昭和41(う)853 公職選挙法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和42年5月23日 福岡高等裁判所
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判決文本文5,182 文字)

主文 本件控訴を棄却する。当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。理由 主任弁護人谷川宮太郎が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人並びに弁護人松本洋一連名作成提出の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。右控訴趣意第一点(事実誤認)について。しかし、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人が原判示のとおり本件当時福岡県技術吏員で同県衛生部医務課看護係長として上司である同県知事、衛生部長等を補佐し同県下の病院、療養所等に勤務する看護婦、准看護婦の業務の調整、指導、看護婦の再教育、准看護婦に対する試験、免許、登録、看護婦の国家登録、看護職員の修学資金の貸与、看護婦、准看護婦学校、養成所の指定、報告、指導等に関する看護係の職務を担当していたことを認めるに充分である。原判決は所論の昭和三六年度及び昭和三七年度の各定期監査(歳入歳出決算審査)調書のみによつて被告人の職務を認定しているものではなく、これを含めた他の証拠を総合してこれを認定しているものであつて、特に右定期監査調書中の職務分担表によると、昭和三六年度及び昭和三七年度において被告人が福岡県衛生部医務課看護係長であること並びに被告人に属する看護係の下部職員の職務分担を具体的に明示してあり、各係員の分掌事務は右両年度を比べると、その間に若干の変動はあるにしても看護係全体としての職務については格別異動は認められず、従つてその分掌事務を総括処理する看護係長たる被告人の職務に変動があつたものとは認めがたい。たとえ、右職務分担表が監査当時のものであるとしても、所論引用の証人も被告人の上記職務内容に変移があつたことまで供述しているわけではなく、これをもつて被告人が右の如き職務に従事していたことを否定するものとするには 分担表が監査当時のものであるとしても、所論引用の証人も被告人の上記職務内容に変移があつたことまで供述しているわけではなく、これをもつて被告人が右の如き職務に従事していたことを否定するものとするには充分ではない。 監査当時のものであるとしても、所論引用の証人も被告人の上記職務内容に変移があつたことまで供述しているわけではなく、これをもつて被告人が右の如き職務に従事していたことを否定するものとするには 分担表が監査当時のものであるとしても、所論引用の証人も被告人の上記職務内容に変移があつたことまで供述しているわけではなく、これをもつて被告人が右の如き職務に従事していたことを否定するものとするには充分ではない。また原判決は被告人が総婦長業務打合せ会の際、衛生部長に代つてその司会を担当したのに乗じ職務上の地位を利用して本件犯行に及んだことを判示しているが、所論の如く、ことさら被告人が計画的意図的に選挙運動のため本件総婦長業務打合せ会を開いたものと認定判示しているものではない。それ故本件犯行の動機原因につき原審の認定を批難する所論は、すでにその前提を誤り採るをえない。しかも本件当時被告人がAが立候補の決意を有することを知つていたことは、被告人の検察官に対する昭和三八年三月二二日付供述調書により明らかであり、その他原判決挙示の関係証拠によれば、被告人が原判示日時場所において原判示総婦長等に対し「今度の知事選に先日の保健婦の会合でA知事を推すことに決議したので看護婦も一本になつて推したいと思います。御賛同の方は拍手でお答え下さい。」と申し向けて来るべき県知事選挙に立候補すべき右Aのための投票並びに投票とりまとめ方を依頼した事実を肯認でき、被告人の右言辞が推すという言葉でありながら、その実は右のようにAに対する投票並びに投票とりまとめを依頼する趣旨であることは被告人の前記供述調書により明らかであり、その趣旨は参集した婦長等にも充分に理解されていたことが認められ、被告人の意思が単に所論の如くAの推薦支持者獲得のための言動にとどまつたものとは到底認められない。被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書、B等所論引用の関係者の検察官に対する各供述調書が、いずれも所論の如き原因誘導により作成されたものとは認められず、かえつてその供述記載に られない。被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書、B等所論引用の関係者の検察官に対する各供述調書が、いずれも所論の如き原因誘導により作成されたものとは認められず、かえつてその供述記載に照らし、充分に任意性信憑性を有するものと認められるし、また原審証人Cの供述が信憑性を欠くものとも認められない。 述調書が、いずれも所論の如き原因誘導により作成されたものとは認められず、かえつてその供述記載に られない。被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書、B等所論引用の関係者の検察官に対する各供述調書が、いずれも所論の如き原因誘導により作成されたものとは認められず、かえつてその供述記載に照らし、充分に任意性信憑性を有するものと認められるし、また原審証人Cの供述が信憑性を欠くものとも認められない。当審証人D、同Eの各供述を検討し記録を精査しても原判決には所論の如き証拠の取捨価値判断を誤り、ひいて事実を誤認した違法は認められない。論旨は理由がない。同控訴趣意第二点(法令適用の誤)について、公職選挙法第一三六条の二第一項第一号の規定する公務員の地位を利用して選挙運動をする罪については、規定の明文上は公務員の範囲、その職務の内容並びに権限の程度の点で何ら限定しておらず、従つて公務員の社会的信頼それ自体、すなわち公務員なるが故にその者のなす選挙運動を直ちに地位利用といえるか、公務員がその職務を通じて対象者と何らかの関連があれば足りるものなのか、その公務員が独立固有の職務権限を有しその者の判断で行政上効果ある行為をなし得る者であることを要する趣旨なのか、必ずしも明確であるとはいえない。所論は、当該公務員がその職務の行使を通じ選挙運動の相手方に対し具体的な影響乃至便宜を及ぼし得る関係にあり、それ故にこそ特に選挙運動を効果的に行ない得るような影響力がある地位を利用することを要するとして、所謂高級公務員に限るものと解すべきであると主張する。<要旨>しかし、公職選挙法が本来自由であるべき選挙活動に公共の福祉の見地から法的な規制を加えた基本的精神</要旨>に即して同法条を合理的に理解すれば、同条違反の罪は、公務員の管掌する職務が選挙運動の対象者と密接な関連があつて、これを通じて相手方に対し利益又は不利益な影響を及ぼし得る状況にあること 精神</要旨>に即して同法条を合理的に理解すれば、同条違反の罪は、公務員の管掌する職務が選挙運動の対象者と密接な関連があつて、これを通じて相手方に対し利益又は不利益な影響を及ぼし得る状況にあることからして、その者のなす選挙運動が便宜かつ有利で効果的な影響力があると見られる場合において、その地位を利用して選挙運動をすることを指称し、当該公務員が独立固有の職務権限として処分その他公務所の意思決定をなし得る者であることを必要とせず、その職務上関係業務について権限ある上司に対し報告するとか、意見を具申するなどの方法によつて、密接且つ重要な関係において補佐する立場から該業務に参与する者である限り、ひとしく職務上の影響力がある地位を利用して選挙運動をする場合に包含され、例えば、県衛生部、医務課の業務を担当する看護係長のごとく、県下の病院、療養所等における看護婦、准看護婦に関する広汎な各種の行政事務を行なう者が、これら看護婦、准看護婦に対し、その身分上の指揮、監督権等の処分権限を有する知事、衛生部長の職務について、関係業務の立案、計画に参与し、調査報告乃至意見具申などの方法によつて、これに密接な関係において補佐している者の叙上対象者に対する選挙運動もこれに該当すると解すべきである。 医務課の業務を担当する看護係長のごとく、県下の病院、療養所等における看護婦、准看護婦に関する広汎な各種の行政事務を行なう者が、これら看護婦、准看護婦に対し、その身分上の指揮、監督権等の処分権限を有する知事、衛生部長の職務について、関係業務の立案、計画に参与し、調査報告乃至意見具申などの方法によつて、これに密接な関係において補佐している者の叙上対象者に対する選挙運動もこれに該当すると解すべきである。なぜなら、国家公務員法(第一〇二条)、地方公務員法(第三六条)が公務員の政治活動を禁止した所以が、公務の中立、厳正を期し、服務の公正と完全性を保持する意図に出たものであることを参酌し、さらに公職選挙法が専ら選挙の自由と公正を保障することを趣旨としたものであることに鑑みれば、前示同法条の含意するものは、単に公務員がその公務員としての社会的信頼自体を利用することを規制しようとしたものでなく、およそ対象者との間に職務上密接な関連があり、その職務の行使を通じて何らかの利益又は 同法条の含意するものは、単に公務員がその公務員としての社会的信頼自体を利用することを規制しようとしたものでなく、およそ対象者との間に職務上密接な関連があり、その職務の行使を通じて何らかの利益又は不利益な影響を及ぼし得る立場にある者が、その影響力を利用して効果的な選挙運動をなすことにより、選挙の公正と自由を阻害すると評価するに足りる限り、不当にその地位を利用するものといえるので、かかる選挙運動を排除しようとしたものであつて、所論のように固有の処分権限を有する所謂高級公務員の選挙運動にのみ限定することは狭きに失し、合理的根拠を見出し得ないからである。これを本件についてみるに、被告人は前記のとおり福岡県技術吏員で同県衛生部医務課看護係長として上司である同県知事、衛生部長等を補佐し、同県下の病院療養所等に勤務する看護婦、准看護婦の業務の調整、指導、其の他冒頭説示のような看護係の職務を担当していたものであり、もとより被告人には処分決裁の権限はなかつたにしても右の如き担当職務を通じて福岡県下の所轄関係看護婦等に対し影響力を及ぼしうる地位にあつたことは明らかであるばかりでなく、原審において取り調べた証拠によると、これらの者に対し被告人の上記職務上の地位にもとづき看護婦関係業務に関し上記指導等並びにこれに関連して上司に意見具申をする職務を行つていることは疑を存しないので、これら婦長等は単に職務上被告人と関係があつたというにとどまらず、右被告人の職務を通じてその影響力を受けうる状況にあつたことがうかがえるのであつて、しかも、被告人は当日主催者の福岡県衛生部長欠席のため、これに代つて上記打合せ会の議事進行等につき司会をしており、婦長等に対しより一層強い影響力を及ぼしうる情勢にあつたことが認められる。 に関連して上司に意見具申をする職務を行つていることは疑を存しないので、これら婦長等は単に職務上被告人と関係があつたというにとどまらず、右被告人の職務を通じてその影響力を受けうる状況にあつたことがうかがえるのであつて、しかも、被告人は当日主催者の福岡県衛生部長欠席のため、これに代つて上記打合せ会の議事進行等につき司会をしており、婦長等に対しより一層強い影響力を及ぼしうる情勢にあつたことが認められる。そして、被告人が検察官に対する供述調書(昭和三八年 長欠席のため、これに代つて上記打合せ会の議事進行等につき司会をしており、婦長等に対しより一層強い影響力を及ぼしうる情勢にあつたことが認められる。そして、被告人が検察官に対する供述調書(昭和三八年三月二二日付)において上記のような看護係長としての職務を有することから、婦長等に対しAに対する投票並びに投票とりまとめをお願いしたら、きいていだだけるという期待があつたので本件に及んだ旨の供述をしていることに徴し、公務員たる被告人が、その地位を利用して本件選挙運動を行つたものであることは否定するに由なく、被告人の所為は公職選挙法第一三六条の二第一項第一号の禁止に違反するものといわねばならない。すると、原審が被告人の所為につき右法条並びにその罰則たる同法第二三九条の二第二項を適用したことはまことに相当であり、記録を精査しても原判決には所論の如き法令解釈適用に誤りあるを発見することはできない。論旨は理由はがない。そこで刑事訴訟法第三九六条に則り本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文に従つて全部被告人をして負担させることとする。よつて主文のとおり判決する。(裁判長裁判官岡林次郎裁判官山本茂裁判官生田謙二)

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