令和6(ネ)63 国家賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和7年1月24日 名古屋高等裁判所 名古屋地方裁判所 令和4(ワ)2705
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判決文本文21,362 文字)

令和6年(ネ)第63号国家賠償請求控訴事件令和7年1月24日名古屋高等裁判所民事第3部判決(原審・名古屋地方裁判所令和4年(ワ)第2705号) 主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、50万8370円及びこれに対する令和4年7月16日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文同旨第2 事案の概要(以下、略称は、特に断らない限り、原判決の例による。) 1 本件は、生活保護受給者で平成28年11月8日に障害者加算の要件に該当する精神保健及び精神障害者福祉に関する法律45条の精神障害者保健福祉手帳2級の交付を受けていた控訴人が、名古屋市A区社会福祉事務所(本件事務所)の担当職員及び所長が、①遅くとも同月30日には控訴人が障害者加算の要件に該当する可能性を認識していたにもかかわらず、障害者加算を認定する保護変更立案を行わなかったこと、②障害者加算の存在を知った控訴人が令和元年7月31日に本件事務所の担当職員に問い合わせたのに対して、同年5月分から同年7月分までに限って支給できると判断したことにより、控訴人に平成28年12月分から平成31年4月分までの障害者加算合計50万8370円に相当する損害を与えたなどと主張して、被控訴人に対し、国家賠償法(国賠法)1条1項による損害賠償請求権に基づき、50万8370円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年7月16日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審が、前記①及び②について、いずれも公務員として職務上通常尽くすべ 翌日である令和4年7月16日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審が、前記①及び②について、いずれも公務員として職務上通常尽くすべき注意義務に違反したものとは認められず、国賠法上の違法性がないとして控訴人の請求を棄却したところ、控訴人が控訴した。 2 前提事実⑴ 前提事実は、次の⑵のとおり原判決を補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の2に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑵ 原判決の補正ア原判決2頁21行目の「及び」の次に「精神保健福祉法施行令並びに」を、22行目の「関係法令等」」の次に「(ただし、26頁1行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 【精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令】6条3項障害等級は、障害の程度に応じて重度のものから1級、2級及び3級とし、各級の障害の状態は、それぞれ次の表の下欄に定めるとおりとする。 障害等級精神障害の状態1級日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの2級日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの3級日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」を、それぞれ加える。 イ原判決3頁21行目の「昭和38年4月1日」の次に「厚生省告示第158号(以下「保護基準」という。)」を加える。 ウ原判決3頁25行目及び26行目を削る。 エ原判決4頁1行目の「昭和38年4月1日」の次に「社発第246号・ 各都道府県知事・各指定都市長あて厚生省社会局長通知( う。)」を加える。 ウ原判決3頁25行目及び26行目を削る。 エ原判決4頁1行目の「昭和38年4月1日」の次に「社発第246号・ 各都道府県知事・各指定都市長あて厚生省社会局長通知(以下「実施要領」という。)」を加える。 オ原判決4頁4行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「・身体障害者手帳、国民年金証書、特別児童扶養手当証書又は福祉手当認定通知書を所持していない者については、障害の程度の判定は、保護の実施機関の指定する医師の診断書その他障害の程度が確認できる書類に基づき行うこと。」カ原判決4頁7行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「ウ精神障害者保健福祉手帳による障害者加算の障害の程度の判定について(平成7年9月27日社援保第218号・各都道府県・各指定都市・各中核市民生主管部(局)長あて厚生省社会・援護局保護課長通知(以下「保護課長通知」という。)。乙11)精神保健法の一部を改正する法律(平成7年法律第94号)による改正後の精神保健福祉法45条の規定により創設された「精神障害者保健福祉手帳」(以下「精神障害者手帳」という。)の制度が平成7年10月1日から実施されることに伴い、精神障害者の障害者加算の認定に係る障害の程度の判定は、次のとおり行うことができるものとした。 (ア) 障害基礎年金の受給権を有する者の場合・障害の程度の判定は原則として障害基礎年金に係る国民年金証書により行うが、精神障害者手帳を所持している者が年金の裁定を申請中である場合には、精神障害者手帳の交付年月日又は更新年月日が当該障害の原因となる傷病について初めて医師の診療を受けた後1年6月を経過している場合に限り、年金の裁定が行われるまでの間は精神障害者手帳に記載する障害の程度により障害者加算に 月日又は更新年月日が当該障害の原因となる傷病について初めて医師の診療を受けた後1年6月を経過している場合に限り、年金の裁定が行われるまでの間は精神障害者手帳に記載する障害の程度により障害者加算に係る障害の程度を判定できるものとしたこと。(以下省略)(イ) 障害年金の受給権を有する者以外の場合 ・精神障害者手帳の交付年月日又は更新年月日が当該障害の原因となる傷病について初めて医師の診療を受けた後1年6月を経過している者については、精神障害者手帳に記載する障害の程度により障害者加算に係る障害の程度を判定できるものとしたこと。 ・障害の程度は、精神障害者手帳の1級に該当する障害は国民年金法施行令(昭和38年政令第184号)別表に定める1級の障害と、同手帳の2級に該当する障害は同別表に定める2級の障害と、それぞれ認定するものとしたこと。」キ原判決4頁8行目の「ウ」を「エ」に改める。 ク原判決5頁5行目の「A区社会福祉事務所」を「本件事務所」に改め、12行目の「本件事務所」の次に「の担当ケースワーカーのB」を、15行目の「説明した。」の次に「ただし、確認書(甲10)や控訴人が受け取った3種類のパンフレットには、障害者加算や精神障害者手帳の交付を受けた場合の届出義務についての記載はなく、担当ケースワーカーは、控訴人に対し、障害者加算という制度があることや精神障害者手帳の交付を受けた場合には届出義務があることを説明しなかった。」を、16行目の「15」を「15~17、乙15、証人B、弁論の全趣旨」を、それぞれ加える。 ケ原判決5頁19行目から20行目にかけての「障害者加算の認定はされていなかった」を「他法他施策の活用として、退院した場合の障害者の日常生活及び社会生活を総合的に 」を、それぞれ加える。 ケ原判決5頁19行目から20行目にかけての「障害者加算の認定はされていなかった」を「他法他施策の活用として、退院した場合の障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下「障害者総合支援法」という。)に基づく自立支援医療制度については検討されたが、精神障害者手帳の申請の可否については検討されなかった」に、同行目の「2〔12頁〕」を「2〔11、12頁〕、37」に、それぞれ改める。 コ原判決6頁5行目の「同年8月19日」を「同年8月1日、グループホームの職員から、控訴人が同月から障害者総合支援法に基づく就労継続支 援B型作業所(一般企業に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して、就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行う就労支援サービス)において軽作業を行うことになったとの連絡を受け、同月19日」に、7行目の「特定障害者特別給付費の収入認定を行った」を「グループホーム入所に伴い住宅扶助が支給されるなどの保護変更決定を行い、同月23日、担当ケースワーカーが家庭訪問をして控訴人にグループホーム入所後の生活状況等を確認するとともに、今後、B型作業所で収入を得た場合には必ず収入申告をするよう伝えた」に、それぞれ改める。 サ原判決6頁8行目から9行目にかけての「精神保健福祉法45条の保健福祉手帳(以下「精神障害者手帳」という。)」を「精神障害者手帳」に改める。 シ原判決6頁12行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「 上記の精神障害者手帳用診断書料の一時扶助認定は、C病院の精神科医師が作成した平成28年11月2日付けの精神障害者手帳用診断書(以下「本件診断書1」という。)のコピー(甲45)を添付した検診料請求書に基づ 神障害者手帳用診断書料の一時扶助認定は、C病院の精神科医師が作成した平成28年11月2日付けの精神障害者手帳用診断書(以下「本件診断書1」という。)のコピー(甲45)を添付した検診料請求書に基づいて行われた(甲45、54、55)。本件診断書1には、病名として、主たる精神障害を「統合失調症」、初診年月日を平成25年12月、現在の病状、状態像等として、幻覚妄想状態のうちの妄想、統合失調症等残遺状態のうちの感情平板化、意欲の減退、情動及び行動の障害のうちの暴力・衝動行為に、それぞれ丸印が付され、「病識に乏しく、他者との適切な距離感での関係が難しい。気分変調に波があり、それに左右された言動がみられたり、他者の言動を被害的に捉え妄想的に解釈することがあり、日常生活に支障をきたしたり、対人トラブルを起こしやすい」と記載され、日常生活能力の判定として、①適切な食事摂取、②身辺の清潔保持、規則正しい生活、③金銭管理と買物、④通院と服薬、⑤他人との意思伝達・対人関 係、⑦社会的手続や公共施設の利用、⑧趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加については、いずれも「援助があればできる」、⑥身辺の安全保持・危機対応については「できない」が丸で囲まれ、日常生活能力の程度として、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする」に丸印が付され、「食事、入浴、服薬など日常生活全般において施設職員の見守りや相談援助にて生活が成り立っている状態である」と記載されている(甲45)。」ス原判決6頁21行目の「同年10月16日」を「同年10月1日、C病院の精神科医師が作成した同年9月10日付けの精神障害者手帳用診断書(以下「本件診断書2」という。)のコピー(甲43)を添付した検診料請求書(甲54)の提出を受け、同年10月1 同年10月1日、C病院の精神科医師が作成した同年9月10日付けの精神障害者手帳用診断書(以下「本件診断書2」という。)のコピー(甲43)を添付した検診料請求書(甲54)の提出を受け、同年10月16日」に改め、22行目の「甲2〔19・20頁〕の次に「、甲43、54」を加える。 セ原判決6頁22行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「 本件診断書2には、病名として、主たる精神障害を「統合失調症」、初診年月日を平成25年12月、現在の病状、状態像等として、幻覚妄想状態のうちの妄想、統合失調症等残遺状態のうちの感情平板化、意欲の減退、情動及び行動の障害のうちの暴力・衝動行為に、それぞれ丸印が付され、「不調時、他者と適切な距離感での関係が難しい時あり。気分変調の波により、それに左右された言動がみられたり、他者の言動を被害的に捉え妄想的に解釈することがあり、日常生活に支障をきたしたり、対人トラブルに発展する場合あり」と記載され、日常生活能力の判定として、①適切な食事摂取、②身辺の清潔保持、規則正しい生活については、いずれも「自発的にできるが援助が必要」、③金銭管理と買物、④通院と服薬、⑥身辺の安全保持・危機対応、⑦社会的手続や公共施設の利用については、いずれも「援助があればできる」、⑤他人との意思伝達・対人関係、⑧趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加については、いずれも「おおむねで きるが援助が必要」が丸で囲まれ、日常生活能力の程度として、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする」に丸印が付されている(甲43)。」ソ原判決6頁23行目の「7月頃」の次に「、インターネット情報によって」を、24行目の「本件事務所」を「本件事務所の担当ケースワーカーのD」に、それぞれ改め、25行目の されている(甲43)。」ソ原判決6頁23行目の「7月頃」の次に「、インターネット情報によって」を、24行目の「本件事務所」を「本件事務所の担当ケースワーカーのD」に、それぞれ改め、25行目の「これに対し」から26行目末尾までを次のとおり改める。 「本件事務所の担当ケースワーカーは、控訴人からの問合せにより、控訴人が精神障害者手帳2級の交付を受けていることを知り、障害者加算の要件に該当する場合があるものの、どのように対応するかについては上司に確認する必要があると考え、控訴人に調査してから改めて連絡する旨を伝えた。(甲2〔23頁〕、甲40〔7頁〕、乙16、証人D)」タ原判決7頁15行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「チ控訴人を担当した本件事務所のケースワーカー及び担当期間は、次のとおりである(乙15、16、証人B、同D)。 (ア) 平成28年4月28日から平成30年3月31日までB(イ) 平成30年4月1日から令和2年3月31日までD」 3 争点及びこれについての当事者の主張⑴ 争点及びこれについての当事者の主張は、次の⑵のとおり原判決を補正する(当審における補充主張を含む。)ほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の4に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑵ 原判決の補正ア原判決8頁3行目及び10頁6行目の「法9条に基づく義務違反」(2か所)を「最低生活保障義務違反」に、それぞれ改める。 イ原判決8頁6行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「 そして、障害があることによってより多くの費用を要する障害者にとっ て、障害者加算があって初めて最低限度の生活を営むことができることからすれば、保護の実施機関にとって加算の認定は被保護者の最低限度の生活を保障するために必要な義務で 用を要する障害者にとっ て、障害者加算があって初めて最低限度の生活を営むことができることからすれば、保護の実施機関にとって加算の認定は被保護者の最低限度の生活を保障するために必要な義務である。」ウ原判決8頁8行目の「本件事務所長」を「本件事務所の担当ケースワーカー、その上司、本件事務所長(以下「本件事務所長ら」という。)」に改め、以下、10行目から13頁14行目までの「本件事務所長」とあるのを、全て「本件事務所長ら」に改める。 エ原判決8頁9行目から10行目にかけての「把握していたことからすれば」の次に「、他法他施策の活用(法4条2項)の観点からしても」を加える。 オ原判決8頁15行目から16行目にかけての「法9条に違反する」を「公務員として通常尽くすべき注意義務としての最低生活保障義務を漫然と怠り、これによって控訴人の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害したのであるから、国賠法上の違法性があり、かつ、過失もある」に改める。 カ原判決8頁24行目の「行う時点で」の次に「、C病院からの請求書に添付された本件診断書1の内容を確認しており、本件診断書1には控訴人の日常生活能力の程度等に関する医師の判断が詳細に記載されていたのであるから、控訴人が措置入院を契機に保護開始に至ったことなどの従前の経過に加えて、本件診断書1の内容を把握した本件事務所長らは、障害者加算の要件該当可能性を認識していたといえるから」を加え、25行目の「架電や家庭訪問をしたり」を「精神障害者手帳の交付の有無や等級を尋ねたり、精神障害者手帳の提示を求めたり」に改める。 キ原判決9頁1行目の「容易に発見できたのに」の次に「、本件事務所の担当ケースワーカーは、控訴人の病状が基本的に改善されているとの印象を持っていたことから、精神障害者手帳 を求めたり」に改める。 キ原判決9頁1行目の「容易に発見できたのに」の次に「、本件事務所の担当ケースワーカーは、控訴人の病状が基本的に改善されているとの印象を持っていたことから、精神障害者手帳は交付されなかったと根拠なく思 い込み」を、2行目末尾に「なお、精神障害者手帳の申請をしても交付されないことがあるというのは、本件事務所長らが精神障害者手帳の申請結果を確認するという極めて容易な確認作業さえしなくてもよい理由にはならない。精神障害者手帳用の診断書の交付を受けたということは、本件事務所長らとしては控訴人が精神障害者手帳を申請したことを認識したことを示すものであり、精神障害者手帳の申請をしたということが控訴人が要加算状態にあることを示す重要な事実である以上、要加算状態の調査義務として控訴人に対して申請結果を確認することは当然すべきことである。 また、診断書料の一時扶助認定をしたということは、保護の実施機関として精神障害者手帳の申請の必要性を認めたことを意味するから、申請をしなくても費用返還を求めるという扱いになっていないことを理由に、保護の適正な運営を図るために被保護者の状況を知悉しておくべき保護の実施機関が、控訴人に対して申請結果を確認するという極めて容易な調査義務すら負わないと解することはできない。」を、それぞれ加える。 ク原判決9頁3行目から7行目までを次のとおり改める。 「 また、本件事務所の担当ケースワーカーは、遅くとも平成29年4月26日には控訴人が福祉特別乗車券を利用していることを確認したが、福祉特別乗車券の交付を受ける根拠となっている手帳の種類や等級について確認しなかった。 さらに、平成30年10月16日の精神障害者手帳の更新用の診断書料の一時扶助認定においては、診断書が更新用で 乗車券の交付を受ける根拠となっている手帳の種類や等級について確認しなかった。 さらに、平成30年10月16日の精神障害者手帳の更新用の診断書料の一時扶助認定においては、診断書が更新用であったから、本件事務所の担当ケースワーカーとしては、控訴人が精神障害者手帳の交付を受けた事実を明確に認識していたのであり、かつ、請求書に添付された本件診断書2の内容を確認していたにもかかわらず、前任のケースワーカーから控訴人の病状が基本的に改善していると聞いていたことから、控訴人が交付を受けている精神障害者手帳が3級であると根拠なく思い込 み、控訴人に精神障害者手帳の等級を確認することや更新結果について尋ねることや、保健所ないし福祉課に更新結果を確認するなどの容易にできる調査を怠り、障害者加算の検討を怠った。 そして、本件事務所の各担当ケースワーカーの初歩的な職務の懈怠をその上司や本件事務所長も含めて組織として看過した。 したがって、本件事務所長らは、公務員として通常尽くすべき注意義務としての調査義務及び職権変更義務を漫然と怠り、控訴人の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害したものであるから、国賠法上の違法性があり、かつ、過失もある。」ケ原判決9頁11行目から13行目までを次のとおり改める。 「① 法24条9項は、保護の変更について申請主義を採用したものではない。また、障害者加算の認定要件は、保護基準別表第1第2章2⑵に定められた者に該当することであり、精神障害者手帳は、実施要領及び保護課長通知によれば、障害の程度が確認できる書類にとどまり、要保護者からの障害者加算についての申請や精神障害者手帳の交付を受けたことの届出は要件とはされていない。被保護者による届出は、障害者加算の要件の 通知によれば、障害の程度が確認できる書類にとどまり、要保護者からの障害者加算についての申請や精神障害者手帳の交付を受けたことの届出は要件とはされていない。被保護者による届出は、障害者加算の要件の有無を発見するための端緒にすぎず、届出がされていなくても、保護の実施機関においては対象者の需要発見について積極的に確認の努力をすべきであるから、障害者加算の需要が客観的に生じている場合に、要保護者からの届出がないことによって、保護の実施機関の調査義務及び職権変更義務の履行が免じられることはない。 また、仮に届出が必要であるとしても、障害者加算を含む生活保護制度の内容は極めて複雑であるところ、保護の実施機関においては高度の専門性を備えている一方、被保護者においては知識や情報に乏しく、加算の要件についても知識を有していることはない。このような 情報格差からしても、届出がされていなければ障害者加算の要件の調査義務を負わないと解することは許されない。さらに、控訴人が受け取った確認書(甲10)も申告義務の内容については収入に限られており、控訴人が受け取った3種のパンフレットや現在名古屋市内の福祉事務所で配布されているパンフレット(甲15~17)にも障害者加算に係る情報の記載も、精神障害者手帳の交付を受けた場合には福祉事務所に届け出る義務があるとの記載もなく、本件事務所の担当ケースワーカーが控訴人に障害者加算の制度や精神障害者手帳の交付を受けた場合には届出義務があることを説明していなかったことからすれば、控訴人が精神障害者手帳の交付を受けた場合には届出義務があることを認識することはできなかったといえるから、控訴人が過失によって届出義務に違反したとはいえない。」コ原判決10頁14行目から17行目までを次のとおり改める 受けた場合には届出義務があることを認識することはできなかったといえるから、控訴人が過失によって届出義務に違反したとはいえない。」コ原判決10頁14行目から17行目までを次のとおり改める。 「 また、法が申請に基づいて保護が変更されることを予定していること(法24条9項、10項)からすれば、保護の変更についても申請主義を採用していることは明らかであり、精神障害者手帳の交付を受けた場合には、その等級によっては基準生活費に障害者加算が適用されることになり、被保護者の生計の状況について変動を生じさせることになるから被保護者には法61条の届出義務がある。これらからすれば、保護の実施機関としては、被保護者から精神障害者手帳の交付を受けた事実の届出がされた場合、又は調査義務が生じたことを機序として調査した結果、精神障害者手帳に記載された障害の程度が判明した場合に、保護基準別表第1第2章2⑵に定める要件該当性について判断する義務を負うところ、控訴人は、精神障害者手帳の交付を受けた事実を届けておらず、後記イのとおり、本件事務所長らに調査義務は生じていない。 したがって、本件事務所長らに最低生活保障義務違反はない。」 サ原判決10頁19行目から22行目までを次のとおり改める。 「 保護の実施機関が公務員として職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と調査義務及び職権変更義務に違反したというためには、被保護者に法61条の届出を期待できない状況下において、保護の実施機関において、被保護者が保護の変更を必要とすることが明白であったか、そのことを容易に認識し得たということが必要であると解される。 しかし、控訴人は、単独で収入申告書等の提出や精神障害者手帳及び福祉特別乗車券の申請を行い、銀行口座の通 ることが明白であったか、そのことを容易に認識し得たということが必要であると解される。 しかし、控訴人は、単独で収入申告書等の提出や精神障害者手帳及び福祉特別乗車券の申請を行い、銀行口座の通帳を紛失した際には、自ら新しい銀行口座を開設するなどしていたこと、平成29年3月から一人暮らしを開始し、同年4月から就労継続支援A型作業所で就労を開始したこと、自らインターネットで検索して障害者加算についての知識を得て、電話で障害者加算について問い合わせたことなどからすれば、控訴人が届出を期待できない状況下にあったとはいえず、控訴人は過失によって届出義務に違反したといえる。 また、平成28年11月30日の精神障害者手帳用の診断書料の一時扶助認定の時点では、本件事務所長らが認識したのは、あくまで控訴人が精神障害者手帳用診断書を取得した事実であり、精神障害者手帳の申請をしたとしても必ず交付されるとは限らず、診断書料の一時扶助認定を行うに当たり、請求書に診断書の写しが添付されていても、担当ケースワーカーとしては診断書の交付先が被保護者であるかなどの事実確認のために目を通したにとどまる。精神障害者手帳の交付の可否及びその等級判定は、都道府県ないし指定都市に置かれる精神保健福祉センターが、精神保健指定医等で構成される審議会にて審議・判断するものであり、判断に当たっては高度の専門性を必要とするものであるから、本件事務所の担当ケースワーカーが本件診断書1に目を通したからといって、手帳交付の有無やその等級等、控訴人の精神障害の程度を了知できるも のではない。さらに、診断書料の一時扶助認定は、精神障害者手帳の申請の有無や申請結果によって要否が異なる性質のものではない。そのため、本件事務所長らが、控訴人が障害者加算の要件に該当することを容 のではない。さらに、診断書料の一時扶助認定は、精神障害者手帳の申請の有無や申請結果によって要否が異なる性質のものではない。そのため、本件事務所長らが、控訴人が障害者加算の要件に該当することを容易に認識し得たとはいえない。 さらに、平成30年10月16日の精神障害者手帳更新用の診断書料の一時扶助認定の時点では、本件事務所長らは、控訴人が精神障害者手帳の交付を受けている事実を認識することができたにとどまり、その障害等級が2級ないし1級であることを推認できる具体的事実もなかったことからすれば、本件事務所長らが、控訴人が障害者加算の要件に該当することを容易に認識し得たとはいえない。 したがって、本件事務所長らに控訴人に対して障害者加算の要件該当性を調査する義務は生じないから、公務員として通常尽くすべき注意義務としての調査義務違反はなく、職権変更義務違反も成立しない。」シ原判決12頁1行目から2行目にかけての「仮に届出をしていないとしても」の次に「、補正後の前記⑴の控訴人の主張のイ(イ)①のとおり、控訴人が精神障害者手帳の交付を受けた場合には届出の義務があることを認識することができなかったことからすれば」を加える。 ス原判決13頁3行目の「原告が障害者加算を取得できることを」を「被保護者は、精神障害者手帳の交付を受けた場合には、法61条によって当該事実の届出をしなければならず、仮に控訴人が法61条に基づく届出義務があることを知らなかったとしても、法には教示(情報提供)すべき内容や程度、方法について明確な定めがないこと、届出義務の前提として教示(情報提供)義務があるものとは直ちには認められないことからすれば、本件事務所長らの情報提供や説明の内容如何にかかわらず、控訴人には精神障害者手帳の交付を受けたことの届出義務が 義務の前提として教示(情報提供)義務があるものとは直ちには認められないことからすれば、本件事務所長らの情報提供や説明の内容如何にかかわらず、控訴人には精神障害者手帳の交付を受けたことの届出義務があり、それを履行しなかった控訴人に過失がないとはいえないし、本件事務所 長らには控訴人に障害者加算の要件があることを」に改める。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は、控訴人の請求は理由があると判断する。その理由は、次の2のとおり原判決を補正する(控訴理由に対する判断を含む。)ほかは、原判決の「事実及び理由」の第3に記載のとおりであるから、これを引用する。 2 原判決の補正⑴ 原判決14頁7行目の「法9条に基づく義務違反」を「最低生活保障義務違反」に、8行目の「通院状況からすれば」を「通院状況等や他法他施策の活用(法4条2項)の観点からすれば」に、それぞれ改める。 ⑵ 原判決14頁15行目の「本件事務所長」を「他法他施策の活用や法の施行事務監査の項目に精神科受診ケースについて、精神障害者手帳申請の可否について検討が行われているかが掲げられていること(甲37)を踏まえても、本件事務所長ら」に、16行目の「指示する義務」を「指示するという公務員が職務上通常尽くすべき注意義務」に、18行目の「法的義務に違反する」を「国賠法上違法である」に、それぞれ改める。 ⑶ 原判決14頁18行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「 次に、控訴人は、保護の実施機関には最低生活保障義務があるところ、本件事務所長らがこれに違反している旨主張する。 確かに、障害があることによってより多くの費用を要する障害者にとって、障害者加算があって初めて最低限度の生活を営むことができることからすれば、保護の実施機関としては、被 ている旨主張する。 確かに、障害があることによってより多くの費用を要する障害者にとって、障害者加算があって初めて最低限度の生活を営むことができることからすれば、保護の実施機関としては、被保護者の最低限度の生活を保障するために障害者加算の要件に該当することが判明した場合には、保護の変更立案を行う義務があるといえる。しかしながら、法24条9項が第1項から第7項までの規定は、保護の変更の申請について準用する旨規定していることからすれば、保護の変更についても申請主義が採用されていると解される。また、被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があったときは、速 やかにその旨を届け出る義務がある(法61条)ところ、精神障害者手帳の交付を受けた場合には、その等級如何によっては、基準生活費に障害者加算がされるため、生計の状況について変動があった場合に該当し、届出義務があると解される。このように、法が、被保護者に対して、収入、支出その他生計の状況の変動について届出義務を課しているのは、保護の実施機関は、保護の適正な運営を図るため、法25条2項、28条、29条に基づき、常に被保護者の状況を調査し、知悉しておかなければならないものの、極めて多数に上る被保護者の生計の状況等の変動を保護の実施機関の調査だけで把握することは到底困難であることから、被保護者に生計の状況等について変動が生じた場合にその届出義務を課すことにより、保護の実施機関が必要な情報を適時に把握することができるようにし、もって保護の適正・円滑な運営を図ろうとしたものと解される(甲36〔641、642頁〕)。このような法の趣旨からすれば、保護の実施機関としては、被保護者から精神障害者手帳の交付を受けたとの届出がされた場合、又は調査義務が生じたことを契機として調査した る(甲36〔641、642頁〕)。このような法の趣旨からすれば、保護の実施機関としては、被保護者から精神障害者手帳の交付を受けたとの届出がされた場合、又は調査義務が生じたことを契機として調査した結果、被保護者が精神障害者手帳の交付を受けたことやその等級が判明した場合に、障害者加算の要件該当性について判断する義務を負うといえるから、控訴人の主張する最低生活保障義務違反の有無については、後記⑵の調査義務及び職権変更義務違反の有無において判断するのが相当である。」⑷ 原判決14頁20行目から20頁5行目までを次のとおり改める。 「 ア補正後の前記⑴のとおり、被保護者が精神障害者手帳の交付を受けた場合、その等級如何によっては基準生活費に障害者加算がされることになり、被保護者の生計の状況に変動を及ぼすことになるから、被保護者は、法61条に基づき、当該事実の届出義務を負う。他方、保護の実施機関は、常に、被保護者の生活状態を調査し、保護の変更を必要とすると認めるときは、速やかに、職権をもってその決定を行う義務を負う (法25条2項)ところ、保護の変更につき申請主義を定め、被保護者に法61条の届出義務が課せられているのは、極めて多数の被保護者の生計の状況等の変動を保護の実施機関の調査だけで把握することは到底困難であるからであり、被保護者の届出義務は、保護の実施機関の調査義務の端緒となる性質であること、保護の実施機関が判断するに当たっての法や実施要領等の解釈や考え方を示したものである生活保護問答集の問7-17が、「加算の認定に限らず、最低生活費の認定は、一般に本人の申告、届出が中心となって行われるべきである。しかし、実施機関の側においても対象者の需要発見について積極的に確認の努力をすべきである。したがって、現業員が加算の要 、最低生活費の認定は、一般に本人の申告、届出が中心となって行われるべきである。しかし、実施機関の側においても対象者の需要発見について積極的に確認の努力をすべきである。したがって、現業員が加算の要件に該当すると思われる者を発見したときは、ただちに実施機関として認定に必要な手続をはじめるとともに本人に対して適当な方法で申告届出を求めるべきであろう。」と記載されており(補正後の前提事実⑷エ)、対象者の需要発見について単なる努力ではなく、積極的に確認の努力をすべきとされていること、障害者加算制度は、加算によって初めて最低限度の生活を営むことができるものであり、加算の要件があるにもかかわらず加算がされなかった場合の被侵害利益の種類・性質は被保護者の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利であり、被保護者の受ける損害の程度等は軽微とは言い難いことなどを総合考慮すれば、被保護者から障害者加算の申請や精神障害者手帳の交付を受けた事実の届出がない場合であっても、保護の実施機関において、被保護者が障害者手帳の交付を受けた事実を認識し又は認識することができたなどの特段の事情がある場合には、公務員として職務上通常尽くすべき注意義務として被保護者の障害者加算の要件該当性について調査する義務があり、これを怠った場合には、国賠法1条1項の違法性があると解するのが相当である。 イこれを本件についてみるに、補正後の前提事実⑹及び証拠(甲2、5 5、乙15、証人B)によれば、控訴人は、平成25年12月統合失調症を発症したと診断され、統合失調症の幻聴妄想により店舗の窓ガラスを割るという器物損壊事件で逮捕され、不起訴となるも、平成28年4月28日、C病院に措置入院となり、同日、同病院の職員から本件事務所に入院生活費についての保護の相談があったことを より店舗の窓ガラスを割るという器物損壊事件で逮捕され、不起訴となるも、平成28年4月28日、C病院に措置入院となり、同日、同病院の職員から本件事務所に入院生活費についての保護の相談があったことを端緒として保護開始に至ったものであり、同年7月27日、C病院の職員から、控訴人が同日退院してグループホームに入所し、今後は控訴人が障害者総合支援法に基づく自立支援医療証を取得し、通院治療を継続する予定との連絡があり、同年8月1日、控訴人が入所していたグループホームの職員から、控訴人が同月から障害者総合支援法に基づく就労継続支援B型作業所において軽作業をするようになったとの連絡があり、同月23日、本件事務所の担当ケースワーカーが家庭訪問して控訴人にグループホーム入所後の生活状況等を確認し、B型作業所での収入があった場合には必ず収入申告をするよう伝えていたという経過のもと、控訴人が本件診断書1を提出して精神障害者手帳の交付申請を行い同年11月8日に精神障害者手帳2級の交付を受けていたところ、本件事務所長が同月30日に精神障害者手帳用の診断書料の一時扶助認定をしたこと、この一時扶助認定に当たって提出された検診料請求書が保存期間経過のため存在しないものの、精神障害者手帳更新用の診断書の検診料請求書が平成30年10月1日付けであり、一時扶助認定がされたのが同月16日であることからすれば、平成28年11月30日の精神障害者手帳用の診断書料の一時扶助認定がされた少なくとも2週間程度前の同月16日頃にはC病院から本件診断書1の写しが添付された検診料請求書が提出されたと推認できること、本件事務所の担当ケースワーカーが一時扶助認定に当たって本件診断書1の内容を確認しており、本件診断書1が精神障害者手帳用の定型の診断書であり、かつ、精神障害者手帳の等級の程度 れたと推認できること、本件事務所の担当ケースワーカーが一時扶助認定に当たって本件診断書1の内容を確認しており、本件診断書1が精神障害者手帳用の定型の診断書であり、かつ、精神障害者手帳の等級の程度の 判断に用いられる日常生活能力の程度につき2級に相当する「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする」に丸印が付されていた(甲45)ものの、本件事務所の担当ケースワーカーは、控訴人の面接時の受け答えの状況等から控訴人の統合失調症の症状は基本的には改善されているとの印象を持っていたことから、控訴人が精神障害者手帳の申請をしたが、交付を受けることはできなかったと思い込み、控訴人に精神障害者手帳の交付の有無を尋ねたり、手帳の提示を求めて等級を確認することが容易に可能であり、控訴人がその求めに応じた蓋然性が高かったにもかかわらず、控訴人に精神障害者手帳の交付の有無を尋ねたり、手帳の提示を求めなかったことが認められ、これらの事実によれば、遅くとも平成28年11月16日頃には、本件事務所の担当ケースワーカーにおいて、控訴人が精神障害者手帳の交付を受けた事実を認識することができたと認めるのが相当である。 また、補正後の前提事実⑹によれば、本件事務所長らは、平成29年4月26日時点では、控訴人が福祉特別乗車券を利用していることを把握している。確かに福祉特別乗車券は、精神障害者手帳の被交付者以外の者にも交付されるものであるが(乙5の1・2)、控訴人が精神障害者手帳以外の手帳の被交付者であることをうかがわせる事情は一切なく、かつ、平成28年11月30日時点で精神障害者手帳用診断書料の一時扶助認定を受けた等の経過からすれば、平成29年4月26日時点では、実質的には控訴人が精神障害者手帳の交付を受けたことを届 一切なく、かつ、平成28年11月30日時点で精神障害者手帳用診断書料の一時扶助認定を受けた等の経過からすれば、平成29年4月26日時点では、実質的には控訴人が精神障害者手帳の交付を受けたことを届け出たと認めるのが相当である。 それにもかかわらず、本件事務所の担当ケースワーカー、その上司を含めた本件事務所長らは、控訴人に精神障害者手帳の交付の有無を確認し、その提示を求めるなどの極めて容易な調査すら行わなかったのであるから、公務員として職務上通常尽くすべき調査義務を漫然と怠ったと 認められ、国賠法上の違法性があり、かつ、過失によって控訴人の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害したと認めるのが相当である。 ウ以上に対し、被控訴人は、控訴人に法61条の届出義務違反がある場合には保護の実施機関は調査義務を負わない旨主張する。 しかしながら、控訴人が精神障害者手帳の交付を受けた平成28年11月8日時点では法61条の届出をしていない(なお、控訴人は、担当ケースワーカーに精神障害者手帳を提示した旨陳述する(甲32)が、担当ケースワーカーであるBが上記事実を否定する証言(証人B〔7頁〕)をしていることに照らすと、控訴人が担当ケースワーカーに精神障害者手帳を見せたことを認めるには足りない。)ものの、障害者加算を含む生活保護制度の内容は極めて複雑であるところ、実施機関においては高度の専門性を備えている一方、被保護者においては通常生活保護制度の知識や情報に乏しく、加算の要件についての知識も有していないと考えられ、控訴人が生活保護の開始に当たって受け取った確認書(甲10)や3種類のパンフレットには、精神障害者手帳の交付を受けた場合には福祉事務所に届出をする義務があるとの記載はなく(補正後の前提事実 えられ、控訴人が生活保護の開始に当たって受け取った確認書(甲10)や3種類のパンフレットには、精神障害者手帳の交付を受けた場合には福祉事務所に届出をする義務があるとの記載はなく(補正後の前提事実⑹エ)、本件事務所の担当ケースワーカー等の本件事務所の職員から障害者加算の制度や精神障害者手帳の交付を受けた場合には届出義務があると説明を受けたこともなかったこと(甲2、証人B〔16、17頁〕)、現在、名古屋市内の福祉事務所で配布されているパンフレット(甲15~17)にも障害者加算に係る情報の記載や、精神障害者手帳の交付を受けた場合には福祉事務所に届け出る義務があるとの記載はないこと、控訴人が精神障害者手帳の交付を受けた平成28年11月8日の時点では、グループホームに入所中であり、精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要 とする状態で、日常生活能力のうち社会的手続や公共施設の利用については援助があればできるという状態で、日常生活全般において施設職員の見守りや相談援助によって生活が成り立っている状態であったこと(補正後の前提事実⑹コ)からすれば、控訴人が精神障害者手帳の交付を受けた時点で、交付を受けた場合には届出義務があることを認識することは困難であって、法61条の届出をしなかったことについて過失があると認めることはできない。なお、被控訴人は、控訴人が単独で収入申告書等の提出や精神障害者手帳及び福祉特別乗車券の申請を行い、銀行口座の通帳を紛失した際には、自ら新しい銀行口座を開設するなどしていたこと、平成29年3月から一人暮らしを開始し、同年4月から就労継続支援A型作業所で就労を開始したこと、自らインターネットで検索して障害者加算についての知識を得て、電話で障害者加算について問い合わせたことなどからすれば、 ら一人暮らしを開始し、同年4月から就労継続支援A型作業所で就労を開始したこと、自らインターネットで検索して障害者加算についての知識を得て、電話で障害者加算について問い合わせたことなどからすれば、控訴人が届出を期待できない状況下にあったとはいえない旨主張するが、控訴人の精神障害者手帳の交付を受けた平成28年11月8日時点での日常生活能力の程度によれば、控訴人が施設の職員の援助によって精神障害者手帳及び福祉特別乗車券の申請を行った可能性が否定できないし(なお、控訴人は、本件事務所の担当ケースワーカーから精神障害者手帳の申請を勧められた旨陳述するが(甲32)、当時の担当ケースワーカーがこれを否定する証言をしていること(証人B〔7頁〕)に照らすと、控訴人が施設の職員から勧められたにもかかわらず、担当ケースワーカーから勧められたと誤って記憶している可能性が否定できない。)、控訴人が収入申告書を作成していたのは、同年8月23日に本件事務所の担当ケースワーカーから作業所で収入を得た場合には収入申告を必ず行うように伝えられたことから本件事務所に来所して作成していたものであり(甲2〔13頁以下〕)、控訴人が、同年10月4 日、本件事務所に来所して、これまで所持していた銀行口座の通帳を紛失したため、新しく銀行口座を開設したとして、来月からの保護費の振込口座の変更の申込みをしている(甲2〔14頁〕)が、銀行口座の通帳を紛失した場合には、通帳の利用停止手続をした上で通帳の再発行を求めればよく、新しく銀行口座を開設する必要はないことからすれば、かえって控訴人が当時日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする状態であったことを示すものといえる。また、控訴人が平成29年3月から一人暮らしを開始し、同年4月から就労継続支援A型作業所で就 て控訴人が当時日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする状態であったことを示すものといえる。また、控訴人が平成29年3月から一人暮らしを開始し、同年4月から就労継続支援A型作業所で就労を開始したこと、令和元年7月頃に自らインターネットで検索して障害者加算についての知識を得て、電話で障害者加算について問い合わせたことによって、控訴人が精神障害者手帳の交付を受けた平成28年11月8日時点の日常生活能力の程度を推認することはできない。そうすると、被控訴人が主張する諸事情によって、控訴人が精神障害者手帳の交付を受けた平成28年11月8日時点で法61条の届出をしなかったことについて過失があると認めることはできないとの前記認定を左右することはできない。そして、このように控訴人に精神障害者手帳の交付を受けた事実を届け出なかったことに過失があると認められない場合にまで本件事務所長らの公務員として通常尽くすべき注意義務としての調査義務を一切否定することは、法61条の届出義務が、多数に上る被保護者の生計の状況等の変動を保護の実施機関の調査だけでは把握することが到底困難であることから定められたものであって、調査義務の端緒となる性質のものであることに鑑みると、相当とは解されない。 エ次に、被控訴人は、精神障害者手帳用の診断書を取得したからといって精神障害者手帳の交付を受けるとは限らないし、精神障害者手帳の交付を受けたことを推認できる具体的な事実もなかったのであるから、本 件事務所長らが控訴人が障害者加算の要件該当性を容易に認識し得たとはいえない旨主張する。 しかしながら、前記のとおり法61条の届出義務が、多数に上る被保護者の生計の状況等の変動を保護の実施機関の調査だけでは把握することが到底困難であることか 得たとはいえない旨主張する。 しかしながら、前記のとおり法61条の届出義務が、多数に上る被保護者の生計の状況等の変動を保護の実施機関の調査だけでは把握することが到底困難であることから定められたものであって、調査義務の端緒となる性質であることに加えて、障害者加算の制度が加算があって初めて最低限度の生活を営むことができるものであり、加算の要件があるにもかかわらず加算がされなかった場合の被侵害利益が被保護者の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利であり、被保護者の損害の程度等が軽微とは言い難いことなどからすれば、公務員として職務上通常尽くすべき注意義務としての調査義務としては、被控訴人が主張するような保護の実施機関において被保護者の保護の変更を必要とすることが明白であったか、そのことを容易に認識し得たといった事情までを要するとはいえず、精神障害者手帳の交付を受けたことを認識し、又は認識し得た場合には公務員として通常尽くすべき注意義務として調査義務を負うと解するのが相当である。そして、控訴人がそれ以前から障害者総合支援法に基づく自立支援医療制度や就労継続支援といった精神障害者が利用できる福祉サービスを利用していたことからすれば、控訴人が精神障害者手帳用の診断書を取得しながら精神障害者手帳の申請をしないということはおよそ想定し難いことであったと認められるし、担当ケースワーカーの控訴人の統合失調症の症状が基本的に改善しているとの認識は、精神科医師の診断書や意見等の専門的意見に基づくものではなく主観的な印象にすぎず(証人B)、しかも、担当ケースワーカーは、本件診断書1に係る診断料の一時扶助認定に当たり、本件診断書1を確認しており、その目的が控訴人宛ての診断書であることの確認であることを踏まえても、本件診断書1が精神障害者手帳用 当ケースワーカーは、本件診断書1に係る診断料の一時扶助認定に当たり、本件診断書1を確認しており、その目的が控訴人宛ての診断書であることの確認であることを踏まえても、本件診断書1が精神障害者手帳用の定型の診断書であり、かつ精神 障害者手帳の等級の程度の判断に用いられる日常生活能力の程度につき2級に相当する「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする」に丸印が付されていること(甲45)からすれば、自らの主観的印象が精神科医師の診断とは異なることを容易に認識できたと認められ、平成28年11月16日頃当時、控訴人が精神障害者手帳の交付を受けたことを推認できる具体的な事実がなかったとは認められず、むしろ控訴人が精神障害者手帳の交付を受けたことを認識することができた具体的な事実が存在したと認めるのが相当である。 オ他にも被控訴人は、本件事務所長らに公務員として通常尽くすべき注意義務としての調査義務違反がない旨るる主張するが、いずれも前記判断を左右するものとはいえない。 したがって、本件事務所長らは、平成28年11月16日頃の時点において、控訴人が精神障害者手帳の交付を受けた事実を認識し得たにもかかわらず、控訴人に精神障害者手帳の交付の有無を確認し、その提示を求めるなどの極めて容易な調査すら行わず、公務員として通常尽くすべき職務上の調査義務を漫然と怠り、控訴人の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害したのであるから、国賠法上の違法性があり、かつ、過失があると認めるのが相当である。 3 争点3(損害の発生の有無及び額)について仮に本件事務所長らが平成28年11月16日頃の時点で調査義務を履行していれば、控訴人が障害者加算の対象である精神障害者手帳2級の交 3 争点3(損害の発生の有無及び額)について仮に本件事務所長らが平成28年11月16日頃の時点で調査義務を履行していれば、控訴人が障害者加算の対象である精神障害者手帳2級の交付を受けていることが判明し、職権による保護の変更を行うことになり、控訴人は、精神障害者手帳2級の交付を受けた翌月である同年12月から障害者加算月額1万7530円を受け取ることができたと認められる。 また、仮に本件事務所長らが公務員として通常尽くすべき職務上の注意義務としての調査義務を負う時点が平成29年4月26日時点であるとし ても、改正前の生活保護問答集においても遡及して支給すべき限度は3か月程度とされていること(甲11)、前記2⑵ウ認定のとおり控訴人が精神障害者手帳の交付を受けた事実の届出をしなかったことについて過失があるとは認められないことなどからすれば、遡及して支給すべき期間が3か月以上となる平成28年12月からとされる蓋然性が高いと認められる(甲25〔7頁〕、28〔4頁〕)。 したがって、控訴人は、本件事務所長らの過失による違法行為によって、平成28年12月から平成31年4月までの29月分の障害者加算合計50万8370円に相当する損害を被ったと認められる。 4 以上によれば、控訴人は、被控訴人に対し、国賠法1条1項に基づき、50万8370円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年7月16日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めることができる。」第4 結論よって、原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言については相当でないから、これを付さない。 名古屋高等裁判所民事第3部 裁判長裁判官 よって、原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言については相当でないから、これを付さない。 名古屋高等裁判所民事第3部 裁判長裁判官 片田信宏 裁判官 山本万起子 裁判官 三橋泰友

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