平成15(ラ)1242 日本経済新聞社懲戒解雇

裁判年月日・裁判所
平成15年10月31日 東京高等裁判所
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判決文本文14,563 文字)

主文 1 本件抗告を棄却する。 2 抗告費用は,抗告人の負担とする。 理由 第1 抗告の趣旨 1 原決定を取り消す。 2 抗告人が相手方に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。 3 相手方は,抗告人に対し,平成15年3月20日から本案判決確定に至るまで,毎月25日限り各金106万6606円並びに毎年7月及び12月の各末日限り各金305万7965円を仮に支払え。 4 申立ての総費用は,相手方の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,抗告人が,当時,勤務先である相手方の代表取締役社長であったa及び関係者の名誉を毀損し,相手方の体面を汚したとして,平成15年3月20日付けでされた懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)の効力が争われた事案である。 抗告人が本件懲戒解雇は無効であると主張して雇用契約上の地位保全及び賃金仮払の仮処分命令を申し立てたところ,原決定は,これを無効ということはできないとして申立てをいずれも却下した。そのため,抗告人が不服を申し立てたものである。 2 以上のほかの事案の概要は,原決定の理由の要旨「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。 なお,本決定においても,原決定と同様に,甲第6号証(「株主提案権の行使に関する件」と題する書面)を「本件書面1」,甲第7号証(「社員株主(OBを含む)の皆様へ」と題する書面)を「本件書面2」,甲第8号証の1及び2を併せて「本件書面3」という。また,「本件事実」とは,①aとK・M女が,愛人関係にあった,②aは,K・M女の子であるK・T子とも愛人関係となり,K・T子に子を産ませた,③K・M女は,これを悲観して自殺した,④K氏がK・T子の子U君を認知した,⑤U君は,実際にはK氏の子ではなく,aの子である,との事実をいう。 3 T子とも愛人関係となり,K・T子に子を産ませた,③K・M女は,これを悲観して自殺した,④K氏がK・T子の子U君を認知した,⑤U君は,実際にはK氏の子ではなく,aの子である,との事実をいう。 3 抗告人の当審における主張(抗告の理由)(1) 懲戒処分の対象行為相手方が解雇通知書において本件懲戒解雇の理由としたのは,本件書面1及び2の送付のみであった。しかるに,原決定は,本件書面3をも含むものと誤認し,その上で解雇理由が正当なものであったと判断した。これは,解雇理由の有無の判断に当たって,考慮すべきでない事項を考慮したものである。本件書面3は,相手方の役員6名にしか送付されず,しかも直ちに相手方によって回収され,その内容は公表されなかったものであるから,名誉毀損の考慮対象から除外すべきである。 そして,本件書面1及び2のみからは,K・M女,K・T子,U君,K氏といった匿名の人物については特定不能であり,同人らに対する名誉毀損は成立する余地がない。 また,本件書面1及び2は,疑惑を真実として摘示したものではないから,名誉毀損に当たらない。 原決定は,本件事実が「風聞,噂の形で摘示された」ことを前提としながら,「疑惑の内容それ自体を真実として取り上げた」ものであったかのように判断しているが,本件書面1及び2が「疑惑を持たれること自体が問題であるとして取り上げた」ものであることは明らかである。 これらの文書を受け取った相手方の株主も,抗告人と同様に相手方の社員として長い経歴を有する新聞記者であるから,このような抗告人の真意は極めて正確に理解し,また「警察のような捜査権限も有していない報道記者が,愛人疑惑が真実であると確証することはできないことは最初から判っている。したがって,抗告人がそのような疑惑を真実として提示するはずがない」ことも ,また「警察のような捜査権限も有していない報道記者が,愛人疑惑が真実であると確証することはできないことは最初から判っている。したがって,抗告人がそのような疑惑を真実として提示するはずがない」ことも十分に理解していたはずである。 なお,これらの文書を抗告人が送付した時点では,引用した疑惑は既に相手方の社内において広く周知されていたので,抗告人にとっては,この疑惑を真実として提起する必要性は全く存在せず,むしろ,そのような疑惑が広くもたれていること自体が,代表取締役として不適格であることを示すものであった。 (2) 株主提案権の行使としての行為本件書面1及び2は,抗告人が,株主提案権を行使した内容及び背景につき,株主に送付して理解を求めたものにすぎないから,名誉毀損に当たらない。 商法施行規則15条1項1号は,株主提案権の行使と名誉毀損との関係について,「専ら人の名誉を侵害し,若しくは侮辱する目的によるものと認められる」場合のみを排除の対象としているところ,本件ではそのような目的はないから適法である。株主提案においては,一般法である民法において禁止されるような名誉毀損的表現も許されているのであり,それは,株主提案が民法の特別法である商法によって規制されているためである。 また,抗告人は,株主としての資格において行動したものであり,社員として行動したものではないから,そのような行為に対して就業規則を適用することは本来的に予定されていないというべきである。株主提案権の行使は本来的に適法な行為であり,その行使ないしそれと密接に関連する行為を根拠として懲戒解雇をするなどということは,原則として許されないというべきである。特に,株主提案権は時の経営陣に自らの見解を反映させることができない少数派の株主によって行使されるのであるから,経営陣がこれ て懲戒解雇をするなどということは,原則として許されないというべきである。特に,株主提案権は時の経営陣に自らの見解を反映させることができない少数派の株主によって行使されるのであるから,経営陣がこれを違法として社員を懲戒解雇することが適法とされるのであれば,株主提案権の制度が存亡の危機に瀕することは明らかである。 しかも,本件では,相手方は,aが抗告人を名誉毀損罪で刑事告訴したにすぎない段階で,抗告人を懲戒解雇したものである。通常の場合には,会社が懲戒解雇という最も重い処分をするのは,刑事判決が下され,あるいは当該社員本人が犯行を認めているといった状況がある場合に限られる。 本件懲戒解雇は,相手方が自らの最高経営責任者に反対する抗告人を排除しようとしたものであり,不当な目的に基づく懲戒権の行使として許されないものであることは明らかである。 (3) 内部告発としての行為抗告人の行為は,社員として行ったという側面を有すると仮定しても,相手方の代表者の不適切な行為を指弾する「内部告発」と評価されるべきものである。 原決定も,抗告人の行為の目的が公益を図ることにあり,私利私欲に出たものではないことを認めながら,このような「内部告発」の場合にも,内部告発をした側に,告発内容の真実性ないし相当性を立証する責任があると解したが,このような解釈は誤りである。「内部告発」の場合には,内部告発者が告発内容の真実性ないし相当性について証明する責任を負わないと解すべきである。 なお,相手方は,本件の対象行為は,内部告発システムを利用したものでないから内部告発でない旨を主張しているが,そもそも相手方においては内部告発システムなど構築されていないのであるから,相手方の主張はその前提を欠く。 (4)「会社の体面を汚したとき」の解釈適用原決定は,会社に対する評価 旨を主張しているが,そもそも相手方においては内部告発システムなど構築されていないのであるから,相手方の主張はその前提を欠く。 (4)「会社の体面を汚したとき」の解釈適用原決定は,会社に対する評価の毀損の抽象的危険が客観的に認められれば「会社の体面を汚したとき」に該当するとしているが,抽象的危険で足りるとの判断は誤りであり,会社の体面を汚したと客観的に認められることが必要である。 本件では,相手方の社会的評価の毀損は,現に生じていない。抗告人は,相手方の記者としてではなく,株主として行動したのであり,単なる社内問題であるから,この行為によって,相手方の報道の正確性に対する評価が大きく毀損されるおそれなど生じるわけがない。また,相手方は,我が国を代表する新聞社であり,巷の個人企業などではなく,オーナー企業でもない。そのような相手方の代表取締役の女性問題が株主提案権の行使の際の提案理由に掲げられたからといって,当該代表取締役個人の資質が疑われることはあっても,相手方自身の品格が疑われることなどあろうはずがない。 結局,「会社の体面を汚したとき」に該当することについては,何ら疎明がない。 (5) 別件名誉毀損事件との対比等相手方は,平成5年9月25日付け朝刊及び全日版社会面において,「清水建設大型受注相次ぎ失敗 88年水戸芸術館も窮状打破へ贈賄?」との見出し記事により,茨城県知事選挙の立候補者が市長時代に清水建設との間で不正常な関係があるかのような記事を当該選挙前に掲載した。これに対し,前記候補者から相手方を被告として,名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟が提起され,相手方は,最高裁判所まで争ったが敗訴した(以下「別件名誉毀損事件」という。)。 広く一般読者向けに名誉毀損となるような誤った記事を掲載し,相手方の報道の正確性に対する評 害賠償請求訴訟が提起され,相手方は,最高裁判所まで争ったが敗訴した(以下「別件名誉毀損事件」という。)。 広く一般読者向けに名誉毀損となるような誤った記事を掲載し,相手方の報道の正確性に対する評価を毀損した別件名誉毀損事件では,相手方は,記者,編集者等関与した者に対し,懲戒解雇はもとより,けん責などの最も軽い懲戒処分すら行っていない。その一方で,抗告人に対しては最も重い処分である懲戒解雇としたのは,明らかに平等扱いを欠き不相当である。 百歩譲って,抗告人の行為が就業規則の懲戒解雇事由に該当すると仮定しても,前記の点のほか,抗告人の従前の功績や勤務態度等,本件対象行為当時に世論の厳しい批判を浴びていながら問題解決を行わないばかりかクラブ通いをしていたという相手方ないしaの状況ないし行動,相手方に対する愛社精神故に相手方の内部から改善を図ろうとした本件対象行為の目的,株主提案権行使及びこれに賛同を求める旨の社内株主に対する文書の送付という本件対象行為の方法,本件対象行為に至るまでに抗告人が積み上げた調査,そして,世の通常人の反応は,本件対象行為自体に対する相手方の批判ではなく日ごろ他の企業の経営責任を追及しながら自らの内部告発に対しては説明責任すら果たさないという相手方の体質に対する批判であったことなどの諸般の事情にかんがみれば,本件懲戒解雇は,対象行為との間に明らかに均衡を欠き,懲戒権を濫用した違法な処分であることが明白である。 4 相手方の当審における主張(抗告の理由に対する反論)(1) 相手方は,抗告人が本件書面1及び2を多数人に送付した行為のみならず,本件書面3を送付した行為についても名誉毀損に該当し,懲戒処分の対象になり得るものと判断していたが,更に慎重を期すため,本件書面1及び2を送付した行為のみでも抗告人を懲戒解雇処分にな 為のみならず,本件書面3を送付した行為についても名誉毀損に該当し,懲戒処分の対象になり得るものと判断していたが,更に慎重を期すため,本件書面1及び2を送付した行為のみでも抗告人を懲戒解雇処分になし得るかを検討したところ,これをなし得るとの結論が得られたことから,謙抑性のために本件書面1及び2を送付した行為のみを本件懲戒解雇処分の対象行為として捉え,本件書面3を送付した行為は,抗告人の性向を判断する上での事情又は抗告人が本件書面1及び2を作成するために行った調査方法及び調査内容の相当性を知るための資料として考慮することとした。 以上のように,相手方は本件懲戒処分の対象となる行為を本件書面1及び2の文書を送付した行為としたが,その懲戒処分の内容を決するに当たっては,抗告人が本件書面3を送付した行為をも考慮に入れられている。また,本件書面1及び2を送付した行為のみでも懲戒解雇事由に当たるから,原決定の結論に誤りはない。 (2) 本件では,抗告人の立場は,株主と社員の立場が同一である社員株主の地位にあるから,社員としての地位の側面を有するものである。加えて,本件文書の内容は,会社の経営に関する資質を問うているものであることからすれば,私人としてよりも社員としての地位の問題として取り扱うべきである。 さらに,本件名誉毀損行為は,相手方のパソコン上のイントラネットを利用し,かつ,就業時間中に行われていることからすれば,社員としての地位を離れて行われたものとはいえない。 また,抗告人の本件名誉毀損行為が懲戒解雇事由に該当するか否かの調査及び抗告人を懲戒処分にするか否かの判断は,捜査機関の捜査や刑事裁判とは関係なく,相手方が独自にその責任において行うべきものである。 相手方は,本件においては,会社秩序維持のために就業規則に基づき適正に懲戒解雇処 処分にするか否かの判断は,捜査機関の捜査や刑事裁判とは関係なく,相手方が独自にその責任において行うべきものである。 相手方は,本件においては,会社秩序維持のために就業規則に基づき適正に懲戒解雇処分を行ったものであり,不当な目的でしたものではない。また,相手方は,本件名誉毀損行為が株主権の行使の一環としてされたことを理解しており,抗告人の株主権の行使については十分注意を払い,株主総会において抗告人の提案権の行使を可能な限り尊重するとともに,質問権の行使についても十分時間を費やした。 (3) 企業の内部告発システムを利用した告発については,告発内容が真実であることや,その証明を告発者に対して要求するべきではないと論ずる者が存在する。しかしながら,抗告人の本件名誉毀損行為は,相手方に対して何ら調査の嘱託や依頼をするわけでもなく,外部に流出する可能性があることを十分に予想しながら,相手方の社員約60名に本件書面1及び2を送付したのであるから,そこで論じられているような内部告発には該当しない。 また,抗告人の調査の内容は,極めて少数の関係者への取材のみであり,相当の資料,根拠に基づくものではなかった。それにもかかわらず,抗告人は,本件各文書において「一応の裏付けは取れた」と確信犯的表現を用いている。ゆえに,仮に内部告発に当たるとしても,抗告人は,内容の真実性について相当の注意を払わないまま本件名誉毀損行為を行っている以上,内部告発としての保護を受ける理由はない。 (4) 本件においては,原決定判示のとおり,抗告人の名誉毀損行為により,相手方の社会的評価は大きく毀損された。原決定は,行われた行為の性質,危険性等を判断して,経験則により社会的評価の毀損を認定したものと解される。 抗告人は,本件書面1及び2を郵便又は電子メールを通じて社内の約60名に は大きく毀損された。原決定は,行われた行為の性質,危険性等を判断して,経験則により社会的評価の毀損を認定したものと解される。 抗告人は,本件書面1及び2を郵便又は電子メールを通じて社内の約60名に対して送付しており,このような多数人に送付すれば社外に流出することが十分予想される。実際にも,本件書面1及び2の内容等が週刊誌等で一般社会に広く流布される事態が生じており,相手方の社会的評価は現実に大きく毀損されてしまっている。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,抗告人の本件仮処分命令の申立ては,被保全権利の疎明がないから却下すべきものと判断する。 その理由は,次のとおり訂正するほか,原決定の理由の要旨「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 11頁5行目から8行目にかけての括弧書き全部を削る。 (2) 12頁1行目の「これらの記述」を,「本件書面1及び2の同表(あ)欄記載の記述」と改める。 (3) 12頁7行目,17行目及び17頁13行目の「○○」を,いずれも「○○」と改める。 (4) 12頁9行目の「また,」から15行目末尾までを,「なお,相手方は,本件書面3については直接には本件懲戒処分の対象行為としていないことを明らかにしているので,名誉毀損の成否は,本件書面1及び2に限定して検討するのが相当である。」と改める。 (5) 12頁16行目,13頁3行目,6行目及び20行目の「本件書面1ないし3」を,いずれも「本件書面1及び2」と改める。 (6) 12頁18行目の「甲7」を,「甲6」と改める。 (7) 12頁18行目及び13頁10行目の「,8の2」を削る。 (8) 12頁18行目の「本件書面2」を,「本件書面1」と改める。 (9) 12頁25行目の「記載され,」から13頁1行目の「K・T子の実名(名)が」ま 行目及び13頁10行目の「,8の2」を削る。 (8) 12頁18行目の「本件書面2」を,「本件書面1」と改める。 (9) 12頁25行目の「記載され,」から13頁1行目の「K・T子の実名(名)が」までを削る。 (10) 13頁11行目の「,本件」から13行目の「自体が」」までを削る。 (11) 13頁18行目の「と記載,」から19行目の「濃厚なのである」」までを削る。 (12) 13頁25行目の「公益性」を,「公共性」と改める。 (13) 16頁2行目の「ついて」を,「について」と改める。 (14) 17頁16行目の「4名」を削る。 (15) 17頁18行目の「免れないとうべき」を,「免れないというべき」と改める。 (16) 18頁14行目の「会社に対する」から18行目末尾までを,「本件においては,抗告人が本件書面1及び2を約60名という多数の者に送付したため,その内容が現実に週刊誌等により広く報じられるに至り,会社に対する評価が現実に毀損されたことが認められる(甲30ないし36(枝番も含む),乙19の1ないし20)。」と改める。 (17) 20頁21行目の「はすです」を,「はずです」と改める。 (18) 20頁25行目の「債務者に対し,」から26行目の「同日」までを,「1月25日」と改める。 (19) 21頁20行目の「なお,」から24行目末尾までを削る。 2 抗告人の当審における主張に対する判断(1) 本件懲戒解雇の対象行為について,相手方は,解雇通知書(甲10)において本件書面1及び2の送付行為としたものであることを明らかにしているので,第一次的には,この行為のみを対象として本件懲戒解雇の有効性を判断すべきである。 そして,本件書面1及び2は,抗告人が相手方の社員約60名に対し併せて送付したものであるから,名誉毀損の成否に関しては,一体とし ,この行為のみを対象として本件懲戒解雇の有効性を判断すべきである。 そして,本件書面1及び2は,抗告人が相手方の社員約60名に対し併せて送付したものであるから,名誉毀損の成否に関しては,一体として評価を加えるべきである。 本件書面1(甲6)の提案理由2では,雑誌「噂の真相」(甲5の1)及び光文社新書「怪文書Ⅱ」(甲5の2)における掲載内容を引用しているのみならず,「この疑惑を調査したところ,その結果の要旨は以下のとおりである」として,抗告人が調査した内容を記載した上で,「上記記事の裏付けは一応取れた。」と結論付けられている。また,本件書面2(甲7)には,「a社長の愛人疑惑について,独自に調査を始め,昨年末に調査を終えました。その結果の要約は,株主提案書にある通りですが,」,「愛人疑惑についても,否定する材料は一切なく,事実である可能性が極めて高いことが判明しました。」,「愛人問題についても,その疑惑を取り沙汰されるだけでも,許されざる重大問題です。まして,その疑惑が真実である可能性が極めて高いとすれば,言語道断です。」との記載がある。これらの記載は,単に疑惑を持たれたという事実を摘示したにとどまらず,疑惑の内容となっている事実を真実である可能性が極めて高いものとして摘示したものであると解される。この解釈は,本件書面1及び2に,真相のいかんにかかわらず疑惑を持たれること自体も問題であるとの趣旨の文言があることによっては左右されない。 そもそも,ここでいう疑惑とは,突き詰めれば,雑誌「噂の真相」及び光文社新書「怪文書Ⅱ」で引用された一片の怪文書に帰着するものであって,このような怪文書で疑惑を流されたこと自体が重大問題であるとはいえない。抗告人も,だからこそ,疑惑の裏付けを取ろうとしたものと推認される。このことは,抗告人が作成した本件 書に帰着するものであって,このような怪文書で疑惑を流されたこと自体が重大問題であるとはいえない。抗告人も,だからこそ,疑惑の裏付けを取ろうとしたものと推認される。このことは,抗告人が作成した本件文書3に「では,疑惑は真実なのか。以下,私の調査結果を報告する。」との記載があることからもうかがわれる(甲8の2)。 また,本件事実のうち,④K氏がK・T子の子U君を認知した,⑤U君は,実際にはK氏の子ではなく,aの子である,との部分は,雑誌「噂の真相」及び光文社新書「怪文書Ⅱ」には全く記載されておらず,抗告人が独自に調査したとして摘示したものである。よって,抗告人が,単に疑惑を持たれたことを問題にしたと解することはできない。 抗告人は,本件書面1及び2を受け取った者が抗告人と同様に長い経歴を有する新聞記者であるから事情が異なるとの主張をしているが,本件においては,そもそも抗告人自身が真実である可能性が極めて高いと信じ込んでいたのであって,にもかかわらず,受け取った者がこれを真実であるとは信じなかったとの疎明はない。 また,抗告人が引用した疑惑が,本件書面1及び2を送付した時点で既に相手方の社内において真実として広く周知されていたとの疎明もない。 なお,受け取った側が名誉毀損の対象者と面識がなく,実名を知らないとしても,それだけで名誉毀損の成立が否定されるわけではない。本件においては,まず,受け取った者は相手方の社員なのであるから,本件書面1に記載されている,aが多用している港区<以下略>のビルの地下にあるクラブ「K」という情報の範囲で,クラブ「K」を特定することができた者も少なくなかったものと推認される。そして,クラブ「K」を特定することができた者との関係では,それを開店したK・M女,その娘であるK・T子などということで対象者は十分特定さ 」を特定することができた者も少なくなかったものと推認される。そして,クラブ「K」を特定することができた者との関係では,それを開店したK・M女,その娘であるK・T子などということで対象者は十分特定されているものと評価される。よって,a以外の関係者が全く特定されていないとの抗告人の主張は,理由がない。また,これが特定されていないとの主張は,疑惑が既に相手方の社内において広く周知されていたとの抗告人の主張と実質的に矛盾するものと考えられる。 よって,抗告人が本件書面1及び2を送付した行為は,摘示した事実が真実であるか,真実であると信じるについて相当な理由があったこと(以下,これらを併せて「真実相当性」という。)が認められない限り,名誉毀損として,刑法上の名誉毀損罪及び民法上の不法行為に該当するので,相手方の就業規則(甲9)の70条4号の「法規にふれ」に該当することになる。 そして,本件事実の主要な部分が真実ではなく,かつ,抗告人がこれを真実であると信じたことに相当性が認められないことは,原決定14頁11行目から16頁末尾までに記載のとおりである。 (2) 抗告人は,抗告人の行為は株主提案権の行使にかかわるので,名誉毀損に当たらず,懲戒解雇の理由とすることは許されない旨の主張をしているので,この点について判断する。 株主提案権の行使に当たっても,みだりに他人の名誉を毀損することが許されていないことは,商法施行規則15条1項1号が,株主から提出された400字以内の提案理由については,株主総会の招集通知に添付すべき参考書類に記載することを義務付ける一方で,「(ただし,提案理由が明らかに虚偽である場合又は専ら人の名誉を侵害し,若しくは侮辱する目的によるものと認められる場合を除く。)」と規定していることからも明白である。よって,株主提案権の行使に 方で,「(ただし,提案理由が明らかに虚偽である場合又は専ら人の名誉を侵害し,若しくは侮辱する目的によるものと認められる場合を除く。)」と規定していることからも明白である。よって,株主提案権の行使については,およそ名誉毀損の問題を生じないとの見解は採用することができない。なお,前記規定によれば,提案理由が明らかに虚偽であれば,たとえ名誉毀損等の目的によるものでなくても,提案理由からの削除の対象となるのであり,本件はまさにそのような場合に該当する。 そして,本件書面1及び2の送付が,株主提案権の行使に関連するものであるとしても,それが同時に就業規則の懲戒事由に該当する場合に,その適用が許されないと解することはできない。抗告人は,本件書面1及び2の送付を,就業時間中に相手方の社内のメールを利用して行っていること(甲13)からしても,就業規則の適用は当然許されるものである。 なお,相手方が抗告人に対する刑事処分を待たずに懲戒解雇をすることが許されないと解すべき根拠もない。 また,本件懲戒解雇が,抗告人が主張するような不当な目的に基づいてされたものであることの疎明はない。むしろ,本件懲戒解雇の直後である平成15年3月28日に開催された相手方の株主総会においては,相手方は,本件書面1の提案理由2については,明らかに虚偽であるとの理由で商法施行規則15条1項1号に基づき参考書類に記載しなかったものの,抗告人の株主としての権利を保証し,株主提案権を行使させたことが疎明されている(甲13,32,乙5)。 (3) 抗告人は,抗告人の行為は「内部告発」と評価されるものであるから,通常の名誉毀損の場合と異なり,本件書面1及び2の内容の真実相当性について証明する責任を負わないと解すべきであると主張しているので,この点について判断する。 現在,我が国におい るものであるから,通常の名誉毀損の場合と異なり,本件書面1及び2の内容の真実相当性について証明する責任を負わないと解すべきであると主張しているので,この点について判断する。 現在,我が国において,いわゆる「内部告発者」の保護について立法の必要性が論議されている(甲29,43,44)。しかしながら,本件は,既に相手方の外部で公表された雑誌「噂の真相」の記事(甲5の1)及び光文社新書「怪文書Ⅱ」の記述(甲5の2)を端緒としたものである点などにおいて,保護の必要性が論議されている場合とは全く様相を異にしており,いわゆる「内部告発」とは似て非なるものというほかない。現行法の解釈としても,抗告人の行為について名誉毀損の真実相当性を全く問うべきでないというのは,独自の見解であって,採用することができない。 (4) 抗告人は,抗告人の行為が就業規則(甲9)の70条4号の「会社の体面を汚したとき」に該当することについて疎明がないと主張しているので,この点について,判断を補足する。 本件において,抗告人により送付された本件書面1及び2の内容は,現実に週刊誌等により広く報じられたことが一応認められる(甲30ないし36(枝番も含む),乙19の1ないし20)。例えば,本件懲戒解雇前に平成15年2月16日号として発行された週刊誌「サンデー毎日」の記事(甲30)には,本件書面1及び2の写真が掲載されており,本件書面2は,「部長自らが……愛人の疑惑調査を行った結果として,『疑惑は真実である可能性が極めて高い』と断じて」いる旨の記述がある。抗告人が本件書面1及び2を約60名という多数の者に配布し,かつ,株主総会の招集通知にも本件書面1の議案と提案理由の全文を記載することを請求していたこと(甲6)及び抗告人の長い記者経験からすれば,そのような事態は抗告人としても 0名という多数の者に配布し,かつ,株主総会の招集通知にも本件書面1の議案と提案理由の全文を記載することを請求していたこと(甲6)及び抗告人の長い記者経験からすれば,そのような事態は抗告人としても十分予想していたものと考えられる。 そして,抗告人が摘示した本件事実は,相手方の代表者であるaが,愛人関係にあった女性の娘とも愛人関係となり,子を産ませたために,悲観した女性が自殺したなどという衝撃的なものであるから,一方で,本件事実が真実であると信じた者は,そのような代表者がいる相手方の品格を疑うこととなり,他方で,本件事実が真実であると信じなかった者は,そのような名誉毀損行為を行う記者がいる相手方の報道の正確性を疑うこととなるのは,否定することができない。したがって,いずれにしても,相手方に対する評価は少なからず毀損されることになる。このことは,相手方が我が国を代表する新聞社の1つであり,その中でもとりわけクオリティペーパーを標榜しており,抗告人は相手方の記者として要職を歴任してきた者であることなどからすれば,より一層軽視することができないものである。 抗告人は,相手方が我が国を代表する新聞社であり,巷の個人企業などではなく,オーナー企業でもないから,そのような相手方の代表取締役であるaの女性問題が株主提案権の行使の際の提案理由に掲げられたからといって,a個人の資質が疑われることはあっても,相手方自身の品格が疑われることなどあろうはずがないとも主張している。しかしながら,抗告人は,本件書面1において,提案理由2の結びとしても,「社会の公器とされる報道機関,とりわけクオリティペーパーを標榜する当社の取締役として全く失格である。」と指摘しているのであって,これは,換言すれば,aの女性問題が相手方の体面を汚すものであるということとほとんど同義 報道機関,とりわけクオリティペーパーを標榜する当社の取締役として全く失格である。」と指摘しているのであって,これは,換言すれば,aの女性問題が相手方の体面を汚すものであるということとほとんど同義と理解し得る。抗告人は,だからこそ,これをaの取締役解任の提案理由としたものと考えられ,原決定13頁24行目から14頁10行目までに記載のとおり,事実の公共性及び目的の公益性を一応肯定することができるのである。もしも,相手方の社会的評価と無関係の事実を摘示したものであるとすれば,aの純然たる私人としての私生活上の行状を公表したにすぎないことになり,事実の公共性及び目的の公益性が肯定されないため,やはり名誉毀損が成立することになる。 よって,抗告人の行為が「会社の体面を汚したとき」に該当することは,やはり否定することができない。 なお,抗告人は,会社に対する評価の毀損について抽象的危険のみで足りると解すべきではないと主張しているが,前記のとおり,抗告人の行為によって,いずれにしても相手方に対する評価の毀損という結果が現実に生じることになるのであって,本件においては抽象的危険が生じたにとどまるとの主張は,前提を欠くものといわざるを得ない。 (5) 以上のとおり,抗告人が本件書面1及び2を送付した行為が就業規則70条4号の「法規にふれ」ること及び上記行為が広く報じられたことによって,同号の「会社の体面を汚した」ことは,否定することができない。 もっとも,就業規則の70条が「処罰」を定めた第11章の中に規定され「解雇処分」という文言を用いていることからすれば,同条は単なる普通解雇ではなく懲戒解雇を定めたものと解されるところ,処分として懲戒解雇が重すぎて相当性を欠き,権利の濫用として違法無効となる場合も考えられるところである。 しかしながら,抗告人は ,同条は単なる普通解雇ではなく懲戒解雇を定めたものと解されるところ,処分として懲戒解雇が重すぎて相当性を欠き,権利の濫用として違法無効となる場合も考えられるところである。 しかしながら,抗告人は,本件懲戒解雇に先立つ弁明の機会においても,自己の行為は名誉毀損に当たらないと強弁するばかりで,非のあったことを省みようとしなかった点(乙1,4,6)をも考慮すると,相手方において,抗告人の行為の違法性及び会社の信用に対する毀損の程度が抗告人を社内から排斥しなければならない程度に達しているとして,就業規則70条を適用したことが違法とは断じ難い。 そして,就業規則の70条は,71条が該当行為の「軽重に応じ,けん責,減給,出勤停止,職務転換,役付きはく奪,解雇などの処分を行う」と規定しているのとは異なり,「解雇処分にする」とのみ規定しているため,70条に該当する以上は,解雇処分以外に選択の余地がないことになる。 抗告人は,別件名誉毀損事件との対比において,明らかに平等扱いを欠き不相当であると主張している。そこで主張されている別件名誉毀損事件とは,相手方が新聞に掲載した記事について,裁判で名誉毀損とされたにもかかわらず,記者等が懲戒処分を受けていないというものであるが,相手方の責任において掲載した記事について,記者等の懲戒処分により問責することは,報道の自由等の観点から慎重にすべきとの見解もあり得ることなどからして,本件とは事案を異にするものと考えられ,比較の対象として適当な事例とはいい難い。 ところで,抗告人は,本件においても,原審及び当審を通じ,抗告人の行為が名誉毀損に当たらず,懲戒の対象とされる理由はないとの主張に終始しており,懲戒解雇処分が重すぎて相当性を欠くとの事情については十分疎明していない。 抗告人が当審で提出した平成15年10月14 行為が名誉毀損に当たらず,懲戒の対象とされる理由はないとの主張に終始しており,懲戒解雇処分が重すぎて相当性を欠くとの事情については十分疎明していない。 抗告人が当審で提出した平成15年10月14日付け準備書面3の末尾において「百歩譲って」として主張した事情のうち,抗告人の従前の功績や勤務態度等については前記相当性の見地から考慮の対象となり得るものであるが,この点のみをもって前記相当性を否定するための疎明が十分であるとはいえない。また,抗告人が本件懲戒解雇によって受ける不利益の具体的内容等についても,疎明は十分でない。 なお,本件書面1のうち,相手方の子会社である株式会社ティー・シー・ワークスに関する問題を取り上げた提案理由1については,相手方から何ら問題を指摘されておらず,抗告人の行為については更に全体的評価を要する点もうかがわれる。 しかし,そのような点については,相手方も主張するとおり,仮処分手続ではなく本案訴訟において慎重に判断されるべきものと考えられる。 3 よって,原決定は相当であって,本件抗告は理由がないから,主文のとおり決定する。 平成15年10月31日東京高等裁判所第23民事部裁判長裁判官原田和徳裁判官北澤章功裁判官竹内浩史

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