主文 本件抗告を棄却する。 理由 本件抗告の趣旨及び理由は,弁護人C,同D及び同E作成名義の「即時抗告申立書」に記載のとおりであるから,これを引用する(なお,「即時抗告申立書」に「申立の趣旨」として「証拠開示命令裁定申立の棄却決定を取り消し」とあるのは,「原決定中,本件捜査の端緒を記載した書面に関する部分を取り消し」との趣旨であると解される。)。 本件は,平成18年3月27日付けの起訴状記載の公訴事実(以下「本件公訴事実」という。)第1ないし第4に記載のとおり,被告人が,平成17年10月30日施行のA市長選挙に立候補した者の当選を得しめる目的をもって,Bほか1名の選挙人に対し,合計4回にわたり,投票等を依頼して現金合計4万円を供与したという公職選挙法違反(買収,事前運動)の事案である。 所論は,弁護人らが主張を予定する事実(刑訴法316条の17第1項)である捜査官による不当な取調べによりBらが虚偽の自白をした事実と本件捜査の端緒を記載した書面との関連性,開示の必要性(刑訴法316条の20第1項)につき,客観的証拠の乏しいこの種犯罪では,取調官の推論に依拠して取調べが行われる余地が大きいのであるから,どのような捜査の端緒を得て取調べが行われたのかは,取調状況の態様を推認させるものであることは明らかであり,本件捜査の端緒を記載した書面は,関係者の供述の信用性を左右する取調状況の態様を推認させるものとして,弁護人らの主張する事実との関連性も開示の必要性も非常に高いとする。 そこで検討するに,一般論としては,客観的証拠に乏しい事件については,関係者の供述が重要な証拠となる可能性が高く,捜査官が誘導,誤導により関係者から誤った供述を引き出してしまう可能性も存在する。また,本件のような選挙における買収の事案では,利益供与を受け ついては,関係者の供述が重要な証拠となる可能性が高く,捜査官が誘導,誤導により関係者から誤った供述を引き出してしまう可能性も存在する。また,本件のような選挙における買収の事案では,利益供与を受けた側の関係者にも犯罪が成立し得ること(公職選挙法221条1項4号)から,捜査官が関係者の取調べにおいて強要,利益供与等を行い,誤った供述を引き出す可能性も存在する。 しかし,このような可能性は,客観的証拠が乏しく,捜査官が関係者の供述を得ようとして無理な取調べをすることそれ自体によって生じるのであり,捜査の端緒となった情報(情報提供者の提供した情報に基づいて本件の捜査が開始されたことは,検察官Fの平成18年8月18日付け「意見」の別紙第1の4項に,本件においても情報提供者が存在し,その者が報復を恐れて秘密の保持の徹底を望んでいる旨記載されていることからもうかがわれる。)が政治的意図をもって流された誤った情報であるか,客観的に正しい情報であるかによって左右されるものではないと考えられる(捜査の端緒となった情報が正しい情報であったとしても,それに合う供述を関係者から得ようとする余り,時として捜査官が無理な取調べに走る可能性があるということは,その情報が誤った情報である場合と基本的に異なるものではない。)。したがって,捜査の端緒となった情報がどのような内容であるかによって,取調状況の態様が推認されるとする所論は採用し難い。 結局,弁護人らが主張するような不当な取調べによりBらが虚偽の供述をさせられたか否かについては,供述者であるBら,Bらから受供与事実を打ち明けられた旨の供述をしたとされる家族ら,Bらの取調べを担当した捜査官,さらに,他の関係者も不当な取調べを受けたがそれに耐えて虚偽の供述をしなかったというのであれば,同様の取調べを受けた他の関係者らの られた旨の供述をしたとされる家族ら,Bらの取調べを担当した捜査官,さらに,他の関係者も不当な取調べを受けたがそれに耐えて虚偽の供述をしなかったというのであれば,同様の取調べを受けた他の関係者らの供述等によって明らかにするしかないと考えられるのであり,捜査の端緒となった情報の内容によってそれが明らかになるとは考え難い。そもそも,当該情報に合わせるために無理な取調べがされ,Bらが虚偽の供述をさせられたというのが真実であるとすれば,その情報の内容は,本件捜査の端緒を記載した書面を開示させるまでもなく,Bらが供述させられた内容(あるいは,取調べの際にBらが捜査官から示唆された内容)に沿ったものであると考えられるから,本件捜査の端緒を記載した書面が開示されないことにより,被告人の防御に支障が生じるとも考えられない(もっとも,公判審理において,Bらの供述と取調べ警察官の供述とが重要な部分で食い違った場合に,本件捜査の端緒を記載した書面の内容を確認する具体的な必要性が生じるというようなことはあり得るが,このような事態をあらかじめ想定し,これを公判前整理手続内での証拠開示の根拠付けとすることは相当とはいい難い。)。 そうすると,弁護人らが主張する事実と本件捜査の端緒を記載した書面との関連性は,全くなくはないとしても極めて乏しく,これにつれて同書面の開示を求める必要性も極めて小さいといわざるを得ないから,同書面は刑訴法316条の26第1項の「開示をすべき証拠」に該当しないというべきである。したがって,抗告人らの申立てを棄却した原決定は相当であり,本件抗告には理由がない。 よって,本件抗告を棄却することとし,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・畑中英明,裁判官・寺西和史,裁判官・山地修) 主文 よって,本件抗告を棄却することとし,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・畑中英明,裁判官・寺西和史,裁判官・山地修)
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