平成27(ワ)28468 特許権侵害差止請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年10月28日 東京地方裁判所
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判決文本文36,005 文字)

平成28年10月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成27年(ワ)第28468号特許権侵害差止請求事件口頭弁論終結日平成28年8月31日判決原告デビオファーム・インターナショナル・エス・アー同訴訟代理人弁護士大野聖二同大野浩之同木村広行同訴訟代理人弁理士松任谷優子同訴訟復代理人弁護士多田宏文被告日医工株式会社同訴訟代理人弁護士新保克芳同 髙 﨑 仁同 酒匂禎裕 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載の各製剤について,生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出をしてはならない。 2 被告は,別紙被告製品目録記載の各製剤を廃棄せよ。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」とする特許(第4430229号)を有する原告が,被告の製造・輸入・販売等する別紙被告製品目録記載の各製品が,上記特許の特許請求の範囲請求項1記載にかかる発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,上記各製品の製造等の差止及び廃棄を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容 載にかかる発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,上記各製品の製造等の差止及び廃棄を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1) 当事者ア原告原告は,医薬品等の製造,販売及び輸出等を業とし,スイス法に準拠して設立された法人である。 イ被告被告は,医薬品等の製造,販売,輸入等を業とする株式会社である。 (2) 原告の有する特許権原告は,以下の特許権(請求項の数17。以下「本件特許権」又は「本件特許」といい,特許請求の範囲請求項1にかかる発明を「本件発明」という。 また,本件特許に係る明細書〔甲2〕を「本件明細書」という。なお,本件特許の特許公報を末尾に添付する。)の特許権者である。本件特許の出願人は訴外サノフィ-アベンティスであり,原告は,登録後に,出願人から特許権の移転を受けた。(甲1,2)発明の名称オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用特許番号特許第4430229号出願日平成11年2月25日優先日平成10年2月25日(優先権主張国英国/優先権主張番号9804013.2) (3) 本件特許の特許請求の範囲本件特許の特許請求の範囲請求項1には次のとおり記載されている。 「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,緩衝剤の量が,以下の:(a)5x10-5M ~1x10-2M ,(b)5x10-5M ~5x10-3M ,(c)5x10-5M ~2x1 ,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,緩衝剤の量が,以下の:(a)5x10-5M ~1x10-2M ,(b)5x10-5M ~5x10-3M ,(c)5x10-5M ~2x10-3M ,(d)1x10-4M ~2x10-3M ,または(e)1x10-4M ~5x10-4Mの範囲のモル濃度である,組成物。」(4) 本件発明の構成要件本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。 A オキサリプラチン,B 有効安定化量の緩衝剤およびC 製薬上許容可能な担体を包含するD 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,E 製薬上許容可能な担体が水であり,F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,G 緩衝剤の量が,以下の: (a)5x10-5M ~1x10-2M , (b)5x10-5M ~5x10-3M , (c)5x10-5M ~2x10-3M , (d)1x10-4M ~2x10-3M ,または (e)1x10-4M ~5x10-4M の範囲のモル濃度である,組成物。 (5) 本件特許に関する特許無効審判請求及び訂正請求ア訴外ホスピーラ・ジャパン株式会社(以下「ホスピーラ」という。)は,特許庁に対し,本件特許が無効であると主張して,特許無効審判請求をした(無効2014-800121号事件)。 イ原告は,上記無効審判において,本件特許の特許請求の範囲請求項1について訂正請求をした(以下,同訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)。 ウ特許庁は,平成27年7月14日,本件訂正を認めた上で,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1に記載の発明(以下「本件訂正発明」という。)に無効理由がない旨の審決をした。(甲8) 」という。)。 ウ特許庁は,平成27年7月14日,本件訂正を認めた上で,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1に記載の発明(以下「本件訂正発明」という。)に無効理由がない旨の審決をした。(甲8)エホスピーラは,同月24日,上記ウの審決の取消訴訟を提起した。(甲9)(6) 本件訂正後の特許請求の範囲本件訂正後の特許請求の範囲請求項1には次のとおり記載されている。 (本件訂正による訂正部分を下線で示す。)「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,1)緩衝剤の量が,以下の:(a)5x10-5M ~1x10-2M ,(b)5x10-5M ~5x10-3M ,(c)5x10-5M ~2x10-3M ,(d)1x10-4M ~2x10-3M ,または(e)1x10-4M ~5x10-4Mの範囲のモル濃度である,pHが3~4.5の範囲の組成物,あるいは 2)緩衝剤の量が,5x10-5M ~1x10-4M の範囲のモル濃度である,組成物。」(7) 本件訂正発明の構成要件本件訂正発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(本件訂正による訂正部分を下線で示す。)。 A オキサリプラチン,B 有効安定化量の緩衝剤およびC 製薬上許容可能な担体を包含するD 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,E 製薬上許容可能な担体が水であり,F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,G 1)緩衝剤の量が,以下の:(a)5x10-5M ~1x10-2M ,(b)5x10-5M ~5x10-3M ,(c)5x10-5M ~2 剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,G 1)緩衝剤の量が,以下の:(a)5x10-5M ~1x10-2M ,(b)5x10-5M ~5x10-3M ,(c)5x10-5M ~2x10-3M ,(d)1x10-4M ~2x10-3M ,または(e)1x10-4M ~5x10-4Mの範囲のモル濃度である,HpHが3~4.5の範囲の組成物,あるいはI 2)緩衝剤の量が,5x10-5M ~1x10-4M の範囲のモル濃度である,組成物。 (8) 被告の製品ア被告は,別紙被告製品目録記載の各製品(以下,これらを併せて「被告製品」という。)を製造,輸入及び販売している。 イ被告製品は,構成要件A,C,E及びHを充足する。 また,被告製品中には,オキサリプラチンが分解して溶液中に生じるシュウ酸(以下「解離シュウ酸」という。)が含まれているが,シュウ酸が別 途に添加されてはいない。 被告製品中で検出されるシュウ酸のモル濃度の数値は,6.4x10-5M~7.0x10-5M の範囲にあり,これは,構成要件G及びIに示されるモル濃度の範囲に含まれる。 (9) 本件特許の優先日前の先行文献の存在本件特許の優先日(平成10年2月25日)の前には,以下の先行文献が存在する。 ア平成8年(1996年)2月22日に国際公開された国際公開第96/04904号公報(乙1の1。以下,同公報を「乙1公報」といい,同公報に記載された発明を「乙1発明」という。)。 イ昭和60年(1985年)10月発行の薬学雑誌105(10)に掲載された喜谷喜徳作成にかかる「制癌性白金錯体の研究」と題するレビュー(乙17。以下,同レビューを「乙17文献」といい,同レビューに記載された発明を「乙17発明」という。)。 5(10)に掲載された喜谷喜徳作成にかかる「制癌性白金錯体の研究」と題するレビュー(乙17。以下,同レビューを「乙17文献」といい,同レビューに記載された発明を「乙17発明」という。)。 3 争点(1) 被告製品は本件発明の技術的範囲に属するかア構成要件B,F及びGの「緩衝剤」の充足性イ構成要件B及びDの「安定」の充足性(2) 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものかア乙1発明による新規性欠如イ乙1発明による進歩性欠如ウ乙17発明による新規性欠如エ 「安定」に関するサポート要件違反の有無(3) 訂正の対抗主張の成否ア訂正要件違反の有無イ本件訂正により無効理由が解消するか ウ pHの数値限定に関するサポート要件違反の有無第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)ア(構成要件B,F及びGの「緩衝剤」の充足性)について〔原告の主張〕(1) 本件発明の「緩衝剤」には「シュウ酸」が含まれているところ,被告製品は,有効安定化量のシュウ酸を包含しているから,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を充足する。 (2) 被告の主張に対する反論この点に関して被告は,本件発明の「シュウ酸」は,オキサリプラチン溶液に更に緩衝剤として添加するシュウ酸(以下「添加シュウ酸」ということがある。)を意味するところ,自然に生成したにすぎない解離シュウ酸は「オキサリプラチン」(構成要件A)に含まれるものであって,「緩衝剤」に該当しない旨主張する。しかし,以下の通り,被告の上記主張は失当である。 ア特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められる(特許法70条1項)。 そして,本件特許の特許請求の範囲請求項1には,「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤お る。 ア特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められる(特許法70条1項)。 そして,本件特許の特許請求の範囲請求項1には,「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,」及び「緩衝剤の量が,以下の:」と記載されている。ここで,「包含」とは,文言上,「つつみこみ,中に含んでいること」を意味するから,本件発明の「緩衝剤の量」が「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」を意味することは明らかである。 この点に関しては,本件特許の無効審判の審決(甲8・10頁)も,「当業者はこの『緩衝剤の量』を『オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量』と理解すると認められる。」と判断している。 イ次に,本件明細書の記載を斟酌すると,本件明細書においては,「緩衝 剤という用語は,本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。」(段落【0022】。 下線は原告による。)と明確に定義されており,添加されたものに限定されていない。 ウまた,「緩衝剤は,有効安定化量で本発明の組成物中に存在する。緩衝剤は,約5x10-5M ~約1x10-2M の範囲のモル濃度で,好ましくは約5x10-5M~5x10-3M の範囲のモル濃度で,さらに好ましくは約5x10-5M ~約2x10-3Mの範囲のモル濃度で,最も好ましくは約1x10-4M ~約2x10-3M の範囲のモル濃度で,特に約1x10-4M ~約5x10-4M の範囲のモル濃度で,特 は約5x10-5M ~約2x10-3Mの範囲のモル濃度で,最も好ましくは約1x10-4M ~約2x10-3M の範囲のモル濃度で,特に約1x10-4M ~約5x10-4M の範囲のモル濃度で,特に約2x10-4M~約4x10-4M の範囲のモル濃度で存在するのが便利である。」(段落【0023】。下線は原告による。)との記載からも,「緩衝剤」は,添加されるか否かではなく,存在するか否かによって検討されるべきことが明らかであり,本件発明における「緩衝剤」は,解離シュウ酸であるか添加シュウ酸であるかにかかわらず,現に含まれるシュウ酸であれば足りる。 エさらに,本件明細書には,シュウ酸を添加していない実施例18(b)が記載されており,「緩衝剤」が添加シュウ酸に限られないことが明白である。そして,実施例18(b)の実験結果(【表14】)は,微量なシュウ酸を付加した実施例1及び8の実験結果(【表8】【表9】)と,大きな差がない。 この点に関して被告は,実施例1,実施例8及び実施例18(b)は実施例ではない旨主張している。しかし,これらが補正によって「参考例」等と書き換えていないことからも明らかなように,実施例1,8及び18(b)は本件訂正発明の実施例であり,被告の主張は本件明細書の記載に基づかないものである。実施例18(b)では,「初期」と「1ヶ月」に おける不純物量の差が小さくなっており,解離シュウ酸によって不純物の生成が抑制されることが示されている。また,オキサリプラチンの分解で生じるシュウ酸の量を,本件明細書の実施例1,8及び18(b)に記載された溶液中のジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体の量から推計すると次の表のとおりとなるが,この表におけるオキサリプラチン溶液組成物中の(解離シュウ酸 8及び18(b)に記載された溶液中のジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体の量から推計すると次の表のとおりとなるが,この表におけるオキサリプラチン溶液組成物中の(解離シュウ酸及び添加シュウ酸を問わない)シュウ酸濃度(下表の(C)+(D)の合計値)からも,実施例1,8及び18(b)が名実ともに実施例であることは明らかである。 ジアクオDACHプラチン(A)ジアクオDACHプラチン二量体(B)(A)及び(B)量から予想されるシュウ酸量(分解量)(C)付加されたシュウ酸量(D)(C)+(D)の合計値不純物総量(%w/w)実施例1(1ヶ月)3.0×10-51.2×10-55.3×10-51×10-56.3×10-50.49実施例8(1ヶ月)3.9×10-51.5×10-56.8×10-51×10-57.8×10-50.50実施例18(b)(1ヶ月)3.3×10-51.2×10-55.8×10-5 5.8×10-50.53 したがって,実施例1,8及び18(b)はいずれも実施例であり,これらの実施例により解離シュウ酸の働きが理解できる。 なお,本件明細書には「実施例18(b)の非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」(段落【0073】)との記載があるが,これは,実施例18(b)が調製時においてシュウ酸が添加されていない組成物であること から,調整時からある程度時間が経過した時点を意味する「初期」や「1か月後」の結果と比較して,調製時点においては「非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」である旨表現されているにすぎず,何ら不自然なことではない。 オ本件発 間が経過した時点を意味する「初期」や「1か月後」の結果と比較して,調製時点においては「非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」である旨表現されているにすぎず,何ら不自然なことではない。 オ本件発明の目的について被告は,本件発明は,乙1発明より安定性を向上させる(不純物の量を減らす)ものであって,そのためには,「緩衝剤」は添加シュウ酸でなければならない旨主張する。 しかし,乙1発明はオキサリプラチンの濃度,pH,安定性等で特定された発明であるのに対して,本件発明は含有されるシュウ酸またはそのアルカリ金属塩の量,安定性等で特定された発明であり,両者は全く異なる技術思想を採用することによって製薬上安定なオキサリプラチン水溶液の製剤の提供を可能とするものである。すなわち,本件発明は,以下の通り,乙1発明と同じ課題(製薬上安定なオキサリプラチン水溶液の製剤の提供)を解決するために,異なる技術的思想を採用したものであり,乙1発明における課題をさらに解決したという発明ではない。 まず,本件明細書(段落【0012】~【0015】)をみると,凍結乾燥物質を利用した場合には経費が掛かり,エラーが生じる可能性があることが説明されており,続いて,凍結乾燥物質を再構築した場合,つまり水溶液にしたときの欠点として,(a)微生物汚染の危険,(b)滅菌失敗の危険,(c)不完全溶解による粒子残存の可能性が説明され,「水性溶液中では,オキサリプラチンは,時間を追って,分解して,種々の量のジアクオDACHプラチン(式I),ジアクオDACHプラチン二量体(式II)およびプラチナ(IV)種(式III)」を不純物として生成し得るので「上記の不純物を全く生成しないか,あるいはこれまでに知られているより有意に少ない量でこのような不純物を生成するオキサリプラチン I)およびプラチナ(IV)種(式III)」を不純物として生成し得るので「上記の不純物を全く生成しないか,あるいはこれまでに知られているより有意に少ない量でこのような不純物を生成するオキサリプラチンのより 安定な溶液組成物を開発することが望ましい」とされている(段落【0016】)。 そして,続く段落【0017】においては,凍結乾燥物質による「前記の欠点を克服し,そして長期間の,即ち2年以上の保存期間中,製薬上安定である,すぐに使える(RTU)形態のオキサリプラチンの溶液組成物が必要とされている。したがって,すぐに使える形態の製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物を提供することによりこれらの欠点を克服することが,本発明の目的である。」とされている。 このように,本件発明は,凍結乾燥物質による欠点を克服するためのものであり,「上記の不純物を全く生成しないか,あるいはこれまでに知られているより有意に少ない量でこのような不純物を生成する」(段落【0016】)との記載は,凍結乾燥物質を水に溶かしたものと比較してなされたものである。 カ外国における対応特許に関する手続きについて(ア) 被告は,本件特許に対応する米国特許及びブラジル特許(以下それぞれ「対応米国特許」,「対応ブラジル特許」という。)の審査経過を踏まえて縷々主張するが,特許権については属地主義の原則が採用されており,外国における手続きが,日本における技術的範囲の解釈に影響を及ぼすことは法的にあり得ない。 (イ) 仮にそうでないとしても,本件特許はPCT出願を基礎として日本に移行したものであって出願日は平成11年(1999年)2月25日(甲2)であるのに対し,対応米国特許(US6306902)の出願日は同月22日であり,両者は完全に別個独立した出願にかか として日本に移行したものであって出願日は平成11年(1999年)2月25日(甲2)であるのに対し,対応米国特許(US6306902)の出願日は同月22日であり,両者は完全に別個独立した出願にかかる特許である。 そして,対応米国特許の出願人は,あくまでも緩衝剤が「有効安定化量」で溶液中に存在することが重要であるという事実を主張した上で,これを裏付けるために,溶液中に存在する緩衝剤の量によって,(1/4. 8)倍や(1/2.5)倍というように不純物が減少することを示しているにすぎない。そして,「『有効安定化量の緩衝剤』が添加された場合に,より安定した製剤が得られることを明らかにはっきりと示している。」との指摘は,あくまで溶液中に存在する緩衝剤の量によって,安定な組成物が得られることを指摘するものであり,「添加」すること自体に何か意味を見出しているわけではない。 よって,対応米国特許の出願過程にみられる書面(乙9ないし12)の記載内容は被告の主張を裏付けるものではない。 (ウ) 次に,対応ブラジル特許についてみると,被告は,対応ブラジル特許の出願過程において出願人から提出された「拒絶処分に対する不服申立て」と題する文書(乙13。以下「乙13文書」という。)における「シュウ酸を緩衝剤として加えれば,不純物が発生しない」との記載(乙13・訳文3頁)を指摘しているが,これは「シュウ酸を緩衝剤として加え」た場合の結果(事実)を単に記載したものと解される。 また,対応ブラジル特許は,「緩衝剤をシュウ酸またはシュウ酸ナトリウム,さらにそのモル濃度を1×10-4M から5×10-4M の範囲に限定し・・・た」(乙13・訳文)ものであって,本件発明とは異なるモル濃度の点において限定した発明であり,乙13文書では,ジアクオDACHプ のモル濃度を1×10-4M から5×10-4M の範囲に限定し・・・た」(乙13・訳文)ものであって,本件発明とは異なるモル濃度の点において限定した発明であり,乙13文書では,ジアクオDACHプラチン,ジアクオDACHプラチン二量体という不純物の量を問題とせずに,「不特定不純物」の量を問題として説明がされている。 よって,乙13文書において,本件発明とは異なる説明がされているのは当然であり,乙13文書によって本件発明の技術的範囲が限定されることはない。 〔被告の主張〕(1) オキサリプラチンを水に溶解すると,その一部は溶液中で解離し,シュウ酸(解離シュウ酸)が生成する。被告製品から検出されるシュウ酸も同様に 解離シュウ酸である。他方,本件発明は,このような状態のオキサリプラチン溶液に更にシュウ酸を緩衝剤として添加するものであり,自然に生成したにすぎない解離シュウ酸は,「オキサリプラチン」(構成要件A)に含まれるものであって,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」には該当しない。 (2) この点に関して原告は,本件特許の特許請求の範囲請求項1に「包含する」という語が用いられていることから,本件発明の「緩衝剤の量」は「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」を意味するなどと主張する。 しかし,この「包含する」という用語は,「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体」という三つの構成要素を含むことを単に示すのみであって,その構成要素の一つである「有効安定化量の“緩衝剤”」の意味を示すものではない。 オキサリプラチンの水溶液中に必然的に生成される解離シュウ酸が,本件発明の構成要素である「有効安定化量の“緩衝剤”」に該当するか否かについては,「包含する」という記載は何らの結論も導 のではない。 オキサリプラチンの水溶液中に必然的に生成される解離シュウ酸が,本件発明の構成要素である「有効安定化量の“緩衝剤”」に該当するか否かについては,「包含する」という記載は何らの結論も導かない。むしろ,「オキサリプラチン」と「製薬上許容可能な担体」の他に,「緩衝剤」を構成要素として「包含する」と記載されている以上,それは「オキサリプラチン」と「製薬上許容可能な担体」に由来する解離シュウ酸とは別の存在として,「緩衝剤」が本件発明の構成要素であることを示すものである。 原告の指摘する審決(甲8)は「緩衝剤の量」について「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」の意味であると認定しているが,それは「緩衝剤の“量”」が溶液中に含まれる「緩衝剤」の全量に基づいて判断されるということにすぎず,これにより「緩衝剤」に解離シュウ酸が含まれると解釈されるわけではない。本件で問題となっているのは,オキサリプラチンの内在物である解離シュウ酸しか存在しない場合に,それが「緩衝剤」に該当するかであるが,その点について審決は何らの判断も示し ていない。 そして,本件明細書には,溶液中の添加シュウ酸の量を基準とした緩衝剤のモル濃度が記載されている一方,解離シュウ酸を含めて緩衝剤のモル濃度を計算した記載は存在しない。 さらに,「緩衝剤」は,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩であるが(構成要件F),緩衝剤がアルカリ金属塩である場合には,解離シュウ酸はアルカリ金属塩ではないから,「緩衝剤の量」は添加したアルカリ金属塩の量として一義的に理解される。ところが,「緩衝剤」がシュウ酸の場合に,「緩衝剤の量」が,解離シュウ酸と添加したシュウ酸の量の合計になるというのは,クレームとして矛盾している。 以上の点からすれば,本件発明にお 的に理解される。ところが,「緩衝剤」がシュウ酸の場合に,「緩衝剤の量」が,解離シュウ酸と添加したシュウ酸の量の合計になるというのは,クレームとして矛盾している。 以上の点からすれば,本件発明における「緩衝剤の量」とは「オキサリプラチン溶液に含まれる添加シュウ酸の量」を意味するものというべきであって,解離シュウ酸までも「緩衝剤」に含まれるなどと解釈することはできない。 (3) 本件明細書をみると,段落【0022】において,緩衝剤について,「オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチン・・の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。」とその意味が明確にされている。これに続く段落【0023】は,添加シュウ酸が緩衝剤として溶液中に所定の濃度で存在することを述べたものであり,解離シュウ酸が緩衝剤に含まれることを述べたものではない。 そして,解離シュウ酸は,ジアクオDACHプラチン等の不純物の生成を「防止または遅延」するものではない。すなわち,解離シュウ酸は,ジアクオDACHプラチン等と対になって生成し,緩衝剤によってジアクオDACHプラチン等の発生が防止されれば,それに応じて生成されなくなる成分である。 このように,解離シュウ酸は緩衝剤によって生成を防止される不純物にすぎず,ジアクオDACHプラチン等の生成を「防止または遅延」する効果はない。 (4) 原告は,濃度5mg/mLのオキサリプラチンを用いた実施例1及び8は非常に微量のシュウ酸等が付加された場合であるが,シュウ酸を付加していない実施例18(b)の実験結果と比べると,大きな差がないことを理解でき,5mg/mLのオキサリプラチンに由来するシュウ酸の量が支配的な働きを果たして が付加された場合であるが,シュウ酸を付加していない実施例18(b)の実験結果と比べると,大きな差がないことを理解でき,5mg/mLのオキサリプラチンに由来するシュウ酸の量が支配的な働きを果たしていると推測されるなどと主張する。 しかし,実施例18(b)は比較例である。また,実施例1及び8の「緩衝剤」のモル濃度も,「0.00001M」であって,構成要件Gの下限値(5×10-5M)未満である。本件出願当時,本件特許の特許請求の範囲請求項1は緩衝剤の量を限定しておらず(乙7の1・22頁),その後,5×10-5Mよりも少ない緩衝剤量を放棄する補正を行って,現在の請求項の記載となったものである。添加シュウ酸量の少ない実施例1及び8は,補正後も削除されていないだけで,補正後の発明の実施例ではない。 そして,添加シュウ酸が全くない比較例と,本件発明の規定量に達しない添加シュウ酸量である実施例1及び8において,不純物量に大差がないのは当然である。もっとも,本件明細書の【表8】,【表9】及び【表14】におけるジアクオDACHプラチン,ジアクオDACHプラチン二量体及び不特定不純物を合計した不純物量を表に示すと次のとおりであり,添加シュウ酸が全くない比較例(実施例18(b))と比べると,僅かでも添加シュウ酸が存在する実施例1及び8の方が不純物量が少ないから,添加シュウ酸にオキサリプラチンシュウ酸ジアクオDACHプラチン+OO-OO-2H2O+水 効果があることが理解できる。 (5) 原告は,本件発明は,乙1発明とは異なる技術的思想を採用したものであり,乙1発明における課題を解決する発明ではないと主張する。 しかし,オキサリプラチン製剤は,不安定な水溶液 → 凍結乾燥物質 → 発明は,乙1発明とは異なる技術的思想を採用したものであり,乙1発明における課題を解決する発明ではないと主張する。 しかし,オキサリプラチン製剤は,不安定な水溶液 → 凍結乾燥物質 → 乙1発明の水溶液という流れで開発されてきており,凍結乾燥物質を再構築する際に様々な問題があることから,最初から水溶液で保存することが課題として認識され,それを乙1発明が解決したのであり,このことは,本件発明の優先日前に公知であった。実際,本件明細書の段落【0010】には,乙1発明が本件発明の従来技術であることが明記されている。 そして,本件発明は,乙1発明を従来技術として発明されたものであり,本件発明の課題は,製薬上安定なオキサリプラチン水溶液である乙1発明よりも,さらに不純物を減らすことである。このことは,本件明細書において,乙1発明を実施した実施例18(b)について,「実施例18比較のために,例えば豪州国特許出願第29896/95 号(1996 年3 月7日公開)に記載されているような水性オキサリプラチン組成物を,以下のように調製した」(段落【0050】。下線は被告による。)と,当該実施例が本件発明の比較例として記載され,他の実施例と比較できるように安定性に関する測定データが本件明細書に記載されていることから 不純物量(%w/w)初期1ヶ月実施例10.380.49実施例80.390.50実施例18(b)0.470.53 も裏付けられる。 そして,本件発明の,乙1発明にはない別の技術手段は,緩衝剤としてシュウ酸を添加する点のみである。なお,乙1発明のpHの数値範囲には,技術的意味はない。 (6) 対応外国特許についてア対応米国特許の審査過程において,出願 はない別の技術手段は,緩衝剤としてシュウ酸を添加する点のみである。なお,乙1発明のpHの数値範囲には,技術的意味はない。 (6) 対応外国特許についてア対応米国特許の審査過程において,出願人は,拒絶理由通知(乙9,11)に対し,①丙らの発明(乙1発明)は,緩衝剤などの他の成分を必要としないオキサリプラチンの水溶液製剤であること,②丙らの発明からは,安定化量の緩衝剤を加える本件発明を想到できないこと,③本件発明は,オキサリプラチンの水溶液に緩衝剤を加えることによって,不純物をまったく生成することがないか,丙らの製剤中に見出されるよりも著しく少量の不純物を生成する点にあることを述べている。 イまた,対応ブラジル特許の審査過程においても,実施例18(b)(乙13・翻訳1頁「比較試験18」)を,緩衝剤を加えていない乙1発明に対応する比較例と位置づけ,「本願発明とは異なり,保存の際に薬剤に緩衝剤を加えておかないと,不特定不純物が現れるが,それはこの薬剤を使用している患者にとって大きなリスクとなる」,「本願発明にあるシュウ酸を緩衝剤として加えれば,不純物が発生しないということである。」(乙13・翻訳3頁1~5行)と述べている。 ウ上記の各対応特許の出願経過に照らしても,本件発明の「緩衝剤」が添加シュウ酸であること,本件明細書の実施例18(b)が比較例であること,本件発明が乙1発明をより安定とした改良発明であることは,争いようがない。 2 争点(1)イ(構成要件B及びDの「安定」の充足性)について〔原告の主張〕本件発明における「安定」とは,製薬上安定を意味する。本件明細書では, 「2年以上の保存期間中,製薬上安定である。」(段落【0017】)ことを意味するものとされているが,被告製品は市場流通下において2年間安 」とは,製薬上安定を意味する。本件明細書では, 「2年以上の保存期間中,製薬上安定である。」(段落【0017】)ことを意味するものとされているが,被告製品は市場流通下において2年間安定であることが確認されている(甲5・6頁右欄21行目,甲6・32頁4~5行目)。 また,前記1〔原告の主張〕のとおり,実施例18(b)は,本件発明の実施例であるが,被告は,被告製品について,この実施例と同等の不純物の量であると主張しているから,被告製品が本件発明の実施品であることを認めているに等しい。 〔被告の主張〕本件発明は,凍結乾燥粉末形態のオキサリプラチン生成物のみならず,公知技術である乙1発明のオキサリプラチン水溶液の欠点を克服したものである。 そして,本件発明の「安定」(構成要件D)という効果は,「有効安定化量」(構成要件B)の「緩衝剤」によってもたらされるものであるから,「緩衝剤」を含まない被告製品は「安定」とは言えない。 ところで,被告製品におけるジアクオDACHプラチン等の不純物総量をみると下表のとおりである。被告製品の不純物総量は,本件発明の比較例である実施例18(b)の不純物総量(0.53%w/w)とほぼ同等であり,これは本件発明の実施例9及び10の不純物総量(それぞれ0.21%w/w,0. 14%w/w)の2倍以上であるから,被告製品は本件発明の「安定」という効果を有していない。 製剤ロット解離シュウ酸(%w/w)不純物総量(%w/w)50mg「日医工」JP17B00.120.47100mg「日医工」JP23000.120.47 3 争点(2)ア(乙1発明による新規性欠如)について〔被告の主張〕 (1) 本件発明の「緩衝剤」は添加したものに限 g「日医工」JP23000.120.47 3 争点(2)ア(乙1発明による新規性欠如)について〔被告の主張〕 (1) 本件発明の「緩衝剤」は添加したものに限られず溶液中に存在している全ての「シュウ酸」が「緩衝剤」に該当する旨の原告の主張を前提とすると,本件発明は,以下のとおり,公知の乙1発明のオキサリプラチン水溶液と相違がないから,新規性がない。 (2) 乙1公報の記載に従って,40℃におけるオキサリプラチン水溶液中のシュウ酸と,シュウ酸以外の不純物を測定した結果を,平成28年2月24日付け「試験成績証明書」(乙14)に示す(以下,同文書記載の追試を「乙14追試」という。)。乙14追試において測定されたシュウ酸含有量は以下のとおりである。 これによれば,13週間後のシュウ酸(イオン)は0.32ないし0. 37%w/wであり,これをモル濃度に換算すると,7.3ないし8.4×10-5Mであるから,いずれのサンプルもシュウ酸の濃度は5×10-5M以上である。 (3) そして,本件発明と乙1発明を対比すると以下の通りである。 ア乙1発明の「オキサリプラティヌム」は本件発明の「オキサリプラチン」(構成要件A)である。その水溶液は,「製薬上許容可能な担体が水」(構成要件E)であり,それを「包含する」(構成要件C)。 イ乙1発明は,水溶液中にシュウ酸を含有しているので,「緩衝剤」(構成要件B,F,G)を満たす。 ウ乙1発明のオキサリプラチン水溶液は「安定」であるから,「安定オキサリプラチン溶液組成物」(構成要件D)であり,また,溶液中に存在するシュウ酸は「有効安定化量の緩衝剤」(構成要件B)に該当する。 エ乙14追試の結果の通り,乙1発明のオキサリプラチン水溶液中 サリプラチン溶液組成物」(構成要件D)であり,また,溶液中に存在するシュウ酸は「有効安定化量の緩衝剤」(構成要件B)に該当する。 エ乙14追試の結果の通り,乙1発明のオキサリプラチン水溶液中のシュウ酸量は,構成要件Gに記載された数値範囲にある。 (4) 以上の通り,特許法29条1項3号及び同法123条1項2号により,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。 〔原告の主張〕(1) 乙14追試は,次の各点において乙1公報の記載を正確に再現したものではないから,これをもって本件発明の新規性を否定することはできない。 ア乙1公報記載の実施例では,オートクレーブ処理がされていないにもかかわらず,乙14追試ではオートクレーブ処理(121℃,15分間)が実施されている。 イ乙1公報では出発原料のオキサリプラチンとしてタナカ株式会社の方法により得られる製品のようなものを用いることが想定されているが,乙14追試ではヘレウス・プレシャス・メタルズ・ゲーエムベーハー・アンド・カンパニー製原薬を用いている。 ウ乙1公報記載の実施例では,40℃(相対湿度75%)の場合のpHは5.45ないし5.50であるのに対して,乙14追試ではpHが5.6ないし5.7となっている。 エシュウ酸濃度の測定法の信頼性が何ら担保されていない。 (2) 乙1公報から,仮にシュウ酸のモル濃度が読み取れるとしても,本件発明の範囲から外れる。乙1公報の実施例3で開示されているオキサリプラチンの水溶液に基づいて計算すると,乙1発明におけるシュウ酸濃度は最大でも3.5×10-5ないし4.2×10-5(mol/L=M)である。 (3) したがって,乙1発明により本件発明は新規性が否定されない。 4 争点(2)イ(乙1発明による進歩性欠如 も3.5×10-5ないし4.2×10-5(mol/L=M)である。 (3) したがって,乙1発明により本件発明は新規性が否定されない。 4 争点(2)イ(乙1発明による進歩性欠如)について〔被告の主張〕(1) 「緩衝剤」の解釈にかかわらず,本件発明には,以下の通り,乙1発明に基づく進歩性欠如の無効理由がある。 (2) 「緩衝剤」に解離シュウ酸が含まれるとした場合ア乙1公報には,以下の内容の乙1発明が開示されている。 「オキサリプラチン,水及びシュウ酸を包含し,不純物が0.18~1.16重量%でその主要なものがシュウ酸である,2mg/mlの濃度の安定オキサリプラチン溶液組成物。」そして,本件発明と乙1発明を対比すると,本件発明は,シュウ酸が構成要件Gに規定するモル濃度であるのに対し,乙1発明は,0.18ないし1.16重量%の不純物の主要なものがシュウ酸である点で相違する。 イ相違点について(ア) 乙1公報の特許請求の範囲には「(オキサリプラチンの)濃度が1ないし5mg/ml」の「医薬的に安定な製剤」と記載されているから,オキサリプラチンの濃度として5mg/mlを選択できる。 そればかりか,以下のとおり,本件特許の優先日当時,凍結乾燥剤を溶液として再構成する際,2.5ないし5mg/mlのオキサリプラチン水溶液を作製するのが通例であった。したがって,乙1発明において,オキサリプラチンの濃度を5mg/mlとする動機付けは十分に認められる。 「エロキサチン50mgの場合:溶媒10mlまたは20mlを加えれば2.5mgないし5mg/ml濃度のオキサリプラチンが得られる。 エロキサチン100mgの場合:溶媒20mlまたは40mlを加えれば2.5mgないし5mg/ml濃度のオキサリプラチンが えれば2.5mgないし5mg/ml濃度のオキサリプラチンが得られる。 エロキサチン100mgの場合:溶媒20mlまたは40mlを加えれば2.5mgないし5mg/ml濃度のオキサリプラチンが 得られる。」(乙33)(イ) 医薬において,不純物の含有量の確認は当然に行われところ,乙1公報の実施例3には,不純物の主要なものがシュウ酸であることが記載されているから,当業者は,シュウ酸の濃度を測定する。そして,5mg/mlのオキサリプラチン水溶液において,解離シュウ酸を測定すると5×10-5M以上であり,構成要件Gの要件を充足することは,乙1公報記載の特許の実施権者が,実験成績証明書(乙2。以下,乙2記載の実験を「乙2追試」という。)において明らかにしているとおりである。 (ウ) したがって,オキサリプラチン水溶液中のシュウ酸を5×10-5M以上とする構成は乙1発明から容易に想到し得るから,上記相違点は容易に克服可能である。 ウよって,本件発明の「緩衝剤」に解離シュウ酸を含むとした場合,本件発明には進歩性がない。 (3) 「緩衝剤」は添加したシュウ酸(またはシュウ酸ナトリウム)に限られるとした場合ア前記(2)アの相違点に加え,本件発明は,シュウ酸を一定量添加して安定化しているのに対し,乙1発明はシュウ酸を添加しておらず,添加に伴う安定性を有していない点で相違する。 イしかし,オキサリプラチンは,水溶液中,一部がジアクオDACHプラチンとシュウ酸に解離して,以下の化学平衡の状態(可逆反応において,順方向の反応と逆方向との反応速度が釣り合って反応物と生成物の組成比が巨視的に変化しない状態)となることは,本件優先日当時の技術常識である。 そして,ジアクオDACHプラチンは強い毒性を有するか 向との反応速度が釣り合って反応物と生成物の組成比が巨視的に変化しない状態)となることは,本件優先日当時の技術常識である。 そして,ジアクオDACHプラチンは強い毒性を有するから,ジアクオDACHプラチンの量を抑制することがオキサリプラチン溶液の課題であった。この技術課題を知る当業者にとって,乙1発明において,ジアクオDACHプラチンの少ないオキサリプラチン水溶液を得るために,ルシャトリエの法則に基づいて,シュウ酸を適量添加し安定化することは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず,容易に想到することである。 ウしたがって,「緩衝剤」は添加したシュウ酸(又はシュウ酸ナトリウム)に限られるとした場合でも,本件発明には進歩性がない。 (4) 以上の通り,特許法29条2項及び同法123条1項2号により,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。 〔原告の主張〕(1) 被告の指摘する相違点に加え,乙1発明では,シュウ酸は不純物とされているのに対し,本件発明では,シュウ酸は緩衝剤とされており,この点においても相違する。しかし,被告はかかる相違点について,容易に想到できる旨の主張をしていない。むしろ,被告は,乙1公報に触れた当業者が,オキサリプラチン水溶液の解離シュウ酸を不純物として測定すると主張しているのであるから,かかる相違点について想到しないことを前提としている。 (2) そして,不純物たる解離シュウ酸の濃度を測定したとしても,必ず構成要件Gの数値範囲に入るというわけではない。5mg/mLのオキサリプラチン水溶液中のシュウ酸濃度を測定した結果は,下表のとおりであった(甲15)。 オキサリプラチンシュウ酸ジアクオDACHプラチン+OO-OO-2H2O+水 水溶液中のシュウ酸濃度を測定した結果は,下表のとおりであった(甲15)。 オキサリプラチンシュウ酸ジアクオDACHプラチン+OO-OO-2H2O+水 また,測定値と,オキサリプラチン溶液組成物の製薬上の安定性との関係性を見出すことはできないから,乙1発明から,構成要件Gの数値範囲に想到することはできない。 さらに,被告は,乙2追試により本件発明におけるシュウ酸の濃度に係る構成に容易に想到できるかのような主張もしているが,乙1公報の実施例3は,「2mg/mL」のオキサリプラチン水溶液であるのに対し,乙2追試は,「5mg/mL」のオキサリプラチン水溶液であるから,乙2追試の結果は,乙1公報の実施例3を再現したものではない。乙2追試の実験成績証明書(乙2)は,本件特許優先日以降に作成されている。 したがって,乙2追試は,本件発明の進歩性を否定する根拠とはならず,乙1発明から本件発明に係る構成について容易に想到するということはできない。 (3) 被告は,「緩衝剤」が添加シュウ酸(又はシュウ酸ナトリウム)に限られる場合であっても進歩性を欠くと主張する。 しかし,被告が主張するルシャトリエの法則は,化学反応が平衡状態にあることを前提とするものであるところ,本件特許の優先日当時,オキサリプラチンが,水性溶液中で時間を追って分解し,種々の量のジアクオDACHプラチン,ジアクオDACHプラチン二量体,およびプラチナ(IV)種を生じることが知られていたものの(本件明細書の段落【0012】~【0016】),平衡状態に達するかどうかは不明であった。 さらに,シュウ酸は不純物であり,しかも強い毒性を有するものである。 そうすると,いくらジアクオDACHプラチンに毒性があったとして 】),平衡状態に達するかどうかは不明であった。 さらに,シュウ酸は不純物であり,しかも強い毒性を有するものである。 そうすると,いくらジアクオDACHプラチンに毒性があったとしても,不純物であり,かつ毒性のあるシュウ酸を敢えて存在させることに阻害事由があるのは明白である。 (4) 以上のとおり,いずれにしても,本件発明には,乙1発明に基づく無効理由はない。 5 争点(2)ウ(乙17発明による新規性欠如)について〔被告の主張〕(1) 乙17文献には,溶解度が7.9mg/mlのオキサリプラチンが開示されており,当該水溶液が医薬として安定であることも記載されている(乙17・916頁3~16行)。 溶解度を測定するためには必ず飽和溶液が作成されるから,乙17文献の上記開示内容は,当該溶液中のオキサリプラチン濃度が7.9mg/mlであったことを意味する。そして,オキサリプラチン濃度が7.9mg/mlの飽和水溶液において,解離シュウ酸のモル濃度は6.3×10-5Mであり,この濃度は,初期値も1か月後も変わらないことが確認されている(乙37)。 したがって,解離シュウ酸が「緩衝剤」に該当し,「安定」は製薬上の安定を意味するという原告の主張に従うと,乙17発明の飽和水溶液は,本件発明と同一である。 本件発明は,乙17文献により新規性を欠如している。 (2) この点に関して原告は,乙17発明の飽和水溶液の調製条件が不明であるというが,単に飽和させればよいだけであり,技術常識に従って当業者が適宜条件を選択すれば容易に得ることができるから,原告の上記主張は失当である。 (3) 以上の通り,特許法29条1項3号及び同法123条1項2号により,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。 〔原告の主張〕 るから,原告の上記主張は失当である。 (3) 以上の通り,特許法29条1項3号及び同法123条1項2号により,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。 〔原告の主張〕 (1) 乙17文献において開示された事項は,「溶解度」という化学化合物の普遍的な物性にすぎないのであって,何か特定の条件で調製された具体的なオキサリプラチン水溶液が開示されているものではない。乙17文献には追試によって明らかにすべき具体的構成の開示がないのであるから,乙17発明は追試不能である。 そして,乙17文献は,少なくとも,オキサリプラチン溶液組成物を開示するものではないし,それが製薬上安定であることも示されていないし,緩衝剤の濃度範囲を開示するものではないし,シュウ酸が緩衝剤であることの開示もない。 (2) したがって,乙17発明により,本件発明の新規性が否定される余地はない。 6 争点(2)エ(「安定」に関するサポート要件違反の有無)について〔被告の主張〕(1) 原告の主張を前提とすると,構成要件B及びDの「安定」について,本件明細書からはその意味を確定することができない。 すなわち,本件明細書の段落【0031】には,従来既知の溶液組成物よりもジアクオDACHプラチン等の不純物の生成が少ないものが「安定」である旨記載されているが,具体的な意義についてそれ以上の説明はない。また,その他の本件明細書の記載を見ても,「比較のために」(段落【0050】)として公知文献に基づいて調製されたオキサリプラチン水溶液(実施例18(b))の不純物のデータが記載されているのみであり,それ以外に従来既知の溶液組成物の安定性を明らかにする記載はない(【表14】)。 これらの記載によれば,本件発明の「安定」の意義に 液(実施例18(b))の不純物のデータが記載されているのみであり,それ以外に従来既知の溶液組成物の安定性を明らかにする記載はない(【表14】)。 これらの記載によれば,本件発明の「安定」の意義については,比較例である実施例18(b)とその他の実施例との不純物データの比較によって理解するより他にない。 ところが,原告は,実施例18(b)は「実施例」であると主張する。こ の原告主張を前提とすれば,「従来既知の溶液組成物」とは一体何を示しているのか,本件発明における「安定」の意味をどのように理解したらよいのか,明細書から理解することができない。 したがって,本件発明にはサポート要件違反の無効理由が存在する。 (2) 以上の通り,特許法36条6項1号及び同法123条1項4号により,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。 〔原告の主張〕前記2〔原告の主張〕のとおり,「安定」が製薬上安定であることを意味するのは明らかであって,被告の主張には理由がない。 したがって,本件特許には何らサポート要件違反はない。 7 争点(3)ア(訂正要件違反の有無)について〔原告の主張〕本件訂正によりpHの範囲が特定されたが,この構成は本件明細書に記載されている。したがって,本件訂正は,何ら新たな技術的事項を導入するものではなく,新規事項を追加するものではないから,訂正要件違反はない。 〔被告の主張〕本件明細書には,pHの値は,シュウ酸の添加量に応じて自ずと決定されるものとして記載されており,それ以外の方法でpHを調整する方法については何も記載されていないが,これは,本件特許の出願当初の明細書も同様である。 したがって,シュウ酸添加以外の方法によってpHが3ないし4.5の範囲となる場合にまで,本件訂 pHを調整する方法については何も記載されていないが,これは,本件特許の出願当初の明細書も同様である。 したがって,シュウ酸添加以外の方法によってpHが3ないし4.5の範囲となる場合にまで,本件訂正発明の技術的範囲に含まれるというのであれば,「pHが3~4.5」(構成要件H)に係る訂正は,新たな技術的事項を導入するものであるから,新規事項の追加に該当し,特許法134条の2第9項及び同法126条5項の規定する訂正要件に違反する。 8 争点(3)イ(本件訂正により無効理由が解消するか)について〔原告の主張〕 (1) 本件訂正発明のpHの範囲(3~4.5)は,乙1発明におけるpHとの範囲(5.29~5.65)とは異なる。 そして,乙1発明では,特定の範囲の「pH」等を要件として,医薬的な安定性を実現しているのであって,それ以外の範囲の「pH」における安定性を開示するものではないから,本件訂正発明が,乙1発明の「pH」の範囲を満たさずとも製薬上安定なオキサリプラチン溶液を実現したことに技術的意義があるのは明白である。 (2) また,乙1発明では,医薬的に安定なオキサリプラチン製剤が開示されているので,敢えてpHを変更する動機付けがなく,乙1発明において好ましいとされているpH4.5ないし6を他の値(本件訂正発明のpH3~4. 5)とすることについて,阻害事由がある。 (3) したがって,本件訂正によって,乙1発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由を解消することができる。 〔被告の主張〕(1) 本件訂正発明においては,構成要件G及びHと構成要件Iは,選択的にいずれかを具備すれば足りるところ,前記3〔被告の主張〕と同様,乙1発明と本件訂正発明は,構成要件Iにおいて一致しているから,本件訂正発明は,乙1発明に は,構成要件G及びHと構成要件Iは,選択的にいずれかを具備すれば足りるところ,前記3〔被告の主張〕と同様,乙1発明と本件訂正発明は,構成要件Iにおいて一致しているから,本件訂正発明は,乙1発明に照らし,新規性がない。 (2) そして,本件明細書をみると,構成要件H(pHが3~4.5)については,段落【0025】に単に好ましい範囲と記載されているにすぎず,当該範囲を満たすことで特段の臨界的効果が生じることはどこにも記載されていない。 シュウ酸等を添加しないオキサリプラチン水溶液のpHは5程度(2mg/mLの場合)である(乙1の2・4頁24~25行)。不純物の生成等を抑制するために酸性物質であるシュウ酸をオキサリプラチン溶液に添加すれば,pHが「3~4.5」を満たすことになる。本件明細書にはpH値は添加シ ュウ酸量と共に記載されているだけで,pH値を独立の技術事項として制御する記載はどこにもない。 このように,本件訂正発明のpHはシュウ酸の添加量によって決定されており,不純物の生成を抑制するためシュウ酸を添加すれば,自ずとpHは3ないし4.5程度になる。pHは3ないし4.5が好ましいというのは,そのpHに対応するシュウ酸の添加量が好ましいといっているにすぎない。 したがって,pH3ないし4.5という数値範囲に技術的意義はなく,適宜選択したシュウ酸の添加量に応じてpHが決まるにすぎないから,構成要件Hは実質的に相違点ではないし,仮に相違点に当たるとしても容易に想到し得る。 よって,本件訂正発明は,構成要件G及びHを選択した構成であっても,進歩性を欠く。 (3) 以上の通り,いずれにしても,本件訂正によって無効理由を解消することはできない。 9 争点(3)ウ(pHの数値限定に関するサポート要件違反の有 Hを選択した構成であっても,進歩性を欠く。 (3) 以上の通り,いずれにしても,本件訂正によって無効理由を解消することはできない。 9 争点(3)ウ(pHの数値限定に関するサポート要件違反の有無)について〔被告の主張〕(1) 本件明細書では,pHの値は,シュウ酸の添加量に応じて自ずと決定されるものとして記載されており,シュウ酸添加以外の方法によって,添加シュウ酸のモル濃度やオキサリプラチン水溶液の安定性に影響させることなくpHをどのように制御するか,明細書を見ても当業者には理解することができない。 本件明細書には,シュウ酸を添加してpHが3ないし4.5となる方法以外は開示されておらず,pHを独立の技術事項として安定なオキサリプラチン水溶液を得る方法は全く記載されていない。 (2) したがって,シュウ酸添加以外の方法によってpHが3ないし4.5の範囲となる場合まで本件訂正発明の技術的範囲に含まれるというのであれば, 本件特許はサポート要件に違反していることになり,新たな無効理由が存することになる。 〔原告の主張〕(1) 本件明細書の段落【0025】には,「本発明のオキサリプラチン溶液のpHは…3~4.5の範囲である。」と記載されており,pHを3ないし4. 5の範囲とする構成は発明の詳細な説明に記載されている。 また,本件明細書の実施例9ないし13及び15ないし17においては,所定のシュウ酸モル濃度のオキサリプラチン溶液が,pH3ないし4.5の範囲において安定であることが示されており(段落【0064】以降),pH3ないし4.5の範囲は,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものと理解する。 (2) したがって,本件訂正発明は,サポート要件に反しない。 第4 当裁判所の判断 ,pH3ないし4.5の範囲は,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものと理解する。 (2) したがって,本件訂正発明は,サポート要件に反しない。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明の内容(1) 本件明細書には次の各記載がある。 【発明の詳細な説明】・「本発明は,製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物,癌腫の治療におけるその使用方法,このような組成物の製造方法,およびオキサリプラチンの溶液の安定化方法に関する。」(段落【0001】)・「丙等(豪州国特許出願第29896/95号,1996年3 月7日公開)(WO96/04904,1996年2月22日公開の特許族成員)は,1~5mg/mLの範囲の濃度のオキサリプラチン水溶液から成る非経口投与のためのオキサリプラチンの製薬上安定な製剤であって,4.5~6の範囲のpHを有する製剤を開示する。同様の開示は,米国特許第5,716,988号(1998年2月10日発行)に見出される。」(段落【0010】) ・「オキサリプラチンは,注入用の水または5%グルコース溶液を用いて患者への投与の直前に再構築され,その後5%グルコース溶液で稀釈される凍結乾燥粉末として,前臨床および臨床試験の両方に一般に利用可能である。しかしながら,このような凍結乾燥物質は,いくつかの欠点を有する。 中でも第一に,凍結乾燥工程は相対的に複雑になり,実施するのに経費が掛かる。さらに,凍結乾燥物質の使用は,生成物を使用時に再構築する必要があり,このことが,再構築のための適切な溶液を選択する際にそこにエラーが生じる機会を提供する。例えば,凍結乾燥オキサリプラチン生成物の再構築に際しての凍結乾燥物質の再構築用の,または液体製剤の稀釈用の非常に一般的な溶液である0.9%NaCl溶液の誤使 にそこにエラーが生じる機会を提供する。例えば,凍結乾燥オキサリプラチン生成物の再構築に際しての凍結乾燥物質の再構築用の,または液体製剤の稀釈用の非常に一般的な溶液である0.9%NaCl溶液の誤使用は,迅速反応が起こる点で活性成分に有害であり,オキサリプラチンの損失だけでなく,生成種の沈澱を生じ得る。凍結乾燥物質のその他の欠点を以下に示す:(a) 凍結乾燥物質の再構築は,再構築を必要としない滅菌物質より微生物汚染の危険性が増大する。 (b) 濾過または加熱(最終)滅菌により滅菌された溶液物質に比して,凍結乾燥物質には,より大きい滅菌性失敗の危険性が伴う。そして,(c) 凍結乾燥物質は,再構築時に不完全に溶解し,注射用物質として望ましくない粒子を生じる可能性がある。」(段落【0012】,【0013】前段)・「水性溶液中では,オキサリプラチンは,時間を追って,分解して,種々の量のジアクオDACHプラチン(式I),ジアクオDACHプラチン二量体(式II)およびプラチナ(IV)種(式III ):【化3】 【化4】 を不純物として生成し得る,ということが示されている。任意の製剤組成物中に存在する不純物のレベルは,多くの場合に,組成物の毒物学的プロフィールに影響し得るので,上記の不純物を全く生成しないか,あるいはこれまでに知られているより有意に少ない量でこのような不純物を生成するオキサリプラチンのより安定な溶液組成物を開発することが望ましい。」(段落【0013】後段~【0016】)・「したがって,前記の欠点を克服し,そして長期間の,即ち2年以上の保存期間中,製薬上安定である,すぐに使える(RTU)形態のオキサリプラチンの溶 しい。」(段落【0013】後段~【0016】)・「したがって,前記の欠点を克服し,そして長期間の,即ち2年以上の保存期間中,製薬上安定である,すぐに使える(RTU)形態のオキサリプラチンの溶液組成物が必要とされている。したがって,すぐに使える形態の製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物を提供することによりこれらの欠点を克服することが,本発明の目的である。」(段落【0017】) ・「より具体的には,本発明は,オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物に関する。」(段落【0018】)・「オキサリプラチンは,約1~約7mg/mL ,好ましくは約1~約5mg/mL ,さらに好ましくは約2~約5mg/mL ,特に約5mg/mL の量で本発明の組成物中に存在するのが便利である。」(段落【0022】前段)・「緩衝剤という用語は,本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。したがって,この用語は,シュウ酸またはシュウ酸のアルカリ金属塩(例えばリチウム,ナトリウム,カリウム等)等のような作用物質,あるいはそれらの混合物が挙げられる。緩衝剤は,好ましくは,シュウ酸またはシュウ酸ナトリウムであり,最も好ましくはシュウ酸である。」(段落【0022】後段)・「緩衝剤は,有効安定化量で本発明の組成物中に存在する。緩衝剤は,約5x10-5M ~約1x10-2M の範囲のモル濃度で,好ましくは約5x10-5M ~5x10-3M の範囲のモル濃度で,さらに好ましくは約5x10-5M ~約2x10-3 に存在する。緩衝剤は,約5x10-5M ~約1x10-2M の範囲のモル濃度で,好ましくは約5x10-5M ~5x10-3M の範囲のモル濃度で,さらに好ましくは約5x10-5M ~約2x10-3Mの範囲のモル濃度で,最も好ましくは約1x10-4M ~約2x10-3M の範囲のモル濃度で,特に約1x10-4M ~約5x10-4M の範囲のモル濃度で,特に約2x10-4M ~約4x10-4M の範囲のモル濃度で存在するのが便利である。」(段落【0023】)・「前記の本発明のオキサリプラチン溶液組成物は,本明細書中でさらに詳細に後述するように,現在既知のオキサリプラチン組成物より優れたある利点を有することが判明している,ということも留意すべきである。凍結乾燥粉末形態のオキサリプラチンとは異なって,本発明のすぐに使える組成物は,低コストで且つさほど複雑ではない製造方法により製造される。」 (段落【0030】)・「さらに,本発明の組成物は,付加的調製または取扱い,例えば投与前の再構築を必要としない。したがって,凍結乾燥物質を用いる場合に存在するような,再構築のための適切な溶媒の選択に際してエラーが生じる機会がない。本発明の組成物は,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であることが判明しており,このことは,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物の場合よりも本発明の組成物中に生成される不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体が少ないことを意味する。」(段落【0031】)・「表1Aおよび1Bに記載された実施例1~14の組成物は,以下の一般手法により調製した:注射用温水(W.F.I.)(40℃)を分取し,濾過窒素を用いて約30分間,その中で発泡させる。 必 ・「表1Aおよび1Bに記載された実施例1~14の組成物は,以下の一般手法により調製した:注射用温水(W.F.I.)(40℃)を分取し,濾過窒素を用いて約30分間,その中で発泡させる。 必要とされる適量のW.F.I.を,窒素中に保持しながら容器に移す。 最終容積を満たすために残りのW.F.I.を別に取りのけておく。 適切な緩衝剤(固体形態の,または好ましくは適切なモル濃度の水性緩衝溶液の形態の)を適切な容器中で計量して,混合容器(残りのW.F.I. の一部を含入する濯ぎ容器)に移す。例えば,磁気攪拌機/ホットプレート上で,約10分間,または必要な場合にはすべての固体が溶解されるまで,溶液の温度を40℃に保持しながら混合する。」(段落【0034】後段,【0035】)・「注:実施例8~14の組成物のために用いられた密封容器は,20mL透明ガラスアンプルであった。 * シュウ酸は二水和物として付加される;ここに示した重量は,付加されたシュウ酸二水和物の重量である。」(段落【0042】前段)・「表1C二記載した実施例15および16の組成物は,実施例1~14の 組成物の調製に関して前記した方法と同様の方法で調製した。」(段落【0042】後段)・「注:実施例15~16の組成物のために用いられた密封容器は,20mL透明ガラスアンプルであった。 * シュウ酸は二水和物として付加される;ここに示した重量は,付加されたシュウ酸二水和物の重量である。」(段落【0044】前段)・「表1Dに記載した実施例17の組成物は,実施例1~14の組成物の調製に関して前記した方法と同様の方法で調製したが,但し,(a)窒素の非存在下で(即ち酸素の存在下で)密封容器中に溶液を充填し,(b)充填前に密封容器を窒素でパージせず,(c)容器を 14の組成物の調製に関して前記した方法と同様の方法で調製したが,但し,(a)窒素の非存在下で(即ち酸素の存在下で)密封容器中に溶液を充填し,(b)充填前に密封容器を窒素でパージせず,(c)容器を密封する前に窒素でヘッドスペースをパージせず,そして(d)密封容器はアンプルよりむしろバイアルであった。」(段落【0044】後段)・「注:実施例17の溶液組成物1000mLを,5mL透明ガラスバイアル中に充填し(4mL 溶液/バイアル),これをWestFlurotec ストッパーで密封し(以後,実施例17(a)と呼ぶ),実施例17の残りの1000mL溶液組成物を5mL 透明ガラスバイアル中に充填し(4mL 溶液/バイアル),これをHelvoetOmniflexストッパーで密封した(以後,実施例17(b)と呼ぶ)。」(段落【0046】)・「* シュウ酸は二水和物として付加される;ここに示した重量は,付加されたシュウ酸二水和物の重量である。」(段落【0047】前段)・「実施例18比較のために,例えば豪州国特許出願第29896/95号(1996年3 月7 日公開)に記載されているような水性オキサリプラチン組成物を,以下のように調製した:」(段落【0050】前段)・「23本のアンプルをオートクレーブ処理せずに保持し(以後,実施例18(a)と呼ぶ),即ちこれらを最終滅菌せず,残り27本のアンプル(以後, 実施例(b)と呼ぶ)を,SAL(PD270)オートクレーブを用いて,121℃で15分間オートクレーブ処理した。」(段落【0053】)・「実施例1~17の組成物に関する安定性試験実施例1~14のオキサリプラチン溶液組成物を,6ヶ月までの間,40℃で保存した。この試験の安定性結果を,表4および5に要約する。」(段 53】)・「実施例1~17の組成物に関する安定性試験実施例1~14のオキサリプラチン溶液組成物を,6ヶ月までの間,40℃で保存した。この試験の安定性結果を,表4および5に要約する。」(段落【0063】)・ 「実施例15および16のオキサリプラチン溶液組成物を,9ヶ月までの間,25℃/相対湿度(RH)60%および40℃/相対湿度(RH)75%で保存した。この試験の安定性結果を,表6に要約する。」(段落【0067】)・「実施例17(a)および17(b)のオキサリプラチン溶液組成物を,1ヶ月までの間,25℃/相対湿度(RH)60%および40℃/相対湿度(RH)75%で保存した。この試験の安定性結果を,表7に要約する。」(段落【0070】)・「これらの安定性試験の結果は,緩衝剤,例えばシュウ酸ナトリウムおよびシュウ酸が,本発明の溶液組成物中の不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体のレベルを制御する場合に非常に有効である,ということを実証する。」(段落【0072】)・「比較例18の安定性実施例18(b)の非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物を,40℃で1ヶ月間保存した。この安定性試験の結果を,表8に要約する。」(段落【0073】) (2) 本件発明の意義ア上記各記載によれば,本件発明は,製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物に関するものであって,①従来用いられていた凍結乾燥物質における,経費がかかり,また,使用時に再構築する際エラーが生じるおそれがあるという欠点を克服し,かつ,②水性溶液において,オキサリプラチンが分解することによって生じる不純物であるジアクオDACHプラチン,ジアクオDACHプラチン二量体及びプラチナ種をまったく生成しないか,あるいは を克服し,かつ,②水性溶液において,オキサリプラチンが分解することによって生じる不純物であるジアクオDACHプラチン,ジアクオDACHプラチン二量体及びプラチナ種をまったく生成しないか,あるいはこれまで知られているより有意に少ない量で生成するオキサリプラチンのより安定な溶液組成物として,2年以上の期間,製薬上安定であってすぐに使える形態のオキサリプラチン溶液組成物を提供することを目的とする発明である,と認められる。 イこの点に関して原告は,本件発明は,凍結乾燥物質及びこれを再構築したもの,あるいは製薬上安定とはいえない溶液組成物の欠点を克服するために,製薬上安定な溶液組成物を提供するものであって,本件明細書(段落【0013】後段~【0016】)における水性溶液の欠点に関する記載部分は,凍結乾燥物質を再構築した水性溶液中で時間を追って分解することについての課題を指摘しているにすぎないなどと主張する。 しかし,本件明細書において,乙1発明に対応する豪州国出願が従来技術として紹介されていること(段落【0010】),「本発明の組成物は,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定である」(段落【0031】)という記載があること,凍結乾燥物質は,使用時に再構築されるものであって,再構築後に長期間保存することは想定されていないから,凍結乾燥物質の欠点として,水性溶液中で分解により不純物が生成されることをあげるとは考えがたいことに照らすと,前記水性溶液に関する記載部分は乙1発明も含めた従来既知の溶液組成物の欠点を指摘する記載であるというべきである。 したがって,本件発明は,乙1発明よりも不純物が有意に少ない,より安定な溶液組成物を提供することを目的とするものであると認めるのが相当である。 2 争点(1 する記載であるというべきである。 したがって,本件発明は,乙1発明よりも不純物が有意に少ない,より安定な溶液組成物を提供することを目的とするものであると認めるのが相当である。 2 争点(1)ア(構成要件B,F及びGの「緩衝剤」の充足性)について(1) 本件発明における「緩衝剤」は,添加されたシュウ酸またはそのアルカリ金属塩をいい,オキサリプラチンが分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)は「緩衝剤」には当たらないと解することが相当である。理由は以下のとおりである。 (2)ア特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定めるものとされているから(特許法70条1項),「緩衝剤」を解釈するに当たり,特許請求の範囲請求項1の記載をみると,緩衝剤について,「有効安定化量の緩衝剤」,「緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩」,「緩衝剤の量が・・・のモル濃度」である旨記載されている。 上記記載を踏まえて検討するに,緩衝剤の「剤」とは,「各種の薬を調合したもの」を意味するから(広辞苑第三版。乙34),緩衝剤とは,緩衝に用いる目的で,各種の薬を調合したものを意味すると考えることが自然である。しかし,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸(シ ュウ酸イオン)は,「各種の薬を調合したもの」に当たるとはいえない。 また,緩衝剤は「シュウ酸」又は「そのアルカリ金属塩」であるとされているが,緩衝剤として「シュウ酸アルカリ金属塩」を選択した場合を考えると,この場合,オキサリプラチン水溶液中には,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸と「シュウ酸アルカリ金属塩」が同時に存在するところ,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「シュウ酸アルカリ金属塩」に該当しないことが明らかであるから,緩衝剤は,オ して生じた解離シュウ酸と「シュウ酸アルカリ金属塩」が同時に存在するところ,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「シュウ酸アルカリ金属塩」に該当しないことが明らかであるから,緩衝剤は,オキサリプラチン水溶液に添加される「シュウ酸アルカリ金属塩」を指すと解するほかない。そうすると,「シュウ酸アルカリ金属塩」と並列に記載されている「シュウ酸」についても,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸を除き,オキサリプラチン水溶液に添加されるシュウ酸を意味すると解することが自然である。 イ次に,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細書の記載を考慮して解釈するものとされているから(特許法70条2項),本件明細書の記載をみると,段落【0022】には「緩衝剤という用語は,本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。」という記載があり,「緩衝剤」という用語の定義がされている。 ここで,「緩衝剤」は,「酸性または塩基性剤」と定義されており,前記のとおり,「剤」は「各種の薬を調合したもの」であるから,添加したものに限られると考えるのが自然である。 そして,オキサリプラチンは,次式の反応によりジアクオDACHプラチンとシュウ酸に分解する。 上記反応は化学的平衡にあるが,証拠(乙35)によれば,平衡状態にあるオキサリプラチン水溶液にシュウ酸が添加されると,ルシャトリエの原理により,上記式の右から左への反応が進行し,新たな平衡状態が形成されることが認められる。新たな平衡状態においては,シュウ酸を添加する前の平衡状態と比べると シュウ酸が添加されると,ルシャトリエの原理により,上記式の右から左への反応が進行し,新たな平衡状態が形成されることが認められる。新たな平衡状態においては,シュウ酸を添加する前の平衡状態と比べると,ジアクオDACHプラチンの量が少ないので,シュウ酸の添加により,オキサリプラチン水溶液が安定化され,不純物の生成が防止されたといえる。 ところが,シュウ酸が添加されない場合には,オキサリプラチン水溶液の平衡状態には何ら変化が生じないから,オキサリプラチン溶液が,安定化されるとはいえない。 したがって,上記明細書に記載された「緩衝剤」の定義は,緩衝剤に解離シュウ酸が含まれることを意味していないというべきである。 ウまた,本件明細書における実施例18(b)に関する記載をみると,「比較のために,例えば豪州国特許出願第29896/95号(1996年3月7日公開)に記載されているような水性オキサリプラチン組成物を,以下のように調製した」(段落【0050】前段),「比較例18の安定性実施例18(b)の非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物を,40℃で1ヶ月間保存した。」(段落【0073】)といった記載がある。ここで,豪州国特許出願第29896/95号(1996年3月7日公開)は,乙1発明に対応する豪州国特許であり,同特許は水性オキサリプラチン組成物に係る発明であるから,上記各記載からは,実施例18(b)は,「実施例」という用語が用いられているものの,その実質は本件発明の実施例ではなオキサリプラチンシュウ酸ジアクオDACHプラチン+OO-OO-2H2O+水 く,本件発明と比較するために,「非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」,すなわち,緩衝剤が用いられていない従来既知の水性オキサリプラチン組成物を調製し OO-2H2O+水 く,本件発明と比較するために,「非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」,すなわち,緩衝剤が用いられていない従来既知の水性オキサリプラチン組成物を調製したものであると認めるのが相当である。そうすると,本件明細書において,緩衝剤を添加しない水性オキサリプラチン組成物は,本件発明の実施例ではなく,比較例として記載されているというべきである。 また,本件明細書には,実施例1ないし17については,シュウ酸が付加されていることが明記されている。さらに,本件明細書では,実施例1ないし17について,添加されたシュウ酸のモル濃度が記載されているが,解離シュウ酸を含むシュウ酸のモル濃度は記載されていない。 他方で,本件明細書には,「緩衝剤」である「シュウ酸」に,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸が含まれることを示唆する記載はない。 以上からすると,本件明細書の記載では,解離シュウ酸については全く考慮されておらず,緩衝剤としての「シュウ酸」は添加されるものであることを前提としていると認められる。 エ前記1(2)のとおり,本件発明は,乙1発明よりも不純物が有意に少ない,より安定な溶液組成物を提供することを目的とするものである。 ところが,本件明細書をみると,乙1発明と実質的に同一であると推認される実施例18において生成される不純物の量と比較して,シュウ酸を添加した実施例(ただし,実施例1及び8を除く。なお,実施例1及び8は,後記(3)ウのとおり,本件発明の技術的範囲に含まれる実施例ではない。)において生成される不純物の量は有意に少ないことが示されている。 したがって,本件発明は,乙1発明とは異なり,オキサリプラチン溶液組成物に緩衝剤を添加したことによって,不純物が少なく,より 。)において生成される不純物の量は有意に少ないことが示されている。 したがって,本件発明は,乙1発明とは異なり,オキサリプラチン溶液組成物に緩衝剤を添加したことによって,不純物が少なく,より安定な溶液組成物を提供することができたことを特徴とする発明と考えるのが自然である。 オ証拠(乙10,乙13)によれば,対応米国特許の審査過程において,出願人が,意見書及び補正書(乙10)において「オキサリプラチンの溶液製剤に緩衝剤を加えることにより,より安定したオキサリプラチンの溶液製剤(当該製剤は上述の不純物をまったく生成することがないか,丙らの水溶液性剤中に見出されるよりも著しく少量の不純物を生成する)が得られることを見出したのである」と述べていること,対応ブラジル特許の審査過程においても,出願人が,「シュウ酸を緩衝剤として加えれば,不純物が発生しない」と述べていることが認められるから,対応米国特許及び対応ブラジル特許の出願人は,これらの特許発明について,シュウ酸を緩衝剤として添加することで,不純物を減少させ,より安定した製剤を得る発明であると認識していたものと認められる。確かに,対応米国特許及び対応ブラジル特許は本件特許とは異なる国における別個の出願であるから,それぞれの国の手続において成立する特許発明の範囲に差異がでることは否定できないものの,本件特許と同じ国際出願を基礎とするものである以上,その技術思想は基本的には共通すると考えられるところ,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」が添加したものに限られず,解離シュウ酸をも含むものと解すると,上記対応米国特許及び対応ブラジル特許の技術思想とは整合しなくなり不合理である。 (3) 原告の主張に対する判断ア原告は,「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝 シュウ酸をも含むものと解すると,上記対応米国特許及び対応ブラジル特許の技術思想とは整合しなくなり不合理である。 (3) 原告の主張に対する判断ア原告は,「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物」との表現における「包含」が「つつみこみ,中に含んでいること」を意味するから,本件発明における「緩衝剤の量」は,「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」を意味しており,「緩衝剤」は添加したものに限られないと主張する。 しかし,「包含」という文言の意味を原告の主張するとおりに解すると しても,「緩衝剤を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物」とは,「緩衝剤が添加された安定オキサリプラチン溶液組成物」を意味するものと解し,また,「緩衝剤の量」とは「オキサリプラチン溶液組成物に添加された全ての緩衝剤の量」を意味するものと解することも何ら不自然ではないから,特許請求の範囲請求項1が「包含」という表現を用いていることをもって,本件発明の「緩衝剤」に解離シュウ酸が含まれることを示しているということはできない。 また,「緩衝剤」がシュウ酸アルカリ金属塩である場合に,シュウ酸アルカリ金属塩は,水溶液中で,シュウ酸イオンとアルカリ金属イオンに分解し,「シュウ酸アルカリ金属塩」が溶液中に存在するものではないから,この点においても,解離シュウ酸を緩衝剤と解するとはおよそ考えられない。 イ次に,原告は,本件明細書における「緩衝剤」の定義(段落【0022】)は,添加されたものに限定しておらず,また,「緩衝剤は,有効安定化量で本発明の組成物中に存在する。」(段落【0023】)との記載からも,本件発明における「緩衝剤」は溶液組成物中に「存在する」か否かに は,添加されたものに限定しておらず,また,「緩衝剤は,有効安定化量で本発明の組成物中に存在する。」(段落【0023】)との記載からも,本件発明における「緩衝剤」は溶液組成物中に「存在する」か否かによって検討されるべきもので,解離シュウ酸も除外されないと主張する。 しかし,本件明細書における「緩衝剤」の定義が,添加された緩衝剤を前提としていることは前記(2)イで述べたとおりであるし,また,「存在する」との文言は,シュウ酸が添加されたものに限定される場合であったとしても何ら不自然ではない。 ウさらに,原告は,本件明細書における「緩衝剤」の定義(段落【0022】)において,「オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。」とあることを踏まえ,解離シュウ酸が存在しな ければ,ルシャトリエの原理に従ってオキサリプラチンが分解される反応が進むのであり,解離シュウ酸は,オキサリプラチンの分解を防止または遅延させているから,上記定義に合致すると主張する。 しかし,シュウ酸を添加していないオキサリプラチン溶液において,解離シュウ酸が溶液中に存在するということは,オキサリプラチンが分解されて不純物が生じたことを意味するのであるし,オキサリプラチンの分解が進んで不純物の量の増加が止まったとすれば,単に平衡状態にあるということを意味するにすぎない。そして,証拠(乙35)によれば,化学の分野において,全ての反応は平衡であることが認識されていることが認められるから,平衡状態に達したことをもってオキサリプラチン溶液が安定化されたなどということはできない。また,オキサリプラチン溶液が 分野において,全ての反応は平衡であることが認識されていることが認められるから,平衡状態に達したことをもってオキサリプラチン溶液が安定化されたなどということはできない。また,オキサリプラチン溶液が平衡状態にあるときには,オキサリプラチンの分解反応とオキサリプラチンの生成反応が同じ速度にあるというにすぎず,解離シュウ酸が存在することによって,オキサリプラチンの分解が防止されているわけではない。 そもそも,オキサリプラチン溶液中に,オキサリプラチンの分解により生じた解離シュウ酸が存在することは自然の理であって,解離シュウ酸が存在しないオキサリプラチン溶液は想定することができず,オキサリプラチン溶液から解離シュウ酸を除いたものは,もはやオキサリプラチン溶液とはいえない。そうすると,上記段落【0022】に定義された「緩衝剤」は,このように解離シュウ酸を含むオキサリプラチン溶液を安定化するものという意味になるから,上記定義によっても,「緩衝剤」には,解離シュウ酸を含まないという解釈と何ら矛盾するものではないというべきである。 以上のとおり,原告の上記主張は採用することができない。 エ原告は,本件明細書には,シュウ酸が添加されていない実施例18(b)が記載されているから,「緩衝剤」としての「シュウ酸」が添加されるも のであることは前提となっておらず,また,実施例18(b)における不純物の量は,実施例1及び8と大差がないことからも,実施例18(b)が実施例であることは明らかであるとも主張するが,実施例18(b)が比較例であることは前記(2)ウのとおりである。 そして,構成要件Gにおけるモル濃度は添加した緩衝剤のモル濃度であるとすると,実施例1及び8は,本件発明の技術的範囲に入らないものであるから,実施例1及び8と とは前記(2)ウのとおりである。 そして,構成要件Gにおけるモル濃度は添加した緩衝剤のモル濃度であるとすると,実施例1及び8は,本件発明の技術的範囲に入らないものであるから,実施例1及び8と実施例18(b)における不純物の量に有意の差がないとしても何ら不自然ではない。 オしたがって,本件発明の「緩衝剤」には解離シュウ酸が含まれるという原告の主張は採用することができない。 (4) そして,被告は,被告製品にシュウ酸は添加していないと主張しているところ,原告は,被告製品に,構成要件G記載の範囲に含まれるシュウ酸が添加されている旨の主張はしていないから,被告製品にシュウ酸が添加されていないことについて当事者間に争いがない(前記第2,2(8)イ)。 そうすると,被告製品は,構成要件B,F及びGを充足しない。 よって,被告製品は,本件発明及び本件訂正発明の技術的範囲に属しない。 3 結論以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 勝又来未子 裁判官古谷健二郎は差支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官 東海林保 別紙 被告製品目録 1 オキサリプラチン点滴静注液50mg「日医工」 2 オキサリプラチン点滴静注液100mg「日医工」 3 オキサリプラチン点滴静注液200 保 別紙 被告製品目録 1 オキサリプラチン点滴静注液50mg「日医工」 2 オキサリプラチン点滴静注液100mg「日医工」 3 オキサリプラチン点滴静注液200mg「日医工」 別紙「特許公報」の添付は省略

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