令和5(わ)1052 金融商品取引法違反

裁判年月日・裁判所
令和7年12月15日 横浜地方裁判所
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判決文本文13,186 文字)

主文 被告人両名はいずれも無罪。 理由 第1 訴因変更後の公訴事実本件における訴因変更後の公訴事実は、「差戻し前の第一審被告人c 株式会社(以下「被告会社」という。なお、差戻し前の第一審判決時点での被告会社の商号は「d株式会社」であり、被告会社は同判決に対して控訴せず、同判決が確定した。)は、横浜市(住所省略)に本店を置き、建築用資材、住宅設備機器の加工、売買及び不動産の管理、売買、賃貸借業等の事業を営むとともに、それら事業を営む会社等の株式等を保有することにより、当該会社の事業活動を支配管理することを目的とし、その発行する株券を株式会社東京証券取引所市場第一部に上場し、その平成27年3月期の連結業績予想につき、営業利益が9億円、経常利益が7億円、当期純利益が5億円である旨公表していたもの、被告人a は、被告会社の実質的経営者(平成27年6月26日からは代表取締役会長)としてその業務全般を統括していたもの、被告人b は、被告会社の代表取締役社長としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人a 及び被告人b は、被告会社の取締役であったe と共謀の上、被告会社の業務に関し、同日、前記本店事務所内に設置された入出力装置から、開示用電子情報処理組織を利用して、内閣府の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録させる方法により、さいたま市中央区新都心1番地1所在の関東財務局において、同財務局長に対し、被告会社の平成26年4月1日から平成27年3月31日までの連結会計年度につき、営業利益が約4億9800万円(100万円未満切り捨て。以下同じ。)、経常損失が約1800万円、当期純利益が約1億3500万円であったにもかかわらず、会計的な準則に反する売上を計上するなどの方法により、営業利益を10億1200万円、経常利益 切り捨て。以下同じ。)、経常損失が約1800万円、当期純利益が約1億3500万円であったにもかかわらず、会計的な準則に反する売上を計上するなどの方法により、営業利益を10億1200万円、経常利益を4億9600万円、当期純利益を4億8800万円と記載するなどした虚偽の連結損益計算書を掲載した有価証券報告書を提出し、もって重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出 した」というものである。 第2 本件の経過 1 差戻し前の第一審(1) 本件の公訴事実(訴因)は、差戻し前の第一審では、「架空売上を計上するなどの方法により」とされており、被告会社のグループの会社を売主とし、f 株式会社を買主とする複数の不動産取引(以下「本件各取引」という。本件各取引の詳細は、後記第3・3(3)で述べる。)が、いずれも実体を欠く架空の取引であったかが争点とされていた。 (2) 差戻し前の第一審は、本件各取引に実体はなく、本件各取引に基づく売上等を売上高に含めることは許されないから、不動産売却益、貸付金利息、仲介手数料及び販売委託手数料を利益として計上することは認められず、本件有価証券報告書には重要な事項について虚偽の記載があると認定し、被告人a を懲役2年6月(執行猶予4年)に、被告人b を懲役1年6月(執行猶予3年)に処する旨の判決を宣告した。 2 差戻し前の控訴審(1) 控訴審は、本件各取引は、いずれも実体が認められ(架空取引であるとはいえず)、本件各取引の実在性を否定した原判決の認定判断は、論理則、経験則に照らして不合理であり、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるから、原判決は破棄を免れないとした。 (2) その上で、控訴審は、ア虚偽記載有価証券報告書提出の罪における「虚偽の記載」といえるかどうかについ 判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるから、原判決は破棄を免れないとした。 (2) その上で、控訴審は、ア虚偽記載有価証券報告書提出の罪における「虚偽の記載」といえるかどうかについて、取引の実在性が肯定される場合には、会計準則に従い、取引の結果を財務諸表等に計上することが許されないこと(会計的な意味において真実に合致しない(会計基準に反する)記載がなされたこと)が必要であり、イ本件においては、決算対策の目的で行われた本件各取引に基づく売上等を計上したことが、会計基準に照らし、「重要な事項につき虚偽の記載」をしたといえる か否か(会計基準上の争点)について判断する必要があるが、ウ原審では当事者双方ともこの点に焦点を当てた立証を行なっていないから、会計基準上の争点について審理を尽くさせる必要性が高い、として、本件を原審に差し戻した。 3 当審(差戻し後の第一審)(1) 以上の経緯を前提に、検察官は、当審において、本件公訴事実のうち「架空売上を計上するなどの方法により」の部分につき、「会計的な準則に反する売上を計上するなどの方法により」と訴因を変更した。 (2) 検察官による上記の訴因変更を踏まえ、当審における争点は、ア本件各取引に基づく売上等を計上したことが、会計基準に照らし、金融商品取引法197条1項1号の「重要な事項につき虚偽の記載」をしたと認められるか、イアが認められた場合に、各被告人に故意が認められるか、と整理された。 第3 当裁判所の判断 1 判断の前提となる平成27年3月期における会計基準平成27年3月期の当時において、収益認識に関する包括的な会計基準や不動産取引全般に係る具体的な会計基準は存在しておらず、一般に公正妥当と認められる会計基準は企業会計原則であった。 企業 計基準平成27年3月期の当時において、収益認識に関する包括的な会計基準や不動産取引全般に係る具体的な会計基準は存在しておらず、一般に公正妥当と認められる会計基準は企業会計原則であった。 企業会計原則・第二(損益計算書原則)・三(営業利益)・B本文には、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」と定められており、実現主義の下での収益認識は、①財貨又は役務の移転(以下「財貨の移転」という。)及び②これに対する現金又は現金等価物(売掛金・受取手形等)の取得(以下「対価の成立」という。)をともに満たす場合に認められる。 2 当裁判所の判断の骨子(1) 検察官は、本件各取引においては、①財貨の移転及び②対価の成立がないため、収益認識することが許されないと主張する。 これに対し、被告人両名の各弁護人は、いずれも、検察官の主張する会計基準の解釈あてはめは、一般に適用される収益認識の指針として明文化されたものでも、唯一の会計処理の方法として確立したものでもなく、本件各取引に基づく売上等を計上した被告会社の会計処理は、会計基準に照らして許容されるものであった旨主張する。 (2) 当裁判所は、検察官が主張する会計基準の解釈あてはめは、それ自体、適切な根拠に基づく合理的なものであると認められるものの、それ以外の解釈を許さない唯一のものとまでは言い切れず、被告会社による本件の会計処理が会計基準に照らして許されないものとまでは認められないと判断した。 3 前提となる事実(1) 被告会社及び被告会社のグループの会社東京証券取引所市場第一部に株式が上場されていた被告会社のグループ会社(被告会社の子会社及び関連会社とされていた会社をいい、以下「g グループ」という。)の中心的事業は、建築資材 のグループの会社東京証券取引所市場第一部に株式が上場されていた被告会社のグループ会社(被告会社の子会社及び関連会社とされていた会社をいい、以下「g グループ」という。)の中心的事業は、建築資材事業及び住宅事業であった。h 株式会社は、被告会社の前記各事業を担う中核的な連結子会社であり、i 株式会社及びj 株式会社はいずれも住宅事業を担う連結子会社であった。 (2) fh は、株式会社k に従業員を出向させ、不動産部で事業を行っていたところ、同部が独立する形で平成21年11月にk の100パーセント子会社としてf が設立された。 f は、平成23年5月1日付けでh と業務提携及び業務委託包括契約を締結し、中古住宅購入販売事業をh とその指定する業者に委託し、h が主催する事業(主に市場を流通する中古マンションを買い取り、リフォームして再販する事業。以下「l事業」という。)に参加していた。f は、一般の金融機関からの融資を受けられる状態ではなく、個々の物件を購入するに当たっては、その都度、貸金業の免許を有するj から融資を受けていた。また、f のl 事業は、h からの出向社員を含めたh の従 業員によって行われ、預金口座の通帳や銀行印、実印等の保管及び管理、経理及び税務関係の業務等はh の住宅事業本部が担当し、f の代表者印を使用するに当たっても、h の社員及び役員の決裁を受けることになっていた。 被告人a は、平成26年11月12日、間接的にf の全株式を保有することになった。 (3) 本件各取引の経緯・内容本件において、「重要な事項につき虚偽の記載」をしたとされる本件各取引の経緯・内容は以下のようなものである。 ア仙台市(住所省略)所在の土地2区画(以下、2区画の土地を併せて「甲の土地」といい、2区画の土地を 「重要な事項につき虚偽の記載」をしたとされる本件各取引の経緯・内容は以下のようなものである。 ア仙台市(住所省略)所在の土地2区画(以下、2区画の土地を併せて「甲の土地」といい、2区画の土地をそれぞれ「甲東の土地」「甲西の土地」という。)に関する売買契約について(h とf の間の売買契約)甲の土地は、h が事業開発用地として購入した土地である。 平成26年12月と平成27年1月、被告人a の指示の下、甲の土地をいったんf に売却し、その後h が買い戻した場合の試算が行われた。同年2月12日、被告人両名は、そのスキームに基づき、甲の土地をh からf に売却するまでの段階を優先させることを了承した。また、利益を更に出すため、m 株式会社が、h とf の間の売買契約を仲介する形式が取られた。同年3月15日までには、甲の土地の売却の条件が定まり、同月25日付けでh とf の間で売買契約書が作成された。 同年4月以降、被告会社の連結子会社が、被告人a の指示により、甲西の土地の一部を買い取るなどし、甲東の土地の一部については、h 東北事業部によって売却されるなどした。 イ仙台市(住所省略)所在のマンション2戸(以下、併せて「乙の物件」という。)に関する売買契約について(h とf の間の売買契約)乙の物件は、h が分譲販売したマンションの店舗であり、h が仲介事務所の店舗を出すために保有していた固定資産であった。しかし、乙の物件は、空き物件となっていたため、被告人a の指示に基づいてf に売却されることとなり、同物件につき 平成27年3月25日付けでh とf の間で売買契約書が作成され、同年4月以降、h 東北事業部が第三者に賃貸に出すなどして物件の管理を継続した。 ウ仙台市(住所省略)所在のマンション5戸(以下、併せて「丙の 3月25日付けでh とf の間で売買契約書が作成され、同年4月以降、h 東北事業部が第三者に賃貸に出すなどして物件の管理を継続した。 ウ仙台市(住所省略)所在のマンション5戸(以下、併せて「丙の物件」という。)に関する売買契約について(h 等とf の間の売買契約)h 及びn 株式会社は共同して分譲マンション事業を行っていたところ、建設途中でコンクリート打設工事をやり直すことになったことから5戸(丙の物件)が解約されたため、f がこの5戸を購入することになった。 平成26年12月26日付けでh 及びn とf の間で売買契約書(5通)が作成され、f は各物件について手付金50万円を除いた残代金を平成27年3月27日までにh の預金口座に送金して支払うものとされた。同年4月以降、丙の物件は、h 東北事業部によって販売活動がされ、エンドユーザー等への売却手続等が行われた。 エ首都圏所在のマンション4物件70戸(丁、戊、己、庚の各物件をいう。以下、まとめて「首都圏の物件」という。)に関する売買契約について(i とf の間の売買契約)平成27年1月頃から、i の在庫物件を選定し、f に売却することになった。売却対象は首都圏にあるマンションから選定することとし、f の資金はf に対するj からの融資枠を利用することになり、その売却対象数及び融資枠は拡大していった。 同年3月16日、合計62戸がf への売却対象物件として選定された。f への売却対象物件として最終的に残った70戸(首都圏の物件)について、同月末の時点でも売買契約書等は作成されておらず、同年4月10日以降、日付をさかのぼり、庚の物件を除く首都圏の物件に係る同年3月25日付けの売買契約書及び庚の物件に係る同月31日付けの売買契約書が作成された。 その後、同年4月以降、首都圏の物 、同年4月10日以降、日付をさかのぼり、庚の物件を除く首都圏の物件に係る同年3月25日付けの売買契約書及び庚の物件に係る同月31日付けの売買契約書が作成された。 その後、同年4月以降、首都圏の物件については、h がf の販売代理をする形をとり、h の住宅事業部によって各物件の管理及び販売代理がなされ、エンドユーザーへの分譲が行われた。 なお、首都圏の物件の売買は、いずれも所有権は買主が売買代金を売主に支払い、 かつ買主が所有権の移転先となる者(以下「受益者」という。)を指定し、受益者が売主に対し所有権の移転を受ける旨の意思表示を行ったときに売主から受益者に直接移転するものとする第三者のための契約及び移転時期に関する特約を定めており、所有権は移転先の指定があるまでは留保されることになった。これらの特約は、平成27年3月、f が所有権保存登記をすると、エンドユーザーとしては、中古のマンションであるという心証になって販売の阻害要因になること、所有権保存登記よりも所有権移転登記の方が費用が掛かるので、その分エンドユーザーの費用負担が増え、この点も販売の阻害要因になるため、新中間省略登記と言われる方法をとるために設けられた。首都圏の物件については、平成27年3月31日付の鍵の受領書が作成されたが、その後、h が販売代理のため鍵を管理した。 オ東京都中央区所在の中古マンション1戸(以下「辛の物件」という。)に関する売買契約について(j とf の間の売買契約)辛の物件は、j の物件であり、平成27年2月6日頃のh の仕入れ会議にかけられ、f が購入することとなった。 辛の物件については、同年2月28日付けでh が仲介する形で、j とf の間で売買契約書が作成され、h 壬店において、辛物件の販売活動が続けられ、別の不動産会社に広告を が購入することとなった。 辛の物件については、同年2月28日付けでh が仲介する形で、j とf の間で売買契約書が作成され、h 壬店において、辛物件の販売活動が続けられ、別の不動産会社に広告を出すなどして、約1年をかけてエンドユーザーに売却された。 (4) 本件各物件の購入代金の調達と決済本件各物件の購入代金については、j の融資を原資とする予定であったが、h の経営推進本部取締役常務執行役員であるo は、平成27年1月23日、j 担当者に対し、f への融資に関し、j で不足する金額はh から借入を行うことで賄う旨指示したほか、f に売却した物件については、h でエンドユーザーへの販売を行い、エンドユーザーから受領した代金でj に返済していく予定である旨話した。 j からf への融資の枠は、不足を賄う形で、順次、10億円、25億円、35億円と増額変更された。 同年3月23日、h からj に対して22億5000万円の融資が、同月24日、j からf に対して30億円と2530万円の融資が、それぞれ実行された。同月27日頃、f に対する売却物件が追加されると、同月30日、h からj に対する5億円の追加融資が更に実行された。f は、これらの各融資を原資として各売主に送金決済した。このほか、f からは、仲介手数料としてh 等への送金が行われた。 4 検察官の主張検察官の主張は、おおむね以下のとおりである。 (1) 実現主義の要件のあてはめについては、法的形式と経済的実質が異なる場合には経済的実質を重視するべきである。また、各要件の検討に当たっては、連結企業集団を単一の組織体とみなした上で検討するべきである。 (2)ア財貨の移転については、「物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値を企業が買手に移転した」場合に、財貨の移転 討に当たっては、連結企業集団を単一の組織体とみなした上で検討するべきである。 (2)ア財貨の移転については、「物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値を企業が買手に移転した」場合に、財貨の移転が完了したと認められる。 イこれを本件各取引についてみると、法的形式上、首都圏の物件については、所有権留保により、g グループに所有権がいまだ残存しており、また、その他の物件については、f に所有権が移転している。 ウしかし、その経済的実質をみると、形式的には、g グループがf から販売代金として現預金を得ているものの、その原資はg グループ(厳密には貸金業も業務に含まれるj)がf に融資した貸付金である。また、その貸付金の回収条件は、f が本件各物件をエンドユーザーに販売する都度、その販売額を限度とされており(以下「本件返済限定条件」という。)、上記貸付金の回収は、f が本件各物件を販売できるか否かに完全に依存している。そうすると、本件各取引の前後で、本件各物件のリスク(不動産が売れずに十分な販売代金を得られないこと)に変化が認められない。さらに、g グループが、f への本件各取引後も、販売前と同様、その販売活動を継続していたということも、リスク及び経済価値がf に移転していないことをうかがわせる一要素である。 エ以上から、経済的実質をみれば、本件各物件についてリスクの移転が認められる事態は想定できず、財貨の移転は認められない(完了していない)。 (3)ア対価の成立については、物品の販売時点において、その対価が回収される可能性が高いと見込まれることをいう。 イこれを本件各取引についてみると、前記のとおり、本件各取引の譲渡代金は被告会社の連結子会社であるj が融資した資金であり、この場合、各物件の販売時点において、貸付 高いと見込まれることをいう。 イこれを本件各取引についてみると、前記のとおり、本件各取引の譲渡代金は被告会社の連結子会社であるj が融資した資金であり、この場合、各物件の販売時点において、貸付金の回収可能性が高いといえるかによって対価の成立の有無が判断されるべきである。 ウそして、本件各物件の販売時における貸付金の回収可能性をみると、単発かつ金額が大きいという不動産取引の特性や、f の預貯金の額に比して借入額が高額であることからすれば、結局のところ、貸付金の回収可能性は、f がエンドユーザーに販売できるか否かにかかっており、エンドユーザーを獲得して契約することができていない時点で、当該貸付金の回収可能性が高いと評価することはできない。 エ以上から、本件各物件について対価の成立は認められない。 5 検討(1) 検察官の主張の前提となる、法的形式より経済的実質を重視するという考え方は、平成27年3月期に存在していた収益認識に関する研究報告である、「財貨の移転の完了」及び「対価の成立」の判断に関する会計実務の考え方(会計制度委員会研究報告第13号「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)―IAS第18号「収益」に照らした考察―」(以下「研究報告第13号」という。))の中に、所有に伴う重要なリスク及び経済価値の移転は、必ずしも法律上の所有権等の移転の時点に限定されず、取引の実態に基づき判断するとされているという記載があるなど、会計処理の参考となる指針である各報告にもその趣旨が表れている。また、検察官の主張は、会計の専門家(公認会計士)として十分な知識及び能力を有するp の意見書及び公判供述によっても裏付けられており、その論理の流れも合理的なものである。したがって、検察官の主張する実現主義の各要件の解釈あてはめは、それ自体、合 として十分な知識及び能力を有するp の意見書及び公判供述によっても裏付けられており、その論理の流れも合理的なものである。したがって、検察官の主張する実現主義の各要件の解釈あてはめは、それ自体、合理的かつ説得的なものであると認められる(ただし、前提となる事実関係のうち、本件返済限定条件の存否については後述する。)。 (2) 他方で、本件の事実関係を前提として、検察官の主張する会計基準の解釈あてはめについて、具体的に示した報告及び指針等は存在しない。また、検察官の引用する研究報告第13号は会計制度委員会における研究の成果にすぎず、他の報告等も本件に直接適用されるものではない。さらに、検察官の主張する経済的実質を優先する考え方から、直ちに、検察官の主張する会計処理の在り方が唯一の会計処理の在り方であるとの結論が導かれるわけでもない。そうすると、証拠上、検察官の主張する会計基準の解釈あてはめは一つの有力な見解であるとはいえるものの、本件当時、それ以外の会計処理の在り方を許さないような、唯一の確立した会計基準の解釈あてはめであったとまでは認められない。 (3) 被告人両名の各弁護人は、会計の専門家(q大学専門職大学院会計専門職研究科教授)であるr の意見書及び公判供述に依拠し、本件各不動産取引について収益認識を否定すべき事情はなく、本件会計処理に問題はない旨主張している。 ア(ア) 財貨の移転について、r 教授は、本件各取引について財貨の移転があったかどうかは、原則として法的に所有権が移転したかで判断され、①甲の土地、乙の物件、丙の物件及び辛の物件については、財貨の移転は否定されない旨の見解を述べている。また、r 教授は、②所有権留保が付されている首都圏の物件についても、所有権留保の法的性質について判断を留保し、所有権が移転してい び辛の物件については、財貨の移転は否定されない旨の見解を述べている。また、r 教授は、②所有権留保が付されている首都圏の物件についても、所有権留保の法的性質について判断を留保し、所有権が移転していないと構成したとしても、売主から当該財貨に係るリスクと経済価値がほとんど移転していれば収益認識を肯定することができる旨の見解を述べている。 r 教授もまた、十分な知識及び能力を有する会計の専門家であり、その論理は説得的であって、その見解の正当性や合理性に疑義を抱かせるような事情は見当たらない。 (イ) 本件の事実関係をみても、g グループとf 間で売買契約が締結され、代金の決済が行われ、所有権保存又は移転登記手続も経ており(首都圏の物件については後述)、売主買主の双方が主要な義務を履行している。 また、g グループは、f からエンドユーザーへの売却代金から貸付金の回収を想定 していたものであるが、それに限定する内容の合意(本件返済限定条件)の存在は認められないから、本件各物件を販売できず、本件各物件の価値が下落したとしても、f が返済義務を免れるわけではない。 さらに、f による販売状況が貸付金の回収に影響を及ぼしたとしても、それは事実上のものであって、検察官が主張するような法的な関連性までは認められない。 加えて、g グループが本件各取引後も販売前と同様エンドユーザーへの販売活動を継続していたという点についても、そのような活動を継続していたのは、従前からf がh との間で業務提携及び業務委託包括契約を締結し、中古住宅購入販売事業をh とその指定する業者に委託することとし、h のl 事業に参加していたからであって、g グループが売主の立場として行っていたものではない。 したがって、本件各物件の現実支配がf に移転し、不動産の引渡 とその指定する業者に委託することとし、h のl 事業に参加していたからであって、g グループが売主の立場として行っていたものではない。 したがって、本件各物件の現実支配がf に移転し、不動産の引渡しがあり、確定的に所有権が移転したと評価する余地もあるのであって、本件各取引は、実体を伴った取引であって、その利益を認識することが経済的実質を優先する考え方に直ちに反するということはできない。 (ウ) 検察官は、r 教授の供述内容について、実現主義の要件検討に当たっては、連結企業集団を単一の組織体とみなした上で検討するべきであり、連結の関係の実質的な見直し等が必要であるという観点を考慮せず、経済的実質を正しく評価できていないなどとして、そのような会計基準の解釈あてはめは取り得ない旨主張する。 しかし、r 教授は、連結の関係や金銭の流れなどの事実を前提にしており、その解釈の前提に誤りはうかがわれないし、本件返済限定条件についても、それが「条件」であれば格別、「期限」という趣旨であれば収益認識することに影響はない旨供述している。そして、前記のとおり、本件当時に本件類似の事案における解釈指針が特に定められていなかったことからすれば、被告人両名の各弁護人の主張する会計基準の解釈あてはめが許されないとまで認めるに足りる証拠はない。 (エ) なお、首都圏の物件については法形式としても所有権移転がないとみる余地があることから、さらに検討を加えておくこととする。 被告人両名の各弁護人は、前記第3・3(3)エのとおり、所有権の移転先となる指定権は買主に帰属していたことから、対象物件にかかるリスクも経済価値も売買代金の支払時点で移転していたと主張する。 この点、r 教授も、エンドユーザーの側に直接登記を移転する方法にしたいとの要望があればそうする 属していたことから、対象物件にかかるリスクも経済価値も売買代金の支払時点で移転していたと主張する。 この点、r 教授も、エンドユーザーの側に直接登記を移転する方法にしたいとの要望があればそうするようになっていたことを踏まえ、そのような場合であれば実質的には引渡しがあったと同じ状況であったといえ、実質的には鍵も引き渡されていたというケースであれば財貨の移転が満たされるという評価が自然である旨述べている。 前述のとおり認定した本件の経緯をみても、首都圏の物件について所有権留保の形式が取られたのは、f 及びエンドユーザーの負担を軽減するために新中間省略登記の方法によることとしたためであると認められ、売買当事者の意思としても、エンドユーザーに販売されるまでf に所有権を移転させないようにする趣旨ではなかったと認められる。 そうすると、所有権移転や不動産の引渡しについて、首都圏の物件の場合と他の本件各取引の場合とで別異に解する理由はない。また、鍵についても、h が販売代理のために管理していたのであり、引渡しがあったと評価することもできる。 (オ) 以上から、本件各取引の事実関係に照らしてみても、財貨の移転があったとみる余地があり、証拠上、そのような解釈を否定するような事情は認められない。 イ(ア) 次に、対価の成立の点についてみると、本件各取引の代金の決済は完了しているものと認められる。その代金の原資がg グループ(厳密にはj)からの貸付であったことを捉え、その貸付金の回収可能性を問題にするとしても、「回収可能性が高い」という解釈自体が判断指針として抽象的であり、その解釈あてはめには一定の幅がある。 (イ) 確かに、本件のようなスキームにおいては、販売時点でエンドユーザーが確定していないことからすれば、貸付金の回収可能性に不確実性は存在す て抽象的であり、その解釈あてはめには一定の幅がある。 (イ) 確かに、本件のようなスキームにおいては、販売時点でエンドユーザーが確定していないことからすれば、貸付金の回収可能性に不確実性は存在する。 しかし、f がh のl 事業に参加していたという経緯やh が販売代理を行うことか らすれば、エンドユーザーに販売することは可能な状態であったといえ、対象物件や価格を検討するに当たっても、f にも利益が出るよう価格を算出するなどの注意を払って取引内容が決定されていたと認められる。また、本件各物件の売却可能性に乏しいとか、仮に売却したとしてもその採算性に疑問があるなど、貸付金の返済が期待できないといったような事情も認められない。 (ウ) そうすると、対価の回収可能性を貸付金の回収可能性と捉えたとしても、その回収可能性が高いと評価することは可能であり、対価の成立が認められないとまでは認められない。 (4) 以上によれば、本件各取引につき、本件当時、検察官の主張する会計基準の解釈あてはめが唯一のものであり、他の会計処理の在り方が許されないものであったとまで認めることには疑いが残り、収益認識の各要件を充足することを前提とする会計基準の解釈あてはめを採用することもできたといえるから、被告会社による本件の会計処理が会計基準に照らして許されないものであったとまでは認められない。 (5) なお、検察官は、本件のような会計処理を認めれば、投資家の保護という金融商品取引法の目的に反する結果になる旨主張するが、本件当時、本件のような会計処理を違法とする会計基準及び解釈として確立したものがなかった以上、本件の会計処理が違法であったとの評価を加えることはできない。 6 本件各物件の売却益以外についてなお、念のため、本件各物件の売却益以外についても 計基準及び解釈として確立したものがなかった以上、本件の会計処理が違法であったとの評価を加えることはできない。 6 本件各物件の売却益以外についてなお、念のため、本件各物件の売却益以外についても検討を加えておく。 (1) 仲介手数料について検察官は、本件各取引は決算目的のための実体のない取引だった旨主張するが、法形式上は仲介の形をとり、これに対して仲介手数料が交付されており、仲介の実体を否定するに足りる証拠はない。また、検察官は、仲介手数料も不動産販売の売却代金と同様にj がf に貸し付けた資金から支払われていることから、前記4(3)のとおり対価の成立が認められないと主張するが、対価の成立がないとはいえない ことは前記5(3)イのとおりである。 (2) 貸付金利息及び販売委託手数料について貸付金利息及び販売手数料について、検察官は、会計基準上収益として認識することが妥当であるかは疑問であると主張するが、これらを収益認識することが許されないとまで認めるに足りる証拠はなく、検察官の主張には理由がない。 第4 結論以上によれば、本件当時における被告会社の本件会計処理が「会計的な準則に反する」違法なものであったとまで認めるに足りる証拠はなく、本件有価証券報告書の提出につき、被告人両名が金融商品取引法197条1項1号の「重要な事項につき虚偽の記載をした」と認定するには合理的な疑いが残る。 そうすると、各被告人について犯罪の故意が認められるかについて判断するまでもなく、本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により、被告人両名に対して無罪の言渡しをする。 令和7年12月17日横浜地方裁判所第5刑事部 裁判長裁判官佐藤卓生 主文 36条により、被告人両名に対して無罪の言渡しをする。 理由 令和7年12月17日横浜地方裁判所第5刑事部 裁判長裁判官佐藤卓生 裁判官菅野祐希 裁判官安藤幸歩

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