平成23(モ)142 文書提出命令申立事件

裁判年月日・裁判所
平成23年12月27日 名古屋地方裁判所 その他
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判決文本文21,333 文字)

平成23年(モ)第142号文書提出命令申立事件(基本事件平成22年(ワ)第5047号国家賠償請求事件)決定 主文 相手方は,本決定が確定した日から7日以内に,別紙1文書目録記載の文書を当裁判所に提出せよ。 理由 第1 申立ての趣旨及び理由等 1 申立ての趣旨主文と同旨 2 申立の理由等(1) 文書の所持者相手方(2) 証明すべき事実ア平成20年8月12日に春日井簡易裁判所(以下「春日井簡裁」という。)裁判官により発付された検査すべき身体を「申立人の陰茎」とする身体検査令状(以下「本件身体検査令状」という。)について,愛知県春日井警察署(以下「春日井署」という。)の取扱い,執行状況が違法,不当であった事実(以下「証明すべき事実①」という。)イ春日井署が,犯罪捜査規範等により作成を義務づけられている別紙1文書目録記載の文書(以下「本件文書」という。)を本件身体検査令状に関して適切に作成し,管理していたか否かに関する事実(以下「証明すべき事実②」という。)(3) 文書の提出義務の原因民事訴訟法(以下「法」という。)220条3号後段第2 事案の概要 1 本件の基本事件は,18歳に満たない児童である当時16歳の少女(以下「A子」という。)と性交類似行為をしたとして,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春等処罰法」という。)違反で逮捕,勾留,起訴され,その後,無罪判決が言い渡されて確定した申立人が,国及び相手方に対し,逮捕,勾留,起訴等の違法を理由として,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償等を請求している事案である。 2 本件申立てに関係する前提事実(1) 春日井署は,平成2 申立人が,国及び相手方に対し,逮捕,勾留,起訴等の違法を理由として,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償等を請求している事案である。 2 本件申立てに関係する前提事実(1) 春日井署は,平成20年8月12日,申立人を被疑者とする児童買春等処罰法違反の被疑事実について,春日井簡裁裁判官に対し,逮捕状を請求し,これに対し,春日井簡裁裁判官は,同日,逮捕状を発付した(甲38)。 (2) 春日井署は,前記(1)の逮捕状請求の際,前記(1)の被疑事実について,検査すべき身体を「申立人の陰茎」とする身体検査令状も請求し,これに対し,春日井簡裁裁判官は,前記(1)の逮捕状とともに,検査すべき身体を「申立人の陰茎」とする身体検査令状(本件身体検査令状)を発付した(甲52)。本件身体検査令状の有効期間は,平成20年8月19日までであり,本件身体検査令状には,「有効期間経過後は,この令状により身体の検査をすることができない。この場合には,これを当裁判所に返還しなければならない。有効期間内であっても,身体の検査の必要がなくなったときは,直ちにこれを当裁判所に返還しなければならない。」との記載がされていた(甲52)。 (3) 春日井署は,平成20年8月13日,申立人を通常逮捕し,同月14日,申立人を名古屋地方検察庁(以下「名古屋地検」という。)検察官に送致する手続をした(甲38,39)。 (4) 名古屋地検検察官は,平成20年8月14日,申立人を,児童買春等処罰法違反の被疑事実で勾留請求し,名古屋地方裁判所(以下「名古屋地裁」 という。)裁判官は,同日,申立人を,同日から春日井署留置施設に勾留する旨の決定をし,申立人は,春日井署留置施設に勾留された(甲40)。 (5) 名古屋区検察庁(以下「名古屋区検」という。)検察官は,平成20年8月22日 ,申立人を,同日から春日井署留置施設に勾留する旨の決定をし,申立人は,春日井署留置施設に勾留された(甲40)。 (5) 名古屋区検察庁(以下「名古屋区検」という。)検察官は,平成20年8月22日付けで,申立人について,児童買春等処罰法違反の公訴事実で略式命令を請求し,名古屋簡易裁判所裁判官は,同日,申立人に対し,罰金40万円に処する略式命令を発し,申立人は,罰金40万円を仮納付した(甲19,乙イ23)。 (6) 申立人は,平成20年8月28日,前記(5)の略式命令について,名古屋簡裁に,正式裁判の請求をし,同年9月24日,申立人に対する児童買春等処罰法違反被告事件は,名古屋地裁において審理されることとされた。 (7) 名古屋地裁は,平成21年12月4日,前記(6)の被告事件について,申立人を無罪とする判決を言い渡し,同判決は,同月19日,確定した(以下,申立人に対する以上の児童買春等処罰法違反の刑事事件を「本件刑事事件」という。)。 (8) 申立人は,平成22年7月23日,国及び相手方に対し,損害賠償等を求める基本事件の訴えを提起した。 (9) 申立人は,基本事件において,平成22年11月18日付け「準備書面(1)」を提出し,国に対し,本件身体検査令状,本件身体検査令状の請求書及び本件身体検査令状の請求書添付資料のうち基本事件において未だ書証として提出されていないもの等の任意提出を求めた。 (10)春日井署は,平成22年11月29日,本件身体検査令状が未執行であるとして,身体検査令状返還書とともに本件身体検査令状を春日井簡裁に返還した(甲51,52)。 (11)申立人の前記(9)の任意提出の要請に対し,国は,基本事件において,平成22年12月13日付け「被告国第2準備書面」を 提出し,前記(9)の各文書は,名古屋地検 た(甲51,52)。 (11)申立人の前記(9)の任意提出の要請に対し,国は,基本事件において,平成22年12月13日付け「被告国第2準備書面」を 提出し,前記(9)の各文書は,名古屋地検が保管する刑事確定記録ではない不提出記録中に存在するか,名古屋地検に存在しない書類であることから,いずれについても任意提出の要請には応じられないとした。 (12)申立人は,平成22年12月17日の基本事件の第3回口頭弁論期日において,国に対して任意提出を求めている文書について,任意提出をしてもらえないのであれば,文書提出命令の申立てを検討している,相手方においても上記文書を保管しているのであれば,任意提出を求める旨述べた。これに対し,国は,現時点では,任意では回答できない,文書提出命令の申立てがあれば,対応を検討する旨述べ,相手方は,申立人から任意提出の要請を受けた文書について,任意では提出に応じられない旨述べた。 (13)春日井署は,平成23年2月24日,本件身体検査令状の請求書を名古屋地検に送致した。 (14)申立人は,基本事件において,平成23年2月25日付け「文書提出命令申立書(2)」を提出し,相手方に対し,「身体検査令状(原告の陰茎)」,「身体検査令状請求書(原告の陰茎)」,「身体検査令状請求書(原告の陰茎)添付資料のうち本件訴訟において未だ書証として提出されていないもの」及び「身体検査令状(原告の陰茎)についての令状請求簿(犯罪捜査規範137条3項)」(本件文書)の提出を求めた(本件文書提出命令申立事件)。 (15)これに対し,相手方は,平成23年3月10日付け「意見書」において,前記(10)及び(13)の事実を主張し,相手方は,本件身体検査令状及び本件身体検査令状の請求書を所持していない旨主張し,本件文書については, ,相手方は,平成23年3月10日付け「意見書」において,前記(10)及び(13)の事実を主張し,相手方は,本件身体検査令状及び本件身体検査令状の請求書を所持していない旨主張し,本件文書については,取調べの必要性がない旨などを主張した。 (16)申立人は,前記(15)の相手方の主張を受けて,基本事件において,平成23年3月23日付け「文書送付嘱託申立書」を提出し,本件身体検査令状及びこれと同時に春日井署から春日井簡裁に送付された送付書等の書類の春日井簡裁への送付嘱託を申し立てた。 (17)当裁判所は,基本事件において,平成23年3月29日付けで前記(16)の春日井簡裁に対する送付嘱託を採用した。 (18)平成23年4月15日,春日井簡裁から送付された本件身体検査令状及び身体検査令状返還書が,当裁判所に到着し,これらの書類は,平成23年5月13日の基本事件の第5回口頭弁論期日において提示された。 (19)申立人は,本件文書提出命令申立事件について,平成23年5月9日付けで,「身体検査令状(原告の陰茎)」,「身体検査令状請求書(原告の陰茎)」及び「身体検査令状請求書(原告の陰茎)添付資料のうち本件訴訟において未だ書証として提出されていないもの」の文書提出命令の申立てを取り下げたが,「身体検査令状(原告の陰茎)についての令状請求簿(犯罪捜査規範137条3項)」(本件文書)の文書提出命令の申立ては維持した。 3 当事者の主張(1) 本件文書の取調べの必要性ア申立人 証明すべき事実①について申立人は,基本事件において,本件身体検査令状の有効期間の末日である平成20年8月19日の申立人に対する取調べの際,取調べにあたった春日井署生活安全課のB巡査が,取調べの最中にかかってきた検察官からの電話の後,申立人に,「お前チ 身体検査令状の有効期間の末日である平成20年8月19日の申立人に対する取調べの際,取調べにあたった春日井署生活安全課のB巡査が,取調べの最中にかかってきた検察官からの電話の後,申立人に,「お前チンチンにイボあるか。」などと言い,申立人が自発的にズボンを下げてBに陰茎を見せたところ,Bは,申立人の陰茎を見て,陰茎の突起物(以下「イボ」という。)の有無を確認し,「普 通のチンチンだな,へんなチンチンではないな。」と発言した,申立人は,Bに上記やり取りを調書に取って欲しいと頼んだが調書にとってもらえなかった,この際,Bは,申立人に本件身体検査令状を呈示しなかった,相手方は,本件身体検査令状が発付されていた事実自体を隠蔽するため,本件身体検査令状を刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)218条,刑事訴訟規則157条の2に反して意図的に返還せず,その請求書についても意図的に検察庁に送致しなかったなどの事実を主張している。 これに対し,相手方は,Bが申立人のイボの有無を確認したこと,Bが「普通のチンチンだな,へんなチンチンではないな。」と発言したこと,申立人が,Bに上記やり取りを調書に取って欲しいと頼んだことなどを否認している。 さらに,申立人は,春日井簡裁への本件身体検査令状の返還が,発付日(平成20年8月12日)から2年以上が経過した平成22年11月29日になってから行われたこと,本件身体検査令状の請求書も,他の一件記録とともに直ちに名古屋地検に送致しなければならなかったのに,平成23年2月24日になって送致されたという経緯があることから,春日井署は,本件身体検査令状を事実上執行したものの,捜査目的に合わなかった(申立人の陰茎にイボのないことが判明した結果,A子の供述の信用性に疑問が生じた)ため,令状を執行していない扱いとしたと主 春日井署は,本件身体検査令状を事実上執行したものの,捜査目的に合わなかった(申立人の陰茎にイボのないことが判明した結果,A子の供述の信用性に疑問が生じた)ため,令状を執行していない扱いとしたと主張しているが,相手方は,これについても争っている。 このように,基本事件においては,Bが申立人の陰茎を見てイボの有無を確認したか等の点に争いがあり,これらを明らかにするためには,本件身体検査令状の管理,執行に関する客観的資料そのものの内容が明らかにされる必要があり,本件身体検査令状を請求した捜査官の陳述書ないし証人尋問等によって上記客観的資料の記載内容を詳細かつ正確に明らかにすることは極めて困難であるから,捜査官の証人尋問等によって本件文書 の取調べを代替することはできない。 また,本件では,春日井署が,前記のように本件身体検査令状を事実上執行したことを受けて,本件文書の「令状執行」欄の「月日時」欄,「執行官氏名」及び本件文書下部の「備考」欄に,本件身体検査令状の取扱い,執行状況等について何らかの記載を行っている可能性がある。 したがって,本件文書を取り調べることで,本件身体検査令状の取扱い,執行状況が明らかとなる可能性があり,基本事件において本件文書を取り調べる必要性がある。  証明すべき事実②について本件では,前記のとおり本件身体検査令状の春日井簡裁への返還が2年以上遅れ,本件身体検査令状の請求書の検察庁への送致も2年以上遅れたことが明らかになっている以上,本件文書の作成,管理が不適切であった可能性が十分認められ,この点が,例えば,本件文書の「有効期間及び更新状況」欄等に記載がされている可能性がある。そして,春日井署において令状請求簿の作成,管理が適切でなかったことが明らかとなれば,本件身体検査令状の取扱いも違法,不 えば,本件文書の「有効期間及び更新状況」欄等に記載がされている可能性がある。そして,春日井署において令状請求簿の作成,管理が適切でなかったことが明らかとなれば,本件身体検査令状の取扱いも違法,不当であったことが推認される。 したがって,このような意味でも本件文書を取り調べる必要がある。 イ相手方 証明すべき事実①について本件では,春日井署が,平成22年11月29日に本件身体検査令状を春日井簡裁に返還したことは,証拠(甲51,52)上明らかであり,本件身体検査令状の取扱いについては,基本事件において明らかとなっている。 また,本件では,申立人が平成20年8月19日のBの取調べの際に,自発的にズボンを下げて,Bに陰茎を見せようとしたこと,その際に本件身体検査令状が申立人に呈示されていないことは争いがなく,その後に申 立人に本件身体検査令状が呈示されていないことも,申立人は争っていないはずであって,本件身体検査令状が執行されなかったことは客観的に明らかであり,本件身体検査令状の執行状況は,基本事件において明らかとなっている。 したがって,基本事件において,証明すべき事実①を明らかにするために本件文書を取り調べる必要はない。 また,身体検査令状を執行した場合にその執行状況に関して記載する項目は「令状執行」欄の中の「月日時」欄と「執行官氏名」のみであり,仮に申立人が主張するようにBが申立人の陰茎のイボの有無を確認した等の事実があったとしても,そのような事実は,令状請求簿に記載されるものではない。同様に,本件身体検査令状の春日井簡裁への返還が2年以上遅れた事実があるとしても,そのような事実が令状請求簿に記載されるものではない。 したがって,令状請求簿からは申立人の主張する証明すべき事実①は明らかとならないから の春日井簡裁への返還が2年以上遅れた事実があるとしても,そのような事実が令状請求簿に記載されるものではない。 したがって,令状請求簿からは申立人の主張する証明すべき事実①は明らかとならないから,この点からも,基本事件において本件文書を取り調べる必要はない。  証明すべき事実②について申立人は,令状請求簿の作成,管理が適切でなかったことが明らかとなれば,本件身体検査令状の取扱いも違法,不当であったことが推認されると主張するが,令状請求簿の作成,管理が不適切であったことからただちに本件身体検査令状の取扱い,執行状況が違法,不当であるということはできない。また,令状請求簿の作成,管理が不適切であったとしても,それがただちに国家賠償法上違法と評価されるものではないから,申立人が明らかにしようとする事実は,基本事件の請求原因事実とは何ら関係がない。 したがって,基本事件において,本件文書を取り調べる必要はない。 (2) 法220条3号後段該当性ア申立人本件文書は,犯罪捜査規範137条3項,125条に基づき,本件身体検査令状の請求及び執行に当たって作成される文書であり,本件身体検査令状が現実に執行されたか否かという,相手方と申立人との間の法律関係それ自体について記載された文書であるから,法220条3号後段の法律関係文書に該当する。 そして,令状請求簿は,令状請求の手続,発付後の状況等を明らかにするために作成されるものであって,上記のとおり,国家公安委員会規則である犯罪捜査規範に根拠を有する。したがって,令状請求簿は,公務員個人の手控え等のように個人的に用いるものではなく,内部文書にはあたらない。 法220条4号ニは,文書提出義務が免除される場合の1つとして,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書( は,公務員個人の手控え等のように個人的に用いるものではなく,内部文書にはあたらない。 法220条4号ニは,文書提出義務が免除される場合の1つとして,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては,公務員が組織的に用いるものを除く。)」と定め,国が所持する内部決裁用文書等であっても,行政機関の職員が組織的に用いるものとして保有している文書は,提出義務があると解される。そして,このような解釈は,いわゆる内部文書性の判断においても同様に解すべきであり,仮に,令状請求簿が,内部的決裁用文書であるとしても,令状請求簿は,行政機関の職員が組織的に用いるものとして保有している文書といえるから,いわゆる内部文書には該当しない。 したがって,本件文書は,法220条3号後段の法律関係文書に該当するから,相手方は,同号に基づく提出義務を負う。 イ相手方令状請求簿は,令状請求の手続,発付後の状況等を明らかにすることにより,適正な捜査管理に資するために作成されるものであり,申立人と相手 方との法律関係の基礎となり若しくは裏付けとなる事項を明らかにするという目的を有するものではない。そして,令状請求簿の作成,管理は,あくまでも当該令状を請求した警察署によりなされ,検察庁との間での授受や,検察官からの勾留請求について,勾留の可否を判断する裁判官が参照することなどは予定されていない。また,犯罪捜査規範は,第1条の規定から明らかなとおり,警察官が犯罪の捜査を行うに当たって守るべき心構え,捜査の方法,手続その他捜査に関し必要な事項を定めた内部規範であって,第三者に対し,何らかの法的な権利を付与したり,義務を課すものではなく,申立人の身体の自由を制約したり,申立人に対する何らの受忍義務の発生,変更及 の他捜査に関し必要な事項を定めた内部規範であって,第三者に対し,何らかの法的な権利を付与したり,義務を課すものではなく,申立人の身体の自由を制約したり,申立人に対する何らの受忍義務の発生,変更及び消滅といった個別の権利関係を生じさせるものでないことは明らかである。 このような令状請求簿の作成目的,記載内容及び性質等の諸要素を総合して客観的に判断すると,令状請求簿は,専ら所持者である春日井署の自己使用のために作成された,いわゆる内部文書の性質を有するから,法220条3号後段の法律関係文書に該当しない。 申立人は,法220条4号ニが定める「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」の解釈と内部文書の解釈が同義であると主張するが,これを裏付ける裁判例等はなく,申立人の主張は理由がない。 したがって,相手方は,本件文書について,法220条3号後段に基づく提出義務を負わない。 (3) 文書保管者の裁量権の濫用ア申立人 刑訴法47条は,「訴訟に関する書類は,公判の開廷前には,これを公にしてはならない。但し,公益上の必要その他の事由があって,相当と認められる場合は,この限りでない。」と定める一方,刑訴法53条は,「何人も,被告事件の終結後,訴訟記録を閲覧することができる。但し, 訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは,この限りでない。」と定めており,刑訴法47条は公判開廷前に関する規定,刑訴法53条は公判終了後に関する規定と読むべきである。そうすると,本件のように申立人の無罪判決が確定して公判手続が終了している事案においては,刑訴法47条の適用はなく,刑訴法53条の適用があると考えるべきである。 そして,刑事事件記録は公判終了後は一般的に公開すべきだという刑訴法53条の趣旨からすれば,同条にいう いる事案においては,刑訴法47条の適用はなく,刑訴法53条の適用があると考えるべきである。 そして,刑事事件記録は公判終了後は一般的に公開すべきだという刑訴法53条の趣旨からすれば,同条にいう「訴訟記録」は,「裁判所不提出記録」も含まれるから,本件文書は,刑訴法53条の「訴訟記録」に該当し,同条に基づいて公開されるべきである。  仮に,本件文書が,刑訴法47条の「訴訟に関する書類」に該当するとした場合,本件文書の所持者である相手方が,本件文書の提出を拒否したことが,裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであったかどうかが問題となる。 この点について,本件文書は,前記(1)アのとおり取調べの必要性が高い。また,本件刑事事件は,平成21年12月4日に言い渡された無罪判決の確定によって全て終了しているから,本件文書を開示することによる本件刑事事件への弊害は皆無である。 以上のとおり,相手方による本件文書の提出の拒否は,本件文書を取り調べる必要性が高い一方,本件文書を開示することによる弊害発生のおそれは認められないことに照らすと,相手方の有する裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであることは明らかである。 したがって,相手方は,本件文書の提出を拒否することは許されず,提出の義務がある。 イ相手方申立人の主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 一件記録によると,前記第2の2の「本件申立てに関係する前提事実」に加え,以下の事実が認められる。 (1) 申立人は,平成20年5月29日午前1時40分ころ,愛知県春日井市(以下略)付近路上で,知人の家から自宅へ帰るA子を客としてタクシーに乗車させ,午前2時ころ,A子の自宅付近において下車させた。 A子は,同日夕方,春日井署に対し,申立人が,タクシー 愛知県春日井市(以下略)付近路上で,知人の家から自宅へ帰るA子を客としてタクシーに乗車させ,午前2時ころ,A子の自宅付近において下車させた。 A子は,同日夕方,春日井署に対し,申立人が,タクシーの中でA子の乳房を触る,A子に口淫させるなどの性交類似行為を行った旨の申告をした。そのため,春日井署は,上記事実について捜査を開始した。 (2) 春日井署は,A子の事情聴取や,タクシーの走行経路についてのA子の引き当たり捜査,申立人の勤務先に対する捜査等を行い,平成20年8月12日,春日井簡裁裁判官に対し,申立人が,「平成20年5月29日午前1時55分ころ,愛知県春日井市(以下略)から愛知県小牧市(以下略)を走行中の普通乗用自動車(登録番号以下略)内において,A子が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童に対し,現金1万円の対償を供与した上,自己の性的好奇心を満たす目的で,同児童の乳房を弄び,膣内に手指を挿入し,自己の陰茎を同児童に口淫させるなどし,もって,児童買春をしたものである。」との被疑事実に基づき,逮捕状を請求するとともに,検査すべき身体を「申立人の陰茎」とする身体検査令状を請求し,同日,春日井簡裁裁判官は,逮捕状及び本件身体検査令状を発付した(甲38,52)。 (3) 春日井署は,平成20年8月13日,申立人を通常逮捕し,同月14日,申立人を名古屋地検検察官に送致する手続をし,名古屋地検検察官は,同日,申立人を,勾留請求し,名古屋地裁裁判官は,同日,申立人を春日井署留置施設に勾留する旨の決定をし,申立人は,同日から春日井署留置施設に勾留された(甲38,39,40)。 (4) 名古屋区検検察官は,平成20年8月22日付けで,申立人を,「平成2 0年5月29日午前1時55分ころ,愛知県小牧市(以下略)付近路上を 施設に勾留された(甲38,39,40)。 (4) 名古屋区検検察官は,平成20年8月22日付けで,申立人を,「平成2 0年5月29日午前1時55分ころ,愛知県小牧市(以下略)付近路上を走行中の普通乗用自動車内において,A子が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童に対し,現金1万円を対償として供与して,同児童に自己の陰茎を口淫させるなど性交類似行為をし,もって児童買春をしたものである。」との公訴事実で略式命令を請求し,名古屋簡裁裁判官は,同日,申立人に対し,罰金40万円に処する略式命令を発し,申立人は,罰金40万円を仮納付した(甲19,乙イ23)。 (5) 申立人は,同月28日,名古屋簡裁に,前記(3)の略式命令について正式裁判の請求をし,その後,本件刑事事件は,名古屋地裁において審理され,申立人は,無罪を主張し,A子の供述の信用性,申立人の捜査段階での自白の任意性及び信用性等を争った。 (6) A子は,申立人の陰茎の形状について,捜査段階において,春日井署司法警察員及び名古屋地検検察官に対し,以下のアないしエのとおり述べ,公判期日において以下のオのとおり証言するなどしていた。 ア平成20年5月29日(甲20,乙イ1。司法警察員に対し。)「フェラチオをするときに分かったのですが,亀頭のカリの部分に,何個かのイボイボがあったので,イボか出来物かなと思いました。」イ平成20年7月25日(甲4,乙イ7。司法警察員に対し。)「チンコの先っぽの方にイボイボが10個くらいあるなんでイボイボがあるんだろうと思っていたのでした。」ウ平成20年8月5日(甲21,乙イ8。司法警察員に対し。)「チンコの先っぽの少し下に小さなイボが10個くらいあったことを目では見てはいませんが,唇や舌で感じたのでした っていたのでした。」ウ平成20年8月5日(甲21,乙イ8。司法警察員に対し。)「チンコの先っぽの少し下に小さなイボが10個くらいあったことを目では見てはいませんが,唇や舌で感じたのでした。」,「これまでチンコにイボが付いている人はいなかったので,チンコにイボイボがあるなんて初めてだと思い,とても印象に残っているのです。」などと述べ,さらに,「イボの状況」と題する図面を書き,イボの形状を具体的に説明するなどした。 エ平成20年9月4日(甲26,乙イ20。検察官に対し。)「私は,警察官に運転手のおじさんのチンコの先っぽのほうに,イボが10個くらいあったとお話ししましたが,タクシーの中はとても暗く,目で見て直接確認したわけではありません。私がフェラチオをしているときに,口や舌の感覚でイボがあると感じただけで,男の人のチンコの形が状況によって変わることからしても,イボがあったとは自信を持って言えません。」オ平成21年8月26日の第1回公判期日(甲27,乙イ22)「で,9月4日の検察官調書を見ると,検察官調書では,何て答えたか覚えていますか。」との質問に対して,「・・・なかった。」と証言し,「これを見ると,いぼがあったか自信を持って言えませんというふうになってますよね。で,検察官の取調べのときに,いぼについて,何か言われたんですか。」との質問に対して,「言われました。」と証言し,さらに「なんて言われたんですか。」との質問に対して,「調べるとか。」と証言し,「調べて,どうだと言われましたか。」との質問に対して,「違ったと。」と証言した。 (7) 名古屋地裁は,平成21年12月4日,本件刑事事件について,A子の供述及び申立人の捜査段階での自白の信用性をいずれも否定し,申立人がA子と性交類似行為等をしたと認め たと。」と証言した。 (7) 名古屋地裁は,平成21年12月4日,本件刑事事件について,A子の供述及び申立人の捜査段階での自白の信用性をいずれも否定し,申立人がA子と性交類似行為等をしたと認めるについては合理的疑いを差し挟む余地があり,公訴事実について犯罪の証明がないとして,申立人に対し,無罪判決を言い渡し,同判決は,同月19日,確定した(甲1)。 (8) 申立人は,基本事件の平成22年7月23日付け訴状において,「8月19日の取調べについては,原告は,『もう私はそのときぜんぜんわかりません』という状況の下で行われた。取調べ中検事から電話があり,『原告の陰茎にイボがあるかどうか』という問い合わせがあった。そこで原告は自ら陰茎をB刑事に見せイボのないことを確認させたが,これらは調書 には書いてもらえなかった(甲18号証)。」(p14,15),「C検察官はその供述が信用できるかを確かめるべく,8月19日,原告が当時勾留されていた春日井警察署に電話をし,B刑事らに,被告人のイボがあるかないかの問い合わせをした。そして,B刑事は,原告の陰茎を実際に見て,イボのないことを確認し,それはC検察官に伝えられた」(p17)などと主張した。 (9) これに対し,国は,平成22年10月1日付け「被告国第1準備書面」において,「C検事が,警察官において原告を取り調べていることを認識した上,警察官に対して原告の陰茎のイボの有無を問い合わせた事実はない。なお,C検察官が平成20年8月20日までの間に,原告の陰茎を確認したか否かを電話で警察官に尋ねた事実はあるが,その際,応対した警察官からは,『確認していない』旨の回答を受けたにとどまる。その後もC検察官は,警察官からの原告の陰茎を実際に見てイボがないことを確認したなどという報告を受けておらず, はあるが,その際,応対した警察官からは,『確認していない』旨の回答を受けたにとどまる。その後もC検察官は,警察官からの原告の陰茎を実際に見てイボがないことを確認したなどという報告を受けておらず,また,警察官に対して原告の陰茎のイボに係る調査を指示した事実もなかった。」(p5,6)などと主張した。 (10)相手方は,平成22年10月1日付け「第1準備書面」において,「8月19日の取調べ中に検察官から電話があり,『原告の陰茎にイボがあるかどうか』という問い合わせがあった事実,原告がB巡査に陰茎を見せイボのないことを確認させたが,これらは調書に書いてもらえなかった事実はいずれもない。上記取調べにおいて,B巡査は『チンコに特徴があるのか。他人と違うところとか,大きいとか小さいとか。』と原告に尋ねたところ,原告はズボンを降ろしてその陰茎を見せようとした。本来であれば,被疑者の陰茎を確認するような行為は身体検査令状に基づきなされるべきであり,令状の執行なしに原告の陰茎を確認すれば,捜査の任意性を疑われるおそれがあったことから,B巡査は原告の陰茎を確認することなく, 原告にズボンを上げるよう指示しており,その陰茎にイボがあったかどうかまでは確認していない。」(p12),「この取調べにおいて,B巡査は原告に『チンコに特徴があるのか。他人と違うところとか,大きいとか小さいとか。』とその陰茎の特徴を尋ねたところ,原告は『いやないですよ。そりゃあ,大きくはないですけど,男同士なら別に恥ずかしくないから見せます。』等と言って椅子に座ったまま横を向き,椅子から立ち上がりながらズボンを下げようとした。本来であれば,被疑者の陰茎を確認するような行為は身体検査令状に基づきなされるべきであり,令状の執行なしに原告の陰茎を確認すれば,捜査の任意性を疑われ 子から立ち上がりながらズボンを下げようとした。本来であれば,被疑者の陰茎を確認するような行為は身体検査令状に基づきなされるべきであり,令状の執行なしに原告の陰茎を確認すれば,捜査の任意性を疑われるおそれがあったことから,B巡査は原告の陰茎を確認することなく,原告にズボンを上げるよう指示したところ,原告はこれに応じた。なお,原告に対する身体検査令状の執行の当否につき,春日井署は原告が既に犯行を認め,その状況を詳細に供述していたことから,敢えて原告の陰茎を確認してこれを証拠化することは,原告に精神的・身体的苦痛を与えるとして執行しなかった。」(p33)などと主張した。 2 本件文書の取調べの必要性(1) 一件記録によれば,基本事件においては,前記1(8)ないし(10)のとおり,Bが,申立人に陰茎に特徴があるのか尋ねたこと,申立人は,ズボンを下げてBに陰茎を見せようとしたこと,この際,本件身体検査令状が申立人に呈示されていなかったことは争いがないが,Bが,実際に申立人の陰茎のイボを確認し,「普通のチンチンだな,へんなチンチンではないな。」と発言したか,申立人がBに上記やり取りを調書に取って欲しいと頼んだか,取調べの最中に,検察官からBに,申立人の陰茎を確認したかを尋ねる電話があったか,Bが,検察官に対し,申立人の陰茎を確認したことを返答したか等については争いがあることが認められる。 このように,基本事件では,本件身体検査令状が申立人に呈示されていな い等の事実は当事者間で争いがないとしても,上記のとおり,実際にBが申立人の陰茎を確認したかや,検察官が春日井署に申立人の陰茎について確認したかは争いがあり,取調べの段階において,捜査機関が申立人の陰茎のイボの有無について,どのような確認をし,どのような認識を有していたかについ 認したかや,検察官が春日井署に申立人の陰茎について確認したかは争いがあり,取調べの段階において,捜査機関が申立人の陰茎のイボの有無について,どのような確認をし,どのような認識を有していたかについて明らかになっておらず,基本事件の重要な争点となっている。また,本件刑事事件における判決は,前記1(6)のようなA子の供述の変遷等について言及した上,「被告人の陰茎の特徴についてと,母親から電話がかかってきた時刻については,いずれも口淫被害と密接に関連する部分であって,この点についての供述に信用がおけないことの意味は極めて重要というべきである。」(甲1)などと指摘している。 (2) そして,一件記録によれば,申立人は,基本事件において,本件身体検査令状の取扱い,執行状況に関連する事実を明らかにすることで,本件身体検査令状の取扱いや執行状況の違法,不当を主張するにとどまらず,捜査機関が平成20年8月19日の取調べの時点で把握していた事実等を主張して,検察官の略式命令の請求や,その後の正式裁判における公訴維持が違法であったとしているのであり,これに対し,基本事件の被告である国や相手方は,申立人の上記主張等を争っている。このような争点との関係では,平成20年8月19日の時点で捜査機関,特に申立人の起訴不起訴の決定権限を持つ検察官が,申立人の陰茎のイボについてどのような認識を有していたのかが極めて重要である。もし,検察官が,申立人の陰茎について,警察官に確認させるなどして,申立人の陰茎にイボがないことを認識していたとすれば,A子の供述の信用性について重大な疑問が生じるのであるから,この点に関する補充捜査等を行うことなく漫然と申立人に対する略式命令を請求し,正式裁判の請求後も公判を維持したものとして,検察官の行為が違法とされるなどの可能性が高くなる 疑問が生じるのであるから,この点に関する補充捜査等を行うことなく漫然と申立人に対する略式命令を請求し,正式裁判の請求後も公判を維持したものとして,検察官の行為が違法とされるなどの可能性が高くなるのである。 したがって,上記のような申立人が主張する事実があったか否かを基本事 件において明らかにする必要性は極めて高いものである。 そして,令状請求簿は,令状請求の手続,発付後の状況等を明らかにすることにより,適正な捜査管理に資するために作成されるものであることからすれば(犯罪捜査規範137条3項),本件文書には,本件身体検査令状の取扱い,執行状況についての事実や,Bが申立人の陰茎を確認したか等これに付随し,関連する事実が,備考欄等に記載されている可能性があるし,前記第2の2(10)及び(13)のとおり,本件身体検査令状が2年以上経過した後に春日井簡裁に返還され,その請求書もそのさらに約3か月後に名古屋地検に送致されるという異常な取扱いがされていることに照らせば,本件身体検査令状が一旦は執行された扱いとされていた可能性等も否定できないのである。また,令状請求簿は,犯罪捜査規範(別紙様式第13号)により別紙2のとおり様式が定められており,本件文書も同様の様式で作成されていると考えられるところ,本件身体検査令状が発付されたのに執行されていないとすると,必要な記載が空欄のまま残されていたことになり,何らの指摘も対処もされないまま2年以上経過してしまうのは極めて不自然である。そして,このような状況においては,関係する警察官の証人尋問等を実施したとしても,客観的事実に沿った答えがされるとは限らず,偽証や証言拒否の可能性も考えられるのであって,本件文書の取調べに代替できるものではない。 以上からすれば,基本事件において,本件文書を取り調べる しても,客観的事実に沿った答えがされるとは限らず,偽証や証言拒否の可能性も考えられるのであって,本件文書の取調べに代替できるものではない。 以上からすれば,基本事件において,本件文書を取り調べる必要性は,優に認められるのである。 (3) 相手方は,前記第2の3(1)イのとおり,基本事件において本件文書を取り調べる必要性はないなどと主張するが,申立人は,基本事件において,単に本件身体検査令状及び本件文書の取扱い,執行状況の違法,不当を主張するものではなく,前記(2)のとおり,本件身体検査令状で検査すべき身体とされた「申立人の陰茎」についてのBによる確認や,その結果の検察官への連絡等の事実を主張して,略式命令の請求や,その後の正式裁判における公訴維 持が違法であったことを主張しているものと解されるところ,このような争点との関係で,前記(2)のとおり基本事件において本件文書の取調べの必要性があることは明らかである。 なお,証明すべき事実①及び②は,それ自体やや具体性に欠ける内容ではあるが,そもそも,これら証明すべき事実との関係において,申立人は,春日井署において具体的に本件身体検査令状についてどのような処理が行われたのか,相手方において作成された文書の開示を受けることなしに知り得る立場にはなく,申立人が,春日井署において作成された本件文書等の資料を見て初めて処理の内容が判明するものであるから,本件申立てにおいて,証明すべき事実がある程度抽象的となるのはやむを得ないし,本件では,上記のとおり申立人の基本事件における主張との関係を見れば,証明すべき事実は明らかとなっており,取調べの必要性が高いものである。 したがって,この点に関する相手方の主張は,理由がない。 3 法220条3号後段該当性(1)ア法220条3号後段 見れば,証明すべき事実は明らかとなっており,取調べの必要性が高いものである。 したがって,この点に関する相手方の主張は,理由がない。 3 法220条3号後段該当性(1)ア法220条3号後段の法律関係文書とは,挙証者と文書の所持者との間の法律関係それ自体ないしそれに関連する事項を記載した文書であって,所持者が専ら自己の利用を目的として作成した内部文書を含まないと解される(最高裁平成12年3月10日第一小法廷決定・最高裁裁判集民事197号341頁)。 これを本件についてみると,本件身体検査令状は,これによって申立人の身体の自由を制約して,陰茎についての検査を受忍させるという,申立人と相手方との間の法律関係を生じさせる文書であるところ,身体検査令状の請求をした司法警察員は,法令(犯罪捜査規範137条3項)により本件文書(令状請求簿)を作成することが義務付けられている。 そして,犯罪捜査規範は,警察官が犯罪の捜査を行うにあたって守るべき心構え等を定めることを目的として,国家公安委員会が,警察法12条 に基づき制定した国家公安委員会規則であるが,そもそも国家公安委員会は,内閣総理大臣の所轄の下に内閣府の外局として置かれ,委員長及び5人の委員をもって組織する国の委員会である(内閣府設置法49条1項,警察法4条)のに対し,都道府県警察は,都道府県が設置する警察組織であり(警察法36条1項),両者は,全く別個の行政組織である。そして,国家公安委員会は,警察行政に関する調査を行うことにより,個人の権利と自由を保護すること等を任務とするもので,このような任務を達成するため,所定の事務について警察庁を管理したり,法律の規定に基づきその権限に属せられた事務をつかさどるとされているのであり,このような任務の性質からいって,実質的にも,都道 ,このような任務を達成するため,所定の事務について警察庁を管理したり,法律の規定に基づきその権限に属せられた事務をつかさどるとされているのであり,このような任務の性質からいって,実質的にも,都道府県警察とは別個独立のものであることを要するものである(警察法5条)。そのため,国家公安委員会の委員は,任命前5年間に警察又は検察の職務を行う職業的前歴のない者のうちから,内閣総理大臣が両議院の同意を得て任命するものとされているのである(警察法7条)。したがって,犯罪捜査規範が,行政機関の内部において定められた規範ではないことは明らかである。 また,令状請求簿の形式は,犯罪捜査規範別紙様式第13号によって定められ,かつ一般に公開されており,その記載内容は,別紙2のとおり,令状請求の決裁月日,令状種別,罪名,被疑者氏名,令状発付及び執行の月日時,有効期間,備考欄等と細かく規定されており,記載内容が作成者の自由な判断に任されているものではない。令状請求簿は,身体検査令状請求書と異なり,身体検査令状の発付を求めるために作成が義務付けられているものではないものの,「令状を請求したとき」に作成しておくことが法令上定められており,作成時期の定めもある(犯罪捜査規範137条3項)。 令状請求簿作成の目的は,令状の請求の手続,発付後の状況等を明らかにし,令状請求手続の適正を担保することにあると考えられるが(犯罪捜 査規範137条3項),上記のように令状請求簿の形式が定められ,かつ一般に公開されており,記載内容等も定められていることからすれば,令状請求簿の作成を義務付けているのは,単に警察署内部において令状請求手続や発付後の状況を明らかにしておくという目的だけではなく,まさに本件のように事後的に令状の取扱い等が問題となった場合に,外部から適正な の作成を義務付けているのは,単に警察署内部において令状請求手続や発付後の状況を明らかにしておくという目的だけではなく,まさに本件のように事後的に令状の取扱い等が問題となった場合に,外部から適正な令状執行等の手続が行われたか否かを確認し検証するという目的もあるということができる。そして,開示されるおそれがないとすると,本件刑事事件におけるような,令状の不当ないし杜撰な管理が横行するようになるのであり,むしろ,開示されることにより,令状の執行や管理について適切を期するよう意識的に注意するようになると考えられるのであって,令状請求簿の目的がより効果的に達せられることになるのである。すなわち,令状請求簿は,外部に公表することが予定されず専ら警察署内部でのみ使用することを目的として作成されているものでないことは明らかである。 以上のような本件文書の作成目的及び記載内容等に照らせば,本件文書は,申立人と相手方との間の,本件身体検査令状によって生じた法律関係に関連する事項を記載した文書であって,単なる内部文書にとどまらないということができるから,法律関係文書に該当すると認められる。 イ相手方は,令状請求簿が,検察庁との間での授受や,検察官からの勾留請求について,勾留の可否を判断する裁判官が参照することなどは予定されていないことなどから,内部文書にあたる旨主張する。確かに,相手方が主張するように,令状請求簿は,検察官に送致される一件記録の中には含まれず,勾留請求等の際に検察官から裁判官に提出されるものでもない。しかし,このような事情が認められるとしても,前記アに述べたところからすれば,本件文書は,内部文書と評価されるものではなく,申立人と相手方との間の,本件身体検査令状によって生じた法律関係に関連する事項を記載した文書 であ るとしても,前記アに述べたところからすれば,本件文書は,内部文書と評価されるものではなく,申立人と相手方との間の,本件身体検査令状によって生じた法律関係に関連する事項を記載した文書 であるということができる。したがって,この点に関する相手方の主張は理由がない。 また,相手方は,犯罪捜査規範は,警察官が捜査を行うにあたって守るべき心構え,捜査の方法,手続その他捜査に関し必要な事項を定めた内部規範であるから,これにより第三者になんらかの法的な権利を付与したり義務を課すものではないとも主張するが,犯罪捜査規範が行政機関の内部における規範といえないことは前記アのとおりであるから,この点に関する相手方の主張も理由がない。 (2) 以上によれば,本件文書は,法220条3号後段の法律関係文書に該当する。 4 文書保管者(相手方)の裁量権の濫用について(1) 刑訴法47条本文が「訴訟に関する書類」を公にすることを原則として禁止しているのは,それが公にされることにより,被告人,被疑者及び関係者の名誉,プライバシーが侵害されたり,公序良俗が害されることになったり,又は捜査,刑事裁判が不当な影響を受けたりするなどの弊害が発生するのを防止することを目的とするものであること,同条ただし書が,公益上の必要その他の事由があって,相当と認められる場合における例外的な開示を認めていることにかんがみると,同条ただし書の規定による「訴訟に関する書類」を公にすることを相当と認めることができるか否かの判断は,当該「訴訟に関する書類」を公にする目的,必要性の有無,程度,公にすることによる被告人,被疑者及び関係者の名誉,プライバシーの侵害等の上記の弊害発生のおそれの有無等諸般の事情を総合的に考慮してされるべきものであり,当該「訴訟に関する書類」を保管する ,程度,公にすることによる被告人,被疑者及び関係者の名誉,プライバシーの侵害等の上記の弊害発生のおそれの有無等諸般の事情を総合的に考慮してされるべきものであり,当該「訴訟に関する書類」を保管する者の合理的な裁量にゆだねられているものと解すべきである。 そして,民事訴訟の当事者が,法220条3号後段の規定に基づき,刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合に おいても,当該文書の保管者の上記裁量的判断は尊重されるべきであるが,当該文書が法律関係文書に該当する場合であって,その保管者が提出を拒否したことが,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示されることによる上記の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし,その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであると認められるときは,裁判所は,当該文書の提出を命ずることができるものと解するのが相当である(最高裁平成16年5月25日第三小法廷決定・最高裁民事判例集58巻5号1135頁,最高裁平成17年7月22日第二小法廷決定・最高裁民事判例集59巻6号1837頁,最高裁平成19年12月12日第二小法廷決定・最高裁民事判例集61巻9号3400頁)。 (2) 本件文書は,前記3(1)アのとおり,申立人と相手方との間の,本件身体検査令状によって生じた法律関係に関連する事項を記載した文書であり,かつ,本件のように事後的に令状の取扱い等が問題となった場合に,適正な令状執行がなされたか否か等を確認するという目的で作成されているということができる。そして,本件文書は,本件刑事事件において,裁判所に提出されなかった文書である。そうすると,本件文書は,申立人に対する被疑事件に関して作成された書類であり,かつ,公判において提出されなかった書類 る。そして,本件文書は,本件刑事事件において,裁判所に提出されなかった文書である。そうすると,本件文書は,申立人に対する被疑事件に関して作成された書類であり,かつ,公判において提出されなかった書類であるから,刑訴法47条の「訴訟に関する書類」にあたる。 なお,申立人は,本件文書が刑訴法47条の「訴訟に関する書類」にはあたらない旨主張するが,刑事事件の確定後であっても当該刑事事件の公判で公にされなかった書類(不提出書類)が「訴訟に関する書類」にあたることは明らかであり(前記(1)の最高裁平成16年5月25日決定参照),この点に関する申立人の主張は理由がない。 (3) 前記2(2)のとおり,申立人は,基本事件において,検察官の略式命令の請求や,その後の正式裁判における公訴維持が違法であったことを主張しており,平成20年8月19日の時点で捜査機関,特に申立人の起訴不起訴の決 定権限を持つ検察官が,申立人のイボについてどのような確認を行い,どのような認識を有していたのかが極めて重要であり,基本事件において本件文書を取り調べる必要性は高いということができる。また,本件文書を公開することによって,申立人以外の者の名誉やプライバシーが侵害されるおそれや,捜査,公判にどのような支障が生ずるかについて,相手方の主張もなく,一件記録を検討しても,本件文書に,申立人以外の者の名誉やプライバシーを侵害するような記載があるなど,その提出によって第三者の名誉やプライバシーを侵害するようなおそれ等の弊害があるとは到底いえないし,申立人に対する捜査及び公判手続は,無罪判決の確定によって終了しているから,今後の捜査や公判への悪影響を考慮する必要も皆無である。そして,本件文書の所持者である相手方に生ずる可能性のある不利益は,本件身体検査令状の執行や本件文書 ,無罪判決の確定によって終了しているから,今後の捜査や公判への悪影響を考慮する必要も皆無である。そして,本件文書の所持者である相手方に生ずる可能性のある不利益は,本件身体検査令状の執行や本件文書の管理等が不適切であったことが客観的に明白になることであるが,このような事態を防ごうという利益は正当なものとは認められないものである。 (4) したがって,前記(3)のとおり取調べの必要性が高く,開示することによる弊害がほとんど考えられない本件文書の提出を拒否する相手方の判断は,何でも隠しておこうとする秘密主義によるものか,あるいは本件文書に相手方に不利な記載等があることを隠蔽しようとしていることさえ疑われるものであり,これらのいずれでもないとしても,法220条4号ホによって,一般的提出義務から除外されていることを奇貨として前記のような理由のない主張を繰り返して基本事件の進行を遅滞させるものであって,裁量権の範囲を逸脱し,かつこれを濫用するものであることは明らかであり,相手方は,本件文書の提出義務がある。 第4 結論以上のとおり,相手方は,法220条3号後段に基づいて本件文書の提出義務があり,本件申立ては理由があるから,主文のとおり決定する。 平成23年12月27日名古屋地方裁判所民事第8部裁判長裁判官長谷川恭弘 裁判官鈴木陽一郎 裁判官中畑章生

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