平成28(ワ)595 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年3月23日 広島地方裁判所 棄却
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判決文本文33,697 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告亡A訴訟承継人Bに対し,3005万5659円及びこれに対する平成26年1月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Cに対し,1164万9955円及びこれに対する平成26年1月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Dに対し,1164万9955円及びこれに対する平成26年1 月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告は,原告Eに対し,110万円及びこれに対する平成26年1月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要平成26年1月15日午前8時頃,海上自衛隊の輸送艦である「おおすみ」と, 亡F,亡G,原告Eほか1名が乗船していたプレジャーボートである「とびうお」とが,広島県大竹市阿多田島東方沖合において衝突し,「とびうお」が転覆した結果,亡F及び亡Gが死亡し,訴外乗員1名が負傷する事故が発生した(以下,この事故を「本件事故」という。)。 本件は,亡Fの内縁の妻であるという亡Aの訴訟承継人B,亡Gの妻の相続人 等である原告C及び原告D並びに原告Eが,本件事故は「おおすみ」の艦長らの違法な操艦行為によって発生したと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,被告に対し,原告亡A訴訟承継人Bにおいては3005万5659円(亡Aに生じた慰謝料,扶養利益相当損害,葬祭料,亡Fの医療費及び弁護士費用相当損害の合計額),原告C及び原告Dにおいてはそれぞれ1164万9955円(亡Gに 生じた死亡慰謝料,逸失利益及び弁護士費用相当損害の合計額の4分の1),原 祭料,亡Fの医療費及び弁護士費用相当損害の合計額),原告C及び原告Dにおいてはそれぞれ1164万9955円(亡Gに 生じた死亡慰謝料,逸失利益及び弁護士費用相当損害の合計額の4分の1),原 告Eにおいては110万円(慰謝料及び弁護士費用相当損害の合計額)及びこれに対する違法行為の日(本件事故の日)である平成26年1月15日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前の民法)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は認定に用いた証拠等を各項 の末尾に掲記する。)⑴ 本件事故に至る経緯等ア 「おおすみ」及び「とびうお」(以下,併せて「本件各船舶」という。)の出航状況 「おおすみ」は,長さ178.0メートル,幅25.8メートル,高さ 17.0メートルの輸送艦である。 「おおすみ」は,平成26年1月15日午前6時34分頃(以下,同日については年月日を省略して記載する。),岡山県玉野市の造船所において定期検査を受けるため,艦長の2等海佐H(以下「おおすみ艦長」という。),航海長の2等海尉I(以下「おおすみ航海長」という。)ほか120名が乗 船し,呉港を出港した。 おおすみ艦長,おおすみ航海長ほか「おおすみ」の操艦権限者は,いずれも被告の公権力の行使に当たる公務員であり,その職務執行として「おおすみ」の操艦を行っていた。(甲2,9,乙2,3,弁論の全趣旨) 「とびうお」は,長さ7.60メートル,幅2.27メートル,高さ0. 72メートルのプレジャーボートである。 「とびうお」は,午前7時15分頃,阿多田島南方の甲島付近において釣りをするため,船長の亡F,亡G,原 ートル,幅2.27メートル,高さ0. 72メートルのプレジャーボートである。 「とびうお」は,午前7時15分頃,阿多田島南方の甲島付近において釣りをするため,船長の亡F,亡G,原告Eほか1名が乗船し,広島市の係留施設を出発した。(甲2,9,25)イ本件各船舶の運航状況 「おおすみ」は,午前7時39分頃,奈佐美瀬戸の最狭部付近海上を西 南西に航行していた。その頃,「おおすみ」の右舷側を航行していた「とびうお」は,「おおすみ」の艦首前方を通過し,「おおすみ」の左舷前方に進出して,その後,本件事故に至るまで,概ね南南西に航行した。 「おおすみ」は,奈佐美瀬戸を通過した後である午前7時47分頃,予定針路の真方位(真北を0度,真東を90度,真南を180度,真西を2 70度とする方位。以下,針路を真方位で示す。)210度に変針し,午前7時54分頃,おおすみ航海長の指示により,針路を180度に変針した(以下,この180度への変針を「本件変針」という。)。(甲2,9,17,44,乙2,3) それ以降,「とびうお」は「おおすみ」の左舷前方を航行していたが,本 件各船舶の進路が交差する状況にあったことから,おおすみ航海長らは,午前7時56分頃から午前7時58分頃まで,「おおすみ」から見た「とびうお」の方位の変化を確認した。すると,「とびうお」の方位が僅かに上っていた(方位が「おおすみ」の艦首方向に変化していた)ことから,おおすみ艦長らは,「とびうお」が「おおすみ」の艦首前方を通過すると判断し た。もっとも,本件各船舶の距離が徐々に近づく状況にあったことから,おおすみ航海長は,「とびうお」を安全に先行させるため,午前7時58分49秒頃,速力を1段階下げた両舷前進 通過すると判断し た。もっとも,本件各船舶の距離が徐々に近づく状況にあったことから,おおすみ航海長は,「とびうお」を安全に先行させるため,午前7時58分49秒頃,速力を1段階下げた両舷前進強速(速力区分のひとつである基準15ノットの速力)とするように指示し,さらに,おおすみ艦長は,午前7時59分13秒頃,更に速力を1段階下げた両舷前進原速(速力区分 のひとつである基準12ノットの速力)とするように指示した。 その後,おおすみ航海長は,おおすみ艦長の指示に基づき,午前7時59分38秒頃,両舷前進微速(速力区分のひとつである基準6ノットの速力)とするように指示し,おおすみ艦長は,同40秒頃に両舷停止及び警告信号の吹鳴を,同43秒頃に面舵一杯(右側への転舵)を指示し,更に おおすみ航海長は,おおすみ艦長の指示に基づき,同54秒頃に両舷後進 微速とするように指示した。(甲2,9,17,44,47,乙2,3)ウ本件事故の発生「とびうお」は,午前8時0分0秒頃,「おおすみ」の左舷艦首付近から左舷側に沿って方位を落とし,「おおすみ」の左舷中央部付近に衝突(1回目の衝突)した後,一旦離れて左舷後部付近に再度衝突(2回目の衝突)し,「と びうお」が左舷に傾いて,そのまま「おおすみ」の左艦尾付近で転覆した。 おおすみ艦長は,午前8時0分20秒頃,両舷後進一杯を指示したが,「とびうお」が右舷に出てこないことから衝突した可能性があると考え,艦橋を出て確認したところ,転覆している「とびうお」を視認した。 (甲2,7~9,28,乙2,3,5) エ本件事故後の経過亡F,亡G,原告Eほか1名は,本件事故により「とびうお」から海に投げ出され,亡F及び亡Gが溺水により死亡し,訴外乗員 7~9,28,乙2,3,5) エ本件事故後の経過亡F,亡G,原告Eほか1名は,本件事故により「とびうお」から海に投げ出され,亡F及び亡Gが溺水により死亡し,訴外乗員1名が負傷した。(甲2,9,25)⑵ 当事者等 ア亡Aは,本件事故当時,亡Fと少なくとも15年以上にわたり同居生活を送っていた者である。 亡Aは,平成28年5月25日,本件訴訟を提起したが,令和2年4月7日に死亡し,原告亡A訴訟承継人Bは亡Aの財産を全て相続するとともに,その訴訟上の地位を承継した。(甲74,75,78,83,90,93,当 裁判所に顕著な事実)イ亡Gの妻である亡Jは,亡Gの財産を法定相続分2分の1の割合により相続した。亡Jは,平成26年9月15日,自己の全ての財産を原告Cに遺贈する旨の自筆証書による遺言をし,平成27年1月7日に死亡した。 亡Jの子であり,その唯一の相続人である原告Dは,平成28年2月25 日,原告Cに対し,遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をし,これに より,上記の遺贈は原告Dの遺留分割合2分の1の限度で減殺された。(甲57~60,63,66,67,73,76,77,85,87,原告C本人)⑶ 本件事故についての船舶事故調査報告書運輸安全委員会は,平成26年1月15日,本件事故の調査を担当する主管 調査官ほか3名の船舶事故調査官を指名(同月16日に1名の船舶事故調査官を追加指名)して本件事故の調査を開始した。運輸安全委員会は,平成27年1月29日,上記調査の結果作成された船舶事故調査報告書(以下「本件報告書」という。)を議決し,同年2月9日にその内容を公表した。 本件報告書は,本件事故の原因について,南進していた「 7年1月29日,上記調査の結果作成された船舶事故調査報告書(以下「本件報告書」という。)を議決し,同年2月9日にその内容を公表した。 本件報告書は,本件事故の原因について,南進していた「おおすみ」が針路 及び速力を保持して航行し,また,南南西進していた「とびうお」が「おおすみ」の左舷前方から右に転針して「おおすみ」の艦首至近に接近したため,「おおすみ」が「とびうお」を回避しようとして減速及び右転をしたところ,更に本件各船舶が接近して衝突したものと考えられるとした。本件報告書が推定した本件各船舶の航行経路は,別紙1「付図1 推定航行経路図(その1)」(A 船は「おおすみ」を,B船は「とびうお」をそれぞれ指している。)のとおりである。(甲2) 2 予防法の定め本件に関係する海上衝突予防法(以下,単に「予防法」という。)の定めは,別紙2「予防法の定め」のとおりである。 3 争点及び争点についての当事者の主張本件の争点は,①追越し船としての避航義務違反の有無(争点1),②新たな衝突の危険を生じさせた船舶としての避航義務違反の有無(争点2),③横切り船(保持船)としての警告信号吹鳴義務違反及び最善の協力動作義務違反の有無(争点3),④「とびうお」を転覆させないための操艦義務違反の有無(争点4), ⑤損害の有無及び額(争点5)であり,争点についての当事者の主張は,以下の とおりである。 ⑴ 争点1(追越し船としての避航義務違反の有無)(原告らの主張)ア「おおすみ」は,午前7時57分2秒以降,針路180度,速力17. 4ノットの定針定速で航行していた一方で,司法警察員海上保安官K作成 の「両船の衝突に至る航跡特定報告書」(甲46。以下,単に「航跡特定報告書」とい 7時57分2秒以降,針路180度,速力17. 4ノットの定針定速で航行していた一方で,司法警察員海上保安官K作成 の「両船の衝突に至る航跡特定報告書」(甲46。以下,単に「航跡特定報告書」という。)によれば,「とびうお」は,午前7時45分以降,概ね針路201度で航行していたと考えられ,「おおすみ」のレーダで「とびうお」を最後に捕捉できた午前7時56分15秒以降の「とびうお」の速力は,計算上14.5ノットとなるから,午前7時57分2秒以降,「おおす み」は「とびうお」よりも速く航行していた。 そして,午前7時59分31秒頃に「左50度同航の漁船距離近づく。」という左見張員からの報告が「おおすみ」の艦橋に伝わったことからすれば,その時点で,「とびうお」は,「おおすみ」から見て左50度の方位線上に位置していたと考えられるから,「おおすみ」は,その時点で,「とび うお」の正船首方向から109度(=180度-(201度-180度)-50度)後方に位置していたことになる。したがって,「おおすみ」は,「とびうお」の正横後22度30分を超える後方に位置していないから,予防法13条2項の規定は直ちに適用されない(なお,「正横」とは船の真横,すなわち正船首方向から90度の位置を意味するから,正横後22度 30分とは,正船首方向から112度30分後方の角度になる。)。 ただし,「とびうお」は船首を左右に5度程度振りながら概ね針路201度で航行していたと考えられるから,「おおすみ」にとっては,自艦が「とびうお」の正横後22度30分を超える後方に位置しているかどうかが明確に判断できない状況にあった(「とびうお」の船首が201度の針 路から左に4度振れると,その針路は197度となるから,後記のとお 22度30分を超える後方に位置しているかどうかが明確に判断できない状況にあった(「とびうお」の船首が201度の針 路から左に4度振れると,その針路は197度となるから,後記のとお り,「おおすみ」は,「とびうお」の正船首方向から113度後方に位置していたことになり,予防法13条2項により「おおすみ」は追越し船に当たる。)。したがって,「おおすみ」は,同条3項の規定により,自艦を追越し船であると判断しなければならなかった。 なお,本件報告書の認定どおり,「とびうお」が概ね針路197度で航行 していた場合には,「とびうお」が「おおすみ」から見て左50度の方位線上に位置していた午前7時59分31秒,「おおすみ」は,「とびうお」の正船首方向から113度(=180度-(197度-180度)-50度)後方に位置していたことになる。したがって,「おおすみ」は,「とびうお」の正横後22度30分を超える後方の位置から「とびうお」を追い越す追 越し船であった。 イ以上によれば,「おおすみ」は,自艦が追越し船であることが判明した時点で,予防法13条1項の規定により,「とびうお」を確実に追い越し,かつ,「とびうお」から十分に遠ざかるまでその進路を避けなければならなかったから,おおすみ艦長らは,「おおすみ」の進路を変更させ,又は「おおすみ」 を減速させて「とびうお」を避航すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠った。 なお,おおすみ艦長らによる減速の指示により,実際に「おおすみ」が減速を開始したのは,衝突15秒前である午前7時59分45秒であり,しかも,僅か0.1ノット減速したにすぎなかったのであるから,これにより「お おすみ」が避航動作を取っていたとはいえない。 開始したのは,衝突15秒前である午前7時59分45秒であり,しかも,僅か0.1ノット減速したにすぎなかったのであるから,これにより「お おすみ」が避航動作を取っていたとはいえない。 ウ被告は,「とびうお」は「おおすみ」の左前方約50度の位置から,その艦首方向に向かってその針路を変えて右転していると認められる旨の主張をするが,「とびうお」が右転した事実はない。 (被告の主張) ア原告らの主張どおり,「とびうお」の針路を201度とした場合,午前7 時59分31秒頃の時点で,「おおすみ」は「とびうお」の正船首方向から109度後方の位置を航行していたことになるため,予防法13条2項の規定する角度の要件を満たさず,「おおすみ」は追越し船には当たらないこととなる。 原告らが依拠する航跡特定報告書の「とびうお」の針路は平均針路であ り,既に左右の振れ等も織り込まれた数値であるから,平均針路201度から更に左右に5度程度の振れがあることを考慮することは,針路の振れ幅の二重評価を生じさせるものであり,相当ではない。 「とびうお」の針路を197度とした場合であっても,上記の角度の要件が問題となり得る午前7時59分31秒頃からおおすみ航海長が両舷 前進微速とするように指示した同38秒頃までの間に,「とびうお」は「おおすみ」の左前方約50度の位置から,その艦首方向に向かってその針路を変えて右転していると認められるから,「とびうお」の右舷正横の位置が「おおすみ」の艦首方向から艦尾方向に変化し,上記の角度の要件を満たさないこととなる。 イまた,予防法13条2項の規定する追越し船に当たるためには,角度の要件とは別に,前方の船舶に追いつき,その前に出ることが必要であ 変化し,上記の角度の要件を満たさないこととなる。 イまた,予防法13条2項の規定する追越し船に当たるためには,角度の要件とは別に,前方の船舶に追いつき,その前に出ることが必要であることが条文上明らかである。午前7時58分頃以降,本件各船舶が定針定速を維持して航行を続けた場合には,「とびうお」は「おおすみ」の前方を通過する予定であったところ,「とびうお」が「おおすみ」の左前方約50度の位置に至 る午前7時59分31秒頃よりも前に,「とびうお」との最接近距離を大きくし,「とびうお」をより安全に先に通過させるために,「おおすみ」は2度にわたって減速を試みており,さらに,「おおすみ」は,「とびうお」の右転により生じた衝突の危険を回避するため,午前7時59分38秒頃に両舷前進微速への減速を行い,その後,両舷停止後面舵一杯を取り右転している。 以上の「おおすみ」の一連の行動からすれば,「おおすみ」が「とびうお」に 追いつき,その前に出る行動(追越し行動)をしているとはいえない。 ウ以上によれば,「おおすみ」は予防法13条2項の規定する角度の要件を満たす後方に位置していなかった上,追越し行動を取った事実はなく,追越し船の航法は適用されないから,おおすみ艦長らに避航義務がなかったことは明らかである。 ⑵ 争点2(新たな衝突の危険を生じさせた船舶としての避航義務違反の有無)(原告らの主張)ア午前7時53分28秒の時点では,「おおすみ」の針路は209度,速力は17.4ノットであったから,「とびうお」との衝突の危険はなかったが,同時刻におおすみ航海長が取舵(左側への転舵)10度を指示した後,「おおす み」が本件変針をした結果,針路が午前7時54分31秒に180度に定針し,変 「とびうお」との衝突の危険はなかったが,同時刻におおすみ航海長が取舵(左側への転舵)10度を指示した後,「おおす み」が本件変針をした結果,針路が午前7時54分31秒に180度に定針し,変針の影響で徐々に下がっていた速力が午前7時57分2秒に17.4ノットに戻り,これにより「おおすみ」は定針定速の状態となった。 そして,午前8時0分0秒頃の本件各船舶の1回目の衝突の原因は,その僅か前に本件各船舶の距離が80メートル強に接近した際の相互作用(相互 作用は,両船の長さの和の2分の1程度の距離に達すると急激に増加するところ,本件各船舶の長さの和の2分の1は約93メートルである。)により,「とびうお」の船首が「おおすみ」の左舷中央部付近に吸引されて「おおすみ」に向かう回頭力を受けたことにあるから,「おおすみ」が針路180度,速力17.4ノットに定針定速となった午前7時57分2秒の時点で,本件 各船舶が衝突する危険が生じたといえる。 このように,「おおすみ」は相互作用により本件各船舶が安全な距離を隔てて航過できない状態(新たな衝突の危険)を生じさせたのであるから,おおすみ艦長らは,かかる危険を解消するため,午前7時57分2秒の時点で,船員の常務(予防法39条)として,「おおすみ」の進路を変更させ,又は「お おすみ」を減速させて「とびうお」を避航すべき注意義務を負っていたにも かかわらず,これを怠った。 イ上記のとおり,本件各船舶の1回目の衝突は,本件各船舶に作用した相互作用によるものであり,「とびうお」が衝突直前に右転したことによるものではない。このことは,「とびうお」が「おおすみ」に向かって右転すれば,「おおすみ」と衝突して重大な結果が発生することは容易に予見できるにも り,「とびうお」が衝突直前に右転したことによるものではない。このことは,「とびうお」が「おおすみ」に向かって右転すれば,「おおすみ」と衝突して重大な結果が発生することは容易に予見できるにも かかわらず,あえてそのような危険な行動を取るとは到底考えられないことなどからすれば明らかである。 (被告の主張)ア航跡特定報告書によれば,午前7時57分0秒頃の本件各船舶の距離は約670メートルであり,十分な距離があった上,同4秒頃の時点で,「とびう お」の船長である亡Fは「おおすみ」を視認しており,それまでなかった新たな衝突の危険が生じたような状況にはなかった。さらに,午前7時58分頃以降,本件各船舶が定針定速を維持して航行を続けた場合には,「とびうお」は「おおすみ」の前方を通過する予定であったのであるから,「おおすみ」が定針定速の状態となった午前7時57分2秒頃に,新たな衝突の危険(衝 突の蓋然性が非常に高い状態)が生じていなかったことは明らかである。 本件各船舶の衝突の危険が生じたのは,午前7時59分31秒頃から同38秒頃までの間に「とびうお」が右転して「おおすみ」の艦首方向に向かって接近してきたことが原因であり,このことは,「おおすみ」が本件変針後,「とびうお」の針路が「おおすみ」側(右側)に変化しなければ,本件各船 舶が衝突せず航過できたことや,おおすみ艦長らが「とびうお」の右転(又は右転をうかがわせる「とびうお」の動静)を現認していることからも明らかである。 したがって,「おおすみ」が新たな衝突の危険を生じさせたと評価することはできないから,おおすみ艦長らに船員の常務(予防法39条)としての 避航義務があったとはいえない。 イなお,原告らは,本件 」が新たな衝突の危険を生じさせたと評価することはできないから,おおすみ艦長らに船員の常務(予防法39条)としての 避航義務があったとはいえない。 イなお,原告らは,本件各船舶の1回目の衝突は,本件各船舶に作用した相互作用によるものである旨の主張をするが,原告らが依拠する事実関係(午前7時56分15秒以降の「とびうお」の針路が201度,速力が14.5ノット)を前提に計算すれば,衝突時刻である午前8時0分0秒頃ですら,本件各船舶の距離は約111メートルとなるのであるから,原告らの主張は 午前8時0分0秒頃に衝突が生じたという客観的な事実に反する上,それ以前に本件各船舶の距離が80メートル強に至ることもないのであるから,相互作用が原因で「とびうお」の針路が変わったとはいえない。 ⑶ 争点3(横切り船(保持船)としての警告信号吹鳴義務違反及び最善の協力動作義務違反の有無) (原告らの主張)ア仮に,「おおすみ」が新たな衝突の危険を生じさせたと評価することができない場合には,「おおすみ」の針路が180度に定針した午前7時54分31秒以降,「とびうお」は概ね針路201度又は197度で航行していたから,本件各船舶は互いに進路を横切る状況にあった。そして,午前7時5 6分頃から午前7時58分頃までの「おおすみ」から見た「とびうお」の方位の変化は僅かであったのであるから,「接近してくる他の船舶のコンパス方位に明確な変化が認められない場合」(予防法7条4項)として,本件各船舶には衝突のおそれがあったといえる。 したがって,本件各船舶には予防法15条1項の適用があり,「おおすみ」 を右舷側に見る「とびうお」が,「おおすみ」の進路を避けなければならない避航船となり(同法16 たといえる。 したがって,本件各船舶には予防法15条1項の適用があり,「おおすみ」 を右舷側に見る「とびうお」が,「おおすみ」の進路を避けなければならない避航船となり(同法16条),「おおすみ」が針路及び速力を維持すべき義務を負う保持船(同法17条1項)となる。 イしかし,午前7時56分25秒から同40秒までに,おおすみ航海長は「とびうお」の方位が上るものの方位変化が少ないことを認識し,船務長の3等 海佐L(以下「おおすみ船務長」という。)も方位が余り変わらないことを認 識したのであり,同30秒の時点における本件各船舶の距離は760メートルであったのであるから,その頃,おおすみ艦長らは,「とびうお」が衝突を避けるために十分な動作を取っていることについて疑いがあると判断して,予防法34条5項の規定により,直ちに警告信号を吹鳴し,さらに,「とびうお」と間近に接近した時点で,同法17条3項の規定により,機関停止や機 関後進など衝突を避けるための最善の協力動作を取るべき注意義務を負っていた。 それにもかかわらず,「おおすみ」は午前7時59分43秒まで警告信号の吹鳴を開始せず,かつ,速力についても同45秒に僅か0.1ノット減速したにすぎなかったのであるから,おおすみ艦長らは上記の注意義務を怠っ たといえる。 (被告の主張)ア午前7時56分頃の本件各船舶の距離は,原告らの主張を前提としても,約760メートル(「おおすみ」の長さの約4倍,「とびうお」の長さの約100倍)も離れていた上,本件各船舶が定針定速で航行していれば,互いに 衝突することはなかったのであるから,「とびうお」が右転する以前の午前7時56分頃の時点では,客観的に衝突のおそれはなかった。 れていた上,本件各船舶が定針定速で航行していれば,互いに 衝突することはなかったのであるから,「とびうお」が右転する以前の午前7時56分頃の時点では,客観的に衝突のおそれはなかった。 なお,予防法7条4項は,「コンパス方位に明確な変化が認められない場合」は衝突のおそれがあると「判断しなければならない」と規定しており,かかる文言は船舶の安全の観点から主観的な行為規範を定めたものである から,客観的な衝突のおそれの有無は,同項該当性とは別に認定されるべきである。 したがって,予防法15条以下の横切り船に係る航法の適用はないから,原告らの主張はその前提を欠くものである。 イ仮に本件各船舶に予防法15条1項の適用があったとしても,午前7時5 6分頃の時点では,本件各船舶の距離が約760メートルも離れていたので あるから,そのような余裕のある時点で小回りが利く「とびうお」が避航動作を開始しないことは特に不自然ではなく,予防法34条5項の規定する「他の船舶が衝突を避けるために十分な動作をとっていることについて疑い」が生じていなかったことは明らかである。 上記の疑いが生じたのは,「とびうお」の右転が「おおすみ」艦橋の操艦権 限者に認識された午前7時59分32秒頃から同38秒頃までの間であったというべきであるところ,おおすみ艦長は同40秒頃に警告信号の吹鳴を指示し,実際に同43秒頃に吹鳴が開始されたのであるから,おおすみ艦長らに警告信号吹鳴義務の履行の遅滞はない。 ウまた,航跡特定報告書を前提とすれば,午前7時59分30秒頃の本件各 船舶の距離は約180メートルとされているところ,この時点でも,小回りが効く「とびうお」が左転等の措置を講じて避航義務を履行していれ 跡特定報告書を前提とすれば,午前7時59分30秒頃の本件各 船舶の距離は約180メートルとされているところ,この時点でも,小回りが効く「とびうお」が左転等の措置を講じて避航義務を履行していれば,「とびうお」のみの避航動作によって衝突が回避できていた可能性が高いから,本件で予防法17条3項の規定する「避航船の動作のみでは避航船との衝突を避けることができないと認める」状況が明白になったのは,「とびうお」が 「おおすみ」から警告信号を吹鳴されても針路速力を変えず,「おおすみ」の艦首方向に向かってきた午前7時59分54秒頃であったというべきである。 そして,おおすみ艦長は,それ以前から両舷前進微速や両舷停止等の減速等を指示していたところ,最善の協力動作の内容は,船舶の運航者の自由な 判断に委ねられていることからすれば,「おおすみ」は最善の協力動作を取っており,おおすみ艦長らに同項の義務違反がないことは明らかである。 ⑷ 争点4(「とびうお」を転覆させないための操艦義務違反の有無)(原告らの主張)ア舵を取ると,船体は原進路から舵を取った側の反対側に押し出されながら, 船首が徐々に回頭を始めるとともに,船尾は舵を取った側の反対側に振り出 され,このときの船尾の振り出しを船尾キックという。そして,船尾付近に障害物がある場合,障害物の存在する側に舵を取り,船尾をキックアウトさせることによって,障害物との接触を避けることができる。 イ本件各船舶の1回目の衝突は,本件各船舶に作用した相互作用により生じたものであるが,その後一旦離れた本件各船舶が再度衝突(2回目の衝突) したのは,1回目の衝突の直前に「おおすみ」が面舵一杯を取った結果,「おおすみ」の艦尾が左に振れたからであり 作用により生じたものであるが,その後一旦離れた本件各船舶が再度衝突(2回目の衝突) したのは,1回目の衝突の直前に「おおすみ」が面舵一杯を取った結果,「おおすみ」の艦尾が左に振れたからであり,これにより,「とびうお」は左舷に傾いて転覆するに至った。 このことは,おおすみ航海長等を被疑者とする刑事事件に係る鑑定嘱託の結果作成された鑑定書(甲28。以下「本件鑑定書」という。)において認定 されているとおりである。 ウしたがって,おおすみ艦長は,「とびうお」が「おおすみ」に急接近してきた午前7時59分43秒頃,船員の常務(予防法39条)として,取舵一杯を取り,船尾キックを利用して「とびうお」との衝突を回避すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,面舵一杯を取って,「おおすみ」 の艦尾を「とびうお」に衝突させた。 (被告の主張)アおおすみ艦長が面舵一杯を指示した午前7時59分43秒頃の時点では,仮にこのとき取舵一杯を指示して左転による船尾キックを利用していたとしても,進路の変化は僅かであり,本件各船舶の2回目の衝突は不可避であ って,むしろ左転していれば衝突の危険を増大させ,被害が更に拡大していた可能性があった。 したがって,取舵一杯を取らなかったおおすみ艦長の判断は,「おおすみ」の艦橋からの死角に入るまでは「とびうお」が「おおすみ」左舷艦首方向に向かってきていたという当時の視認状況下において,右転して「とびうお」 との衝突を避け,あるいは衝突の衝撃を軽減することを選択したという,合 理的選択に基づくものであったといえる。 イ 「とびうお」が右転をしない限り,本件各船舶が1回目の衝突をすることはなかったのであり,「おおすみ」からすれば ことを選択したという,合 理的選択に基づくものであったといえる。 イ 「とびうお」が右転をしない限り,本件各船舶が1回目の衝突をすることはなかったのであり,「おおすみ」からすれば2回目の衝突の結果は回避することのできない不可抗力によるものというべきであって,予防法39条が結果責任を採用したものではないことからしても,おおすみ艦長に船員の常 務に係る注意義務違反があったといえないことは明らかである。 ⑸ 争点5(損害の有無及び額)(原告らの主張)ア原告亡A訴訟承継人Bについて 亡Aに生じた損害 亡Fの内縁の妻である亡Aは,亡Fの死亡により,以下の損害を被った。 a 慰謝料 1100万円b 扶養利益相当損害 1439万9822円亡Fの基礎収入を371万3400円(平成26年賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・65~69歳男性労働者の平均賃金額),そ のうち亡Aの扶養に充てられる割合を60%とし,死亡当時67歳であった亡Fの就労可能年数を8年(それに対応するライプニッツ係数は6. 463)とすると,亡Aが被った扶養利益相当損害の額は,1439万9822円となる。 (計算式:371万3400円×0.6×6.463≒1439万98 22円)c 葬祭料 150万円d 亡Fの医療費 42万5837円e 弁護士費用相当損害 273万円f 合計 3005万5659円 42万5837円e 弁護士費用相当損害 273万円f 合計 3005万5659円 原告亡A訴訟承継人Bの請求額 原告亡A訴訟承継人Bは,亡Aの財産を全て相続したから,原告亡A訴訟承継人Bの請求額は3005万5659円となる。 イ原告Cについて 亡Gに生じた損害a 死亡慰謝料 2800万円 b 逸失利益 1439万9822円亡Gの基礎収入を371万3400円(平成26年賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・65~69歳男性労働者の平均賃金額),生活費控除率を40%とし,死亡当時66歳であった亡Gの就労可能年数を8年(それに対応するライプニッツ係数は6.463)とすると,亡 Gに生じた逸失利益の額は,1439万9822円となる。 (計算式:371万3400円×0.6×6.463≒1439万9822円)c 合計 4239万9822円 原告Cの請求額 a 亡Gに生じた損害の承継分 1059万9955円原告Cは,亡Gの財産を法定相続分2分の1の割合により相続した亡Jからその全ての財産の遺贈を受け,その後,亡Jの子であり,その唯一の相続人である原告Dから遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示を受けた。 したがって,原告Cは,亡Gに生じた損害を4分の1の割合で承継した。 b 弁護士費用相当損害 求権を行使する旨の意思表示を受けた。 主文 したがって,原告Cは,亡Gに生じた損害を4分の1の割合で承継した。 弁護士費用相当損害 105万円 合計 1164万9955円 理由 原告Dについて 亡Gに生じた損害の承継分 1059万9955円 亡Gの財産を法定相続分2分の1の割合により相続した亡Jの子であり,その唯一の相続人である原告Dは,亡Jからその全ての財産の遺贈を受けた原告Cに対し,遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。したがって,原告Dは,亡Gに生じた損害を4分の1の割合で承継した。 弁護士費用相当損害 105万円 合計 1164万9955円 原告Eについて 慰謝料 100万円 原告Eは,本件事故により「とびうお」から海に投げ出され,死ぬかもしれないという強い恐怖を味わった。原告Eが被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は,100万円とするのが相当である。 弁護士費用相当損害 10万円 合計 110万円 (被告の主張) 原告亡A訴訟承継人Bについて 亡Aが亡Fの内縁の妻であることは知らず,その余は争う。 原告Cについて は知らず,その余は争う。 原告Dについて 上記(原告らの主張)ウは 亡Aが亡Fの内縁の妻であることは知らず,その余は争う。 イ原告Cについて は知らず,その余は争う。 ウ原告Dについて上記(原告らの主張)ウは知らず,その余は争う。 エ原告Eについて争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実⑴ 争いのない事実等(上記第2の1)のほか,証拠(甲2,7~9,17,2 8,30,34,37~39,44~47,乙2~6,証人H,証人I,証人 L,証人M,証人N,原告E本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(認定に用いた主たる証拠を各項の末尾に掲記する。)。 ア本件各船舶の航跡「おおすみ」には,AIS(船舶自動識別装置)が搭載されており,「おおすみ」のある時刻における位置,速力,針路等のデータが来島海峡海上交通 センターで受信保存されていたため,AISデータにより「おおすみ」の航跡を特定することができる。また,「おおすみ」のレーダで確認された「とびうお」の位置を,AISデータにより特定された「おおすみ」の位置から割り出すことにより,「とびうお」の航跡を特定することができ,このようにして特定した本件各船舶の航跡は,別紙3(なお,赤字による航跡が「おおす み」のもので,黒字による航跡が「とびうお」のものである。)のとおりである(午前7時43分頃から午前7時45分頃まで及び午前7時56分15秒頃以降の「とびうお」の航跡は,海面反射の影響等によりレーダでの探知が不能となったため,特定されていない。)。(甲2,44,45)イ本件変針前の本件各船舶の状況 「おおすみ」は,午前7時39分頃,奈佐美瀬戸の最狭部付近海上を西南西に航行していたと ため,特定されていない。)。(甲2,44,45)イ本件変針前の本件各船舶の状況 「おおすみ」は,午前7時39分頃,奈佐美瀬戸の最狭部付近海上を西南西に航行していたところ,「おおすみ」の右舷側を航行していた「とびうお」は,午前7時43分頃,「おおすみ」の艦首前方約70メートル付近を横切るように通過し,そのまま「おおすみ」の左舷前方に進出して,その後,本件事故に至るまで,概ね南南西に航行した(下記⑵アのとおり,午 前7時45分頃から本件事故発生までの「とびうお」の平均針路は概ね201度であったと認められる。)。(甲2,9,44~46,証人H) 「おおすみ」は,奈佐美瀬戸を通過した後である午前7時47分頃,予定針路の210度に変針した。艦橋で全般的な指揮に当たっていたおおすみ艦長は,午前7時49分頃,一旦艦橋から下りたが,その際,「おおすみ」 が次の予定針路である180度に変針した場合,本件各船舶の進路が交差 する可能性があると考えたことから,おおすみ航海長に対し,「とびうお」の動きに注意するよう注意喚起する趣旨で,「よく見ておけ。」などと言った。(甲2,9,乙2,3,証人H,証人I)ウ本件変針頃の本件各船舶の状況 午前7時53分頃,針路210度,速力17.4ノットで航行していた 「おおすみ」が180度の変針点に達したところ,おおすみ航海長は,本件各船舶の距離が離れていたことなどから,変針を行うことに問題はないと判断し,針路を180度に変針するように指示した。これにより,「おおすみ」は回頭により速力を落としながら徐々に針路を変え,午前7時54分31秒頃に180度に定針した(本件変針)。おおすみ航海長による変 針の指示から,「おおすみ」が 示した。これにより,「おおすみ」は回頭により速力を落としながら徐々に針路を変え,午前7時54分31秒頃に180度に定針した(本件変針)。おおすみ航海長による変 針の指示から,「おおすみ」が180度に定針するまで,本件各船舶の距離は1キロメートル以上離れていた。(甲2,9,17,45,47,乙3,証人I) 本件変針後の午前7時55分頃,おおすみ艦長が艦橋に戻り,「とびうお」を確認したところ,左前方約60度,距離約1キロメートルの位置に 「とびうお」を視認し,おおすみ航海長も,その頃,「とびうお」が上記同様の位置を航行していることを目視で確認し,CIC(レーダやソナー,通信等の自艦の状態に関する情報が集約される部門)に対し,「とびうお」の最接近距離(本件各船舶が最も接近するときの距離)を知らせるように指示したが,レーダ員の海士長Nは,「とびうお」をレーダで捕捉できてい なかったことから,「とびうお」の最接近距離を報告することができなかった。 おおすみ艦長は,「とびうお」から見た「おおすみ」の方位が,「とびうお」の正船首方向から概ね右に100度であると考え,「とびうお」が「おおすみ」の正船首方向から112度30分後方よりも前を航行している (すなわち,予防法15条1項の規定する「2隻の動力船が互いに進路を 横切る場合」に該当する)と判断した。(甲2,9,47,乙2,3,6,証人H,証人I,証人N)エ本件変針後から「おおすみ」が定針定速となる頃までの本件各船舶の状況 おおすみ航海長は,午前7時56分25秒から40秒まで,ジャイロレピーターで「とびうお」の方位を確認したところ,方位は上るものの,方 位変化は大きくないことを確認し,おおすみ船務長も,その頃,「おおす み航海長は,午前7時56分25秒から40秒まで,ジャイロレピーターで「とびうお」の方位を確認したところ,方位は上るものの,方 位変化は大きくないことを確認し,おおすみ船務長も,その頃,「おおすみ」の方位が僅かに上ることを目視で確認した。(甲2,9,47,乙3,4,証人I,証人L) 本件変針の影響で一時16.6ノットまで落ちていた「おおすみ」の速力は,午前7時57分2秒頃に自然に17.4ノットまで戻り,これによ り,「おおすみ」は針路180度,速力17.4ノットの定針定速となったが,この頃の本件各船舶の距離は約670メートルであった。 おおすみ航海長は,午前7時57分4秒頃, 左見張員の海士長M(以下「おおすみ左見張員」という。)に対し,「とびうお」が「おおすみ」を視認しているか報告するように指示したところ,双眼鏡を用いて「とびうお」 を確認したおおすみ左見張員は,「とびうお」の操船者(亡F)の顔の輪郭が「おおすみ」の方向を向いているように見えたことから,「とびうお」が「おおすみ」を視認している旨の報告をした。(甲2,9,17,46,47,乙3,5,証人I,証人M)オ 「おおすみ」が定針定速となった頃から本件事故直前までの本件各船舶の 状況 おおすみ艦長は,午前7時57分40秒頃,おおすみ航海長に対し,「とびうお」の方位について報告するように指示した。その直後,おおすみ航海長は,おおすみ艦長に対し,「とびうお」の方位が僅かに上る旨の報告をし,その後,午前7時58分43秒頃にも「とびうお」の方位が上る旨の 報告をした。 おおすみ艦長は,連続して「とびうお」の方位が上っている旨の報告を受けたことから,そのまま本件各船舶が直進すれば,「おお も「とびうお」の方位が上る旨の 報告をした。 おおすみ艦長は,連続して「とびうお」の方位が上っている旨の報告を受けたことから,そのまま本件各船舶が直進すれば,「おおすみ」の艦首から100メートル程度前方を「とびうお」が通過すると考え,衝突のおそれはない(したがって,予防法15条以下の横切り船に係る航法の適用はない)と判断した。(甲2,9,47,乙2,3,証人H,証人I) おおすみ航海長も,「とびうお」の方位が継続して上っていたことから,このままいけば「とびうお」が「おおすみ」の艦首側を左から右に横切っていくことになり,衝突のおそれはないと判断していたが,本件各船舶の距離が徐々に近づく状況にあったことから,「とびうお」をより安全に先行させるため,午前7時58分46秒頃,「左の漁船方位上りますが先に 行かせるため強速とします。」とおおすみ艦長に告げた上で,同49秒頃,速力を1段階下げた両舷前進強速とするように指示し,さらに,おおすみ艦長は,午前7時59分13秒頃,「おおすみ」の減速の効果をより高めて「とびうお」との最接近距離を離すため,更に速力を1段階下げた両舷前進原速とするように指示した。 もっとも,午前7時59分45秒頃まで,「おおすみ」の速力が17.4ノットから下がることはなかった。(甲2,9,17,47,乙2,3,証人H,証人I) おおすみ船務長も,「とびうお」が「おおすみ」の艦首前方を通過すると考えていたが,奈佐美瀬戸において「とびうお」が「おおすみ」の艦首直 前を横切るように通過する航行をしていたことから,本件各船舶の距離が徐々に近づく中でそのような航行をしていた「とびうお」に対する批判的な趣旨を込めて,午前7時59分17秒頃,「このまま 首直 前を横切るように通過する航行をしていたことから,本件各船舶の距離が徐々に近づく中でそのような航行をしていた「とびうお」に対する批判的な趣旨を込めて,午前7時59分17秒頃,「このまま行けると思ってるんだろうな,怖いよなあ。」と発言した。 お」の方位が上り,本件各船舶の距離が近づいてきたことから,午前7時 59分25秒頃,「左50度同航の漁船距離近づく。」と報告した。(甲2,9,47,乙4,5,証人L,証人M) 午前7時59分30秒頃の本件各船舶の距離は約180メートルであったところ,「とびうお」は,その頃針路をその右舷側に変化させて右転し,「おおすみ」の艦首方向に向かって接近してきた。 おおすみ艦長は,「とびうお」との衝突の危険を感じたことから,おおすみ航海長に対し,微速への減速を指示し,おおすみ航海長は,おおすみ艦長の指示に基づき,午前7時59分38秒頃,両舷前進微速とするように指示した。おおすみ艦長は,同40秒頃に両舷停止及び警告信号の吹鳴を,同43秒頃に面舵一杯を指示し,更におおすみ航海長は,おおすみ艦長の 指示に基づき,同54秒頃に両舷後進微速とするように指示した。おおすみ艦長による面舵一杯の指示は,「おおすみ」の艦首方向に向かって接近してきた「とびうお」との衝突を右に操舵して回避しようとしてされたものであった。(甲2,9,46,47,乙2~5,証人H,証人I,証人L,証人M) 上記の各減速指示後の「おおすみ」の速力は,午前7時59分45秒時点で17.3ノット,同51秒時点で17.1ノット,同57秒時点で16.6ノット,午前8時0分2秒時点で15.9ノットであった。 また,上記の警告信号の吹鳴の指示により,午前7時59分 9分45秒時点で17.3ノット,同51秒時点で17.1ノット,同57秒時点で16.6ノット,午前8時0分2秒時点で15.9ノットであった。 また,上記の警告信号の吹鳴の指示により,午前7時59分43秒から同55秒までの間に,汽笛による短音が5回吹鳴された。 (甲2,9,17, 47)カ本件事故時の本件各船舶の状況「とびうお」は,午前7時59分56秒頃,「おおすみ」の左舷艦首正横から左舷灯付近に至り,艦橋からの死角に入った。「とびうお」は,そのまま「おおすみ」の左舷側に沿って方位を落とし,午前8時0分0秒頃,「おおす み」の左舷中央部付近(艦尾から前方約67.24メートルの箇所)に衝突 (1回目の衝突)した。その後,本件各船舶は一旦離れたものの,「おおすみ」の面舵一杯によりその艦尾が左に振れるなどした結果,「とびうお」は「おおすみ」の左舷後部付近(艦尾から前方約46.4メートルの箇所)に再度衝突(2回目の衝突)し,艦尾方向に方位を落としながら「おおすみ」に押し付け続けられ,「とびうお」が左舷に傾いて,そのまま「おおすみ」の左 艦尾付近で転覆した。(甲2,7~9,28,30,34,37~39,乙2,3,5,証人H,証人I,証人M)⑵ 事実認定の補足説明ア 「とびうお」の平均針路について 本件報告書(甲2)は,午前7時50分21秒頃から午前7時55分2 1秒頃までの「とびうお」の位置を結ぶ近似直線を最小二乗法により求めると,「とびうお」の平均針路が197度となることから,午前7時55分21秒頃から午前7時59分頃までの平均針路も197度であった可能性があるとしている(別紙1「付図1 推定航行経路図(その1)」参照)。 しかし,本件報告書の ることから,午前7時55分21秒頃から午前7時59分頃までの平均針路も197度であった可能性があるとしている(別紙1「付図1 推定航行経路図(その1)」参照)。 しかし,本件報告書の推定方法については,午前7時50分21秒頃か ら午前7時55分21秒頃までの5分間に限定して「とびうお」の平均針路を導く合理的な理由が見出し難い上,午前7時55分21秒頃の「とびうお」の位置からの針路197度の延長線が,「とびうお」の目的地である釣り場とも一致せず(別紙1「付図1 推定航行経路図(その1)」参照),その結論にも疑問を挟む余地があることからすれば,「とびうお」の平均 針路が197度であったと認めることはできない。 一方で,航跡特定報告書は,午前7時45分頃の「とびうお」の位置と本件各船舶の衝突地点とを結ぶ直線が針路201度となるところ,その延長線が阿多田島南方の甲島の西方海域となり,「とびうお」の目的地と一致していることなどから,「とびうお」は,午前7時45分頃以降,平均針 路概ね201度で航行していたと認定している。 上記⑴アのとおり,午前7時56分15秒頃以降の「とびうお」は,レーダでの探知が不能となったため,その詳細な航跡は特定することができないところ,航跡特定報告書の認定は,そのような条件の下,可能な範囲で「とびうお」の平均針路を認定したものであり,その方法も合理的であると考えられ,また,その結論も,「おおすみ」の艦橋音響等記録装置に, 午前7時56分43秒頃の音声として「ゴルフ(判決注:「とびうお」を指す。)の的針知らせ」と,同46秒頃の音声として「201度」と録音されていること(甲47)と整合的である。したがって,航跡特定報告書の認定どおり,午前7時45分 て「ゴルフ(判決注:「とびうお」を指す。)の的針知らせ」と,同46秒頃の音声として「201度」と録音されていること(甲47)と整合的である。したがって,航跡特定報告書の認定どおり,午前7時45分頃から本件事故発生までの「とびうお」の平均針路は概ね201度であったと認められる。 イ 「とびうお」の右転について 上記アのとおり,午前7時45分頃から本件事故発生までの「とびうお」の平均針路は概ね201度であるところ,航跡特定報告書(甲46)によれば,「おおすみ」のレーダで「とびうお」を最後に捕捉できた午前7時56分15秒頃の「とびうお」の位置からの針路201度の延長線は,本件 各船舶の衝突地点の東側を通ることが認められる。また,証拠(甲45)によれば,午前7時56分15秒頃の「おおすみ」から見た「とびうお」の方位は左前方約59度であり,本件各船舶の距離は約830メートルであったことが認められるところ,同時刻から「おおすみ」が針路180度,速力17.4ノットの定針定速で航行し,「とびうお」が針路201度で航 行した場合の本件各船舶の針路の交差地点を計算すると,本件各船舶が同地点を通過する時刻は午前8時0分30秒頃となる(実際の衝突時刻と約30秒のずれが生じる)ことは当事者間に争いがない。 これらの事実からすれば,午前7時56分15秒頃以降,いずれかの時点において「とびうお」の針路が「おおすみ」側(右側)に変化しなけれ ば,午前8時0分0秒頃においても本件各船舶にはなお一定の距離があり, 衝突が生じることはなかったということができる。 そして,本件事故直前の「とびうお」の動静について,おおすみ艦長(証人H)は,午前7時59分13秒頃に両舷前進原速とするように指示 衝突が生じることはなかったということができる。 そして,本件事故直前の「とびうお」の動静について,おおすみ艦長(証人H)は,午前7時59分13秒頃に両舷前進原速とするように指示した後,「とびうお」の動静を注視していると,同30秒頃,「とびうお」が「おおすみ」の方向に急に近づき,その後,「おおすみ」の艦首に対し直角に近 い角度で艦橋からの死角に入るのが見えたが,海面反射の影響で針路を右に変化させた時までは確認することができなかった旨,おおすみ航海長(証人I)は,「左50度同航の漁船距離近づく。」というおおすみ左見張員からの報告を午前7時59分31秒頃に伝令を通じて聞いた後,「とびうお」の動静を確認すると,「とびうお」の船影が大きくなり,「おおすみ」 に向かって近づいてくるように見えたが,針路が右に変化するのを確認したわけではない旨,おおすみ船務長(証人L)は,午前7時59分17秒頃に「このまま行けると思ってるんだろうな,怖いよなあ。」と発言した後,本件各船舶の距離が急速に半分程度に近づいたように感じ,「とびうお」が「おおすみ」の艦橋からの死角に入った際の 「とびうお」の方向が 「おおすみ」の艦首に対しほぼ直角であるのが見えたが,「とびうお」が右転したかどうか自体は確認できていない旨,おおすみ左見張員(証人M)は,「左50度同航の漁船距離近づの時刻は午前7時59分25秒頃である。)した後,「とびうお」の右舷側の見える面積が増えたため,「とびうお」が右転してきたことが分かり,そ の後,「とびうお」は右舷側がほぼ見える状態で「おおすみ」の左艦首付近の死角に入った旨の証言をしている。 おおすみ艦長らは,上記のとおりいずれも「とびうお」の右転(又は右転をうかがわせる「とびうお」の動静 右舷側がほぼ見える状態で「おおすみ」の左艦首付近の死角に入った旨の証言をしている。 おおすみ艦長らは,上記のとおりいずれも「とびうお」の右転(又は右転をうかがわせる「とびうお」の動静)を視認していた旨の証言をするところ,これらの証言が口裏合わせの結果意図的に虚偽の事実を述べたもの であるとは考えにくい上,「とびうお」の針路が「おおすみ」側(右側)に の認定とも整合するものであることからすれば,おおすみ艦長らの上記の各証言は信用できるというべきである(なお,上記のとおり,おおすみ艦長らは「とびうお」の右転開始の瞬間を視認した旨の証言はしていないが,上記⑴オのとおり,「とびうお」が右転した午前7時59分30秒頃の本件各船 舶の距離は約180メートルであったのであるから,長さ約7.60メートルの「とびうお」の瞬間的な船首方向の変化を把握するのは困難であると考えられ,おおすみ艦長らの上記の各証言が不自然であるとはいえない。)。 したがって,おおすみ艦長らの上記の各証言の内容も踏まえれば,「と びうお」は,午前7時59分30秒頃,針路をその右舷側に変化させて右転し,「おおすみ」の艦首方向に向かって接近してきたと認めることができる。 a これに対し原告らは,本件各船舶の1回目の衝突の原因は,午前8時0分0秒頃の僅か前に本件各船舶の距離が80メートル強に接近した 際の相互作用により,「とびうお」の船首が「おおすみ」の左舷中央部付近に吸引されて「おおすみ」に向かう回頭力を受けたことにある旨の主張をする。 原告らの提出する文献(甲48)によれば,2船間の相互作用とは,2船が互いに接近して航行する場合などに,2船間に起こる流体現象に よって操縦に及ぼす影響を る旨の主張をする。 原告らの提出する文献(甲48)によれば,2船間の相互作用とは,2船が互いに接近して航行する場合などに,2船間に起こる流体現象に よって操縦に及ぼす影響を指し,具体的には,追越し船の船首が被追越し船の船尾又は船首に近づいて並ぶと,両船は互いに反発し合って他船から離れる回頭力を受け,追越し船の船首が被追越し船の中央部付近に達すると,船首は他船に吸引され他船に向かう回頭力を受けるとされており,また,相互作用は,一般的に両船の長さの和程度以下の距離に入 ることにより生じ,その2分の1程度の距離に達すると急激に増加する, 互いに反航する場合よりは同航する場合の方が影響が大きく,大小2船間においては,小型船の方が大きく影響を受けるなどとされている。 しかし,原告らは,上記の文献による一般論のほかに,動力船である「とびうお」が,「おおすみ」の吸引作用により針路を変えられ,約80メートル強もの距離を吸引されたことについて,具体的な立証を行って いない上,そのような衝突の機序は,「とびうお」が「おおすみ」の艦首に対し直角に近い角度で艦橋からの死角に入った旨のおおすみ艦長の証言等とも矛盾するものである。また,「とびうお」は,「おおすみ」の艦首方向に向かって接近してきたものであるところ,上記のとおり,追越し船の船首が被追越し船の船首に近づいて並ぶと,両船は互いに反発 し合って他船から離れる回頭力を受けるのであるから,かえって,「とびうお」が「おおすみ」の艦首から生じる反発力に逆らって「おおすみ」に接近できる程度の右転をしていたことさえうかがわれるところである。 したがって,本件各船舶の衝突の原因が「とびうお」の右転ではなく 相互作用である旨の原告ら って「おおすみ」に接近できる程度の右転をしていたことさえうかがわれるところである。 したがって,本件各船舶の衝突の原因が「とびうお」の右転ではなく 相互作用である旨の原告らの上記主張は採用することができない(もっていた可能性は否定できないが,この事実は,本件各船舶の衝突の原因が「とびうお」の右転であることを左右するものではない。)。 b また,原告らは,「とびうお」が右転したのであれば,その船首部が 「おおすみ」の左舷側外板と衝突するから,「とびうお」の船首部に損傷がなければならないところ,「とびうお」の船首部には損傷がなく,右舷側に擦過傷があったことからすれば,「とびうお」は右転していなかったと認められる旨の主張をする。 確かに,証拠(甲28,30,34)によれば,本件事故に起因する 損傷は「とびうお」船体の船首部にはなく,「おおすみ」と衝突したのは 「とびうお」船体の右舷側であったことが認められる。しかし,そのような損傷状況は,「とびうお」が「おおすみ」の艦橋からの死角に入った後,「おおすみ」との衝突を回避するために,その態勢を「おおすみ」と平行の位置まで戻したものの避けきれずに衝突したことによって生じたものによる可能性も十分に考えられるのであって,おおすみ艦長らの 証言の信用性や同証言等に基づく上記の認定・判断を左右するものではないというべきである。 c 原告らは,「とびうお」が「おおすみ」に向かって右転すれば,「おおすみ」と衝突して重大な結果が発生することは容易に予見できるにもかかわらず,あえてそのような危険な行動を取るとは到底考えられないこ とからすれば,「とびうお」が右転したとは考えられない旨の主張もする。 の することは容易に予見できるにもかかわらず,あえてそのような危険な行動を取るとは到底考えられないこ とからすれば,「とびうお」が右転したとは考えられない旨の主張もする。 のとおり,「とびうお」の操船者である亡Fは,午前7時57分4秒頃の時点では「おおすみ」を視認していたことがうかがわれるが,同時刻頃の本件各船舶の距離は約670メートルであり,なお十分 な距離があったのであるから,亡Fがその後も継続して「おおすみ」に注意を払っていたとまでは認めることができず(「とびうお」に乗船していた原告Eの陳述書(甲25)にも,「おおすみ」の船首が「とびうお」に向かって進んできた頃,本件各船舶の距離は約500メートルあったので,余り「おおすみ」を気にしなかった旨の記載がある。),したがっ て,亡Fが,「おおすみ」が「とびうお」の右舷側を航行していることを認識しながら右転を開始したかどうかは明らかでないといわざるを得ない。 のとおり,「とびうお」は,午前7時43分頃,「おおすみ」の艦首前方約70メートル付近を横切るよう に通過するという行動を取っていたのであるから,午前7時59分30 秒頃にも,「とびうお」が「おおすみ」の艦首前方を通過しようとして右転した可能性自体は否定できないというべきである。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 d そのほか,「とびうお」が釣り場に向かって直進しており,右転する理由がない旨の原告らの主張も,おおすみ艦長らの証言の信用性や同証言 等に基づく上記の認定・判断を左右するものではなく,「とびうお」が右転した事実を否定する根拠とはならないというべきである。 ウ 「とびうお」の転覆の原因について 証言の信用性や同証言 等に基づく上記の認定・判断を左右するものではなく,「とびうお」が右転した事実を否定する根拠とはならないというべきである。 ウ 「とびうお」の転覆の原因について み」の艦首方向に向かって接近してきた「とびうお」との衝突を右に操舵し て回避しようとして,面舵一杯を指示した後,本件各船舶は2回衝突し,そのまま「とびうお」は転覆するに至っている。 「とびうお」が転覆するに至った原因について,本件鑑定書は,「おおすみ」の艦尾から前方約46.4メートルの箇所から艦尾にかけて損傷が連続しているのは,「おおすみ」が右旋回したことによる艦尾の左舷方向への振 り出し(船尾キック)のため,「おおすみ」が常時「とびうお」の右舷側を左舷方向へ押し付けていたことを示しており,「おおすみ」の艦尾から前方約67.24メートルの箇所に「とびうお」が衝突した後,一度離れた本件各船舶が再び衝突したのは,「おおすみ」の航走波による吸引作用(相互作用)だけではなく,「おおすみ」が右旋回したことによる船尾キックなどが原因 であると認定している。そして,「おおすみ」が直進中に「とびうお」と1回目の衝突をしたのであれば,衝突後も「おおすみ」が針路を保つか,左に転舵していれば,「とびうお」の転覆は避けられていた可能性が十分にあり,「おおすみ」が右旋回中に「とびうお」と1回目の衝突をしていたとしても,その時点における「おおすみ」の旋回運動は十分に発達した状態であるとは いえないと考えられるとしている。 船尾キックについて,証拠(甲14,15,26,50,84,86,97,証人O)によれば,船舶が舵を取ったとき,転舵初期にはその揚力によって船体が転舵舷とは反対側へ横流れしながら船首が徐々に 船尾キックについて,証拠(甲14,15,26,50,84,86,97,証人O)によれば,船舶が舵を取ったとき,転舵初期にはその揚力によって船体が転舵舷とは反対側へ横流れしながら船首が徐々に回頭を始め,旋回中は転心(一般的に船首端から船舶の長さの3分の1~5分の1程度後方に位置するとされる。)を中心に船舶が回転しているように見えるところ, この間に生じる重心の原進路からの横偏位をキックといい,船尾の振り出しを船尾キックということ,船尾キックの大きさは最大で船の長さの10~13%程度と推定され,人が転落した場合に転落側に操舵することによりプロペラへの巻き込みを避けたり,操舵と同じ舷にある船尾至近の障害物との接触を避けたりするのに船尾キックを利用できることが認められる。 本件鑑定書は,本件各船舶の損傷状況や,上記の船尾キックの特性等を踏まえた上で,本件各船舶の衝突から「とびうお」の転覆に至る経緯について合理的に推認したものといえるから,「とびうお」が午前7時59分30秒頃に右転し,「おおすみ」の艦首方向に向かって接近してきたため,午前8時0分0秒頃に1回目の衝突が生じ,その後,本件各船舶は一旦離れたものの, 本件鑑定書の認定どおり,「おおすみ」の面舵一杯により艦尾が左に振れたことや,「おおすみ」の航走波による吸引作用(相互作用)が生じたことなどによって,2回目の衝突が生じたと認めることができる。 2 争点1(追越し船としての避航義務違反の有無)について⑴ 上記1⑵アのとおり,午前7時45分頃から本件事故発生までの「とびうお」 の平均針路は概ね201度であったと認められるところ,原告らは,午前7時59分31秒の時点で,「とびうお」は「おおすみ」から見て左50度の方位線上に位置していたと考えられ までの「とびうお」 の平均針路は概ね201度であったと認められるところ,原告らは,午前7時59分31秒の時点で,「とびうお」は「おおすみ」から見て左50度の方位線上に位置していたと考えられるから,「おおすみ」は,その時点で,「とびうお」の正船首方向から109度後方に位置していたことになり,予防法13条2項の規定は直ちに適用されないが,「おおすみ」にとっては,自艦が「とびうお」の正横後 22度30分を超える後方に位置しているかどうかが明確に判断できない状況 にあったのであるから,「おおすみ」は,同条3項の規定により,自艦を追越し船であると判断しなければならず,おおすみ艦長らは,同条1項の規定により「とびうお」を避航すべき注意義務を負っていた旨の主張をする。 0度同航の漁船距離近づく。」と報告したものであるところ,証拠(乙6,証人 M)及び弁論の全趣旨によれば,上記の報告は,「おおすみ」から見た「とびうお」の方位が左前方約50度を通過し,更に方位が上りつつあった状態でされたものであることが認められるから,同時刻頃の「とびうお」の方位は,左前方約50度よりも上っていた(「おおすみ」は,その時点で,「とびうお」の正船首方向から約109度後方よりも更に後方に位置していた)ことがうかがわれる。 そして,航跡特定報告書(甲46)によれば,午前7時58分30秒頃の「とびうお」の方位は左前方約50度(この場合,「おおすみ」は「とびうお」の正船首方向から約109度後方の位置を航行していたことになる。)であり,午前7時59分0秒頃の「とびうお」の方位は左前方約42度(この場合,「おおすみ」は「とびうお」の正船首方向から約117度後方の位置を航行していたことにな る。)であったことが認められるから,「お 時59分0秒頃の「とびうお」の方位は左前方約42度(この場合,「おおすみ」は「とびうお」の正船首方向から約117度後方の位置を航行していたことにな る。)であったことが認められるから,「おおすみ」は,午前7時58分30秒頃から午前7時59分0秒頃までの間に,「とびうお」の正横後22度30分(正船首方向から112度30分後方の角度)を超える後方の位置に入ったといえる。 ⑶ もっとも,予防法13条2項の規定する追越し船は,船舶の正横後22度30分を超える後方の位置からその船舶を追い越す船舶であるところ,同項の「追い 越す」とは,より速い速度でその船舶に追い付き,その前方に出ることを意味すると解される(甲3参照)から,「おおすみ」が追越し船に当たるというためには,「おおすみ」が「とびうお」より速い速度で「とびうお」に追い付き,その前方に出る状況にあったことが必要となる。 しかし,本件各船舶の1回目の衝突の原因が「とびうお」の右転であったこと のほか,証拠(甲46)及び弁論の全趣旨によれば,午前7時56分15秒頃以 降,「おおすみ」が針路180度,速力17.4ノットの定針定速で航行し,「とびうお」が針路201度,速力16.3ノット(同時刻頃から午前7時59分頃までの「とびうお」の平均速力。甲46)の定針定速で航行した場合には,「とびうお」は「おおすみ」の艦首前方を通過していたことが認められる(「おおすみ」が上記の定針定速となったのは午前7時57分2秒頃であり,その前はそれより も速度が遅かったのであるから,実際には更に前方を通過したこととなる。)から,「おおすみ」が「とびうお」より速い速度で「とびうお」に追い付き,その前方に出る状況にあったとはいえない。さらに,上記1⑴オのとおり,午前7時58分49 際には更に前方を通過したこととなる。)から,「おおすみ」が「とびうお」より速い速度で「とびうお」に追い付き,その前方に出る状況にあったとはいえない。さらに,上記1⑴オのとおり,午前7時58分49秒頃以降,おおすみ艦長らにより減速等の指示がされ,実際に,「とびうお」が右転した後である午前7時59分45秒頃以降,「おおすみ」は徐々に速力 を落としており,「とびうお」を追い越す行動を取っていないところでもある。 これらの事情を踏まえて考慮すれば,「おおすみ」が予防法13条2項の規定する追越し船であったということはできず,また,おおすみ艦長らが「おおすみ」が追越し船であるかどうかを確かめることができない状況にあったということもできない。 ⑷ したがって,おおすみ艦長らが予防法13条1項の規定により「とびうお」を避航すべき注意義務を負っていたということはできない。 3 争点2(新たな衝突の危険を生じさせた船舶としての避航義務違反の有無)について原告らは,「おおすみ」が針路180度,速力17.4ノットに定針定速となった 午前7時57分2秒の時点で,本件各船舶が相互作用により衝突する危険が生じたとして,おおすみ艦長らは,かかる危険を解消するために避航動作を取るべき注意義務を負っていた旨の主張をする。 しかし,本件各船舶の1回目の衝突の原因が相互作用ではないことは上記認定のとおりであるし,「衝突の危険」とは,衝突の蓋然性が非常に高い状態を捉えた概念 であると解される(甲3参照)ところ, 180度,速力17.4ノットの定針定速となった午前7時57分2秒頃の本件各船舶の距離は約670メートルであったのであるから,その頃に衝突の危険が生じていなかったことは明らかであり,本件各船舶の衝突の危険は,午 力17.4ノットの定針定速となった午前7時57分2秒頃の本件各船舶の距離は約670メートルであったのであるから,その頃に衝突の危険が生じていなかったことは明らかであり,本件各船舶の衝突の危険は,午前7時59分30秒頃に「とびうお」が右転した時点よりも後に生じたといえる。 したがって,おおすみ艦長らに新たな衝突の危険を解消するための避航動作を取 るべき注意義務があったということはできない。 4 争点3(横切り船(保持船)としての警告信号吹鳴義務違反及び最善の協力動作義務違反の有無)について⑴ 原告らは,「おおすみ」の針路が180度に定針した午前7時54分31秒以降,本件各船舶は互いに進路を横切る状況にあり,かつ,午前7時56分頃以降, 本件各船舶には衝突のおそれがあったのであるから,予防法15条以下の横切り船に係る航法の適用があり,「とびうお」が避航船,「おおすみ」が保持船となるところ,おおすみ艦長らは,午前7時56分30秒頃に「とびうお」が衝突を避けるために十分な動作を取っていることについて疑いがあると判断して,同法34条5項の規定により,直ちに警告信号を吹鳴し,さらに,「とびうお」と間近に 接近した時点で,同法17条3項の規定により,最善の協力動作を取るべき注意義務を負っていた旨の主張をする。 ⑵ア予防法15条1項の規定する横切り船とは,船舶の正横後22度30分より手前の位置から接近する船舶をいうと解される(甲3参照)ところ,航跡特定報告書(甲46)によれば,「おおすみ」の針路が180度に定針した午前7時 54分31秒頃の「おおすみ」から見た「とびうお」の方位は左前方約63度(この場合,「おおすみ」は「とびうお」の正船首方向から約96度後方の位置を航行していたことになる。)であり,「おおすみ」が 54分31秒頃の「おおすみ」から見た「とびうお」の方位は左前方約63度(この場合,「おおすみ」は「とびうお」の正船首方向から約96度後方の位置を航行していたことになる。)であり,「おおすみ」が午前7時58分30秒頃から午前7時59分0秒頃までの間に,「とびうお」の正船首方向から112度30分後方の角度(「とびうお」の正横後22度30分の角度)を超える後方 の位置に入るまで,本件各船舶は予防法15条1項の規定する「互いに進路を 横切る」状況にあったことが認められる。 もっとも,予防法15条1項の規定は,「2隻の動力船が互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがあるとき」に適用されるところ,「衝突するおそれ」とは,衝突の蓋然性がある状態を捉えた概念であると解される(甲3参照)から,本件各船舶に同項の規定の適用があるためには,午前7 時56分頃以降に本件各船舶に衝突の蓋然性があったことが必要となる。 4ノットの定針定速となった午前7時57分2秒頃の本件各船舶の距離は約670メートルも離れていた上,上記2⑶のとおり,本件各船舶が定針定速で航行した場合には,「とびうお」は「おおすみ」の艦首前方を通過してい たのであるから,午前7時56分頃以降に本件各船舶に衝突の蓋然性があっおおすみ艦長の判断(そのまま本件各船舶が直進すれば,「おおすみ」の艦首から100メートル程度前方を「とびうお」が通過するため,衝突のおそれはないとした判断)が誤りであったということはできない。 これに対し原告らは,午前7時56分頃から午前7時58分頃までの「おおすみ」から見た「とびうお」の方位の変化は僅かであったのであるから,本件各船舶には衝突のおそれがあった旨の主張をする。 確かに,予防 らは,午前7時56分頃から午前7時58分頃までの「おおすみ」から見た「とびうお」の方位の変化は僅かであったのであるから,本件各船舶には衝突のおそれがあった旨の主張をする。 確かに,予防法7条4項は,「船舶は,接近してくる他の船舶のコンパス方位に明確な変化が認められない場合は,これと衝突するおそれがあると判断 しなければなら」ないと規定しており,コンパス方位が変わったり変わらなかったりしてその変化が明瞭ではない場合や,変わることは変わるがその変わり方が緩慢な場合等が「コンパス方位に明確な変化が認められない場合」に当たると考えられる(甲95,96参照)。 そして,上記1⑴エ及びオのとおり,午前7時56分頃以降,おおすみ航 海長らは「おおすみ」から見た「とびうお」の方位は上るものの,方位変化 は大きくないことを確認していたものであるが,それが上記の「明確な変化が認められない場合」に当たるほど緩慢な変化であったことを認めるに足りる的確な証拠はない。むしろ,「おおすみ」の航行指針(甲5)には,「おおすみ」が保持船となる横切り関係について,他の船舶の方位変化が1分間に1度以内の場合であって,当該船舶の避航動作に疑問がある場合には,予防 法17条2項及び3項の規定に基づき,衝突を回避する旨の規定があることからすれば,同指針は,「方位変化が1分間に1度以内の場合」が「コンパス方位に明確な変化が認められない場合」であることを前提としているようにも解されるところ,航跡特定報告書によれば,午前7時56分30秒頃以降の「おおすみ」から見た「とびうお」の方位変化は1分間に3度以上あった ことが認められるから,「コンパス方位に明確な変化が認められる場合」であったことさえうかがわれるところである。 の「おおすみ」から見た「とびうお」の方位変化は1分間に3度以上あった ことが認められるから,「コンパス方位に明確な変化が認められる場合」であったことさえうかがわれるところである。 この点を措くとしても,予防法7条4項の規定は,接近してくる他の船舶のコンパス方位に明確な変化が認められない場合にはこれと衝突するおそれがあると判断すべき主観的な行為規範を定めたものと解され,客観的な衝 突の蓋然性の有無とは別個の問題であるから,のとおり客観的にみて午前7時56分頃以降に本件各船舶に衝突の蓋然性があったということが困難である本件において,同法15条1項の適用があることを前提とした注意義務があったということはできない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 ⑶ 以上によれば,本件各船舶に予防法15条以下の横切り船に係る航法の適用があったということはできないから,おおすみ艦長らに警告信号吹鳴義務及び最善の協力動作義務があったということはできない(なお,上記⑵アのとおり午前7時58分30秒頃から午前7時59分0秒頃までの間に横切り関係が解消した後,「とびうお」が右転した午前7時59分30秒頃以降のある時に 再度横切り関係になったと考えられるが,上記1 ば,おおすみ艦長らに警告信号吹鳴義務違反及び最善の協力動作義務違反があったということはできない)。 5 争点4(「とびうお」を転覆させないための操艦義務違反の有無)について⑴ 原告らは,おおすみ艦長は,「とびうお」が「おおすみ」に急接近してきた午前7時59分43秒頃,船員の常務(予防法39条)として,取舵一杯を取り,船 尾キックを利用して「とびうお」との衝突を回避すべき注意義務を負っていた旨の主張をする。 み」に急接近してきた午前7時59分43秒頃,船員の常務(予防法39条)として,取舵一杯を取り,船 尾キックを利用して「とびうお」との衝突を回避すべき注意義務を負っていた旨の主張をする。 ⑵ 本件においては,「とびうお」が午前7時59分30秒頃に右転し,「おおすみ」の艦首方向に向かって接近してきため,午前7時59分56秒頃,「おおすみ」の左舷艦首正横から左舷灯付近に至って艦橋からの死角に入り,そのまま「おおす み」の左舷側に沿って方位を落とし,午前8時0分0秒頃に「おおすみ」の左舷中央部付近と1回目の衝突をし,その後,本件各船舶は一旦離れたものの,その直前である午前7時59分43秒頃,おおすみ艦長が「おおすみ」の艦首方向に向かって接近してきた「とびうお」との衝突を右に操舵して回避しようとして面舵一杯を指示していたために,「おおすみ」の面舵一杯によりその艦尾が左舷方 向へ振り出される船尾キックが生じ,また,「おおすみ」の航走波による吸引作用(相互作用)が生じたことなどによって,「とびうお」が「おおすみ」の左舷後部付近と2回目の衝突をしたものである。したがって,おおすみ艦長が面舵一杯を指示したことが「とびうお」の転覆の一因であったこと自体は否定することができない。 船舶が舵を取ったとき,転舵初期には一般的に船首端から船舶の長さの3分の1~5分の1程度後方に位置するとされる転心を中心に船舶が回転しているように見え,この間に生じる重心の原進路からの横偏移がキックである(すなわち,転舵舷とは反対側への船体の横偏移自体は転心よりも後方で生じる)ところ,おおすみ艦長が面舵一杯を指示した午前7時5 9分43秒頃,「とびうお」は「おおすみ」の転心よりも前方の艦首方向に向かっ て接近している状況で 自体は転心よりも後方で生じる)ところ,おおすみ艦長が面舵一杯を指示した午前7時5 9分43秒頃,「とびうお」は「おおすみ」の転心よりも前方の艦首方向に向かっ て接近している状況であったのであるから,その時点で,おおすみ艦長が,その後に「とびうお」が「おおすみ」の左舷艦首正横から左舷灯付近に至って艦橋からの死角に入り,「おおすみ」の転心よりも後方である左舷中央部付近まで左舷側に沿って方位を落とすことを予見した上で,取舵一杯を指示することは不可能であったというべきである(この点について,おおすみ艦長(証人H)も,「おお すみ」の転心は艦橋付近にあるが,「とびうお」は「おおすみ」の艦橋からの死角に入るまで常に艦橋付近よりも前方の位置にいたため,その時点で取舵一杯を指示することはあり得ない旨の証言をしているところである。)。 ⑶ これに対し原告らは,「とびうお」が「おおすみ」の艦首付近にいた場合であっても,「とびうお」との衝突を避けるためには取舵一杯を取るのが海技常識であ る旨の主張をし,原告ら申請に係る証人Oも,左舷側にある障害物を避けるために面舵を取るのは障害物までの距離が十分にある場合であって,障害物が至近距離にある場合には取舵を取ってキックを利用するのが操船の基本であり,この理は「とびうお」のような動力船であっても異ならず,本件においても「おおすみ」は取舵を取るべきであった旨の証言をする。 確かに,「おおすみ」の航行指針(甲5)には,進路上至近距離にある障害物を回避するためにキックを利用する旨が,原告ら提出に係る船舶関係の学科試験問題集(甲52)には,船首付近の浮遊物を避ける場合にキックを利用することができる旨が記載されている。しかし,「とびうお」のようなほとんど同航の動力船は,障害物又は 告ら提出に係る船舶関係の学科試験問題集(甲52)には,船首付近の浮遊物を避ける場合にキックを利用することができる旨が記載されている。しかし,「とびうお」のようなほとんど同航の動力船は,障害物又は浮遊物と異なり,舷側に沿って方位を落とすのに時間を要するこ ととなるから,舵を取ってから実際に転舵し始めるまでの間にその動力船が転心よりも後方に移動することには必ずしもならないというべきであり(証人O自身も,キックを利用して「とびうお」を避けることができたかどうかは,「とびうお」が「おおすみ」へ向かってきた角度によって変わり得ることを認めている。),そうすると,むしろ,本件において,おおすみ艦長らが取舵一杯を指示していれ ば,「おおすみ」の艦首の左回頭によって「とびうお」との衝突の危険が増大して いた可能性もあったというべきである。 したがって,「とびうお」のような動力船であっても障害物と同様に考えることができ,「おおすみ」は取舵を取るべきであった旨の証人Oの上記証言は採用することができず,原告らの上記主張も採用できない。 ⑷ 以上によれば,おおすみ艦長に取舵一杯を取り,船尾キックを利用して「とび うお」との衝突を回避すべき注意義務があったということはできない。 第4 結論以上の次第で,原告らの請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 広島地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官谷村武則 裁判官金洪周 裁判官佐 々 木悠土 裁判官金洪周 裁判官佐々木悠土

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