令和4年(行ク)第245号、同第247号仮の差止めの申立て事件(本案・令和4年(行ウ)第524号、同第528号不利益処分差止請求事件)決定 主文 1 関東運輸局長は、本案事件の第一審判決言渡しの日から60日を経過するまで の間、申立人らに対し、申立人らが届け出た別紙2「届出運賃目録」記載の各運賃が令和4年10月11日付け関東運輸局長公示(関自旅二第1175号の3)に係る運賃の範囲内で定められていないことを理由として、特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法16条の4第3項に基づく運賃変更命令をしてはならない。 2 関東運輸局長は、本案事件の第一審判決言渡しの日から60日を経過するまでの間、申立人らに対し、申立人らが届け出た別紙2「届出運賃目録」記載の各運賃が令和4年10月11日付け関東運輸局長公示(関自旅二第1175号の3)に係る運賃の範囲内で定められていないことを理由とする特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措 置法16条の4第3項に基づく運賃変更命令に違反したことを理由として、同法17条の3第1項に基づく事業許可取消処分をしてはならない。 3 申立人らのその余の申立てをいずれも却下する。 4 申立費用は、これを2分し、その1を申立人らの負担とし、その余を相手方の負担とする。 理由 第1 申立ての趣旨関東運輸局長は、申立人らに対し、申立人らが届け出た別紙2「届出運賃目録」記載の各運賃が令和4年10月11日付け関東運輸局長公示(関自旅二第1175号の3)に係る運賃の範囲内で定められていないことを理由として、運賃変更 命令、事業停止命令、事 紙2「届出運賃目録」記載の各運賃が令和4年10月11日付け関東運輸局長公示(関自旅二第1175号の3)に係る運賃の範囲内で定められていないことを理由として、運賃変更 命令、事業停止命令、事業許可取消処分、輸送施設の使用停止処分等のいかなる 処分もしてはならない。 第2 事案の概要本件は、一般乗用旅客自動車運送事業(以下「タクシー事業」ともいい、タクシー事業を経営する者を「タクシー事業者」ともいう。)を営む申立人らが、国土交通大臣からその権限の委任を受けた関東運輸局長(以下、単に「関東運輸局長」 という。)に届け出た運賃が特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法(以下「特措法」という。)16条1項に基づいて関東運輸局長が令和4年10月11日付け関東運輸局長公示(関自旅二第1175号の3。以下「本件公示」という。)のとおり変更したタクシー事業に係る旅客の運賃の範囲(以下、同項に基づいて国土交通大臣又はそ の権限の委任を受けた地方運輸局長(以下「国土交通大臣等」という。)が指定する当該運賃の範囲を「公定幅運賃」、同変更前後の公定幅運賃をそれぞれ「本件旧公定幅運賃」及び「本件公定幅運賃」、本件旧公定幅運賃から本件公定幅運賃に変更したことを「本件変更」という。)内で定められていないことを理由として、特措法16条の4第3項に基づく運賃変更命令(以下、単に「運賃変更命令」とい う。)、特措法17条の3第1項に基づく輸送施設のタクシー事業のための使用の停止(以下「使用停止処分」という。)、タクシー事業の停止(以下「事業停止処分」という。)又はタクシー事業の許可の取消し(以下「事業許可取消処分」という。)の各処分(以下「本件各不利益処分」という。)等を受けるおそれが 処分」という。)、タクシー事業の停止(以下「事業停止処分」という。)又はタクシー事業の許可の取消し(以下「事業許可取消処分」という。)の各処分(以下「本件各不利益処分」という。)等を受けるおそれがあるなどとして、本件各不利益処分等の差止めを求める本案事件に係る訴訟(以下「本 件差止めの訴え」という。)を提起するとともに、本件各不利益処分等の仮の差止めを求める事案である。 1 関係法令の定め等本件に関係する法令の定めは別紙3「関係法令の定め」のとおりであるところ(同別紙で定義した略称は、本文においても用いることとする。)、タクシー事 業に係る運賃認可制度、自動認可運賃及び公定幅運賃制度の概要等は以下のとお りである(以下、書証については、特に断らない限り枝番号を含む。)。 ⑴ 運賃認可制度ア制度の概要タクシー事業者は、旅客の運賃及び料金を定め、又はこれを変更しようとするときは、国土交通大臣の認可を受けなければならないとされ(道路運送 法9条の3第1項)、その認可については、①「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること」、②「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと」、③「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」等が基準とされている(同条2項)。 イ制度の趣旨タクシー事業に係る運賃について、道路運送法9条の3第1項が認可制を規定する趣旨は、以下のとおりである。 利用者保護(道路運送法9条の3第2項1号関係)タクシー事業は、運転者が利用者との間において1対1で提供するサー ビスであるが、このサービスは、許可された区域内で、無線配車、 利用者保護(道路運送法9条の3第2項1号関係)タクシー事業は、運転者が利用者との間において1対1で提供するサー ビスであるが、このサービスは、許可された区域内で、無線配車、流し営業又は乗り場待ち営業の方法で提供されるもので、基本的には利用者が事前にタクシー事業者を選択し難く、また、サービス提供の対価である運賃は走行距離に応じて加算され、降車時に最終的に確定するものであるから、利用者が過大な運賃を負担することを防止するため、運賃算定の根拠とな るタクシー事業者の利潤等が適正なものであることが必要である。 輸送の安全確保(道路運送法9条の3第2項1号関係)タクシー事業者が、適正な原価を下回るような運賃を設定した場合、安全コストの削減、無理な事業運営に伴う事故の発生等によって、サービスの基本である輸送の安全確保に支障を来すおそれが大きく、また、タクシ ーに係る市場が過度の運賃競争に陥ると、その市場のタクシー事業者だけ でなく、その周辺の他のタクシー事業者も運賃競争の影響を受け、タクシー運転者の労働条件の悪化等によって、輸送の安全確保に支障を来すおそれがあるから、運賃設定に当たっては、輸送の安全確保を始めとする健全経営の確保に必要となる適正な原価を償うことが必要である。 不当な差別的取扱いの禁止(道路運送法9条の3第2項2号関係) 不当な差別的取扱いとは、合理的な理由なく特定の利用者のみが割高になるような運賃を設定する場合等が想定されており、タクシー事業の公共性に鑑みると、全ての利用者に対して公平にサービスが提供されなければならないことから、このような差別的取扱いを禁止する必要がある。 不当競争の防止(道路運送法9条の3第2項3 事業の公共性に鑑みると、全ての利用者に対して公平にサービスが提供されなければならないことから、このような差別的取扱いを禁止する必要がある。 不当競争の防止(道路運送法9条の3第2項3号関係) 不当競争とは、事業者の経営努力の範囲を超えて原価を著しく下回るような採算割れの運賃を継続し、競合他社を排除するような場合をいい、ある事業者が当該市場における運賃について採算を度外視した水準まで引き下げ、他の事業者を当該市場から放逐しようとする場合等が想定され、このような不当競争を引き起こすこととなるおそれがある運賃設定につ いては、これを規制することにより、不当競争を防止する必要がある。 ⑵ 自動認可運賃の概要道路運送法9条の3によると、タクシー事業者の運賃の設定は、個別の申請及び認可によることとなるが、各地域には膨大な数のタクシー事業者が存在しており、全てのタクシー事業者の運賃を個別に審査し、その適否を個別に判断 することは事実上困難であることから、集団的に処理せざるを得ない状況にある。 こうしたタクシー事業の実態を踏まえ、個々の事業者の原価計算書類等を個別に審査することなく、申請がされれば自動的に認可する運賃水準の上限及び下限の幅等をあらかじめ「自動認可運賃」として設定する行政運用上の措置が 執られている。具体的には、地域ごとに、複数の標準的事業者の原価と利潤を 基礎として、平均原価及び平均利潤を算定し、それらと当該地域の事業者全体の収支が相償う水準を「上限運賃」、当該地域の事業者のうちで特に効率的経営を行った場合に収支が相償う水準を「下限運賃」とし、この幅の範囲内の運賃であれば道路運送法9条の3第2項が規定する認可基準に適合することが合理的に推認されるものとして、事業者 のうちで特に効率的経営を行った場合に収支が相償う水準を「下限運賃」とし、この幅の範囲内の運賃であれば道路運送法9条の3第2項が規定する認可基準に適合することが合理的に推認されるものとして、事業者ごとの個別の審査を省略することとし ている。他方、上記下限運賃を下回る運賃(以下「下限割れ運賃」という。)については、同項が規定する認可基準に適合することが合理的に推認される運賃を下回っていることとなり、労働条件及び事業の収益基盤の悪化を招き、それにより輸送の安全確保に支障を来したり、不当競争を引き起こしたりすることが懸念されるとして、原則どおり、事業者ごとに個別の審査を行い、同項が 規定する認可基準の適合性を判断することとしている。 ⑶ 公定幅運賃制度等の概要ア特定地域及び準特定地域特措法は、特定地域(3条)と準特定地域(3条の2)という二層構造により、供給過剰状態の解消に向けた取組を実施する仕組みを規定している。 この仕組みの特色は、供給過剰状態にある特定地域において、新規参入と増車を禁止するとともに、協議会における合意を基礎として、一定の場合に強制力のある方法による供給力削減の制度を採用していることにある。すなわち、前者(新規参入と増車の禁止)により供給過剰状態の更なる進行を遮断するとともに、後者(強制力のある方法による供給力削減の制度)により供 給過剰状態の解消の加速化を図り、これらが相まって、日車営収(1日1両当たりの運送収入をいう。以下同じ。)の改善効果のほか、確実かつ迅速なタクシー運転者の賃金水準の回復を効果的に促進することを目的としている。 なお、いずれの地域も客観的な基準により期間を限定して指定が行われ、供給過剰状態の解消の進捗等により指定の基準を満たさなくなれば、指定が 金水準の回復を効果的に促進することを目的としている。 なお、いずれの地域も客観的な基準により期間を限定して指定が行われ、供給過剰状態の解消の進捗等により指定の基準を満たさなくなれば、指定が 解除されることとなる(特措法3条3項、3条の2第2項)。 イ公定幅運賃制度特定地域及び準特定地域におけるタクシー事業に係る旅客の運賃については、道路運送法上の運賃認可制度は適用されず(特措法16条の3)、特措法第8章の公定幅運賃制度が適用されるところ、公定幅運賃制度の下では、タクシー事業者は、国土交通大臣等が指定し、公表した当該特定地域又は準 特定地域におけるタクシー事業に係る旅客の運賃の範囲(公定幅運賃)内において、その運賃を定め、国土交通大臣等に届け出なければならないこととなる(特措法16条1項、16条の4第1項、2項)。 かかる公定幅運賃制度は、上記両地域においては、タクシー事業者が供給過剰状態の解消又は予防の対策として減車又は供給輸送力の抑制に取り組 まなければならず、これによる事業者収入及び運転者賃金の減少のリスクがある一方、地域全体での運賃値下げ競争が行われれば、これによっても同様に事業者収入及び運転者賃金の減少のリスクが顕在化することになるため、タクシー事業者が直面するこれらのリスクを放置したままでは、肝心の供給過剰状態の解消又は予防が阻害される懸念が極めて大きいとの考え方に基 づくものである。すなわち、公定幅運賃制度の趣旨及び目的は、タクシー事業の特性を基礎に、市場原理により過度の運賃値下げ競争が行われるおそれがある状況では、減車又は供給輸送力の抑制による供給過剰状態の解消又は予防が阻害され、タクシー運転者の労働条件の悪化等によって輸送の安全確保に支障を来すおそれ り過度の運賃値下げ競争が行われるおそれがある状況では、減車又は供給輸送力の抑制による供給過剰状態の解消又は予防が阻害され、タクシー運転者の労働条件の悪化等によって輸送の安全確保に支障を来すおそれがあることから、このような過度の運賃値下げ競争を 一定期間中断又は予防し、過度の運賃値下げ競争が行われるおそれのない状況の下において、減車による供給過剰状態の解消又は予防を効果的に行い、タクシー運転者の労働条件を改善し、もって輸送の安全を確保することにある。 この公定幅運賃制度により、供給過剰状態の解消の加速化、運転者賃金の 下支えやサービス競争の活発化が進むことなどが見込まれる。 ⑷ 公定幅運賃内で定められていない運賃の届出等を理由とする特措法に基づく不利益処分ア不利益処分の内容及び基準公定幅運賃が指定された特定地域又は準特定地域内に営業所を有するタクシー事業者において届け出た運賃が、公定幅運賃内で定められていな いと認められるときは、国土交通大臣等は、特措法16条の4第3項に基づき、当該タクシー事業者に対し、期間を定め、その運賃を変更すべきことを命ずることができる(運賃変更命令)。 また、国土交通大臣等は、タクシー事業者が特措法又は特措法に基づく命令若しくは処分に違反したときは、6月以内の期間を定めて輸送施設の 当該タクシー事業のための使用の停止(使用停止処分)若しくはタクシー事業の停止(事業停止処分)を命じ、又は許可を取り消すこと(事業許可取消処分)ができる(特措法17条の3第1項)。 関東運輸局長は、上記の特措法17条の3第1項所定の各不利益処分に係る処分基準として、「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分 等の基準について」(疎甲6の2、疎乙24。以下「本件処 関東運輸局長は、上記の特措法17条の3第1項所定の各不利益処分に係る処分基準として、「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分 等の基準について」(疎甲6の2、疎乙24。以下「本件処分基準」という。)を定めているところ、本件処分基準においては、①特措法16条の4第2項に違反した場合(運賃の設定違反)は、初違反につき20日車の使用停止処分、再違反につき40日車の使用停止処分、②特措法16条の4第3項の命令(運賃変更命令)に違反した場合は、初違反につき60日車 の使用停止処分、再違反につき事業許可取消処分をそれぞれ行うものとされている。 イ不利益処分に係る具体的な手続等特措法16条の4第2項違反(運賃の設定違反)タクシー事業者が、特措法16条の4第1項に基づく運賃の届出を行っ たが、当該届出に係る運賃が公定幅運賃内で定められていないと認められ るものであるにもかかわらず、当該届出のとおりの運賃を定めた場合、特措法16条の4第2項違反となり、初違反につき20日車の使用停止処分、再違反につき40日車の使用停止処分(以下、特措法16条の4第2項違反を理由とする使用停止処分を「使用停止処分①」という。)がそれぞれされることとなる(前記ア)。 なお、使用停止処分①を行うに当たっては、行政手続法30条に基づき、弁明の機会の付与の通知が行われ、弁明書等の提出期限として、相当な期間(実務上は2週間前後の期間が多い。)が設定されることとなる。 特措法16条の4第3項の命令(運賃変更命令)及びその違反(疎甲5、6の2、疎乙22~24) a タクシー事業者が、特措法16条の4第1項に基づく運賃の届出を行ったが、当該届出に係る運賃が公定幅運賃内で定められていないと認められる場合、当該タクシー事 、6の2、疎乙22~24) a タクシー事業者が、特措法16条の4第1項に基づく運賃の届出を行ったが、当該届出に係る運賃が公定幅運賃内で定められていないと認められる場合、当該タクシー事業者に対し、公定幅運賃内の運賃を届け出るよう指導が行われる。なお、当該指導は、状況に応じて複数回行われる。 b 前記aの指導後、正当な理由なく、当該タクシー事業者が運賃変更届出を行わない場合は、公定幅運賃内の運賃を設定した運賃変更届出を15日以内に行うことなどを内容とする勧告が行われる。 c 前記bの勧告から15日経過後、当該タクシー事業者が公定幅運賃内の運賃を定めた運賃変更届出を行わない場合は、運賃変更命令をするこ とを前提に、行政手続法30条に基づき、弁明の機会の付与の通知が行われ、弁明書等の提出期限として、相当な期間(実務上は2週間前後の期間が多い。)が設定されることとなる。 d 前記cの提出期限までに弁明書等の提出がなかった場合又は提出された弁明書等の内容が運賃変更命令の原因となる事実を覆すものとな っていない場合には、運賃変更命令がされることとなる。 なお、当該運賃変更命令には、公定幅運賃内の運賃を定めた運賃変更届出書の提出期限として15日程度の期限が付されることとなる。 e 前記dの運賃変更届出書の提出期限までにその提出がなかった場合、当該タクシー事業者は運賃変更命令に違反することとなり、その初違反は60日車の使用停止処分(以下、運賃変更命令違反を理由とする使用 停止処分を「使用停止処分②」という。)とされていることから(前記ア)、行政手続法30条に基づき、当該タクシー事業者に対し、使用停止処分②に係る弁明の機会の付与の通知が行われるとともに、2回目の運賃変更命令に係る弁明の機会の付与 う。)とされていることから(前記ア)、行政手続法30条に基づき、当該タクシー事業者に対し、使用停止処分②に係る弁明の機会の付与の通知が行われるとともに、2回目の運賃変更命令に係る弁明の機会の付与の通知が行われることとなり、これらの弁明書等の提出期限として、相当な期間(実務上は2週間前後の期 間が多い。)が設定されることとなる。 f 前記eの各提出期限までに弁明書等の提出がなかった場合又は提出された弁明書等の内容が使用停止処分②や運賃変更命令の原因となる事実を覆すものとなっていない場合は、当該タクシー事業者に対し、60日車の使用停止処分(使用停止処分②)等がされるとともに、2回目 の運賃変更命令がされることとなる。 なお、当該運賃変更命令には、公定幅運賃内の運賃を定めた運賃変更届出書の提出期限として15日程度の期限が付されることとなる。 g 前記fの運賃変更届出書の提出期限までにその提出がなかった場合、当該タクシー事業者は運賃変更命令に再度違反することとなり、その再 違反は事業許可取消処分とされていることから(前記ア)、行政手続法15条1項に基づき、当該タクシー事業者に対し、聴聞の通知が行われることとなるが、聴聞の期日までに少なくとも17日以上の期間をおいて当該通知が行われる(特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法施行規則1 1条の7参照)。 h 前記gの聴聞に係る手続を経るなどして、事業許可取消処分が行われることとなるが、事業許可取消処分に当たっては、当該タクシー事業者に対し、処分の効力が生ずるまでに相当の期間をおいて事業許可取消処分の通知が行われる。 2 前提事実(一件記録により容易に認められる事実) ⑴ 申立人ら 当たっては、当該タクシー事業者に対し、処分の効力が生ずるまでに相当の期間をおいて事業許可取消処分の通知が行われる。 2 前提事実(一件記録により容易に認められる事実) ⑴ 申立人らア申立人ロイヤルリムジンは、事業用自動車43両を保有し、道路運送法4条1項に基づく許可を受けてタクシー事業を営む株式会社である。 イ申立人ジャパンプレミアムは、事業用自動車29両を保有し、道路運送法4条1項に基づく許可を受けてタクシー事業を営む株式会社である。 ⑵ 本件変更等ア東京都特別区、三鷹市及び武蔵野市の区域(以下「本件交通圏」という。)は、特措法3条の2に基づき準特定地域として指定されており、令和元年8月30日に消費税の増税を契機とする公定幅運賃の変更がされて以降、本件変更までの間、別紙4「新運賃の概要」の「現行」欄記載のとおり、本件交 通圏の公定幅運賃が指定されていた(本件旧公定幅運賃。疎甲1、疎乙25)。 イ関東運輸局長は、令和3年12月24日、本件交通圏のタクシー事業者から公定幅運賃の変更の求めがあったため、所要の手続を経た上で、令和4年10月11日、「「一般乗用旅客自動車運送事業の公定幅運賃の範囲の指定について」の一部改正について」を公示し(本件公示)、その適用日を同年 11月14日として、別紙4「新運賃の概要」の「改正」欄記載のとおり、本件交通圏の公定幅運賃を変更した(本件変更)。 なお、本件変更に係る公定幅運賃の引上げ幅については、別紙5「運賃改定率の算定根拠【東京都特別区・武三地区】」のとおり、平成31年を実績年(度)として、令和4年度の所要増収率(運賃改定率)が14.24%(以 下「本件増収率」という。)と査定されたことに基づくものであり、本件変更 別区・武三地区】」のとおり、平成31年を実績年(度)として、令和4年度の所要増収率(運賃改定率)が14.24%(以 下「本件増収率」という。)と査定されたことに基づくものであり、本件変更 は本件増収率を反映させたものである。(疎甲1、2、疎乙25)⑶ 申立人らによる運賃の届出申立人らは、令和4年11月11日付けで、関東運輸局長に対し、別紙2「届出運賃目録」記載のとおり、本件公定幅運賃を下回る運賃を定め、特措法16条の4第1項所定の運賃の届出(以下「本件各届出」という。)をした(疎甲 3)。 ⑷ 本案訴訟の提起等申立人らは、令和4年11月29日、本件差止めの訴えを本案訴訟として提起するとともに、本件各申立てをした。 ⑸ 申立人らに対する行政指導等 ア関東運輸局の担当者は、令和4年12月12日、申立人らから本件各届出を行った理由等を確認するとともに、申立人らに対し、運賃を本件公定幅運賃内のものに変更して届け出るよう口頭で指導した。 イ現時点において、申立人らによる本件公定幅運賃内での運賃の届出はされていない。 3 争点本件の争点は以下のとおりであり、これに関する当事者の主張は、申立人ら提出の別紙6-1「仮の差止め申立書」、同2「申立人準備書面1」及び同3「申立人準備書面2」並びに相手方提出の別紙7「意見書」のとおりである。 ⑴ 適法な本案訴訟の提起があるか否か。 ア本件各不利益処分の蓋然性の有無イ 「重大な損害を生ずるおそれ」及び「損害を避けるため他に適当な方法があるとき」に該当するか。 ⑵ 「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があるか否か。 ⑶ 本案について理由があるとみえるか否か。 るおそれ」及び「損害を避けるため他に適当な方法があるとき」に該当するか。 ⑵ 「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があるか否か。 ⑶ 本案について理由があるとみえるか否か。 ア本件変更に係る裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無 イ協議会における審議手続の瑕疵ウ運賃変更命令に係る裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無⑷ 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるか否か。 第3 当裁判所の判断 1 適法な本案訴訟の提起があるか否か ⑴ 本件各不利益処分の蓋然性の有無ア使用停止処分①前記前提事実⑶によれば、申立人らは、本件公定幅運賃を下回る運賃を定め、その運賃に係る本件各届出を行ったことが認められるところ、前記関係法令の定め等によれば、届出に係る運賃が公定幅運賃内で定められていない と認められるものであるにもかかわらず、当該届出のとおりの運賃を定めた場合、本件処分基準において、使用停止処分①を行うこととされている。 そして、前記前提事実⑸のとおり、申立人らが、令和4年12月12日、関東運輸局の担当者から、運賃を本件公定幅運賃内のものに変更する旨の指導を受けたという状況も踏まえると、本件公定幅運賃を下回る運賃を定めた ことを理由として、使用停止処分①が行われる蓋然性があると一応認めるのが相当である。 イ運賃変更命令、使用停止処分②及び事業許可取消処分 前記前提事実⑶及び⑸によれば、申立人らは、本件公定幅運賃を下回る運賃を定めて本件各届出を行い、令和4年12月12日、関東運輸局の担 当者から、その運賃を本件公定幅運賃内のものに変更する旨の指導を受けたことが認められるところ、前記関係法令の定め等によれば、公定幅運賃 本件各届出を行い、令和4年12月12日、関東運輸局の担 当者から、その運賃を本件公定幅運賃内のものに変更する旨の指導を受けたことが認められるところ、前記関係法令の定め等によれば、公定幅運賃内で定められていないと認められた運賃を届け出たタクシー事業者に対しては、公定幅運賃内で定めた運賃を届け出るよう指導が行われた後、勧告及び弁明の機会の付与の手続を経た上で、運賃変更命令の原因となる事 実を覆すような弁明書等の提出等がない限り、運賃変更命令が行われるこ とが予定されていると認められる。 そして、上記のとおり、申立人らは、本件変更にもかかわらず本件各届出を行っていることのほか、本件における申立人らの主張及び相手方の反論の内容等をみる限り、申立人らと相手方との間においては、関東運輸局長による本件変更の適法性に関して、その主張が大きく対立している状況 が認められ、仮に、今後、運賃変更命令に係る弁明の機会の付与等の手続を経たとしても、申立人らから、任意に本件公定幅運賃内で定められた運賃の届出がされるなどし、運賃変更命令の原因となる事実を覆すような弁明書等の提出がされることは容易には想定し難く、申立人らに対し、運賃変更命令が行われる蓋然性があると一応認めるのが相当である。 また、前記関係法令の定め等によれば、1回目の運賃変更命令がされた後、運賃変更命令に付された期限までに運賃変更届出書の提出がない場合は、ⓐ使用停止処分②に係る弁明の機会の付与の手続を経た上で、使用停止処分②の原因となる事実を覆すような弁明書等の提出等がない限り、使用停止処分②が行われるほか、ⓑ前記と同様に、2回目の運賃変更命令 に係る弁明の機会の付与及び2回目の運賃変更命令が行われるなどした上で、2回目の運賃変更命令に付された期限ま がない限り、使用停止処分②が行われるほか、ⓑ前記と同様に、2回目の運賃変更命令 に係る弁明の機会の付与及び2回目の運賃変更命令が行われるなどした上で、2回目の運賃変更命令に付された期限までに運賃変更届出書の提出がない場合は、事業許可取消処分に係る聴聞の手続を経た上で、事業許可取消処分が行われることが予定されており、事業許可取消処分は、1回目の運賃変更命令から最短で2か月程度で行うことが可能となることが認 められる。 そして、前記に説示したのと同様、申立人らから任意に本件公定幅運賃内で定められた運賃の届出がされるなどといったことは容易には想定し難いことなども踏まえると、本件においては、申立人らに対し、使用停止処分②及び事業許可取消処分が行われる蓋然性があると一応認めるの が相当である。 以上によれば、申立人らに対し、運賃変更命令のほか、運賃変更命令を理由とする使用停止処分②及び事業許可取消処分が行われる蓋然性があると一応認めるのが相当である。 ウ事業停止処分等 前記関係法令の定め等によれば、公定幅運賃を下回る運賃を定め、その 運賃による届出を行ったことなどに起因する不利益処分としては、基本的に使用停止処分、運賃変更命令又は事業許可取消処分が予定されており、事業停止処分が行われることは予定されていない。 なお、本件処分基準(疎甲6の2、疎乙24)によれば、処分日車数が10日車までごとに1点の違反点数を付した上で、同一の支局区域の違反 点数の累計が51点以上となった場合などには事業停止処分が行われることになるが、違反点数の累計期間は3年間とされ、行政処分を行った日から3年を経過する日をもって当該違反点数は消滅するものとされているこ の累計が51点以上となった場合などには事業停止処分が行われることになるが、違反点数の累計期間は3年間とされ、行政処分を行った日から3年を経過する日をもって当該違反点数は消滅するものとされていることに照らせば、運賃の設定違反等を理由として事業停止処分に係る上記の基準を充足する可能性は高くないというべきである。 したがって、事業停止処分については、処分の蓋然性が認められず、その他に本件において処分の蓋然性のあるものは認められない。 エ相手方の主張について相手方は、使用停止処分①につき、処分要件を充足しておらず、処分に向けた手続がされているとはいえない、また、運賃変更命令につき、口頭 による行政指導が実質1回行われたにすぎないなどとして、これらの処分の蓋然性があるとはいえない旨を主張する。 しかし、前記ア及びイに説示したとおり、申立人らは、本件公定幅運賃を下回る運賃を定め、その運賃による本件各届出を行い、関東運輸局の担当者から、運賃を本件公定幅運賃内のものに変更する旨の指導を受けてい るのであって、申立人らの運賃の設定等が特措法の規定に違反するものと して関東運輸局から既に問題視されていることに加え、使用停止処分①との関係では、既に本件処分基準に係る基準を充足している状況にあること、運賃変更命令との関係では、運賃変更命令の原因となる事実を覆すような弁明書等が提出されるなどの事情がない限り、運賃変更命令に向けてその手続が進行することなどに照らせば、相手方が主張するように、使用停止 処分①や運賃変更命令に係る手続が、具体的に開始していない、あるいは、いまだ序盤の段階にあるにすぎないとしても、それらの処分の蓋然性が否定されるものではない。 また、相手方は、使用停止処分②及び事業許 や運賃変更命令に係る手続が、具体的に開始していない、あるいは、いまだ序盤の段階にあるにすぎないとしても、それらの処分の蓋然性が否定されるものではない。 また、相手方は、使用停止処分②及び事業許可取消処分につき、いまだ行われていない先行処分の後に行われることが予定される後行処分を差 止めの対象とすることは、仮定の上に仮定の判断を重ねるものであるし、それらの処分の手続の場面における申立人らの対応次第では、各処分の手続の基礎となる事情が変更する場合もある旨を主張する。 しかし、前記イに説示したとおり、運賃変更命令、使用停止処分②及び事業許可取消処分については、それらの原因となる事実を覆すような弁明 書等の提出がない限り、粛々と各種手続を進行することが予定されているといえ、使用停止処分②及び事業許可取消処分につき、運賃変更命令という先行処分の後に行われることが予定されているとしても、この点をもって直ちに使用停止処分②及び事業許可取消処分の処分の蓋然性が否定されるものではないし、本件において、申立人らから任意に本件公定幅運賃 内で定められた運賃の届出がされるなどといった事情の変更が容易には想定し難いことも前記イに説示したとおりである。 以上によれば、使用停止処分、運賃変更命令及び事業許可取消処分の蓋然性を否定する相手方の主張はいずれも採用することができない。 オ小括 以上のとおり、本件においては、使用停止処分、運賃変更命令及び事業許 可取消処分について処分の蓋然性が一応認められるというべきであり、以下、これらの各処分の仮の差止めを求める部分について理由があるかにつき、更に検討する。 ⑵ 「重大な損害を生ずるおそれ」及び「損害を避けるため他に適当な方法があるとき」に該当するか であり、以下、これらの各処分の仮の差止めを求める部分について理由があるかにつき、更に検討する。 ⑵ 「重大な損害を生ずるおそれ」及び「損害を避けるため他に適当な方法があるとき」に該当するか。 ア行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)は、差止めの訴えにつき、処分がされることにより「重大な損害を生ずるおそれ」があることをその訴訟要件として規定し(37条の4第1項本文)、その有無の判断に当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案すると規定しているほか(同条2項)、「その損害を 避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない」と規定し(同条1項ただし書)、いわゆる補充性をその訴訟要件として規定している。 イそして、後記2に説示するところに照らせば、申立人らに対する運賃変更命令及び事業許可取消処分については、それらの処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあると認められ、また、その損害を避けるために は差止めの訴えのほかに適当な方法があるとは認められず、その差止めの訴えに係る各訴訟要件を充足すると一応認められる。 他方、後記2に説示するところに照らせば、使用停止処分については、上記各訴訟要件を充足するとは認められないというべきである。 ウなお、相手方は、補充性の要件に関して、道路運送法40条に基づく自動 車その他の輸送施設の使用停止処分及び事業許可取消処分については、その取消しを求める訴訟が提起され、必要があれば、執行停止の申立てがされてその許否が判断されてきているなどと主張するが、相手方が主張するように取消訴訟を提起して執行停止の決定を受けている事案があったとしても、そもそも当該事案に係る処分によ れば、執行停止の申立てがされてその許否が判断されてきているなどと主張するが、相手方が主張するように取消訴訟を提起して執行停止の決定を受けている事案があったとしても、そもそも当該事案に係る処分により生ずる損害に対する救済として十分であ ったことを直ちに基礎付けるものではなく、まして本件の運賃変更命令又は 事業許可取消処分により生ずる損害に対する救済として十分であることが基礎付けられるものでもないというべきであるから、本件における前記判断を覆すものとはいえない。 ⑶ 小括以上によれば、本件差止めの訴えについては、運賃変更命令及び事業許可取 消処分の差止めを求める部分の限度で適法に訴えが提起されたものと一応認めることができる。 2 「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があるか否か。 ⑴ 判断枠組み行訴法37条の5第2項は、処分の仮の差止めの要件として、処分がされる ことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があることを要する旨を規定し、本案訴訟である差止めの訴えの「重大な損害を生ずるおそれがある場合」(行訴法37条の4第1項)よりも厳格な要件を規定している。 行訴法37条の5第2項が上記のような要件を規定した趣旨は、処分の仮の 差止めが、具体的な行政処分がされる前に行われるもので、かつ、処分の差止めの訴えに係る本案訴訟の判決の前に、裁判所が具体的な処分をすべきでないことを命ずる裁判であり、本案訴訟の結果と同じ内容を仮の裁判で実現するものであることから、厳格な要件の下で、これを運用しようとした点にあると解される。 そうすると、処分がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるといえるためには ことから、厳格な要件の下で、これを運用しようとした点にあると解される。 そうすると、処分がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるといえるためには、当該処分により生ずる損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案して(行訴法37条の4第2項参照)、当該損害につき、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けること若しくは金銭賠 償を受けることによる救済が著しく困難であるか、又は社会通念に照らして著 しく不相当であると認められ、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが著しく困難なものであることを要すると解するのが相当である。 ⑵ 運賃変更命令ア運賃変更命令は、タクシー事業者が公定幅運賃内で定められていない運賃 を届け出た場合に、期間を定めてその運賃を変更すべき旨を命ずる処分であるところ、運賃変更命令に違反して運賃を収受すれば、刑事罰(100万円以下の罰金)の対象となり(特措法20条の3第4号)、前記1⑴に説示したところによれば、申立人らに対して、運賃変更命令がされた場合、申立人らが、これに従わず、公定幅運賃内で定められていない運賃を収受することに より刑事罰に処せられることも十分に想定されるところである。この場合、当該罰金の納付自体が申立人らの事業に重大な影響を及ぼすものではないとしても、申立人らのタクシー事業者としての社会的信用を大きく損なうことになり、かかる事態はその事業基盤に重大な影響を及ぼしかねない。そして、運賃変更命令違反による刑事罰に処せられたことにより損なわれた社会 的信用は、少なくとも、当該運賃変更命令の取消しに係る判決が確定するな 態はその事業基盤に重大な影響を及ぼしかねない。そして、運賃変更命令違反による刑事罰に処せられたことにより損なわれた社会 的信用は、少なくとも、当該運賃変更命令の取消しに係る判決が確定するなどしなければ十分に回復することができないというべきところ、それまでには相応の期間を要し、上記判決の確定の時点では、その事業基盤に既に回復できないほどの深刻な影響を及ぼしている可能性が高い。 また、運賃変更命令に係る救済手段として、運賃変更命令がされた後にそ の取消訴訟及び執行停止を申し立てることも考えられるが、その決定までには相応の期間を要し、上記の刑事罰に処せられるのを確定的に避けるためには、その間の営業を自粛せざるを得ず、当該営業の自粛により顧客を喪失するなどして事業基盤を大きく損ない、多大な損害を被るおそれがある。 そうであるとすれば、上記の損害につき、取消訴訟等を提起して執行停止 の決定を受けること又は金銭賠償を受けることによる救済は著しく困難と いうべきであり、申立人らに対する運賃変更命令を仮に差し止めることにつき、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があると一応認めるのが相当である。 イこれに対し、相手方は、運賃変更命令を受けたとしても、これにより直ちに申立人らの営業の継続に支障を来すとは認められないし、運賃変更命令に 従うことによって必ずしも申立人らの収益が減少するとは限らず、仮に、運賃変更命令によって申立人らに損害が発生するとしても、それは、経済的損害であるから金銭賠償による救済が社会通念に照らして著しく不相当と認められるものではないなどと主張する。 しかし、前記1⑴イに説示したとおり、申立人らについては、運賃変更命 令がされたとしても、これに従って、任意に本件公定幅運賃 念に照らして著しく不相当と認められるものではないなどと主張する。 しかし、前記1⑴イに説示したとおり、申立人らについては、運賃変更命 令がされたとしても、これに従って、任意に本件公定幅運賃内で定められた運賃の届出がされることは容易に想定し難いのであるから、上記相手方の主張は、その前提を欠くものであって、採用することができない。 ⑶ 事業許可取消処分についてア事業許可取消処分は、申立人らのタクシー事業の遂行そのものを不可能と する処分であり、当該事業の基盤に重大な影響を及ぼすことは不可避というべきであるから、金銭賠償を受けることによる救済は困難である。 また、事業許可取消処分に係る救済手段として、事業許可取消処分がされた後にその取消訴訟及び執行停止を申し立てることも考えられるが、その決定までには相応の期間を要するため、その間の営業を停止せざるを得ず、そ れにより顧客を喪失するなどして事業基盤を大きく損ない、多大な損害を被るおそれがあるというべきであり、かかる多大な損害について、執行停止の決定を受けることなどによる救済は著しく困難又は社会通念に照らして著しく不相当というべきである。 したがって、申立人らに対する事業許可取消処分を仮に差し止めることに つき、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があると一応認 めるのが相当である。 イ相手方は、事業許可取消処分により、申立人らが被る可能性がある損害は経済的損害であり、金銭賠償による回復が可能であって、処分の取消し又は執行停止によって処分がされる前の状態に回復することができるなどと主張するが、かかる相手方の主張を採用することができないことは、前記アに 説示したとおりである。 ⑷ 使用停止処分についてア前記関係法令の定め等 る前の状態に回復することができるなどと主張するが、かかる相手方の主張を採用することができないことは、前記アに 説示したとおりである。 ⑷ 使用停止処分についてア前記関係法令の定め等及び証拠(疎乙31)によれば、本件において申立人らが受ける蓋然性のある使用停止処分の内容は、使用停止処分①につき、20日車(初違反)又は40日車(再違反)の使用停止、使用停止処分②に つき、60日車の使用停止というものであるところ、使用停止処分①及び②により車両数43両及び29両で営業する申立人らに対して課されるⓐ20日車、ⓑ40日車及びⓒ60日車の各処分車両数及び各処分期間は、それぞれⓐ2両10日間、ⓑ2両13日間及び1両14日間並びにⓒ4両15日間であると認められる。 そして、上記のとおり、申立人らが保有する車両は43両又は29両であることも踏まえると、上記の使用停止処分については、申立人らが保有する車両のごく一部が使用できなくなるにとどまり、かつ、その期間も短いといえることからすれば、使用停止処分により申立人らが被る損害は、事後的な金銭賠償によっても十分に回復可能なものというべきである。 したがって、申立人らに対する使用停止処分を仮に差し止めることにつき、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があるとは認められない。 イこれに対し、申立人らは、運賃変更命令を基礎として、反復継続的かつ累積加重的に事業許可取消処分までの一連の処分がされ、短期のうちに事業を 遂行することができない状況にまで追い込まれる蓋然性があるなどとして、 使用停止処分②を仮に差し止めることにつき、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があると主張するものと解される。 し 状況にまで追い込まれる蓋然性があるなどとして、 使用停止処分②を仮に差し止めることにつき、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があると主張するものと解される。 しかしながら、使用停止処分②は、1回目の運賃変更命令に違反したことを理由とする処分であり、複数回にわたり使用停止処分②をすることが予定されているものとは解されず、また、事業許可取消処分は2回目の運賃変更 命令に違反したことを理由とする処分であって、使用停止処分②を前提として処分内容を累積加重するものともいえない。 したがって、申立人らの上記主張を踏まえても、使用停止処分②を仮に差し止めることにつき、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があるということはできない。 ⑸ 小括以上によれば、本件各申立てについては、運賃変更命令及び事業許可取消処分の仮の差止めを求める部分に限り、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があると認められる。 3 本案について理由があるとみえるときに当たるか否か。 ⑴ 本件変更に係る裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無ア判断枠組み特措法16条1項は、国土交通大臣は、特定地域又は準特定地域を指定した場合には、協議会の意見を聴いて公定幅運賃を指定しなければならず、これを変更しようとするときも同様とする旨を規定し、同条2項は、同条1項 により指定する公定幅運賃につき、能率的な経営を行う標準的な一般乗用旅客自動車運送事業者が行う一般乗用旅客自動車運送事業に係る適正な原価に適正な利潤を加えた運賃を標準とすることや一般旅客自動車運送事業者の間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであるなどの基準に適合するものでなければならない旨を規 事業に係る適正な原価に適正な利潤を加えた運賃を標準とすることや一般旅客自動車運送事業者の間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであるなどの基準に適合するものでなければならない旨を規定しているが、特措法等は、 公定幅運賃に関して上記以外に具体的に規定していない。 そして、公定幅運賃制度は、タクシーに係る供給輸送力が輸送需要量に対して過剰であることに伴い過度の運賃競争が引き起こされ、それを原因としてタクシー運転者の労働条件の悪化、さらにはタクシー事業のサービス及び安全性が低下することを防止することを目的とする制度であり、公定幅運賃の変更は、当該特定地域又は準特定地域におけるタクシー事業の実態を踏ま えた国土交通大臣等の合理的な裁量に委ねられているものと解される。 他方で、特定地域又は準特定地域における公定幅運賃の変更がされると、当該地域における全てのタクシー事業者は、その変更後の公定幅運賃外の運賃を定めてタクシー事業を営むことは許容されないこととなるのであり、公定幅運賃の変更による当該タクシー事業者の営業の自由に対する制約は小 さくないのであるから、その変更に係る国土交通大臣等の裁量権も一定の制約を受けるというべきである。そして、上記公定幅運賃の変更の性質や公定幅運賃制度の趣旨等も踏まえると、国土交通大臣等は、公定幅運賃を変更するに当たり、能率的な経営を行う標準的なタクシー事業者が行う事業に係る適正な原価に適正な利潤を加えた運賃を標準としつつも、公定幅運賃の変更 の程度、当該変更によるタクシー事業者への影響の程度及びタクシーの需給状況も踏まえた過度な運賃競争を引き起こす蓋然性やそれを原因とするタクシー運転者の労働条件の悪化の蓋然性等の諸般の事情を考慮すべきであり、これらの考慮すべき事情 業者への影響の程度及びタクシーの需給状況も踏まえた過度な運賃競争を引き起こす蓋然性やそれを原因とするタクシー運転者の労働条件の悪化の蓋然性等の諸般の事情を考慮すべきであり、これらの考慮すべき事情に照らし、公定幅運賃の変更に係る国土交通大臣等の判断が合理性を欠くなどその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用 したものである場合には、その判断は違法になると解される。 イ当てはめ 前記前提事実⑵イ及び証拠(疎甲2)によれば、本件変更は、平成31年を実績年(度)として、人件費及び燃料油脂費の増加や当該実績年(度)における利潤込収支差のマイナス分を解消したことを主な要因とし、令和 4年度の本件増収率が14.24%と査定されたことを踏まえ、本件増収 率を反映させる形で、本件旧公定幅運賃を引き上げることを内容とするものであるが、本件公定幅運賃の下限運賃が本件旧公定幅運賃の上限運賃を相当程度超えるほどに公定幅運賃が大幅に引き上げられているため、経営状況の優良不良等を問わず、本件交通圏内のあらゆるタクシー事業者においてその運賃の引上げを余儀なくされるものとなっている。 このような大幅な公定幅運賃の引上げによるタクシー事業者への影響については、いわゆる流し営業ではなく、予約送迎を中心とし、あるいは、特定の企業をその主な取引先としてタクシー事業を展開するなどして固定客を一定程度有しており、本件旧公定幅運賃によっても十分に健全な経営を行っている事業者に対する影響が特に大きく、そのようなタクシー事 業者にとっては、上記のような公定幅運賃の引上げが、経済状況などともあいまって、固定客の喪失等に起因する営業収入の減少やタクシー運転者の労働条件の悪化等につながり得るものである。 そして、公定幅運賃制度は、自動 、上記のような公定幅運賃の引上げが、経済状況などともあいまって、固定客の喪失等に起因する営業収入の減少やタクシー運転者の労働条件の悪化等につながり得るものである。 そして、公定幅運賃制度は、自動認可運賃の下での下限割れ運賃のような例外を一切認めず、刑事罰などをもってタクシー事業者に対して当該公 定幅運賃内で運賃を定めることを強いるものであることのほか、公定幅運賃の変更の頻度は必ずしも高くなく、長期間にわたり変更後の公定幅運賃に拘束され得ること(その変更の手続開始に当たっては、変更の要請のあった法人タクシー事業者の合計車両数が、当該運賃適用地域における法人タクシー事業者全体車両数の7割以上となることなどといった要件が設 定されている。疎甲4、疎乙33)などに照らせば、公定幅運賃を引き上げる場合におけるその下限運賃の指定については特に慎重な検討が求められるというべきである。 そして、証拠(疎甲9、13~15)によれば、令和4年4月から同年9月までの本件交通圏の日車営収が準特定地域の指定基準の年度とされ る平成13年度の日車営収と比較して遜色のない状況にまで回復してい る傾向にあるとともに、なおも供給不足のためタクシーを利用しにくい状況になっていることが一応認められる。このように、本件変更の時点でタクシーの供給がむしろ不足しているなどといった特殊な状況は、公定幅運賃の変更に当たって、タクシーの供給過剰を要因とする過度の運賃競争を引き起こすおそれあるいはその運賃競争の程度、さらには、これを原因と するものとして阻止すべきタクシー運転者の労働条件の悪化に対する影響等として考慮されるべきものであるが、本件においては、上記の点を踏まえ、本件公定幅運賃を下回るような下限運賃を指定した場合に、過度の運 ものとして阻止すべきタクシー運転者の労働条件の悪化に対する影響等として考慮されるべきものであるが、本件においては、上記の点を踏まえ、本件公定幅運賃を下回るような下限運賃を指定した場合に、過度の運賃競争を引き起こすおそれの有無及び程度等やそれを原因とする労働条件に与える影響等についての検討が十分にされた様子はうかがわれな い。 以上に照らせば、本件変更については、本件公定幅運賃の下限運賃の指定において、タクシーの供給過剰による過度の運賃競争を引き起こすおそれなどといった点に関する考慮不尽があり、その結果、本件交通圏内のタクシー事業者は、その経営状況等に関係なく、一律に相当程度の値上げを 余儀なくされることになるのであって、その判断は合理性を欠くものというべきである。 したがって、本件変更については、本件公定幅運賃の下限運賃の指定において裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるものと一応認められる。 ウ相手方の主張について 相手方は、本件交通圏について、供給過剰となるおそれがある地域として準特定地域に指定されているところ、タクシーの日車実車キロ(1日1両当たりの実際に旅客を運送した距離をいう。)が平成13年度と比較して減少しており、準特定地域としての指定基準を満たしていることからすれば、供給不足に陥っている地域ではないなどと主張する。 しかしながら、本件交通圏が準特定地域に指定されていたり、日車実車 キロが平成13年度と比較して減少しており、形式的には上記の基準を満たしたりしているとしても、令和4年8月8日に開催された消費者委員会公共料金等専門調査会において、一般社団法人東京ハイヤー・タクシー協会(以下「東タク協」という。)の会長が、新型コロナウイルス感染症拡大の影響でタ としても、令和4年8月8日に開催された消費者委員会公共料金等専門調査会において、一般社団法人東京ハイヤー・タクシー協会(以下「東タク協」という。)の会長が、新型コロナウイルス感染症拡大の影響でタクシー運転者が減少しており、運転者数を増加させなければ公 共交通手段として維持できないとまで述べ、タクシーの供給不足を明確に示唆していること(疎甲9)などに照らせば、単に準特定地域としての指定基準を満たしているなどという点にとどまらず、上記のような実際のタクシーの供給状況等を十分に踏まえた上で、本件公定幅運賃の下限運賃を設定すべきことは前記イに説示したとおりである。 なお、前記の点に関連して、相手方は、申立人らが主張する日車営収(疎甲15)につき、東タク協の会員のみの数値にすぎないし、本件変更に当たって、令和4年度の日車営収の状況等を参照するものとはされていない旨を主張する。 しかし、上記の数値が東タク協の会員のみの日車営収に係るものにすぎ ないとしても、その日車営収が平成13年度と遜色のないところまで徐々に回復してきている様子自体はうかがわれるし、前記のとおり、東タク協の会長が本件交通圏におけるタクシー運転者の不足に言及し、本件交通圏におけるタクシーの供給過剰という実態そのものに、一定の疑問を抱かせる事情が存在していること、自動認可運賃の下での下限割れ運賃のよう な例外を一切認めないという公定幅運賃制度の性質等を踏まえれば、タクシーの供給過剰を要因とする過度の運賃競争を引き起こすおそれあるいはその運賃競争の程度ないし影響等を慎重に検討するに当たり、本件変更に近い時期にある令和4年度前半の日車営収の状況等も一定程度勘案すべきとすることが直ちに不合理であるということはできない。 その他、相 し影響等を慎重に検討するに当たり、本件変更に近い時期にある令和4年度前半の日車営収の状況等も一定程度勘案すべきとすることが直ちに不合理であるということはできない。 その他、相手方は、本件公定幅運賃につき、「一般乗用旅客自動車運送事 業の運賃及び料金の認可申請の審査基準について」(疎乙2)などに基づいて、適切に設定されたものであるなどと主張するが、タクシーの供給が不足しているなどといった特殊な状況を十分に考慮しつつ、本件公定幅運賃の下限運賃を指定すべきことは前記イに説示したとおりであり、上記審査基準等に従ったものであることは、前記イの判断を直ちに覆すものでは ない。 ⑵ 小括以上によれば、本件変更については、本件公定幅運賃の下限運賃の指定に係る関東運輸局長の判断において、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があると一応認められ、これによれば、本件公定幅運賃を下回る運賃を 定めて本件各届出をしたことを理由として、運賃変更命令又はこれに続く事業許可取消処分を行うことは許されないことになるから、その余の点を判断するまでもなく、本件各申立てのうち、運賃変更命令及び事業許可取消処分の仮の差止めを求める部分については、本案について理由があるとみえるときに当たるというべきである。 4 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるか否か相手方は、運賃変更命令や事業許可取消処分に係る仮の差止めが決定された場合には、国土交通大臣等による運賃変更命令がされないことを見越して申立人らと同等あるいはそれ以下の運賃を設定して届け出るタクシー事業者が現れるおそれもあり、運賃が無規制化し、道路運送法に定める運賃認可制度の趣旨すら没 却され、タクシー事業に係る市場が大きく混乱する事態に陥る いはそれ以下の運賃を設定して届け出るタクシー事業者が現れるおそれもあり、運賃が無規制化し、道路運送法に定める運賃認可制度の趣旨すら没 却され、タクシー事業に係る市場が大きく混乱する事態に陥るおそれがあるなどと主張する。 しかし、申立人らに対する運賃変更命令又は事業許可取消処分を仮に差し止める旨の決定は、申立人らと相手方との間でその効果が生じるにすぎず、仮に、申立人ら以外のタクシー事業者が公定幅運賃を下回る運賃を届け出る可能性があ るとしても、それは抽象的な可能性にとどまるというべきであるから、上記の各 処分を仮に差し止めたとしても、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるということはできない。 5 仮の差止めの期間について前記3の本案について理由があるとみえるときに当たるか否かの判断は,本案事件の第一審判決の結論によって影響を受けるものであって,本案に関する第一 審判決の言渡しがあった後に改めて判断されるべき事項であるといえるところ、本件事案の性質等に鑑みると,仮の差止めの期間は,本案事件の第一審判決の言渡しの日から60日を経過するまでとするのが相当である。 6 結論よって、本件各申立ては、本案事件の第一審判決の言渡しの日から60日を経 過するまでの間、運賃変更命令及び運賃変更命令に違反したことを理由とする事業許可取消処分の仮の差止めを求める部分の限度で理由があるから、その限度でこれらを認容し、その余の部分は理由がないから、これらをいずれも却下することとして、主文のとおり決定する。 令和5年2月28日 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官鎌野真敬 裁判官中畑啓輔 裁判官池田好英 和5年2月28日 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官 鎌野真敬 裁判官 中畑啓輔 裁判官 池田好英 別紙1から別紙7は記載省略
▼ クリックして全文を表示