◆H16.9.14 松山地方裁判所平成13年(ワ)第1112号損害賠償請求事件判決主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して,7213万2108円及びこれに対する平成14年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して,1803万3027円及びこれに対する平成14年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは,原告Cに対し,連帯して,1803万3027円及びこれに対する平成14年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は被告らの負担とする。 5 第1ないし3項につき仮執行宣言。 第2 事案の概要本件は,平成13年7月13日に37歳で死亡したDの夫及び父母である原告らが,当時Dに対して不妊治療を施行していた被告医療法人E産婦人科医院(以下「被告医院」という。)と担当医師である被告Fの検査義務違反等によってDの卵巣過剰刺激症候群(以下「OHSS」という。)が重症化し,これによってDが死亡したとして,被告らに対し,債務不履行に基づく損害賠償として,逸失利益,慰謝料等合計1億0819万8162円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 第3 争いのない事実 1 当事者(1) 原告Aは,Dの夫である。原告BはDの実父,原告CはDの実母である。 (2) 被告医院は,肩書地でE産婦人科を開設して医業を営んでいるものである。なお,E産婦人科は日本産婦人科学会の体外受精登録施設である。 (3) 被告Fは,本件当時不妊治 ある。 (2) 被告医院は,肩書地でE産婦人科を開設して医業を営んでいるものである。なお,E産婦人科は日本産婦人科学会の体外受精登録施設である。 (3) 被告Fは,本件当時不妊治療をE産婦人科において直接行った医師であり,現在は肩書地で開業している。なお,被告医院の代表者理事長は,被告Fの実父である。 2 E産婦人科で診療を受けるまでの経緯(1) Dは,昭和38年10月8日に出生し,原告Aと昭和63年2月14日に結婚したが,子供に恵まれなかった。D及び原告Aは,平成10年6月から同年12月にかけて愛媛県立今治病院(以下「今治病院」という。)において人工授精を何回か試みたがうまくいかなかった。 (2) Dは,平成12年11月20日,不妊治療を目的に愛媛大学医学部附属病院(以下「愛大病院」という。)の産婦人科(以下「愛大産婦人科」という。)を受診し,当時愛大産婦人科に勤務していた被告Fが担当となって診察をした。 (3) D及び原告Aは,平成12年12月14日,体外受精治療の希望者を対象とした愛大産婦人科で実施された説明会及び意見交換会に出席した。同説明会では,愛大産婦人科の医師によってスライドを用いた説明が行われた。 (4) Dは,平成12年12月18日,被告Fの診察を受け,その際,被告Fに対し,D及び原告Aが署名,捺印した体外受精胚移植法実施同意書を渡した。 3 E産婦人科における診療(1) 平成13年6月11日被告Fは,平成13年3月末で愛大病院を退職し,その後被告医院に在籍していたが,同年6月11日,D及び原告AはE産婦人科において,被告Fのもとで体外受精胚移植法による不妊治療を受けることとした。 Dは,同日,E産婦人科で被告Fの診察を受けた。被告Fは,ナサニール(G ,同年6月11日,D及び原告AはE産婦人科において,被告Fのもとで体外受精胚移植法による不妊治療を受けることとした。 Dは,同日,E産婦人科で被告Fの診察を受けた。被告Fは,ナサニール(GnRHa)を処方した。 (2) 平成13年6月17日から同月22日までDは,平成13年6月17日から同月22日まで,被告Fの紹介と指示に基づいて,G病院においてhMG(フェルチノーム,ヒュメゴン)製剤の注射投与を受けた。 (3) 平成13年6月23日Dは,平成13年6月23日,被告Fの指示に基づいて,G病院において,hCG製剤の筋注投与を受けた。 (4) 平成13年6月25日被告Fは,平成13年6月25日,E産婦人科において,Dに対し,採卵術を施行した。 (5) 平成13年6月27日Dは,平成13年6月27日,採卵後の経過観察のため,E産婦人科を受診した。この日,経膣超音波検査が行われたが,卵巣サイズは89.3mm×79.8mmであった。なお,当日のカルテには「mildOHSS」との記載がある。 (6) 平成13年6月28日被告Fは,平成13年6月28日,E産婦人科において,Dの子宮内へ受精卵を移植した。また,Dに対してhCG製剤を投与した。この日,Dにつき血液一般検査が行われ,白血球9500,ヘモグロビン12.5g/dl,ヘマトクリット値40パーセントであった。 (7) 平成13年7月2日被告Fは,平成13年7月2日,Dに対してhCG製剤を投与した。この際,Dからは,首が回らないとの訴えがあった。 (8) 平成13年7月5日被告Fは,平成13年7月5日,Dに対してhCG製剤を投与した。また,この際にDから上記同様の訴えがあったことから,被 らは,首が回らないとの訴えがあった。 (8) 平成13年7月5日被告Fは,平成13年7月5日,Dに対してhCG製剤を投与した。また,この際にDから上記同様の訴えがあったことから,被告Fは,Dに整形外科を受診させた。 4 Dの容体悪化(1) Dは,平成13年7月7日,放心状態,嘔吐などがあったことから,救急車でG病院に運ばれた。その後,Dは今治病院に搬送され,脳静脈洞血栓症を原因とする脳梗塞(出血性梗塞)を起こしていると診断された。 (2) Dは,平成13年7月13日,肺梗塞の合併症を起こして危篤状態となり,同日午後10時10分,今治病院において死亡した。 第4 争点 1 検査義務違反(被告らの責任原因1)(1) 原告らの主張ア不妊治療においてOHSSが認められるときは,その重症化を十分考慮に入れて,卵巣腫大の有無や腹水貯留の有無,血液濃縮の有無等をチェックするために,超音波検査,血液検査を中心とした各種検査を実施すべき注意義務がある。 イ本件においては,平成13年6月25日の段階で多数の卵胞が生じており,過排卵処置としては過剰であった可能性が高いこと,同月27日には右卵巣サイズが89.3mm×79.8mmと腫大しており,15mmを超える嚢胞が多数確認されていること,同月28日の血液一般検査においてヘマトクリット値40パーセントと血液濃縮のおそれがある状況を示していたことが認められるのであって,Dの状況はOHSSの重症度分類の中等症に当てはまるものであった。被告F自身,同月27日のカルテに「mildOHSS」と記載しており,OHSSの重症化を警戒していたことが明らかである。 さらに同年7月2日には,経腹超音波検査の写真(乙A1p8)によれば,右卵巣は約120mm×約75 mildOHSS」と記載しており,OHSSの重症化を警戒していたことが明らかである。 さらに同年7月2日には,経腹超音波検査の写真(乙A1p8)によれば,右卵巣は約120mm×約75mmに,子宮は110mm×50mm程度に肥大化しており,肥大化した卵胞の存在(上記写真中央付近の黒く写った丸い像)も認められた。また,Dから強い頸部痛があるとの訴えがあったところ,これは血圧の上昇,脳圧亢進によるものと考えられ,血栓形成を十分に予想できる状況にあった。 他方,Dに腹水が生じていなかったことを示す根拠はない。 被告らは,右卵巣サイズが66mm×41mmと縮小していたと主張するが,誤りである。また,被告らは,上記写真中の木の葉状の陰影は子宮内膜であると主張するが,これは子宮以外の部分にたまたま反射によって写った形状にすぎない。 なお,卵巣のサイズを経腹超音波検査による写真1枚から正確に判断するのは困難である。 ウこのような状況においては,被告Fは,遅くとも平成13年7月2日までには,一定の腹水の貯留を予想して慎重な超音波検査を実施し,血液濃縮を疑って血液検査を実施する注意義務を負っていた。 にもかかわらず,被告Fは,同日に経腹超音波検査を実施したのみでより正確を期した経膣超音波検査を行わず,血液検査についても同年6月28日に1回行ったのみでそれ以降実施しないなど,漫然と上記検査義務を怠ったままhCG製剤の投与を続けた。 (2) 被告らの主張ア不妊治療においてOHSSが認められるときは,その重症化を十分に考慮に入れて慎重に対応すべき注意義務があることは認めるが,OHSSの重症度の程度に応じて,医師の尽くすべき注意義務の内容,程度は異なる。すなわち,OHSSは通常,軽症, るときは,その重症化を十分に考慮に入れて慎重に対応すべき注意義務があることは認めるが,OHSSの重症度の程度に応じて,医師の尽くすべき注意義務の内容,程度は異なる。すなわち,OHSSは通常,軽症,中等症,重症,最重症などに分類されるが,このうち軽症は臨床的には問題がなく,経過観察のみで足り,中等症では外来管理,重症以降ではじめて入院管理が必要となる。 イ被告FがDに対して実施した各種検査及びその際のDの状態は以下のとおりである。 ・平成13年6月27日(採卵後2日目)被告Fは問診を行ったがDからは特に体調不良の訴えはなかった。経膣超音波検査を実施したところ,右卵巣サイズはやや大きめ(89mm×79mm)であったが,卵胞内に累々と体液が貯留した嚢胞化の所見はなく,OHSSが発症した場合の腫大の仕方とは明らかに異なっていた。また,腹水は認められず,明らかな細胞膜,血管透過性の亢進を示唆する超音波所見は認められなかった。この日の所見は,卵巣サイズの項目以外は軽症にも当てはまらないものであった(なお,当日のカルテの「mildOHSS」の記載は,Dに軽度のOHSSが発症していたことを示すものではなく,単に卵巣サイズがやや大きめであったことを示すにすぎないものである。)。 ・平成13年6月28日(採卵後3日目)本人からは特に体調不良の訴えはなく,経腹超音波検査にても右卵巣サイズは前日と同様であり,腹水貯留も認められなかった。また,この日ルーチン検査(スクリーニングとして被告Fが通常行っている検査)として血液一般検査を行ったが,白血球9500,ヘモグロビン12.5g/dlであり,ヘマトクリット値も40パーセントと成人女性の正常範囲(35パーセントから45パーセントまで)内であり,血液濃縮所見 として血液一般検査を行ったが,白血球9500,ヘモグロビン12.5g/dlであり,ヘマトクリット値も40パーセントと成人女性の正常範囲(35パーセントから45パーセントまで)内であり,血液濃縮所見は見られなかった。この日の所見も,卵巣サイズと白血球数の項目以外は軽症にも当てはまらないものであった。 ・平成13年7月2日(採卵後7日目)経腹超音波検査によると,右卵巣サイズは66mm×41mmと縮小しており(子宮サイズは80mm×50mmで腹側に前屈している。原告らが卵胞と主張する部分は黄体と考えられる。),子宮後方のダグラス窩にも病的腹水は存在せず,OHSSの進行を示す所見はない。なお,子宮,卵巣等の観察については経腹超音波法で十分可能であり,腹水貯留の有無を確認するには,腹腔内全体をくまなく観察することのできる経腹超音波法が適している。 この日,Dから首が回りにくいとの訴えがあったが,神経学的な異常は認められなかった。 ・平成13年7月5日(採卵後10日目)超音波検査の所見は平成13年7月2日と同様であった。また,この日も頸部の緊張が続いているとの訴えがあったため,被告Fは整形外科の受診を勧め,Dは同日H整形外科を受診した。同整形外科から被告医院に対して,神経学的な所見はないとの連絡を受けている。この日の所見でもOHSSを疑わせる所見はない。 ウ上記のとおり,DのOHSSの重症度は,軽症にも満たない状態であったため,治療は特に必要なく,外来での経過観察で管理可能であるが,中等症,重症への進展を早期発見するため,採卵後は2日ないし4日の間隔で,遠方ではあったが通院してもらい,問診,超音波検査,血液検査を行っている。なお,超音波検査においては,卵胞数が多くサイズの大きい 症,重症への進展を早期発見するため,採卵後は2日ないし4日の間隔で,遠方ではあったが通院してもらい,問診,超音波検査,血液検査を行っている。なお,超音波検査においては,卵胞数が多くサイズの大きい右卵巣側に重点をおいて写真記録を行っているが,左側の卵巣状況,腹水の検索等も慎重に行っている。その上で,被告Fは,hCG製剤の投与を続けたのであって,その処置等には何ら問題はない。 2 説明義務違反(被告らの責任原因2)(1) 原告らの主張被告Fは,本件の不妊治療に入る前,D及び原告Aに対し,採卵・排卵誘発に伴うOHSSの発症,血栓症の危険性について同人らに認識させるに十分な具体的説明をすべき注意義務があった。 にもかかわらず,被告Fは,愛大産婦人科において一般的な不妊治療の危険性,副作用の説明を5分弱しただけで,個別にD及び原告Aに対して,Dの健康状態をもとにした不妊治療の危険性,副作用の説明を行わず,また,被告医院宛の同意書もとらず,D及び原告Aにその危険性を認識させることなく不妊治療を回避する選択肢を示さなかった。 (2) 被告らの主張否認もしくは争う。以下のとおり,被告Fは十分な説明を行った。 ア平成12年12月14日に実施された愛大産婦人科での説明会は専門的な説明会であり,体外受精に関する概要,適応,方法,成績,副作用,費用,余剰胚の取扱いなどを,1時間にわたり具体的に説明している。この際に,副作用の項目でOHSSの危険性,血栓症の危険性についても説明している。なお,死亡するリスクについては極めて稀なことや患者側の治療意欲に対する配慮から言及はしていない。 また,スライド説明後,出席者全員での意見交換会を行い,説明会終了後に医師はその場に残って個別質問を受けている。 めて稀なことや患者側の治療意欲に対する配慮から言及はしていない。 また,スライド説明後,出席者全員での意見交換会を行い,説明会終了後に医師はその場に残って個別質問を受けている。 イ被告Fは,平成12年12月18日にDから愛大産婦人科で同意書を受け取る際,再度前記説明会での要点の確認と不明な点について質問の機会を設け,その上で同意書を受領している。 ウさらに,被告Fは,平成13年6月11日,Dに対し,E産婦人科において愛大産婦人科における同意書のコピーを確認した上,副作用であるOHSSの危険性,血栓症の危険性について説明している。 3 因果関係(1) 原告らの主張ア被告Fが前記1?のとおり,各検査義務を怠り,hCG製剤の投与を続けたことから,DのOHSSは重症化して激しい血液濃縮が進み,血栓が形成された。ここで形成された血栓が体内を回り,その結果,Dは脳静脈洞血栓症を原因とする出血性梗塞,肺梗塞を起こして死亡するに至ったものであり,上記注意義務違反と死亡との結果には因果関係が認められる。 イなお,Dに血液凝固系の異常はない。すなわち,Dに抗燐脂質抗体症候群(原因不明の血栓症,習慣性流産などを起こす。)を推定させる既往歴はなく,抗核抗体は陰性でSLE(全身性紅斑性痕瘡)などもない。凝固異常を証明する健常時のデータもなく,37年間,血液凝固系の異常が出たことはない。 ウまた,Dが感染症に罹患していたとする根拠はない。 (2) 被告らの主張ア否認もしくは争う。 平成13年7月7日の脳血栓が発症した時点でのG病院での血液所見は,ヘマトクリット値34.3パーセントであり,血液濃縮はない。したがって,当該脳血栓がOHSSによる血液濃縮により引き起こされた 平成13年7月7日の脳血栓が発症した時点でのG病院での血液所見は,ヘマトクリット値34.3パーセントであり,血液濃縮はない。したがって,当該脳血栓がOHSSによる血液濃縮により引き起こされたものでなかったことは明らかである。 また,Dに対して卵子採取のためのhCG製剤が投与されたのは平成13年6月23日であり,脳血栓発症の同年7月7日までに2週間が経過し,脳血栓発症から肺梗塞発症までにも6日間が経過している。 イ脳静脈洞血栓の血栓が飛んで肺梗塞を起こしたとは考えられない。肺梗塞の原因は不明であるが,Dには血液凝固系の異常があり,血液に何らかの基礎疾患があった可能性がある。 ウまた,平成13年7月7日のG病院でのDの白血球数は2万6800と高値であること,同日の今治病院入院時においても2万3000と高値であり,CRP定性反応陽性で,38度の発熱が認められることからすると,Dが感染症に罹患していた可能性があり(今治病院においても抗生剤スルペラゾンを投与している。),これと脳静脈洞血栓との間に因果関係の存する可能性がある。 4 損害(1) 原告らの主張ア原告Aの損害 7213万2108円・ Dの死亡逸失利益の3分の2 3213万2108円Dは短大を卒業して主婦であったが,女子の短大卒の平成13年の平均年間労働収入は447万9100円で,主婦の生活費控除率は3割である。Dは上記のとおり37歳で死亡しており,労働能力喪失期間は30年間,その喪失就労年数対応のライプニッツ係数は15.3724である。したがって,次の計算式のとおり,Dの死亡による逸失利益は4819万8162円となる。 4,479,100×0.7×15.3724≒48,198,162 は15.3724である。したがって,次の計算式のとおり,Dの死亡による逸失利益は4819万8162円となる。 4,479,100×0.7×15.3724≒48,198,162原告Aは,上記金員のうち法定相続分の割合である3分の2に当たる3213万2108円を相続した。 ・原告Aの慰謝料 4000万円原告Aは最愛の妻を37歳という若さで失い,子供を授かる可能性も奪われ,大変な精神的苦痛を受け,将来に絶望せんばかりである。この苦痛を慰謝するに4000万円を下ることはない。 イ原告B及び同Cの各損害各1803万3027円・Dの死亡逸失利益の各6分の1 各803万3027円上記のとおり,Dの死亡逸失利益は4819万8162円となるところ,原告B及び同Cは法定相続分の割合である6分の1に当たる803万3027円をそれぞれ相続した。 ・原告B及び同Cの各慰謝料各1000万円原告B及び同Cは最愛の娘を失い,孫を夢見ることもできなくなった精神的苦痛は筆舌に尽くし難い。この苦痛を慰謝するには,それぞれ1000万円を下ることはない。 (2)被告らの主張いずれも不知もしくは争う。 第5 当裁判所の判断 1 認定事実争いのない事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる(なお,主要な証拠を括弧内に掲記する。)。 (1) 事実経過(乙A3,被告F)ア愛大産婦人科での受診(乙A2p12)Dは,平成12年11月20日,不妊治療を目的に愛大産婦人科を受診し,当時愛大産婦人科に勤務していた被告Fが担当となって診察をした。診察の結果,被告FはDの不妊因子として卵管閉鎖及び抗精 Dは,平成12年11月20日,不妊治療を目的に愛大産婦人科を受診し,当時愛大産婦人科に勤務していた被告Fが担当となって診察をした。診察の結果,被告FはDの不妊因子として卵管閉鎖及び抗精子抗体を認め,体外受精法の適応と診断した。 イ体外受精胚移植法についての説明会等(乙A2p12・13・17~39)D及び原告Aは,平成12年12月14日,体外受精治療の希望者を対象とした愛大産婦人科で実施された説明会に出席した。その際,被告Fを含めた3名の医師は,スライドを使用しながら医師が口頭で説明を加える方法で,体外受精胚移植法の概略,適応,成績,安全性と副作用,諸検査,諸費用,余剰胚の取扱等について,約1時間,説明を行った。その説明の際,医師は,体外受精胚移植法の副作用として,OHSS発症のおそれがあること,その発症時期,症状,血液濃縮や血栓症を起こすおそれがあることについて説明をしたが,死亡することもあるということまでは言及しなかった。 説明会の後には,意見交換の機会,出席者から医師に対して個別に質問をする機会が設けられた。 この日,Dには,その場で愛大病院長及び愛大産婦人科長宛の「体外受精胚移植法実施同意書」の用紙が渡された。 Dは,同月18日,愛大産婦人科を受診し,その際,被告Fに対して,D及び原告Aが署名,捺印した上記同意書(以下「本件同意書」という。)を渡した。被告Fは,再度体外受精胚移植法について説明をし,質問がないかを確認した上で,本件同意書を受け取った。 ウ E産婦人科を受診する経緯等(乙A1p2)被告Fは,平成13年3月5日,Dが受診した際,同月末日をもって愛大病院を退職する旨を伝えたところ,Dは被告Fのもとで引き続き治療を受けたいと申し出た。そこで 受診する経緯等(乙A1p2)被告Fは,平成13年3月5日,Dが受診した際,同月末日をもって愛大病院を退職する旨を伝えたところ,Dは被告Fのもとで引き続き治療を受けたいと申し出た。そこで,被告Fは,本件同意書のコピーをとって,保管しておいた。 被告Fは,同月31日に愛大病院を退職し,被告医院に勤務することとなった。 Dは,同年6月11日,体外受精希望にてE産婦人科を訪れ,被告Fの診察を受けた。この際,被告Fは,本件同意書のコピーを確認し,前述の説明会でのスライドと同様の映像をコンピューター画面で示しながら,あらためて,副作用であるOHSSの危険性,血栓症の危険性等について説明をし,Dの承諾のもと,治療を開始した。 エ E産婦人科における診療経過・平成13年6月11日(乙A1p2)被告Fは,平成13年6月11日,月経が始まってから使用するべく,自然排卵を抑制するためナサニール(GnRHa)を処方した。 ・平成13年6月15日から同月22日まで(乙A1p2・3)月経が始まったDは,平成13年6月15日,E産婦人科を受診した。DはE産婦人科から距離のある愛媛県今治市内に居住していたことから,被告Fは,近医となるG病院に対して,排卵誘発のためhMG(フェルチノーム,ヒュメゴン)製剤を投与されたいとの依頼状を作成してDに渡した。 Dは,同月17日から同月22日にかけて,G病院を受診してhMG製剤の注射投与を受けた。 ・平成13年6月22日,同月23日(乙A1p4)Dは,平成13年6月22日,E産婦人科を受診した。被告Fは,超音波検査を行った上,採卵日を同月25日と決定し,G病院に対して,卵子の最終成熟を促すためhCG製 月23日(乙A1p4)Dは,平成13年6月22日,E産婦人科を受診した。被告Fは,超音波検査を行った上,採卵日を同月25日と決定し,G病院に対して,卵子の最終成熟を促すためhCG製剤(5000単位×2本)を投与されたいとの依頼状を作成してDに渡した。Dは,同月23日,G病院にてhCG製剤の筋注投与を受けた。 ・平成13年6月25日(乙A1p5・6)被告Fは,平成13年6月25日午前9時から,E産婦人科において,Dに対し,静脈麻酔(ソセゴン及びホリゾン)及び局所麻酔(キシロカイン)を行い,経膣超音波下で針を用いて採卵術を施行した。 採卵中,Dからは疼痛の訴えがあったが,自制の範囲内のものであり,全身状態等には格別の異常はなく,被告Fは特段の処置をしないまま,同日午前9時30分には採卵術は終了した。 Dの左卵巣には卵胞はほとんどなく,被告Fは,右卵巣に認められた14個の卵胞から,12個の卵子を採取した。 Dは,同日午後3時30分までE産婦人科内にて安静臥床しており,この間に偏頭痛があったが,持参していた鎮痛剤を内服し,被告Fからは鎮痛剤の処方はされなかった。 Dは,同日午後4時,原告Aに連れられて帰宅した。 ・平成13年6月27日(乙A1p7)Dは,平成13年6月27日,採卵後の経過観察のため,E産婦人科を受診した。 被告Fは,Dに対し,腹部の膨満感,嘔気,嘔吐,出血の有無,尿の出が悪くないかどうかなどの問診を行ったが,Dからは特に体調不良の訴えはなかった。また,被告Fは,特に右卵巣を中心に経膣超音波検査を行い,右卵巣サイズは89.3mm×79.8mmであること,採卵後の卵胞が嚢腫状態になっていないことを確認し,病 からは特に体調不良の訴えはなかった。また,被告Fは,特に右卵巣を中心に経膣超音波検査を行い,右卵巣サイズは89.3mm×79.8mmであること,採卵後の卵胞が嚢腫状態になっていないことを確認し,病的腹水貯留も認めなかった。 なお,この日のカルテには「mildOHSS」の記載がある。 ・平成13年6月28日(乙A1p8)被告Fは,平成13年6月28日,受精した11個の胚のうち3個を,超音波下でDの子宮内へ移植した(その余の6個の胚は凍結保存し,2個は発育不良のため廃棄処分とした。)。なお,卵巣サイズや腹水貯留については前日と比べて変化はなかった。また,被告Fは,診療プログラムにしたがって,Dの血液一般検査を行ったが,白血球9500,ヘモグロビン12.5g/dl,ヘマトクリット値40パーセントであった。 被告Fは,診療プログラムどおり,黄体管理のためhCG製剤(2500単位)と黄体ホルモン剤125mgの注射投与を行った。 ・平成13年7月2日(乙A1p8,乙B6の1,6の2)Dは,平成13年7月2日,副作用チェックのためE産婦人科を受診した。被告Fは,経腹超音波検査を実施したが,右卵巣サイズが66mm×41mmと縮小していること,卵胞が嚢腫状態になっていないことを確認し,病的腹水貯留も認めなかった。被告Fは,hCG製剤(5000単位)と黄体ホルモン剤125mgの注射投与を行った。 この日,Dから首が回らないとの訴えがあったことから,被告Fが診察したが,神経学的な異常を認めなかったため,湿布で様子を見ることとした。 なお,この日のカルテには「OHSSmild」の記載がある。 ・平成13年7月5日(乙A1p9)Dは,平成 異常を認めなかったため,湿布で様子を見ることとした。 なお,この日のカルテには「OHSSmild」の記載がある。 ・平成13年7月5日(乙A1p9)Dは,平成13年7月5日,再度副作用チェックのためE産婦人科を受診した。被告Fが超音波検査を実施したところ,その所見は同月2日とほぼ同様であった。被告Fは,hCG製剤(5000単位)と黄体ホルモン剤125mgの注射投与を行った。 Dから頸部の緊張が続いているとの訴えがあったため,被告Fは整形外科の受診を勧め,Dは同月5日,H整形外科を受診した。同整形外科から被告医院に対して,神経学的な所見はない,妊娠の可能性があるので内服薬は使用できないとの連絡があった。Dは,被告Fからは芍薬甘草湯(漢方薬)の内服処方を受け,H整形外科からは湿布剤の処方を受けて帰宅した。 なお,この日のカルテにも「OHSSmild」の記載がある。 オ Dの容体悪化・ G病院への搬送(乙A1p9・14)原告Aは,平成13年7月7日午後1時ころ,E産婦人科を訪れ,Dの様子がおかしいので原告A宅に連絡をしてほしい旨を依頼した。被告Fが原告A宅に電話をしたところ,原告Aの母は,Dが放心状態にあること,意識及び理解能力はあり,発語はできること,手足のしびれはないこと,嘔吐が続いていること等を告げた。 被告Fは,早く診察を受けた方がよいと判断し,原告Aの母に対し,DをG病院へ救急車で搬送するよう指示するとともに,同病院へ連絡をした。その際,同病院に対し,血液検査の依頼も行った。 同日,G病院で血液検査が行われたが,その結果,赤血球541万,白血球2万6800,ヘモグロビン10.8g/dl,ヘマトクリット値34.3パ 際,同病院に対し,血液検査の依頼も行った。 同日,G病院で血液検査が行われたが,その結果,赤血球541万,白血球2万6800,ヘモグロビン10.8g/dl,ヘマトクリット値34.3パーセントであった。 ・今治病院への搬送(甲A1,4,乙A1p9~13)平成13年7月7日のうちに,DはG病院から今治病院脳神経外科へ搬送され,被告Fは,これを聞いて同日午後5時ころ,同病院へ向かった。被告Fは,同病院到着後,Dの状態を観察し,同病院脳神経外科部長K医師から,MRI検査結果や後遺症可能性等の説明を受けた。 今治病院脳神経外科においては,Dにつき脳静脈洞血栓症を原因とする出血性梗塞と診断し,保存的治療が行われた。Dには意識障害があり,左片麻痺の状態であった。なお,入院時の血液一般検査結果は,赤血球473万,白血球2万3000,ヘモグロビン9.4g/dl,ヘマトクリット値31.3パーセントであった。 被告Fは,同日午後8時と午後11時の2回にわたってDの家族と面談し,不妊治療経過等について説明を行った。 ・平成13年7月11日(乙A1p15~17)被告Fは,平成13年7月11日午後5時前,今治病院を訪れ,Dの妊娠判定と超音波検査を行った。その結果,妊娠反応は陰性であり,超音波検査によると卵巣サイズは右49.2mm×31.3mm,左26.8mm×30.5mmであり,ほかに異常も認められなかった。被告Fは,同日午後5時からDの家族と面談をした。 ・ Dの死亡(甲A1ないし4)Dは,平成13年7月13日午前7時50分ころ,肺梗塞を起こして呼吸困難とそれに引き続く痙攣が出現し,呼吸停止及び心停止の状態となった。血栓除去術が施行されるなどしたが,D ないし4)Dは,平成13年7月13日午前7時50分ころ,肺梗塞を起こして呼吸困難とそれに引き続く痙攣が出現し,呼吸停止及び心停止の状態となった。血栓除去術が施行されるなどしたが,Dは,同日午後10時10分,死亡した。 (2) 体外受精胚移植法(乙B1)体外受精胚移植法は,排卵誘発剤を使用し,卵巣に複数個の卵胞(卵子の入った液体を含む袋)を発育させ,成熟した卵子を超音波下で針を用いて体外に取り出し(採卵術),培養液の中で精子と混ぜ合わせて受精させ,受精卵が分裂して4細胞ないし8細胞の胚へ発育した段階で,これを子宮内に注入する(胚移植術)という不妊治療法である。 体外受精においては,複数個の卵胞の発育を促すため排卵誘発剤としてhMG製剤が,さらに発育した卵胞内の卵子を最終的に成熟させるため排卵誘発剤としてhCG製剤が投与される。他方で,卵子が卵胞から勝手に飛び出し(自然排卵),採卵が不可能となることを抑制する目的で,ゴナドトロピン放出ホルモン誘導体(GnRHa)製剤が用いられる。 このGnRHa製剤の利用によって,効率的に成熟卵子を得ることができるが,他方,妊娠成立のために不可欠な卵巣からの黄体ホルモンの分泌が減少してしまう。そのため,胚の移植後には,黄体管理(ホルモン環境調製)として,黄体ホルモンを投与する方法,hCG製剤を投与して卵巣からの黄体ホルモンの分泌を促す方法のいずれかもしくは両者の方法がとられる。 (3) OHSS(甲B1ないし5,乙B2ないし5,8)ア OHSSとは,排卵誘発の過程で,多数の卵胞が大きく発育し,卵巣が腫大,卵胞からのエストロゲンが著しく上昇する結果,腹水貯留などをきたす状態をいう。OHSSは医原性疾患であり,不妊症治療における薬剤(hMG,hCG,GnRHa等 ,多数の卵胞が大きく発育し,卵巣が腫大,卵胞からのエストロゲンが著しく上昇する結果,腹水貯留などをきたす状態をいう。OHSSは医原性疾患であり,不妊症治療における薬剤(hMG,hCG,GnRHa等)の併用によって起こる重大な合併症の一つである。 イ OHSSの発症機序については不明な部分も多いが,排卵誘発剤たるhCG製剤の投与によって血管透過性の亢進が起こり,その結果,卵胞腔内へ体液が流入して採卵後の卵胞の液体成分が貯留・膨大して卵巣が腫大し,腹腔内へ体液が流入して腹水が貯留し,循環血液量の減少と血液濃縮が起こるものと考えられている。 ウ OHSSの症状としては,腹部膨満感を初発症状とすることが多く,体重増加・腹囲増大,尿量減少,悪心・嘔吐,下痢等の症状が出現することもあり,循環血液量の減少・血液濃縮が進行すると,過凝固状態による血栓塞栓症,腎不全,さらには多臓器不全を来たし,死に至ることもある。 臨床的には,急激な体重増加,乏尿,腹水等が認められる。血液検査では,ヘマトクリット値の上昇,白血球増多等を呈する。 エ OHSSの重症度分類,診断基準に定まったものはないが,通常,軽症,中等症,重症,最重症などに分類される。一般に軽症は単なる化学的な刺激状態であり,臨床的には問題がなく,経過観察のみで足りる。臨床所見として,腹部膨満の度合いが強く,腹水が確認され,卵巣が6センチメートル以上12センチメートル未満,ヘマトクリット値が正常値を超えて45パーセント未満,白血球数が正常値を超えて1万5000未満等の場合が中等症とされ,この場合には重症に移行する可能性があることを念頭に置いて慎重な経過観察が必要である。 オ体外受精胚移植法においては,OHSSは,hCG製剤の投与後4ないし5日目ころ(採卵後2ない とされ,この場合には重症に移行する可能性があることを念頭に置いて慎重な経過観察が必要である。 オ体外受精胚移植法においては,OHSSは,hCG製剤の投与後4ないし5日目ころ(採卵後2ないし3日目ころ)又は妊娠成立後に発症することが多い。多卵胞発育を目的としているため,軽症OHSSの発症(軽度の卵巣腫大,ダグラス窩の腹水等)は必然であり,臨床的には問題にならないが,その重症化が危惧される場合には,hCG製剤の投与の減量ないし中止が必要となる。 (4)超音波検査(甲B7ないし11)産婦人科領域の超音波検査には母胎腹壁上にプローブをおいて診断する経腹法と,膣円蓋まで特殊なプローブ(経膣プローブ)を挿入して検査をする経膣法がある。子宮内膜,卵胞,卵巣等の内性器の細かな観察を行うには,より近傍からの鮮明な描出が可能な経膣超音波法が適しているが,経腹超音波法においても,膀胱に尿を充満させた上で,子宮,卵巣等の観察や病的腹水貯留の有無の確認をすることが可能である。 2 認定事実についての補足説明(1) 平成12年12月14日の説明会について原告らは,平成12年12月14日の説明会においては,副作用については心配ないとの説明があったにすぎない旨を主張し,原告Aは,副作用については肝機能に障害がおこることがあり得ると説明があったのみで,OHSSについての説明はなかったと供述する。 しかしながら,上記説明会がスライドを用いたものであったことは当事者間に争いがないところ,同スライド全21枚(乙A2p17~37)のうち,副作用全般について記載されたスライド(同p29)及びOHSSの臨床所見について記載されたスライド(同p30)が各1枚あることからすると,副作用,特にOHSSについて一定の説明があったものと認め ち,副作用全般について記載されたスライド(同p29)及びOHSSの臨床所見について記載されたスライド(同p30)が各1枚あることからすると,副作用,特にOHSSについて一定の説明があったものと認めるのが相当であって,上記原告Aの供述は採用できず,原告らのこの点の主張は理由がない。 (2) 平成13年7月2日の所見ア原告らは,平成13年7月2日時点での経腹超音波検査によって撮影された写真(乙A1p8)の読影結果によると,右卵巣サイズは約120mm×約75mmに肥大化しており,子宮サイズは110mm×50mm程度で,肥大化した卵胞の存在(写真中央付近の黒く写った丸い像)も認められる旨を主張し,I医師の私的意見書(甲B6)はこれとほぼ同旨の内容となっている。 しかしながら,原告らの読影結果によると,子宮内膜の特徴的所見である木の葉状の陰影部分(甲B8)が,子宮ではなく卵巣に認められることになるのであって,その合理性には疑問がある。原告らの読影結果は,後述のとおり合理性の認められる被告らの読影結果とも子宮及び卵巣の位置,大きさ等について大きく異なっており,結局,I医師の私的意見書を採用することはできず,ほかに原告ら主張の事実を認めるに足りる証拠はない。 イ被告らは,上記写真を読影すれば,平成13年7月2日時点での右卵巣サイズは66mm×41mm,子宮サイズは80mm×50mmで腹側に前屈し,写真中央付近の丸い像は黄体と考えられる旨を主張するところ,被告らの読影結果によると,子宮内膜の特徴的所見である木の葉状の陰影部分がまさに子宮内に認められる。また,平成6年4月18日愛大産婦人科で撮影されたDの通常時の子宮が,73mm×48mmで前屈しているとされること(乙A2p11)とも矛盾しない。以上のとおり,被告らの読 がまさに子宮内に認められる。また,平成6年4月18日愛大産婦人科で撮影されたDの通常時の子宮が,73mm×48mmで前屈しているとされること(乙A2p11)とも矛盾しない。以上のとおり,被告らの読影には合理性があるといえることに加え,J医師の私的意見書(乙B6の1,6の2)における上記写真の読影結果が,子宮や卵巣の位置,大きさ等について,おおむね被告らの読影と合致する内容となっていることも考慮すると,被告ら主張の事実を認めることができる。 ウなお,原告らは,上記木の葉状の陰影部分は,子宮以外の部分にたまたま反射によって映った形状にすぎないと主張するが,その根拠はなく,合理的な説明であるということはできない。 また,原告らは,平成13年7月2日の(経膣ではなく)経腹超音波検査による写真1枚から卵巣サイズの正確な読影をすることは困難であると主張する。しかしながら,当該写真から卵巣サイズを読影することが不可能であるとはいえないこと(被告F),被告Fは当時経腹超音波検査によって周辺臓器等も確認した上で右卵巣サイズの判断を行っているものと解されること(被告F),このような被告らの読影について上記のとおり合理性が認められることからすれば,被告ら主張の事実が誤っているということはできない。 したがって,これらの原告らの主張は理由がない。 3 争点1(検査義務違反)について(1) 原告らは,本件において,右卵巣サイズが平成13年6月27日の段階で89.3mm×79.8mmと腫大していた上,同年7月2日には約120mm×約75mmに肥大化しており,肥大化した卵胞の存在も認められたこと,同年6月28日の血液一般検査においてヘマトクリット値が40パーセントであったこと,同年7月2日にはDから首が回らないとの訴えがあり, 5mmに肥大化しており,肥大化した卵胞の存在も認められたこと,同年6月28日の血液一般検査においてヘマトクリット値が40パーセントであったこと,同年7月2日にはDから首が回らないとの訴えがあり,血圧の上昇,脳圧亢進等が考えられたことなどから,被告Fは,遅くとも同日には経膣超音波検査及び血液検査を行うべき注意義務を負っていたのにこれを怠り,上記検査義務に違反したと主張する。 (2)そこで検討すると,上記認定事実のとおり,被告Fは平成13年6月27日に経膣超音波検査を実施し,その結果,右卵巣サイズは89.3mm×79.8mmと腫大していたこと,翌28日には血液一般検査を実施し,その結果,ヘマトクリット値が40パーセント,白血球9500とやや高めであり,血液濃縮の可能性を示す所見が得られたこと,同年7月2日にはDから首が回らないとの訴えがあったことが認められる。 しかしながら,まず,同年7月2日に被告Fが実施した経腹超音波検査の結果,右卵巣サイズは66mm×41mmに縮小していることが確認され,OHSSの重症化を否定する所見が得られたこと,同年6月27日,同月28日及び同年7月2日にそれぞれ行われた問診及び超音波検査においては,Dから腹部膨満感,嘔気,尿量減少等のOHSSの発症を疑わせる典型的な症状の訴えはなく,また,卵胞の嚢腫状態も病的腹水の貯留も確認されなかったことは,上記認定のとおりである。 そして,ヘマトクリット値40パーセントという数値は,成人女性の正常値(甲A1,乙A1,被告Fによれば35ないし45パーセント。甲B5によれば34ないし42パーセント。)の範囲内に治まっている程度のものであって,個人差を考慮したとしても顕著に高い数値ということはできないこと,頸部痛の訴えも,OHSSの症状としては典型的なものとは によれば34ないし42パーセント。)の範囲内に治まっている程度のものであって,個人差を考慮したとしても顕著に高い数値ということはできないこと,頸部痛の訴えも,OHSSの症状としては典型的なものとはいい難く,被告Fにおいて血圧上昇,脳圧亢進等に関連させて考えることができたかには疑問があることをも考慮すると,被告Fが,平成13年7月2日,血液検査を行うべき注意義務を負っていたとまでいうことはできない。 さらに,超音波検査の手法の選択(経腹法か経膣法か。)についてみても,卵巣等の内性器の細かな観察を行うには,より近傍からの鮮明な描出が可能な経膣超音波検査が適しているとはいえるものの,経腹超音波検査においても卵巣はもちろん,病的腹水貯留の有無について観察をすることは可能であると認められるし(前記1?),実際に経腹超音波検査の結果が不明であったというならば格別,本件においては,上記のとおり経腹超音波検査の結果,卵巣の縮小が認められるというOHSSの重症化を否定する所見が得られたと認められるのであるから,経膣超音波検査を行うべき注意義務があったとまでいうことはできない。 (3) 以上によれば,被告Fについて,原告ら主張の検査義務違反があったとすることはできない。 4 争点2(説明義務違反)について(1) 原告らは,被告Fが,本件不妊治療前に,D及び原告Aに対し,体外受精胚移植法を行うに当たってのOHSS発症の危険性等について十分な説明をしなかったと主張する。 (2)そこで検討すると,上記認定事実のとおり,平成12年12月14日の愛大産婦人科での説明会において,被告Fを含めた3名の医師は,D及び原告Aに対して,スライドを使用しながら,体外受精胚移植法の概要と,その副作用としてOHSS発症のおそれがあること,その発症時期 の愛大産婦人科での説明会において,被告Fを含めた3名の医師は,D及び原告Aに対して,スライドを使用しながら,体外受精胚移植法の概要と,その副作用としてOHSS発症のおそれがあること,その発症時期,症状,血液濃縮や血栓症を起こすおそれがあることについて説明をしていること,同月18日には,被告Fは,本件同意書を受け取るに当たり,Dに対して再度体外受精胚移植法について説明をしたこと,さらに平成13年6月11日にE産婦人科での診療を開始するに当たり,被告Fは,Dに対し,本件同意書のコピー及び前述の説明会でのスライドと同様の映像をコンピューター画面で示しながら,あらためて,副作用であるOHSSの危険性,血栓症の危険性等について説明をし,Dの承諾を受けたことがそれぞれ認められるところであって,これらの事情に照らせば,被告Fにおいて,D及び原告Aに対して,体外受精胚移植法を行うに当たってのOHSS発症の危険性等について,十分な説明をしたものというべきである。 (3) 原告らは,Dの健康状態をもとにした不妊治療の危険性,副作用の説明を行わなかった旨を主張するものの,全証拠によっても,体外受精胚移植法を開始する時点で,特にDがOHSSを発症する危険因子を有している疑いが判明していたとも認められないことからすると,被告Fのこの点についての説明が不十分であったということはできない。 また,原告らが主張するとおり,被告医院宛の同意書は作成されていないと認められる(弁論の全趣旨)ものの,上記のとおり,D及び原告Aに対する実質的な説明は十分に行われており,また,Dは,平成13年6月11日に,E産婦人科において被告Fから体外受精胚移植法の治療を受けることを十分に認識した上で,診療を受けることに同意したものと認められるから,上記同意書が作成されていないこ た,Dは,平成13年6月11日に,E産婦人科において被告Fから体外受精胚移植法の治療を受けることを十分に認識した上で,診療を受けることに同意したものと認められるから,上記同意書が作成されていないことをもって説明義務が尽くされていないとはいえない。 (4)したがって,被告Fに説明義務違反があったということはできない。 5 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求には理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 松山地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官坂倉充信 裁判官角谷昌毅 裁判官大嶺崇
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