判決平成14年6月24日神戸地方裁判所平成13年(わ)第1420号身の代金拐取,拐取者身の代金要求被告事件 主文 被告人を懲役8年に処する。 未決勾留日数中110日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,経営していたコンビニエンスストアの運転資金や借金の返済資金等に窮した挙げ句,小学校低学年の男児を誘拐し,同児の安否を憂慮する近親者から金員を交付させようと企て,平成13年11月29日午後3時45分ころ,兵庫県三木市a町bc番地のd付近路上において,小学校から帰宅途中の男児A(小学1年生,当時7歳)に対し,「僕1人か。おうち遠いの。おっちゃん,子供迎えに来たんやけど,先帰ってしもたみたいや。雨降っとうし,なんやったら家まで送ったろか。車に乗り。」などと嘘を言い,同児をして,その旨誤信させた上,被告人運転の軽四輪乗用自動車に同乗させて,同車を発進させ,もって,身の代金を交付させる目的で同児を誘拐した上,同日午後6時ころから同月30日午後1時15分ころまでの間,前後7回にわたり,同県明石市e町fg丁目hなど数か所に設置された公衆電話から,同県三木市a町bi番地のj所在のB方又は同児の実母Cの携帯電話に電話をかけ,同女らに対し,「Cさんですか。あんたの子供を誘拐した。金を用意してもらおか。 俺の希望は500万や,明日の正午までに用意しとけ。警察に言うたら命の保証はない。」,「金は用意できた。かわいい子供や。奥さんが車に乗って来て欲しいんですけど。」,「加古川の方に出てください,バイパスに乗ってもらいます。携帯で連絡取り合います。私の言うとおりにしてください。子供さん,絶対安全やからね。 警察には言っていませんね,ほん 来て欲しいんですけど。」,「加古川の方に出てください,バイパスに乗ってもらいます。携帯で連絡取り合います。私の言うとおりにしてください。子供さん,絶対安全やからね。 警察には言っていませんね,ほんならすんなりいくと思います。」などと申し向けて身の代金を要求し,もって,同児の安否を憂慮する近親者の憂慮に乗じて財物の交付を要求する行為をしたものである。 (証拠の標目)(省略)(弁護人の主張に対する判断)弁護人は,職務質問が契機になったとはいえ,被告人が自ら被害児童の居場所を警察官に知らせたことにより被害児童が発見されたものであって,被告人が被害児童を解放したということができるから,刑法228条の2の解放による刑の減軽をすべきである旨主張する。 そこで,この点について判断するに,本条の解放とは,犯人が,略取,誘拐された者に対する拘束を自発的に解き,その行動の自由を回復させることをいうものと解されるところ,警察官作成の現行犯人逮捕手続書(甲1),捜査復命書(甲2)等によれば,被告人が,姫路バイパスD上りパーキングエリアに被害児童を乗せた軽四輪乗用自動車を停め,近くの公衆電話ボックスから被害児童の父親や母親に電話をかけ,身の代金の交付方法について指示をするなどしていたところ,本件を捜査中の警察官が被告人の通話内容から被告人が犯人に間違いがないと判断して,通話を終え前記軽四輪乗用自動車に乗り込もうとした被告人に対し,「警察や,分かっているやろ。」と声をかけ,「子供はどこだ。」と問いただしたことから,被告人が被害児童が乗車している軽四輪乗用自動車を指さし,その車両内から被害児童が発見されたことが認められるのであり,被告人が被害児童の居場所を教えたのは,自己の犯罪の発覚を悟るとともに,被害児童が目の前の車両からすぐに発見されるであろうと思い 指さし,その車両内から被害児童が発見されたことが認められるのであり,被告人が被害児童の居場所を教えたのは,自己の犯罪の発覚を悟るとともに,被害児童が目の前の車両からすぐに発見されるであろうと思い,もはやこれまでと観念したからにすぎないとみられるのであって,被告人が被害児童に対する拘束を自発的に解いたということはできず,本条の解放には該当しないから,弁護人の主張は採用することができない。 (法令の適用)被告人の判示所為のうち,身の代金拐取の点は,刑法225条の2第1項に,拐取者身の代金要求の点は,同法225条の2第2項にそれぞれ該当するが,この身の代金拐取と拐取者身の代金要求の間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として犯情の重い拐取者身の代金要求罪の刑で処断することとし,所定刑中有期懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で,被告人を懲役8年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中110日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 本件は,被告人が,経営していたコンビニエンスストアの運転資金や借金の返済資金等に窮した挙げ句,小学校低学年の男児を誘拐して,その近親者から身の代金を奪い取ろうと考え,小学1年生の被害児童を騙して誘拐した上,その安否を憂慮する親等に身の代金500万円を要求したという,身の代金拐取,拐取者身の代金要求の事案である。 2 被告人は,平成12年3月に自己が実質的に経営するコンビニエンスストアを開店したが,開店当初から売り上げが伸びず,赤字経営の月が重なって,その運転資金や自己の生活費にも事欠いたことから,親戚やサラリーマン金融などから多額の借金をする一方,フランチャイズ契約に違反して,売上金の一部を抜いて借 ら売り上げが伸びず,赤字経営の月が重なって,その運転資金や自己の生活費にも事欠いたことから,親戚やサラリーマン金融などから多額の借金をする一方,フランチャイズ契約に違反して,売上金の一部を抜いて借金の返済資金等に勝手に流用したり,架空の仕入れを計上しその仕入れ代金を同様に流用したりなどしたため,平成13年11月初めころには,コンビニエンスストアの運転資金,借金の返済資金,流用金の穴埋め資金等として500万円程度の金員を手に入れる必要に迫られるようになった。そこで,被告人は,以前に,姫路市k区内において見かけた裕福そうな家の幼い子供を誘拐して身の代金を得ることを計画し,その子の自宅と思われる家の電話番号を調べたり,アイマスクを購入したりするなどの準備をした上,その家の前を通ったり,近くで待ち伏せたりしたものの,その子の姿を見かけないまま,同月末が近づいて,いよいよ前記運転資金,借金の返済資金,流用金の穴埋め資金等を入手する必要に迫られ,特に,流用金の穴埋めができないときには,フランチャイズ契約を解除されて,コンビニエンスストアの経営ができなくなることが必至であると思われたことから,誘拐の対象を小学校低学年の男児にまで広げ,姫路市内,三木市内等の小学校の周辺等を自動車で徘徊して,誘拐できそうな男児を探し廻るうち,本件当日,小学校から帰宅途中の被害児童を見つけ,犯行に及んだものである。 3 本件犯行は,被告人が,前記のように,自己の経営するコンビニエンスストアの運転資金や借金の返済資金等に窮し,それを得ようとして犯したものであって,犯行の動機は自己の利益のために他を省みない身勝手なものというべきであり,そこに酌量の余地は存しない。被告人は,犯行に及ぶべき曜日,誘拐の対象,その方法,身の代金要求の方法,その受け取り方等を考えた上,誘拐した男児 の利益のために他を省みない身勝手なものというべきであり,そこに酌量の余地は存しない。被告人は,犯行に及ぶべき曜日,誘拐の対象,その方法,身の代金要求の方法,その受け取り方等を考えた上,誘拐した男児に目隠しをするためのアイマスクや同児が暴れた場合にその手足を縛るためのガムテープを準備して,数日間に亘り誘拐できそうな男児を探して複数の小学校周辺等を徘徊し,ついに本件犯行に及んだものであって,本件は強い実行意志の下に犯された計画的犯行である。被告人は,小学1年生の幼い被害児童を言葉巧みに欺いて誘拐し,約21時間もの間その家族から引き離して自己の支配下に置いた上,被害児童の祖父や母親らに外国人グループによる計画的な犯行であるかのように装い,警察に通報したら命の保証はないと告げ,電話の逆探知で居場所が判明しないようにするため,電話をかける公衆電話を転々と変えるとともに短時間しか話さないようにし,また,身の代金を確実に用意させるため,被害児童に「約束を守って。」と言わせ,更には,被害児童の通学する小学校の教頭を装い被害児童方の隣人に電話をかけて被害児童方の様子を窺うなど,警察への通報を妨げて犯行の発覚を防ぎ,あるいは警察の捜査を攪乱しながら,被害児童の安否を心配する近親者に多額の身の代金を要求してこれを得ようとしたものであり,その犯行態様は,卑劣かつ狡猾なものであって,誠に悪質というほかない。被害児童が本件犯行によって受けた恐怖・不安感等の精神的苦痛は大きく,それが今後の成長過程で心的外傷にならないかと懸念されるとともに,被害児童の近親者は,ある日突然に幼い子供を誘拐された上,身の代金の要求を受け,子供の安全が確認されるまで生きた心地もせず,被告人の言葉に一喜一憂し,被告人を刺激して子供の安全が害されてはいけないと心を配り,その要求されるがまま 幼い子供を誘拐された上,身の代金の要求を受け,子供の安全が確認されるまで生きた心地もせず,被告人の言葉に一喜一憂し,被告人を刺激して子供の安全が害されてはいけないと心を配り,その要求されるがままに身の代金である500万円を必死になって準備した様子が窺われるのであって,被害児童の近親者に加えた精神的苦痛は甚だしく,その被害感情には厳しいものがある。しかし,被告人から被害児童やその近親者に対する慰謝の措置はいまだ講じられていない。その他,本件犯行が被害児童と同年代の子供を持つ親等に不安を生じさせるなど,社会に与えた衝撃が大きいことや,また,その犯行態様の模倣性には強いものがあることも,量刑上看過するわけにはいかない。 これらのことを考え併せると,犯情は悪く,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 4 してみると,被告人は,誘拐する男児の家族構成,近親者の資産の有無等を全く調べることなく,たまたま見かけた本件被害児童を誘拐し,被害児童自身から自宅の電話番号を聞き出してその近親者に身の代金を要求しているのであり,また,被告人の考えた身の代金受け取りの仕掛けも稚拙なものであって,犯行の計画はあまり綿密周到なものとはいえないこと,被告人には,被害児童の生命,身体に危害を加える意図は窺えず,被害児童は幸い無事に発見救出されており,また,身の代金も奪われるには至っていないこと,被告人は,被害児童にお菓子やおにぎりを買い与えて機嫌を取り,また,お茶を買い与えたりトイレを使用させたりなどするため,防犯カメラの設置されているコンビニエンスストアに被害児童とともに入り,その姿を撮影されているのであって,そこからは冷酷非情な犯人像は窺えないこと,被告人は,事実を認めて反省の態度を示し,二度とこのような悪いことをしない旨誓っていること,被告人の友人が社 ともに入り,その姿を撮影されているのであって,そこからは冷酷非情な犯人像は窺えないこと,被告人は,事実を認めて反省の態度を示し,二度とこのような悪いことをしない旨誓っていること,被告人の友人が社会復帰後の被告人を援助すると述べ,被告人の弟が家族全員で被告人を支えていく旨述べていること,被告人には前科前歴がないことなどの,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,主文の刑はやむを得ないところである。 (検察官の科刑意見懲役10年)よって,主文のとおり判決する。 平成14年6月24日神戸地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官森岡安廣 裁判官前田昌宏 裁判官伏見尚子
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