【DRY-RUN】主 文 一審被告Aの控訴を棄却する。 原判決(一審被告Aに関する部分)を次のとおり変更する。 一審被告Aは、 一審原告Bに対し金四七五、一二九円及びこれに
主文 一審被告Aの控訴を棄却する。 原判決(一審被告Aに関する部分)を次のとおり変更する。 一審被告Aは、一審原告Bに対し金四七五、一二九円及びこれに対する昭和三〇年八月一七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員、一審原告Cに対し金二三、四〇九円及びこれに対する昭和三一年一月二一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員、一審原告D、同Eに対し各金四八六、八三四円及び内金四七五、一二九円に対する昭和三〇年八月一七日以降、内金一一、七〇四円に対する昭和三一年一月二一日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。 原告らのその余の請求を棄却する。 訴訟費用は、第一審(たゞし、一審原告らと一審被告Aとの間に要した分)及び第二審を通じてこれを二分し、その一を一審原告らの負担とし、その余を一審被告Aの負担とする。 この判決は、一審原告ら勝訴部分に限り、一審原告B、同D、同Eにおいて各金一〇〇、〇〇〇円、同Cにおいて金五、〇〇〇円の担保を供するときは、それぞれ仮に執行することができる。 事実 一、 一審原告ら代理人は、「原判決中一審原告(以下単に原告という)ら敗訴部分を取消す。一審被告A(は、原告D、同Eに対し各金一、一二五、〇〇〇円及びうち金一一〇万円に対する昭和三〇年八月一七日以降、うち金二五、〇〇〇円に対する昭和三一年一月二一日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告Bに対し金一一〇万円及びこれに対する昭和三〇年八月一七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告Cに対し金五万円及びこれに対する昭和三一年一月二一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を各支払え。訴訟費用は第 これに対する昭和三〇年八月一七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告Cに対し金五万円及びこれに対する昭和三一年一月二一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を各支払え。訴訟費用は第一、二審とも被告の負担とする。」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、かつ、「被告の控訴を棄却する。控訴費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告代理人は、「原判決中被告敗訴部分を取消す。原告らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも原告らの負担とする。」との判決を求め、かつ「原告らの控訴を棄却する。控訴費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。 二、 原告ら代理人は、請求原因並びに被告の抗弁に対する主張として、次のとおり陳述した。 (一) 被告は徳島県那賀郡a町大字b字cd番地、同所e番地の田を所有し、農業を営んでいる。右d番地の田の北西隅の畦畔には、訴外四国電力株式会社(一審相被告・以下単に訴外会社という。)所有の農業用動力線引込みのための電柱(以下本件電柱という。)があり、その上部に架設された三本の電線は、被告所有の水揚小屋附近に設置された電柱(以下小柱という。)を通じて同小屋に通じると共に、別に被告が脱穀機械等動力用に使用するため、本件電柱に地上から二、一メートルないし二、四メートルのところに設置されたスイツチボツクスのコンセントに三本の引下線をもつて連絡されていた。 (二) 右スイツチボツクスに連結されていた引下線は、長年月風雨にさらされていたため、スイツチボツクス上部附近において損耗甚だしく、布状の被覆物は破れて殆ど裸線同様の状態であり、かつ右三本の引下線のうち一本は、その張方が弦緩していたためか、線がより合されて突起状のものとなつていた。また、本件電柱には針金の支線一本が施されていたが、その上部にあつ て殆ど裸線同様の状態であり、かつ右三本の引下線のうち一本は、その張方が弦緩していたためか、線がより合されて突起状のものとなつていた。また、本件電柱には針金の支線一本が施されていたが、その上部にあつた碍子は破損して事実上電流絶縁の用をなしていなかつた。 (三) 被告は、前記二筆の田(当時水田)及びその西側に並ぶ水田に早稲を作つていたが、昭和三〇年八月上旬頃、雀威し用として凧(針金で直経六〇センチメートル位の円型の枠を作り、その中に紙を張つたもの)を作り、その両側に針金をつけ、その一方を前記支線の碍子の上部に、他方を本件電柱の西方約三〇メートルのところにある前記小柱の上部にそれぞれ結びつけ、風が吹くとこの凧が揺れるような施設をするとともに、別に前記水田の上方高さ一、五メートル位の空間に細い針金を張りめぐらして雀威しの施設をなし、その針金の一端を本件電柱の支線の碍子より下部に結びつけて柱の用に使用していた。 (四) ところが、右凧のつり方が不完全であつたため、小柱附近より針金が切れて、凧はスイツチボツクス上部の引下線の裸線状態のところまで垂れ下り、自然にスイツチボツクス上部の前記突起状になつていた引下線に引つかつたのか、或は、その頃被告が同所に引つかけたかしたため、凧の枠が引下線の裸線の部分に接触する結果となり、そのため、引下線に流れていた電流は、凧の枠からこれを結んでいた針金を通つて前記支線に伝わり、更に支線の碍子が破損していたため支線の下方に通じ、これに結びつけて前記水田上に張りめぐらしていた雀威しの針金に通じるようになつた。 (五) ところで被告は、昭和三〇年八月一六日午後七時頃、右e番地の水田に入り作業中、同水田上空に張りめぐらされていた雀威しの針金を握つたため、感電してその場に倒れ、更にこれを見た同人の妻が救助するため被告の身 ろで被告は、昭和三〇年八月一六日午後七時頃、右e番地の水田に入り作業中、同水田上空に張りめぐらされていた雀威しの針金を握つたため、感電してその場に倒れ、更にこれを見た同人の妻が救助するため被告の身体に触れたところ、同女も感電してその場に倒れ、両名とも動くことができず、呻きながら必死に助けを求めたところ、同七時二五分頃右水田の北東にある自宅で右助けの声を聞いた訴外亡Fは、救助のため声を頼りに急ぎ右水田の中に入つたが、二、三歩進んだ際、同人も針金に首を引つかけたため感電してその場に倒れ、感電のため同七時三〇分頃死亡した。なお、被告及びその妻は、生命に事なきを得ている。 (六) 右Fの死亡は、本件電柱及びその附属工作物の所有者でありかつ占有者である訴外会社において、工作物の設置保存に瑕疵があり、また訴外会社に過失があつたが、このような瑕疵または過失と競合して、被告においても、次のような工作物の設置保存の瑕疵または過失があつたことに基因するものである。 (イ) 即ち、電気工作物に接触して工作物を設けることは、法令によつて禁止されているところであり、本件の如く、電柱及び支線に接触して電気の良導体である針金で工作物を作ることは、電気がこれに流れやすく、人に危険を及ぼす状態を作りだすおそれがあることは明らかである。しかるに、前記(三)、(四)のとおり、被告は電気工作物に接触して不完全な針金の工作物を設置したのであるから、その設置につき重大な瑕疵があり、被告は、民法第七一七条により、土地の工作物の占有者または所有者として、本件事故による損害を賠償すべき義務がある。 (ロ) 仮に、被告に民法第七一七条による損害賠償義務がないとしても、被告は、引下線には農業用動力使用のための強力な電流が流れており、その電気の力は、人命を殺傷する程危険なものであり、その ある。 (ロ) 仮に、被告に民法第七一七条による損害賠償義務がないとしても、被告は、引下線には農業用動力使用のための強力な電流が流れており、その電気の力は、人命を殺傷する程危険なものであり、その引下線の一部は裸線になつており、かつ支線の碍子もこわれていたのであるから、この支線や電柱を利用して雀威しの凧を張つたり、水田に針金を張りめぐらしたりするときは、何時どんな機会に電流が流れるかも知れない危険があり、このことは、電気知識の普及した今日何人といえども知つていることで、殊に被告は農業用電動機を使用している関係上、その知識をもつてすれば容易に判明するところである。しかるに前記のような雀威しを設置したことは、被告の不注意というほかなく、Fの前記感電死は、被告の右不注意に基づいて発生したものである。 (七) 本件事故により原告らの蒙つた損害及びその額並びに本訴において請求する額は、原審判決書事実摘示中の原告らの請求原因第三、第四項(原審判決書第八枚目の裏第一一行目から同第一一枚目の表第六行目まで)に記載されたところと同一であるから、ここにこれを引用する。 (八) 後記被告の主張及び抗弁はすべて争う。Fに過失があつたとの点は否認する。Fが被告及びその妻を救助に行つた時刻は薄暮で空中に張つた針金は見えない頃であり、被告が倒れていたのは一、二メートル余に生長した稲田の中で、外側からはその姿は全く見えなかつたのであり、Fに感電防止の処置ないし自己防禦の措置を要求するようなことは、到底望み得ない状態であつた。原告ら及び亡Gが被告から金一〇万円を受領したことはあるが、この金員は全部葬式費用に使つたものであり、本訴においては、葬式費用は請求していない。 三、 被告代理人は、答弁並びに抗弁として次のとおり陳述した。 (一) 請求原因(一)記載の事実は認 はあるが、この金員は全部葬式費用に使つたものであり、本訴においては、葬式費用は請求していない。 三、 被告代理人は、答弁並びに抗弁として次のとおり陳述した。 (一) 請求原因(一)記載の事実は認める。 同(二) 記載の事実は、引下線が長年月風雨にさらされていたものであることは認めるが、その他は否認する。 同(三) 記載の事実は認める。 同(四) 記載の事実中凧をつつた針金が小柱附近で切れたことは認めるが、その他は否認する。 同(五) 記載の事実中、事故発生の時刻、被告の妻が感電した状況、Fがf番地の水田に入つて来た動機の点を除き、その余は認める。事故発生の時刻は日没前である。被告の妻は感電したが、間もなく自由になつたので大声で救いを求めた。 同(六) 記載の事実中、訴外会社の占有、所有にかかる本件電柱の設置保存に瑕疵があり、訴外会社に過失があつたとの点は争わないが、その他は全部否認する。 被告の施設した雀威しは、土地に接着する工作物ではないから、民法第七一七条にいう土地の工作物に当らない。仮に、これが土地の工作物に該当するとしても、Fが死亡した原因は、後記のような訴外会社の工作物の設置保存の瑕疵によるか、または被告の工作物の設置保存の瑕疵によるか、いずれか一つであつて、死亡の決定的原因が二個であることはできない。しかるに原告らは民法第七一七条に基づき、被告と訴外会社の双方に対して損害賠償を請求していたものであり、これは原因不定の訴というべく、この点において、原告らの本訴請求は失当である。 被告が設置した雀威しに瑕疵はなく、またこれを設置したことに何らの過失もない。即ち、凧を引張つていた針金は強力なものであり、風の力で切れるようなことは考えられない。針金が切れた原因は不明であるが、小柱附近で切れても、凧の重量と針金の長さの関係 置したことに何らの過失もない。即ち、凧を引張つていた針金は強力なものであり、風の力で切れるようなことは考えられない。針金が切れた原因は不明であるが、小柱附近で切れても、凧の重量と針金の長さの関係から、凧は地上に落ちるのであり、自然に凧がスイツチボツクス附近に引つかかるというようなことはあり得ない。勿論被告がこれを引つかけたものでもない。更に凧がスイツチボツクス附近に引つかつても、引下線の被覆が完全であるならば、凧に電流が通じることはないし、凧に引下線の電流が通じても、本件電柱の支線の碍子が破損せず、絶縁の用をなしていたならば、この電流は田の上空に張つた雀威しの針金に通しなかつたものであり、従つて、本件事故は発生しなかつた。また、雀威しの針金を張りめぐらしたのは被告が耕作していた水田上空であり、被告としては、この水田に他人が入つて来ることなどは、これを予想することができなかつた。このように、本件事故は、何人も予想し得ない偶然の事態が積重つて発生したものであり、被告に過失があるということはできない。本件事故発生は、むしろ、本件電柱及びその附属物の設置保存の瑕疵(スイツチボツクスヘの引下線に破損し易い被覆電線を用い、その被覆が破損していたこと、本件電柱の支線碍子が破損したまま放置されていたこと等)に原因があると考えられるのであり、この工作物の所有者であり占有者である訴外会社に損害賠償の義務があるものというべきである。 請求原因(七)記載の事実中、原告らの親族、相続の関係は認めるが、その余の事実は争う。 (二) 仮に被告の施設した雀威しの設置保存に瑕疵かあつたか或は被告に過失があつたとしても、(イ) Fの死亡は、同人の特異体質によるものである。即ち、引下線に流れていた電流は二〇〇ボルトであり、これが土地に流失することにより実際に雀威し に瑕疵かあつたか或は被告に過失があつたとしても、(イ) Fの死亡は、同人の特異体質によるものである。即ち、引下線に流れていた電流は二〇〇ボルトであり、これが土地に流失することにより実際に雀威しの針金に流れていた電流は五〇ボルト租度であり、この程度の電流では通常の体質者は死亡することはなく、現に被告及びその妻も死亡していない。従つて、Fの死亡は同人の特異体質に基因するものというのほかなく、被告の行為とFの死亡との間に相当因果関係はないものといわなければならない。 (ロ) 被告は、自ら感電の危険に遭難し、呻き声をもつてその危険を一般に警告したのであるから、かかる警告を聞いたFとしては、このような危険な場所から遠ざかるべきであるのに、かえつてその危険の中に身を投じたものであり、また、雀威しは被告所有の水田の中に設置されていたのであるから、その水田には被告またはその使用人以外の者が入ることは考えられない。しかるにFは右のような危険の存在することを知りながら積極的に危険の存在する他人の水田の中に入り、針金に触れて感電死したのであり、本件事故は、Fの右のような通常あり得ないような積極的な行為に基因するものであるから、被告としてはその責任を負い、損害を賠償する義務はない。 (ハ) 仮に被告に損害賠償義務があるとしても、Fにも重大な過失があるから、過失相殺がなされなければならない。即ち、Fは、本件事故の起つた田の南に田を耕作し、日常本件事故発生の田の周囲の道路を通行していたのであるから、被告の設置した雀威しはよく知つており、また、Fが被告及びその妻の救助のために現場に赴いた時は、まだ日没前で見通しのきく時刻であつたから、被告が針金に触れて倒れている様子などから、いかなる事故が起きていたかを十分知り得た筈であり、しかもFが本件水田に入る前に訴外 助のために現場に赴いた時は、まだ日没前で見通しのきく時刻であつたから、被告が針金に触れて倒れている様子などから、いかなる事故が起きていたかを十分知り得た筈であり、しかもFが本件水田に入る前に訴外HがFに危険だから田の中へ入つてはならない旨注意している。Fは、建設業者の現場監督であり、電気の知識もあるのてあるから、被告を救助するにしても、一旦電流を切つて、針金に電気が流れないようにした上で救助に当るべきであつた。しかるに、軽卒にも直ちに田の中に入り不慮の災難に会つたもので、本件事故発生については、Fにも重大な過失があるといわなければならない。そして、被告は、F死亡後、原告らに金一〇万円を見舞金として渡してあるから、Fの右過失を考慮すれば、損害賠償額は右の金員で十分である。 (ニ) 本件事故は前記のように土地の工作物である本件電柱の設置保存の瑕疵にも原因があるのであるから、右工作物の占有、所有者たる訴外会社にも損害賠償責任があるといわなければならない。ところが、原告らは一審裁判において訴外会社に対する損害賠償請求を棄却されるや、これに対して控訴することなく一審裁判を確定させた。もし、第一審判決後、原告らと訴外会社との間に何らかの示談が成立しているならば、その分だけ被告に対する賠償請求額は減額されなければならないし、また、何らの示談もなく、いたずらに原告らが右敗訴判決に服したとするならば、そのこと自体原告らの過失であつて、原告らはこの過失によつて訴外会社から支払いを受けられるべき損害賠償を受けられなくしたというべきである。而して共同不法行為者は各自連帯して損害賠償義務があり、共同不法行為者の内部では求償関係が生じるから、既に原告らの敗訴が確定している訴外会社の負担部分は、被告に対する請求額から控除されるべきであり、従つて、被告に支払義務 各自連帯して損害賠償義務があり、共同不法行為者の内部では求償関係が生じるから、既に原告らの敗訴が確定している訴外会社の負担部分は、被告に対する請求額から控除されるべきであり、従つて、被告に支払義務のある賠償額は、全部の損害の半分が相当である。 四、 証拠は、次に附加するほかは、原判決事実摘示中の第五の証拠摘示に記載と同一であるから、ここにこれを引用する。 原告ら代理人は、当審における証人Iの証言、原告B本人尋問の結果を援用し、乙第二号証の成立を認めると述べ、被告代理人は、乙第二号証を提出した。 理由 <要旨>一、 被告が徳島県那賀郡a町大字b字cd番地及び同所e番地の田を所有し、農業を営んで</要旨>いること、右d番地の田の北西隅の畦畔に訴外四国電力株式会社(以下単に訴外会社という)所有の農業用動力線引込みのための電柱(以下本件電柱という)があり、その上部に架設しである三本の電線は、被告所有の水揚小屋附近に設置された電柱(以下小柱という)を経て同小屋に通じると共に、別に被告が脱穀機械等動力用に使用するため、本件電柱に地上から二、一メートルないし二、四メートルのところに設置されたスイツチボツクス内のコンセントに三本の引下線をもつて連絡されていること、小柱は本件電柱の西方約三〇メートルのところにあること、被告は、前記二筆の田(当時水田)及びその西側に並ぶ水田に早稲を作つており、昭和三〇年八月上旬頃、雀威し用として、凧(針金で直径約六〇センチメートルの円型の枠を作り、その中に紙を張つたもの)を作り、その両側に針金を着け、その一方を本件電柱の支線の碍子の上部に、他方を小柱の上部にそれぞれ結びつけ、風が吹くとこの凧が揺れるような施設をするとともに、別に前記水田の上方一、五メートル位の位置に細い針金を張りめぐらして同じ その一方を本件電柱の支線の碍子の上部に、他方を小柱の上部にそれぞれ結びつけ、風が吹くとこの凧が揺れるような施設をするとともに、別に前記水田の上方一、五メートル位の位置に細い針金を張りめぐらして同じく雀威しの施設をなし、その針金の一端を本件電柱の支線の碍子より下部に結びつけて柱の用に使用していたこと、昭和三〇年八月一六日の夕方頃(その正確な時刻については争いがある)右e番地の水田(d番地の田の南側)に入り作業をしていた被告が、同水田の上方に張りめぐらされていた雀威しの針金を握つたため感電し、その場に倒れ、被告を救助しようとした被告の妻も、被告の身体に触れたところ、同女も感電したこと、その直後、訴外亡Fが右水田内に二、三歩入つたところで、首に雀威しの針金を引つかけたために感電し、同所で感電のために死亡したこと、被告とその妻は、幸い生命に事なきを得たことその当時、雀威しの凧を引張つていた針金が、小柱附近で切れていたことはいずれも当事者間に争いない事実である。 そうして、証人J(原審第一ないし第三回)、同K、同L、同M、同N、同O(以上いずれも原審)の各証言、原審第一ないし第三回検証の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、前記昭和三〇年八月一六日の夕刻頃には、本件電柱に架設されていた電線及びこれよりスイツチボツクスヘの引下線には電流が通じており、この引下線の下部はスイツチボツクスに入る附近において一部被覆が破れて裸線状態になつており、前認定のように小柱附近で針金が切れた凧の円型の枠が右スイツチボツクス附近に引つかかり、この凧の枠と引下線の裸線部分とが接触し、引下線に流れていた電気は、凧の枠、凧を引張つていた針金を通じて本件電柱の支線上部に通じ、更に支線の碍子が破損して絶縁の用を為さなかつたため、支線下部に通じ、そして支線下部に結びつけていた雀 触し、引下線に流れていた電気は、凧の枠、凧を引張つていた針金を通じて本件電柱の支線上部に通じ、更に支線の碍子が破損して絶縁の用を為さなかつたため、支線下部に通じ、そして支線下部に結びつけていた雀威しの針金に通じていたものであり、F並びに被告とその妻は、右雀威しの針金に通じていた電気に感電したものであることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。 二、 以上認定のような事実によると、Fの死亡と被告が前記のように雀威し用の凧及び針金を設置したこととの間に因果関係があるものといわなければならない。勿論、訴外会社の占有、所有にかかる本件電柱の引下線の被覆が完全であり、支線の碍子が破損せず、電気絶縁が完全になされていたならば、本件事故は発生しなかつたであろうといえるけれども、被告の設置した前記雀威しがなかつたならば、本件事故は到底発生しなかつたこと明らかであるから、本件電柱及び引下線の設置保存の瑕疵が本件事故発生の一因をなしていたとしても、そのために、被告が前記のような雀威しを設置したことと本件事故との間に因果関係がないということはできない。 ところで、原告らは、被告が施設した前記雀威し用の凧及び田の上方空間に張りめぐらした針金は、民法第七一七条所定の土地の工作物であると主張するにつき、考察する。右施設は、土地の上方に人工的に作られた物であるから、一見右法条にいう土地の工作物と考えられないこともないが、同法条が土地の工作物の占有者、所有者に対し特に重い責任を負わせている法意は、他人に対して特に危険を及ぼす可能性の多い土地の工作物を占有ないし所有している者に対し、その設置または保存に瑕疵があつたために生じた損害について特別の責任を負わすことが、社会共同生活の理想に適するとの考えによるものと解されるところ、右雀威しの施設は、その物自体が 有している者に対し、その設置または保存に瑕疵があつたために生じた損害について特別の責任を負わすことが、社会共同生活の理想に適するとの考えによるものと解されるところ、右雀威しの施設は、その物自体が他人に危険を及ぼすという可能性は殆どないものと考えられるから、これが占有、所有者である被告に同法条による責任を負わすことは酷に失するものであり、また前記のような雀威しの施設は、その設置状況から見ても、これを同法条にいう土地の工作物と解することは適当でない。従つて原告らの右主張は、採用できない。 次に、原告らは、雀威しが土地の工作物に当らないとしても、本件事故発生は被告の過失に基づくと主張するので、この点について考えるに、現に電気が流れている電気施設に接着して、電気の良導体である針金を用いて本件のような雀威しの施設をすることは、何時どのような原因からこれに電気が流れ、そのために他人に不測の危害を及ぼすことがあるかも知れないのであり、そのようなことは、通常人の注意をもつてすれば、容易に判明するところであるといわなければならない。しかるに、被告は右のような注意義務を怠り、本件電柱に接触させて前記のような雀威しを施設したものであり、これに流れた電気にFが感電して死亡したのであるから、被告の右注意義務の懈怠がFの死亡を招いたものといわなければならず、被告は本件事故による損害を賠償する義務がある。 もつとも、本件事故は、訴外会社の占有所有にかかる本件電柱及びその附属物の設置保存の瑕疵が一つの原因となつたのではないかとの疑があるが、仮に、右瑕疵が本件事故の一因をなしていたとしても、前記のような被告の過失がなかつたならば本件事故は発生しなかつたことは明らかであり、右工作物の瑕疵と被告の過失とが競合して本件事故の原因となつたといわなければならず、このような場 なしていたとしても、前記のような被告の過失がなかつたならば本件事故は発生しなかつたことは明らかであり、右工作物の瑕疵と被告の過失とが競合して本件事故の原因となつたといわなければならず、このような場合においては民法第七一九条のいわゆる共同不法行為が存するものと解するのが相当であり、同法条により、被告は訴外会社と連帯して責任を負担することになり、被害者に対しては、その損害全額を賠償すべき義務があることに変りはない。 三、 ところで、本件事故は、凧を引張つていた針金が切れ、凧が本件電柱のスイツチボツクス附近に引つかかつたために発生したものであることは、前記認定の通りであるところ、被告は、右凧を引張つていた針金は、風力などでは切れないものであり、切れたとしても、凧が右スイツチボツクス附近に引つかかるというようなことは全く予測し得ないところであるから、被告が本件雀威しを施設したことに過失があるということはできないと主張する。証人M、同O(いずれも原審)の各証言、被告本人(原審)尋問の結果によると、凧を引張つていた針金は、太さ一ミリメートル位の新しい鉄線で強力なものであつたことが認められ、また、これが切断した原因については、これを明らかにするに足る証拠もなく、更に、右の線が切れた後、凧が本件電柱のスイツチボツクスに引つかかつた原因については、本件口頭弁論に現われた全証拠によつてもこれを明らかにすることはできない。しかしながら、右のような点が明確に認定できなくても、また、仮に凧を引張つていた針金の切断、凧がスイツチボツクスに引つかかつたことが、第三者の行為によるものであつたとしても、被告が、電気設備に接触して本件のような雀威しの施設をしなかつたならば、本件事故の発生を防止できたものであることは、多言を要しないところであるから、被告の右主張は理由が によるものであつたとしても、被告が、電気設備に接触して本件のような雀威しの施設をしなかつたならば、本件事故の発生を防止できたものであることは、多言を要しないところであるから、被告の右主張は理由がない。また被告は、本件雀威しの針金を張りめぐらした水田は、被告の所有占有にかかるところであるから、他人が侵入するというようなことは予測できなかつたというが、他人といえども何らかの理由で水田内に入ることもあり得るわけであるから、そのような者に対して危険を及ぼすような施設をすることは、被告に過失があつたといわなければならず、被告の右主張も採用の限りでない。 更に、被告は、本訴請求の原因が不特定であるというが、原審において、原告らは、訴外会社に対する工作物の設置保存の瑕疵と被告の過失とが競合して本件事故が発生したものと主張し、右両者に対し損害賠償を請求していたのであり、右の主張自体が請求原因の不定といいえないことは勿論であり、弁論の全趣旨からして、原告らの被告に対する請求の原因は特定していると認められるから、被告の右主張も理由がない。 四、 次に、被告は、本件事故について仮に被告に過失があつたとしても、本件事故は、(イ)Fの特異体質に基因するものであり、(ロ)Fが被告及びその妻の警告を無視して被告所有の水田内に侵入したために発生したものであるから、被告に損害賠償の責任はなく、(ハ)また、本件事故発生については、Fにも過失があるから、損害額算定については、過失相殺がなされるべきである、と主張する。 右(イ)の点については、Fが特異体質であつたと認められる証拠もなく、かえつて、証人P、同L(いずれも原審)の各証言、原告B本人(原審及び当審)尋問の結果によると、Fは特異体質でなかつたことが認められる。本件水田上空の雀威しの針金に触れた被告及びその妻が 拠もなく、かえつて、証人P、同L(いずれも原審)の各証言、原告B本人(原審及び当審)尋問の結果によると、Fは特異体質でなかつたことが認められる。本件水田上空の雀威しの針金に触れた被告及びその妻が死をまぬがれ、Fのみが死亡した結果にはなつたけれども、前認定のように、Fは首に針金を引つかけたのに比べ、被告は手を電線に触れた程度であること等を考えると、右のような結果のみから、Fが特異体質であつたと断ずることはできない。 右(ロ)及び(ハ)の点については、なるほど、既に被告が雀威しの針金に触れて感電し、呻き声をあげていたような危険な場所に、何ら防護の措置を採ることなく入つて行くというようなことは、通常あり得ないところである。しかしながら、Fが被告の呻き声が感電による苦痛から発せられていると知つていたかどうかは頗る疑問であり、前記J証人(第二、第三回)及びK証人の各証言によると、本件事故発生当時は、既に夕暮れであつて、水田の上空に張られていた針金などは、急には気付かない程であつたと認められ、また証人I(原審及び当審)の証言、原告B本人(原審及び当審)の供述によれば、本件事故が発生した水田は、F方の近くではあつたが、当時、FはIの経営する土木建築業に従事しており、自宅に居ることは少く、右水田の状況等はあまり良く知つていなかつたと認められるのであり、このような点と、他人が苦痛による呻き声をあげている場合に、これを救助するために(Fが被告を救助するために水田に入つたものであることは、原告B(原審)本人の供述及び弁論の全趣旨により認められる。)行動しようとするような非常緊急の場合において、通常の場合のように周囲の状況を周到に調べて行動することを要求するのは無理なことであり、Fが右水田に入つたことをもつて、本件事故がF自らの行動に基因するとの非難の当 るような非常緊急の場合において、通常の場合のように周囲の状況を周到に調べて行動することを要求するのは無理なことであり、Fが右水田に入つたことをもつて、本件事故がF自らの行動に基因するとの非難の当らないことは勿論、Fに過失があつたということは、相当でない。被告の右主張はいずれも採用できない。 五、 そこで、被告の賠償すべき損害額について考える。 (一) 成立に争いない甲第一号正の一、証人I(原審及び当審)、同Q(原審)の証言及び原告B本人(原審及び当審)尋問の結果を綜合すると、Fは本件事故による死亡当時三七才六ケ月余の健康な男子であり、大工としての技術をもち、主として土木建築請負業を営んでいる実兄Iに現場監督として雇われ、日給金六〇〇円で年間二五〇日程度働くかたわら、農繁期には春秋各三〇日位年間六〇日程度養父亡Gが経営していた農業に従事し、一日金六〇〇円相当の収入をあげ、結局年間金一八六、〇〇〇円の収入があつたと認められ、右認定を動かすに足る資料はない。而して原告らが農業経営を基礎として、農業経営上の収入によりFの収入額を算出主張する部分は、原告B本人(原審及び当審)の供述により、Fは農業経営の主体でないことが明らかであるから、採用できず、またFの現場監督としての前認定以外の特別報酬等に関する原告らの主張も、証人I(原審及び当審)の証言、原告B本人(原審及び当審)の供述等のみによつては、未だこれを認定するに充分でなく、他にこれを認めるに足る証拠もないから、採用しない。なおFの生活費については、その額を認定できる明確な証拠がないが、原告B本人(原審及び当審)の供述、右供述から窺えるR家の生活程度その他諸般の状況から、Fの死亡当時、その生活費は、一ケ月金八、〇〇〇円、年間金九六、〇〇〇円と認めるのが相当であり、これを左右するに足るような 原審及び当審)の供述、右供述から窺えるR家の生活程度その他諸般の状況から、Fの死亡当時、その生活費は、一ケ月金八、〇〇〇円、年間金九六、〇〇〇円と認めるのが相当であり、これを左右するに足るような証拠もない。(原告B本人(原審)の供述の中に、Fの生活費は一ケ月一万円程であつた旨の供述部分があるが、これは、同本人の当審における供述と対比して、そのまま信用することはできない。)Fの可働年数については、同人の死亡時に近接した厚生省第九回生命表によれば、三七才六ケ月余の健康な男子の平均余命は三一年余であり、前認定程度の労働ならば、少くとも六〇才に達するまで、即ち、本件事故後二二年間は従前どおり可働し、同程度の収入をあげえたであろうことは、経験則上明らかであるから、右年間収入金一八六、〇〇〇円から年間生活費金九六、〇〇〇円を差引いた年間の得べかりし利益金九〇、〇〇〇円に可働年数二二年を乗じた金額がFの得べかりし利益となり、その現価は、ホフマン式計算法により民法所定の年五分の割合による中間利益を控除した金一、三一二、二〇六円となる(佐藤信吉教授著「年金的利益の現在価格をホフマン法によつて求めるための数値表」(法曹時報一一巻二号所掲)により計算する。)。右金額がFが死亡により喪失した得べかりし利益中、即時に請求できる額であるというべきであり、原告BがFの妻、原告D及び同EがFの子であつて、いずれもFを相続したことは当事者間に争いないから、右原告らは、相続分(各三分の一)に従い、Fの被告に対する右損害賠償債権を承継取得し、被告に請求できる財産上の損害額は、各金四三七、四〇二円というべきである。 (二) 次に、原告らが請求する慰藉料について考えるに、訴外亡GがFの養父で、原告BがFの妻、原告D、同EがいずれもFの子であることは、当事者間に争いがなく、 金四三七、四〇二円というべきである。 (二) 次に、原告らが請求する慰藉料について考えるに、訴外亡GがFの養父で、原告BがFの妻、原告D、同EがいずれもFの子であることは、当事者間に争いがなく、成立に争いない甲第六号証、証人Q(原審)の証言、原告B本人(原審及び当審)の供述並びに弁論の全趣旨を綜合すると、亡Gは田畑一町一反余を所有耕作し、原告Bがこれを助け、農業経営上の収入と、Fの現場監督としての前記収入とを合せて、G及び原告ら一家は、安定した生活を送つていたところ、Fの急死に会い、G及び原告らは、いずれも筆舌に尽し難い精神的苦痛を蒙つたこと、一方、被告は、一町三反歩の田畑を所有耕作し、安定した生活を営んでいることを認めることができる。これらの事実に、前記認定の被告の過失の程度、その他本件に顕われた諸般の事情を綜合考察すると、慰藉料の額は、Gに対しては金五〇、〇〇〇円、原告B、同D、同Eに対しては各金七〇、〇〇〇円宛をもつて相当と認める。 (三) 被告は、損害額認定については、Fの過失を斟酌すべきであるというが、この主張の採用できないことは前記四において説示したとおりであり、また、被告は、本件事故は訴外会社と被告の共同不法行為に因るものというべきであるから、被告の支払義務は、全損害額の半額が相当であると主張するが、仮に本件事故が訴外会社と被告の共同不法行為により発生したとしても、被告としては、民法第七一九条により連帯責任があるわけであるから、原告らに対しては損害全額の支払義務があることは、多言を要しないところである。 (四) 被告が本件事故に関し、見舞金として金一〇〇、〇〇〇円をG並びに原告B、同D、同Eらに支払いをし、G並びに右原告らかこれを受領したことは、原告らの自認するところである。原告らは、右金員はFの葬式費用に使つたとい 故に関し、見舞金として金一〇〇、〇〇〇円をG並びに原告B、同D、同Eらに支払いをし、G並びに右原告らかこれを受領したことは、原告らの自認するところである。原告らは、右金員はFの葬式費用に使つたというが、これを認めるに足る証拠もない。そうして、他に特段の事情も認められないから、右金員は、被告の損害賠償債務の一部に、G並びに前記三名の原告らの各債権額の割合に応じて弁済に充てられたと解すべく、右各債権額の割合により計算すれば、原告B、同D、同Eの分は各金三二、二七三円、Gの分は金三、一八一円になり、右金額がそれぞれ弁済に充当されたというべきである。そうすると、原告B、同D、同Eの請求し得べき損害額は、いずれも前認定の損害額から右充当金額を差引いた金四七五、一二九円であり、同様にGの請求し得べき損害額は、金四六、八一九円となる。 その後Gが昭和三五年六月三日死亡し(記録中の除籍謄本参照)、原告C(Gの長男亡Sの長女)が二分の一、同D、同E(いずれもGの養子亡Fの子)が各四分の一宛の割合で、Gの代襲相続をしたことは、当事者間に争いがないから、前記Gの損害賠償請求債権額に対し、原告Cは金二三、四〇九円(円末満切捨)、同D、同Eは各金一一、七〇四円(円末満切捨)宛相続したことになる。 (五) 右説示のとおりであるから、被告は、損害賠償として、原告B、同D、同Eに対し各金四七五、一二九円及びこれに対する本件損害発生の日の翌日である昭和三〇年八月一七日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金並びに原告Cに対し金二三、四〇九円、同D、同Eに対し各金一一、七〇四円及び右各金員に対する右各原告らの請求する限度である昭和三一年一月二一日(記録上本件訴状送達の日の翌日と認められる。)以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う 金一一、七〇四円及び右各金員に対する右各原告らの請求する限度である昭和三一年一月二一日(記録上本件訴状送達の日の翌日と認められる。)以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、原告らの請求は、右の限度において理由があるから認容できるが、その余の分は失当として棄却を免れない。 六、 よつて、原告らの本件控訴は一部理由があるから、民事訴訟法第三八六条に則り、原判決を本判決主文第三、第四項のとおりに変更し、被告の本件控訴は理由がないことに帰するから、同法第三八四条第一項に則りこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、同法第九六条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき、同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官浮田茂男裁判官水上東作裁判官石井玄)
▼ クリックして全文を表示