平成14(ワ)771 保証金返還等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年3月28日 神戸地方裁判所
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判決文本文12,150 文字)

主文 1 被告は,原告に対し,418万7451円及びこれに対する平成14年4月27日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し,その7を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。 事実 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1)被告は原告に対し608万8617円及びこれに対する平成14年4月27日(訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)訴訟費用は被告の負担とする。 (3)仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁(1)原告の請求を棄却する。 (2)訴訟費用は原告の負担とする。 第2 当事者の主張 1 請求原因(1)賃貸借契約の締結被告は,原告との間で,平成14年1月19日,神戸市a区甲町X丁目Y番Z号Pビル79.57平方メートル(以下「本件物件」という。)につき,同建物を次の約定で賃貸する旨の合意をした(以下「本件賃貸借契約」という。)。 ①賃料(共益費を含む。以下同じ。)  1か月23万円②保証金 300万円③賃借期間平成14年1月19日から平成16年1月18日まで(2年間)(2)債務不履行(不完全履行)平成14年2月,被告代表者代表取締役A(以下「被告代表者」という。)は,原告に対し,焼肉,焼鳥等の臭気の強いものの営業は不可である旨を告げ,どうしても焼肉,焼鳥等の営業を行うのであれば臭気を完全に除去するために ,被告代表者代表取締役A(以下「被告代表者」という。)は,原告に対し,焼肉,焼鳥等の臭気の強いものの営業は不可である旨を告げ,どうしても焼肉,焼鳥等の営業を行うのであれば臭気を完全に除去するために6階屋上までダクトを伸ばす必要があり,もしクレームが出たら原告において一切の責任を負うこと等を要求した。このようにして,被告は,原告に対し,焼肉,焼鳥等の臭気の出るものの営業を実質的に禁じ,本件賃貸借契約に基づき被告が原告に対し負担する目的物を使用収益させる義務を怠った。 (3)解除原告は,被告に対し,上記(2)の被告の債務不履行(不完全履行)を理由として,平成14年2月19日到達の内容証明郵便により,本件賃貸借契約を解除する旨通知した。 (4)損害原告は,上記(2)の被告の債務不履行(不完全履行)により,次の損害を被った。 ア被告に支払った保証金及び賃料合計332万6451円(ア)被告に対し支払った保証金300万円(イ)被告に対し支払った1月分日割賃料9万6451円(ウ)被告に対し支払った2月分賃料23万円(エ)以上合計332万6451円イ開業準備費用合計86万1000円(ア)店舗設計料金45万1500円(イ)プランニング管理費用15万7500円(ウ)厨房機器運搬預かり費用25万2000円(エ)以上合計86万1000円ウ逸失利益 190万1166円店舗が平成14年3月初旬にオープンしていた場合に得られたであろう6ヶ月分の得べかりし利益は190万1166円を下らない。すなわち,原告は従前から居酒屋を営んでおり, 万1166円店舗が平成14年3月初旬にオープンしていた場合に得られたであろう6ヶ月分の得べかりし利益は190万1166円を下らない。すなわち,原告は従前から居酒屋を営んでおり,平成12年分の所得(=収入-経費)は253万4889円であった。原告は,被告の上記債務不履行(不完全履行)がなければ,平成14年3月初旬に新店舗をオープンし,上記所得の1.5倍に相当する実収入=所得を得ることができた。したがって,253万4889円÷12ヶ月×1.5×6ヶ月=190万1166円となる。 (5)よって,原告は,被告に対し,本件賃貸借契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求として,608万8617円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年4月27日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)及び(3)は認め,同(2)は否認する。請求原因(4)のうち,原告が被告に対しアを支払った点は認めるが,その余は争う。 3 抗弁(1)抗弁1(特約の存在)本件賃貸借契約には,焼肉,焼鳥等の臭気の強いものの営業は不可である旨の特約(以下「本件特約」という。)が存在する。したがって,被告に債務不履行(不完全履行)はない。 (2)抗弁1に対する予備的抗弁(錯誤無効)仮に本件特約が本件賃貸借契約の内容に含まれていなかったとしても,被告は,本件特約が本件賃貸借契約の内容に含まれていると信じて本件賃貸借契約を締結したものであるから,本件賃貸借契約は錯誤により無効である。 (3)抗弁2(帰責事由の不存在)ア被告は,被告側の媒介業者である訴外Lサービス(代表者M(以下「訴外M」という。))に対し,本件物件を事務所又は焼肉,焼 貸借契約は錯誤により無効である。 (3)抗弁2(帰責事由の不存在)ア被告は,被告側の媒介業者である訴外Lサービス(代表者M(以下「訴外M」という。))に対し,本件物件を事務所又は焼肉,焼鳥等の臭気の強いものの営業はしない店舗として賃貸するように依頼していた。 イ訴外Lサービスは,原告側の媒介業者である訴外D株式会社乙店(以下「訴外D」という。)に対し,本件物件を事務所又は焼肉,焼鳥等の臭気の強いものの営業はしない店舗として賃貸する旨を伝えた。 ウ原告は,訴外Dに対し,おしゃれな居酒屋で,調理をしない軽いつまみ程度のものを提供する居酒屋を営むと話していたので,訴外Dは,その旨を訴外Lに伝えた。そのため,双方の媒介業者は,「焼肉,焼鳥等の臭気の強いものの営業は不可」との記載を契約書に入れなかった。 エしかしながら,原告は,上記の言動に反して,焼鳥営業を行うと言い出した。 オ以上のとおりであり,被告に帰責事由はない。 (4)抗弁3(相殺)ア原告は,本件賃貸借契約締結日である平成14年1月19日から,被告に対して本件物件を明け渡した平成14年12月17日までの間,本件物件を不法占有した。 イ上記期間の賃料相当損害金は252万2334円である。 ウ被告は,原告に対し,平成15年2月10日の本件口頭弁論期日において,上記イの損害賠償債権をもって,原告の本訴請求債権をその対当額において相殺する旨の意思表示をした。 4 抗弁に対する認否いずれも否認する。 5 錯誤無効の抗弁(上記3の(2))に対する再抗弁(被告の重過失)本件賃貸借契約の契約書(甲1,乙2)(以下「本件契約書」という。)には,本件特約についての記載はなかったが,被告代表者は,被告が本件物件で居酒屋 の(2))に対する再抗弁(被告の重過失)本件賃貸借契約の契約書(甲1,乙2)(以下「本件契約書」という。)には,本件特約についての記載はなかったが,被告代表者は,被告が本件物件で居酒屋を営む予定であることを認識しながら,本件特約についての記載がない本件契約書に記名押印したものであり,被告には,錯誤につき重過失がある。 理由 1 請求原因(1)(賃貸借契約の締結)及び同(3)(解除)の各事実は当事者間に争いがない。 2 特約の存否(抗弁1)及び錯誤無効の主張の可否(抗弁1に対する予備的抗弁(錯誤無効)及び再抗弁(被告の重過失))について(1)証拠(甲1,2,甲3の1,7,8,10~12,16,17,乙1,2,19,20,証人C1及び同Zの各証言,原告及び被告代表者の本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨によると,次の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 ア本件物件は,平成13年5月末まではJ建設神戸支店の事務所として賃貸の用に供されていた。同年秋,被告代表者は,訴外Lの当時の従業員だった訴外K(以下「訴外K」という。)に対し,本件物件の賃貸借の仲介を依頼した。その際,被告代表者は訴外Kに対し,本件物件を飲食用店舗として賃貸する場合には,カラオケ禁止,焼鳥,焼肉等強い臭気が出るものは絶対禁止である旨を告げた。 イ原告は,神戸市の道路拡張に伴い,従前から営んでいた「焼鳥・居酒屋O」を移転させる必要が生じた。平成13年12月初旬,原告は,訴外Dの担当者である訴外E(以下「訴外E」という。)に対し,丙町周辺で20坪~30坪位の飲食店経営が可能な物件を探すよう依頼した。原告は,「焼鳥・居酒屋O」において,当初は焼鳥中心の営業を営んでいたが,徐々にメニューの多様化を行い,焼鳥メニューが従となっていた経緯もあり ~30坪位の飲食店経営が可能な物件を探すよう依頼した。原告は,「焼鳥・居酒屋O」において,当初は焼鳥中心の営業を営んでいたが,徐々にメニューの多様化を行い,焼鳥メニューが従となっていた経緯もあり,新しい店舗はおしゃれな居酒屋とし,その中で焼鳥をメニューの一部として提供することを考えていた。そこで,原告は,訴外Eに対し,上記依頼の際,新しい店舗はおしゃれな居酒屋としたい旨を告げた。 ウ原告からの依頼を受けた訴外Eは,本件物件を探索し,原告に紹介し,訴外Lに問い合わせて,本件物件に関する資料を送るように要請した。訴外Lは,同月9日,訴外Dに対し,本件物件のチラシ(甲12)をファックスで送付し,訴外Dはこれを受け取った。同チラシには「何商可です」との記載がされていた。原告は,Zから示された本件物件のチラシ(甲7)に「何商可です」との記載があるのを見て,居酒屋営業に問題はないと判断し,本件物件を賃借しようと決意した。 原告は,同月14日,本件物件の入居申込書(乙1)を作成し,訴外Eに手渡した。訴外Eは,同入居申込書を訴外Lに送付した。 エ訴外Kは,平成13年12月18日,前記入居申込書を持って,被告代表者のもとを訪れ,被告代表者に同入居申込書を渡した。被告代表者は従前と同様に事務所として貸すことを希望していたが,同入居申込書を見ると,業種欄に「居酒屋」との記載があったので,訴外Kに対し,念のため,カラオケ禁止,焼鳥,焼肉等の臭気の強いものの営業不可との特約条項を賃貸借契約の内容として設けるよう指示した。 オ原告は,訴外E作成の平成13年12月22日付け連絡書(甲8)に基づき,同月28日,訴外Dの事務所に赴き,訴外Eから重要事項の説明を受けた。 原告が,同日,訴外Eから受け取った重要事項説明書(甲2)は,訴外Lが作成し,訴外 13年12月22日付け連絡書(甲8)に基づき,同月28日,訴外Dの事務所に赴き,訴外Eから重要事項の説明を受けた。 原告が,同日,訴外Eから受け取った重要事項説明書(甲2)は,訴外Lが作成し,訴外Dに交付したものであるが,同重要事項説明書の特約事項欄には,カラオケ不可とのみ記載されており,本件特約についての記載はない。 カ原告は,平成14年1月18日ころまでに保証金300万円,1月分日割賃料9万6451円及び2月分賃料23万円を支払い,そのころ訴外Lが作成し,訴外Dに交付した本件契約書に署名押印をした。本件契約書には本件特約についての記載はなされていない。 キ被告代表者は,平成14年1月19日,訴外Kから原告による署名押印済みの本件契約書を受け取った。その際,被告代表者は,本件契約書に本件特約についての記載がないことに気付いたが,訴外Lを信頼していたこともあり,訴外Kに対して本件特約を本件契約書に記載するよう指示したのみで,これに被告名義の記名押印をした。 ク原告は,原告側の媒介業者である訴外Dから本件賃貸借契約締結前に本件特約については何ら聞かされておらず,本件賃貸借契約に本件特約が付されているとは考えていなかった。また,本件賃貸借契約締結後も本件特約についての被告側の申し出を承諾したことはない。 (2)本件特約の存否上記認定のとおり,被告代表者は,本件物件を賃貸するに当たり,焼鳥,焼肉等強い臭気が出るものの営業は禁止するとの意向を有しており,その旨を訴外Kに伝えていたものではあるが,かかる被告側の意向は原告には伝わっていなかった。そこで,原告は,本件賃貸借契約に本件特約が付されているとは思わずに本件契約書に署名押印をした。実際に本件契約書には本件特約についての記載はされていなかった。そして,平 原告には伝わっていなかった。そこで,原告は,本件賃貸借契約に本件特約が付されているとは思わずに本件契約書に署名押印をした。実際に本件契約書には本件特約についての記載はされていなかった。そして,平成14年1月19日,訴外Kから原告の署名押印済みの本件契約書を受け取った被告代表者は,本件特約が記載されていないことを認識しながら本件契約書に記名押印をしている。このような事実に照らすと,原告と被告との間では,本件特約についての合意はなされておらず,焼鳥,焼肉等の臭気の強いものの営業は不可であるとの制限の付されていない賃貸借契約が成立したものと認めるのが相当である。したがって,本件特約は本件賃貸借契約の内容となっておらず,原告は,被告に対し,本件賃貸借契約に基づく義務として,焼鳥,焼肉等の臭気の強いものの営業を行わないとの義務を負うものではないというべきである。 (3)錯誤無効の主張の可否上記認定のとおり,被告代表者は,被告側の媒介業者である訴外Lの担当者である訴外Kに対し,本件物件の賃貸借の仲介を依頼する際,飲食店舗として貸す場合には,焼鳥,焼肉等強い臭気が出るものは絶対禁止であると告げており,また,本件契約書に記名押印する際にも,本件特約を本件契約書に記載するよう指示している。したがって,被告代表者は,本件特約付きの賃貸借契約を締結するつもりで,本件特約についての記載のない本件契約書に記名押印をしたものと認められる。 しかしながら,賃貸借契約書に記名押印することにより当該賃貸借契約書の内容がそのまま賃貸借契約の内容になる蓋然性が高いことは,不動産業者はもとより一般人でも容易に予測できることであり,貸ビルを所有し,不特定多数人との間で賃貸借契約を締結している被告(乙12~16)であれば,当然に予測して然るべきこ る蓋然性が高いことは,不動産業者はもとより一般人でも容易に予測できることであり,貸ビルを所有し,不特定多数人との間で賃貸借契約を締結している被告(乙12~16)であれば,当然に予測して然るべきことであるといえる。また,被告代表者は,本件特約の存在を重要視していたものであるところ,本件契約書には本件特約についての記載がなかったのであるから,本件契約書に記名押印する前に本件特約の追加記載を求めるなどの慎重な処理をすべきであったといえる。にもかかわらず,被告代表者は,このような措置をとることなく,本件契約書に被告名義の記名押印をしており,その結果,上記(2)のとおり,本件特約による制限のない賃貸借契約が成立している。かかる事情に照らすと,仮に,上記第2の3の(2)の被告主張の錯誤が存するとしても,被告にはかかる錯誤につき重過失が存するものと認められる。 したがって,本件賃貸借契約は,錯誤により無効となるものではない。 3 債務不履行(不完全履行)の存否(請求原因(2))及び帰責事由の存否(抗弁2)について(1)証拠(甲1,11,15,乙8~15,17の1~4,19,20,24,証人C1及び同C2の各証言,原告及び被告代表者の本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨によると,次の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 ア被告は,本件物件を含む5階建てビル「Pビル」につき,その1階から3階までを賃貸の用に供するとともに,4階を被告代表者の自宅として,5階を被告の事務所としてそれぞれ使用している。1階東側が本件物件であり,1階西側は接骨院に賃貸されている。また,2階部分は事務所として,3階は住居(9戸)として,それぞれ賃貸されている。 イ被告代表者はPビルとは別の場所で焼肉店「天赦園」を経営している。 1階西側は接骨院に賃貸されている。また,2階部分は事務所として,3階は住居(9戸)として,それぞれ賃貸されている。 イ被告代表者はPビルとは別の場所で焼肉店「天赦園」を経営している。 ウ上記2の(1)のキのとおり,被告代表者は,本件契約書への記名押印の際,訴外Kに対して本件特約を本件契約書に記載するよう指示している。しかしながら,平成14年1月下旬ころ,かかる指示にも関わらず,被告の意思に反して本件契約書に焼鳥,焼肉等強い臭気の出る営業を行わないことを内容とする特約が抜けたままになっていることが判明した。 エ平成14年2月2日,天赦園に,原告,被告代表者,訴外E,訴外M,訴外Lの宅地建物取引主任者である訴外Nらが集まって,話し合いをした。その際,原告は,被告代表者に対し,本件物件に排煙装置を設置し,近隣住民に対する臭気の影響を軽減する配慮を行うので焼鳥メニューを含んだ居酒屋営業を認めて欲しい旨告げた。しかしながら,被告代表者はこれに応じず,本件特約の存在を主張した上,もし焼鳥をやりたいのであれば,臭気が出ないように屋上の高さより高いダクトを完備すること,近隣やJRからの苦情があった場合には原告の責任で対処することを要求した。 オ平成14年2月9日,被告代表者,訴外E及び訴外Mは,再び集まって話し合ったが,結局,被告代表者の意思は変わらず,被告代表者は,訴外Eと訴外Mに対し,Pビルの屋上以上の高さのダクトを完備して営業するように告げた。 カ原告は,本件賃貸借契約には本件特約が付されているわけでもないのに,本件物件の上階に居住する被告代表者が上記エのとおりの要求をしていることから,もはや本件物件において居酒屋を経営することは困難であると考え,請求原因(3)のとおり,平成14年2月19日到達の内容証明郵便 物件の上階に居住する被告代表者が上記エのとおりの要求をしていることから,もはや本件物件において居酒屋を経営することは困難であると考え,請求原因(3)のとおり,平成14年2月19日到達の内容証明郵便により本件賃貸借契約を解除する旨の通知をした。 (2)そこで,判断するに,被告は,原告以外の者に対して,接骨院,事務所又は住居として使用する目的でPビル内の他の部屋を賃貸しているところ,賃貸人は賃借人に対してその使用収益に支障が生じないよう貸室を使用収益するのに適した状態に置く義務を負っているのであるから,被告は,原告に本件物件を賃貸するに際しても,他の賃借人の使用収益に支障が生じないよう配慮する義務を負っているといえる。したがって,被告が原告に対して,他の賃借人の使用収益に支障が生じないような対処処置を講じるよう求めることも,賃貸人の立場上やむを得ないものといわなければならない。 しかしながら,上記認定のとおり,本件賃貸借契約は,原告が本件物件を居酒屋として使用することを目的として締結されたものであるところ,本件賃貸借契約には本件特約による制限はなされていないと認められるのであるから,被告は,原則として原告が焼鳥,焼肉等の営業を行うことを妨げる権利を有しないというべきである。また,原告は,自らの費用で本件物件に排煙装置を設置することを提案するなど,近隣住民に対する臭気の影響を軽減するための処置を講じる意向を有していたのであり,他の賃借人に迷惑を掛けないよう配慮していたと認められる。さらに,原告がかかる排煙措置を設置しようとしていたことを考えると,本件全証拠によるも,原告が本件物件において焼鳥メニューを含んだ居酒屋営業を開始することにより,直ちに他の賃借人の使用収益に支障が生じるような状況にあったとは認めるに足りない。一方,被 を考えると,本件全証拠によるも,原告が本件物件において焼鳥メニューを含んだ居酒屋営業を開始することにより,直ちに他の賃借人の使用収益に支障が生じるような状況にあったとは認めるに足りない。一方,被告代表者は,平成14年2月2日の話し合いの際,根拠のない本件特約の存在を主張して原告の排煙装置の設置提案を拒否している上,もし焼鳥メニューを含んだ居酒屋営業を行いたいのであれば,臭気が出ないように屋上の高さより高いダクトを完備し,近隣やJRからの苦情があった場合には原告の責任で対処しなければならない旨の過大な要求をし,事実上,原告の居酒屋営業を困難ならしめる言動に出ている。これらの事情を総合勘案すると,被告は,本件賃貸借契約に基づき原告に対して負担する目的物を使用収益させる義務を怠ったものと認められる。 (3)この点,被告は,抗弁2において,被告に帰責事由はない旨主張する。 確かに,被告は,自らの媒介業者である訴外Lに対して,焼肉,焼鳥等強い臭気が出るものは絶対禁止である旨告げており,本件契約書には本件特約の記載はなかったものの,訴外Lを信頼していたことから訴外Kに本件特約の追加記載を指示して被告名義の記名押印を行ったものである。かかる事実経過に加え,本件契約書を作成したのが訴外Lであったことを併せ考えれば,原告・被告間の本件紛争は,媒介業者である訴外Lが被告の意向に沿った事務処理を行わなかったことが原因であるといえる。しかしながら,このような事情は,被告側の内部問題であり,原告に対してそのまま主張できる事情であるとはいい難い。また,上記(2)で認定したとおり,被告代表者は,原告が臭気によって他の賃借人に迷惑を掛けないように排煙装置設置の提案をしていたにもかかわらず,同排煙装置の効果等について十分な検討をすることなく一方的にこれを拒否し, 定したとおり,被告代表者は,原告が臭気によって他の賃借人に迷惑を掛けないように排煙装置設置の提案をしていたにもかかわらず,同排煙装置の効果等について十分な検討をすることなく一方的にこれを拒否し,屋上以上の高さのダクトの完備と近隣住民等からの苦情処理という過大な要求をしている。かかる事実に照らすと,上記(2)の義務違反につき,被告には帰責性があるというべきであり,帰責性の不存在に関する被告の主張には,理由がない。 (4)よって,被告の債務不履行(不完全履行)を理由とする請求原因(3)の解除は有効であり,原告は,被告に対し,同債務不履行(不完全履行)と相当因果関係のある損害を賠償すべき責任を負う。 4 不完全履行による損害の範囲(請求原因(4))(1)被告に支払った保証金及び賃料合計332万6451円原告が被告に対し,本件賃貸借契約に基づき,保証金300万円,1月分日割賃料9万6451円及び2月分賃料23万円を支払ったことは,当事者間に争いがない。原告は,居酒屋営業を行う目的で本件賃貸借契約を締結し,上記各金員を被告に対して支払ったところ,被告の前記不完全履行によって本件物件の使用収益が妨げられ,本件賃貸借契約を解除せざるを得なくなったのであるから,これらの既払いの保証金及び賃料は,被告の不完全履行と相当因果関係のある損害であると認められる。 (2)開業準備費用合計86万1000円証拠(甲3の1,4の1及び2,5,6,11,14~17,原告本人尋問の結果)によれば,原告は,平成14年3月初旬の新店舗開店を目指し,そのための開業準備費用として,a店舗設計料金45万1500円,bプランニング管理費用15万7500円及びc厨房機器運搬預かり費用25万2000円(以上合 は,平成14年3月初旬の新店舗開店を目指し,そのための開業準備費用として,a店舗設計料金45万1500円,bプランニング管理費用15万7500円及びc厨房機器運搬預かり費用25万2000円(以上合計86万1000円)を負担し,有限会社山一住建等の業者にこれらの費用を支払ったことが認められる。同各証拠によれば,a及びbは,原告が本件賃貸借契約の目的である居酒屋営業の開店に向けて本件物件の内装等を計画するために支払った費用であり,cは,原告が新店舗開店に向けて従前使用していた厨房機器を本件物件に運び込む前に,これを一時的に倉庫に預けた際に必要となった費用であり,いずれも,被告の不完全履行と相当因果関係のある損害であると認められる。 (3)原告は,上記第2の1の(4)のウのとおり,被告の不完全履行に基づく損害として6ヶ月分の営業利益(収入から経費を差し引いたもの)を請求しているところ,証拠(甲3の1,11,13)によれば,原告の平成12年分の所得(=収入-経費)は253万4889円であったこと,原告は,平成14年3月初旬に本件物件において新店舗の営業を開始する予定であったが,被告の不完全履行のために本件物件における営業ができず,その後,同年8月25日に別の場所に店舗を借りてラーメン店を開店したものであることが認められる。 しかしながら,原告に現実に生じた上記(1)及び(2)の積極損害が被告の負担に帰すべき原告の損害に当たることは当然であるとしても,本件紛争は,被告の媒介業者である訴外Lが被告の意向に沿った事務処理を行わなかったことが原因となっているのであるから,原告の営業上の逸失利益(消極損害)までをも被告に負担させることは,被告にとって酷であると考えられる。確かに,上記3の(3)で述べたとおり,被告に上記不完全履行についての 因となっているのであるから,原告の営業上の逸失利益(消極損害)までをも被告に負担させることは,被告にとって酷であると考えられる。確かに,上記3の(3)で述べたとおり,被告に上記不完全履行についての帰責性があることは明らかであり,訴外Lが被告の意向に沿った事務処理を行わなかったことは,被告側の内部問題であるのではあるが,そうであるからといって,上記消極損害までをも被告に賠償させることは,本件事実関係の下においては,損害の公平な分担の見地に照らして,なお疑問である。一方,原告としても,従前から「焼鳥・居酒屋O」を営んでいたのであるから,焼鳥メニューによる営業が近隣住民等に迷惑を掛けるかもしれないことは容易に想像できることである上,Pビルの他の貸室の利用状況(上記3の(1)のア)に照らせば,チラシに「何商可です」との記載があったとしても,今後臭気が問題となることは十分に予想できたことであるといえる。そして,原告が,おしゃれな居酒屋をやりたいと告げるのみではなく,焼鳥メニューによる営業も行うつもりであることを契約締結前に明確に告げていれば,本件紛争は生じなかったものとも考えられる。かかる事情に照らすと,原告主張の逸失利益は,被告が負担すべき原告の損害には含まれないと認めるのが相当である。 (4)損害合計=上記(1)+上記(2)=418万7451円 5 相殺(抗弁3)について証拠(甲18,乙18,21,22)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成14年3月11日,訴外Dに原告が預かった本件物件の鍵7本を引き渡したが,訴外Dがこれを被告に返却したのは本件訴訟における被告代表者本人尋問の翌日である同年12月17日であること,本件物件には,請求原因(3)の解除通知後も原告が搬入した焼鳥器が残っており,本件訴訟における被告代表者本人尋問 返却したのは本件訴訟における被告代表者本人尋問の翌日である同年12月17日であること,本件物件には,請求原因(3)の解除通知後も原告が搬入した焼鳥器が残っており,本件訴訟における被告代表者本人尋問後である同年12月24日に訴外Dによって撤去されるまでの間,本件物件に残されていたことが認められる。 しかしながら,鍵については,原告代表者自身,その本人尋問において,原告にも,訴外Dにもその返還を要求したことはないと述べている上,原告としては,請求原因(3)の解除通知後,すみやかに訴外Dに返却しているといえる。また,焼鳥器は,本件物件の広さに比してさほど大きいものでなく(乙18),原告本人尋問の結果によれば,原告は,平成14年2月には,当該焼鳥器を建物外に出しておいて,後日友人に渡すつもりであったと認められる。さらに,請求原因(3)による解除は有効であり,被告としてはその原状回復義務の一環として上記4の(1)の保証金等を返還すべき義務を負うにもかかわらず,かかる義務を履行していない。かかる事実に照らすと,原告が本件賃貸借契約締結日である平成14年1月19日から同年12月17日までの間本件物件を不法占有していたとの事実(抗弁3のア)はこれを認めるに足りないというほかない。 よって,被告の相殺の抗弁には理由がない。 6 以上によると,原告の請求は,本件賃貸借契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求として,418万7451円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年4月27日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるの限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文の 損害金の支払を求めるの限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第1民事部裁判官西村欣也

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