令和6年1月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(行ウ)第10号旅券発給拒否取消等請求事件口頭弁論終結日令和5年10月5日判決主文 1 外務大臣が令和元年7月10日付けで原告に対してした一般旅券発給拒否処分を取り消す。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを2分し、それぞれを各自の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主文1項と同旨2⑴ 主位的請求外務大臣は、原告に対し、全ての地域を渡航先として記載した一般旅券を発給せよ。 ⑵ 予備的請求外務大臣は、原告に対し、トルコ共和国以外の全ての地域を渡航先として記載した一般旅券を発給せよ。 3 被告は、原告に対し、550万円及びこれに対する令和元年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要原告は、外務大臣に対して一般旅券の発給申請をしたところ、外務大臣から、トルコ共和国(以下「トルコ」という。)への入国が認められない者であるから旅券法13条1項1号に該当するとして、旅券発給拒否処分を受けた。 本件は、原告が、①上記旅券発給拒否処分の取消しを求めるとともに、②主 位的に全ての地域を渡航先として記載した一般旅券の発給の義務付け、予備的 にトルコ以外の全ての地域を渡航先として記載した一般旅券の発給の義務付けを求め、また、③外務大臣が上記旅券発給拒否処分をしたことが国家賠償法(以下「国賠法」という。)上違法であるとして、同法1条1項に基づく損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。 1 旅券法の定めの概要 ⑴ 5条1項(平成30年法律第59号による改正前のもの。以下同じ。)外務大臣又は領事官(以下 条1項に基づく損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。 1 旅券法の定めの概要 ⑴ 5条1項(平成30年法律第59号による改正前のもの。以下同じ。)外務大臣又は領事官(以下、併せて「外務大臣等」という。)は、一般旅券の発給の申請に基づき、外務大臣が指定する地域以外の全ての地域を渡航先として記載した有効期間が10年の数次往復用の一般旅券を発行する。 ⑵ 5条2項 外務大臣等は、13条1項各号のいずれかに該当する者に対し一般旅券を発行するときは、5条1項の一般旅券につき、渡航先を個別に特定して記載し、又は有効期間を10年未満とすることができる(以下、渡航先や有効期間が限定された一般旅券を「限定旅券」ということがある。)。 ⑶ 13条1項(以下、同項各号については、「1号」のように号番号のみで 特定することがある。)外務大臣等は、一般旅券の発給を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には、一般旅券の発給をしないことができる。 1号渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者 2号から6号まで略7号前各号に掲げる者を除くほか、外務大臣において、著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者 2 前提事実 当事者間に争いがない事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨から容易に認められ る事実並びに当裁判所に顕著な事実は、次のとおりである。 ⑴ 原告は、フリーのジャーナリストであり、平成27年6月、シリア・アラブ共和国(以下「シリア」という。)における反政府活動及び内戦の状況について取材するため、トルコからシリアに入国したが、その後、武装組織による身体拘束を受けた。 原告は 年6月、シリア・アラブ共和国(以下「シリア」という。)における反政府活動及び内戦の状況について取材するため、トルコからシリアに入国したが、その後、武装組織による身体拘束を受けた。 原告は、シリアへの入国の約3年4か月後である平成30年10月23日に解放され、トルコから日本に帰国した。 (甲23、25、乙7の1、10)⑵ 原告は、平成31年1月7日、東京都知事を経由して外務大臣に対し、一般旅券の発給申請をした(以下「本件旅券発給申請」という。甲2)。 原告は、令和元年7月10日付けで、外務大臣から、一般旅券の発給拒否処分を受け(以下「本件旅券発給拒否処分」という。)、同月12日、同処分に係る通知書を受け取った。同通知書には、同処分の理由として、原告は、「平成30年(2018年)10月24日、トルコ共和国から同国の法規に基づく入国禁止措置(5年間)を受けたことにより、同国への入国 が認められない者」であり、「一般旅券の発給等の制限の対象となる旅券法第13条第1項第1号に該当する」と記載されていた。(甲3、乙40)⑶ 原告は、令和2年1月9日、本件旅券発給拒否処分の取消し及び一般旅券の発給義務付けを求める本件訴訟を提起し、令和4年12月1日、行政事件訴訟法19条1項の規定により、国賠法1条1項に基づく損害賠償請 求訴訟を本件訴訟に併合して提起した(当裁判所に顕著な事実)。 3 争点⑴ 原告は、トルコ外国人及び国際保護に関する法律(トルコの国内法の一つ。以下「トルコ外国人法」という。)によりトルコに入ることを認められない者に該当するか ⑵ 旅券法13条1項1号は、憲法22条及び13条並びに市民的及び政治 的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)12条2項に違反しないか められない者に該当するか ⑵ 旅券法13条1項1号は、憲法22条及び13条並びに市民的及び政治 的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)12条2項に違反しないか⑶ 本件旅券発給拒否処分は、憲法22条及び13条、自由権規約12条2項並びに旅券法13条1項1号に違反しないか⑷ 本件旅券発給拒否処分が行政手続法5条1項所定の審査基準を定めずに されたことは適法か⑸ 本件旅券発給拒否処分には、行政手続法8条1項及び旅券法14条(令和4年法律第33号による改正前のもの。以下同じ。)が要求する理由が提示されているか⑹ 全ての地域を渡航先として記載した一般旅券の発給処分の義務付けの訴 えの適法性及び同義務付けの可否⑺ トルコ以外の全ての地域を渡航先として記載した限定旅券の発給処分の義務付けの訴えの適法性及び同義務付けの可否⑻ 国賠法1条1項に基づく損害賠償請求の可否 4 争点に関する当事者の主張 ⑴ 原告は、トルコ外国人法によりトルコに入ることを認められない者に該当するか(被告の主張)原告は、平成30年10月24日、トルコ政府から、トルコ外国人法9条1項所定の事由に該当するとして、5年間の入国禁止措置を受けた。 原告が5年間の入国禁止措置を受けたことは、トルコ政府外務省から日本政府外務省に公式に説明されている。 したがって、原告は、トルコ外国人法によりトルコに入ることを認められない者に該当する。 (原告の主張) 原告は、トルコ政府から、入国禁止措置を課した旨の通知を受けていな い。また、トルコ政府作成に係る国外退去命令の通知書(乙11の1・2)に記載された通知時刻には明白な誤りがあり、原告に国外退去命令が発せられた事実もない。 そうす た旨の通知を受けていな い。また、トルコ政府作成に係る国外退去命令の通知書(乙11の1・2)に記載された通知時刻には明白な誤りがあり、原告に国外退去命令が発せられた事実もない。 そうすると、原告は、トルコ外国人法による入国禁止措置を受けておらず、同法によりトルコに入ることを認められない者に該当しない。 ⑵ 旅券法13条1項1号は、憲法22条及び13条並びに自由権規約12条2項に違反しないか(被告の主張)ア海外渡航の自由の性質等我が国の国民が他国において自由な通行を許され援助を受けることが できるのは、国際社会における基本的な信頼関係が前提となっている。 また、海外渡航は国境を越えた移動であるから、個人対国家や国家対国家という関係性も踏まえた権利利益の調整が必要になる場面が多く、海外渡航の自由は、このような公益的観点からの制約を受ける。海外渡航の自由は、基本的人権の一つとして重要な権利であるということはでき るものの、思想良心の自由や表現の自由とは本質的に異なる。 イ旅券法13条1項1号の憲法適合性(ア) 旅券は、国家が自国民たる渡航者を自国の領域外に置きつつ、諸外国に当該渡航者への便宜と支援を要請するものである。そのような旅券を所持する者が、諸外国の安全や利益を害し、諸外国の規制に反す るなどして他国における秩序を乱したり、その者の保護・支援のために過度の負担などを生じさせたりした場合には、我が国に対する信頼が害される。 また、旅券法制定時に政府委員が依拠した資料によれば、1号の趣旨は国際信義である旨説明されている。そして、旅券法については、 一般旅券に記載される渡航先を拡張する一連の改正が行われてきたが、 各改正に係る国会審議において、ある国から入国禁止とされた者 際信義である旨説明されている。そして、旅券法については、 一般旅券に記載される渡航先を拡張する一連の改正が行われてきたが、 各改正に係る国会審議において、ある国から入国禁止とされた者による旅券発給申請に対し、全面的な発給拒否をすべきではないなどといった議論がされたことはなかった。このことは、1号の目的と他の各号の目的との間に本質的な相違がなかったことを裏付けるものである。 そうすると、1号の目的は、国際信義を重んずるというもの、すな わち、国際的な法秩序維持、国際社会における犯罪の防止、国際社会における信頼関係の維持、国益の維持等(以下、これらを併せて「国際的な法秩序維持や国際社会における信頼関係の維持等」ということがある。)である。 (イ) 1号に該当する者は、他国において、同国の法秩序や安全、国益の 観点から有害とされて入国拒否処分を受けるなどした者である。そのような者に旅券を発給し、我が国自らが主権を行使し得る領域の外に置くことは、国際的な法秩序及び治安の維持を害するおそれを生じさせ、更には国際社会における信頼関係を損ない、ひいては我が国の国益等にも重大な影響を及ぼすおそれを生じさせる。 例えば、過去に国際的なテロ組織に身体拘束をされ、同組織と対峙する諸外国のテロ対策に著しい悪影響を及ぼした者が、テロ組織への対策を特段講じることなく、かつ、危機管理能力も欠如したままの状態で、同テロ組織が活発に活動する地域に赴く場合には、再度テロ組織等に身体を拘束されるおそれがあるばかりか、テロ組織と対峙する 諸外国への対抗手段に利用される可能性すら認められるから、このような者に一般旅券を発給し、テロ組織が活発に活動している地域への渡航を許容することは、国際的な犯罪の防止やテロ対策の観点から弊害 諸外国への対抗手段に利用される可能性すら認められるから、このような者に一般旅券を発給し、テロ組織が活発に活動している地域への渡航を許容することは、国際的な犯罪の防止やテロ対策の観点から弊害がある。 そして、国際社会において、ある国の出入国管理に係る措置は尊重 されるべきであり、我が国においても、当該措置を前提として一般旅 券発給の許否を判断するほかない。また、1号に該当する者に対して旅券を発給するか否かの判断は外務大臣等の裁量に委ねられており、旅券の発給が一律に拒否されるものでもない。 (ウ) したがって、一般旅券の発給を旅券法13条1項1号により制限することは、公共の福祉による合理的な制約である。 ウ旅券法13条1項1号の条約適合性自由権規約が国内法的効力を有することは認めるが、同規約12条の規定の趣旨は我が国の国内法に含まれている。また、同条は公共の安全や国益の保護という観点からの旅券発給拒否を許容している。 したがって、旅券法13条1項1号は自由権規約12条2項に違反す るものではない。 エ小括よって、旅券法13条1項1号は、憲法22条及び13条並びに自由権規約12条2項に違反しない。 (原告の主張) ア海外渡航の自由の性質等海外渡航の自由は、個人の思想及び人格の形成や発展、民主主義社会における情報流通の確保にとって重要な意義を有し、精神的自由に属する権利として、憲法22条及び13条により保障される。 したがって、海外渡航の自由を制約することは原則として許されず、 これを制約する法律の憲法適合性は厳格に判断されなければならない。 法律の合憲性は推定されないし、その憲法適合性は、立法目的の正当性及び目的達成のための手段の合理性・必要性を、比例原則をも考慮して これを制約する法律の憲法適合性は厳格に判断されなければならない。 法律の合憲性は推定されないし、その憲法適合性は、立法目的の正当性及び目的達成のための手段の合理性・必要性を、比例原則をも考慮して判断すべきである。 イ旅券法13条1項1号の憲法適合性 (ア) 1号は、渡航者の権利保護を目的としたものである。旅券法制定時 の国会審議において、政府委員は、1号の目的について、渡航先から査証が得られない、又は当該渡航先に入国することができないにもかかわらず、査証取得手続や当該渡航先への往来のために時間や費用を浪費することを防止するものと説明している。 そうすると、1号の目的は、旅券発給申請者の財産的負担を考慮す るというものと解すべきところ、当該財産的負担を甘受するか否かは本人が決めるべきことであるから、1号所定の事由は、海外渡航の自由を制約する正当な理由にはならない。 (イ) 1号の目的が国際信義を重んずるというものであったとしても、その国際信義とは、ある者を入国禁止とした国と我が国との二国間の信 頼関係の維持を意味するのであり、国際的な法秩序維持や国際社会における信頼関係の維持等を意味するものではない。 このことは、1号の制定及び改正の経過から明らかである。すなわち、旅券法制定時の一般旅券は、渡航先が特定された一往復用のものであり、1号は、個別具体的な渡航先との関係において旅券発給の当 否を問題にする規定として定められた。実際にも、旅券法制定時は、ある国から入国禁止とされた者が当該国以外を渡航先として一般旅券の発給申請をした場合、1号を理由に旅券発給を拒否されることはなかった。旅券法の平成元年の改正も、入国禁止国以外へ渡航する権利を剥奪するものではなく、旅券発給手続の簡素化、事務の整理・合理 般旅券の発給申請をした場合、1号を理由に旅券発給を拒否されることはなかった。旅券法の平成元年の改正も、入国禁止国以外へ渡航する権利を剥奪するものではなく、旅券発給手続の簡素化、事務の整理・合理 化を目的とするものであった。 また、国際的な法秩序維持や国際社会における信頼関係の維持等というものは、海外渡航の自由に対する制約の根拠としては、観念的、抽象的にすぎる。 このように、1号の目的は、ある者を入国禁止とした国と我が国と の二国間の信頼関係の維持を目的とするものであるところ、1号は、 ある国から入国禁止とされたことを理由に、当該国だけではなく、その以外の国への渡航も制限するものであるから、海外渡航の自由を過度に広範に制約するものである。 (ウ) 仮に、1号の目的が国際的な法秩序維持や国際社会における信頼関係の維持等というものであって、1号が、ある国から入国禁止とされ た者につき、入国禁止とした当該国だけでなく、それ以外の国への渡航も制限することができる規定であるとすれば、それは、平成元年に改正される前の旅券法では保障されていた当該国以外の国へ渡航する権利が同改正により剥奪されたということになる。しかし、この点について国会審議がされたことはなかったのであり、立法の過誤という べきである。そうすると、民主的な正当性が担保されないまま、憲法上の権利が剥奪されたということになるから、1号は法律の留保原則に反する。 また、国際慣習法上、渡航先は外国人の入国の許否を自由に決することができるところ、1号は、渡航先による入国禁止を理由として事 前かつ全面的に渡航を制限することを可能にするものであるから、海外渡航の自由を過剰に制約するものである。渡航先が入国禁止措置を採る理由は一様ではなく、渡航先の 先による入国禁止を理由として事 前かつ全面的に渡航を制限することを可能にするものであるから、海外渡航の自由を過剰に制約するものである。渡航先が入国禁止措置を採る理由は一様ではなく、渡航先の政治体制や外交関係の在り方によっては、恣意的な入国禁止措置もあり得るから、特定の国から入国禁止とされたことは、当該人物が一般的に法秩序や公安の維持に支障を 及ぼす蓋然性がある人物であることを示すものではない。日本を除く先進7か国(米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ及びイタリア)において、ある国から入国禁止措置を受けたということ自体を一般旅券の発給拒否事由とする規定を有する国もない。そうすると、仮に、1号の目的が国際的な法秩序維持や国際社会における信頼関係の維持 等というものであったとしても、1号が採用した手段は当該目的達成 のために合理的なものではない。 (エ) 以上によれば、旅券法13条1項1号は、立法目的の正当性を欠き、又は目的達成のための手段の合理性・必要性を欠くものである。 ウ旅券法13条1項1号の条約適合性自由権規約は、国内法として直接的効力を有し、法律に優位するもの であるところ、同規約12条2項は海外渡航の自由を保障する旨規定し、同条3項は、海外渡航の自由は原則として制約を受けず、その制約は、国の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の権利及び自由を保護するために必要である場合に限り許容される旨規定する。 そして、自由権規約の有権解釈である人権委員会(同規約28条)が 公表する一般的意見27(同規約40条4項、甲14)は、必要性の基準及び比例原則に適合する例外的な状況においてのみ、海外渡航の自由の制約を許容している。人権と基本的自由の保護のための条約(いわゆる欧州人権条約) 意見27(同規約40条4項、甲14)は、必要性の基準及び比例原則に適合する例外的な状況においてのみ、海外渡航の自由の制約を許容している。人権と基本的自由の保護のための条約(いわゆる欧州人権条約)第4議定書2条、欧州人権裁判所の2012年2月27日判決(甲16)という「確立された国際法規」又は「解釈の補足的 な手段」(条約法に関するウィーン条約32条)も同様である。 これに対し、旅券法13条1項1号は、ある国から入国禁止とされた者について旅券発給を拒否するものであって、「国の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の権利及び自由を保護するため」に認められる例外的な状況下に限って旅券発給を拒否するものではない。ま た、1号に該当するとして旅券そのものの発給を機械的に拒否するのは、比例原則にも反する。 したがって、1号は、自由権規約12条2項に違反する。 エ小括よって、旅券法13条1項1号は、憲法22条及び13条並びに自由 権規約12条2項に違反する。 ⑶ 本件旅券発給拒否処分は、憲法22条及び13条、自由権規約12条2項並びに旅券法13条1項1号に違反しないか(被告の主張)ア判断枠組み(ア) 旅券法13条1項1号は、ある国から入国禁止とされた者が一般旅 券の発給申請をした際に、「一般旅券の発給…をしないことができる」と規定するのみであり、外務大臣等をして発給処分をするよう羈束したり、発給拒否処分を制限したりする規定ぶりになっていない。1号のこのような文言は、旅券発給の許否に係る判断が外務大臣等の裁量に委ねられることを端的に示すものである。 また、旅券発給の許否に係る判断は、渡航者の主観的事項にとどまらず、渡航先及び渡航目的、渡航先の情勢、渡航先と我が国との外交 が外務大臣等の裁量に委ねられることを端的に示すものである。 また、旅券発給の許否に係る判断は、渡航者の主観的事項にとどまらず、渡航先及び渡航目的、渡航先の情勢、渡航先と我が国との外交関係や、我が国の外交方針、我が国を取り巻く情勢など様々な事情を踏まえた高度の専門的知識と政策的判断を要する事柄であって、その性質上、外務大臣等の裁量に委ねられるべきものである。 そして、旅券発給の許否の判断に当たっては、入国禁止措置を講じた特定の国との関係のみを考慮すれば足りるものではなく、当該者に対して一般旅券を発給することによる国際社会への影響を広く考慮しなければならないところ、ある国から入国禁止とされた者(1号に該当する者)に一般旅券を発給すること自体が、国際的な法秩序の維持 や国際社会における信頼関係の維持等に重大な影響を及ぼすおそれがある。 そうすると、1号に該当する者に対する旅券発給拒否処分が違法となる場合とは、同号によって保護されるべき国際的な法秩序の維持や国際社会における信頼関係の維持等について一定程度の譲歩を求めて もなお、当該旅券発給申請者に一般旅券の発給を認めなければならな い特段の事情がある場合に限られるというべきである。 (イ) また、旅券法は、一般旅券の発給を申請した者が1号に該当する場合、渡航先を限定しない一般旅券の発給の許否の判断に先んじて、限定旅券の発給の可否を審査しなければならないなどとは規定していない。そうすると、外務大臣等は、1号に該当する者からの旅券発給申 請に対しては、旅券発給拒否の判断をするのが原則であり、例外として人道的理由があるなど、同号の趣旨を踏まえてもなお海外渡航を認めるべき特段の事情があると認められる場合に限って、限定旅券の発給を選択するこ しては、旅券発給拒否の判断をするのが原則であり、例外として人道的理由があるなど、同号の趣旨を踏まえてもなお海外渡航を認めるべき特段の事情があると認められる場合に限って、限定旅券の発給を選択することになる。 イ一般旅券(限定旅券を含む。)の発給を認めなければならない特段の事 情がないこと(ア) 原告は、平成30年10月24日にトルコから出国する際、トルコ政府から、トルコ外国人法9条3項に基づく5年間の入国禁止措置を受けた者である。原告は、公安を妨害する者等に該当するとトルコから認定されている。 また、原告は、取材目的とはいえ、我が国が発出する安全情報や勧告に従わずに、十分な安全対策を講じないまま、テロ組織等が活動しているシリアに密入国し、約3年4か月間にわたって身体拘束を受けた。 さらに、原告は、平成22年10月の旅券発給申請の際に、過去に 旅券の発給を受けたことがない旨の虚偽申告をしている。そのほか、原告は、平成24年8月にトルコへの密入国を理由に罰金や入国禁止措置を課された後も、出入国関係法規を遵守する意思はない旨を表明し、平成26年2月の旅券発給申請の際にも、トルコを含め入国拒否をされたことがない旨の虚偽申告をし、同年4月には当該入国禁止措 置に反してトルコへの入国を試みるなどしている。 これらの事情によれば、原告に一般旅券を発給した場合、原告がトルコを始めとする中東諸国等において従前同様の密入国等を行い、国際社会における法秩序を乱すおそれを否定できないところであるから、原告に海外渡航を認めること自体が、国際社会において、我が国と他国との信頼関係を損なう蓋然性を有するものであることを否定するこ とができない。 (イ) 一方、原告は、観光目的の家族旅行で海外渡航するため 航を認めること自体が、国際社会において、我が国と他国との信頼関係を損なう蓋然性を有するものであることを否定するこ とができない。 (イ) 一方、原告は、観光目的の家族旅行で海外渡航するために本件旅券発給申請をしており、具体的な渡航の計画や予定も決まっておらず、人道的見地から限定旅券を発給すべき事情はなかった。本件旅券発給申請の当初、原告が申請書に渡航先をトルコと記載しつつ、担当者か らの指摘を受けてこれを抹消していることからすれば、そもそも、海外渡航の目的も不明である。 (ウ) そうすると、原告の本件旅券発給申請に対して、一般旅券(限定旅券を含む。)の発給を認めなければならない特段の事情があるということはできず、本件旅券発給拒否処分をした外務大臣の判断に裁量権の 範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえない。 ウ自由権規約12条2項に違反しないこと自由権規約12条の規定の趣旨は我が国の国内法に含まれているところ、本件旅券発給拒否処分は我が国の国内法に反しないから、同処分が同規約12条2項に違反することはない。また、本件旅券発給拒否処分 は、上記イのとおり諸事情を考慮した上でされたものであるから、同項に違反するものではない。 エ小括よって、本件旅券発給拒否処分は、旅券法13条1項1号及び自由権規約12条2項に違反しない。なお、上記⑵(被告の主張)イのとおり、 同号は憲法22条及び13条に適合しており、同処分が違憲になる余地 もない。 (原告の主張)ア判断枠組み(ア) 旅券法13条1項1号は、渡航先に入国を拒否されたという形式的な要件を定めるのみであり、同要件に該当することだけでは、旅券発 給拒否処分の実質的な判断基準になり得ないから、1号の要件は限定的に解釈すべき 条1項1号は、渡航先に入国を拒否されたという形式的な要件を定めるのみであり、同要件に該当することだけでは、旅券発 給拒否処分の実質的な判断基準になり得ないから、1号の要件は限定的に解釈すべきである。 そして、海外渡航の自由は憲法上の重要な権利であるところ、旅券発給拒否処分は、これを全面的に剥奪するものである。旅券法制定時に一般旅券の発給拒否事由を規定するに当たっても、基本的人権の尊 重という観点が説明されている。 また、国際信義を重んずる趣旨での旅券発給拒否処分を定める7号は「著しく、かつ、直接」に国際信義を害するおそれがあることを要件としており、このような7号との均衡から、1号に基づく旅券発給拒否処分の際にも、著しくかつ直接に国際信義を害するおそれがある か否かの実質的審査を求めるべきである。旅券法上、旅券名義人の滞在が当該渡航先における日本国民の一般的な信用又は利益を著しく害するおそれがある場合であっても、旅券の返納命令を受けるにとどまり(旅券法19条1項5号)、一般旅券の発給拒否事由とされてはいない。 したがって、1号に該当する者からの旅券発給申請であっても、一般旅券を発給するのが原則である。1号により一般旅券の発給を制限することができるのは、海外渡航の自由の保障に優越するほどの危険が明らかに差し迫って発生していることが具体的に予見され、かつ、それが客観的な事実に照らして予想される場合(明白かつ現在の危険) に限られるというべきであるから、1号の規定による旅券発給拒否処 分は、海外渡航の自由を制約すべき特段の事情がない限り、違憲違法である。 (イ) 仮に、外務大臣等に一定程度の裁量が認められるとしても、旅券法13条1項は、1号所定の発給拒否事由が存在する場合においても、なお 自由を制約すべき特段の事情がない限り、違憲違法である。 (イ) 仮に、外務大臣等に一定程度の裁量が認められるとしても、旅券法13条1項は、1号所定の発給拒否事由が存在する場合においても、なお一般旅券を発給することを原則としている。 したがって、ある国から入国禁止とされた者が著しくかつ直接に国際信義を害するおそれがあることについて積極的に主張立証されない限り、1号の規定による旅券発給拒否処分は、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったものとして、違法となる。 (ウ) また、外務大臣等は、ある国から入国禁止とされた者からの旅券発 給申請について、1号を理由に一般旅券の発給を制限する場合には、当該国を除いた国を渡航先として記載した限定旅券を発給しなければならず、仮に限定旅券の発給が義務付けられないとしても、漫然と旅券発給を拒否することは許されない。 なぜなら、海外渡航の自由に対する制約は必要最小限でなければな らないところ、限定旅券を発給せずに一般旅券の発給拒否処分をするのは、入国禁止国以外の国への渡航の機会を事前かつ全面的に剥奪することになるからである。 このことは、限定旅券制度の趣旨からも裏付けられる。すなわち、旅券法制定時の一般旅券は渡航先が特定された一往復用のものであり、 ある国から入国禁止とされた者が当該国以外を渡航先として一般旅券の発給申請をした場合、1号を理由に旅券発給を拒否することはできなかった。その後、平成元年の旅券法改正により、一般旅券は、渡航先を包括記載とする数次往復用旅券として発給されるのが原則になり、旅券を発給しても差し支えないような申請者であっても、発給可否の いずれかの選択しかできなければ、旅券発給を拒否せざるを得ないと いう不都合が生じることになった。限定 が原則になり、旅券を発給しても差し支えないような申請者であっても、発給可否の いずれかの選択しかできなければ、旅券発給を拒否せざるを得ないと いう不都合が生じることになった。限定旅券制度は、このような場合に旅券発給を可能にするために新設されたものであるから、1号により一般旅券の発給を制限する場合には、当該入国禁止国を除いた国を渡航先として記載した限定旅券が発給されなければならない。 イ海外渡航の自由を制約すべき特段の事情がなく、また、外務大臣に裁 量権の範囲の逸脱又はその濫用があること(ア) トルコ政府は、武装組織から解放された原告を丁重に取り扱っていたものであり、トルコへの入国禁止措置の理由は明らかではない。原告は、テロ組織への関与等を理由として入国禁止措置を課されたものではない。 また、トルコ政府は、公務員等約3900人の公職追放、国内ジャーナリスト151名の収監などの国際人権法違反により、国際社会から強く非難されており、トルコ政府による公秩序、公安に反する者との認定にそのまま従うことは、かえって国際的な法秩序の維持に反する。 さらに、トルコ政府外務省は、日本政府外務省に対し、原告に旅券を発給した場合には旅券に関する情報を緊急に通知するよう依頼しており、原告に対して旅券が発給されることを前提にした行動をしている。 (イ) 原告が平成27年6月にシリアに密入国したのは、シリア内戦の 紛争地域を取材するためである。多くのシリア難民や他国のジャーナリストも、原告と同様の方法でシリアに入国している。シリアで拘束された他国のジャーナリストには旅券が発給されているほか、人権委員会が公表する一般的意見34(甲52)においても、ジャーナリストの海外渡航を制限することは通常許容されな に入国している。シリアで拘束された他国のジャーナリストには旅券が発給されているほか、人権委員会が公表する一般的意見34(甲52)においても、ジャーナリストの海外渡航を制限することは通常許容されないとされている。原告 のシリアへの密入国は、手段及び方法が法秩序全体の精神に照らし相 当なものとして、社会通念上是認されるものである。 また、シリアの人権状況や、各民主主義国における戦地取材に対する姿勢、戦地取材においては一定の危険が避けられず、武装組織による身体拘束が違法であることが明らかであることからすれば、戦地での取材過程で武装組織による違法な身体拘束の被害者になった原告を 批判し、安全対策が十分なものではなかったと評価することは、著しく妥当性を欠く。 (ウ) 原告が取材目的とは無関係に密入国を繰り返したことはない。 また、原告は平成24年8月にトルコ政府から入国禁止措置を課されたことがあったものの、その詳細を知らなかったことから、平成2 6年3月に一般旅券の発給を受け、同年4月にトルコに入国しようとして、これを拒否されたにすぎない。 (エ) 原告は、本件旅券発給申請の際には、一般旅券の発給時期が分からなかったため、具体的な渡航計画を立てていなかった。原告が一般旅券発給申請書にトルコを渡航先として記載したのは、トルコ政府から 入国禁止措置を課されているという認識がなかったからであり、被告からその旨指摘された際に具体的な弁明ができなかったのもそのためである。したがって、本件旅券発給申請の際の原告の対応を殊更に重視して、旅券発給拒否処分をすべきではない。 (オ) 一方、原告に一般旅券を発給することにより、国境を封鎖している 紛争地域以外の各国との関係で、どのような信頼関係がどのように損なわれ に重視して、旅券発給拒否処分をすべきではない。 (オ) 一方、原告に一般旅券を発給することにより、国境を封鎖している 紛争地域以外の各国との関係で、どのような信頼関係がどのように損なわれる蓋然性があるかについて、具体的な事実は主張立証されていない。 また、原告が再度テロ組織等に身体拘束を受けたり、テロ組織と対峙する諸外国への対応手段に利用されたりすることによって、国際的 な犯罪の防止やテロ対策の観点から弊害が認められると判断する根拠 について、具体的な事実は主張立証されていない。 さらに、原告が「密出入国等を繰り返した地域」を渡航先から除いた限定旅券の発給を受けた場合において、当該地域に再度密入国などするおそれがあると判断した根拠について、具体的な事実は主張立証されていない。 (カ) 以上のとおり、外務大臣は、①原告の海外渡航の自由を制約することにつき特段の事情がなかったにもかかわらず本件旅券発給拒否処分をし、又は裁量権の範囲を逸脱し、若しくはこれを濫用して本件旅券発給拒否処分をしたものであり、②少なくとも、トルコを除く地域について原告の海外渡航の事由を制約することにつき特段の事情がなか ったにもかかわらず、限定旅券を発給することなく本件旅券発給拒否処分をし、又は裁量権の範囲を逸脱し、若しくはこれを濫用して限定旅券を発給することなく本件旅券発給拒否処分をしたものである。 ウ自由権規約12条2項に違反すること自由権規約12条2項で保障される海外渡航の自由は、必要性の基準 及び比例原則に適合する例外的な状況においてのみ、これに対する制約を許容し得るところ、本件旅券発給拒否処分は、必要性の基準及び比例原則に適合する例外的な状況においてされたものではないから、自由権規約12条2項 に適合する例外的な状況においてのみ、これに対する制約を許容し得るところ、本件旅券発給拒否処分は、必要性の基準及び比例原則に適合する例外的な状況においてされたものではないから、自由権規約12条2項に違反するものであって、違法である。 エ小括 よって、本件旅券発給拒否処分は、憲法22条及び13条、自由権規約12条2項並びに旅券法13条1項1号に違反する。 ⑷ 本件旅券発給拒否処分が行政手続法5条1項所定の審査基準を定めずにされたことは適法か(被告の主張) 旅券法13条1項1号に該当する者に対する旅券発給の可否の判断は、 申請者の身上や属性に関する事情、1号に該当する事情の具体的内容や同号に該当するに至った経緯、渡航を予定している具体的な渡航先及び当該渡航先を取り巻く情勢等、種々の個別具体的な事情に応じて異なるのであって、一律に基準を定めることは極めて困難かつ不相当である。 したがって、1号に基づく旅券発給拒否について審査基準が定められて いないことには合理的な理由があるから、本件旅券発給拒否処分が行政手続法5条1項所定の審査基準を定めずにされたとしても、同処分は適法である。 (原告の主張)旅券発給拒否処分により制約される海外渡航の自由は重要な権利である ところ、旅券法13条1項1号は、一国からの入国拒否で他の国への渡航を制限し得る規定であることからすれば、1号により旅券発給拒否処分をするに当たっては、手続の公正さを担保する必要がある。そうであるにもかかわらず、外務大臣は、審査基準を定めずに、恣意的、独断的に本件旅券発給拒否処分をしたものである。 したがって、行政手続法5条1項所定の審査基準を定めずにされた本件旅券発給拒否処分は違法であり、憲法31条にも違反する。 ⑸ 本件旅 意的、独断的に本件旅券発給拒否処分をしたものである。 したがって、行政手続法5条1項所定の審査基準を定めずにされた本件旅券発給拒否処分は違法であり、憲法31条にも違反する。 ⑸ 本件旅券発給拒否処分には、行政手続法8条1項及び旅券法14条が要求する理由が提示されているか(被告の主張) 本件旅券発給拒否処分に係る原告宛の通知書には、同処分の理由として、具体的事実を摘示した上で、原告が1号に該当する旨が記載されており、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して同処分がされたかについて、同通知書の記載から容易に知ることができる。 したがって、本件旅券発給拒否処分には、行政手続法8条1項及び旅券 法14条が要求する理由が提示されている。 (原告の主張)旅券法13条1項1号に該当しただけで、直ちに旅券発給が拒否されるのではなく、外務大臣等は、渡航先を限定しない一般旅券のほか、限定旅券を発給することが可能である。また、1号は、その文言上、入国が認められない渡航先との関係について示すものでしかない。そうであるにもか かわらず、本件旅券発給拒否処分に係る原告宛の通知書には、1号の規定文言のほかには、前提事実も根拠も摘示されていない。 したがって、本件旅券発給拒否処分は、行政手続法8条1項及び旅券法14条が要求する理由が提示されていない点で違法であり、憲法31条にも違反する。 ⑹ 全ての地域を渡航先として記載した一般旅券の発給処分の義務付けの訴えの適法性及び同義務付けの可否(原告の主張)ア本件旅券発給拒否処分は取り消されるべきものであるから、全ての地域を渡航先として記載した一般旅券の発給処分の義務付けを求める原告 の訴えは適法である。 イそして、外務大臣において、原告 ア本件旅券発給拒否処分は取り消されるべきものであるから、全ての地域を渡航先として記載した一般旅券の発給処分の義務付けを求める原告 の訴えは適法である。 イそして、外務大臣において、原告に対し、全ての地域を渡航先として記載した一般旅券の発給処分をしないことは、その裁量権の範囲を超え、又はその濫用であるから(行政事件訴訟法37条の3第5項)、外務大臣に対し、全ての地域を渡航先として記載した一般旅券の発給処分をすべ き旨を命ずるべきである。 (被告の主張)ア本件旅券発給拒否処分は取り消されるべきものではないから、全ての地域を渡航先として記載した一般旅券の発給処分の義務付けを求める原告の訴えは不適法である。 イ外務大臣において、原告に対し、全ての地域を渡航先として記載した 一般旅券の発給処分をしないことが、その裁量権の範囲を超え、又はその濫用であることは争う。 ⑺ トルコ以外の全ての地域を渡航先として記載した限定旅券の発給処分の義務付けの訴えの適法性及び同義務付けの可否(原告の主張) ア一般旅券の発給申請には、渡航先を限定しない一般旅券を発給できない場合には限定旅券の発給を求めるという趣旨が含まれているから、限定旅券の発給処分の義務付けの訴えは、いわゆる申請型義務付け訴訟に該当する(行政事件訴訟法3条6項2号、37条の3)ところ、本件旅券発給拒否処分は取り消されるべきであるから、トルコ以外の全ての地 域を渡航先として記載した限定旅券の発給処分の義務付けを求める原告の訴えは適法である。 イそして、外務大臣において、原告に対し、トルコ以外の全ての地域を渡航先として記載した限定旅券の発給処分をしないことは、その裁量権の範囲を超え、又はその濫用であるから(行政事件訴訟法37条の3 イそして、外務大臣において、原告に対し、トルコ以外の全ての地域を渡航先として記載した限定旅券の発給処分をしないことは、その裁量権の範囲を超え、又はその濫用であるから(行政事件訴訟法37条の3第 5項)、外務大臣に対し、トルコ以外の全ての地域を渡航先として記載した限定旅券の発給処分をすべき旨を命ずるべきである。 (被告の主張)ア旅券法は、渡航先を個別に特定して記載した一般旅券の発給を求める申請権を認めない立法政策を採用しているから、限定旅券の発給処分の 義務付けの訴えは、いわゆる非申請型義務付け訴訟に該当する(行政事件訴訟法3条6項1号、37条の2)。 そして、旅券法は、旅券発給拒否処分を受けた者が繰り返し一般旅券の発給申請をすることを許容し、その時々の具体的事情の変化によって、一般旅券の交付を受ける機会が与えられているから、トルコ以外の全て の地域を渡航先として記載した限定旅券の発給処分の義務付けを求める 原告の訴えは、「損害を避けるため他に適当な方法がないとき」に該当せず、不適法である。 イ外務大臣において、原告に対し、トルコ以外の全ての地域を渡航先として記載した限定旅券の発給処分をしないことが、その裁量権の範囲を超え、又はその濫用であることは争う。 ⑻ 国賠法1条1項に基づく損害賠償請求の可否(原告の主張)ア外務大臣は、本件旅券発給申請に対する許否を判断するにあたり、通常尽くすべき職務上の法的義務に違反し、考慮すべき事項を考慮せず、限定旅券の発給もせず、漫然と本件旅券発給拒否処分をしたものである から、本件旅券発給拒否処分は、国賠法上も違法である。 そして、原告は、本件旅券発給拒否処分により、憲法上の人権である海外渡航の自由を侵害され、現実に海外に渡航することが 分をしたものである から、本件旅券発給拒否処分は、国賠法上も違法である。 そして、原告は、本件旅券発給拒否処分により、憲法上の人権である海外渡航の自由を侵害され、現実に海外に渡航することができなくなるとともに、家族と一緒に旅行する機会を奪われ、著しい精神的苦痛を被った。その精神的苦痛に対する慰謝料額は500万円を下らない。また、 弁護士費用は50万円が相当である。 イ原告は、本件旅券発給拒否処分の取消訴訟における主張立証を経て、本件旅券発給拒否処分が国賠法上も違法であることを知ることができたのであり、また、原告には本件旅券発給拒否処分による損害が継続的に生じているのであるから、原告が損害賠償請求訴訟を併合提起した令和 4年12月1日の時点では、消滅時効は完成していない。 (被告の主張)ア本件旅券発給拒否処分は適法であり、国賠法上も違法ではない。 イ原告は、令和元年7月12日に本件旅券発給拒否処分に係る通知書を受け取ることにより、損害賠償請求が可能な程度に損害及び加害者を知 ったものであるから、原告の国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権は、 原告が損害賠償請求訴訟を併合提起した令和4年12月1日より前である同年7月12日の経過により、消滅時効が完成した。被告は、この損害賠償債務の消滅時効を援用する(令和5年3月2日の本件口頭弁論期日における意思表示)。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実証拠(甲66、原告本人のほか、後掲各証拠)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ⑴ 原告の取材活動歴ア原告(昭和▲▲年生)は、大学卒業後、信濃毎日新聞社に入社した。 原告は、同社所属の記者として、国内での取材活動に従事するとともに、休暇を利用して、平成14年3月にア 原告の取材活動歴ア原告(昭和▲▲年生)は、大学卒業後、信濃毎日新聞社に入社した。 原告は、同社所属の記者として、国内での取材活動に従事するとともに、休暇を利用して、平成14年3月にアフガニスタン、同年12月にイラクに渡航し、紛争地における取材活動を行うようになった。(甲43の1の26~30頁)イ原告は、平成15年1月に信濃毎日新聞社を退職し、フリーのジャー ナリストとなり、同年2月から4月にかけて、イラクに2度目の渡航をし、同年3月から始まったイラク戦争の取材活動を行った。 原告は、同年10月にイラクに3度目の渡航をし、平成16年3月から4月にかけて同国に4度目の渡航をした。4度目の渡航当時、同国のファルージャ地域の治安は極端に悪化しており、日本人が武装組織に身 体を拘束され、人質になるなどしていた。原告は、同月14日、ファルージャ地域に近づいて取材を試みようとしたが、その途中で、武装組織に拉致されて身体を拘束され、3日後に解放された。原告が身体拘束を受けた事実は、我が国でも報道された。 (甲43の1の30~40頁) ウ原告は、平成17年7月、イラクに5度目の渡航をした。原告は、同 渡航時には、バグダッド近郊の治安が悪化していたことから、シリア経由でイラク北部のクルド地域に赴き、取材活動を行った。 原告は、同年中にイラクに6度目の渡航をし、約1年間にわたり、イラク軍基地施設において料理人を続けながら、取材活動を行った。 (甲43の1の44~50頁) エ原告の一般旅券の有効期間は平成21年12月までであったところ、原告は、平成22年10月、新たに一般旅券の発給を申請し、有効期間を平成32年(令和2年)10月8日までとする一般旅券の発給を受けた(乙1、2)。 オ 効期間は平成21年12月までであったところ、原告は、平成22年10月、新たに一般旅券の発給を申請し、有効期間を平成32年(令和2年)10月8日までとする一般旅券の発給を受けた(乙1、2)。 オ原告は、平成22年にアフガニスタンに渡航し、紛争地において取材 活動を行った。(甲43の1の50~52頁)⑵ シリアにおける取材活動及び身体拘束アシリアの治安は、平成23年3月中旬に政府側の治安部隊が武力を用いて反政府デモを弾圧したことを発端として、極端に悪化した。シリア全土には、日本政府外務省から退避勧告が発出され、平成24年3月2 1日には在シリア日本国大使館も一時閉鎖された。(甲25、乙7の2)イ原告は、平成24年6月下旬、シリアの反政府組織の実態を取材するため、レバノンから、正規の入国手続を経ずにシリア・ヒムス県に入国した。原告は、シリア入国後、反政府組織が支配するラスタン地区などにおいて、同地区が戦車やヘリコプターから攻撃を受ける状況を取材し た。 原告は、レバノンへの経路がシリア政府軍によって封鎖されていたため、レバノンへ出国することを断念し、同年7月下旬、シリア・イドリブ県からトルコ・ハタイ県へ出国した。両県の往来は、トルコがシリアの反政府組織に友好的であったことから、比較的緩やかに行われていた。 原告は、トルコ入国後、ハタイ県の警察に任意に出頭して事情を説明し たが、不法入国に当たるとして、罰金を支払うことになった。また、原告は、同年8月2日にトルコから出国する際、2年間のトルコ入国禁止措置が採られた旨の通知を受けた。 原告がラスタン地区において撮影したビデオ動画は、シリア政府軍が民間施設を無差別攻撃していることを示すものとして、帰国直後の同月 11日夕方、TBSテレ 禁止措置が採られた旨の通知を受けた。 原告がラスタン地区において撮影したビデオ動画は、シリア政府軍が民間施設を無差別攻撃していることを示すものとして、帰国直後の同月 11日夕方、TBSテレビの報道番組で約20分間にわたって取り上げられた。 (甲43の1の52~57頁、48、74、76、乙4の8頁、5、6、26の1・2)ウ原告は、平成26年にトルコへの渡航を計画した。もっとも、原告は、 トルコ入国禁止措置の期間の終期について明確に認識しておらず、在日本トルコ大使館に問い合わせたものの判明しなかったことから、入国を拒否される可能性を踏まえつつ、実際にトルコに渡航することとした。 また、原告は、当時所持していた一般旅券が損傷していたため、旅券を切り替えることとし、平成26年2月、外国で入国拒否等がされたこと はない旨を一般旅券発給申請書に記入して旅券の発給を申請し、有効期間を平成31年2月28日までとする一般旅券の発給を受けた。 その後、原告は、平成26年4月にトルコに入国を試みたものの、トルコ入国禁止措置の期間が同年8月2日までであったことから、入国を拒否された。 (乙4、5、8)エ原告は、平成27年、シリアの反政府組織の実態を再度取材するため、シリアへの入国を計画した。当時のシリアの内戦状態は、過激派組織、クルド人組織、外国勢力が参加するなどして混沌化しており、過激派組織ISILによる日本人殺害事件が発生する一方で、反政府組織は、I SILに対抗するために協力するなどして、シリア・イドリブ県での支 配を広げつつあった。 原告は、同年5月19日、トルコに渡航し、前回の取材時に知り合ったシリア人技術者及びシリア人通訳者や、シリア人元弁護士など複数のルートを通じて、反政府組織アハラ 配を広げつつあった。 原告は、同年5月19日、トルコに渡航し、前回の取材時に知り合ったシリア人技術者及びシリア人通訳者や、シリア人元弁護士など複数のルートを通じて、反政府組織アハラル・シャムの情報を得て、同組織に接触した。原告は、同組織を信頼できるものと判断し、また自らの受入 れが受諾されたものと考えて、トルコ・ハタイ県からシリア・イドリブ県へと山間部を通って入国することを決意した。そして、原告は、不測の事態が発生した場合に備えて、複数の日本人記者にこれまでの経緯や連絡先を伝えた。 原告は、同年6月22日、上記のシリア人元弁護士が紹介した案内人 とともに国境を越えることになった。原告は、山間部の国境付近において、同案内人が国境先の状況を確認するとして離れている間に、別のグループから声を掛けられた。原告は、このグループが新たな案内人であると考えて、同行してシリアに入国したものの、翌朝、荷物を没収され、武装組織に身体を拘束されるに至った。 (乙6、7の1、9)⑶ 身体拘束からの解放ア日本政府は、紛争地で邦人が人質になった場合、邦人保護を必ず行う、身代金は支払わないと表明していた。原告が身体拘束を受けている間も、外務省が中心になって、身代金は支払わないと表明しつつ、原告の解放 に向けて情報収集を行い、また、トルコ政府やカタール政府、その他の関係機関に様々な働きかけを行った。もっとも、日本政府が原告の解放のために行った情報収集や支援依頼の具体的内容は公表されていない。 日本の報道機関は、原告を拘束した犯人が身代金を要求している旨報道するほか、オレンジ色の服を着せられた原告が二人の覆面犯から銃を 突き付けられながら救命を求める様子を撮影した動画を報道するなどし、 原 告を拘束した犯人が身代金を要求している旨報道するほか、オレンジ色の服を着せられた原告が二人の覆面犯から銃を 突き付けられながら救命を求める様子を撮影した動画を報道するなどし、 原告の身体拘束の状況は、国民から注目されることになった。 (乙9、10)イ原告は、平成30年10月23日、約3年4か月間にわたる身体拘束の後に解放され、トルコ政府の情報機関の車両により、トルコ・ハタイ県移民管理支局の管理施設に移動した。 原告は、同月24日午前、上記管理施設において、日本政府の外務省職員から事情聴取を受けた。 ハタイ県移民管理支局は、同日、原告がトルコ外国人法54条1項d所定の公共秩序、治安又は公衆衛生に反する行為を行った外国人に該当するとして国外退去命令を発出することを決定し、これを原告に通知し た。 原告は、同日夕方にハタイ県からイスタンブールに民間旅客機で移動した。そして、原告は、帰国に当たり、従前所持していた一般旅券の紛失届を提出するとともに、日本政府の外務省職員から帰国のための渡航書の発給を受けた。原告は、イスタンブールの空港において、トルコ政 府の産業技術大臣の求めに応じて同大臣と面会した後、民間旅客機に搭乗し、同月25日夕方、成田空港に到着した。 原告が解放された事実は、我が国において広く報道された。また、日本政府外務省が退避勧告を出している中で原告がシリアを訪問し、身体を拘束されたことについては、結果として日本政府に負担を掛けたとし て、原告を批判する報道もされた。国民の中には、「自己責任」という言葉を用いて、原告を激しく非難する論調の者もいた。 (甲22、23、78、乙9、10、11の1・2、13の1・2、24、25)⑷ 一般旅券の申請と発給拒否処分 ア 自己責任」という言葉を用いて、原告を激しく非難する論調の者もいた。 (甲22、23、78、乙9、10、11の1・2、13の1・2、24、25)⑷ 一般旅券の申請と発給拒否処分 ア原告は、帰国後の混乱から逃れるとともに日本国外で家族と休養する ために海外渡航を計画し、具体的な旅程までは決めていなかったものの、一般旅券を取得することにした。そして、原告は、平成31年1月4日、東京都旅券課有楽町分室において一般旅券発給申請書を提出しようとした。しかし、原告は、担当者から、旅券法13条に該当する可能性があると言われ、東京都庁内にある東京都旅券課で改めて申請するよう求め られた。 原告は、同月7日、東京都庁内の東京都旅券課において、担当者から、トルコから入国禁止措置を受けているため旅券法13条に該当する旨の説明を受け、一般旅券発給申請書の提出に加え、渡航事情説明書も提出するよう求められた。同説明書は、1号に該当する者が旅券発給申請を する際に提出を求められる書類である。 原告は、この時点では、トルコから入国禁止措置を受けているとの認識がなかったため、外国で入国拒否等をされたことがない旨を一般旅券発給申請書(甲2)に記入し、渡航事情説明書(甲1)に渡航先としてトルコと記載した。しかし、原告は、担当者からの指示を受けて、外国 で入国拒否等をされたことがある旨、上記申請書の記載を訂正するとともに、上記説明書の渡航先の記載からトルコを抹消した。原告は、最終的に、渡航目的を観光、渡航先をイタリア、フランス、スペイン、ドイツ、インド及びカナダと記載した渡航事情説明書を提出した。 (甲1、2) イ原告は、平成31年1月18日、外務省旅券課に電話を架け、旅券の発給状況について問い合わせたと ン、ドイツ、インド及びカナダと記載した渡航事情説明書を提出した。 (甲1、2) イ原告は、平成31年1月18日、外務省旅券課に電話を架け、旅券の発給状況について問い合わせたところ、担当者から、原告がトルコを出国したときに何らかの処分があったとの情報を入手しており、そのため1号該当性について検討している旨の説明を受けた(乙3)。 ウ日本政府外務省は、平成31年2月13日付けで、トルコ政府外務省 から、原告に採られている処分の内容について、公文書にて情報提供を 受けた。同公文書は、①原告がイスタンブールの空港から出国した平成30年10月24日に、トルコ外国人法9条3項に基づき、原告は5年間のトルコへの入国禁止とされたこと、②原告は、平成24年8月2日の出国の際に、ハタイ県警察本部が不法入国を理由として原告を国外退去の対象とし、2年間のトルコへの入国禁止とした旨の通知を受けたこ とをそれぞれ報告するものであった。 (乙12、26の1・2)エ原告は、平成31年4月4日、外務省旅券課の担当者と面談し、一般旅券の申請時の参考書面(旅券法3条1項6号参照)として、渡航事情を補足する書面の作成提出を求められた。 原告は、上記書面において、実際には渡航計画が具体化していなかったものの、担当者の求めに応じて、インド、フランス、スペインへの渡航計画を記入し、トルコから入国禁止措置を課されていると知ったことから、トルコを渡航先から削除した旨を説明した。 また、原告は、上記書面において、平成24年7月下旬にシリアから トルコに入国した経緯、平成26年4月にトルコへの入国を拒否された経緯、平成27年6月にトルコからシリアに出国した経緯を説明した。 また、原告は、上記書面において、平成30年10月 シリアから トルコに入国した経緯、平成26年4月にトルコへの入国を拒否された経緯、平成27年6月にトルコからシリアに出国した経緯を説明した。 また、原告は、上記書面において、平成30年10月にトルコから課された入国禁止措置の内容を具体的に説明するよう求められたが、トルコからの通知が何も無かったから分からない旨説明した。 (乙4)オ原告は、令和元年7月10日付けで、外務大臣から、本件旅券発給拒否処分を受け、同月12日、同処分に係る通知書を受け取った(甲3、乙40)。 2 事実認定の補足説明 ⑴ 認定事実⑵イにつき、原告は、平成24年8月2日の時点ではトルコ入 国禁止措置につき通知を受けていなかったと主張する。 しかし、原告は、トルコ入国禁止措置が採られていることを同日時点で認識していたことを前提とする説明を本件旅券発給申請の際にしていること(乙4の8頁)、トルコ政府外務省が日本政府外務省に発した公文書には同日に通知があった旨記載されていること(乙26の1・2)、通知を受け ていないとする原告のSNSは同月1日に発出されたものであり、その後に通知を受けた事実と矛盾しないこと(乙5の4枚目)から、原告の上記主張は採用することができない。 ⑵ 認定事実⑶イにつき、原告は、平成30年10月24日に国外退去命令の通知を受けたことはなく、同命令の発出もなかったと主張する。 しかし、国外退去命令の通知書(乙11の1・2)が存在し、同通知書には移民管理支局職員及び通訳者のサインがあることからすれば、同通知書の内容が虚偽であるとは考えにくい。また、原告は、内戦状態のシリアで長期間にわたり身体拘束を受け、その隣国であるトルコ政府の情報機関により救出されたものであって、トルコ政府からすれば、ト 、同通知書の内容が虚偽であるとは考えにくい。また、原告は、内戦状態のシリアで長期間にわたり身体拘束を受け、その隣国であるトルコ政府の情報機関により救出されたものであって、トルコ政府からすれば、トルコの公共秩 序や治安に反する行為を行ったと評価され得るような事実もある。そして、原告は、上記通知書に記載された通知時刻(同日午後10時)にはハタイ県にいなかったものの、ハタイ県移民管理支局側は、同通知時刻はあらかじめ記載されていたものであり、実際に通知した時刻は午後4時から午後5時であったと説明しており(乙25)、通知時刻がタイピングで記載され ていることを併せ考えれば、通知時刻があらかじめ記載されていたという上記説明は信用することができる。原告は、自身は国外退去命令を受けていないと陳述ないし供述するが(甲66、原告本人)、原告は長期間の身体拘束から解放されたばかりであって、その認知や記憶に誤りが生じていた可能性も多分にあるというべきである。 そうすると、上記のとおり、ハタイ県移民管理支局が同日に国外退去命 令を発出することを決定し、これを原告に通知したとの事実を認めることができ、原告の上記主張は採用することができない。 3 争点⑴(原告は、トルコ外国人法によりトルコに入ることを認められない者に該当するか)について⑴ トルコ外国人法の概要(乙13の1・2、27の1・2) トルコ外国人法は、平成25年4月に制定されたトルコの法律であり、原告が平成30年10月24日にトルコから出国する時点において、トルコにおける外国人の出入国管理について規律するものである(乙27の1・2)。 同法9条1項は、内務省下の移民管理総局(theDirectorateGeneralof MigrationM ける外国人の出入国管理について規律するものである(乙27の1・2)。 同法9条1項は、内務省下の移民管理総局(theDirectorateGeneralof MigrationManagement)は、トルコに入国した外国人に対し、公共秩序、治安又は公衆衛生を理由として入国禁止措置を課すことができる旨、同条2項は、移民管理総局又は行政区域(governorates)は、トルコから国外退去とされる外国人(foreignerswhoaredeportedfromTurkey)に対しては入国禁止措置を課さなければならない旨、同法3項は、入国禁止措置の 期間は原則として5年を超えてはならない旨それぞれ定める。 また、同法10条は、同法9条1項の入国禁止措置は当該外国人の入国時に移民管理総局から、同条2項の入国禁止措置は行政区域から通知されなければならない旨定める。 さらに、同法53条1項は、国外退去命令(removaldecision)は、移民管 理総局からの指示又は職権により、行政区域が発出する旨定める。そして、同法54条1項dは、公共秩序、治安又は公衆衛生に反する行為を行った外国人に対しては、国外退去命令を発出しなければならない旨定める。 ⑵ 原告に対する入国禁止措置の有無(トルコ政府による説明の信用性)トルコ政府は、平成31年2月13日付け書面により、平成30年10 月24日に原告に対しトルコ外国人法に基づき5年間の入国禁止措置を課 した旨説明しているところ(認定事実⑷ウ)、同説明の信用性について検討する。 まず、上記説明は、トルコ政府外務省から日本政府外務省に公文書の形式で行われたものであって、原告という一私人に対する入国禁止措置の有無について虚偽の内容の説明がされること 用性について検討する。 まず、上記説明は、トルコ政府外務省から日本政府外務省に公文書の形式で行われたものであって、原告という一私人に対する入国禁止措置の有無について虚偽の内容の説明がされることは、一般的には考えにくいとこ ろである。また、原告が平成31年1月7日の本件旅券発給申請の際に、トルコから入国禁止措置を受けている旨の説明を受けていることからすれば(認定事実⑷ア)、少なくとも同日時点で、トルコ政府から原告に対する入国禁止措置が発出されていたものといえるが、トルコ政府外務省と日本政府外務省が、原告からの一般旅券発給申請を見越して、それよりも前に、 真実は原告に対する入国禁止措置がなかったにもかかわらず、それがあるかのような事実を作出したとは到底考えられない。 さらに、原告は、内戦状態のシリアで長期間にわたり身体拘束を受け、その隣国であるトルコ政府の情報機関により救出され、その後、トルコ政府から国外退去命令を受けている。このように、原告には、トルコの公共 秩序や治安に反する行為を行ったと評価され得るような事実があり、これはトルコ外国人法9条1項の要件を充足するものであるし、また、国外退去とされた事実があり、これは同条2項の要件を充足するものである。そうすると、原告は、平成30年10月24日の時点で入国禁止措置を課され得る立場にあったといえる。なお、トルコ政府の産業技術大臣の地位に ある者がどのような意図で原告との面会を求めたかについては不明であるから、この事実は、同政府の内務省下の機関が原告に入国禁止措置を課した事実と矛盾するものということはできない。 したがって、トルコ政府による上記説明は信用することができ、同説明のとおり、トルコ政府が、平成30年10月24日に原告に対しトルコ外 国人法に基づ た事実と矛盾するものということはできない。 したがって、トルコ政府による上記説明は信用することができ、同説明のとおり、トルコ政府が、平成30年10月24日に原告に対しトルコ外 国人法に基づき5年間の入国禁止措置を課したとの事実を認めることがで きる。 ⑶ 原告の主張について原告は、トルコ政府からは入国禁止措置について通知を受けていない旨主張する。 しかし、原告に課された入国禁止措置がトルコ外国人法9条1項に基づ くものであれば、その通知はトルコ入国時にされるものであるから、原告が現時点において通知を受けていないのは当然である。また、原告に課された入国禁止措置が同条2項に基づくものであったとしても、トルコ政府による入国禁止措置の実体的判断が実際にされていることからすれば、その通知を欠くことが、相手国政府との国際信義の維持を目的とする旅券法 13条1項1号の解釈に影響するとは考えられないところである。 なお、トルコ外国人法9条2項によれば、国外退去とされた外国人には必要的に入国禁止措置が課される(shallimpose)ところ、原告はハタイ県移民管理支局から国外退去命令を受けているのであるから、原告に対しては、同項に基づく入国禁止措置が課されたと解するのが自然である。トル コ内務省対外関係課職員が令和3年1月26日に在トルコ日本国大使館職員に対し、原告に課された入国禁止措置は同条1項に基づくものであると説明した旨記載のある報告書(乙23)が存在するものの、同報告書は公電の結論部分を抜粋し、複数の伝聞過程を経たものであって、同項に基づくという事実を裏付ける資料も具体的な補足説明もないことからすれば、 上記報告書の記載内容を直ちに採用することはできない。 このように、原告に課された入国禁 過程を経たものであって、同項に基づくという事実を裏付ける資料も具体的な補足説明もないことからすれば、 上記報告書の記載内容を直ちに採用することはできない。 このように、原告に課された入国禁止措置がトルコ外国人法9条1項に基づくものか、同条2項に基づくものかについては疑義が残るものの、原告がトルコ政府から入国禁止措置について通知を受けていないとの事実は、トルコ政府が平成30年10月24日に原告に対して5年間の入国禁止措 置を採ったとの事実認定を左右するものにはならない。 ⑷ まとめ以上のとおり、原告は、トルコ政府から平成30年10月24日にトルコ外国人法に基づき5年間の入国禁止措置を課されたものである。 したがって、原告は、トルコの法規によりトルコに入ることを認められない者に該当する。 4 争点⑵(旅券法13条1項1号は、憲法22条及び13条並びに自由権規約12条2項に違反しないか)について⑴ 海外渡航の自由の性質等ア海外渡航の自由は、憲法22条2項によって保障される基本的人権である(最高裁昭和29年(オ)第898号同33年9月10日大法廷判 決・民集12巻13号1969頁参照)。そして、今日では、海外渡航の自由は、単なる経済的自由にとどまらず、人身の自由ともつながりを持ち、更には、海外における人々との交流をはじめとする様々な体験及び活動や、知識及び情報の獲得、発信等を通じ、個人が自己の人格を発展させるとともに、民主主義社会における意思形成に参画し、これに寄与 する契機にもなり、精神的自由の側面をも持つものといえる。 海外渡航の自由も公共の福祉に基づく合理的な制約に服するものであり、共同社会における公共の利益との間での交錯の多さゆえに社会政策や外交政策からの制約が課される 神的自由の側面をも持つものといえる。 海外渡航の自由も公共の福祉に基づく合理的な制約に服するものであり、共同社会における公共の利益との間での交錯の多さゆえに社会政策や外交政策からの制約が課されることがやむを得ない場面はあるが、その基本的人権としての性質が先に述べたとおりのものであることからす ると、海外渡航の自由へ制約は、合理的で必要やむを得ない限度のものということができない限り、許されないというべきである。 イ今日では、各国は旅券を所持しない外国人を一般に入国させないという国際的慣行が確立しており、およそ外国に渡航しようとする者にとって旅券の所持は必要不可欠であるから、旅券の発給拒否処分は、海外渡 航を事実上不可能にさせるものであって、海外渡航の自由を全面的に制 約するものである。このような制約の根拠となり得る旅券法13条1項1号の目的について、次項で検討する。 ⑵ 旅券法13条1項1号の目的ア旅券法の制定及び改正経緯(ア) 旅券法(昭和26年法律第267号)は、昭和45年法律第105 号による改正及び平成元年法律第23号による改正(以下、旅券法の同各改正を「昭和45年改正」及び「平成元年改正」という。乙29の1・2、35の1・2。それらの内容は、訴状添付の一覧表参照)などの数次の改正を経たものの、1号の文言は、制定時から現在まで変わっていない。 (イ) 昭和26年の旅券法制定時、一般旅券は、①渡航先が特定されたものであって、②外務大臣が指定する特定の用務により数次往復する必要があって外務大臣がその必要を認めた場合を除き、一往復により効力を失うものであった(制定時の旅券法7条、12条、18条1項2号参照)。そして、渡航先の追加を受けようとする者は、その旨の申請 をしな て外務大臣がその必要を認めた場合を除き、一往復により効力を失うものであった(制定時の旅券法7条、12条、18条1項2号参照)。そして、渡航先の追加を受けようとする者は、その旨の申請 をしなければならなかった(同法8条参照)。 外務省の担当課が旅券法制定時に作成した内部文書においては、旅券法は「渡航先国に施行されている法規によりその国に入ることの認められておらない者等に対し発給の制限を加えて、国際信義を重んずる趣旨等を明らかにして」いると説明されていた(乙16の1ないし 6)。そして、昭和26年の旅券法制定時の衆議院外務委員会において、政府委員は、旅券発給の制限事由について大体の基準を示すよう求められたのに対し、旅券は渡航先の国内法や国際事情を考慮に入れて発給する必要があると説明した上で、渡航先から入国禁止とされた者に旅券を発給しても、その者が時間や費用を浪費することになることを 例として挙げ、更に米国においても、国際信用を落とすような者など には旅券の発給が拒否されていると説明した(甲5の1の17頁)。 (ウ) 昭和45年改正により、一般旅券には、①渡航先が記載されるものの、渡航先が地域名をもって包括記載される場合があることになり、また、②数次往復の旅券を発給するよう申請があり、外務大臣等が数次往復の必要を認めたときは、数次往復用のものが発給されることに なった(昭和45年改正後の旅券法5条1項、5条の2第2項参照)。 このように、旅券発給申請者において、一往復用旅券又は数次往復用旅券のいずれかを選択して旅券の発給を申請することが可能になったところ、実務上、一往復用旅券に記載される渡航先は、申請者の申請した渡航先のみであり、数次往復用旅券に記載される渡航先は、包 括的なものであった(被告 て旅券の発給を申請することが可能になったところ、実務上、一往復用旅券に記載される渡航先は、申請者の申請した渡航先のみであり、数次往復用旅券に記載される渡航先は、包 括的なものであった(被告準備書面⑸13頁参照)。その後、実際に発給される一般旅券は、我が国が承認する国への数次往復を認めるものが多数を占めるようになった(甲4の2の13頁、乙31の1頁)。 (エ) 平成元年改正により、一般旅券は、原則として、①外務大臣が指定する地域(なお、現在、指定地域は存在しない。乙33の6)以外の 全ての地域が渡航先として記載された、②数次往復用のものが発給されることになった(平成元年改正後の旅券法5条1項)。また、一般旅券の発給制限がある者(旅券法13条1項各号に該当する者)などに対して一般旅券を発給するときは、渡航先を個別に特定して記載した一般旅券(限定旅券)を発給することが可能になった(同法5条2項)。 イ旅券法制定時の説明上記ア(イ)のとおり、旅券法制定時、外務省の担当課は、ある国から入国禁止とされた者に対する旅券発給を制限する理由は国際信義を重んずるものであると説明しており、衆議院外務委員会においても、政府委員が、旅券は渡航先の国内法や国際事情を考慮に入れて発給する必要があ り、自国の国際信用を維持するために旅券発給を拒否する国もある旨を 説明していたものである。旅券法は、政府のこのような説明を前提として成立したものであるから、1号の立法趣旨は、国際信義を重んずるというものであったといえる。 そして、旅券法制定時の一般旅券は、渡航先が特定されたものであったから、ある国から入国禁止とされた者であっても、旅券発給申請書の 渡航先欄に当該国以外の国名を記載して旅券発給申請をすれば、旅券発 して、旅券法制定時の一般旅券は、渡航先が特定されたものであったから、ある国から入国禁止とされた者であっても、旅券発給申請書の 渡航先欄に当該国以外の国名を記載して旅券発給申請をすれば、旅券発給拒否処分を受けることはなかったものである。 そうすると、旅券法は、その制定時においては、海外渡航の自由を制約してもなお1号で保護されるべき利益である国際信義について、具体的には、ある者を入国禁止とした国と我が国との二国間の信頼関係を想 定していたと解するのが自然である。 なお、原告は、政府委員は旅券法制定時に1号の目的は渡航者の権利保護である旨説明していたと主張する。しかし、政府委員は、1号が想定する一場面として、同号に該当する渡航者が時間や費用を浪費することとなる事態を例示したにすぎず(上記ア(イ))、1号の目的が渡航者の 権利保護であると説明したものではないから、原告の上記主張は採用することができない。 ウ旅券法13条1項1号の文言1号は、一般旅券の発給申請者が「渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者」に該当する場合、外務大臣等は 旅券の発給をしないことができる旨規定し、旅券発給拒否の要件を発給申請者と渡航先との関係のみに係らしめている。 このような1号の文言を素直に読めば、海外渡航の自由を制約してもなお1号が保護しようとした利益は、渡航先との関係から我が国が得られる利益に限られると解するのが相当であり、それが多国間関係から我 が国が得られる利益、すなわち、国際的な法秩序維持や国際社会におけ る信頼関係の維持等であると解するのは困難である。 エ旅券法13条1項1号の枠組み1号は、ある国から入国禁止とされた者に対し、旅券の発給自体の拒否を可能にするもの 社会におけ る信頼関係の維持等であると解するのは困難である。 エ旅券法13条1項1号の枠組み1号は、ある国から入国禁止とされた者に対し、旅券の発給自体の拒否を可能にするものであって、旅券発給拒否処分の契機を、ある者を入国禁止とした国の出入国管理法規及びその運用に委ねている。国際慣習 法上、外国人の入国の許否は各国が自由に決することができ、時には、国際的な法秩序や国際社会における信頼関係の維持等の点から見れば恣意的であると評価すべき入国禁止措置が採られる場合もある(甲33の1・2、34、42)。 このように、1号は、海外渡航の自由を全面的に制約するという契機 を、我が国の主権が及ばないだけではなく、我が国の外交方針にも反する可能性がある各国の裁量に委ねているのであるから、海外渡航の自由を制約してもなお1号が保護しようとした利益を、国際的な法秩序維持や国際社会における信頼関係の維持等と解するのには無理があるといわざるを得ず、それは渡航先との関係から我が国が得られる利益に限られ ると解するほかない。 オ小括以上のとおり、旅券法制定時の説明、1号の文言及び枠組みに照らせば、1号の目的は、ある者を入国禁止とした国と我が国との二国間の信頼関係の維持にあるというべきである。 カ被告の主張について被告は、1号の目的は、国際的な法秩序維持や国際社会における犯罪の防止等であると主張する。 確かに、我が国の旅券は、所持者の国籍及び身元を証明し、当該者の最終的な引取りと保護に当たる責任を我が国が負うことを示すものであ る。日本国民が渡航先において当該国の国内法及び国際法の適切な適用 を受けられるのは、我が国が発行する旅券への信頼、すなわち、我が国への国際社会からの信頼が 負うことを示すものであ る。日本国民が渡航先において当該国の国内法及び国際法の適切な適用 を受けられるのは、我が国が発行する旅券への信頼、すなわち、我が国への国際社会からの信頼が前提になっているといえ、国際的な法秩序の維持等が図られていることも必要である。 しかし、旅券制度が、二国間関係にとどまらず国際社会における信頼関係の維持、更には国際的な法秩序維持等を前提とするものであるとし ても、2号及び3号は、我が国の刑事司法作用を確保するために旅券発給拒否事由を定めていると解されるのであり、このことからも分かるように、全ての旅券発給拒否事由が旅券制度の適正維持を図るために定められているわけではないから、1号の目的が国際社会における信頼関係の維持や国際的な法秩序維持等であると解する必然性はない。 また、被告は、一般旅券に記載される渡航先を拡張する一連の旅券法の各改正に係る国会審議において、ある国から入国禁止とされた者による旅券発給申請に対し、全面的な発給拒否をすべきではないなどといった議論がされたことはなく、このことは、1号の目的が国際的な法秩序維持や国際社会における信頼関係の維持等であったことを裏付けるもの であると指摘する。しかし、旅券法5条2項の平成元年改正により、外務大臣等は、同法13条1項各号のいずれかに該当する者に対して一般旅券を発行するときは、渡航先を個別に特定して記載することができるものとされ、限定旅券制度が導入されているところ、これは、ある国から入国禁止とされた者による旅券発給申請に対し、全面的な発給拒否を 回避するためのものと解される。このように、旅券法の平成元年改正において、ある国から入国禁止とされた者による旅券発給申請に対して、全面的な発給拒否しかできない場合の不都合に 面的な発給拒否を 回避するためのものと解される。このように、旅券法の平成元年改正において、ある国から入国禁止とされた者による旅券発給申請に対して、全面的な発給拒否しかできない場合の不都合に対する立法的手当てがされているのであるから、被告の上記指摘は前提を誤るものといわざるを得ない。 なお、限定旅券制度について、人道的理由がある場合の例外的な救済 措置として導入されたとの被告の解釈は、旅券法5条2項の文言にはそのような制限はないから、採用することができない。また、限定旅券制度の導入趣旨について、外務省担当課の内部文書では、人道的理由から旅券を発行しても差し支えないような場合を救済するために限定旅券を発給し得ることとした旨説明されているものの(乙37)、別の担当課職 員が執筆した公刊物の記事では、渡航先を限定するなどすれば、渡航を認めても差し支えないという中間ケースがあることから限定旅券を発給し得ることとした旨説明されており(甲41の4枚目)、人道的理由から救済することを目的とするという解釈は採られていない。 したがって、1号の目的を国際的な法秩序維持や国際社会における信 頼関係の維持等であるとする被告の主張は、採用することができない。 ⑶ 旅券法13条1項1号による海外渡航の自由に対する制約は、合理的で必要やむを得ない限度のものかア検討上記⑵で説示したとおり、旅券法13条1項1号の目的は、ある者を 入国禁止とした国と我が国との間の二国間の信頼関係の維持にある。 そして、ある国から入国禁止とされた者から一般旅券の発給申請があった場合、当該国と地理的に近接する国や当該国とテロ対策で協力する国など、当該国の利害に影響を与える関係国への当該者の渡航を我が国が許せば、当該国が当該 入国禁止とされた者から一般旅券の発給申請があった場合、当該国と地理的に近接する国や当該国とテロ対策で協力する国など、当該国の利害に影響を与える関係国への当該者の渡航を我が国が許せば、当該国が当該者を入国禁止とすることで守ろうとした利益が 害されるおそれが生じ、結果として、当該国と我が国との間の信頼関係が損なわれることになると考えられる。そうすると、ある国から入国禁止とされた者について、入国禁止とした当該国だけではなく、当該国の利害に影響を与える関係国への渡航も含めて制限するのは合理的といえる。 更に検討するに、国際化が進展し、国家間の関係が複雑化する現代社 会においては、ある国から入国禁止とされた者が当該国又はその関係国に渡航することによって、当該国の利害に影響が生じるおそれがあるか否か、どの程度影響が生じ得るか、それにより当該国と我が国との信頼関係が毀損されるか否か、どの程度毀損され得るか、そのような毀損を許容するか否かといった事項については、当該者による旅券発給申請時 より前に予測できるものではなく、かつ、当該時点の国際情勢により変動するものである。以上のような事項を適切に評価し、当該国と我が国との間の二国間の信頼関係が害されるか否かについて判断することは、国際関係に関する専門的な知識と、外交上の機密に属する資料等を有する外務大臣等に、第一次的に委ねるほかない。 また、旅券法は、ある国から入国禁止とされた者からの旅券発給申請について外務大臣等が採り得る手段を複数用意している。すなわち、外務大臣等は、時々刻々と変動する国際情勢に応じて、渡航先を全ての地域とする一般旅券を発給するか、渡航先を個別に特定した限定旅券を発給するか、一般旅券の発給を拒否するかの選択を行うことができるので あ は、時々刻々と変動する国際情勢に応じて、渡航先を全ての地域とする一般旅券を発給するか、渡航先を個別に特定した限定旅券を発給するか、一般旅券の発給を拒否するかの選択を行うことができるので ある。 そうすると、1号の規定による海外渡航の自由に対する制約は、合理的で必要やむを得ない限度のものというべきである。 イ原告の主張について原告は、一国で入国を拒否されたことを理由として、それ以外の国へ の渡航が妨げられる理由はないから、1号は海外渡航の自由を過度に広範に制約するものであると主張する。 しかし、上記アの第2段落で説示したとおり、ある国から入国禁止とされた者について、入国禁止とした当該国だけでなく、当該国の利害に影響を与える関係国への渡航を制限するのは合理的である。 また、確かに、旅券法制定時、ある国から入国禁止とされた者は、当 該国以外を渡航先として一般旅券の発給申請をすれば、旅券発給拒否処分を受けることはなかったのであり、昭和45年改正後も、当該国以外を渡航先として一往復用旅券を申請し、渡航先の包括記載を事実上回避することで、旅券発給拒否処分を免れることが可能であったものである(被告準備書面⑸13頁⑶イ参照)。ところが、平成元年改正後は、渡航 先を包括記載とする数次往復用旅券の発給が原則とされたことにより、ある国から入国禁止とされた者は、外務大臣等から、一般旅券の発給自体を拒否され得ることになったのであり、この点だけを見れば、外務大臣等の判断に委ねられる範囲が増加したといえる。もっとも、平成元年改正において、渡航先を個別に特定した限定旅券の制度が導入されたこ とや、その間の人、物、情報の広域化・国際化により、国家間の信頼関係の維持を左右する要因が複雑化したことを考慮すれば、あ 元年改正において、渡航先を個別に特定した限定旅券の制度が導入されたこ とや、その間の人、物、情報の広域化・国際化により、国家間の信頼関係の維持を左右する要因が複雑化したことを考慮すれば、ある国から入国禁止とされた者に対する旅券発給につき外務大臣等の判断に委ねられる範囲が増加したことをもって、現在の1号の規定による海外渡航の自由の制約が過度に広範であるということはできないし、立法の過誤であ るということもできない。 さらに、諸外国の制度を見ると、米国においては、旅券発給申請者の海外での活動が米国の外交政策に重大な損害をもたらす可能性があると判断された場合に旅券発給が拒否され得る(米国連邦規則集22巻§51.60(c)(4)、甲6)。カナダにおいては、外国の国家安全保障のために、 その決定が必要であると信じる合理的な理由がある場合には、旅券発給が拒否され得る(カナダ旅券令10.1、甲7)。英国においては、個人の過去又は予定された活動が明らかに望ましくないため、旅券の発給が公共の利益に反する場合には、旅券発給が拒否され得る(英国王室特権、甲8)。フランスにおいては、旅券発給申請者の海外旅行が国家安全保障 又は公共の安全を危うくする可能性がある場合には、旅券発給が拒否さ れ得る(フランス内務省第350924 号1991 年11 月12 日、甲9)。ドイツにおいては、ドイツ国外の安全保障又はその他の重要な利益を脅かすと信じるに足る合理的な理由がある場合には、旅券発給が拒否される(ドイツ旅券法第7節(1)1、甲10)。このように、主要な民主主義諸国においては、旅券発給拒否に至る直接の契機をある国からの入国禁止措置に 委ねるものではないものの、ある国から入国禁止とされたことを契機とし、当該国との信頼関係 )。このように、主要な民主主義諸国においては、旅券発給拒否に至る直接の契機をある国からの入国禁止措置に 委ねるものではないものの、ある国から入国禁止とされたことを契機とし、当該国との信頼関係の維持を目的として、旅券発給機関の判断により、当該者に対する旅券発給を拒否することができる旨解釈可能な条項が存在している。 したがって、1号による海外渡航の自由の制約の程度が過度に広範で あるとの原告の上記主張は、採用することができない。 ウ小括よって、旅券法13条1項1号が、憲法22条及び13条に違反するということはできない。 ⑷ 条約適合性 ア自由権規約12条2項は、すべての者はいずれの国(自国を含む。)からも自由に離れることができると規定し、同条3項は、同条2項の権利はいかなる制限も受けないが、その制限が法律で定められ、国の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の権利及び自由を保護するために必要であり、かつ、この規約において認められる他の権利と両 立するものである場合はこの限りでないと規定する。 イ我が国において、外務大臣等は、ある国から入国禁止とされた者の海外渡航の自由を、その者に対する旅券発給を拒否することを通じて制約することができるが、それは、旅券法13条1項1号という法律の規定に基づくものである。また、上記⑵で説示したとおり、1号は、ある者 を入国禁止とした国と我が国との二国間の信頼関係の維持を目的とする ところ、この目的を達成することによって、最終的には、我が国の安全や公の秩序、他の日本国民の権利自由を保護することができるものといえる。そして、1号による海外渡航の自由に対する制約が、合理的で必要やむを得ない限度のものであることについては、上記⑶で説示したとおり 公の秩序、他の日本国民の権利自由を保護することができるものといえる。そして、1号による海外渡航の自由に対する制約が、合理的で必要やむを得ない限度のものであることについては、上記⑶で説示したとおりである。1号による海外渡航の自由に対する制約が、自由権規約に おいて認められる他の権利と両立しないということもできない。 ウよって、旅券法13条1項1号が、自由権規約12条2項に違反するということはできない。 ⑸ まとめ以上によれば、旅券法13条1項1号は、憲法22条及び13条並びに 自由権規約12条2項に違反しない。 5 争点⑶(本件旅券発給拒否処分は、憲法22条及び13条、自由権規約12条2項並びに旅券法13条1項1号に違反しないか)について⑴ 判断枠組みア外務大臣等の裁量の存在 旅券法13条1項1号は、外務大臣等は、ある国から入国禁止とされた者から旅券発給申請があった場合、「一般旅券の発給…をしないことができる」と規定し、渡航先を全ての地域とする一般旅券を発給するか、渡航先を個別に特定した限定旅券を発給するか、一般旅券の発給を拒否するかの選択を、外務大臣等の裁量に委ねている。 以下、1号所定の事由に当たることを理由として外務大臣等が裁量権の行使として行う旅券発給拒否処分の適否につき、裁判所が判断をするに当たっての判断枠組みについて、検討する。 イ外務大臣等の裁量権の性質とその行使の在り方旅券法13条1項1号は、ある国から入国禁止とされた者の旅券発給 申請に対して、外務大臣等が「一般旅券の発給…をしないことができる」 とのみ規定しており、その判断に特段の制限を課す文言はない。しかし、このことを根拠として、1号が外務大臣等に広範な裁量を認めたものと解することは 「一般旅券の発給…をしないことができる」 とのみ規定しており、その判断に特段の制限を課す文言はない。しかし、このことを根拠として、1号が外務大臣等に広範な裁量を認めたものと解することはできない。なぜなら、上記4⑶アで説示したとおり、ある国から入国禁止とされた者が当該国又はその関係国に渡航することによって、当該国と我が国との信頼関係が毀損されるか否か、どの程度毀損 され得るか、そのような毀損を許容するか否かといった事項については、当該者による旅券発給申請時より前に予測できるものではなく、かつ、当該時点の国際情勢により変動するものであり、1号は、これらのことを考慮して、旅券発給に係る処分については外務大臣等の第一次的判断に委ねるべく、あらかじめ外務大臣等の判断に特段の制限を課す文言を 置かなかったにすぎないと解されるからである。 そもそも、上記4⑴で説示したとおり、海外渡航の自由は憲法が保障する基本的人権であって、単なる経済的自由にとどまらず、精神的自由の側面も持つものであるところ、外務大臣等による旅券発給拒否処分が海外渡航の自由を全面的に制約するものであることからすると、外務大 臣等の旅券発給拒否処分に係る裁量が広範なものであると解するのは相当でない。昭和26年の旅券法制定時の衆議院外務委員会において、7号(当時は5号)の規定に関する質疑応答の中で、政府委員は、旅券発給の許否について、明治憲法下では外務大臣にある程度の裁量権が当然認められていたが、日本国憲法下では外務大臣が自由裁量をもってやる べき行為ではないと説明しており(甲5の2の2頁)、同説明は、外務大臣に広範な裁量を認めたものではないという趣旨のものと解され、この説明が7号に限定した解釈に基づくものであって、1号についてはこれと異なる解釈 ないと説明しており(甲5の2の2頁)、同説明は、外務大臣に広範な裁量を認めたものではないという趣旨のものと解され、この説明が7号に限定した解釈に基づくものであって、1号についてはこれと異なる解釈が採られていたとは考えにくいところである。 また、旅券法13条1項7号所定の事由に当たるとしてした外務大臣 等の旅券発給拒否処分の適否につき裁判所が判断をするに当たっては、 その範囲は、単に外務大臣の恣意、その判断の前提とされた事実の認識についての明白な誤り及びその結論に至る推理過程の著しい不合理などの有無に限定されるものではなく、当該処分当時の旅券発給申請者の地位、経歴、人柄、その旅行の目的、渡航先の情勢、外交方針、外務大臣の認定判断の過程、その他これに関する全ての事実をしんしゃくした上 で、同号の規定により外務大臣に与えられた権限がその法規の目的に従って適法に行使されたかどうかに及ぶものである(最高裁昭和37年(オ)第752号同44年7月11日第二小法廷判決・民集23巻8号1470頁参照)。したがって、外務大臣等が旅券法13条1項7号に基づいてする旅券発給拒否処分に係る裁量権行使は、法規の目的に従ってされな ければならないのであり、このことは、同項1号に基づく旅券発給拒否処分の場合についても同様と解される。 ウ外務大臣等の裁量権行使に対する判断枠組み上記4⑵で説示したとおり、1号の目的は、ある者を入国禁止とした国と我が国との二国間の信頼関係の維持にあるから、外務大臣等が1号 に基づいて旅券発給拒否処分をするに当たっては、同目的に従って裁量権を行使しなければならないのであり、外務大臣等において、ある国から入国禁止とされた者が渡航したとしても当該国と我が国との二国間の信頼関係が損なわれる蓋然性がない地 に当たっては、同目的に従って裁量権を行使しなければならないのであり、外務大臣等において、ある国から入国禁止とされた者が渡航したとしても当該国と我が国との二国間の信頼関係が損なわれる蓋然性がない地域への渡航を制約する態様の旅券発給拒否処分をすることは、1号の目的に反し、許されないというべき である。 したがって、外務大臣等が、ある国から入国禁止とされた者による旅券発給申請に対して1号に基づき旅券発給拒否処分をした場合において、同処分が、その者において渡航したとしても当該国と我が国との二国間の信頼関係が損なわれる蓋然性がない地域への渡航を制約する態様でさ れたときは、同処分は、外務大臣等が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれ を濫用したものとして、違法になるというべきである。 エ被告の主張について被告は、ある国から入国禁止とされた者に対する旅券発給拒否処分が違法となるのは、国際的な法秩序の維持や国際社会における信頼関係の維持等について一定程度の譲歩を求めてもなお、当該者に一般旅券(限 定旅券を含む。)の発給を認めなければならない特段の事情がある場合に限られる旨主張する。 しかし、上記4⑵で説示したとおり、1号の目的は、ある者を入国禁止とした当該国と我が国との間の二国間の信頼関係の維持にあるから、国際的な法秩序の維持や国際社会における信頼関係の維持等との比較を もって、旅券発給の許否を判断することはできない。 また、被告は、旅券発給の許否に係る判断は、高度の専門的知識と政策的判断を要する事柄であって、その性質上、外務大臣等の裁量に委ねられるべきであると指摘する。しかし、7号所定の事由に当たるとしてした外務大臣等の旅券発給拒否処分の適否につき裁判所が判断をするに 当たっては、その範囲は、単に外務 上、外務大臣等の裁量に委ねられるべきであると指摘する。しかし、7号所定の事由に当たるとしてした外務大臣等の旅券発給拒否処分の適否につき裁判所が判断をするに 当たっては、その範囲は、単に外務大臣の恣意、その判断の前提とされた事実の認識についての明白な誤り及びその結論に至る推理過程の著しい不合理などの有無に限定されるものではないところ(上記5⑴イ)、1号所定の事由に当たることを理由とする旅券発給拒否処分の適否につき裁判所が判断する場合についても同様に解するのが相当であり、また、 憲法上の人権である海外渡航の自由の重要性に鑑みれば、被告の指摘を踏まえても、上記特段の事情がない限り、旅券発給拒否処分が違法にならないというような広範な裁量を認めるのは相当ではない。 なお、昭和45年の旅券法改正時の衆議院外務委員会において、参考人は、1号の要件に該当すれば「機械的に当然に」旅券は発給されない という趣旨の説明をしている(乙28の14頁)。しかし、これは、昭和 45年改正後においても、ある国から入国禁止とされた者が当該国を渡航先として一往復用旅券の旅券発給申請をしても、そのような一往復用旅券は発給されないことを前提にした説明であると解され、1号の要件に該当する者に対する旅券発給が原則として拒否されるという趣旨の説明であるとは解されない。 したがって、旅券発給拒否処分の違法性判断の判断枠組みに関する被告の上記主張は、採用することができない。 オ原告の主張について原告は、1号により一般旅券の発給を制限できるのは、海外渡航の自由の保障に優越するほどの明白かつ現在の危険がある場合に限られる、 ある者を入国禁止とした国との信頼関係が著しくかつ直接に害されるおそれがあることについて積極的に主張立証された場合 外渡航の自由の保障に優越するほどの明白かつ現在の危険がある場合に限られる、 ある者を入国禁止とした国との信頼関係が著しくかつ直接に害されるおそれがあることについて積極的に主張立証された場合に限られるなどと主張する。 しかし、ある国から入国禁止とされた者の当該国又はその関係国への渡航によって当該国と我が国との信頼関係が害されるか否かについては、 当該国又はその関係国への渡航によって当該国の利害に影響が生じるおそれがあるか否か、どの程度影響が生じ得るか、それにより当該国と我が国との信頼関係が毀損されるか否か、どの程度毀損され得るか、そのような毀損を許容するか否かといった事項を評価する必要がある。そして、これらの事項の評価は、外交上の機密が含まれる可能性のある資料 等に依拠せざるを得ないところ、外務大臣等において、このような機密情報に基づく判断過程につき詳細を公開することができない場合も想定されるのであるから、裁判所が旅券発給拒否処分の適法性を判断するに当たり、外務大臣等に、当該国との信頼関係が害されることについての詳細な立証を求めることができない場合があるのである。 したがって、旅券発給拒否処分の違法性判断の判断枠組みに関する原 告の上記主張は、採用することができない。 ⑵ 本件旅券発給拒否処分の適法性ア上記⑴ウで説示した判断枠組みに基づき、本件旅券発給拒否処分が、原告において渡航したとしてもトルコと我が国との二国間の信頼関係が損なわれる蓋然性のない地域への渡航を制約する態様でされたと認めら れるかについて検討する。 イ原告は、平成24年6月にレバノンからシリアへ、同年7月にシリアからトルコへ、平成27年6月にトルコからシリアへ、正規の入国手続を経ずにそれぞれ入国しており、さらに、 れるかについて検討する。 イ原告は、平成24年6月にレバノンからシリアへ、同年7月にシリアからトルコへ、平成27年6月にトルコからシリアへ、正規の入国手続を経ずにそれぞれ入国しており、さらに、平成30年10月にトルコから入国禁止措置を課されている(認定事実⑵イ、エ、上記3)。そうす ると、トルコはもとより、トルコと地理的に近接する国への原告の渡航を我が国が許せば、原告が当該国を経由して正規の入国手続を経ずにトルコに入国することが考えられ、原告を入国禁止とすることで守ろうとしたトルコの利益が害されるおそれが生じる。したがって、トルコ及びトルコと地理的に近接する国については、これらの国に原告が渡航する ことにより、トルコと我が国との二国間の信頼関係が損なわれる蓋然性がないとは認められない。 ウ他方において、トルコ及びトルコと地理的に近接する国を除く地域については、同地域に原告が渡航したとしても、トルコと我が国との二国間の信頼関係が損なわれる蓋然性はないと認めるのが相当である。 すなわち、原告は、平成27年6月に正規の入国手続を経ずにシリアに入国し、その後約3年4か月間にわたって武装組織から身体拘束を受け、その間、我が国のほか、トルコ政府、カタール政府、その他の関係機関が原告の解放に向けて様々な活動を行っており(認定事実⑵エ、⑶ア)、それらに要した人的物的コストは多大なものであったということは できる。 しかし、原告は紛争地域での取材経験を多く有する者であって(認定事実⑴、⑵ア、イ)、従来の人脈を伝手にシリア国内の情報収集を行い、危機発生時の対策も行った上で、シリアに入国したものであるから(認定事実⑵エ)、紛争地域への原告の渡航を我が国が許したとしても、原告が再度テロ組織等から身体拘束を受 手にシリア国内の情報収集を行い、危機発生時の対策も行った上で、シリアに入国したものであるから(認定事実⑵エ)、紛争地域への原告の渡航を我が国が許したとしても、原告が再度テロ組織等から身体拘束を受け、テロ組織等と対峙する諸外国へ の対応手段に利用される可能性が高いということはできない。また、原告がシリアに入国した目的は、シリアの反政府組織の実態を再度取材するためであって、前回の取材時の内容は、シリア政府軍が民間施設を無差別攻撃していることを示すという価値のあるものであったから(認定事実⑵ア、イ、エ)、紛争地域への原告の渡航を我が国が許すことが、仮 に、原告が再度テロ組織等から身体拘束を受け、テロ組織等と対峙する諸外国への対応手段に利用されることにつながり得るものであったとしても、そのことをもって、トルコと我が国との二国間の信頼関係を損なうものになるとはいい難い。 そして、そのほか、トルコ及びトルコと地理的に近接する国を除く地 域に原告が渡航することによって、トルコが原告を入国禁止とすることで守ろうとした利益が害されるおそれが生じるということもできない。 エ被告は、次のとおり、本件旅券発給処分の適法性を根拠づける事実について主張するが、いずれも上記ウの判断を左右するものにはならない。 すなわち、原告は、平成22年10月の旅券申請時に、過去に旅券の 発給を受けたことがあったにもかかわらず、旅券の発給を受けたことがない旨申告しているものの(認定事実⑴エ、乙1)、原告のこの行為が計画的なものであったとは認められず、原告は、その後の申告では同様の行為をしていない。 また、原告は、平成24年8月にトルコに不法入国したことを理由に 罰金を支払うことになった際、法律を遵守しなかったのは取材目的であ は、その後の申告では同様の行為をしていない。 また、原告は、平成24年8月にトルコに不法入国したことを理由に 罰金を支払うことになった際、法律を遵守しなかったのは取材目的であ り、やむを得ないものであったとSNSに投稿しているものの(認定事実⑵イ、乙5)、社会法規一般に従う意思がない旨を表明しているわけではない。 原告は、平成24年8月にトルコから入国禁止措置を受けたにもかかわらず、平成26年2月の旅券申請時にトルコを含め入国拒否をされた ことがない旨申告し、同年4月には当該入国禁止措置に反してトルコへの入国を試みているものの、これは入国禁止措置の期間の終期を明確に認識していなかったからである(認定事実⑵ウ)。また、原告は、平成31年1月の本件旅券発給申請の際、トルコから入国禁止措置を受けていたにもかかわらず、トルコを含め外国で入国拒否をされたことがない旨 申告しているものの、これは、トルコから入国禁止措置を受けているとの認識がなかったからである(認定事実⑷ア)。 このように、原告には、紛争地域において取材活動を行う場合に限っては、各国の出入国管理法規を軽視する傾向が認められるものの、このことをもって、原告が、自ら進んで各国の社会的平穏や安全保障環境に 不利益を与える行為をする可能性があるということはできない。 オ以上のとおり、トルコ及びトルコと地理的に近接する国については、原告が渡航することによって、トルコと我が国との二国間の信頼関係が損なわれる蓋然性がないとはいえないが、トルコ及びトルコと地理的に近接する国を除く地域については、原告が渡航することによって、トル コと我が国との二国間の信頼関係が損なわれる蓋然性はないというべきである。 ⑶ まとめ本件旅券発給拒否処分は、トルコ及 近接する国を除く地域については、原告が渡航することによって、トル コと我が国との二国間の信頼関係が損なわれる蓋然性はないというべきである。 ⑶ まとめ本件旅券発給拒否処分は、トルコ及びトルコと地理的に近接する国を除く地域に原告が渡航することによって、トルコと我が国との二国間の信頼 関係が損なわれる蓋然性がないにもかかわらず、これらの地域への渡航を 制約する態様でされたものであるから、外務大臣が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用してしたものといわざるを得ず、違法である。 したがって、本件旅券発給拒否処分は、憲法22条、13条及び自由権規約12条2項に違反するか否かについて検討するまでもなく、取り消されるべきものである。 6 争点⑹(全ての地域を渡航先として記載した一般旅券の発給処分の義務付けの訴えの適法性及び同義務付けの可否)について⑴ 訴えの適法性本件旅券発給拒否処分は取り消されるべきものであるから、全ての地域を渡航先として記載した一般旅券の発給処分の義務付けを求める原告の訴 えは適法である。 ⑵ 義務付けの可否上記5で説示したとおり、トルコ及びトルコと地理的に近接する国に原告が渡航することによって、トルコと我が国との二国間の信頼関係が損なわれる蓋然性はないとはいえないから、本件旅券発給拒否処分は、トルコ 及びトルコと地理的に近接する国への渡航を制約する点において、外務大臣が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用してしたものということはできない。 そうすると、外務大臣が全ての地域を渡航先として記載した一般旅券の発給処分をしないことがその裁量権の範囲を超え、又はその濫用に当たる (行政事件訴訟法37条の3第5項)とは認められない。そして、この判断は、自由権規約12条 を渡航先として記載した一般旅券の発給処分をしないことがその裁量権の範囲を超え、又はその濫用に当たる (行政事件訴訟法37条の3第5項)とは認められない。そして、この判断は、自由権規約12条2項の解釈によっても左右されない。 よって、外務大臣に対し、全ての地域を渡航先として記載した一般旅券の発給処分をすべき旨を命ずることはできない。 7 争点⑺(トルコ以外の全ての地域を渡航先として記載した限定旅券の発給 処分の義務付けの訴えの適法性及び同義務付けの可否)について ⑴ 訴えの適法性限定旅券制度は、旅券法の平成元年改正において、ある国から入国禁止とされた者による旅券発給申請に対して、全面的な発給拒否しかできない場合の不都合に対する立法的手当てとして導入されたものである(上記4⑵カ第4段落)。 また、旅券法13条1項各号のいずれかに該当する者が旅券発給申請をした場合、外務大臣等は、渡航先を全ての地域とする一般旅券を発給するか、渡航先を個別に特定した限定旅券を発給するか、一般旅券の発給を拒否するかのいずれかを選択しなければならないところ、同項の文言上、外務大臣等が、限定旅券を発給するか、一般旅券を発給しないかについて特 段の優劣は付けられていない。 そうすると、旅券法は、一般旅券の発給申請は限定旅券の発給申請を含むものとして位置付けていると解するのが相当である。したがって、限定旅券の発給処分の義務付けの訴えは、いわゆる申請型義務付け訴訟に該当するというべきである。 そして、本件旅券発給申請に対して、外務大臣は、限定旅券を発給することなく、本件旅券発給拒否処分をしているところ、同処分は取り消されるべきものであるから、トルコ以外の全ての地域を渡航先として記載した限定旅券の発給処分の義務付けを 、外務大臣は、限定旅券を発給することなく、本件旅券発給拒否処分をしているところ、同処分は取り消されるべきものであるから、トルコ以外の全ての地域を渡航先として記載した限定旅券の発給処分の義務付けを求める原告の訴えは適法である。 ⑵ 義務付けの可否 上記6で説示したとおり、本件旅券発給拒否処分は、トルコ及びトルコと地理的に近接する国への渡航を制約する点において、外務大臣が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用してしたものということはできない。 そうすると、外務大臣がトルコ以外の全ての地域を渡航先として記載した限定旅券の発給処分をしないことがその裁量権の範囲を超え、又はその 濫用に当たる(行政事件訴訟法37条の3第5項)とは認められない。そ して、この判断は、自由権規約12条2項の解釈によっても左右されない。 よって、外務大臣に対し、トルコ以外の全ての地域を渡航先として記載した限定旅券の発給処分をすべき旨を命ずることはできない。 8 争点⑻(国賠法1条1項に基づく損害賠償請求の可否)について原告は、令和元年7月12日に本件旅券発給拒否処分に係る通知書を受け取って いる(前提事実⑵)。 消滅時効の起算点となる「損害及び加害者を知った時」とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するところ(最高裁昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)、原告は、上記通知書を受け取ることで、本件 旅券発給拒否処分の内容を認識することができ、それにより国賠法1条1項に基づく損害賠償請求が可能な程度に加害者及び損害を知ったというべきである。また、原告が上記通知書を受け取った当時に当然その発生を予見することが可能 内容を認識することができ、それにより国賠法1条1項に基づく損害賠償請求が可能な程度に加害者及び損害を知ったというべきである。また、原告が上記通知書を受け取った当時に当然その発生を予見することが可能であったものを除く損害が、その後に原告に発生していると認めるに足りる証拠はない。 そして、原告の国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権については、同損害賠償 請求訴訟を併合提起した令和4年12月1日より前である同年7月12日の経過により消滅時効が完成したというべきところ、被告は、令和5年3月2日の本件口頭弁論期日において、この損害賠償債務の消滅時効を援用したものである(当裁判所に顕著な事実)。 したがって、本件旅券発給拒否処分が国賠法上違法であることを理由とする原告 の被告に対する損害賠償請求権は、仮にそれが発生していたとしても、時効により消滅していることが明らかである。 9 結論以上によれば、争点⑷及び⑸について判断するまでもなく、本件旅券発給拒否処分の取消請求は理由があるから認容し、その余の請求は理由がないか らいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官品田幸男 裁判官片瀬亮 裁判官横井靖世
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