平成30年10月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成28年(ワ)第284号建物明渡等請求事件口頭弁論終結日平成30年7月17日判決 主文 1 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。 2 被告は,原告に対し,238万1789円及び平成30年4月1日から前項の明渡し済みまで1か月9万0900円の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求主文1項と同旨第2 事案の概要等 1 事案の要旨原告は,平成8年1月30日,住宅都市整備公団(後に業務が都市基盤整備公団に承継され,現在は独立行政法人都市再生機構に移管されている。以下これらを区別せず「UR都市機構」という。)から,別紙物件目録記載の建物(以下「本件借上住宅」という。)を公営住宅として転貸するため賃借した(以下「本件原賃貸借契約」という。)。 原告は,平成11年12月28日,被告に対し,本件借上住宅への入居を許可した(以下「本件転貸借契約」という。)本件は,公営住宅の事業主体たる原告が,UR都市機構からの借上げに係る公営住宅である本件借上住宅の入居者である被告に対し,下記(1)(予備的に(2))及び(3)の請求をする事案である。 記(1) 主位的請求 借上期間の満了を理由とする公営住宅法32条1項6号,神戸市営住宅条例50条1項7号に基づく本件借上住宅の明渡し。 (2) 予備的請求ア本件原賃貸借契約の終了を理由とする本件転貸借契約の終了に基づく本件借上住宅の明渡し。 イ本件転貸借契約の解約申入れを理由とする本件転貸借契約の終了に基づく本件 し。 (2) 予備的請求ア本件原賃貸借契約の終了を理由とする本件転貸借契約の終了に基づく本件借上住宅の明渡し。 イ本件転貸借契約の解約申入れを理由とする本件転貸借契約の終了に基づく本件借上住宅の明渡し。 (3) 上記借上期間が満了した日の翌日である平成28年1月31日から明渡し済みまでの賃料(共益費を含む。)相当損害金の支払。 2 法令の定め以下では,公営住宅法を単に「法」,神戸市営住宅条例の一部を改正する条例(平成27年9月神戸市条例第7号)施行前の神戸市営住宅条例を単に「条例」とそれぞれ表記する。 (1) 法の規定ア定義等公営住宅とは,地方公共団体が,建設,買取り又は借上げを行い,低額所得者に賃貸し,又は転貸するための住宅及びその附帯施設で,法の規定による国の補助に係るものをいう(法2条2号)。 公営住宅の借上げとは,公営住宅として低額所得者に転貸するために必要な住宅及びその附帯施設を賃借することをいう(法2条6号)。 事業主体とは,公営住宅の建設,買取り又は借上げ及び管理を行う地方公共団体をいう(法2条16号)。 事業主体は,法で定めるもののほか,公営住宅の管理について必要な事項を条例で定めなければならない(法48条)。 イ入居者の選考等の手続事業主体の長は,借上げに係る公営住宅の入居者が決定した時は当該入居 者に対し,当該公営住宅の借上げ期間満了時に当該公営住宅を明け渡さなければならない旨を通知しなければならない(法25条2項)。 ウ借上げ期間の満了による明渡請求について事業主体は,公営住宅の借上げ期間が満了するときにおいては,入居者に対して,公営住宅の明渡しを請求することができる(法32条1項6号)。 当該入居者は,この請求を受けたときは,速やかに当該公営住宅を明け渡さな ,公営住宅の借上げ期間が満了するときにおいては,入居者に対して,公営住宅の明渡しを請求することができる(法32条1項6号)。 当該入居者は,この請求を受けたときは,速やかに当該公営住宅を明け渡さなければならない(法32条2項)。 事業主体が上記明渡しの請求を行う場合には,当該請求を行う日の6か月前までに,当該入居者にその旨の通知をしなければならない(同条5項)。 また,事業主体は,公営住宅の借上げに係る契約が終了する場合には,当該公営住宅の賃貸人に代わって,入居者に借地借家法34条1項の通知をすることができる(法32条6項)。 (2) 条例の規定ア定義市営住宅とは,神戸市が建設し,買取り又は借上げ,その住民等に賃貸し,又は転貸するための住宅であって条例の規定により設置するもの及びその附帯施設をいう(条例2条1号)。 イ借上期間の満了による明渡請求市長は,当該市営住宅の借上期間が満了する場合においては,当該市営住宅の入居者に対して,その入居許可を取り消し,当該市営住宅の明渡しを請求することができる(条例50条1項7号)。当該入居者は,この請求を受けたときは,速やかに当該市営住宅を明け渡さなければならない(同条2項)。 3 前提事実(争いのない事実並びに付記する証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定し得る事実)(1) 当事者等ア原告は,普通地方公共団体であり,法所定の事業主体である(弁論の全趣 旨)。 イ被告は,昭和25年生まれの男性であり,原告の住民である(甲8)。 ウ住宅・都市整備公団は,平成8年1月30日当時,別紙物件目録記載の建物(本件借上住宅)を所有する法人であったが,その後解散し,同公団の権利及び義務は,都市基盤整備公団を経て,独立行政法人都市再生機構に承継された(甲2,弁論の全趣旨)。 当時,別紙物件目録記載の建物(本件借上住宅)を所有する法人であったが,その後解散し,同公団の権利及び義務は,都市基盤整備公団を経て,独立行政法人都市再生機構に承継された(甲2,弁論の全趣旨)。 (2) 原告の借上公営住宅に係る政策ア原告は,阪神・淡路大震災を受け,仮設住宅に住む被災者に対する支援として,UR都市機構や民間等から住宅を賃借し,借上公営住宅として住宅の供給を行い,仮設住宅の解消を行った(弁論の全趣旨)。 イ原告は,借上公営住宅の入居者募集においては,借上期間が20年であることを告知していた。一方,借上期間満了時の明渡しについては告知していなかった(乙18,19,弁論の全趣旨)。 ウ原告は,借上公営住宅について,借上げ当初は,借上住宅期間満了後の扱いについて入居者の退去方針を確定していたわけではなく,政策形成段階であり,継続利用する可能性を残していた(乙18,弁論の全趣旨)。 エ原告は,借上公営住宅の管理戸数に占める被災世帯の入居割合が36%まで減少し,かつ,借上公営住宅の近隣にある市営住宅に空きがあること,借上公営住宅の借上料(戸当たり月平均約7万8700円)と入居者から徴収する住宅使用料(戸当たり月平均約2万8000円)の差額を負担する必要があり,国庫補助を踏まえても財政負担が大きいこと(甲16)などから平成22年6月に策定した「第2次市営住宅マネジメント計画」において借上期間満了を迎える借上公営住宅を順次建物所有者に返還するとの方針を示し,実施した(甲12)。 オ原告は,借上公営住宅の返還に伴い,平成25年には神戸市借上市営住宅懇談会を開催し,専門家の意見を聞き(甲18,19),要旨下記の内容の 「借上市営住宅についての神戸市の考え方」(甲13)を発表した。 記(ア) 借上期間満了時に には神戸市借上市営住宅懇談会を開催し,専門家の意見を聞き(甲18,19),要旨下記の内容の 「借上市営住宅についての神戸市の考え方」(甲13)を発表した。 記(ア) 借上期間満了時において,要介護3以上の認定を受けた者,重度障害を有する者及び85歳以上の者がいる世帯については,当該借上市営住宅での継続入居を認める。 (イ) 借上期間満了前に入居者が住替えを希望する住宅について複数予約を行い,約した住宅が確保できるまでの間,最長借上期間満了後5年間移転を猶予する(以下「完全予約制」という。)。 (ウ) 移転に対する不安の軽減及び移転後の居住安定のため,75歳以上の高齢者のみの世帯を対象に見回りサービスを実施する。 カ原告は,借上公営住宅の入居者が借上期間満了に伴い,借上公営住宅を明け渡した場合,20~40万円の間で移転料を支払う(「市営住宅マネジメント計画に基づく実施計画の推進に関する要綱(8条,別表2)」及び「第2次市営住宅マネジメント計画の推進に関する要綱(10条)」)(甲21,22)。 (3) 原告とUR都市機構の借上住宅賃貸契約UR都市機構は,平成8年1月30日,原告に対し,本件借上住宅を下記の条件で賃貸した(本件原賃貸借契約)(甲2,弁論の全趣旨)。 記ア使用開始可能日平成8年1月31日イ借上期間アの日~平成28年1 月30日借上期間の満了の日(以下「借上満了日」という。)の概ね3年前までにUR都市機構又は原告の申出により,協議の上,借上期間を1回に限り延長することができる。 ウ借上期間終了後の取扱い(ア) 原告は,借上期間が満了した場合は,借上満了日までに,本件借上住宅 を空け,これをUR都市機構に返還しなければならない。 (イ) 本件借上住宅の入居者が借上満了日以降 了後の取扱い(ア) 原告は,借上期間が満了した場合は,借上満了日までに,本件借上住宅 を空け,これをUR都市機構に返還しなければならない。 (イ) 本件借上住宅の入居者が借上満了日以降も本件借上住宅に継続して居住することを希望し,かつ,UR都市機構が定める入居資格を有するときは,UR都市機構は当該入居者との間でUR都市機構の定める賃貸借契約を締結する。 エ賃料(借上料) 月額12,500,900円上記のうち,本件借上住宅の被告居室部分(AB号棟 C号室 1LDK51.73平方メートル)については,月額10万4800円オ借上住宅の使用上の条件原告は,本件借上住宅を公営住宅法等の規定に基づき,原告が入居を承認した者に原告の定める条件で貸し付けなければならない。 (4) 被告の本件借上住宅への入居に至る経緯ア被告は,阪神・淡路大震災の後,神戸市a区内にあるD公園で生活していた。原告は,被告に対し,複数の公営住宅を提示し,転居を促した。この時,原告職員から本件借上住宅が終身利用可能であるとの説明はなかった(被告本人,弁論の全趣旨)。 イ被告は,平成11年12月28日付けで,神戸市長に対し,本件借上住宅の入居許可を受けるに当たり,「神戸市営住宅使用証書」と題する書面(以下「本件使用証書」という。)及び誓約書を提出した。本件使用証書には,本件借上住宅の使用許可を受けるに当たり,同書面記載の規定を遵守することを誓約する旨の記載がある(甲3)。 ウ神戸市長は,平成11年12月28日付けで,被告に対し,下記の記載のある「神戸市営住宅入居許可書」と題する書面(以下「本件入居許可書」という。)を交付して,本件借上住宅の入居を許可した(以下「本件入居許可」という。)(甲3)。 記 (ア) 入居指定日平 「神戸市営住宅入居許可書」と題する書面(以下「本件入居許可書」という。)を交付して,本件借上住宅の入居を許可した(以下「本件入居許可」という。)(甲3)。 記 (ア) 入居指定日平成12年1月1日(イ) 家賃月額2万6300円(ウ) 敷金 7万8900円(家賃の3か月分)エ原告が,被告に対して交付した本件入居許可書は,借上公営住宅ではない一般市営住宅の様式のものであった。原告から被告に対して,本件入居許可に際し,法25条2項所定の通知はされなかった。 (5) 本件原賃貸借契約の終了と被告に対する借上期間満了の通知ア UR都市機構と原告は,平成25年1月30日までに本件原賃貸借契約について,本件借上住宅の借上期間を延長する合意をしなかった(弁論の全趣旨)。 イ原告は,平成22年12月,被告を含むA(本件借上住宅)の住民らに借上期間満了に伴う本件借上住宅の明渡しに向けた説明を始め,その後も被告方を戸別訪問するなどして明渡しに関する説明を行った(被告本人,弁論の全趣旨)。原告は,平成26年には,被告を含むAの住民らに対し,「完全予約制」の案内を配布した(乙23,弁論の全趣旨)。 ウ原告は,平成27年6月5日,被告に対し,法32条5項及び条例50条12項に基づいて,平成28年1月30日をもって本件借上住宅の借上期間が満了し,本件借上住宅の明渡請求をすることになる旨を通知するとともに,法32条6項及び条例50条13項に基づいて,本件原賃貸借契約の賃貸人であるUR都市機構に代わり,平成28年1月30日までに本件建物を明け渡すように求める旨の通知をした(甲4)。 エ原告は,平成28年1月12日,被告代理人に対し,法32条1項6号及び条例50条1項7号に基づき,本件借上住宅の借上満了日である同月30日までに 明け渡すように求める旨の通知をした(甲4)。 エ原告は,平成28年1月12日,被告代理人に対し,法32条1項6号及び条例50条1項7号に基づき,本件借上住宅の借上満了日である同月30日までに本件借上住宅の明渡しを求める旨を通知した(甲5)。 オ UR都市機構は,平成28年2月1日,原告に対し,本件原賃貸借契約の終了と同時に返還することができない住戸があることについて承知した,た だし,その終了と同時に返還することができない本件借上住宅について,原告の占有する権原は既に消滅している旨を通知した(甲6)。 (6) 被告の生活状況被告は,本件借上住宅において,単独で生活しており,介助なく日常生活を送っている。週に3,4回,徒歩3分程度のスーパーに行くほか,通院を除いて外出することはない。被告は,腰椎ヘルニア,痛風,前立腺がん等の多病を抱え,E整形外科,F病院,G神経内科に通院している。F病院は徒歩20分の距離を徒歩で付添いなく一人で通院している。不眠症状があり,意欲,食欲が低下し,体重も減少傾向である。要介護認定及び重度障害認定のいずれも受けていない(被告本人)。 (7) 転居先公営住宅の存在本件借上住宅から約200メートルの地点にH住宅があり,そのほかにも複数の市営住宅が転居先候補として存在する(甲23)。 (8) 賃料相当損害金本件借上住宅について,平成28年1月30日~平成30年3月31日の月額賃料及び共益費相当額は,9万1490円(月額賃料8万7600円,共益費3890円)であり,平成30年4月1日以降の月額賃料及び共益費相当額は,9万0900円(月額賃料8万7600円,共益費3300円)である。 4 本件の争点(1) 原告は,被告に対し,法25条2項所定の通知を欠いていたとしても,法 以降の月額賃料及び共益費相当額は,9万0900円(月額賃料8万7600円,共益費3300円)である。 4 本件の争点(1) 原告は,被告に対し,法25条2項所定の通知を欠いていたとしても,法32条1項6号及び条例50条1項7号に基づき,本件借上住宅の明渡しを求めることができるか否か。すなわち,法25条2項所定の通知は,法32条1項6号に基づく公営住宅の明渡請求の要件といえるか。 (2) 法32条1項6号の適用について限定解釈すべきか。 (3) 法32条1項6号に基づく明渡請求が認められない場合に,本件原賃貸借 契約の終了を理由とする本件転貸借契約の終了に基づく本件借上住宅の明渡請求が認められるか。 (4) 法32条1項6号に基づく明渡請求が認められない場合に,解約申入れによる転貸借契約の終了に基づく本件借上住宅の明渡請求が認められるか。 (5) 原告の被告に対する本件請求は,禁反言の法理に反し,又は権利濫用に当たり許されないか。 (6) 原告の被告に対する本件請求は,社会権規約11条及び12条に反しているか否か。 (7) 原告の被告に対する本件請求は,憲法13条及び25条1項に反しているか否か。 5 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1)(法25条2項所定の通知を経ないでされた法32条1項6号に基づく明渡請求の適否)についてア原告の主張法25条2項所定の通知は,入居者保護の規定ではあるが,以下の点からすると,法32条1項6号に基づく明渡請求の要件ではないと解される。 (ア) 一般の転貸借関係において,賃貸人は,転貸人が転貸借契約の時に転借人に対して原賃貸借の存続期間を通知していなかったとしても,このことを理由に,転借人に対し,期間満了による原賃貸借の終了を対抗することができなくなる において,賃貸人は,転貸人が転貸借契約の時に転借人に対して原賃貸借の存続期間を通知していなかったとしても,このことを理由に,転借人に対し,期間満了による原賃貸借の終了を対抗することができなくなるわけではない。 (イ) 借地借家法は,契約期間の更新のない定期借家契約について,明文で「あらかじめ」,建物の賃借人に対し,建物の賃貸借契約には契約の更新がなく,期間の満了により当該建物の賃貸借契約が終了する旨を記載した「書面を交付して説明しなかったとき」は,「契約の更新がないこととする旨の定めは無効とする」と定めており(借地借家法38条2項,3項),契約期間の満了により契約が終了し,明渡しを求めることができる点で法3 2条1項6号に基づく明渡請求と類似している。しかし,以下の点から定期建物賃貸借契約における説明書面交付と法25条2項所定の通知を同列に扱うことはできない。 a 建物所有者が建物を賃貸し,その賃借人が転借人に定期建物賃貸借契約をした際に,同項の説明書面の交付を怠った場合でも,原賃貸借が消滅した場合に,転借人はその建物の明渡しを拒めない。 b 公営住宅の借上げにおいて想定される契約期間(本件では20年)は通常の定期建物賃貸借契約よりも相当に長いから更新が可能か否かという情報は契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼすとは考えにくい。 c 定期建物賃貸借契約における借地借家法38条は,当事者間の自由意思に基づく契約関係を規律するものであるが,法は,住宅に困窮する低額所得者保護の観点から低廉な家賃で住宅を賃貸,転貸することを目的としており,一定の政策的規律に服さざるを得ない。そして,借上公営住宅においては,法25条2項の通知の有無にかかわらず,同22条1項及び24条1項に基づき,事実上,従前と同様の条件で他 ることを目的としており,一定の政策的規律に服さざるを得ない。そして,借上公営住宅においては,法25条2項の通知の有無にかかわらず,同22条1項及び24条1項に基づき,事実上,従前と同様の条件で他の市営住宅に入居することができ,契約終了後の住居についての保障がなされている。このように,定期建物賃貸借契約と借上公営住宅では,その規律する法の趣旨もその制度設計も異なる。 (ウ) 法32条1項及び2項には,借地借家法38条3項のように,法25条2項所定の通知を欠いた場合には,法32条1項6号に基づく明渡請求ができないとする旨の規定はない。 (エ) 借上期間の満了による公営住宅の明渡しについては,最低6か月の猶予期間が確保されていること(法32条5項),移転料の支払の提供があること(第2次市営住宅マネジメント計画の推進に関する要綱10条),当該入居者に代替の公営住宅が優先的に提供されること(法22条1項)等 入居者保護対策が実施されている。 イ被告の主張法25条2項所定の通知は,以下のとおり,入居者保護の観点から必要不可欠なものであり,法32条1項6号に基づく明渡請求の要件であると解すべきである。 (ア) 我が国の建物賃貸借法制において,期間満了後の賃貸借の存続が認められないことは例外的場合である。すなわち,借地借家法は,同法26条以下において,賃貸借契約は,賃貸人の更新拒絶に「正当な事由」がない限り存続するものとし,その適用が排除されるのは,その旨の特約が賃借人の不利にならない場合(同法30条),定期建物賃貸借契約が締結される場合(38条)など,特別の定めがある場合に限るとしている。 そして,借地借家法は,法定更新の適用が排除される定期建物賃貸借契約において,「あらかじめ,建物の賃借人に対し,建物 借契約が締結される場合(38条)など,特別の定めがある場合に限るとしている。 そして,借地借家法は,法定更新の適用が排除される定期建物賃貸借契約において,「あらかじめ,建物の賃借人に対し,建物の賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて,その旨を書面を交付して説明しなければならない」と定め(同法38条2項),その説明を欠いたときは「契約の更新がないこととする定めは無効とする」(同条3項)と定めている。 借上公営住宅の入居者は,借地借家法28条の適用を受けないため,正当事由の有無を問わず,借上期間の満了時に明渡しを強制され,定期建物賃貸借契約を締結した賃借人と同様の法的地位にある。そうすると,法25条2項所定の通知は,上記説明書面の交付と同様に,事前に借上公営住宅の入居者に対し,明渡義務及びその時期を認識させる機能を果たしているというべきである。 (イ) 法が借地借家法38条2項及び3項と同様の明文規定を設けていないのは,事業主体たる地方公共団体が入居者の保護のために決定的に重要な法25条2項所定の通知を懈怠するという違法行為に及んだにもかかわ らず,当該入居者に対して当該公営住宅の明渡しを求めるといった事態が生じるとは想定されていなかったからにすぎない。 (ウ) 法25条2項所定の通知は,入居者に入居開始時において借上期間満了に伴う明渡義務を通知することより,入居者に入居可能期間を事前かつ明確に認識し,借上期間満了時の明渡義務という不利益を許容した上で入居するという手続を履践することで事業主体に,入居者に対する借上期間満了を理由とする明渡請求を認めることとし,入居者の法的保護を図ったものである。そして,社会権規約11条1項は,適切な居住の権利を規定し,一 う手続を履践することで事業主体に,入居者に対する借上期間満了を理由とする明渡請求を認めることとし,入居者の法的保護を図ったものである。そして,社会権規約11条1項は,適切な居住の権利を規定し,一般的意見4は,居住継続の権利を挙げていることからすれば,法25条2項所定の通知は,強制立退きからの法的保護を確保するための制度である。 (エ) 借上公営住宅以外の公営住宅は,期間の定めのない建物賃貸借であり,入居者は,家賃の不払や収入基準オーバー等の事由がない限り,終身の居住が保障されている。借上公営住宅の入居者は,期間満了による明渡しが求められ,終身の居住が保障されない状況にあり,法25条2項の通知は,入居者の地位の保障に必要不可欠である。 (オ) 事業主体と入居者との間の入居契約は,借上公営住宅以外の公営住宅の入居契約と同様期限の定めのない賃貸借契約であり,法32条1項6号の規定がなければ,借地借家法の諸規定が適用され,事業主体は正当事由なくしてはその明渡しを求めることはできない。事業主体が,入居者に対し,借上期間満了を理由に借上公営住宅の明渡しを求めるためには,通常の公営住宅の賃貸借契約とは異なる①借上期間満了時の退去義務及び②事業主体が建物所有者に代わり明渡しを請求することの合意が必要となる。この合意に相当するのが,法25条2項所定の通知であり,これがない以上は,法32条1項6号に基づく明渡請求の前提を欠く。 (2) 争点(2)(法32条1項6号の適用について限定解釈すべきか。) ア被告の主張(ア) 立法時においては,転貸人たる事業主体が原賃貸借契約の更新を拒絶し,原賃貸借契約が期間満了によって終了することは想定されておらず,専ら賃貸人である建物所有者が原賃貸借契約の更新を拒絶し,又は解約の申入れを行う ては,転貸人たる事業主体が原賃貸借契約の更新を拒絶し,原賃貸借契約が期間満了によって終了することは想定されておらず,専ら賃貸人である建物所有者が原賃貸借契約の更新を拒絶し,又は解約の申入れを行うことで,原賃貸借契約が期間満了により終了する場合に,事業主体が,建物所有者に代わり,転借人たる入居者に対し,法32条1項6号に基づいて,借上公営住宅の明渡しを求めることが予定されていた(本来型)。この場合には,建物所有者による原賃貸借契約の更新拒絶又は解約申入れにおいて,借地借家法28条の正当事由が要求され,転借人たる入居者の保護が図られる。 これに対し,本件は,地方自治体の必要性からの明渡請求(転用型)であり,次のとおり,本来型とは利益状況が全く異なっており,転用型については,法32条1項6号の適用に当たり,後記(イ)・(ウ)のとおり限定解釈をすべきである。 a 転用型では公営住宅法3条によって低額所得者に住宅提供義務を負っている地方自治体と入居者の関係が問題となるだけであり,公営住宅法の基本的な法律関係を修正する必要性も合理性もない。 b 公営住宅法に定めた特例によって借地借家法の適用が排除されるのは,公営住宅法が定めた特別の必要性があり,借地借家法の正当事由を排除する合理性が担保されている場合だけであり,正当事由を排除するだけの合理性が認められる場合に初めて借地借家法の規定の適用が排除される。法32条1項6号の創設の趣旨を逸脱してまでその適用を拡大することに合理性は認められない。 c 公営住宅建替事業の施行に伴う入居者への明渡請求が認められる場合について,建替えの必要性が限定されており,他方で入居者の居住環境保護が明渡しの要件となっている。入居者の入居継続の利益を犠牲に してまで本来の制度創設の趣旨を超えて法32条1項 れる場合について,建替えの必要性が限定されており,他方で入居者の居住環境保護が明渡しの要件となっている。入居者の入居継続の利益を犠牲に してまで本来の制度創設の趣旨を超えて法32条1項6号が適用される場面を拡大することには合理性,相当性が認められない。 d さらに,公営住宅法の目的や基本的な入居関係からして,財政的な負担を負いながら低額所得者に対して住宅提供するのが公営住宅法で求められた本来の地方自治体の義務であり,この入居者と地方自治体との基本的な関係が修正されるのは,飽くまで建物所有者に建物返還のための利便性を図る必要性がある場合に限定される。そのような必要性がない場合には,原則どおりに地方自治体に対して住宅提供を義務づけるのが公営住宅法の解釈として相当である。 (イ) 公営住宅においては,高額所得者に当たらない限り,入居者は,公営住宅からの退去を求められず,事業主体である地方公共団体は,住宅を提供すべき義務がある。そうすると,事業主体である地方公共団体には,原賃貸借契約及び転貸借契約の更新義務があると解される。 (ウ) したがって,転貸人たる事業主体が,原賃貸借契約の更新を拒絶し,原賃貸借契約の期間満了による終了を理由に,入居者に対し,法32条1項6号に基づいて,借上公営住宅の明渡しを求めるためには,入居者保護の観点から対象となる入居者が高額所得者であり,かつ,転貸借契約の更新を拒絶する正当事由が必要であると解すべきである。 イ原告の主張被告の主張は,以下の点から独自の見解を述べるものであり,法32条1項6号の適用について限定解釈することは誤りである。 (ア) 法32条1項6号に基づく明渡請求は,借上公営住宅の借上期間満了を理由に,事業主体が入居者に対して,借上公営住宅の明渡しを求めるものであって の適用について限定解釈することは誤りである。 (ア) 法32条1項6号に基づく明渡請求は,借上公営住宅の借上期間満了を理由に,事業主体が入居者に対して,借上公営住宅の明渡しを求めるものであって,建物所有者に代わって事業主体が行うという点で,被告の主張は前提を欠いている。また,借上期間の満了による原賃貸借契約の終了は,建物所有者と事業主体のいずれが契約の継続を望まないかによってその 法的結果が変わるものではないから,建物所有者の意思によって,法32条1項6号の適用を分けることはできない。 (イ) 法32条1項6号は,借上公営住宅の借上期間満了を要件として定めているのであって,同号に規定のない事業主体が転貸借契約の更新を拒絶する又は解約申入れをする正当事由を具備していることを同号に基づく明渡しの要件と解することはできない。 (ウ) 借上公営住宅にかかる借上契約(原賃貸借契約)は,建物所有者と事業主体が合意しない限り,当初の借上期間満了後の更新を予定していない契約であって,法は,借上公営住宅の使用関係については,借地借家法26条1項,28条の規定の適用を排除する趣旨であると解される。よって,法32条1項6号に基づく明渡請求が,建物所有者が正当事由を具備していることを前提とする被告の主張は,その前提を欠いている。 (3) 争点(3)(本件原賃貸借契約の終了を理由とする本件転貸借契約の終了に基づく本件借上住宅の明渡請求の適否)ア原告の主張(ア) 原賃貸借契約が期間満了により終了すると,転貸人の転借人に対する転貸借契約に基づく債務は履行不能となり,転貸借契約は当然に終了すると解される。 (イ) 本件原賃貸借契約は,平成8年1月30日に締結された建物賃貸借契約であり,改正借地借家法附則2条により,借地 契約に基づく債務は履行不能となり,転貸借契約は当然に終了すると解される。 (イ) 本件原賃貸借契約は,平成8年1月30日に締結された建物賃貸借契約であり,改正借地借家法附則2条により,借地借家法29条2項の規定は適用されず,民法604条の適用がある建物賃貸借契約であるから契約期間は20年である。また,本件原賃貸借契約は,原則として更新をしないことが前提の契約であって,期間満了時には転借人である入居者を原告において退去させ,本件借上住宅をUR都市機構に返還することになっていた。原告とUR都市機構は,本件原賃貸借契約を更新する旨の合意をしなかった。加えて,原告は,平成27年7月28日に,UR都市機構に対し, 借地借家法26条に基づく更新拒絶の通知をしている。以上から本件原賃貸借契約は,契約期間である20年が経過したことで期間満了により終了している。 (ウ) したがって,本件原賃貸借契約が期間満了により終了しており,原告の被告に対する債務の履行不能を理由に原告と被告間の本件借上住宅に係る転貸借契約は当然に終了していることから,原告は,被告に対し,本件借上住宅の明渡しを求めることができる。 イ被告の主張(ア) 建物全体を一括して賃貸借した原賃貸借契約において,当初から賃貸人の承諾を得て,賃借人(転貸人)の使用は予定せず,転貸することが前提とされ,賃貸人が転貸借契約の締結に加功し,転貸部分の占有の原因を作出したといえる場合には, 転貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了しても,賃貸人は信義則上,その終了を転借人には対抗できない(最高裁判所平成14年3月28日第一小法廷判決・民集56巻3号662頁参照)。 (イ) 本件原賃貸借契約は,もともと賃貸借の目的物の使用を予定しない原告が,その公的な立場や財源等 できない(最高裁判所平成14年3月28日第一小法廷判決・民集56巻3号662頁参照)。 (イ) 本件原賃貸借契約は,もともと賃貸借の目的物の使用を予定しない原告が,その公的な立場や財源等を活用して本件借上住宅を被告に転貸し,UR都市機構も居住部分を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ,更に原告という安定した財源を有する地方公共団体に対して賃借することにより,容易かつ安定した賃料収入を得るという趣旨・目的の下なされたものである。そして,被告は,このような趣旨・目的の下,本件原賃貸借契約が締結され,UR都市機構において転貸の承諾がされることを前提に,本件転貸借契約を締結して,本件借上住宅に入居するに至っているのである。そうすると,UR都市機構は,単に本件転貸借契約の締結を承諾したにとどまらず,原告と共同して,本件転貸借契約を前提とする被告の本件借上住宅の占有原因を作出したといえ,UR都市機構と原告の間には共同事業性があり,信義則上,賃貸人たるUR都市機構は,原賃貸借契約の終 了をもって転借人たる入居者に対抗できないと解される。 よって,UR都市機構が被告に対し,本件原賃貸借契約の終了を対抗できない以上,原被告間の転貸借契約は当然終了しない。 (4) 争点(4)(解約申入れによる転貸借契約の終了に基づく本件借上住宅の明渡請求の適否)ア原告の主張原告は,被告に対し,平成27年6月5日,平成28年1月30日までに本件借上住宅を明け渡すよう求めており,かかる通知は本件転貸借契約の解約申入れと評価できる。そして,以下のとおり,原告の解約申入れには,正当事由があり,転貸借契約の終了に基づく本件借上住宅の明渡しが認められる。 (ア) 原告は,阪神・淡路大震災の被災者に対し,住宅を供給する必要からU そして,以下のとおり,原告の解約申入れには,正当事由があり,転貸借契約の終了に基づく本件借上住宅の明渡しが認められる。 (ア) 原告は,阪神・淡路大震災の被災者に対し,住宅を供給する必要からUR都市機構等から住宅を借上げ,緊急的に住宅の供給をしてきたが,震災から20年が経過し,入居率も36%と低下してきたこと,市営住宅の空きが生じていることから,借上期間満了に伴い,当初の予定どおり,借上公営住宅を順次廃止する方針を採った。 (イ) 借上公営住宅は,一般の公営住宅に比して,原賃貸借契約の賃料が高く,直接建設の公営住宅と異なって,借上料と入居者から徴収する使用料との差額を借上期間中原告が負担し続ける必要があり,国の補助を踏まえても財政的負担が過大である。 (ウ) 借上期間満了による借上公営住宅の明渡しの対象となる入居者については,借上期間満了前から住替えを希望する市営住宅の複数予約,移転先が確保できるまでの間,移転を借上期間満了後最長5年間猶予する制度を導入している。また,原告においては,借上公営住宅の入居者が借上期間満了に伴い借上公営住宅を明け渡した場合,「市営住宅マネジメント計画に基づく実施計画の推認に関する要綱(8条,別表2)」及び「第2次市 営住宅マネジメント計画の推進に関する要綱(10条)」に基づき,移転料を支払うこととしている。 (エ) 原告においては,住替え業務を担当する職員が,見回り業務として移転した入居者一人一人に面談や電話による対応,住戸訪問を行い,福祉とも連携して必要な取り組みを行っている。 イ被告の主張原告の請求は,以下のとおり,正当事由を具備するものではなく,転貸借契約の終了に基づく本件借上住宅の明渡しを求めることはできない。 (ア) 原告には本件借上住宅の使用の必要性がない。 張原告の請求は,以下のとおり,正当事由を具備するものではなく,転貸借契約の終了に基づく本件借上住宅の明渡しを求めることはできない。 (ア) 原告には本件借上住宅の使用の必要性がない。 (イ) 原告は,本件借上公営住宅の入居許可書,パンフレットに20年後に明渡しをしなければならない旨の記載をしておらず,被告の入居契約時に借上期間満了時の退去義務について説明していない。 (ウ) 原告は,平成22年6月策定の「第2次市営住宅マネジメント計画」において初めて,契約期間満了を迎える借上公営住宅を所有者に返還するとの方針を示し,実施した。 (エ) 原告の「完全予約制」は,申込みをしなければ,公営住宅の入居者資格を喪失すると説明して住宅困窮者らの「期限の定めのない賃借権」をはく奪する「転居あっせん」制度である。 (オ) 原告主張の見回りサービスは,高齢者福祉政策の一環であり,借上公営住宅の入居者らへの代償措置ではない。 (カ) 「完全予約制」の下では,単一の転居先のみを選択することができず,入居者が希望しない転居先も希望転居先として記載を義務付けられる仕組みになっている。原告が提示するH住宅から本件借上住宅までの経路は,歩道のない車道部分や通路上の凹凸やスロープがあり,歩道付きバリアフリー型の居住空間を提供する本件借上住宅とは居住環境の変化が顕著である。 (キ) 被告は,原告の説明の不備により,本件借上住宅が一般公営住宅と同様の住宅であると信じたのであり,何ら落ち度はなく,今後も本件借上住宅を利用する予定である。 (ク) 被告は,腰椎ヘルニア,痛風,前立腺がん等の多病を抱え,かかりつけ医への徒歩での通院もままならない状態である。また,不眠症状から意欲,食欲が低下し,筋力の低下,急激な体重減少等の体力低下が生じている 被告は,腰椎ヘルニア,痛風,前立腺がん等の多病を抱え,かかりつけ医への徒歩での通院もままならない状態である。また,不眠症状から意欲,食欲が低下し,筋力の低下,急激な体重減少等の体力低下が生じている状況であって,本件借上住宅での現在の住宅環境なくしては生活することができない。 (ケ) 被告は,本件借上住宅に入居後,20年という長期にわたり生活基盤,コミュニティを形成してきたのであり,被告の意に反する転居は,その生活基盤,コミュニティを破壊するばかりか,被告に健康被害を生じさせる蓋然性が高い。 (5) 争点(5)(原告の被告に対する本件請求は,禁反言に反し,権利濫用に当たるか否か)についてア被告の主張原告の被告に対する本件借上住宅の明渡請求は,政策転換によるものであり,禁反言原則に反し,また本件借上住宅の明渡義務及びその時期を事前に説明しなかった原告が,本件借上住宅を現に必要とし,かつ,何ら落ち度のない被告に対して,その明渡しを求めることは権利濫用である。 (ア) 原告の請求が禁反言の法理に反すること原告は,借上公営住宅に関し,建物所有者との借上契約時,入居者との入居契約時,入居者募集時の説明時のいずれの時点においても,借上期間満了後も借上公営住宅を継続的な利用を認める政策を採っていた。その後,平成22年6月策定の「第2次市営住宅マネジメント計画」において,神戸市営住宅の戸数を縮減する必要があるとして,同計画期間中に順次契約期間満了を迎える借上公営住宅を所有者に返還するとの方針が示され,実 施された。 原告は,当初借上期間満了後の借上公営住宅を継続的に利用することを前提に,法25条2項所定の通知をしないまま被告に一般の公営住宅同様の継続的な入居が可能であると誤信させ借上げ 施された。 原告は,当初借上期間満了後の借上公営住宅を継続的に利用することを前提に,法25条2項所定の通知をしないまま被告に一般の公営住宅同様の継続的な入居が可能であると誤信させ借上げ公営住宅に入居させたのであるから,原告の被告に対する政策転換を理由とする本件請求は禁反言の法理(民法1条2項,民事訴訟法2条)に反し,許されない。 (イ) 原告の請求が権利濫用であること上記5(4)イで述べた事情の他,以下の事情を踏まえると,原告の本件請求は,権利濫用に当たり許されない。 a 原告は,地方公共団体であり,低額所得等の住宅困窮者に公営住宅を提供する義務がある。入居者たる被告に対して,借上期間満了に伴い本件借上住宅の明渡義務があることを通知せず,一般公営住宅と誤信させ,平成22年6月に至るまで明渡を行う政策の提示もせずに,本件借上公営住宅の使用を継続させた。 b 原告は,本件原賃貸借契約の期間満了を奇貨として,自らの財政目的を理由に一方的に転貸借契約の更新を拒絶した。 c 被告は,原告の説明の不備により,本件借上住宅が一般公営住宅と同様の住宅であると信じたのであり,何ら落ち度はなく,今後も本件借上住宅を利用する予定である。 イ原告の主張(ア) 禁反言の法理に反する事情はないこと原告が,本件借上住宅を「終の住みか」として提供したことはない。原告は,UR都市機構との間で,本件原賃貸借契約の借上期間を20年,借上期間満了の3年前までに更新の合意をしない限りは,本件原賃貸借契約を更新しない旨の約定で本件原賃貸借契約を締結していたのであり,当初から借上期間満了により本件借上住宅の明渡しを求める意思を有してい た。 (イ) 本件請求が権利濫用に当たらないこと しない旨の約定で本件原賃貸借契約を締結していたのであり,当初から借上期間満了により本件借上住宅の明渡しを求める意思を有してい た。 (イ) 本件請求が権利濫用に当たらないこと上記(ア)のほか,上記5(4)の各事情を踏まえると,本件請求は権利濫用に当たらない。 (6) 争点(6)(社会権規約違反)ア被告の主張原告の本件請求は,社会権規約及び一般的意見に反しており,許されない。 (ア) 原告は,地方公共団体であり,条約法条約26条により,国が負う締約した条約について誠実に履行する義務を分有しており,社会権規約11条1項及び社会権規約委員会の一般的意見4に基づいて,適切な居住の権利として最も重要な占有継続の法的保障を尊重する義務を負っている。そして,強制立ち退きは,原則として適切な居住の権利を害するものである。 (イ) 前記のとおり,被告の年齢,健康状態を踏まえると,転居によるコミュニティの喪失により健康被害が生じる蓋然性が高く,原告の請求は,社会権規約12条が定める健康権を侵害するものである。 イ原告の主張社会権規約11条の規定は,締約国において,社会保障についての権利が国の社会保障政策により保護されるに値するものであることを確認し,この権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものに過ぎず,個人に対し,即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではない(平成元年3月2日最高裁第一小法廷判決・集民第156号271頁参照)。 また,このような社会権規約11条の規定の性質に照らせば,社会権規約委員会の一般的意見においても法的拘束力を有しない。 したがって,社会権規約及び一般的意見が直接国内において規範的効力を有することを た,このような社会権規約11条の規定の性質に照らせば,社会権規約委員会の一般的意見においても法的拘束力を有しない。 したがって,社会権規約及び一般的意見が直接国内において規範的効力を有することを前提とする被告の主張は失当である。 (7) 争点(7)(憲法違反)ア被告の主張被告は,入居後,現在に至るまで本件借上住宅において,生活空間を形成してきたのであり,この生活空間を享受し生活する法益を有し,これは憲法13条及び25条1項に基づいて保証されるべき権利である。原告の請求は,かかる被告の権利を侵害し,被告の平穏で安全な生活を乱し,著しい生活上の妨害を構成していることから憲法13条及び25条1項に反し,許されない。 イ原告の主張争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(法25条2項所定の通知を経ないでされた法32条1項6号に基づく明渡請求の適否)について(1) 公営住宅の利用関係についての規律法及び条例の規定によれば,公営住宅の使用関係には,公の営造物の利用関係として公法的一面があることは否定し得ないが,他方,公営住宅の入居者が使用許可を受けて事業主体との間に使用関係が設定された後においては,法及び条例による規制はあっても,事業主体と入居者との間の法律関係は,基本的には私人間の建物賃貸借契約と異なるところはない。 したがって,公営住宅の使用関係については,法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借地借家法に優先して適用され,法及び条例に特別の定めがない限り,原則として一般法である民法及び借地借家法の適用があるものと解すべきである(最高裁昭和59年12月13日第一小法廷判決・民集38巻12号1411頁参照)。 (2) 借上公営住宅についての法の定めア法は,国及び ある民法及び借地借家法の適用があるものと解すべきである(最高裁昭和59年12月13日第一小法廷判決・民集38巻12号1411頁参照)。 (2) 借上公営住宅についての法の定めア法は,国及び地方公共団体が,健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を 整備し,これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し,又は転貸することにより,国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする(法1条)。 イ上記アを達成するために,地方公共団体は,常にその区域内の住宅事情に留意し,低額所得者の住宅不足を緩和するために必要があると認めるときは,公営住宅の供給を行わなければならない(法3条)。そして,地方公共団体は,事業主体として,公営住宅の借上げ,すなわち,他の者から住宅及びその附帯施設を賃借し,これを公営住宅として低額所得者に転貸することにより公営住宅の供給を行うことができる(法2条6号~8号)。国は,借上公営住宅について,事業主体がその家賃を定める場合に,その管理開始の日から起算して5年以上20年以内で政令で定める期間,その補助を行う(法17条)。 ウ事業主体の長は,借上公営住宅の入居者を決定したときは,当該入居者に対し,当該公営住宅の借上期間の満了時に当該公営住宅を明け渡さなければならない旨を通知しなければならない(法25条2項)。 エ事業主体は公営住宅の借上期間が満了する場合においては,入居者に対し,公営住宅の明渡しを請求することができる(法32条1項6号)が,この請求を行う場合には,当該請求を行う日の6月前までに当該入居者に対してその旨の通知をしなければならず(同条5項),また,当該公営住宅の賃貸人に代わって,当該入居者に借地借家法34条1項の通知をすることができる(法32条6項)。当該入居者は,上記請 当該入居者に対してその旨の通知をしなければならず(同条5項),また,当該公営住宅の賃貸人に代わって,当該入居者に借地借家法34条1項の通知をすることができる(法32条6項)。当該入居者は,上記請求を受けたときは,速やかに当該公営住宅を明け渡さなければならない(同条2項)。 オ事業主体は,公営住宅の借上げに係る契約が終了する場合において,公募の原則によることなく,当該公営住宅の明渡しをしようとする入居者を他の公営住宅に入居させることができる(法22条1項)。当該公営住宅の明渡しをしようとする入居者は,当該明渡しに伴い,他の公営住宅に入居の申込 みをした場合においては,その者は,法23条所定の条件(入居者資格)を具備する者とみなされる(法24条1項)。 (3) 借上公営住宅の明渡しをめぐる法律関係ア転貸借契約一般における原賃貸借契約終了の場合の法律関係借上公営住宅の使用関係は,借上公営住宅の所有者と事業主体との間の原賃貸借契約及び事業主体と入居者との間の転貸借契約から成り,法及び条例に特段の規定がない限り,事業主体と入居者との間には民法及び借地借家法が適用され,転貸借契約の一般法理が妥当する。 賃貸人,転貸人及び転借人との間で建物の転貸借関係が存在する場合において,原賃貸借契約に終了事由が発生したときは,これを賃貸人が転借人に対して対抗できない場合を除き,賃貸人は,転貸人及び転借人に対し,目的建物の明渡しを求めることができる。そして,賃貸人が目的建物の明渡しを求めたときは,転貸借契約は,転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了する。 原賃貸借契約の期間が満了した場合,賃貸人がその契約の更新を拒絶するには借地借家法28条所定の正当の事由があることを要するが,他方,転貸人がその契約の更新を拒絶するに際して上記 により終了する。 原賃貸借契約の期間が満了した場合,賃貸人がその契約の更新を拒絶するには借地借家法28条所定の正当の事由があることを要するが,他方,転貸人がその契約の更新を拒絶するに際して上記の正当の事由があることは必要とされていない。同条は,建物賃貸借契約における賃借人の保護を図るためのものであり,転貸人が原賃貸借契約の更新を拒絶することによってその契約関係から離脱しようとする場合に原則としてこれを制限する理由はない。 イ借上公営住宅の性格(ア) 地方公共団体は,常にその区域内の住宅事情に留意し,低額所得者の住宅不足を緩和するため必要があると認めるときは,公営住宅の供給(公営住宅の整備及び管理をすること)を行わなければならないとされ,公営住宅の整備には,公営住宅の建設等(公営住宅の建設又は公営住宅の買取り) のほか,公営住宅の借上げが含まれる。 (イ) 借上公営住宅の使用関係においては,転借人たる入居者が転貸人たる事業主体に支払う賃料を低額に抑え,原賃貸借契約の賃料と転貸借契約の賃料の差額を事業主体である地方公共団体の公金及び20年間を限度とする国の補助金によって賄うことが想定されている(公営住宅法17条1項参照)。すなわち,事業主体である地方公共団体にとっては,逆ざや状態が生じる。 (ウ) 地方公共団体は,その区域内の住宅事情が好転し,建設等によって取得した公営住宅で低額所得者の住宅需要をまかなえる状況になった場合には,借上公営住宅について,借上期間満了を待って解消することがあり得る。このことは,法上,明確に規定されてはいないものの,上記のとおり入居者保護の規定(上記(2)オ)が置かれていることを併せ考えると,予定されている事態と解することができる。なお,上記入居者保護の規定によって,代替住居となる公営 されてはいないものの,上記のとおり入居者保護の規定(上記(2)オ)が置かれていることを併せ考えると,予定されている事態と解することができる。なお,上記入居者保護の規定によって,代替住居となる公営住宅への入居の機会が設けられていることは,特に要保護性の高い入居者(前記前提事実(2)オ(ア))の場合でない限り,一般的には,入居者保護の措置として欠けるところはないと評価し得る。 (エ) これらの点からすれば,借上公営住宅においては,原賃貸借契約において,転貸借の利用が前提とされているものの,借上期間満了に先立って,地方公共団体がその区域内の需給の状況を見直し,当初の契約期間の満了により終了させることがあり得ることが前提とされているということができる。 ウ借上公営住宅における原賃貸借契約終了の場合の法律関係前記アの転貸借契約の一般法理及び上記イの借上公営住宅の性格に照らすと,借上公営住宅において原賃貸借契約の期間が満了し,事業主体がその契約の更新を拒絶したときは,原賃貸借契約は終了し,原賃貸借契約に係る賃貸人は転貸人に対して期間満了による同契約の終了を主張することがで きるというべきである。 なお,被告が指摘する前掲最高裁判所平成14年3月28日第一小法廷判決は,原賃貸借契約の更新が当然の前提とされ,賃貸人,転貸人,転借人ら当事者間で共通認識となっていた事案に関するものであり,本件とは事案を異にする。 エ法32条1項6号の趣旨と入居者保護の規定(ア) 法32条1項6号は,借上期間(原賃貸借契約の契約期間)が満了し,よって,原賃貸借契約が終了した場合について,事業主体が,賃貸人たる借上公営住宅の所有者に代わって,転借人たる入居者に対し,公営住宅の明渡しを請求することを認めている。これは,事業主体が,借上公営住宅の所 原賃貸借契約が終了した場合について,事業主体が,賃貸人たる借上公営住宅の所有者に代わって,転借人たる入居者に対し,公営住宅の明渡しを請求することを認めている。これは,事業主体が,借上公営住宅の所有者に代わり,入居者に対する明渡請求を行うことによって,当該公営住宅が所有者に対し確実かつ円滑に返還されるようにし,ひいては他の建物所有者が公営住宅の借上げに参画することを躊躇しないよう配慮し,もって公営住宅の円滑な供給を図ることが法の趣旨であると解される。 (イ) そして,その一方で,法において,事業主体の長は,借上げに係る公営住宅の入居者が決定した時は当該入居者に対し,当該公営住宅の借上げ期間満了時に当該公営住宅を明け渡さなければならない旨を通知しなければならない(法25条2項,入居者決定時通知)とされ,公営住宅の借上げに係る契約の終了・・・より当該公営住宅の明渡しをしようとする入居者が,当該明渡しに伴い他の公営住宅に入居の申込みをした場合においては,その者は,前条各号に掲げる条件を具備する者とみなすとされ(法24条1項,入居条件具備のみなし規定),事業主体は,公営住宅の借上げに係る契約の終了の場合において,公募の原則の例外として,当該住宅の入居者を公営住宅に入居させることができるとされている(法22条1項,公募原則の例外規定)。事業主体が,法32条1項6号の規定に該当することにより同項の請求を行う場合には,当該請求を行う日の六月前までに, 当該入居者にその旨の通知をしなければならないとされている(法32条5項,明渡請求6か月前通知)。これらは,借上げ期間満了時にそのことのみを理由として明渡請求できるとされたことを考慮し,入居者保護の規定として置かれたものと考えられる。 オ入居者決定時通知(法25条2項所定の通知)と法32 。これらは,借上げ期間満了時にそのことのみを理由として明渡請求できるとされたことを考慮し,入居者保護の規定として置かれたものと考えられる。 オ入居者決定時通知(法25条2項所定の通知)と法32条1項6号に基づく明渡請求との関係(ア) 上記エ(イ)の入居者保護規定のうち,明渡請求6か月前通知が法32条1項6号による明渡請求を行う前提とされており,その要件となることは法の規定上明らかである。これに比べ,他の入居者保護の規定については,その文理上,明らかではない。 (イ) 入居条件具備のみなし規定・公募原則の例外規定は,その文理上,転居先の決定をもって明渡請求の条件とはしていない。もっとも,実際上,転居先が確保されていることを前提として現実に明渡しを求める運用(具体的には完全予約制〔前記前提事実オ(イ)〕のような運用)がされることが予定されていると考えられる。 (ウ) これらの規定は,転居を準備するための準備期間を確保し,転居先の確保を容易にすることによって,入居者保護を図る趣旨を持つと考えられ,特に要保護性の高い入居者(前記前提事実(2)オ(ア))の場合でない限り,一般的には,入居者保護の措置として欠けるところはないと評価し得る。 (エ) 他方,入居者決定時通知は,上記各規定に係る制度と比べると,転居先住居の確保に果たす機能はなく,入居者決定時,入居者にあらかじめ借上げ期間満了時に退去しなければならないことを通知し,その時に向け心積もりを持っておくようにする契機を与える機能を有する。通知事項は,文字どおり,「借上げ期間満了時」であれば足り,具体的な期限である必要はないと考えられる。実際,原告とUR都市機構との間の契約において,協議による更新の余地は残されているから,正確を期せば,「借上げ期間 満了時」に退去しなけれ 足り,具体的な期限である必要はないと考えられる。実際,原告とUR都市機構との間の契約において,協議による更新の余地は残されているから,正確を期せば,「借上げ期間 満了時」に退去しなければならないことを通知するに止まるものと考えられる。 そして,飽くまで入居者決定後の通知であるから,法の規定としては入居者に選択の機会を与える趣旨を持つとはいえない。 (オ) 法は,健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し,これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し,又は転貸することにより,国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的としている(1条)。借上住宅について,借上期間満了の際,転居を準備するための準備期間を確保し,転居先の確保を容易にすることによって,入居者保護が図られれば,一般的には上記目的は達成され得る(なお,法が,継続居住の利益を保護しているとまでいえないことは後記のとおりである。)。 (カ) そもそも,上記のとおり,法32条1項6号は,もともと期間満了により転借人に対して明渡しを求める地位にある借上公営住宅の所有者(原賃貸借契約の賃貸人)の保護を図る趣旨の規定であると解するのが相当である。他方,法25条2項は,転借人が借上げ期間満了時に退去しなければならないことについて,心積もりを持っておけるよう,事業主体に通知を義務付けた規定であると解される。このように,両者の規定は,それぞれ別個の趣旨から設けられた規定である。前記のとおり,借上公営住宅の原賃貸借契約に係る賃貸人は,本来,転借人に対し,原賃貸借契約の期間満了による終了を主張することができるのであって,このことは入居者決定時通知の有無によって左右されるものではないと解するのが相当である。 (キ) 以上の点を勘案すると,入居者決定時通知は,その懈 間満了による終了を主張することができるのであって,このことは入居者決定時通知の有無によって左右されるものではないと解するのが相当である。 (キ) 以上の点を勘案すると,入居者決定時通知は,その懈怠が,債務不履行責任あるいは不法行為責任を構成し,入居者が損害賠償請求し得る可能性があることは別論として,また,個別事案において,その懈怠に起因して明渡し時に酷な結果が生じることをもって明渡請求を権利濫用とする一事情を構成するかは別論として,法32条1項6号による明渡請求の要件 ではなく,法32条1項6号の請求の当否を左右しないと解するのが相当である。 よって,入居者決定時通知(法25条2項所定の通知)を経ないでされた法32条1項6号の明渡請求は有効である。 (4) 本件への当てはめ前記前提事実(5)ア及びウによれば,UR都市機構と原告は,平成25年1月30日までに本件原賃貸借契約について,本件借上住宅の借上期間を延長する合意をしなかったため,平成8年1 月30日をもって本件借上住宅の借上期間が満了し,原告は,借上満了日の6か月以上前である平成27年6月5日,被告に対し,法32条5項及び条例50条12項に基づく通知をするとともに,法32条6項及び条例50条13項に基づいて,本件原賃貸借契約の賃貸人であるUR都市機構に代わり,平成28年1月30日までに本件建物を明け渡すように求める旨の通知をしている。 よって,原告は,被告に対し,法32条1項6号に基づき本件借上住宅の明渡しを求めることができる。 (5) 被告の主張についてア被告は,入居者決定時通知(法25条2項所定の通知)は,定期建物賃貸借契約における説明書面の交付(借地借家法38条2項)と同様に,事前に借上公営住宅の入居者に対し,明渡義務及びその時期を認識させる機能 告は,入居者決定時通知(法25条2項所定の通知)は,定期建物賃貸借契約における説明書面の交付(借地借家法38条2項)と同様に,事前に借上公営住宅の入居者に対し,明渡義務及びその時期を認識させる機能を有しており,上記通知は,法32条1項6号に基づく明渡請求の要件と解すべきである旨主張する。 イこの点,入居者決定時通知は,前記(3)オ(エ)のとおり,転借人たる借上公営住宅の入居者保護のため,一定の機能を有していることは否定できない。 しかし,定期建物賃貸借契約に関して要求される説明書面(借地借家法38条2項)は,借地借家法所定の法定更新の適用が排除される同契約の成立要件として定められている。他方,入居者決定時通知は,借上公営住宅の転 貸借契約の効力に影響を与える性質のものとは解されず,前記のとおり,入居者決定時,入居者にあらかじめ借上げ期間満了時に退去しなければならないことを通知し,その時に向け心積もりを持っておくようにする契機を与える機能を有するにとどまる。また,通常,数年程度の短期の契約期間が予定されている定期建物賃貸借契約と比較的長期間の契約期間が予定されている借上公営住宅の転貸借契約とでは,期間満了時期に関する情報の重要性が異なる。このように,定期建物賃貸借契約に関して要求される説明書面と入居者決定時通知はそれぞれ趣旨及び性質が異なっており,定期建物賃貸借契約に関して要求される説明書面との比較において,入居者決定時通知を法32条1項6号に基づく明渡請求の要件と解することはできない。 したがって,被告の上記主張は採用できない。 2 争点(2)(法32条1項6号の適用について限定解釈すべきか。)被告は,法32条1項6号について,本来型と転用型を区別し,本件のように,事業主体が原賃貸借契約の更新を拒絶し,同契約の期間 。 2 争点(2)(法32条1項6号の適用について限定解釈すべきか。)被告は,法32条1項6号について,本来型と転用型を区別し,本件のように,事業主体が原賃貸借契約の更新を拒絶し,同契約の期間満了による終了を理由に入居者に対して法32条1項6号に基づく明渡請求をする場合を限定解釈を要する転用型とし,転用型において請求が認められるためには,入居者保護の観点から対象となる入居者が高額所得者であり,かつ,転貸借契約の更新を拒絶する正当事由が必要である旨主張する。 しかしながら,まず,法の規定上,転用型と本来型の区別はない。 また,前記(3)アのとおり,転貸人が原賃貸借契約の更新を拒絶することによってその契約関係から離脱しようとする場合に原則としてこれを制限する理由はない。この点,入居者保護の面から見て,先に判示したとおり,法は,借上住宅について,借上期間満了に伴う明渡請求の際,転居先住居となる公営住宅の確保に配意し,転居準備期間を確保している。これによって,いずれにしても入居者保護は図られると考えられるから,本来型と転用型の区別を設けて後者の要件を加重する必要性はない。 なお,公営住宅建替事業が施行される場合には,必要な仮住居を提供しなければならず,除却される公営住宅の入居者で新たに整備される公営住宅への入居を希望する旨を申し出たものを当該公営住宅に入居させなければならないとされている。これは,公営住宅建替事業が円滑に進むことを期して,除却される公営住宅から退去を余儀なくされることについて,入居者の納得を得られやすいような措置を用意したものというべきである。このことから直ちに,法において,借上期間が満了する借上住宅の入居者への明渡請求等,他の場面においても同一住宅への入居継続の利益が保護されているということはできない(な 用意したものというべきである。このことから直ちに,法において,借上期間が満了する借上住宅の入居者への明渡請求等,他の場面においても同一住宅への入居継続の利益が保護されているということはできない(なお,個別の事案において,特に要保護性の高い入居者(前記前提事実(2)オ(ア))について,入居継続の利益を考慮し,明渡請求を濫用とすべきことがあり得るかは別論である。)。 さらに,借上期間が満了する場合において,それが建物所有者が更新を拒絶した場合か,地方自治体において更新を拒絶した場合であるかにかかわらず,建物所有者としては,新たな賃借人を募集するため,早期・円滑な明渡しを受ける利益があるから,建物所有者に建物返還のための利便性を図る必要性があることには変わりはない。 この点,本件において,明渡しが遅延しても,建物所有者であるUR都市機構としては,原告から従来の賃料に相当する損害金を受領することができる。もっとも,UR都市機構は,独立行政法人都市再生機構法3条によれば,「独立行政法人都市再生機構(以下「機構」という。)は,・・・都市基盤整備公団(以下「都市公団」という。)から承継した賃貸住宅等の管理等に関する業務を行うことにより,良好な居住環境を備えた賃貸住宅の安定的な確保を図り,もって都市の健全な発展と国民生活の安定向上に寄与することを目的とする。」とされており,公営住宅の賃貸事業とは異なる事業目的をもって賃貸住宅の賃貸事業を行っており,需要者層も,公営住宅法の想定するものとおのずと異なっているとうかがわれる。UR都市機構は,自らの事業目的にかなう需要者への賃貸を行う利益 を有している。かかる観点からすれば,原告において,借上住宅を必要としないのであれば,UR都市機構として,速やかに借上住宅を返還してもらい,自らの事業として なう需要者への賃貸を行う利益 を有している。かかる観点からすれば,原告において,借上住宅を必要としないのであれば,UR都市機構として,速やかに借上住宅を返還してもらい,自らの事業としての賃貸を行う利益があるということができる。 被告は,事業主体である地方公共団体には転借人との関係で原賃貸借契約の更新義務がある旨主張するが,そのような義務を認める法律上の根拠は見当たらない。 よって,被告の上記主張は採用できない。 3 争点(5)(本件請求が禁反言に反し,権利濫用に当たるか)(1) 禁反言の法理について前記前提事実(3)イ及びウによれば,本件原賃貸借契約は,借上期間が20年で,更新の合意をしない限りは,更新されず,原告は,UR都市機構に対し,本件借上住宅を借上期間満了時に返還しなければならない契約であり,原告において,本件原賃貸借契約当時に本件借上住宅をその借上期間満了後も当然に契約更新の上,借上公営住宅として継続使用する予定であったとは認められない。そして,原告が借上公営住宅の借上期間満了後の継続使用も検討していたこと(前記前提事実(2)ウ)についても,震災からの復興の状況に応じてその後の政策を検討する余地を残していたものと評価できる。被告は,原告が平成22年に突如として政策転換をした旨主張するが,原告としては,震災からの復興が進む中で従前から選択肢としてあった借上公営住宅の返還を平成22年6月策定した「第2時市営住宅マネジメント計画」で明確に打ち出したにすぎない。 また,前記前提事実(4)アによると,原告職員が被告に対し,本件借上住宅への入居を勧めた際も,終身利用可能であると述べていたものではなく,原告が被告に対し,法25条2項所定の通知を欠いていたことを踏まえても,借上期間満了後も継続入居可能であると積極的に ,本件借上住宅への入居を勧めた際も,終身利用可能であると述べていたものではなく,原告が被告に対し,法25条2項所定の通知を欠いていたことを踏まえても,借上期間満了後も継続入居可能であると積極的に誤信させたとはいえない。 以上によれば,原告の本件請求が禁反言の法理に反するものとは認められな い。 (2) 権利濫用についてア前記1で検討したとおり,入居者決定時通知(法25条2項所定の通知)は,法32条1項6号に基づく明渡請求の要件ではないことから,上記通知を欠いたことをもって本件請求が直ちに権利濫用に当たるということはできない。 イ上記(1)のとおり,原告は,本件借上住宅の期間満了後の継続使用を前提としていたわけではなく,原則として借上期間満了による本件借上住宅の返還が前提であり,震災後の復興状況,原告の財政状況等を勘案して借上公営住宅の借上期間満了に伴う建物所有者への返還を実施したと認められ,本件請求もその一環であって,原告において被告に対し,殊更本件借上住宅が終身利用可能な住宅である旨説明したといった事情もない。 また,前記前提事実(5)エによると,賃貸人であるUR都市機構は,原告に対し,借上期間の満了により本件原賃貸借契約が終了しているため,原告において本件借上住宅の占有権原を有しないことを明確にし,その返還について求めており,前記前提事実(3)ウ(ア),法32条1項6号の趣旨からすれば本件原賃貸借契約において本件借上住宅の明渡しは原告の責任においてすることとされている。 加えて,前記前提事実(2)によれば,原告は,平成22年6月策定の「第2次市営住宅マネジメント計画」で契約期間満了を迎える借上公営住宅を所有者に返還するとの方針が示して以降,住替え先の住宅の予約とともに,当該住宅が確保できるまでの間の移転 ,平成22年6月策定の「第2次市営住宅マネジメント計画」で契約期間満了を迎える借上公営住宅を所有者に返還するとの方針が示して以降,住替え先の住宅の予約とともに,当該住宅が確保できるまでの間の移転猶予や移転料の支給,移転の不安除去等を目的とした原告職員による見回りや面談といった措置を取るなど借上公営住宅の明渡請求に伴って移転する入居者への配慮を行っている。また,本件借上住宅については,入居者とUR都市機構との間で別途賃貸借契約を締結すれば,継続入居することも可能である(前記前提事実(3)ウ(イ))。 また,前記前提事実(5)イのとおり,原告は,被告に対し,借上期間満了の約6年前である平成22年には借上期間満了に伴う明渡しについて説明を行い,平成26年には「完全予約制」の案内を出し,本件借上住宅の明渡しが必要であることを通知し,移転準備を円滑に行えるよう配慮している。 ウ被告は,本件借上住宅に入居して以降,コミュニティを形成し,居住環境を整えてきたのであり,現在の被告の健康状態を踏まえると,健康被害が生じる蓋然性が高いと主張する。 確かに,住み慣れた住宅からの移転によって高齢者の健康に影響が生じるおそれ自体は否定できず,前記前提事実(6)のとおり,被告が健康上の複数の問題を抱えていることも認められる。しかし,同前提事実によれば,被告は,介護認定や重度障害認定を受けているわけではなく,地域のコミュニティとは関係なく,単独で日常生活を送ることができており,転居先の候補として挙がっている公営住宅からの通院にも大きな支障があるとは認められない。入居者決定時通知の懈怠に起因して被告に酷な結果が生じると認めるに足らない。 エそうすると,原告において,被告に対し,本件借上住宅からの移転に前記各種の配慮を行いつつ本件借上住宅の明渡 れない。入居者決定時通知の懈怠に起因して被告に酷な結果が生じると認めるに足らない。 エそうすると,原告において,被告に対し,本件借上住宅からの移転に前記各種の配慮を行いつつ本件借上住宅の明渡しを求めることが,健康上の重大な危険を生じさせると認めるに足らず,権利濫用に当たるということはできない。 4 争点(6)及び(7)(社会権規約違反,憲法違反)(1) 社会権規約違反原告は,社会権規約違反を理由に原告の請求は許されないと主張する。 しかしながら,社会権規約11条1項(これを受けた社会権規約委員会の一般的意見4)及び12条は,締約国が,すべての者が適切な居住の権利(占有継続の法的保障),身体的及び精神的健康を享受する権利があることを前提に,その実現を達成するために必要な措置を取るべき政治的責任を負うことを宣 明したものにすぎず,個人に対し,即時に具体的権利を付与することを定めたものではない(最高裁平成元年3月2日第一小法廷判決・集民156号271頁)。よって,同規定を根拠に本件請求が認められないとする被告の主張は採用できない。 (2) 憲法違反被告は,自己決定権(憲法13条)及び生存権(同25条1項)についても主張するが,被告の生活状況は前記3(2)ウ判示のとおりであって,原告が前記前提事実(2)のとおり各種の配慮の上,本件請求を行っていることに照らし採用できない。 5 小括以上のとおり,法32条1項6号に基づく明渡請求において,法25条2項所定の通知は要件ではなく,原告の本件請求が禁反言に反し,権利濫用に当たるとは認められない。そうすると,その余の点を判断するまでもなく,原告は,被告に対し,本件原賃貸借契約が期間満了により終了した平成28年1月30日以降,法32条1項6号に基づき本件借上住宅の明渡し るとは認められない。そうすると,その余の点を判断するまでもなく,原告は,被告に対し,本件原賃貸借契約が期間満了により終了した平成28年1月30日以降,法32条1項6号に基づき本件借上住宅の明渡しを求めることができる。 6 結論よって,原告の請求は,いずれも理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官冨田一彦 裁判官伊丹恭 裁判官立仙早矢 物件目録(省略)
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