令和7年1月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(ワ)第3762号学長等の職務執行停止命令無効確認及び損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和6年10月28日判決 主文 1 A学院が原告に対して令和5年5月9日付けで行った理事及び学長の職務執行を一時停止するとの意思表示の効力の無効確認の訴えを却下する。 2 被告らは、原告に対し、連帯して55万円及びこれに対する令和5年7月2 6日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、これを100分し、その96を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。 5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 A学院が原告に対して令和5年5月9日付けで行った理事及び学長の職務執行を一時停止するとの意思表示の効力が無効であることを確認する。 2 被告らは、原告に対し、連帯して1100万円及びこれに対する令和5年5 月9日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 3 A学院は、原告に対し、B大学のホームページのトップページ「お知らせ」の「総合」欄に、別紙記載の謝罪広告を1か月間掲載せよ。 第2 事案の概要A学院は、令和5年5月9日付けで、A学院の理事及びA学院が経営するB 大学(以下「本件大学」という。)の学長であった原告に対し、心身の故障を 抱えているとの理由により、上記理事及び学長の職務執行を停止する旨の意思表示(以下「本件命令」という。)をした。 本件は、原告が、①A学院に対し 学長であった原告に対し、心身の故障を 抱えているとの理由により、上記理事及び学長の職務執行を停止する旨の意思表示(以下「本件命令」という。)をした。 本件は、原告が、①A学院に対し、本件命令は違法無効であると主張して、本件命令の無効確認を求めるとともに、②A学院、A学院の理事長である被告C及びA学院の経営本部長である被告Dに対し、被告らが、次期学長候補者に ついて意見対立のある原告を罷免する目的で、違法な本件命令をし、これにより、理事及び学長としての職務執行を停止されない法的地位を侵害され、また、被告C及び被告Dが、本件命令の内容を流布したことによって、名誉又は信用を毀損された旨の主張をして、共同不法行為に基づき、損害賠償金1100万円及び本件命令がされた日である令和5年5月9日から支払済みまで民法所定 の年3分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 1 関連法令等(1) 私立学校法35条の2(学校法人と役員との関係)学校法人と役員との関係は、委任に関する規定に従う。 38条(役員の選任)1項理事となる者は、次の各号に掲げる者とする。 1号当該学校法人の設置する私立学校の校長(学長及び園長を含む。 以下同じ。)(2) A学院における理事会審議事項に関する規程(以下「本件規程」という。) には、次の内容の規定がある(甲29)。 3条(委任事項等)2項理事会は、法人の日常業務等において審議を要する事項に関し、特に緊急を要する場合の意思決定については、理事長に委任するものとする。 (3) 本件大学における学長任免規則には、次の内容の規定がある(甲3)。 3条(学長候補者推薦の要請) 意思決定については、理事長に委任するものとする。 (3) 本件大学における学長任免規則には、次の内容の規定がある(甲3)。 3条(学長候補者推薦の要請)1項理事長は、次の各号のいずれかに該当する場合は、B大学学長候補者選考委員会(以下「選考委員会」という。)に対し、学長候補者の選考による推薦を求める。 1号学長の任期が満了するとき。 2項選考委員会が理事会に推薦する学長候補者は、原則として複数名とし、次の文書を添付して推薦するものとする。ただし、再任の場合など理事会の議を経て第2号及び第3号の文書を省略することができる。 (4) 本件大学学長候補者選考委員会規則(以下「本件選考委員会規則」という。)には、次の内容の規定がある(甲4)。 2条(組織)1項学長候補者の選考のため、次に掲げる者をもって組織する選考委員会を置く。 1号理事長2号理事会において互選された理事2名 3号本件大学全学運営会議から選出された委員2名 2 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠により容易に認められる事実)(1) 当事者等ア A学院は、本件大学を設置する学校法人である。 イ原告は、平成22年4月1日から令和6年3月31日まで、A学院の理 事兼本件大学の学長であった者である。 ウ被告Cは、平成22年4月1日から令和6年3月31日までの当時、A学院の理事長であった者である。 エ被告Dは、令和3年4月1日から令和6年3月31日までの当時、A学院の経営本部長であった者である。 (2) 本件命令及びその後の経緯 ア A学 た者である。 エ被告Dは、令和3年4月1日から令和6年3月31日までの当時、A学院の経営本部長であった者である。 (2) 本件命令及びその後の経緯 ア A学院は、令和5年5月9日付け「理事及び学長の職務執行停止通知書」(甲6)により、原告に対し、心身に故障を抱えているとの理由により、本件規程3条2項の規定に基づき、A学院の理事及び本件大学の学長の職務執行を一時停止する旨の本件命令をした。 イ被告Dは、令和5年5月10日付け「学長職務停止による業務手続につ いて」と題する書面(甲22)により、副学長、学部長及び経営本部部長らに対し、被告Cから原告に対して健康上の理由により本件命令がされた旨の通知(以下「本件行為1」という。)をした。 ウ被告Cは、令和5年5月27日に開催された理事会において、次期学長の選考における原告の言動等を注意深く見ていたところ、やはり少し心身 に故障があると判断して、本件命令に係る通知をした旨の発言(以下「本件行為2」という。)をした(甲32の1・2)。 エ被告Cは、令和5年7月26日付け「新聞記事掲載による照会について(回答)」と題する書面(甲25)により、A学院の理事長名で、本件大学の卒業生によって構成される本件大学芸術学部音楽・芸術教養・舞台芸 術同窓会(以下「本件同窓会」という。)の会長及び理事らに対し、原告がそれまでと乖離した言動を繰り返し始め、心身の不調を疑い、関係者からも心身の状況を聞き取り、本件命令をやむを得ず行った旨の通知(以下「本件行為3」という。)をした。 (3) 原告の退任 原告は、令和6年3月31日の経過をもって、任期満了により、A学院の理事及び本件大学の学長を退任した。 3 争点 以下「本件行為3」という。)をした。 (3) 原告の退任 原告は、令和6年3月31日の経過をもって、任期満了により、A学院の理事及び本件大学の学長を退任した。 3 争点(1) 本件命令の無効確認の訴えア本件命令の無効確認の訴えの利益の有無(争点1) イ本件命令の効力の有無(争点2) (2) 職務執行を停止されない法的地位の侵害に係る損害賠償請求理事及び学長としての職務執行を停止されない法的地位の侵害による不法行為責任の有無及び損害額(争点3)(3) 名誉又は信用の毀損に係る損害賠償請求ア社会的評価の低下の有無(争点4) イ公然性の有無(争点5)ウ違法性阻却事由の有無(争点6)エ損害額及び謝罪広告の要否(争点7) 4 争点に対する当事者の主張(1) 争点1(本件命令の無効確認の訴えの利益の有無) (原告の主張)原告は、心身ともに健康であり、心身の故障(健康上の問題)を理由に、本件命令を受けるいわれはないところ、これにより傷つけられた原告の名誉等を回復するためには、本件命令の無効を確認するほかないから、本件命令の無効確認の訴えには、確認の利益がある。 (A学院の主張)原告は、令和6年3月31日の経過により、任期満了で、A学院の理事及び本件大学の学長としての地位を失ったのであるから、本件命令の無効を確認しても、職務執行ができるわけではなく、確認の利益はない。 (2) 争点2(本件命令の効力の有無) (原告の主張)後記A学院の主張の各事実は、事実無根か、自らの都合の良いように歪曲されたものであり、これらによって、原告の心身の故障は何ら裏付けられ 本件命令の効力の有無) (原告の主張)後記A学院の主張の各事実は、事実無根か、自らの都合の良いように歪曲されたものであり、これらによって、原告の心身の故障は何ら裏付けられないし、医学的な根拠もない。むしろ、原告に心身の故障がないことを裏付ける精神科医による診断書(甲9)が存在する。したがって、本件命令は、そ の理由を欠き、無効である。 (A学院の主張)原告において、①令和5年3月中旬頃、従前の事務職員の人事案件に関し、著しく感情を乱した、②選考委員会の委員として従前からE副学長とF経営本部副本部長を指名する予定であったが、同年4月12日の学長室会議において、急に委員の一人を同副本部長からG学長補佐に変更したこと、③同月 18日の第1回選考委員会において、Hを推薦すると言いながら、Hへ事前に挨拶に行くなどしていないようであって、常識のある推薦方法でなかった、④Hをどうしても担ぎ出したいようであり、選考委員会の手続を無視して決起集会を呼び掛けた、⑤理事長である被告Cが学長を兼務すればよいと言ったり、別の学長候補者としてIの履歴書を提出し、後日候補者としてIを推 薦したりするなど、真剣に検討したとは思えない言動があった、⑥本件選考委員会規則からすると、原告が次期学長の候補者の選考に関与することは望ましくないにもかかわらず、積極的に関与した、⑦同月21日、被告Cに対し、選考委員会を無視して臨時学長室会議を強行すると言い、選考委員会や本件選考委員会規則を無視して、進めようとした、⑧同月25日、Mが学長 になれば被告Cは追い出されるといった不穏当な発言をした、ということがあった。このような経緯で、被告Cとしては、原告が健康な状態ではないと判断し、学内が混乱状態に陥る前 同月25日、Mが学長 になれば被告Cは追い出されるといった不穏当な発言をした、ということがあった。このような経緯で、被告Cとしては、原告が健康な状態ではないと判断し、学内が混乱状態に陥る前に本件命令をした。本件命令には、合理的な理由があるから、有効である。 (3) 争点3(理事及び学長としての職務執行を停止されない法的地位の侵害に よる不法行為責任の有無及び損害額)(原告の主張)ア学長の地位は、大学の自治や学問の自由、教育の自主性を確保するために、十分尊重されるべきであるから、学校法人が学長の職務執行の停止を命じるためには、学長にその適格性を欠く事実があるなど、学校法人が学 長に対する信頼関係を失うについて客観的に正当な事由と認めるべきもの があることを要する。したがって、学長である原告は、客観的に正当な事由と認めるべきものがなければその意に反して職務執行を停止されない法的地位を有する。本件命令は、被告C及び被告Dが、共謀して、次期学長候補者について意見対立のある原告を罷免する目的で、原告の上記法的地位を侵害する違法なものであり、A学院も本件命令を是正しなかったので あるから、被告らは、原告に対して違法な本件命令をしたことにつき、共同不法行為責任を負う。 イ学長としての職務を執行できないことによる精神的苦痛に係る慰謝料として500万円、本件命令と相当因果関係がある弁護士費用として50万円が損害となる。 (被告らの主張)ア本件命令は、上記(2)被告らの主張のとおり合理的な理由がある。また、原告とA学院との間の契約は準委任契約であり、信頼関係が破壊された場合には自由に解除することができるのであるから、委任者であるA学院は、受任者である原告に対し 主張のとおり合理的な理由がある。また、原告とA学院との間の契約は準委任契約であり、信頼関係が破壊された場合には自由に解除することができるのであるから、委任者であるA学院は、受任者である原告に対し、理事及び学長としての職務の執行を停止するこ とも当然に認められる。 イ被告C及び被告Dが共謀して本件命令をしたという事実はなく、両者が個人責任を負うことはない。 ウ損害額は、否認又は争う。 (4) 争点4(社会的評価の低下の有無) (原告の主張)本件行為1ないし3における各表現は、「原告において、職務執行を停止しなければならないほどの心身の故障(健康上の問題)がある事実」を摘示するものであり、原告の社会的評価を著しく低下させるものである。 (被告らの主張) 本件命令に係る「職務執行の一時停止をした事実」の摘示が、原告の社会 的評価を低下させることはない。また、「心身に故障を抱えていると判断した事実」についても、健康を害することは誰にでも起こり得ることであるし、心身の故障があると断定したものでもないから、社会的評価を低下させるものではない。さらに、「職務執行を停止しなければならないような心身の故障がある事実」についても、第三者が、認知症や重度の精神障害をすぐに思 いつくものではなく、高齢者になれば誰でも訪れる衰えについて、自らそれに気付かないことがあっても、それにより社会的評価は低下しない。 (5) 争点5(公然性の有無)(原告の主張)前提事実(2)イないしエのとおり、被告C及び被告Dは、本件行為1ない し3により、学内及び学外に対し、被告Cが原告に対してその心身の故障(健康上の理由)により本件命令を行った事実を通知したのであるから、 )イないしエのとおり、被告C及び被告Dは、本件行為1ない し3により、学内及び学外に対し、被告Cが原告に対してその心身の故障(健康上の理由)により本件命令を行った事実を通知したのであるから、公然性は認められる。 (被告らの主張)本件行為1ないし3について公然性があることは争う。被告C及び被告D は、原告が心身の故障を抱えていると判断したことについて、理事会、副学長、学部長及び経営本部長など、学内の限られた範囲内でしか、説明していない。また、同窓会やその他の外部団体は、原告が裁判を提起した上で、記者会見をし、「心身に故障を抱えていると判断したこと」が不当であると原告が主張していると報道されたことをきっかけに広まったのであり、A学院 が広めたわけではない。 (6) 争点6(違法性阻却事由の有無)ア真実性及び真実相当性の有無(被告らの主張)上記(2)のA学院主張の経緯によれば、被告C及び被告Dとしては、原 告が健康な状態ではないと判断したのもやむを得ないものであって、本件 命令の理由については、真実であるし、又は真実と信ずるについて相当の理由がある。 (原告の主張)A学院が主張する経緯における原告の言動から、心身の故障があるとするのは無理があるし、精神障害があるか否かについて、被告らのように専 門知識を持たない者に判断できるものでもない。かえって、原告は、精神科医から「精神衛生上の問題はないものと考える」との診断を受けているし、J大学医学部の名誉教授であり高名な精神科医であるK理事にその判断を仰ぐという方法もあったにもかかわらず、これをしなかった。本件命令の狙いは、原告と被告C及び被告Dとの間で、次期学長の候補者につい 学医学部の名誉教授であり高名な精神科医であるK理事にその判断を仰ぐという方法もあったにもかかわらず、これをしなかった。本件命令の狙いは、原告と被告C及び被告Dとの間で、次期学長の候補者につい て意見が対立したため、原告を罷免する点にあったというべきであり、心身の故障(健康上の理由)を理由として本件命令をしたという事実は、真実でなく、かつ、真実と信ずるにつき相当な理由もない。 イ公共性及び公益性(被告らの主張) 本件命令は、大学の運営に関わることであり、学内の正式な通知として発出されているものであるから、公共の利害に関する事実であり、専ら公益を図る目的で行われている。また、「心身の故障を抱えていると判断したこと」についても、同様である。 (原告の主張) 原告には、心身の故障(健康上の問題)がないから、これにより本件命令がされた事実は、公共の利害に関するものではない。また、本件命令は、原告と被告C及び被告Dとの意見が対立したためにされたものであり、公益を図る目的もない。 (7) 争点7(損害額及び謝罪広告の要否) (原告の主張) ア名誉又は信用の毀損による精神的苦痛に係る慰謝料として500万円が相当であり、仮に、名誉又は信用の毀損が認められないとしても、被告C及び被告Dの上記行為により、名誉感情を侵害されたのであるから、同様の慰謝料が認められる。また、これと相当因果関係のある弁護士費用として、50万円の損害がある。 イ仮に、本件命令の無効確認ができない場合、原告にとって、本件命令が無効であり、原告に心身の故障(健康上の問題)がないことを明らかにして、名誉等を回復することができなくなる。したがって、本件大学のホ 仮に、本件命令の無効確認ができない場合、原告にとって、本件命令が無効であり、原告に心身の故障(健康上の問題)がないことを明らかにして、名誉等を回復することができなくなる。したがって、本件大学のホームページ上に、本件命令が無効であり、原告に心身の故障(健康上の問題)などがないことを掲載し、謝罪文言を載せることは、原告の名誉等の回復 のために必要である。 (被告らの主張)原告の主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件命令の無効確認の訴えの利益の有無)について 原告は、職務執行停止によって傷つけられた原告の名誉等を回復するためには、本件命令の無効を確認するほかなく、本件命令の無効確認の訴えの利益がある旨の主張をする。 この点について検討するに、確認の訴えは、原告の権利又は法律上の地位に対する危険、不安が現に存在し、その危険、不安を除去する方法として原被告 間に当該請求に係る事項について判決することが有効適切である場合に訴えの利益が認められると解される。しかし、前提事実(3)によれば、原告は、令和6年3月31日の経過をもって、A学院の理事及び本件大学の学長としての地位を喪失したことが認められるから、本件命令の無効を確認しても、原告が改めて職務執行をすることができるわけではなく、原告の現在の権利又は法律上 の地位に対する危険、不安を除去することにはならないし、現在の名誉等の回 復については、損害賠償等の方法により事後的に解決することができるのであり、本件命令の無効の確認という方法が有効適切であるとはいえない。したがって、原告の上記の主張は採用することができない。 よって、本件命令の無効確認の訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法であるから、却下を免 確認という方法が有効適切であるとはいえない。したがって、原告の上記の主張は採用することができない。 よって、本件命令の無効確認の訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法であるから、却下を免れない。 2 争点3(理事及び学長としての職務執行を停止されない法的地位の侵害及び損害の有無)について(1) 原告は、私立大学の学長の地位は、大学の自治や学問の自由、教育の自主性を確保するために、十分尊重されるべきであるから、学校法人が学長の職務執行の停止を命じるためには、学長にその適格性を欠く事実があるなど、 学校法人が学長に対する信頼関係を失うについて客観的に正当な事由と認めるべきものがあることを要し、これらがない場合には、理事及び学長の職務執行を停止されない法的地位があり、本件命令はこれを侵害する違法なものとして不法行為を構成する旨の主張をする。 しかし、原告とA学院との間の理事及び学長の職務遂行に係る契約の法的 性質は準委任契約であると解されるところ、原則として、準委任契約における受任者が委任者に対して委任事務を履行させるよう請求することはできないと解される。また、原告の主張するように、大学の学長の地位の保障について、大学の自治や学問の自由の確保という公共的な要請があるとしても、直ちに学長の個人的な法的利益に還元されるものではない。これらのことに 加えて、A学院は本件命令後も原告に対して報酬等を支払っていること(当事者間に争いがない。)も考え併せると、本件命令によって、慰謝料等の金銭賠償を要すべき原告の権利又は法律上保護された利益の侵害があったということはできない。したがって、原告の上記の主張は採用することができない。 (2) 以上によれば、原告の職務執行を停止されない法的地位 告の権利又は法律上保護された利益の侵害があったということはできない。したがって、原告の上記の主張は採用することができない。 (2) 以上によれば、原告の職務執行を停止されない法的地位の侵害に係る請求 には理由がない。 3 争点4(社会的評価の低下の有無)について(1) ある表現の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20 日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。 (2)ア前提事実(2)イのとおり、本件行為1は、被告Cから原告に対して健康上の理由により本件命令がされた旨の表現をしたものである。通常、健康上の理由により、理事及び学長の職務執行が困難な場合には、職務執行停止命令がされるまでもなく、当該職務執行が事実上行われない状態にある か、理事長及び学長が自ら辞任や休職等の措置を講じることが想定されるから、この表現は、一般の読者の普通の注意と読み方によれば、「原告が、職務執行が困難な状態にあるにもかかわらず、職務執行を継続しようとしているため、理事及び学長の職務執行停止命令を受けなければならない程度に、業務に支障をきたすような精神障害等を抱えている」との事実(以 下「本件事実」という。)を摘示し、読者に対し、「原告は、そのような精神障害等を抱えているため、理事及び学長の職務を遂行する能力を欠く者である」との印象を与え、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。 イ前提事実(2)ウのとおり、本件行為2は、被告Cが次期学長の選考に当 たっての原告の言動等を注意深く見ていたところ、やはり少し心身に故障がある 評価を低下させるものと認められる。 イ前提事実(2)ウのとおり、本件行為2は、被告Cが次期学長の選考に当 たっての原告の言動等を注意深く見ていたところ、やはり少し心身に故障があると判断して、本件命令に係る通知をした旨を表現したものであるが、上記アと同様、上記表現は本件事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させるものである。 ウ前提事実(2)エのとおり、本件行為3は、被告Cが、原告がそれまでと 乖離した言動を繰り返し始め、心身の不調を疑い、関係者からも心身の状 況を聞き取り、本件命令をやむを得ず行った旨を表現したものであるが、上記ア及びイと同様に、当該表現は、本件事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させるものである。 4 争点5(公然性の有無)について(1) 前提事実(2)イによれば、本件行為1は、被告Dが、学内の副学長、学部 長及び経営本部部長らに通知したものであるが、証拠(甲22)によれば、上記通知は、原告の職務執行停止を原因とする決裁手続や契約手続の変更を伝えるものであることが認められ、その内容や性質に照らし、同人らを通じて、本件大学の教員や関係者等に拡散されることが予定されていたものといえることに加え、実際に芸術学部の教職員らに対して当該通知の内容が周知 されていること(甲30)や、被告Dが上記通知の内容について口外しないように注意するなどの措置を講じていなかったこと(被告D本人・22頁)に照らせば、その内容が伝播し、不特定多数の者に知れ渡る可能性が十分にあったというべきであるから、本件事実を公然と摘示したものと認めるのが相当である。 (2) 前提事実(2)ウによれば、本件行為2は、被告Cが、理事会において、特定少数の理事らに対し にあったというべきであるから、本件事実を公然と摘示したものと認めるのが相当である。 (2) 前提事実(2)ウによれば、本件行為2は、被告Cが、理事会において、特定少数の理事らに対し、口頭で話したものであるが、その内容が直ちに学内や学外の不特定多数の者に伝播する蓋然性があるともいい難いから、本件事実を公然と摘示したものとは認められない。 (3) 前提事実(2)エによれば、本件行為3は、被告Cが、本件大学の卒業生で 構成される本件同窓会の会長及び理事らに対し、通知したものであるが、本件同窓会の性質や通知の内容に照らすと、本件同窓会の構成員やその関係者に伝播することが当然に想定されるものであるから、本件事実を公然と摘示したものと認めるのが相当である。これに対し、被告らは、本件同窓会やその他の外部団体は、原告が裁判を提起した上で、記者会見をし、「心身に故 障を抱えていると判断したこと」が不当であると原告が主張していると報道 されたことをきっかけに広まったに過ぎない旨の主張をするが、被告らの主張を前提としても、本件行為3に係る公然性自体を否定するものではなく、上記の結論を左右しない。 5 争点6(違法性阻却事由の有無)について本件行為1及び3に係る違法性阻却事由の有無について判断する。 (1) 認定事実前記前提事実、当事者間に争いのない事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。 ア令和5年4月12日、学長室会議において、選考委員会の委員として、G学長補佐及びE副学長が選出された(甲13・1頁、甲15・1頁、乙 1・2頁、原告本人・2頁)。 イ被告Cが、令和5年4月18日に開催された第1回選考委員会において、学長 として、G学長補佐及びE副学長が選出された(甲13・1頁、甲15・1頁、乙 1・2頁、原告本人・2頁)。 イ被告Cが、令和5年4月18日に開催された第1回選考委員会において、学長候補者としてMを提案したところ、上記アで選出された委員の一人が、学長候補者として、Hを推薦したいと提案をした(甲13・1、2頁、甲14・1頁、乙1・2頁、被告C本人・5頁)。 ウ原告は、令和5年4月19日、「大学改革この先プロジェクト」と題する会議を開催し、次期学長候補者について協議を行った(乙1・3頁、原告本人・32、33頁)。 エ被告C、被告D、E副学長及びL芸術学部長は、令和5年4月20日、原告の突然の言動に対する直近の解決策を話し合い、被告Cと原告とが直 接対話をするということが決まった(乙1・3頁)。 オ原告及び被告Cは、令和5年4月21日、理事長室において話合いを行い、原告は、教学側の候補者としてHを推挙するため、臨時学長室会議を開催する旨の発言をし、被告Cはこれを中止するように伝えたが、中止する意思はない旨の回答をした(甲2、乙1・3頁、原告本人・3頁、被告 C本人・10頁)。 カ原告及び被告Cは、令和5年4月25日、理事長室において話合いを行い、原告は、被告Cに対し、Mでは今後の大学運営に不安があるため、Hを推挙することは止められないとした上で、第三の学長候補者としてIを提案し、MとHを副学長に据えるという提案をした。この際、Iの平成28年6月1日付けの履歴書を交付した。(甲2、乙1・3頁、原告本人・ 4頁)キ原告は、令和5年4月27日、臨時学長室会議を開催し、同会議において、Iを教学側の学長候補者として提案することが決められた(争いがない。 た。(甲2、乙1・3頁、原告本人・ 4頁)キ原告は、令和5年4月27日、臨時学長室会議を開催し、同会議において、Iを教学側の学長候補者として提案することが決められた(争いがない。)。 ク原告及び被告Cは、令和5年5月8日、理事長室において話合いを行い、 原告は、被告Cに対し、被告Dが原告を罷免しようとしていることなどを伝えた(甲2、乙1・3、4頁、原告本人・5、6頁、被告C本人・14、15頁)。 ケ A学院は、令和5年5月9日付けで、本件命令をした(甲6)。 (2) 被告らは、被告C及び被告Dとしては、次期学長候補者に関する原告の言 動からすれば、原告が健康な状態ではないと判断したのもやむを得ないものであって、本件命令の理由については、真実であるし、又は真実と信ずるについて相当の理由がある旨の主張をする。 しかし、上記(1)アないしケの経緯は、被告Cと原告との間に、選考委員会の委員の選任や学長候補者の擁立について意見の対立があったことを示す 事情にとどまり、それ以上に、上記の経緯から、原告において精神障害等の発病をうかがわせるような態度や対応があったとは認められないし、その発病を認めるべき医学的な知見等もない。かえって、証拠(甲9)によれば、NクリニックのO医師は、令和5年5月29日、原告に対し、診察を行った結果、精神疾患と診断できるような症状は認めず、精神衛生上の問題はない 旨の診断をしたことが認められるから、原告が心身に故障を抱えている又は 職務執行を停止すべき健康上の理由があったことについて、真実であるとは認められないし、また、被告Cにおいて、真実と信ずるにつき相当の理由があったとも認めることはできず、被告らの上記の主張は採用することができない。 べき健康上の理由があったことについて、真実であるとは認められないし、また、被告Cにおいて、真実と信ずるにつき相当の理由があったとも認めることはできず、被告らの上記の主張は採用することができない。また、被告Dの認識としても、上記(1)アないしケの経緯における原告の事情は知悉していたことが認められ(乙2、被告D本人・4、5頁)、 上記と同様に、原告に健康上の問題があったことにつき、真実と信ずるにつき相当の理由があったと認めることはできない。したがって、被告らの上記の主張は採用することができない。 6 争点7(損害額及び謝罪広告の要否)について上記3ないし5で説示したところによれば、原告は、本件行為1及び3によ り、違法に名誉権を侵害されたものと認められる。 上記3(2)ア及びウのとおり、本件行為1及び3における表現は、A学院の理事及び本件大学の学長の地位にあった原告において、その職務執行を停止しなければならない程度の重大な精神障害等を発病したかのような疑念を生じさせるものであるから、原告の名誉毀損の程度は小さくなく、また、これにより、 吹奏楽関係のコンクールの審査等の依頼が来なくなるなどの影響を受けたことが認められ(原告本人・36ないし39頁)、その損害が小さいものと断ずることはできない。他方で、前提事実(2)イ及びエ並びに上記4(1)及び(3)で認定及び判断をしたところによれば、被告C及び被告Dの本件行為1自体は、本件大学の副学長、学部長、経営本部部長の限られた者らに告知したものにとど まり、そこから不特定多数の者に伝播する可能性は十分にあるものの、必ずしも学外や学内に広く知れ渡るものとはまではいえず、その範囲が広範であるとはいえない。また、証拠(甲24ないし26、28)によれば、本件行為3は、令 多数の者に伝播する可能性は十分にあるものの、必ずしも学外や学内に広く知れ渡るものとはまではいえず、その範囲が広範であるとはいえない。また、証拠(甲24ないし26、28)によれば、本件行為3は、令和5年6月24日に原告がA学院を相手に名古屋地裁に職務執行停止の仮処分の申立てを行ったことに係る記事がP新聞朝刊愛知県版に掲載されたことを きっかけに、本件同窓会から問合せがあり、被告Cが回答したものであるが、 本件事実自体は、すでに知れ渡っていたというべきであり、本件行為3により新たに生じる損害は、重大なものとはいえない。 その他、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件行為1及び3によって原告の名誉権が侵害されたことによる精神的苦痛を慰謝するに相当な金額としては50万円、上記各行為と相当因果関係を有する本件訴えに係る弁護士費用 としては5万円を認めるのが相当であるが、原告の名誉を回復するのに適当な処分として謝罪広告を命ずることが相当とまでは認められない。なお、原告は、予備的に、本件行為1及び3による名誉感情の侵害に係る慰謝料も主張しているが、仮にこれが認められるとしても、上記の金額を超えるものではない。 7 小括 以上によれば、被告C及び被告Dは、本件行為1及び3により本件事実を摘示し、客観的に共同して、原告の社会的評価を低下させており、被告Cは、A学院の代表者として、本件行為3に及んでいることに照らせば、被告らは、原告に対し、上記55万円を連帯して支払う義務を負う。 第4 結論 よって、原告の本件命令の無効確認の訴えは、その確認の利益を欠き不適法であるから却下し、原告の理事及び学長としての職務執行を停止されない法的地位の侵害に係る請求は、理由がないから棄却し、原告の名誉又は信用 、原告の本件命令の無効確認の訴えは、その確認の利益を欠き不適法であるから却下し、原告の理事及び学長としての職務執行を停止されない法的地位の侵害に係る請求は、理由がないから棄却し、原告の名誉又は信用の毀損に係る請求は、55万円及びこれに対する本件行為3があった日である令和5年7月26日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支 払を求める限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官五十嵐章裕 裁判官加藤優治 裁判官竹内峻 別紙謝罪広告 A学院、C理事長、D経営本部長は、Q前学長について、心身の故障(健康上の問題)など無いにもかかわらず、これを理由に職務執行停止命令を出し、関係各所 に通知しました。 ここに、Q前学長には心身の故障(健康上の問題)など無いこと、職務執行停止命令は無効であることをご報告し、Q前学長に深くお詫び申し上げます。
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