主文 被告人両名をそれぞれ禁錮1年6月に処する。 ,,,未決勾留日数中被告人Aに対し100日を被告人Bに対し120日をそれぞれその刑に算入する。 被告人両名に対し,この裁判が確定した日から3年間,それぞれその刑の執行を猶予する。 理由 (犯罪事実)被告人両名は,平成18年5月28日午前8時50分ころ,愛知県豊明市a町bc番地d所在のパチンコCa店駐車場に軽自動車を駐車させ,一緒に連れてきていた長男D(生後79日,平成18年3月11日生)を同車内に残して同店でスロット遊技をしようとするにあたり,同児が体温調節機能等の未発達な乳児であり,ま,,,た当日は曇りで降雨はごく僅かであり同車の駐車位置には日光を遮る物もなく日中に向けての気温の上昇や日光の照射等により,同車内が高温になる可能性を予見できたのであるから,被告人両名としては,同児のみを同車内に残したままにすることを厳に慎み,一方が同児に付き添い,同車内の温度を調節し,同児に授乳するなどしてその健康状態等に留意し,同児が熱中症等に陥る危険が生じることを未然に防止すべき共同の注意義務があるのに,かかる注意義務を怠り,同児を一人で同車内に残したままにしてもしばらくは大丈夫であるなどと軽信し,相互に意思を通じ,同車後部座席上の乳児かごに同児を寝かせたまま,同車の窓をすべて閉め,エアコンによる温度調節をすることもなく,ドアを施錠して同車を離れ,そのころから同児のみを同車内に残したままその健康状態等に留意することなくスロッ,,,ト遊技を継続した重大な過失により,日光の照射等により同車内の温度が上昇したことなどから,同児を熱中症に陥らせ,同日午前11時ころから同日午後1時ころまでの間に,同車内において,同児を同症により死亡させたものである。 (証拠)括弧内の甲乙の番号は検察官請求 の温度が上昇したことなどから,同児を熱中症に陥らせ,同日午前11時ころから同日午後1時ころまでの間に,同車内において,同児を同症により死亡させたものである。 (証拠)括弧内の甲乙の番号は検察官請求証拠の番号を示す。 (補足説明)当裁判所は,本件起訴にかかる主位的訴因の保護責任者遺棄致死罪は成立せず,第5回公判において追加された予備的訴因の重過失致死罪が成立するにとどまると判断したので,以下,補足して説明する。 第1主位的訴因に対する公訴棄却の申立について 主位的訴因の公訴事実主位的訴因の公訴事実は「被告人両名は,長男D(当時2か月,平成18,年3月11日生)を養育し,同児を保護する責任を有していたものであるが,共謀の上,平成18年5月28日午前8時50分ころ,愛知県豊明市a町bc番地d所在のパチンコCa店において,駐車場に停めた軽自動車後部座席上の乳児かごに同児を寝かせ,同車の窓をすべて閉めてドアを施錠したまま同車を離れ,その後,同店内でスロット遊技をして過ごし,その間,同児の健康状態を確認するために同車に戻るなどの措置を一切執らず,あえて養育義務者とし,,て当然なすべき同児の生存に必要な保護を何ら加えずにこれを放置しよって同日午前11時ころから同日午後1時ころまでの間に,同車内において,同児を熱中症により死亡させたものである」というものである。 。 弁護人は,前記公訴事実には,①「駐車場に停めた軽自動車後部座席上の乳児かごに同児を寝かせ,同車の窓をすべて閉めてドアを施錠したまま同車を離れ」た行為と,②「その後,同店内でスロット遊技をして過ごし,その間,同児の健康状態を確認するために同車に戻るなどの措置を一切執らず,あえて養育義務者として当然なすべき同児の生存に必要な保護を何ら加えずにこれを放置し」た行為の各記載がある 遊技をして過ごし,その間,同児の健康状態を確認するために同車に戻るなどの措置を一切執らず,あえて養育義務者として当然なすべき同児の生存に必要な保護を何ら加えずにこれを放置し」た行為の各記載があるところ,いずれの行為を対象として訴追しているのか不明であり,罪となるべき事実を特定したとはいえず,刑事訴訟法256条3項に反し,公訴提起の手続が無効であるから,公訴棄却されるべきであると主張する。 しかしながら,弁護人の主張が公訴棄却をもたらすような公訴事実の不特定の主張といえるかはさておき,前記公訴事実の記載からは,少なくとも,②のD(以下「被害者」という)の生存に必要な保護をとらなかった不作為(不,。 保護)が実行行為に当たることが読みとれる上,第3回公判前整理手続において,検察官は,本件は不作為犯であり,被害者死亡という結果が発生するまで実行行為は継続していること,犯意の発生時期は,被告人らが被害者を車内に残し,軽自動車(以下「本件車両」という)を出た時である旨釈明してい,。 ることも踏まえると,前記②の不保護の摘示をもって実行行為とする趣旨と解される(前記①の記載は不保護の開始時点及びその際の状況を摘示する趣旨と解される。したがって,罪となるべき事実の特定に欠けるところはなく,公)訴事実に違法の点はない。 第2主位的訴因の成否について 争点 被告人両名に保護責任者遺棄(不保護)の故意が認められるか否かである。 前提事実関係証拠によれば以下の各事実が認められる。 (1) 被告人両名と被害者の関係,養育状況被告人両名は夫婦であり,被害者は,被告人両名の長男であって,本件で死亡した当時生後79日の乳児であった被害者の実母である被告人B以,。 (下,単に「B」という)は妊娠中母親教室に通い,出産後は,被害者に母。 乳を与え 害者は,被告人両名の長男であって,本件で死亡した当時生後79日の乳児であった被害者の実母である被告人B以,。 (下,単に「B」という)は妊娠中母親教室に通い,出産後は,被害者に母。 乳を与えるなどしてその世話をしてきた。被告人A(以下,単に「A」という)は,被害者の実父であり,Bとともに母親教室に参加し,Bの出産に。 立ち会い,出生後は,被害者のおむつを替えるなど育児を手伝っていた。被害者の生育や健康状態に問題があった様子はうかがわれない(甲1,16,乙2,5。 )(2) 本件以前に被害者を連れてパチンコ店に行った際の被告人両名の行動ア平成18年4月24日,被告人両名は,被害者を連れてパチンコ店に行くことを話し合った。被告人両名は,親がパチンコ中に自動車内の温度が上がって車内の乳児が死亡したというニュースを見聞きしたことがあり,被害者を一人で自動車内に残して遊技をすることで,被害者の体調が悪くなったり,誘拐されたりしないかとの不安を感じたが,Bが時々見に行って授乳すれば大丈夫と言ったことから,同日夕刻,初めて被害者を連れて本件車両で大府市のパチンコ店に行った。被告人両名は,本件車両を立体駐車場の途中の階に停め,被害者を車内に残し,窓を数センチメートル開けて入店したが,Bは,約10分後に本件車両に一旦戻って被害者の様子を確認した後,1時間足らずで本件車両に戻ってきて被害者に付き添った(乙2,6,8。 )イ被告人両名は,同月30日午前9時ころ,被害者を連れて刈谷市のパチンコ店に行った。同日の天気は曇りであったが,被告人両名は,本件車両を立体駐車場の1階に停め,被害者を車内に残して窓を数センチメートル開けて入店した。Bは,約30分おきに被害者の様子を見に本件車両に戻り,被害者に授乳するなどした。遅くとも午前11時ころからは, 両を立体駐車場の1階に停め,被害者を車内に残して窓を数センチメートル開けて入店した。Bは,約30分おきに被害者の様子を見に本件車両に戻り,被害者に授乳するなどした。遅くとも午前11時ころからは,Bが遊興する間,Aが本件車両内で被害者に付き添っていた(乙2,8。 )ウ被告人両名は,同年5月中旬の夜間,被害者を連れて名古屋市e区のパチンコ店に行き,立体駐車場の1階に本件車両を停め,被害者を車内に残して入店した。Bは,約15分おきに本件車両に戻って被害者の様子を確認した(乙2,8。 )エ被告人両名は,本件前日である同月27日午後6時すぎころから,被害者を連れて本件発生の場所である豊明市のパチンコCa店に行き,本件車両を店の正面入口に近い露天の駐車場に停め,被害者を車内に残して窓を閉めて入店し,約5時間にわたりスロット遊技をした。一,二時間程度経,。 過した時点でBが様子を見に行ったところ被害者はおとなしく寝ていたその後,被告人両名が午後11時ころ本件車両に戻ってきた際,被害者は,,(,声を出して起きており少し汗をかいておりおむつが濡れていた乙28。 )(3) 本件当日の経緯アBは,午前4時30分ころ被害者に授乳した後,午前7時30分にも約30分かけ,被害者に授乳した(乙3,6。 )イ午前8時20分ころ,被告人両名は,肌着の上に上下つなぎのベビー服を着せた被害者を乳児かごに乗せ,本件車両でパチンコCa店に向かい,午前8時40分ころ到着し,遊技を予定していたスロットコーナーから比較的近く,被害者の様子を見たりするのに便利と考えて,店の入口に近い(入口から約18.8メートル)露天の同店駐車場に本件車両を停めた。 被害者は後部座席上の乳児かご内で寝ており,変わった様子は見られなかった(甲5,7,8,21,22,乙3, と考えて,店の入口に近い(入口から約18.8メートル)露天の同店駐車場に本件車両を停めた。 被害者は後部座席上の乳児かご内で寝ており,変わった様子は見られなかった(甲5,7,8,21,22,乙3,6。 )ウ被告人両名は,被害者の足の下あたりに乳児かごの上からタオルケットを掛け,本件車両の窓をすべて閉めてドアを施錠し,エンジンを切った状態で,午前8時50分ころ本件車両を離れ,開店を待ち,午前9時ころ入店した。なお,本件車両の鍵はBが所持し,同車の後部座席両側の窓には(,,,,,,,スモークフィルムが貼られていた甲2 乙36。 ),,. エ豊明市消防本部の観測によれば同日の同市の気温は午前9時が190度,午前10時が20.5度,午前11時が22.6度であり,午前9時に0.5mmの降雨が観測されているが,その後降雨は観測されておらず,午前9時から午後3時までは曇りであった(甲10。 )オ入店後,被告人両名はスロット遊技を続け,午後1時50分ころまでの間,一度も被害者の様子を見に行かなかった(甲4,乙3,6,7。 )カ被害者は,午前11時ころから午後1時ころまでの間に,熱中症により死亡した(甲23,第1回公判調書中の証人Eの供述部分。 )キ午後1時50分ころ,Bが被害者の様子を見に行き,被害者の様子がおかしいことに気付き,被害者を抱きかかえ店内に駆け込み,Aに異常を告げるとともに,トイレに駆け込み,被害者に水をかけるなどし,その後,Aとともに被害者を病院に連れて行ったが被害者の死亡が確認された甲,(1,4,乙3,7。 ) パチンコCa店駐車場に到着後,被害者を車内に残し,その様子を見に行かないままスロット遊技をしていた間の被告人両名の被害者に対する意識等について(1) A た甲,(1,4,乙3,7。 ) パチンコCa店駐車場に到着後,被害者を車内に残し,その様子を見に行かないままスロット遊技をしていた間の被告人両名の被害者に対する意識等について(1) Aの意識等ア捜査段階の供述被害者が誘拐されたり,被害者の泣き声を聞かれたりして騒ぎにならないように,車のドアをロックし,窓も閉め,車の鍵をBに預けた。いつごろ車に戻って被害者の様子を見るかなどの話をBとしたわけではなかったものの,Bが授乳のために時々車に戻ると思っていた。Bが被害者のところに行かないようなことがあれば,自分が行かなければならないとも思っていた。入店してから少なくとも2時間くらいたったころBが金を借りに来た時点で,被害者のことが気になりだしていたが,この時点ではBが被害者のところに行くだろうと軽く考えて,それほど心配していなかった。 その後Bが2回にわたり金を借りに来た際,負けが込んでおり,Bが遊技に熱くなって被害者を見に行ってないのではないか,被害者がお腹をすかせているのではないか,誘拐されるなどしなければいいがとの不安が増してきたが,スロットに当たりが出ていたため被害者を見に行かなかった。 イ公判供述最初にBが金を借りに来た時点で,Bがこれから被害者のところに行くだろうと考えたのではなく,既に被害者のところに行っただろうと思っていた旨訂正するほかは,捜査段階に述べたことで間違いない。 ウAの供述の信用性Aの供述は,被害者のことはBに任せきりにしてスロット遊技をしていたAの心理状態として自然であり,十分信用できるというべきであり,Aの意識等としてはそのとおりであったと認められる。なお,最初にBが金を借りに来た時点の認識については,Aは,Bがほぼ3時間間隔で被害者に授乳していることや,以前に被害者を車内に残してスロット遊 ,Aの意識等としてはそのとおりであったと認められる。なお,最初にBが金を借りに来た時点の認識については,Aは,Bがほぼ3時間間隔で被害者に授乳していることや,以前に被害者を車内に残してスロット遊技をした際にBが被害者の様子を時々見に行っていることを認識していたこと等に鑑みると,既に被害者のところに行っただろうと思っていた旨の公判供述が信用できる。 (2) Bの意識等ア捜査段階の供述パチンコCに着いた時,雨は1回くらいすごく小さい雨粒が降ってくるのを感じたくらいで,天気は曇りという感じだった。屋根がないところに車を停めたら車内が暑くなるかもしれないと思ったが気温は暑くなかっ,,たし,空が曇っていたので,すぐに日が差して暑くなることはなく,このまま被害者を車の中に置いておいても,すぐに暑さで死んでしまうことはないだろうと思っていた。長い時間被害者を車に置きっぱなしにすれば暑さで死んでしまう危険があることは分かっていたので,1時間くらいで車に戻ってくるつもりだった。1時間くらいしたら戻って様子を見ようと思った理由としては,それ以外にも,被害者に授乳をしたのが午前7時30分ころから午前8時ころまでだったので,それから3時間たった午前10時半ころまでには授乳などしなければならないと思ったのと,その際,おむつを替えてあげなければいけないと思ったこともある。 スロット遊技を始めて1時間以上が経過し,被害者がどんな様子か,お腹は減っていないか,おむつは濡れていないか,むずかって泣いていないかなどと心配だった。しかし,当たる確率が高くなる回転数に近づいており,被害者の様子を見に行っている間に他人が台に座ってしまっては損をするので「Dはお腹が減ったりしていても,我慢してくれる」などと,。 都合のいいように考え,打ち続けることにした。その後 づいており,被害者の様子を見に行っている間に他人が台に座ってしまっては損をするので「Dはお腹が減ったりしていても,我慢してくれる」などと,。 都合のいいように考え,打ち続けることにした。その後,手持ちの現金がなくなり,Aに1万円札をもらいに行く際,Aに被害者の様子を見に行っ,,て貰うことも考えたがほ乳瓶やミルクを持ってきていなかったことから,。 Aに頼んでも余り意味がないなどと思い様子を見るように頼まなかったその後,早く当たりを出して負けた分を取り返したいとの気持ちが強く,被害者のことは心配だったが,被害者には我慢して貰おう,被害者は大丈夫だと思って,Aから2回にわたって金を借りて遊技を続け,被害者の様子を見に行かなかった。 イ公判供述検察官に対する供述のうち「長い時間被害者を車に置きっぱなしにす,れば暑さで死んでしまう危険があることは分かっていた」旨の検察官調。 書の記載(乙6)について,検察官から「危険だということは分かります。」,「。」,よねと言われて分かりますと答えたにすぎないと弁解するなど車内に乳児を放置することの危険性の程度についての認識について,調書に記載されているほど危険であるとの認識はなかった旨弁解する以外は,概ね捜査段階の供述で間違いないとの趣旨とみられる。 ウBの供述の信用性(ア) Bの供述も,捜査公判を通じて変遷のない供述部分の信用性に疑問はない。検察官は,補充論告において,1時間くらいで本件車両に戻るつもりであった旨のBの供述は弁解にすぎないと主張するものの,同供述部分は一貫している上,3時間という日頃の授乳間隔とも整合しており,信用性に疑問はない。 (イ) 次に「長い時間被害者を車に置きっぱなしにすれば暑さで死んで,しまう危険があることは分かっていた」との検察官調書の記載 上,3時間という日頃の授乳間隔とも整合しており,信用性に疑問はない。 (イ) 次に「長い時間被害者を車に置きっぱなしにすれば暑さで死んで,しまう危険があることは分かっていた」との検察官調書の記載につい。 て検討する。 Bが一般的に車内に残された乳幼児が熱中症等で死亡する可能性があることを認識していたことは同人も自認するところである。しかし,Bが,本件の状況下で被害者にそのような危険があることを認識していたかについては,Bの認識していた当日の天候等に加え,別の検察官調書(乙7)には「熱中症で死んでしまうとまでは考えなかったが,車内,が暑くなったりして体調を崩してしまう危険があると分かっていた」。 旨の記載もあること等に照らして,公判におけるBの弁解を排斥することはできず,せいぜい,被害者を車に置きっぱなしにすれば,車内の温度の上昇等により体調を崩してしまう危険があるとの認識に止まっていたというべきである。 不保護の故意の有無について以上の前提事実及び被告人両名の意識等をもとに,被告人両名に不保護の故意があったと評価できるかについて検討する。 (1) 検察官は,被告人両名が平成18年5月28日午前8時50分ころに,少なくとも1時間は戻るつもりがないまま,被害者を本件車両内に残して同車から離れた時点で,被害者の身体に対する抽象的危険が生じており,また,不保護の故意の内容としては,ⅰ被害者が要保護者であること,ⅱ自己が保護責任者であること,ⅲ被害者の生存に必要な保護をしていないこと,の認識で足りるというべきであり,本件において被告人両名が,①被害者が要保護者であることを認識し,②自分らが被害者を車内に置き去りにした両親であることを認識し,③犯行時,被害者の生存に必要な保護をせずスロット遊技に興じていたことを認識していたことは,証拠 ①被害者が要保護者であることを認識し,②自分らが被害者を車内に置き去りにした両親であることを認識し,③犯行時,被害者の生存に必要な保護をせずスロット遊技に興じていたことを認識していたことは,証拠上明らかであって,不保護の故意の存在に疑う余地がない旨主張する。 生後79日の乳児である被害者を,午前8時50分ころから午後1時50分ころにかけて,約5時間にわたり,本件当日の天候下,露天の駐車場に駐車中の窓を閉めエアコンをつけていない本件車両内に一人で残したままにした一連の不作為は,被害者の生命に対する危険を生じさせるのに十分なものであり,現に被害者は死亡しているのであって,午前8時50分ころから,被害者の生存に必要な保護がなされていない状態にあり,それが被告人両名の不作為によることは明らかである。 また,不保護の故意はⅰないしⅲの認識であること,本件において,被告人両名に①被害者が要保護者であること,②自身が被害者の保護者であることの認識があることは,検察官の指摘するとおりである。そして,③については,AについてはBが被害者の面倒を見ると考えて本件車両に戻るつもりはなく,Bについても1時間くらいは戻るつもりはないまま,被害者を本件車両内に一人で残して,スロット遊技をすることの認識があったことが認められ,検察官は,被告人両名にかかる認識があれば,被害者の生存に必要な保護をしていないことの認識としては十分であると主張する趣旨と解される。 しかしながら,不保護という不作為は,被害者の生存にとって危険な状況を積極的に作出するものではない。そして,被告人両名が車内に被害者を一人で残して本件車両を離れた時点で,被害者の健康状態に変わった様子はなく,曇天で気温も19度に止まり,本件車両内の温度もさほど変わらなかったとみられ,被害者の生存にとって危険な 名が車内に被害者を一人で残して本件車両を離れた時点で,被害者の健康状態に変わった様子はなく,曇天で気温も19度に止まり,本件車両内の温度もさほど変わらなかったとみられ,被害者の生存にとって危険な状況が存在したわけではない。また,上記気象状況や,5分くらいで戻ってくるのであれば危険とはいえない旨のE医師の証言,午前10時に戻って相応の措置をとれば何の問題も生じていないと考えられる旨のF医師の証言等に照らせば,不保護の状態が開始されることによって被害者の生存に対する現実的な危険が直ちに発生するものともいえない。さらに,被告人両名は,本件車両から20メートルも離れていないところでスロット遊技をしており,容易に被害者の様子を見に来ることが可能であり,また,被告人両名が一緒に被害者の保護にあたる必要はなかった。かかる不保護の持つ意味,不保護開始時点の状況,現実的危険の発生状況,保護の可能性等に鑑みると,AについてはBが被害者の面倒を見ると考えて本件車両に戻るつもりはなく,Bについても1時間くらいは戻るつもりはないまま,被害者を車内に一人で残して,スロット遊技をすることの認識があったことのみをとらえて,直ちに被害者の「生存」に必要な保護をしていないとの認識があったと評価することには疑問が残る。結局,被告人両名が,本件に至る以前や本件当時に認識していた他の具体的事情等も併せて総合的に検討しなければ,被告人両名に,被害者の生存に必要な保護をしていないことの認識があったか否かを判断することはできないと解される。検察官の前記主張は採用できない。 (2) 検察官は,被告人両名の認識していた具体的事情を検討してみても,被告人両名は,本件に至る以前に,①被害者の生理機能や運動機能が未発達であること,②車内に残された乳幼児が熱中症で死亡する可能性,③被害者を 官は,被告人両名の認識していた具体的事情を検討してみても,被告人両名は,本件に至る以前に,①被害者の生理機能や運動機能が未発達であること,②車内に残された乳幼児が熱中症で死亡する可能性,③被害者を車中に放置することの危険性をそれぞれ認識していた上,本件当日は,④気温上昇の可能性,⑤本件車両の駐車位置に日差しを遮る物が全くないこと,⑥乳児かご内の温度が上昇する可能性,⑦閉め切った車内が高温となることの可能性,⑧他人が車内の被害者に気付くことが困難であることの各認識があったことから,被害者を車内に残して本件車両を離れた時点で,被告人両名にそれぞれ不保護の故意を認定できる旨主張する。 ア本件に至る以前の被告人両名の認識について前記2(2)で認定した事実等によれば,本件以前,被告人両名は,被害者を連れてパチンコ店に赴いた際に,被害者を車内に一人残すにあたり,本件車両の窓を数センチメートル開けるなど車内温度に対する配慮をし,被告人両名が時々被害者の様子を見に行くなどしており,被告人両名に,検察官主張にかかる前記①ないし③の認識があったこと,したがって,被害者の様子を時々見に行き,授乳するなどする必要があると認識していたことが認められる。 しかし,②については,一般的,概括的な認識に止まっていたとみられる。また,③についても,被告人両名は,本件以前に,昼や夜に被害者を一人で本件車両内に残したままにすることを4回繰り返したが,いずれの際も被害者は無事であり,特に4回目にあたる本件前日の夜は,5時間にわたって被害者を店の出入口に近い露天の駐車場の窓を閉め切った車内に放置し,その間Bが1回様子を見に行っただけであったのに,被害者にさしたる異変が生じることがなかったとの経験から,数時間程度であれば,授乳をしないまま一人にしても大丈夫であるとの認識を 切った車内に放置し,その間Bが1回様子を見に行っただけであったのに,被害者にさしたる異変が生じることがなかったとの経験から,数時間程度であれば,授乳をしないまま一人にしても大丈夫であるとの認識を抱き,車内に放置された被害者に生じ得る危険についての意識を弛緩させるに至っていたと認められる(なお,4回目については,5時間後に被告人両名が本件車両に戻った際,被害者が起きて泣いており,少し汗をかいていたことに争いはないが,その際,肌着を1枚脱がしたか,車内におしっこのにおいが充満しており,少しむっとするくらいの暑さであったかどうかについては,Bは検察官調書ではこれを肯定しているのに対し,公判供述ではこれを否定しているが,仮に検察官調書のとおりであったとしても,その程度のことでBが被害者を車内に放置することの危険の重大性を認識し直すきっ,,かけになったとは言い難い。 。)イAの本件当時の認識及び不保護の故意について本件当時のAの被害者に対する意識等については,前記3(1)で認定したとおりである。これによれば,AがBとともに,被害者を車内に残して本件車両を離れた時点において,⑧の認識があったことが明らかである。 ⑤についても,本件車両を露天の駐車場に駐車させたことの認識はあったといえる。しかし,Aは,被害者の様子を見に行くのに便利と考えて当該場所に駐車したものであって,日光の照射があることを意識していたとはみられない。④についても,気温の上昇を観念的,抽象的には意識していたとみられなくはないが,本件車両内の温度上昇と関連づけて認識していたものとはいえない。⑦の認識も,本件車両の窓をすべて閉めたことで温度の上昇を観念的,抽象的には意識していたとみられるが,高温になることの認識はなかったといえる。さらに,⑥の認識があったとはいえない。 のとはいえない。⑦の認識も,本件車両の窓をすべて閉めたことで温度の上昇を観念的,抽象的には意識していたとみられるが,高温になることの認識はなかったといえる。さらに,⑥の認識があったとはいえない。 そして,その後,Bに本件車両の鍵を渡し,ずっと後まで,被害者の世話はBがしていると思っていたものである。 加えて,前記4(2)アで認定したように,本件に至るまでの間に,Aは放置された被害者に生じ得る危険についての意識を弛緩させるに至っていたとみられること,前記2(1)で認定したように,日頃,AはBと協力して被害者の育児をしていたこと等も併せ考慮すると,被害者を車内に残して本件車両を離れた午前8時50分ころの時点,さらに午前11時ころに至るまでの時点で,Aに被害者の生存に必要な保護をしていないとの認識がなかったことは明らかであり,Aに不保護の故意を認めることはできない(なお,Aは,Bが2度目に金を借りにきた時に,Bが被害者の様子を見に行っていないのではないかとの認識を抱くに至っていながら,被害者の様子を見に行かずにおり,その時点では,被害者を本件車両内に残してから既に3,4時間くらい経過し,Aも時間の経過を認識していたとみられるから,Aに被害者の生存に必要な保護をしていないことの認識・認容があったと考え得る余地もあるが,その時点では被害者が既に死亡していた可能性があり,Aの不作為と被害者の死亡との因果関係を認めることはできない。 。)ウBの本件当時の認識及び不保護の故意について本件当時のBの被害者に対する意識等については,前記3(2)で認定したとおりである。これによれば,Bが,Aとともに,被害者を車内に残して本件車両を離れた時点において,⑥についての認識は認められないものの,④,⑤,⑧についての認識があり,⑦についても,閉め切った車内の とおりである。これによれば,Bが,Aとともに,被害者を車内に残して本件車両を離れた時点において,⑥についての認識は認められないものの,④,⑤,⑧についての認識があり,⑦についても,閉め切った車内の温度が上昇する可能性を認識していたこと,さらに,1時間くらいは本件車両に戻るつもりがなかったことが認められる。 しかし,本件当日午前8時50分当時の気象状況等及びこれについてのBの認識からすれば,気温上昇や日光照射等によって,本件車両内の温度が被害者の生命に危険が及ぶほど高温になるとの認識まではなかったとい。 ,,えるまたBが1時間くらい後には被害者を見に行くつもりでいたのは被害者が体調を崩さないか心配であったのと,授乳やおむつを替えるためで,被害者の世話をしようとの意識でいたことが認められる。さらに,前記4(2)アで認定したように,それまで被害者を本件車両内に長時間残しておいても大丈夫であったことから,数時間程度であれば,授乳をしないまま一人にしても大丈夫であるとの認識を抱き,放置された被害者に生じ得る危険についての意識を弛緩させるに至っていたこと等も考慮すると,Bが1時間くらいは本件車両に戻るつもりはなかったことをもって,被害者の生存に必要な保護をしていないとの認識があったことの根拠とすることはできない。 加えて,Bは,前記2(1)で認定したように,日頃,愛情をもって被害者の育児をしていたもので,かかる事情も併せ考慮すると,被害者を車内に残して本件車両を離れた時点で,Bに被害者の生存に必要な保護をしていないとの認識があったとはいえない。Bについても不保護の故意を認めることはできない。 なお,Bは,1時間くらい経過した後,結局被害者の様子を見に行っていないが,被害者の様子を見に行こうという気持ちは持続していたこと,Bは,パチンコ店に ついても不保護の故意を認めることはできない。 なお,Bは,1時間くらい経過した後,結局被害者の様子を見に行っていないが,被害者の様子を見に行こうという気持ちは持続していたこと,Bは,パチンコ店に入店して以降,本件車両に戻っていないことはもちろん,店外へ出た事実も認められないから,天候や気温の変化,本件車両内の温度の急激な上昇や被害者の状況の変化を認識する機会がなく,時間の経過以外に入店時の認識を大きく変化させていないことを併せ考えると,午前10時ころの時点はもちろん,午前11時ころの時点に至るまでの間にも,Bに被害者の世話をしていないとの認識はあっても,生存に必要な保護をしていないとまでの認識・認容,すなわち,不保護の故意が備わるに至ったと認めることもできない(もっとも,その後さらに時間が経過したことにより,Bに被害者の生存に必要な保護をしていないことの認識・認容が備わったと考え得る余地はあるが,その時点では,Bの不作為と被害者の死亡との因果関係を認めることはできないのはAの場合と同様である。 。) 結論 結局,検察官がるる主張する点を勘案しても,不保護の故意を認めることはできず,主位的訴因の範囲内で保護責任者遺棄致死罪が成立する余地はない。 第3予備的訴因の成否について被告人両名は,被害者が,本件当日,生後79日であり,体温調節機能が未発達であるほか,自力で運動することは不可能であり,その生存のために被告人両名の保護が不可欠であることを認識していた。そして,本件当日の駐車位置や駐車させた時間帯等に鑑みれば,前日の夜までとは状況が異なり,被害者を本件車両内に長時間にわたって放置するときには,車内が高温になり,被害者が熱中症等に陥るおそれがあり,被告人両名も僅かな注意を払えば,このことを認識できたというべきである。 したがっ なり,被害者を本件車両内に長時間にわたって放置するときには,車内が高温になり,被害者が熱中症等に陥るおそれがあり,被告人両名も僅かな注意を払えば,このことを認識できたというべきである。 したがって,他に被害者の様子を見る者がいない状況下の被告人両名としては,お互いが協力して,一方が被害者に付き添う,車内の温度を下げる,授乳。 ,するなどの措置を講ずべき判示のとおりの共同の注意義務があったところが被告人両名は,それぞれそのような注意義務を怠り,AはBが様子を見に行くだろうと考え,Bは1時間程度であれば大丈夫,1時間経過後も被害者が我慢してくれるなどと考え,被害者を本件車両内に放置したまま,それぞれスロット遊技を継続しており,重大な過失が認められる。そして,この各重過失行為と被害者の死亡結果との間には因果関係があるというべきである。よって,犯罪事実記載のとおり認定した次第である。 (法令の適用)両名につき罰条いずれも刑法60条,211条1項後段刑種の選択いずれも禁錮刑未決勾留日数の算入いずれも刑法21条刑の執行猶予いずれも刑法25条1項訴訟費用の不負担いずれも刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,夫婦である被告人両名が,パチンコ店駐車場の自動車内に実子である生後79日の被害者を残したままスロット遊技を継続した重大な過失により,被害者を熱中症により死亡させたという,重過失致死の事案である。 未熟な乳児を閉め切った自動車内に残したままにすることが危険なことは明らかであるにもかかわらず,被害者を自動車に一人で残してパチンコ店でスロット遊技,,,をすることを繰り返す中でその危険に対する意識を次第に弛緩させ本件当日は朝から昼間にかけて露天の駐車場の閉め切った自動車内に被害者を一人で残すことになったにもかか チンコ店でスロット遊技,,,をすることを繰り返す中でその危険に対する意識を次第に弛緩させ本件当日は朝から昼間にかけて露天の駐車場の閉め切った自動車内に被害者を一人で残すことになったにもかかわらず,それまで被害者を車内に残しても大丈夫であったことや車を離れる時点の天候等から大丈夫であると軽信し,無思慮にも被害者を一人車内に残したまま長時間スロット遊技に耽っていたというのであって,被告人両名の親としての自覚のなさ,認識の甘さが引き起こした事件といえ,その過失は誠に重大である。 被害者は,実親である被告人両名以外に頼るべき者がいないにもかかわらず,狭く締め切られた蒸し暑い車内で,逃れる術もないまま苦悶のうちに息絶えたと推察される。生きる喜びを十分に謳歌することもないまま,僅か79日でその人生に終止符を打たざるを得なかったのであり,誠に哀れというほかない。本件の結果はまさに取り返しのつかないものである。 Aは,Bが被害者の生存に必要な保護をとると軽信し,被害者の世話をBに任せきりにして,自らは被害者の様子を見に戻るつもりすらなかったのであって,無責任である。加えて,被害者が呼吸をしていないことを認識しながら,なおメダルを換金する行動に出るなどしており,犯行後の行状も悪い。 Bは,Aから自動車の鍵を預かっており,被害者の様子を見に行き,授乳すべき立場にあることを自覚しながら,スロット遊技にのめりこんでおり,母親らしからぬ,身勝手な行動が被害者の死の結果に大きい影響を及ぼしていることが明らかである。 近時,車内に放置された乳児が熱中症等により死亡する事故が幾度となく報道されており,社会的にもその危険性が認知されるに至っているところであり,一般予防の見地からも,被告人両名の行為は厳しい非難に値する。 被告人両名の刑事責任は到底軽視できない。 し 事故が幾度となく報道されており,社会的にもその危険性が認知されるに至っているところであり,一般予防の見地からも,被告人両名の行為は厳しい非難に値する。 被告人両名の刑事責任は到底軽視できない。 しかしながら,被告人両名が,捜査,公判を通じて事実関係を認めているほか,自分たちなりに愛育していた実子である被害者を失う結果となり,悔悟と悲嘆にくれながらもその冥福を祈り,反省の態度を示していること,ともに若年で前科がないこと,Aの実母,Bの実母及び実姉が,公判廷において,それぞれの立場から,あるいはお互いに協力しあって,被告人両名を支え,その更生のため助力する旨述,。 べていることなど被告人両名にとって共通又は個別の酌むべき事情も認められるそこで,以上の諸事情を総合考慮の上,被告人両名に対しては,今回に限り,社会内において夫婦共同して更生する機会を与えるべく,それぞれその刑の執行を猶予することとした。 (求刑-被告人両名につき懲役3年)平成19年7月19日名古屋地方裁判所刑事第3部裁判長裁判官村田健二裁判官森島聡裁判官谷地伸之
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