平成13(ヨ)537 東海旅客鉄道出向命令

裁判年月日・裁判所
平成14年7月3日 名古屋地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-18656.txt

判決文本文93,460 文字)

主文 1 本件申立てを却下する。 2 申立費用は,債権者の負担とする。 事実及び理由 第1 申立て 1 債権者が,債務者に対し,債務者会社A運輸区に所属する主任運転士1級としての業務に従事する労働契約上の地位にあることを仮に定める。 2 債務者が平成12年10月26日付けで債権者に対してなした別紙処分目録記載の命令の効力を停止する。 第2 事案の概要 1 本件は,債務者に列車の運転士として雇用されていた債権者が,列車の手歯止めを撤去しないまま出区してしまうというミスを犯し,運転士としての適格性について審査を受けた結果,他職適であり,出向年齢にも達しているとして,債務者から出向を命ぜられたが,かかる命令は,出向命令権の濫用であり,不当労働行為にも該当するなどとして,申立てのとおりの仮処分命令を求めるものである。 2 争いのない事実及び審理の全趣旨により容易に認められる事実(1) 債務者は,日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)が昭和62年4月1日,分割・民営化され,東海地方を中心にして,東海道新幹線をはじめとする旅客鉄道輸送等を業とする株式会社として設立されたもので,肩書地に本社,名古屋市に東海鉄道事業本部,東京都に新幹線鉄道事業本部,静岡市,大阪市に支社,津市,飯田市に支店をそれぞれ置き,現在社員総数約2万2000名を擁する会社である。 債務者のA運輸区は,昭和62年4月1日に国鉄が分割・民営化され,JR各社が設立された際,A運転区として設置されたものであり,平成元年2月1日にA車掌区と統合され,A運輸区となった。 A運輸区は,合計約150名の社員で構成されており,トップの区長は,区業務全般の管理及び運営を職務内容としている。 (2) 債権者は,昭和21年t月u日生まれ(平成12年10月26日当時54歳)であり,A市立C中学校卒業後,昭和37年3 されており,トップの区長は,区業務全般の管理及び運営を職務内容としている。 (2) 債権者は,昭和21年t月u日生まれ(平成12年10月26日当時54歳)であり,A市立C中学校卒業後,昭和37年3月から昭和40年11月までA市内の農機具会社で働き,昭和40年12月,国鉄に臨時雇用員として採用され,同時にA機関区に整備係として配属された。債権者は,昭和42年1月,国鉄のA機関区の準職員(整備係)として採用され,昭和43年7月,A機関区の機関助士となり,昭和53年8月8日,電気機関士となった。 債権者は,昭和62年4月,債務者のA運転区の運転士(1級)として採用され,昇進試験に合格したことにより,平成3年3月,A運輸区主任運転士(2級)となり,平成11年3月,A運輸区主任運転士(1級)となった。 主任運転士の職務内容は,「運転士の業務及び指導並びにその計画・調整業務,動力車の運用に関する業務,指定された者は車両技術主任の業務,指定された者は主任車掌の業務,その他上長の指示する業務」を所管すると定められている。 (3) 国鉄時代には,D1労働組合協議会,D2労働組合連合会が存在した。 昭和62年9月,D2労働組合が結成され,債権者が同組合のF地方本部の執行委員に就任した。 平成3年8月,D労働組合が結成され,債権者が同組合のF地方本部の執行委員に就任した。 (4) 平成12年9月11日,東海地方は豪雨に襲われ,名古屋市内を流れる庄内川などが氾濫し,多くの被害が発生した。債権者は,同月12日,午後0時過ぎにA運輸区に出勤したところ,鉄道にも被害が及んでおり,中央線は列車がストップし,多くの乗務員が詰所で待機していた。債権者は,出勤報告した後,午後7時ころまで職場待機となった。夕方から順次運行が再開されたが,大幅にダイヤが乱れたままであり,E駅とG駅 中央線は列車がストップし,多くの乗務員が詰所で待機していた。債権者は,出勤報告した後,午後7時ころまで職場待機となった。夕方から順次運行が再開されたが,大幅にダイヤが乱れたままであり,E駅とG駅への小運転を行い,その後,A駅構内の電車整理のための入換作業を行い,午後11時30分ころ休養に入った。 債権者は,翌13日,所定の時間(午前5時17分)までに起床し,出勤点呼を行い,E駅まで回送列車でE駅からF行きの快速列車(2702M)をA駅まで運転し,A駅で次の乗務列車でありA駅構内に留置してある列車(2710M)の出区点検を始めた。 (5) ところが,債権者は,手歯止め使用中札を収納してしまった結果,列車の手歯止めの撤去を失念し,手歯止めを撤去しないまま出区して,手歯止めを粉砕した(以下「本件ミス」という。)。そして,債権者は,A駅の上り本線に列車を据え付け,発車待ちをしていた。 その後,債権者は,H運転士と乗務を交替し,A運輸区のI区長に本件ミスの報告と謝罪をした。 債権者は,第1会議室において,同日午前9時過ぎから,J首席助役,K助役,L助役による事情聴取を受け,債権者への質問は主にL助役が行った。 債権者は,本件ミスを起こしたことに対する顛末書を記載させられ,債権者の勤務終了時刻は所定より1時間延びた。そして,本件ミスの概要を記した「機器扱い不良事故(手歯止め撤去失念)」と題する掲示が乗務員室に掲出された。 (6) 債権者は,同月14日,J首席助役及びM助役からの事情聴取を受けた。 債権者は,同月18日,19日,「運転取扱心得」,「基本動作に関する教育」などの自習ないしレポートを提出した。 債権者は,同月20日,I区長と面談し,I区長に対し,運転士を継続する意思を伝えた。 債権者は,同月21日,J首席助役から,「もう一度チャンスを与える」と 教育」などの自習ないしレポートを提出した。 債権者は,同月20日,I区長と面談し,I区長に対し,運転士を継続する意思を伝えた。 債権者は,同月21日,J首席助役から,「もう一度チャンスを与える」との話を伝えられ,それ以後,自習を継続した。 (7) 債権者は,同年10月12日午前11時から11時30分まで「知識確認」規程類の筆記試験を受け,午後1時30分から1時50分まで「出区点検」の審査を受けた。 債権者は,同月13日午前11時から11時20分まで「応急処置」の審査を受け,午後1時30分から1時50分まで「非常の場合の処置」の審査を受けた。 債権者は,同月16日,I区長と面談の席上,I区長から「先日の試験は,4科目とも不合格であった」と告げられた。しかし,合格点は70点と告げられたものの,債権者の得点が何点かは一切開示されなかった。 債権者は,運転士を継続したい旨再度申し出たところ,I区長から,同月18日に再審査するとの返事があった。 債権者は,同月18日,「知識確認」の筆記試験,「出区点検」の審査,「応急処置」の審査,及び「非常の場合の処置」の審査を受けた。 債権者は,上記再審査の受験後,K指導助役から「本当によくがんばった」,「最終的には上へ上げないと分からないが」と声を掛けられた。 (8) 債権者は,同月19日,区長室において,J首席助役から,前日の審査の結果につき,債権者が4科目とも合格点に達しなかったと告げられた。債権者は,J首席助役に,合格基準が何点かと質問したが,J首席助役は,これに答えなかった。 債権者は,同日午後5時ころ,I区長,J首席助役及びK指導助役と面談したが,I区長から「再審査の結果,他職適ということになりました。」,「年齢的にみても出向という方向になると思う。」と言われた。 債権者は,これに対し,簡易苦情処理申告の手 席助役及びK指導助役と面談したが,I区長から「再審査の結果,他職適ということになりました。」,「年齢的にみても出向という方向になると思う。」と言われた。 債権者は,これに対し,簡易苦情処理申告の手続をしたいとの意向を述べ,それに対し,I区長は,簡易苦情処理申告に該当するか否かを確認する旨述べた。 債権者は,同月20日,N助役に苦情申告票を手渡した。 債権者は,同月24日,J首席助役から,B株式会社(以下「本件出向先」という。)O事業所への「出向予定について」と題する書面を受け取り,併せて債権者の「事故摘録」(事故の記録)を見せられた。 (9) 債権者は,同月26日,I区長から,同年11月10日付けで本件出向先へ出向させることを内容とする「事前通知」を渡され,本件出向先への出向(以下「本件出向」という。)を命ぜられた(以下「本件出向命令」という。)。 債権者は,これに対し,不本意であるので,簡易苦情処理を提出したい旨述べた。 債権者は,同年10月27日,簡易苦情処理申告票をA運輸区の管理者に提出し,その結果,同年11月7日,簡易苦情処理会議が開催された。 債権者は,同年10月27日,岐阜労働局長あてに「紛争解決援助」の申出をしたが,同年12月12日,岐阜労働局長は,紛争解決援助の打ち切りをした。 債権者は,同月7日,本件ミスを発生させたことを原因として,債務者から訓告処分を受けた。 債権者は,上記訓告処分に対し,同月14日,地方苦情処理会議あてに苦情申告票を提出し,その結果,平成13年1月11日,地方苦情処理会議が開かれた。 さらに,債権者は,同月16日,中央苦情処理会議あてに異議申立てを行い,同月22日,中央苦情処理会議が開催されたが,対立のまま同会議は終了した。 (10) D労働組合F地方本部は,平成12年12月8日,債務者に対し,「転勤,出向に 央苦情処理会議あてに異議申立てを行い,同月22日,中央苦情処理会議が開催されたが,対立のまま同会議は終了した。 (10) D労働組合F地方本部は,平成12年12月8日,債務者に対し,「転勤,出向に関する緊急申し入れ」をし,運転事故に関する乗務停止の基準の明示,日勤再教育の場を奇貨とした組合脱退を勧誘する行為の禁止,再乗務のための審査内容及び合格基準の明示などの事項を申し入れた。 D労働組合F地方本部は,平成13年3月16日,債務者に対し,債権者に対する出向を撤回し,元職場に復帰させること,業務上の事故に関する再教育,再審査の根拠及び再審査の結果を公表すること,再教育及び再審査における組合差別の禁止などの諸事項につき,団体交渉に応じるよう申し入れた。 (11) 債権者は,本件出向により,A市内からF市内まで片道約2時間の通勤時間となっている。 債権者は,本件出向により,本件出向先において,清掃業務に従事している。 本件出向後,債権者には,1日働くごとに30分の超過勤務手当が支給され,休日数の少ない分について買い上げがなされ(正確には,本件出向先における年間所定労働時間数が債務者の年間所定労働時間数を超える場合にこの差の時間数を12で除して得られた時分に対する超過勤務手当を毎月支給していること),都市手当が支給されている。 3 争点本件の争点は,①本件出向命令が出向命令権の濫用として無効であるか,②本件出向命令が不当労働行為として無効であるか,③本件出向命令が不明確な基準による恣意的な運用によるものとして無効であるか,④保全の必要性があるか,という点にある。 (1) 争点①(本件出向命令が出向命令権の濫用として無効であるか)についてア債権者の主張(ア) 債務者と債権者との間には,「60才定年に関する協定」(以下「定年協定」という。)が締結 にある。 (1) 争点①(本件出向命令が出向命令権の濫用として無効であるか)についてア債権者の主張(ア) 債務者と債権者との間には,「60才定年に関する協定」(以下「定年協定」という。)が締結され,定年協定において,「54才に達した日以降の人事運用については,原則として出向するものとする」との条項が存在するとしても,使用者にその権能の行使は無制限に許されるものではなく,労使間の信義則に照らし合理的な判断に服さなければならないと解すべきであって,その権限は,具体的事案において当該出向の業務上の必要性の程度と当該出向によって債権者が被る不利益の程度とを厳密に比較衡量して判断されなければならないというべきである。 特に本件出向命令が,業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても,当該命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき,労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等は,権利の濫用として無効になるというべきである(最高裁昭和61年7月14日判決(以下「東亜ペイント最判」という。)参照)。 (イ) 債務者においては,定年協定が存在はするが,その運用において,54歳に達した労働者は,自動的にすべて出向させる運用は全くなされていない。A運輸区の運転士に限定してみても,54歳を超えても現実に運転士として運転業務に従事している労働者は多数存在する。すなわち,定年協定は,現場において全く運用されていない規定にすぎないのである。 (ウ) 債権者は,昭和62年4月,債務者のA運転区の運転士(1級)に合格し,平成3年3月,A運輸区主任運転士(2級)に合格し,平成11年3月,A運輸区主任運転士(1級)に合格したベテランの電車運転士であって,主任運転士としての業務を所管してきた債権者を全く運 )に合格し,平成3年3月,A運輸区主任運転士(2級)に合格し,平成11年3月,A運輸区主任運転士(1級)に合格したベテランの電車運転士であって,主任運転士としての業務を所管してきた債権者を全く運転業務に関係のない本件出向先に出向させる業務上の必要性は皆無である。 (エ) 一方で,債権者は,本件出向により,A市内からF市内まで片道100キロメートルもの通勤距離及び片道約2時間の通勤時間を余儀なくされるという不利益を被っている。 また,債権者は,本件出向により,永年慣れ親しんだ運転士業務とは一切関連性のない慣れない清掃業務に従事させられ,肉体的・精神的にも追い込まれている。 さらに,労働条件面についていえば,債権者は,本件出向により,従来からの年次休暇も債務者にいたときと比べて減少し,1日の労働時間も8時間となり,債務者と比較して30分増え,労働条件面の悪化が著しい。 賃金については,手取額は,債務者にいたときとさほど変化はないが,これは1日働くごとに30分の超過手当が付き,休日数の少ない分を買い上げた「出向特別措置」が含まれ,さらにF市内が勤務地のため都市手当(基本給の9パーセント)が付いていることの結果であり,実質的には大幅な減収となっている。 これら債権者に課される不利益は,労働者が甘受すべき程度を著しく超える不利益というべきである。 (オ) 債権者に対する本件出向命令は,本件ミスの発生に名を借りてはいるが,債権者がD労働組合の組合員であるがゆえに恣意的に行われた不当労働行為であり,A運輸区分会の執行委員長である債権者を職場から排斥し,その結果D労働組合A運輸区分会の組織の弱体化を意図した不当労働行為であって,債務者の本件出向命令は,当該命令が組合員差別,組合運動の弱体化という不当な動機・目的をもってなされたものである。 (カ) したが 労働組合A運輸区分会の組織の弱体化を意図した不当労働行為であって,債務者の本件出向命令は,当該命令が組合員差別,組合運動の弱体化という不当な動機・目的をもってなされたものである。 (カ) したがって,債務者にとっては,債権者を本件出向先に出向させなければならない業務上の必要性は存在せず,一方で当該出向によって債権者が被る不利益は,肉体的・精神的な疲労,労働条件及び賃金面での著しい悪化からみて,債権者にのみ過大な犠牲を強いるものである。 以上要するに,債務者のなした本件出向命令は,権利の濫用というべべきであって無効である。 イ債務者の認否(ア) 債権者の主張(ア)は争う。 本件出向命令が権利の濫用に当たらないことは,後に詳述するとおりである。 (イ) 債権者の主張(イ)は否認ないし争う。 定年協定には「54才に達した日以降の人事運用については,原則として出向するものとする」と記載されているが,この中の「原則」とは,出向先の状況,現職の需給状況を勘案し,順次出向命令を行うという趣旨である。一方,A運輸区では,平成2年12月に定年協定を締結して以来,これまで58名が定年協定に基づき出向しているのであり,54歳以上で運転業務に従事している者がいるからといって,「定年協定は,現場において全く運用されていない規定にすぎない」との主張が誤りであることは火を見るよりも明らかである。 (ウ) 債権者の主張(ウ)のうち,債権者の経歴については,債権者が,昭和62年4月,債務者のA運転区の運転士(1級)に合格したことは否認する。債権者は,昭和62年4月,債務者に運転士(1級)として採用されたのであり,合格したのではない。債権者のその余の職歴についてはおおむね認め,その余の債権者の主張は争う。 債権者に対する本件出向命令について,業務上の必要性があることは,後 士(1級)として採用されたのであり,合格したのではない。債権者のその余の職歴についてはおおむね認め,その余の債権者の主張は争う。 債権者に対する本件出向命令について,業務上の必要性があることは,後に詳述するとおりである。なお,定年規程及び定年協定の適用を受けている出向者のうち運転士の業務にあった者で,債権者と同種の業務に従事している者は多数存する。 (エ) 債権者の主張(エ)のうち,債権者の通勤時間がおおむね2時間近くとなること,本件出向先における債権者の業務が清掃業務であること,債権者に1日働くごとに30分の超過勤務手当が支給されていること,休日数の少ない分について買い上げがなされていること,都市手当が支給されていることは認め,その余は否認ないし争う。 債権者の通勤距離は約90キロメートルであり,100キロメートルではない。また,定年規程及び定年協定の適用を受けて出向した者を含め,債務者の社員の中で,通勤に片道2時間程度を要する者は多数存するのであり,債権者が特別に不利益を被っている事実はない。 前記のとおり,「54才に達した日以降の人事運用については,原則として出向するものとする」となっており,「会社の業務運営上必要があれば,原則によらず,現職を継続させることとなる。」と定めている。また,定年規程及び定年協定の適用を受けて出向した者のうち,運転士の業務にあった者で運転士の業務と関連のない,債権者と同種の業務に従事している者は多数存する。 年次有給休暇の付与日数については,本件出向後も債務者の規定が適用されており,全く減少しておらず,事実として債権者は月1日ないし5日の年次有給休暇を取得しており,1年間で付与される20日間をすべて取得できることが容易に見込まれる。また,労働時間については,本件出向先における年間所定労働時間数が債務者の 債権者は月1日ないし5日の年次有給休暇を取得しており,1年間で付与される20日間をすべて取得できることが容易に見込まれる。また,労働時間については,本件出向先における年間所定労働時間数が債務者の年間所定労働時間数(7時間30分×245日)を超えることからこの差の時間数を12で除して得られた時分に対する超過勤務手当を毎月支給する賃金の特別措置を実施している。さらに,本件出向先では始業,終業時刻が不規則な勤務はなくなっており,1暦日に10時間以上の勤務に従事することもなくなった。したがって,労働条件の悪化が著しいとする主張は誤りである。 債権者の本件出向前の平成12年5月から同年7月までの3か月間の諸給与支給総額は平均で53万6885円であり,本件出向後の平成13年1月から同年3月までの3か月間のそれは55万0438円であり,その差は1万3553円となり,本件出向後の方が約1万3000円以上も支給総額が増加している。また,本件出向の前後で基本給に変動はなく,その他の諸手当については,職務内容,労働の実態などに合わせて支給されるものであるから,運転士と清掃業務という異なる職種の間で比較すべきものではない。したがって,「実質的には大幅な減収」などとは到底いえないのである。 上記のとおり,債権者には「労働者が通常甘受すべき程度の不利益」すらない。 (オ) 債権者の主張(オ)は否認する。後に詳述するが,債権者が本件出向に至った経緯について,不当労働行為と目されるべき何ものも存しない。 (カ) 債権者の主張(カ)は否認する。後に詳述するが,本件出向命令は,業務上の必要性に基づくものであるとともに,「債権者にのみ過大な犠牲を強いるもの」では一切なく,「権利の濫用」などという主張は失当以外の何ものでもない。 ウ債務者の主張(ア) 債務者の社員の定年につい の必要性に基づくものであるとともに,「債権者にのみ過大な犠牲を強いるもの」では一切なく,「権利の濫用」などという主張は失当以外の何ものでもない。 ウ債務者の主張(ア) 債務者の社員の定年については,債務者発足当初より,就業規則第45条では,60歳定年と定められていたが,同附則第4項において「第45条第1項本文の規定にかかわらず,定年は,当面55才とし,経営の状況等を勘案して逐次60才に移行するものとする」と定められ(乙7),実質的には55歳定年制となっていた。 (イ) しかし,債務者は,社員の生活設計,雇用の確保,社会情勢その他を考慮した結果,一挙に60歳定年制を実施することとし,平成2年3月31日付け社達第59号により,就業規則第45条に60歳定年の実施に伴い在職条件を定年規程の定めによることを明記した一項を追加し,それまで定年を当面55歳としていた附則を削除した(乙8)。 その結果,現行就業規則には次のように規定されている。 「第45条社員の定年は60歳とする(以下略) 2 60歳定年の実施に伴う在職条件等に関する事項は,定年規程の定めるところによる。 3 (略)」上記就業規則の規定を受け平成2年3月31日付け人達第56号(同年10月1日社達第30号と同一)により定年規程(乙1)が制定され,そこでは55歳以上の具体的な在職条件や定年前早期退職を含めた退職条件(退職する場合の条件)等について規定している。この中で,在職条件については,「第2条54才に達した日以降の人事運用については,原則として出向するものとする。この場合,賃金は会社基準により支給する(以下略)」と規定し,55歳以降も在職する者についての54歳に達した日以降の人事運用は出向を命ずるということを明確に規定している。 なお,これらの一連の就業規則の改正は,債務者発足当時 より支給する(以下略)」と規定し,55歳以降も在職する者についての54歳に達した日以降の人事運用は出向を命ずるということを明確に規定している。 なお,これらの一連の就業規則の改正は,債務者発足当時の就業規則の制定と同様各事業所ごとの過半数で組織する労働組合の意見を聴取し,関係労働基準監督署に届け出ている。 (ウ) 一方,債務者は,債権者の所属するD労働組合を含む各労働組合との間で60歳定年に関する協定の締結に向けて協議を重ねた結果,D労働組合との間では平成3年8月30日,定年協定が締結されるに至ったものである(乙3の1)。 D労働組合以外の各労働組合との間でも,平成2年9月中にすべて定年協定が締結されているが,これら全組合を通じ,協定の内容は同一であって,「54才に達した日以降の人事運用については,原則として出向するものとする。」と定められている(乙3の2ないし5)。さらに,定年協定に関する議事録確認では,「会社の業務運営上必要があれば,原則によらず,現職を継続させることとなる。」と定められている(乙4の1ないし5)。 (エ) 東亜ペイント最判は,使用者のした転勤命令について,「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても,当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等,特段の事情の存する場合でない限りは,当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。」と判示している。 使用者の出向命令に関わる権利濫用の有無についても,上記判旨と同様の判断基準によってこれを判断することが相当であることは,多言を要せずして明らかなところであるが,そうすると,本件出向命令が権利の濫用に当たらず,したがって る権利濫用の有無についても,上記判旨と同様の判断基準によってこれを判断することが相当であることは,多言を要せずして明らかなところであるが,そうすると,本件出向命令が権利の濫用に当たらず,したがって,これを権利の濫用とする債権者の主張は,明らかに失当というべきである。その理由は次のとおりである。 (オ) 業務上の必要性の意義については,東亜ペイント最判が「当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく,労働力の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤労意欲の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」と判示しているところである。 定年を延長するに当たっては,一般に人件費の増大を抑え,人事の停滞を回避するための措置をとることが経営に必要であることは常識上明らかなところである。その上,債務者は,国鉄再建監理委員会の答申に従ってやむなく約2000人の余裕人員を抱えて発足したものであるから,60歳定年を実施するに当たって,54歳以上の社員の原則出向の措置をとる業務上の必要性が十分にあったというべきものである。 本件出向命令についての業務上の必要性を否定する債権者の主張は,全く的外れの一語に尽きるものであって,何らの説得力も有しないものである。 (カ) 債権者は,「54歳に達した労働者は自動的にすべて出向させる運用は全くなされていない。」と主張する。しかしながら,既に述べたとおり,債務者の業務運営上必要があれば,原則によらないで,現職を継続させることとなることは,当然あり得るところであり,さらに,出向先企業が見当たらず,あるいは出向条件についての出向先との交渉が妥結しない等の事由によって,出向命令が遅れることもあり得るとこ 職を継続させることとなることは,当然あり得るところであり,さらに,出向先企業が見当たらず,あるいは出向条件についての出向先との交渉が妥結しない等の事由によって,出向命令が遅れることもあり得るところであって,このような場合に備えて,定年規程や定年協定においては,「原則として」との文言が使用されているところである。 したがって,54歳に達した社員の中に出向を命じられていない者がいるとしても,これを理由に定年規程や定年協定が全く運用されていないとする債権者の主張は全く誤りである。 (キ) 債権者は,本件出向により,①片道約2時間の通勤時間を余儀なくされる不利益を被っているとか,②長年慣れ親しんだ運転士業務とは一切関連性のない清掃業務に従事させられ,肉体的・精神的にも追い込まれていると主張する。 しかし,他の裁判例によっても明らかなとおり,片道の通勤時間が2時間程度であることは,サラリーマン労働者にとって甘受すべき範囲内に属するものというべきであって,東亜ペイント最判にいう「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」と位置づけることは,明らかに誤りである。 我が国の労働契約においては,通常,職種の限定がなされていないので,使用者が雇用した労働者に対し,職種の変更を伴う配転命令を発することは,労働契約において労働者が使用者にゆだねた権限の行使というべきものである。 したがって,職種の変更を伴う転勤・出向その他の配転命令が労働者に不利・不便を生ぜしめることがあるとしても,これは労働者の甘受すべきところであって,このことが,東亜ペイント最判にいう「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」に当たらないことは明らかである。 ちなみに,債権者と同様に,運転士であった者で定年協定に基づく出向により,出向先において運転業務以外の業務に従事して 者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」に当たらないことは明らかである。 ちなみに,債権者と同様に,運転士であった者で定年協定に基づく出向により,出向先において運転業務以外の業務に従事している者は,債権者と同じ東海鉄道事業本部管内だけみても,平成12年12月時点で46名もいる。 (ク) 債権者は,本件出向により,労働条件及び賃金面において著しい悪化がある旨主張しているが,その具体的内容についての主張が全くない以上,あえて反論をなすまでもなく,上記主張が採るに足らないものであることは明らかである。 (ケ) 以上詳述したとおり,本件出向命令は,業務上の必要性に基づく正当なものであるとともに,債権者のみに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えるものでは一切ないから,本件出向命令を権利の濫用とする債権者の主張に理由がないことは極めて明らかというべきである。 (2) 争点②(本件出向命令が不当労働行為として無効であるか)についてア債権者の主張(ア) 債権者に対する本件出向命令は,D労働組合A運輸区分会の現役の執行委員長である債権者をねらい撃ちにしたものであり,D労働組合に対する支配介入であるとともに,組合員である債権者に対する不利益取扱いであるから,明白な不当労働行為であり,この意味からも違法・無効である。 債務者は,運転事故を起こしたD労働組合組合員に対し,Pユニオン組合員と比較して極めて厳しい態度で臨み,所属組合の相違によって不合理な差別をしている。 債務者の債権者に対する本件出向命令は,上記不合理な組合差別の一環によりなされたものにほかならない。 したがって,債権者に対する不当労働行為であって,本件出向命令は違法・無効である。 (イ) 債務者は,本件ミス後の事情聴取における虚偽の報告を問題にするが,債権者が事情聴取に際して内容を ならない。 したがって,債権者に対する不当労働行為であって,本件出向命令は違法・無効である。 (イ) 債務者は,本件ミス後の事情聴取における虚偽の報告を問題にするが,債権者が事情聴取に際して内容を訂正したことはあるが,それは,債務者の高圧的な質問に対し,ミスの直後で動揺していた債権者がなしたものであり,しかも翌日きちんと訂正しているのであって,債務者が上記虚偽報告の事実を過大視することは誤りである。 (ウ) 債権者の出向は既定事項であり,債権者に対する債務者がなした再教育・審査は,単に形式的なものであって,当初から「債権者の運転士としての業務を奪い,債権者を他職に出向させる」という筋書きが露骨に露呈していた。例えば,本件ミスからいまだ1週間経過したにすぎない平成12年9月20日の午前中,I区長が債権者に対し「主管部と相談したが,(債権者が)運転士を続けるのは難しい」との発言からも,債務者が既にその時点で債権者の運転士としての業務を奪い,債権者を他職に出向させるという意思が明確に読みとれる(甲26)。したがって,その後の債権者に対してなされた再教育・審査の過程は,最初に不合格という結論ありきであり,他の被審査者と比べても明らかに不平等,不合理極まりないものである。I区長がいみじくも「非常に厳しい試験になる」,「乗務できると決まったわけではない」と発言しているが,債権者に対する再教育・審査が単に機会を与えたという単なるつじつま合わせにすぎないことを物語っている(甲26)。 (エ)a 債権者に対する運転士不合格という結論が債務者の既定方針であり,再教育・審査が,単なるつじつま合わせであることは,債権者の再教育・審査とPユニオンA運輸区分会組合員であるQ運転士の再教育・審査の過程を詳細に比較し,それぞれの結果を比較すれば明白である(甲26)。 育・審査が,単なるつじつま合わせであることは,債権者の再教育・審査とPユニオンA運輸区分会組合員であるQ運転士の再教育・審査の過程を詳細に比較し,それぞれの結果を比較すれば明白である(甲26)。それぞれ対象となった事故は,債権者に比べてQ運転士の方が格段に重大であり,列車の遅れも債権者においては発生しなかったのに対し,Q運転士の場合は22分30秒の遅れを生じさせている。それにもかかわらず,Q運転士は,審査の練習及び審査の立会いにおいて債権者に比べて極めて優遇され,その結果,事故日から2か月後には運転士として復帰している。以下,詳細に検討する。 (a) 事故の種類は,債権者の場合,「機器扱い不良」事故であり,債務者において,信号違反事故に比べて軽度な扱いとされている。これに対し,Q運転士の場合,「信号違反」事故であり,債務者において,最も重大な部類の事故である。 (b) 審査の練習は,債権者の場合,平成12年10月6日,突然に審査の練習を告げられ,午前中1時間,午後2時間,3科目につき,最初で最後の練習をした。 しかも,債権者に対しては,指導員からの講義は一度たりともなされず,債権者自身がすべて自習で行った(甲26)。審査のための現車(211系電車)練習も,審査・再審査を通じて1回きりであり,審査で仮設(仮に故障箇所等を作る)があることもすべて秘匿されていた。これに対し,Q運転士の場合,審査のための現車(211系電車)練習においても,2日間の現車練習をなし,その際「出区点検」においては仮設練習も実際に行っていたが(甲26),さらに,同年11月15日の再審査の前にも2日間の現車練習をしていた。かように,債権者の再教育においては,Q運転士に比べて審査の練習においても著しく不合理な差別がなされていた。(c) 審査の立会い人数は,債権者の場合, の再審査の前にも2日間の現車練習をしていた。かように,債権者の再教育においては,Q運転士に比べて審査の練習においても著しく不合理な差別がなされていた。(c) 審査の立会い人数は,債権者の場合,多いときは区長,首席助役,指導助役ほか3名の総勢5名が立ち会う。同年10月18日の再審査においてもJ首席助役,K指導助役ほか総勢4名が立ち会い,債権者にプレッシャーをかけながら厳格に監視していた。これに対し,Q運転士の場合,多くても3名であり,同年11月15日の再審査においては,立会いはR指導員のみである。 (d) 事故日の年齢は,債権者の場合,54歳(昭和21年t月u日生まれ,事故日平成12年9月13日)であるのに対し,Q運転士の場合,55歳(昭和20年v月w日生まれ,事故日平成12年10月10日)である。 (e) 事故による列車の遅れは,債権者の場合,なかったのに対し,Q運転士の場合,22分30秒であった。 (f) 事故の処分は,債権者の場合,訓告であるのに対し,Q運転士の場合,戒告であった。 (g) 事故歴は,債権者の場合,平成5年9月信号違反(処分は訓告)であるのに対し,Q運転士の場合,平成9年7月停車駅通過(処分は不明)である。 (h) 所属組合は,債権者の場合,D労働組合であるのに対し,Q運転士の場合,Pユニオン(平成7年8月1日D労働組合を脱退しPユニオンに加入)である。 b また,PユニオンS運輸区分会組合員のT運転士も,平成12年10月6日,U線V駅でドア扱い不良事故(列車の後部がプラットホームから外れたままドアを開扉した事故)を起こしたにもかかわらず,出向扱いとならず,わずか13日間の業務停止の後,運転士として再乗務させている。 c さらに,債権者に対する本件出向命令が,不当な組合差別に基づくものであることは,以下に主張するU線W もかかわらず,出向扱いとならず,わずか13日間の業務停止の後,運転士として再乗務させている。 c さらに,債権者に対する本件出向命令が,不当な組合差別に基づくものであることは,以下に主張するU線W駅構内における手歯止め粉砕事故に対する債務者の取扱いからみても明白である。すなわち,S運輸区所属のX運転士(Pユニオン役員,52歳)は,平成13年8月3日,U線W駅構内において,手歯止めの撤去を失念し,列車を起動させ,その結果手歯止めを粉砕するという事故を発生させた。 しかるに,X運転士は,10日間の日勤再教育後,乗務復帰している。X運転士に対し,審査が実施されたか否かは不明である。X運転士が起こした事故は,その原因が運転士が決められた基本動作に違反したから発生したものであり,加えてX運転士は,直ちに関係各所に報告すらせず,W駅から2つ目の駅であるY駅で報告していることから明らかなように,債権者の事案と比べて,責任が重大であることはあっても,責任が軽いとは到底認められない事故である。X運転士は,国鉄時代を含め,停車駅通過事故,停止位置不良事故を数回起こしており,直近では機器扱い不良により,特急伊那号の遅延事故を惹起させている。かような事故経歴があるにもかかわらず,X運転士は,債権者に比べて,10日間の日勤再教育という極めて軽い措置で,乗務復帰している。 d 債権者に対する再教育,審査が,不明な基準によって,恣意的に実施されたことは,平成13年5月24日,F車両区構内において「転てつ破損事故」を起こしたZ運転士に対する再教育,審査の過程と比較すると明白である。すなわち,債務者は,同年7月11日及び12日の2日間にわたって,a指導助役をしてマンツーマンで「非常の場合の処置」,「応急処置」,「出区点検」の全課目を指導させた。その際,Z運転士は,審査 ある。すなわち,債務者は,同年7月11日及び12日の2日間にわたって,a指導助役をしてマンツーマンで「非常の場合の処置」,「応急処置」,「出区点検」の全課目を指導させた。その際,Z運転士は,審査項目別チェック用紙及び非常の場合の処置の手順書(甲30)を審査に先だって配布され,それに基づき細かく指導,指摘を受け,また,仮設の設定も練習時と審査時で全く同じであった。さらに,同年8月13日の審査においては,従前の練習時と異なる事柄につき,例えば信号炎管を置く位置,防護無線は口ではなく試験ボタンを押すなど細かい手順を審査の直前に2回ずつ練習をしてもらい,その講評を受けた後審査を実施している。かような措置は,債権者の場合とは著しく異なっており,何故債権者に対する再教育,審査の過程と著しく異なるのか合理的に説明がつかない。本件の事案と比較すると明らかなとおり,債務者の行っている処置は,運転士の所属の労働組合に基づく不当な組合差別にほかならない。 債務者は,債権者のようなD労働組合の各運輸区の分会長レベルの組合員を恣意的・意図的にねらって不当な組合差別を行っているものである。分会長レベルをねらった組合差別の背景は,D労働組合A運輸区分会が結成された平成3年8月以降のA運輸区分会に対する債務者側からの一連のD労働組合の各分会に対する組織弱体化・組合員脱退化工作(甲46)を完遂させることにある。債務者の現時点におけるD労働組合に対する現実の組合差別の主眼は,労働現場の各運輸区レベルにあり,正に債権者のような分会長レベルの者が組合差別の対象となっていることに注目すべきである。Z運転士は,D労働組合の組合員であるが,平成9年7月以降F地本執行委員に就任しており,債権者のような各運輸区の分会長レベルの者とは異なる。したがって,債務者も,Z運転士に対しては 目すべきである。Z運転士は,D労働組合の組合員であるが,平成9年7月以降F地本執行委員に就任しており,債権者のような各運輸区の分会長レベルの者とは異なる。したがって,債務者も,Z運転士に対しては,不当労働行為に該当する組合差別をなし得ないのである。いずれにしても,債権者は,現にD労働組合の運輸区分会長であったがゆえに,本件の違法な差別を受けたものであって,本件出向命令が不当労働行為に該当することは間違いない。 e 債務者が定めていた「再教育基本日数について」によれば(甲50,乙39の1,2),債務者の本件ミスに対応する再教育期間は7日間である。なお,債権者においては本件ミス前の過去2年間何らの事故歴がなく,再教育期間を延長し得る理由はない。それにもかかわらず,債務者は,債権者に対し合計17日間(事情聴取期間の3日間を控除した数字)という規定の2.4倍以上の期間の再教育期間を課している。債権者に対する再教育期間日数のみからも,債務者が債権者にだけ恣意的な再教育の取扱いをなした事実が認められる。債務者は,債権者と同種事故を起こしたb運転士及びc運転士に対する再教育の取扱いと比較して,再教育基本日数,机上の基本教育の内容,現車訓練の内容において,債権者に対し,いずれも著しく不合理な差別的取扱いを行っている(甲51,53)。 (オ) 債務者は,債権者の最初の審査の結果につき,知識確認27点,応急処置57点,出区点検41点,非常の場合の処置57点であったと主張する。しかしながら,上記審査科目のうち,「知識確認」以外の3科目は,いずれもいわゆる実地試験であり,その採点基準はあいまいであり,採点者の広範な裁量によって採点が全く異なる結果となる性格の試験である。例えば,平成12年10月13日実施の「非常の場合の処置」においては,債務者は,①運転室の であり,その採点基準はあいまいであり,採点者の広範な裁量によって採点が全く異なる結果となる性格の試験である。例えば,平成12年10月13日実施の「非常の場合の処置」においては,債務者は,①運転室の施錠の忘れ,②信号炎管設置場所の間違い,③負傷者の運送先の確認忘れの3点を指摘するが,①については,施錠しなくともよく,施錠と喚呼すればよいという指導であり,債権者は指導どおり喚呼しており,何ら減点されるべき事項ではない。②については,債権者は,練習の際,「隣の線路に支障を及ぼさないよう,特別に車両のある線路に設置せよ」という指導どおりに審査においても行動しており,審査において何ら減点されるべき事項ではない。 ③については,債権者は,確認すべきとの指示を受けておらず,審査において減点されるべき事項ではない。かように,債権者の実地試験における採点が低いのは,従前の指導に反する著しく不合理な採点基準で行われた結果である。 債務者は,同月18日,債権者に対する再審査を実施したが,当初の審査は2日間で行われたのに,再審査においては4科目を1日で実施するという極めて過酷な日程で行われたものであり,そこに債務者の作為が現れている。その結果の債権者の得点は,知識確認67点,応急処置46点,出区点検58点,非常の場合の処置52点にすぎないと主張する。しかしながら,それらの得点結果については,合理的な疑いがある。すなわち,①債務者は,「知識確認」の結果につき,2回目においても67点にすぎないと主張する。しかし,「知識確認」は,すべて穴埋め問題であり,債権者は穴埋めにつき100パーセント回答できた。したがって,その結果が67点であることはあり得ない。②再審査における「出区点検」において,債権者は,仮設箇所のうち,「客室座席シートのずれ」と「台車の小石」を発見し得 100パーセント回答できた。したがって,その結果が67点であることはあり得ない。②再審査における「出区点検」において,債権者は,仮設箇所のうち,「客室座席シートのずれ」と「台車の小石」を発見し得なかったとされた。仮にそれらの事項による減点が合理的であるとしても,それらは各5点ずつの減点にすぎず,債権者の得点が58点であるというのは,採点者が許された裁量の範囲を超えた恣意的な減点を行ったからにほかならない。③その余の「応急処置」,「非常の場合の処置」の審査の結果については,甲26で主張するとおりである。 (カ) 債務者は,「債権者は,出区点検の途中に便意を催しトイレに行くのみならず,乗務員休憩室でカップ麺を買い,出来上がるのを待って食べただけでなく,更衣室で髭まで剃ったという出区点検中の運転士として全く信じられない行動をしていた」と債権者の上記行為が運転士として,あたかも著しい非違行為に該当するかのごとく主張する。しかし,債権者は,平成12年9月13日の出区点検の途中,腹痛のため強い便意を催し,庁舎のトイレに駆け込んだ(甲22,38)のであり,債権者の上記行為は,健康上ないし生理現象として,正にやむを得ないものであり,上記行為をもって債権者の行為を非難することは著しく不当,不合理である。次に,カップ麺購入行為及び髭剃り行為について釈明する。そもそも,乗務員に対する食事時間,トイレの時間の指定はなされておらず,乗務員各自の裁量で,食事をとり,身だしなみを整えることは債務者において当然に許されていたものである。とりわけ,食事の時間については,債務者は,「厳密に労働外時間(勤務時間に算入される以外の時間)でしかだめだとは考えていない」旨業務委員会の場で言明している(甲40)。債権者の同年9月13日朝の運転行路は,A運輸区運転士行路表(甲45 者は,「厳密に労働外時間(勤務時間に算入される以外の時間)でしかだめだとは考えていない」旨業務委員会の場で言明している(甲40)。債権者の同年9月13日朝の運転行路は,A運輸区運転士行路表(甲45)のB28Wである。B28W行路によれば,債権者の同月13日の出勤時間は,早朝の午前5時17分である。そのため債権者の起床時間は午前5時07分となる。 債権者は,出勤後午前5時38分から46分の間に回851Mの入れ換え作業をし,午前5時52分A発回851Mを運転し,Eに午前6時08分到着となる。債権者は,E午前6時14分発2702Mを運転し,午前6時32分にA到着となる。債権者は,2702Mを運転してAに到着した後,2710Mの入れ換え作業が始まる午前7時22分までの間に,自己の裁量で,日常的に朝食と髭剃り行為及び用便を済ませていたものであり,そのことにより,債務者から,何らかの注意指導を受けたことはない。同月13日は,出区点検の途中で,強い腹痛に襲われたので,やむを得ず点検を中断し,トイレに行き,時間を有効に利用するべく点検に先んじて,朝食及び髭剃り行為を先行させたにすぎず(甲38),債権者の上記行為は,債権者に許された裁量の範囲内の行為であり,ことさら法的に非難されるものではない。B28Wの行路においては,債権者の勤務2日目の勤務状況は,午前6時14分15秒E駅発の2702Mを運転し,午前6時32分にA駅に到着。午前6時37分に乗継ぎ交代の乗務員と乗継交代業務を完了させ,上り本線ホームから2710Mが留置されている7番線へ徒歩で赴き,F方面運転台から同列車に乗り込み出区点検を行い,出区点検が完了してから,庁舎で髭剃り,朝食及び用便を済ませた後,同列車の入れ換え作業が開始される時間(午前7時22分)まで待機するのが通常であった(甲45,4 台から同列車に乗り込み出区点検を行い,出区点検が完了してから,庁舎で髭剃り,朝食及び用便を済ませた後,同列車の入れ換え作業が開始される時間(午前7時22分)まで待機するのが通常であった(甲45,46)。ところが,同月13日においては,債権者は,午前6時40分ころから,7番線の2710Mに乗り込み,F方面から出区点検を始めたところ,午前6時50分ころ,強い腹痛に襲われたため,出区点検を中断して列車からいったん離れトイレに駆け込んだ。債権者は,トイレを出て列車に戻って出区点検を再開すると点検終了後,髭剃り及び朝食のために再び庁舎まで移動することになって時間的に無駄になることから,トイレを出てすぐに休憩室でカップ麺を購入し,先に髭剃りと朝食を済ませたものである(甲46)。債権者が髭剃りと朝食を完了したのは午前7時5分ころであり,債権者が2710Mに戻って出区点検を再開したのは午前7時10分ころ,出区点検を完了し,d方面運転台で2710Mの出区を待つべく待機したのが午前7時15分ころであって,B28Wの運転士行路表(甲45)からみても,債権者の同月13日の行動に全く非難するべき点はない。 債務者は,「債権者がトイレを出た後に債務者の指導を無視し直ちに車両に戻らず,朝食を摂取し,髭を剃った行為は運転業務に携わる者として考えられない非違行為であって,このようなことを敢えて行う者に運転士の業務を続けさせることができないと判断することは,むしろ当然のことというべきである」と主張し,債権者の「出区点検」の途中中断を過大に重視している。しかしながら,債権者は,債務者の指導を無視して車両に戻らなかった事実はない。本件ミスは,債権者が出区点検を途中中断したために起こったものではなく,出区点検の途中中断と本件ミスとの間には何ら因果関係はない(甲51)。 (キ 務者の指導を無視して車両に戻らなかった事実はない。本件ミスは,債権者が出区点検を途中中断したために起こったものではなく,出区点検の途中中断と本件ミスとの間には何ら因果関係はない(甲51)。 (キ) 債務者は,「債権者の場合,もともと再教育計画においては平成12年10月5日及び同月6日の2日間,現車を使っての訓練を行う予定となっていたのであるが,(中略)再教育期間という重要な時期であることを承知の上で,組合のテニス大会に参加することを優先させ,同月4日と同月5日に年休を取得したのである」と主張する。しかし,そもそも債務者の実施する再教育期間の日数及び教育カリキュラムは,事故種別により細かく決まっているものである(甲29)。しかるに,債務者は,債権者に対し,事前に一切,再教育期間の日数ないし教育カリキュラムの内容につき告知しなかった。そのため債権者は,同年10月5日及び同月6日の2日間現車訓練がなされる予定であることは当日まで全く知り得なかった(甲38)。債権者は,同年9月29日にK指導助役から「同年10月4日,同月5日の年休は取ってもよいが勉強はするように」と言われたにすぎず,同月5日及び同月6日に現車訓練が予定されている事実は一切債権者に告知されていないのである(甲38)。 債権者は,当時,D労働組合の本部テニス部の役員であり,同月4日及び同月5日のD労働組合本部主催のテニス大会に参加したものである。債権者は大会の主催者側であり,前年時の大会の会計報告や繰越金の引き渡しもなす必要があったので,大会に参加したのであり,純粋にプライベートな理由による年休の取得ではない(甲38)。以上述べたとおり,債権者は,事前に同月5日及び同月6日の現車訓練につき,債務者側から一切告知されておらず,仮に現車訓練の実施を告知されていたのであれば,債権者は よる年休の取得ではない(甲38)。以上述べたとおり,債権者は,事前に同月5日及び同月6日の現車訓練につき,債務者側から一切告知されておらず,仮に現車訓練の実施を告知されていたのであれば,債権者は,年休取得を取り消し,現車訓練を受けたことは間違いない(甲38)。したがって,年休取得行為により,債権者を不利益に取り扱うことは到底許されるものではない。 イ債務者の認否債権者の主張はすべて否認ないし争う。後に詳述するとおり,本件出向命令は正当なものであり,不当労働行為と目される何ものも存しないのであるから,本件出向命令が「違法・無効」であるとする債権者の主張は失当である。また,債務者は,所属組合による差別等は一切行っていない。 ウ債務者の主張(ア) 債権者は,列車の安全安定輸送を確保するために定められた基本的ルールを故意に守らず,それによって,平成12年9月13日機器扱い不良事故である本件ミスを惹起し,そのために債務者が債権者に対しなした再教育後の2度にわたる審査に不合格となったことから,運転士としての適性に欠けると判断されたところ,その時点で債務者の定年規程及び債務者とD労働組合との間の定年協定に定める「原則として出向する」年齢に当たる54歳に達していたことから,改めて教育する等して他職種へ転換するよりも関連会社等への出向を命ずることが最も合理的な人事運用であったことから,本件出向の発令を受けたものである。したがって,本件出向命令は,業務上の必要性に基づく正当なものであることは明白であり,債権者の前記主張は全く理由がない。以下に本件出向命令の業務上の必要性につき具体的に明らかにする。 (イ) 債権者の機器扱い不良事故(手歯止め撤去失念)である本件ミスについて平成12年9月12日,債権者は,B28W行路乗務のため午後0時25分に出勤し の業務上の必要性につき具体的に明らかにする。 (イ) 債権者の機器扱い不良事故(手歯止め撤去失念)である本件ミスについて平成12年9月12日,債権者は,B28W行路乗務のため午後0時25分に出勤したが,この日,東海地方をみぞうの大豪雨が襲ったことにより,中央線は運転を見合わせていた。そのため,多くの運転士は出勤後も乗務することなく,A運輸区内で待機しており,債権者も他の運転士と同様,乗務員休憩室で待機していたが,夕方ころから運転が再開され始め,債権者も同日午後7時25分発の1831M列車をはじめとして何本かの列車を運転し,最終的には,Aへ戻り,構内での入換作業を終了した後,A運輸区の乗務員宿泊所で休憩した。翌13日,債権者は,回851M列車をEまで運転し,その後,折り返し2702M列車を運転してAに戻った後,A駅構内(下り7番線)に留置してある車両(2710M列車)の出区点検を行った。 出区点検の正しい手順は,乙15の「出区点検手順」欄のとおりである(なお,この手順の記載は211系出区点検要領(乙20)によっている)。このうち手歯止めの撤去,収納の手順は乙15の⑨⑩のとおり,まず,手歯止め(留置中の車両の転動を防止するため,車輪に装着しているもの)を撤去し,床下にある収納ケースに保管する。その後運転台に上がってから手歯止め装着中は運転台のブレーキ弁ハンドルにぶら下げてある手歯止め使用中札(手歯止めが車輪に装着されていることを運転士に注意喚起するための表示札)を外し,再び運転台から降りて「手歯止め」の収納ケースの真横にある手歯止め使用中札の収納ケースに保管することとしている。なお,債務者は,手歯止めを外し忘れて運転を始めないために,日ごろから手歯止めと手歯止め使用中札の双方が揃って収納ケースに収められていることを確認しなければ運転を始 ースに保管することとしている。なお,債務者は,手歯止めを外し忘れて運転を始めないために,日ごろから手歯止めと手歯止め使用中札の双方が揃って収納ケースに収められていることを確認しなければ運転を始めてはいけないこと,したがって必ず上記手順を守ることを指導していた。 しかして,債務者が,運転士に対して日ごろから必ず上記手順を守ることを指導していたのは,以下の理由によるものである。 運転士が手歯止めを使用するときは,手歯止め使用中札と共に床下の収納ケースから取り出し,手歯止めを車輪に装着した後,手歯止め使用中札を運転士の目にとまるブレーキ弁ハンドルの位置に掛けることとされている。しかして,運転を開始するときに,上記手順どおりに行えば,手歯止め本体をまず収納し,しかる後に運転台に昇り,手歯止め使用中札をブレーキ弁ハンドルから外して床下に収納し,その際,手歯止め本体が所定の位置に収納されていることを再度確認できることから,手歯止め本体の撤去を失念したまま列車を運転してしまうというミスがより確実に防止し得るからである。 なお,債務者は上記のとおり,手歯止めと手歯止め使用中札とが揃って収納されていることが確認しやすいように,平成12年8月から手歯止め使用中札の収納箇所を現在の場所に変更している(乙16)。 ところが,本件ミス後の債務者からの事情聴取に対する債権者の最終的な申告によれば,債権者は,乙15の⑩の手順に従って手歯止め使用中札の収納を行うに際し,運転台を昇り降りすることを面倒がり,その手間を省くため,乙15の④の手順を行った際,債務者の指導を無視して手歯止め使用中札を,先にブレーキ弁ハンドルから外して運転台付近の床に置くという手順違反を犯したのである。こうすれば,運転台に再度昇らなくとも,車両の出入戸の外から手を伸ばせば手歯止め使用中札を手に 歯止め使用中札を,先にブレーキ弁ハンドルから外して運転台付近の床に置くという手順違反を犯したのである。こうすれば,運転台に再度昇らなくとも,車両の出入戸の外から手を伸ばせば手歯止め使用中札を手に取ることができ,乙15の⑩の手順を省略できると考えたからにほかならないが,こういう手抜きを行うという考え方そのものが既に安全に対する細心の心構えを欠落させており,結局,今回のようなミスを犯す結果につながるのであり,安全安定輸送にかかわる運転士としては絶対にやってはいけないことの一つなのである。 ところで,その後,債権者は出区点検を行っているうちに,便意を催したため,トイレに行ったが,驚いたことに,債権者はトイレで用を足した後,まだ出区点検の最中であったにもかかわらず,乗務員休憩室でカップ麺を買い,出来上がるのを待って食べ,さらに更衣室で髭まで剃った上で,ようやく車両に戻ったのである。 債権者は,車両に戻ると出区点検を再開したが,その際,手歯止め本体を撤去し,収納ケースに収納していないことを失念し,手順に違反して運転台の床に置いた手歯止め使用中札のみを収納し,その際,債権者本人の申告によれば,手歯止め本体が収納されていないことに気が付かず(これは手歯止め本体の収納の有無の確認を怠ったことにほかならないが),そのまま次の手順に移ってしまった。 その後,出区点検を終えたつもりでいた債権者は,入換信号機の進行現示により当該車両の起動を開始したが,手歯止めが撤去されていなかったため,車輪がこれに乗り上げ,手歯止めを粉砕してしまったのである(債権者本人の申告によれば,債権者はこのことに気付かなかったとのことである)。 このように,本件ミスは,債権者が定められた手順をことさら無視したばかりか,出区点検中に全く他事を行ったことから,結局は手歯止めの撤去を失念し,そ 債権者はこのことに気付かなかったとのことである)。 このように,本件ミスは,債権者が定められた手順をことさら無視したばかりか,出区点検中に全く他事を行ったことから,結局は手歯止めの撤去を失念し,そのまま列車を起動してしまうという重大なミスによって手歯止めを粉砕してしまったという事故であって,債権者に一方的な責任がある事故なのである(乙21)。 これに対し,債権者は,「腹痛のため強い便意を催し,庁舎のトイレに駆け込んだのであり,債権者の上記行為は,健康上ないし生理現象として,正にやむを得ないものであり,上記行為をもって債権者の行為を非難することは著しく不当・不合理である」と反論している。しかし,債務者は,一度たりとも債権者が出区点検中に便意を催したためトイレに行ったことが問題であると主張したことはないのであり,債権者の上記主張は全くの言いがかりである。そもそも債務者は,たとえ乗務中にトイレに行ったことが原因で乗務している列車に遅れが生じた場合であっても,あらかじめ運転士が指令に報告し,その許可を得てトイレに行ったのであれば,社内整理上責任事故とはしていないくらいであるから,債権者が出区点検中に便意を催してトイレヘ行ったことを非難するようなことなどあり得ないのである。債務者が問題であるとしているのは,債権者が用を足し終えた後に速やかに出区点検に戻ることなく,カップ麺を作って食べたり,髭を剃るなどして,本来一連の動作で行われるべき出区点検について,その中断時間をいたずらに長引かせ,その結果,注意が散漫となり,手歯止めの撤去を失念したことなのである。したがって,債権者の上記反論はことさら債務者の主張をすりかえて,自己に不利な論点をはぐらかそうとするものであり,極めて不当である。以上の事実関係は,乙35によって明白である。 また,債権者は,出区 したがって,債権者の上記反論はことさら債務者の主張をすりかえて,自己に不利な論点をはぐらかそうとするものであり,極めて不当である。以上の事実関係は,乙35によって明白である。 また,債権者は,出区点検の途中でカップ麺を食べ,髭まで剃ったことを正当化するために,乗務員は休憩時間や食事時間が指定されておらず,食事の摂取や身だしなみを整えることは乗務員の判断で許容されている旨主張している。しかし,債務者が,労働時間を労働者の管理下に置くような取扱いを許可している事実はなく,債務者が乗務員の判断により労働時間の中で余裕のある時間帯で食事の摂取や身だしなみを整えることを許容している事実はない。なお,この点について債権者は日常的に朝食や髭剃り行為及び用便をしていたが,債務者から指導を受けたことはないなどと主張している。これは債権者作成の陳述書(甲39)によると,債権者が指定された時刻よりも前倒しで出区点検を実施し,これを終えた後に,朝食や髭剃りなどの行為を行っていた行為を指すものと思われるが,上述したとおり,本件において債務者が問題としているのは,債権者が,本来一連の作業で行うべき出区点検において,用便のために一時中断したことはともかくとして,これに引き続いてカップ麺を食べたり,髭を剃るなどしていたずらに中断時間を延ばし,その結果,注意が散漫となり,手歯止めの撤去を失念したことなのであり,上記の行為とは全く異なるのである。 さらに,債権者は,「食事の時間については,債務者は,「厳密に労働外時間(勤務時間に算入される以外の時間)でしかだめだとは考えていない」旨業務委員会の場で言明している」とも主張している。しかし,休憩や食事の摂取については,原則として労働外時間を使用すれば十分可能であり,特に食事については,社会通念上常識とされる時間帯で食事を摂 」旨業務委員会の場で言明している」とも主張している。しかし,休憩や食事の摂取については,原則として労働外時間を使用すれば十分可能であり,特に食事については,社会通念上常識とされる時間帯で食事を摂取できるような行路を作成しているのであり,労働時間内に休憩や食事をとらざるを得ない事情など存しないのであるから,債務者が上記のような「言明」をするはずはないし,そのような発言をした事実もない。 ただし,「列車の遅延等に対応するため」の時間として労働時間とされている「折り返し加算時間」については,列車が遅延しなければ労働実態がないため,この場合に限っては食事や休養をとることは事実上認めているものである。したがって,あらゆる労働時間において食事を摂取してよいかのように解し得る債権者の主張が誤りであることは明らかである。以上の事実関係は,乙35によって明白である。 また,債権者は,出区点検の途中に食事を摂取したり,髭剃りを行ったことについて,「トイレを出て列車に戻って出区点検を再開すると点検終了後,髭剃り及び朝食のために再び庁舎まで移動することになって時間的に無駄になることから,トイレを出てすぐにカップ麺を購入し,先に髭剃りと朝食を完了したものである」などと述べ,自らがトイレを出た後に即座に車両に戻り,出区点検を再開しなかったことを不当にも正当化しようとしている。しかし,この主張は,手順が便宜であることのみを根拠として債務者が定めたルールを勝手に変更してもよいという考え方に基づくものであり,安全安定輸送を最前線で担う運転士として極めて不適切なものであることはいうまでもないのである。債権者がトイレを出た後に債務者の指導を無視し直ちに車両に戻らず,朝食を摂取し,髭を剃った行為は運転業務に携わる者として考えられない非違行為であって,このようなことをあえて いうまでもないのである。債権者がトイレを出た後に債務者の指導を無視し直ちに車両に戻らず,朝食を摂取し,髭を剃った行為は運転業務に携わる者として考えられない非違行為であって,このようなことをあえて行う者に運転士の業務を続けさせることができないと判断することは,むしろ当然のことというべきである。以上の事実関係は,乙34によって明白である。 (ウ) 事情聴取について債務者は安全安定輸送の確保を経営上の最大の課題としており,列車の運行に直接従事する運転士に対しては,常に運転に係る知識と技能の陶冶に努めるよう求めており,運転士に少しでも知識・技能の面において欠けるところが見られる場合には,直ちに乗務から外し,必要な再教育を施し,改善が見られたら再乗務させることとしており,改善が認められない場合には,その経営権の一つである労務指揮権に基づき当該運転士を運転業務から外し,他職種へ転換している。その一環として,債務者は,運転士が過失により事故を発生させた場合,事故の原因を明らかにし,対策を検討し,再発を防止するために,事故の関係者に対し,事情聴取を行っている。 この事情聴取において債権者は供述内容を撤回したり,不自然な点があったりしたため,債務者は平成12年9月19日まで,4回にわたりこれを行わざるを得なかったのである。債務者が債権者に対し行った事情聴取の概要及びこれに対する債権者の供述内容及び態度は以下のとおりである(乙21)。 a 平成12年9月13日の事情聴取この日は,A運輸区の第一会議室において,乗務員教育を担当しているK指導助役とL指導助役が,債権者に対し,勤務開始時から本件ミスが発生するまでの経緯について確認した。 この中で,債権者は,手歯止め本体の収納の失念については認めたが,手歯止め使用中札の収納については,乙15の④の手順の後にで 権者に対し,勤務開始時から本件ミスが発生するまでの経緯について確認した。 この中で,債権者は,手歯止め本体の収納の失念については認めたが,手歯止め使用中札の収納については,乙15の④の手順の後にではなく,同⑨の手順の後に(すなわち,⑩の手順で)行ったとし,したがって,手歯止め使用中札の収納についての手順違反はなかったかのように主張した。しかし,⑨,⑩の手順どおり行えば,手歯止め収納(⑨の手順)の後に手歯止め使用中札の収納をしていることになり,本件ミスが発生するはずがなく,L助役はその点について問いただしたが,債権者は便意を催しトイレヘ行ったことなどの事情を述べたて言を左右にした(なお,債権者は後述のとおり,この供述を翌日撤回している)。 b 同月14日の事情聴取この日は,A運輸区の訓練室において,J首席助役とM指導助役が,前日の債権者の弁解に不自然なところがあったので,債権者に対してもう一度実際に行った出区点検の手順について確認したところ,債権者は前日と異なる手順を説明した。このため,J首席助役らは前日の申告と矛盾することを指摘したところ,債権者はようやく前日の供述が虚偽であったことを認めたのである。 すなわち,債権者は,前日の事情聴取で述べたことを撤回し,手歯止め使用中札の収納については,定められた手順に違反し,乙15の④の手順の後に行っていたと述べ,このことについては,前日家に帰ってよく考えた結果気が付いたなどという極めて不自然な弁解をなした。 なお,債権者はこのような手順違反を行った理由について,楽をしたいという気持ちが働いた旨述べたのである。 c 同月18日の事情聴取債権者は,同月15日,16日は特休,同月17日は公休であったので,債務者は次の事情聴取を同月18日に行った。 上記のとおり債権者は,手歯止め使用中札の撤去の時点につ ある。 c 同月18日の事情聴取債権者は,同月15日,16日は特休,同月17日は公休であったので,債務者は次の事情聴取を同月18日に行った。 上記のとおり債権者は,手歯止め使用中札の撤去の時点について,1回目の事情聴取と2回目の事情聴取とで,矛盾した供述を行ったことから,K指導助役とM指導助役が,A運輸区の第一会議室において,債権者に対して再度事実関係を確認した。この日の事情聴取の中でも,債権者は,1回目の事情聴取の際には虚偽の報告を行ったことを認めた。 d 同月19日の事情聴取この日は,A運輸区の第一会議室において,J首席助役とL指導助役が,債権者に対し4回目の事情聴取を行った。 これは,手歯止め使用中札と手歯止め本体の収納ケースがすぐ隣同士に並んでおり,手歯止めを使用する際,手歯止め使用中札も手順どおり取り出しておれば,これを収納する際に,すぐ横の手歯止め本体の収納ケースに手歯止めが収納されていないことに気が付かないはずがないことから,債権者がそもそも手歯止め使用中札を使用することすら省略していた疑いがあったため,どうして容易に分かるはずのことに気が付かなかったかについて再度確認を行ったのである。 この点について,債権者は手歯止め使用中札の使用の省略は否定し,手歯止め使用中札を収納ケースに戻す際,無意識に収納したから,すぐ横の手歯止め収納ケース内に手歯止めがなかったことに気が付かなかったとのいささか常識から外れるような弁解を終始繰り返したのである。 なお,この日債権者は,手歯止め使用中札をブレーキ弁ハンドルから外す時点について,1回目の事情聴取において,故意に虚偽の供述をしたことを認めたのである。 e 同月25日の自習についてこの日債務者は,債権者に第一会議室において,終日「運転取扱心得」の自習をさせ,条文をノートに書き写す作業を 聴取において,故意に虚偽の供述をしたことを認めたのである。 e 同月25日の自習についてこの日債務者は,債権者に第一会議室において,終日「運転取扱心得」の自習をさせ,条文をノートに書き写す作業をさせた。再教育の教育方法は,すべてが講義形式で行うものばかりではなく,再教育を受ける者が自主的に自覚をもって必要な知識を習得することが重要であることから,このように自ら勉強する時間を設けており,これが教育効果を上げる有効な手段の一つであることはいうまでもないのである。 なお,この時,債権者が自習を指示された「運転取扱心得」は,鉄道運転規則(国土交通省令)に基づいて制定された規程であり,在来線の運転業務を遂行する者が必ずマスターしておくべき基本となる規程であるが,本件ミスは債権者がこのような基本を失念又は軽視したことにその主な原因があったのであるから,再教育期間に改めて,上記のような方法で基本を学ぶことは,当然必要なことであったのである。 f 同月28日の自習について債権者は,自習の際に管理者が「必ず自習しているかどうか,チェックに来た。」と述べているが,ごく当たり前のことである。けだし,管理者としては当然債権者が指示された自習を真面目に行っているかどうか確認する必要があるのであり,これを放置しておくようなことは考えられないからである。 債権者に再教育を受けているとの自覚があれば,そのような機会を捉えて,管理者に対し債権者の方から質問をする等の積極的態度を示すべきなのであり,これを逆にチェックに来たなどとまるで被害者のような陳述をしているところに債権者の反省のなさがありありとしているのである。 (エ) 審査についてa 上述のとおり,平成12年9月13日に本件ミスが発生した後,債務者は債権者に対し,事故調査,事情聴取,再教育を同年10月11日まで 反省のなさがありありとしているのである。 (エ) 審査についてa 上述のとおり,平成12年9月13日に本件ミスが発生した後,債務者は債権者に対し,事故調査,事情聴取,再教育を同年10月11日まで行い(その間公休などの休日や労働組合のテニス大会に参加するための年休などを除くと正味12日間),同月12日,13日に審査を行うことになった。 再教育後の審査は,審査科目,設問レベル及び合格点とも運転士登用時の審査に準じて取り扱っており,東海鉄道事業本部においては70点以上の得点をもって合格としている。審査の対象となる科目については,発生させた事故の原因,種別,運転士のなした過去の事故歴などに応じて決定される。債権者の場合,「知識確認」,「応急処置」,「出区点検」,「非常の場合の処置」の4科目について審査している。「知識確認」とは,運転関係規程に関する知識を問うものであり,机上における筆記試験形式で実施される。「応急処置」とは,あらかじめ故障箇所を仮設しておき,故障箇所の発見とその処置について審査するものであり,適切な手順を踏んでいなければその都度減点する方式で実施される。「出区点検」とは,運転前の車両整備・点検が適正に行われたかどうかを審査するものであり,決められた整備・点検事項が,決められた手順で,決められた時間内に行われない場合,その都度減点する方式で実施される。「非常の場合の処置」とは,踏み切り事故を想定して,防護,救護,連絡が適切に行われているかを審査するものであり,適切な対応をとらなかった場合には,その都度減点する方式で実施される。上記4科目について,審査した結果,債権者の得点は以下のとおりの結果となった。 (a) 同月12日の審査同月12日は「知識確認」の筆記試験と「出区点検」の審査を行った。 債権者は「知識確認」の試験では,運転 目について,審査した結果,債権者の得点は以下のとおりの結果となった。 (a) 同月12日の審査同月12日は「知識確認」の筆記試験と「出区点検」の審査を行った。 債権者は「知識確認」の試験では,運転士作業基準から出題された問題のうち運転士作業基準の条文から出題された語句記入問題については8問,運転取扱心得から出題された標識名を答える問題については2問,同じく運転取扱心得の条文から出題された語句記入問題については4問,運転作業要領の条文から出題された語句記入問題については9問等を間違え,100点満点中わずか27点しか正解できず,「出区点検」の審査結果も100点満点中わずか41点にすぎなかった。 債権者は,「試験は「運転士作業基準」の総則からの出題が一番多く」と陳述しているが,「運転士作業基準」の総則から出題された問題は合計11問であるのに対し,「運転作業要領」からは10問,「運転取扱心得」からは9問の合計19問が出題されており,その比率は運転作業要領と運転取扱心得から出題されたものの方が多かったのである。 また「出区点検」の審査は,100点満点で,2人の試験官のもと時間制限を設け減点方式で行っている。内容は,出区時の車両点検箇所に不良箇所を仮設して点検させ,不良箇所の発見,点検箇所・順序・方法の適切さ,処置方法の良否,作業の適否,点検時分の超過の有無・程度に基づき採点している。 この時の審査においては,債権者は仮設箇所5か所のうち3か所を発見できなかったことにより減点されたほか,MC車について,防護無線電源ランプ点灯,警音,列車無線電源「入」,列車無線電源ランプ点灯,乗務員無線「上・下」位置,ブレーキ試験について非常,非常点灯,M’車について台車在姿状態の合計8項目の点検を忘れたためそれぞれについて減点される等多くの箇所で減点され,前述したと 線電源ランプ点灯,乗務員無線「上・下」位置,ブレーキ試験について非常,非常点灯,M’車について台車在姿状態の合計8項目の点検を忘れたためそれぞれについて減点される等多くの箇所で減点され,前述したとおり,残った得点は41点にすぎなかった。 (b) 同月13日の審査同月13日は「応急処置」と「非常の場合の処置」の審査を行っている。この審査の方法は,「応急処置」の場合,100点満点で,2人の試験官のもと制限時間を設け減点方式で行っている。内容は,あらかじめ設定しておいた故障箇所の発見,適切な処置の適否を判定するものである。「非常の場合の処置」も100点満点で,2人の試験官のもとで制限時間を設け減点方式で行っている。内容は,運転中事故が発生したことを想定して,その処置の適否を判定するものである。 債権者は「応急処置」の審査において,「非連動スイッチ」の復位忘れ,スイッチ整備中のATS「切」忘れ,指令への連絡において指令員氏名の確認なし,自分氏名報告なし,故障状態報告なし,ブレーキ試験終了報告なし,立ったまま運転開始,時刻確認なし,遅延時分確認なし等々のミスを犯したため減点となり,このほかにも減点項目は多数に及び,残った得点はわずか57点にすぎなかったのである。 債権者は,同日の午後に行われた「非常の場合の処置」の審査において,手歯止めを設置するために車外に出た際,運転室の施錠を忘れたり,信号炎管を正規の設置場所とは反対の場所に設置したり,線路横断する際に左右の安全確認を行わなかったり,救急車を手配することを忘れたり,負傷者の搬送先の確認を忘れたり,乗客の負傷者の有無を確認し忘れたり,報告を行った指令員の氏名を確認し忘れたり等々のミスを犯したため,大幅に減点され,残った得点はわずかに57点にすぎなかったのである。 以上のとおり,債権者は4つの審 の負傷者の有無を確認し忘れたり,報告を行った指令員の氏名を確認し忘れたり等々のミスを犯したため,大幅に減点され,残った得点はわずかに57点にすぎなかったのである。 以上のとおり,債権者は4つの審査において,これが本当に運転士試験に合格したことのある者なのかと疑われるような低い点数しか得点できず,すべて不合格となった。 本来,この審査は,運転士として登用する際に実施する試験と全く同じ科目と難易度であるから,債務者としては,再教育を受けた後でもこのような劣悪な点数しか得点できないようでは,到底債権者を運転業務に従事させることはできないと判断したのである。 b そこで債務者は,債権者に対し,同月18日に再度審査を実施することとした。債務者はそれに先だって,債権者に対し同月16日に「運転取扱心得」,「運転士作業基準」及び「運転作業要領」の自習を命じた。 また,同月17日にも,「運転取扱心得」,「運転作業要領」,「運転士作業基準」,「運転取扱心得細則」及び「運転事故報告取扱細則」の自習を終日命じた。 しかし,同月18日の審査においても債権者は,「知識確認」の試験において,運転取扱心得の条文から出題された語句記入の問題のうち10問,運転事故報告取扱細則の条文から出題された語句記入の問題のうち1問を誤り,その点数は67点にすぎなかった。 また,債権者は「出区点検」については,仮設箇所5か所のうち2か所も発見できなかったばかりか,発見できた箇所についても点検順序,方法が不適切であったり,そのほかにもTC車について右上配電盤NFBの指差確認,MC車についてATS「入」の確認喚呼,キー挿入,解錠及び鎖錠の喚呼を失念し,その他それらによって減点された結果わずか58点しか得点できず不合格となったのである。 債権者はまた,「応急処置」においても非常ブレーキ表示灯及 「入」の確認喚呼,キー挿入,解錠及び鎖錠の喚呼を失念し,その他それらによって減点された結果わずか58点しか得点できず不合格となったのである。 債権者はまた,「応急処置」においても非常ブレーキ表示灯及びブレーキ不緩解モニターの確認をしなかったり,車掌及び指令への連絡において自分の氏名の申告を忘れたり,発車時の指令への連絡において故障状態の報告,指令員氏名の確認,自分氏名の申告を忘れたり,車側灯の「滅灯」の確認をしなかったり,起動開始前のパイロットランプの「点灯」確認をしなかったり,決められたことを実施しなかったため大きく減点となり,得点はわずか46点にすぎなかった。 また,債権者は,「非常の場合の処置」の審査においても,列車防護において信号炎管を下り線に設置すべきところ,上り線に設置したり,踏切支障報知装置を扱う前に信号炎管を使用したり,救急車の手配依頼者の氏名確認をしなかったり,状況調査では負傷者の搬送先を確認しなかったり,踏切支障報知装置の復帰扱いにおいて特殊信号発光機の滅灯を確認しなかったり,所要時分を超過したりしたため減点となり,得点はわずか52点にすぎなかったのである(以上,乙21)。 (オ) 出向の決定についてこのように債権者は再審査の結果も不合格となったのである。ところで,国土交通省令である鉄道運転規則第2章第9条には「係員は,列車又は車両を安全に運転するために十分な知識及び技能を保有しなければならない。」,また第10条にも「列車又は車両を操縦する作業」に関して「次に掲げる作業を行う係員については,適性検査を行い,その作業を行うのに必要な保安のための教育を施し,作業を行うのに必要な知識及び技能を保有することを確かめた後でなければ,作業を行わせてはならない。」と係員の教育,訓練及び審査について規定されている。これは安全安定輸送 要な保安のための教育を施し,作業を行うのに必要な知識及び技能を保有することを確かめた後でなければ,作業を行わせてはならない。」と係員の教育,訓練及び審査について規定されている。これは安全安定輸送を使命としている債務者にとっては何よりも厳正に対処しなければならない事柄なのである。しかして,再教育後の審査及び再審査において,上記のような点数しかとれず,いずれも不合格となったということは,債権者は運転士としての基本的知識や技能すら有していない者であると判断せざるを得なかったのであり,そのような者に多数の乗客の生命を預けることはできず,運転士として再乗務させられないことは明白なのである。このため,債務者は債権者について他職種への転換を検討せざるを得ない状況となったのである。 しかし,債権者は54歳という定年規程による原則出向年齢に達しており,いずれ近いうちに出向となることから,債務者は,ここで他職種への転換教育を施すより,関連会社等へ出向させる方が合理的な人事運用であると判断したのであり,このような債務者の判断が正当であることは明白というべきである。 (カ) 出向先の決定についてこのように,債権者についての人事運用は,出向が最も合理的であると判断されたところから,債務者は本人のためにも1日も早く出向先を見つけるよう努力をした結果,本件出向先と条件面で折り合いがついたが,勤務箇所は本件出向先の人事操配の都合上,O事業所ということになった。そこで債務者は,債権者に対し,平成12年10月24日に本件出向先の就労条件を説明し,同月26日には出向先が本件出向先O事務所である旨の事前通知書を手交した。なお,本件出向先は債務者の運転士経験者のほとんどが出向先として着任している会社である(乙23)。 (キ) まとめ以上述べたところから明らかなとおり,債権者 先O事務所である旨の事前通知書を手交した。なお,本件出向先は債務者の運転士経験者のほとんどが出向先として着任している会社である(乙23)。 (キ) まとめ以上述べたところから明らかなとおり,債権者は本件ミスを惹起したことからなされた再教育,知識・技能審査において,多くの人命を預ける列車の運転士として最低限備えるべき知識・技能に著しく欠けていることが明らかとなり,運転士としての適性に欠けるものと判断され,安全安定輸送を経営上の最大の課題とする債務者の人事運用上,他職種への転換がふさわしいものと判断されたこと,債権者が54歳という定年規程及び定年協定に定める原則出向年齢に達していたことから,改めて教育する等して他職種へ転換するよりも関連会社等への出向を命ずることが最も合理的な人事運用であったことから,債務者は債権者に対して本件出向を命じたものなのである。したがって,本件出向が業務上の必要性に基づくものであったことは明白であるから,本件出向命令が支配介入ないしは不利益取扱いであるとする債権者の主張は全く理由がない。 なお,使用者が労働者に対して不利益となる懲戒処分あるいは人事発令をなした場合,それが労働者の正当な組合活動のゆえをもってされたものであれば不当労働行為となるが,それ以外の使用者の主張する懲戒処分あるいは人事発令の事由が認められる場合には,不当労働行為とならないことはいうまでもない。本件出向命令は,上述したとおり,債務者の人事運用,特に運転士として多数の人命をゆだねる職種の労働者に関する人事運用上,債権者は不適と判断されたこと,債権者が定年規程及び定年協定に基づく原則出向の年齢に達していたという確固とした事由に基づくものであるから,講学上のいわゆる「理由の競合」というケースにも該当しない明白に業務上の必要性及び合理性が認められる 年規程及び定年協定に基づく原則出向の年齢に達していたという確固とした事由に基づくものであるから,講学上のいわゆる「理由の競合」というケースにも該当しない明白に業務上の必要性及び合理性が認められる人事発令なのである。 仮に,本件出向命令について「理由の競合」の概念を当てはめるとしても,本件出向命令が不当労働行為であるとするためには,債務者の反組合活動の意思が,その業務上の必要性よりも優越し,出向命令の「決定的な動機」であったことが必要とされるところ,本件出向命令については前述したとおり,安全安定輸送の確保という債務者の最大の経営課題に立脚した人事運用と,定年規程及び定年協定に基づく原則出向年齢該当性という極めて明確かつ合理的事由が存するのであるから,専ら業務上の必要性に基づくものであることが明白であり,不当労働行為を問擬される余地は全くないのである。 よって,本件出向命令を不当労働行為であるとする債権者の主張は理由がない。 (ク) これに対し,債権者は,Q運転士の事例について,事故の内容を述べた後,直ちに当該運転士が出向とならなかったことを問題として指摘し,これと比較すれば,本件出向がD労働組合A運輸区分会の現役の執行委員長である債権者をねらい撃ちにしたものであることが明らかであると主張している。 しかし,Q運転士の事例においても,債務者は事故の内容等に照らして必要な程度の再教育を施した後に知識及び技能の確認(審査)を行い,これに合格したことから運転業務に再度従事させたのであり,知識及び技能の確認(審査)において不合格となった債権者と取扱いが異なったとしても当然のことなのであって,何ら差別と指弾される余地などないのである。 債権者は,債権者の再教育・審査とQ運転士の再教育・審査を比較すれば債権者に対する運転士不合格という結論が債務者の既定方 たとしても当然のことなのであって,何ら差別と指弾される余地などないのである。 債権者は,債権者の再教育・審査とQ運転士の再教育・審査を比較すれば債権者に対する運転士不合格という結論が債務者の既定方針であり,再教育・審査が,単なるつじつま合わせであることは,明白であると主張しているが,この主張もまた全く根拠のない言いがかりにすぎないのである。 債権者は,本件ミスにおいては,列車の遅れも発生しなかったのに対し,Q運転士の場合は22分30秒の遅れを生じさせたとし,それにもかかわらず,Q運転士は,審査の練習及び審査の立会いにおいて債権者に比べて極めて優遇され,その結果事故日から2か月後には運転士として復帰しているなどと主張している。しかしながら,債権者は手歯止めを粉砕するというミスを犯しながら,さらにそのミスを犯したこと自体に気が付かず,そのまま運転を継続するという,本来あってはならない行為に及んだため,結果として遅れ時分が生じなかったにすぎないところ,Q運転士の場合は,運転していた列車が電気機関車の1両のもので,中央本線を運転する列車であったところから,旅客の乗車している他の営業列車を優先させて運行させるという,指令の指示による正しい取扱いを行ったため,Q運転士の運転する列車の遅れが結果として増大したものなのであって,債権者のようにミスを犯した後の両者の取扱いの実態を考慮に入れないで,遅れ時分だけを問題にすること自体全くの詭弁というほかはないのである。また,債権者が出向したのは審査に不合格になったためであり,Q運転士が事故日から2か月後に運転士として再乗務できたのは審査に合格したためであって,その間に何らの不合理,不平等な点は存しないことはいうまでもないのである。さらに,Q運転士の方が債権者より審査の練習や立会いにおいて優遇されたなどとい て再乗務できたのは審査に合格したためであって,その間に何らの不合理,不平等な点は存しないことはいうまでもないのである。さらに,Q運転士の方が債権者より審査の練習や立会いにおいて優遇されたなどという債権者の主張は,全く事実に反するものであり言いがかり以外の何ものでもないのである。 債権者は,上記債権者の主張は,債権者の再教育・審査とQ運転士の再教育・審査とを比較すれば明白に認められるなどと主張し,比較のようなことを行っている。 しかしながら,債権者によるこの「比較」の中には,事実に反する部分,あるいは,邪推やこじつけの部分が多いので,以下において,まずQ運転士の再教育と審査の状況について述べ,その上で債権者の上記「比較」なるものの誤りについて明らかにすることとする。ただし,Q運転士は本件裁判とは全く無関係な第三者であり,Q運転士に対する再教育の内容や審査の結果は,Q運転士の名誉やプライバシーにかかわることであるので,すべての事項を明らかにすることができないことはいうまでもない。よって,以下には債権者の陳述に対する反論として必要と考えられる限度においてのみ明らかにするものとする。 aQ運転士の事故の内容についてQ運転士は,平成12年10月10日に単9802列車でe駅で発車待ちをしていた際に,上り本線出発信号機が進行現示となったことを,上り1番線の出発現示だと思いこみ起動を開始した。その直後,異線の信号現示であることに気付き単弁ブレーキを使用したが,同時にATSが動作し上り1番線出発信号機真横に停車し,指令にその旨を連絡し,駅係員の誘導により後退後,旅客の乗車する列車を優先させる等の運転整理を行ったものであり,このためQ運転士の列車は,結果として同駅を22分30秒遅発したのである。 bQ運転士に対する再教育と審査について同年11月2日 後,旅客の乗車する列車を優先させる等の運転整理を行ったものであり,このためQ運転士の列車は,結果として同駅を22分30秒遅発したのである。 bQ運転士に対する再教育と審査について同年11月2日,Q運転士は,午前11時から12時までと,午後1時から3時までの間で,「非常の場合の処置」と「応急処置」について,現車で訓練を行った。 同月6日,Q運転士は,午前11時25分から12時までと,午後1時から3時10分までの間で,「応急処置」と「出区点検」について,現車で訓練を行った。 同月9日,Q運転士に「非常の場合の処置」及び「応急処置」の審査を行った。結果は,どちらも不合格であった。同月10日,Q運転士に「知識確認」及び「出区点検」の審査を行った。結果は,どちらも合格であった。 同月13日,Q運転士は,午前11時10分から12時までと,午後1時から1時35分までの間で,「応急処置」と「非常の場合の処置」について,現車で訓練を行った。 同月14日,Q運転士は,午前11時20分から12時までと,午後1時50分から2時30分までの間で,「応急処置」と「非常の場合の処置」について,現車で訓練を行った。同月15日,Q運転士に「非常の場合の処置」及び「応急処置」の審査を行った。結果はどちらも合格であった。 同月17日,Q運転士は,審査に合格したために,「乗務訓練」を行った。 同年12月8日,Q運転士に「乗務審査」を行い合格した。 c 債権者とQ運転士の事例の比較に関する債権者の主張の誤りについて(a) 事故の種別について事故の種別のみによって再教育や審査の日程が定まるかのような債権者の主張が誤りであることについては前述したとおりである。 (b) 審査の練習について債権者は,平成12年10月6日に突然審査の練習を告げられ,午前中1時間,午後2時間,3科目につき, のような債権者の主張が誤りであることについては前述したとおりである。 (b) 審査の練習について債権者は,平成12年10月6日に突然審査の練習を告げられ,午前中1時間,午後2時間,3科目につき,最初で最後の練習をし,午前中の「出区点検」の練習にあっては,審査で仮設があることすら告知されていなかったが,Q運転士の場合は,同年11月2日に3時間以上,同月6日,同月13日(M助役立会い)及び同月14日(M助役立会い)にも練習を行っており,練習においては仮設があることを告げられ,実車で練習を行っているなどと主張している。しかしながら,債権者の上記主張は,以下に詳述するとおり,事実経過を歪曲した全くの邪推である。そもそも同年10月6日は,債権者に対して審査の科目である「出区点検」,「応急処置」,「非常の場合の処置」の現車訓練をさせたものであって,再教育を受ける立場の債権者としては突然であろうがなかろうがあくまで平常心で練習に打ち込めばよいだけのことにすぎないのである。また,これ以外にも審査に則した勉強については,債権者自身が述べているように,同年9月29日には「出区点検」,「応急処置」の資料を渡して勉強させており,同年10月3日には「非常の場合の処置」の資料を渡して勉強させているのである。なお,債権者は,同月4日,同月5日に年休の申込みをしていたが,これに対して,K助役が教育期間中であることから年休取得について再度意思を確認したところ,債権者は予定どおり年休を取得すると述べたので,年休を与えたのである。 債権者は再教育後の審査について,審査で仮設があることすら告知されていなかったなどと主張しているが,現車を使った審査において,仮設箇所が設定されていることは周知の事実で,仮設箇所を設定することを知らない運転士など存在しないのである。また,債権 ることすら告知されていなかったなどと主張しているが,現車を使った審査において,仮設箇所が設定されていることは周知の事実で,仮設箇所を設定することを知らない運転士など存在しないのである。また,債権者が事前に渡された資料を一度でも見ておれば,甲26添付別紙のチェック用紙に「仮設」の欄があることからも明らかなとおり,仮設が設定されることは一目瞭然なのである。そもそも現車を使った審査は,仮設箇所を発見することは主たる目的ではなく,定められた手順どおりに正しく点検ができるかを確認するもので,定められた基本どおりの点検順序で正しく点検を行えば,おのずと仮設箇所を発見することができるのである。 債権者は,債権者に対しては,指導員からの講義は,一度たりともなされず,債権者自身がすべて自習で行ったと主張している。しかしながら,再教育期間中に学習すべき内容は,運転士としていったんはすべて習得したものであり,日々これに基づいて業務を行っているものでもあるから,事故後の再教育においては,それまでの自らの行動を見つめ直し,自らの弱点について,自主的に自覚を持って補強する勉強を行うことが,非常に効率的であり,必要な知識及び技能を習得する上で最も有効な手段の一つであることはいうまでもないのである。分からないことや疑問点があれば,管理者に質問するよう指導しているのであり,その場合必要があると判断すれば,管理者が講義形式で教育を行っているのである。この再教育期間中の「自習」は,当該運転士の弱点をフォローをする意味でも有効な手段であることから,すべての乗務員区で行っているものであり,したがって,債権者に限らず,Q運転士の場合も同様に取り扱われており,その間に差違等は一切存しないのである。むしろ債権者としては,そのような機会を捉えて,管理者に対し質問をする等の積極的態度 であり,したがって,債権者に限らず,Q運転士の場合も同様に取り扱われており,その間に差違等は一切存しないのである。むしろ債権者としては,そのような機会を捉えて,管理者に対し質問をする等の積極的態度を示すべきであるにもかかわらず,全くそのような態度は見せず,かえって,管理者が債権者に対して指示した自習を真面目に行っているかどうか確認するという当然の行為を行ったことに対して,管理者が「必ず自習しているかどうか,チェックに来た」などとあたかも被害者のような陳述をしており,そこに債権者の安全運転に対する意識の欠如と本件ミスに対する反省のなさが如実に現れているのである。 債権者はまた,審査のための現車(211系電車)練習が,Q運転士には2日行われ,その際「出区点検」においては仮設練習も実際に行っており,同年11月15日の再審査の前にも2日にわたって現車で行われたが,債権者には審査・再審査を通じて1回のみであり,仮設がなされることもすべて秘匿されていたと主張し,Q運転士については,同月13日及び同月14日にも現車を使っての訓練がなされたことを問題にしているようである。しかし,Q運転士の場合は,同月10日に実施された1回目の「知識確認」の審査に合格をしており,それ以降は規程等の勉強を行う必要がなく,その時間を不合格科目である「非常の場合の処置」及び「応急処置」についての訓練に注ぐことができたので,2回目の審査を実施する前の同月13日,同月14日に,Q運転士からの希望もあって,現車での訓練を行ったのである。他方,債権者の場合は,既に明らかにしたとおり,同年10月12日及び同月13日に「審査」を行ったところ,すべてについて成績が悪く不合格となったが,いわば最も基本となる「知識確認」の審査での点数が27点と極めて低かったため,同月18日の審査を実施する 0月12日及び同月13日に「審査」を行ったところ,すべてについて成績が悪く不合格となったが,いわば最も基本となる「知識確認」の審査での点数が27点と極めて低かったため,同月18日の審査を実施する前の同月16日及び同月17日においては集中的に規程類の勉強をさせるほかはなく,債権者からも現車を使っての訓練をしてほしいという希望もなかったのである。 ちなみに,審査に至るまでの教育期間について述べれば,Q運転士は,事故調査終了後の同年10月17日から同年11月8日までの23日間(年休2日,公休3日,特休4日を含む)であったのに対し,債権者は同じように事故調査終了後の同年9月20日から同年10月11日までの22日間(年休3日,公休3日,特休4日を含む)であったのであり,両者の教育期間に遜色がないことは明白である。さらに,審査回数についていえば,債権者もQ運転士もともに1回目の審査において不合格科目があったため,審査はいずれも2回ずつ実施しており,この面においても何の差違もないことは明白である。 債権者の場合,もともとの再教育計画においては,同年10月5日及び同月6日の2日間,現車を使っての訓練を行う予定となっていたのであるが,既に述べたとおり,再教育期間という重要な時期であることを承知の上で,組合のテニス大会に参加することを優先させ,同月4日と同月5日に年休を取得したのである。いうまでもなく教育計画の実施は教育を受ける者の好き勝手な行動に合わせて野放図に時間をかけるものではないし,指導に当たる管理者のスケジュールとの調整も必要であるところから,債権者の上記選択の結果,債権者に対する現車を使っての訓練が1日しかできなかったのであって,このような前提事実をことさら無視して,単に回数だけQ運転士の場合と比較し,差別があったかのように主張することは,合 上記選択の結果,債権者に対する現車を使っての訓練が1日しかできなかったのであって,このような前提事実をことさら無視して,単に回数だけQ運転士の場合と比較し,差別があったかのように主張することは,合理性に欠けアンフェアーとさえいい得るのである。 同年9月29日に債権者に対して,年休の取得について確認をした際,K助役は,債権者の年休取得によって現車を使っての訓練に支障するおそれもあり得ることから,債権者に対して「予定があるなら仕方がないが教育計画が減っても休みの間も勉強するように」と伝えたのである。このような事情から債権者については現車を使っての訓練が1日しか取れなかったことから,訓練内容は密度濃く行い,「出区点検」については時間中に4回,「応急処置」については同5回,「非常の場合の処置」については同4回の訓練を継続して行っているのであり,現車を使用した訓練は十分行われていたのである。なお,Q運転士の方は,当初から「審査」そのものの重みを自覚していたのか,常に不安を持ち指導助役に何度も現車を使っての練習を求めてきており,結果的に見れば,既にその段階で取組の姿勢が異なっていたのである。債権者の前記主張は,最初の審査の前の現車を使っての訓練が1回となった理由が再教育期間中という重要な時期に組合主催のテニス大会への出席を優先させるという債権者自身の選択の結果であったことと,再審査前に現車を使っての訓練がなし得なかったのは,最初の審査における「知識確認」に合格しなかった結果であったという実態を全く無視したものであって,極めて自己中心的なものである。 これに対し,債権者は,年休の時季指定日に現車訓練が予定されていたことをあらかじめ伝達されていれば,自ら年休の取得申請を取り消して現車訓練を受けた旨述べ,債務者が債権者に対し,再教育のカリキュラムをあ れに対し,債権者は,年休の時季指定日に現車訓練が予定されていたことをあらかじめ伝達されていれば,自ら年休の取得申請を取り消して現車訓練を受けた旨述べ,債務者が債権者に対し,再教育のカリキュラムをあらかじめ伝えるべきであったと主張している。しかし,A運輸区においては,当時,再教育の対象者に対して再教育のカリキュラムをあらかじめ伝えるという扱いはしておらず,現車訓練についても,規程類の学習の後,助役や車両が手配できる可能な限り近い日を予定日として設定していたが,この予定日をあらかじめ伝える扱いはしていなかったのである。このことは債権者だけではなく再教育の対象となるすべての運転士に対して同様の扱いであったのであるから,債権者に対して再教育のカリキュラムをあらかじめ伝えなかったことで債務者が非難を受けなければならない余地は全くないのである(むしろ債権者だけ特別扱いをする理由はないのである。)。ところで,債権者の現車訓練日も,この方法によって,同年10月5日と同月6日に設定されたのであるが,同月5日に債権者が年休の時季指定を行っていることから,同年9月29日にK総括指導助役が債権者に対して再教育期間中であるが同年10月5日に予定どおり年休を取るのかについて確認を行ったが,債権者は予定どおり年休を取得する意思であったので,特に年休の振替までは勧めなかったのである(なお,同助役は,このとき債権者に対して「予定があるのなら仕方がないが教育計画が減っても休みの間も勉強するように。」旨アドバイスしたことは既に述べたとおりである。)。そして,債務者は債権者に対する現車訓練について再度検討したが,助役や車両の手配等を総合した結果,同年10月6日に集中して密度濃く行うことが最善であると判断したのである。そして実際に同月6日の現車訓練においては,「出区点検」 る現車訓練について再度検討したが,助役や車両の手配等を総合した結果,同年10月6日に集中して密度濃く行うことが最善であると判断したのである。そして実際に同月6日の現車訓練においては,「出区点検」については時間中に4回,「応急処置」については同5回,「非常の場合の処置」については同4回の現車訓練を行っており,債権者に対する現車訓練が他の再教育対象者に比して不十分であったという事実は全くないのである。なお,その後審査を実施した同月12日までの間に,債権者からさらに現車訓練を追加的に行ってほしいというような要望がなされたこともなかったのである。ちなみに,債権者は,再教育後の審査において,現車訓練の対象となる「出区点検」,「応急処置」,「非常の場合の処置」の3科目に不合格となっただけではなく,現車訓練の対象ではない「知識確認」の審査においても不合格であったのである。以上の事実は,乙34によって明白である。 (c) 審査の立会人数について債権者は,自分の審査のときは,多いときは区長,首席助役,指導助役ほか3名の総勢5名が立ち会ったとか,平成12年10月18日の再審査ではJ首席,K指導助役ほか総勢4名が立ち会って,債権者にプレッシャーをかけながら厳格に監視していたなどと主張し,Q運転士の審査のときは,多くても3名が立ち会ったとか,同年11月15日の再審査では,立会いはR指導員のみであったなどと主張している。しかしながら,債権者の上記主張もまた邪推以外の何ものでもないのである。 そもそも,再教育後の審査の場合,試験官は2名で行っており,それ以外に立会者が何名いようと審査の内容や結果には全く影響がないのである。しかも,Q運転士の同年11月15日の再審査について,立会いはR指導員のみであったかのようにいう債権者の上記主張は,全く事実に反しているので 何名いようと審査の内容や結果には全く影響がないのである。しかも,Q運転士の同年11月15日の再審査について,立会いはR指導員のみであったかのようにいう債権者の上記主張は,全く事実に反しているのである。この日はR助役とM助役の2名がQ運転士の試験官を務めていたのであり,このほかにも立会者としてK助役がその場におり,合計3名がいたのである。 (d) 事故の処分について債権者は,自分は本件ミスについての処分として訓告であったが,Q運転士の場合は戒告であったとし,さもQ運転士の方が重大な事故であったかのように主張している。そもそも処分量定の決定は,事故原因を参酌するのはもちろんであるが,旅客輸送を営む債務者としては,事故による列車影響に重きを置き決定しているものである。両者の処分の差は,事故による列車の遅れの違いから生まれたものであり,事故自体の重大性,事故態様の悪性をそのまま反映したものではないのである。しかして,Q運転士の事故後の対応が誠実で適切であったため,かえってQ運転士の列車が遅れを増大させ,債権者の場合は,不誠実な対応をしたために結果として遅れが生じなかったことについては前述したとおりである。また,債権者はQ運転士の事故についてA事故であったと主張しているが,全く事実に反し,真実はB事故である。 以上述べたところから明らかなとおり,債権者の本件ミス後の再教育及び審査とQ運転士の事故後の再教育及び審査との間には,債権者が印象づけようとするような不合理ないし不平等な差異は一切存在しないのであり,この2つのケースを比較したとき,かえって債権者が債務者の最大の課題とする安全安定輸送の理念をいかに軽視し,運転士として規程などに習熟しておくべき義務と努力を怠り,そのことによって自ら招いた処遇上の不満をすべて債務者の責任に転嫁しようとしている が債務者の最大の課題とする安全安定輸送の理念をいかに軽視し,運転士として規程などに習熟しておくべき義務と努力を怠り,そのことによって自ら招いた処遇上の不満をすべて債務者の責任に転嫁しようとしているという極めて不当な実態が浮き彫りとなったものといわなければならないのである。 Q運転士は,事故発生後,指令への報告,それに続く処置方法が適切であり,普段の執務態度も,指差喚呼,L字型指付き確認などもよく声を出し良好で,訓練中の取組も模範的であり,新型車両(383系)の久しぶりの併合作業に対し事前に作業方法を自分で勉強するなど日ごろから前向きな態度が見られたものであって,Q運転士が信号違反事故を発生させたことは事実であるが,再乗務となったのは上記のとおり再教育後の審査に合格した結果であり,事故種別のみで判断したものではないことはもとより,債権者の事象とは著しく事案を異にするものであって,全く比較にならないのである。 以上述べたところから,債権者とQ運転士との間において,審査の練習等に関して差別がなされたかのようにいう債権者の主張は全く事実に反することは明白である。(ケ) また,債権者は,T運転士の事例と比較して,本件出向がD労働組合A運輸区分会の現役の執行委員長である債権者をねらい撃ちにしたものである旨主張する。 T運転士は,平成12年10月6日,U線V駅で228M列車を停車させる際,f駅で2両連結し4両編成であったにもかかわらず,3両の停止位置目標で停車したため,最後部車両がホームを約10メートル外れてしまった。T運転士は,開扉後,すぐに間違いに気付き,直ちに怪我人の有無などを確認し,その旨指令に連絡した。ちなみに,T運転士は,過去に一度も事故を起こしたことがなかった。債務者は,同月7日から17日まで,休日などを除き7日間再教育を実施した。審査 ,直ちに怪我人の有無などを確認し,その旨指令に連絡した。ちなみに,T運転士は,過去に一度も事故を起こしたことがなかった。債務者は,同月7日から17日まで,休日などを除き7日間再教育を実施した。審査は同月18日に出区点検,応急処置の審査を実施したところ,T運転士は,いずれの科目についても合格し,その後の乗務審査についても合格したため,同月24日から再乗務とすることとした。以上のとおり,T運転士がドア扱い不良事故を発生させたことは事実であるが,再乗務となったのは再教育後の審査に合格した結果であり,事故種別のみで判断したものでないことはもとより,債権者の事象とは著しく事案を異にするものであって,全く比較にならないのである。 (コ) g作成名義の陳述書(甲28)は,X運転士が発生させた事故について述べている。しかし,その記載は,以下に述べるとおり事実に反するものである。 gは,S運輸区のX運転士が平成13年8月3日に発生させた「機器扱い不良」事故で手歯止めを粉砕したことを債権者が起こした事故と「全く一緒の事故です」と述べているが,以下のとおり全く事実に反するものである。すなわち,X運転士は,同月3日にU線W駅でホームに留置してあった142M列車の出区点検を開始した。その際,旅客から,当該列車がh駅に到着した後の交通手段などについて質問を受け,5分程度応対することとなり,結局手歯止めの撤去を失念することとなった。その後,X運転士は,手歯止めの撤去を失念したまま,当該車両を起動してしまい,手歯止めの上に車両が乗り上げ,手歯止めを粉砕してしまったが,X運転士はその際に,列車の動きがおかしいと感じたため,いったん止まって運転台を降り,車両の床下を確認したところ,手歯止めが粉砕されていることを確認した。なお,gはX運転士が流しノッチ(流し起動)をして 士はその際に,列車の動きがおかしいと感じたため,いったん止まって運転台を降り,車両の床下を確認したところ,手歯止めが粉砕されていることを確認した。なお,gはX運転士が流しノッチ(流し起動)をしていなかったと述べているが,上記のとおり,X運転士は流し起動を行っており,その結果,手歯止めに乗り上げたことに気が付いているのであり,gの上記陳述は事実に反するものである。また,gはこの点について,流し起動を行っていれば,手歯止めを粉砕することはなかったと述べているが,流し起動をしていても手歯止めに乗り上げ,これを粉砕することはあり得るのであり,手歯止めを粉砕したからといって,流し起動を行っていなかったということはできない。ちなみにX運転士と同様に手歯止めを粉砕した債権者も,自分は流し起動を行っていたと主張している。X運転士は,上記のとおり,手歯止めの粉砕に気が付いたが,次のi駅の到着時刻が2分と迫っていたため,運転を継続した。そしてi駅に到着した際に,指令に手歯止めを粉砕した旨連絡しようとしたが,無線の調子が悪かったため連絡がつかず,しかもその次のY駅までの駅間距離が短かったため,運転に専念せざるを得ず,結局,Y駅で指令に連絡した。同日,債務者はX運転士に対し,事情聴取を行ったが,X運転士はその際,一切の事情を隠すことなく詳細に事実関係を報告した。 前述のとおり,債務者は,事故後の事情聴取の際に,X運転士から一切の事情を隠すことなく詳細に事実関係の報告を受け,当該事故の原因その他当該事故に係る事実関係をすべて正確に把握することができたので,X運転士に対する事情聴取は1回のみで終了した。 債務者は,当該事故の原因,種別,事故後の対応,X運転士の事故歴に加え,当該事故の原因の一つに,旅客からの問い合わせに対応し,出区点検を中断せざるを得なかった 対する事情聴取は1回のみで終了した。 債務者は,当該事故の原因,種別,事故後の対応,X運転士の事故歴に加え,当該事故の原因の一つに,旅客からの問い合わせに対応し,出区点検を中断せざるを得なかったことがあることなどを勘案し,X運転士に対しては8日間の再教育を行い,同年8月13日に「知識確認」,同月15日に「非常の場合の処置」,「応急処置」及び「出区点検」の合計4科目について審査を行った。その結果,X運転士はすべての審査に1回で合格したため,同月15日に乗務審査を行ったところ,これにも1回で合格したため,同月17日から再び乗務をさせることとなったものである。 gは,X運転士に対する取扱いと,債権者に対する取扱いが異なるのが不当であると述べているが,債権者については,債務者は当初12日間の再教育を行った後,X運転士と同様の4科目の審査を行い,これに合格すれば乗務審査を受けさせ,これにも合格すれば乗務させる予定であったところ,債権者が審査に4科目とも不合格となり,再度審査を行ったもののやはりすべての科目において不合格となったために,運転士として必要な知識・技能がないと判断して,他職への配転を検討し,出向としたものであるから,審査に合格したX運転士と取扱いが異なるのは当然である。ちなみに,債権者とX運転士の再教育の日数が異なるのは,以下に述べるとおり,両者の事故及びその他の事情が異なるからである。すなわち,X運転士は,旅客からの問い合わせに対応し,出区点検を中断せざるを得なくなった結果,手歯止めの撤去を失念したものであるのに対し,債権者の場合は,出区点検の途中にトイレに行き,さらに乗務員休憩室でカップ麺を買って,出来上がるの待って食べたのみならず,更衣室で髭まで剃った上でようやく車両に戻って出区点検を再開した結果,手歯止めの撤去を失念したも 点検の途中にトイレに行き,さらに乗務員休憩室でカップ麺を買って,出来上がるの待って食べたのみならず,更衣室で髭まで剃った上でようやく車両に戻って出区点検を再開した結果,手歯止めの撤去を失念したものであり,両者には大きな差異があることが明らかである。また,X運転士は,流しノッチをした時に流れが悪かったために,いったん止まって運転台を降り,確認したところ手歯止めが粉砕されていることを確認したのであり,これに対し,債権者は,本人の申告によれば,留置線からホームに移動するまで全く気が付かず,運転士を交代させるために手配した他の運転士から手歯止めの粉砕を告げられるまで全く気が付かないというお粗末振りであり,この点においても両者には大きな違いがある。そもそも,X運転士は前述のとおり,事故後に債務者に対し,正直に事実関係を報告しているが,債権者は,虚偽の報告を数回にわたり繰り返しており,この点において,両者には決定的な差異があるものというべきである。さらに,gは,X運転士の再教育期間について「10日間の日勤再教育は,短すぎるといえます」と述べているが,X運転士の再教育期間は,X運転士の事故の種類,原因,事故歴,事故後の対応などを総合的に判断した結果であり,決して短くはない。そもそも,上記の10日間の再教育期間が短いとの主張には何ら根拠が存しないし,仮にこれが債権者との比較に基づく主張であるとすれば,上記のとおり,両者に共通するのは事故の種別のみで,事故の原因,事故後の対応などにおいて大きな違いがあるのであり,単に事故種別の共通性に着目し,再教育の日数が短すぎると主張するのは誤りである。なお,gは,「S運輸区は,ほんの些細なミスや,「基本動作が行われていない」との理由で管理者が乗務員を叱責し,日勤再教育と称して,乗務停止にしている職場です」と述 短すぎると主張するのは誤りである。なお,gは,「S運輸区は,ほんの些細なミスや,「基本動作が行われていない」との理由で管理者が乗務員を叱責し,日勤再教育と称して,乗務停止にしている職場です」と述べているが,そのような事実は全く存在しない。このような抽象的な陳述が信用できないことは,あえて指摘するまでもなく明らかなところである。 (サ) Z運転士作成名義の陳述書(甲29)には,Z運転士が発生させた事故についての記載があるが,以下のとおり,事実に反する部分があるものである。 平成13年5月24日,Z運転士は,F車両区仕業2番線に留置中の車両を出区させることになっていたところ,誤って仕業4番線に留置してある車両に乗り込んだ。そして,本来は発車前にF車両区の車両の誘導担当者と,当該車両の留置箇所で運転士担当名,列車番号,入換ルートなどを打ち合せた上,誘導担当者の合図で起動を開始すべきところ,これを怠り誘導担当者と打合せをしないまま,また,誘導担当者の合図を受けないまま,独断で起動を開始した。その結果,当該列車は正しく進路が構成されていない転てつ器に乗り入れたため,これを破損させてしまったものである。なお,債権者は,Z運転士に対する再教育及び審査と債権者自身のそれらとの扱いについての差異を述べたてているが,Z運転士は甲29の肩書きからも明らかなとおり,債権者と同じD労働組合に所属する者であるので,上記主張が債権者の前記「本件出向命令の違法性」,「不当労働行為」に関する主張といかなる関係に立つのか,理解しがたいところである。 Z運転士の事故後,F運転区及びF車両区では,事故の原因を把握するため,当該事故の関係者であるZ運転士と誘導担当者の2名に対し,事情聴取を行ったところ,Z運転士が誘導担当者との事前の打合せにおいて,あらかじめ誘導担当者から打合 F車両区では,事故の原因を把握するため,当該事故の関係者であるZ運転士と誘導担当者の2名に対し,事情聴取を行ったところ,Z運転士が誘導担当者との事前の打合せにおいて,あらかじめ誘導担当者から打合せを省略する旨の連絡を受けていたと主張し,これが誘導担当者の供述と異なることから,両者に対し,複数回にわたり事情聴取を行った。その結果,誘導担当者が打合せを省略する旨の連絡を行っていた事実はなく,Z運転士の主張が事実に反するものであることが判明し,当該事故の原因は,①Z運転士が車両の留置番線を誤り,間違った車両に乗車したこと,②Z運転士が誘導担当者からの起動開始合図がないまま起動を開始したこと,の2点であることが分かった。そこで,F運転区では,当該事故が転てつ器の破損という大きな事故であるものの,Z運転士に事故歴(責任事故)がないこと,事故後,速やかに列車を停止させ,管理者に報告していることなどを総合的に勘案した結果,一定の教育期間を設けた上で,「知識確認」,「応急処置」,「非常の場合の処置」及び「出区点検」の4科目の審査を受験させる必要があると判断し,教育の計画を立てて,運輸営業部運用課の了承を得た上で,Z運転士に対し,上記の計画どおり教育を実施することとした。 F運転区における再教育及び審査は,本件で問題となっている債権者の所属するA運輸区とは異なり,まず,規程類の学習及び「知識確認」の審査を行い,これに合格した後に現車訓練及び技能審査(「応急処置」,「出区点検」,「非常の場合の処置」)を実施しているが,乗務するためにはこれらの審査にすべて合格しなければならないことは,A運輸区と全く同様である。 Z運転士に対する再教育は平成13年6月22日に開始し,運転取扱心得や運転士作業基準,運転作業要領,F運転区作業要領などの規程類につき,自習を基本と ければならないことは,A運輸区と全く同様である。 Z運転士に対する再教育は平成13年6月22日に開始し,運転取扱心得や運転士作業基準,運転作業要領,F運転区作業要領などの規程類につき,自習を基本とした学習を行わせ,その後,同年7月10日に「知識確認」の審査を行った。なお,再教育の開始が事故後1か月近く経過した後となったのは,前述のとおり,誘導担当者があらかじめ打合せを省略する旨の連絡を行ったか否かについて,関係者から何度も事情聴取を行わざるを得ず,時間を要していたからである。同月10日に実施した「知識確認」の審査では,運転士が携帯を義務付けられている規程類の一つである運転作業要領から出題されたが,審査の結果,Z運転士は合格基準に達していたものである。前述のとおり,Z運転士は「知識確認」の審査で合格基準に達していたため,F運転区では,Z運転士に残りの審査を受験させることにし,まず同月11日と同月12日の2日間,「応急処置」と「非常の場合の処置」,「出区点検」の3科目につき,次のとおり訓練を実施した。同月11日はa指導助役(以下「a助役」という。)が担当で,午前10時25分から11時20分ころまでの約1時間,踏切障害事故を想定して,「非常の場合の処置」について,1回練習させた。その後午後1時から2時20分までの1時間20分で「応急処置」の訓練を仮設箇所の説明後,2回行わせた。そして,再度「非常の場合の処置」の訓練を1回練習させている。同月12日もa助役が担当で,11日と同じく午前10時25分ころから11時ころまでの約35分で再度「非常の場合の処置」を1回練習し,午前11時20分ころから11時40分ころまで「応急処置」について1回練習した。その後午後1時から2時30分ころまでの1時間30分で「出区点検」を2回練習し,さらに再度「応急処置 置」を1回練習し,午前11時20分ころから11時40分ころまで「応急処置」について1回練習した。その後午後1時から2時30分ころまでの1時間30分で「出区点検」を2回練習し,さらに再度「応急処置」の練習を2回実施している。同月13日には「応急処置」と「非常の場合の処置」の審査を,同月16日には「出区点検」の審査をそれぞれ実施した。なお,Z運転士に対しては,同月11日と同月12日及びこれらの審査を実施する前の3回,現車訓練を実施しているが,F運転区においては,再教育後の審査はすべてこのように取り扱われており,Z運転士のケースがF運転区における特別のケースであったわけではない。前述のとおり,F運転区では,債権者の所属するA運輸区やj運転区とは異なり,審査の前にも現車訓練を実施しているが,これは,F運転区の庁舎から車両の留置箇所までの距離が遠く,「出区点検」,「応急処置」,「非常の場合の処置」などの現車を使用した訓練を行う場合は,F運転区から離れ,列車本数の多い本線・入換線に近接しているk線を使っており,その都度,F駅や使用する車両の所属区に連絡を取るという手続を経なければならないという事情もあり,やむを得ない措置として行われているものである。 Z運転士は,陳述書(甲29)において,自分の場合の現車訓練と債権者の場合のそれとを比較して,あたかも債権者がZ運転士より不利益な扱いを受けていたかのように述べているが,これは,それぞれが所属する運転区ないしは運輸区における事情の違いや,それに伴う訓練ないし審査の方法の違いを無視した単なる言いがかりにすぎない。さらに,Z運転士は,陳述書(甲29)において,「私の場合は,練習時から審査まで全く同じ仮設で練習しました」,「事前にもらった資料も仮設を含めて記してあるものでした」と述べているが,事実に反す ない。さらに,Z運転士は,陳述書(甲29)において,「私の場合は,練習時から審査まで全く同じ仮設で練習しました」,「事前にもらった資料も仮設を含めて記してあるものでした」と述べているが,事実に反するものである。練習に当たり,あらかじめZ運転士には審査で使用するチェック用紙を自習用に渡し,その用紙に仮設を記載し,練習でもこの仮設を設定したことはあるが,実際の審査は,練習の場合とは仮設を変えて実施しており,全く同じ仮設であった旨のZ運転士の陳述は事実に反するものである。そもそも仮設箇所は,基本どおりの手順で取扱いができれば,どこに設定されようが発見できるものなのである。また,あらかじめ練習時に手渡したチェック用紙に仮設として例示してあろうがなかろうが,あるいは仮設箇所が結果として練習時と同じであろうがなかろうが,実際の審査に臨むに当たって,審査を受ける社員は,どこに仮設が設定されているかが分からないことには変わりがないのであり,これにより難易度に差が出ることはないというべきである。Z運転士は,審査の仮設を設定する際に,下回りの仮設を設定するように指示しているのが聞こえたとも述べているが,そのような事実は存在しない。仮設の設定については,大阪方のTC車の中央付近でa助役が運転士見習いのl社員に指示しているが,当時Z運転士は,両名から十数メートル離れた当該車両の端に立っており,しかも,a助役は,当然のことながらZ運転士に聞こえないように小声で指示したのであるから,設定する仮設箇所がZ運転士に聞こえていたなどということは,全くあり得ないところであり,前記陳述は,ためにするものであって虚構の一語に尽きるものである。 前記のとおり,同月12日及び同月13日に審査を実施した結果,Z運転士は,「出区点検」,「応急処置」及び「非常の場合の処置」のいずれ ,前記陳述は,ためにするものであって虚構の一語に尽きるものである。 前記のとおり,同月12日及び同月13日に審査を実施した結果,Z運転士は,「出区点検」,「応急処置」及び「非常の場合の処置」のいずれも合格基準を上回る点数であったことから,これらについての審査にも合格し,F運転区では,同月17日から乗務訓練を実施し,同年8月8日に乗務審査を行ったところ,すべての項目で合格基準に達していたため,同月10日から再乗務をさせることとなったものである。 Z運転士は,運転士にとって技能審査に合格することには多大な苦労が伴う旨述べているが,以下のとおり事実に反するものである。審査科目のうち,「非常の場合の処置」については,債務者は毎月行っている定期訓練において,年1回程度定期的に全運転士に指導しているし,「応急処置」についても同様であるから,これらの訓練で指導された内容を習得していれば,審査においても全く問題なく合格できるものである。また,「出区点検」については,日々の業務において実際に行っている項目がほとんどであり,これを毎日正しい手順で行っていれば,特段の努力を要しないで,審査に合格できるはずのものである。なおZ運転士は,「出区点検」の審査での点検項目は,日々の業務において実施している出区点検での点検項目の約3倍もあると述べているが,前者の点検項目は162項目であるのに対し,後者の点検項目も121項目ありほとんど変わらないのであり,上記のZ運転士の陳述は事実に反する。しかも,審査でのみ点検する項目といっても,審査は技能の基本の審査であり,通常は確認のみで喚呼が省略されているものについて,採点者にも理解できるように審査では喚呼を行わせているものが39項目,また,列車後部について通常は確認喚呼が省略されているものがあるところ,これを前部と全く同様に で喚呼が省略されているものについて,採点者にも理解できるように審査では喚呼を行わせているものが39項目,また,列車後部について通常は確認喚呼が省略されているものがあるところ,これを前部と全く同様に行うことにより増える項目が2項目となっているにすぎない。したがって,審査における出区点検の項目が多くなっているといっても,実質的な中身は日々の業務において行う出区点検とほとんど変わらないのである。しかも,これら3つの審査については,あらかじめ審査に使用するチェック用紙を配布しておき,机上で自習する機会を与えた上で,実地訓練を実施しているのであるから,この点からみても,審査に合格するために苦労するなどということは決してないと断言し得るところである。以上述べたとおり,審査に合格するためには多大な努力を要する旨のZ運転士の陳述は,明らかに事実に反するものである。 債権者は,債務者がD労働組合の各運輸区の分会長レベルの組合員を恣意的・意図的にねらって不当な組合差別を行っていると主張しているが,債権者がそのような組合差別を行っている事実はなく,債権者の上記主張は不当な言いがかりというほかない。すなわち,債権者は,債務者がD労働組合のA運輸区分会の分会長であった債権者を意図的にねらって不当な組合差別を行ったものの,その上部組織であるF地方本部の執行委員であるZ運転士に対しては不当労働行為に該当する組合差別をなし得なかったなどと主張している。しかし,このような主張はむしろ債務者が不当労働行為を行っている事実が存しないことを自認し,不当労働行為に関する主張を放棄したものに等しいのである。債権者に対し,本件出向命令を発令したのは,債権者が再教育後の2度にわたる審査に不合格となったため,運転士としての適性に欠けると判断されたところ,その時点で原則出向年齢に当 たものに等しいのである。債権者に対し,本件出向命令を発令したのは,債権者が再教育後の2度にわたる審査に不合格となったため,運転士としての適性に欠けると判断されたところ,その時点で原則出向年齢に当たる54歳に達していたことから,改めて教育するなどして他職種へ転換するよりも関連会社等への出向を命ずることが最も合理的な人事運用であると判断されたことからなのである。かように債権者に対する本件出向命令に合理的理由が存することは明らかであり,組合差別の意図など存しないことはいうまでもないのである。以上の事実関係については,乙23によって明白である。 (シ) 債権者は,再教育基本日数に照らし,自らの再教育期間が不当に長い旨主張しているが,明らかに失当である。 すなわち,債務者の東海鉄道事業本部の各職場においては,運転士の再教育の期間,内容をどのように定めるかについて,必ずしも統一的な運用がなされていたわけではなかった。そのため,平成11年9月に東海鉄道事業本部運輸営業部運用課(以下「運用課」という。)が,これらについての統一的な目安を設定し,乗務員が所属する12の現業機関の長に対し配布することとしたが,その際に配布した資料が乙41の1,2である(乙43)。そして,乙41の1の「4,(1),イ」の記載によって明らかなように,債務者提出の乙39の1は,乙41の1に添付された別紙(乙41の2)なのである(平成12年10月に,乙41の2は,乙39の2及び甲50に差し替えられている。)。乙41の1では,「1」~「4」として,再教育の目的,対象となる事故,再教育全体の流れ,再教育の期間に対する考え方が明記されており,さらに乙41の2において,事故等の種別ごとに,再教育の期間とそこで教育する内容が具体的に示されている。しかし,この再教育期間については,乙41の の流れ,再教育の期間に対する考え方が明記されており,さらに乙41の2において,事故等の種別ごとに,再教育の期間とそこで教育する内容が具体的に示されている。しかし,この再教育期間については,乙41の1の「4,(1),エ」にも記載されているとおり,事故隠ぺい,虚偽の供述等の悪質な事象が伴うものについては,別紙(乙41の2)によらず,再乗務の可否及び教育期間について運用課と現業機関の長が協議して決定するものとされている。 債権者は,自らの便宜のために債務者が定めた手順と異なる手順により出区点検を実施したり,事故発生後に虚偽の供述を行うなど,極めて悪質な行為を行っていたことから,債権者の所属するA運輸区の現場長であるI区長が運用課と協議し,上記事情を考慮し,再教育期間を18日間としたものであって(乙42,43),こうした事情を考慮すれば,債権者の再教育期間が再教育基本日数に定めた日数と異なることは当然なのであり,これを不当とする債権者の主張が誤りであることは,極めて明らかである。 (ス) 債権者は,債務者が,債権者と同種事故を起こしたc運転士及びb運転士に対する再教育の取扱いと比較して,再教育基本日数,机上の基本教育の内容,現車訓練の内容において,債権者に対し,いずれも著しく不合理な差別的取扱いを行っていると主張している。しかしながら,債権者の主張するc運転士及びb運転士に対する再教育及び審査が,運用課の設定した「責任事故発生時における乗務員の再教育に関する考え方」(以下「考え方」という。)(乙41の1,2)に基づいて行われていることについては乙43のr陳述書及び乙44のs陳述書において,それぞれ明らかにされているとおりであるから,c,b両運転士に対する再教育及び審査と債権者に対するそれとの間に何らの差異もないのであり,債権者の上記主張はまず r陳述書及び乙44のs陳述書において,それぞれ明らかにされているとおりであるから,c,b両運転士に対する再教育及び審査と債権者に対するそれとの間に何らの差異もないのであり,債権者の上記主張はまずその前提において理由がない。 のみならず,債権者の上記主張は,本件における債権者の法的主張といかなる関係にあるのか全く不明である。けだし,c,b両運転士は債権者と同じD労働組合に所属することは債権者の自認するところであるから,その者らとの間に差別を主張してみても,債権者の主張する不当労働行為なるものを認める余地はないからである。債権者は,あるいは,再教育及び審査についてのc,b両運転士に対する扱いと,債権者に対する扱いがまちまちであるとし(この主張自体が事実に反することは上記のとおり),それ故に本件出向命令が権利の濫用に当たるとしたいのかもしれない。しかしながら,本件出向命令が業務上の必要性に基づくものであり,定年規程及び定年協定に根拠を置く正当なものであることは債務者が既に明らかにしたとおりである。したがって,債権者は,上記主張が債務者のこの点についての主張のどの部分について理由がないとするものであるというのか,理論的に指摘すべきである。しかしながら,債権者は,その上記主張は一切していないのであり,余りにも情緒的な主張であって,それ自体失当な主張というほかはないのである。 (セ) 債権者は,「債権者に対する債務者がなした再教育・審査は,単に形式的なものであり,当初から「債権者の運転士としての業務を奪い,債権者を他職に出向させる」という筋書きが露骨に露呈していた」とし,平成12年9月20日にI区長が債権者に対し「主管部と相談したが,(債権者が)運転士を続けるのは難しい」と発言したことからも,債務者が既にその時点で債権者の運転士としての業務を 露呈していた」とし,平成12年9月20日にI区長が債権者に対し「主管部と相談したが,(債権者が)運転士を続けるのは難しい」と発言したことからも,債務者が既にその時点で債権者の運転士としての業務を奪い,債権者を他職に出向させるという意思が明確に読みとれるなどと主張している。しかしながら,債権者のこの主張は,全く事実に反している。債権者が,同月13日に本件ミスを発生させて以降,債務者は休日をはさみ4日間にわたって(したがって,同月19日まで),債権者に対して事情聴取を行った。しかしながら,この4日間の事情聴取において債権者は虚偽の報告をしたり不自然な話が多かったため,I区長が現場長として主管部に対し最終的な状況報告をするに当たって,債権者の供述にこれ以上嘘のないことを同月20日に再度確認したのである。したがって,I区長が主管部と相談した事実はなく,主管部自体もこの段階では債権者の今後の運用について判断できる状況には全くなかったのである。さらに,債務者においては,社員の人事運用について現場レベルで決定することができないこととなっているので,I区長が債権者に対し,同人の今後の人事運用について「運転士を続けるのは難しい」などと断定的な発言をするなどということはあり得ないのである。債権者が起こした機器扱い不良(手歯止め撤去失念)は,既に明らかにしたとおり,決められた手順を守らなかったことが原因で発生した事故であり,一つ間違えれば車両脱線にもつながりかねない重大な事故であった。また,債権者は,出区点検の途中に便意を催しトイレに行くのみならず,乗務員休憩室でカップ麺を買い,出来上がるのを待って食べただけでなく,更衣室で髭まで剃ったという,出区点検中の運転士として全く信じられない行動をしていたのである。しかも,債権者はこのような行動を隠ぺいするべく 室でカップ麺を買い,出来上がるのを待って食べただけでなく,更衣室で髭まで剃ったという,出区点検中の運転士として全く信じられない行動をしていたのである。しかも,債権者はこのような行動を隠ぺいするべく事情聴取において虚偽の報告をしたり,しばしば不自然な供述をするなどしたため,事情聴取が4日間に及び,これによってようやく当該事故の事実関係を把握し得たという有様であった。そのような経緯から,債権者自身も運転士としての将来に危倶を感じていたのか,この日の面談の中で自分の今後の人事運用について,「運転士としてやっていきたいです」との希望を自ら表明したのである。これに対し,I区長は,自分が債権者の今後の人事運用について判断できる立場にないことから,「区長だけの判断ではなんとも言えない」と述べた上で,「事情聴取の中身については,報告しているので会社として判断するだろう」と述べたにすぎないのである。債権者は,「事情聴取が終わったばかりなのに,なぜ運転士を継続する意思表示をしなければならないのでしょうか」と陳述している(甲26)が,上述したとおり,この日の面談において債権者自身から一方的に運転士を継続したいという希望を表明してきたものであって,上記債権者の陳述は,これをあたかも誰かから促されてしたかのように事実を歪曲しようとするものであり,極めて不当である。また,債権者は,「区長の口から「ノーチャンス」と言ったから,翌日首席助役から「もう一度チャンスを与えると」言ったのが事実であります」などとも陳述している(甲26)が,人事運用について判断できる立場にはないI区長が「ノーチャンス」などと発言したような事実は一切ないのである。 以上のとおり,債権者の上記主張は事実を歪曲した上で,これを前提としてなされた極めて不当不誠実なものなのであり,したがって,「債 I区長が「ノーチャンス」などと発言したような事実は一切ないのである。 以上のとおり,債権者の上記主張は事実を歪曲した上で,これを前提としてなされた極めて不当不誠実なものなのであり,したがって,「債権者に対してなされた再教育・審査の過程は,最初に不合格という結論ありきであり,他の被審査者と比べて不平等,不合理である」とか,「債権者に対する本件の再教育,審査が単に機会を与えたという単なるつじつま合わせにすぎない」などという債権者の主張もまた虚言以外の何ものでもないのである。しかしてこのことは,4日間の事情聴取においてあれこれと虚偽の弁解を述べたてて自らの責任を少しでも免れようとしたこと(この事実は本件において明白になっており,本件審理においては一番に考慮されるべき事実である)に表れている債権者の不誠実さによって明確に裏付けられているのである。 (ソ) 債権者は,最初の審査の結果について,「知識確認」以外の3科目は,いずれもいわゆる実地試験であり,その採点基準はあいまいであり,採点者の広範な裁量によって採点が全く異なる結果となる性格の試験であるとし,同年10月13日実施の「非常の場合の処置」を例にるる難癖をつけた上で,「債権者の実地試験における採点が低いのは,従前の指導に反する著しく不合理な採点基準で行われた結果である」などと主張している。しかし,「出区点検」の審査は,2人の試験官が100点満点の範囲で採点し,時間制限を設け,減点方式で行っており,内容は,出区時の車両点検箇所に不良箇所を仮設して点検させ,点検箇所・順序・方法の適切さ,作業の適否,不良箇所の発見,処置方法の良否,点検時分の超過の有無・程度に基づき採点するものである。評価に当たっては「出区点検要領」という基準等に基づいて行っており,採点基準があいまいであるかのごとき債権者の主 良箇所の発見,処置方法の良否,点検時分の超過の有無・程度に基づき採点するものである。評価に当たっては「出区点検要領」という基準等に基づいて行っており,採点基準があいまいであるかのごとき債権者の主張は全く理由がない。 債権者は,「非常の場合の処置」の減点に関して,運転室の施錠について,施錠しなくてよく,施錠と喚呼すればよいという指導であったと主張している。しかしながら,債権者はこの時,当該指導どおり施錠と喚呼をしなかったため減点となったものなのである。 また,信号炎管の設置場所について,隣の線路を支障するので,車両のある線路に設置せよという指導どおりに行動したと主張している。しかしながら,債権者が指導されたというのは,この時一緒に出題された軌道短絡器を設置する場合のものであり,信号炎管を設置する場合のものではないのであって,債権者はこの2つを取り違えており,全く間違った主張をしているのである。 債権者は負傷者の搬送先の確認について,債権者は確認すべきとの指示を受けていないなどと主張しているが,事故が発生した際は,負傷した旅客自身及びその家族に連絡する際に必要となることから,負傷者の搬送先の確認は必ず行うよう指導しており,これを確認することは運転士として当然知っておかなければならないものなのであって,債権者の主張は全くの虚言である。 (タ) 債権者は,同年10月18日に債権者に対して実施された再審査が4科目を1日で実施するという極めて過酷な日程で行われたとし,そこに債務者の作為が現れているなどと主張している。しかし,債権者の上記主張,すなわち同月18日に4科目の審査を一度に行ったことが極めて過酷であるとの主張は,運転士として余りにも自覚に欠ける甘えた主張というほかはないのである。債務者においては,第1回目の審査が不合格となった場合には,第2 日に4科目の審査を一度に行ったことが極めて過酷であるとの主張は,運転士として余りにも自覚に欠ける甘えた主張というほかはないのである。債務者においては,第1回目の審査が不合格となった場合には,第2回目の審査実施までにフォロー教育期間をおおむね2日間設けることとされている。したがって,債権者の場合も同月16日,同月17日の2日間で点数が極めて低かった「知識確認」のための自習をさせ,同月18日に不合格であった4科目の審査を行ったのである。Q運転士の場合は,前述したとおり第1回目の審査で「知識確認」については,合格していたので,不合格科目である2科目の訓練を行い,同年11月5日に2科目の審査を行ったのである。第2回目の審査で4科目を1回で行うという扱いは,別に債権者に限ったことではない。 (チ) 債権者は,再審査の結果についても難癖をつけている。 債権者はまず,「知識確認」の結果につき,債権者は穴埋め問題につき100パーセント解答できたから,債務者主張の67点であることはあり得ないなどと主張している。債権者の答案用紙の解答欄は一応埋められていたが,その内容は間違いだらけであり,自己評価とはいえ,これをもって100パーセントできたなどと評価する債権者の無自覚さは極立っているものといわなければならないのである。債権者は,債権者が提出した2回目の「知識確認」の解答を書証として提出するよう求め,「解答は穴埋め問題であって,提出されたとしても今後の試験制度に何ら影響を与えるものではない。」などと主張している。しかしながら,債権者に対する知識確認の設問はすべてが穴埋め問題ではないのであり,仮にその他の部分を隠して提出したとしても何の意味もなく,かえっていたずらに疑心暗鬼を呼び起こすにすぎないのであり,極めて不適当な取扱いといわなければならないのである。 穴埋め問題ではないのであり,仮にその他の部分を隠して提出したとしても何の意味もなく,かえっていたずらに疑心暗鬼を呼び起こすにすぎないのであり,極めて不適当な取扱いといわなければならないのである。また,仮に穴埋め問題のみを一部出すとしても,これを明らかにすれば,債務者の労務指揮権の範囲内の事柄に対して,他方当事者からの不当な牽制を受けるおそれがあることに変わりはないのである。けだし,穴埋め問題とはいえ,実際出題された問題そのものを明らかにすれば不合格者が他人の問題内容にまで不要な疑義を抱き,職場内での秩序を乱すばかりか,外部からの批判等の惹起により制度の円滑な遂行に著しく支障が生じる可能性も大きいことに変わりはないのである。そもそも,労働契約上も労働協約上も,債務者がこれらを債権者に明らかにすべき義務を負っていないのであり,本件事件を契機として,その取扱いを変えなければならない義務も,意思も有していないのである。 次に,債権者は,「出区点検」において,債権者が,仮設箇所のうち,「客室座席シートのずれ」と「台車の小石」を発見し得なかったことの減点は各5点ずつにすぎないとし,債権者の得点が58点であるというのは,採点者が許された裁量の範囲を超えた恣意的な減点を行ったからにほかならないなどと主張している。しかしながら,減点についての債権者の主張自体単なる推測にすぎない上に,債権者は,この2か所の仮設箇所を発見できなかっただけではなく,発見できた箇所についても点検順序,方法が不適切であったり,その他にもTC車について右上配電盤NFBの指差確認,MC車についてATS「入」の確認喚呼,キー挿入,解錠及び鎖錠の喚呼を失念するなどによっても減点されているのであり,その結果として58点しか得点できなかったのであるから,債権者の上記主張は論点をすりかえ についてATS「入」の確認喚呼,キー挿入,解錠及び鎖錠の喚呼を失念するなどによっても減点されているのであり,その結果として58点しか得点できなかったのであるから,債権者の上記主張は論点をすりかえようとするものであって,極めて不当である。 次に,債権者は,「応急処置」,「非常の場合の処置」の審査の結果について,甲26を引用している。この引用部分にかかる債権者の陳述内容が事実に反し理由がないことについては,乙25で明らかにしたとおりである。よって,この点についての債権者の主張もまた失当である。 (3) 争点③(本件出向命令が不明確な基準による恣意的な運用によるものとして無効であるか)についてア債権者の主張(ア) 債務者がなした債権者に対する運転業務外し,再教育の実施,審査の実施,審査の結果に基づく出向命令という一連の手続は,何ら法令ないし協約上の根拠のない違法な措置である。債権者は,債務者に対し,再教育の実施,審査の実施等につき,そのよりどころとなる法令ないし協約上の根拠は何か釈明を求めてきたが,債務者は何ら回答できないでいる。 また,債権者は,審査の実施に当たって合否の基準及び債権者の得点を明示するよう求めたが,債務者は拒否し続けている。 (イ) 何故に国家資格である電車運転士の免許が,法令ないし協約上何らの根拠もない,恣意的な取扱いによって,剥奪されなくてはならないのか,債権者には全く理解できない。 さらに,債務者は,再教育の実施,審査の実施,審査の結果に基づく出向命令を,例えば,対象となる運転士が所属する組合ごとに不合理に差別し,例えば非D労働組合組合員が対象となる場合は,審査回数ないし審査基準を恣意的に甘くし,優遇するという,極めて差別的・不明確な基準で運用しており,恣意的な運用のまま放置しているというほかない。 したがって, D労働組合組合員が対象となる場合は,審査回数ないし審査基準を恣意的に甘くし,優遇するという,極めて差別的・不明確な基準で運用しており,恣意的な運用のまま放置しているというほかない。 したがって,この観点からみても,本件出向命令は,違法・無効である。 イ債務者の認否(ア) 債権者の主張(ア)のうち,債権者が審査の合否の基準及び債権者の得点を明らかにするよう求めていたことは認め,その余は否認する。 本件出向命令は,「運転業務外し,再教育の実施,審査の実施,審査の結果」に基づいて発令したものではなく,定年規程及び定年協定に基づいて発令したものであるから,何ら「法令ないし協約上の根拠のない違法な措置」などではない。 各審査の合否の基準については,従前から明らかにする取扱いはされておらず,債権者だけにそのような取扱いをしたのではない。 (イ) 債権者の主張(イ)は否認ないし争う。 債務者が債権者の電車運転士の免許を剥奪した事実はない。本件出向命令は,「再教育の実施,審査の実施,審査の結果」に基づくものではなく,所属組合による差別は一切ない。 ウ債務者の主張債権者は,「不明確な基準で恣意的な運用」との表題の下,「債務者がなした債権者に対する運転業務外し,再教育の実施,審査の実施,審査の結果に基づく出向命令という一連の手続は,何ら法令ないし協約上の根拠のない違法な措置である」と主張する。しかし,本件出向命令は,債権者も承知しているとおり,債務者の定年規程及び定年協定に基づいているのであって,労働契約上,あるいは労働協約上の根拠を有することは争いのないところではないかと思料される。上記の債権者の主張が,法律的に何故本件出向命令を無効たらしめるのか,皆目見当がつかない。 ちなみに,債務者が債権者の本件ミスを受け,債権者を運転業務から外し,再教育を実施し ではないかと思料される。上記の債権者の主張が,法律的に何故本件出向命令を無効たらしめるのか,皆目見当がつかない。 ちなみに,債務者が債権者の本件ミスを受け,債権者を運転業務から外し,再教育を実施した後審査を実施し,その結果債権者に対して運転業務を命ずることができないと判断したことは,いずれも債務者と債権者間の労働契約に基づき,債務者が有する労務指揮権の範囲内の事柄であり,何ら問題とされることはない。以下,債務者の実施する再教育,審査の実施についての考え方を詳述する。 (ア) 債務者においては,会社発足時の昭和62年4月「安全綱領」(乙19)を定め,冒頭に「安全は輸送業務の最大の使命である」と宣言しているところから明らかなように,常に「安全は最優先の課題である」との認識に基づき,会社内の必要な規定を整備するとともに,社員に対する教育・訓練の徹底,安全にかかわる設備投資及び安全推進体制の整備等を積極的に推進してきた。 (イ) また,国土交通省令により,在来線については「鉄道運転規則」(乙10)が定められており,下記の条文がある。 記(知識及び技能の保有)第9条係員は,列車又は車両を安全に運転するために十分な知識及び技能を保有しなければならない。 (係員の教育及び訓練)第10条次に掲げる作業を行う係員については,適性検査を行い,その作業を行うのに必要な保安のための教育を施し,作業を行うのに必要な知識及び技能を保有することを確かめた後でなければ,作業を行わせてはならない。 一列車又は車両を操縦する作業二ないし七(略) 2 前項の適性検査及び教育は,当該係員の所属する事業を経営する者が行うものとする。 (ウ) すなわち,債務者には,社会的に課せられた安全輸送の使命を全うする責務があり,そのためには事故を起こした運転士については,今後2度と事故 当該係員の所属する事業を経営する者が行うものとする。 (ウ) すなわち,債務者には,社会的に課せられた安全輸送の使命を全うする責務があり,そのためには事故を起こした運転士については,今後2度と事故を繰り返さないように十全の教育をする必要がある。 そこで債務者は,社内規程である運転取扱心得を定め,第6条において前記鉄道運転規則第10条と同内容の規定を設け,事故を起こした運転士に対し,再教育を実施している。そして,この再教育期間及び内容については,当該社員が発生させた事故の原因,種別,事故歴などを総合的に判断し,決定している。しかして,一定の期間再教育を施した後,当該運転士の知識及び技能を再確認するための審査を実施し,再度乗務させられる基準に達していることが確認できれば,再び乗務させることとしている。この審査についても,事故の原因,種別,事故歴などを総合的に判断した上で,運転士に登用する際に実施する試験と同じ5科目(知識確認,非常の場合の処置,応急処置,出区点検,乗務)の中から,発生した事故に照らし,必要な科目を受けさせている。審査の監督及び採点は,運転士の講師として,国土交通省から指定されている債務者の社員が担当しており,審査の難易度と合否の基準は運転士登用時に準じている。 以上の手続は,債務者の長年の安全輸送に関する蓄積により,責任を持ってなされており,正に債務者の労務指揮権の範囲内の事柄である。 (エ) また,債権者は,債務者が審査の実施に当たって,合否の基準及び債権者の得点を明示しないと論難する。しかし,労働契約上も労働協約上も,債務者がこれらを債権者に明らかにすべき義務はない。さらに,これを明らかにすれば,債務者の労務指揮権の範囲内の事柄に対して,他方当事者から不当な牽制をされるおそれがある。すなわち,問題の難易度については,差 れらを債権者に明らかにすべき義務はない。さらに,これを明らかにすれば,債務者の労務指揮権の範囲内の事柄に対して,他方当事者から不当な牽制をされるおそれがある。すなわち,問題の難易度については,差異がないように実施しているが,点数を明らかにすれば,不合格者が他人の得点,ひいては問題内容にまで不要な疑義を抱き,職場内での秩序を乱すことにもなりかねないのである。また,審査で問われる知識あるいは技能については,運転士がすべて習得しているべき事柄であり,乗務するに当たっては本来満点をとるべきものである。したがって,運転士に対し,点数を伝えることには何の意味もないし,かえって,点数を伝えることにより,運転士が合格基準である70点という点数のみを目標にしかねないため,得点を明らかにしていないものである。 なお,本件においては,合格基準点が70点であることについては,現場において既に管理者が債権者に対して明らかにしているし,債務者は労使協議の中でも明らかにしている上,2度の審査における債権者の具体的な点数は前記のとおりであり,いずれも合格基準点に達していなかった。 (オ) 債権者は,債務者が,法令ないし協約上何らの根拠もない,恣意的な取扱いによって,債権者の国家資格である電車運転士の免許を剥奪したと主張するようである。 誠に不可解な主張である。債務者は債権者の運転士資格を剥奪したことなどない。 さらに,「法令ないし協約上何らの根拠もない,恣意的な取扱い」とは一体何を指しているのか,全く不明である。債務者が,いつ,どのような取扱いにより,債権者の運転士資格を剥奪したというのか,具体的に主張すべきである。 (カ) 債権者は,「審査の結果に基づく出向命令」なる表現を用いているが,これも明らかに事実に反するものである。債務者の実施している審査は,当該運転士が 奪したというのか,具体的に主張すべきである。 (カ) 債権者は,「審査の結果に基づく出向命令」なる表現を用いているが,これも明らかに事実に反するものである。債務者の実施している審査は,当該運転士が運転業務をなし得る知識・技能を保有するか否かを審査しているのであって,当該運転士について出向という人事運用をするか否かを審査しているのではない。 また,債権者は,債務者が対象となる運転士が所属する組合ごとに不合理に差別し,例えば非D労働組合組合員が対象となる場合は,審査回数ないし審査基準を恣意的に甘くし,優遇するという,極めて差別的・不明確な基準で運用しており,恣意的な運用のまま放置している,とも主張している。 しかし,債務者において,債権者主張のような事実は一切ない。債権者の主張は単なる言いがかりにすぎないもので,何の根拠もない。 (キ) 債権者は,「この観点からみても,本件出向命令は,違法・無効である」と結んでいる。債権者の意図としては,これに先だつ「出向命令の濫用であり無効」,「不当労働行為」以外に,本件出向命令についての別個の無効原因を主張していると見ざるを得ないが,一体,いかなる法律上の論拠に基づいて,無効原因となると主張しているのか,全く不明である。 (4) 争点④(保全の必要性があるか)についてア債権者の主張(ア) 債権者は,本件出向命令が無効であること及び従来の職種であるA運輸区の主任運転士1級の地位にあることの確認等を求める本訴提起の準備中である。 (イ) しかし,電車運転士という専門職の特殊性からみて,長時間現場を離脱すると運転技量の低下を招くおそれがあり,早急に運転業務に戻る必要性がある。 また,本件出向命令は,長距離の通勤及び長い通勤時間,実質的な賃金の低下並びに労働条件の悪化が発生しており,また異業種への出向ということから 低下を招くおそれがあり,早急に運転業務に戻る必要性がある。 また,本件出向命令は,長距離の通勤及び長い通勤時間,実質的な賃金の低下並びに労働条件の悪化が発生しており,また異業種への出向ということから債権者に著しい精神的苦痛を発生させている。 さらに,債権者は,協約ないし法令に根拠のない違法・不当な本件出向命令により,著しく名誉を毀損されており,一刻も早く名誉が回復されなければならない。 (ウ) 上記各事情からすると,本案訴訟の提起及び本案判決が下されるのを待っていたのでは,時間的にみて債権者の法的な利益の回復は困難である。 (エ) 債務者は,「債権者は,平成12年11月10日に出向となってから本件申立てまでに既に7か月間本件出向先で勤務しており,本案の判決を待つことができない事情などないことは明らかであり,保全の必要性は全く存しない。」と主張する。しかし,債務者の上記主張は,債権者が債務者から命じられるまま本件出向先において勤務せざるを得ない状況を逆手に取った主張であり,保全の必要性を阻却する主張にはなり得ない。 また,債務者は,「仮に,万が一運転士の職に戻るようなことがあったとしても,その際には必要な教育を施すことで従事することは可能であり,債権者に本案の判決を待つことができない緊急の事情は一切存しない。」とも主張する。しかし,上記債務者の認識は,運転士業務の実情を全く誤認した主張である。例えば,債務者に運転士として勤務する者には,毎月2時間程度「定例指導訓練」が義務づけられ,その中で「知識確認」という筆記試験が実施されている。加えて,国土交通省からの行政指導に基づき年に1回,「知識確認」という筆記試験が実施され,「技量確認」という実地訓練も課されており,万一これらの試験及び訓練で70点以下の得点となれば不合格となり,再教育及び再試験を課 からの行政指導に基づき年に1回,「知識確認」という筆記試験が実施され,「技量確認」という実地訓練も課されており,万一これらの試験及び訓練で70点以下の得点となれば不合格となり,再教育及び再試験を課されることになる。さらに,運転士は,所属の運輸区に新型の電車が配属された場合,運行ダイヤが変更された場合,信号設備・線路設備が変更された場合などにおいては,その都度新たに訓練が実施されることになっている。このように債務者の運転士は,新たな技術の習得ないし変更された運転状況に対応できるように訓練が課され,毎月の「定例指導訓練」,「知識確認」に追われ,さらには「技量確認」という実地訓練にも追いまくられているのが現状である。かような状況において,債権者が,長期間運転士の業務から離れ,しかも運転士業務と全く関係のない出向先で勤務すれば(債権者は管理部人事課主任運転士(1級)という職名のみは存在するが,本件出向先においては全く電車運転業務と関係ない業務に従事させられている),債権者の運転士としての技量及び能力は著しく減退することが必定である。債務者が指摘するように「必要な教育を施すことで従事することは可能」というようなことはあり得ない。正に本件出向命令は,運転士としての債権者にとっては死刑判決を課されるにも等しいものである。 債務者においては,定年協定があり,債権者が所属する労働組合との議事録確認においても,「関連会社へ出向し,60歳に到達した場合の取扱いとして,出向中に定年に達した場合は,出向を終了させ退職とし,その後の雇用については出向先会社の取扱いであるが,事情の許す限り,63歳位まで引き続き雇用できるよう努力したい」というのが債務者の運用である。したがって,債権者が本案判決の確定を待っていては,仮に本案判決の勝訴が確定し運転士に復帰できたとし るが,事情の許す限り,63歳位まで引き続き雇用できるよう努力したい」というのが債務者の運用である。したがって,債権者が本案判決の確定を待っていては,仮に本案判決の勝訴が確定し運転士に復帰できたとしても,定年協定により債権者が運転士として復帰できる期間は極めて短時間に制限される可能性が高い。よって,債権者にとっては本件仮処分決定により運転士としての業務に復することが時間的に重要となり,保全の必要性は極めて高い。 債務者は,債権者の本件出向による通勤時間の増加につき,「通勤に片道2時間程度を要する社員は多数存し」と述べ,労働条件の悪化は一切発生していないと主張する。債務者において通勤に片道2時間程度を要する社員が多数存在するか否かは明らかではないが,ここで問題なのは,債権者自身の労働条件がどのように悪化したかであり,それには債権者の本件出向前の通勤時間と出向後の通勤時間を比較するべきである。債権者の本件出向前の通勤時間は,約10分であったのが,出向後の通勤時間は,往路が約2時間10分,復路が約3時間と大幅に増加している。それ以外に債権者は,本件出向により年間労働日数は16日増加し,年間労働時間は250時間30分も増大している。さらに,債権者の勤務形態は,本件出向前の債務者からの説明においては,日勤と一昼夜交代の業務ということであったが,出向後の平成13年1月からは,日勤と一昼夜交代業務に加えて,午後6時30分始業・翌日午前7時30分終業の夜勤業務が毎月1回ないし3回程度加えられている。かように債権者の労働条件の悪化は顕著である。 以上から,本件仮処分により債権者の権利を保全する必要性は極めて高い。 イ債務者の認否(ア) 債権者の主張(ア)は不知。 (イ) 債権者の主張(イ)は否認ないし争う。 もとより本件出向命令は正当なものであるから, 処分により債権者の権利を保全する必要性は極めて高い。 イ債務者の認否(ア) 債権者の主張(ア)は不知。 (イ) 債権者の主張(イ)は否認ないし争う。 もとより本件出向命令は正当なものであるから,債権者が運転士の業務に戻ることを前提とする主張は,それ自体が失当である。 仮に,万が一運転士の職に戻るようなことがあったとしても,その際には必要な教育を施すことで従事することは可能であり,債権者に本案の判決を待つことができない緊急の事情は一切存しない。 前述したとおり,通勤に片道2時間程度を要する社員は多数存し,実質的に債権者は本件出向後の方が約1万3000円以上も諸給与支給総額が増加しており,運転士と清掃業務という全く異なる職種の間で比較すべきものではないことから,労働条件の悪化は一切発生していない。 本件出向命令は正当なものであり,債権者の名誉が毀損された事実など一切ない。 (ウ) 債権者の主張(ウ)は争う。 債権者は,平成12年11月10日に出向となってから本件申立てまでに既に7か月間本件出向先で勤務しており,本案の判決を待つことができない事情などないことは明らかであり,保全の必要性は全く存しない。 ウ債務者の主張(ア) 債権者は,債務者の「債権者は,平成12年11月10日に出向となってから本件申立てまでに既に7か月間本件出向先で勤務しており,本案の判決を待つことができない事情などないことは明らかであり,保全の必要性は全く存しない」との主張に対し,「債権者が債務者から命じられるまま本件出向先において勤務せざるを得ない状況を逆手に取った主張であり,保全の必要性を阻却する主張にはなり得ない」と反論する。 ここで,債権者の上記主張が,債権者が何故本件出向の発令を受けて以降7か月もの間,法的手段をとることなく手をこまねいていたかについて全く何の釈明 全の必要性を阻却する主張にはなり得ない」と反論する。 ここで,債権者の上記主張が,債権者が何故本件出向の発令を受けて以降7か月もの間,法的手段をとることなく手をこまねいていたかについて全く何の釈明もなしていないことに注目するべきである。債権者は,自らの年齢がもともと定年規程第2条所定の「原則として出向する」年齢に達している事実を棚に上げ,少しでも早い運転士業務への復帰の必要性を主張しているが,そうであるならば,債権者はまず,この7か月間全く何もしなかったことについて十分な釈明をなすべきである。 債権者が,本件出向発令を受けた平成12年10月26日の時点でその後の労働条件等が分かっていたにもかかわらず,その後7か月もの期間が経過するまで一切本件のような保全処分の申立てをすることなく,本件出向先の業務に従事していたことは,債権者自身本案の判決を待つことができない事情などないこと,すなわちその主張するような保全の必要性など存在しないことを身をもって証明しているにほかならないのである。 (イ) 債権者は,債務者の「運転士の職に戻るようなことがあったとしても,その際には必要な教育を施すことで従事することは可能である」という主張に対し,「運転士としての技量及び能力は著しく減退することが必定である。債務者が指摘するように「必要な教育を施すことで従事することは可能」というようなことはあり得ない」と反論している。 しかし,もともと運転士職に従事していた社員が,運転士職以外の業務に従事し,その後運転士職に復帰した例は数多くある。 債務者は,国土交通省令である鉄道運転規則(乙10)第2章第9条及び第10条による規制を受けているので,その都度当該運転士に対し,必要な教育を施した上で,運転業務に従事させている。 例えば,平成4年3月ダイヤ改正実施時に労働時間短縮 転規則(乙10)第2章第9条及び第10条による規制を受けているので,その都度当該運転士に対し,必要な教育を施した上で,運転業務に従事させている。 例えば,平成4年3月ダイヤ改正実施時に労働時間短縮(年間休日日数の増加)を実施した際に,それに伴い要員増が発生し,運転士33名を事前に養成する必要が生じた。これを受けて,債務者が発足した当初から当時に至るまでの約5年弱の間,運転士業務とは全く関係がない箇所(保線区,事業管理所,駅,工場,車両整備業務など)に従事していた動力車操縦者運転免許保有者26名を運転士として復帰させることとし,このうち4名をm電車区(現在のm運転区)に,1名をn運輸区に,1名をj電車区(現在はj運転区)に,3名をo運輸区に,1名をp運輸区に,11名をF運転区に,5名をq運輸区に異動させた。そして,当該社員らに対しては,以下のとおり,約1か月半にわたり,教育を実施した。 すなわち,まず,運転関係の規程類に関する机上の学習を6日間程度実施し,次に実際の車両を使用して機器配置の確認,出区点検,応急処置などの訓練を4日間程度実施した。その後,実際に乗務することとなる線区の特情,信号機の建植位置の確認,駅での停止位置の確認,駅構内などを実際に自分の目で確かめるための線路見習いを3日間程度行った上で,ブレーキ操作などの実際の運転技術を習得させるためのハンドル訓練を約4週間行った。 以上の教育訓練を実施した後,運転士として必要な知識や技能の有無を確認するための審査を,「出区点検」,「応急処置」,「非常の場合の処置」及び「乗務審査」の4科目について行ったところ,全員が合格基準に達し,運転士として必要な知識及び技能を有していることが確認できたことから乗務させたのである。 なお,この時に運転士業務に再度従事することになった26名の運転士のうち いて行ったところ,全員が合格基準に達し,運転士として必要な知識及び技能を有していることが確認できたことから乗務させたのである。 なお,この時に運転士業務に再度従事することになった26名の運転士のうち,その後,出向,転勤,昇進した社員を除く19名については,現在も運転士業務に従事している。 その他,F運転区において運転士の職にあった者が,平成元年7月1日から平成3年8月末までの約2年間専従休職となり,その間は運転業務から離れていたが,休職期間が終了すると,債務者は,同人に対し,上記と同様の教育や訓練を実施した上で,同運転区の運転士としての業務に再び従事させているのである。 以上のとおり,数年間運転業務から離れていた運転士が,必要な教育や訓練を受けた後,運転業務に再び従事している例は多数あるのであり,上記の債権者の主張が失当であることは明らかである。 (ウ) 債権者は,「本案判決の確定を待っていては,仮に本案判決の勝訴が確定し運転士に復帰できたとしても,定年協定により債権者が運転士として復帰できる期間は極めて短時間に制限される可能性が高い」と主張する。 しかし,仮に本案判決の手続を経たとしても,現在の裁判所における平均的な審理期間に照らせば,債権者の上記主張は杞憂以外の何ものでもないのである。前述のとおり,債権者は本件申立てをなすまでに7か月間本件出向先で職務に従事しているのである。 また,債権者のなした主張は,出向に出なかった場合,債権者が当然運転士としての業務に従事し得ることを前提としているが,債権者は運転士として登用する際に実施する試験と全く同じ科目,難易度の審査すら合格しなかったのであるから,そもそも債権者が定年に至るまで運転士として従事し得る可能性は全くないといっても過言ではないのである。 したがって,上記債権者の主張は前提を欠き,失 科目,難易度の審査すら合格しなかったのであるから,そもそも債権者が定年に至るまで運転士として従事し得る可能性は全くないといっても過言ではないのである。 したがって,上記債権者の主張は前提を欠き,失当である。 (エ) 債権者は,①通勤時間が出向前と比べ延びたこと,②年間休日数が減り,年間労働時間が増えたことを挙げている。 しかし,債権者の主張する上記①,②の事情は,債権者が本案判決を待つことができない事情に該当しないことは明白というべきものである。のみならず,債務者には通勤に2時間を要する社員が多数いるばかりでなく,出向後の通勤時間の方が長くなった社員も枚挙にいとまがなく,このような例は,債権者に限ったことではないのである。 年間休日数が104日となり,年間の労働時間が2088時間となったことについても,出向協定に基づき,賃金上の特別措置を行っているのであり,何ら「労働条件の悪化」などというものではないことは明らかである。ちなみに,このような例も債権者に限ったことではない(乙23)。 また,債権者の主張する通勤時間の延長等は,東亜ペイント最判にいう,「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるもの」に該当しないものであって,主張自体失当というべきである。 なお,債権者は,「出向前の債務者からの説明においては,日勤と1昼夜交代の業務ということであったが,出向後の平成13年6月からは,日勤と1昼夜交代業務に加えて,午後6時30分始業・翌日午前7時30分終業の夜勤業務が毎月1回ないし3回程度加えられている。このように債権者の労働条件の悪化は顕著である」と主張している。 しかし,夜勤業務が労働条件として悪いか否かは別として,債権者は,A運輸区で運転業務に従事していた際は,深夜時間帯に運転業務に従事することも珍しくなく,労働条件が悪 は顕著である」と主張している。 しかし,夜勤業務が労働条件として悪いか否かは別として,債権者は,A運輸区で運転業務に従事していた際は,深夜時間帯に運転業務に従事することも珍しくなく,労働条件が悪化したとはいえないのである。 なお,債権者は,本件出向先において,債権者が夜勤業務に従事することを債務者が事前に説明しなかったことも問題であると主張するかのようであるが,夜勤業務の発生は本件出向前の債権者への説明時点では想定されておらず,本件出向後,本件出向先の事情により勤務形態の変更がなされたものである。したがって,債務者が債権者に出向前に説明することなど不可能であったのであり,債務者がこれをしなかったことが問題である旨の主張は的外れなものといわざるを得ない。 第3 争点に対する判断 1 前提となる事実前記争いのない事実及び審理の全趣旨により容易に認められる事実に後掲疎明資料を総合すれば,以下の事実を一応認めることができる。 (1) 本件ミスの発生(乙21)ア債権者は,平成12年9月12日,B28W行路乗務のため午後0時25分に出勤したが,この日,東海地方をみぞうの大豪雨が襲ったことにより,中央線は運転を見合わせていた。そのため,多くの運転士は出勤後も乗務することなく,A運輸区内で待機しており,債権者も他の運転士と同様,乗務員休憩室で待機していたが,夕方ころから運転が再開され始め,債権者も同日午後7時25分発の1831M列車をはじめとして何本かの列車を運転し,最終的には,A駅に戻り,同駅構内での入換作業を終了した後,A運輸区の乗務員宿泊所で休憩した。翌13日,債権者は,回851M列車をEまで運転し,その後,折り返し2702M列車を運転してAに戻った後,A駅構内(下り7番線)に留置してある車両(2710M列車)の出区点検を行った。 イ出区 翌13日,債権者は,回851M列車をEまで運転し,その後,折り返し2702M列車を運転してAに戻った後,A駅構内(下り7番線)に留置してある車両(2710M列車)の出区点検を行った。 イ出区点検の正しい手順は,乙15にあるとおりであり,このうち手歯止めの撤去,収納の手順としては,まず,手歯止め(留置中の車両の転動を防止するため,車輪に装着しているもの)を撤去し,床下にある収納ケースに保管し,その後運転台に上がってから,手歯止め装着中は運転台のブレーキ弁ハンドルにぶら下げてある手歯止め使用中札(手歯止めが車輪に装着されていることを運転士に注意喚起するための表示札)を外し,再び運転台から降りて「手歯止め」の収納ケースの真横にある手歯止め使用中札の収納ケースに保管することとされている。債務者は,手歯止めを外し忘れて運転を始めないために,日ごろから手歯止めと手歯止め使用中札の双方が揃って収納ケースに収められていることを確認しなければ運転を始めてはいけないことを指導していた。 ウところが,債権者は,手歯止め使用中札の収納を行うに際し,運転台を昇り降りすることを面倒がり,その手間を省くため,債務者の指導を無視して,手歯止め使用中札を先にブレーキ弁ハンドルから外して運転台付近の床に置くという手順違反を犯した。 エそして,その後,債権者は,出区点検を行っているうちに,便意を催したため,トイレに行ったが,トイレで用を足した後,まだ出区点検の最中であったにもかかわらず,乗務員休憩室でカップ麺を買い,出来上がるのを待って食べ,さらに更衣室で髭まで剃ってから,車両に戻った。 オ債権者は,車両に戻ると出区点検を再開したが,その際,手歯止め本体を撤去し,収納ケースに収納していないことを失念し,手順に違反して運転台の床に置いた手歯止め使用中札のみを収納 ら,車両に戻った。 オ債権者は,車両に戻ると出区点検を再開したが,その際,手歯止め本体を撤去し,収納ケースに収納していないことを失念し,手順に違反して運転台の床に置いた手歯止め使用中札のみを収納し,手歯止め本体が収納されていないことに気が付かず,そのまま次の手順に移ってしまった。 その後,出区点検を終えたつもりでいた債権者は,入換信号機の進行現示により当該車両の起動を開始したが,手歯止めが撤去されていなかったため,車輪がこれに乗り上げ,手歯止めを粉砕するという本件ミスを引き起こしてしまった。 (2) 事情聴取について(乙21)ア債務者は安全安定輸送の確保を経営上の最大の課題としており,列車の運行に直接従事する運転士に対しては,常に運転に係る知識と技能の陶冶に努めるよう求めており,運転士に少しでも知識・技能の面において欠けるところが見られる場合には,直ちに乗務から外し,必要な再教育を施し,改善が見られたら再乗務させることとしており,改善が認められない場合には,その経営権の一つである労務指揮権に基づき当該運転士を運転業務から外し,他職種へ転換している。その一環として,債務者は,運転士が過失により事故を発生させた場合,事故の原因を明らかにし,対策を検討し,再発を防止するために,事故の関係者に対し,事情聴取を行っている。 イ債務者は,本件ミスについて,債権者の事情聴取を行ったが,債権者が供述内容を撤回したり,不自然な点があったりしたため,平成12年9月19日まで,4回にわたりこれを行わざるを得なかった。 (ア) 同月13日の事情聴取この日は,A運輸区の第一会議室において,乗務員教育を担当しているK指導助役とL指導助役が,債権者に対し,勤務開始時から本件ミスが発生するまでの経緯について確認した。 この中で,債権者は,手歯止め本体の収納の失念 輸区の第一会議室において,乗務員教育を担当しているK指導助役とL指導助役が,債権者に対し,勤務開始時から本件ミスが発生するまでの経緯について確認した。 この中で,債権者は,手歯止め本体の収納の失念については認めたが,手歯止め使用中札の収納については,手歯止め使用中札の収納についての手順違反はなかったかのように述べた。しかし,手順どおり行えば,手歯止め収納の後に手歯止め使用中札の収納をしていることになり,本件ミスが発生するはずがなく,L助役はその点について問いただしたが,債権者は便意を催しトイレヘ行ったことなどの事情を述べたて言を左右にした。 (イ) 同月14日の事情聴取この日は,A運輸区の訓練室において,J首席助役とM指導助役が,前日の債権者の弁解に不自然なところがあったので,債権者に対してもう一度実際に行った出区点検の手順について確認したところ,債権者は前日と異なる手順を説明した。このため,J首席助役らは前日の申告と矛盾することを指摘したところ,債権者は前日の供述が虚偽であったことを認めた。すなわち,債権者は,前日の事情聴取で述べたことを撤回し,手歯止め使用中札の収納については,楽をしたいという気持ちが働き,定められた手順に違反したと述べ,このことについては,前日家に帰ってよく考えた結果気が付いたなどと弁解した。 (ウ) 同月18日の事情聴取債権者は,同月15日,16日は特休,同月17日は公休であったので,債務者は次の事情聴取を同月18日に行った。上記のとおり債権者は,手歯止め使用中札の撤去の時点について,1回目の事情聴取と2回目の事情聴取とで,矛盾した供述を行ったことから,K指導助役とM指導助役が,A運輸区の第一会議室において,債権者に対して再度事実関係を確認した。この日の事情聴取の中でも,債権者は,1回目の事情聴取の際には虚偽 とで,矛盾した供述を行ったことから,K指導助役とM指導助役が,A運輸区の第一会議室において,債権者に対して再度事実関係を確認した。この日の事情聴取の中でも,債権者は,1回目の事情聴取の際には虚偽の報告を行ったことを認めた。 (エ) 同月19日の事情聴取この日は,A運輸区の第一会議室において,J首席助役とL指導助役が,債権者に対し4回目の事情聴取を行った。これは,手歯止め使用中札と手歯止め本体の収納ケースがすぐ隣同士に並んでおり,手歯止めを使用する際,手歯止め使用中札も手順どおり取り出しておれば,これを収納する際に,すぐ横の手歯止め本体の収納ケースに手歯止めが収納されていないことに気が付かないはずがないことから,債権者がそもそも手歯止め使用中札を使用することすら省略していた疑いがあったため,どうして容易に分かるはずのことに気が付かなかったかについて再度確認を行ったのである。この点について,債権者は,手歯止め使用中札の使用の省略は否定し,手歯止め使用中札を収納ケースに戻す際,無意識に収納したから,すぐ横の手歯止め収納ケース内に手歯止めがなかったことに気が付かなかったとの弁解を終始繰り返した。なお,この日,債権者は,手歯止め使用中札をブレーキ弁ハンドルから外す時点について,1回目の事情聴取において,故意に虚偽の供述をしたことを認めた。 (3) 再教育と審査について(乙21,25,34)ア平成12年9月25日の自習債務者は,同日,債権者に第一会議室において,終日「運転取扱心得」の自習をさせ,条文をノートに書き写す作業をさせた。再教育の教育方法は,すべてが講義形式で行うものばかりではなく,再教育を受ける者が自主的に自覚をもって必要な知識を習得することが重要であることから,このように自ら勉強する時間を設けており,これが教育効果を上げる有効な すべてが講義形式で行うものばかりではなく,再教育を受ける者が自主的に自覚をもって必要な知識を習得することが重要であることから,このように自ら勉強する時間を設けており,これが教育効果を上げる有効な手段の一つである。この時,債権者が自習を指示された「運転取扱心得」は,鉄道運転規則(国土交通省令)に基づいて制定された規程であり,在来線の運転業務を遂行する者が必ずマスターしておくべき基本となる規程であるが,本件ミスは債権者がこのような基本を失念又は軽視したことにその主な原因があったのであるから,再教育期間に改めて,上記のような方法で基本を学ぶことは,当然必要なことであった。 イ同月28日,同月29日,同年10月3日の自習債務者の管理者は,債権者が指示された同年9月28日の自習を真面目に行っているかどうか確認した。 債務者は,同月29日には,債権者に「出区点検」,「応急処置」の資料を渡して勉強させた。 債務者は,同年10月3日には,債権者に「非常の場合の処置」の資料を渡して勉強させた。 ウ同年10月6日の現車訓練債務者は,同日,債権者に対して,審査科目である「出区点検」,「応急処置」,「非常の場合の処置」の現車訓練をさせた。 なお,債権者の場合,もともとの再教育計画においては,同月5日及び同月6日の2日間,現車を使っての訓練を行う予定となっていたが,債権者が同月4日と同月5日に年休の取得を申請したものであり,これに対して,K助役が,同年9月29日,債権者に対し,再教育期間中であるが同年10月5日に予定どおり年休を取るのかについて意思確認を行ったところ,債権者は予定どおり年休を取得する意思であったので,特に年休の振替までは勧めず,「予定があるのなら仕方がないが教育計画が減っても休みの間も勉強するように」とアドバイスの上,年休を与えたもので ころ,債権者は予定どおり年休を取得する意思であったので,特に年休の振替までは勧めず,「予定があるのなら仕方がないが教育計画が減っても休みの間も勉強するように」とアドバイスの上,年休を与えたものである。そして,債務者は,債権者に対する現車訓練について再度検討したが,指導に当たる管理者のスケジュールの調整や車両の手配等を総合した結果,同月6日に集中して密度濃く行うことが最善であると判断し,債権者に対する現車を使っての訓練は1日となったものであるが,訓練内容は密度濃く行い,「出区点検」については時間中に4回,「応急処置」については同5回,「非常の場合の処置」については同4回の現車訓練を継続して行ったものである。 エ同月12日の審査債権者に対しては,平成12年10月11日まで正味12日間の再教育を行った後,同月12日及び同月13日に,「知識確認」,「応急処置」,「出区点検」,「非常の場合の処置」の4科目について審査することになり,同月12日は「知識確認」の筆記試験と「出区点検」の審査を行った。 債権者は,「知識確認」の試験では,運転士作業基準の条文から出題された語句記入問題については8問,運転取扱心得から出題された標識名を答える問題については2問,同じく運転取扱心得の条文から出題された語句記入問題については4問,運転作業要領の条文から出題された語句記入問題については9問等を間違え,100点満点中27点しか正解できなかった。 また「出区点検」の審査は,100点満点で,2人の試験官のもと時間制限を設け減点方式で行っており,内容は,出区時の車両点検箇所に不良箇所を仮設して点検させ,不良箇所の発見,点検箇所・順序・方法の適切さ,処置方法の良否,作業の適否,点検時分の超過の有無・程度に基づき採点するというものである。この時の審査において,債権者は, 不良箇所を仮設して点検させ,不良箇所の発見,点検箇所・順序・方法の適切さ,処置方法の良否,作業の適否,点検時分の超過の有無・程度に基づき採点するというものである。この時の審査において,債権者は,仮設箇所5か所のうち3か所を発見できなかったことにより減点されたほか,MC車について,防護無線電源ランプ点灯,警音,列車無線電源「入」,列車無線電源ランプ点灯,乗務員無線「上・下」位置,ブレーキ試験について非常,非常点灯,M’車について台車在姿状態の合計8項目の点検を忘れたためそれぞれについて減点される等多くの箇所で減点され,「出区点検」の審査結果も100点満点中41点にすぎなかった。 オ同月13日の審査同月13日は「応急処置」と「非常の場合の処置」の審査を行った。この審査の方法は,「応急処置」の場合,100点満点で,2人の試験官のもと制限時間を設け減点方式で行っており,内容は,あらかじめ設定しておいた故障箇所の発見,処置の適否を判定するものである。「非常の場合の処置」も100点満点で,2人の試験官のもとで制限時間を設け減点方式で行っており,内容は,運転中事故が発生したことを想定して,その処置の適否を判定するものである。 債権者は「応急処置」の審査において,「非連動スイッチ」の復位忘れ,スイッチ整備中のATS「切」忘れ,指令への連絡において指令員氏名の確認なし,自分氏名報告なし,故障状態報告なし,ブレーキ試験終了報告なし,立ったまま運転開始,時刻確認なし,遅延時分確認なし等々のミスを犯したため減点となり,このほかにも減点項目は多数に及び,残った得点は57点にすぎなかった。 債権者は,同日の午後に行われた「非常の場合の処置」の審査において,手歯止めを設置するために車外に出た際,運転室の施錠を忘れたり,信号炎管を正規の設置場所とは反対の場所に設 は57点にすぎなかった。 債権者は,同日の午後に行われた「非常の場合の処置」の審査において,手歯止めを設置するために車外に出た際,運転室の施錠を忘れたり,信号炎管を正規の設置場所とは反対の場所に設置したり,線路横断する際に左右の安全確認を行わなかったり,救急車を手配することを忘れたり,負傷者の搬送先の確認を忘れたり,乗客の負傷者の有無を確認し忘れたり,報告を行った指令員の氏名を確認し忘れたり等々のミスを犯したため,大幅に減点され,残った得点は57点にすぎなかった。 カ同月16日及び同月17日の自習上記のとおり,債権者は4つの審査において,すべて不合格となったことから,債務者としては,このような劣悪な点数しか得点できないようでは,到底債権者を運転業務に従事させることはできないと判断し,同月18日に再度審査を実施することとしたが,それに先だって,同月16日に「運転取扱心得」,「運転士作業基準」及び「運転作業要領」の自習を命じた。 また,同月17日にも,「運転取扱心得」,「運転作業要領」,「運転士作業基準」,「運転取扱心得細則」及び「運転事故報告取扱細則」の自習を終日命じた。 債権者は,前記のとおり,同月12日及び同月13日に行った審査ですべてについて成績が悪く不合格となったが,いわば最も基本となる「知識確認」の審査での点数が27点と極めて低かったため,同月18日の再審査を実施する前の同月16日及び同月17日においては集中的に規程類の勉強をさせるほかはなく,債権者からも現車を使っての訓練を追加的に行ってほしいという要望もなかった。 キ同月18日の再審査同月18日の再審査においても,債権者は,「知識確認」の試験において,運転取扱心得の条文から出題された語句記入の問題のうち10問,運転事故報告取扱細則の条文から出題された語句記入の問題のうち1問 査同月18日の再審査においても,債権者は,「知識確認」の試験において,運転取扱心得の条文から出題された語句記入の問題のうち10問,運転事故報告取扱細則の条文から出題された語句記入の問題のうち1問を誤り,その点数は67点にすぎなかった。 債権者は,「出区点検」については,仮設箇所5か所のうち2か所も発見できなかったばかりか,発見できた箇所についても点検順序,方法が不適切であったり,そのほかにもTC車について右上配電盤NFBの指差確認,MC車についてATS「入」の確認喚呼,キー挿入,解錠及び鎖錠の喚呼を失念し,その他それらによって減点された結果58点しか得点できず不合格となった。 債権者は,「応急処置」においても,非常ブレーキ表示灯及びブレーキ不緩解モニターの確認をしなかったり,車掌及び指令への連絡において自分の氏名の申告を忘れたり,発車時の指令への連絡において故障状態の報告,指令員氏名の確認,自分氏名の申告を忘れたり,車側灯の「滅灯」の確認をしなかったり,起動開始前のパイロットランプの「点灯」確認をしなかったり,決められたことを実施しなかったため大きく減点となり,得点は46点にすぎなかった。 債権者は,「非常の場合の処置」の審査においても,列車防護において信号炎管を下り線に設置すべきところ,上り線に設置したり,踏切支障報知装置を扱う前に信号炎管を使用したり,救急車の手配依頼者の氏名確認をしなかったり,状況調査では負傷者の搬送先を確認しなかったり,踏切支障報知装置の復帰扱いにおいて特殊信号発光機の滅灯を確認しなかったり,所要時分を超過したりしたため減点となり,得点は52点にすぎなかった。 ク(ア) これに対し,債権者は,最初の審査の結果について,「知識確認」以外の3科目は,いずれもいわゆる実地試験であり,その採点基準はあいまいであり,採点 減点となり,得点は52点にすぎなかった。 ク(ア) これに対し,債権者は,最初の審査の結果について,「知識確認」以外の3科目は,いずれもいわゆる実地試験であり,その採点基準はあいまいであり,採点者の広範な裁量によって採点が全く異なる結果となる性格の試験であるとし,「債権者の実地試験における採点が低いのは,従前の指導に反する著しく不合理な採点基準で行われた結果である」などと主張している。しかし,甲23によれば,「出区点検」の審査は,2人の試験官が100点満点の範囲で採点し,時間制限を設け,減点方式で行っており,内容は,出区時の車両点検箇所に不良箇所を仮設して点検させ,点検箇所・順序・方法の適切さ,作業の適否,不良箇所の発見,処置方法の良否,点検時分の超過の有無・程度に基づき採点するものであり,評価に当たっては「出区点検要領」という基準等に基づいて行っていることが一応認めることができる。したがって,採点基準があいまいであるかのごとき債権者の主張は理由がない。 次に,債権者は,「非常の場合の処置」の減点に関して,運転室の施錠について,施錠しなくてよく,施錠と喚呼すればよいという指導であったと主張している。しかしながら,乙25によれば,債権者はこの時,当該指導どおり施錠と喚呼をしなかったため減点となったものであると一応認めることができる。 また,債権者は,信号炎管の設置場所について,隣の線路を支障するので,車両のある線路に設置せよという指導どおりに行動したと主張している。しかしながら,乙25によれば,債権者が指導されたというのは,この時一緒に出題された軌道短絡器を設置する場合のものであり,信号炎管を設置する場合のものではないのであって,債権者はこの2つを取り違えているものと一応認めることができる。 さらに,債権者は,負傷者の搬送先の確認について 軌道短絡器を設置する場合のものであり,信号炎管を設置する場合のものではないのであって,債権者はこの2つを取り違えているものと一応認めることができる。 さらに,債権者は,負傷者の搬送先の確認について,債権者は確認すべきとの指示を受けていないなどと主張している。しかし,乙25によれば,事故が発生した際は,負傷した旅客自身及びその家族に連絡する際に必要となることから,負傷者の搬送先の確認は必ず行うよう指導しており,これを確認することは運転士として当然知っておかなければならないものであると一応認めることができる。 以上によれば,前記認定の債権者に対する最初の審査の結果が不合理なものということはできない。 (イ) 債権者は,平成12年10月18日に債権者に対して実施された再審査について,4科目を1日で実施するという極めて過酷な日程で行われたとし,そこに債務者の作為が現れているなどと主張している。しかし,乙25によれば,債務者においては,主管部の指導で,第1回目の審査が不合格となった場合には,第2回目の審査実施までにフォロー教育期間をおおむね2日間設けることとされていること,そこで,債権者の場合も,同月16日,同月17日の2日間で点数が極めて低かった「知識確認」のための自習をさせ,同月18日に不合格であった4科目の審査を行ったことが一応認められ,債権者に対する再審査の日程が極めて過酷であったということはできない。 次に,債権者は,上記再審査の結果について,「知識確認」は穴埋め問題につき,債権者は100パーセント解答できたから,67点であることはあり得ないなどと主張している。しかし,乙25によれば,債権者の答案用紙の解答欄は一応埋められていたが,その内容は間違いだらけであり,67点しかとれなかったものと一応認めることができる。 また,債権者は,「出区 と主張している。しかし,乙25によれば,債権者の答案用紙の解答欄は一応埋められていたが,その内容は間違いだらけであり,67点しかとれなかったものと一応認めることができる。 また,債権者は,「出区点検」において,債権者が,仮設箇所のうち,「客室座席シートのずれ」と「台車の小石」を発見し得なかったことの減点は各5点ずつにすぎないとし,債権者の得点が58点であるというのは,採点者が許された裁量の範囲を超えた恣意的な減点を行ったからにほかならないなどと主張している。しかしながら,乙23によれば,債権者は,上記2か所の仮設箇所を発見できなかっただけではなく,発見できた箇所についても点検順序,方法が不適切であったり,その他にもTC車について右上配電盤NFBの指差確認,MC車についてATS「入」の確認喚呼,キー挿入,解錠及び鎖錠の喚呼を失念するなどによっても減点されているのであり,その結果として58点しか得点できなかったことが一応認められる。 さらに,債権者は,「応急処置」,「非常の場合の処置」の審査の結果についても,甲22の陳述書のとおりであるとし,同陳述書には,「大きなミスは無いと思います。」,「点検項目は,すべてクリアし,…できたと思います。」との記載がある。しかし,乙25によれば,この陳述内容は事実に基づくとはいえないものと一応認めることができる。 以上によれば,前記認定の債権者に対する再審査の結果も,前記認定のとおりというべきであって,不合理なものということはできない。 (4) 債務者の定年規程及び定年協定についてア債務者の社員の定年については,債務者発足当初より,就業規則第45条では,60歳定年と定められていたが,同附則第4項において「第45条第1項本文の規定にかかわらず,定年は,当面55才とし,経営の状況等を勘案して逐次60才に移 ,債務者発足当初より,就業規則第45条では,60歳定年と定められていたが,同附則第4項において「第45条第1項本文の規定にかかわらず,定年は,当面55才とし,経営の状況等を勘案して逐次60才に移行するものとする」と定められ,実質的には55歳定年制となっていた(乙7)。 イしかし,債務者は,社員の生活設計,雇用の確保,社会情勢その他を考慮した結果,一挙に60歳定年制を実施することとし,平成2年3月31日付け社達第59号により,就業規則第45条に60歳定年の実施に伴い在職条件を定年規程の定めによることを明記した一項を追加し,それまで定年を当面55歳としていた附則を削除した。その結果,現行就業規則には次のように規定されている(乙8)。 「第45条社員の定年は60歳とする(以下略) 2 60歳定年の実施に伴う在職条件等に関する事項は,定年規程の定めるところによる。 3 (略)」上記就業規則の規定を受け平成2年3月31日付け人達第56号(同年10月1日社達第30号と同一)により定年規程が制定され,そこでは55歳以上の具体的な在職条件や定年前早期退職を含めた退職条件(退職する場合の条件)等について規定している(乙1)。 この中で,在職条件については,「第2条 54才に達した日以降の人事運用については,原則として出向するものとする。この場合,賃金は会社基準により支給する(以下略)」と規定し,55歳以降も在職する者についての54歳に達した日以降の人事運用については,原則として出向を命ずるものであるということを明確に規定している。 ウ一方,債務者は,債権者の所属するD労働組合を含む各労働組合との間で60歳定年に関する協定の締結に向けて協議を重ねた結果,D労働組合との間では平成3年8月30日,定年協定が締結されるに至った(乙3の1)。 D労働組合以外の 所属するD労働組合を含む各労働組合との間で60歳定年に関する協定の締結に向けて協議を重ねた結果,D労働組合との間では平成3年8月30日,定年協定が締結されるに至った(乙3の1)。 D労働組合以外の各労働組合との間でも,平成2年4月中にすべて定年協定が締結されているが,これら全組合を通じ,協定の内容は同一であって,「54才に達した日以降の人事運用については,原則として出向するものとする。」と定められている(乙3の2ないし5)。 さらに,定年協定に関する議事録確認では,「会社の業務運営上必要があれば,原則によらず,現職を継続させることとなる。」と定められている(乙4の1ないし5)。 (5) 本件出向命令の発令について(乙23)ア本件出向の決定について前記のとおり,債権者は平成12年10月18日の再審査の結果も不合格となったが,国土交通省令である鉄道運転規則第2章第9条には「係員は,列車又は車両を安全に運転するために十分な知識及び技能を保有しなければならない。」,また第10条にも「列車又は車両を操縦する作業」に関して「次に掲げる作業を行う係員については,適性検査を行い,その作業を行うのに必要な保安のための教育を施し,作業を行うのに必要な知識及び技能を保有することを確かめた後でなければ,作業を行わせてはならない。」と係員の教育,訓練及び審査について規定している。これは安全安定輸送を使命としている債務者にとっては何よりも厳正に対処しなければならない事柄である。そこで,再教育後の審査及び再審査において,上記のような点数しかとれず,いずれも不合格となった債権者は,運転士としての基本的知識や技能を有していない者であると判断せざるを得ず,そのような者に多数の乗客の生命を預けることはできないことから,運転士として再乗務させられないこととなり,このため た債権者は,運転士としての基本的知識や技能を有していない者であると判断せざるを得ず,そのような者に多数の乗客の生命を預けることはできないことから,運転士として再乗務させられないこととなり,このため,債務者は債権者について他職種への転換を検討せざるを得ない状況となった。 しかし,債権者は54歳という定年規程による原則出向年齢に達しており,いずれ近いうちに出向となることから,債務者は,関連会社等への出向が最も妥当であると判断した。 イ出向先の決定について出向先については,債権者に特殊な技能,資格があるわけではなく,即座に見つかるものではなかったが,債務者は債権者のためにも1日も早く出向先を見つけるよう人事課として努力した結果,本件出向先と条件面で折り合いがついたが,勤務箇所は本件出向先の人事操配の都合上,O事業所ということになった。そこで債務者は,債権者に対し,平成12年10月24日に本件出向先の就労条件を説明し,同月26日には出向先が本件出向先O事務所である旨の事前通知書を手交した。なお,本件出向先は債務者の運転士経験者のほとんどが出向先として着任している会社である。 2 争点①(本件出向命令が出向命令権の濫用として無効であるか)について(1) 前記1で認定した事実によれば,債務者の社員の定年については,債務者発足当初より,実質的には55歳定年制となっていたものについて,60歳定年制を実施することとし,平成2年3月31日付けで,就業規則を改正するとともに,定年規程を制定して,55歳以降も在職する者については54歳に達した日以降の人事運用については,原則として出向を命ずるものであることを明確に規定したものであり,D労働組合を含む各労働組合との間でも,同旨の定年協定を締結しているものである。 (2) 東亜ペイント最判は,使用者のした転勤命 ては,原則として出向を命ずるものであることを明確に規定したものであり,D労働組合を含む各労働組合との間でも,同旨の定年協定を締結しているものである。 (2) 東亜ペイント最判は,使用者のした転勤命令について,「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても,当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等,特段の事情の存する場合でない限りは,当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。」と判示しており,使用者の出向命令に関わる権利濫用の有無についても,上記判旨と同様の判断基準によってこれを判断するのが相当であるというべきである。 ところで,業務上の必要性の意義について,東亜ペイント最判は,「当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく,労働力の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤労意欲の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」と判示している。 そうすると,55歳から60歳に定年を延長しようとする場合,人件費の増大を抑え,人事の停滞を回避するための措置として,54歳以上の社員の原則出向の措置をとることは,一般に業務上の必要性の存在を肯定し得るものというべきである。 (3) 前記1で認定した事実によれば,債権者は,本件ミスを引き起こし,その後の審査及び再審査において不合格となったことから,債務者としては,債権者が運転士としての基本的知識や技能を有していない者であると判断せざるを得ず,そのような者に多数の乗客の生命を預けることはできず,運転士として再乗務させ て不合格となったことから,債務者としては,債権者が運転士としての基本的知識や技能を有していない者であると判断せざるを得ず,そのような者に多数の乗客の生命を預けることはできず,運転士として再乗務させられないものと判断し,他職種への転換を検討せざるを得ない状況となった。そして,債権者は54歳という定年規程による原則出向年齢に達しており,いずれ近いうちに出向となることが考えられたことから,債務者としては,関連会社等への出向が最も妥当であると判断し,出向先については,債権者に特殊な技能,資格があるわけではなく,即座に見つからなかったが,人事課として努力した結果,本件出向先と条件面で折り合いがつき,勤務箇所は本件出向先の人事操配の都合上,O事業所ということになり,債務者は,債権者に対し,平成12年10月24日に本件出向先の就労条件を説明し,同月26日には出向先が本件出向先O事務所である旨の事前通知書を手交したものである。 これに対し,債権者は,「54歳に達した労働者は自動的にすべて出向させる運用は全くなされていない。」と主張する。しかしながら,乙23によれば,定年規程に基づく出向年齢は原則54歳となってはいるものの,各職場における要員需給の状況や当該社員の能力等を勘案して実施しているため,出向は一律に54歳で実施できるわけではなく,債権者の場合は,再教育と2度の審査の結果,運転士として再乗務させられないことが決定したことから,職場における要員需給の状況によって運転士として現職を継続している者とは事情が異なるのであって,債務者としては,定年規程に基づく出向を命じることが人事運用上最も合理的であると判断したものであることが一応認められる。 (4) 乙23,30によれば,本件出向により,債権者の通勤時間がおおむね2時間近くなるが,債権者以外にも出向 出向を命じることが人事運用上最も合理的であると判断したものであることが一応認められる。 (4) 乙23,30によれば,本件出向により,債権者の通勤時間がおおむね2時間近くなるが,債権者以外にも出向先に2時間程度かけて通勤している者は多数おり,出向後の通勤時間の方が長くなった社員も枚挙にいとまがないこと,本件出向先における債権者の業務は清掃業務であるが,本件出向先は運転士経験者のほとんどが出向している会社であり,清掃業務に従事している者は債権者だけではないこと,本件出向により,債権者の年間休日数の減少や労働時間の増加があるが,そのような例は債権者に限ったことではなく,「社員の出向に関する協定」に基づき,賃金上の特別措置を行っていること,債権者の本件出向前の平成12年7月から同年9月までの3か月間の諸給与支給総額は1か月当たり平均で53万6885円であり,本件出向後の平成13年1月から同年3月までの3か月間のそれは55万0438円であり,本件出向後の方が約1万3000円以上も支給総額が増加していること,本件出向後,債権者は夜勤業務も行っているが,本件出向前も深夜時間帯に運転業務に従事することは珍しくなかったことが一応認められる。 そうすると,本件出向により,債権者の労働条件の悪化が著しいということはできず,債権者が主張する本件出向に伴う不利益を最大限しんしゃくしたとしても労働者が通常甘受すべき程度の不利益にすぎないものというべきである。 (5) 以上によれば,本件出向命令は,債務者の業務上の必要性に基づくものということができ,それによって,債権者が「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を強いられるものということはできないから,本件出向命令が権利の濫用に該当するということはできないというべきである。 なお,本件出向命令が不当労働行為に該当 「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を強いられるものということはできないから,本件出向命令が権利の濫用に該当するということはできないというべきである。 なお,本件出向命令が不当労働行為に該当するかについては,争点②において判断するものである。 3 争点②(本件出向命令が不当労働行為として無効であるか)について(1) 前記1で認定した事実によれば,2で説示したとおり,債権者は,本件ミスを惹起したことから行われた再教育,知識・技能審査において,多くの人命を預ける列車の運転士として最低限備えるべき知識・技能に著しく欠けていることが明らかとなり,運転士としての適性に欠けるものと判断され,安全安定輸送を経営上の最大の課題とする債務者の人事運用上,他職種への転換がふさわしいものと判断されたこと,債権者が54歳という定年規程及び定年協定に定める原則出向年齢に達していたことから,改めて教育するなどして他職種へ転換するよりも,関連会社等への出向を命ずることが最も合理的な人事運用であったことから,債務者は債権者に対して本件出向を命じたものと認められるのであり,本件出向命令が債務者の業務上の必要性に基づくものであったということができる。 ところで,本件出向命令が債務者の業務上の必要性に基づくものであっても,債務者の反組合活動の意思が,その業務上の必要性よりも優越し,出向命令の「決定的な動機」であった場合には,なお本件出向命令が不当労働行為に該当するといわなければならない。 したがって,以下においては,債務者の反組合活動の意思が,その業務上の必要性よりも優越し,本件出向命令の「決定的な動機」であったといえるか否かについて判断することとする。 (2) 債権者は,本件出向命令が支配介入ないしは不利益取扱いとしての不当労働行為に該当すると主張し,その主張を裏 ,本件出向命令の「決定的な動機」であったといえるか否かについて判断することとする。 (2) 債権者は,本件出向命令が支配介入ないしは不利益取扱いとしての不当労働行為に該当すると主張し,その主張を裏付ける事実として,まず,債権者以外の運転士が引き起こした事故とそれに対する処分内容との比較についてるる主張するので,以下,この点について判断する。 ア Q運転士の例(ア) 乙25,27,44によれば,Q運転士の引き起こした事故の態様は,前記の債務者の主張のとおりと一応認めることができ,債務者は,Q運転士の事例においても,事故の原因,事故の種別,事故後の対応,事故歴等を総合的に勘案し,必要な程度の再教育を施した後,知識及び技能の審査を行い,これにすべて合格したことから運転士として再乗務させたものであり,知識及び技能の審査において不合格となった債権者と取扱いが異なる結果となったことについて,不合理な差別とはいえないことが一応認められる。 (イ) 債権者は,債権者の再教育・審査とQ運転士の再教育・審査を比較すれば,債権者に対する運転士不合格という結論が債務者の既定方針であり,再教育・審査が,単なるつじつま合わせであることは明白であるとして,るる主張しているが,乙25,27,44によれば,債権者の事例とQ運転士の事例の差異は,事故の種別,審査の練習,審査の立会人数,事故の処分に関して,前記の債務者の主張のとおりと一応認めることができ,これによれば,Q運転士に比較し,債権者が特に不利益な扱いを受けたものであるとか,債権者に対する再教育・審査が,単なるつじつま合わせにすぎないということはできない。 (ウ) したがって,債権者は,Q運転士の事例と比較すれば,債権者に対する本件出向命令が,D労働組合A運輸区分会の現役の執行委員長である債権者をねらい撃ちにした わせにすぎないということはできない。 (ウ) したがって,債権者は,Q運転士の事例と比較すれば,債権者に対する本件出向命令が,D労働組合A運輸区分会の現役の執行委員長である債権者をねらい撃ちにしたものであることが明らかであると主張するが,かかる主張は採用することができない。 イ T運転士の例(ア) 乙14及び審理の全趣旨によれば,T運転士は,平成12年10月6日,U線V駅で列車を停車させる際,4両編成であったにもかかわらず,3両の停止目標に停車したことから,最後部車両が約10メートル程度ホームから外れてしまったこと,T運転士は,ドア開閉後,すぐに間違いに気付き,直ちに車掌に連絡し,怪我人の有無を確認したところ,支障がないため客扱いを終了し,同駅を30秒遅発したこと,債務者は,T運転士に対し,11日間にわたり,基本動作や規程類について再教育を実施した後,「非常の場合の処置」,「応急処置」,「出区点検」及び「乗務審査」の4科目の審査を実施し,これに合格したことから,運転士として再乗務させていることが一応認められる。 (イ) したがって,T運転士がドア扱い不良事故を発生させたにもかかわらず再乗務となったのは,再教育後の審査に合格した結果であるということができるのであって,債権者は,T運転士の事例と比較すれば,本件出向はD労働組合A運輸区分会の現役の執行委員長である債権者をねらい撃ちにしたものであると主張するが,かかる主張は採用することができない。 ウ X運転士の例(ア) 乙31によれば,X運転士が引き起こした事故の態様は,前記の債務者の主張のとおりと一応認めることができ,債権者の引き起こした本件事故とは態様を異にするということができるのであって,これを全く一緒の事故であるとする甲28はたやすく採用することができない。 (イ) そして,乙31 と一応認めることができ,債権者の引き起こした本件事故とは態様を異にするということができるのであって,これを全く一緒の事故であるとする甲28はたやすく採用することができない。 (イ) そして,乙31によれば,X運転士の事例においても,債務者は,事故の種類,原因,事故歴,事故後の対応などを総合的に判断して,必要な再教育を施した後,知識及び技能の審査を行い,X運転士はすべての審査に1回で合格したことから,運転士として再乗務させることとしたものであり,知識及び技能の審査において不合格となった債権者と取扱いが異なる結果となったことについて,不合理な差別とはいえないことが一応認められる。 なお,乙31によれば,債権者とX運転士の再教育の日数が異なるのは,両者の事故及びその後の報告についての事情が異なることによるものと一応認めることができる。 (ウ) したがって,X運転士が再乗務している事実から,債権者に対する本件出向命令が組合差別の不当労働行為に該当することが裏付けられるということはできない。 エ Z運転士の例(ア) 乙26によれば,Z運転士が引き起こした事故の態様は,前記の債務者の主張のとおりであること,債務者は,Z運転士の事例においても,事故態様,事故歴,事故後の対応などを総合的に勘案して,必要な再教育を施した後,知識及び技能の審査を行い,Z運転士はすべての審査で合格基準に達していたことから,運転士として再乗務させることとしたものであり,知識及び技能の審査において不合格となった債権者と取扱いが異なる結果となったことについて,不合理な差別とはいえないことが一応認められる。 なお,乙26によれば,Z運転士に対しては,審査を実施する前に3回の現車訓練を実施しているが,Z運転士が所属しているF運転区においては,再教育後の審査はすべてそのように取り扱わ とが一応認められる。 なお,乙26によれば,Z運転士に対しては,審査を実施する前に3回の現車訓練を実施しているが,Z運転士が所属しているF運転区においては,再教育後の審査はすべてそのように取り扱われており,Z運転士のケースがF運転区における特別のケースであったわけではないこと,F運転区では,審査の前にも現車訓練を実施しているが,これは,F運転区の庁舎から車両の留置箇所までの距離が遠く,「出区点検」,「応急処置」,「非常の場合の処置」などの現車を使用した訓練を行う場合は,F運転区から離れ,列車本数の多い本線・入換線に近接しているk線を使っており,その都度,F駅や使用する車両の所属区に連絡を取るという手続を経なければならないという事情があるため,やむを得ない措置として行われているものであることが一応認められる。 (イ) Z運転士は,陳述書(甲29)において,事故後の再教育及び審査の過程において,債権者がZ運転士よりも不利益な扱いを受けた旨陳述しているが,乙26に照らし,たやすく採用することができない。 (ウ) また,甲29によれば,Z運転士は,債権者と同じD労働組合に所属する者であると一応認めることができる。 (エ) したがって,Z運転士が再乗務している事実から,債権者に対する本件出向命令が組合差別の不当労働行為に該当することが裏付けられるということはできない。 (3) 債権者は,本件出向命令の不当労働行為性を裏付ける事実として,再教育基本日数に照らし,自らの再教育期間が不当に長い旨主張する。 しかし,乙40,41の1・2,42,43によれば,債務者の東海鉄道事業本部の各職場においては,運転士の再教育の期間,内容をどのように定めるかについて,必ずしも統一的な運用がされていなかったため,平成11年9月に運用課において,統一的な目安を設定し,乗 の東海鉄道事業本部の各職場においては,運転士の再教育の期間,内容をどのように定めるかについて,必ずしも統一的な運用がされていなかったため,平成11年9月に運用課において,統一的な目安を設定し,乗務員が所属する12の現業機関の長に対し配布することとし,その際の資料として,乙41の1の「責任事故発生時における乗務員の再教育に関する考え方」,同2の「再教育基本日数について」が配布されたこと,乙41の1には,再教育の目的,対象となる事故,再教育全体の流れ,再教育の期間に対する考え方が明記され,その添付別紙である乙41の2には,事故等の種別ごとに,再教育の期間とそこで教育する内容が具体的に示されていること,しかし,この再教育期間については,乙41の1の「4,(1),エ」にも記載されているとおり,事故隠ぺい,虚偽の供述,乗務中の居眠り等内容の悪質なものについてはその都度運用課と再乗務の可否及び教育期間について協議するものとされていること,債権者の本件事故は,債権者が,自らの便宜のために債務者が定めた手順と異なる手順により出区点検を実施したり,事故発生後に虚偽の供述を行うなど,極めて悪質な行為を行っていたものと判断されたことから,債権者の所属するA運輸区のI区長が運用課と協議し,上記事情を考慮し,再教育期間を18日間としたものであることが一応認められる。 したがって,債権者の再教育期間が再教育基本日数に定めた日数と異なるからといって,そのことにより,本件出向命令の不当労働行為性が裏付けられるものということはできない。 また,債権者は,債務者が,債権者と同種事故を起こしたc運転士及びb運転士に対する再教育の取扱いと比較して,再教育基本日数,机上の基本教育の内容,現車訓練の内容において,債権者に対し,いずれも著しく不合理な差別的取扱いを行っている旨 種事故を起こしたc運転士及びb運転士に対する再教育の取扱いと比較して,再教育基本日数,机上の基本教育の内容,現車訓練の内容において,債権者に対し,いずれも著しく不合理な差別的取扱いを行っている旨主張している。 しかし,乙43,44によれば,c運転士及びb運転士に対する再教育及び審査も,債権者に対するそれと同じく,乙41の1,2に基づいて行われているものであること,c運転士もb運転士も債権者と同じD労働組合に所属する者であることが一応認められ,c運転士及びb運転士と比較して,債務者が債権者に対して著しく不合理な差別的取扱いを行っているものということはできない。 (4) 債権者は,本件出向命令の不当労働行為性を裏付ける事実として,「債権者に対する債務者がなした再教育・審査は,単に形式的なものであり,当初から「債権者の運転士としての業務を奪い,債権者を他職に出向させる」という筋書きが露骨に露呈していた」とし,平成12年9月20日にI区長が債権者に対し「主管部と相談したが,(債権者が)運転士を続けるのは難しい」と発言したことからも,債務者が既にその時点で債権者の運転士としての業務を奪い,債権者を他職に出向させるという意思が明確に読みとれるなどと主張している。 しかし,乙25によれば,前記認定のI区長の債権者に対する事情聴取の時期に照らし,平成12年9月20日にI区長が債権者に対し「主管部と相談したが,(債権者が)運転士を続けるのは難しい」と発言したという事実は存しないことが一応認められ,これに反する債権者の甲22,26の陳述書は,たやすく採用することができない。 そして,前記認定の債権者に対する再教育・審査の状況に照らせば,債権者に対して債務者がなした再教育・審査が,単に形式的なものであるとはいえないことは,前記説示のとおりである。 したがって できない。 そして,前記認定の債権者に対する再教育・審査の状況に照らせば,債権者に対して債務者がなした再教育・審査が,単に形式的なものであるとはいえないことは,前記説示のとおりである。 したがって,債権者は,当初から債権者の運転士としての業務を奪い,債権者を他職に出向させるという筋書きが露骨に露呈していたと主張するが,かかる主張は採用することができない。 (5) 以上によれば,本件出向命令が債務者の組合差別,反組合活動の意思に基づくものということはできず,本件出向命令が不当労働行為として無効であるとする債権者の主張は採用することができない。 4 争点③(本件出向命令が不明確な基準による恣意的な運用によるものとして無効であるか)について(1) 債権者は,債務者がなした債権者に対する運転業務外し,再教育の実施,審査の実施,審査の結果に基づく本件出向命令という一連の手続は,何ら法令ないし協約上の根拠のない違法な措置であり,国家資格である電車運転士の免許が,法令ないし協約上何らの根拠もない恣意的な取扱いによって剥奪されることが理解できない旨主張する。 しかし,債務者が債権者の本件ミスを理由に債権者を運転業務から外し,再教育を実施した後,審査を実施し,その結果債権者に対して運転業務を命ずることができないと判断した経緯は,前記認定のとおりであって,いずれも債務者と債権者間の労働契約に基づき債務者が有する労務指揮権に基づくものということができる。 また,前記認定のとおり,本件出向命令は,定年規程及び定年協定に基づいているのであって,労働契約上あるいは労働協約上の根拠を有するものということができる。 したがって,債権者の上記主張は採用することができない。 (2) 債権者は,債務者が,再教育の実施,審査の実施,審査の結果に基づく出向命令を,対象となる運転士 の根拠を有するものということができる。 したがって,債権者の上記主張は採用することができない。 (2) 債権者は,債務者が,再教育の実施,審査の実施,審査の結果に基づく出向命令を,対象となる運転士が所属する組合ごとに不合理に差別し,極めて差別的・不明確な基準で運用している旨主張する。 しかし,債権者のかかる主張が採用できないことは,争点②において説示したとおりである。 5 以上によれば,本件出向命令は有効というべきであり,争点④(保全の必要性があるか)について判断するまでもなく,債権者の本件仮処分命令の申立ては理由がない。 第4 結論よって,本件申立ては理由がないから,これを却下することとし,主文のとおり決定する。 平成14年7月3日名古屋地方裁判所民事第1部裁判官橋本昌純・別紙処分目録(発令事項)管理部人事課主任運転士(1級)を命ずるB株式会社へ出向を命ずる出向休職を命ずる[定年規程第2条による出向](11月10日付け)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る