1上記の者に対する窃盗未遂、窃盗被告事件について、当裁判所は、検察官金岡佑樹、国選弁護人平岩篤郎各出席の上審理し、次のとおり判決する。 主 文被告人を懲役1年に処する。 この裁判が確定した日から2年間その刑の執行を猶予する。 理 由(罪となるべき事実)被告人は、第1 令和元年12月24日午後4時6分頃、札幌市甲区(住所省略)a店1階食料品売場において、買い物カートに掛けられていたA所有のバッグ1個を手でつかんで窃取しようとしたが、これに気が付いた同人に同バッグを奪い返されたため、その目的を遂げず、第2 令和2年7月5日、前記a店2階b店において、商品として陳列されていた同店責任者B管理のパンツ等3点(販売価格合計1万4174円)を窃取し、第3 同年9月22日、同区(住所省略)所在のc店において、試供品として陳列されていた同店店長C管理のペンシル&パウダーのテスター1本(時価約1300円相当)を窃取し、第4 同年10月28日、同所所在のd店において、商品として陳列されていた同店店長D管理のアイスクリーム等69点(販売価格合計1万7040円)を窃取した。 (訴訟能力に関する弁護人の主張に対する判断)弁護人は、被告人が訴訟能力を欠いていることは明らかであるから、刑事訴訟法314条1項に基づいて直ちに公判手続を停止し、回復の見込みがないと判断される場合、同法338条4号に準じて判決で公訴棄却すべきである旨主張するので、以下、検討する。 第1 認定事実 2被告人の訴訟能力に関し、関係証拠によって指摘することができる事情は、以下のとおりである(以下、「訴訟能力に関する弁護人の主張に対する判断」の項において公訴事実の特定に当た 認定事実 2被告人の訴訟能力に関し、関係証拠によって指摘することができる事情は、以下のとおりである(以下、「訴訟能力に関する弁護人の主張に対する判断」の項において公訴事実の特定に当たっては、公訴事実第1から第4の順に「①事実」から「④事実」と表記する。)。 1 被告人は、本件が札幌簡易裁判所に公訴提起され、令和3年4月12日の第1回公判期日における罪状認否の際、①から④の事実についてはいずれも間違いない旨述べた。その際、弁護人は、①事実につき、窃盗の故意を欠いており、また、①から④事実につき、責任能力を欠いており、結局全て無罪である旨の意見を述べた(なお、後記第5回公判期日において、責任能力を争う主張は撤回された。)。 本件は、同年6月1日、同法332条により札幌地方裁判所に移送され、その後、責任能力に関する争点整理を中心とする打合せが行われた。 2 被告人は、同年10月6日の第2回公判期日における公判手続の更新の際、①事実について、「買い物カートにかけられていたバッグについては、持ち主から見せられて、持ち主と話した記憶しかありません。私が、そのバッグに触れた記憶はありませんし、手でつかんで窃取しようとした記憶もありません。」と述べるとともに、②から④事実については、公訴事実自体に関して前と異なる陳述をしなかったものの、④事実に関し、「レジに並んでいたところ、レジが混んでて、1時間に1回しか来ないバスが出発してしまうと思ったため、バスに急いで乗るためにレジで会計をせずに通り過ぎ、店の商品を持っていってしまいました。」と述べた。 被告人は、同期日の被告人質問の際、①事実について、「セルフレジ付近を通りかかった際にのぞいてみたところ、買い物客が持っているバッグを見て、ちょっと変わったバッグだななどと思った。」、「目の前にい 被告人は、同期日の被告人質問の際、①事実について、「セルフレジ付近を通りかかった際にのぞいてみたところ、買い物客が持っているバッグを見て、ちょっと変わったバッグだななどと思った。」、「目の前にいた持ち主に対し、バッグについて、かわいいね、私今趣味でやってるんだけど、表側は刺しゅうしたんだけど、また裏側は…これから私の楽しみなのよなどと声を掛けたら、相手も、あなたが言ってくだされば私もまた奮起を得て頑張って、まだ刺しゅうしてない側をどんな形・色にしようかななどと話を返してきた。それで、私は礼を言って立ち去った。」、 「バッグに触ってないと思う。記憶が定かでない。」旨供述した。また、被告人は、弁護人から、防犯カメラ映像に関する甲2号証の写真1を示され、写っている人物の1人が自身である旨供述し、同写真3、4を示され、真ん中に写っている人物が自分であり、自身の右側に買い物カートがあり、ここにかばんが掛かっているのが見える旨供述したほか、同写真5を示された際には、買い物カートに掛かっていたかばんがなくなっており、自分の右肘の下に写ったかばんについて、持ってるみたいである旨供述した上、「ああいうふうに取って掛けて持って出た、出ようと思ったことはないと思う。」旨供述した。さらに、被告人は、かばんを触った記憶の有無を尋ねられて相手との会話について述べかけ、重ねて弁護人から、「会話はちょっと後においとくけれども、あなた自身がかばんを手に取ったとか、かばんに触ったという記憶は、あるかないか。」などと問われると、「…少しは触ったかもわかんないです。」などと供述するも、更に確認されると、改めて「彼女は触らせてくれなかったんじゃないかなと思うんですよね。私は触ってません。」と供述し、検察官から再確認されても、「取った覚えはないですね。」などと供述し どと供述するも、更に確認されると、改めて「彼女は触らせてくれなかったんじゃないかなと思うんですよね。私は触ってません。」と供述し、検察官から再確認されても、「取った覚えはないですね。」などと供述した。 3 弁護人は、第2回公判期日後に被告人の訴訟能力を争う意向を示し、検察官も被告人の精神鑑定を請求し、当裁判所はこれを採用し、令和4年3月23日の第3回公判期日において鑑定人E医師(以下「E医師」という。)作成の鑑定書(職2)を取り調べた。 4 被告人は、同年4月22日の第4回公判期日における被告人質問の際、今が4月である旨を述べ、「ここがどういう場所かというのは分かりますか。」という問いに対し、「裁判所。」と述べ、「(裁判官が)何する人か分かりますか。」という問いに対し、「…裁く人。」と述べ、公訴事実に記載されている事実について弁護人から確認された記憶はあることなども述べた。また、被告人は、「盗むことが悪いことだというのは分かりますか。」「悪いことをすると場合によっては刑務所に行ったりすることがあると…分かりますか。」という問いに対しては、いずれも「はい。」と述べ、①事実について、(地域名省略)にあるaというスーパーで ちょっと変わったバッグが目に入った記憶はあるが、そのバッグを手に掛けていないし、そのバッグについて持ち主と会話した記憶もない旨述べ、さらに、②から④事実の店舗に行った記憶はあり、スーパーで食料品や衣類を盗んだ記憶はある旨述べるとともに、万引きをした際のエピソードとして、会計のためにレジに並ぼうと思ったもののバスの時間が迫っていたので会計をすることなく商品を持ったまま店から出た記憶はある旨述べた。他方で、被告人は、同期日の正確な日付は言えず、裁判所に来ることとなった理由を問われて、「何か悪いことをしたんでしょう が迫っていたので会計をすることなく商品を持ったまま店から出た記憶はある旨述べた。他方で、被告人は、同期日の正確な日付は言えず、裁判所に来ることとなった理由を問われて、「何か悪いことをしたんでしょうか。」などと述べ、検察官及び弁護人の役割については分からない旨述べた。 5 被告人は、同年6月2日の第5回公判期日における公判手続の更新の際、裁判長から、①事実と②から④事実につき、それぞれ被告人のこれまでの陳述を引用された上、「主張を変えたい点はありますか。」と尋ねられ、いずれも「ありません。」と答えた。また、同期日においては、検察官及び弁護人と前記鑑定書提出後のE医師との面談結果に係る捜査報告書(甲35。以下、前記鑑定書と併せて「E鑑定意見」という。)が取り調べられた。 6 さらに、被告人の病状やそれが訴訟行為に与える影響について、E鑑定意見によって指摘できる事情は、後記⑴⑵のとおりである。 ⑴ 病状について、被告人は、㋐レビー小体型認知症に罹患しており、病状としては初期から中期の間にあり、認知機能の低下の程度は重篤ではないが、比較的短期間(日月単位)では認知の動揺により良い時と悪い時の変動を繰り返しながらも、年単位でみれば例外なく一方向性に低下していく。㋑知能指数は75であり、生活年齢と比較して知的発達水準は「境界域」―「平均の下」の域にあるほか、HDS-R(改定版長谷川式簡易知能スケール)は30点中23点(カットオフ値21/20点)で、MMSE-J(ミニメンタルステート検査日本版)は20点(カットオフ値24/23点)であった。㋒精神病症状としては、本人の背景や現在の状況に一致しない言動を意味する作話(質問等に対して記憶障害を取り繕うように出現する誘発性作話や誘引なく気分の高揚によって出現する自発性作話の双方を含む。)、 しては、本人の背景や現在の状況に一致しない言動を意味する作話(質問等に対して記憶障害を取り繕うように出現する誘発性作話や誘引なく気分の高揚によって出現する自発性作話の双方を含む。)、 5妄想、幻視が認められ、これらの精神病症状は令和2年10月頃から認知機能の低下とともに顕在化してきたが、令和3年12月頃から一定程度回復している。㋓場所の見当識は軽度に障害されている可能性があるが、時間や人物に対する見当識はほぼ保たれている。 ⑵ 病状が訴訟行為に与える影響について、被告人は、㋐複数の窃盗行為について起訴されていること、裁判が行われていることについては理解できているが、具体的な手続の詳細については理解できていない。㋑犯行に関連する記憶について、①事実に関し、犯行そのものを忘却している可能性が高く、②から④事実に関し、鑑定時においても、犯行に至る経緯や具体的な犯行態様に関する記憶が断片的になっており、時間経過とともに記憶が失われていく可能性が高く、そうした部分に関して取り繕うように作話が誘発されることに注意を要する。㋒以上のような裁判を受けていることの理解、犯行に関連する記憶を含め、被告人としての重要な利害についての理解、法曹三者の役割の理解、弁護人とのコミュニケーション等は、認知機能の低下により一定程度障害を受けているが、鑑定時点では著しいものではない。 ⑶ 前記⑴⑵の認定に係るE鑑定意見の信用性について検討する。 ア E医師は、精神科全般を専門とし、その経歴や鑑定経験に照らし、前記鑑定事項に関する鑑定人としての資質は十分あると認められる。 E医師は、自らの問診結果のほか、他の医療機関における医療記録を含む本件の事件記録や被告人の夫及び実妹から聞き取ったエピソード等を判断資料として多角的に検討している。また、各種脳画像検査によ る。 E医師は、自らの問診結果のほか、他の医療機関における医療記録を含む本件の事件記録や被告人の夫及び実妹から聞き取ったエピソード等を判断資料として多角的に検討している。また、各種脳画像検査により把握した前頭優位の大脳皮質の中等度の萎縮等の所見や,認知症による障害の程度を調べるのに一般的に用いられていると考えられる改定版長谷川式簡易知能スケール及びミニメンタルステート検査を、臨床心理士の有資格者をして実施させ,その結果を合理的に評価して判断しており、その判断の過程はできる限り客観性を備えたものといえる。 そして、E鑑定意見はあくまで鑑定時の被告人に関するものであるが、前記2、4、5で認定した各公判期日における被告人の応訴態度と、整合性があり又は矛盾 6しない。すなわち、基本的に、①事実と②から④事実とで認めるものと否認するものを分け、その態度を第5回公判期日における公判手続の更新の際にも維持し、鑑定書提出後の第4回公判期日の被告人質問時には、裁判官を裁く人と答え、かつ、自分の居場所を裁判所と答え、年月日も月単位では答えているのであって、鑑定時に、見当識が大きくは失われておらず、自分が複数の窃盗行為について起訴されて裁判を受けていることや被告人としての重要な利害を、大まかに理解していると考えられることと整合性がある。また、鑑定時における犯行に関連する記憶について、第2回公判期日以降一貫して①事実についてバッグに触れた記憶も窃取しようとした記憶もない旨を供述している上、防犯カメラ映像(甲2)及び被害者の警察官調書(甲1)によれば被告人と被害者との間に会話はほぼなかったと認められるにもかかわらず、第2回公判期日では被害者と会話したとしてその内容を具体的に供述する一方で第4回公判期日では会話した記憶がない旨供述していて、作話により対 被害者との間に会話はほぼなかったと認められるにもかかわらず、第2回公判期日では被害者と会話したとしてその内容を具体的に供述する一方で第4回公判期日では会話した記憶がない旨供述していて、作話により対応していると考えられること、及び、②から④事実について、一貫して間違いない旨供述するものの、それほど詳細に供述はしていないこととも整合性がある。さらに、鑑定書提出後、検察官・弁護人の役割は分からないと供述しているものの、E鑑定意見ではその役割を言語化する能力に相応の障害を抱えている旨の説明がされていてこれが不合理とはいえないことを踏まえると、法曹三者の役割の理解が一定程度障害されているが著しくはないという点も、前記被告人供述に矛盾するとはいえない。さらに、各公判期日で質問に答える被告人の態度は、相手の質問の趣旨を分かった上で、その時点における記憶に沿って供述することができているものであり、例えば、第2回公判期日で、バッグに触ったか否かを質問されているのに被害者との会話を供述するなど弁護人の意図を離れる場面があるものの、弁護人から会話は後においてなどと働きかけを受ければその意図に応じた供述をし、また、鑑定書提出後の第4回公判期日でも、公訴事実について弁護人から確認された記憶はある旨供述していることは、鑑定時までの被告人につき、弁護人とのコミュニケーションが一定程度障害を受けているが著しくはないという点と整合性がある。 したがって、前記⑴⑵の認定に係るE鑑定意見の信用性は高い。 イ弁護人は、E医師に訴訟能力についての鑑定経験がなく、訴訟能力の判断基準を自ら定められていないこと等を理由にE鑑定意見は信用できない旨をいう。しかし、本件鑑定事項は、現時点の被告人の精神障害の存否、その病症名及びその程度、精神障害が被告人の訴訟行為にいかな の判断基準を自ら定められていないこと等を理由にE鑑定意見は信用できない旨をいう。しかし、本件鑑定事項は、現時点の被告人の精神障害の存否、その病症名及びその程度、精神障害が被告人の訴訟行為にいかなる影響を与えるか並びにその病状が将来回復又は改善される見込みの有無であり、被告人の訴訟能力の有無という法的判断の前提となる事項であって、前記法的判断そのものではない。なお、E鑑定意見が訴訟能力の有無に直接言及する部分があるが、E医師は、例えば、鑑定書提出後の検察官及び弁護人からの聴取に対して、訴訟能力は保たれている旨回答するとともに、そこは司法の判断にもよるので、どの程度がどうというのは分からない旨回答しているとおり(甲35別添一覧表2/8)、訴訟能力の有無は法的判断であることを前提に精神障害が被告人の訴訟行為に与える影響を具体的に述べる中で言及しているにすぎない。その上で、前記鑑定事項はE医師の専門とするところであり、前記アで指摘した諸事情も考慮すれば、弁護人がいう訴訟能力についての鑑定経験の有無等がE鑑定意見の信用性を下げる理由にはならない。 ウ以上によれば、前記⑴⑵の認定に係るE鑑定意見は信用できる。 第2 被告人の訴訟能力の検討1⑴ 被告人が、レビー小体型認知症による認知機能の低下により、裁判を受けていること及び被告人としての重要な利害についての理解、法曹三者の役割の理解、犯行に関連する記憶、弁護人とのコミュニケーション等は、一定程度障害を受けており、鑑定時点においてその程度は著しくないといえる。そして、E医師が指摘する、変動を繰り返しつつ一方向性に低下していくという病態からすれば、これらが現時点でも一定程度障害を受けていると推認できる。しかし、後記⑵⑶のとおり、その障害の程度は、現時点においても著しいものではないと認められる しつつ一方向性に低下していくという病態からすれば、これらが現時点でも一定程度障害を受けていると推認できる。しかし、後記⑵⑶のとおり、その障害の程度は、現時点においても著しいものではないと認められる。 ⑵ 被告人は、鑑定前の時点のみならず、鑑定書提出後の被告人質問及び公判手続の更新における陳述変更の有無の確認の際も、自身が裁判所において複数の窃盗 8事件により刑事裁判を受けていることを理解し、見当識も大きくは失われておらず、相手の質問の趣旨を理解して答えるということも概ねできている。特に鑑定書提出後の被告人質問において、②から④事実を認めつつ、④事実に及んだ理由につき、1時間に1回しか来ないバスが出発してしまいそうであったためである旨の供述も維持する一方で、①事実については一貫して否認しているように、公訴事実によって応訴態度を分け、個々の訴訟行為について、その趣旨に従い、その時点での自身の記憶に沿った供述ないし対応をすることが概ねできており、かつ、弁護人も、鑑定書提出後から結審まで、被告人が争う①事実について不法領得の意思を争い、被告人が認めている②ないし④事実について実体要件で争ってはいないから、そこに弁護人とのコミュニケーションの障害が著しいとうかがわせる事情があるともいえない。 また、被告人は、①事実について犯行そのものを忘却している可能性が高く、②から④事実についても時間経過とともに記憶が失われていく可能性が高いが、第2回公判期日における被告人質問の際には、弁護人から防犯カメラ映像に係る甲2号証添付の写真を示されながら①事実について尋ねられ、バッグに手を掛けたこと以外の事柄について供述することができており、視覚的な資料による説明を受けながら記憶を喚起・保持することが一定程度できるともいえる。 さらに、被告人は、法曹三 ついて尋ねられ、バッグに手を掛けたこと以外の事柄について供述することができており、視覚的な資料による説明を受けながら記憶を喚起・保持することが一定程度できるともいえる。 さらに、被告人は、法曹三者の役割の理解が一定程度障害されているが、被告人の知能指数もHDS-R及びMMSE-Jの結果も認知機能等の著しい低下を示すものとは解されないこと、鑑定書提出後の被告人質問で、裁判官が何をする人か分かるか問われて、「…裁く人。」と誘導なく答えるなど裁判官の役割の実質を理解できていること、盗むことが悪いことであり、悪いことをすれば刑務所に行くこともあることが分かるかと問われて「はい」と供述できる程度に社会常識も保たれていることからすれば、現時点でも法曹三者の役割の理解ないしその能力の障害の程度が著しいものではないといえる。 ⑶ 以上の諸事情を総合すると、弁護人において、犯行時の防犯カメラ映像等の 9証拠を示すなどして視覚的に被告人の理解を補助するなどして被告人の記憶を喚起しつつ応訴方針を策定・説明し、被告人の意向を確認することは可能であり、また、被告人において、弁護人のこうした援助のほか裁判所の後見的支援も受けつつ、刑事裁判における被告人という自身が置かれた立場や自身の訴訟行為の持つ意味についてその実質を概括的に理解する能力は残されていると認められるから、前記⑴の障害の程度は現時点でも著しいものではないといえる。 2 この点、弁護人は、被告人が法曹三者の役割や現在置かれている状況、公訴事実記載の各犯行について、適切に認識・理解していないというが、いずれも前記1の検討を揺るがすものではない。また、弁護人は、E鑑定意見は令和4年3月末時点での被告人の認知機能等を明らかにするものにすぎず、現時点での被告人の認知機能等は不明である旨いう。しか 、いずれも前記1の検討を揺るがすものではない。また、弁護人は、E鑑定意見は令和4年3月末時点での被告人の認知機能等を明らかにするものにすぎず、現時点での被告人の認知機能等は不明である旨いう。しかし、前記1の検討に加え、例えば、被告人のMMSE―Jの結果をみると、令和3年11月12日実施のものと被告人が鑑定留置された令和4年1月21日以降実施のものとの間で合計点数に変化はなく、その後の公判期日における被告人の供述内容等をみても、被告人の認知機能等に大きな変化もうかがわれない。E医師も、被告人の認知機能が年単位でみれば一方向性に低下し続けていく旨述べるものの、日月単位といった比較的短期間では良い時と悪い時の変動を繰り返すとも述べており、数か月で急激に低下していくとの所見は示されていない。弁護人の主張は理由がない。 3 以上のとおり、現時点において、前記1⑴の障害の程度が著しくはないことからすれば、被告人の訴訟能力、すなわち、被告人としての重要な利害を弁別し、それに従って相当な防御をする能力は、相応に制限されているものの、未だこれを欠いているものではないと認められる。 第3 結論これまでの検討によれば、被告人が訴訟能力を欠いている旨の弁護人の主張に理由はなく、本件は、刑事訴訟法314条1項により公判手続を停止すべき場合及び同法338条4号に準じて判決で公訴棄却をすべき場合のいずれにも当たらない。 10(証拠の標目) (省略)(判示第1の事実認定の補足説明)1 本件の争点は、被告人が不法領得の意思を有していたと認められるかである。 防犯カメラ映像(甲2)及び被害者の警察官調書(甲1)を含む関係証拠によれば、被告人が、判示第1の日時・場所において、①被告人に背を向けてセルフレジで会計をしていた被害者及び同人が利用する買 ある。 防犯カメラ映像(甲2)及び被害者の警察官調書(甲1)を含む関係証拠によれば、被告人が、判示第1の日時・場所において、①被告人に背を向けてセルフレジで会計をしていた被害者及び同人が利用する買い物カートに背後から近づき、②同カートの取っ手部分に掛けられていた被害者所有のバッグ(以下「本件バッグ」という。)の持ち手部分を右手でつかみ、③その約1秒後には本件バッグを同カートの取っ手部分から外して右手で持ち、そのまま歩いたところ、④振り返った被害者から本件バッグを取り返されたものの、⑤被害者に何も言うことなくその場から立ち去った事実を認定することができる。 2 被告人に背を向けた被害者に背後から近づき本件バッグをつかみ、そのまま歩いたという被告人の行動は、バッグを無断で持ち去る行為そのものであり、加えて、本件バッグを取り返されても被害者に何も言わずその場から立ち去った点は逃走と解し得る行為であるから、被告人が被害者に無断で本件バッグを持ち去る意思で本件バッグをつかんだと考えるのが合理的である。また、買い物客のバッグは財布等の金品が入っていると容易に想定されることも併せ考えれば、これを自己の物とするために前記行動に出たと考えられる。そうすると、前記1の①から⑤の事実関係を総合すれば、被告人が不法領得の意思を有していたことが強く推認される。 この点、弁護人は、本件バッグを盗むつもりはなかった旨の被告人の供述に沿って被告人に不法領得の意思がなかった旨主張する。しかし、被告人は、防犯カメラ映像を印刷した写真を確認しても本件バッグをつかんだという客観的な事実に関する記憶を喚起することができない程に本件についての記憶が減退しているのであって、同供述は信用できないから、弁護人の主張は理由がない。 3 したがって、被告人が不法領得の意思を有して 的な事実に関する記憶を喚起することができない程に本件についての記憶が減退しているのであって、同供述は信用できないから、弁護人の主張は理由がない。 3 したがって、被告人が不法領得の意思を有していたと認められ、判示第1の事実を認定することができる。 11(法令の適用)1 構成要件及び法定刑を示す規定被告人の判示第1の所為は刑法243条、235条に、判示第2ないし第4の所為はそれぞれ刑法235条に、該当する。 2 刑種の選択判示の各罪についていずれも懲役刑を選択する。 3 併合罪の処理刑法45条前段の併合罪であるから、同法47条本文、10条により犯情の最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重をする。 4 宣告刑の決定以上の刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処する。 5 刑の執行猶予情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から2年間その刑の執行を猶予する。 6 訴訟費用の不負担訴訟費用は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。 (量刑の理由)被告人は、店舗等において、買い物客のバッグを窃取しようとする窃盗未遂に及んだ上、万引きを4か月足らずの間に3回繰り返した。被告人の窃盗事犯に対する抵抗感は低く、被告人の抱える精神疾患が抑制力の低下に影響を与えていることを考慮しても、その刑事責任を軽視することはできない。ただし、その評価に際し、判示第2から第4の事実について被害弁償がなされ、判示第4の被害店舗から宥恕の意思が示されていることは考慮できる事情といえる。 その上で、前科もない被告人が判示第2から第4の事実について認めて反省の弁を述べていること、被告人の夫が被告人の監督を誓約していることなどの事情も踏まえ、主文の刑に処するのが相当であると判断した。 その上で、前科もない被告人が判示第2から第4の事実について認めて反省の弁を述べていること、被告人の夫が被告人の監督を誓約していることなどの事情も踏まえ、主文の刑に処するのが相当であると判断した。 12(求刑 懲役1年2月)令和4年8月23日札幌地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官 石 田 寿 一 裁判官 古 川 善 敬 裁判官 木 村 大 慶
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