平成12(ワ)16386 報酬金請求本訴・慰謝料請求反訴

裁判年月日・裁判所
平成13年12月17日 東京地方裁判所
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判決文本文18,858 文字)

口頭弁論終結日平成13年10月1日 主文 1 被告(反訴原告)は,原告(反訴被告)に対し,50万円及びこれに対する平成12年4月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。 3 被告(反訴原告)の請求を棄却する。 4 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,原告(反訴被告)に生じた費用の10分の2を被告(反訴原告)の負担とし,その余の費用は各自の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 本訴請求被告(反訴原告,以下,単に「被告」という。)は,原告(反訴被告,以下,単に「原告」という。)に対し467万3025円及びこれに対する平成12年4月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 反訴請求原告は被告に対し,200万円及びこれに対する平成12年11月30日から支払済みまで年5分の割合よる金員を支払え。 第2 事案の概要(本訴)本件本訴は,弁護士である原告が被告から離婚訴訟を受任して,離婚の訴えを東京地方裁判所に提起し,訴訟を遂行したところ,原告の主張するところによると,被告が訴訟の途中において,従前成立した被告とその夫Aとの間の,子の監護養育に関する調停条項に違反し,かつ,原告が,思い留まるよう説得したのを無視して,離婚訴訟において,被告が親権を取得するべく争っていた未成年の子である長男Bを,離婚訴訟の相手方Aから奪い去ったこと等により,原被告の間の信頼関係が著しく破壊されたとして,これを理由に,原告は委任契約を解除し,当事者間の訴訟契約における,いわゆるみなし成功報酬の規定を根拠に,委任契約終了につき被告に重大な責任があるとして,弁護士報酬の請求をした事案である。 (反訴)本件反訴は,原告が被告との間で締結した離婚に関する訴訟委任契約に るみなし成功報酬の規定を根拠に,委任契約終了につき被告に重大な責任があるとして,弁護士報酬の請求をした事案である。 (反訴)本件反訴は,原告が被告との間で締結した離婚に関する訴訟委任契約において,原告が訴訟の方針及び訴訟物の選定を誤り,和解に関する適切なアドバイスを怠り,かつ辞任後,速やかに辞任届けを裁判所に提出しなかったことは,原告の債務不履行であるとして,被告が被った精神的損害を原告に対して請求した事案である。 1 争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実(1) 原告は,東京弁護士会に所属する弁護士である。 (2) 被告は原告に対して,Aに対する離婚訴訟を委任し,原告は,これを受任して(以下「本件委任契約」という。),平成11年○月○日,離婚訴訟を当庁に提起した(当庁平成11年■第○○号事件。以下「本件離婚訴訟」という。)。 本件離婚訴訟における被告のAに対する請求の要旨は下記のとおりであった(甲1)。 記①被告とAを離婚する。 ②B,及び長女Cの親権者を被告と定める。 ③Aは被告に対して,財産分与として1500万円を支払え。 ④B及びCが,それぞれ大学卒業に至るまでの間,養育費を支払え。 (3) 本件離婚訴訟に対しては,夫Aの側から①離婚,②二人の子の親権をAとすること,及び③500万円の慰謝料を請求する反訴(以下「本件離婚反訴」という。)が提起され(当庁平成11年■第○○号事件),原告において,本件離婚反訴についても,訴訟委任を受けて訴訟を遂行した(争いがない)。 (4) 被告とAの間で,本件離婚訴訟提起前である,平成10年○月○日,山形家庭裁判所a支部にて,子の監護に関する処分の ,本件離婚反訴についても,訴訟委任を受けて訴訟を遂行した(争いがない)。 (4) 被告とAの間で,本件離婚訴訟提起前である,平成10年○月○日,山形家庭裁判所a支部にて,子の監護に関する処分の調停事件(同裁判所平成10年(家イ)第○○号・○○号事件)において,調停が成立した(甲3。以下「本件調停」という。)。 本件調停調書によると,原告とAの子であるCについては被告が監護養育し,Bについては「平成11年1月1日から同年6月30日までの間及び平成12年1月1日から同年3月31日までの間は被告が監護養育し,平成11年7月1日から同年12月31日までの間はAが監護養育する。」と合意されていた(甲3)。 (5)ところが,平成11年1月1日から同年6月30日までの間は,本件調停調書によると,被告がBの監護養育をするとされていたにも拘わらず,AがBを被告へ引き渡さなかったので,この間の監護養育はできず,結局,被告がBの監護養育をすることができたのは,Bの引渡しの後である同年4月6日から同年6月30日までであった(弁論の全趣旨)。 (6)Aは,この調停に基づき,平成11年7月1日から同年12月22日までBを監護養育した(争いがない)。 (7)被告は,平成11年12月23日から同月31日までの間,AのもとからBを自己の管理下に移して監護養育した(争いがない)。 (8)本件離婚訴訟(本訴,反訴)は,平成12年3月24日に弁論が終結し,同年4月28日,概ね下記内容の判決が言い渡された(乙1)。 記①被告とAとを離婚する。 ②B及びCの親権者をAと定める。 ③被告はAに対して,400万円の慰謝料を支払え。 記①被告とAとを離婚する。 ②B及びCの親権者をAと定める。 ③被告はAに対して,400万円の慰謝料を支払え。 ④Aは被告に対して,財産分与として300万円を支払え。 (9) 原告は,平成12年3月25日,被告がBをAの元から連れ出したこと等により,被告との間の信頼関係が破壊されたと主張して,平成12年3月25日付け内容証明郵便により,本件委任契約を解除するとともに,契約の終了につき被告に重大な責任があるとして,いわゆるみなし成功報酬の特約に基づき,弁護士報酬の全額である467万3025円を請求する旨を被告に通知し,同書面は,同年3月26日,被告に到達した(甲5の1及び2)。 (10)本件離婚訴訟の判決正本は,平成12年4月28日の判決言渡後,原告が裁判所あてに訴訟代理人の辞任届を提出していなかったので,裁判所から原告の法律事務所あてに送達された。原告は,判決正本を受領した後,被告に対して,平成12年5月2日に判決正本を送付した。原告は,被告に対し,その後も電話連絡などをせず本件訴訟の結果の説明をしていない(争いがない)。 (11)原告は,本件離婚訴訟を被告から受任する以前,本件離婚訴訟と密接に関連する,子の監護養育等に関して下記の事件につき,被告から委任を受けてこれらを受任し,その遂行にあたった(以下「本件従前の①ないし⑤の事件」という。)。 記①山形家庭裁判所b支部の夫婦関係調整調停申立事件(甲10,11,13)②子の引渡し審判申立事件 (甲9,14)③審判前の保全処分申立事件 (甲9,15) b支部の夫婦関係調整調停申立事件(甲10,11,13)②子の引渡し審判申立事件 (甲9,14)③審判前の保全処分申立事件 (甲9,15)④子の引渡し間接強制申立事件  (甲27)⑤人身保護請求申立事件 (甲28,31) 2 争点(本訴)(1)原告と被告間の本件訴訟委任契約において,弁護士報酬について特約が成立したか(報酬特約の成否)。 (2)原告の本件委任契約解除は,被告の重大な責任によるものであって,みなし成功報酬の特約に基づく請求が認められるか(みなし成功報酬請求の成否)。 (3)(2)が認められない場合でも,原告は,被告に対して報酬の全部または一部を請求することができるか(委任契約の中途終了における報酬請求の成否)。 (反訴)本件委任契約において,被告が主張する下記①ないし④の債務不履行(以下「①ないし④の債務不履行」という。)があり,損害が認められるか。 記① 原告の立てた訴訟方針の誤り② 原告の訴訟物(離婚,親権,養育費,財産分与)選定の誤り及び訴訟物についてのアドバイス懈怠③ 原告の和解期日における,和解成立へのアドバイス懈怠④ 原告の辞任届けの不提出,判決結果の説明缺欠,及び遅滞 3 争点に対する当事者の主張(本訴)(1)争点(1)報酬特約の成否について(原告)原告は,平成11 3 争点に対する当事者の主張(本訴)(1)争点(1)報酬特約の成否について(原告)原告は,平成11年4月23日,被告と本件離婚訴訟に関する本件委任契約を締結するにあたっては,甲2の委任契約書を作成し,弁護士報酬に関する以下の特約を定めた。 記①被告の経済的資力が十分でないことを考慮して,着手金は0円とする。 ②勝訴した場合の報酬については,離婚及び親権については合計して30万円とする。 ③勝訴した場合,養育費及び財産分与については,原告の所属する東京弁護士会の報酬会規に基づく報酬金に着手金138万3500円を含めて支払う。 ④委任契約が中途で終了した場合において,原告に責任がないにも拘わらず,被告が原告の同意なく委任事務を終了させたとき,被告が故意又は重大な過失により委任事務の処理を不能にしたとき,その他被告に重大な責任があるときには,原告は,弁護士報酬の全部を請求することができる(甲2の第5条第3項)。 (被告)原告から報酬に関する説明は受けたことがなく,原告主張の報酬特約は成立していない。 (2)争点(2)みなし成功報酬の請求の成否について(原告)ア被告は,原告が,何度も思い留まるように説得したにも拘わらず,BをAのもとに返す意思がないのに,「クリスマスを子どもと過ごし,12月26日には返す。」と述べて,Aを騙してBを平成11年12月23日,Aのもとから奪い去った(以下「本件連れ出し行為」という。)。被告のこの行為は,本件調停合意に違反するというばかりではなく犯罪行為であり,原告と被告の間の信 て,Aを騙してBを平成11年12月23日,Aのもとから奪い去った(以下「本件連れ出し行為」という。)。被告のこの行為は,本件調停合意に違反するというばかりではなく犯罪行為であり,原告と被告の間の信頼関係は著しく破壊された。 イ被告は,原告に対して,本件離婚訴訟を委任するに際し,真実は経済的に困窮していないにもかかわらず,困窮している旨を申し向けて,原告を騙して,着手金の一部を着手時に支払うことを免除させた。しかし,訴訟継続中に,原告名義の銀行預金が,平成11年11月15日現在で375万8209円存在することが判明した。原告はこの事実により,被告に対し不信感を強く持つようになって,信頼関係が著しく破壊された。 ウ被告は,被告が共有持分を有する東京都c区所在の不動産につき,錯誤を理由として数回にわたり共有持分の移転登記を繰り返しており,原告は,かかる登記手続については,公正証書原本不実記載罪を被告が犯しているものではないかと思い,被告に対して恐怖感を覚えるに至り,信頼関係が著しく破壊された。 エ原告は,被告に対して,平成12年3月25日付け,同月26日到達の内容証明郵便で,本件委任契約を解除した。 オ原告は,前記アないしウの被告に重大な責任がある各行為により,本件委任契約の解除を已むなく行ったものであり,当事者間のみなし成功報酬特約により,勝訴した場合と同様の報酬金全額の請求をすることができる。原告は,平成11年3月26日到達の書面で,みなし成功報酬として467万3025円を被告に対して請求した。 なお,467万3025円の内訳は,着手金相当分が138万3500円,成功報酬が306万7000円,消費税22万2525円である。 (被告)本件連れ出し行為は,当時,間近に迫った,いわゆる2000年問題(コン 円の内訳は,着手金相当分が138万3500円,成功報酬が306万7000円,消費税22万2525円である。 (被告)本件連れ出し行為は,当時,間近に迫った,いわゆる2000年問題(コンピューターが,2000年の表示が「‘00」である場合,1900年と取り違えて,誤った認識をすることにより,思わぬ事故が起こる可能性があるといわれた問題。)により,万一,日本国内で事故が発生することを想定し,被告は子どもとともに,安全な海外(オーストラリア)に一時的に,退避したものであり,已むを得ない措置であった。なお,退避先から,被告は,Aのもとに毎日のように電話連絡をした。 被告は,本件離婚訴訟の口頭弁論が終結した直後に,原告から突然に委任契約の解除の通知及びみなし成功報酬の請求を受けたが,当事者間の信頼関係が破壊されたとはいえず,被告に重大な責任があるとはいえない。本件委任契約の解除は認めるが,みなし成功報酬請求には理由がない。 なお,被告は,本件離婚訴訟が判決言渡により終了するまでの間,原告に引き続き本件委任契約を継続して欲しい旨を伝えた。 (3)争点(3)委任契約の中途終了における報酬請求の成否について(原告)弁護士の委任契約が中途で終了し,当事者のいずれの側にも重大な責任がない場合には,本件委任契約の特約によると,委任事務処理の程度に応じて,弁護士報酬の請求をすることができるが,本件においては,解除の時点では,既に口頭弁論が終結されており,大部分の履行は終了していたので,相当額の報酬請求を求める。 (被告)原告の主張は争う。 (反訴)反訴の争点(原告の債務不履行の成否)について(被告)原告には,以下の債務不履行があり,これにより被告は損害を受けた。 ( める。 (被告)原告の主張は争う。 (反訴)反訴の争点(原告の債務不履行の成否)について(被告)原告には,以下の債務不履行があり,これにより被告は損害を受けた。 (1)原告は,平成10年7月に,被告から,離婚,子の親権等につき相談を受け,被告が不倫をしていた事実,Aが経済的に裕福であり監護補助者にAの両親がなり得ることなど,子の親権,監護養育権を獲得する上で,被告が不利になる事実を把握していたにも拘わらず,我が国においては8割以上の事案で母親が親権者となるという甘い見通しを持ち,被告が容易に親権をとれるという誤った方針を立てて以後の訴訟手続きを進めた。 (2)被告は,原告に対する依頼の本旨を子の親権,監護養育に置いており,その他の点,すなわち財産分与,養育費についてはもともと希望していなかった。また,離婚原因について,被告に不利な判断を受けることが予想されたのであるから,子の監護養育についての主張立証に集中するべきで,財産分与,養育費まで訴訟物(請求)を広げるべきではなかった。 原告は,本訴提起に際して,被告の置かれている不利な状況(Aから離婚の反訴が提起され,Aが,被告の不貞行為を主張をするであろうことなど)について,被告に対してアドバイスを怠った。また,Aの反訴提起後においても,なお,原告は訴訟の行方に対して甘い見通しを持ち続け,被告に対して,離婚原因について不利な判断がなされるリスクの説明を怠った。 (3)被告は,平成11年暮れ,本件離婚訴訟の和解期日において,裁判所から,子の親権はAに帰属させ,監護養育権は被告に帰属させるという和解案を提示された。このとき,被告は,原告から,「和解をした場合には,勝訴したときと同じように四百数十万円の報酬をいただきます。」と言われ,びっくりしてしまい,か 護養育権は被告に帰属させるという和解案を提示された。このとき,被告は,原告から,「和解をした場合には,勝訴したときと同じように四百数十万円の報酬をいただきます。」と言われ,びっくりしてしまい,かつ,原告が,和解による解決の有利な点を説明しなかったため,被告は,原告の甘い見通しに従って,和解によらず,判決を求める訴訟手続きを進めることとし,結果的に和解による解決の機会を失った。これは原告のアドバイスの誤りである。 (4)原告は,平成12年3月26日に,被告に本件委任契約の解除を通知したにも拘わらず,裁判所に,訴訟代理人の辞任届を提出しなかった。そのため,本件離婚訴訟の判決正本は原告に送達された。原告は,判決が出たことを被告に電話連絡などにより通知することなく,被告に対して,同年5月2日に判決正本を送付しただけであった。 (5)損害原告の甘い見通しのもとで訴訟物(請求)の選択を誤り,適切なアドバイスも無しに訴訟が進められ,子の親権について敗訴し,被告は,平成12年5月2日の朝に,原告から判決正本を受け取る前に,Aからのメールで初めて判決内容を知った。 そして,翌日には,AはB,Cの二人の子どもを引き取りに来た。このため,被告は,きちんとした別れを子どもとする機会を持つこともできず,さらに,これらのショックで,同月12日第三子「D」を妊娠8ヶ月で早産してしまった。 この子はその後,発育の遅れが出ている。 被告は,これらの原因により,精神的損害を受けたものであり,これを金銭に見積もると,慰謝料は200万円が相当である。 (原告)原告の行った訴訟活動には,被告主張の債務不履行の事実はなく,被告の主張は争う。 第3 当裁判所の判断(本訴) 1 争点(1)報酬特約の成否について後記証拠及び弁論の全趣旨によると, 原告の行った訴訟活動には,被告主張の債務不履行の事実はなく,被告の主張は争う。 第3 当裁判所の判断(本訴) 1 争点(1)報酬特約の成否について後記証拠及び弁論の全趣旨によると,原告は,被告との間で本件離婚訴訟を受任する前に,本件従前の①ないし⑤の事件を被告から受任し,その処理にあたったこと,及び被告は原告に対し,これらの事件の弁護士報酬として111万7760円(うち報酬分は94万5000円,実費分17万2760円)を支払っていることが認められる(甲9ないし12,23,29,45,乙7の1ないし8)。 また,甲2(委任契約書)によると,原告と被告との間には,本件離婚訴訟に関する弁護士報酬の特約(以下「本件特約」という。)が平成11年4月23日に締結されたことが認められる。 被告は,弁護士報酬の説明を受けていないなどと主張して,本件特約の成立を争うが,原被告間の従前の①ないし⑤の各事件においても,当事者間でその都度,甲2と同形式の委任契約が締結されたこと(甲9ないし12),及びこれらの契約に基づき原告により訴訟活動がなされ,弁護士報酬が支払われていること,また,甲2は,被告が自ら署名捺印し,原告の送付した甲41の送付書に記載された原告の指示に従って,原告宛にファックス送信したものであることが,それぞれ認められる(甲42には,平成11年4月23日12時19分に「XXXXXX 00 000 0 0000」から,同書面が,原告あてに送信された旨のデータの記載が存在する。)。 これらを総合して判断すると,被告の主張は採用できず,原被告間では,甲2により,本件委任契約が平成11年4月23日に成立しており,弁護士報酬については,同契約書第3条,第5条の規定による特約がなされていて,本件委任契約の弁護士報酬の支払については, 原被告間では,甲2により,本件委任契約が平成11年4月23日に成立しており,弁護士報酬については,同契約書第3条,第5条の規定による特約がなされていて,本件委任契約の弁護士報酬の支払については,甲2の委任契約書(以下「本件委任契約書」という。)によることが合意されていたと認めるのが相当である。 2 争点(2)みなし成功報酬の請求の成否について(1)証拠(甲3,乙3)及び弁論の全趣旨によると,被告は,平成11年12月23日,本来であればAが同月31日までは調停における合意によって,Bの監護養育をするべき権利を有していたところ,被告は,2000年問題に起因して,予想のできない事故が発生することを恐れ,Bを同月23日にAのもとから自己の管理下に置き,国外(オーストラリア)に退避した事実が認められる。しかし,被告の主張する2000年問題による特段の事故は,日本をはじめとし世界各国においても発生せず,事故の危険が間近に迫ったという事態も認められなかったのであるから,被告のとった本件連れ出し行為は,客観的に評価して緊急避難行為となるものではなく,離婚訴訟係属中において,子の親権や監護養育権を争う当事者として,訴訟遂行上誠に妥当性を欠く,不適当な行為であったことは明らかである。 (2)証拠(乙4の1及び2)によると,原告は,被告が本件連れ出し行為に及ぶことは,訴訟の遂行上,決して有利なことではなく,かえって親権を取得する上で大きな障碍となる旨を被告に伝え,これを思い留まるように説得したことが認められ,被告は,原告の説得にもかかわらず本件連れ出し行為を行ったものと認めるのが相当である。 (3)従って,本件では,原告がそのような職務上の義務に応えたにもかかわらず,被告が原告の説得に従わなかったものであり,原告の立場からみると,委任契約を維持することが困 のと認めるのが相当である。 (3)従って,本件では,原告がそのような職務上の義務に応えたにもかかわらず,被告が原告の説得に従わなかったものであり,原告の立場からみると,委任契約を維持することが困難であると判断しても已むを得ない場合であり,受任者たる弁護士として,委任契約の解除をすることができるというべきである。すなわち,委任契約関係は,当事者間の信頼関係を基礎にして,その上で初めて成り立つものであるから,一方の当事者にとって,委任関係が維持できない程度にまで信頼関係が破壊されたときには,将来に向けて委任契約を解除することは,委任契約の性質上当然認められるからである。 (4)結局,本件にあっては,原告において,被告に対して国外退避を思い留まるべく説得したこと,及び結果的に被告は原告の説明に従わなかったことが認められるのであるから,原告は,理由もなく一方的に委任契約を解除したわけではなく,被告が原告の説得を無視してBをAのもとから連れ出し,国外に退避したこと等による信頼関係の破壊を理由とするものというべきであるから,委任契約には解除の自由が認められていることからしても,原告による本件委任契約の解除は原告に相当の理由があると認められる。 (5)ところで,本件のように,委任者と弁護士の間に訴訟遂行上の問題について,見解の相違,意見の不一致等が発生した場合においては,訴訟遂行の依頼を受けた弁護士としては,委任者が不適切な行為をしないように委任者を指導し,説明をすべきであるし,委任者が不適切な行為に及ぶ場合の訴訟上の不利益なども指摘して,委任者に対して適切なアドバイスをしたり,説得を試みたりすることが,訴訟委任契約上要求されているというべきである。 すなわち,そもそも民事事件の訴訟委任契約にあっては,専門性の高い訴訟手続には不慣れであること 切なアドバイスをしたり,説得を試みたりすることが,訴訟委任契約上要求されているというべきである。 すなわち,そもそも民事事件の訴訟委任契約にあっては,専門性の高い訴訟手続には不慣れであることの多い委任者が,法律専門職である弁護士に訴訟の遂行を委任するものであり,訴訟遂行の過程では,委任者は,ともすれば自己の利益のみを主張し,自己の見解ないし信念に固執し,受任者である弁護士の専門的知見に基づく説得にも容易には納得せず,弁護士に過大な要求をするなどの態度に出たりすることがあり,また,訴訟の相手方の法律的主張の変遷,出方の変化,証拠収集の成功,不成功,証人尋問の成果の成功,不成功,訴訟継続中の関係当事者を巡る事情の変化等によって,委任者及び弁護士が訴訟遂行上,思わぬ試練を受けたり,困難に遭遇することは,時として起こり得ることであり,訴訟委任契約にあたり,委任者から訴訟を受任する弁護士はこのことを,一般的に想定しているものといえる。 このような場合,多くの委任者にあっては,必ずしも悪意に基づいたり,訴訟遂行上の支障になることを好んで,当該行為に及んでいるとは考えられないので,訴訟という予想される不確定要素を多く孕む委任事案を受任する弁護士にあっては,その職業上の知識,経験,法律的技能を駆使して,委任者に対して,善良な管理者として要求される程度のアドバイス,説得をなすべきことが,委任契約上要求されているものというべきである。 従って,訴訟委任契約における弁護士の業務上の義務が前述のとおりであるとすると,本件のような場合に,原告において,みなし成功報酬請求が認められるか否かは,さらに検討を要するところである。 (6)甲2の第5条第3項のみなし成功報酬の規定は,次のような趣旨であると解される。 すなわち,委任者の中には,折 みなし成功報酬請求が認められるか否かは,さらに検討を要するところである。 (6)甲2の第5条第3項のみなし成功報酬の規定は,次のような趣旨であると解される。 すなわち,委任者の中には,折角弁護士が委任の趣旨に従って委任事務の処理を完了し,委任の目的を達成させようとしても,弁護士報酬の支払いを免れようとするなど,不当な目的をもって,委任契約を解除した上で和解を勝手に成立させたり,訴訟外で事件を和解等で解決して,訴えを取り下げる等,不埒な者もいることを否定できない。このような者に対しては,弁護士は,成功報酬全額の請求をすることができるとするのが,みなし成功報酬規定であり,委任者において,一方的に弁護士報酬の支払いを免れる等不当な目的が存在する場合にはじめて適用される規定であるというべきである。 (7)これを本件についてみると,前記認定事実及び争いのない事実によれば,①委任契約を解除したのは受任者であり,弁護士の原告であったこと,② 被告においては,弁護士報酬の支払いを不当に免脱するという目的で,本件連れ出し行為等をしたものとは認められないこと,③ 結果的に,被告は,本件離婚訴訟(本訴,反訴)の大部分において敗訴しており,もともと,本件離婚訴訟で請求していた,被告のAに対する請求に対応する本来の成功報酬を,甲2の委任契約書中の本件特約及び原告の所属する東京弁護士会の報酬会規(甲8)により算定すると,到底,みなし成功報酬として原告が請求する金額ほど高額にはならず,原告が辞任していない場合に発生する,報酬金額と著しく不均衡であることがそれぞれ認められる。 結局,これらの認定事実及び原告が主張する信頼関係破壊の諸事情を総合的に判断すると,本件委任契約の原告による解除については,被告において,甲2の委任契約第5条第3項に規定さ 認められる。 結局,これらの認定事実及び原告が主張する信頼関係破壊の諸事情を総合的に判断すると,本件委任契約の原告による解除については,被告において,甲2の委任契約第5条第3項に規定された「重大な責任がある」場合には当たらないものというべきである。なお,原告が主張する,被告の銀行預金残高が375万8209円であることが判明したこと(甲56),及び不動産の共有持分の錯誤による数回にわたる移転登記がなされたこと(甲57)については,仮にそのような事実が存在しても,これらの事実によって,原被告間の信頼関係を著しく損なう理由にはならないものというべきであり,原告の主張は採用できない。 以上のとおり,みなし成功報酬請求の合意に基づく原告の請求は,認めることはできない。 3 争点(3)委任契約の中途終了による報酬請求の成否について(1)証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によると,本件委任契約にあたって,原告は,被告の経済的困窮状態を鑑みて,着手金を委任事務着手時において支払うこととせず,訴訟の結果をみて,「着手金を報酬金に含めた形で」,原告の所属する東京弁護士会の報酬会規に基づく成功報酬の支払い時に支払う旨の合意をしたことが認められる。 そして,本件離婚訴訟は,平成11年3月24日に弁論が終結し,原告により委任契約の解除が同月26日になされ,その後,口頭弁論の再開などはなされず,格別に訴訟活動がなされることなく,同年4月28日に判決が言い渡された(乙1,弁論の全趣旨)。 結局,本件離婚訴訟においては,本件委任契約に基づく原告による訴訟活動は,原告が委任契約を解除して辞任した時点までに,ほとんど全ての履行がなされたというべきであり,このような場合においては,たとえ,原告は,自ら委任契約の解除をしたとしても,委任の終了につい 訴訟活動は,原告が委任契約を解除して辞任した時点までに,ほとんど全ての履行がなされたというべきであり,このような場合においては,たとえ,原告は,自ら委任契約の解除をしたとしても,委任の終了について,委任者及び受任者の双方に重大な責任がない場合にあたるので,原告が,明示もしくは黙示に,報酬請求権を放棄したと認められるような特段の事情がない限り,原被告間の本件特約に基づき,委任事務の処理の程度に応じて,原告は,報酬を請求することができる場合があると解するのが相当である。 (2)そこで本件について,原告が被告に対していくらの報酬を請求できるかについて検討してみる。 ア弁護士報酬の算定にあたっては,弁護士の訴訟委任事務処理に対する報酬の額につき依頼者との間に別段の定めがなかった場合には,事件の難易,訴額及び労力の程度ばかりでなく,依頼者との平生からの関係,所属弁護士会の報酬規程等その他諸般の状況をも審査し,当事者の意思を推定し,相当の報酬額を算定するべきであると解される(最判昭和37年2月1日民集16巻2号157頁)。 イこれを本件についてみると,本件では,原告と被告の間で本件特約(甲2)がなされているものの,その内容を具体的に検討すると,着手金の額(188万3500円)は個別具体的に算定しているものの,報酬金額については「離婚及び親権」につき(合計)30万円とされ確定的に記載されているが,離婚と親権の内訳は全く明確ではなく,養育費及び財産分与については「弁護士報酬会規による」とされているのであるから,訴訟の成果をふまえて,原告と被告により,具体的算定の協議をしたうえ報酬額を確定することの合意がなされていたものと解することが当事者の意思に合致するものと認められる。また,「着手金を報酬金に含めた形で報酬会規による」とされているのであるが 体的算定の協議をしたうえ報酬額を確定することの合意がなされていたものと解することが当事者の意思に合致するものと認められる。また,「着手金を報酬金に含めた形で報酬会規による」とされているのであるが,その趣旨は,報酬会規によって算定した報酬金に着手金を加えるとすることなのか,算定された報酬金の一部として着手金を含めることなのか(すなわち,報酬金のうちから着手金分につき減額するということなのか),また,訴訟がそのほとんどにつき敗訴している場合にも,当事者は,計算してある当初の着手金188万3500円全額(但し,着手金として報酬金に含めるのは,養育費及び財産分与に相当する着手金138万3500円)を支払う趣旨なのか等につき,疑問の余地があり,当事者の意思が必ずしも明確であったとは言い難いものである。 本件特約においては,報酬金の算定については,訴訟の結果,委任者の請求がどの程度認容されて,経済的利益が確保されたかによって,弁護士報酬会規の報酬基準を用いて報酬額の算定を行うものと解することが,当事者の意思に合致するものと言うべきであるから,結局,本件は,報酬の額につき当事者間で別段の定めがなされ,報酬額が合意されている場合ではなく,前記アで述べた最高裁判決のように諸般の状況を勘案して報酬を算定することが相当であると認められる。 ウところで,報酬の請求については,原則として,委任事務処理により確保した経済的利益の額を基準として算定することとされているが(甲8の第13条),本件離婚訴訟の判決により,具体的に被告が得た経済的利益を検討すべき対象となるのは,①Aとの離婚,及び②財産分与の300万円についてである。 原被告間の本件特約によれば,「離婚,子の親権」についての報酬は30万円と合意していたことが認められる(甲2の第3条)が,A なるのは,①Aとの離婚,及び②財産分与の300万円についてである。 原被告間の本件特約によれば,「離婚,子の親権」についての報酬は30万円と合意していたことが認められる(甲2の第3条)が,Aから本件離婚反訴が出された時点で,離婚については,格別の立証をするまでもなく,容易に認容される蓋然性が高くなり,実際にも離婚については被告の請求認容判決がなされたものであり,また,離婚に伴う子の親権者の指定については,被告は敗訴し,親権者はAとされたわけであるから,本件離婚訴訟の委任を巡る諸事情を勘案すると,離婚と子の親権については,報酬は請求できないとするのが相当である。 エ次に,甲2の本件委任契約書第3条による本件特約により,原告の所属する東京弁護士会の報酬会規(甲8「改正弁護士報酬会規の逐条解説」)第16条第1項及び第2項によると,財産分与300万円の報酬は,その標準額が48万円(増減許容額は33万6000円から62万4000円)とされていることが判る。 そして,甲2の本件委任契約書の第3条に具体的に記載された着手金の額188万3500円についてみると,これは,本件離婚訴訟の訴状で請求した請求金額等(養育費907万円,財産分与1500万円及び離婚請求)を経済的利益の額として,それに対応する着手金(具体的には,養育費について54万3500円,財産分与について84万円,離婚について50万円の合計188万3500円とされている。)の合計額を記載したものであり,原被告は,この金額のうち,養育費及び財産分与請求相当分の138万3500円を,本件離婚訴訟の勝訴判決が確定したときに,成功報酬を報酬会規により算定したうえ,この「着手金を報酬金に含めた形で」支払う旨合意していたことが認められる(甲2の第3条の報酬金の額についての特約)が,前記イで 訴訟の勝訴判決が確定したときに,成功報酬を報酬会規により算定したうえ,この「着手金を報酬金に含めた形で」支払う旨合意していたことが認められる(甲2の第3条の報酬金の額についての特約)が,前記イで述べたとおり,この合意をどのように解釈するかは疑問の余地がある。 オそこで,本件記録中の証拠及び弁論の全趣旨により認定した,原告と被告の間の本件委任契約を巡る諸事情に基づき検討すると,(a)原告は,本来の本件離婚訴訟の他に,Aからの本件離婚反訴についても訴訟活動にあたったこと,(b)原告の行った本件委任に基づく訴訟活動の履行がほぼ全て終了していたこと,(c)本件委任契約の着手金の支払いを猶予して訴訟活動を開始したこと,(d)本件従前の事件①については,申立書は,原告ではなく被告自身で作成して,自ら申し立てたものであること,(e)本件従前の①ないし⑤の事件で,被告は,既に弁護士報酬等として合計111万7760円の支払いをしていること,(f)本件委任契約に係る弁護士報酬は,従前の①ないし⑤の事件に引き続き,被告及びA間の法律的諸問題(離婚,親権,養育費,財産分与等)の最終決着となる本件離婚訴訟に対する弁護士報酬契約であり,したがって,既に支払った報酬等を考慮して最終的,総合的なものとして合意がされたとみられること,(g)本件離婚訴訟において,被告が切望していた子の監護養育につき敗訴して被告の希望が容れられなかったこと,(h)財産分与及び養育費を請求したのは,必ずしも被告の主たる目的ではなかったにもかかわらず,訴訟提起に際して着手金を算定するにあたり,これらの全額を,着手金の算出における「経済的利益」に算入していること,(i)被告が原告の忠告を無視して本件連れ出し行為を行ったためとはいえ,受任者たる原告の側から本件委任契約の解除を行い,合わせて れらの全額を,着手金の算出における「経済的利益」に算入していること,(i)被告が原告の忠告を無視して本件連れ出し行為を行ったためとはいえ,受任者たる原告の側から本件委任契約の解除を行い,合わせて内容証明郵便で突然一方的に高額のみなし成功報酬を被告に対して請求したこと,(j)被告は,原告からの委任契約解除に納得せず,判決が出るまでの間,さらに本件委任契約の継続を希望しその旨を原告に伝えたこと(乙3),(k)原告は代理人辞任届を裁判所に提出しなかったため,判決正本が被告に直接送付されず原告に送達されたために被告において迷惑を受けたこと,(l)原告は,本件従前の①ないし⑤の事件など多くの被告からの関連事件を受任し,事件内容についてかなりの情報収集と準備ができていたので,本件離婚訴訟を受任するに際して,はじめて被告から受任して,最初から準備をする場合と比較して労力がかからなかったこと(なお,甲8の第6条第2項第1号によれば,このような場合には弁護士は,報酬を「適正妥当な範囲内で減額することができる。」とされている。),(m)被告は,東京弁護士会に対して紛議調停の申立をしたうえ,原告と協議をして報酬問題の紛争を話合いにより解決をしようとしたが,原告は,話合いに応ずることなく手続は打ち切られたこと(乙3,5,12。したがって,被告は話合いの場での解決の機会を失って,本件訴訟の被告となることを余儀なくされた。なお,甲8の第44条第1項,第2項によると,同項の場合においては,それぞれ弁護士は「依頼者との協議」をすることが前提とされていることが明らかである。)が認められる。 そこで,当事者間の本件特約における当事者の意思を推定し,前記認定事実を総合して,信義則及び公平の見地から被告が原告に支払うべき弁護士報酬の額を判断すると,これを50万円 )が認められる。 そこで,当事者間の本件特約における当事者の意思を推定し,前記認定事実を総合して,信義則及び公平の見地から被告が原告に支払うべき弁護士報酬の額を判断すると,これを50万円とするのが相当である。 (反訴) 1 ①及び②の債務不履行について一般に,訴訟委任契約における弁護士の業務においては,委任の主旨に従い,高度の専門的知識と経験を生かして,法律的に正当な委任者の利益を獲得し,法律の専門家として,善良なる管理者としての義務を果たすことが要求されるが,具体的事案において,弁護士が業務を行うについては,執るべき法的手段は一律に定まるものではなく,目的に応じて多様性があるため,訴訟委任における法律事務について,弁護士は,法律専門職としての裁量性を有するものと解するのが相当である。 本件についてみると,原告は,従前の①ないし⑤の事件を受任した経緯から,依頼者である被告の委任の主旨を,一連の事件を処理する過程で詳しく理解し,被告と相談と協議をして,訴訟物の構成についても,訴えの提起前に打ち合わせたうえ,訴えを提起し(甲7,24,32ないし34,37ないし41),訴訟手続に着手したものであること(甲61),及び訴訟継続中においても,原告は必要に応じて,被告との間で面談し,もしくは書簡,メール,及び電話等による打合せに努めたことがそれぞれ認められる(甲58,62,63,乙9)。 離婚訴訟を提起するに際して,訴訟物の構成は,原則として,法律専門家である原告の裁量に属する事柄であり,訴訟物について全く委任者に説明をせず,独断でこれを決定して訴えの提起をした場合など,明らかに法律専門家に認められる裁量の範囲を逸脱したと判断されるような場合を除いて,訴訟物をどのように構成するかの問題は債務不履行にはならないというべき 断でこれを決定して訴えの提起をした場合など,明らかに法律専門家に認められる裁量の範囲を逸脱したと判断されるような場合を除いて,訴訟物をどのように構成するかの問題は債務不履行にはならないというべきである。 本件離婚訴訟においては,訴訟の見通しの立て方,訴訟物の選択,訴え提起の際の説明,及び訴訟継続中の打合せ等において,原告が,明らかに誤った判断をしたこと,裁量の範囲を逸脱したこと,被告に対する説明を怠ったこと,訴訟の進行についての説明及び打合せを怠ったことを認めるに足りる証拠はなく,原告が辞任を決意するまでの間においては,精力的に訴訟活動に努めたことが認められ,訴訟活動全体をみても,原告に債務不履行責任を認めることは相当ではない。 2 ③の債務不履行について被告の主張するアドバイスの懈怠及び和解に際しての説明不足等の債務不履行の主張については,被告の陳述書(乙11)の一部にこれに沿う供述部分があるものの,本件記録中には,他にこれを認めるに足りる証拠はなく,この点について,原告の債務不履行の事実を認めることはできない。なお,仮に,アドバイス及び説明において,多少の行き違いが,原被告間にあったとしても,そのことから,直ちに,原告の債務不履行が発生することにはならないというべきである。訴訟の遂行過程では,弁護士と委任者の信頼関係を基礎とする,継続的,流動的共同作業が予定されており,訴訟に対する双方の意見の交換,見通しについての討議,訴訟戦略の検討など,様々な場面における弁護士と委任者の対応と言動が予想されるものであり,一時的,一面的な当事者間の意思疎通の障害等を捉えて,直ちに委任契約における,弁護士の債務不履行責任の問題とすることは適当ではないからである。 3 ④の債務不履行について被告は,平成12年3月25日付け内容証明郵 者間の意思疎通の障害等を捉えて,直ちに委任契約における,弁護士の債務不履行責任の問題とすることは適当ではないからである。 3 ④の債務不履行について被告は,平成12年3月25日付け内容証明郵便で本件委任契約を解除する旨を被告に通知し,この通知を受けた被告は,辞任について反対の意向を示し,あくまでも,本件離婚訴訟が判決言渡により終了するまで,原告に訴訟代理人として訴訟活動するよう希望して,その旨を通知した(乙23の第2項)。しかし,原告はあくまでも信頼関係の破壊を理由に辞任の意思を変更せず,委任が終了したものである。 訴訟委任契約においては,理由の如何に拘わらず委任契約が終了した場合には,訴訟の継続する裁判所に対して,弁護士は速やかに辞任届を提出して,裁判所に訴訟代理権が消滅したことの通知をすべき委任者に対する義務が含まれているものと解すべきである。 辞任届の提出は,代理人に課された,委任契約の終了に伴なう当然の義務であるから,訴訟代理人において,代理権がなくなったにも拘わらず,裁判所に対する辞任届の提出を欠く場合には,当然に辞任時以降も訴訟代理人として扱われるので,裁判所からの通知,判決正本の送達などが,その辞任した代理人になされるため,委任者に不測の迷惑や損害が生じる可能性があり,訴訟代理人として,許されない不作為であることは明らかである。 本件においては,原告において訴訟委任契約を自ら解除し,被告に対する通知は平成12年3月26日に到達し,辞任の効力が生じたのであるから,原告としては,速やかに裁判所あてに辞任届を提出すべきであったといえる。そして,辞任届を裁判所あてに提出していなかったため,被告においては,本件離婚訴訟の判決正本を原告から送付される前に,突然,Aからのメールで判決内容を知るところとなり,大変 すべきであったといえる。そして,辞任届を裁判所あてに提出していなかったため,被告においては,本件離婚訴訟の判決正本を原告から送付される前に,突然,Aからのメールで判決内容を知るところとなり,大変驚き,その後,本件離婚訴訟の判決により,親権者に指定されたAは,直ちに,被告の元にB及びCを引き取りに来たため,被告において,その後の対応にかなり苦慮し,混乱が生じたことが認めらる(乙11)。 一方,原告は平成12年4月23日に言い渡された本件離婚訴訟の判決正本を受領した後,直ちに判決正本を被告に送付したため,平成12年5月2日には判決正本は被告の手元に郵送されたことが認められる(乙11,弁論の全趣旨)。 これら一連の被告の混乱の原因は,原告による辞任届提出懈怠によるところが少なくはないが,もともと,本件離婚訴訟の判決が被告に相当不利な結果であったこと,原告においては,誤って受領した判決正本を直ちに被告に転送して,判決正本は間もなく被告に送付されたこと等を総合して判断すると,辞任届の提出懈怠は極めて不適切な原告の不作為であったということができるものの,被告に金銭的慰謝料を支払うべき程度の精神的損害が発生したことまでは認められない。 なお,被告においては,原告の不作為により,第三子が早産したことを理由に慰謝料の請求をするが,本件記録からは,原告の辞任届提出懈怠が原因で,早産の結果が発生したことを認めるに足りる証拠はないので,この点に関する被告の主張も認めることはできない。結局,被告の反訴請求にはいずれも理由がない。 第3 結論以上のとおり,本訴請求については,原告の請求は50万円について認めるべき理由があるから,この範囲で請求を認容し,その余の請求は棄却することとし,反訴請求については,理由がないので棄却し,本訴原告の請求に対する仮 本訴請求については,原告の請求は50万円について認めるべき理由があるから,この範囲で請求を認容し,その余の請求は棄却することとし,反訴請求については,理由がないので棄却し,本訴原告の請求に対する仮執行宣言は,これを付するのは相当ではないので,付さないこととして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第 1 部裁判官坂口公一

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