- 1 -主文原判決中上告人ら敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 理由 上告補助参加代理人比嘉廉丈の上告受理申立て理由第2について 本件は,高槻市の住民である被上告人が,同市が職員の福利厚生のための事業を委託している上告補助参加人に対する同市からの補給金の支出が違法であり,上告補助参加人は同市に対して上記支出額に相当する金員を不当利得として返還すべきであるのに,上告人らはその返還請求を違法に怠っているなどと主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,上告人らに対し,上告補助参加人に対して上記不当利得の返還請求をすべきこと等を求めている事案である。 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1)上告補助参加人は,大阪府下の市町村及び一部事務組合の常勤の職員等を会員とし,会員の福利増進,生活の向上を期すること等を目的とする社団法人であり,その給付事業として,退職等によって会員資格を喪失した者に対する退会給付金の給付等を行っていた。 上告補助参加人は,事業の経費に充てるため,会員から毎月会費を徴収するほか,会員の所属する市町村等から毎月補給金の払込みを受けていた。 (2)高槻市は,高槻市職員の厚生制度に関する条例(昭和52年高槻市条例第1号)に基づき,上告補助参加人との間で職員の福利厚生事業に係る委託契約を締結し,平成7年度から同16年度まで及び平成17年4月から同年11月までの- 2 -間,上告補助参加人に対し,第1審判決別紙補給金支出額一覧表記載の補給金(以下「本件補給金」という。)を支出した。 (3)上告補助参加人は,平成17年11月,退会給付金制度を廃止し,上告補助参加人の流動資産のうち100億円を上記制度の廃止に伴う 出額一覧表記載の補給金(以下「本件補給金」という。)を支出した。 (3)上告補助参加人は,平成17年11月,退会給付金制度を廃止し,上告補助参加人の流動資産のうち100億円を上記制度の廃止に伴う清算金として各市町村等に返還することとし,高槻市に対しては,同年12月,4億6835万7550円(以下「本件清算金」という。)を返還した。高槻市は,本件清算金について,平成17年度において歳入の調定をし,予算科目を雑入として,4億0531万1683円を一般会計(市長部局)に,2642万6456円を水道事業会計に,3421万6100円を自動車運送事業会計に区分して収納した。 (4)上告補助参加人は,平成20年6月19日付け書面をもって,上告人らに対し,本件訴訟において本件補給金相当額が不当利得に当たるとされる場合には,本件清算金を平成17年4月分から同年11月分までの返還債務に充当し,その残額については,平成16年度分,同15年度分及び同14年度分の返還債務に順次充当することを申し入れ,上告人らは同20年6月23日これを承諾した(以下,これによる合意を「本件充当合意」という。)。 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断し,被上告人の請求を,上告人らがそれぞれ上告補助参加人に対し下記(1)の各金額の不当利得返還請求をするよう求める限度で認容すべきものとした。 (1)平成16年8月分から同17年11月分までの本件補給金のうち,退会給付金等の給付に充てられた部分(市長部局につき1億7649万7481円,水道事業につき1110万3988円,自動車運送事業につき1334万0843円)に係る支出は,給与条例主義を潜脱するものとして違法であり,高槻市は,上告補- 3 -助参加人に対し,上記と同額の不当利得返還請求権(以下「本件請求権」という 運送事業につき1334万0843円)に係る支出は,給与条例主義を潜脱するものとして違法であり,高槻市は,上告補- 3 -助参加人に対し,上記と同額の不当利得返還請求権(以下「本件請求権」という。)を有する。 (2)本件清算金の返還は,退会給付金制度の廃止により不要となった補給金を不当利得として清算する趣旨でされたものであるところ,高槻市は,受領した本件清算金につき,平成17年度において歳入の調定をし,予算科目を雑入として収納手続を完了したことが認められるから,その時点で清算金の返還に関する債権債務は消滅したものというべきである。そうすると,それから2年6か月以上が経過した後にされた本件充当合意がその効力を有するということはできない。 しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 本件充当合意は,前記2(4)のとおりのものであり,上告補助参加人が高槻市に対して本件清算金を返還した時点でいったん生じていた,清算金の返還に関する債権債務の消滅という効果を排除した上で,改めて本件清算金を本件訴訟において請求すべきことが求められている不当利得返還債務に充当するというものであると解されるところ,いったん弁済によって生じた法律上の効果を当事者双方の合意により排除することは妨げられないものというべきであるから(最高裁昭和33年(オ)第581号同35年7月1日第二小法廷判決・民集14巻9号1641頁参照),本件充当合意が清算金の返還に関する債権債務の消滅後にされたことのみを理由として,その効力を否定することはできない。このことは,本件清算金について歳入の調定及び収納がされたことによって左右されるものではない。 なお,被上告人は,本件充当合意につき,実質的には債権の放棄を内容とするものであり議会の議 とはできない。このことは,本件清算金について歳入の調定及び収納がされたことによって左右されるものではない。 なお,被上告人は,本件充当合意につき,実質的には債権の放棄を内容とするものであり議会の議決を要するとか,公序良俗に反するなどとも主張するが,前記事- 4 -実関係の下では,上記各主張のようにいうことはできず,その他,本件充当合意の効力を否定すべき理由は見当たらない。 したがって,高槻市が上告補助参加人に対して有していた本件請求権は,本件充当合意により,そのすべてが消滅したものというべきである。 以上によれば,本件充当合意の効力を否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上記部分に関する被上告人の請求を棄却した第1審判決の結論は正当であるから,同部分につき被上告人の控訴を棄却することとする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宮川光治の補足意見がある。 裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。 上告補助参加人が高槻市に本件清算金を返還した後,高槻市は歳入の調定をして収納手続を終えていたところ,返還後約2年6か月を経過した時点で,上告補助参加人と上告人らは,本件訴訟において本件補給金相当額が不当利得に当たるとされる場合には,本件清算金を順次さかのぼって充当するという合意をした。本件充当合意は,本件訴訟を終わらせるという意図の下に行われたとみることができるが,被上告人は,こうした行為は裁判を通じて公金支出の違法性を問おうとする住民訴訟制度の趣旨を損なうものであるとして,公序良俗に反し無効というべきであるとする。 しかしながら,当事者の合意により,いったん弁済により消滅した 行為は裁判を通じて公金支出の違法性を問おうとする住民訴訟制度の趣旨を損なうものであるとして,公序良俗に反し無効というべきであるとする。 しかしながら,当事者の合意により,いったん弁済により消滅した債権を復活させ,当該弁済金を他の債権の弁済に充当することは可能である。保証人等の第三者- 5 -に不利益を及ぼす場合には,その第三者に対しては復活の効力を認めないということが考えられるが,本件は,そのような場合ではない。本件充当合意の効力を否定することはできない。 本件では,上告補助参加人は,大阪府下の市町村等に対し,退会給付金制度の廃止に伴う清算金として上告補助参加人の流動資産のうち100億円を返還し,会員には残りの流動資産により積立金を返還する等して解散することを予定していたことがうかがわれる。大阪府下の市町村はそれぞれ高槻市と同様に補給金相当額の不当利得返還請求権を本来有していたのであるから,多数の市町村に対する返還処理はそのことをも考慮して公平に行われるべきであり,他方で清算事務を早期に結了することも必要である。こうした事情の下では,本件充当合意を相当でないということはできない。 (裁判長裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官金築誠志裁判官横田尤孝裁判官白木勇)
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