令和5年7月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4年(ワ)第6881号国家賠償請求事件口頭弁論終結日令和5年4月24日判決 主文 1 被告は、原告に対し、553万6579円及びうち537万1479円に対する令和2年4月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを6分し、その1を原告の負担とし、その余を被告 の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、本判決が被告に送達された日から14日を経過したときは、仮に執行することができる。ただし、被告が440万円の担保を供するときは、その仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、630万8925円及びうち614万1479円に対する令和2年4月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、イラン・イスラム共和国(以下「イラン」という。)の国籍を有する 原告が、東京入国管理局長(以下「東京入管局長」という。)が行った、原告の在留期間更新許可申請に対する不許可処分が違法なものであり、これによって財産的損害及び精神的苦痛を被ったとして、被告に対して、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づく損害賠償請求として、630万8925円及びうち614万1479円に対する上記不許可処分を受けた日より後の日 である令和2年4月1日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正 前の民法(以下では、単に「民法」という。)所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後 で平成29年法律第44号による改正 前の民法(以下では、単に「民法」という。)所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(特に記載がない場合は枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実) ⑴ 原告に対する在留資格の付与(乙1)ア原告は、イラン国籍を有する外国人であるが、平成19年7月18日、在留資格を「短期滞在」、在留期間を「30日」とする上陸許可を得て本邦に上陸し、同年8月13日、在留期間更新許可を受けた。 イ原告は、平成19年10月17日、在留資格を「特定活動」、指定活動を 「本邦に在留し難民認定申請又は異議申立てを行っている者が行う日常的な活動(収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を除く。)」とする在留資格変更許可を受け、平成20年1月18日、在留期間更新許可を受けた。 ウ原告は、平成20年4月14日、在留資格を「特定活動」、指定活動を「本 邦に在留し難民認定申請又は異議申立てを行っている者が行う、本邦の公私の機関に雇用されて行う報酬を受ける活動(風俗営業等の一定の営業行為に従事して行う報酬を受ける行為を除く。)」(以下では、在留資格である「特定活動」に上記指定活動が指定されたものを「特定活動(就労可)」という。)とする在留資格変更許可を受け、その後は、継続して在留期間更新 許可を受けており、平成30年3月28日、在留期間を「4月」とする在留期間更新許可を受けた。 ⑵ 難民認定申請①に関する手続ア原告は、平成19年8月21日、法務大臣に対し、難民認定申請をした(以下では、この難民認定申請を「難民認定申請①」という。)(乙17)。 イ ⑵ 難民認定申請①に関する手続ア原告は、平成19年8月21日、法務大臣に対し、難民認定申請をした(以下では、この難民認定申請を「難民認定申請①」という。)(乙17)。 イ法務大臣は、平成21年7月28日、難民認定申請①について、難民認 定をしない旨の処分をした。原告は、これに対し異議を申し立てたが、平成23年5月12日、上記異議は棄却された(乙19、20)。 ウ原告は、平成23年7月11日、上記イの不認定処分の取消し等を求めて、東京地方裁判所に訴えを提起したが、東京地方裁判所は、平成24年10月3日、原告の請求をいずれも棄却する旨の判決をした(乙14)。 エ原告は、上記ウの判決を不服として控訴をしたが、東京高等裁判所は、平成25年4月24日、同控訴を棄却する旨の判決をした(乙15)。 オ原告は、上記エの判決を不服として、上告及び上告受理申立てをしたが、最高裁判所は、平成25年9月12日、上記上告を棄却し、上記申立てを上告審として受理しない旨の決定をした(乙16)。 ⑶ 難民認定申請②に関する手続ア原告は、平成24年4月24日、法務大臣に対し、2回目の難民認定申請をした(以下では、この申請を「難民認定申請②」という。)(乙5)。 イ法務大臣は、平成24年10月25日、難民認定申請②について、難民認定をしない旨の処分(以下では、この処分を「難民不認定処分②」とい う。)をした。原告は、平成25年3月4日、これに対して異議申立てをしたが、法務大臣は、平成30年5月31日、これを棄却する旨の決定(以下「難民不認定処分②に係る異議棄却決定」という。)をした。(乙7、8、13)。 ウ原告は、平成30年7月19日、難民不認定処分②の取消し等を求めて、 東京地方 を棄却する旨の決定(以下「難民不認定処分②に係る異議棄却決定」という。)をした。(乙7、8、13)。 ウ原告は、平成30年7月19日、難民不認定処分②の取消し等を求めて、 東京地方裁判所に訴えを提起したところ、東京地方裁判所は、令和元年9月17日、原告の請求をいずれも認容する旨の判決をした(甲4)。 エ被告は、上記ウの判決を不服として控訴したが、東京高等裁判所は、令和2年3月18日、同控訴を棄却する旨の判決をし、同判決は、令和2年4月2日、確定した(甲5)。 ⑷ 難民認定申請③及び本件更新申請に関する手続 ア原告は、平成30年7月20日、法務大臣に対し、再び難民認定申請(以下「難民認定申請③」という。)をするとともに、東京入管局長に対し、難民不認定処分②の取消等を求める訴訟が係属中であること、難民認定申請③をしたこと及び原告の妻の監護の必要があることを理由として、在留期間更新許可申請(以下「本件更新申請」という。)を行った(乙2、4)。 イ東京入管局長は、平成30年9月26日、本件更新申請に対する不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)を行った。本件不許可処分は、法務省入国管理局(以下「入国管理局」という。)において平成30年1月15日以降に執られていた運用(以下「本件運用」という。)、すなわち、難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)上の難民である可能性 が高いと思われる申請者及び本国情勢等により人道上の配慮を要する可能性が高いと思われる申請者(以下では、これらの要件を総称して「本件各申請者要件」という。)等については、判明次第速やかに在留資格「特定活動(就労可)」等を付与することにより、従来よりも迅速な保護を図る一方で、今次申請を含め2回以上難 これらの要件を総称して「本件各申請者要件」という。)等については、判明次第速やかに在留資格「特定活動(就労可)」等を付与することにより、従来よりも迅速な保護を図る一方で、今次申請を含め2回以上難民申請を行っている申請者(以下「再申 請者」という。)であって本件各申請者要件に該当しないものや、初めての難民認定申請者(以下「初回申請者」という。)であっても難民条約上の迫害事由に明らかに該当しない事情を申し立てるものについては在留を認めない措置(以下「在留制限」という。)を執る旨の運用を踏まえて、行われたものであった。 その結果、原告は、最終の在留期限である平成30年9月26日を超えて不法残留となった。(甲13、乙1、25)ウ原告は、平成30年10月1日、本件不許可処分を不服として、東京地方裁判所に対し、本件不許可処分の取消し及び本件更新申請の義務付けを求める訴えを提起したところ、東京地方裁判所は、令和元年9月17日、 本件不許可処分は違法であって、取り消されるべきであるなどとして、原 告の請求をいずれも認容する旨の判決をした。(甲1、2)エ被告は、上記ウの判決を不服として控訴したが、東京高等裁判所は、令和2年2月13日、同控訴を棄却する旨の判決をし、同判決は、同月28日、確定した(甲3)。 オ原告は、令和2年3月9日、東京入管局長から、本件更新申請について、 在留期間を「2年」とする在留期間更新許可を受けた(乙1)。 2 争点及び当事者の主張本件の争点は、①本件不許可処分につき、国賠法上の違法性及び故意又は過失が認められるか、②損害の有無及びその額である。 ⑴ 争点①(本件不許可処分につき、国賠法上の違法性及び故意又は過失が認 められるか)について(原告 つき、国賠法上の違法性及び故意又は過失が認められるか、②損害の有無及びその額である。 ⑴ 争点①(本件不許可処分につき、国賠法上の違法性及び故意又は過失が認 められるか)について(原告の主張)ア国賠法上の違法性の有無について本件不許可処分が行政行為として違法であったことは前提事実⑷エの判決によって確定しているのであるから、同処分は、国賠法上も当然に違法 となる。 イ故意の有無について原告は、本件不許可処分当時、既に難民不認定処分②の取消等を求める訴えを提起し、かつ、難民認定申請③をしていたのであるから、憲法27条及び13条並びに難民条約17条1項によって、就労する権利が保障さ れていたというべきである。 東京入管局長は、このように就労権を有する原告の収入を断ち、在留を困難にして難民申請を取り下げさせ、帰国させようという目的で本件不許可処分をしたのであるから、故意が認められる。 ウ過失の有無について 本件不許可処分は本件運用の下でされているが、本件運用は、難民認 定申請の複数回申請が法律上禁じられていないにもかかわらず、これを制約しようとする不合理なものである。 また、本件運用は、難民認定申請を抑制し、難民認定申請者を帰国させる目的で、難民認定申請者を収容したり、就労権を剝奪したりするなど、その重要な権利を侵害するものであって、非人道的で拷問的な手段 であるし、これにより、難民認定申請者に対し、間接的に帰国を強要するのと同視でき、難民認定申請者の送還を禁止した平成30年12月14日法律第102号による改正前の出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)61条の2の6第3項や、裁判を受ける権利を保障した憲法32条に実質的に違反するものである。 した 2月14日法律第102号による改正前の出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)61条の2の6第3項や、裁判を受ける権利を保障した憲法32条に実質的に違反するものである。 したがって、本件運用の下で行われた本件不許可処分については、東京入管局長のみならず、入国管理局による組織的過失が認められる。 また、仮に本件運用自体が違法でないとしても、その目的に鑑みれば、東京入管局長には、複数回にわたる難民認定の申請行為が、その理由や経緯、根拠となる資料の有無及び内容等に照らして、改めて申請を行う ことについて相応の合理性が認められるものである場合には、特定活動の更新許可申請に対して許可処分をすべき職務上の注意義務があったというべきである。 それにもかかわらず、東京入管局長は、一見明白な事情という本件運用を逸脱した厳格な基準を独自に採用したり、出身国情報の変化や原告 の宗教活動の変化を漫然と看過したり、参与員の認定意見の存在や、難民認定処分②の取消等を求める訴えを提起した事実を考慮せず、本件不許可処分を行った点で、職務上の注意義務違反があり、過失が認められる。 なお、そもそも、東京入管局長は、本件不許可処分を行った当時、原 告の出身国情報の変化等、原告が再申請を行うことについての相応の合 理性について検討していなかったのであるから、事後的にこれを検討しても、当時の不許可処分を正当化することはできない。 この点を措くとしても、次の各事情に鑑みれば、原告が再申請を行うことについて、相応の合理性が認められるというべきである。 すなわち、原告は、本件更新申請に際して、難民認定申請②以後に生 じた新たな事情について、具体的な事実を摘示して明確に説明しているし、その際、この点について、特段追 られるというべきである。 すなわち、原告は、本件更新申請に際して、難民認定申請②以後に生 じた新たな事情について、具体的な事実を摘示して明確に説明しているし、その際、この点について、特段追加資料等は求められたり、質問をされたりもしていない。 また、難民認定申請②に係る異議申立手続において原告代理人が提出した出身国情報に関する各種報告書によれば、少なくともイランにおい て一般の改宗者に対する迫害が強まる方向に情勢に変化があったことは読み取れるのであって、原告が再申請を行うことについて相応の合理性があると判断するには十分である。さらに、上記異議申立手続において3名の難民審査参与員のうち1名は、上記出身国情報の詳細な分析を行い、原告を難民と認めるべきとの意見を述べているのに対し、残りの2 名は不認定意見であるものの、上記出身国情報を分析した形跡もない。 よって、原告の本件更新申請については、相応の合理性が認められたのであるから、東京入管局長の本件不許可処分には過失が認められる。 (被告の主張)ア国賠法上の違法性の有無について 行政行為としての違法性と国賠法上の違法は異なる概念であり、判決により行政行為としての違法性が確定したとしても、これによって当然に国賠法上の違法性が認められるわけではない。 本件不許可処分が国賠法上違法といえるか否かは、公務員が職務上尽くすべき注意義務に違反したといえるか否かによって判断するべきであり、 以下のとおり、同処分は違法とはいえない。 すなわち、入管法21条3項に規定する「在留資格の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」が具備されているかどうかについての判断は、事柄の性質上、国内及び国外の情勢について通暁し、常に出入国管理の任務に当たる法務大臣の裁 3項に規定する「在留資格の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」が具備されているかどうかについての判断は、事柄の性質上、国内及び国外の情勢について通暁し、常に出入国管理の任務に当たる法務大臣の裁量に委ねられているものと解される。この理は、法務大臣から権限の委任を受けた地方入国管理局長にも妥当する(以 下では、法務大臣及び法務大臣から権限の委任を受けた地方入国管理局長を、併せて「法務大臣等」という。)。 また、入管法上、難民認定申請者に対し、在留資格を付与することや就労可能な法的地位を保障することを義務付けるような規定は存在しておらず、在留期間更新手続と難民該当性判断の間に直接の関連性は認め られていないのであって、難民認定申請者に対して在留期間更新を許可するか否かは、当該外国人が難民認定申請をしている事実やその他関連する事実を総合考慮し、法務大臣等の広範な裁量により決定されることが予定されている。 そして、入国管理局は、当時の難民認定申請の状況が、真の難民の迅 速な保護に支障を生じる事態となっていたことから、前提事実⑷イのとおり、真に庇護を必要とする外国人の更なる迅速な保護を図りつつ、濫用・誤用的な申請を抑制し、難民認定制度の適正化を推進するため、平成30年1月、難民認定制度の適正化に向けて本件運用を導入したのであって、その目的及び手段は社会通念に照らして著しく不合理なものと はいえない。 また、本件運用の目的に照らせば、本件運用に基づき在留資格「特定活動(就労可)」等を付与するべき外国人とそうでない外国人との振分けも、迅速かつ公平に行われることが要請されるところであり、可能な限り、一律ないし形式的なメルクマールに基づいて判断することが望まし い。そして、過去に難民不認定処分を受けた再申請者 との振分けも、迅速かつ公平に行われることが要請されるところであり、可能な限り、一律ないし形式的なメルクマールに基づいて判断することが望まし い。そして、過去に難民不認定処分を受けた再申請者については、当該 処分に公定力が生じ、判決により取り消されるまでは有効なものとして取り扱われるのであって、難民に該当しないことが行政段階では決着済みである以上、後行する在留資格に係る審査においては、直近の難民不認定処分の正当性に信頼を置きつつ、その評価を覆すに足りるような新規かつ顕著な主張ないし疎明資料が提出されたか否かによって保護の対 象か否かを判断することにより、迅速・公平な判断と個別的な救済の両立が図られるものである。 このような観点から、東京入管局長は、再申請者については、申請時点における難民認定申請書の記載等に照らして、前回までの難民認定申請に係る異議棄却決定や確定判決等の従前の判断を覆すべき一見明白な 事情がない限り、本件各申請者要件には該当しないものとして取り扱うこと(以下では、これに従った運用を「本件東京運用」という。)を前提として、本件更新申請の審査を行い、専ら、原告が難民不認定処分②に係る異議棄却決定の告知からわずか1か月ほど後に難民認定申請③をし、かつ、その内容はそれ以前の難民認定申請において概ね主張済みのもの であった上、何ら新たな疎明資料を提出しなかったことから、従前の判断を覆すべき一見明白な事情は認められないものとして、本件不許可処分をしたものである。 よって、東京入管局長が、本件東京運用に基づいて本件不許可処分をしたことも、一定の合理性を有するものというべきである。 そして、東京入管局長が本件不許可処分をした当時は、本件運用が開始されたばかりであり、本件運用の下における 基づいて本件不許可処分をしたことも、一定の合理性を有するものというべきである。 そして、東京入管局長が本件不許可処分をした当時は、本件運用が開始されたばかりであり、本件運用の下における個別的妥当性と迅速・公平な判断との具体的なバランスの取り方は、個別事案における判断の集積を待たざるを得ない状況であったし、未だ本件東京運用のような判断手法を明示的に否定するような司法判断等も示されてもいなかった。 よって、東京入管局長が、職務上尽くすべき注意義務を尽くすことな く漫然と本件不許可処分をしたということはできない。 イ故意の有無について国賠法上の故意とは、権利侵害という結果の発生又はその可能性を認識しながら、あえて直接権利侵害に向けられた行為をすることをいい、違法性の認識も必要であるとされている。 東京入管局長は、本件不許可処分が適法であると考えていたものであり、故意は認められない。 ウ過失の有無について前記アの各事情に鑑みれば、東京入管局長が本件不許可処分を行ったことについて、過失も認められないというべきである。 仮に、東京入管局長が、再申請者の在留期間更新許可申請を審査するに当たり、再申請を行うことについて相応の合理性があるか否かを審査することが国賠法上の注意義務を構成していたとしても、以下のとおり、本件更新申請について相応の合理性があると判断し、本件不許可処分をすべきでなかったことが明らかであったとはいえないから、東京入管局 長に過失があったとはいえない。 すなわち、原告は、難民認定申請③において、主に同人が来日後にイスラム教からキリスト教へと改宗したことを同人が難民に該当する理由として主張するが、かかる理由は難民認定申請①及び難民認定申請②において なわち、原告は、難民認定申請③において、主に同人が来日後にイスラム教からキリスト教へと改宗したことを同人が難民に該当する理由として主張するが、かかる理由は難民認定申請①及び難民認定申請②において同人の難民該当性を基礎付ける事情として挙げられたものと同旨 であった。また、同人は、本件更新申請の理由の補充説明において、難民認定申請②以後に生じた新たな事情として、同人が、対外的に人の目に触れるような宗教活動を行うようになったことを主張していたが、その内容はごく概括的なものであり、これを裏付けるような資料も提出しなかった。 また、難民認定申請②に係る異議申立手続において原告代理人が提出 した出身国情報に関する各種報告書によっても、本件不許可処分時において、イスラム教からキリスト教に改宗し、民家に集まってキリスト教信仰を行っているイラン国籍者のうち、一般の信者について、イラン政府によって逮捕、訴追等される蓋然性が高かったとは直ちには認め難い。 さらに、上記異議申立手続において3名の難民審査参与員のうち1名は、 原告を難民と認めるべきとの意見であったが、難民審査参与員の多数派は原告が難民であるとは認められないとの意見であった。 そして、そもそも、前記「相応の合理性」の外延は不明確であり、上記各事情を基に、原告の本件更新申請について相応の合理性があると判断すべきことが明らかであったとはいえないから、東京入管局長が、職 務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件不許可処分をしたとは認められず、過失も認められない。 ⑵ 争点②(損害の有無及びその額)について(原告の主張)ア給与相当損害金 原告は、本件不許可処分により、本邦において就労をする資格を失った。 その結果、平成30年10月 。 ⑵ 争点②(損害の有無及びその額)について(原告の主張)ア給与相当損害金 原告は、本件不許可処分により、本邦において就労をする資格を失った。 その結果、平成30年10月末支給分から令和2年3月末支給分まで、本来得ることができた給与相当額458万3163円を得ることができず、上記同額の損害が発生した。 イ慰謝料 原告は、本件不許可処分により在留資格や就労資格を失ったことで、いつ収容されるかわからないという恐怖や、今後の生活についての不安等を抱えながら日々生活しなければならなくなった上、仮放免許可がされた平成30年12月21日以降も、行動制限等を強いられた。 これらによる精神的苦痛を慰謝するには、100万円をもって下らない。 ウ弁護士費用 本件訴訟を提起するために、原告は、弁護士に依頼をしなければならなかったのであり、そのために要する弁護士費用としては、上記ア及びイの合計額の1割である55万8316円をもって下らない。 エ遅延損害金別紙計算書記載のとおり、上記アの給与相当損害額については、各月の 給料支払日である毎月末日から、上記イ及びウについては、在留資格が復活した平成30年3月9日から各支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金が発生する。 (被告の主張)いずれも不知ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点①(本件不許可処分につき、国賠法上の違法性及び故意又は過失が認められるか)について⑴ 国賠法上の違法性の有無についてア国賠法上の違法性の判断基準 前提事実⑷エのとおり、同記載の判決により、本件不許可処分が違法な行政処分であったことは確定している。 もっとも、国賠法1条1項は、 ついてア国賠法上の違法性の判断基準 前提事実⑷エのとおり、同記載の判決により、本件不許可処分が違法な行政処分であったことは確定している。 もっとも、国賠法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負う ことを規定するものであるから、公務員による公権力の行使に同項にいう違法があるというためには、当該公務員が職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認め得るような事情があることが必要である(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁、最高裁平成5年3月11日第一小法廷・民集47巻4号 2863頁、最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2 087頁、最高裁平成27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁等参照)。 以下では、これを前提として、本件不許可処分の国賠法上の違法性について検討する。 イ在留期間更新許可に係る法務大臣等の裁量 憲法22条1項は、日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり、外国人が本邦に入国することについては何ら規定していないが、これは、特別の条約等がない限り、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合に条件を付するかを自由に決定することができる ことを前提としているものと解される。したがって、憲法上、外国人は、本邦に入国する自由を保障されているものではないことはもちろん、在留の権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されているもの 前提としているものと解される。したがって、憲法上、外国人は、本邦に入国する自由を保障されているものではないことはもちろん、在留の権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されているものでもないと解すべきである(最高裁昭和32年6月19日大法廷判決・刑集11巻6号1663頁、最高裁昭和53年10月4日大法廷判決・ 民集32巻7号1223頁(以下「最高裁昭和53年判決」という。)参照)。 そして、入管法では、本邦に在留する外国人は、現に有する在留資格を変更することなく、在留期間の更新を受けることができると規定されているところ(同法21条1項)、在留期間の更新を受けようとする外国人は、法務大臣に対し在留期間の更新を申請しなければならないとし(同条2 項)、同申請があった場合には、法務大臣は、当該外国人が提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができるとしている(同条3項)のであるから、入管法上も在留外国人の在留期間の更新が権利として保障されているものでないことは明らかである。 このように入管法が在留期間の更新は法務大臣がこれを適当と認めるに 足りる相当の理由があると判断した場合に限り許可することとしているのは、法務大臣に一定の期間ごとに当該外国人の在留中の状況、在留の必要性・相当性等を審査して在留の許否を決定させようとする趣旨に出たものであり、そして、在留期間の更新事由が概括的に規定されその判断基準が特に定められていないのは、更新事由の有無の判断を法務大臣の裁量に 任せ、その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨からであると解される。 すなわち、法務大臣は、在留期間の更新の許否を決するに当たっては、外国人に対する出入国の管理及び在留の規制 を法務大臣の裁量に 任せ、その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨からであると解される。 すなわち、法務大臣は、在留期間の更新の許否を決するに当たっては、外国人に対する出入国の管理及び在留の規制の目的である国内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持の見地に立って、申請者の申請事由の当否のみならず、当該外国人の在留中 の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲など諸般の事情を斟酌し、時宜に応じた的確な判断をしなければならないのであるが、このような判断は、事柄の性質上、出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければ到底適切な結果を期待することができないものと考えられる。このような点に鑑みると、入管 法21条2項所定の「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」があるかどうかの判断は法務大臣の広範な裁量に委ねられているものというべきである(最高裁53年判決参照)。 なお、本件不許可処分のなされた平成30年7月20日当時、外国人の出入国管理行政については、入国管理局が担当し、各地に地方入国管理局 が置かれており、法務大臣に付与された外国人の在留期間の更新に係る上記権限は、法務大臣から地方入国管理局長に委任されていたものである(入管法69条の2、平成30年外務省令第22号による改正前の出入国管理及び難民認定法施行規則61条の2第7号、入管法21条3項)。 ウ認定事実 前提事実⑷イ記載のとおり、本件不許可処分がされた平成30年7月2 0日当時、入国管理局は本件運用を採用しており、これは、地方入国管理局長が外国人の在留期間の更新等の判断をするに当たって依るべき判断基準を定めたものと解されるところ、証拠(甲8、9、 0日当時、入国管理局は本件運用を採用しており、これは、地方入国管理局長が外国人の在留期間の更新等の判断をするに当たって依るべき判断基準を定めたものと解されるところ、証拠(甲8、9、乙24ないし26)及び弁論の全趣旨によれば、本件運用又は本件東京運用が採用されるに至った経緯及びその基礎となった社会情勢等として、次の事実が認められる。 入国管理局では、遅くとも平成22年3月以降、入管法上の正規滞在者から難民認定申請があった場合には、難民認定手続中の外国人の生活の安定に配慮して、難民認定申請から6か月経過後難民認定手続が完了するまでの間、原則として、本邦での就労を認める運用を行っていた。 難民認定申請者数は、少なくとも平成20年から上記運用を開始した 平成22年までは減少傾向にあったものの、平成24年(2545人)には平成22年(1202人)の2倍以上に増加し、平成26年(5000人)には平成22年の4倍以上に急増する事態となった。また、上記申請者の中には、過去に難民不認定処分を受けたにもかかわらず、再度難民認定申請をしている者が相当数おり、平成24年には573人で あったのが、平成26年には1020人に増加しており、その後も増加傾向にあった。 以上の事態について、入国管理局は、前記運用が誤った形で本邦での就労等を意図する外国人に伝わり、難民認定制度を濫用・誤用する外国人の増加に繋がっているものと分析し、難民認定制度を取り巻く国内外 の動向の変化を踏まえ、真の難民の迅速かつ確実な庇護を推進するため、前記運用を見直す必要があると判断した。 そこで、入国管理局は、平成27年9月以降は、濫用・誤用的な難民認定申請について迅速に処理するとともに、本邦での就労等を目的として難民認定申請を繰 め、前記運用を見直す必要があると判断した。 そこで、入国管理局は、平成27年9月以降は、濫用・誤用的な難民認定申請について迅速に処理するとともに、本邦での就労等を目的として難民認定申請を繰り返すような申請者に対しては、申請の内容に応じ て、本邦への在留は認めるものの就労は許可しない措置や在留制限を執 ることとした。具体的には、入国管理局は、複数回にわたり難民認定申請を行っている者で、①難民条約上の迫害事由に明らかに該当しない事情を繰り返し主張して、再度の申請を行っている者、②正当な理由なく迫害事由について同様の内容を繰り返し主張して、今次申請を含めて3回以上の申請を行っている者に対しては、特定活動の在留資格を付与し ないこととし、また、特定活動の在留資格を付与される条件を満たす者であっても、正当な理由なく迫害事由について同様の主張を繰り返す再申請者に対しては、報酬を受ける活動の指定を行わないこととした。 その結果、平成27年の難民認定申請数7586人のうち複数回申請数が1425人(全体の申請数のうち約18.6%)であったのに対し、 平成28年の難民認定申請数1万901人のうち複数回申請数は1497人(同約13.7%)となり、また、平成29年の難民認定申請数1万9629人のうち複数回申請数は1563人(同約8.0%)となるなど、難民認定申請数に占める複数回申請数の割合は減少した。 もっとも、複数回申請者数自体は、依然として増加傾向にある上、初 回申請者による難民認定申請は急増しており、平成29年における難民認定申請数が、前年比約80%増の1万9629人と過去最多となった。 また、平成29年当時、その申請者の大半は、大量の難民・避難民を生じさせるような事情がない国々に属する者であった。さらに おける難民認定申請数が、前年比約80%増の1万9629人と過去最多となった。 また、平成29年当時、その申請者の大半は、大量の難民・避難民を生じさせるような事情がない国々に属する者であった。さらに、上記申請者のうち、一次審査及び不服申立て手続で難民と認められたのはわずか 20人であり、不認定者の申請内容を見ると、本来、難民条約上、難民と認められるには、「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」ことが必要であるところ(難民条約1条A⑵)、その47.9%は、知人、近隣住民及びマフィア等とのトラブ ルなど、明らかに上記事由に該当しないものであった。その結果、上記 各審査の平均処理期間は長期化傾向にあった。 入国管理局は、上記状況に鑑み、依然として、濫用・誤用的な難民認定申請が相当数存在しており、取り分け、前記の運用が、急増する難民認定者数の大半を占める初回申請者には適用されないことにより、初回申請者による濫用・誤用的な申請が著しく増加しており、その結果、 真に難民として迅速に庇護すべき者の難民認定申請の処理に支障が生じているものと判断した。 そこで、入国管理局は、平成30年1月15日以降、前記の運用を更に見直して、本件運用を採用することとし、再申請者については、本件各申請者要件を満たす場合を除き、速やかに在留制限を執ることとし た。 東京入管局長は、上記の入国管理局の判断を受けて、再申請者については、申請時点における難民認定申請書の記載等に照らして、前回までの難民認定申請に係る異議棄却決定や確定判決等の従前の判断を覆すべき一見明白な事情がない限り、本件各申請者要件には該当しないもの ては、申請時点における難民認定申請書の記載等に照らして、前回までの難民認定申請に係る異議棄却決定や確定判決等の従前の判断を覆すべき一見明白な事情がない限り、本件各申請者要件には該当しないもの として取り扱うこと(本件東京運用)を前提として、在留期間更新許可申請の判断を行うこととした。 本件更新申請の審査においても、専ら、原告が難民不認定処分②に係る異議棄却決定の告知から約1か月で難民認定申請③をし、かつ、その内容はそれ以前の難民認定申請において概ね主張済みのものであった上、 何ら新たな疎明資料を提出しなったことから、従前の判断を覆すべき一見明白な事情は認められないものとして、本件不許可処分をした。 エ本件運用の合理性等上記認定のとおり、入国管理局が、従来の難民認定申請者に対する在留期間更新許可等に関する運用を見直し、本件運用を導入するに至ったの は、主として本邦での就労を意図した濫用・誤用的な難民認定申請者が急 増したことで、真に庇護を必要とする難民の迅速な保護に支障を生じる事態となったことから、同人らに対する迅速な保護を図りつつ、濫用・誤用的な申請を抑制し、入国管理制度の適正化を図るためのものであって、その目的は合理的であり、その方法も、法務大臣等の前記の広範な裁量を逸脱し、又は濫用したものとは認め難く、相応の合理性を有するものと認め られる。 もっとも、難民条約の趣旨、目的等に照らすと、法務大臣には、客観的に難民条約上の難民に該当する者の在留を許可しないことにより、難民認定がされる前に本国に強制送還されるといった事態が生ずることがないように配慮すべき義務があるものというべきであり、また、難民該当性につ いては、最終的には司法判断によるものとされていることからすれば、 る前に本国に強制送還されるといった事態が生ずることがないように配慮すべき義務があるものというべきであり、また、難民該当性につ いては、最終的には司法判断によるものとされていることからすれば、本件各申請者要件における難民該当性等の可能性の程度について、高度の蓋然性を要求するのは相当でなく、在留期間更新の許否等の判断において、難民該当性に関する法務大臣の判断を過度に重視するのも相当でないものと解される。さらに、本件運用において、初回申請者と再申請者とで本件 各申請者要件の審査の在り方を変える点については相応の合理性が認められるものの、仮に、本件各申請者要件該当性を判断するに当たり、再申請者については難民該当性等の可能性の程度につきより高度のものを要求する趣旨まで含むとすると、その部分については合理性を欠くことになるものと考えられる。 以上によれば、仮に、地方入国管理局長が、本件運用を基に外国人の在留期間更新不許可処分を行ったとしても、そのことから直ちに上記地方入国管理局長がその職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認めることはできないというべきであるが、その運用の在り方如何によっては、同注意義務に違反することがあり得るものと考えられ る。 オ本件不許可処分の違法性について前記ウで認定したとおり、本件不許可処分は本件東京運用に基づいてされたものであるが、まず、本件東京運用のうち本件運用とは異なる独自の基準を用いている部分、すなわち、再申請者については、申請時点における難民認定申請書の記載等に照らして、前回までの難民認定申 請に係る異議棄却決定や確定判決等の従前の判断を覆すべき一見明白な事情がない限り、本件各申請者要件に該当しないとする部分の合理性について 難民認定申請書の記載等に照らして、前回までの難民認定申 請に係る異議棄却決定や確定判決等の従前の判断を覆すべき一見明白な事情がない限り、本件各申請者要件に該当しないとする部分の合理性について判断する。 一般に、法律上一定の判断権を付与された国の機関が、「一見明白な事情」がある場合に限りその権限を実質的に行使し、それ以外の場合には 形式的な判断をするにとどめるといった取扱いをするのは、当該機関にその判断を委ねることとした法の趣旨に反することになるから、原則として許されないものと解される。もっとも、例えば、当該機関とは別に第一次的な判断権者が存在し、当該判断事項については第一次的な判断権者の専門的な知見に基づいて判断をすることが必要かつ有用であると 認められる場合など、当該法律の趣旨に照らしても、当該機関において、第一次的な判断権者の判断を原則として尊重することが相当であると認められる場合には、このような取扱いをすることが許容されるものと考えられる。 そこで、このような観点から本件東京運用の合理性を判断する。 難民条約においては、難民該当性について明確な要件が定められており(難民条約1条又は難民の地位に関する議定書1条)、これに該当する者については、我が国において一定の措置を執るべき旨が定められていること(難民条約前文及び第5章等)等に照らすと、法務大臣等が在留期間更新の許否を判断するに当たっても、当該外国人の難民該当性の有 無又はその可能性の程度を考慮することが法律上当然に要請されている ものと解すべきである。前提事実⑷イで認定したとおり、入国管理局においては、在留期間更新の許否を判断するに当たり、本件各申請者要件の有無を判断する運用をしているものであるが、このような運用は、基本 ものと解すべきである。前提事実⑷イで認定したとおり、入国管理局においては、在留期間更新の許否を判断するに当たり、本件各申請者要件の有無を判断する運用をしているものであるが、このような運用は、基本的に上記法の趣旨に沿うものであるといえる(逆に言えば、法務大臣等に認められている広範な裁量をもってしても、法務大臣等がこれらの 事情を考慮せずに在留期間更新の許否について判断をすることは許されないものと解される。)。そして、難民該当性の有無又はその可能性の程度については、時の経過による事情変更が当然にあり得るのであるから、事情変更の有無及び程度についても、在留期間更新の許否につき第一次的判断権を有する法務大臣がこれを審査して判断すべきであるが、この 点については、事柄の性質上従前の判断を前提として判断することは許されないというべきである。しかるに、本件東京運用は、再申請者については「従前の判断を覆すべき一見明白な事情」がない限り本件各申請者要件に該当しないとして、事情変更の有無及び程度についても極めて限定的な場合を除き実質的な審査をしないこととしている点において、 在留期間更新の許否の権限を法務大臣に委ねた入管法21条3項の趣旨に反し、著しく合理性を欠くものといわざるを得ない。殊に、同審査においては、将来予測的な事情も含め、申請者の本国の情報の具体的な内容や当該申請者の個別事情等の諸般の事情を総合的に考慮した上で本件各申請者要件該当性の有無を判断すべきこととなり、かつ、その判断に は相応の困難が伴うこと等に照らせば、本件東京運用に基づいて在留期間更新の許否について判断することとする場合に、再申請者が「従前の判断を覆すべき一見明白な事情」を提示することは極めて困難であるものといわざるを得ず、結局のところ、本件東京運用は 用に基づいて在留期間更新の許否について判断することとする場合に、再申請者が「従前の判断を覆すべき一見明白な事情」を提示することは極めて困難であるものといわざるを得ず、結局のところ、本件東京運用は、再申請者については、本件各申請者要件ひいては入管法21条3項の「在留期間の更新 を適当と認めるに足りる相当の理由」の有無を判断するのに必要な審査 をしない取扱いを採用しているに等しいとの評価を免れないものである。 そして、東京入管局長は、前記のとおり、原告が難民不認定処分②に係る異議棄却決定の告知からわずか1か月ほど後に難民認定申請③をし、かつ、その内容はそれ以前の難民認定申請において概ね主張済みのものであった上、何ら新たな疎明資料を提出しなかったことから、従前の判 断を覆すべき一見明白な事情は認められないものとして、本件不許可処分をしたものであり、本件更新申請の審査をするに当たり、本来考慮すべき事情を十分に検討することなく、漫然と本件不許可処分をしたものといわざるを得ない。このことは、原告に対する本件不許可処分の通知書に、「根拠となる事実」として「あなたは、過去に難民不認定処分を受 けています。」としか記載されていないこと(甲13)や、上記通知を行うに際し、東京入国管理局の担当職員が、「今年1月15日からの運用によると、あなたは在留制限の対象になり、更新される余地はない。」と告げたこと(弁論の全趣旨)からも明らかである。 また、東京入管局長は、本件運用とは異なる独自の基準を有する本件 東京運用を採用して本件不許可処分をしたものであるが、既に説示したとおり、東京入管局長が独自に定めた基準が著しく合理性を欠くものであったのであるから、職務上尽くすべき注意義務に違反したものといわざるを得ない。 以上の 不許可処分をしたものであるが、既に説示したとおり、東京入管局長が独自に定めた基準が著しく合理性を欠くものであったのであるから、職務上尽くすべき注意義務に違反したものといわざるを得ない。 以上のとおり、東京入管局長は、著しく合理性を欠く本件東京運用を 基に漫然と本件不許可処分をしたものであって、国賠法上の違法性が認められる。 以上に対し、被告は、過去に難民不認定処分を受けた再申請者については、当該処分に公定力が生じ、判決により取り消されるまでは有効なものとして取り扱われるのであって、難民に該当しないことが行政段階 では決着済みである以上、後行する在留資格に係る審査においては、直 近の難民不認定処分の正当性に信頼を置きつつ、その評価を覆すに足りるような新規かつ顕著な主張ないし疎明資料が提出されたか否かによって保護の対象か否かを判断することにより、迅速・公平な判断と個別的な救済の両立が図られるものであるなどとして、本件東京運用が一定の合理性を有する旨主張する。 しかしながら、既に説示したとおり、難民認定該当性は、その判断の基準となった時点によって異なり得るのであり、前記で当裁判所が指摘した本件東京運用の問題点は、従前の行政判断等を過度に重視し、事情変更による判断変更の余地が十分に認められていない点にあるのであるから、被告の上記主張の趣旨等を踏まえても、これを採用することは できない。 また、被告は、東京入管局長が本件不許可処分をした当時は、本件運用が開始されたばかりであり、本件運用の下における個別的妥当性と迅速・公平な判断との具体的なバランスの取り方は、個別事案における判断の集積を待たざるを得ない状況であったし、いまだ本件東京運用のよ うな判断手法を明示的に否定するような司法判 個別的妥当性と迅速・公平な判断との具体的なバランスの取り方は、個別事案における判断の集積を待たざるを得ない状況であったし、いまだ本件東京運用のよ うな判断手法を明示的に否定するような司法判断等も示されてもいなかったなどとも主張するが、既に説示したとおり、本件東京運用において独自に用いられた基準が著しく合理性を欠くものである以上、この点は当裁判所の判断を左右するものとはいえない。 カ小括 以上の次第で、東京入管局長がした本件不許可処分には、国賠法上の違法性が認められるというべきである。 ⑵ 故意について公務員の行為は、根拠法規が国民の権利利益の侵害を許容していると解される場合もある。そこで、国賠法1条にいう「故意」とは、権利侵害という 結果の発生又はその可能性を認識しながら、敢えて直接権利侵害に向けられ た行為をすることをいい、違法性の認識が必要であると解される。 本件においては、東京入管局長が、本件不許可処分が違法であることを認識しながら、敢えてこれを行ったものとまでは認められないから、国賠法上の故意は認められないというべきである。 ⑶ 過失について ア前記⑴オのとおり、東京入管局長は、その職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件不許可処分をしたものであるから、過失も認められるというべきである。 イこれに対し、被告は、仮に東京入管局長が、再申請者の在留期間更新許可申請を審査するに当たり、再申請を行うことについて相応の合理性があ るか否かを審査することが国賠法上の注意義務を構成していたとしても、本件で認められる諸般の事情を考慮すれば、本件更新申請について相応の合理性があると判断し、本件不許可処分をすべきでなかったことが明らかであったと することが国賠法上の注意義務を構成していたとしても、本件で認められる諸般の事情を考慮すれば、本件更新申請について相応の合理性があると判断し、本件不許可処分をすべきでなかったことが明らかであったとはいえないから、東京入管局長に過失があったとはいえない旨主張する。これは、要するに、東京入管局長が、本来依るべき基準に基づ いて本件更新申請について審査をしたとしても、本件不許可処分をすべきでなかったことが明らかであったとはいえないから、過失は認められない旨主張するものと解される。 しかしながら、本件更新申請について審査をするに当たり、東京入管局長が著しく合理性を欠く本件東京運用を独自に採用して審査を行い、漫然 と本件不許可処分をしたことは前記オ記載のとおりであって、これのみで東京入管局長の過失を基礎づけるのに十分である。この点に関する被告の主張は、本件不許可処分をしたことについての過失の有無に関する判断を左右するものではなく、当該過失と原告の損害との間の因果関係の有無において考慮すべき事情にすぎないものというべきである(この点につい ては、後記2⑸で判断する。)。 2 争点②(損害の有無及びその額)⑴ 前提事実⑷イ及びオ並びに証拠(甲14ないし18)によれば、原告は、平成30年5月から、A株式会社において正社員として勤務していたこと、同年8月以降の同社における原告の月額給与が25万7880円であったこと、本件不許可処分により、原告は同年9月26日以降就労資格を失い、 原告の同年10月末支給分の給与の総支給額(通勤手当を除く。)は2万4560円であり、同年11月末支給分から令和2年2月末支給分までの給分の支給を受けていないこと、同社の代表取締役は、平成30年9月19日時点で、原告が就労可 与の総支給額(通勤手当を除く。)は2万4560円であり、同年11月末支給分から令和2年2月末支給分までの給分の支給を受けていないこと、同社の代表取締役は、平成30年9月19日時点で、原告が就労可能な状態になるまで可能な限り解雇せずに待つ意向を示しており、前提事実⑷オのとおり、原告が令和2年3月9日に再び在留期間 更新許可を受けたことを受け、原告は再び同社に勤務することとなったが、同月末支給分の給与の総支給額(通勤手当を除く。)は3万4117円であったことが認められる。 以上によれば、原告は、本件不許可処分により就労資格を失ったことで、同社に勤務することにより得られたはずであった給与相当額合計458万3 163円(月額25万7880円×18か月-既払分(2万4560円+3万4117円))の損害(逸失利益)を被ったものと認められる。 ⑵ また、原告は、本件不許可処分により我が国において就労ができなくなるなど不安定な法的地位に置かれることとなったものであり、これにより精神的苦痛を受けたものと認められる。 他方で、原告が平成30年12月21日に仮放免を受けていること(甲19)、原告が受けた経済的損害については別途損害賠償の対象としていること、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円とするのが相当である。 ⑶ さらに、本件訴訟の困難性に鑑みれば、原告が弁護士に本件訴訟の追行を 委任したことはやむを得ないところであり、上記⑴及び⑵の損害額の合計4 88万3163円の1割に相当する48万8316円は、本件不許可処分と因果関係のある損害と認められる。 ⑷ そして、上記⑴の損害については、それぞれ各給与支給予定日(別紙計算書番号1ないし17及び 万3163円の1割に相当する48万8316円は、本件不許可処分と因果関係のある損害と認められる。 ⑷ そして、上記⑴の損害については、それぞれ各給与支給予定日(別紙計算書番号1ないし17及び20の「年月日」欄記載の各日)の翌日から支払済みまで(中間利息を控除したもの)、上記⑵及び⑶の各損害については、平成 30年9月26日より後の日である令和2年3月9日から支払済みまで、いずれも民法所定の年5%の割合による遅延損害金が発生することになる。そうすると、上記遅延損害金のうち、令和2年3月31日までの遅延損害金は、別紙裁判所遅延損害金計算書記載のとおり合計16万5100円となる。 ⑸ なお、前記1で説示したとおり、本件不許可処分は東京入管局長の過失に より行われたものであるところ、本件不許可処分ないし同過失と上記⑴から⑷までの損害の間の因果関係が問題となり得る。この点を判断するに当たっては、東京入管局長が本件東京運用を採用せずに本件更新申請について判断をしていた場合の将来予測を前提として判断せざるを得ないことになるが、本件不許可処分は本来考慮すべき事情を考慮せずにされたものであり、その 点に過失が認められる以上、上記因果関係の有無を判断するに当たり、在留期間更新の許否につき法務大臣等に広範な裁量が認められている点を過度に重視するのは相当でないと考えられる。そして、前提事実⑶エのとおり、難民認定申請②は客観的には理由があるものであったのであるから、本件更新申請についても、東京入管局長が本件東京運用を採用せずに適切な基準に基 づき判断をしていれば、本来は認められるべきものであったというべきであって、本件不許可処分ないし東京入管局長の過失と上記損害との間には因果関係が認められる。 3 小括よって、原告は づき判断をしていれば、本来は認められるべきものであったというべきであって、本件不許可処分ないし東京入管局長の過失と上記損害との間には因果関係が認められる。 3 小括よって、原告は、被告に対し、国賠法1条1項に基づき、553万6579 円及びうち537万1479円に対する令和2年4月1日から支払済みまで年 5%の割合による金員の支払を求めることができる。 第4 結論以上の次第で、原告の請求は前記第3の3記載の限度で理由があるからその限度でこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文第4項のとおり仮執行宣言及び同免脱宣言を付すこととして、主文のとお り判決する。 東京地方裁判所民事第18部 裁判長裁判官堂薗幹一郎 裁判官古賀大督 裁判官袖山佳人 以上
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