判決平成14年1月24日平成12年(ワ)第2645号損害賠償等請求事件 主文 一原告らの請求をいずれも棄却する。 二訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び争点第一申立一被告は原告Aに対し,金180万円,原告B,同C,同Dに対し,各金60万円及び各金員に対する平成12年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 二仮執行の宣言第二事案の概要本件は,亡Eの相続人である原告らが,被告に対し,債務不履行ないしは不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償を請求した事案である。 一争いのない事実等(証拠を摘示しない事実は争いがない。) 1 Eは,平成13年4月9日死亡し,妻である原告Aと子である原告B,同C,同Dが,相続によりEの権利義務を承継した。 2 本件各貸付Eは被告a支店より,次のとおり金銭を借り入れた。 (1) 長男・原告Bの学費のための教育ローン(以下,「第一貸付」という。)借入日平成6年3月15日金額金150万円利息年4.1パーセント(2) 二男・原告Cの学費のための教育ローン(以下,「第二貸付」という。)借入日平成9年3月26日金額金120万円利息年3.1パーセント(3) 三男・原告Dの高校進学のための借入(以下,「第三貸付」という。)借入日平成9年9月24日金額金30万円利息年2.7パーセント 3 平成11年8月頃,Eが 下,「第三貸付」という。)借入日平成9年9月24日金額金30万円利息年2.7パーセント 3 平成11年8月頃,Eが被告に返済すべき金額は,第一貸付につき月額2万4129円,第二貸付につき月額1万8761円,第三貸付につき月額3761円であった。 4 平成11年8月16日,原告Aは被告a支店を訪れ,業務課の担当者Fと面談して,Eが胃癌になって,従来どおりの返済をしていくことが困難になったことを話した。 5 平成11年9月16日以降,Eの被告に対する返済のための口座(甲銀行b支店)から被告に振替入金される金額は毎月3761円(第三貸付の毎月返済分)のみとなった。(甲5) 6 平成11年11月26日,FはE方を訪れ,原告Aが応対した。 7 Eは被告に対し,第一貸付の残金12万2529円を,平成11年12月21日及び24日に返済して,完済した。(乙2,証人F,弁論の全趣旨) 8 平成12年4月21日,被告a支店業務課の担当者Gは,原告Aに電話で第二貸付が延滞となっていることを告げた。 9 平成12年4月27日の直前頃,全国銀行個人信用情報センター(以下,「信用情報センター」という。)は,第二貸付につき,平成11年9月15日に延滞事故が発生したという内容のEに関する事故情報(以下,「本件事故情報」という。)を登録する手続をし,平成12年4月27日,Eに対しその旨通知した。 10 原告Aは信用情報センターに対し,本件事故情報登録について異議申立をしたが,同センターは,平成12年5月31日,変更・削除の事由にはあたらないという理由で登録を継続すると通知した。(甲9) 11 平成12年4月28日,原告Aは被告a支店を訪れ,Fと面談した。その際,6 同センターは,平成12年5月31日,変更・削除の事由にはあたらないという理由で登録を継続すると通知した。(甲9) 11 平成12年4月28日,原告Aは被告a支店を訪れ,Fと面談した。その際,6万円が第二貸付の内金として返済された。 12 平成12年6月9日,Eは被告に対し,第二貸付の残金109万5497円を返済して完済した。 13 信用情報センターは,上記12の第二貸付繰上完済の事実も登録した。また,平成13年6月20日には,E死亡による被告からの登録削除の手続に基づき,Eに関する信用情報を削除した。(乙2)二争点に関する当事者の主張(原告ら) 1 事実経過(1) 平成11年8月16日,原告AがFにEの返済方法の見直しを要望した際,Fは同原告に対し,「支払が滞るとブラックリストに載ることになりますが。」という意味のことを言い,これに対し同原告は,「そのような不名誉なことは嫌なので支払はしたい。長男もいるので,できるだけ支払をしたい。支払の方法を具体的に教えてほしい。」と言った。Fは上司と検討の上返答したいと答えた。 (2) 同年9月10日過ぎ頃,Fは電話で原告Aに対し,「Eが申し出ていた返済スケジュールの変更が承認された。毎月利息分の金額が9月16日より口座から引き落とされる。ただ,9月分は手続の関係上今までどおりの金額が引き落とされてしまうので,余分な金額が口座に残らないようにしなさい。なお,引き落とされる利息額については,私から確認したところ,毎月4000円までにはならない。3000円台の金額である。」と説明した。同原告はこの返済方法の変更を了承し,Eと被告との間で,返済方法変更の合意が成立した。 (3) 同月16日以降は,被告により第一及び第二貸付については口座振替停止の手続がとられ,残 と説明した。同原告はこの返済方法の変更を了承し,Eと被告との間で,返済方法変更の合意が成立した。 (3) 同月16日以降は,被告により第一及び第二貸付については口座振替停止の手続がとられ,残高があっても振替がされないようになっていた。しかし,Eや原告Aは,第一ないし第三貸付の利息のみが引き落とされているものと考えていた。 この間,Eや原告Aは,Fから,第一及び第二貸付について支払が遅滞の扱いになるとの説明を受けなかったし,延滞分についての請求をされることもなかった。 (4) 平成12年4月21日,原告Aは,第二貸付が延滞となっていることを告げられた際,Gに対し,利息のみを支払うということで返済方法が変更になっていることやEの次のボーナスで返済する予定にしていることを説明した。同月28日,本件事故情報の登録を知った原告Aは被告a支店を訪れ,Fと面談した。同原告は,自動車のローン支払が終わる同年7月以降はその分を返済に充てられることや同月のEのボーナスでも支払ができることを説明した。 (5) その後,原告Aらが被告職員と面談して,本件事故情報登録の抹消を求めて交渉したが,被告職員らは被告に非があることを認めなかった。 2 被告の責任(1) 債務不履行前記のとおり,Eは被告との間で,第二貸付についても返済方法変更の合意をしたにもかかわらず,被告は,同合意によればEに延滞の事実は発生していないにもかかわらず,延滞扱いとした。 また,被告はEとの間のローン契約上の付随義務として,Eの信用を不当に毀損しないよう配慮する義務及び延滞が発生した状態にある場合にはこれをEに告知・説明する義務を,信義則上負っていた。 原告A及びEが延滞となることを望まなかったのであるから,被告担当者ら に毀損しないよう配慮する義務及び延滞が発生した状態にある場合にはこれをEに告知・説明する義務を,信義則上負っていた。 原告A及びEが延滞となることを望まなかったのであるから,被告担当者らは,少なくとも,Eらと十分協議して,Eの信用を毀損しない方向での返済方法の変更案をEらに提示すべきであったし,延滞状態となる場合は,速やかにEらにその事実を告げて,Eに延滞を解消する機会を与えるべきであった。ところが,被告担当者らは,こうした措置もとらなかった。 Eは,従前の返済方法を継続し,あるいは,場合によっては一括返済することも可能であったのに,被告担当者らの義務違反により,延滞状態を避け,あるいは解消する機会を奪われ,本件事故情報登録によりその信用を毀損された。 (2) 不法行為仮に,返済方法変更の合意が成立していなかったとしても,FあるいはGは,Eらが延滞となることを望んでいないこと及びEに返済資力があることを知りながら,原告Aに対し,返済方法変更が承認されたと虚偽の事実を申し述べ,延滞となることをEらに秘匿したまま延滞扱いを継続し,その結果,本件事故情報登録によりEの信用が毀損された。 よって,被告は,民法715条に基づき損害賠償責任を負う。 3 損害(1) 慰謝料Eは,本件事故情報登録により経済的信用が失墜し,以後5年間は登録が継続されるため,その間は金融機関から新規融資を拒否されることが必至となり,精神的苦痛を感じざるを得なかった。また,被告職員らは,同登録後のEらとの交渉において,被告側の非を一切認めず,Eらを威圧するような態度をとり,そのためEは大きな憤りを感じた。 これらの事情を考慮すれば,Eの精神的苦痛に対する慰謝料としては,金300万円が相 の交渉において,被告側の非を一切認めず,Eらを威圧するような態度をとり,そのためEは大きな憤りを感じた。 これらの事情を考慮すれば,Eの精神的苦痛に対する慰謝料としては,金300万円が相当である。 (2) 弁護士費用金60万円(被告)1(1) 原告の主張1(1)の事実は否認する。原告Aから具体的な返済方法変更の申出はなく,Fが上司と検討して返答するというはずがない。 (2) 同(2)の事実も否認する。平成11年9月10日,Fは,返済方法の変更について原告Aから連絡がないので,電話でどうするのか照会した。同原告は,返済方法は決まっていないということであったので,Fは,このままでは従来どおりの口座からの引落しが続くと説明した。すると,同原告は,それではEの入院費や生活費の支出に支障を来すというので,Fは,「預金口座の金額が僅かであれば,引き落としたくともできませんから,そうしますか。勿論,不払いということにはなります。」と窮余の策を述べた。 (3) 同(3)の事実も否認する。被告は口座振替停止の手続をしていない。Eと被告及び金融機関三者の契約による自動振替(引落)においては,預金残高不足で振替不能になると,以後口座に入金しても自動的に引落されることはない。Fは,平成11年9,10月に数回原告Aに電話したが応答がないことがあったほか,同年10月22日に電話した際には,同原告からEの復職の見通しはたっていないので,返済見通しもたたないとの説明を受けた。同年11月15日には,同原告は,Eには再手術の必要があるので返済については今は何ともいえないとFに電話で説明した。同月26日にE方で原告Aと話した際も,同原告は,Eが再入院し,支払の見通しはたっていないと述べたので,Fは強い督促をすることを差し控えた。 返済については今は何ともいえないとFに電話で説明した。同月26日にE方で原告Aと話した際も,同原告は,Eが再入院し,支払の見通しはたっていないと述べたので,Fは強い督促をすることを差し控えた。 被告a支店では,平成11年9月16日の不払いについても,「お支払のご案内」を普通郵便でEに送付して,その支払を促した。 (4) 同(4)の事実も否認する。平成12年4月21日,原告AはGに対し,第二貸付については,第三貸付とともに利息だけを支払えばよいことになっているはずであるというので,Gは,返済方法は変更になっていないことを説明して,誤解を正した。 (5) 同(5)の事実も否認する。E及び原告Aらは,返済方法変更の合意ができていたことを前提に本件事故情報の取消を迫ったが,同合意は成立していないから,被告としては拒否するほかなかった。 2 原告の主張2は争う。被告は,金銭消費貸借契約の一方の当事者として一定の義務を負っていることを争うものではないが,その義務に違反したことはない。 信用情報センターの情報は,金融機関である会員に限ってその提供を受けることができるもので,一般に流布されるものではない。 3 原告の主張3は争う。Eは,胃癌で重篤な症状であったというのであるから,その経済的信用は本件事故情報登録の有無にかかわらず失われていた。 理由 一事実経過争いのない事実及び証拠(甲1ないし5,18ー但し,後記採用しない部分を除く,19,乙1,証人F,原告A本人ー但し,後記採用しない部分を除く)と弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 1 第一及び第二貸付に係る借用証書には,Eにおいて,各金銭消費貸借契約に基づく借入金額,借入日,最終返済日(返済条件の変更があった場合には を除く)と弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 1 第一及び第二貸付に係る借用証書には,Eにおいて,各金銭消費貸借契約に基づく借入金額,借入日,最終返済日(返済条件の変更があった場合には,それに基づく最終返済日)等の借入内容に係る客観的事実について,借入期間中及び全額返済の日から5年間,信用情報センターに登録され,また,債務の返済遅延及びその遅延分を返済したときは,遅延の日から5年間,その事実について同センターに登録され,同センターの加盟会員及び同センターと提携する個人信用情報機関の加盟会員が自己の取引上の判断のために利用することに同意するとの条項がある。Eは同借用証書各1通を所持していた。 2 Eは,被告a支店から受け取っていた「お支払額明細書」に基づき,前記争いのない事実等3のとおり,第一ないし第三貸付につき毎月の返済をしていた。 3 Eは,平成11年8月13日,進行胃癌(ボルマンⅡ型),転移性肝癌と診断され,余命2,3か月との説明を受けた。そのため,原告Aは,Eが今後働いて収入を確保し続けることができるか分からず,被告に対する返済について不安となり,同月16日,被告a支店を訪れて,Fに対し,Eの診断結果等の説明をして,当分の間利息の支払程度しかできそうにないがどうすればよいかと相談した。これに対し,Fは,返済方法を変更するのであれば,具体的な返済方法を申し出ることが必要であると教示した。 4 平成11年9月10日,Fは原告Aに電話をして,Eの病状を尋ねた。同原告は,病状に変化はなく,従前どおりの返済は困難であるといったが,具体的な返済方法の変更内容はいわなかった。そこで,Fは,同月16日には従前どおりの金額がEの口座から引き落とされることを説明したところ,同原告はそれは困るということであったので,Fは,口座残高が足 体的な返済方法の変更内容はいわなかった。そこで,Fは,同月16日には従前どおりの金額がEの口座から引き落とされることを説明したところ,同原告はそれは困るということであったので,Fは,口座残高が足りなければ引き落としたくても引き落とせないことになると説明した。 5 同月13日,前記甲銀行b支店の口座から48万円が引き出され,残高が8500円余りとなり,同月16日には,3761円のみが被告に対する返済分として振替出金された。 6 平成11年11月26日,FはE方を訪れ,原告Aと面談した。具体的な支払の目処はたたないということであったが,同原告は,12月のボーナスで第一貸付は一括繰上返済できるかもしれないと説明した。そして,現実に,同年12月,第一貸付は一括返済された。 7 平成11年12月に担当者がFからGに交代し,平成12年4月21日までは,被告a支店からE側に対し連絡がとられることはなかった。 二返済方法変更の合意の成否原告らは,平成11年8月16日に,Fが原告Aに対し,返済方法変更について上司と検討の上返答したいといい,同年9月10日頃,Fが同原告に対し,利息のみの返済とするという返済方法の変更が承認されたと伝えて,同原告がこれを了承し,もって,同変更の合意が成立したと主張し,原告A本人(甲18を含む)もこれに沿う供述をしているが,採用できない。具体的返済方法の提示が顧客側からないにもかかわらず,被告従業員が利息のみの返済という方法に変更することを上司と相談して承認を得るということは想定し難い。Fが原告Aに対し,口座の残高が足りなければ被告に対する振替入金はされないと説明したことは前記認定のとおりであり,Fが原告Aのおかれた状況に同情して,できるだけ返済の負担を軽減できるよう配慮したいと考えていたことは窺われ,その発言の なければ被告に対する振替入金はされないと説明したことは前記認定のとおりであり,Fが原告Aのおかれた状況に同情して,できるだけ返済の負担を軽減できるよう配慮したいと考えていたことは窺われ,その発言の中に原告Aの誤解を招きかねないような表現があった可能性はあるが,原告ら主張の返済方法合意成立の経過は不自然に過ぎ,証拠上認定することはできない。 三被告の責任について 1 原告ら主張の返済方法変更の合意が成立したとは認められないことは前記のとおりであり,同合意を前提とする原告らの債務不履行の主張は理由がない。 2 第二貸付についても,第一貸付と同様,信用情報センターに対する登録に関する条項があり,これがEの所持する借用証書に記載されていた。また,Eに対し,第二貸付の「お支払額明細書」が交付されており,Eはこれに従って被告に返済をしてきていたところ,弁論の全趣旨によれば,新たな支払額明細書がEに交付されたことはないと認められ,そうとすれば,Eには,第二貸付に延滞が発生した事実を把握することは可能であったと認められる。さらに,証拠(甲16,証人F)によれば,延滞が発生した場合,被告の本店情報システム部から自動的に当該顧客に対し「お払込のご案内」と題する書面が送付され,延滞分の払込の依頼がなされることとなっていることが認められ,第二貸付についても平成11年9月16日の直後頃同様の処置がとられたものと推認できる。 以上によれば,Eや原告Aにおいて,第二貸付に延滞が発生したこと及びこの事実が信用情報センターに登録されることを十分認識することができたものと認められる。その上,少なくとも本件事故情報が登録される直前の平成12年4月21日には,Gから原告Aに対し第二貸付延滞の事実が明確に伝えられたのであるから,Eは,遅くともこの時期には,延滞発生の事 認められる。その上,少なくとも本件事故情報が登録される直前の平成12年4月21日には,Gから原告Aに対し第二貸付延滞の事実が明確に伝えられたのであるから,Eは,遅くともこの時期には,延滞発生の事実を明確に認識したものである。 そうすると,金融機関は,顧客の信用を毀損しないよう配慮し,延滞発生等の場合はこれを説明する義務を一般的には負っていると解することができるとしても,本件では,顧客側で延滞発生や信用情報センターへの登録を認識することが可能であったと認められるから,Fらが明確な説明をしなかったとしても,違法に説明を怠ったということはできない。 原告Aが延滞発生を避けるためにFに相談したことは明らかであるが,返済資力等に関する資料の提供を受けていなかった(原告A本人)Fが,積極的に返済方法変更案を提示すべき義務を負っていたとも解し難い。Fが原告Aとの話の中で,明確に,延滞となること及びその場合信用情報センターに登録されることになることを説明したとは,証拠上認められないが,これは,Fが原告Aのおかれた状況に同情して,強い警告をすることができなかった結果であると推認される。 原告Aは,Fの積極的配慮に期待していたのに対し,Fは,同原告の状況を慮って明確な説明を避け,結果的に同原告の期待を裏切ることとなった可能性もあり,そうとすれば,双方のコミュニケーションが不十分であったというほかないが,その場合でも,Fに原告ら主張のような違法な義務違反があったとすることはできない。 3 前記一,二の認定によれば,Fが原告Aに虚偽の事実を申し述べたとは認められない。 4 以上のとおり,被告に債務不履行ないしは使用者責任に基づく損害賠償義務があるとは認められない。 四結論よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,棄却すること とは認められない。 4 以上のとおり,被告に債務不履行ないしは使用者責任に基づく損害賠償義務があるとは認められない。 四 結論 よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,棄却することとする。 神戸地方裁判所第5民事部裁判官 前坂光雄
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