主文 1 原判決中,上告人の敗訴部分を破棄する。 2 第1審判決中,上告人の檀信徒総会における被上告人を責任役員及び代表役員から解任する旨の決議が存在しないことを確認する部分及び上告人の責任役員会におけるDを責任役員及び代表役員に選任する旨の決議が存在しないことを確認する部分をいずれも取り消し,上記各部分に係る訴えをいずれも却下する。 3 被上告人が上告人に対し上告人の檀信徒総会におけるDを責任役員及び代表役員に選任する旨の決議が存在しないことの確認を求める部分につき,本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 4 第2項に関する訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 理由 上告代理人別城信太郎,同長野真一郎の上告受理申立て理由について 1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。 (1)上告人は,肩書住所地に主たる事務所を置き,礼拝施設であるA1寺を維持,運用する宗教法人である。 上告人は,昭和37年7月25日に設立の登記がされたものであるが,当時の上告人の代表役員はEであり,上告人の責任役員はE,その子であるF及び妻であるGであった。 上告人には,いわゆる檀家はなく,信者すなわちA1寺を心のよりどころとして参拝する者が檀信徒となる。 (2) 上告人においては,宗教法人法(以下「法」という。)に基づいて宗教法人A1寺規則(以下「本件規則」という。)が定められているが,本件規則には,次のような定めがある。 - 1 -5条この法人には,3人の責任役員を置き,そのうち1人を代表役員とする。 6条代表役員を「住職」といい,その他の責任役員を「信徒総代」という。 7条代表役員は徳識兼備の教師であるものとし,檀信徒中より檀信徒総会で選定し,責任役員の議決をもって定める。 ② 責任役員は檀信徒中より を「住職」といい,その他の責任役員を「信徒総代」という。 7条代表役員は徳識兼備の教師であるものとし,檀信徒中より檀信徒総会で選定し,責任役員の議決をもって定める。 ② 責任役員は檀信徒中より檀信徒総会で選定し,代表役員が任命する。 11条左の各号の1に該当するときは,代務者を置かなければならない。 1.責任役員が死亡,辞任,任期満了,その他の事由によって欠けた場合において,速やかにその後任者を選ぶことができないとき2.代表役員又は責任役員が病気,旅行その他の事由によって,3月以上その職務を行うことができないとき12条代表役員の代務者は,前条第1号に該当するときは,檀信徒のうちから,檀信徒総会において選定の上,責任役員の議決をもって定め,同条第2号に該当するときは,檀信徒のうちから,檀信徒総会において選任する。 ② 代表役員以外の責任役員の代務者は,檀信徒のうちから,代表役員又は代務者が任命する。 15条代表役員は,この法人と利益が相反する事項については,代表権を有しない。 この場合においては,檀信徒のうちから,檀信徒総会において,仮代表役員を選定しなければならない。 ② 責任役員は,その責任役員と特別の利害関係がある事項については,議決権を有しない。この場合においては,檀信徒のうちから,檀信徒総会において,その議決権を有しない責任役員の員数だけ,仮責任役員を選定しなければならない。 - 2 -(3) 被上告人は,昭和50年代後半ころ,A1寺に出入りするようになり,昭和61年12月24日,同月1日付けで被上告人が上告人の代表役員に就任した旨の登記がされた。しかし,被上告人は,檀信徒総会において代表役員に選定されたことはない。 (4) Eは,平成元年に死亡した。その後,上告人は,代表役員を欠いた状態とな 上告人の代表役員に就任した旨の登記がされた。しかし,被上告人は,檀信徒総会において代表役員に選定されたことはない。 (4) Eは,平成元年に死亡した。その後,上告人は,代表役員を欠いた状態となり,Eの後妻であるHを中心に,檀信徒により運営されていた。Fは,檀信徒から必ずしも十分な信頼を得ていたとはいえなかったこともあり,上告人の代表役員にはならなかった。そして,A1寺における年中行事には,その都度何人かの僧侶が順番で来て経を唱えるなどしており,その僧侶の手配は,Hが中心となって行った。 (5) Hは,平成7年前後ころ,病気で入院した。その後,被上告人は,上告人の住職(代表役員)と称するようになった。 (6) 平成8年当時,FがA1寺本堂の奥の部屋に居住していたことから,檀信徒であるIは,被上告人と共に,同年3月,長野真一郎弁護士に対し,FにA1寺からの退去を求める法的手続を依頼した。これに対し,Fは,代理人として岡田和義弁護士を選任したため,長野弁護士と岡田弁護士を通じて,被上告人・I側とFとの話合いが行われた。 その結果,Fの親族が長年居住してきた大阪市a区所在の上告人名義の建物について,Fの所有であることを確認し,同人への所有権移転登記をする代わりに,FはA1寺から退去してA1寺を上告人に明け渡す方向で解決することになった。 しかし,上記a区所在の建物の所有権移転登記手続は,法23条及び本件規則により,上告人の檀信徒総会の決議とそれに基づく公告を必要としたため,上告人の檀信徒名簿を整備する必要が生じた。 そこで,岡田弁護士から長野弁護士あてに乙7号証の檀信徒名簿がファクシミリ- 3 -送信され,これに被上告人・I側で作成した檀信徒名簿を併せて,乙3号証の檀信徒名簿が出来上がった。 そして,Fの妻であるJは,同年12月, 弁護士あてに乙7号証の檀信徒名簿がファクシミリ- 3 -送信され,これに被上告人・I側で作成した檀信徒名簿を併せて,乙3号証の檀信徒名簿が出来上がった。 そして,Fの妻であるJは,同年12月,上告人の預金通帳をIに渡した。以後,Iは,上告人の会計を担当するようになった。 (7) Iは,平成10年4月ころ,b本山で得度受戒後,bにある寺院などで僧侶として勤めていたDに対し,A1寺が大変なことになっており,被上告人にA1寺を任せておけないので,A1寺の住職(代表役員)になってほしいと依頼した。 (8) 同年7月12日,大阪市c区d所在のe館集会場において,被上告人が招集した「A1寺檀信徒総会」と称する集会(以下,この集会を「被上告人招集集会」という。)が開かれた。 被上告人招集集会では,被上告人が今後も引き続き上告人の代表役員であること,Iを責任役員から,Kを責任役員代務者から,それぞれ解任し,新たに責任役員としてL及びMを選任することが異議なく了承された。 被上告人招集集会は,甲16号証の檀信徒名簿記載の169名を檀信徒として開催されたものであるが,乙3号証の檀信徒名簿及び同檀信徒名簿に若干の修正を加えられた乙4号証の檀信徒名簿(以下「本件檀信徒名簿」という。)が信用性を肯定できるのに対して,甲16号証の檀信徒名簿は,乙3号証の檀信徒名簿と比べて内容が大幅に異なるものである上,平成10年になって作成されたものであって,信用性は低い。 したがって,被上告人招集集会は有効な檀信徒総会といえず,その決議も効力がない。 (9) 同年8月3日,責任役員I及び責任役員代務者K名義による同月10日開催の檀信徒総会(以下「本件檀信徒総会」という。)の招集通知(以下「本件招集通知」という。)が,両名から本件檀信徒名簿記載の檀信徒に対して発送 日,責任役員I及び責任役員代務者K名義による同月10日開催の檀信徒総会(以下「本件檀信徒総会」という。)の招集通知(以下「本件招集通知」という。)が,両名から本件檀信徒名簿記載の檀信徒に対して発送された。 - 4 -本件檀信徒名簿には,被上告人を含めて73名が檀信徒として記載されていた。また,本件招集通知には,議案として,「1.仮代表役員,仮責任役員選定の件.代表役員解任の件 3.代表役員選定の件」と記載されていた。 その当時,本件檀信徒名簿に記載されていた73名の者が実際に上告人の檀信徒であった。 (10) 同月10日午前11時,A1寺本堂において,本件檀信徒総会が開かれた。 出席檀信徒数は52名(委任状出席を含む。)であり,被上告人は出席していなかった。 本件檀信徒総会においては,Iが議長を務め,1号議案(仮代表役員,仮責任役員選定の件)について,「2号議案において代表役員解任の件が上程されるが,この解任の件について,責任役員兼代表役員である被上告人は,上告人と利益が相反し,また,特別の利害関係がある。そこで,本件規則15条により,仮代表役員と仮責任役員を選定してもらいたい。」旨述べた。そして,出席檀信徒の過半数をもって,仮代表役員にIを,仮責任役員にOを選定することが可決承認された。Iは,仮代表役員に選定された後,仮代表役員として,本件檀信徒総会の招集行為を追認した。 次に,2号議案(被上告人解任の件)について,出席檀信徒の過半数をもって,被上告人を責任役員及び代表役員から解任することが可決承認され,最後に,3号議案(代表役員選定の件)について,出席檀信徒の過半数をもって,Dを上告人の責任役員及び代表役員に選定することが可決承認された(法18条1項により,代表役員は責任役員の中から選ばれることになっているので,代表役員 選定の件)について,出席檀信徒の過半数をもって,Dを上告人の責任役員及び代表役員に選定することが可決承認された(法18条1項により,代表役員は責任役員の中から選ばれることになっているので,代表役員の選定は,責任役員の選定を伴った。)。 そして,本件檀信徒総会は,同日午前11時15分に閉会した。 (11) その後,A1寺本堂において,Iが責任役員として,Kが責任役員代務者- 5 -として出席し,責任役員会(以下「本件責任役員会」という。)が開催され,Dを代表役員とすることが議決された。 そして,同日付けで被上告人が上告人の代表役員から解任された旨の登記と,Dが上告人の代表役員に就任した旨の登記がされた。 (12) 上告人の代表役員及び責任役員は,いずれも檀信徒総会において選定される必要があり,責任役員代務者は,檀信徒総会において選定された代表役員又は代表役員代務者によって任命される必要があるが,本件檀信徒総会より前には,上告人において檀信徒総会が開催されたことはない。したがって,被上告人は,檀信徒総会において代表役員に選定されたことはなく,代表役員であることについて檀信徒総会の黙示の承認又は追認を受けたこともない。また,I及びKも,上告人の檀信徒ではあったが,責任役員に選定されたことや,責任役員代務者に任命されたことはない。 なお,本件規則には,檀信徒総会の招集権者についての規定はない。 2 本件は,被上告人が上告人に対し,① 本件檀信徒総会における被上告人を責任役員及び代表役員から解任する旨の決議(以下「本件檀信徒総会解任決議」という。)並びにDを責任役員及び代表役員に選任する旨の決議(以下「本件檀信徒総会選任決議」といい,本件檀信徒総会解任決議と併せて「本件檀信徒総会各決議」という。)の不存在確認請求(以下 「①の請求」 う。)並びにDを責任役員及び代表役員に選任する旨の決議(以下「本件檀信徒総会選任決議」といい,本件檀信徒総会解任決議と併せて「本件檀信徒総会各決議」という。)の不存在確認請求(以下 「①の請求」という。),② 本件責任役員会におけるDを責任役員及び代表役員に選任する旨の決議(以下「本件責任役員会選任決議」という。)の不存在確認請求(以下「②の請求」という。),③ 被上告人が上告人の代表役員であることの確認請求(以下「③の請求」という。)をする事案である。 - 6 -①,②の請求の争点は,ア同請求に係る訴えについての確認の利益の有無,イ本件檀信徒総会各決議の効力の有無,ウ本件責任役員会選任決議の効力の有無であり,被上告人は,イの争点について,本件檀信徒総会各決議には,(ア) 檀信徒総会の招集権限は,代表役員の事務総理権に基づき,代表役員にあるところ,本件檀信徒総会は代表役員である被上告人が招集したものではない,(イ) 本件招集通知は,本件檀信徒総会の開催された平成10年8月10日を過ぎてから被上告人に到達した,(ウ) 上告人の檀信徒は,甲16号証の檀信徒名簿記載の169名であるが,本件檀信徒名簿に記載された73名以外の檀信徒に対しては本件招集通知が発送されていない,(エ) Iは,被上告人招集集会で解任されたから,本件檀信徒総会に責任役員として関与できないのに,責任役員として関与したという重大な瑕疵があるから,本件檀信徒総会各決議は不存在である旨主張している。 ③の請求の争点は,被上告人が檀信徒総会において代表役員に選任されたか否か,選任されていないとしても,檀信徒総会において代表役員であることについて黙示の承認又は追認を受けたか否かである。 なお,前記事実関係によれば,本件檀信徒総会選任決議は,Dを責任役員及び代表 選任されていないとしても,檀信徒総会において代表役員であることについて黙示の承認又は追認を受けたか否かである。 なお,前記事実関係によれば,本件檀信徒総会選任決議は,Dを責任役員及び代表役員に「選定」するというものであったことが明らかであり,①の請求のうち,本件檀信徒総会選任決議の不存在確認を求める部分の「選任」という表現は,「選定」を含む趣旨と解される。そこで,以下,「選任」という表現は,原則として,最終的に責任役員や代表役員に任命される趣旨で用いるが,上記 「選定」の趣旨で用いる場合もある。 3 原審は,前記事実関係の下において,③の請求については,被上告人が檀信徒総会において上告人の代表役員に選任されたと認めることはできないし,被上告人を上告人の代表役員に選任する旨の檀信徒総会における黙示の承認又は追認があっ- 7 -たと認めることもできないので,これを棄却すべきものとした(被上告人は,この判断について,上告及び上告受理申立てをしたが,法定の期間内に上告理由書及び上告受理申立て理由書を提出しなかったので,原審でいずれも却下された。)が,①及び②の請求については,次のとおり判断し,これを認容すべきものとした。 (1) ①及び②の請求に係る訴えについての確認の利益について本件檀信徒総会各決議及び本件責任役員会選任決議の効力を確定することは,これにより連鎖的に生ずる種々の紛争を抜本的に解決するため適切かつ必要な手段であるということができるから,①及び②の請求に係る訴えは,いずれも確認の利益がある。 上告人は,被上告人は,解任の前提となる上告人の代表役員たる地位に1度も就任したことがなく,一檀信徒たる地位に基づいて,Dが上告人の代表役員たる地位にないことの確認を求めれば足りるから,本件檀信徒総会各決議や本件責任役員会 任の前提となる上告人の代表役員たる地位に1度も就任したことがなく,一檀信徒たる地位に基づいて,Dが上告人の代表役員たる地位にないことの確認を求めれば足りるから,本件檀信徒総会各決議や本件責任役員会選任決議の不存在確認を求める訴えの確認の利益は認められない旨主張するが,①昭和61年12月24日,同月1日付けで被上告人が上告人の代表役員に就任した旨の登記がされていること,② 平成10年8月10日,本件檀信徒総会が開催され,被上告人を責任役員及び代表役員から解任すること並びにDを責任役員及び代表役員に選任することが可決承認され,同日,本件責任役員会が開催され,Dを代表役員とすることが議決されたとして,同日付けで被上告人が上告人の代表役員から解任された旨の登記がされるとともに,同日付けでDが上告人の代表役員に就任した旨の登記がされていることにかんがみると,本件檀信徒総会各決議及び本件責任役員会選任決議の効力に疑義が存する以上,上記各決議に基づく役員の地位について争いを生じ,ひいては,その後に役員のした業務執行行為及び代表行為の効力等の派生する法律関係について連鎖的に種々の紛争が生じ得ることは不可避的なものであると認められる。このような場合には,基本となる決議自体の効力を確定- 8 -することが,紛争の抜本的解決のために適切かつ必要な手段であるというべきであるから,仮に被上告人が上告人の代表役員たる地位に1度も就任したことがないとしても,そのことから直ちに,上記各決議の効力を争う訴えについて,確認の利益を欠くということはできない。 (2) 本件檀信徒総会各決議の効力について本件規則には,檀信徒総会の招集権者についての規定はないところ,通常は,代表役員がその事務総理権に基づき招集権者となると解されるが,代表役員の解任及びその後任者の選任 信徒総会各決議の効力について本件規則には,檀信徒総会の招集権者についての規定はないところ,通常は,代表役員がその事務総理権に基づき招集権者となると解されるが,代表役員の解任及びその後任者の選任については,代表役員と利益が相反する事項であるから,これを議題とする檀信徒総会については,代表役員は招集権を有しないと解すべきである。 そして,本件規則15条によると,代表役員と利益が相反する事項については仮代表役員の選定が必要であるが,仮代表役員を選定するためにも檀信徒総会の開催が必要とされているのであり,これを仮代表役員が招集することはできず,また,法18条4項は,「責任役員は,規則で定めるところにより,宗教法人の事務を決定する。」と規定し,法19条は,「規則に別段の定がなければ,宗教法人の事務は,責任役員の定数の過半数で決し,その責任役員の議決権は,各々平等とする。」と規定しているところ,法19条にいう「別段の定」は本件規則に置かれていないから,仮代表役員を選定するための檀信徒総会の招集については,責任役員が招集できると解される。 しかし,本件檀信徒総会は,責任役員ではないIが責任役員として,責任役員代務者ではないKが責任役員代務者として招集行為を行ったものであるから,招集手続に重大な瑕疵があるといわざるを得ない。よって,このような招集行為により開催された本件檀信徒総会の決議である本件檀信徒総会各決議はいずれも不存在というべきである。 - 9 -なお,上告人は,「仮にIが責任役員ではなく,Kが責任役員代務者ではないとしても,代表役員が不存在で,後任の責任役員が選任されるまで,唯一責任役員としての権利義務を有していたFが責任役員としての権利義務を行使しないことを表明していたのであるから,檀信徒総会を招集するためには,檀信徒有志がこれ 在で,後任の責任役員が選任されるまで,唯一責任役員としての権利義務を有していたFが責任役員としての権利義務を行使しないことを表明していたのであるから,檀信徒総会を招集するためには,檀信徒有志がこれに当たるしかなかった。したがって,檀信徒たるIらがした本件檀信徒総会の招集は有効であり,仮に本件檀信徒総会の招集手続に瑕疵があったとしても,重大な瑕疵とはいえない。」旨主張し,証人Jは,第1審において,「Fは,平成7年ころ,上告人の住職の地位に就きたくない旨言った。」との証言をし,Dも,第1審における尋問において,同趣旨の供述をしているけれども,上記証言部分及び供述部分をもってしても,Fが責任役員としての権利義務を行使しないことを表明していたと認めることは困難であり,本件檀信徒総会の招集は,招集手続に重大な瑕疵があるといわざるを得ない。 (3) 本件責任役員会選任決議の効力について本件責任役員会は,I及びKによって構成されているが,本件責任役員会当時,Iは責任役員でなく,Kは責任役員代務者ではなかったので,その決議は不存在というほかない。 4 しかしながら,原審の上記3(1)ないし(3)の判断は,(1)のうち,本件檀信徒総会選任決議の不存在確認請求に係る訴えについて確認の利益を認めた部分は結論において是認することができるが,その余は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1) ①及び②の請求に係る訴えについての確認の利益についてア ①の請求のうち,本件檀信徒総会解任決議の不存在確認請求に係る訴えについて確認の利益は,判決をもって法律関係の存否を確定することが,その法律関係に- 10 -関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められるも 判決をもって法律関係の存否を確定することが,その法律関係に- 10 -関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められるものである(最高裁昭和44年(オ)第719号同47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁,最高裁平成14年(受)第1244号同16年12月24日第二小法廷判決・裁判集民事215号1081頁参照)。 前記事実関係によれば,本件規則には,責任役員も代表役員も檀信徒総会で選定される旨定められている(7条1項,2項)ところ,本件檀信徒総会より前には檀信徒総会が開催されたことはないというのであるから,本件檀信徒総会の際,被上告人が責任役員でも代表役員でもなかったことは明らかであり,被上告人を責任役員及び代表役員から解任する旨の決議によって被上告人の法律上の地位ないし利益が害される危険があるとは認められない。したがって,①の請求のうち,本件檀信徒総会解任決議の不存在確認請求に係る訴えについては,確認の利益を認めることができず,同訴えは却下を免れない。 以上と異なる見解に立って,同訴えについて確認の利益を認めた原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。同訴えについての確認の利益に関する論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,本件檀信徒総会解任決議の不存在確認請求を認容すべきものとした部分は破棄を免れない。 イ ①の請求のうち,本件檀信徒総会選任決議の不存在確認請求に係る訴えについて上記のとおり,上告人においては,本件規則により,檀信徒総会に責任役員及び代表役員を選定する権限が与えられているので,檀信徒総会は,宗教法人である上告人の意思決定機関と認められる。 法人の意思決定機関である会議体の決議の効 ては,本件規則により,檀信徒総会に責任役員及び代表役員を選定する権限が与えられているので,檀信徒総会は,宗教法人である上告人の意思決定機関と認められる。 法人の意思決定機関である会議体の決議の効力に関する疑義が前提となって,決議から派生した法律関係につき現に紛争が存在するときは,決議の存否を判決をも- 11 -って確定することが,当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合があり得る(前掲最高裁昭和47年11月9日第一小法廷判決及び最高裁平成16年12月24日第二小法廷判決参照)。 宗教法人の代表役員は,宗教法人を代表し,その事務を総理する権限を有し(法18条3項),責任役員は,規則で定めるところにより,宗教法人の事務を決定する権限を有する(同条4項)。そして,前記事実関係によれば,被上告人は,上告人の檀信徒であり,責任役員及び代表役員を選定する権限を有する檀信徒総会の構成員であるから,責任役員や代表役員の行為によってその地位ないし利益が害される危険があり,責任役員及び代表役員が適正に選定されることについて法律上の利益を有するものと認められる。被上告人と上告人との間には,現在,Dが上告人の責任役員及び代表役員であることについて争いがあるが,その争いは,本件檀信徒総会選任決議に対する疑義から派生しているものであるから,同決議の存否を確定することが被上告人の檀信徒としての地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切であるというべきである。したがって,①の請求のうち,本件檀信徒総会選任決議の不存在確認請求に係る訴えについては,確認の利益を認めることができる。 よって,同訴えについて確認の利益を認めた原審の判断は,結論において是認することができ,同訴えについての確認の利益に関する論旨は理 在確認請求に係る訴えについては,確認の利益を認めることができる。 よって,同訴えについて確認の利益を認めた原審の判断は,結論において是認することができ,同訴えについての確認の利益に関する論旨は理由がない。 ウ ②の請求に係る訴えについて前記事実関係によれば,本件規則7条1項には,「代表役員は徳識兼備の教師であるものとし,檀信徒中より檀信徒総会で選定し,責任役員の議決をもって定める。 」と定められており,代表役員の選任には檀信徒総会による選定のほかに責任役員の議決が必要とされていることが明らかである。 しかし,更に前記事実関係によれば,① 上告人の設立登記がされた昭和37年- 12 -7月25日当時の上告人の責任役員は,代表役員であるE,その子であるF及び妻であるGであったところ,Eは,平成元年に死亡し,その後,上告人は,代表役員を欠いた状態となり,Eの後妻であるHを中心に檀信徒により運営されるようになったこと,② Fは,檀信徒から必ずしも十分な信頼を得ていたとはいえなかったこともあり,代表役員にならなかったこと,③ Hは,平成7年前後ころ,病気で入院し,その後,被上告人が,上告人の住職(代表役員)と称するようになり,平成8年には,Iと共に,A1寺本堂に居住していたFにA1寺からの退去を求める法的手続を長野弁護士に依頼し,その結果,大阪市a区所在の上告人名義の建物がFの所有であることを確認し,同人への所有権移転登記をする代わりに,FはA1寺を上告人に明け渡すことになったこと,④ Fの妻であるJは,同年12月,上告人の預金通帳をIに渡し,以後,同人が上告人の会計を担当することになったこと,⑤ 上告人の代表役員及び責任役員は,いずれも檀信徒総会において選定される必要があり,責任役員代務者は,檀信徒総会において選定された代表役員又は代 後,同人が上告人の会計を担当することになったこと,⑤ 上告人の代表役員及び責任役員は,いずれも檀信徒総会において選定される必要があり,責任役員代務者は,檀信徒総会において選定された代表役員又は代表役員代務者によって任命される必要があるが,本件檀信徒総会より前には,上告人において檀信徒総会が開催されたことはなく,本件檀信徒総会及び本件責任役員会当時,上告人は代表役員を欠いている状態にあり,Iは責任役員ではなく,Kも責任役員代務者ではなかったので,責任役員として事務を執行することができたのはFだけであったこと,以上の事実も明らかである。なお,原審の確定した事実からは,Fと共に上告人の責任役員であったG(Eの前妻)の生死は不明であるが,前記事実関係によれば,少なくともEの死亡後は,Gは責任役員として事務を執行する立場になかったものと考えるのが相当である。 法18条1項は,「宗教法人には,3人以上の責任役員を置き,そのうち1人を代表役員とする。」と規定しており,責任役員及び代表役員を宗教法人の必要的な機関としているので,責任役員や代表役員が欠けた場合には,速やかに後任者を選- 13 -任する必要がある(法81条1項4号は,1年以上にわたって代表役員及びその代務者を欠いていることを裁判所による解散命令の発令事由としている。)。 前記事実関係によれば,上告人においては,本件規則によって,責任役員も代表役員も檀信徒総会で選定される旨定められているところ,同規則には,檀信徒総会の招集権者についての規定はないというのであるから,責任役員が欠けた場合は,上告人の事務を総理する権限を有する代表役員が,代表役員が欠けた場合(代表役員と共に責任役員が欠けた場合を含む。)は,上告人の事務を決定する権限を有する責任役員が,後任者選定のための檀信徒総会を招集する 人の事務を総理する権限を有する代表役員が,代表役員が欠けた場合(代表役員と共に責任役員が欠けた場合を含む。)は,上告人の事務を決定する権限を有する責任役員が,後任者選定のための檀信徒総会を招集する権限を有するとともに,速やかにその権限を行使すべき義務を有するものと解すべきである。 ところが,前記事実関係によれば,上告人は,平成元年にEが死亡してから,代表役員も責任役員も欠いている状態にあり,被上告人が住職(代表役員)を,Iが責任役員を,Kが責任役員代務者を,それぞれ称するようになったのに,責任役員として責任役員及び代表役員の後任者を選定するための檀信徒総会(以下「役員選定のための檀信徒総会」という。)を招集する権限と義務を有していたFは,これを行使することなく放置したばかりか,平成8年には,A1寺を上告人(実質的には被上告人とI)に明け渡すこととし,Fの妻であるJは,上告人の預金通帳をIに渡し,以後,同人が上告人の会計を担当するようになったというのであるから,遅くとも,本件檀信徒総会が開催された平成10年当時には,Fが責任役員としてその事務を執行することは期待できない状態にあり,したがって,本件規則7条1項に定める前記「責任役員の議決」の要件は,これを満たすことができない状態にあったというべきである。 本件規則が,責任役員及び代表役員を選定する権限を檀信徒総会に与えた趣旨は,上告人の運営に檀信徒の意思を直接反映させようとしたものと解され,したがって,役員選定のための檀信徒総会の決議は最大限尊重されなければならないから,- 14 -前記「責任役員の議決」の要件を満たすことができない状態にある場合には,檀信徒総会が責任役員や代表役員を選定すれば,それが最終的な選任になると解するのが相当である。 そうすると,Dが上告人の責任役員及び代 任役員の議決」の要件を満たすことができない状態にある場合には,檀信徒総会が責任役員や代表役員を選定すれば,それが最終的な選任になると解するのが相当である。 そうすると,Dが上告人の責任役員及び代表役員に選任されたか否かは,本件檀信徒総会選任決議の効力の有無によって決することになるので,その後の本件責任役員会選任決議は意味のないものであり,これによって被上告人の法律上の地位ないし利益が害される危険があるとは認められない。なお,前記事実関係によれば,責任役員の選任については,もともと責任役員の議決は必要とされておらず,檀信徒総会で選定し,代表役員が任命するものとされていることが明らかである(本件規則7条2項)。したがって,②の請求に係る訴えについては,確認の利益を認めることができず,同訴えは却下を免れない。 以上と異なる見解に立って,同訴えについて確認の利益を認めた原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。同訴えについての確認の利益に関する論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,②の請求を認容すべきものとした部分は破棄を免れない。 (2) 本件檀信徒総会選任決議の効力についてア本件檀信徒総会の招集権者について前記のとおり,本件檀信徒総会が開催された平成10年当時,上告人は代表役員も責任役員も欠いており,檀信徒総会において責任役員及び代表役員を選定しなければならない状態にあったが,ただ1人責任役員として役員選定のための檀信徒総会を招集することのできたFは,責任役員としての事務を執行することを期待できない状態にあったというべきであるから,責任役員及び代表役員を宗教法人の必要的な機関としている法の趣旨及び上告人の運営に檀信徒の意思を直接反映させようとして責任役員及び代表役員を選定する権限を檀信 ない状態にあったというべきであるから,責任役員及び代表役員を宗教法人の必要的な機関としている法の趣旨及び上告人の運営に檀信徒の意思を直接反映させようとして責任役員及び代表役員を選定する権限を檀信徒総会に与えた本件規則の趣旨- 15 -にかんがみ,上告人の檀信徒であり,責任役員又は責任役員代務者と称して上告人の運営にかかわってきたI及びKが役員選定のための檀信徒総会を招集することも許されると解するのが相当であり,Fが責任役員としての権利義務を行使しないことを表明していないからといって,同招集行為の効力が否定されることはないというべきである。 以上と異なる見解に立って,本件檀信徒総会は,責任役員又は責任役員代務者ではないI及びKが招集したものであるから,招集手続に重大な瑕疵があるとして,①の請求のうち,本件檀信徒総会選任決議の不存在確認請求を認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。本件檀信徒総会の招集権者に関する論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,本件檀信徒総会選任決議の不存在確認請求を認容すべきものとした部分は破棄を免れない。 イア以外の争点について前記事実関係によれば,被上告人は長期にわたって上告人の代表役員として行動しており,被上告人招集集会を開いて檀信徒を集めるなど,檀信徒に対して影響力を有していたことが明らかであるから,被上告人が本件檀信徒総会に出席して意見を述べれば,本件檀信徒総会選任決議に影響が生じた可能性を否定することができず,仮に本件招集手続に瑕疵があり,そのため被上告人が本件檀信徒総会に出席する機会を奪われたとすれば,本件檀信徒総会選任決議の効力が否定される可能性がある。 したがって,上記の点等について,原審において更に審理を尽くさせる必要 り,そのため被上告人が本件檀信徒総会に出席する機会を奪われたとすれば,本件檀信徒総会選任決議の効力が否定される可能性がある。 したがって,上記の点等について,原審において更に審理を尽くさせる必要がある。 5 以上のとおりであるから,原判決中,上告人の敗訴部分を破棄し,第1審判決のうち本件檀信徒総会解任決議の不存在確認請求を認容した部分及び本件責任- 16 -役員会選任決議の不存在確認請求を認容した部分をいずれも取り消し,上記各部分に係る訴えをいずれも却下することとし,本件檀信徒総会選任決議の不存在確認請求に係る部分につき,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官上田豊三裁判官濱田邦夫裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男)- 17 -
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