平成14(わ)170 公印偽造被告

裁判年月日・裁判所
平成15年12月17日 山口地方裁判所 岩国支部
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判決文本文3,282 文字)

主文 被告人を懲役1年に処する。 この裁判確定の日から2年間刑の執行を猶予する。 理由 (犯罪事実)被告人は,A及びBと共謀の上,行使の目的で,勝手に岩国市長名義の印章を偽造しようと考え,平成13年10月4日ころ,山口県岩国市ab丁目c番d号Cにおいて,「岩国市長之印」と刻印された印顆1個を作成して,公務員である岩国市長の印章を偽造した。 (証拠)省略(争点に対する判断)弁護人らは,被告人が公印偽造を実行した事実も共謀した事実もなかった旨主張し,また,被告人は公判廷でこれに沿うかのような供述をする傍ら,共同正犯者として関与した事実はなく,単に公印偽造の幇助罪等が成立するに過ぎない旨を主張するとも解されるので,以下に検討する。 関係証拠によれば,被告人は長年にわたり岩国市に消防自動車を納入してきたDの社長であり,株式会社Eの総括部長を務めていたAとは15年来の親交を有していたこと,平成13年9月21日に行われた岩国市消防団管理の消防ポンプ自動車の更新のための指名競争入札において,Eが1160万円で初めてこれを落札し,Aは同社と代理店契約を結んでいるメーカーにその落札価格を偽って1040万円と報告したこと,同月28日,Aは岩国市役所に赴き契約書面の交付を受け,その帰路に被告人の経営するDの事務所に立ち寄ったところ,被告人はDの契約でもないのに,契約書面を一部コピーして手元においたこと,その際,被告人はAの面前で印鑑業者であるCに電話をかけ,電話口に出たBに対し,印鑑の注文を取りに来るように告げた上で,翌29日にDの事務所にBを来訪させ,前記コピーをさらにコピーしてその中の岩国市長印と契印の各印 面前で印鑑業者であるCに電話をかけ,電話口に出たBに対し,印鑑の注文を取りに来るように告げた上で,翌29日にDの事務所にBを来訪させ,前記コピーをさらにコピーしてその中の岩国市長印と契印の各印影部分を事前に切り抜いておいた紙片を見本として示して,市長印と契印を具体的に指示して発注したこと,これを受けてBは,判示のとおり,C店舗内で,平成13年10月4日に岩国市長印と契印を偽造したこと,同月5日にBはDの事務所を訪れ,被告人が不在だったため,被告人の妻に完成した偽造の市長印と契印を託して手渡したこと,同月6日に偽造された印鑑が,同月10日に前記落札にかかる契約書コピーがDの事務所からそれぞれ発見押収されたことは証拠上疑いのない事実としてこれを認めることができる。 以上の事実からすれば,印鑑の注文を受けたBが終始一貫してその注文主を被告人と認識して行動していたことは明らかであり,他方で,他社の契約とはいえ,被告人が印鑑業者を手配して,その準備作業までをも行い,Aのいないところで,Bに具体的な印鑑の発注の指図までしていたことに照らせば,納期の相談等を受ける中でAとともに公印偽造の意思を通じ合った被告人が,次いで,自ら手配した印鑑業者であるBとも,印鑑の注文をする中で公印偽造の意思を通じ合ったことが強く推認されるというべきであって,平成13年9月28日のAとの面談の中で,消防自動車納入における利鞘稼ぎの手口と公印偽造の必要性に言及したことを自認した上で,本件犯行への中核的関与としての共謀を全面的に認める旨の被告人の捜査段階の自白の内容は,証拠上疑いのない事実及びこれから合理的に推認される事実と合致し,自然かつ合理的というべきであり,また,同日の面談の中で,Eの利鞘稼ぎと公印偽造の必要性の言及があったこと自体はAの公判供述等とも矛盾はない 疑いのない事実及びこれから合理的に推認される事実と合致し,自然かつ合理的というべきであり,また,同日の面談の中で,Eの利鞘稼ぎと公印偽造の必要性の言及があったこと自体はAの公判供述等とも矛盾はないのであるから,その信用性は高いと認められる。 そうすると,メーカーから安く仕入れなければならないのはEの問題であって自分には関係がないから自ら率先して契約書の偽造をしてやる理由はないとか,Aが偽物の公印を作り,Bが共犯だったことは間違いないが,自分は頼まれて印鑑業者であるCに仲介してやっただけで,少し手伝ったことはあっても,主犯格などではないなどとする被告人の弁解は,既に捜査段階から弁護人を選任してその助力を受けていたことに鑑みれば,公判段階に至って出された点で,唐突というほかなく,また,その弁解内容も,岩国市長印の注文作成に無権限で関与しながら,印鑑業者が注文に応じてくれたから問題はないと思ったなどという破天荒なものであり,不自然かつ不合理であって到底信用できない。 したがって,被告人が,本件公印偽造をAとともに考案し,自ら印鑑業者であるBに発注指図するなどして,共同正犯者間の順次共謀の扇の要として,中核的に関与したことは明らかであり,これについて合理的な疑いを差し挟む余地はない。 よって,弁護人らの主張はもちろん,被告人の主張もまた,いずれも理由がない。 (法令の適用)罰条刑法60条,165条1項刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の事情)本件は,被告人が,同業者として親交のあった共犯者から,初めての消防自動車納入の落札に際し,その納期等の相談を受ける中で,その儲けを増やすための便法として,仕入れ業者に虚偽の落札価格 量刑の事情)本件は,被告人が,同業者として親交のあった共犯者から,初めての消防自動車納入の落札に際し,その納期等の相談を受ける中で,その儲けを増やすための便法として,仕入れ業者に虚偽の落札価格を流して,仕入れ値を抑えようと考え,万一契約書の提示を求められた場合に備えて,契約書に押捺してある岩国市長印等それ自体の偽造に及んだという事案であって,もとより,その動機に酌むべきほどのものはなく,偽造された印鑑は現にかつて市役所への納入経験を有する業者の手になるものであっただけに,その印影は真正な印鑑によるそれと極めて酷似するものであって,犯行態様も巧妙にして大胆不敵というべきである。その狙いも,消防自動車の物品納入契約書という市の指名競争入札に関する極めて社会的信頼の高い公文書の改ざんであって,もとより計画的犯行であるばかりか,作出された印鑑の完成度に照らせば,万一契約書偽造が敢行された場合にもたらされるであろう社会的影響も大きいと予想される。さらに,被告人は,公判段階においては,不自然かつ不合理な弁解に終始し,わずかに幇助犯等としての関与のみを認めるのにとどまり,反省の念に乏しいこと等をも併せ考慮すれば,被告人の犯情は芳しくなく,その刑事責任は軽くない。 しかしながら,作出された市長印は,幸いにして現実に使用されることがなかったこと,被告人は本件犯行によって自らまたはその経営する会社に何らの経済的利得も受けなかったこと,本件犯行発覚により,被告人の経営する会社は岩国市及び山口県から相応期間の指名競争入札停止処分を受け,顧客離れを引き起こしてその経営にダメージを受けるなどの社会的な制裁を受けたこと,被告人は,公判廷で自認した公印偽造の幇助的な関与の限度ではあるものの,岩国市当局に一応謝罪の態度を示したこと,被告人には若年時の前科は見ら の経営にダメージを受けるなどの社会的な制裁を受けたこと,被告人は,公判廷で自認した公印偽造の幇助的な関与の限度ではあるものの,岩国市当局に一応謝罪の態度を示したこと,被告人には若年時の前科は見られるものの,むしろ長年にわたり社会的に相応の地位に就き,会社経営等に従事してきたこと,その他被告人の年齢,健康状態等の被告人にとって有利な,あるいは酌むべき事情も十分に認められる。 そこで,被告人に対しては,主文掲記の程度の刑を科した上,その刑の執行を猶予するのが相当である。 (求刑懲役1年)平成15年12月17日山口地方裁判所岩国支部裁判官沼田幸雄

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