判決平成13年9月27日神戸地方裁判所平成13年(レ)第10号売買代金請求控訴事件(原審・神戸簡易裁判所平成12年(ハ)第618号) 主文 1 本件控訴(当審における追加請求も含め)を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,① 原審認容金額のほか,さらに金16万2000円及びこれに対する平成12年3月22日から支払い済みまで年5パーセントの割合による金員② 金10万円及びこれに対する平成13年3月16日から支払い済みまで年5パーセントの割合による金員を各支払え(①の請求については当審において請求の減縮がなされたものであり,②の請求については当審において追加されたものである。)。 3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要本件は,控訴人が被控訴人に対し,① 名板貸責任の規定(商法23条)の類推適用により腕時計の販売委託契約の債務不履行(履行不能)に基づく損害賠償として21万7000円(原審における31万円の請求を当審において減縮。なお,当審では,原審認容額5万5000円を除く16万2000円を請求)及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成平成12年3月22日から支払い済みまで民法所定年5パーセントの割合による遅延損害金の支払い② 不法行為(代理監督者責任)に基づく損害賠償として慰謝料10万円及びこれに対する訴え変更申立書送達日の翌日である平成13年3月16日から支払い済みまで民法所定年5パーセントの割合による遅延損害金の支払い(当審における追加請求) 害賠償として慰謝料10万円及びこれに対する訴え変更申立書送達日の翌日である平成13年3月16日から支払い済みまで民法所定年5パーセントの割合による遅延損害金の支払い(当審における追加請求)を求める事案である。 1 争いのない事実等(末尾に証拠の標目の記載のない事実は当事者間に争いがない。)(1) 当事者被控訴人は,スポーツ用品,靴,衣料品の販売等を目的とする株式会社である。 被控訴人は,平成9年8月22日,神戸市a区bc丁目d番e号においてA店(以下「本件店舗」という。)を開設した。 被控訴人は,同日,訴外Bに対し,本件店舗の一部(約10坪)を貸与した。訴外Bはこれを利用して,「C」という名称で,ストリート系ファッションのアパレル販売店を経営していた。 (2) 控訴人と訴外CことBの間の腕時計販売委託契約控訴人は,訴外CことBに対し,平成9年11月20日,同月29日及び同年12月4日の3回にわたり,カシオ製デジタル腕時計(以下の腕時計を「本件腕時計」と総称する。)DW-6900BF-1Tを金10万円,DW-6300B-2を金10万円,AW-500G-1Eを金6万円,DW8700SG-7Vを金5万円の各希望価格で販売してもらうことを委託し,売却できた場合には売却金額の30パーセントを委託料として訴外Bに支払うとの条件で,販売委託契約(以下「本件契約」という。)を締結し,本件腕時計を交付した(控訴人本人,弁論の全趣旨)。 (3) 本件店舗は平成11年8月31日に閉鎖された。 (4) 訴外CことBは本件腕時計を持ったまま居所不明となり,本件契約は履行不能となった(控訴人本人,弁論の全趣旨)。 (5) なお,被控訴人は,平成13年1月9日, 日に閉鎖された。 (4) 訴外CことBは本件腕時計を持ったまま居所不明となり,本件契約は履行不能となった(控訴人本人,弁論の全趣旨)。 (5) なお,被控訴人は,平成13年1月9日,控訴人に対し,本件時計の損害賠償として金5万5000円を支払った。 2 争点(1) ①の請求についてア名板貸責任の規定(商法23条)の類推適用の有無イ被控訴人と訴外Cの営業主体が同一でないことについての控訴人の悪意又は重過失の有無ウ控訴人の被った損害額(2) ②の請求について代理監督者責任の有無及び慰謝料額 3 争点についての当事者の主張(1) 争点(1)ア(名板貸責任の規定(商法23条)の類推適用の有無)ア控訴人の主張以下の事実を総合すると,本件契約締結当時の本件店舗の形態は,被控訴人が,本件店舗の南隅の一区画に,スニーカーと関連性の高い衣類やアクセサリーを扱うコーナーを「C」と名付けて設けていると誤認されてもやむを得ないものであって,被控訴人と訴外Cの営業主体が同一であると誤認させる外観が存在していた。そして,被控訴人は,同外観の作出に関与していた。したがって,被控訴人は,商法23条の類推適用により,訴外CことBの本件契約の債務不履行責任につき,名板貸人として責任を負う。 (ア) 本件契約当時,本件店舗の外部には,被控訴人の会社名である「D」の看板しか掲げられていなかった。 (イ) 一般客は,本件店舗の南側と東側にあった出入り口のいずれからも,被控訴人の経営するDの売り場と訴外Cの売場を自由に行き来することができた。 (ウ) 両者は壁で完全に仕切られてはいなかった。 の南側と東側にあった出入り口のいずれからも,被控訴人の経営するDの売り場と訴外Cの売場を自由に行き来することができた。 (ウ) 両者は壁で完全に仕切られてはいなかった。 (エ) 訴外Cには専用の施錠設備がなかった。訴外Cの店員は本件店舗の鍵を管理しておらず,本件店舗の施錠はDの従業員において行っていた。 (オ) 訴外Cは,被控訴人と同一のレジスターを使用していた。これにより,被控訴人は,訴外Cの売上金を管理し,その15パーセントを本件店舗の一部の賃貸料として徴収していた。 (カ) 被控訴人の主な営業品目であるスニーカーと訴外Cが扱っていたストリート系ファッションのアパレルは同種の品目であり,営業活動の同種性が認められる。 (キ) 被控訴人は,「D」以外に,「E」,「F」及び「G」という屋号の店舗を持っているところ,「G」の店舗は,訴外Cの店舗と酷似している。 イ被控訴人の認否いずれも否認ないし争う。 (2) 争点(1)イ(被控訴人と訴外Cの営業主体が同一でないことについての控訴人の悪意又は重過失の有無)ア被控訴人の主張(ア) 控訴人は,訴外Cと被控訴人の営業主体が同一でないということを知っていた。 (イ) 仮に,控訴人が,訴外Cと被控訴人の営業主体が同一でないということを知らなかったとしても,以下の事情に鑑みると,知らないことについて重過失がある。 控訴人が本件腕時計の販売を訴外Cに委託した際,委託書(訴状添付)が交付されているが,同「委託書」には控訴人が「C」に対し本件腕時計を委託する旨の記載があるのみであり,被控訴人の商号ないし社名である「D」の文字 時計の販売を訴外Cに委託した際,委託書(訴状添付)が交付されているが,同「委託書」には控訴人が「C」に対し本件腕時計を委託する旨の記載があるのみであり,被控訴人の商号ないし社名である「D」の文字はどこにも記載されていない。 イ控訴人の認否否認ないし争う。 (3) 争点(1)ウ(控訴人の被った損害額)ア控訴人の主張本件契約の債務不履行(履行不能)に基づく損害額は,本件店舗が閉鎖され,本件契約が履行不能になった平成11年9月1日を基準とする本件腕時計の価額により算定すべきである。 そして,インターネット上において本件腕時計と同種の時計が定価の数倍において流通していること,本件腕時計が流通量の限られた稀少品かつ未使用の品であり将来において高騰する可能性があることを斟酌すれば,本件腕時計の価額は,委託品が販売された場合に控訴人が受領する金員である金31万円の7割に当たる金21万7000円とするのが相当である。 イ被控訴人の認否否認する。 (4) 争点(2)(代理監督者責任の有無及び慰謝料額)ア控訴人の主張上記(1)アの各事実に照らすと,被控訴人は,訴外Cの営業状況を管理監督する義務を有していたというべきである。したがって,被控訴人は,民法715条2項に基づく代理監督者責任を負う。 ところが,被控訴人がこれを怠ったため,控訴人は本件債務不履行による損害を被り,精神的苦痛,時間的損失,訴訟追行上の労力の費消等の精神的損害を被った。これを金銭に換算すると,少なくとも金10万円に相当する。 そして,控訴人は,本件契約不履行に基づく損害額が21万7000円を 的損失,訴訟追行上の労力の費消等の精神的損害を被った。これを金銭に換算すると,少なくとも金10万円に相当する。 そして,控訴人は,本件契約不履行に基づく損害額が21万7000円を下回る場合には,同額を上限として上記慰謝料額を拡張して主張する。 イ被控訴人の認否否認する。 第3 当裁判所の判断 1 ①の請求について(1) 争点(1)ア(名板貸責任の規定(商法23条)の類推適用の有無)ア前記争いのない事実等に加え,証拠(甲1,15)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 被控訴人は,平成9年8月22日から同11年8月31日までの間,本件店舗において,「D」の名称で主としてスニーカーの販売を行っていた。 (イ) 本件店舗の開店に当たり,被控訴人と訴外CことBとの間で,被控訴人が訴外Cに対し本件店舗の一部である約10坪の販売スペースを提供し,その対価として訴外Cの売上金の15パーセントを被控訴人が受領する(ただし,家賃,敷金及び保証金はなし)という契約が締結された。 (ウ) 本件店舗の外部には,被控訴人の社名である「D」の看板が掲げられ,「C」の看板は本件店舗内外のどこにも掲げられていなかった。 (エ) 本件店舗の出入り口は,南側と東側の2カ所に設けられており,一般客はそのいずれからも自由に訴外Cと被控訴人の販売スペースを往来することができた。また,訴外Cと被控訴人の販売スペースの境界は約半分が壁で仕切られていた。 (オ) 訴外Cの売上の管理は,被控訴人のレジにおいて一括して行われていた(ただし,後記のとおり,腕時計の販売委託に関する取引は,被控訴人のレジを通すことなく,訴外Cと委託者との間 。 (オ) 訴外Cの売上の管理は,被控訴人のレジにおいて一括して行われていた(ただし,後記のとおり,腕時計の販売委託に関する取引は,被控訴人のレジを通すことなく,訴外Cと委託者との間で直接行われていた。)。被控訴人は,訴外Cの全売上を一旦把握し,その中から15パーセントを控除した残額を訴外Cに支払っていた。 (カ) 本件店舗の鍵は本件店舗の店長が管理しており,訴外Bや訴外Cの従業員は本件店舗の鍵を持っていなかった。 イ以上の事実を総合すると,一般の買い物客が,Cの営業主体が被控訴人であると誤認してもやむを得ない外観が存在したと認められる。そして,被控訴人は,上記認定のとおり,店舗外部に被控訴人の社名の看板のみを掲げたり,訴外Cの売上を被控訴人のレジにおいて一括管理すること等により,上記外観を作出し,又はその作出に関与していたと認めることができる。 もっとも,証拠(甲15)によれば,被控訴人は,訴外Cの販売する商品の仕入れには一切関与していなかったこと,本件店舗内において,被控訴人の従業員は全員制服を着用していたが,訴外Cの従業員である女性2名はTシャツ等の普段着であったことが認められる。しかしながら,商品の仕入れは一般人の知り得ないところで行われるものであるし,同一店舗内に制服を着用する従業員としない従業員とが混在することはしばしば見られることであるから,これらの事実は上記認定を妨げるものではない。 (2) 争点(1)イ(控訴人の悪意又は重過失)ア控訴人は,本件契約当時,訴外Cと被控訴人の営業主体が同一であると誤認していた旨主張するところ,たしかに,前記認定のとおり,本件店舗内においては,訴外Cと被控訴人の営業主体が同一であると一般人を誤認させる外観があったこ ,訴外Cと被控訴人の営業主体が同一であると誤認していた旨主張するところ,たしかに,前記認定のとおり,本件店舗内においては,訴外Cと被控訴人の営業主体が同一であると一般人を誤認させる外観があったことが認められる。 イしかしながら,一般の買い物客は,本件店舗内で商品を購入するだけの取引を行うだけであり,その場合,購入商品が被控訴人の商品であるか,訴外Cの商品であるかに関わりなく,被控訴人のレジにおいて一括して支払うのに対し,控訴人の当審第4回口頭弁論の際の陳述によれば,控訴人は,一般の買い物客とは異なり,本件店舗で訴外Cの商品を購入したことはなく,訴外Cとはもっぱら,腕時計の販売委託取引を行っていたものであり,しかも,それら取引は,控訴人が,直接,訴外Cに腕時計を持込んで販売委託契約を締結する形で行われ,その際,交わされる契約書も,訴状に添付された本件契約の契約書である「委託書」に明らかなとおり,当事者名として「C」と記載されており,被控訴人の社名である「D」という記載はないうえ,そのことは,控訴人においても承知していたこと,控訴人は,本件契約以前にも同じように時計の販売委託を行っているところ,その売却できた時計代金は,被控訴人のレジではなく,訴外Cのコーナーで直接これを受取っていたことが,それぞれ認められるのであって,控訴人を一般買い物客と同列に扱うことはできず,むしろ,前記の各事実は,控訴人において,訴外Cと本件店舗の営業主体が異なることを知ったうえで腕時計の販売委託を訴外Cに対して行っていたことを推認させる事実というべきである。 ウまた,当審第4回口頭弁論の際の控訴人の陳述によれば,控訴人は,平成12年初めころ,神戸を訪れて本件店舗が閉鎖されていることを知るや,まず警察に事情を訴えた事実が認められるところ,控訴 ウまた,当審第4回口頭弁論の際の控訴人の陳述によれば,控訴人は,平成12年初めころ,神戸を訪れて本件店舗が閉鎖されていることを知るや,まず警察に事情を訴えた事実が認められるところ,控訴人が真実,訴外Cの営業主体を被控訴人と誤認していたのであれば,まず,被控訴人と交渉して本件腕時計の所在を確認するはずであって,いきなり警察に通報するというのは不自然である。 エさらに,当審第4回口頭弁論の際の控訴人及び被控訴人代表者の各陳述によれば,控訴人は,本件店舗の閉鎖後,被控訴人に対して約3回にわたって電話をかけているところ,その電話の内容は,当初,「Bを捜して欲しい」旨訴えるもので,被控訴人に対して責任を追及するようものではなかったのに,最後の電話になって初めて被控訴人に対して損害の賠償を求めたことが認められる(もっとも,控訴人は,当初から被控訴人の責任を追及する趣旨の電話をしたというが,上記のとおり,本件店舗の閉鎖を知った控訴人が被控訴人に抗議をせずにまず警察に通報している事実に照らすと信用できない。)。 オ以上の事実からすれば,本件契約当時,訴外Cと被控訴人の営業主体が同一であると誤認していたとの控訴人主張はにわかに採用できず,むしろ,控訴人は,訴外Cと被控訴人の営業主体が同一でないと知っていたと認めるのが相当であり,また,仮にそうでないとしても,知らなかったことにつき重大な過失があったものと認めるのが相当である。 (3) そうすると,被控訴人に本件契約の債務不履行(履行不能)責任を認めることはできないから,控訴人の①の請求は,その余の争点(争点(1)ウー控訴人の被った損害額)について判断するまでもなく理由がない。 2 ②の請求について争点(2)(代理監督者責任の有無及び慰謝料額)につき ,控訴人の①の請求は,その余の争点(争点(1)ウー控訴人の被った損害額)について判断するまでもなく理由がない。 2 ②の請求について争点(2)(代理監督者責任の有無及び慰謝料額)につき検討するに,代理監督者責任とは,被用者の不法行為について,使用者の代理人として被用者を監督する者にも責任を認める規定であるところ,訴外Bと被控訴人との間に雇用関係は認められないし,その他,本件全証拠によっても,代理監督者責任を認めるに足る事実があるとは認められない。 したがって,被控訴人の訴外Bに対する代理監督者責任違反を理由に,本件腕時計を喪失したことに伴う精神的苦痛の慰謝料の支払いを求める控訴人の②の請求は,その余について判断するまでもなく理由がない。 3 よって,本件控訴(当審における追加請求を含め)は理由がないからこれを棄却することとし,控訴費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判長裁判官上田昭典裁判官太田敬司裁判官長谷部環
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