設け,その行う事業に関して必要な事項を定めるとともに,その他地方公務員等の補償に関して必要な事項を定め,もって地方公務員等及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。 2条(定義)1項この法律で「職員」とは,次に掲げるものをいう。 1号常時勤務に服することを要する地方公務員…2号一般地方独立行政法人…の役員…及び一般地方独立行政法人に使用される者で,…常時勤務することを要する者… 24条(補償の実施)1項基金は,この章に規定する補償の事由が生じた場合に,この法律に定めるところにより,補償を受けるべき職員若しくは遺族又は葬祭を行う者に対し,補償を行う。 25条(補償の種類等) 2項 …補償は,当該補償を受けるべき職員若しくは遺族又は葬祭を行う者の請求に基づいて行う。 45条(補償の手続)基金は,この章の規定による補償…を受けようとする者から補償の請求を受けたときは,その補償の請求の原因である災害が公務…により 生じたものであるかどうかを速やかに認定し,その結果を当該請求をした者…に通知しなければならない。 63条(時効)補償を受ける権利は,2年間(…遺族補償については,5年間)行なわないときは,時効によって消滅する。 69条(非常勤の地方公務員等に係る補償の制度) 1項地方公共団体は,条例で,職員以外の地方公務員…のうち法律…による公務上の災害…に対する補償の制度が定められていないものに対する補償の制度を定めなければならない。 1項地方公共団体は,条例で,職員以外の地方公務員…のうち法律…による公務上の災害…に対する補償の制度が定められていないものに対する補償の制度を定めなければならない。 3項第1項の条例で定める補償の制度…は,この法律及び労働者災害補償保険法で定める補償の制度と均衡を失したものであってはな らない。 70条(不服申立て等)1項前条第1項の規定に基づく条例による補償の実施に関して不服がある者は,当該地方公共団体の条例の定めるところにより,審査を申し立てることができる。 71条(職員に関する規程の準用)…第63条の規定は,第69条第1項の規定に基づく条例による補償について準用する。… 原告らが遺族補償等を請求するに至る経緯等ア原告らは,平成28年8月末頃,被告に対し,本件条例に基づき遺族補 償給付を請求する予定である旨伝えた上で,請求の手続を問い合わせたところ,被告の担当者は,本件条例において,災害が公務により生じたものであるか否かの認定を実施機関に求める権利が被災職員らに与えられていない旨回答した(甲2,弁論の全趣旨)。 イ原告らは,上記回答を受けて,被告に対し,次のとおり主張する平成2 8年9月4日付けの「ご通知」と題する書面(甲2)を送付した。 ① 原告らが遺族補償を請求できないとの回答について,地公災法25条2項及び本件条例18条1項に基づき原告らに請求権が認められるべきである。 ② 本件条例によれば原告らの不服申立てができないとの回答について, 地公災法70条1項及び本件条例18条1項に基づき原告らの北九州 市公務災害補償等審査会(審査会)に対する審査の申立てができる。 ウ被告市長は,上記書面を受け いとの回答について, 地公災法70条1項及び本件条例18条1項に基づき原告らの北九州 市公務災害補償等審査会(審査会)に対する審査の申立てができる。 ウ被告市長は,上記書面を受けて,原告らに対し,平成28年9月26日付けの「ご通知について(回答)」と題する書面(甲3。以下「回答書1」という。)を送付し,次のような見解を示した。 イ①の主張について 本件条例3条2項は災害を公務上のものであると認めた場合に実施機関が権利者に通知すべき旨定めている一方,災害を公務上のものであると認めなかった場合にその旨通知すべきであるとは定めていないことや,地公災法70条の逐条解説において,地公災法に基づく常勤職員に対する補償の実施が第三者機関である基金により行われるのと異な り,同法69条の非常勤職員の公務災害補償制度に関する条例に基づく非常勤職員に対する補償の実施は地方公共団体の使用者としての責任から行われるものであるため,条例に基づく補償の内容について行政不服審査法の適用がない旨記載されていることをもって,実施機関に災害が公務上のものであるとの認定を求める請求権を条例で定めることは 予定されていない。 イ②の主張について本件条例18条1項は審査会に対する審査申立てを定めているが,亡Cの死亡について,実施機関は公務により生じた災害であるか否かの認定その他何らの決定をしていないため,これら行為に先んじて審査申立 てを行うことは審査の対象を欠く上,公務災害認定を求める請求権が与えられていないことに対する不服は,本件条例に基づく制度そのものに対する不服であって,審査会による裁決が可能な範囲を超えるため,審査申立てはできない。 エ原告らは,被告に対し,平成29年3月7日付け「ご通知 に対する不服は,本件条例に基づく制度そのものに対する不服であって,審査会による裁決が可能な範囲を超えるため,審査申立てはできない。 エ原告らは,被告に対し,平成29年3月7日付け「ご通知」と題する書 面とともに「申請書」と題する書面(甲4)を送付し,本件条例11条, 14条及び15条に基づき,亡Cの死亡について遺族補償一時金及び葬祭補償の支給を請求した。 これに対し,被告市長は,原告Aに同月30日付け「ご通知について(回答)」と題する書面(甲5。以下「回答書2」という。)を送付し,遺族補償一時金及び葬祭補償は,職員が公務上死亡した場合において支給され るものであり,実施機関により当該災害が公務により生じたものであることが認定された場合に支給されるものである(本件条例3条2項)ところ,亡Cの事案については,上記認定を行っていないことから,遺族補償一時金及び葬祭補償の支給を行うことができない旨回答した(甲5)。 オ原告らは,平成29年8月29日,被告に対し,遺族補償等の支給を求 める訴え(当庁平成29年(行ウ)第39号事件)を提起するとともに,本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 2 争点⑴ 被告の公務員による違法な公権力の行使の有無(争点1)【原告らの主張】 ア違法な本件条例を制定し,放置したこと 本件条例の違法性地公災法69条,70条が条例で定める補償の制度と同法及び労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)で定める補償の制度との均衡を求めていることに照らし,補償を受けるべき職員若しくは遺族(以 下「被災職員ら」という。)が補償を受ける前提となる公務災害の認定手続についても同様に両者の均衡が求められると解すべきである。しかし めていることに照らし,補償を受けるべき職員若しくは遺族(以 下「被災職員ら」という。)が補償を受ける前提となる公務災害の認定手続についても同様に両者の均衡が求められると解すべきである。しかし,本件条例16条は,被災職員らによる補償請求権を定めた地公災法25条2項の適用を除外し,被災職員らの請求権(実施機関に対し,災害が公務上のものであるとの認定を求め,これに対し応答するよう求めるこ とができる権利)を認めないものとなっており,均衡を失している。 また,地公災法71条により,本件条例には,消滅時効に関する同法63条の規定が準用されるところ,同条は実施機関に対して補償の決定を求めるという抽象的請求権(公務災害認定を求める請求権)の消滅時効を規定したものであるから,被災職員らの請求権を認めない本件条例は地公災法71条にも反する。 以上のとおり,本件条例16条は,地公災法69条,70条の委任の趣旨を超えるものであって,違法(無効)なものである。 被告の市長,職員及び市議会議員は,(無効)な本件条例16条を立案,制定し,その後も,これを是正せずに長年にわたり放置した。しかも,前提事実のとおり,原告らから同条が違法 であるとの指摘を受けた後も他の地方自治体の条例を照会するなどの適切な調査を行うこともなかった。被告の公務員らによる上記行為は,違法な公権力の行使に該当し,これにつき重大な過失があるというべきである。 イ本件条例の解釈及び運用を誤り,原告らの申出を門前払いしたこと 原告らの申出権仮に本件条例16条が違法(無効)でないとしても,本件条例16条が地公災法25条を除外している趣旨は,被災職員らの請求を待つことなく,職権によって補償手続を開始することができ 原告らの申出権仮に本件条例16条が違法(無効)でないとしても,本件条例16条が地公災法25条を除外している趣旨は,被災職員らの請求を待つことなく,職権によって補償手続を開始することができるようにし,迅速で手厚い被災職員らの補償を実現することにあると解すべきである。 そして,①職権主義をとっている国家公務員災害補償制度においては,被災職員らに申出権が認められており,公務災害を認定しなかった場合にも被災職員らに通知するという応答義務があること,②本件条例の準則(昭和42年9月1日付け自治給第56号事務次官通知)が,補償の認定について,地公災法における基金の行う補償の認定と均衡を失わな いようにすべきとしていることからすれば,補償の認定手続についても 均衡を図る必要があり,基金による認定手続と同様に,被災職員らに申出権を認め,公務外認定がなされた場合には速やかに通知すべきであること,③本件条例施行規則7条及び9条の規定が被災職員らに申出権を認めていること,④他の多くの地方公共団体が被災職員らによる公務災害の申出を認める運用をしていること,⑤地公災法70条,63条を準 用する71条は,被災職員らに申出権があることを前提とする規定であること等にも照らせば,本件条例においても被災職員らに申出権が認められるべきである。 被告の公務員が原告らの申出を門前払いした上,本件条例による不服申立てもできない旨回答したことは,本件条例の解釈及び運用を誤った 違法な公権力の行使に該当し,これにつき重大な過失があるというべきである。 ウ本件条例施行規則2条に定める報告義務を怠ったこと本件条例施行規則2条には,実施機関は,指定する職員に対し,明らかに公務外と認められる災害を除く公務災害と疑われ きである。 ウ本件条例施行規則2条に定める報告義務を怠ったこと本件条例施行規則2条には,実施機関は,指定する職員に対し,明らかに公務外と認められる災害を除く公務災害と疑われる災害を報告させる 旨定められている。被告の職員は,前提事実のとおり,平成28年8月末頃に原告らから連絡を受け,公務災害と疑われる災害が発生したことを認知したにもかかわらず,本件条例施行規則2条に基づく報告を行わず,原告らから災害の内容を聴取することもなかった。かかる対応は,本件条例2条に違反するものである。 被告の職員の上記対応は,違法な公権力の行使に該当し,これにつき重大な過失があるというべきである。 【被告の主張】ア原告らの主張アについて 公務災害に対する補償は使用者としての責任に基づいて実施するもの であり,使用者が自ら公務災害の発生を探知して補償を実施するのが本 来であるから,使用者と補償の実施機関が同一の場合には,被災職員らの請求を待つことなく職権により補償を実施するため,被災職員らは,実施機関である使用者に対し,その公務災害認定を得ることなく直接補償を請求できる。 これに対し,地公災法のように補償が使用者以外の第三者(基金)に よって実施される場合には,被災職員らの請求がなければ公務災害を認識し得ないため,被災職員らが当該実施機関に請求し,公務災害認定及び補償内容等の決定を受けることで具体的な補償請求権を得ることとなり,実施機関による公務災害認定は補償請求権の存否及びその範囲を確定する行政処分となる。 本件条例は,使用者と補償の実施機関が同一であり,被災職員らが実施機関である使用者に対し,公務災害認定を得ることなく直接に補償を請求する権利を認める制度と 範囲を確定する行政処分となる。 本件条例は,使用者と補償の実施機関が同一であり,被災職員らが実施機関である使用者に対し,公務災害認定を得ることなく直接に補償を請求する権利を認める制度となっており,補償内容も地公災法と均衡のとれたものであるから,本件条例の規定は,地公災法の委任の趣旨を超えるものではない。 なお,本件条例に準用される地公災法63条の規定は,公務災害の発生により直ちに具体的な補償請求権を取得するとする国家公務員災害補償法28条の規定と同様であり,抽象的請求権を基礎付けるものではない。 仮に,本件条例の規定が違法性を有するとしても,本件条例の内容は, 地公災法の制定に当たり国が同法の対象とならない非常勤職員らに適用すべきものとして示した条例準則(甲8)に則ったものであり,本件条例を制定し,これを改正しなかったことについて,被告の公務員らに過失はない。 イ原告らの主張イについて 被告の職員は,本件条例が被災職員らの公務災害認定請求権を認めてい ないことから,その旨回答したものであり,その対応に違法性はない。 ウ原告らの主張ウについて被告は,亡Cの事案について詳細な調査をしており,原告らからの災害補償の申出に対しても適法かつ適切に対応した。 ⑵ 損害(争点2) 【原告らの主張】 の行為によって,原告らは亡Cの死亡が公務災害に該当するか否かの判断を求める期待権を不当に侵害され,精神的苦痛を被ったから,これに対する慰謝料は各80万円を下らない。 【被告の主張】 被告は,亡Cの死亡について詳細に調査した結果,公務上死亡したとは認められないと判断し,原告らに対して補償に応じられない旨を伝え,原告らの問合せ 下らない。 【被告の主張】 被告は,亡Cの死亡について詳細に調査した結果,公務上死亡したとは認められないと判断し,原告らに対して補償に応じられない旨を伝え,原告らの問合せに対しても適切に対応した。仮に,被告が公務災害の認定を誤って回答したとしても,原告らは,亡Cの死亡が公務災害に該当すれば直ちに具体的な補償請求権を取得するから,裁判所に給付の訴えを提起することによ って補償を受けられるのであって,原告らの主張するような期待権の侵害はない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(被告の公務員による違法な公権力の行使の有無) 原告らの主張ア(違法な本件条例を制定し,放置したこと)について ア地公災法25条2項において,遺族補償等が補償を受ける職員又はその遺族の請求に基づいて行われる旨定めているのは,当該補償が使用者である地方公共団体に代わり基金(地方公務員災害補償基金)によって実施されることから(同法1条,3条),被災職員らによる請求がなければ公務災害の発生を認識できないことによるものであり,被災職員らは,基金によ り請求に係る災害が公務により生じたものであると認定されることによ って(同法45条1項),具体的な補償請求権を取得するものと解される。 これに対し,本件条例においては,被災職員の使用者である被告自身が実施機関となるところ(同条例3条1項),被告は,被災職員らの請求を端緒とすることなく自ら公務災害の発生を認識して補償を実施することとされており,公務災害が発生した場合には,職員からの公務災害発生届に よる報告(本件条例施行規則2条)を受けて公務災害を認定し,補償を受けるべき被災職員らに通知することとされている一方(同条例3条2項),被告が公務災害認定を 合には,職員からの公務災害発生届に よる報告(本件条例施行規則2条)を受けて公務災害を認定し,補償を受けるべき被災職員らに通知することとされている一方(同条例3条2項),被告が公務災害認定を行わない場合であっても,被災職員らは,本件条例施行規則7条に基づいて補償の実施を求めることができ,被告は,同規則9条に基づいて同請求を審査して補償に関する決定を行わなければなら ないものとされている。したがって,本件条例に基づく補償では,地公災法に基づく補償と異なり,被災職員らは,公務上災害の発生をもって直ちに具体的な補償請求権を取得するのであり,公務災害認定を受けなければ被災職員らによる具体的な補償請求権を取得することができないという関係にはない。 また,被告が公務災害認定をすべき事案において公務災害を認めずに被災職員らの補償請求権を否定した場合,被災職員らは本件条例18条に基づく審査を申し立て,その中で公務災害が認定されるべきであるとの不服を述べることが可能であるから,地公災法70条に定める不服申立ての制度としても欠けるところはない。 したがって,本件条例16条が地公災法25条2項の規定を除外していることによって,被災職員らの補償請求権の行使が妨げられているとはいえないし,本件条例で定める補償の制度が地公災法で定める補償の制度と均衡を失するものであるということもできないから,本件条例は,地公災法69条,70条に違反するものではない。 イ原告らは,地公災法71条により,本件条例に準用される地公災法63 条が,実施機関に対して補償の決定を求めるという抽象的請求権(公務災害認定を求める請求権)の消滅時効を規定したものであるから,被災職員らの請求権を認めない本件条例は地公災法71条に反する旨主 条が,実施機関に対して補償の決定を求めるという抽象的請求権(公務災害認定を求める請求権)の消滅時効を規定したものであるから,被災職員らの請求権を認めない本件条例は地公災法71条に反する旨主張する。 しかし,本件条例と同様に,公務災害の発生によって直接的請求権を取得する国家公務員災害補償法28条においても,地公災法63条とほぼ同 様の消滅時効の定めがあるように,地公災法63条が実施機関に対して補償の決定を求めるという抽象的請求権の存在を前提とするものであるとはいえないから,原告らの上記主張は当たらない。 ウ以上によれば,被告の公務員が,本件条例を制定し,その後も存続させたことが国家賠償法上違法な公権力の行使に該当するとは認められない。 原告らの主張イ(本件条例の解釈及び運用を誤り,原告らの申出を門前払いしたこと)についてア前提事実のとおり,原告らが亡Cの自殺について公務災害と認定するよう求めたのに対し,被告市長は,回答書1をもって,原告らの申出権はないものとしたが,その後,原告らから本件条例11条,14条及び15 条に基づく遺族補償一時金及び葬祭補償の支給を請求された際には,回答書2をもって,亡Cの自殺が公務災害に該当するとは認定できないことを理由に請求を拒んでいる。 このような被告市長の対応は,公務災害認定自体を求める原告らの申出に対しては,本件条例において同申出権は認められていないことを理由と して拒否し(なお,回答書1をもって否定したのは,公務災害認定自体を求める請求権及び公務災害認定をしないこと自体に対する不服申立権であり,本件条例施行規則7条,9条に基づく補償請求権について否定するものではない。),遺族補償等を求める具体的な請求に対しては,公務災害に 請求権及び公務災害認定をしないこと自体に対する不服申立権であり,本件条例施行規則7条,9条に基づく補償請求権について否定するものではない。),遺族補償等を求める具体的な請求に対しては,公務災害に該当しないことを確認して回答するものであって,これらは,本件条例 3条2項,同施行規則7条,9条に則ったものであると認められる。 したがって,被告の公務員が本件条例の解釈及び運用を誤ったということはできない。なお,原告らが,回答書2における被告の判断に対して,本件条例18条に基づく審査を申し立てることは妨げられないものと思料される。 イところで,原告らは,本件条例においても被災職員らに公務災害認定の 申出権が認められるべきである旨主張する。 しかし,原告らがその根拠として挙げる点を併せ考慮しても,本件条例に係る被災職員らに係る申出権を認めない解釈及び運用を違法と評価することはできない。すなわち,①国家公務員災害補償制度において,かつては公務外認定をした場合に被災職員らへの通知義務を課する規定は存 しなかったのであり,いわゆる職権主義の下では,公務上外認定をした場合に被災職員らへの通知が義務付けられるとまでいうことはできない。まのとおり,地公災法と本件条例との公務災害認定の手続の差異は,公務災害の発生によって直ちに具体手請求権を取得するか否かの違いに起因するものであり,均衡が害されているとはいえないし,③本件 条例施行規則7条,9条の規定が被災職員らに認めているのは,具体的補償請求権であり,公務災害認定自体を求める申出権ではない。さらに,④他の地方公共団体の多くが被災職員らによる公務災害の申出を認める運用をしているのか否かは未だ判然としないし,そのような運用が認められるとしても,直ちに本 害認定自体を求める申出権ではない。さらに,④他の地方公共団体の多くが被災職員らによる公務災害の申出を認める運用をしているのか否かは未だ判然としないし,そのような運用が認められるとしても,直ちに本件条例の解釈や本件条例の下における運用の違法性 を基礎付けるものとはいい難い。加えて,⑤地公災法70条,63条を準用する同法71条が,被災職員らに公務災害認定の申出権があることを前提とした規定であるとも解されない。 したがって,原告の主張を採用することはできない。 原告らの主張ウ(本件条例施行規則2条に定める報告義務を怠ったこと) について ア認定事実前提事実に加え,当裁判所に顕著な事実,証拠(甲5,30)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 亡Cは,平成24年4月,a区役所に入所し,保健福祉課の子ども・家庭相談コーナーの相談員(非常勤嘱託員)として勤務していたが,体 調が悪化して平成25年1月13日頃から実家に連れ戻され,その後出勤せず,うつ病と診断された。 亡Cの父である原告Aは,平成25年1月23日,a区役所を尋ね,保健福祉課のD課長及びE係長が応対した。原告Aは,亡CがE係長からパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)を受けていた旨を申 し出て,パワハラを認めないのであれば法廷で争うなどと述べたところ,E係長は,亡Cに対する指導をしたが,パワハラに当たるようなことはしていないとしてパワハラの事実を否定した。 原告Aの申出を受けた総務企画課(ハラスメント相談窓口)は,平成25年1月23日,E係長に対し,原告Aがパワハラと訴える事項につ いて反論書を提出させた上,翌24日上記反論書に記載されていない事項について事情を聴取した。 (ハラスメント相談窓口)は,平成25年1月23日,E係長に対し,原告Aがパワハラと訴える事項につ いて反論書を提出させた上,翌24日上記反論書に記載されていない事項について事情を聴取した。また,総務企画課は,翌25日,亡Cの同僚である子ども・家庭相談コーナーの職員らから,申立人Aがパワハラと訴える事項について事情を聴取した。 総務企画課は,E係長らからの聴取結果等を踏まえ,平成25年1月 28日,原告Aと面談し,E係長及び本件相談コーナー所属の正規職員の保育士及び元養護教諭の子ども家庭相談員から個別に事情を聴いたが,通常の指導の範囲のものであり,E係長によるパワハラの事実はない旨伝えた。しかし,原告Aは納得せず,E係長によるパワハラとされる事項を追加して主張した。 原告Aの主張を受けた総務企画課は,追加された事項も含めてパワハ ラの有無を調査すべく,平成25年1月31日,保健福祉課の職員らから事情を聴取し,同年2月4日,専門医に本件への対処について助言を求めるとともに,関係者から事情を聴取した。また,同月5日,E係長に対しても,追加された事項について反論書を提出させた。 亡Cは,平成25年3月31日をもって子ども・家庭相談コーナーの 相談員を退職し,その後別の職場で勤務しながら心療内科に通院してうつ病の治療を続けていたが,平成27年5月21日,自殺した。 イ上記認定によれば,原告Aからの訴えを受け,被告の上記担当課において,亡Cにパワハラを行ったとされるE係長や亡Cの複数の同僚職員らから事情を聴取するなどの調査を実施している。そして,原告らが亡Cにつ いて公務災害に当たるとの認定を求めたのに対し,被告市長は,亡Cの自殺が公務災害であるとは認められない旨を回答書2において回答してい 聴取するなどの調査を実施している。そして,原告らが亡Cにつ いて公務災害に当たるとの認定を求めたのに対し,被告市長は,亡Cの自殺が公務災害であるとは認められない旨を回答書2において回答しているところ,同回答をするについては,被告市長が上記調査結果について報告を受け,これを検討した上で回答をしたものと認めるのが相当である。 そうすると,被告の公務員は,亡Cの自殺の原因とされたE係長のパワ ハラ等の事実関係について相応の調査を行い,被告市長に対してこれを報告しているものというべきであるから,原告らが主張するような被告の公務員による本件条例施行規則2条に基づく報告義務違反があると認めることはできない(なお,被告の公務員において公務災害が発生した旨を認知していない以上,本件条例施行規則2条所定の公務災害発生届による報告 が義務付けられるものではない。)。そして,本件において,他に被告の職員が本件条例施行規則2条に基づく報告を怠ったとの事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告らの主張を採用することはできない。 小括 以上のとおり,原告らが主張する点は,いずれも国家賠償法1条1項の公 務員による違法な公権力の行使に該当しない。 加えて,本件条例3条2項の通知は,実施機関の見解を表明することにより,災害補償問題を事実上簡易迅速に解決するための措置にすぎず,実施機関が災害を公務上のものであると認めない場合にその旨通知しなくても,原告らは被告に対する公務災害認定請求を経ることなく,本件条例11条,1 4条及び15条並びに同施行規則7条及び9条等に基づき,遺族補償及び葬祭補償を請求し,被告が公務災害に該当しないとして補償請求を認めない場合には,本件条例18条に基づく審査申立てによっ 条,1 4条及び15条並びに同施行規則7条及び9条等に基づき,遺族補償及び葬祭補償を請求し,被告が公務災害に該当しないとして補償請求を認めない場合には,本件条例18条に基づく審査申立てによって公務災害に該当しないという被告の判断に異議を述べることができるから,本件条例により原告らの公務災害か否かの判断を受けることに対する期待権が侵害されたとも認め られない。 2 結論以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。 よって,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官鈴木 博 裁判官柵木澄子 裁判官横山寛はてん補のため署名押印できない。 裁判長裁判官鈴木博

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