主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求 被告は,大阪市住宅供給公社に対し,38億3500万円及びこれに対する平成19年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。 被告は,Aに対し,38億3500万円及びこれに対する平成19年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。 被告は,Bに対し,38億3500万円及びこれに対する平成19年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償命令をせよ。 第2事案の概要本件は,大阪市の住民である原告らが,市の執行機関である被告に対し,大阪市が大阪市住宅供給公社(以下「公社」という。)の所有する別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を時価の約2.5倍にあたる71億3500万円で取得する旨の訴え提起前の和解(以下「本件和解」という。)を成立させたことは,大阪市に不当に過大な債務を負担させるものであるから,時価である33億円を超える38億3500万円の部分につき,地方財政法4条1項及び地方自治法2条14項に違反し,違法かつ無効であり,それに基づいて同額の支出命令(以下「本件支出命令」という。)がされたこともまた違法かつ無効であって,その支出により,市には支出額相当の損失又は損害が生じ,公社には法律上の原因のない利得が生じているとして,同法242条の2第1項4号に基づき,公社に対して不当利得返還請求を,当時市長の職にあったA(以下「A」又は「A市長」という。)に対して不法行為に基づく損害賠償請求を,本件支出命令をしたB(以下「B」又は当時の職名を冠して「B局長」という。)に対して同 法243条の2の賠償命令を,それぞれするよう求めている住民訴訟 う。)に対して不法行為に基づく損害賠償請求を,本件支出命令をしたB(以下「B」又は当時の職名を冠して「B局長」という。)に対して同 法243条の2の賠償命令を,それぞれするよう求めている住民訴訟である。 前提事実(争いのない事実,証拠(後掲)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,証拠番号は特記しない限り枝番を含む。)(1)当事者等(争いのない事実)ア原告らは,大阪市の住民である。 イ被告は,大阪市の市長であり,市の執行機関である。 市の支出の原因となるべき契約その他の行為(支出負担行為。地方自治法232条の3)は,市長の権限事項である(同法149条2号,6号)。 ウAは,本件和解の当時大阪市長の職にあった者である。 エBは,本件支出命令当時,大阪市健康福祉局長の職にあった者である。 大阪市事務専決規程3条1項17号により,配当及び配付予算の範囲内における経費の支出決定及び経費の支出を伴う事務事業の施行決定をすること(ただし,予算に定める事務事業の内容の変更を伴うものを除く)は,局長の専決事項とされている。 オ公社は,大阪市が,地方住宅供給公社法に基づき資本金4000万円の全額を出資して設立した地方公社であり,「住宅を必要とする勤労者に対し,住宅の積立分譲等の方法により居住環境の良好な集団住宅を供給し,もって土地の高度利用と居住環境の整備による大阪市の再開発を図り,住民の生活の安定と社会福祉の増進に寄与すること」を目的とし,住宅分譲事業,賃貸住宅の整備及び管理事業,市営住宅管理等受託事業を主たる業務としている。 (2)本件和解成立までの経緯ア公社は,平成3年11月27日,大阪市から借り入れた81億1000万円(以下「本件借入金」という。)を原資に,本件土地を分譲住宅用地として81億0979万4000円で取得 本件和解成立までの経緯ア公社は,平成3年11月27日,大阪市から借り入れた81億1000万円(以下「本件借入金」という。)を原資に,本件土地を分譲住宅用地として81億0979万4000円で取得した(乙9,弁論の全趣旨)。 イ平成6年ころから,大阪市環境保健局(以下「環境保健局」という。) において,大阪市立C市民病院(以下「C病院」という。)の建替えに当たって本件土地を移転先とすることが計画され,同年6月3日,環境保健局は,公社に対し,本件土地をC病院の移転先としたい旨の申入れを行ったが,公社は,当初,これに応じなかった(甲3,弁論の全趣旨)。 ウ平成7年12月28日,環境保健局長,大阪市都市整備局長及び公社理事長の3者間で,本件土地をC病院の移転先用地として使用する旨の協定書(乙1。以下「本件協定書」という。)及び確認書(乙2。以下「本件確認書」という。)が交わされた。本件協定書及び本件確認書においては,環境保健局長が,公社の住宅施策の重要性にかんがみ,分譲住宅用地としての適格性を具備する適地の交換を基本とし,その早期の実現を図ること等が合意された。 本件協定書及び本件確認書に基づいて,同日,環境保健局長と公社理事長との間で,大阪市が本件土地をC病院の移転先候補地として使用することを目的とした使用貸借契約(以下「本件使用貸借契約」という。)が締結された。 (以上につき,争いのない事実)エ平成11年3月23日,大阪市は,本件土地上においてC病院が使用する建物の建設に着工し,平成14年3月31日に完成させ,同年5月には同建物での診療が開始されたが,その後も,本件協定書及び本件確認書によって合意された用地交換は実現しなかった(争いのない事実)。このため,平成18年2月1日,公社は,本件土地に関する問題解決を求める文書を,大阪 が開始されたが,その後も,本件協定書及び本件確認書によって合意された用地交換は実現しなかった(争いのない事実)。このため,平成18年2月1日,公社は,本件土地に関する問題解決を求める文書を,大阪市健康福祉局(環境保健局が名称変更となったもの。以下「健康福祉局」という。)の局長あてに提出した(乙24,弁論の全趣旨)。 オ平成19年2月16日,A市長は,公社から本件土地を71億3500万円で取得する旨の和解を内容とする議案及びその予算措置としての平成18年度補正予算案を大阪市会本会議に提出して可決されたことから,同 年3月19日,大阪市と公社の双方の代理人が出頭した上,枚方簡易裁判所において,民事訴訟法275条1項に基づく訴え提起前の和解(本件和解)を成立させ,同月31日,本件和解に基づき,B局長の専決による本件支出命令によって,公社に対し上記和解金が支払われた(争いのない事実)。 (3)住民監査請求及び本件訴えの提起ア原告らは,平成19年2月14日,本件和解に基づく公金の支出は違法であるとして,大阪市監査委員に対し,地方自治法242条1項に基づく住民監査請求をし,本件和解に基づく公金の支出の差止めを求めた(争いのない事実)。 イ大阪市監査委員は,平成19年4月13日付けで,上記監査請求には理由がないとして棄却する旨の監査をし,そのころ,その結果を通知した(争いのない事実)。 ウ原告らは,平成19年5月11日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 本件の争点(1)本件和解がその内容において違法かつ無効か否か。 (2)Aが本件和解を成立させたことが違法か否か。 (3)Bが本件和解に基づき本件支出命令を行ったことが違法か否か。 争点に関する当事者の主張(1)争点(1)について(原告らの主張)ア地方自治法2条13項 を成立させたことが違法か否か。 (3)Bが本件和解に基づき本件支出命令を行ったことが違法か否か。 争点に関する当事者の主張(1)争点(1)について(原告らの主張)ア地方自治法2条13項,地方財政法4条1項の規定にかんがみれば,地方公共団体の執行機関は原則的に時価(適正価格)で土地を購入しなければならず,適正価格よりも著しく高額な対価で取得することは,特段の事情のない限り違法であるというべきである。本件和解の成立時における本件土地の時価は33億円であるから,71億3500万円もの和解金を支 払って本件土地を取得する旨の和解を成立させたことは違法である。 イ被告が主張するような本件土地の取得経緯は,本件和解の内容の違法性判断とは無関係であり,仮に取得経緯を考慮するとしても,公社は,本件土地の時価が下がり続けているにもかかわらず,その問題を放置し続けていたから,大阪市が公社の損失を補填する理由はない。 ウ本件和解は,すべて公社側の利益のためにされたものであり,大阪市の利益になるような要素は全くないから,専ら相手方の利益を図るための和解として違法である。また,本件においては,公社は大阪市の100パーセント出資によるものであり,大阪市が交渉の相手方である公社に対し,強い態度で臨むことが困難であるといった事情もない以上,和解内容に係る市長の裁量を格別広く解する理由もない。 (被告の主張)ア議会の議決を経て行われた和解は,原則として適法というべきであり,長による和解が,その裁量権を濫用し,又は逸脱して違法となるのは,和解内容に重大な法令違反が存したり,あるいは,長又は議会が,相手方と通謀して専ら相手方の利益を図るような和解を成立させたりした場合等,和解内容等が明らかに不合理な場合に限られるというべきである。 イ公社は,地方住宅 違反が存したり,あるいは,長又は議会が,相手方と通謀して専ら相手方の利益を図るような和解を成立させたりした場合等,和解内容等が明らかに不合理な場合に限られるというべきである。 イ公社は,地方住宅供給公社法の規定に基づき,大阪市によって設立され,大阪市による強い指導監督の下に事業を進めていくものとされている(同法40条,41条等)ことから,公社は,大阪市の施策に反して本件土地を販売することは困難であるところ,大阪市が遅くとも平成6年10月1日の時点で本件土地をC病院の建替え・移転先とする方針を固めたため,本件土地につき公社との関係で土地収用類似の関係が成立した。 そこで,大阪市は,①本件和解時における本件土地の時価33億円,②平成6年10月1日の時点における本件土地の時価64億0200万円と上記①の時価33億円との差額31億0200万円,③平成6年10月1 日以降に本件土地につき公社が負担した固定資産税等の租税公課の額3200万円,④本件借入金に係る金利として公社が負担した7億0100万円の合計額である71億3500万円を公社に支払って本件土地を取得する旨の和解を成立させたものである。 したがって,本件和解に不合理な点はなく,裁量権の範囲の逸脱,濫用等は存在しない。 ウ公社が本件土地を取得して以来,本件土地の時価は続落していたため,減損会計の導入に伴い,公社は,本件土地につき大幅な損失を計上するとともに,債務超過に陥り,対外的な信用が損なわれ,以後の公益的な事業活動に支障が出るおそれもあった。公社の公益的性格にかんがみれば,このような事態が生じるのを防ぐことは,大阪市の利益にもつながることは明らかであり,本件和解が専ら公社の利益を図るためのものとはいえない。 (2)争点(2)について(原告らの主張)Aは,市長として,違法な和解 が生じるのを防ぐことは,大阪市の利益にもつながることは明らかであり,本件和解が専ら公社の利益を図るためのものとはいえない。 (2)争点(2)について(原告らの主張)Aは,市長として,違法な和解をしてはならないという注意義務を負っていたにもかかわらず,同義務に違反し,故意又は過失により,前記のとおり,違法な本件和解を行った。 (被告の主張)争う。本件和解がその内容において違法でないことは,前記(1)で主張したとおりであり,原告らの主張はその前提を欠く。 (3)争点(3)について(原告らの主張)Bは,健康福祉局長として,違法な支出命令をしてはならない義務を負っていたにもかかわらず,同義務に違反し,故意又は重過失により,前記のとおり違法な和解に基づいて支出命令を行った。したがって,Bが本件和解に基づき支出命令を行ったことは違法である。 (被告の主張)争う。本件和解が著しく合理性を欠き,予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵の存する場合でない限り,Bには,かえって,本件和解及び補正予算を尊重しその内容に応じて和解金の支出命令を行うべき職務上の義務があるのであって,これを拒むことは許されない。そして,本件和解には,上記のごとき瑕疵は存しないのであるから,Bに支出命令を阻止すべき義務はなく,支出命令を違法たらしめる事情は存在しない。 第3争点に対する判断 争点(1)について(1)認定事実前記前提事実及び証拠等(各項括弧内に掲記)によれば,以下の事実が認められる。 ア平成6年3月15日,大阪市議会民生保健委員会において,D委員により,C病院の建物の老朽化による建替えの必要性及び医療設備の拡充の必要性が指摘された(乙12)。しかし,当時のC病院の敷地は狭く,現地での建替えは困難であったため,建替えを実現するには建替え用 により,C病院の建物の老朽化による建替えの必要性及び医療設備の拡充の必要性が指摘された(乙12)。しかし,当時のC病院の敷地は狭く,現地での建替えは困難であったため,建替えを実現するには建替え用地を確保する必要があった(甲2)。 イ大阪市は,患者の通院の継続等,利便性の面からも,従来のC病院と同じE区内での建替えが最も望ましいと判断して適地を探していたが,同区内には適当な市有地がなかったため,平成6年6月3日,環境保健局から公社に対し,公社所有の本件土地(従来のC病院の所在地から北西へ約1. 2キロメートルに位置する。)についてC病院の移転先として活用したい旨要望したところ,公社の同意は得られなかった(甲2,乙20,弁論の全趣旨)。 ウしかし,平成6年9月5日,環境保健局長から市長に対し,C病院の移転先は本件土地以外にはない旨の説明がされ(甲3),同月16日には, 環境保健局同席の下,E区選出市議会議員団会議において,C病院の移転先を本件土地とするよう,大阪市に要望を行うことが決定された(乙27)。さらに,同月26日,平成7年度予算重点項目についての環境保健局局議において,本件土地へのC病院の移転が決定され,その上で,同年12月7日,環境保健局長から財政局長に対する予算要求説明の際,C病院の移転先は本件土地とすることが説明され,同月15日には,市長に対しても同様の説明がされた(甲3)。 エその後の環境保健局と公社との交渉の概要は以下のとおりである(甲3,弁論の全趣旨)。 (ア)平成7年2月8日,環境保健局理事から公社理事長に対して協力依頼がされたが,公社の同意は得られなかった。 (イ)同年3月8日,環境保健局病院部長から公社企画部長に対して,金銭取得の困難を理由に用地交換の申出がされたが,公社は,採算が合わなければ不可能 力依頼がされたが,公社の同意は得られなかった。 (イ)同年3月8日,環境保健局病院部長から公社企画部長に対して,金銭取得の困難を理由に用地交換の申出がされたが,公社は,採算が合わなければ不可能である旨返答した。 (ウ)同年5月2日,環境保健局病院部長から公社企画部長に対して,C病院の建替えが完了するまでの間,環境保健局が本件土地を建替え用地として借用することとし,市としては公社への金利免除等を行う旨の提案がされたが,公社は,処分を急ぐ必要はないと返答した。 (エ)同年10月30日,環境保健局病院部長から公社副理事長に対して協力依頼がされたが,多額の欠損は出せないと断られた。 (オ)同年11月7日,環境保健局病院部長から公社企画部長に対し,本件土地の等価交換の申出がされたが,公社は,簿価とのギャップを考える必要があると返答した。 (カ)同月20日,環境保健局病院部長から公社企画部長に対し,本件土地を時価で買い,その上で,時価と簿価との差額の処理について努力するので,その方法について教えてほしい旨の提案がされた。 (キ)同月30日,環境保健局理事,同病院部長及び同企画主幹と公社副理事長及び企画部長との間で,環境保健局,公社及び都市整備局で協定書を締結し,時価と簿価との差額に関する問題も考慮しながら,本件土地を処理することについて議論がされた。 オ以上のような交渉の末,平成7年12月28日,環境保健局長,大阪市都市整備局長及び公社理事長の間で,本件協定書及び本件確認書が交わされ,これに基づいて,同日,環境保健局長と公社理事長との間で,本件使用貸借契約が締結された。以降,毎年,大阪市から公社に対する土地の一時使用願に基づき,本件使用貸借契約は更新されていった。(乙28,29,弁論の全趣旨)カ平成9年度(平成9年4月1日)以 本件使用貸借契約が締結された。以降,毎年,大阪市から公社に対する土地の一時使用願に基づき,本件使用貸借契約は更新されていった。(乙28,29,弁論の全趣旨)カ平成9年度(平成9年4月1日)以降,本件土地につき非課税措置が採られるようになり,さらに,平成10年4月1日,環境保健局長と公社理事長との間で,それまで公社が負担してきた本件借入金の金利相当額について,以後は環境保健局が市民病院事業会計から負担することを定めた覚書が締結された(甲3,乙27)。 本件土地に係る平成6年10月1日から平成9年3月31日までの固定資産税等の租税公課は3193万7348円,本件借入金に係る平成6年10月1日から平成10年3月31日までの金利相当額は7億0124万9094円である(乙27)。 キ平成18年2月1日,公社から本件土地に関する問題解決を求める文書を受け取ったA市長は,F弁護士及びG弁護士に対して意見を求めた(乙27)ところ,F弁護士は,要旨,「本件協定書がなければ,平成6年10月あるいはこれに近い時点で,公社は本件土地を分譲することが可能であったにもかかわらず,大阪市と公社の信頼関係から,公社は分譲をあきらめ,本件土地をC病院用地として使用することを許諾するなど,本件協定書に基づく義務を履行しており,その約束を履行したために,本件土地 の価格下落等により,大きな損害を被っているので,大阪市のみが何らの義務を負わないことは信義則上許されない」,「大阪市が本件土地を買い取る場合には,平成6年10月1日現在の鑑定価格を基準とすべきであり,また,同日から,本件土地に対し非課税措置がとられ,あるいは,環境保健局が本件借入れの金利分を負担することとなるまでの間の固定資産税等の負担額及び本件借入れの支払金利額は,予定どおり本件土地が分譲されて 同日から,本件土地に対し非課税措置がとられ,あるいは,環境保健局が本件借入れの金利分を負担することとなるまでの間の固定資産税等の負担額及び本件借入れの支払金利額は,予定どおり本件土地が分譲されていれば,公社が負担することのなかった負担であるから,大阪市が公社に対し支払うのが相当である」旨の意見書を提出し(乙3),G弁護士も,おおむね同旨の意見書を提出した(乙4)。 クこれを受けてA市長は,公社に対し,①本件土地の時価33億円,②平成6年10月1日時点における本件土地の時価64億0200万円と上記①の33億円との差額31億0200万円,③本件土地に係る平成6年10月1日から平成9年3月31日までの固定資産税等の額3200万円,④本件借入金にかかる平成6年10月1日から平成9年3月31日までの金利相当額7億0100万円を合計した71億3500万円を支払い,公社から本件土地を取得する内容の和解を成立させようと考え,上記内容の和解に関する議案とそれに伴う補正予算案を大阪市議会本会議に提出したところ,平成19年2月16日に可決された。これを受けて,同年3月19日,枚方簡易裁判所において,本件和解が成立した。 ケ平成19年3月30日,本件和解に基づき,B局長が専決した支出命令により,公社に対して上記和解金が支払われ,公社は,これに自己資金を加え,大阪市に対し,本件借入金全額を返済した(弁論の全趣旨)。 (2)和解の違法性の判断基準ア地方自治法96条1項12号は,地方公共団体が紛争の一方当事者として和解をする場合には議会の議決を要するものと定めている。そして,当事者間の自主的な紛争解決手段である和解は,当該紛争の経緯と内容,争 いの対象となった利益,両当事者や関係者の利害状況,紛争解決の経済性等,諸般の事情に応じて,各事案ごとにその時 る。そして,当事者間の自主的な紛争解決手段である和解は,当該紛争の経緯と内容,争 いの対象となった利益,両当事者や関係者の利害状況,紛争解決の経済性等,諸般の事情に応じて,各事案ごとにその時期,方法,内容等を異にするものである。このような性質からすれば,和解を行うに当たり,地方公共団体の長に与えられた裁量権の範囲は相当に広範なものと解され,議会の議決を経た和解は,原則として適法と考えるべきであり,長が和解を成立させたことが違法となるのは,当該和解内容に重大な法令違反が存するものであったり,相手方と通謀して専ら相手方の利益を図るような和解を成立させたりするなど,明らかにその裁量権の範囲を逸脱又は濫用していると評価できる特段の事情が存する場合に限られると解するのが相当である。 イなお,原告らは,本件和解は本件土地の売買契約にほかならないことから,本件和解時点の時価以外での取得はあり得ず,その違法性を判断するに当たり,本件和解に至る経緯を考慮する余地もないと主張している。確かに,本件和解は,本件土地の所有権移転及びその対価の支払を主要な内容とするものではあるが,前記前提事実((2))及び前記(1)認定事実のとおり,本件土地をC病院用地として利用するに当たり,条件についての明確な合意をみないまま,建替えや医療設備拡充の必要性から,使用貸借の形態による大阪市の土地利用が先行し,病院建物の建設や開業等の既成事実が積み重なっていったもので,その手続の適否はともかくとして,大阪市と公社との間では,本件土地の権利関係の確定・清算をどのように行うかについて民事上の争いがあったことは明らかであり,これを解決するための和解を行う場合,長には上で述べたような裁量権が認められるべきである。実質的な内容として土地の売買を含んだ和解であれば,その対価の ついて民事上の争いがあったことは明らかであり,これを解決するための和解を行う場合,長には上で述べたような裁量権が認められるべきである。実質的な内容として土地の売買を含んだ和解であれば,その対価の設定について裁量の余地を一切認めないという趣旨であれば,原告らの主張は採用できない。 (3)本件和解の違法性の検討 原告らは,本件和解は本件土地を時価よりも高く取得する内容となっている点で違法であり,専ら公社の利益を図る内容となっている点でも違法であると主張し,これに対して被告は,本件和解金には,①平成6年10月1日の時点における本件土地の時価64億0200万円,②平成6年10月1日以降に本件土地につき公社が負担した固定資産税等の租税公課の額3200万円,③本件借入金に係る金利として公社が負担した7億0100万円が含まれているところ,いずれについても合理的な支出であり,専ら公社の利益を図っているわけではないから,違法とはいえないと主張する。 アそこで,まず,本件和解金算定の基礎として,平成6年10月1日の時点における本件土地の時価64億200万円が含まれている点について検討する。 本件土地は移転前のC病院の所在地の北西方向約1.2キロメートルという近接した場所にあり,敷地面積も1万3708.31平方メートルと広大であるから,患者の通院の利便性を考慮しつつ,病院施設の整備・拡充を実現するのに好適な土地であったと認められる。そして,平成6年9月5日,環境保健局長から市長に対してC病院の移転先は本件土地以外にはない旨の説明がされたこと,同月26日,環境保健局局議において,本件土地へのC病院の移転が決定されたこと,同年12月7日には財政局長に対し,同月15日には市長に対し,それぞれ環境保健局長から,本件土地をC病院の移転先とする旨の説明がさ 環境保健局局議において,本件土地へのC病院の移転が決定されたこと,同年12月7日には財政局長に対し,同月15日には市長に対し,それぞれ環境保健局長から,本件土地をC病院の移転先とする旨の説明がされたこと等からすると,大阪市は,C病院の建替え,移転計画が持ち上がった当初から,本件土地をC病院の移転先の有力な候補地とみて,その使用を相当程度具体的に計画していたものとみることができる。 加えて,公社は大阪市が全額出資して設立している法人であり,公社の理事長及び監事は大阪市長により任命され(地方住宅供給公社法13条),その事業計画及び資金計画は大阪市長の事前承認を受けるとともに(同法 27条),財務諸表及び業務報告書についても監事の意見を付けて大阪市長に提出しなければならない(同法32条)など,大阪市による強い指導監督の下に事業を進めていくものとされている(同法40条,41条)ことに照らせば,公社が大阪市の施策に反して住宅分譲事業を行うことは事実上困難であるといえる。前記認定事実((1)ウ,エ)のとおり,いまだ公社の同意が得られていないにもかかわらず,環境福祉局が局議において本件土地をC病院の移転先とする決定をし,財政局長や市長に対してもその旨の説明をしており,最終的には,公社がその本来の目的外の行為である本件使用貸借契約を締結せざるを得なかったのも,公社の事業活動が大阪市の指揮監督権限に基づいた制約を受け,事実上の支配関係にあったことによるものとみることができる。 このように,公社が大阪市の施策に反して住宅分譲事業を行うことは事実上困難であったことを踏まえれば,環境福祉局がその局議において,本件土地をC病院の移転先とする旨の決定をした平成6年9月26日の時点で,本件土地につき住宅分譲用地とすること,その他の自由な処分・利用が事実上 ったことを踏まえれば,環境福祉局がその局議において,本件土地をC病院の移転先とする旨の決定をした平成6年9月26日の時点で,本件土地につき住宅分譲用地とすること,その他の自由な処分・利用が事実上制約された状態(被告が「土地収用類似の関係」と主張するもの。)が生じたと解した上で,その直後である平成6年10月1月の時点での本件土地の時価を公社に補償することは必ずしも不合理とはいえず,本件和解を違法たらしめるような特段の事情には当たらないというべきである。 原告らは,平成6年10月以降も公社が土地交換に速やかに応じなかったことを根拠に,時価の下落によって公社に生じる損失を大阪市が補償する必要はないとするが,平成6年9月26日の時点で本件土地の利用等について上記制約が生じていた以上,その後の時価の下落を大阪市が負担することを直ちに不合理とまではいえないし,大阪市が,公社から本件土地の所有権を取得し,本件土地に係る権利関係を整理すべきだと考えていた ことに加え,公社が本件土地を購入した際の原資を融資した大阪市としては,これを確実に回収することについても念頭に置かなければならない立場にあり,公社が本件土地を廉価で売却して損失が生じた場合には,大阪市が債権者として不利益を被るおそれがあるなど,本件土地の価額決定において要する考慮が単純ではないことも考え併せると,原告らの主張をそのまま採用することはできない。 イ次に,本件和解金に,平成6年10月1日から非課税措置がとられる平成9年3月31日までの間の本件土地の固定資産税等の租税公課の額3200万円が含まれている点について検討するに,平成6年9月26日の時点で本件土地の自由な処分・利用が事実上制約された状態が生じていたと解すると,それ以後に生じた租税公課につき,使用収益ができなかった公社で が含まれている点について検討するに,平成6年9月26日の時点で本件土地の自由な処分・利用が事実上制約された状態が生じていたと解すると,それ以後に生じた租税公課につき,使用収益ができなかった公社ではなく,その制限を加えた大阪市の負担とすることにも理由があるから,公社が負担していた上記期間の固定資産税等3200万円を補償する点もまた,必ずしも不合理とはいえず,本件和解を違法たらしめるような特段の事情には当たらないというべきである。 ウさらに,本件和解金に,本件借入金に係る金利として公社が負担した7億0100万円が含まれている点について検討するに,上記金利については,平成6年10月1日の時点までに本件土地の自由な処分・利用について制約が生じていたからといって,当然に公社が負担を免れるものではないが,上記制約をもって実質的な土地収用関係が生じたものとみるならば,実際に土地収用が行われた場合には,その時点で直ちに補償金が支払われるべきことになり,それが遅延すれば損害金の支払を要するものであり,公社に生じた遅延損害金相当額(民法所定の年5分の割合で考えると,平成6年10月1日から同10年3月31日(これ以後は大阪市が金利を負担している。)までの遅延損害金相当額は11億1991万円となる。)を補償する必要があることを勘案すれば,公社が負担した本件借入金に係 る金利7億0100万円を和解金として支払うことは必ずしも不合理とはいえず,本件和解を違法たらしめるような特段の事情には当たらないというべきである。 エ最後に,本件和解が専ら公社の利益を図るためのものであるか否かについて検討するに,公社は大阪市が全額出資する法人であることや,住民の生活の安定と社会福祉の増進に寄与するという公益的性格を有すること(地方住宅供給公社法1条参照)等にかんがみ のものであるか否かについて検討するに,公社は大阪市が全額出資する法人であることや,住民の生活の安定と社会福祉の増進に寄与するという公益的性格を有すること(地方住宅供給公社法1条参照)等にかんがみれば,大阪市が公社の損失を負担することによって大阪市に全く利益が生じないとはいえない。また,本件和解は,大阪市長が,弁護士の意見を求めてこれを参考としながら,議案を作成・提出し,その内容につき市議会の承認を得るなどの手続を経て行われたものである上,上記アからウまでにみたとおり,和解金は相応な根拠に基づいて積算されたもので,公社の救済を図るという目的のみから合理的な理由もなく和解金が増額されたという事情も認められないから,原告らの主張には理由がない。 (4)以上のとおりであり,本件和解がその内容において長の裁量権の範囲を逸脱し,またはその濫用があるとは認められないから,違法とはいえない。 争点(2)及び争点(3)について本件和解がその内容において違法でない以上,本件和解をしたこと(支出負担行為)及び本件和解に基づいてされた本件支出命令もまた違法とはいえない。 結論 以上の次第であり,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部裁判長裁判官吉田徹 裁判官小林康彦裁判官金森陽介
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