平成23(行ケ)10012 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年12月26日 知的財産高等裁判所 3部 判決 請求棄却
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判決文本文14,973 文字)

平成23年12月26日判決言渡平成23年(行ケ)第10012号審決取消請求事件平成23年11月14日口頭弁論終結判決 原告 A訴訟代理人弁護士森田哲治 原告 B 原告 C 被告特許庁長官指定代理人長島和子同星野浩一同黒瀬雅一同芦葉松美 主文 1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求特許庁が訂正2010-390090号事件について平成22年12月27日にした審決を取り消す。 第2 当事者間に争いのない事実等 1 本件原出願の経緯等原告A(以下「原告A」という。)は,昭和59年9月5日,実用新案登録出願(実願昭59-134611号。以下「本件原出願」という。)をした。本件原出願に係る当初明細書の実用新案登録請求の範囲には,「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて,このカード本体の一部に,カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部,穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード。」と記載され,指示部の構成として,切欠部を形成する図が第1図に,穴部を形成する図が第2図に,押形部を形成する図が第3図に示されていた(甲A3)。 原告Aは,本件原出願について,平成2年8月8日付け拒絶理由通知(甲A6)を受け,同年11月13日,「意見書に代える手続補正書」を が第2図に,押形部を形成する図が第3図に示されていた(甲A3)。 原告Aは,本件原出願について,平成2年8月8日付け拒絶理由通知(甲A6)を受け,同年11月13日,「意見書に代える手続補正書」を提出した。上記手続補正書において,実用新案登録請求の範囲の記載は,「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて,このカード本体の一部に,カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード。」と補正されるとともに,切欠部を図示した第1図及び穴部を図示した第2図が削除され,押形部を図示した第3図が第1図とされた。 特許庁は,平成3年4月2日付けで本件原出願について拒絶査定をした(甲A36)。原告Aは,平成3年5月23日付けで上記拒絶査定の不服審判を請求した。本件原出願は,平成5年6月24日に出願公告(実公平5-25007号。甲A30)がされたが,実用新案登録異議申立てがされ,原告Aは,平成6年5月24日付けで手続補正書(甲A8)を提出した。上記手続補正書において,実用新案登録請求の範囲の記載は,「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて,該カード本体に,カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するための指示部を設け,該指示部は,該カード本体の一部に形成された押形部から成り,該押形部は,カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特 徴とする,テレホンカード。」と補正された。特許庁は,平成6年11月21日,上記異議申立てにつき,「本件登録異議の申立ては,理由がないものとする。」との決定をするとともに(甲A4),同日付けで,本件原出願につき,拒絶査定を取り消し,実用新案登録をすべきものとするとの審決をした。本件原 てにつき,「本件登録異議の申立ては,理由がないものとする。」との決定をするとともに(甲A4),同日付けで,本件原出願につき,拒絶査定を取り消し,実用新案登録をすべきものとするとの審決をした。本件原出願に係る考案は,平成7年4月20日,設定登録がされた(実用新案登録第2058104号)。 2 本件出願の経緯等原告Aは,平成6年5月24日,本件原出願から分割出願(実願平6-5675号。以下「本件出願」という。)をした。本件出願当初の実用新案登録請求の範囲には,「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて,このカード本体の一部に,電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなり,前記押形部はカード本体の表面を凹状にへこませたくぼみから成ることを特徴とするテレホンカード。」と記載されていた(甲A5)。 本件出願は,平成8年2月21日に出願公告(実公平8-5827号)がされた(甲A27)。その後,本件出願に対し,実用新案登録異議申立てがされ,平成9年12月25日に同申立てについて「異議理由あり」とする異議決定がされ,同日,本件出願について拒絶査定がされた。原告A外2名は,平成10年2月12日,上記拒絶査定に対する不服審判(審判平10-2419号)を請求し(甲B6),同年3月12日付け補正書(甲A32)で,考案の詳細な説明を補正し,平成11年10月28日付け手続補正書(甲A29の1)で,考案の詳細な説明及び図面を補正し(図1を変更し,図2ないし6を追加),平成11年12月6日付け手続補正書で図面を補正(図6を削除)した。 特許庁は,平成12年1月26日付けで,平成11年10月28日付け及び同年12月6日付け補正を却下するとともに,「原査定を取り消す。本願の考案は,実用新案登録すべきものとす 正(図6を削除)した。 特許庁は,平成12年1月26日付けで,平成11年10月28日付け及び同年12月6日付け補正を却下するとともに,「原査定を取り消す。本願の考案は,実用新案登録すべきものとする。」との審決をし,平成12年3月17日に本件出願の考案は設定登録がされた(実用新案登録第2150603号。甲A1,55,甲B6)。 上記登録時の実用新案登録請求の範囲には,「電話機に差し込むことにより電話がか けられるテレホンカードにおいて,このカード本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる指示部を設けてなり,該指示部は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると共にカード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれてカード本体に配置されており,且つ,該指示部は目の不自由な者がカード本体を電話機に差し込む際,目の不自由な者の指がふれる位置に配置されていることを特徴とするテレホンカード。」と記載されていた(以下,上記実用新案登録請求の範囲に記載された考案を「本件考案」という。)。 3 本件訂正請求の経緯等原告A外2名は,平成22年8月30日,本件考案について,訂正審判の請求(訂正2010-390090。以下「本件訂正」という。甲A28)をしたが,特許庁は,平成22年12月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同審決の謄本は,同月29日原告Aに,同月30日原告B(以下「原告B」という。)に,平成23年1月6日原告Cに,それぞれ送達された(以下,原告Aと原告Bを併せて「原告ら」という。)。 4 本件訂正の内容本件訂正の内容(甲A28)は,以下のとおりである(判決注:本件訂正に係る審判請求書の記載には,本件訂正前の明細書及び全文訂正明細書の記載と整合 を併せて「原告ら」という。)。 4 本件訂正の内容本件訂正の内容(甲A28)は,以下のとおりである(判決注:本件訂正に係る審判請求書の記載には,本件訂正前の明細書及び全文訂正明細書の記載と整合しない部分があるので,下線部については,本件訂正前の明細書及び全文訂正明細書に即して記載した。)。 訂正事項a:明細書の【実用新案登録請求の範囲】の「電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる指示部を設けてなり」を,「電話機に差し込む方向を指示するためのへこみ部からなる指示部を設けてなり」と訂正する。 訂正事項b:明細書の【考案の詳細な説明】の段落【0005】の「電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる差込方向の指示部を設けたことを特徴とする。」を,「電話に差し込む方向を指示するためのへこみ部からなる差込方向の指示部を設けたことを特徴とする。」と訂正する。 訂正事項c:明細書の【考案の詳細な説明】の段落【0006】の「この考案によれば,カード本体の一部にカードの電話機に差し込む方向を指示するためにくぼみから成る押形部からなる差込方向の指示部を設けたから」を,「この考案によれば,カード本体の一部にカードの電話機に差し込む方向を指示するためにくぼみから成るへこみ部である差込方向の指示部を設けたから」と訂正する。 訂正事項d:明細書の【考案の詳細な説明】の段落【0008】の「この指示部2はカード本体1の一部に押形部5を形成して,これを指示部2とした。」を,「この指示部2はカード本体1の一部にへこみ部5を形成して,これを指示部2とした。」と訂正する。 訂正事項e:明細書の【考案の詳細な説明】の段落【0009】の「又,上述の如く,指示部2がカード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれて配置されているのでカード本体 た。」と訂正する。 訂正事項e:明細書の【考案の詳細な説明】の段落【0009】の「又,上述の如く,指示部2がカード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれて配置されているのでカード本体の電話機への差し込み方向を知ることができると共にカード本体1の表裏を確認することができる。」の次に,「尚,第1図に示した実施例はカード本体を側面からみてカード本体の上下面から厚み中心方向へ向けたへこみ部5を形成したもの,第2図に示した実施例はカード本体の平面的な中心方向へ向けたへこみ部5を形成したものである。また,第3図及び第4図に示す実施例は前記第2図に示した実施例と同様にカード本体の平面的な中心方向へ向けたへこみ部5を形成したものであるが,へこみ部5である指示部2がカード本体1の厚み(カード本体の表面から裏面までの距離)を越えて,即ち,カード本体の表面から裏面を越えて形成されたものである。尚,本考案における指示部2はへこみ部5であれば本考案の作用・効果を奏することは明らかであり,へこみ部の形成手段として,例えば押形を用いて押圧する方法,削る方法,研磨する方法,薬品や熱などにより溶解や収縮する方法など周知の各種の形成方法が用いられるがいずれの方法を用いても形成されたへこみ部について人間の指先の触覚により判別出る程度のへこみ部5が形成されればよいことから,形成手段の別による作用・効果上の違いはなく,形成手段は問わない。」を追加する。 訂正事項f:明細書の【考案の詳細な説明】の段落【0010】の「この考案に係るテレホンカードは,カード本体の一部に,電話機に差し込む方向を指示するためにカード本体に形成されたくぼみの押形部からなる差込方向の指示部を設けたから,押形部からなる指示部は手で触れることにより容易に確認することができ」を,「この考 に,電話機に差し込む方向を指示するためにカード本体に形成されたくぼみの押形部からなる差込方向の指示部を設けたから,押形部からなる指示部は手で触れることにより容易に確認することができ」を,「この考案に係るテレホンカードは,カード本体の一部に,電話機に差し込む方向を指示するためにカード本体に形成されたくぼみのへこみ部からなる差込方向の指示部を設けたから,押形部からなる指示部は手で触れることにより容易に確認することができ」と訂正する。 訂正事項g:明細書の【図面の簡単な説明】における【図1】の次に,「【図2】本考案の異なる実施の一例を示す平面図である。【図3】本考案の異なる実施の一例を示す平面図である。【図4】図3の右側面図である。」を追加する。 訂正事項h:明細書の【符号の説明】における「5・・・押形部」を「3・・・へこみ部」と訂正する。 訂正事項i:図面について第2図,第3図及び第4図を追加する。 5 本件審決の理由本件審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件訂正は,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものであって,認めることはできないとするものである。 第3 取消事由に関する原告らの主張 1 取消事由1(本件考案の認定の誤り)本件審決は,本件考案の実用新案登録請求の範囲に記載された「押形(押型)」とは,材料に圧力を加えて整形するのに用いる器具を意味するから,本件考案の「カード本体の一部に,・・・押形部からなる」とは,カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分からなる構成を意味する趣旨を述べて,本件訂正は許されないと判断した。 しかし,本件審決の上記認定及び判断は,以下のとおり誤りである。すなわち, 「押形(押型)」は,材料に圧力を加えて成形するのに用いる器具であり,「押 べて,本件訂正は許されないと判断した。 しかし,本件審決の上記認定及び判断は,以下のとおり誤りである。すなわち, 「押形(押型)」は,材料に圧力を加えて成形するのに用いる器具であり,「押形部」は器具の部分(部品)であり,カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分からなる構成を意味すると解することはできない。本件訂正は,かかる記載を明瞭にするためになされたものである。 また,本件審決は,本件原出願に係る当初明細書が補正され,出願公告がされた後に,本件原出願から本件出願が分割出願されたものであるから,本件考案は,本件原出願に係る当初明細書及び図面(以下「本件原出願に係る当初明細書」という。),並びに公告時の願書に添付された明細書及び図面(以下「本件原出願に係る公告明細書」という。)の双方に記載された考案であることを要するところ,本件原出願に係る公告明細書においては,図1にテレホンカードの側面からみて,上下面から厚み中心部方向にくぼんだ形状を示す記載がされている以外には,「指示部」がどの方向にくぼんでいるかを示す記載はなく,本件考案の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」もこれと同様に解さざるを得ない趣旨を述べて,本件訂正は許されないと判断した。 しかし,本件審決の上記認定及び判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,本件原出願に係る公告明細書には,「指示部はカード本体の一部に形成されている」との記載があり,図1はそのうちの1つの実施例を示したものにすぎないのであって,本件原出願に係る「指示部」がこれに限定されることはなく,本件考案の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」も,テレホンカードを側面からみて,上下面から厚み方向(表裏方向)にくぼんだ形状に限定して解釈する必要はない 定されることはなく,本件考案の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」も,テレホンカードを側面からみて,上下面から厚み方向(表裏方向)にくぼんだ形状に限定して解釈する必要はない。 したがって,本件審決の本件考案の認定及び判断には誤りがある。 2 取消事由2(本件訂正が実用新案登録請求の範囲の拡張又は変更に当たるとした判断の誤り)(1) 本件審決は,訂正事項aについて,「押形部」を「へこみ部」に訂正し,形状で特定することは,カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分から なるとの構成以外の構成,すなわち,カード本体の一部を削ったり,研磨したりして形成されて成るへこみ部からなる構成等を含むものになるから,訂正事項a及びこれに伴う訂正事項b~f,hは,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当たると判断した。 しかし,本件審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,本件訂正の目的は,「押形部」という明瞭でない記載の釈明である。実用新案法の保護の対象となるのは,自然法則を利用した技術的思想のうち,物品の形状,構造又は組合せに係るものに限られ,これを実現するための方法は,実用新案登録請求の範囲に記載されるべきものではなく,記載されている場合にはその記載を除外して考案の要旨を認定すべきであるところ,本件訂正は,実用新案登録請求の範囲に記載された方法の記載を削除し,考案の要旨を明瞭にするためになされたものである。本件考案は,カードの外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいて,指で触ってその位置が確認できる構成であればよく,へこみ部の形成方法が変わっても,指示部がへこみ部であれば作用,効果に変わりはないのであって,カード本体の一部を削ったり,研磨したりして形成されて成るへこみ部から 位置が確認できる構成であればよく,へこみ部の形成方法が変わっても,指示部がへこみ部であれば作用,効果に変わりはないのであって,カード本体の一部を削ったり,研磨したりして形成されて成るへこみ部からなる構成等もその構成に含まれる。 (2) 本件審決は,訂正事項e,g,iは,本件訂正前の実用新案登録請求の範囲の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」との記載について,テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状も含むようにするものであり,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当たると判断した。 しかし,本件審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」との記載には,テレホンカードを側面からみて,上下面から厚み方向(表裏方向)にくぼんだ形状のほか,テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状も含んでいることは明らかであって,テレホンカードを側面からみて,上下面から厚み方向(表裏方向)にくぼんだ形状に限定する理由はない。本件考案の実用新案登録に係る平成12年 1月26日審決においても,「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」は,上記2つの形状を含んでいる旨認定されており,訂正事項e,g,iは,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当たらない。 3 その他の取消事由(1) 本件審決は,本件訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された「押形部」を「へこみ部」と解釈し,「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」を,①テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状と,②テレホンカードを側面からみて,上下面から厚み中心方向(表裏方向)にくぼ ード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」を,①テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状と,②テレホンカードを側面からみて,上下面から厚み中心方向(表裏方向)にくぼんだ形状の両方を含んでいるものと解釈すると,本件原出願の出願前の刊行物である実願昭56-7267号(実開昭57-122088号)のマイクロフィルム及び実願昭56-7268号(実開昭57-122065号)のマイクロフィルムに記載された構成と同一の構成となり,本件考案が無効理由を内在していることになるから,上記解釈を採ることはできない旨認定,判断した。 しかし,本件審決の上記認定及び判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,上記引用公報に記載されているのは「切欠部」であって,本件考案の「へこみ部」とは異なるから,本件審決の上記認定及び判断は誤りである。また,本件審決は,本件考案の認定において,「切欠部」と「へこみ部」は異なるとしており,上記認定と矛盾する。さらに,本件審決は,申立ての対象となっていない無効理由について審理,判断しており,手続違背がある。 (2) 本件審決は,本件出願を親出願として分割出願された実用新案登録出願(実願平11-9646号。平成22年4月2日登録。実用新案登録第2607899号。以下「孫出願」という。)において,「カード内方向」について,「カード本体を側面からみてカード本体の上下面から厚み中心方向に向けて形成されている場合と,カード本体の平面的な中心方向へ向けて形成されている場合とがある」という補正が認められ,登録されているとしても,そのような異なる事案に対する審査経過が本件訂正の可否に影響を与えるものではない旨を判断した。 しかし,本件考案が,本件原出願に係る当初明細書及び公告明細書の双方に記載され るとしても,そのような異なる事案に対する審査経過が本件訂正の可否に影響を与えるものではない旨を判断した。 しかし,本件考案が,本件原出願に係る当初明細書及び公告明細書の双方に記載された考案であることを要するというのであれば,孫出願についても同様の判断がなされた上で登録に至ったものと解することができるのであって,孫出願における審査経過とは事案が異なるとして,判断を回避した本件審決には,判断遺脱の違法がある。 (3) 本件原出願に係る実用新案登録請求の範囲の記載は,平成6年5月24日付け手続補正書ないし平成8年10月9日付け職権補正により,「・・・該指示部は,カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成る・・・」との補正がなされたところ,上記「へこみ部」は,カードの外側から平面的なカードの中心方向に向かって形成されるものであることは明らかであるから,本件訂正も同様に認められるべきである。 第4 被告の反論 1 取消事由1(本件考案の認定の誤り)に対して原告らは,本件考案について,①「押形部」は,材料に圧力を加えて成形するのに用いる器具の部分(部品)であること,②本件原出願に係る公告明細書には,「指示部はカード本体の一部に形成されている」と記載されているところ,図1はそのうちの1つの実施例にすぎず,これに限定されることはないことから,本件審決の本件考案の認定及び判断には誤りがあると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,本件訂正前の明細書の記載及び図1(別紙図面のとおり)によれば,本件考案の「押形部」とは,テレホンカードの電話機に差し込む方向を指示するための「カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された(くぼんだ)部分」を意味するものである。また,本件考案における「カード本体の外周縁から 」とは,テレホンカードの電話機に差し込む方向を指示するための「カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された(くぼんだ)部分」を意味するものである。また,本件考案における「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」とは,カード本体の外周縁から指示部がどの方向にくぼんでいるかを規定しているところ,本件訂正前の明細書の記載及び図1(別紙図面のとおり)には,くぼみ方向について,テレホンカードを側面からみて,上下面から厚み中心部方向(表裏方向) にくぼんだ形状のみが示されており,テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状については記載も示唆もされていない。 したがって,本件審決の本件考案の認定及び判断に誤りはない。 2 取消事由2(本件訂正が実用新案登録請求の範囲の拡張又は変更に当たるとした判断の誤り)に対して原告らは,①訂正事項a及びこれに伴う訂正事項b~f,hは,実用新案登録請求の範囲について,方法の記載を削除し,考案の要旨を明瞭にしたものであり,本件考案における「へこみ部」は,カードの外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいて,指で触ってその位置が確認できればよく,方法自体を物品の一部として限定する理由はない,②訂正事項e,g,iについて,「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」をテレホンカードに適用すれば,テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状を含んでいることは明らかである,と主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,本件考案は,テレホンカードという物品の形状又は構造を特定した考案であるところ,「押形部」とは,カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分,すなわち,カード本体の構造の一部を特定するものであって,方法 レホンカードという物品の形状又は構造を特定した考案であるところ,「押形部」とは,カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分,すなわち,カード本体の構造の一部を特定するものであって,方法を特定したものとはいえない。実用新案法が対象としている考案は,物品の形状,構造又は組合せに係る考案であって,方法はその対象となっていないが,実用新案登録請求の範囲において,製造方法によって生産物の特定をすることは許される。また,「押形部」を「へこみ部」に訂正すると,カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分からなる構成以外の構成,すなわち,カード本体の一部を削ったり,研磨したりして成るへこみ部からなる構成を含むものとなり,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当たる。さらに,上記のとおり,本件考案の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」とは,テレホンカードの側面からみて,上下面から厚み中心部方向(表裏方向)にくぼんだ形状と解される。 したがって,本件審決が,本件訂正は実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当たると判断したことに誤りはない。 3 その他の取消事由に対して原告らは,①本件審決は,申立理由となっていない本件考案の無効理由について審理,判断した,②孫出願において,「カード内方向」は,「カード本体を側面からみてカード本体の上下面から厚み中心方向に向けて形成されている場合と,カード本体の平面的な中心方向へ向けて形成されている場合とがある」との補正が認められて登録されているにもかかわらず,事案が異なるとして,判断を回避した本件審決には,判断の遺脱の違法がある,などと主張する。 しかし,本件審決は,本件訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された「押形部」を「へこみ るにもかかわらず,事案が異なるとして,判断を回避した本件審決には,判断の遺脱の違法がある,などと主張する。 しかし,本件審決は,本件訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された「押形部」を「へこみ部」と解し,「カード本体の内方向」について,テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向も含むものと解すると,本件考案が無効理由を内在していることになる旨示したにすぎず,申立理由となっていない事項について審理したものではない。また,孫出願が上記のとおり登録されているとしても,事件毎に個別に判断すべきものであって,本件審決の判断に遺脱があるとはいえない。 第5 当裁判所の判断当裁判所は,原告らが主張する取消事由には理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 取消事由1(本件考案の認定の誤り)について(1) 本件考案における「押形部」について,本件訂正前の実用新案登録請求の範囲には,「カード本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる指示部を設けてなり」との構成が示されている。また,本件訂正前の明細書には,「このカード本体の一部に,電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けたことを特徴とするものである。」(段落【0005】),「・・・カード本体の一部にカードの電話機に差し込む方向を指示するためにくぼみから成る押形部からなる差込方向の指示部を設けたから,押形部からなる指示部 は手で触れることにより容易に確認することができ,・・・」(段落【0006】),「図面において,・・・この指示部2はカード本体1の一部に押形部5を形成して,これを指示部2とした。・・・」(段落【0008】),「・・・カード本体の一部に,電話機に差し込む方向を指示するためにカード本体に形成されたくぼ この指示部2はカード本体1の一部に押形部5を形成して,これを指示部2とした。・・・」(段落【0008】),「・・・カード本体の一部に,電話機に差し込む方向を指示するためにカード本体に形成されたくぼみの押形部からなる差込方向の指示部を設けたから,押形部からなる指示部は手で触れることにより容易に確認することができ,・・・」(段落【0010】)との記載,図の簡単な説明として「【図1】本考案の実施の一例を示す平面図である。」,「【符号の説明】1・・・カード本体,2・・・指示部,5・・・押形部」との記載があり,図1(本判決別紙図面のとおり)が添付されている。 上記本件訂正前の明細書の記載及び図1(別紙図面のとおり)によれば,本件考案における「押形部」とは,カード本体の一部に設けられ,電話機に差し込む方向を指示するためにカード本体に形成されたくぼみからなる差込方向の指示部であると理解でき,これがどのような形態であるかについては特定されていないものの,押すことによって形成された部分を意味するものと理解することができる。そうだとすると,本件訂正前の実用新案登録請求の範囲の「押形部」を「へこみ部」とすること(訂正事項a)は,押すことによって形成された部分でない「へこみ部」を広く含むことになるから,本件訂正は,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当たる。 (2) これに対し,原告らは,本件考案における「押形部」は,「器具の部分(部品)」であり,「圧力を加えて成形された部分」ではない,本件原出願に係る「指示部」は,カード本体の一部に形成されていればよく,本件原出願に係る公告明細書における図は1つの実施例にすぎず,表裏方向にくぼんだ形状に限定されない,と主張する。 しかし,原告らの上記主張は採用することができない。すなわち,上記本件訂 いればよく,本件原出願に係る公告明細書における図は1つの実施例にすぎず,表裏方向にくぼんだ形状に限定されない,と主張する。 しかし,原告らの上記主張は採用することができない。すなわち,上記本件訂正前の明細書の記載及び図1(別紙図面のとおり)によれば,「押形部」が器具の部分(部品)であると解することはできない。また,本件考案は,本件原出願に係る当 初明細書が補正され,出願公告がされた後,分割出願されたものであるから,本件原出願に係る当初明細書及び公告明細書の双方に記載された考案であると理解するのが自然である。そして,本件原出願に係る公告明細書(甲A30)には,「前記カード本体の外周縁から前記カード本体の内方向にくぼんでいる」との構成について,側面からみて,上下面から厚み中心部方向にくぼんだ形状のみが示されていたことに照らすならば,本件考案は,テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状を含まないと理解するのが合理的である。 (3) したがって,原告らの上記主張には理由がなく,本件審決の本件考案の認定に誤りはない。 2 取消事由2(本件訂正が実用新案登録請求の範囲の拡張又は変更に当たるとの判断の誤り)について原告らは,①実用新案法の保護の対象となるのは,物品の形状,構造又は組合せに係るものに限られるから,考案の要旨を認定するに当たり,物品の形状,構造を実現するための方法は除外されるべきであるところ,訂正事項a及びこれに伴う訂正事項b~f,hは,押すという方法を加味した明瞭でない記載を釈明するため,「押形部」を「へこみ部」と訂正しようとするものであるから,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当たらない,②本件審決は,圧力を加えて成形された場合の「押形部」と本件訂正後の「へこみ部」との構造上 み部」と訂正しようとするものであるから,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当たらない,②本件審決は,圧力を加えて成形された場合の「押形部」と本件訂正後の「へこみ部」との構造上の違いについて判断していない,③訂正事項e,g,iに関し,本件考案の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」には,テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状を含んでいる,と主張する。 しかし,原告らの上記主張は採用することができない。すなわち,上記のとおり,本件訂正前の実用新案登録請求の範囲の「押形部」を「へこみ部」とすること(訂正事項a)は,押すことによって形成された部分でない「へこみ部」を広く含むことになるから,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当たる。また,本件審決は,本件考案の「押形部」の意味を,物品であるカードの形状, 構造又は組合せを特定するものとして認定,解釈した上で,実用新案登録請求の範囲の拡張等の該当性について判断しており,同判断に違法はない。さらに,上記のとおり,本件考案の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」には,テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状は含まれないものと解される。 また,原告らは,①本件審決は,構成・作用効果の違いについて判断をしなかった点に違法があり,②本件訂正前後で「へこみ部」という物品の構成に変わりはなく,本件訂正により「穴部」や「切欠部」に変わることはないにもかかわらず,本件審決はその点の認定,判断を誤った点に違法があるなどとも主張する。 しかし,原告らのこの点の主張も採用することができない。すなわち,本件審決は,訂正事項aについて,「押形部」を「へこみ部」に訂正すると,カード本体の材料 断を誤った点に違法があるなどとも主張する。 しかし,原告らのこの点の主張も採用することができない。すなわち,本件審決は,訂正事項aについて,「押形部」を「へこみ部」に訂正すると,カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分からなる構成以外の構成,すなわち,カード本体の一部を削ったり,研磨したりして形成される構成を含むことになり,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更する趣旨を判断したものであって,本件審決に,判断をしなかった違法ないし判断を誤った違法はない。原告らの上記主張は,採用することができない。 以上のとおり,原告らの主張は失当であり,本件審決が,本件訂正は実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当たると認定したことに誤りはない。 3 その他の取消事由について原告らは,①本件審決は,申立理由となっていない無効理由について審理,判断している,②本件出願を原出願とする分割出願(孫出願)について,「カード内方向」は,「カード本体を側面からみてカード本体の上下面から厚み中心方向に向けて形成されている場合と,カード本体の平面的な中心方向へ向けて形成されている場合とがある」という補正が認められて登録されているとしても,そのような異なる事案に対する審査経過が本件訂正の可否に影響を与えるものではないとした判断は,判 断の遺脱に当たる,と主張する。 しかし,原告らの上記主張は失当である。すなわち,本件審決は,原告らの主張に従って,本件訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された「押形部」を「へこみ部」と解釈し,「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」を,①テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状と,②テレホンカードを側面からみて,上下面から厚み中心部方向(表裏方 ,「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」を,①テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状と,②テレホンカードを側面からみて,上下面から厚み中心部方向(表裏方向)にくぼんだ形状の両方を含んでいるものと解釈すると,本件考案が無効理由を内在していることになる旨指摘したにすぎず,審理範囲を逸脱した判断であるとはいえない。また,本件出願を原出願とする分割出願(孫出願)の審査の経緯は,本件審決の結論に影響を及ぼすものとはいえない。 なお,原告Aは,本件出願後の本件原出願の補正の経緯等についても主張するが,本件審決の結論に影響を及ぼすものとはいえず,主張自体失当である。 4 結論以上のとおりであり,原告Cを含む原告らの請求には理由がない。その他,原告らは,縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官飯村敏明 裁判官八木貴美子 裁判官知野明 別紙図面

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