平成12(ワ)2083 介護費返還請求

裁判年月日・裁判所
平成13年7月25日 神戸地方裁判所
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判決文本文3,649 文字)

平成13年7月25日平成12年(ワ)第2083号介護費返還請求事件 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告は,原告に対し,525万円及びこれに対する平成12年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言第2 事案の概要 1 事案の骨子原告(昭和5年11月16日生)は,公益法人の公社である被告の管理・運営する高齢者用共同住宅に,入居費2294万円,介護費525万円(消費税25万円を含む)を払い込んで入居したが,独立した部屋での居住では急病のときどうなるかとか,看護治療は共同住宅内ですぐ受けられるのではなく,あっせんしてもらうということに不安が大きいと感じ,平成12年4月25日に上記共同住宅から退去した。 入居時に払い込んだ介護費用525万円につき,被告は,約定通り返還できないと主張し,原告は,不返還の約定(以下「本件約定」という。)は,早期に死亡しても返還しないという趣旨であって,僅か5か月で退去するといった本件のような途中解約の場合にまで適用するのは権利の濫用である,また,介護費は全員のために他の物に形を変えているわけではないし,仮にそうであっても部屋が空けば次の者に貸して介護費を納めさせること,被告は高齢者福祉を目的として共同住宅の供給等を行う公的立場の法人であり,営利事業と異なり高齢者の負担を少なくし利用しやすいものにするべきであることなどからすれば,本件約定は公序良俗に違反して無効である,と主張している。 本件の争点は,被告に返還義務があるかどうかである。 2 争点についての双方の主張 しやすいものにするべきであることなどからすれば,本件約定は公序良俗に違反して無効である,と主張している。 本件の争点は,被告に返還義務があるかどうかである。 2 争点についての双方の主張(1) 原告の主張アなぜ,原告が,消費もしていない物や使用収益していない物や労務の代金まで負担しなければならないのか全く理解できない。 また,このような契約は附合契約であって,一律に定めた条項を承諾しないと契約が出来ないという一方的なものである。 介護費というのは個人個人が受ける介護のことであるから,たとえ集団でも個別にわり算できるし,仮に設備のようなものであればそれは永久的に使用可能であるから次に入居した者から介護料として受領すれば良いことになる。 イ被告は社会福祉法人であり,原告は介護を受けるであろう高齢者であるのに,被告の主張は原告を苦しめるものであって,福祉の目的を達しておらず,公序良俗に違反している。 ウ全国的に同様の約定があることは,全国的に公序良俗に違反していることを示しているだけであって,何ら被告の主張を正当化する理由とはならない。 エただし,実際に介護は受けていないけれども,入居していた5か月間の分については差し引かれることに異議をいうものではない。 その場合の返還されるべき金額は,入居金返還の返還率(甲1・19,20頁)と同様に考え,これに消費税分25万円を加算して,472万円となる。 (2) 被告の主張アまず,原告は,契約書第48条で「介護費は入居者全員のために支出すること」(甲1・17頁)を承諾している。 契約締結に先立ち,原告を含む申込希望者に配布されたパンフレット(乙2)にも,① 「介護費は,ご入居者全員の介護費用に充当いた めに支出すること」(甲1・17頁)を承諾している。 契約締結に先立ち,原告を含む申込希望者に配布されたパンフレット(乙2)にも,① 「介護費は,ご入居者全員の介護費用に充当いたしますので,退去された場合でも,在居年月数にかかわりなく一切お返しいたしません」(53頁),② 「介護費は,日々の健康管理や入居者相互の介護費用として互助基金的な運用をおこなうため,(途中で退去した場合)返還いたしません」(55頁),③ 「物価の変動,在居期間にかかわらず,介護費の追加払いは一切ありません」(56頁)等と記載されていることからみても,原告の主張は理由がない。 イ被告は,申込者の平均余命などから平均在居期間を16年と試算し,要介護者の発生率,介護スタッフの数,経費などの諸事情を勘案して,本件契約における介護費を,消費税を除いて500万円(甲1・4頁)とした。 この金額は,他の施設で介護費を400万円ないし600万円と設定している(乙5ないし乙8)ことからみても,妥当な金額であるといえる。 ウ前述したとおり,介護費は,将来にわたって全入居者についての健康管理・介護サービス等に要する費用に充てられるべき金員であって,①互助基金的な運用が予定されているだけではなく,②要介護者以外の入居者に対しても,健康管理サービス(乙1・15頁),受療援助(同18頁),救急対応(同19頁)がなされるのであるから,一度も介護を受けていない,というような理由で返還請求出来るとの原告の主張は失当である。 エ本件約定と同様の規定が全国的に設けられていることは,他の地方住宅供給公社はもとより,そこの入居者においても,本件約定が有効なものとして認識されている何よりの証拠である。 オなお,被告は,入 本件約定と同様の規定が全国的に設けられていることは,他の地方住宅供給公社はもとより,そこの入居者においても,本件約定が有効なものとして認識されている何よりの証拠である。 オなお,被告は,入居者との間で,介護保険との重複率ないし返還額に関し,旧厚生省(老人保健福祉局)及び兵庫県(健康福祉部)の行政指導に従い,交渉を重ね,既に各入居者との間で合意に達している。 カ本件契約においては,本件約定を原則としながら,短期入居者に対する特例が設けられている。すなわち,契約書(甲1)第49条で,入居者が入居指定日から30日以内に退去した場合には,本件約定にかかわらず,介護費の全額が入居者に返還されることになっている。 これは,パンフレット(乙2)を参照したり,現地説明会で説明を受けたりしても,現実に施設内で居住を開始してみると,自分の期待と現実の設備や環境とに齟齬がある場合もありえないわけではないので,入居者の利益に配慮し,かかる事態に対して熟慮・再考の機会を与えるとの趣旨にでたものである。 他方,原告本人尋問の結果によれば,原告が退去を決めた動機は,介護設備が十分でないという点にあったとのことであり,かつ,そのような不満点は入居後10日程度で出てきたというのである。 そうであれば,熟慮・再考期間としての30日間というのは入居者にとって十分な期間といえ,このように合理的な条項を規定している本件契約,本件約定の有効性はいっそう明らかである。 第3 判断 1 当裁判所は,介護費については返還しないとの本件約定が権利濫用に該当するあるいは公序良俗に違反するとまではいえないから,原告の本訴請求は認められないと判断する。 すなわち,本件契約書(甲1),パンフレット(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平均余 該当するあるいは公序良俗に違反するとまではいえないから,原告の本訴請求は認められないと判断する。 すなわち,本件契約書(甲1),パンフレット(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平均余命などから入居者の平均入居期間を16年間と見込み,入居費及び介護費につき入居時に一括全額納入することを求め,途中の物価上昇あるいは16年間を超えての入所などを理由としての追加納入など新たな負担を求めることは一切しないと定め,①入居費については,16年未満で退去する者に対しては予め定めた返還率で返金する,②介護費については,途中退去者に対しては入居期間の長短を問わず一切返金しない,としており,その理由として,16年間は平均余命であるから入居者の中には入居期間の長い人も短い人もいることからくる介護費の互助会的な側面,要介護者以外の入居者に対しても健康管理サービス,救急対応を介護費でまかなっていること,などをあげていることが認められる。 これらの理由はとりわけ不合理なものとはいえず,これに加えて,入居後30日以内に当初の期待に反しているとして退去する場合には入居費・介護費は全額返済される規定も置かれていることからすれば,原告には気の毒ではあるが,本件約定が権利濫用に該当するあるいは公序良俗に違反するとまではいえないのであって,このことは,被告が公的な法人であることや,本件約定が附合契約であるか否かによって変わるものではない。 2 以上のとおりであるから,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第1民事部 裁判官古川行男 ・ 部 裁判官古川行男

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