【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人松岡滋夫の上告理由一について。 不法行為による精神的苦痛にもとづく
主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人松岡滋夫の上告理由一について。 不法行為による精神的苦痛にもとづく損害の賠償を請求する権利、すなわち、慰 藉料請求権は、被害者本人が右損害の賠償を請求する旨の意思表示をしなくても、 当然に発生し、これを放棄、免除する等特別の事情が認められないかぎり、その被 害者の相続人がこれを相続することができると解して、被上告人らがその被相続人 である亡Dの本件慰藉料請求権を相続したものと認定した原審の判断は、当裁判所 昭和三八年(オ)第一四〇八号昭和四二年一一月一日大法廷判決(民集二一巻九号 二二四九頁)の判旨に照らし、正当として首肯することができる。原判決に所論の 法令解釈の誤りはなく、論旨は採用することができない。 同二について。 原判決がその挙示の証拠関係により適法に認定した事実関係のもとにおいて、上 告人の本件軽自動車の運転行為と亡Dの本件転倒、受傷および死亡との間に因果関 係の存在することを肯定した原審の判断は、正当として是認することができる。原 判決に所論の理由不備の違法はなく、論旨は、原判決を正解しないでこれを非難し、 また、原審の専権に属する事実の認定を非難するものにすぎず、採用することがで きない。 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官田中二郎、同松本正雄 の反対意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 裁判官田中二郎の反対意見は、次のとおりである。 上告代埋人松岡滋夫の上告理由一について、多数意見は、「慰藉料請求権は、被 - 1 - 害者本人が右損害の賠償を請求する旨の意思表示をしなくても、当然に発生し、こ れを放棄、免除する等特別の事情が認められないかぎり、その被害者の相続人がこ れを相続 見は、「慰藉料請求権は、被 - 1 - 害者本人が右損害の賠償を請求する旨の意思表示をしなくても、当然に発生し、こ れを放棄、免除する等特別の事情が認められないかぎり、その被害者の相続人がこ れを相続することができる」ものとし、同趣旨の原判決を支持しているが、私は、 この見解には賛成することができず、原判決は、この点について法令の解釈を誤つ たものであり、破棄を免れないと考える。その理由は、当裁判所昭和三八年(オ) 第一四〇八号昭和四二年一一月一日大法廷判決における私の反対意見と同一である から、それを引用する。 裁判官松本正雄の反対意見は、次のとおりである。 当裁判所昭和三八年(オ)第一四〇八号昭和四二年一一月一日大法廷判決におけ る田中、松田、岩田、色川各裁判官の反対意見は、それぞれ多少、趣を異にするが、 慰藉料請求権は財産上の損害賠償請求権とちがつて被害者の一身専属的な権利であ るとする考え方においては同様であり、被害者がこれを請求する意思を表示したと き、またはこれを行使したばあい、あるいは契約または債務名義により加害者が被 害者に慰藉料として一定額の金員の支払をなすべきものとされたばあいにおいての み、はじめて相続の対象になるものとするのである。私も基本的にはこの考え方に 同調する。すなわち、精神的損害の賠償を求める慰藉料請求権は、その行使におい て一身専属的な性質を有するものであり、この請求権を行使するか、行使しないか は、専ら被害者の意思によつて決まるものであつて、相続人が被害者の意思に関係 なくこれを行使できる性質のものではないと考える。 前記大法廷判決において、松田裁判官は種々な設例をして論じておられるが、私 も実際問題に即して考察するとき、本件多数意見の如き見解に立つたばあいは解決 できない種々の不都合、不合理な事態が発生するのではないかと憂えるも おいて、松田裁判官は種々な設例をして論じておられるが、私 も実際問題に即して考察するとき、本件多数意見の如き見解に立つたばあいは解決 できない種々の不都合、不合理な事態が発生するのではないかと憂えるものである。 例えば、精神的苦痛その他無形の損害を受けた被害者のうちには、加害者に対し て特に放棄、免除等はしないが、金銭賠償の請求を欲しない人もいるし、金銭賠償 - 2 - を潔しとしない人もいる。そのような気持になつたり、感情を抱く人がいることは、 われわれが、しばしば経験するところである。特に婚姻予約不履行、離婚、名誉毀 損等による慰藉料請求問題においてあり勝ちなことである。被害者が、感情的に、 あるいは世間的考慮から、慰藉料請求権を行使しなかつたにもかかわらず、相続人 が、その意に反して、これを加害者に請求するような事態が発生するとすれば、そ れは被害者として迷惑であり、不本意とするところであることは勿論、精神的慰藉 の本質から全くかけ離れたものとなり、慰藉せらるべき法益とも無縁のものとなら ざるをえない。 あるいはまた、被害者において相手方に慰藉料を請求する意思がなく、したがつ て、これを行使しなかつたにもかかわらず、平素、被害者に縁遠い、ほとんど他人 同様の相続人が現われてきて、被害者の慰藉料を請求するようなことは、慰藉料請 求権発生の原因である被害者の精神的苦痛と果してどんな関係があろうか。また、 濫訴の弊害すら生ずるおそれがある。 本件は交通事故による生命侵害による損害賠償請求のうち、被相続人の慰藉料請 求権の相続についての事案であるが、その被害法益と、婚姻予約不履行、離婚ある いは名誉毀損等による人格権侵害の被害法益とを同様に考えてよいか疑問があるけ れども、いずれも精神的な損害の賠償請求という点においては同質であることに疑 いはない。 前述の事例にみら 不履行、離婚ある いは名誉毀損等による人格権侵害の被害法益とを同様に考えてよいか疑問があるけ れども、いずれも精神的な損害の賠償請求という点においては同質であることに疑 いはない。 前述の事例にみられるような不都合、不合理な現象は、慰藉料請求権は被害者本 人がその請求をする旨の意思表示、その行使、あるいは契約等が存在しなくても、 被害者の相続人がこれを相続できる趣旨の多数意見の難点ではなかろうか。したが つて、私は右の多数意見には賛成できない。 要するに、慰藉料請求権は被害者の個人的、主観的色彩の濃い性質のものであり、 この権利は法律上認められていても、これを行使するか否かは専ら被害者本人の意 - 3 - 思によるべきものである。そして、裁判上、あるいは裁判外において、これを行使 することによつて、はじめて相続の対象となり得るものと解する。 この点について、上告代理人松岡滋夫の上告埋由一の論旨は理由があり、原判決 ならびに、これを支持する多数意見は慰藉料請求権の性質およびその相続に関する 民法の規定の解釈を誤つたものというべきで、この違法が原判決の結論に影響を及 ぼすことは明らかであるから、破棄を免れないものと考える。 最高裁判所第三小法廷 裁判長裁判官 横 田 正 俊 裁判官 田 中 二 郎 裁判官 下 村 三 郎 裁判官 松 本 正 雄 裁判官 飯 村 義 美 - 4 - 美 - 4 -
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