平成8(行ウ)8 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成13年9月7日 名古屋地方裁判所 住民訴訟
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判決文本文42,500 文字)

主文 1 被告富士電機株式会社及び同株式会社日立製作所は、愛知県に対し、連帯して4851万3000円及びこれに対する被告富士電機株式会社については平成8年3月8日から、同株式会社日立製作所については同月7日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告愛知県公営企業管理者企業庁長が、被告富士電機株式会社、同株式会社日立製作所及び横河電機株式会社に対して、愛知県が平成5年度に被告株式会社日立製作所に請け負わせた幸田浄水場計装設備更新工事の談合に関する不法行為に基づく前項掲記の金額の損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法であることを確認する。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、これを4分し、その1を被告らの、その余を原告らの各負担とする。 5 この判決は、主文第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告富士電機株式会社及び同株式会社日立製作所は、愛知県に対し、連帯して2億1345万7200円及びこれに対する被告富士電機株式会社については平成8年3月8日から、同株式会社日立製作所については同月7日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告愛知県公営企業管理者企業庁長が、被告富士電機株式会社同株式会社日立製作所及び横河電機株式会社に対して、愛知県が平成5年度に被告株式会社日立製作所に請け負わせた幸田浄水場計装設備更新工事の談合に関する不法行為に基づく前項掲記の金額の損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法であることを確認する。 第2 事案の概要本件は、愛知県(以下「県」という。)の住民である原告らが、県が指名競争入札の方法により発注した幸田浄水場計装設備更新工事(以下「本件工事」という。)について、同工事の請負契約(以下「本件請負契約とい 件は、愛知県(以下「県」という。)の住民である原告らが、県が指名競争入札の方法により発注した幸田浄水場計装設備更新工事(以下「本件工事」という。)について、同工事の請負契約(以下「本件請負契約という。」に係る工事代金が、被告富士電機株式会社(以下「被告富士電機」という。)、同株式会社日立製作所(以下「被告日立製作所」という。また、被告富士電機と併せて「被告両会社」という。)らによる談合行為により不当につり上げられ、その結果、県は、談合がなければ形成されたであろう契約金額と現実の契約金額との差額相当額の損害を被ったとして、地方自治法(平成11年法律第87号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号後段に基づき、県に代位して、被告両会社に対し、契約金額の20パーセント相当額及び同相当額の10パーセント相当額(弁護士費用)の合計金額の損害賠償並びにこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、同項3号に基づき、被告愛知県公営企業管理者企業庁長(以下「被告企業庁長」という。)に対し、同被告が、被告両会社及び本件工事に係る談合に参加した横河電機株式会社(以下「横河電機」という。)に対する上記損害賠償請求権の行使を怠っていることの違法確認を求めた住民訴訟である。 なお、本件訴え提起当初、本件訴訟には、本件工事とは別に県が発注した2件の浄水場計装設備工事について、本件と同じく被告両会社らの談合による共同不法行為に基づき、県が被告両会社らに対して損害賠償請求権を有していることを前提として、原告らの、①県に代位してする被告両会社に対する損害賠償請求、②被告企業庁長又は愛知県知事に対する同被告らが被告両会社らに対する損害賠償請求権の行使を怠っていることの違法確認請求も含まれていたが、これらの請求に係る弁論は、平成11年3月16日、本 賠償請求、②被告企業庁長又は愛知県知事に対する同被告らが被告両会社らに対する損害賠償請求権の行使を怠っていることの違法確認請求も含まれていたが、これらの請求に係る弁論は、平成11年3月16日、本件訴訟から分離され、同年4月7日、当裁判所において訴え却下の判決がなされた。 1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定可能な事実)(1) 当事者ア原告らは、いずれも愛知県の住民である。 イ被告両会社は、いずれもデジタル計装制御システム等の計装設備の製造及び工事業を営む会社である。 ウ被告企業庁長は、地方公営企業法7条に基づいて設置された愛知県公営企業の管理者であり、同法8条、9条により、浄水場計装設備工事の契約締結、出納その他の会計事務等の業務について県を代表する地位を有する。 (2) 本件請負契約の締結ア県は、予定価格を9億7140万5722円(消費税を含む。)と定めた上、平成5年9月24日、本件工事につき、被告両会社、横河電機、株式会社東芝(以下「東芝」という。)及び三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)の5社による指名競争入札を実施したが、落札に至る経過は以下のとおりである(甲21の3)。 (ア) 第1回入札 (入札金額)①被告日立製作所 9億5500万円②横河電機 9億8000万円③被告富士電機 9億8500万円④東芝9億9300万円⑤三菱電機 9億9600万円(イ) 第2回入札 (入札金額)①被告日立製作所 9億4200万円(落札)②三菱電機 9億4700万円③横河電機 9億5000万円④東芝9億5200万円⑤被告富士電機 9億5300万円イ県は、平成5年9月27日、前記 菱電機 9億4700万円③横河電機 9億5000万円④東芝9億5200万円⑤被告富士電機 9億5300万円イ県は、平成5年9月27日、前記入札において落札した被告日立製作所と本件請負契約を締結し(甲9の3)、工事代金を支出した。本件請負契約の契約金額、代金支払日及び各支払金額は、以下のとおりである。 (ア) 契約金額 9億7026万円(消費税を含む。)(イ) 代金支払日及び各支払金額①平成5年10月29日 6793万2000円前払②平成6年4月28日  2億3806万8000円前払②平成6年4月28日 1億2590万円部分払④平成6年9月30日 3億2390万円部分払⑤平成7年3月31日 2億1446万円完了払(3) 公正取引委員会による談合の摘発公正取引委員会は、平成7年8月8日、被告両会社、横河電機、山武ハネウエル株式会社及び株式会社島津製作所(以下、これらの会社を併せて「被告会社ら5社」という。)が、各会社の部長級又は課長級の者が出席する「山手会」なる会合を定期的に開催し、全国の地方公共団体が指名競争入札)の方法により発注する浄水場等の水道施設に係るプロセス用監視制御システムを専らデジタル計装制御システムにより構成する計装設備の工事(特定計装設備工事)の受注予定者を共同して決定し、それ以外の社は受注予定者が受注できるように高い価格で入札することにより、公共の利益に反して、地方公共団体が指名競争入札の方法により発注する特定計装設備工事の取引分野における競争を実質的に制限していたとして、被告両会社、横河電機及び山武ハネウエル株式会社の4社に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)7条の2に基づく課徴金納 における競争を実質的に制限していたとして、被告両会社、横河電機及び山武ハネウエル株式会社の4社に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)7条の2に基づく課徴金納付命令を課した(以下「本件課徴金納付命令」という。)。同課徴金納付命令の課徴金算定の基礎となった特定計装設備工事には、本件工事が含まれていた(甲10、乙イ3)。 (4) 住民監査請求原告らは、平成7年11月27日、愛知県監査委員に対し、被告会社ら5社は、本件請負契約について、「談合という共同不法行為によって契約金額を不当につり上げることにより、工事発注者である県に対して、談合によってつり上げられた契約金額と公正な競争が確保されていた場合の契約金額との差額に相当する損害を与えた」ところ、愛知県知事若しくは被害企業庁長は、県が被告会社ら5社に対して有する損害賠償請求権(以下「本件損害賠償請求権」という。)を行使して県の被った損害を補填する措置を講ずる責任があるのにこれを怠っているので、愛知県知事若しくは被告企業庁長に対して、この措置を講ずべきことを勧告することを求める旨の住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)を行った(甲2の1、3)が、愛知県監査委員は、平成8年1月26日、監査請求期間を定めた法242条2項に違反するとして、本件監査請求を却下した(甲1)。 2 本件の争点(本案前の争点)(1) 本件につき適法な監査請求が前置されているか。 ア本件監査請求につき、監査請求期間を定めた法242条2項が適用されるか。 イアを積極に解した場合、監査請求期間の起算点はいつか。 ウ本件監査請求が監査請求期間を徒過していると解した場合、法242条2項ただし書の「正当な理由」が存するか。 (2) 被告企業庁長に対する怠る事実の違法確認の訴えは訴えの 請求期間の起算点はいつか。 ウ本件監査請求が監査請求期間を徒過していると解した場合、法242条2項ただし書の「正当な理由」が存するか。 (2) 被告企業庁長に対する怠る事実の違法確認の訴えは訴えの利益があるか。 (本案における争点)(3) 本件工事に係る入札に先立ち、被告両会社ら入札参加者が談合行為を行ったと認められるか。 (4) 被告両会社ら入札参加者の談合行為によって、県に損害が生じたか。また損害額はいくらか。 (5) 被告企業庁長に違法な怠る事実が認められるか。 3 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1)ア(法242条2項適用の有無)について(被告らの主張)ア本件監査請求は、本件損害賠償請求権の不行使を怠る事実と構成しているが、違法、無効な財務会計上の行為に基づいて発生する請求権の不行使を怠る事実と構成した場合(以下、「不真正怠る事実」といい、それ以外の怠る事実を「真正怠る事実」という。)には、住民監査請求については、財務会計上の行為が行われた日を基準として、法242条2項が適用されるべきであり(最高裁昭和62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁(以下「昭和62年判決」という。))、このように解さないと、当該請求権の行使を怠っていると構成することにより、同項の期間制限を受けないという不合理な結果を招くことになる。 イ原告らは、本件において財務会計上の行為は違法でないから、法242条2項は適用されないと主張する。 しかし、同項の適用に当たっては、法的安定性の見地から、原告らが自らの主張をどう構成しようと、そのよって立つ事案そのものが問題なのであって、監査委員は客観的違法性を有する事実すべてについて監査の対象とし、必要な措置を講ずることができるから、実際に違法な財務会計上の行為があり、その財務会計上の行為を基 つ事案そのものが問題なのであって、監査委員は客観的違法性を有する事実すべてについて監査の対象とし、必要な措置を講ずることができるから、実際に違法な財務会計上の行為があり、その財務会計上の行為を基礎とする損害賠償請求が可能な場合には、原告らの請求について、同項が適用されるべきである。本件監査請求は、本件請負契約の契約金額が被告両会社ら入札参加者の談合に基づき不当に高額になったというものであるから、これが事実であれば、本件請負契約は、被告両会社ら入札参加者の談合に基づくものとして違法であり、民法90条及び91条に基づき無効ということになる。また、地方公共団体の経費が、その目的を達成するための必要最小限度を超えることを禁止した地方財政法4条1項及び最少の経費で最大の効果を挙げるべきことを定めた法2条13項並びに支出負担行為や支出が法令等に適合すべきことを定めた法232条の3及び同法232条の4第2項に反するものとしても違法である。 したがって、本件監査請求において原告らが主張している本件損害賠償請求権は、「当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権」に該当するということができる。このことは、原告らが主張するとおり、本件請負契約が被告両会社ら入札参加者の談合に基づき不当に高額なものとなっていたとすれば、原告らは、本件請負契約締結直後から当該事実を指摘して、監査請求することが可能であり、さらに支払前であれば差止請求訴訟(法242条の2第1項1号)が、支払後であれば被告両会社らに対する損害賠償請求訴訟(同項4号後段)が可能であったこととの均衡からも首肯できるものである。 なお、財務会計上の行為の違法とは、当該行為が是正されるべき客観的な違法性を有することを意味し、長や職員の地方公共団体に対する内部的な義務違反行為に限られ こととの均衡からも首肯できるものである。 なお、財務会計上の行為の違法とは、当該行為が是正されるべき客観的な違法性を有することを意味し、長や職員の地方公共団体に対する内部的な義務違反行為に限られるものではないし、本件において被告両会社ら入札参加者が行ったとされる談合の存在や、その結果不当に高額な契約金額を支出することになったという事実を、たまたま、当該地方公共団体の長若しくは担当職員が知っていたか否かという主観的な事情により左右されるべきものでもない。 (原告らの主張)ア本件監査請求は、本件請負契約の締結に当たって、被告両会社ら入札参加者が談合という共同不法行為を行い、これによって、県に対して損害を与えたところ、被告企業庁長は、被告両会社ら入札参加者に対する本件損害賠償請求権の行使を怠っているから、その請求など適当な措置を求めるというものである。したがって、本件監査請求は、「怠る事実」についての監査を求めるものであり、法242条2項の期間制限の適用はない(最高裁昭和53年6月23日第三小法廷判決・裁判集民事124号145頁(以下「昭和53年判決」という。))。 イ被告らは、昭和62年判決を理由に、本件監査請求にも法242条2項の適用があると主張する。 しかし、被告らの主張は、昭和62年判決を曲解するものであり、同判決は、本件とは事案を異にし、先例とはならないものである。 (ア) 法242条1項の「当該行為」の違法性は、地方公共団体の内部関係における違法であり、契約担当職員が欺かれてした本件請負契約の締結は違法とはいえない。 すなわち、談合に基づく業者と地方公共団体との請負契約が違法であり、地方公共団体の選択によって取り消しうべきものであることは論を待たない。本件においても、原告らは、被告らの談合行為から地方公共団体の工事代金の 談合に基づく業者と地方公共団体との請負契約が違法であり、地方公共団体の選択によって取り消しうべきものであることは論を待たない。本件においても、原告らは、被告らの談合行為から地方公共団体の工事代金の支払までの全体を不法行為として構成している。その意味では、「違法」の主張をしている。 しかし、県と被告日立製作所との間で締結された本件請負契約に対する評価と、「違法な財務会計上の行為」という場合の「違法」の評価とは、場面・性質を異にし、同一のものではない。すなわち、住民訴訟は、長や職員の職務義務違反行為を是正し、もって財政の健全性を確保しようとするものであり、財務会計行為を行うに当たって長や職員の職務義務違反が認められる場合は、違法な当該行為の是正を求めることになる一方、長や職員に職務義務違反が認められない場合には、違法な状態を是正すべき義務を怠っているとして、怠る事実のみが問題となる。そして、当該行為の違法性は、行為者たる執行機関又は職員の当該地方公共団体に対する内部関係での違法性(行為者が当該地方公共団体に対する関係で、当該行為をしない義務を負っているにもかかわらず、同義務に違反したことを意味する。)であり、当該行為の対外的関係における違法性とは必ずしも一致しない。そして、法242条1項にいう「違法な財務会計行為」の「違法」は、この内部関係における違法、すなわち地方公共団体に対する長や職員らの義務違反行為を指すものである。本件請負契約の締結に当たり、長や職員は談合の事実を知らず、欺かれたにすぎないから、同人らにかかる義務違反行為はない。昭和62年判決は、当該行為が違法でない場合についてまで、不真正怠る事実として、当該行為のあった日又は終わった日から1年以内に監査請求することを要するとしたものではない。 (イ) 本件監査請求においては、当該行 決は、当該行為が違法でない場合についてまで、不真正怠る事実として、当該行為のあった日又は終わった日から1年以内に監査請求することを要するとしたものではない。 (イ) 本件監査請求においては、当該行為の違法性を判断する必要がない。不真正怠る事実に係る住民監査請求に法242条2項が適用されるのは、住民監査請求の対象たる怠る事実が存するか否かの前提として、必然的に「当該行為」の違法の有無を問題とせざるを得ず、当該行為が違法とされ、これに基づく請求権の発生が認められて初めて怠る事実の違法が問題となるからである。したがって、「不真正怠る事実」に該当するか否かは、「怠る事実が存するか否かの前提として必然的に『当該行為』の違法の有無を問題とせざるを得ない」場合に該当するか否かで区別すべきである。本件監査請求のように、談合によってつり上げられた価格に相当する損害の填補を不法行為として請求する場合には、地方財政法4条1項の要件に含まれない談合に固有の要件事実(入札参加者相互の間に、落札予定者を特定し、かつ、落札予定者以外の者は予定者の入札価格以下の札は入れない旨の合意と、その合意の実施があったという要件の主張立証責任を住民が負担する反面、談合の結果形成された価格が、後述する地方財政法4条1項違反の要件である「目的・効果との均衡を著しく欠く」程度に至らなくても、談合がなければ落札価格は現実のそれよりも低下し得たという事実が立証されれば(低下の程度の大小にかかわらず)、その限度で損害が発生したものとして、損害賠償請求権が成立するのである。 したがって、本件損害賠償請求権が存するか否かの判断の前提として、必然的に本件請負契約の違法性の有無を問題とする必要はないから、本件損害賠償請求権の不行使は不真正怠る事実に該当しない。 (ウ) 本件監査請求において、原告ら 請求権が存するか否かの判断の前提として、必然的に本件請負契約の違法性の有無を問題とする必要はないから、本件損害賠償請求権の不行使は不真正怠る事実に該当しない。 (ウ) 本件監査請求において、原告らは、当該行為の違法を主張していない。昭和62年判決は、住民監査請求自体が、時価に比して著しく低額の代金による土地売却処分を違法、無効なものであると主張していた事案に関するものであり、住民監査請求の対象である怠る事実が、住民監査請求の文理上、「当該地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為が違法であるとし、当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行便をもって財産の管理を怠る事実としている」場合には、怠る事実についての住民監査請求でありながら、法242条2項の適用を受けると判示しているものである。 これに対し、原告らは、本件監査請求において、財務会計上の行為を違法であるとは何ら主張していないし、本訴においても同じであって、あくまで「真正怠る事実」としての監査・判断を求めているのである。このような場合には、監査委員や裁判所は、財務会計上の行為の違法、無効を前提としない請求権(本件の場合は不法行為に基づく損害賠償請求権)の有無を判断すれば足りるというべきである。 (エ) 本件請負契約は私法上有効である。 地方公共団体の契約は、公益目的遂行のため、原則的に一般競争入札により行うことなど一定の規制が必要であり、法、同法施行令、契約に関する条例、地方公共団体の財務に関する規則など一連の会計法令等により規制を行っている。しかし、これらの会計法令の規定は、ほとんどが地方公共団体の内部に関する訓令的性質をもつ手続的規定であり、一般に契約の効力自体に影響を及ぼさないのを原則とする。入札は、契約の相手方を決定する手続で しかし、これらの会計法令の規定は、ほとんどが地方公共団体の内部に関する訓令的性質をもつ手続的規定であり、一般に契約の効力自体に影響を及ぼさないのを原則とする。入札は、契約の相手方を決定する手続であるから(法234条3項)、談合による入札に基づいて請負契約を締結しても、その契約自体が無効になるわけではない。運用上も、愛知県企業庁が契約締結後に談合があったと認めた場合には、契約は当然無効になるのではなく、解除することできるにすぎないとする取扱いとなっている。 よって、談合という不法行為に基づく損害賠償請求権は、契約自体の有効性を維持した上でなお行使することのできる請求権であることに疑問を挟む余地はない。 (オ) 本件請負契約は、地方財政法4条1項に違反しない。 地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、最少の経費で最大の効果を上げるようにしなければならず(法2条13頁)、経費はその目的を達成するために必要かつ最少の限度を超えて出してはならないとされている(地方財政法4条1項)から、不当に高い契約金額の支払は、上記各法条に対する適合性を問擬し得る。しかし、何をもって「必要かつ最少の限度」というべきかについては第一次的には、予算の執行権限を有する財務会計職員の社会的、政策的又は経済的見地からする裁量に委ねられており、具体的な支出が当該事務の目的・効果と関連せず、又は社会通念に照らして目的、効果との均衡を著しく欠き、予算の執行権限を有する財務会計職員に与えられた前記裁量を逸脱してされたものと認められるときに初めて違法と評価される。談合の結果、競争が行われた場合に比べて、落札価格は入札に先立って設定される予定価格に接近することになるが、予定価格を超えることは入札制度の約束事としてあり得ない。そして予定価格は、「契約の目的となる物件又は役 争が行われた場合に比べて、落札価格は入札に先立って設定される予定価格に接近することになるが、予定価格を超えることは入札制度の約束事としてあり得ない。そして予定価格は、「契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならない」(予算決算及び会計令80条2項参照)ものであるから、価格形成がその範囲内にある限り、当否の問題が生じることはあっても、「目的・効果との均衡を著しく欠」く違法があるとされることはあり得ない。 したがって、本件監査請求は、怠る事実に係る請求であって、かつ財務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の行使等の措置を求めるものではないから、本件監査請求については法242条2項は適用されない。 (2) 争点(1)イ(監査請求期間の起算点)について(被告らの主張)ア本件請負契約は、平成5年9月27日に締結されており、同日から監査請求期間を算定すべきであるところ、原告らは平成7年11月27日に本件監査請求を行っているから、法242条2項の定める「当該行為のあった日又は終わった日から一年」の住民監査請求期間を徒過するものである。 イ原告らは、最高裁平成9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号287頁(以下「平成9年判決」という。)を援用して、仮に本件監査請求に法242条2項が適用されるとしても、本件監査請求は適法な住民監査請求であると主張する。 しかし、同判決は、①財務会計上の行為の時点では損害賠償請求権が発生しないという特別な事情が存する場合において、②監査請求期間の起算点を判断するに当たって、地方公共団体自身が損害賠償義務の存否を訴訟で争っているといった、損害賠償請求権を行使するについての法律上の障 ないという特別な事情が存する場合において、②監査請求期間の起算点を判断するに当たって、地方公共団体自身が損害賠償義務の存否を訴訟で争っているといった、損害賠償請求権を行使するについての法律上の障害若しくはこれと同視し得るような客観的な障害のある場合について、これを行使し得るようになった時点を監査請求期間の起算点としたものであって、極めて特殊な事案に関するものとして限定的に解されるべきである。本件監査請求が対象としている損害賠償請求権は、本件請負契約の締結によって請負人の報酬請求権が発生する以上、それと同時に発生しているのであって、上記①の特別な事情は存在しないし、本件監査請求において、上記②を満たす事情も存在しない。 したがって、本件監査請求については、本件請負契約締結の時をもって監査請求期間の起算点とすべきである。 (原告らの主張)本件監査請求に対し、法242条2項が適用されるとしても、その起算点は、本件損害賠償請求権を行使することができるようになった時点、すなわち平成7年8月9日付け新聞により、「公正取引委員会が、談合企業に対し、上水道計装設備工事を巡り課徴金納付命令を出したこと」が報道された後、相当期間が経過したにもかかわらず、県が被告両会社ら入札参加者に対し本件損害賠償請求権を行使しなかった時点と解すべきである。 この点に関し、平成9年判決は、財務会計上の行為が違法・無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする監査請求については、当該財務会計上の行為のされた時点においてはいまだ同請求権が発生しておらず、又はこれを行使することができない場合には、前記実体法上の請求権が発生し、これを行使することができることになった日を基準として法242条2項の適用があるものと解するのが相当であ 権が発生しておらず、又はこれを行使することができない場合には、前記実体法上の請求権が発生し、これを行使することができることになった日を基準として法242条2項の適用があるものと解するのが相当であると判示した。同判決がこのように判示した理由は、損害賠償請求権がいまだ発生していない場合、又は損害賠償請求権を行便することができない場合には、「監査請求の対象となるべき右損害賠償請求権の行使を怠る事実も存在しないというほかはない。それにもかかわらず、当該怠る事実を対象とする監査請求につき、転売行為の日を基準として法242条2項の規定を適用し、同項本文の期間が進行するものと解することはできない」からにほかならない。すなわち、法242条1項、242条の2第1項各号が定める住民訴訟は、地方公共団体の長又は職員の非違行為を中心にした職務違反行為を是正するために住民に付与されている請求権である。したがって、住民が地方公共団体に代わって住民訴訟を提起するためには、地方公共団体の長又は職員の違法な行為がなければならない。ところが、損害賠償請求権がいまだ発生していない場合、又は損害賠償請求権を行使することができない場合には、地方公共団体の長若しくは職員が損害賠償請求を違法に怠っているという状態は生じていない。つまり地方公共団体の長又は職員の地方公共団体に対する義務違反行為が存在しない状態である。にもかかわらず、法242条2項の規定を適用し、同項本文の期間が進行して1年が経過してしまうともはや住民は監査請求ができなくなるということになれば、明らかに法の趣旨に反する事態が生じることになる。そして、抽象的には地方公共団体に損害賠償請求権が発生していたとしても、地方公共団体の長又は職員が損害賠償請求が存することを知ることができない場合においては、長又は職員に当該損 が生じることになる。そして、抽象的には地方公共団体に損害賠償請求権が発生していたとしても、地方公共団体の長又は職員が損害賠償請求が存することを知ることができない場合においては、長又は職員に当該損害賠償請求権を行使しないことに職務違反行為が存在しないことが明らかである。すなわち、この場合にも監査請求の対象となるべき損害賠償請求権の行使を怠る事実は存在しないのであるから、平成9年判決の基準によるならば、法242条2項本文の期間が進行するものと解することはできないはずである。 以上より、平成7年11月27日になされた本件監査請求は、住民監査請求期間の制限の起算点である同年8月9日より相当期間が経過した日から1年以内であることは明らかであるから、適法である。 (3) 争点(1)ウ(正当な理由の有無)について(原告らの主張)ア法242条2項ただし書は、住民監査請求期間を経過するという意味での法的安定性を害しても、なお、監査請求を求めるべき必要性があることを認めたものである。したがって、この「正当な理由」の解釈に当たっては、法が住民監査請求を認めた趣旨を十分尊重すべきであり、客観的に請求者が法定期間内に監査請求を申し立てることが不可能又は困難であるときには、正当な理由があるといわざるを得ず、その正当な理由の有無の判断は、法242条2項本文の規定する住民監査請求期間経過後であっても、住民監査請求を認めなければ正義に反し、当該事例において住民監査請求ひいては住民訴訟の制度を無意味なものにするかどうかを基準として判断されなければならない。 イ談合の事実を知り得た時期について(ア) 談合企業は、談合の事実を否認し、課徴金を納付したのは談合を認めたからではなく争う手間を避けたためであるなどと主張するのが常である。したがって、少なくとも公正取引委員 を知り得た時期について(ア) 談合企業は、談合の事実を否認し、課徴金を納付したのは談合を認めたからではなく争う手間を避けたためであるなどと主張するのが常である。したがって、少なくとも公正取引委員会の課徴金納付命令の決定後、現実に談合企業が課徴金を納付するか、あるいは課徴金納付命令に対する異議申立期間(30日)を経過して初めて、住民にとって違法な談合(とこれに基づく損害の発生)があったと判断ができるといえる。 本件のような談合の事案において、住民は監査請求の提起に当たり、慎重にその結果を予測し、場合によっては、その後の住民訴訟の立証手段の探索、準備、帰趨等も検討する余裕が認められるべきであるから、「知ることができたとき」とは、住民にとって確実に違法行為の存在が認められる時期と解すべきであり、少なくとも談合企業が明確に談合を認める態度を取ったことが明らかになるまでは「当該行為を知ることができたとき」とはいえない。 (イ) 原告らが、本件請負契約が本件課徴金納付命令の対象工事であることを知り、本件監査請求を行った経過は以下のとおりである。 a 平成7年7月29日、第2回全国オンブズマン大会において、横浜弁護士会所属A弁護士は、「下水道談合」に関する住民訴訟の提起を提案した。この時点では、原告らは「上水道談合」についての情報を入手していない。 b 同年9月30日、全国市民オンブズマン連絡会議幹事会において、A弁護士から、「上水道談合」についても住民訴訟を提起すべきとの提案があった。このとき、横河電機株式会社外3名に対する課徴金納付命令について」及び対象工事一覧表が資料として配布された。同幹事会において、全国の市民オンブズマンに呼びかけることが承認された。なお、A弁護士が上記資料を公正取引委員会から入手したのは、同年9月初めころである。 c 前 工事一覧表が資料として配布された。同幹事会において、全国の市民オンブズマンに呼びかけることが承認された。なお、A弁護士が上記資料を公正取引委員会から入手したのは、同年9月初めころである。 c 前記幹事会に出席していた原告ら代理人西野昭雄弁護士は、本件課徴金納付命令の対象に県が発注した本件請負契約が含まれていたため、同年10月3日、同幹事会において配布された資料を、「下水道談合」を担当していた原告ら代理人平井宏和弁護士にファックスで送信した。 d 同月17日、名古屋市民オンブズマン、同タイアップグループの会議において、とりあえず上水道談合についても情報公開請求を行うことが決定された。名古屋市民オンブズマンタイアップグループのメンバーである原告らは、このとき初めて、「上水道談合」の対象工事に本件請負契約が含まれていることを知った。 e 平井弁護士は、同月24日、情報公開請求により、本件請負契約の契約書の写しの交付を請求した。同契約書の写しは、「同年11月14日に交付された。 f 原告らは、同月27日、本件監査請求を行った。 以上の経過のとおり、原告らが、本件課徴金納付命令に係る対象工事に本件工事が含まれることを知ったのは、公正取引委員会の「横河電機株式会社ほか3名に対する課徴金納付命令について」という文書の別紙を受け取った平成7年10月3日ごろである。 しかし、同文書には、発注者、物件名、入札年月日の記載があるのみで、これらの記載からは談合による入札が影響を与えた本件請負契約の日時、相手方、内容、金額など一切明らかでなかったので、これらの事実からすれば、平成7年10月ころには、住民監査請求の対象となる怠る事実の相手方さえ明らかでなく、住民監査請求が不可能であることは明らかである。 被告らは、平成7年8月9日の時点で住民監査請求を行うに足 すれば、平成7年10月ころには、住民監査請求の対象となる怠る事実の相手方さえ明らかでなく、住民監査請求が不可能であることは明らかである。 被告らは、平成7年8月9日の時点で住民監査請求を行うに足る情報を取得することが可能であったというが、住民監査請求の実情を無視した机上の空論である。 怠る事実の相手方や、損害額が不明なまま住民監査請求をすれば、その特定を欠くものとして却下されることは明白である。そのような曖昧な住民監査請求を強要することは無意味な住民監査請求の乱発を招き、ひいては制度自体の崩壊につながりかねない。そして契約内容が明らかになったのは、原告ら代理人の情報公開請求により契約書が公表された平成7年11月14日である。この時になって初めて住民監査請求が可能になったのである。 ウ相当な期間について(ア) 公正取引委員会の本件課徴金納付命令の決定後、現実に談合企業が課徴金を納付するかあるいは納付命令に対して異議が申し立てられることなく申立期間(30日)を経過した時点をもって談合の事実を知り得た時期ととらえた場合、本件監査請求は、その時期から相当期間内になされたことは明らかである。 (イ) 平成7年11月14日に原告ら代理人の情報公開請求により契約書が公表された時点を知り得た時期ととらえた場合には、本件監査購求はその時期から1か月以内になされているので、相当期間内になされたことは明らかである。 (ウ) 仮に、被告ら主張のように、平成7年8月9日をもって、知り得た時期と解するとしても住民監査請求は、本来地方公共団体の長が自主的に行うべき違法な財務会計行為の是正をし、補充的に行う権能を住民に認めた趣旨と解されるところ、本件は、担当職員も新聞報道までは談合の事実を知らなかったという特殊性が存在するのであるから、新聞報道後相当の期間を経過して 務会計行為の是正をし、補充的に行う権能を住民に認めた趣旨と解されるところ、本件は、担当職員も新聞報道までは談合の事実を知らなかったという特殊性が存在するのであるから、新聞報道後相当の期間を経過して初めて住民が監査請求を提起すべきであったと解すべきであり、通常の場合と同様に1、2か月を相当とした被告らの主張は、この点からも正当理由の解釈を誤るものである。 エしたがって、本件監査請求においては住民監査請求期間徒過について正当な理由がある。 (被告らの主張)ア正当な理由の有無は、特段の事情がない限り、地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的に見て当該行為を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである。 通常、客観的に住民が当該行為を知り得ないか、又は知ることが困難な状況におかれていたことがまず必要であり、その後当該行為を知り得るようになった時から相当期間内に監査請求をすることが必要とされるのである。 イ本件では、平成6年3月26日、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、産経新聞等の各新聞紙上において、被告両会社を含む「大手電機・計器メーカー8社に対し、各地の自治体発注の上下水道の処理システムの入札を巡る談合を行っていた疑いにより、公正取引委員会が立入検査を行った」旨の報道がなされ、平成7年8月8日には、公正取引委員会が本件課徴金納付命令を行うとともに対象工事を公表し、同月9日には、中日新聞、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、産経新聞等の各新聞紙上に、その旨を記載する記事が掲載され、中日新聞においては、県が発注した工事が対象となっていることも報道された。したがって、原告らは、平成7年8月9日には、公正取引委員会ないしその中部事務所 各新聞紙上に、その旨を記載する記事が掲載され、中日新聞においては、県が発注した工事が対象となっていることも報道された。したがって、原告らは、平成7年8月9日には、公正取引委員会ないしその中部事務所に赴くことにより、「横河電機株式会社ほか3名に対する課徴金納付命令について」と題する文書を入手し、本件各工事が上記課徴金納付命令の対象となっていることを知ることができた。 さらに、いわゆる「市民オンブズマン」の一員ないし関係者である原告ら及び原告ら代理人らにとって、平成7年8月9日に前記文書を入手することは可能であったはずである。すなわち、全国市民オンブズマン連絡会議は、既に平成7年7月27日時点で、日本下水道事業団発注に係る工事に関する公正取引委員会の課徴金納付命令の対象工事の全リストを入手したことを明らかにするとともに、同月30日の時点で、既に平成6年3月26日以降の新聞報道で公正取引委員会により立入調査が行われていることが明らかとなっていた浄水場の計装設備工事に関する談合事件についても、具体的な工事名を洗い出して全国規模による住民訴訟を提起する方針を決していた。 このような状況のもとで、前記のとおり、平成7年8月8日、本件課徴金納付命令が発せられ、翌9日には、その旨の新聞報道がなされた。全国市民オンブズマン連絡会議のメンバーの一員である原告ら及び原告ら代理人らは、公正取引委員会から、本件課徴金納付命令の内容を記載した書面、すなわち「横河電機株式会社ほか3名に対する課徴金納付命令について」と題する書面を取得できることを熟知していた。 以上からすると、「正当な理由」の有無の判断における相当な期間の開始時点としての監査請求の対象となる違法な財務会計行為を知ることができたと解される時点は、遅くとも平成7年8月9日と認められる。 ウ原告らは すると、「正当な理由」の有無の判断における相当な期間の開始時点としての監査請求の対象となる違法な財務会計行為を知ることができたと解される時点は、遅くとも平成7年8月9日と認められる。 ウ原告らは、「横河電機株式会社ほか3名に対する課徴金納付命令について」と題する文書には、発注者、物件名及び入札年月日の記載があるのみで、契約当事者、契約金額が明らかでなく、住民監査請求はなし得ないと主張する。しかし、住民監査請求を行うためには、対象となる財務会計上の行為を他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示すれば足りると解されており(最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決・民集44巻4号719頁)、発注者、物件名及び入札年月日を特定することにより、財務会計上の行為の特定は十分可能である。 また、原告らは、「怠る事実」として構成するためには、相手方及び損害額(契約金額)を知ることが必要であると主張する。しかしながら、住民監査請求期間の制限を免れるために「怠る事実」として構成し、そのために入手すべき情報が増加したとしても考慮するに値しない。また、「怠たる事実」として構成するとしても、例えば「平成5年9月24日入札に係る愛知県企業庁発注の幸田浄水場計設備更新工事の請負契約の代金は、談合により不当に高額なものとなっており、愛知県は代金額の2割に相当する額の損害を被っているところ、愛知県は談合を行った5社に対する損害賠償請求権の行使を怠っているので、是正措置を求める。」という監査請求を行えば特定としては十分であり、これ以上に特定の必要はない。 仮に、契約当事者及び契約金額について特定の必要があったとしても、これらを知ることは容易であった。前記の入札に関する情報は公開されており、実際に入手することは容易である。例えば、平成4年5月12日、同月 、契約当事者及び契約金額について特定の必要があったとしても、これらを知ることは容易であった。前記の入札に関する情報は公開されており、実際に入手することは容易である。例えば、平成4年5月12日、同月15日、平成5年9月17日、同月28日の各中部建通新聞には本件工事について、指名業者、落札業者及び落札金額が記載してあるが、落札業者が契約当事者であり、落札金額に消費税3パーセントを加算した金額が契約金額であったことは明らかである。このように、契約当事者と契約金額を知るために、原告ら代理人が行ったような情報公開請求など行う必要はない。 エ法242条2項は、法律関係の早期安定の要請に基づく規定であり、監査請求期間が1年間と定められているところ、「正当な理由」がある場合に限り、例外的に同期間を徒過した後の住民監査請求を適法と認めたものであることからすると、知り得た時期からせいぜい1、2か月あれば、これが可能というべきであるから、3か月半以上経過した後に行われた本件監査請求は、相当な期間内になされたということはできず、正当な理由は認められない。 (4) 争点(2)(訴えの利益)について(被告企業庁長の主張)ア原告らは、被告両会社に対し、法242条の2第1項4号に基づき、県に代位して不法行為に基づく損害賠償(以下「4号請求」という。)を求めている。4号請求がなされている以上、被告企業庁長に対する同項3号による違法確認請求(以下「3号請求」という。)を並立させる訴訟上の意義ないし必要性は存在しない。 4号請求は、地方公共団体の有する損害賠償請求権を住民が相手方に対して直接代位行使するものであり、地方公共団体の執行機関等の違法な財務会計行為の是正手段として直截なものであるのに対し、3号請求は、怠る事実の違法確認の判決の関係行政庁に対する拘束力に基づき 方に対して直接代位行使するものであり、地方公共団体の執行機関等の違法な財務会計行為の是正手段として直截なものであるのに対し、3号請求は、怠る事実の違法確認の判決の関係行政庁に対する拘束力に基づき執行機関等を通じて間接的に地方公共団体の実体法上の権利を行使しようとするものであり、4号請求に対する補完的な手段にすぎない。 イまた、4号請求により損害賠償請求権の代位行使がなされた場合には、地方公共団体としてはもはや相手方に対して当該損害賠償請求権を行使して同一の請求をすることはできないのであるから、3号請求を求める実質的な意味はない。なお、横河電機との間で、県は本件請負契約を締結しておらず、その結果何らの公金の支出も行われていない。 (原告らの主張)ア 3号請求は、地方公共団体自身の手による積極的な職務執行の行使を期待して、いわば間接的な方法により怠る事実の違法状態を解消し、もって地方公共団体の損害を防止し、又は回復する目的を実現しようとするものであるのに対し、4号請求は、住民自らの手で地方公共団体に代位して請求権を行使し、直接的に同目的を実現しようとするものであり、それぞれの請求が独自の存在意義を有するものである。さらに、法242条の2は、各号の請求の間に優先関係を定めていないし、複数の請求を禁じていないこと、実質的にも地方公共団体の執行機関等の違法な財務会計行為を是正し、その権利行使の実効性を確保する手段としてどちらが有効適切であるかは一概にはいえない。したがって、3号請求と4号請求は競合すると解すべきである。 イ原告らの3号請求は、被告企業庁長が、被告両会社のみならず、横河電機に対して有する損害賠償請求権の不行使も違法であることの確認を求めるものであって、原告らの4号請求とは損害賠償請求の相手方を異にする。 (5) 争点(3)( 企業庁長が、被告両会社のみならず、横河電機に対して有する損害賠償請求権の不行使も違法であることの確認を求めるものであって、原告らの4号請求とは損害賠償請求の相手方を異にする。 (5) 争点(3)(談合行為の有無)について(原告らの主張)ア被告会社ら5社は、各会社の部長級又は課長級の者が出席する「山手会」を構成し、その会合を毎週水曜日に開催していた。山手会は、地方公共団体(企業団、組合を含む。)発注の上下水道その他の入札物件を競争によって受注することを避け、受注価格を維持して各社の利益を確保することを目的とするものであり、被告両会社が主張するような単なる情報交換の場ではない。 イ山手会の会合においては、各社が入札の指名を受けた工事を報告し、当該工事についての受注希望の有無を表明した上で、当該工事について受注を希望する者が1社である場合はその者が受注すべきものとし、受注を希望する者が複数存在する場合は、増設や更新等の既設物件の工事(以下「既設工事」という。)は、従前の工事を受注した業者(以下「既設業者」という。)を尊重し、新設物件の工事は営業活動の優劣を主な要因として受注予定者を決めるのが基本原則とされていた。そして各社は同原則を前提として、物件について話し合い、各社の受注希望の有無を確認し、その結果、受注予定者が決定されるとともに、電話等の方法により各社の入札価格を連絡、調整し、受注予定者以外の相指名業者は、受注予定者の入札価格よりも高い入札価格で入札することにより、受注予定者が落札できるように協力していた。 被告両会社は、既設工事については既設業者以外の業者が受注することは事実上不可能であったと主張するが、浄水場の計装設備はあらかじめ互換性をもった簡易な設計に基づいて作られているから、既設業者以外の業者であっても受注可能であり ては既設業者以外の業者が受注することは事実上不可能であったと主張するが、浄水場の計装設備はあらかじめ互換性をもった簡易な設計に基づいて作られているから、既設業者以外の業者であっても受注可能であり、現に山手会においては、既設工事であっても既設業者以外の業者が施工可能であることを前提にして会合が行われている。 ウそして、被告会社ら5社は、遅くとも平成元年1月以降、地方公共団体が指名競争入札の方法により発注する特定計装設備工事の大部分について、山手会を通じて自ら又はその代理店等を受注予定者と決定し、受注予定者が受注できるように協力して、不正な談合行為を繰り返していた。 エ本件工事についても、被告会社ら5社は、入札に先立って開催された山手会の会合において、前記のような方法で、被告日立製作所を受注予定者と決めるとともに、入札価格を連絡し合うなどの方法によって同被告が落札できるように協力し合った。本件工事の入札には、山手会のメンバーである被告両会社及び横河電機以外に東芝及び三菱電機が指名業者として参加することになっていたが、これら2社に対しても、被告日立製作所の担当者が連絡を取り、同被告の入札価格よりも高い価格で入札できるように協力を求め、談合に追随させた。このことは、公正取引委員会が本件課徴金納付命令を課した事実からも明らかである。 (被告両会社の主張)ア原告らの主張する山手会は、各社の情報交換の場であり、各社の担当者が、市場動向、業界動向等のほか、地方公共団体が発注する計装設備工事について、指名の有無、受注希望の有無、落札者、落札価格等に関する報告を行っていたにすぎず、受注予定者を決定していたわけではない。本件工事についても、被告日立製作所の担当者が、山手会の会合において、同被告が既設業者である旨を表明し、山手会のメンバーでない東芝及 報告を行っていたにすぎず、受注予定者を決定していたわけではない。本件工事についても、被告日立製作所の担当者が、山手会の会合において、同被告が既設業者である旨を表明し、山手会のメンバーでない東芝及び三菱電機を含む指名業者間で入札価格に関する価格連絡を行ったことは認めるが、この価格連絡は、受注を希望しない業者による積算を容易にし又は不要にするため、あるいは受注を希望しない業者が誤って落札することによって赤字受注になることを防止するためのものであり、受注価格の低落防止のために行われていたものではない。 イまた、地方公共団体が発注する計装設備工事については、山手会の5社のみが指名されることはほとんどなく、山手会のみで受注予定者を決定することは到底不可能であった。本件工事の入札にも、被告両会社と山手会のメンバーである横河電機以外に東芝及び三菱電機が指名業者として参加していた。仮に山手会で受注予定者を決定していたとしても、東芝や三菱電機のような大企業がこれに追随する理由は何ら存しない。 ウ地方公共団体が発注する浄水場の計装設備工事は、計画から入札に至るまで数年の期間を要するが、入札指名がなされるのは、入札の一、二週間前にすぎず、入札指名の際に配布される設計図書には、一般的な仕様しか示されないのが通例である。各社の営業担当者は、地方公共団体に対して自社製品やシステムに関する営業活動を行っているものの、各社ともすべての地方公共団体に対する営業活動を行えるだけの体制は備えておらず、生産能力の点でもすべての工事を受注し生産することは不可能であるため、営業活動は必然濃淡を生じ、複数の会社の営業活動が競合することはほとんどなかった。したがって、当該工事について、営業活動を十分に行っている会社は、地方公共団体の設備に対する要望を把握し、どのような設備を発 は必然濃淡を生じ、複数の会社の営業活動が競合することはほとんどなかった。したがって、当該工事について、営業活動を十分に行っている会社は、地方公共団体の設備に対する要望を把握し、どのような設備を発注しようとしているのかを十分に理解しているため、自信を持って入札価格の積算を行うことができ、受注を希望することになる。他方、十分な営業活動を行っていない会社は、工事内容についての理解が不十分なため、工期・費用についての予測が立たず、工事の施工及び積算について自信を持てないので、受注を希望しないことになる。このような計装設備工事の特質、各社の営業活動の状況の結果、受注を希望する会社がほとんど1社となっていたのが実態であり、何らかの話合いの結果、1社に決定されていたわけではない。とりわけ既設工事については、通常、既設業者しか受注を希望しない。これは、既設工事においては既設設備の内容に関する知識が不可欠であり、かかる知識を有していなければ、そもそも施工が可能か、工期中に施工を完了することが可能か、どの程度の受注価格であれば採算が取れるのか等の判断が困難であり、かかる知識の点において既設業者と他の業者との間には決定的な差異が存在するからである。 エ本件の幸田浄水場計装設備に関しては、同浄水場着工時に、被告日立製作所が計装設備一式の工事を受注、納入して以来、同被告が計装設備に関するすべての工事を入札又は随意契約により受注し、同設備についてのメンテナンスを行ってきた結果、同被告は同設備の機器の仕様やケーブルの配置等の細部にわたるまで把握していた。他方、被告富士電機を含む他の業者は、入札において開示される発注図書には工事により完成すべき設備に関する記載はあるものの、既設設備に使用されている各機器の詳細な仕様や、そのケーブルの配線に関する情報についてはほと 機を含む他の業者は、入札において開示される発注図書には工事により完成すべき設備に関する記載はあるものの、既設設備に使用されている各機器の詳細な仕様や、そのケーブルの配線に関する情報についてはほとんど記載がないため、これらの情報等について知り得ない状況にあり、工期までの完成の見込みや採算の見込みについて確証が持てなかった。また、本件工事は、発注仕様に従った各機器の製作と当該機器の備付け及び配線等の更新工事が主たる内容であるが、一部の設備については、既設設備をそのまま使用するため、親設設備と既設設備との配線、信号の受渡しを行う必要があり、既設設備を使用して浄水場の運転を行いながら、手順良く各設備を新設設備に更新していかなければならないという難しさもあった。 以上のことから、被告日立製作所以外の業者が本件工事を受注することは事実上不可能であったものであり、談合によって同被告が受注したとはいえない。 オ原告らは公正取引委員会の本件課徴金納付命令を根拠に談合の事実を主張するが、課徴金納付命令は、一定の不当な取引制限が行われた場合に、その実行期間における当該商品又は役務に関する売上の一定割合を事業者に課するものであって、対象たる商品又は役務の売上について当該不当な取引制限が行われたか否かを直接判断したものではなく、課徴金納付命令が出されたからといって当該商品又は役務の売上について当該不当な取引制限が行われたことを認定すべきものではない。また、公正取引委員会の排除勧告を応諾した場合でさえ、低い事実上の低い推定力しか認められない(最高裁平成元年12月8日第二小法廷判決・民集43巻11号1259頁)ことに照らせば、課徴金納付命令を争わなかったからといって、談合の事実を推定できるものでもない。 (6)争点(4)(損害の有無及び損害額)について(原告ら 二小法廷判決・民集43巻11号1259頁)ことに照らせば、課徴金納付命令を争わなかったからといって、談合の事実を推定できるものでもない。 (6)争点(4)(損害の有無及び損害額)について(原告らの主張)ア入札談合においては、想定落札価格(ないし契約金額)と現実の落札価格(ないし契約金額)との差額が談合による発注者の損害額と推定すべきところ、全国各地の指名競争入札における調査結果を検討すると、落札価格は、談合が成立した場合は予定価格に近づき、談合が成立しなかった場合には最低制限価格ないし予定価格の80パーセント程度の価格に近づく実態があるから、被告らによる談合行為がなければ形成されたであろう想定落札価格(ないし契約金額)は、現実の落札価格(ないし契約金額)より少なくとも20パーセントは低下していたはずである。したがって、本件における談合による損害も、現実の契約金額である9億7026万円の20パーセントであると推定され、県は1億9405万2000円の損害を被っている。 被告企業庁長は、予定価格の範囲内であれば、県に損害は発生していないと主張する。しかしながら、予定価格は、請負工事に係る指名競争入札においては、落札価格を決定するための基準となり、実質的には契約予定金額の上限としての性格を有するものであるところ、地方公共団体が競争入札を実施するのは、価格競争を通じて費用の低減を図り、もって納税者の利益を最大限に実現するためにある。そして、地方公共団体は、価格競争を通じて、契約予定金額の上限である予定価格から少しでも低い金額で契約を締結するために競争入札を行っているのであるから、競争入札において談合が行われた結果、予定価格ぎりぎりの価格で落札され、契約が締結されれば、県に価格競争が存した場合の契約金額と談合により価格競争が排除された場合 競争入札を行っているのであるから、競争入札において談合が行われた結果、予定価格ぎりぎりの価格で落札され、契約が締結されれば、県に価格競争が存した場合の契約金額と談合により価格競争が排除された場合の契約金額との差額分の損害が発生していることは明らかである。 イまた、県は、本件住民訴訟で原告らが勝訴し、確定した場合には、法242条の2第7項に基づき、原告らの訴訟代理人である弁護士に対して弁護士費用を支払う義務を負担しているので、これも損害に加算することができると解されるところ、その弁護士費用の額は、前記アの損害額の10パーセントが相当である。 ウしたがって、県は、被告両会社に対して、2億1345万7200円の損害賠償請求権を有している。なお、仮に前記アの20パーセントの低下が認められないとしても、その損害額を算定することが損害の性質上困難であるから、民事訴訟法248条の規定が適用されるべきである。 (被告企業庁長の主張)ア原告らは、本件請負契約は違法でなく、私法上も有効であると主張している。 そうであるならば、県がこれに基づいて代金を支払ったことは契約上の義務に基づく適法な公金の支出というべきであり、県が損害を被ったということはあり得ない。 イ地方公共団体が指名競争入札の方法により工事請負契約を締結するためには、入札に先立ち予定価格を定め、その制限の範囲内で、最低の価格をもって申込みをした者を契約の相手方としなければならない(法234条3項)。本件においても、予定価格が定められ、その範囲内で落札者が決定されたものである。仮にその落札価格が結果として限りなく予定価格に近いものであって、予定価格を大幅に下回るものではなかったとしても、県が損害を被るものではない。 ウ本件工手の入札には、山手会のメンバーではなく、談合に加わっていない東芝 として限りなく予定価格に近いものであって、予定価格を大幅に下回るものではなかったとしても、県が損害を被るものではない。 ウ本件工手の入札には、山手会のメンバーではなく、談合に加わっていない東芝及び三菱電機も参加しているが、これら2社の入札価格は、被告日立製作所の入札価格よりも高い額となっている。このことは、原告らが主張するように談合がない場合においての落札価格が予定価格を大幅に下回るものではないことを示している。 エそもそも落札価格が予定価格に限りなく近い額になるのは、入札の実態からすればむしろ当然のことである。すなわち、第1回の入札で落札者がいない場合には、その入札において1番低い額が公表され、その上で第2回の入札が行われるという方法が繰り返されるから、落札価格は必然的に予定価格に近い額となっていくのである。また、指名競争入札においては、入札に先立ち、発注者である県から指名業者に対して、積算のための設計図書等の提供があらかじめ行われ、指名業者はこれに基づき、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期限の長短を考慮して、受注に向けての積算を行うことになるが、発注者と指名業者は、客観的には同じ設計図書等に基づき、その時点における現実の取引実例等を参考にして、具体的な現実的工事価格を算出するのであるから、発注者の見積額(予定価格)と受注者の見積額(落札価格)とが20パーゼントも乖離するということはあり得ない。 (被告両会社の主張)ア原告らは、本件工事と無関係な入札事例から損害額を類推するのみであり、本件工事に関する愛知県の具体的損害の発生を何ら主張立証していない。民事訴訟法248条は、損害の発生について立証された場合に初めて適用されるものであり、その立証がされていない本件においては適用されない。 イ前記のとおり、 具体的損害の発生を何ら主張立証していない。民事訴訟法248条は、損害の発生について立証された場合に初めて適用されるものであり、その立証がされていない本件においては適用されない。 イ前記のとおり、本件工事を被告日立製作所以外の業者が受注することは事実上不可能であった。したがって、山手会の存在にかかわらず、本件工事の入札に当たっては、被告日立製作所のみが受注を希望し、他社は受注を希望しなかったため、実質的な競争は存在しなかった。このような状況下では、価格連絡がなかったとしても被告日立製作所は自ら積算した価格で応札し、他社は落札しない価格で応札したはずであるから、価格連絡は他社の応札価格の金額の算定を容易あるいは不要にしたにすぎず、価格連絡によって県には何らの損害も生じていない。 (7) 争点(5)(被告企業庁長の違法な怠る事実)について(原告らの主張)県が被告会社ら5社に対して共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有していることは明らかであるにもかかわらず、被告企業庁長はこれを行使して損害を回復するための措置を全く取ろうとはしない。このこと自体、違法に県の財産の管理を怠っているといわざるを得ない。 (被告企業庁長の主張)原告らは、県につき財務会計上の行為である「財産の管理」には何らの違法もないと主張していることに帰するから、これを怠る事実として構成することはできない。 また、怠る事実は、地方公共団体の長その他の職員が、公務員として当然なすべき職責を有する場合に初めて問題になり得るところ、原告らは上記職責の根拠となる具体的な法令を特定、指摘しないから、その違反も問題となり得ない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)ア(監査請求期間制限適用の有無)について(1) 法242条2項本文は、「当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過した いから、その違反も問題となり得ない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)ア(監査請求期間制限適用の有無)について(1) 法242条2項本文は、「当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過したとき」は住民監査請求をすることができないと定め、監査請求期間に制限を設けている。同規定は、たとえ財務会計上の行為が違法、不当なものであったとしても、同行為が(普通)地方公共団体の行為である以上、いつまでも住民監査請求の対象となり得るものとしておくことは、法的安定性を損ない好ましくないとの考えから、地方公共団体の財政を健全ならしめるという住民監査請求の目的との調和を図るべく、住民監査請求をすることができる期間を制限したものである。もっとも、同項は、文言上「怠る事実」(同条1項後段)についてはその対象としていないこと、実質的にも、怠る事実のような不作為については期間計算上の起算点が観念し難く、それが継続している限り違法ないし不当な財務会計行為は現に存在していると考えられるから、法的安定性を損なうおそれはなく、これをいつでも住民監査請求の対象とすることができるとすることが住民監査請求の目的に照らし合理的であることから、怠る事実に係る住民監査請求については、原則として、同項本文の期間制限の規定の適用はないというべきである(昭和53年判決参照)。 しかしながら、違法な怠る事実を対象とした住民監査請求であっても、地方公共団体の執行機関が違法に公金を支出したり、契約を締結したことによって、地方公共団体が当該職員又は当該財務会計行為の相手方に対して取得した損害賠償請求権又は不当利得返還請求権(これらの実体法上の請求も「財産」に該当することにつき法237条1項、240条1項参照)等の実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とする場合には、住民は、本来、前記の公 求権又は不当利得返還請求権(これらの実体法上の請求も「財産」に該当することにつき法237条1項、240条1項参照)等の実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とする場合には、住民は、本来、前記の公金の支出や契約の締結などの財務会計上の行為の違法を理由として、当該財務会計行為を住民監査請求の対象にできたはずであり、それら財務会計上の行為を対象としていたならば、法242条2項本文の適用を受けて監査請求期間が経過している場合であっても、怠る事実という構成を採ることによって、期間制限を免れることができることになれば、住民監査請求に期間制限を設けた前記の趣旨を没却することになりかねない。 そこで、地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして法242条1項の規定による住民監査請求があった場合に、同監査請求が、当該地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし、当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときは、当該監査請求について、上記怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として、同条2項の規定を適用すべきものと解するのが相当である(昭和62年判決参照)。 ところで、住民監査請求においては、原則としてその対象となる行為又は怠る事実を他のそれらと区別し、特定して認識できるように個別的、具体的に摘示しなければならない(最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決・民集44巻4号719頁参照)が、怠る事実の場合は、当該地方公共団体の不作為を問題とするものであるから、この場合における対象の特定は、怠っていると主張される財産を特定することによってなされることになる。そして、当該財産が債権の場合は、その発生原因 当該地方公共団体の不作為を問題とするものであるから、この場合における対象の特定は、怠っていると主張される財産を特定することによってなされることになる。そして、当該財産が債権の場合は、その発生原因事実によって特定されることはいうまでもない。 住民監査請求における対象の特定責任は、監査請求人に課せられているから(特定が不十分である場合は、当該監査請求が却下されるという形で監査請求人の不利益に帰せしめられることにつき、上記最高裁判決参照)、住民監査請求の対象となる怠る事実が何であるか、すなわち、本件についていえば、行使を怠る債権が何であるかは、当該監査請求において監査請求人が摘示した事実を基本として判断すべきものであり、その法的性質も摘示された事実からどのような請求権の発生原因事実として構成できるかという観点から決定されるべきである。もっとも、住民監査請求においては、監査請求書だけでなく添付書類を参考にしても、必ずしも訴訟におけるような債権の発生原因事実が明確に摘示されているとは限らないが、このような場合であっても、事案によっては監査請求人が付した請求権の名称や法律構成等を手掛かりとして、監査請求人の合理的な意思を探求すべきである(この意味で、監査請求人の法律構成は、監査請求の対象を把握する上で全く無縁のものとはいえない。)。なお、監査請求を受けた監査委員は、監査請求人が主張する違法、不当事由に拘束されることなく、それ以外の点にわたって監査することが可能であり、また、監査委員が勧告できる是正措置は、監査請求人が求める内容に拘束されず、違法又は不当な財務会計行為を是正し、地方公共団体の被った損害を補填するのに必要な一切の内容に及び得るが、このことは、監査の対象となる行為又は怠る事実を確定するに際し、監査請求人が摘示した事実が基本となるとの原 な財務会計行為を是正し、地方公共団体の被った損害を補填するのに必要な一切の内容に及び得るが、このことは、監査の対象となる行為又は怠る事実を確定するに際し、監査請求人が摘示した事実が基本となるとの原則の正当性を損なうものではない。 この点につき、被告らは、財務会計上の行為の違法とは、当該行為が是正されるべき客観的な違法性が存することであるとの前提で、請求を受けた監査委員はそれら客観的違法性を有する事実すべてについて監査の対象とし、必要な措置を講ずることができるのであるから、実際に違法な財務会計行為があり、その財務会計上の行為を基礎とする損害賠償請求が可能であるならば、原告らが怠る事実の構成を採っていたとしても、そのような財務会計行為もまた監査請求の対象となると主張する。 しかしながら、被告らの上記主張が、住民監査請求において摘示されていない行為、事実であっても、客観的違法性を有する限り、監査請求の対象とされるべきであるとの趣旨であるならば、それは前記の特定責任を無視するものとの批判を免れないばかりか、監査請求の対象となる行為、事実の特定の問題と当該監査請求において監査の原因となる違法事由の存否の問題とを混同するものであるといわざるを得ない。すなわち、監査請求人が監査請求の原因とする違法事由の存否は、論理的にはあくまで同請求において対象とした当該行為又は怠る事実が特定された後に問題とされるべきものであるのに、被告らの主張は、違法事由の存否を基準にして監査請求の対象を特定することに帰するといわざるを得ず、その不当なことは明らかである。 (2) そこで、本件監査請求の対象について検討するに、本件監査請求書及び補正書(甲2の1、3)には、ア県は、平成5年度に本件工事を指名競争入札の方式により発注したこと、イ県は、アの入札で落札した被告 そこで、本件監査請求の対象について検討するに、本件監査請求書及び補正書(甲2の1、3)には、ア県は、平成5年度に本件工事を指名競争入札の方式により発注したこと、イ県は、アの入札で落札した被告日立製作所との間で、契約金額9億7026万円にて本件請負契約を締結したこと、ウイの代金は支払済みであること、エ地方公共団体が発注する浄水場等の水道施設に係る特定計装設備工事については、被告会社ら5社による談合組織「山手会」が結成されていたこと、オ被告会社ら5社は、遅くとも平成元年1月以降、エの工事に関して受注価格の低落防止を図るため、山手会にて受注予定者を決定し、入札価格を調整する談合を行ったこと、カ公正な競争が確保されていたのであれば、落札価格(契約金額)は20パーセント以上低くなったこと、等の事実が摘示され、これらを踏まえた要約として、前記第2の1(4)のとおり、本件監査請求は、被告会社ら5社は、本件請負契約について、「談合という共同不法行為によって契約金額を不当につり上げることにより、工事発注者である県に対して、談合によってつり上げられた契約金額と公正な競争が確保されていた場合の契約金額との差額に相当する損害を与えた」ところ、愛知県知事若しくは被告企業庁長は県が被告両会社ら入札参加者に対して有する損害賠償請求権を行使して県の被った損害を補填する措置を講ずる責任があるのにこれを怠っているので、愛知県知事若しくは被告企業庁長に対して、この措置を講ずべきことを勧告することを求めるものであることが述べられているから、監査請求人である原告らは、被告会社ら5社による共同不法行為(詐欺類型)に基づく損害賠償請求権を県の財産ととらえ、その行使を被告企業庁長らが怠っていることを監査請求の対象としていると認められる。 (3) さらに進んで、こ 、被告会社ら5社による共同不法行為(詐欺類型)に基づく損害賠償請求権を県の財産ととらえ、その行使を被告企業庁長らが怠っていることを監査請求の対象としていると認められる。 (3) さらに進んで、この怠る事実に係る本件監査請求が期間制限を受けるか否か(すなわち、真正怠る事実か、不真正怠る事実か)について検討する。 被告らは、原告ら主張のように、被告両会社ら入札参加者が談合した上で本件請負契約を締結し、その結果、県の支払った契約代金が不当に高額であったというのであれば、契約代金に係る財務会計上の行為は、民法90条、91条により無効であるか、または地方公共団体は必要最小限度の経費しか支出してはならない趣旨を定めた地方財政法4条1項、法2条13項等に反するものとして違法であり、その時点でこれを是正する住民監査請求が可能であるから、本件請負契約の締結という特定の財務会計行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって本件監査請求の対象とされた怠る事実を構成していることに帰するというべきであり、したがって不真正怠る事実に該当すると主張する。 しかしながら、前記のとおり、監査請求の対象は、監査請求書において監査請求人が摘示した事実を基礎として判断すべきものであるところ、そもそも契約法理に基づく債権の発生原因事実と不法行為に基づく債権のそれとは必ずしも重なり合うものではない。すなわち、原告らの主張する不法行為を詐欺類型と見れば、これに基づく損害賠償請求権の発生原因事実としては、①欺罔行為の存在(被告両会社ら入札参加者による談合の成立と県の契約担当職員に対して、談合が行われていることを秘して、入札価格が適正に形成されるかのように誤信させる行為をしたこと)、②損害の発生(県に公正な競争の下で形成されるべき金額を超える請負代金 立と県の契約担当職員に対して、談合が行われていることを秘して、入札価格が適正に形成されるかのように誤信させる行為をしたこと)、②損害の発生(県に公正な競争の下で形成されるべき金額を超える請負代金の支払をさせたこと)、③欺罔行為と損害発生の間の因果関係の存在、が挙げられるのであって、本件請負契約の締結や支出負担行為、支出命令等の特定の財務会計行為は、③の損害発生に至る因果関係の流れとして現れるにすぎず、少なくとも、上記の特定の財務会計行為が違法、無効であることに基づいて発生する請求権の発生原因事実とは完全に一致するものではない。例えば、本件監査請求書には、特定の財務会計行為というべき本件請負契約の締結の事実が現れているものの、厳密にいえば、不法行為に基づく損害賠償請求権としては、「県の契約担当職員をして公正な競争を前提とする価格が形成されるものと誤信せしめ、この誤信に基づいて本件請負契約締結の意思表示をなさしめた」ことが損害発生に至る因果関係の要件事実として考えられるのに対し、財務会計行為の違法、無効に基づく請求権としては、「県の契約担当職員は、本件請負契約締結の意思表示をした」ことが要件事実となり、不法行為者による欺罔行為(不作為を含む。)や県の契約担当職員が錯誤に陥った事実を要しない。また、談合成立の事実は、前者においては不法行為の具体的内容になるけれども、後者においては、価格が必要最小限度の経費として想定される金額を超えていることの間接事実にすぎず、当該事実があるからといって直ちに経費の必要最小限度性に反することにはならない(地方財政法4条1項や法2条13項に違反した場合に直ちに一部ないし全部の無効という法的効果をもたらすかについては議論の余地があるところであるが、これを肯定する場合には、少なくともそこでいう「経費」とは、客観 4条1項や法2条13項に違反した場合に直ちに一部ないし全部の無効という法的効果をもたらすかについては議論の余地があるところであるが、これを肯定する場合には、少なくともそこでいう「経費」とは、客観的見地から見て通常必要とされる費用を指すところ、地方公共団体が支払うべき「代金」については、客観的に適正と認められる原価、人件費、管理費等に適正な利潤を加えた金額を意味すると解される。談合が行われた場合には、公正な市場価格の形成が妨げられたわけであるから、多くの場合は価格が「必要最小限度の経費」を上回っていると認定することが可能と思われ、その意味で重要な間接事実となり得ることは否定できないが、入札による落札価格の形成には、入札者の思惑的な要因が影響することも多く、両者が常に一致するものとはいえない。例えば、最低制限価格が設定されていない入札において、資力に余裕のある入札者が、そうでない他の入札者に打撃を与えるべく、原価を大幅に割り込んだ採算度外視の価格でもって入札しようと予定していたところ、談合によってこれを取り止めた結果、客観的に適正な価格でもって落札されたケースにおいては、談合という不法行為の成立は否定し難いものの、上記各法条については、必ずしも違反しているとはいえない。)。 このように、不法行為による損害賠償請求権発生と特定の財務会計行為の違法、無効を理由とする請求権発生との間で、その発生原因事実が異なることは、公有財産の窃盗、横領、無断使用等の取引行為等を介在させない事実的不法行為の場合を想定すれば、一層明白となる(この場合は、財務会計行為が要件事実として現れることはない、ましてやその違法ないし無効を要するものではない。)。 また、そもそも本件における被告富士電機のように、談合に加わったことから共同不法行為者としての責任は免れ難いも 要件事実として現れることはない、ましてやその違法ないし無効を要するものではない。)。 また、そもそも本件における被告富士電機のように、談合に加わったことから共同不法行為者としての責任は免れ難いものの、請負契約の当事者になることがなかった者に対する損害賠償請求権については、特定の財務会計行為の違法、無効を理由とすることはあり得ない。 したがって、摘示された談合という共同不法行為に基づく損害賠償請求権の発生原因事実から、直ちに本件請負契約の違法、無効に基づく請求権の発生を読み取れる関係にないというべきであり、比喩的に表現すれば、両者の請求権は「表裏一体の関係」にないから、本件監査請求書に現れた事実から、監査請求人たる原告らが本件請負契約の特定の財務会計行為の違法、無効に基づいて発生する請求権を怠る事実の対象としていると見るのは牽強付会というほかなく、結局、本件監査請求の対象が不真正怠る事実であるとの主張、は採用できない(本件請負契約締結時点で、何らかの住民監査請求が可能であるとしても、そもそも是正の対象が異なるから、上記判断を覆すものではない。)。 (4) もっとも、発生原因事実が完全に一致せず、昭和62年判決にいう不真正怠る事実に該当しないとしても、社会的事実としては重なり合う部分が多く、監査請求人としては、本件請求契約や公金支出等の財務会計行為の違法、無効に基づく不当利得返還請求権等として怠る財産を構成することが容易であるとも考えられることから、財務会計行為の早期の法的安定性を実現するためには、前掲62年判決の射程距離を拡大し、このような場合にも監査請求の期間制限を受けると解すべきであるとの見解もあり得る。しかしながら、私法上の取引である限り、地方公共団体がその一方当事者であるという一事をもって、私人間の取引より特に取引の安全を図 合にも監査請求の期間制限を受けると解すべきであるとの見解もあり得る。しかしながら、私法上の取引である限り、地方公共団体がその一方当事者であるという一事をもって、私人間の取引より特に取引の安全を図るべきかは慎重になるべきで、被害回復の必要性を無視してまで、財務会計行為の早期の法的安定性を図る必要性は乏しいと考えられる上、前記のような怠る事実について監査請求の期間制限を課さない理由を軽視ないし無視するものとの批判を免れず、上記見解には賛成し難い。 (5) そもそも住民監査請求の制度は、住民訴訟の源であるTaxPayer’sSuitの制度にもない我が国独自のものであるが、その趣旨は、住民訴訟と同様に地方公共団体の財政の腐財防止を図り、住民全体の利益を確保する見地から、当該地方公共団体の長その他の財務会計職員の違法若しくは不当な財務会計上の行為又は怠る事実について、その監査と予防、是正等の措置とを監査委員に請求する権能を住民に与えたものである(昭和62年判決参照)ところ、上記のような判断は、かかる制度趣旨によく適合すると解される。 以上を総合すると、本件監査請求は、いわゆる真正怠る事実についてのものであって、法242条2項本文の規定の適用はないというべきである。 争点(2)(怠る事実の違法確認請求の訴えの利益)被告企業庁長は、法242条の2第1項4号に基づき、被告両会社に対し、県に代位して不法行為による損害賠償請求がなされている以上、被告企業庁長に対する同項3号による違法確認請求を並立させる訴訟上の意義は存在しないし、地方公共団体としてはもはや相手方に対して当該損害賠償請求権を行使して同一の請求をすることはできないから、本件では被告企業庁長に対する怠る事実の違法確認の訴えは訴えの利益を欠くものであると主張する。 しかしながら、4号請 や相手方に対して当該損害賠償請求権を行使して同一の請求をすることはできないから、本件では被告企業庁長に対する怠る事実の違法確認の訴えは訴えの利益を欠くものであると主張する。 しかしながら、4号請求における訴訟物が地方公共団体の有する実体上の請求権であるのに対し、3号請求は怠る事実の違法性の法律状態が訴訟物であるから、両請求は訴訟物を異にするし、客観訴訟である住民訴訟に、主観訴訟において形成された民事訴訟法上の確認の利益という概念をそのまま当てはめることはできない。 そうすると、3号請求と4号請求の同時存立の可否は、法が定める範囲でのみ訴えを提起できる客観訴訟の一類型としての3号請求が、いかなる条件の下で訴えの提起を認められていると解するかによって決せられるべきところ、法242条の2第1項は住民訴訟の4つの請求形式に優先順位を定めておらず、複数の請求を許さない旨の定めも存しないこと、実質的に見ても、住民による4号請求の提起と、3号請求の住民勝訴により地方公共団体自らが請求権を行使する場合とでは、その法律上の効果を異にし、両請求のどちらが有効適切であるかは個々の事案で異なる(3号請求の場合、最終的な被害の回復は、当該地方公共団体の手に委ねられるが、逆に住民としては、執行債権者としての負担を免れる利益がある。)から、両請求のいずれを選択するか、あるいは両方を提起するかは住民の意思に委ねられていると考えられること、長などの執行機関等は、4号請求訴訟の係属中に訴訟参加等の手続を取らない以上、その不作為が違法と評価されてもやむを得ないこと、これらを総合すると、両請求を並立して提起することを認めるのが相当であるから、4号請求がなされているときは3号請求は訴えの利益を欠くとの被告企業庁長の主張は採用できない。 3 争点(3)(談合行為の有無)について ると、両請求を並立して提起することを認めるのが相当であるから、4号請求がなされているときは3号請求は訴えの利益を欠くとの被告企業庁長の主張は採用できない。 3 争点(3)(談合行為の有無)について(1) 前期第2の1(2)、(3)の事実に証拠(甲10、14ないし20、22、26、乙イ3、10、19)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。 ア地方公共団体の発注する特定計装設備工事の指名競争入札については被告会社ら5社が指名を受けることが多かったが、一部についてその取引先の代理店が指名を受けた場合には、被告会社ら5社は、自己が製造するデジタル計装制御システム等を供結することが見込まれることから、当該、工事に関し、あらかじめ代理店から発注者等に対する営業活動の程度を報告させるとともに、自己の承認する価格をもって入札させていた。 イ被告会社ら5社は、遅くとも昭和50代初めころから、部課長職の者が出席し、地方公共団体の発注する上水道設備工事等の情報交換を行うことを目的とする山手会と称せられる会合を毎週水曜日の午後に開催してきたが、いつのころからか、その出席者らの間で、地方公共団体が指名競争入札の方法により発注する特定計装設備工事について、受注価格の低落防止を図るため、概ね以下の内容が了解されるに至った。 (ア)被告会社ら5社は、山手会において、入札の指名を受けた工事を報告するとともに、当該工事について受注希望の有無を表明する。 (イ)当該工事について受注を希望する者が1社の場合は、その者を受注予定者とし、受注希望者が複数の場合は、当該工事に関して発注者等に対する営業活動の程度又は過去の工事実績(既設工事か新設工事か)を勘案して、受注希望者の間の話合いにより受注予定者を決定する。 (ウ)受注予定者以外の相指名業者は、受注予定者の 工事に関して発注者等に対する営業活動の程度又は過去の工事実績(既設工事か新設工事か)を勘案して、受注希望者の間の話合いにより受注予定者を決定する。 (ウ)受注予定者以外の相指名業者は、受注予定者の入札価格よりも高い価格で入札することにより、受注予定者が受注できるように協力する。 (エ)当該工事について指名を受けた業者の中に被告会社ら5社の代理店が含まれている場合は、5社のうち当該代理店に対しデジタル計装制御システム等を供給する者が指名を受けたものとして、前記(ア)ないし(ウ)の方法により受注予定者を決定し、その者が受注できるように計らう。 ウ被告会社ら5社の担当者は、上記の了解事項に基づき、遅くとも平成元年以降恒常的に山手会において、入札の指名を受けた工事を報告し、受注希望の有無を表明して受注予定者を決定するようにしていた(その際、工事予定現場において既に受注実績を有する既設業者が受注の希望を表明した場合は、これを尊重するのが通例であった。)が、会合の場で受注希望、の有無を確認できなかったり、受注希望者が複数いた場合には、会合の後、担当者間で電話により受注予定者を決定していた。そして、入札日が近づくと、当該工事の相指名業者の営業担当者は、受注予定の会社の担当者に対し、積算の結果得られた入札予定価格を電話で伝え、「いいじゃないの。」とか「うちはもう少し高い。」といった反応を得て入札予定価格を修正する必要の有無を判断し、さらに1回目の入札で落札できなかった場合の減額幅についても同様のやり取りをすることによって、受注予定者が落札できるように互いに入札予定価格を調整していた。 なお、山手会に参加していない業者が入札の指名を受けた場合であっても、その者が受注の希望を有していないときは、上記と同様の入札予定価格の調整が行われるのが通例であった 札予定価格を調整していた。 なお、山手会に参加していない業者が入札の指名を受けた場合であっても、その者が受注の希望を有していないときは、上記と同様の入札予定価格の調整が行われるのが通例であった。 エ本件工事の入札は、山手会を構成する被告両会社と横河電機のほか、東芝と三菱電機が参加して行われたが、その経緯は前記第2の1(2)アのとおりであり、既設業者である被告日立製作所が1回目の入札で最低入札価格の9億5500万円を入れたが、予定価格を超過したために落札に至らず、2回目の入札で同被告が再び最低入札価格である9億4200万円を入れることによって、落札するに至った。 オ被告会社ら5社は、平成元年1月以降、前記の方法により、地方公共団体の発注に係る工事について受注予定者が受注できるように協力して入札を行ってきたが公正取引委員会が独禁法の規定に基づき審査を開始し、平成6年3月24日、被告会社ら5社の本社、支店等に対し立入検査を行ったことから、同月25日以後は前記の方法による入札を取り止めた。 公正取引委員会は、審査の結果、被告会社ら5社による不当な取引制限(独禁法2条6項)を認定した上、違反行為の実行期間内に入札が実施された本件工事を含む27工事を対象として、株式会社島津製作所を除く被告会社ら4社に対し、本件課徴金納付命令を出したが、株式会社島津製作所については上記期間内における受注実績がなかったことから、課徴金納付命令は出さなかった。 (2) そこで、上記認定事実を基に談合の成否について判断するに、一般的に、指名業者の全部又は一部が一同に会した場において、受注希望者がその受注の意思を表明して会合参加者の間で受注予定者を確認しその後に指名業者間で受注予定価格の連絡を相互に行うことは、客観的には受注価格の低落防止を目的とし、かつ、そのよう 場において、受注希望者がその受注の意思を表明して会合参加者の間で受注予定者を確認しその後に指名業者間で受注予定価格の連絡を相互に行うことは、客観的には受注価格の低落防止を目的とし、かつ、そのような結果をもたらすものであって、入札談合(カルテル)の典型的行為ともいうべきものであり、独禁法3条の不当な取引制限に該当すると同時に、民事上も明らかに自由競争の枠を逸脱した違法な行為であるというべきである。 そして、被告両会社は、被告日立製作所の担当者が、山手会の会合において、本件工事の既設業者である旨を表明したこと及び山手会のメンバーでない東芝及び三菱電機を含めた指名業者間で入札価格に関する価格連絡を行ったことを自認しているところ、かかる手法は前記で認定した談合の典型的方法に一致すること、公正取引委員会の本件課徴金納付命令は本件工事をも対象としていること、逆に本件工事が山手会を通じた受注予定者の決定や入札価格の対象から外れたことをうかがわせる証拠は皆無であること、以上を総合すれば、本件工事についても不正な談合行為が行われたと認めるに十分である。 (3) この点につき、被告両会社は、①山手会は単なる情報交換の場であって、そこにおいて受注予定者が決定されたことはなく、指名業者間でなされていた価格連絡も、受注価格の低落防止のために行われていたものではないこと、②本件工事の入札には、山手会に参加していない東芝及び三菱電機も参加しており、山手会を通じた受注予定者の決定は不可能であること、③本件工事のような既設工事については、事実上、既設業者以外の者が受注することは不可能であり、被告日立製作所以外、受注希望を表明した業者はいなかったこと、などを主張して談合の成立を否認するところ、これに沿うかのごとき証拠(甲26、乙イ10の各一部)もある。 しかし、①に とは不可能であり、被告日立製作所以外、受注希望を表明した業者はいなかったこと、などを主張して談合の成立を否認するところ、これに沿うかのごとき証拠(甲26、乙イ10の各一部)もある。 しかし、①については、上記各証拠自体、全体としては山手会を通じた談合を否定するものとはいえず、かえって前期認定に資する十分な証拠(例えば、甲14、19、乙イ19)が存在すること、②についても、前記認定、判断のとおり、山手会に参加していない業者が入札に参加した場合にも、談合が成立し得ることを示す証拠(乙イ10、19)があり、被告両会社も、これらの業者との価格連絡の事実を自認していること、③については、後記のとおり、損害額の算定について斟酌すべき特別の事情があることは否定できないが、前記認定のとおり、既設工事であっても、それ以外の工事と同様の受注希望の表明と入札価格の調整が行われていたこと自体、既設業者以外の業者による価格競争と落札の可能性を肯定するものと考えられ、これに沿う証拠(甲19、乙イ10)も存在すること、以上のとおりであって、被告両会社の前記各主張はいずれも採用できない。 4 争点(4)(損害発生の有無及び損害額)について(1) 損害発生の有無について被告両会社ら入札参加者による前記認定のような談合行為は、指名競争入札前に受注予定者を決め、その者が落札できるように互いに入札予定価格を調整して、受注予定者に希望どおり落札させるというものであって、これは結局、指名業者間で公正な競争をすることにより落札価格の低落を防ぎ、受注した業者の利益を図るものであるから、個別の工事について入札談合が行われた場合には、当該工事の発注者である地方公共団体は、談合が行われなかった場合に形成されたであろう公正な競争を前提とする価格よりも高額な金額で請負契約を締結した蓋然 、個別の工事について入札談合が行われた場合には、当該工事の発注者である地方公共団体は、談合が行われなかった場合に形成されたであろう公正な競争を前提とする価格よりも高額な金額で請負契約を締結した蓋然性が高いといわざるを得ず、その高額の契約金額の支払をすることによって両者の差額相当分の損害を被ったと認めるのが相当である。この点につき、被告企業庁長は、被告両会社ら入札参加者が本件工事について不正な談合行為を行い、その結果、落札価格が予定価格に限りなく近づいたとしても、予定価格の範囲内である以上、県に損害が発生したとはいえないと主張し、また、被告両会社は、既設工事である本件工事については、実質的な競争は存在せず、談合がなくても被告日立製作所が同じ金額で落札したはずであり、指名業者間の価格連絡は、他社の応札価格の金額の算定を容易あるいは不要にしたにすぎず、これによって県には何らの損害も生じていないと主張する。 しかしながら、前記認定、判断のとおり、談合が存在した場合とそうでない場合とにおいて、落札価格に差異を生ずる蓋然性が認められること自体、損害の発生を根拠づけるものであり、既設工事であっても、既設業者以外の業者による価格競争と落札の可能性がある以上、上記の蓋然性を否定できないから、被告らの上記各主張はいずれも採用できない。 (2) 損害額についてア前記のとおり、談合行為によって発注者が被った損害とは、談合行為がなければ指名業者間の公正な競争を経て入札された場合に形成されたであろう契約金額(又は想定落札価格)と現実の契約金額(又は落札価格)との差額相当額であると解するのが相当である。 したがって、本件において、県が被った損害を確定するためには、本件工事の指名競争入札において談合行為がなければ形成されたであろう契約金額について検討すること 相当額であると解するのが相当である。 したがって、本件において、県が被った損害を確定するためには、本件工事の指名競争入札において談合行為がなければ形成されたであろう契約金額について検討することが必要である。 イこの点につき、原告らは、全国各地の指名競争入札における落札価格は、談合が成立すると予定価格に近づき、談合が成立できなかった場合には最低制限価格ないし予定価格の80パーセント程度の価格に近づく実態があると主張して、本件工事においても、県は少なくとも現実の落札価格の20パーセントに相当する額の損害を被ったと主張し、これに沿う内容の証拠(甲30の1、2、31ないし35、36の1、2、37の1、2、38の1ないし4、39、40、41の1、2、42の1、2、43、44、45の1、2、46、47の1、2、48の1ないし8、49)も一応存在する。 しかしながら、指名競争入札においては、入札に係る工事の規模、種類や特殊性のほか、入札指名業者の数や各業者の事業規模、さらに入札当時の社会経済情勢、入札が行われた地域の特性など、様々な要因が複雑に影響し合って落札価格が形成されるものであるから、このような要因の近似性を検討することなく、単純に他の地方公共団体における指名競争入札を例に取って調査した場合の想定落札価格と対比するのみでは、損害額の認定として不正確であると言わざるを得ないところ、本件において原告らが提出する前記各証拠は、いずれも本件工事と近似した条件下における調査結果であるのか不明であるから、これらを基に本件における損害額を認定することは困難である。また、最低制限価格とは、これ以下の価格では適正な内容の工事がされるとは考え難いとされる限度額であり、過当競争の結果、手抜き工事となることを防ぐため、たとえ入札価格が低くてもこれ以下の価格では ある。また、最低制限価格とは、これ以下の価格では適正な内容の工事がされるとは考え難いとされる限度額であり、過当競争の結果、手抜き工事となることを防ぐため、たとえ入札価格が低くてもこれ以下の価格では受注させないとして設定された額にすぎないところ、種々の要因の異同にかかわらず、一般的に談合がされなかった場合の落札価格が最低制限価格に近づくとの客槻的経験則を認めるに足りる的確な証拠はないから、この価格をもって談合がされず公正に行われた入札において想定される落札価格であると認めることはできず、結局、原告らの前記主張は採用できない。 ウもっとも、前記のとおり、本件において、県に損害が発生していること自体は認められるところ、指名競争入札における落札価格を形成する要因は多種多様であって、影響力についても公式化することができないことにかんがみると、入札談合の事例における損害は、その性質上、金額算定が極めて困難というべきであるから、本件では、民事訴訟法248条を適用して県が被った損害額を認定するのが相当である。 エそこで、さらに検討するに、証拠(乙イ16、18、23、26、証人B)によれば、本件工事は主として浄水場の計装設備の更新工事であるが、その対象となった幸田浄水場計装設備に関しては、同浄水場着工時に、被告日立製作所が計装設備一式の工事を受注し、納入して以来、同被告が計装設備に関するすべての工事を指名競争入札等の方法により受注し、同設備についてのメンテナンスを行ってきたものであり、その結果、被告日立製作所は、同設備の機器の仕様やケーブルの配置等の細部について容易に知り得る立場にあって、入札に当たっての積算が容易であったのに対し、他の指名業者が正確な積算を行う場合には、被告日立製作所の協力を得ることが必要であり、かつ、受注した場合も、既存の設備と ついて容易に知り得る立場にあって、入札に当たっての積算が容易であったのに対し、他の指名業者が正確な積算を行う場合には、被告日立製作所の協力を得ることが必要であり、かつ、受注した場合も、既存の設備との整合を計るために、相応の経費、努力を要すると認められる。そうすると、本件工事について、仮に被告両会社ら入札参加者による入札談合がなく、公正な競争を経ていたとしても、被告日立製作所以外の他の指名業者が同被告に対抗して価格競争を積極的に展開する蓋然性はさして高いとはいえず、通常の談合の場合と比べてその落札価格が予定価格に近づく可能性は否定し難いので、被告日立製作所が幸田浄水場計装設備に関する既設業者であることを本件の損害額算定に当たって考慮するのが相当である。 以上のような本件工事の特殊性に加え、前記で認定した本件工事に関する被告両会社ら入札参加者による一連の談合行為の態様、本件工事の入札経過、本件工事の入札予定価格及び契約金額、被告会社ら5社が我が国を代表する重機メーカーであり、高い競争力を有することは公知の事実であること等本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、被告両会社ら入札参加者の談合行為により県の被った損害額は、本件請負契約の契約金額の5パーセント(4851万3000円)であると認めるのが相当である。 オ弁護士費用について原告らは、本件訴訟において、原告らの代理人となった弁護士に対して支払うべき報酬についても談合行為によって県が被った損害として併せて請求しているので検討する。 住民訴訟としていわゆる代位請求訴訟(法242条の2第1項4号)を提起した者が勝訴した場合において、弁護士に報酬を支払うべきときは、地方公共団体に対し、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる(同条7項)。しかしながら、県に上 項4号)を提起した者が勝訴した場合において、弁護士に報酬を支払うべきときは、地方公共団体に対し、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる(同条7項)。しかしながら、県に上記報酬相当の損害が発生したというためには、勝訴が確定した後、県が同項に基づいた原告らからの請求により、その弁護士の報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払約束をするか、あるいはこれを支払ったことなど、県による出捐の確実性が必要であり、これらの事実の認められない現段階において、県にそのような損害が発生したということはできない。また、住民らの当該地方公共団体に対する弁護士報酬支払請求権は、事務管理の費用償還請求権に類した性格を有すると解されるが、事務管理者(原告ら住民)が本人である地方公共団体に代位して、相手方(被告両会社)に対し、事務管理者が要した事務管理費用(弁護士費用)を地方公共団体に償還することを求めるためには、その旨の特別の規定が必要というべきところ、そのような規定も存しない。 よって、いずれの観点からもこの点に関する原告らの請求は理由がない。 5 争点(5)(被告企業庁長の違法な怠る事実)について地方公共団体が有する債権については、その長がこれを公使すべき義務を負い、行使するか否かの裁量権を有しない(法施行令171条以下、なお、法96条1項10号参照)から、長が正当な理由なく相当な期間債権を行使しないときは、違法に財産の管理を怠る事実が成立するものと解されるところ、前記認定のとおり、県は、被告両会社ら入札参加者による共同不法行為(談合)に基づき、被告両会社ら入札参加者に対して損害賠償請求権を有していると認められるにもかかわらず、公正取引委員会が被告会社ら5社に対して本件課徴金納付命令を発した後も今日に至るまで、行使していないことは づき、被告両会社ら入札参加者に対して損害賠償請求権を有していると認められるにもかかわらず、公正取引委員会が被告会社ら5社に対して本件課徴金納付命令を発した後も今日に至るまで、行使していないことは当裁判所に顕著である。 そして、被告企業庁長が被告両会社ら入札参加者に対する損害賠償請求権の行使を怠っていることを正当化するに足りる事情が認められない本件においては、上記不作為は違法というべきである。 第4 結論以上の次第で、原告らの本訴請求は、被告両会社に対して金4851万3000円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日(被告富士電機については、平成8年3月8日、被告日立製作所については同月7日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、被告企業庁長に対しても上記金額の債権の行使を怠ることの確認の限度において理由があるからこれらを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条、64条本文、65条1項本文を、仮執行の宣言につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法259条1項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部裁判長裁判官加藤幸雄裁判官橋本都月裁判官富岡貴美

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