令和5(行ケ)10041 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年9月20日 知的財産高等裁判所 3部 判決 請求棄却
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令和5年9月20日判決言渡 令和5年(行ケ)第10041号審決取消請求事件 口頭弁論終結日令和5年7月24日判決 原告リゾートトラスト株式会社 同訴訟代理人弁理士眞島竜一郎 同近藤華子 被告特許庁長官 同指定代理人茂木祐輔 同大橋良成 同山田啓之 同清川恵子 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 特許庁が不服2022-5041号事件について令和5年3月9日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は、令和2年7月27日、以下の構成からなり、指定役務を第43類「宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ、飲食物の提供、和食の提供、鉄板焼き料理の提供、動物の宿泊施設の提供、保育所における乳幼児の保育、高齢者用入所施設の提供(介護を伴うものを除く。)、会議室の貸与、展示施設の貸与、布団の貸与、まくらの貸与、毛布の貸与、家庭用電気トースターの貸与、家庭用電子レンジの貸与、家庭用電気式ホットプレートの貸与、業務用加熱調理機械器具の貸与、業務用調理台の貸与、業務用流し台の貸与、家庭用加熱器(電気式のものを除く。)の貸与、食器の貸与、家庭用調理台の貸与、家庭用流し台の貸与、調理用機械器具の貸与」等を指定した商標登録出願をした。 トの貸与、業務用加熱調理機械器具の貸与、業務用調理台の貸与、業務用流し台の貸与、家庭用加熱器(電気式のものを除く。)の貸与、食器の貸与、家庭用調理台の貸与、家庭用流し台の貸与、調理用機械器具の貸与、カーテンの貸与、家具の貸与、壁掛けの貸与、敷物の貸与、タオルの貸与、おしぼりの貸与」とする商標(以下「本願商標」という。)について、商標登録出願 をした(商願2020-91943号)。(甲55)(本願商標) (2) 原告は、令和3年12月21日付けの拒絶査定(乙1。以下「本件拒絶査定」という。)を令和4年1月5日に受けたことから、同年4月5日、拒絶査 定不服審判を請求した(不服2022-5041号)。 (3) 特許庁は、令和5年3月9日、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年3月22日に原告に送達された。 (4) 原告は、令和5年4月21日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提 起した。 2 本件審決の理由の要旨本件審決の理由は、別紙審決書(写し)のとおりであり、要するに、本願商標は、本件拒絶査定において拒絶の理由に引用した登録商標である登録第6226376号商標(以下「引用商標1」という。)及び同第6226377号商標(以下「引用商標2」といい、引用商標1と併せて「各引用商標」という。) と類似し、その指定役務と同一又は類似の役務について使用をするものであるから、商標法(以下「法」という。)4条1項11号に該当するというものである。 3 各引用商標の内容(1) 引用商標1 ア商標 イ商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第30類「茶、コーヒー、ココア のである。 3 各引用商標の内容(1) 引用商標1 ア商標 イ商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第30類「茶、コーヒー、ココア、菓子、パン、サンドイッチ、中華まんじゅう、 ハンバーガー、ピザ、ホットドッグ、ミートパイ、アイスクリーム、調味料、香辛料、弁当、ぎょうざ、しゅうまい、すし、たこ焼き、ラビオリ、穀物の加工品、パスタソース、アイスクリームのもと、即席菓子のもと、 チョコレートスプレッド、食品香料(精油のものを除く。)、氷、コーヒー豆」第43類「飲食物の提供、業務用加熱調理機械器具の貸与、業務用調理台の貸与、業務用流し台の貸与、食器の貸与、調理用機械器具の貸与、椅子・テーブ ル・テーブル用リネン・ガラス食器の貸与、飲料水ディスペンサーの貸与」(2) 引用商標2ア商標鮨処濱(標準文字)イ商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務 引用商標1と同じ 4 取消事由本願商標と各引用商標との類否判断の誤り第3 当事者の主張取消事由(本願商標と各引用商標との類否判断の誤り)についての両当事者 の主張は以下のとおりである。 〔原告の主張〕(1) 本願商標の構成中の「濱」の文字については、日本全国の各所で「飲食物の提供」の役務を提供する事業者が、自己の役務の出所表示として「濱」の文字を使用していること、漢字一字のみから構成された商標は、「飲食物の提 供」との関係において、商標登録出願についての拒絶理由通知の記載例(甲1ないし4)が示すように、識別力が極めて弱いことが推察できることから、本願商標の「濱」の文字部分は、自他役務の識別力を有しないか、極めて弱い。 て、商標登録出願についての拒絶理由通知の記載例(甲1ないし4)が示すように、識別力が極めて弱いことが推察できることから、本願商標の「濱」の文字部分は、自他役務の識別力を有しないか、極めて弱い。 本願商標の構成中の、筆で斜めに一本線を引いたように表された黒色の図 形(以下「線状図形」という 。)については、特段特徴のないデザインであ り、識別力の極めて弱い「濱」の文字部分と線状図形とは、いずれも識別力が弱い部分として結合し、より一体として捉えられるから、本願商標は線状図形も含め構成全体で一つの識別標識として機能する。 (2) 各引用商標について、「店主の名字」に「鮨処」の文字を冠して店名とする習慣が見受けられること、一般的な需要者は「鮨処」の語を冠した店名を 「鮨処○○」と表現してレビューを掲載すること、日本全国各所で「飲食物の提供」の役務を提供する事業者が、自己の役務の出所表示として「濱」の文字を使用している事実が確認できること等から、「濱」の文字部分は自他役務識別機能を有さないか又は極めて弱いことから、各引用商標は構成全体で一つの出所を示すものとして認識される。 そうすると、各引用商標からはいずれも「スシドコロハマ」の称呼が生じる。 (3) 原告が審判段階において挙げた過去の審決例や登録例について、本件審決が「本願商標と引用商標が類似しているか否かは、両商標を個別に比較して検討すべきである」旨の判断をしたことにつき、原告が上記事例を指摘し たのは、これらの登録事例で示された判断の基準が本願商標に係る類否判断を行う際にも同様に用いることが可能と考えたためであるから、一概に「個別に比較して検討すべき」とするのは妥当でない。 (4) 本願商標と引用商標1とは、線状図形の有無、長方形図形の 標に係る類否判断を行う際にも同様に用いることが可能と考えたためであるから、一概に「個別に比較して検討すべき」とするのは妥当でない。 (4) 本願商標と引用商標1とは、線状図形の有無、長方形図形の有無、文字部分のうち前半部の「鮨処」の有無という顕著な相違があり、外観上明らかに 非類似である。 本願商標と引用商標2とは、線状図形の有無、前半部の文字「鮨処」の有無という顕著な相違があり、外観上明らかに非類似である。 称呼について、本願商標は構成文字に相応して「ハマ」の称呼が生じるところ、各引用商標からは「スシドコロハマ」の称呼が生じ、非類似である。 観念について、本願商標からは「濱」の文字に相応して「はまべ」の観念 が生じるところ、各引用商標からは「濱という鮨屋」若しくは「濱さんの鮨屋」ほどの意味合いが生じることから、観念も非類似である。 以上によれば、本件審決の本願商標と各引用商標との類否判断は誤りであり、本件審決は取り消されるべきである。 (5) 被告は、乙4ないし17を挙げて、本願商標の指定役務を提供する業界に おいて、一本線が装飾的なものとして実際に使用されている事例があるとする。しかし、乙4ないし17は、一本線が複数の文字列との関係で使用されていることから、当該図形が装飾的なものと看取されるものであり、漢字1字と線状図形という少ない要素で構成される本願商標とは異なる。 (6) 甲11ないし20のとおり、日本全国の各所において、飲食物の提供を役 務とする事業者が、自己の役務の出所表示として「濱」の文字を使用している。かかる使用実績に鑑みれば、文字「濱」は「飲食物の提供」の役務を提供する同業者の中で普通に使用されるに至っており、自他識別機能を有しない。 また、「濱」の新字体であ 濱」の文字を使用している。かかる使用実績に鑑みれば、文字「濱」は「飲食物の提供」の役務を提供する同業者の中で普通に使用されるに至っており、自他識別機能を有しない。 また、「濱」の新字体である「浜」の語についても、指定役務「飲食物の提 供」との関係で、全国各地の同業者の間で普通に使用されている(甲58の1ないし23)。かかる使用実績に鑑みれば、需要者は役務の出所を判別するに当たり、本願商標及び各引用商標の構成全体を一つの識別標識として取引に資することが自然である。そのため、構成の一部のみを分離して類否判断を行うことは実際の取引実情に反する。 〔被告の主張〕(1) 本願商標と各引用商標との類否ア本願商標について本願商標は、行書体風に大きく表された黒色の「濱」の文字に、筆で斜めに一本線を引いたように表された黒色の図形である線状図形を、一部重 なるようにして配してなるものである。 そして、線状図形は、特段の特徴のない一本線のデザインであって、単に装飾的なものとして看取されるといえる。また、本願商標の指定役務を提供する業界において、斜線や直線等の一本線が、装飾的なものとして実際に使用されている事例を、以下の(ア)ないし(セ)から確認することができる(乙4ないし17)。 (ア) 「たすき」の事例(乙4)(イ) 「紅はし」の事例(乙5)(ウ) 「藍亭」の事例(乙6)(エ) 「ぎゅう丸」の事例(乙7)(オ) 「Bonsalute」の事例(乙8) (カ) 「風び」の事例(乙9)(キ) 「ドクターランチ」の事例(乙10)(ク) 「日本料理瀬戸内」の事例(乙11)(ケ) 「筑豊らーめんばさらか」の事例(乙12)(コ) 「んだんだ」の事例(乙13) (キ) 「ドクターランチ」の事例(乙10)(ク) 「日本料理瀬戸内」の事例(乙11)(ケ) 「筑豊らーめんばさらか」の事例(乙12)(コ) 「んだんだ」の事例(乙13) (サ) 「道頓堀今井」の事例(乙14)(シ) 「柿家すし」の事例(乙15)(ス) 「銀のくら」の事例(乙16)(セ) 「旬彩グリル香林」の事例(乙17)また、本願商標構成中の「濱」の文字は、「浜」の漢字の旧字体であって(乙 18)、当該文字は、「海または湖に沿った水ぎわの平地。はまべ。」等の意味合いを有する語であり(乙19)、指定役務との関係において、役務の質や特徴等を表す語とはいえない。 そして、上記(ア)ないし(セ)のとおり、斜線や直線等の一本線は、装飾的なものとして使用されているものであって、需要者に印象付けるために商標 や宣伝広告において視覚的効果のために装飾的なデザインを施すことは一般 的であるから、線状図形は、単に装飾的なものとして看取されるといえる。 そうとすれば、本願商標の構成中、顕著に表された「濱」の文字が、取引者、需要者に対し、役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるというべきであるから、当該文字部分を要部として分離抽出し、他人の商標と比較することも許されるというべきである。 そうすると、本願商標は、「濱」の文字部分に相応して「ハマ」の称呼が生じるとともに、「はまべ」の観念が生じる。 イ引用商標1について引用商標1は、四隅の角が内側に小さく湾曲した、枠付きの紺色の縦長長方形図形(以下「長方形図形」という。)内に、楷書体風に表された、「鮨処」 の文字と、これより大きく行書体風に「濱」の文字を、それぞれ白抜きにし、一連で縦書きにして配してなるものである。なお、原告は、 (以下「長方形図形」という。)内に、楷書体風に表された、「鮨処」 の文字と、これより大きく行書体風に「濱」の文字を、それぞれ白抜きにし、一連で縦書きにして配してなるものである。なお、原告は、引用商標1の構成文字は同書体で表されていると主張するが、乙20で示すように、上記のとおり異なる書体で記載したものとみるべきである。 そして、長方形図形は、上記のとおり四隅の角が僅かに内側に湾曲したり、 枠を伴っていたりするものの、全体としてみれば、特徴的とはいい難い形状である。また、中央に配された「鮨処」の文字と大きく表された「濱」の文字が、白抜きで目立つように表されていることから、長方形図形は文字部分の装飾や背景として看取、認識されるものというべきである。 さらに、構成中の「鮨処」の文字は、指定役務との関係において、「甘味処」 (乙21)、「(お/御)食事処」(乙22ないし24)、「蕎麦処」(乙25ないし27)等のように、「処」の文字に提供する飲食物の内容を冠して、飲食店を表すものとして使用されている実情があることからすれば、「鮨処」の文字は「鮨を提供する飲食店」ほどの意味合いを理解させるものであり、役務の提供の場所を表すものといえる。また、後掲に示すとおり、鮨を提供する飲 食店において実際にそのように使用されている実情がある(乙28ないし4 5)。そうすると、「鮨処」の文字は、自他役務の識別標識としての機能がないか極めて弱い部分といえる。 また、後掲に示す事例においては、「鮨処○○」と表示された店名について、「○○」部分を単独で又は他の文字と結合するなどして、自他役務の出所識別標識の要部として使用している様子がうかがえる(乙28ないし31、3 3ないし44)。 以上よりすると、引用商標1の構成中、顕著 」部分を単独で又は他の文字と結合するなどして、自他役務の出所識別標識の要部として使用している様子がうかがえる(乙28ないし31、3 3ないし44)。 以上よりすると、引用商標1の構成中、顕著に表された「濱」の文字部分が、取引者、需要者に対し、最も強く支配的な印象を与える部分というべきであるから、当該文字部分を要部として分離抽出し、他人の商標と比較することも許されるというべきである。また、「濱」の文字は、上記のとおり、「は まべ」等の意味合いを有する漢字「浜」の旧字体である。したがって、引用商標1は、「濱」の文字部分に相応して「ハマ」の称呼が生じるとともに、「はまべ」の観念が生じる。 ウ引用商標2について引用商標2は、「鮨処濱」の文字を標準文字で表してなるところ、「鮨処」 の文字と「濱」の文字とは1文字分の空白があることから、視覚上分離して看取し得るものである。また、「鮨処」の文字は、上記のとおり、指定役務との関係で「鮨を提供する飲食店」ほどの意味合いを理解させるものであって、役務の提供の場所を表すものであるから、自他役務の識別標識としての機能がないか極めて弱い部分といえる。 そうすると、引用商標2の構成中、自他役務の識別標識としての機能を強く果たす部分(要部)は「濱」の文字部分にあるといえ、当該文字は、上記のとおり、「はまべ」等の意味合いを有する語「浜」の旧字体である。 したがって、引用商標2は、「濱」の文字部分に相応して「ハマ」の称呼が生じるとともに、「はまべ」の観念が生じる。 エ本願商標と引用商標の類否について (ア) 本願商標と引用商標1の類否について本願商標の要部と引用商標1の要部を比較するに、両者は、共に「浜」の漢字の旧字体である「濱」の文字を共通にするものであ 用商標の類否について (ア) 本願商標と引用商標1の類否について本願商標の要部と引用商標1の要部を比較するに、両者は、共に「浜」の漢字の旧字体である「濱」の文字を共通にするものであるから、取引者、需要者に同一の出所表示として認識され得るというべきである。したがって、本願商標と引用商標1は、外観において類似するものである。 次に、称呼についてみるに、本願商標と引用商標1は、「ハマ」の称呼を共通にするものである。 さらに、観念についてみるに、本願商標と引用商標1は、「はまべ」の観念を共通にするものである。 そうすると、本願商標と引用商標1は、外観において類似し、称呼及び 観念を共通にするものであるから、これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両商標は、全体として役務の出所について誤認混同を生じるおそれがある類似の商標と判断すべきである。 (イ) 本願商標と引用商標2の類否について 上記(ア)と同様に、本願商標と引用商標2についても、外観において類似し、称呼及び観念を共通にするものであるから、これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両商標は、全体として役務の出所について誤認混同を生じるおそれがある類似の商標と判断すべきである。 オ本願商標の指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務の類否について本願商標の指定役務中、第43類「飲食物の提供、和食の提供、鉄板焼き料理の提供、家庭用電気トースターの貸与、家庭用電子レンジの貸与、家庭用電気式ホットプレートの貸与、業務用加熱調理機械器具の貸与、業務用調理台の貸与、業務用流し台の貸与、家庭用加熱器(電気式のものを除く。 提供、家庭用電気トースターの貸与、家庭用電子レンジの貸与、家庭用電気式ホットプレートの貸与、業務用加熱調理機械器具の貸与、業務用調理台の貸与、業務用流し台の貸与、家庭用加熱器(電気式のものを除く。) の貸与、食器の貸与、家庭用調理台の貸与、家庭用流し台の貸与、調理用機 械器具の貸与、カーテンの貸与、家具の貸与、壁掛けの貸与、敷物の貸与」は、引用商標の指定商品及び指定役務中、第43類「飲食物の提供、業務用加熱調理機械器具の貸与、業務用調理台の貸与、業務用流し台の貸与、食器の貸与、調理用機械器具の貸与、椅子・テーブル・テーブル用リネン・ガラス食器の貸与、飲料水ディスペンサーの貸与」と同一又は類似の役務である。 カ小括上記のとおり、本願商標は、引用商標と類似の商標であって、その指定役務は、引用商標の指定役務と同一又は類似のものであるから、法4条1項11号に該当する。 (2) 原告の主張に対する反論 ア原告の主張(1)について飲食物の提供を行う業界において、一定程度の事業者が、自己の役務の出所表示として「濱」の文字を採択して使用しているとしても(甲11ないし20、22)、「濱」という店名の店舗が全国に多数あり、店名として一般的に使用されているとまでは到底いえないから、そのことをもって直ちに「濱」 の文字の自他役務の識別力がない又は極めて弱いとみるべきではない。 また、飲食物の提供を行う業界において、漢字一字の名称は自他役務の識別標識としての機能が弱いとする主張は、具体的な根拠を欠くものであり、また、原告が提示した拒絶査定の事案(甲1ないし4)にしても、拒絶理由通知書の内容からすれば、漢字一文字であることを理由に識別力が否定さ れたものではないことは明らかである。さらに、事例(乙28ない 原告が提示した拒絶査定の事案(甲1ないし4)にしても、拒絶理由通知書の内容からすれば、漢字一文字であることを理由に識別力が否定さ れたものではないことは明らかである。さらに、事例(乙28ないし45)についてみるに、店名の「鮨処」に続く文字が、漢字一字のものであるか、それ以外の文字によって構成されるものであるかによって、需要者による認識に差異が生じる等、識別力に強弱があるとみるべき事情は見られないから、原告の主張はその根拠に乏しいものである。 イ原告の主張(2)について 「鮨」を提供する事業者の店名について、「鮨処」に続く文字が店主の名字に限られないことは、事例(乙28ないし45)からも明らかである。 また、上記事例にみられるように、「鮨」を提供する事業者が、自己のウェブサイト等において、「鮨処○○」の文字とは別に、「鮨処○○」の文字から「鮨処」を除いた「○○」の文字部分を、単独で又は他の文字と結合して 使用している実情がある(乙28ないし31、33ないし44)ことからすれば、上記事業者は、「鮨処」の文字を除いた「○○」の文字部分を、自己の出所表示の中心的役割を果たす部分として位置付け、上記ウェブサイト等を通じて、取引者、需要者に宣伝、告知しているとみることができる。 さらに、飲食物の提供を行う業界において、一定程度の事業者が、自己の 役務の出所表示として「濱」の文字を使用しているとしても、ただちに自他役務の識別力が否定されるといえないことは、上記のとおりである。 そうすると、上記のとおり、引用商標の要部は、「濱」の文字にあるというべきである。 なお、原告は「濱」の文字に識別力がないか又は極めて弱いと主張する一 方で、本願商標からは「はまべ」の観念が生じ、引用商標からは「濱という鮨屋」 部は、「濱」の文字にあるというべきである。 なお、原告は「濱」の文字に識別力がないか又は極めて弱いと主張する一 方で、本願商標からは「はまべ」の観念が生じ、引用商標からは「濱という鮨屋」又は「濱さんの鮨屋」程の意味合いが生じると主張しており(準備書面(原告第1)6頁4行ないし6行)、これらの主張は矛盾するものである。 ウ原告の主張(3)について本願商標と引用商標が類似することについては、上記のとおりであって、 商標を構成する文字及び当該文字の語義や使用実態の異なる他の商標の事例をそのまま用いることは適切とはいえない上、本件とは論点が異なる審決例(甲45、46)や、構成する文字の異なる商標の登録例が単に存在するというだけの事実(甲47ないし54)によって、本願商標についての判断が左右されるべきではない。 エその余の原告の主張について 前記(1)のとおりであり、本件審決に誤りはない。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由(本願商標と各引用商標との類否判断の誤り)について(1) 商標の類否判断の基準商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用さ れた場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品又は役務の取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判 断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。 そして、商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別 づいて判 断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。 そして、商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは許され ないが、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験 則の教えるところである(最高裁昭和34年(オ)第856号同36年6月23日第二小法廷判決・民集15巻6号1689頁参照)。また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標 識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部 分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二 小法廷判決・集民228号561頁参照)。 (2) 本願商標について本願商標は 年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二 小法廷判決・集民228号561頁参照)。 (2) 本願商標について本願商標は、行書体風に大きく表された黒色の「濱」の文字に、筆で斜めに一本線を引いたように表された黒色の図形である線状図形を、一部重なるようにして配してなるものであるから、「濱」の文字と一本線は外観上分離し て観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合していると認められるが、線状図形は、毛筆様ではあるものの特段の特徴のない一本線に近いデザインであって、単に装飾的なものとして看取されるといえることに加え、「濱」の文字中の右下の点と重なる部分については白抜きがされ、文字部分とのコントラストを付けることで文字部分を強調し立体感を出して いる。 そうすると、本願商標の構成中、強調された「濱」の文字部分が、取引者、需要者に対し、強く支配的な印象を与えるというべきであるから、当該文字部分を要部として分離抽出し、他人の商標と比較することも許されるというべきである。 また、「濱」の文字は、「浜」の漢字の旧字体であるところ、当該文字は、「海または湖に沿った水ぎわの平地。はまべ。」(乙19)等の意味合いを有する語である。 そうすると、本願商標は、「濱」の文字部分に相応して「ハマ」の称呼が生じるとともに、「はまべ」程度の観念が生じるということができる。 (3) 各引用商標について ア引用商標1は、四隅の角が内側に小さく湾曲した、枠付きの紺色で、縦長の長方形図形内に、楷書体風に表された、「鮨処」の文字と、これより大きく行書体風に「濱」の文字を、それぞれ白抜きにし、一連で縦書きにして配してなる。 長方形図形 曲した、枠付きの紺色で、縦長の長方形図形内に、楷書体風に表された、「鮨処」の文字と、これより大きく行書体風に「濱」の文字を、それぞれ白抜きにし、一連で縦書きにして配してなる。 長方形図形は、四隅の角がわずかに内側に湾曲し、枠を伴っているもの の、全体としてみれば特徴のない形状であるということができる。そして、その中央に配された「鮨処」の文字より大きく表されている「濱」の文字が、白抜きで目立つように表されていることから、長方形図形は、文字部分の装飾や背景として看取、認識されるものというのが相当である。 「処」(どころ、ところ)については、その前の語に示された物を提供する 飲食店等の意に解される(乙21)ところ、「鮨処」の文字は、「濱」の文字よりも小さく、線も細く、楷書体風の文字で表されていることからすると、「鮨処」の文字は「鮨を提供する飲食店」との意味合いを理解させるものである。そうすると、「鮨処」の文字は、自他役務の識別標識としての機能がないか、極めて弱い部分といえる。 以上によれば、引用商標1の構成中、「鮨処」の文字部分と「濱」の文字部分について、これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないというべきであるから、「濱」の文字部分を要部として分離抽出し、他人の商標と比較することは許されるというべきである。 そうすると、引用商標1からは、文字部分の一連の称呼として「スシドコロハマ」との称呼も生じるほか、前記「鮨処」の意に照らせば、飲食物の提供等の役務との関係では、「濱という鮨屋」ないし「濱の営む鮨屋」程度の観念も生じ得るが、一方で、要部である「濱」の文字は、前記のとおり、「はまべ」等の意味合いを有する漢字「浜」の旧字体であるから、 供等の役務との関係では、「濱という鮨屋」ないし「濱の営む鮨屋」程度の観念も生じ得るが、一方で、要部である「濱」の文字は、前記のとおり、「はまべ」等の意味合いを有する漢字「浜」の旧字体であるから、引用商標1は、 「濱」の文字部分に相応して「ハマ」の称呼が生じるとともに、「はまべ」 程度の観念が生じるというべきである。 イ引用商標2は、「鮨処濱」の文字を標準文字で表してなるところ、「鮨処」の文字と「濱」の文字とは1文字分の空白があることから、視覚上分離して看取し得る。また、「鮨処」の文字は、上記アのとおり、指定役務との関係で「鮨を提供する飲食店」との意味合いを理解させるものであって、自 他役務の識別標識としての機能がないか極めて弱い部分である。 以上によれば、上記アと同様に、引用商標2の構成中、自他役務の識別標識としての機能を強く果たす部分(要部)は「濱」の文字部分にあるといえる。そうすると、引用商標2からも、文字部分の一連の称呼として「スシドコロハマ」との称呼も生じるほか、前記「鮨処」の意に照らせば、飲食物の 提供等の役務との関係では、「濱という鮨屋」ないし「濱の営む鮨屋」程度の観念も生じ得るが、一方で、要部である「濱」の文字部分は、上記アのとおり、「はまべ」等の意味合いを有する語「浜」の旧字体であるから、引用商標2は、「濱」の文字部分に相応して「ハマ」の称呼が生じるとともに、「はまべ」程度の観念が生じる。 (4) 本願商標と各引用商標の類否について本願商標の要部と引用商標1とは、ともに「浜」の漢字の旧字体である「濱」の文字部分を共通にするところ、両商標において、同部は、いずれも役務の出所識別標識として分離して抽出することができる部分(要部)であるから、この部分のみを比較して商標の類否を 字の旧字体である「濱」の文字部分を共通にするところ、両商標において、同部は、いずれも役務の出所識別標識として分離して抽出することができる部分(要部)であるから、この部分のみを比較して商標の類否を判断することが許されることについて は前記(1)のとおりである。そうすると、本願商標と引用商標1は、その外観において類似する。 称呼についても、本願商標と引用商標1は、「ハマ」の称呼を共通にするものである。 観念についてみると、本願商標と引用商標1は、「はまべ」程度の観念を共 通にするものである。 以上によれば、本願商標と引用商標1は、外観において類似し、「ハマ」の称呼及び観念を共通にするものであるところ、引用商標1からは「スシドコロハマ」の称呼も生じ、一部役務との関係では、「濱という鮨屋」ないし「濱の営む鮨屋」程度の観念も生じ得るところ、前記のとおり役務の出所識別標識として分離抽出することができる部分(要部)から生じる「ハマ」の称呼 及び「はまべ」程度の観念を共通とするものであり、これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両商標は、全体として役務の出所について誤認混同を生じるおそれがある類似の商標である。 次に、本願商標の要部と引用商標2とは、ともに「浜」の漢字の旧字体で ある「濱」の文字を共通にし、取引者、需要者に同一の出所表示として認識され得るから、本願商標と引用商標2は、外観において類似する。 称呼についても、本願商標と引用商標2は、「ハマ」の称呼を共通にするものである。 観念についてみると、本願商標と引用商標2は、「はまべ」程度の観念を共 通にする。 以上によれば、本願商標と引用商標2は、外観において類似し、「ハマ」の 」の称呼を共通にするものである。 観念についてみると、本願商標と引用商標2は、「はまべ」程度の観念を共 通にする。 以上によれば、本願商標と引用商標2は、外観において類似し、「ハマ」の称呼及び観念を共通にするものであるところ、引用商標2からは「スシドコロハマ」の称呼も生じ、一部役務との関係では、「濱という鮨屋」ないし「濱の営む鮨屋」程度の観念も生じ得るところ、前記のとおり役務の出所識別標 識として分離抽出することができる部分(要部)から生じる「ハマ」の称呼及び「はまべ」程度の観念を共通とするものであり、これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両商標は、全体として役務の出所について誤認混同を生じるおそれがある類似の商標である。 (5) 本願商標の指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務の類否について 本願商標の指定役務中、第43類「飲食物の提供、和食の提供、鉄板焼き料理の提供、家庭用電気トースターの貸与、家庭用電子レンジの貸与、家庭用電気式ホットプレートの貸与、業務用加熱調理機械器具の貸与、業務用調理台の貸与、業務用流し台の貸与、家庭用加熱器(電気式のものを除く。)の貸与、食器の貸与、家庭用調理台の貸与、家庭用流し台の貸与、調理用機械器具の貸 与、カーテンの貸与、家具の貸与、壁掛けの貸与、敷物の貸与」は、引用商標の指定商品及び指定役務中、第43類「飲食物の提供、業務用加熱調理機械器具の貸与、業務用調理台の貸与、業務用流し台の貸与、食器の貸与、調理用機械器具の貸与、椅子・テーブル・テーブル用リネン・ガラス食器の貸与、飲料水ディスペンサーの貸与」と同一又は類似の役務である。 (6) 結論以上のとおり、本願商標は、各引用 与、調理用機械器具の貸与、椅子・テーブル・テーブル用リネン・ガラス食器の貸与、飲料水ディスペンサーの貸与」と同一又は類似の役務である。 (6) 結論以上のとおり、本願商標は、各引用商標と類似する商標であって、各引用商標の指定役務と同一又は類似の役務について使用をするものであるから、法4条1項11号に該当し、登録することができず、同旨の本件審決の判断に誤りはない。 2 原告の主張に対する判断(1) 原告は、本願商標の構成中の「濱」の文字部分は、自他役務の識別力を有しないか、極めて弱く、本願商標は線状図形も含め構成全体で一つの識別標識として機能する旨を主張する。 しかし、既に述べたとおり、本願商標の構成中、強調された「濱」の文字部 分が、取引者、需要者に対し、強く支配的な印象を与えることから、当該文字部分について出所識別機能を有する部分として分離抽出することができるというべきである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 (2) 原告は、本願商標の漢字一文字の商標出願については、識別力がないとして 拒絶理由通知がされた例(甲1ないし4)が存在するところから、本願商標の 「濱」の文字の識別力は弱く、文字「濱」は飲食物の提供の役務において普通に使用されているから自他識別機能を有しない旨主張し、それに沿う証拠(甲11ないし20)を提出する。 しかしながら、商標登録の可否は、商標の構成、指定商品又は指定役務、取引の実情等を踏まえて、具体的な実情に基づき商標ごとに個別に判断すべきも のであるから、原告が指摘するような拒絶理由通知がされた例があるからといって、前記の結論が左右されるものではなく、「濱」の文字部分と線状図形との結合商標である本願商標において、識別力を べきも のであるから、原告が指摘するような拒絶理由通知がされた例があるからといって、前記の結論が左右されるものではなく、「濱」の文字部分と線状図形との結合商標である本願商標において、識別力を有する部分が「濱」の文字部分であると認められることについては既に述べたとおりであり、原告の提出する「濱」が店名ないしその一部に用いられている旨の証拠は、前記判断を左右す るものではない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 (3) 原告は、各引用商標からは、「濱という鮨屋」ないし「濱さんの鮨屋」との観念が生じるから、本願商標と観念において類似しない旨を主張する。 しかし、各引用商標から一部指定役務との関係で「濱という鮨屋」ないし「濱 さんの鮨屋」との観念が生じることがあるとしても、各引用商標の役務の出所識別機能を有する「濱」の文字から生じる「はまべ」程度の観念において、各引用商標と本願商標は共通し、その他外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、各引用商標と本願商標とは、役務の出所について誤認混同を生じるおそれがある類似の 商標であると認められることについて、既に述べたとおりである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 3 結論以上によれば、原告主張の取消事由は理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法はない。 よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官東海林 保 裁判官 裁判長 裁判官 東海林保 裁判官 今井弘晃 裁判官 水野正則 (別紙審決書写し省略)

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