平成17(わ)245 傷害致死,覚せい剤取締法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成18年2月8日 甲府地方裁判所
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判決文本文11,150 文字)

主文 被告人Aを懲役3年に,被告人Bを懲役4年6月にそれぞれ処する。 被告人両名に対し,未決勾留日数中各170日を,それぞれその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)第1被告人Bは,法定の除外事由がないのに,平成15年2月15日,東京都内において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を含有する水溶液を自己の身体に注射し,もって覚せい剤を使用した。 第2被告人両名は,平成17年6月1日午後10時30分ころ,山梨県富士吉田市ab番地のcdビルe階C組事務所において,D(当時54歳。以下「被害者」という。)が両手に文化包丁を持った状態で被告人Aに向かって来たことから,被告人Aの生命,身体を防衛する目的とともに憤激の情から,共謀の上,被害者に対し,その顔面,頭部等を手拳で殴打したり,その腹部,背部等を足蹴にしたりするなどし,さらに,床の上に倒れた被害者の頭部及び顔面を手拳で多数回にわたり殴打するなどの暴行を加え,よって,被害者に硬膜下くも膜下出血の傷害を負わせ,同月2日午前1時15分ころ,同県南都留郡f町gh番地iE病院において,被害者を上記傷害により死亡するに至らしめたが,被告人両名の上記行為は,急迫不正の侵害に対し被告人Aの生命,身体を防衛するために行ったもので,防衛の程度を超えたものである。 (証拠)省略(争点に対する判断) 弁護人は,判示第2の傷害致死事件について,被告人Aと被告人Bとの間に共謀はないし,被告人Aについては正当防衛が成立する,被告人Bについては過剰 防衛が成立する旨主張している。 関係各証拠によって認められる事実経過は,以下のとおりである。 (1)被告人Aは,暴力団C組の東京事務所の代行を務めており,被告人Bは,被告人Aの勧誘で同人の舎弟となったものである。被害者は,C組の古参の組 拠によって認められる事実経過は,以下のとおりである。 (1)被告人Aは,暴力団C組の東京事務所の代行を務めており,被告人Bは,被告人Aの勧誘で同人の舎弟となったものである。被害者は,C組の古参の組員であり,被告人両名とも飲食を共にするなどのつきあいのある関係であった。 (2)被告人Aは,平成17年6月1日午後10時20分ころ,被告人Bらとともにスナックで飲酒していた際,C組の組事務所に居住していたFから,電話で,被害者が組事務所で包丁を持って暴れているから助けてほしい旨要請された。 被告人Aは,被害者が酒癖が悪く,以前にもトラブルを起こして警察沙汰になったり,包丁を持って暴れたりしたことがあったことから,すぐさま組事務所に向かった。被告人Bも,被告人Aとともに組事務所に向かった。 (3)被告人両名が組事務所の入口から組事務所内に入ると,被害者は,部屋続きになっている勝手場の奥で,両手に包丁を持った状態で立っていた。被告人Aが,被害者に対し,「何をやっているんだ。」などと怒鳴りながら勝手場に入って行くと,被害者は,大声で怒鳴りながら,両手に1本ずつ包丁を持った状態で被告人Aに向かって来た。 (4)向かって来た被害者に対し,まず,被告人Aが,両手で被害者の両手首を掴むと,被告人Bが,手拳で被害者の頭部を殴打した。さらに,被害者ともみ合いになりながらも,被告人Aは,被害者に対し,その脇腹や顔面を足蹴にしたり,手拳等で顔面を殴打したりするなどの暴行を加え,被告人Bも,被害者に対し,その頭部,腹部,背中等を殴打したり,足蹴にしたりするなどの暴行を加えた。 (5)被害者は,被告人らの暴行によって床に倒れ,両手に持っていた包丁をいずれも手放した。被告人Bは,倒れた被害者の背中に両膝で飛び乗ると,そのまま背中に馬乗りになって被害者の頭部や顔面を繰 た。 (5)被害者は,被告人らの暴行によって床に倒れ,両手に持っていた包丁をいずれも手放した。被告人Bは,倒れた被害者の背中に両膝で飛び乗ると,そのまま背中に馬乗りになって被害者の頭部や顔面を繰り返し手拳で殴打し,立ち上がって被害者の頭部を足蹴にするなどし,さらに,被害者を仰向けにして馬乗 りになって顔面を繰り返し殴打した。その後,被害者が倒れて数分も経たないころ,被告人Bは,被告人Aの指示により被害者に対する暴行を終了した(被害者が倒れた後の被告人Bによる暴行の時間については,被告人Aが上記認定と異なる供述をしているが,暴行を行った被告人B自身「長くても5分くらい,短くても2~3分くらいだったと思う。」旨捜査段階及び公判廷において供述しているところ,この供述は,被害者の受けた傷の状況とも矛盾はなく,基本的に信用できる。)。 なお,検察官は,犯行状況の一部を目撃していたFの供述や被告人Bの捜査段階供述に基づき,被告人Aも,倒れて包丁を手放した後の被害者に対して暴行を加え続けていた旨主張しているところ,確かに,検察官の指摘する証拠やそれまでの経過等に照らすと,被害者が床に倒れて包丁を手放した後も被告人Aが被害者に対し暴行を加えていた疑いは強い。しかし,この点に関する関係証拠を子細にみると,まずF供述は,「AさんとBさんが一緒になってDさんを蹴飛ばしていたようなのですが,その様子ははっきりと確認していた訳ではありません。」などと曖昧なものにとどまっているし,その後一度被告人らから目を離し,再び戻ってきた際の状況についての「まだAさんとBさんがDさんを蹴飛ばすなどの暴力を振るっていました。」という供述にしてみても,どこまで被告人A個人の暴行につき意識的に供述したかは定かではなく,また,F立会の犯行再現においても,被害者が倒れ,包丁を手 Dさんを蹴飛ばすなどの暴力を振るっていました。」という供述にしてみても,どこまで被告人A個人の暴行につき意識的に供述したかは定かではなく,また,F立会の犯行再現においても,被害者が倒れ,包丁を手放して以降の被告人Aの暴行については何ら具体的な説明がされていない。他方,被告人Bの捜査段階供述にしても,「被告人Aも倒れた被害者を殴っていたという記憶だが,興奮しすぎてどのような格好で殴っていたかまではよく覚えていない。」(証拠略),「倒れた被害者を被告人Aが殴ったようにも思うが回数などについては覚えていない。」(証拠略)などと具体性を欠く供述を繰り返しているにすぎず,被告人Bによる犯行再現の実況見分調書にも,被害者が倒れた後の被告人Aの暴行に関する再現や説明は記載されていない。このように,両者の供述を 併せみても,未だ被害者が倒れて包丁を手放した後の被告人Aの暴行の時期や態様,程度は,何ら具体的に浮かびあがってこない一方,被告人Aは,捜査段階から,倒れて包丁を手放した後の被害者には暴行を加えていない旨供述していることからすると,倒れて包丁を手放した後の被害者に対しては被告人Aが特段の暴行を加えていなかった可能性も否定できないと言わざるを得ない。よって,この点に関する検察官の主張は採用できない。 被告人両名の共謀の有無について前記認定のとおりの被告人両名による被害者に対する暴行態様や暴行に至る経過,暴力団の兄貴分と舎弟という被告人両名の関係,被告人Aが,組事務所に向かう途中,被告人Bに対し,被害者が包丁を持って暴れているらしいなどと告げていたと認められることなどからすると,被告人両名は,両手に包丁を持った状態で被告人Aに向かって来た被害者に対し,相呼応し,相協力して前記のとおりの暴行を加えたものと評価できる上,被告人両名が,捜査段階 たと認められることなどからすると,被告人両名は,両手に包丁を持った状態で被告人Aに向かって来た被害者に対し,相呼応し,相協力して前記のとおりの暴行を加えたものと評価できる上,被告人両名が,捜査段階において,「(被告人Bの加勢について)被告人Bは自分よりも格下の人間で,自分が被害者に襲いかかられたことから,被害者が怯んだ隙に被害者を取り押さえて,自分を助けるためにそのようなことをしたのだと思う。」(被告人A),「被害者は自分の兄貴分の被告人Aを襲おうとしたので,被告人Aに加勢して一緒に被害者を殴るなどしようと考えた。当然,被告人Aも兄貴分としてこのような状態であれば自分が加勢して被害者に一緒になって暴力を振るうのは分かっていたはずである。」(被告人B)旨の供述をしていることも併せみれば,被害者が両手に包丁を持った状態で被告人Aに向かって来たのを受け,被告人両名の間に,被害者に対し暴行を加えることについての黙示の共謀が成立したと認めることができる。 正当防衛ないし過剰防衛の成否について(1)急迫不正の侵害及び防衛の意思についてア前記認定のとおりの犯行に至る経過や,被告人両名の捜査・公判供述によれば,被告人両名は,被害者が両手に包丁を持った状態で被告人Aに向かっ て来たために,これに対する反撃行為として,共謀の上,被害者に対する暴行に及んだものと認められるのであって,その際,被告人Aの生命・身体に対する急迫不正の侵害が存在していたことは明らかであるし,いずれの被告人についても,暴行の最中に被害者に対する怒りの情をも併せ持つに至っていたとも認められるものの,被害者からの侵害行為を認識し,これに対応して被告人Aの生命,身体を守る意図,すなわち,防衛の意思を有していたものと認めることができる。 イ積極的加害意思の有無についてこの点 も認められるものの,被害者からの侵害行為を認識し,これに対応して被告人Aの生命,身体を守る意図,すなわち,防衛の意思を有していたものと認めることができる。 イ積極的加害意思の有無についてこの点,検察官は,被害者に対して苛烈な暴行が加えられている事実や,被告人両名が包丁を持って暴れる被害者と相対することになることを当然に予期していたこと,被告人両名が組事務所の中に入る時点では既にFが事務所内から逃げ出していたことを認識していたことなどを理由として,被告人両名は被害者に制裁を加える目的で本件犯行に及んだものであるとし,急迫不正の侵害や防衛の意思は認められない旨主張する。 確かに,被告人両名は,予めFから被害者が包丁を持って暴れているなどと聞いていたのであるから,酔った被害者が切り付けてくることは容易に予想できたものと認められるし,検察官指摘のとおり,被告人Aが,Fの安全を確認できたにもかかわらず敢えて組事務所内に入ったという経過もあったと認められるところではある。しかし,一方で,「警察沙汰にしないで内々で収めようと考えたため,敢えて組事務所内に入った。」旨の被告人Aの説明は,本件に至る経緯等に照らして格別不自然なものとは言い難いし,関係証拠を子細にみても,被告人両名が,被害者からの侵害行為を待たずして当初から被害者に対して積極的に暴行を加えていたようには見受けられない。 また,被害者に対して苛烈な暴行が加えられた事実があることも検察官が指摘するとおりであるが,両手に包丁を持った被害者に対して被告人両名が素手で対抗しているという事実や,前記認定のとおり被告人Aについては倒 れて包丁を手放した後の被害者に対して暴行を加え続けたとは断じがたいこと,被告人Bにしても被告人Aの指示を受けると直ちに被害者に対する暴行を止めていることに着目すれば とおり被告人Aについては倒 れて包丁を手放した後の被害者に対して暴行を加え続けたとは断じがたいこと,被告人Bにしても被告人Aの指示を受けると直ちに被害者に対する暴行を止めていることに着目すれば,被告人両名が予め防衛行為に名を借りて被害者に対して積極的に攻撃を加えようと考えていたとまで見るにはなおも疑問が残るところである。 このことに,被告人両名いずれについても,かねてから被害者に対して恨みや憎しみを抱いていたようにうかがわせるような証拠は一切見当たらないことをも考えあわせれば,被告人両名につき,この機会を利用して被害者に対する制裁を加えるといったような積極的加害意思を認めることは困難であって,この点に関する検察官の主張は採用できない(なお,被告人Bの捜査段階供述の中には,「被害者が酔っぱらって暴れていたら被告人Aを手伝い,多少の暴力を振るってでも力づくでおとなしくさせよう等という気持ちが当然あった。」,「自分の兄貴分の被告人Aに襲いかかった被害者が許せなかった。」旨の供述があるものの,これらについても,被害者に対する怒りの情や攻撃意思の存在を裏付けるものではあるにせよ,積極的加害意思まで認定するに十分なものとは言い難い。)。 ウ急迫不正の侵害の継続の有無について検察官は,被害者が倒れて包丁を手放した後は,被害者が被告人両名に対して攻撃を加えるおそれは完全に消失していたことは明らかであるから,正当防衛も過剰防衛も成立する余地はないとも主張している。 しかし,被害者は,身長172センチメートル,体重71.6キログラムと比較的体格も良かった上,当時相当酔っていたとはいえ,当初,被告人Aに対し,大声で怒鳴りながら両手に包丁を持った状態で向かって来たものである。また,被害者は,床に倒れる直前までは未だ刃物を持った状態で被告人両名に対して ,当時相当酔っていたとはいえ,当初,被告人Aに対し,大声で怒鳴りながら両手に包丁を持った状態で向かって来たものである。また,被害者は,床に倒れる直前までは未だ刃物を持った状態で被告人両名に対して応戦していたと認められること,倒れて包丁を手放した後もしばらくの間は暴れたり動いたりしていたようにうかがえること(なお,被告 人Bの捜査段階供述の中には,倒れた後の被害者は戦意を喪失していた旨の供述もある(乙17,20)ものの,一方で,倒れた後も被害者がしばらくは暴れたり動いたりしていた旨の供述もみられる(乙18)し,同被告人は,公判廷においては,「被害者は倒れて自分が馬乗りになった後も押し返そうとしたり手足をばたばたさせたりして暴れていた。殴らなければ逆にやられてしまうのではないかという感じで夢中でやった。」旨供述しているところ,このような公判供述は,本犯行の経緯等に照らして格別不自然なものとはいいがたいから,以上からすると,被害者は,倒れて包丁を手放した時点で既に無抵抗の状態になっていたと即断することはできない。)などからすると,被害者が倒れて包丁を手放した時点で,即,被害者による侵害行為が終了し,急迫不正の侵害がなくなったと認めることはできない。 また,確かに,被害者の受けた傷の状況や被告人Bの捜査段階供述等によれば,被害者は,床に倒れて包丁を手放した後のいずれかの段階では戦意を喪失し,制圧された状態に陥ったものとうかがえるところではあるが,その時期などは証拠上判然としない一方,倒れた後の被告人Bによる暴行が,数分も経たないという短い時間に連続的に行われたものであることや,それまでの被告人両名による暴行行為と同一の場所で,それまでの暴行行為に引き続き,同じような態様で加えられていること,前記のとおり被告人Bは被告人Aの制止を受けて暴 続的に行われたものであることや,それまでの被告人両名による暴行行為と同一の場所で,それまでの暴行行為に引き続き,同じような態様で加えられていること,前記のとおり被告人Bは被告人Aの制止を受けて暴行を止めたものであるところ,被告人B自身「夢中でやった。」旨供述しているとおり,制止を受けるまでは相当な興奮状態が続いていたようにうかがえることなどの事実に照らせば,被害者が倒れて包丁を手放した後の被告人Bによる暴行は,いわば余勢に駆られて行った行為としてそれまでの暴行行為とは一連のものとしてとらえるのが相当である。そのため,正当防衛等の成否の判断に当たっても,被害者が倒れて包丁を手放した前後を分断的にとらえるべきでないことはもちろん,被害者が倒れて包丁を手放した後の段階についても,分断的にとらえて急迫不正の侵害の消失 があったとの評価を加えるのは相当でない。 よって,この点の検察官の主張も採用できない。 (2)防衛行為の相当性についてア前記のとおり両手に包丁を持った状態で被害者が向かって来たとはいえ,当時被害者は相当酔った状態にあったとうかがえることや,被告人両名は,共謀の上,2人がかりでこもごも殴る蹴るの暴行を被害者に加えたのみならず,被害者が倒れて包丁を手放した後も,被告人Bにおいて被害者に馬乗りになってなおもその頭部等を繰り返し殴り続けるなどの一方的かつ執拗な暴行を加え,結果的に被害者を死亡に至らしめていることからすると,被告人両名の共謀に基づく被害者に対する一連の暴行は,社会通念上容認される限度を逸脱した行為であって,正当防衛の相当性の要件に欠けるものといわざるを得ない。また,被告人両名のいずれについても,この点に関する認識に欠けるところはないと認められる。 したがって,被告人両名いずれについても,傷害致死罪については,過剰 の要件に欠けるものといわざるを得ない。また,被告人両名のいずれについても,この点に関する認識に欠けるところはないと認められる。 したがって,被告人両名いずれについても,傷害致死罪については,過剰防衛が成立するものと認められる。 イこの点,弁護人は,被害者が床に倒れて以降は,被告人Aは一切暴行を加えていないばかりか,茫然自失となっていて当初被告人Bによる暴行も認識していなかったのであるから,被告人Aは被害者が倒れた後の暴行部分について責任を負うものではない旨主張し,被告人Aも,「被害者が倒れた後のことはよく覚えていない。我に返ると被告人Bが被害者を殴打していたので直ぐに止めさせた。」旨これに沿う供述をしている。 しかし,前記のとおり被害者が倒れて包丁を手放した後の被告人Bによる暴行は,被告人両名による当初の暴行と一連のものとして評価されるべきものであるし,被害者が倒れて包丁を手放した後の段階も含め,被告人両名に対する急迫不正の侵害が一時点で消失したとの評価を加えるのも相当でないから,3で認定したとおりの当初の黙示の共謀に基づき,被告人Aも,被告 人Bの行為による責任を含め,全部責任を負うべきことは明らかである。よって,この点に関する弁護人の主張は採用できない(なお,被害者が倒れた後のことはよく覚えていない旨の被告人Aの弁解は,同被告人も被告人B同様に当時相当興奮していたことがうかがわれるにせよ,被告人Aがその直前まで両手に包丁を持った被害者を相手に的確に防衛行為に及んでいることや,被害者が倒れた後の被告人Bによる暴行も前記のとおりごくわずかな時間のものというわけではなかったこと,被告人Aは「被害者が倒れた後は自分は暴力を振るっていない。」などと同じ場面における自己に有利な事柄についてはことさら記憶が鮮明であるとの供述をしていること な時間のものというわけではなかったこと,被告人Aは「被害者が倒れた後は自分は暴力を振るっていない。」などと同じ場面における自己に有利な事柄についてはことさら記憶が鮮明であるとの供述をしていることなどに照らし信用することはできず,かえって,本件犯行のきっかけが被告人Aに対する被害者からの侵害行為にあったことや,被告人両名の関係等からすると,被告人Aは,被害者が倒れて包丁を手放した後の被告人Bによる暴行を,自らが制止するまでの間は黙認していたものと認めるのが相当であって,この点からも弁護人の主張は採用できない。)。 (累犯前科)被告人Bは,(1)平成9年8月5日浦和地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役1年4月に処せられ,平成10年11月4日その刑の執行を受け終わり,(2)その後犯した有印私文書偽造,同行使,詐欺未遂,傷害の罪により平成13年8月9日さいたま地方裁判所越谷支部で懲役1年4月に処せられ,平成14年11月8日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書及び(2)の前科に係る調書判決謄本によって認める。 (法令の適用) 被告人Aについて同被告人の判示第2の所為は刑法60条,205条に該当するので,その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中170日をその刑に算入することとする。 被告人Bについて同被告人の判示第1の所為は覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条に,判示第2の所為は刑法60条,205条にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪は前記(1)(2)の各前科との関係で3犯であるから,同法59条,56条1項,57条により累犯の加重を,また判示第2の罪は前記(2)の前科との関係で再犯であるから,同法56条1項,57条により同法14条 記(1)(2)の各前科との関係で3犯であるから,同法59条,56条1項,57条により累犯の加重を,また判示第2の罪は前記(2)の前科との関係で再犯であるから,同法56条1項,57条により同法14条2項の制限内で累犯の加重をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により法定の加重をすることとするが,平成16年法律第156号の施行前に犯したものと施行後に犯したものがある場合で,これらの罪のうち同法の施行後に犯したもののみについて同法による改正後の刑法14条の規定を適用して処断することとした場合の刑が,これらの罪のすべてについてその改正前の刑法14条の規定を適用して処断した場合の刑より重い刑となるときであるから,平成16年法律第156号附則4条ただし書により,同法の施行後に犯した判示第2の罪の刑に刑法14条2項の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役4年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中170日をその刑に算入することとする。 (量刑の理由) 本件は,被告人両名が,共謀の上,被害者に殴る蹴るの暴行を加えて死亡させたという傷害致死の事案(判示第2)と,被告人Bが覚せい剤を自己使用したという覚せい剤取締法違反の事案(判示第1)である。 傷害致死事件について被告人両名は,被害者が両手に包丁を持った状態で被告人Aに向かって来たとはいえ,酒に酔った被害者に対し,こもごも殴る蹴るの暴行を加えたばかりか,被害者が床に倒れて包丁を手放した後も,なお馬乗りになって頭部等を繰り返し殴打するなどの一方的な暴行を加え続けているところ,被害者の死体の状況や現場の血痕等から暴行態様の苛烈さ,凄惨さが如実に現れているのであって,その 犯行態様は非常に執拗かつ粗暴で悪質である。 被害者は,自ら招いた面があるとは え続けているところ,被害者の死体の状況や現場の血痕等から暴行態様の苛烈さ,凄惨さが如実に現れているのであって,その 犯行態様は非常に執拗かつ粗暴で悪質である。 被害者は,自ら招いた面があるとはいえ,人生の半ばにして激しい暴行による苦痛の中で生涯を閉じなければならなかったものであり,その無念のほどは想像するに難くない。人1人を死亡させたという結果は重大である。 覚せい剤使用事件について被告人Bの供述によれば,同被告人は,前刑出所の約3か月後に友人に勧められて覚せい剤を使用したというのであって,同種の服役前科があることからすると,その安易な犯行動機に酌量の余地はないし,覚せい剤に対する親和性も認められる。職務質問を受けて尿を提出した後,逮捕を免れようと居所を転々とするなどしていたことも併せみれば,犯情は良くない。 被告人らの個別の情状について(1)被告人Aについて被告人Aは,立っている状態の被害者に対し自ら殴る蹴るの暴行を加えているほか,被害者が倒れて包丁を手放した後は,自らは暴行を加えたとまでは認めがたく,かつ,当時相当興奮していたことがうかがわれるにせよ,暴力団組織の代行という上位の立場から配下の被告人Bに容易に指揮命令を下せる立場にありながら,被告人Bの苛烈な暴行を黙認し,結果的に被害者の死亡という重大な結果を招いたものであって,その責任は重大である。 他方,被害者が両手に包丁を持った状態で被告人Aに向かって来たのが犯行の直接の契機となっており,その意味で被害者が犯行を誘発したものであるし,被告人Aには前記のとおり過剰防衛が成立すること,被告人Aは被害者が倒れて包丁を手放した後は暴行を加えたとまでは認めがたい上,最終的に被告人Bの被害者に対する暴行を止めさせていること,被告人Aは,自己の刑責を軽減すべく一部につき不自 立すること,被告人Aは被害者が倒れて包丁を手放した後は暴行を加えたとまでは認めがたい上,最終的に被告人Bの被害者に対する暴行を止めさせていること,被告人Aは,自己の刑責を軽減すべく一部につき不自然な弁解をしている点は見受けられるものの,被害者を死亡させてしまったことについては捜査段階から反省の態度や被害者に対する謝罪の意思を表明していること,前科はいずれも古いものであることなど,被 告人Aにとって酌むべき事情も認められる。 (2)被告人Bについてまず,傷害致死事件について見ると,被告人Bは,立っている状態の被害者に対し被告人Aとともに殴る蹴るの暴行を加えたばかりか,被害者が倒れた後も,自ら馬乗りになって頭部等を繰り返し殴るなどの一方的な暴行を加えており,自ら積極的かつ中心的に被害者に対し執拗かつ苛烈な暴行を行っていたものであり,その責任は重大である。また,被告人Bは,前科関係に照らすと粗暴傾向もうかがわれる上,複数の前科がありながら本件各犯行に及んでいることからすると,その規範意識も鈍麻しているといわざるを得ない。 他方,傷害致死事件については,被害者が両手に包丁を持った状態で被告人Aに向かって行ったのが犯行の直接の契機となっており,その意味で被害者が犯行を誘発したものであるし,被告人Bの行為には前記のとおり過剰防衛が成立すること,被告人Bは,当公判廷において被告人Aをかばい立てするような供述を一部においてしているものの,被害者を死亡させてしまったことについては捜査段階から反省の態度と被害者に対する謝罪の意思を表明していること,覚せい剤事件については,今後は覚せい剤と縁を切る旨述べていること,被告人Bと結婚を約束している交際相手が情状証人として出廷し今後の被告人Bの監督を約束していることなど,被告人Bにとって酌むべき事情も認め 剤事件については,今後は覚せい剤と縁を切る旨述べていること,被告人Bと結婚を約束している交際相手が情状証人として出廷し今後の被告人Bの監督を約束していることなど,被告人Bにとって酌むべき事情も認められる。 そこで,当裁判所は,これらの被告人らにとって有利,不利な一切の事情を総合考慮し,主文のとおりの刑を量定した次第である。 (検察官折原崇文,私選弁護人松本和英各出席)(求刑懲役8年〔被告人A〕,懲役9年〔B〕)平成18年2月8日甲府地方裁判所刑事部裁判長裁判官川島利夫 裁判官矢野直邦裁判官肥田薫

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