平成23(ワ)32776 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年3月25日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-83266.txt

キーワード

判決文本文48,330 文字)

平成25年3月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成23年(ワ)第32776号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成24年12月19日判 決徳島県阿南市<以下略>原告日亜化学工業株式会社同訴訟代理人弁護士古城春実同牧野知彦同高橋 綾同訴訟代理人弁理士鮫島 睦同田村 啓同玄 番 佐奈恵同訴訟復代理人弁護士加治梓子東京都台東区<以下略>被告燦坤日本電器株式会社同訴訟代理人弁護士松田純一同大橋君平同近森章宏同伊藤卓同西村公芳同訴訟復代理人弁護士篠森重樹同大坂憲正同西脇怜史台湾,台北<以下略>被告補助参加人ユニティーオプトテクノロジーカンパニーリミテッド 同訴訟代理人弁護士升永英 オプトテクノロジーカンパニーリミテッド 同訴訟代理人弁護士升永英俊同補佐人弁理士佐藤睦主 文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,2000万円及びこれに対する平成23年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,「発光ダイオード」に関する特許権(特許第3995011号。平成23年11月25日存続期間満了。以下以下以下以下「本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権」といいといいといいといい,本件本件本件本件特許権特許権特許権特許権に係る特許特許特許特許を「本件特許本件特許本件特許本件特許」というというというという。)を有していた原告が,被告に対し,被告が輸入販売していた別紙物件目録記載のLED電球(以下以下以下以下,同目録同目録同目録同目録1記載記載記載記載の物件を「イ号物件号物件号物件号物件」,」,」,」,同目録同目録同目録同目録2記載記載記載記載の物件物件物件物件を「ロ号物件号物件号物件号物件」といいといいといいといい,併せてせてせてせて「被告被告被告被告製品製品製品製品」というというというという。)。)。)。)は,本件特許権に係る発明の技術的範囲に属し,本件特許権を侵害すると主張して,民法709条,特許法102条3項に基づく損害賠償請求又は民法70 品」というというというという。)。)。)。)は,本件特許権に係る発明の技術的範囲に属し,本件特許権を侵害すると主張して,民法709条,特許法102条3項に基づく損害賠償請求又は民法703条に基づく不当利得返還請求として2000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年10月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提となる事実(証拠等を付した以外の事実は当事者間に争いがない。)(1) 原告は,半導体及び関連材料,部品,応用製品の製造販売等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。 (2) 被告は,家庭電化製品の販売,輸入等を目的とする株式会社である。 補助参加人は,台湾に本店を有する外国法人である。 被告は,少なくとも本件特許が登録された平成19年8月10日から本件 特許権の存続期間が満了した平成23年11月25日まで,補助参加人の製造する被告製品を輸入し,譲渡し,譲渡の申出をしていた。 (3) 本件特許原告は,以下の特許権(本件特許権)を有している(本件特許に係る特許公報(甲2)を末尾に添付し,以下以下以下以下,本件特許本件特許本件特許本件特許の請求請求請求請求の範囲範囲範囲範囲,明細書及明細書及明細書及明細書及び図面を合わせてわせてわせてわせて「本件明細書本件明細書本件明細書本件明細書」というというというという。)。 特許番号第3995011号発明の名称発光ダイオード原出願日平成3年11月25日出願日平成17年10月31日(特願200 発光ダイオード原出願日平成3年11月25日出願日平成17年10月31日(特願2005-317711号)(特願2005-158166号の分割)登録日平成19年8月10日存続期間満了日平成23年11月25日(4) 本件特許に係る手続の経緯は以下のとおりである(甲26の2,28,乙2)。 平成3年11月25日原出願(特願平3-336011号。甲26の1,乙1,丙1。以下以下以下以下「本件最初本件最初本件最初本件最初の原出願原出願原出願原出願」といいといいといいといい,本件最初本件最初本件最初本件最初の原出願原出願原出願原出願に係る明細書明細書明細書明細書(特許請求特許請求特許請求特許請求の範囲範囲範囲範囲を含む。)及び図面図面図面図面を合わせてわせてわせてわせて「当初明当初明当初明当初明細書細書細書細書」というというというという。)平成9年10月20日分割出願(第1世代)(特願平9-306393号,特許第2900928号。甲11の1・2,26の5・13,乙5,13。以下以下以下以下,「,「,「,「本件第本件第本件第本件第1分割出願分割出願分割出願分割出願」というというというという。)平成10年12月28日分割出願(第2世代)(特願平10-377128号。甲26の6,乙6)平成13年9月3日分割出願(第3世代)(特願2001-31328 6号。甲26の7,乙7)平成15年2月4日分割出願(第4世代)(特願2003-67318号。甲26の8,乙8)平 平成13年9月3日分割出願(第3世代)(特願2001-31328 6号。甲26の7,乙7)平成15年2月4日分割出願(第4世代)(特願2003-67318号。甲26の8,乙8)平成16年9月27日分割出願(第5世代)(特願2004-280288号。甲26の9,乙9)平成17年5月30日分割出願(第6世代)(特願2005-158166号。甲26の10,乙10)平成17年10月31日分割出願(第7世代)(特願2005-317711号,特許第3995011号。甲1,2,20の2ないし4,26の11,35,乙11。本件特許)(5) 本件特許の請求項1は,次のとおりである。 基板上にn型及びp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子と,電極となる第1のメタル及び第2のメタルと,前記発光素子を包囲する樹脂と,前記発光素子からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発して前記発光素子の色補正をする,前記樹脂中に含有されてなる蛍光染料又は蛍光顔料と,前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn電極を付け,該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続させてなる金線と,を有する発光ダイオード。 (6) 本件発明本件特許の請求項1に係る発明(以下以下以下以下「本件発明本件発明本件発明本件発明」というというというという。)。)。)。)を構成要件に分説すると,次のとおりである。 A 基板上にn型及びp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子と, B 電極となる第1のメタル及び第2のメタルと,C 前記発光素子を包囲する樹脂と,D 前記発光素子からの青色の可視光に励起さ 積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子と, B 電極となる第1のメタル及び第2のメタルと,C 前記発光素子を包囲する樹脂と,D 前記発光素子からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発して前記発光素子の色補正をする,前記樹脂中に含有されてなる蛍光染料又は蛍光顔料と,E 前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn電極を付け,該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続させてなる金線と,F を有する発光ダイオード(7) 被告製品の構成被告製品の構成は,以下のとおりである(弁論の全趣旨)。 (イ号物件)a1 SiC基板上にn型及びp型に積層されてなる,発光層がInGaNである青色LEDチップと,b1 電極となる第1のメタル及び第2のメタルと,c1 前記青色LEDチップを包囲するシリコーン樹脂と,d1 前記青色LEDチップの447nm付近に発光ピークを有し,420nm~490nm程度に広がる光の一部によって励起されて,励起波長よりも長波長の緑色波長の可視光を出す前記シリコーン樹脂中に含有されてなる緑色蛍光体,及び,前記青色LEDチップの447nm付近に発光ピークを有し,420nm~490nm程度に広がる光の一部によって励起されて,励起波長よりも長波長の赤色波長の可視光を出す前記シリコーン樹脂中に含有されてなる赤色蛍光体であり,前記緑色波長の可視光と前記赤色波長の可視光と前記青色LEDの発光との混色によって,前記青色LEDチップの発光色を電球色に変化させる緑色蛍光体及び赤色蛍光体と, e1 前記青色LEDチップをエッチングしてn型層を素面に露出させてn電極を付け,該n電極と前記第1のメタルとを電気的に接続させてな プの発光色を電球色に変化させる緑色蛍光体及び赤色蛍光体と, e1 前記青色LEDチップをエッチングしてn型層を素面に露出させてn電極を付け,該n電極と前記第1のメタルとを電気的に接続させてなる金線と,f1 を有する発光ダイオード。(ロ号物件)a2 SiC基板上にn型及びp型に積層されてなる,発光層がInGaNである青色LEDチップと,b2 電極となる第1のメタル及び第2のメタルと,c2 前記青色LEDチップを包囲するシリコーン樹脂と,d2 前記青色LEDチップの453nm付近に発光ピークを有し,420nm~500nm程度に広がる光の一部によって励起されて,励起波長よりも長波長の緑色波長の可視光を出す前記シリコーン樹脂中に含有されてなる緑色蛍光体,及び,前記青色LEDチップの453mm付近に発光ピークを有し,420nm~500nm程度に広がる光の一部によって励起されて,励起波長よりも長波長の赤色波長の可視光を出す前記シリコーン樹脂中に含有されてなる赤色蛍光体であり,前記緑色波長の可視光と前記赤色波長の可視光と前記青色LEDの発光との混色によって,前記青色LEDチップの発光色を昼白色に変化させる緑色蛍光体及び赤色蛍光体と,e2 前記青色LEDチップをエッチングしてn型層を素面に露出させてn電極を付け,該n電極と前記第1のメタルとを電気的に接続させてなる金線と,f2 を有する発光ダイオード。(原告は,c1及びc2の「前記青色LEDチップ」につき「前記窒化ガリウム系青色LEDチップ」,d1及びd2の「前記青色LEDチップの発光色」につき「前記青色LEDチップからの発光色」とする特定を主張する が,対比には影響しない。) 被告製品の構成要件B,C,E,F充足性被告製品が,それぞれ本件発明の構 Dチップの発光色」につき「前記青色LEDチップからの発光色」とする特定を主張する が,対比には影響しない。) 被告製品の構成要件B,C,E,F充足性被告製品が,それぞれ本件発明の構成要件B,C,Eを充足すること,構成要件Fにいう「発光ダイオード」であることは,被告及び補助参加人において明らかに争わない。(9) 仮処分原告は,被告に対し,被告製品の譲渡等の仮の差止めを求める仮処分を申し立て(当庁平成22年(ヨ)第22058号),当庁は,平成23年9月16日,原告の申立てを認容する決定をした(甲27,乙22の1)。 被告は保全異議(当庁平成23年(モ)第40037号)及び保全執行停止(当庁平成23年(モ)第40038号)を申し立て,当庁は,平成23年11月18日,被告の保全執行停止申立てを却下した(乙22の2)が,保全異議係属中に本件特許の存続期間が満了し,原告は仮処分申立てを取り下げた(乙40・4,5頁)ため,上記仮処分決定は効力を有しない。 (10) 無効審判被告は,本件特許に分割要件違反に基づく新規性・進歩性欠如の無効理由があるとして無効審判を請求し(無効2011-800191),特許庁は,平成24年3月16日,請求不成立の審決をした(甲28)。 被告は,審決取消訴訟を提起し(知財高裁平成24年(行ケ)第10144号),知的財産高等裁判所は,平成25年2月27日,被告(審決取消訴訟原告)の請求を棄却する判決をした(当裁判所に顕著)。 3 争点(1) 構成要件Aの充足性(争点1)(2) 構成要件Dの充足性(争点2)(3) 分割要件違反に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点3)(4) 乙3に基づく進歩性欠如の有無(争点4) (5) 甲11に基づく重複特許の有無(争点5)( 要件Dの充足性(争点2)(3) 分割要件違反に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点3)(4) 乙3に基づく進歩性欠如の有無(争点4) (5) 甲11に基づく重複特許の有無(争点5)(6) 損害(又は不当利得額)(争点6)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(構成要件Aの充足性)について(原告の主張)(1) 構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体」は,「一般式GaXAl1-XN(但しXは0≦X≦1である。)(以下以下以下以下「本件組成本件組成本件組成本件組成」というというというという。)。)。)。)で表される窒化ガリウム系化合物半導体」や「発光ピークが430nm付近及び370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体」に限定されず,特に組成や発光波長に限定のない,ガリウム(Ga)の窒素(N)化合物からなる半導体を意味する。 (2) 被告製品における「発光層がInGaNである青色LEDチップ」は,いずれも構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体」に当たる。 (被告の主張)(1) 当初明細書には,「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」「発光ピークが430nm付近及び370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体」のみ記載され,組成や発光波長に限定のない窒化ガリウム系化合物半導体は記載されていなかった。 仮に本件特許に分割要件違反がないとすれば,構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体」は,「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」又は「発光ピークが430nm付近及び370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体」でなければならない。 (2) 被告製品における発光素子は,発光層がInGaNで表されるから「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」ではなく,また nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体」でなければならない。 (2) 被告製品における発光素子は,発光層がInGaNで表されるから「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」ではなく,またイ号物件の発光素子の発光ピークは447nm付近に,ロ号物件の発光素子の発光ピークは453nm付近にあるから,「発光ピークが430nm付近及び370 nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体」でもない。 したがって,被告製品は構成要件Aを充足しない。 (補助参加人の主張)(1) 本件明細書の【発明が解決しようとする課題】(段落【0004】~【0006】)は,「発光ピークが430nm付近及び370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし,またその輝度を向上させること」である。 本件明細書の唯一の実施例は,「GaAlNがn型及びp型に積層されてなる青色発光素子」に関する実施例であって(段落【0009】),その発光波長は「主として430nm付近にあ」る(段落【0005】)。 加えて,当初明細書の【課題を解決するための手段】には,「本発明は,ステム上に発光素子を有し,それを樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオードにおいて,前記発光素子が,一般式GaXAl1-XN(但しXは0≦X≦1である。)で表される窒化ガリウム系化合物半導体よりなり」と明確に記載されていた。当初明細書に引用された応用物理60巻2号の記載は,上記一般式GaXAl1-XNのX=1の場合を述べたものにすぎない。 以上によれば,本件特許の構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体」とは,「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」を意味する。 これを「窒化ガリウム系化合物半導体」一般とすると,視感度の高い緑色 ば,本件特許の構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体」とは,「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」を意味する。 これを「窒化ガリウム系化合物半導体」一般とすると,視感度の高い緑色(発光ピーク約550nm)を発光する発光素子をも含んでしまうことになり,本件発明の目的と矛盾する。 (2) 被告製品は,GaInNからなる発光素子であり,本件発明の目的外の製品であって,構成要件Aを充足しない。 2 争点2(構成要件Dの充足性)について(原告の主張)(1) 構成要件Dにいう「色補正」とは,所望の発光色を基準に,これと現在 の発光色との差を修正して所望の発光色にするという意味であり,「発光色を変えない程度の変換」,「青色波長の範囲内」には限定されない。 (2) 被告製品の構成d1及びd2は,構成要件Dを充足する。 (被告の主張)(1) 本件明細書の「その発光素子の発光色を変換する目的で,あるいは色を補正する目的で」(段落【0003】),「従来,樹脂モールドに着色剤を添加して波長を変換するという技術はほとんど実用化されておらず,着色剤により色補正する技術がわずかに使われているのみである。なぜなら,樹脂モールドに,波長を変換できるほどの非発光物質である着色剤を添加すると,LEDそのもの自体の輝度が大きく低下してしまうからである。(段落【0004】)等の記載からすると,「色補正をする」ことは「発光色を変換する」ことの対概念であり,構成要件Dにいう「色補正をする」の意義は,「発光色を変えない程度の発光波長の変換」あるいは「青色波長の範囲内における発光波長の変換」と解するほかない。 (2) イ号物件の蛍光体は,青色発光の一部を緑色又は赤色に波長変換し,青色発光全体を電球色に波長変換するものであり,ロ号物件の蛍光体は,青色 長の範囲内における発光波長の変換」と解するほかない。 (2) イ号物件の蛍光体は,青色発光の一部を緑色又は赤色に波長変換し,青色発光全体を電球色に波長変換するものであり,ロ号物件の蛍光体は,青色発光の一部を緑色又は赤色に波長変換し,青色発光全体を昼白色に波長変換するから,これらの変換は「発光色を変えない程度の発光波長の変換」や「青色波長の範囲内における発光波長の変換」に当たらない。 したがって,被告製品は構成要件Dを充足しない。 (補助参加人の主張)(1) 被告も主張する,本件明細書の段落【0004】の記載によれば,本件明細書では小さいレベルの色の変化である「色補正」と大きいレベルの色の変化である「波長の変換」を異なる意味で用いている。加えて,本件明細書に「青色LEDの色補正はいうにおよばず,蛍光染料,蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができる。」(段落【0008】)とあ ること,原告が,本件特許の最初の原出願に「白色光を得るという発想は無」かったこと,本件明細書に「白色光が発光可能」の開示がないことを自認していること(乙36)などからしても,「色補正」とは,「ある色」の範囲内での(例えば,青色の範囲内での)種々の色の変化をいい,「ある色」の範囲を超えた,別の色(例えば,白色)への変化(「数々の波長の光の変換」)を含まない。 (2) 被告製品は,構成要件Dを充足しない。 3 争点3(分割要件違反に基づく新規性・進歩性欠如の有無)について(被告の主張)(1) 本件特許出願は,本件最初の原出願から第1世代から第7世代までの7回の分割を経た後の分割出願であるところ,本件最初の原出願に対する本件第1分割出願(乙5,甲11の1・2)は,その請求項1において,本件最初の原出願で「一般式がGaxAl1-xN( 第7世代までの7回の分割を経た後の分割出願であるところ,本件最初の原出願に対する本件第1分割出願(乙5,甲11の1・2)は,その請求項1において,本件最初の原出願で「一般式がGaxAl1-xN(但しXは0≦X≦1である。)で表される窒化ガリウム系化合物半導体」よりなるとされていた発光素子が,単に「窒化ガリウム系化合物半導体」を備えるとされている。 当初明細書には,「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」あるいは「発光ピークが430nm付近及び370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体」だけが記載され,それ以外の窒化ガリウム系化合物半導体は記載されていなかったのであるから,第1世代の分割出願において「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」を「窒化ガリウム系化合物半導体」に変更したことは,「発明の構成に関する技術的事項」の実質的変更に当たり,当初明細書の記載の範囲内で分割されたものではない。 (2) 本件第1分割出願は,本件最初の原出願に対して新規事項を追加したもので分割要件に違反するから,その出願日は本件最初の原出願の出願日まで遡及せず,現に出願された平成9年10月20日である。 したがって,本件第1分割出願から6世代後の分割出願である本件特許出 願についても,その出願日が本件最初の原出願の出願日まで遡及することはなく,最先でも平成9年10月20日まで遡及するにすぎない。 (3) 本件特許出願の出願日前に頒布された特開平5-152609号公報(乙1)には,以下の発明(以下以下以下以下「乙1発明発明発明発明」というというというという。)。)。)。)が記載されている。 A1 サファイア基板上にGaAlNがn型及びp型に積層されてなる一般式GaXAl1-XN(但しXは0≦X≦1であ 明発明」というというというという。)。)。)。)が記載されている。 A1 サファイア基板上にGaAlNがn型及びp型に積層されてなる一般式GaXAl1-XN(但しXは0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体からなる青色発光素子11と,B1 電極となるメタルポスト2(第1のメタル)及びメタルステム3(第2のメタル)と,C1 青色発光素子11を包囲する樹脂モールド4と,D1 青色発光素子11からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発して青色発光素子11の色補正をする,樹脂モールド4中に含有されてなる蛍光染料又は蛍光顔料と,E1 前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn電極を付け,該n電極とメタルポスト2及びメタルステム3の一方とを電気的に接続させてなる金線と,F1 を有する発光ダイオード。 (4) 本件発明の構成要件B,C,D,E,Fは,乙1発明の構成要件B1,C1,D1,E1,F1に相当する。本件発明と乙1発明は,乙1発明が窒化ガリウム系化合物半導体を本件組成で表されるものに限定しているのに対し,本件発明はそのような限定がない点で相違する。 本件発明は,乙1発明の上位概念の発明であるから,新規性を有しない。 仮に,新規性が否定されない場合であっても,窒化ガリウム系化合物半導体がGaAlNに限られないとしただけの本件発明は,乙1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を有しない。 (原告の主張)当初明細書の段落【0005】【0006】【0009】には,本件組成の限定のない「GaN」(窒化ガリウム系化合物半導体)について記載がされている。 本件第1分割出願は,当初明細書に記載した事項の範 明細書の段落【0005】【0006】【0009】には,本件組成の限定のない「GaN」(窒化ガリウム系化合物半導体)について記載がされている。 本件第1分割出願は,当初明細書に記載した事項の範囲内のものであり,分割要件違反はない。 4 争点4(乙3に基づく進歩性欠如の有無)について(被告の主張)(1) 1974年6月25日に発行された米国特許文献である米国特許第3819974号公報(乙3)には,以下の発明(以下以下以下以下「乙3発明発明発明発明」というというというという。)。)。)。)が記載されているとともに,これが「人間の視感度の高いスペクトル領域の光を発光するのにも適している」ことが記載されている。 A2 基板上にn型及びi型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子と,D2 前記発光素子からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発する蛍光体と,E2 前記窒化ガリウム系化合物半導体のn型層を表面に露出させてn電極を付け,該n電極と電極とを電気的に接続させてなる導線と,F2 を有する発光ダイオード(2) 本件発明と乙3発明との間には,以下の相違点がある。 ① 乙3発明では発光素子がMIS接合型であるのに対し,本件発明ではpn接合型である点(相違点①)② 乙3発明では導線の接続先である電極が明記されていないのに対し,本件発明では金線の接続先である第1のメタル及び第2のメタル(電極)が明記されている点(相違点②)③ 乙3発明では蛍光体の配設態様が特定されていないのに対し,本件発明 では蛍光染料又は蛍光顔料(蛍光体)が発光素子を包囲する樹脂中に含有されている点(相違点③)④ 乙3発明ではn型層の露出方法が特定されていないのに対し,本件発明で いないのに対し,本件発明 では蛍光染料又は蛍光顔料(蛍光体)が発光素子を包囲する樹脂中に含有されている点(相違点③)④ 乙3発明ではn型層の露出方法が特定されていないのに対し,本件発明ではその方法がエッチングとされている点(相違点④)なお,本件明細書の段落【0009】に「発光素子11の裏面はサファイヤ絶縁基板であり」と記載されているところから,本件発明でn型層が露出する「表面」とは,「基板とは反対側の面」を意味し,乙3発明においてもn型層は基板と反対側の面に露出するから,n型層を表面に露出する点は相違点ではない。 (3) 相違点①(発光素子の接合型に関する相違点)についてpn接合素子を発光ダイオードに用いることについては,「応用物理」(乙15),特開平2-177577号公報(乙27),特開平3-203388号公報(乙28)等の相当多数の公知文献が存在していたのであるから,少なくとも周知技術であったといえる。 pn接合素子を発光ダイオードに用いることは技術常識,技術水準であったから,当業者にとって,乙3の発光ダイオードにおける発光素子をpn接合素子とすることは,通常の創作能力の発揮にほかならず,乙3のMIS型をpn接合型に変えようとする動機は十分に存在した。 仮に,pn接合素子を発光ダイオードに用いることが周知技術といえなかったとしても,原告が「GaNはp型化が困難であったという事情のため,一般的な半導体を用いた発光ダイオードとは異なり,窒化ガリウム系化合物半導体では,pn接合型ではなく,p型半導体を使わないMIS型(min構造とも称される)と呼ばれる方式が検討されていた」(準備書面(原告その1)24頁)というように,MIS接合型はpn接合型の代わりに消極的に用いられていたのであるから,当業者が,事業 IS型(min構造とも称される)と呼ばれる方式が検討されていた」(準備書面(原告その1)24頁)というように,MIS接合型はpn接合型の代わりに消極的に用いられていたのであるから,当業者が,事業化レベル(工業的量産化レベル)ではなく技術的思想の創作レベルで,pn接合型の発光素子を乙3の 発光ダイオードに適用することには,強い動機があったといえる。 したがって,相違点①に係る構成の容易想到性は明らかである。 (4) 相違点②(電気的接続の取り方に関する相違点)についてア発光ダイオード(のみならず,電源供給を要する全ての電子部品等)に電極は必須であり,乙3の発光ダイオードも,導線の接続先に電極を有することは明らかである(乙3に接した当業者が,その導線の先に電極が存しないと考えることなどあり得ない。)。 この点は,実開平3-67448号公報(乙29)において,「金属細線19」及び「第2の金属層14」として,導線が電源側の2つの金属製電極に電気的に接続されることが示されているからも明らかである。 原告は,乙3のリード19が本件発明のメタルポスト3に該当すると主張するが,導線が電極に相当することはなく,乙3のリード19は本件発明の金線に相当する。 イ半導体素子の実装(ワイヤボンディング)において,導線(ワイヤ)として金(Au)が用いられるのは一般的である(乙33ないし35)。 ウしたがって,相違点②は実質的な相違点とはいえない。 (5) 相違点③(蛍光体の配設態様に関する相違点)について発光素子を包囲する樹脂を設け,その中に蛍光体を含有させることは,周知・慣用技術で,技術水準を構成するものであった(乙30,31)。本件明細書(甲2)にも,従来技術として,発光素子を包囲する樹脂を設け,その樹脂中に色補正をす ,その中に蛍光体を含有させることは,周知・慣用技術で,技術水準を構成するものであった(乙30,31)。本件明細書(甲2)にも,従来技術として,発光素子を包囲する樹脂を設け,その樹脂中に色補正をする材料を入れる技術が記載されている。 乙3発明においても,蛍光体が発光素子を包囲する樹脂中に含有されていることが想定されており,相違点③は実質的な相違点とはいえない。 (6) 相違点④(n型層の露出に関する相違点)について半導体の製造プロセスにおいて,薄膜の除去がエッチングにより行われることは一般的であるから(乙28,32,33),相違点④は実質的な相違 点とはいえない。 (7) 以上のとおり,相違点①ないし④は周知・慣用技術の付加としか評価し得ず,青色の可視光の視感度を良くするという本件発明の効果も,乙3発明により既に達成されている。 よって,本件発明は,乙3発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。 (原告の主張)(1) 本件発明と乙3発明の技術思想の違いについて乙3発明の目的は,あくまで紫色発光が可能なMIS型発光ダイオードを実現することにあり,その紫色発光ダイオードを蛍光体の励起源として使うことは記載されていても,発光ダイオードの内部(発光素子を被う樹脂中)に蛍光体を導入して発光ダイオード自身の発光色を変えるという思想は示されていない。もともと赤,緑,青色という3原色の全てがMIS型発光ダイオードによって発光可能であるという認識のもとに乙3は記載されているから,それを短波長化して紫色発光ダイオードを実現した後,その紫色発光ダイオードの内部に蛍光体を入れて長波長化し,再び赤,緑,青色発光ダイオードに戻す,という迂遠なことを乙3が提案しているはずがない。 これに対して本件発明は, イオードを実現した後,その紫色発光ダイオードの内部に蛍光体を入れて長波長化し,再び赤,緑,青色発光ダイオードに戻す,という迂遠なことを乙3が提案しているはずがない。 これに対して本件発明は,MIS型ではなく,pn接合型の窒化ガリウム系化合物半導体発光ダイオードにおいては視感度の悪い短波長の発光しか実現できていないとの認識の下,発光ダイオードの内部に蛍光体を入れて発光ダイオード自身の発光波長を長波長化し,発光ダイオードの発光する色を変えること(色補正)を目的とするものであり,乙3発明とは基本的な技術思想が異なる。 (2) 本件発明と乙3発明には,以下の相違点がある(乙3では,発光素子から紫色の発光が得られると記載されているが,この紫色の発光が,本件発明の「青色」に該当し得ることは争わない。)。 i 本件発明では,「基板上にn型及びp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子」(=pn接合型発光素子)を有するのに対し,乙3発明では,「基板上にn型及びi型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子」(=MIS接合型発光素子)を有する点(相違点i)ii 本件発明では,「前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn電極を付け」ているのに対し,乙3発明では,「前記窒化ガリウム系化合物半導体を除去してn型層を裏面に露出させてn電極を付け」る点(相違点ii)ここでいう「表面」及び「裏面」とは,それぞれ「発光ダイオードにおいて発光面となる側の面」及び「他の部材等に実装される側の面」を意味する。iii 本件発明では,「該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続させてなる金線」を有するのに対し,乙3発明では,「該n電極とリード19を直接接続し 側の面」を意味する。iii 本件発明では,「該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続させてなる金線」を有するのに対し,乙3発明では,「該n電極とリード19を直接接続した」点(相違点iii)iv 本件発明では,発光素子を包囲する樹脂を有し,蛍光染料及び蛍光顔料が樹脂中に含有されているのに対し,乙3発明には,発光素子を包囲する樹脂がなく,蛍光体の位置が特定されていない点(相違点iv)(3) 相違点i(発光素子の接合型に関する相違点)について本件最初の原出願がされた1991年当時において,名古屋大学の天野等の発表した低エネルギー電子線照射によるp型化しか世の中には知られていなかったところ,低エネルギー電子線照射によるp型化は,スポット径が数10μmの電子ビームをウエーハ全面にスキャンしながら照射する必要があるため,ウエーハを面内方向と深さ方向を均一にp型化することが難しく,また発光出力も低いという問題があった。また,処理時間が非常に長く,工業的な量産に向いた技術ではなかった。このため,GaNのp型化は可能で はあるものの,それを使ってpn接合型の発光ダイオードを量産することは容易ではなかった。乙15,27,28は,いずれも,1991年当時,GaNのpn接合型が「周知慣用技術」であることを示すものではない。 乙3発明において,その技術的特徴ともいうべきMIS型発光素子を全く別の発光原理により発光するpn接合型のGaN系化合物半導体発光素子に置き換えることは,乙3発明の技術的特徴それ自体を没却する大幅な変更を伴うから,当業者であっても,なんの動機付けもなくこのような変更を行うはずがない。しかるところ,1991年当時において,pn接合型のGaN系化合物半導体発光ダイオードが試作レベルで実現されて 変更を伴うから,当業者であっても,なんの動機付けもなくこのような変更を行うはずがない。しかるところ,1991年当時において,pn接合型のGaN系化合物半導体発光ダイオードが試作レベルで実現されていたにすぎない状況を考慮すれば,乙3発明の技術的特徴それ自体を変えてまで,試作レベルでしかないpn接合型を適用する積極的な動機があったといえないことは明らかである。 (4) 相違点ii(n型層の露出に関する相違点)について乙3には,「窒化ガリウム系化合物半導体層」であるi型層を一部除去してインジウム接触(IndiumContact)を形成してもよい旨の記載はあるが(乙3,甲36),その教示に従って「窒化ガリウム系化合物半導体」であるi型層(=i-GaN:Mg)を除去してn型層(n-GaN)を露出させたとしても,発光素子の「裏面」(=実装面)にn型層が露出するだけで,「表面」(=発光面)に露出することはない。 このような素子の実装形態が乙3発明において採用されているのは,乙3発明がMIS型発光ダイオードだからである。MIS型では,i型層の電極から離れて横方向に電流が流れないため,i型層に形成した電極の直下でのみ発光が起きる。したがって,電極側から発光を取りだそうとしても全て遮られてしまうため,乙3の図3のように,基板側を素子の表面(=発光面)にしてパッケージに実装しなければならない。一方,本件発明における「前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させて n電極を付け」との要件は,電極側を発光素子の表面(=発光面)にして実装することを意味している。したがって,乙3において「前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn電極を付け」との構成を採用すること(すなわち,電極側を発光 面)にして実装することを意味している。したがって,乙3において「前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn電極を付け」との構成を採用すること(すなわち,電極側を発光素子の表面にして実装すること)には阻害要因がある。 (5) 相違点iii(電気的接続の取り方に関する相違点)についてア本件発明において,「第1のメタル及び第2のメタル」は明細書から明らかなとおり,本件明細書の図2のメタルステム2とメタルポスト3を指している(なお,本件明細書の段落【0009】の「メタルステム2」は「メタルポスト3」の,「メタルポスト3」は「メタルポスト2」の,それぞれ明白な誤記である。)。そして,本件明細書の図2と乙3の第3図を対比すれば,本件のメタルステム(=第1のメタル及び第2のメタルのいずれか一方)に対応するのは,リード21と金属ホルダ18の一部であり,メタルポスト3(=第1のメタル及び第2のメタルの他方)に対応するのはリード19である。また,リード21と金属ホルダ,およびリード19はいずれも,第3図において外部に延出し,外部の電源と接続されて,MIS型の発光素子に外部から電流を供給することを可能にする部材であるから,これらが第3図の発光ダイオードの「電極」として機能し得ることはいうまでもない。 本件発明の「n電極」はn型層に直接付けられた電極を指すところ,それに対応するのは,乙3のn-GaN層に接続された「インジウム接触(INDIUMCONTACT)」である。乙3において,n電極に相当する「インジウム接触(INDIUMCONTACT)」と第1又は第2のメタルに相当する「リード19」とは直接接続されているので,本件発明の「該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続されてなる金線」は DIUMCONTACT)」と第1又は第2のメタルに相当する「リード19」とは直接接続されているので,本件発明の「該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続されてなる金線」は乙3にはない。 イこれは乙3発明がMIS型であるからである。MIS型では,i型層を横方向に電流が流れないため,n電極とi層が接触しても電気的なショートが起きない。したがって,n電極である「インジウム接触」の位置や大きさを厳密に制御する必要がなく,「インジウム接触」をハンダ付のような大きさに形成して太い導線19を直接固定することができる。 本件発明のように金線を使ってn電極とメタルを接続するのは,電気的ショート防止のために,n電極とそこに接続する導電部材の大きさと位置を極めて正確に制御する必要があるからである。しかし,乙3のようなMIS型では,電気的ショートがそもそも問題とならないため,わざわざ高価な「金線」を使用して「該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続」する積極的な動機がない。 (6) 相違点iv(蛍光体の配設態様に関する相違点)についてア乙3には,そもそも発光素子を包囲する樹脂がない。 乙3発明では,発光素子を樹脂によって包囲する代わりに,金属ホルダ18内に収納しているから,乙3発明の発光ダイオードに蛍光体を配置するとすれば,例えば,金属ホルダ18の上に透明板を設置して,その透明板に蛍光体層を形成するような構成が自然である。 イ乙3において,蛍光体を金属ホルダ18の中に配置することも可能ではあるが,蛍光体が発光素子の近くに存在すると,発光素子からの光や熱による蛍光体の劣化は早く進む。特に,本件発明や乙3発明におけるGaN系半導体は短波長の紫色光を発光するため,赤外光や黄色光や赤色光 あるが,蛍光体が発光素子の近くに存在すると,発光素子からの光や熱による蛍光体の劣化は早く進む。特に,本件発明や乙3発明におけるGaN系半導体は短波長の紫色光を発光するため,赤外光や黄色光や赤色光に比べて光のエネルギーが高い。このため,乙3発明では,蛍光体を発光素子の至近に配置すると蛍光体の劣化が早く進むであろうことは当業者に自明であり,乙3発明では蛍光体を発光素子から離す動機があったと言える。 ウさらに言えば,乙3発明の目的は,あくまで紫色発光が可能なMIS型発光ダイオードを実現することにあり,その紫色発光ダイオードを蛍光体 の励起源として使うことは記載されていても,発光ダイオードの内部に蛍光体を導入して発光ダイオード自身の発光色を変えるという思想は示されていない。したがって,乙3発明には,そもそも,蛍光体を備えた発光ダイオードが開示されていない,とさえいえる。 1991年当時に存在した蛍光染料または蛍光顔料を用いる技術としては,ブラウン管および蛍光灯のように,励起源と蛍光染料または蛍光顔料とが必ずしも近接していないものが通常であったのであり,発光素子,特にエネルギーが大きい短波長の光を発光する発光素子からの光を,蛍光染料または蛍光顔料によって波長変換するにあたり,発光素子を包囲する樹脂中に蛍光染料等を含有させる構成が1991年当時において周知・慣用されていたなどとはいえない。まして,蛍光染料または蛍光顔料を発光素子の周囲に配置することにより,青色光の金線による吸収を減らし,もって発光素子の発光効率を高くするなどという思想が存在していたはずがない。 したがって,乙3の発光ダイオードにおいて発光素子を樹脂で包囲する動機があったとしても,樹脂中に,短波長の光により励起されて長波長の可視光を発する蛍光染料または蛍光顔 在していたはずがない。 したがって,乙3の発光ダイオードにおいて発光素子を樹脂で包囲する動機があったとしても,樹脂中に,短波長の光により励起されて長波長の可視光を発する蛍光染料または蛍光顔料を樹脂中に含有させることまでもが,当業者にとって当然の選択であるとはいえず,蛍光体の位置が特定されていない乙3発明において,発光素子を樹脂で包囲し,さらに樹脂に蛍光染料または蛍光顔料を含有させるという構成を想到することが容易であったとはいえない。 (7) 相違点iないしivは互いに有機的に関連して,乙3には記載も示唆もない技術的効果を奏すること相違点iないしiv,いずれも乙3発明から容易に導かれると言えないものであるが,さらに言えば,本件発明では,相違点iないしivが互いに有機的に関連して,発光素子の安定した固定が可能になると共に,pn接合型の発 光素子からの青色光の金線による吸収を減らし,発光強度の低下を抑制する,という,乙3には記載も示唆もない技術的な効果が得られる。 5 争点5(甲11に基づく重複特許の有無)について(被告の主張)(1) 原告は,「色補正をする」と「視感度を良くする」を同義と捉えているようである。 そうであれば,本件発明は,以下の特許番号2900928号の特許(甲11の1。出願日:平成3年11月25日)の請求項1の発明(甲11の2による訂正後のもの。以下以下以下以下「甲11 11発明発明発明発明」というというというという。)と実質的に同一である。 甲11発明を分説すると,以下のとおりである。 A3 メタル上の発光素子(11)と,B3 この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(11)からの波長により励起されて,励起波長と異なる波長の蛍光を出 と,以下のとおりである。 A3 メタル上の発光素子(11)と,B3 この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(11)からの波長により励起されて,励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍光染料又は蛍光顔料が添加された発光ダイオードにおいて,C3 前記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は,発光素子からの可視光により励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くすると共に,D3 前記発光素子はサファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およびp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え,E3 この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は,メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に,一対の電極を金線によりワイヤボンドして接続しており,一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であることF3 を特徴とする発光ダイオード。 (2) 本件発明の構成要件Aは,甲11発明の構成要件D3と同一であり,構 成要件Bは,構成要件E3の「一対の電極」と同一であり,構成要件Cの「樹脂」は,構成要件B3の「樹脂モールド」と同一であり,構成要件Dの「蛍光染料又は蛍光顔料」は,構成要件B3及びC3の「蛍光染料又は蛍光顔料」と同一であり(構成要件Dの「色補正をする」は,上記のように,構成要件C3の「視感度を良くする」と同義である。),構成要件Eの「n電極」は,構成要件E3の「オーミック電極」と同一であり,構成要件Eの「金線」は,構成要件E3の「金線」と同一であり,構成要件Fの「発光ダイオード」は,構成要件F3の「発光ダイオード」と同一である。 (3) よって,本件発明は,甲11発明と実質的に同一であるから,特許法39条1項(本件特許について分 同一であり,構成要件Fの「発光ダイオード」は,構成要件F3の「発光ダイオード」と同一である。 (3) よって,本件発明は,甲11発明と実質的に同一であるから,特許法39条1項(本件特許について分割要件違反により出願日が遡及しない場合)又は2項(本件特許について出願日が遡及する場合)の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は同法第123条1項2号に該当して特許無効審判により無効とされるべきものである。 (原告の主張)(1) 「色補正をする」とは,所望の発光色を基準として,これと現在の発光色との差を修正して所望の発光色にするという意味である一方,「視感度を良くする」における「視感度」とは,人間の視覚における,明るさに対する感覚のことであり,両者は技術的な概念が全く異なっており,その結果,本件発明と甲11発明とでは,技術的思想が異なり,権利範囲も全く異なっている。 例えば,甲11発明のように視感度を問題とする場合であれば,450nmの発光を700nmの発光に変換してしまえば「視感度」が悪化することになるから,甲11発明の権利範囲には含まれないが,この場合であっても発光色は「青色」から「赤色」に変化している(現在の発光色である「青色」が「赤色」という所望の色に修正されている)から,「色補正」には含まれることとなり,本件発明の権利範囲には含まれる。 したがって,本件発明における「色補正をする」と,甲11発明における「視感度を良くする」とは技術的意義が異なっており,本件発明と甲11発明とが実質的に同一とはいえない。 (2) さらに,本件発明と甲11発明を対比すると,「色補正をする」か「視感度を良くする」か以外にも,少なくとも以下の相違点がある。 ① 甲11発明では,「メタル上の発光素子」との限定がある( 。 (2) さらに,本件発明と甲11発明を対比すると,「色補正をする」か「視感度を良くする」か以外にも,少なくとも以下の相違点がある。 ① 甲11発明では,「メタル上の発光素子」との限定がある(構成要件A3)のに対して,本件発明では,発光素子とメタルの位置関係は限定されていない(構成要件A)点。 ② 甲11発明では,「サファイア基板」に限定されている(構成要件D3)のに対して,本件発明では「基板」とだけ特定されている(構成要件A)点。 ③ 甲11発明では,「メタルに対抗する面の反対側に位置する同一面側に,一対の電極を金線によりワイヤボンド接続しており,一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極である」(構成要件E3)とされ,p,n両方の電極に金線を接続することが要件であるのに対し,本件発明では,「前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn電極をつけ,該n電極と第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続させてなる金線」(構成要件E)とされ,n側電極に金線を接続することのみが要件である点。 6 争点6(損害(又は不当利得額))について(原告の主張)(1) 被告製品の売上は年間約1億円を下回らないので,平成19年8月10日(本件特許登録日)から平成23年10月6日(訴状提出日)までの売上げの合計は,4億円を下らない。 原告は,特許法102条3項に基づき,本件発明の実施に対し受けるべき 金銭の額に相当する額について,自己が受けた損害の額として賠償を請求することができるところ,本件特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額は,少なくとも被告製品の販売額の5%に相当する2000万円を下らない。したがって,原告は,被告に対し,特許権侵害の不法 賠償を請求することができるところ,本件特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額は,少なくとも被告製品の販売額の5%に相当する2000万円を下らない。したがって,原告は,被告に対し,特許権侵害の不法行為に基づく同額の損害賠償請求権を有する。 (2) また,原告は,被告による特許権侵害行為により,本件特許発明の実施により通常受けるべき実施料を受けられなかった損失を被っている反面,被告は通常支払うべき実施料の支払いを免れたという利得を得ており,この利得・損失の額は,上記の損害額と同額である。したがって,原告は,被告に対し,同額の不当利得返還請求権を有する。 (3) よって,原告は,被告に対し,損害賠償請求又は不当利得返還請求として,2000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年10月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(構成要件Aの充足性)について(1) 被告及び補助参加人は,構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体」は,「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」に限定すべきである,あるいは,「発光ピークが430nm付近及び370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体」に限定すべきであると主張する。 (2) しかし,本件発明の「特許請求の範囲」には,組成に特段の限定のない「窒化ガリウム系化合物半導体」とのみ記載され,その意義は「ガリウム(Ga)の窒素(N)化合物からなる半導体」を意味するものとして明確である(発光波長についても,構成要件Dで「青色の可視光」を発光するもの とされているが,それ以上に発光ピークを限定する文言はない。)。 (3) 構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子 発光波長についても,構成要件Dで「青色の可視光」を発光するもの とされているが,それ以上に発光ピークを限定する文言はない。)。 (3) 構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子」の解釈に関して本件明細書の記載を検討すると,本件明細書には,以下のとおりの記載がある(下線部は強調のため裁判所で付した。以下同じ)。 ア 「現在,LEDとして実用化されているのは,赤外,赤,黄色,緑色発光のLEDであり,青色または紫外のLEDは未だ実用化されていない。 青色,紫外発光の発光素子はII-VI族のZnSe,IV-IV族のSiC,III-V族のGaN等の半導体材料を用いて研究が進められ,最近,その中でも一般式がGaxAl1-xN(但しXは0≦X≦1である。)で表される窒化ガリウム系化合物半導体が,常温で,比較的優れた発光を示すことが発表され注目されている。また,窒化ガリウム系化合物半導体を用いて,初めてpn接合を実現したLEDが発表されている(応用物理,60巻,2号,p163~p166,1991)。それによるとpn接合の窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDの発光波長は,主として430nm付近にあり,さらに370nm付近の紫外域にも発光ピークを有している。 その波長は上記半導体材料の中で最も短い波長である。しかし,そのLEDは発光波長が示すように紫色に近い発光色を有しているため視感度が悪いという欠点がある。」(段落【0005】)イ 「本発明はこのような事情を鑑みなされたもので,その目的とするところは,発光ピークが430nm付近,および370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし,またその輝度を向上させることにある。」(段落【0006】)ウ 「本発明は……窒化ガリウム系化合 370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし,またその輝度を向上させることにある。」(段落【0006】)ウ 「本発明は……窒化ガリウム系化合物半導体である発光素子と……を有することを特徴とする発光ダイオードである。」(段落【0007】)。 エ 「前記したように窒化ガリウム系化合物半導体はLEDに使用される半導体材料中で最も短波長側にその発光ピークを有するものであり,しかも 紫外域にも発光ピークを有している。そのためそれを発光素子の材料として使用した場合,その発光素子を包囲する樹脂モールドに蛍光染料,蛍光顔料を添加することにより,最も好適にそれら蛍光物質を励起することができる。」(段落【0008】)オ 「図2は本発明のLEDの構造を示す一実施例である。11はサファイア基板の上にGaAlNがn型およびp型に積層されてなる青色発光素子……である。」(段落【0009】)(4) 本件特許に分割要件違反がないことは後記のとおりであるが,適法に分割がなされた以上,分割後の明細書の用語の意味は当業者の理解する普通の意味に従って理解すれば十分であり,分割前の原出願の明細書の記載を参酌して理解しなければならないものではない。 本件明細書の記載を当業者の理解する普通の意味に従って読めば,本件明細書の段落【0005】や【0006】に記載された「一般式がGaxAl1-xN(但しXは0≦X≦1である。)で表される窒化ガリウム系化合物半導体」や「発光ピークが430nm付近および370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体」は,単なる例示あるいは発明の動機付けとなった素材を示すものにすぎず,本件発明自体は組成や発光ピークの限定のないものとして出願されていることを明確に読み取ることができるとい ガリウム系化合物半導体」は,単なる例示あるいは発明の動機付けとなった素材を示すものにすぎず,本件発明自体は組成や発光ピークの限定のないものとして出願されていることを明確に読み取ることができるというべきである。 (5) 本件発明の課題や作用効果との関係において,「窒化ガリウム系化合物半導体」との要件の有する技術的意義について考えてみても,「窒化ガリウム系化合物半導体」は,短波長の光(紫色に近い青色)を発光するため視感度が悪く,また着色剤を大量に添加すると輝度が低下する,という課題を抱えており(段落【0004】【0005】),その課題を解決するために,本件発明は,「窒化ガリウム系化合物半導体」からなる発光素子からの光を蛍光染料又は蛍光顔料により長波長に色補正することによって,輝度を低下 させることなく視感度を良くする,という効果を奏することに意義があるのであって(段落【0007】【0008】),具体的な組成がどのようなものであり,発光波長が具体的にどのような範囲にあるかは特段の意義を有さないというべきである。 (6) 本件最初の原出願から本件特許出願に至る出願や分割の経過,関連する無効審判における原告の主張を精査しても,原告が本件発明における「窒化ガリウム系化合物半導体」の意義を限定した形跡は見当たらず,出願経過等から「窒化ガリウム系化合物半導体」の意義を限定解釈すべき根拠もない。 (7) 以上によれば,本件発明の構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体」の意義は,特に組成や発光ピークに限定のない「ガリウム(Ga)の窒素(N)化合物からなる半導体」一般と解するのが相当である。 (8) 被告製品の発光素子は,いずれもSiC基板上にn型及びp型に積層されてなる,発光層がInGaN(窒化インジウムガリウム)である青色LEDチップで らなる半導体」一般と解するのが相当である。 (8) 被告製品の発光素子は,いずれもSiC基板上にn型及びp型に積層されてなる,発光層がInGaN(窒化インジウムガリウム)である青色LEDチップであり,「窒化ガリウム系化合物半導体」からなる発光素子であるから,構成要件Aを充足する。 2 争点2(構成要件D充足性)について(1) 本件発明に係る【特許請求の範囲】【請求項1】の記載によると,構成要件Dにおける蛍光染料又は蛍光顔料は「発光素子からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発して前記発光素子の色補正をする」と記載され,「色補正」が,「発光素子からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発して」なす行為であることは記載されているが,それ以上に「色補正」を定義した記載はない。 (2) そこで,構成要件Dの「色補正」の解釈に関して本件明細書の記載を検討すると,本件明細書には,以下のとおりの記載がある。 ア 「通常,樹脂モールド4は,発光素子の発光を空気中に効率よく放出する目的で,屈折率が高く,かつ透明度の高い樹脂が選択されるが,他に, その発光素子の発光色を変換する目的で,あるいは色を補正する目的で,その樹脂モールド4の中に着色剤として無機顔料,または有機顔料が混入される場合がある。例えば,GaPの半導体材料を有する緑色発光素子の樹脂モールド中に,赤色顔料を添加すれば発光色は白色とすることができる。」(段落【0003】)イ 「しかしながら,従来,樹脂モールドに着色剤を添加して波長を変換するという技術はほとんど実用化されておらず,着色剤により色補正する技術がわずかに使われているのみである。なぜなら,樹脂モールドに,波長を変換できるほどの非発光物質である着色剤を添加すると,LEDそのもの う技術はほとんど実用化されておらず,着色剤により色補正する技術がわずかに使われているのみである。なぜなら,樹脂モールドに,波長を変換できるほどの非発光物質である着色剤を添加すると,LEDそのもの自体の輝度が大きく低下してしまうからである。」(段落【0004】)ウ 「本発明は……青色を発光する発光素子からの第1の可視光により励起されて,励起波長よりも長波長の第2の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くする蛍光顔料を有することを特徴とする発光ダイオードである。またn型及びp型に積層された窒化ガリウム系化合物半導体である発光素子からの光を変換する蛍光染料又は蛍光顔料が添加された波長変換発光ダイオード用樹脂において,前記波長変換発光ダイオード用樹脂は,前記発光素子が配設されている凹状部分内に配置しており,前記波長変換発光ダイオード用樹脂中の蛍光染料又は蛍光顔料は,発光素子からの青色の可視光により励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くして成ることを特徴とする蛍光染料又は蛍光顔料が添加された波長変換発光ダイオード用樹脂である。」(段落【0007】)エ 「蛍光染料,蛍光顔料は,一般に短波長の光によって励起され,励起波長よりも長波長光を発光する。逆に長波長の光によって励起されて短波長の光を発光する蛍光顔料もあるが,それはエネルギー効率が非常に悪く微 弱にしか発光しない。前記したように窒化ガリウム系化合物半導体はLEDに使用される半導体材料中で最も短波長側にその発光ピークを有するものであり,しかも紫外域にも発光ピークを有している。そのためそれを発光素子の材料として使用した場合,その発光素子を包囲する樹脂モールドに蛍光染料,蛍光顔料を添加することにより,最も好適にそれら蛍光物質を励起することが 域にも発光ピークを有している。そのためそれを発光素子の材料として使用した場合,その発光素子を包囲する樹脂モールドに蛍光染料,蛍光顔料を添加することにより,最も好適にそれら蛍光物質を励起することができる。したがって,青色LEDの色補正はいうにおよばず,蛍光染料,蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができる。さらに,短波長の光を長波長に変え,エネルギー効率がよい為,添加する蛍光染料,蛍光顔料が微量で済み,輝度の低下の点からも非常に好都合である。」(段落【0008】)オ 「樹脂モールド4には420~440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料5が添加されている。」(段落【0009】)(3) 本件明細書において本件発明の内容を説明した段落【0007】では,構成要件Dの「色補正をする」に対応するものとして,「青色を発光する発光素子からの第1の可視光により励起されて,励起波長よりも長波長の第2の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くする」,「発光素子からの光を変換する」,「発光素子からの青色の可視光により励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くして成る」などの語が使用されており,「色補正」とは,これらの説明と類似の概念であると理解することができる。 本件明細書にはそれ以上に「色補正」を定義した記載はなく,段落【0004】【0008】の記載を含め,「色補正」を「発光色を変えない程度の波長変換」であるとか「同じ色(青色)の範囲内での波長変換」であるとか読み取れるような記載は存在しない。 (4) 広辞苑(第5版)によれば,「補正」とは,「おぎないただすこと」で あり(甲17の2),現在の状態を所望の状態に修正するといった意味を有する るとか読み取れるような記載は存在しない。 (4) 広辞苑(第5版)によれば,「補正」とは,「おぎないただすこと」で あり(甲17の2),現在の状態を所望の状態に修正するといった意味を有するのであるから,構成要件Dにいう「色補正をする」とは,「所望の発光色を基準に,これと現在の発光色との差を修正して所望の発光色にする」という意味と解するのが相当である。 上記解釈を覆して,構成要件Dにおける「色補正」を「発光色を変えない程度の波長変換」であるとか「同じ色(青色)の範囲内での波長変換」であるとか限定すべき根拠はない。 (5) 本件発明の課題や作用効果との関係において,「色補正」との要件の有する技術的意義について考えてみても,「輝度を低下させることなく視感度を良くする」という効果は「発光色を変えない程度の波長変換」や「同じ色(青色)の範囲内での波長変換」に限られるものではないから,「色補正」の意義を限定すべき根拠はない。 (6) 本件最初の原出願から本件特許出願に至る出願や分割の経過,関連する無効審判における原告の主張を精査しても,原告が本件発明における「色補正」の意義を「発光色を変えない程度の波長変換」であるとか「同じ色(青色)の範囲内での波長変換」であるとか限定した形跡は見当たらず,むしろ,「色補正」の要件を追加した甲20の3・4,甲35の補正において,原告は,「とくに,蛍光染料又は蛍光顔料は,発光素子の青色可視光の発光を変更するように,すなわち色補正する程度に樹脂中に含有されます。」(甲20の4・4頁),「蛍光染料又は蛍光顔料は,発光ダイオードの発光色を,青色可視光から長波長の可視光に波長変換することで,発光素子とは異なる発光色にできます。」(同5頁),「青色可視光である450nmにおける金線の分光反射率は,わずかに3 ,発光ダイオードの発光色を,青色可視光から長波長の可視光に波長変換することで,発光素子とは異なる発光色にできます。」(同5頁),「青色可視光である450nmにおける金線の分光反射率は,わずかに38.7%ですが,青色可視光よりも長波長の可視光である550nmにおける分光反射率は81.7%と飛躍的に向上します。このことは,450nmから550nmの長波長になると,金線の光の吸収率が,約60%以上から,約20%以下と半分以下に極減さ れることを意味します。このため,窒化ガリウム系化合物半導体の発光素子から放射されます青色可視光が,蛍光染料又は蛍光顔料を励起して長波長に変換されますと,この光は,金線で2倍以上も効率よく反射されて,金線に吸収されることなく,外部に放射されることになります。」(同5頁)など,「色補正」を,青色光である450nmから,緑色光である(甲6の2・294頁,甲40・8頁)550nmへの波長変換を含むものとして使用していた。 明細書に表れないこの記載を構成要件Dの解釈に用いるのは相当でないが,少なくとも,「色補正」につき,「発光色を変えない程度の波長変換」や「同じ色(青色)の範囲内での波長変換」を意味するといった技術常識があったとはいえないことは明らかであるし,出願経過等から「色補正」の意義を限定解釈すべき根拠もない。 (7) イ号物件における緑色蛍光体及び赤色蛍光体は,それぞれ青色LEDチップからの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の光(緑色蛍光体にあっては緑色の可視光,赤色蛍光体にあっては赤色の可視光)を発して,青色LEDチップの発光色を所望の発光色である電球色に変化させる(色補正をする)ものであるから,イ号物件は構成要件Dを充足する。 ロ号物件における緑色蛍光体及び赤色蛍光体は,そ )を発して,青色LEDチップの発光色を所望の発光色である電球色に変化させる(色補正をする)ものであるから,イ号物件は構成要件Dを充足する。 ロ号物件における緑色蛍光体及び赤色蛍光体は,それぞれ青色LEDチップからの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の光(緑色蛍光体にあっては緑色の可視光,赤色蛍光体にあっては赤色の可視光)を発して,青色LEDチップの発光色を所望の発光色である昼白色に変化させる(色補正をする)ものであるから,ロ号物件は構成要件Dを充足する。 (8) 被告製品がそれぞれ構成要件B,C,E,Fを充足することは前提となる事実(8)のとおりである。 したがって,被告製品はいずれも本件発明の技術的範囲に属する。 3 争点3(分割要件違反に基づく新規性・進歩性欠如の有無)について (1) 前提となる事実(4)のとおり,本件特許出願は,本件最初の原出願から第1世代から第7世代までの7回の分割を経た後の分割出願であるところ,被告は,本件最初の原出願に対する本件第1分割出願(乙5)には当初明細書にない新規事項を追加した分割要件違反があるから,本件特許の出願日が本件最初の原出願の出願日まで遡及することはない,と主張する。 (2) そこで,本件第1分割出願に係る甲11発明が,当初明細書に開示されていたといえるか検討する(甲11発明は,甲11の2の訂正により当初の乙5から訂正されたものであるが,分割要件違反の判断に当たっては,訂正後の甲11発明が当初明細書に開示されているかを検討すれば足りる。)。 甲11発明を分説すると,以下のとおりである。 A3 メタル上の発光素子(11)と,B3 この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(11)からの波長により励起されて,励起波長と異なる波長の蛍 説すると,以下のとおりである。 A3 メタル上の発光素子(11)と,B3 この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(11)からの波長により励起されて,励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍光染料又は蛍光顔料が添加された発光ダイオードにおいて,C3 前記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は,発光素子からの可視光により励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くすると共に,D3 前記発光素子はサファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およびp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え,E3 この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は,メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に,一対の電極を金線によりワイヤボンドして接続しており,一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であることF3 を特徴とする発光ダイオード。 (3) 甲11発明の構成要件D3によれば,甲11発明の発光素子はサファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およびp型に積層されてなる窒化ガ リウム系化合物半導体を備えている。 当初明細書(乙1)の段落【0008】には,「サファイア基板の上にGaAlN がn型およびp型に積層されてなる青色発光素子」が開示されている。 しかし,段落【0008】は本件最初の原出願に係る乙1発明の実施例として記載されているところ,乙1発明は,本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体に係る発明であり(乙1の【特許請求の範囲】【請求項1】),段落【0008】も「本発明にいうLEDの構造を示す一実施例である」以上,そこでいう「GaAlN」も,本件組成を前提としたものと読むのが相当である。 そこで,本件 請求の範囲】【請求項1】),段落【0008】も「本発明にいうLEDの構造を示す一実施例である」以上,そこでいう「GaAlN」も,本件組成を前提としたものと読むのが相当である。 そこで,本件組成に限定されない「窒化ガリウム系化合物半導体」が当初明細書に開示されているか,さらに検討する。 (4) 当初明細書(乙1)には,次の記載がある。 「従来,樹脂モールドに着色剤を添加して波長を変換するという技術はほとんど実用化されておらず,着色剤により色補正する技術がわずかに使われているのみである。なぜなら,樹脂モールドに,波長を変換できるほどの非発光物質である着色剤を添加すると,LEDそのもの自体の輝度が大きく低下してしまうからである。」(【0004】【発明が解決しようとする手段】)「蛍光染料,蛍光顔料は,一般に短波長の光によって励起され,励起波長よりも長波長光を発光する。逆に長波長の光によって励起されて短波長の光を発光する蛍光顔料もあるが,それはエネルギー効率が非常に悪く微弱にしか発光しない。前記したように窒化ガリウム系化合物半導体はLEDに使用される半導体材料中で最も短波長側にその発光ピークを有するものであり,しかも紫外域にも発光ピークを有している。そのためそれを発光素子の材料として使用した場合,その発光素子を包囲する樹脂モールドに蛍光染料,蛍光 顔料を添加することにより,最も好適にそれら蛍光物質を励起することができる。したがって青色LEDの色補正はいうにおよばず,蛍光染料,蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができる。さらに短波長の光を長波長に変え,エネルギー効率がよい為,添加する蛍光染料,蛍光顔料が微量で済み,輝度の低下の点からも非常に好都合である。」(【0009】【発明の効果】)(5) さらに,当 る。さらに短波長の光を長波長に変え,エネルギー効率がよい為,添加する蛍光染料,蛍光顔料が微量で済み,輝度の低下の点からも非常に好都合である。」(【0009】【発明の効果】)(5) さらに,当初明細書の段落【0005】には,本件組成を備えた窒化ガリウム系化合物半導体が注目されていることを述べた後,「また,窒化ガリウム系化合物半導体を用いて,初めてpn接合を実現したLEDが発表されている(応用物理,60巻,2号,p163~166,1991)。……その波長は上記半導体材料の中で最も短い波長である。しかし,そのLEDは発光波長が示すように紫色に近い発光色を有しているため視感度が悪いという欠点がある。」との記載がある。 ここでいう「窒化ガリウム系化合物半導体」は,本件組成に限定されないものであることは文言上明らかである(補助参加人は,X=1の場合の具体例を意味する,と主張するが,ここで言及されている応用物理の論文(甲14,乙15)は本件組成と無関係に発表されたものであって,本件組成の具体例と見ることはできない。)。 (6) 以上の当初明細書の【0004】【0005】【0009】の記載に照らせば,乙1発明の課題及び解決手段は,窒化ガリウム系化合物半導体である発光素子を包囲する樹脂モールド中に蛍光染料又は蛍光顔料を添加することにより,蛍光染料又は蛍光顔料から発光素子からの光の波長よりも長波長の可視光を出して,発光素子からの光の波長を変換し,LEDの視感度を良くする点にあると合理的に理解できる。 そうすると,たとえ,当初明細書の【特許請求の範囲】には窒化ガリウム系化合物半導体を本件組成のものに限定した記載がされているとしても,当 業者は,乙1発明自体の課題及び解決手段と共通する窒化ガリウム系化合物半導体である発光素子全般の課題 範囲】には窒化ガリウム系化合物半導体を本件組成のものに限定した記載がされているとしても,当 業者は,乙1発明自体の課題及び解決手段と共通する窒化ガリウム系化合物半導体である発光素子全般の課題及び解決手段として,窒化ガリウム系化合物半導体である発光素子を包囲する樹脂モールド中に蛍光染料又は蛍光顔料を添加することにより,蛍光染料又は蛍光顔料から発光素子からの光の波長よりも長波長の可視光を出して,発光素子からの光の波長を変換し,LEDの視感度を良くし,またその輝度を向上させることを理解するものと解される。 このように,当業者は,当初明細書の記載に照らして,「窒化ガリウム系化合物半導体」全般について,乙1発明自体の課題及び解決手段と共通の課題及び解決手段を理解するものと解されるから,当初明細書には,(本件組成や発光ピークの限定のない)窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子を樹脂モールドで包囲し,前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料又は蛍光顔料を添加する,という発明についても開示があると認めるのが相当である。 (7) そうすると,甲11発明の構成要件D3は当初明細書に開示されており,他の構成要件も当初明細書にすべて開示されているから,本件第1分割出願に分割要件違反があるとは認められない。 したがって,分割要件違反があることを前提に本件発明の新規性欠如をいう被告の主張はその前提を欠き,理由がない。 4 争点4(乙3に基づく進歩性欠如の有無)について(1) 乙3(甲36)は,1974年6月25日に発行された,「窒化ガリウム金属半導体接合発光ダイオード」に関する米国特許(第3819974号)の特許公報である。 ア乙3には次の記載がある。 (ア)「特許請求の範囲1.窒 日に発行された,「窒化ガリウム金属半導体接合発光ダイオード」に関する米国特許(第3819974号)の特許公報である。 ア乙3には次の記載がある。 (ア)「特許請求の範囲1.窒化ガリウムからなる第1の領域と,その一表面に形成されそれと 整流接合を形成するマグネシウムがドープされた窒化ガリウムからなる第2の領域と,前記第2の領域と整流接合を形成する金属と,前記第1の領域とオーミック接触を形成することにより前記金属への電圧印加を可能にする手段であって,前記接合にわたって電圧が印加されるようにオーミック接触を形成する手段とを含む発光ダイオード。」(イ)「発明の背景本発明は一般に発光ダイオードに関し,特に紫色発光ダイオードに関する。ドープされていない窒化ガリウムでは高濃度のn型(n>1018cm-3)しか得られないので,伝導性p型はこれまでのところ作られていない。しかし,ドナーの補償および絶縁性窒化ガリウム結晶の作製には,亜鉛などの深いアクセプターが用いられている。このドーパントは,窒化ガリウム結晶の成長時に導入することができる。ドーパントを非ドープ材料の最初の蒸着後に導入すると,i-n接合が形成される。先行技術においては,i-n接合を形成する亜鉛がドープされた絶縁領域を備えた,赤色,黄色,緑色および青色の発光ダイオードが得られている。」(ウ)「本発明の目的及び概要本発明の一般的な目的は,紫色発光ダイオードを提供することである。本発明の別の目的は,窒化ガリウム層と接合を形成する真性のマグネシウムがドープされた窒化ガリウム層との整流金属接触により形成される紫色発光ダイオードを提供することである。 本発明の上記及び他の目的は,窒化ガリウムからなる第1の層と,それと接合を形成しマグネ ムがドープされた窒化ガリウム層との整流金属接触により形成される紫色発光ダイオードを提供することである。 本発明の上記及び他の目的は,窒化ガリウムからなる第1の層と,それと接合を形成しマグネシウムがドープされた窒化ガリウムからなる第2の層と,前記第2の層と整流接合を形成する金属層と,前記接合にわたって電圧を印加して光を発生/発光する手段とを含む発光ダイオードにより達成される。」 (エ)「好適な実施形態の説明図1は,接合型窒化ガリウム発光ダイオードの形成工程を示す。基板11としては,単結晶の火炎溶融法で成長したサファイアのウェハまたはスライスが用いられ得る。ウェハ11の一表面には,高温(およそ900℃~950℃)で気体の一塩化ガリウムをアンモニアの成長域に輸送し窒素を導入することにより高濃度n型窒化ガリウム層12が形成され,これにより,GaN層12がエピタキシャル成長する。……層12の成長後,その層を成長させながら金属マグネシウムを導入することにより大気雰囲気をドープして,マグネシウムがドープされた窒化ガリウム層13を形成する。ドーパント原子は,通常n型成長を補償し,実質的に真性のGaN:Mg層13を形成する。層13は,層12と共にi-n接合14を形成する。……同様の技術を用いてn層12の縁部に金属オーミック接触16を形成する。この構造の変形例として,サファイア基板または真性層の一部を除去することにより,n型層16の表面の一部に接触を形成してもよい。 装置は,例えば,図3に示すようなカップ形状の金属ホルダーからなるホルダー18に載置し得る。インジウム接触17の一表面とホルダーとでオーミック接続を形成する。リード19および21はインジウム接触16およびホルダー18に対して電気的接続を行うことにより,領 らなるホルダー18に載置し得る。インジウム接触17の一表面とホルダーとでオーミック接続を形成する。リード19および21はインジウム接触16およびホルダー18に対して電気的接続を行うことにより,領域13,接合14および15にわたって電圧が印加される。 上記のように構成された装置においては,順バイアスと逆バイアスの両方(つまり,正又は負のいずれかのi層バイアス)でエレクトロルミネセンス,すなわち発光が得られる。……順方向では,10ボルトで実質的な伝導が起こり,20ボルトで紫色光が明るい部屋でも簡単に見られる。逆バイアスでは,40~60ボルトの範囲で伝導が起こり,緑色を帯びた光が発光される。 ……このように,スペクトルの紫色領域の発光が可能な改善された発光ダイオードが提供されることがわかる。この装置は,紫色のスペクトル領域が適切である用途において紫色光の光源として用いることができる。この光を,有機および無機蛍光体を用いて良好な変換効率で低周波数(低エネルギー)に変換してもよい。このような変換は,美観を目的とした様々な異なる色を出すのに適しているだけでなく,人間の視感度の高いスペクトル領域の光を発光するのにも適している。異なる蛍光体を用いることにより,この同じ基本装置から全ての原色を出すことができる。」イ以上によれば,乙3には,以下の発明(乙3発明)が開示されている。 A2 基板上にn型及びi型が積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子と,B2 電極となる,リード19並びにリード21及び金属ホルダー18と,D2 前記発光素子からの紫色(本件発明の「青色」に相当することに争いがない。)の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発して前記発光素子の色補正をする蛍光体と,を有し, ダー18と,D2 前記発光素子からの紫色(本件発明の「青色」に相当することに争いがない。)の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発して前記発光素子の色補正をする蛍光体と,を有し,E2 前記窒化ガリウム系化合物半導体のn型層を表面に露出させてn電極を付け,該n電極とリード19を直接接続した,F2 発光ダイオード(2) 相違点の認定についてア本件発明の解釈及び乙3発明との対応関係本件発明と乙3発明の相違点を認定する前提として,原告と被告では,本件発明における「n型層を表面に露出させ」の「表面」の意義についての解釈の相違及び電気的接続の取り方についての本件発明と乙3発明の対応のさせ方についての相違があるので,以下,この点について検討する。 (ア) n型層の露出に関する「表面」の意義について a 本件発明は,「n型層を表面に露出させ」るものである(構成要件E)が,そこでいう「表面」の意義につき争いがある。原告は,本件発明における「表面」及び「裏面」は,発光素子の「表面」及び「裏面」,すなわち,発光ダイオードにおいて発光面となる側の面及び他の部材等に実装される側の面をそれぞれ意味するのであり,乙3発明においては,i型層を除去してn型層を露出させたとしても,「裏面」にn型層が露出するだけで,「表面」(発光面)に露出することはない,と主張する。 これに対し,被告は,本件明細書の段落【0009】で「裏面」が「基板」であると明示されているのであるから,「裏面」と反対側の面である「表面」は「基板と反対側の面」を意味するのであり,乙3発明においてもn型層は「表面」(基板と反対側の面)に露出する,と主張する。 b そこで本件発明の構成要件Eにいう「表面」の技術的意義について検討するに,本件明 対側の面」を意味するのであり,乙3発明においてもn型層は「表面」(基板と反対側の面)に露出する,と主張する。 b そこで本件発明の構成要件Eにいう「表面」の技術的意義について検討するに,本件明細書には,「表面」及び「裏面」を定義した箇所はない。 本件明細書の段落【0009】には,「発光素子11の裏面はサファイアの絶縁基板であり裏面から電極を取り出せないため,GaAlN層のn電極をメタルステム2と電気的に接続するため,GaAlN層をエッチングしてn型層の表面を露出させてオーミック電極を付け,金線によって電気的に接続する手法が取られている」との記載がある。 「発光素子11の裏面は……基板であり」との記載からすれば,この「裏面」を基板を基準に定義されるものと解するのは不合理であり,発光素子を基準に定義されるものと解するのが相当である。すなわち,段落【0009】でいう「裏面」とは,「発光ダイオードにお いて発光面となる側の反対側」の意義と解するのが相当である。 しかし,続く「n型層の表面」における「表面」は,「発光素子11の表面」ではなく「n型層の表面」と記載されているのであるから,発光素子を基準に定義されるものと解する必要はなく,また,基板を基準に定義すべき根拠もないから,「n型層の表面」は,専らn型層を基準に定義されるものと解するのが相当である(続く「p型層の表面でワイヤボンドされている。」にいう「p型層の表面」も同様である。)。n型層はエッチングしなければ外部に露出しないのであるから,「n型層の表面」とは,単に「n型層の外部(樹脂側)に露出する側」(「p型層の表面」は,「p型層の外部に露出する側」)と解するのが相当である。 c 上記を前提に本件明細書の【特許請求の範囲】【請求項1】をみると,「n型層を表面 層の外部(樹脂側)に露出する側」(「p型層の表面」は,「p型層の外部に露出する側」)と解するのが相当である。 c 上記を前提に本件明細書の【特許請求の範囲】【請求項1】をみると,「n型層を表面に露出させて」とあるのみで,「何の」表面か(「発光素子の」表面か,「n型層の」表面か)は明示されていない。 しかし,本件発明の内容は【発明の詳細な説明】として開示されているはずであるから,「n型層を表面に露出させて」というのは,段落【0009】でいう「n型層の表面を露出させて」と同義とみるのが相当である。 すなわち,構成要件Eでいう「n型層を表面に露出させて」とは,「n型層の表面(n型層の外部に露出する側)を外部に露出させて」という意義に解するのが相当である。 d 乙3の訳文3頁には,「サファイア基板または真性層の一部を除去することにより,n型層16の表面の一部に接触を形成してもよい。」(甲36の訳文5,6頁では,「サファイア基板又は真性層の一部を除去し,n型層16の表面の一部に電極を取り付けられるよう にする」)との記載があり,乙3発明には,「n型層の表面(n型層の外部に露出する側)を外部に露出する」構成が開示されている。 本件明細書の【図2】ではn型層は図の上方(発光面)に露出しているのに対し,乙3に開示された構成ではそうなるとは限らないが,上記のとおり,本件発明の構成要件Eはn型層を露出させる「表面」と発光面との関係について何ら規定するものではない。 (イ) 電気的接続の取り方についてa 原告は,本件発明の構成要件Eにいう「前記第1のメタル及び第2のメタル」は本件明細書の【図2】でいうメタルステム2とメタルポスト3を指しており,乙3でメタルステム2に対応するのは,リード21と金属ホルダ18の一部であり,メタ にいう「前記第1のメタル及び第2のメタル」は本件明細書の【図2】でいうメタルステム2とメタルポスト3を指しており,乙3でメタルステム2に対応するのは,リード21と金属ホルダ18の一部であり,メタルポスト3に対応するのは,乙3の第3図でいう「リード19」であると主張する。そして,n電極に相当する「インジウム接触」と「リード19」とは直接接続されているので,乙3発明には「前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続されてなる金線」が存在しない,と主張する。 b これに対し,被告は,乙3の第3図でいう「リード19」は本件発明の「金線」に対応するものであり,乙3発明には「リード19」「リード21」の接続先に「電極となる第1のメタル及び第2のメタル」が明記されていない,と主張する。 c そこで検討するに,被告は,乙3の第3図の「リード19」「リード21」の接続先には必ず電極が存在することを前提に,「リード19」「リード21」を電極間を結ぶ「金線」に対応するものとしていると解される。 しかし,「リード19」「リード21」をそのまま発光ダイオードの外部に延出し,外部の電源と接続する構成(甲40・35頁)もあり得ないとはいえない。 そうであれば,そのような構成を取った場合には,「リード19および21はインジウム接触16およびホルダー18に対して電気的接続を行うことにより,領域13,接合14および15にわたって電圧が印加される」(乙3・訳文3頁,甲36・訳文6頁)とされている「リード19」及び「リード21とホルダー18」は,いずれも導電性を有する金属と考えられ,電極として機能し得るものと考えられる。 そうすると,問題は,「リード19」「リード21」を「金線」に対応させて,「リード19及びリード21を金線とし,その ずれも導電性を有する金属と考えられ,電極として機能し得るものと考えられる。 そうすると,問題は,「リード19」「リード21」を「金線」に対応させて,「リード19及びリード21を金線とし,その先に電極となる2つのメタルを設ける構成」の容易想到性を判断するか,「リード19」「リード21及びホルダー18」を「電極となる第1のメタルおよび第2のメタル」に対応させて,「インジウム接触16とリード19の間に金線を設ける構成」の容易想到性を判断するか,という判断方法の違いに尽きる。 電極間を導線でつなぐこと(乙29),その導線を金線とすること(乙33ないし35)は,いずれも周知技術であり,組合せの容易想到性判断は上記いずれの判断方法で判断してもそれほど変わらないと思われるが,ここでは原告の主張に従い,本件発明の構成要件Eにいう「前記第1のメタル及び第2のメタルの一方」に対応するのは,乙3の第3図でいう「リード19」であるとして検討を進める。 (3) 以上を前提として乙3発明と本件発明を対比すると,乙3発明と本件発明は,A2’ 基板上にn型層が設けられてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子と,B2’ 電極となる2つの金属と,D2’ 前記発光素子からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発して前記発光素子の色補正をする蛍光体と, E2’ 前記窒化ガリウム系化合物半導体のn型層を表面に露出させて付けたn電極と,F2’ を有する発光ダイオードである点で一致し,以下の点で相違する。 ① 本件発明では,「基板上にn型及びp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子」(=pn接合型発光素子)を有するのに対し,乙3発明では,「基板上にn型及びi型に積層されてなる窒化ガリウム 明では,「基板上にn型及びp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子」(=pn接合型発光素子)を有するのに対し,乙3発明では,「基板上にn型及びi型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子」(=MIS接合型発光素子)を有する点(相違点1)② 本件発明ではn型層の露出方法がエッチングとされているのに対し,乙3発明ではその方法が特定されていない点(相違点2)③ 本件発明では,「該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続させてなる金線」を有するのに対し,乙3発明では,「該n電極とリード19を直接接続した」点(相違点3)④ 本件発明では,発光素子を包囲する樹脂を有し,蛍光染料及び蛍光顔料が樹脂中に含有されているのに対し,乙3発明には,発光素子を包囲する樹脂がなく,蛍光体の位置が特定されていない点(相違点4)(4) 相違点1(発光素子の接合型に関する相違点)の容易想到性についてア本件最初の原出願当時の公知文献について(ア) 乙15(甲14)は,平成3年2月5日に公刊された「GaNpn接合青色・紫外発光ダイオード」と題する論文であり,pn接合型GaN-LED(pn接合型の窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子を有する発光ダイオード)の作製方法が開示されている。 具体的には,次の記載がある。 「LEDの作製方法について示す。サファイヤ基板上にAlN緩衝層を堆積の後,n型GaNを約3μm育成していったん成長炉から取り出し,表 面の一部にSiO2マスクを堆積する。GaNはSiO2上に堆積せず,露出したGaN表面にのみ選択的に成長するため,n層の電極はプロセス終了後,マスクであるSiO2をはく離することにより,ウエハー上部から容易に取ることができる 積する。GaNはSiO2上に堆積せず,露出したGaN表面にのみ選択的に成長するため,n層の電極はプロセス終了後,マスクであるSiO2をはく離することにより,ウエハー上部から容易に取ることができる。次に,ウエハーを成長炉に戻し,GaN:Mgを約0.5μm育成したのち,表面から電子線照射処理する。」(165頁左欄下から6行~右欄3行)「作製したLEDの立ち上がり電圧は,だいたい3Vから3.5Vの間にあり,pn接合界面での拡散電位を考慮すれば,妥当な値である。pn接合構造ではn層およびp層の抵抗率を制御することにより,mis構造と比較して,低電圧動作するLEDを容易に作製できる。」(165頁右欄11~15行)(イ) 乙27は,平成2年7月10日に公刊された,シャープ株式会社が出願した発光ダイオードに関する特許(特願昭63-333698号)の公開特許公報(特開平2-177577号公報)であり,「n型窒化ガリウム(GaN)結晶を含む結晶と,p型炭化珪素(SiC)結晶とのヘテロ接合を有するpn接合型発光ダイオード」が開示され,また,「発光ダイオードの素子構造としてはpn接合型の発光ダイオードが適していること」が開示されている。 具体的には,次の記載がある。 「2.特許請求の範囲1.n型窒化ガリウム(GaN)結晶,n型窒化アルミニウム(AlN)結晶,及びn型アルミニウムガリウム(GaXAl1-XN:0<x<1)結晶からなる群から選択された結晶と,p型炭化珪素(SiC)結晶とのヘテロ接合を有するpn接合型発光ダイオード。」(1頁)「(発明が解決しようとする課題)発光ダイオードの素子構造としてはpn接合型の発光ダイオードが適し ている。その理由は,電子や正孔を発光領域へ高効率で注入できるからである。しかしな 「(発明が解決しようとする課題)発光ダイオードの素子構造としてはpn接合型の発光ダイオードが適し ている。その理由は,電子や正孔を発光領域へ高効率で注入できるからである。しかしながら,上記の各材料の中でSiC以外はp型結晶を得ることが困難であったり,得られても高抵抗であったり,又は極めて不安定であるため,これらのp型結晶を用いてpn接合型の発光ダイオードを作製することはできない。」(2頁左上欄8~15行)(ウ) 乙28は,平成3年9月5日に公刊された,松下電器産業株式会社が出願した「半導体発光素子およびその製造方法」に関する特許(特願平1-342779号)の公開特許公報(特開平3-203388号公報)であり,「GaxIn1-xN層(0≦X≦1)のpn接合構造とを備える半導体発光素子」が開示され,当該発光素子を発光ダイオードに用いることが示唆されている。 具体的には,次の記載がある。 「2.特許請求の範囲(1) 窒化処理した基板と,この基板上に形成したバッファ層と,このバッファ上に形成したGaXIn1-XN層(0≦X≦1)のpn接合構造とを備え,前記バッファ層がAlN層およびAlN/GaN歪超格子層およびAlZGa1-Z層(0≦z≦1)のうち少なくとも一層である半導体発光素子。」(1頁)「[発明の効果]この発明の半導体発光素子およびその製造方法によれば,窒化処理された基板上に,バッファ層として,AlN層およびAlN/GaN歪超格子層およびAlZGa1-Z層(0≦z≦1)のうち少なくとも一層を形成した後に,この表面にGaXIn1-XN層(0≦X≦1)を形成することによって,窒素を充分に含む高品質,かつ結晶性の良いGaXIn1-XN層を形成することができ,pn接合構造を容易に形成すること 成した後に,この表面にGaXIn1-XN層(0≦X≦1)を形成することによって,窒素を充分に含む高品質,かつ結晶性の良いGaXIn1-XN層を形成することができ,pn接合構造を容易に形成することができる。」(4頁右下欄11~20行) 「上記バッファ層の形成は,青色の半導体発光素子だけ限らず,緑色および黄色の半導体発光素子の適用も可能であり,半導体発光素子(可視光発光ダイオード)への応用は,極めて広く,その効果は大きい。」(5頁左上欄7~11行)(エ) 乙15,28によれば,本件最初の原出願当時である平成3年11月25日時点において,「pn接合型の窒化ガリウム系化合物半導体」という技術は,発光ダイオードという技術分野において公知であったことが認められる(なお,乙27の技術は,n型GaNとp型SiCからなるpn結合型発光ダイオードに関する技術であるから,「pn接合型の窒化ガリウム系化合物半導体」という技術が公知であった証拠となるものではない。)。 イ組み合わせの容易想到性について(ア) 原告は,乙3発明においてMIS発光素子を全く別の発光原理により発光するpn接合型のGaN系化合物半導体発光素子に置き換えることは,乙3発明の技術的特徴それ自体を没却する大幅な設計変更を伴うものであり,本件特許の原出願当時においてpn接合型のGaN系化合物半導体発光ダイオードが試作レベルで実現されているにすぎない状況を考慮すれば,乙3発明の技術的特徴それ自体を変えてまで,試作レベルでしかないpn接合型を適用する積極的な動機があったといえない,などと主張する。 (イ) しかし,乙27によれば,「発光ダイオードの素子構造としてはpn接合型の発光ダイオードが適していること」が認められ,1991年当時,「一般的な半導体を用いた発光ダイオード どと主張する。 (イ) しかし,乙27によれば,「発光ダイオードの素子構造としてはpn接合型の発光ダイオードが適していること」が認められ,1991年当時,「一般的な半導体を用いた発光ダイオードとは異なり,窒化ガリウム系化合物半導体では,pn接合型ではなく,p型半導体を使わないMIS型が検討されていた」のは,「GaNのp型化が困難であったという事情のため」にすぎなかったものと認められる(甲29ないし32(枝番含 む。),弁論の全趣旨・準備書面(原告その1)24頁)。 すなわち,MIS型は,窒化ガリウム系化合物半導体についてpn接合型の実用化が実現されるまでの過渡的技術として位置づけられていたものと理解できる。 したがって,乙3発明と乙15,28の公知文献に接した当業者は,MIS接合型の窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光ダイオードである乙3発明にpn接合型という公知技術を組み合わせる動機があり,容易に想到し得たものと認められ,特に阻害要因も認められない。実施可能性を備えれば特許出願は可能であるから,公知文献に記載された副引例が周知技術,慣用技術となっていたか否かは,組み合わせの容易想到性の判断に影響しない。 ウしたがって,相違点1は,当業者において容易に想到し得る相違点である。 (5) 相違点2(n型層の露出に関する相違点)の容易想到性についてア半導体のn型層表面をエッチングにより露出させることは周知技術であり,表面露出の技術として当業者が一般的に使用していたものと認められるから(乙28・4頁,乙32・3頁,乙33・2頁),相違点2は,当業者において容易に想到し得る相違点と認められる。 イ原告は,乙3発明において,MIS型発光素子をpn接合型のGaN系化合物半導体発光素子にあえて置き換えたとしても, 33・2頁),相違点2は,当業者において容易に想到し得る相違点と認められる。 イ原告は,乙3発明において,MIS型発光素子をpn接合型のGaN系化合物半導体発光素子にあえて置き換えたとしても,本件発明の出願当時の技術常識を考慮すれば,当業者が想到し得る構成はpn接合型のGaN系化合物半導体発光素子を基板側を表面(発光面)にして実装する構成であり,本件発明のようにpn接合型の半導体層側を表面(発光面)にして実装する構成を採用する動機がない,などと主張する。 しかし,前記のとおり,本件発明はn型層を露出させる方向を「発光素子の表面」と特定した発明であるとは認められないから,原告の主張はそ の前提を欠く。 当業者において,「pn接合型のGaN系化合物半導体発光素子のn型層をエッチングにより外部(n型層の表面)に露出させる」構成を想到すれば,該n型層の露出面が発光面であれその反対側(基板側)であれ,相違点2は克服されたものと判断される。 ウしたがって,相違点2は,容易に想到し得る相違点である。 (6) 相違点3(電気的接続の取り方に関する相違点)の容易想到性についてア発光ダイオードという技術分野において,電極間を導線でつなぐこと(乙29・第4図),その導線を金線とすること(乙33・第1図ほか,乙34・第1図ほか,乙35・第1図ほか)は,いずれも周知技術であり,当業者が一般的に使用していた技術であったと認められる。 本件明細書の段落【0002】でも,従来技術として,「発光素子1の表面電極を他端子であるメタルポスト3から延ばされた金線によりその表面でワイヤボンドする」技術が開示されており(甲2),当初明細書においても同様である(乙1)。 イ組み合わせの容易想到性について原告は,乙3のようなMIS型では ばされた金線によりその表面でワイヤボンドする」技術が開示されており(甲2),当初明細書においても同様である(乙1)。 イ組み合わせの容易想到性について原告は,乙3のようなMIS型では,電気的ショートがそもそも問題とならないため,わざわざ高価な「金線」を使用して「該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続」する積極的な動機がない,と主張する。 しかし,相違点1について判断したとおり,乙3発明に「pn接合型窒化ガリウム系化合物半導体」の公知技術を組み合わせることは容易想到であるから,乙3発明に「pn接合型窒化ガリウム系化合物半導体」を組み合わせた当業者にとっては,該発明に「電極間を金線でつなぐ公知技術」を組み合わせる動機があり,容易に想到し得る構成であると認められる。 ウしたがって,相違点3は,容易に想到し得る相違点である。 (7) 相違点4の容易想到性についてア本件最初の原出願時の周知技術について(ア) 乙30は,昭和54年12月5日発行の実用新案公報(実公昭54-41660号)であるが,半導体発光素子の技術分野において,「赤外光を可視光に変換する蛍光体を混入した樹脂で形成した樹脂レンズで発光素子を覆う」技術が開示され,「赤外光が全て樹脂レンズを通るよう,……赤外発光素子ペレットを覆うよう樹脂を滴下するので,赤外発光素子ペレットが発した赤外光は全部樹脂レンズを通り,従って可視光への変換効率が高い」(2頁左欄末行~右欄5行)ことが開示されている。 (イ) 乙31は,平成3年3月27日発行の公開特許公報(特開平3-71680号)であるが,発光ダイオードの技術分野において,「蛍光染料や蛍光顔料を含む蛍光色素よりなる樹脂組成物で可視発光ダイオードを封止する」技術が開示されている。 発行の公開特許公報(特開平3-71680号)であるが,発光ダイオードの技術分野において,「蛍光染料や蛍光顔料を含む蛍光色素よりなる樹脂組成物で可視発光ダイオードを封止する」技術が開示されている。 具体的には,次の記載がある。 「本発明の可視発光ダイオードの封止に用いられる樹脂組成物の他の成分は蛍光色素である。蛍光色素としては蛍光染料や蛍光顔料として用いられている公知の化合物が何ら制限なく採用される。」(2頁右下欄12~15行)「(課題を解決するための手段)可視発光ダイオードの明るさは,発光ダイオード素子の発光効率と発光ダイオードの発光に対する視感度の積で示される。本発明者らは,この可視発光ダイオードの明るさの改善について研究を続けてきた結果,同一の発光ダイオード素子を使用しても,それを封止している樹脂の性状によって,可視発光ダイオードの明るさが向上することを見出し,本発明を完成させるに至った。」(1頁右欄10~18行)(ウ) 以上によれば,本件最初の原出願時である平成3年11月25日時点 において,「発光素子を蛍光染料や蛍光顔料を含有する樹脂で包囲する」技術は周知技術であった上,可視発光ダイオードの樹脂の性状によって明るさの向上が可能であるとの認識が当業者の間に存在したものと認められる。 イ組み合わせの容易想到性について(ア) 乙3の訳文3,4頁(甲36の訳文6,7頁)には,「この装置は,紫色のスペクトル領域が適切である用途において紫色光の光源として用いることができる。この光を,有機および無機蛍光体を用いて良好な変換効率で低周波数(低エネルギー)に変換してもよい。このような変換は,美観を目的とした様々な異なる色を出すのに適しているだけでなく,人間の視感度の高いスペクトル領域の光を発光するのにも適 て良好な変換効率で低周波数(低エネルギー)に変換してもよい。このような変換は,美観を目的とした様々な異なる色を出すのに適しているだけでなく,人間の視感度の高いスペクトル領域の光を発光するのにも適している。異なる蛍光体を用いることにより,この同じ基本装置から全ての原色を出すことができる。」との記載があり,発光素子からの紫色(本件発明でいう「青色」に相当することに争いがない。)の可視光を,より視感度の高い(=より長波長の)光や,全ての原色の光(青色,緑色,赤色。いずれも紫色よりも長波長である。甲40・8頁)に変換する,との課題と,当該課題の解決手段として,発光素子からの可視光に励起されて励起波長よりも長波長の可視光に色補正する蛍光体を用いる,という技術が開示されているが,該蛍光体をどこに配置するかについては記載がない。 (イ) 蛍光体の配置方法としては,甲34(第1図参照)のように樹脂を用いず発光素子の前面に設置した透明板に蛍光体層を形成する構成も考え得るが,前記のとおり「発光素子を蛍光染料や蛍光顔料を含有する樹脂で包囲する」技術も周知技術であったのであり,そのような構成も当業者は当然技術的に選択し得るものである。 そして,「発光素子を蛍光染料や蛍光顔料を含有する樹脂で包囲する」技術には,「発光素子からの発光が全部蛍光体を含有する樹脂を通り,変 換効率が高くなる」という効果があることが乙30に開示されているのであり,また,可視発光ダイオードの明るさの改善について研究を続けてきた当業者が,同一の発光ダイオード素子を使用しても,それを封止している樹脂の性状によって,可視発光ダイオードの明るさが向上するという知見を提供していたのであるから,乙3発明と乙30,31の周知技術とに接した当業者は,これを組み合わせて発光ダイオード素子か 止している樹脂の性状によって,可視発光ダイオードの明るさが向上するという知見を提供していたのであるから,乙3発明と乙30,31の周知技術とに接した当業者は,これを組み合わせて発光ダイオード素子からの光の視感度の向上を図る動機があり,発光素子を蛍光染料や蛍光顔料を含有する樹脂で包囲する構成は容易に想到し得る構成であると認められ,特に阻害要因も認められない。 ウしたがって,相違点4は,容易に想到し得る相違点である。 (8) 本件発明による顕著な作用効果についてア本件明細書に記載された本件発明の効果は,本件明細書に記載された課題・目的と対比すると,「青色の光をより長波長の光に色補正して視感度を良くする」という効果と,「蛍光染料,蛍光顔料が微量で済み,輝度の低下の点から好都合である」という効果であると認められる(甲2・【0004】~【0006】,【0008】)。 前者の効果は,青色の光をより長波長の所望の光に色補正すれば視感度が良くなることは当業者に公知であるから,乙3において既に開示されている。 後者の効果も,「発光素子を蛍光染料や蛍光顔料を含有する樹脂で包囲する」技術から当業者において当然予測し得る効果を出るものではない。 イ原告は,本件発明では乙3には示唆も記載もない技術的な効果が得られると主張し,より具体的には,本件発明は,基板側及び半導体層側のいずれも実装面とできるpn接合型のGaN系化合物発光素子が安定してメタルに固定されるように,あえて当時の常識に反して,2本の金線ワイヤーによって光が部分的に遮光される,半導体層側を表面にした発光素子の実装 方法を採用した上で,蛍光体を用いて発光ダイオードの色補正をするに止まらず,蛍光染料又は蛍光顔料を発光素子を包囲する樹脂中に含有させる構成とすることで,発光素 体層側を表面にした発光素子の実装 方法を採用した上で,蛍光体を用いて発光ダイオードの色補正をするに止まらず,蛍光染料又は蛍光顔料を発光素子を包囲する樹脂中に含有させる構成とすることで,発光素子の光を,それが金線ワイヤーによって吸収される前に,蛍光体によって金線によって吸収されにくい長波長光に変換して,発光素子からの青色光の金線による吸収を減らし,発光強度の低下を抑制する,という,乙3には記載も示唆もない技術的な効果が得られると主張する。 しかし,前記のとおり,本件発明の構成要件Eにいう「表面」とは「n型層の外部に露出する側」を意味し,本件発明はn型層を露出させる方向を「発光素子の表面」と特定した発明であるとは認められないから,原告の主張はその前提を欠く。 n型層の表面を実装面側に露出させ,実装面側にn電極及び金線を配置すれば,原告の主張する効果は表れないことになる。 また,原告は,n型層を実装面側に露出させると,金線でn電極とメタルとを接続することができないと主張する(準備書面(原告その2)34頁)。 原告の主張は,実装面側からn電極と金線をワイヤーボンディングする現実的困難をいうものと思われる(甲40・32頁参照)が,実装面側に露出したn電極とメタルとを金線で接続することが物理的に不可能であるとは認められないから,原告の主張は失当である。 ウまた,本件発明における蛍光染料又は蛍光顔料は,「樹脂中に含有されて」いれば足り,樹脂全体にわたって含有されている態様に限定されていないから,必ずしも発光素子と金線との間に蛍光染料又は蛍光顔料が色補正に十分な量で存在しているとは限らず,この場合にも原告の主張する効果は表れないことになる。 エしたがって,本件発明に,顕著な作用効果があるとも認められない。 蛍光染料又は蛍光顔料が色補正に十分な量で存在しているとは限らず,この場合にも原告の主張する効果は表れないことになる。 エしたがって,本件発明に,顕著な作用効果があるとも認められない。 (9) 以上によれば,本件発明は乙3発明から容易に想到可能な発明であって進歩性を欠き,特許法29条2項(進歩性判断の基準時は平成3年11月25日であるから,平成11年法律第41号による改正前のもの)により無効となるべきものであるから,特許法104条の3により,原告は特許権を行使することはできない。 5 争点5(重複特許の有無)について(1) 甲11の2による訂正後の甲11の1には,以下の発明(特許番号2900928号の特許の請求項1の発明。甲11発明)が記載されている。 A3 メタル上の発光素子(11)と,B3 この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(11)からの波長により励起されて,励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍光染料又は蛍光顔料が添加された発光ダイオードにおいて,C3 前記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は,発光素子からの可視光により励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くすると共に,D3 前記発光素子はサファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およびp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え,E3 この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は,メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に,一対の電極を金線によりワイヤボンドして接続しており,一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であることF3 を特徴とする発光ダイオード。 (2) 本件発明における蛍光染料又は蛍光顔料は,「前記発光素子か 極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であることF3 を特徴とする発光ダイオード。 (2) 本件発明における蛍光染料又は蛍光顔料は,「前記発光素子からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発して前記発光素子の色補正をする」ものである(構成要件D)のに対し,甲11発明における蛍光染料又は蛍光顔料は,「発光素子からの可視光により励起されて,励 起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くする」ものである(構成要件C3)。 前記のとおり,本件発明にいう「色補正」とは,「所望の発光色を基準に,これと現在の発光色との差を修正して所望の発光色にする」という意味である。 「所望の発光色」は,励起波長よりも長波長である以外に特に限定はないから,「所望の発光色」が赤色である場合,励起波長である青色可視光よりも視感度が良くなるとは限らない(甲6の2(甲7の2)・294頁,甲40・9頁)。このことは,甲11の1において「励起波長よりも長波長の可視光を出す」とされていたのを,甲11の2で「励起波長よりも長波長の可視光を出して視感度を良くする」と限定する訂正をし,この点が特許性(進歩性)を肯定する理由として用いられている(甲11の2・3,4,10,11頁)ことからも明らかである。 「色補正」には,結果として「視感度を良くする」場合が多いとはいえ,結果として視感度を良くしない場合も含んでいるのであるから,本件発明が甲11発明と同一の発明であるとはいえない。 (3) さらに,本件発明と甲11発明を対比すると,「色補正をする」か「視感度を良くする」か以外にも,少なくとも以下の相違点がある。 ① 甲11発明では,「メタル上の発光素子」との限定がある(構成要件A ) さらに,本件発明と甲11発明を対比すると,「色補正をする」か「視感度を良くする」か以外にも,少なくとも以下の相違点がある。 ① 甲11発明では,「メタル上の発光素子」との限定がある(構成要件A3)のに対して,本件発明では,発光素子とメタルの位置関係は限定されていない(構成要件A)点。 ② 甲11発明では,「サファイア基板」に限定されている(構成要件D3)のに対して,本件発明では「基板」とだけ特定されている(構成要件A)点。 ③ 甲11発明では,「メタルに対抗する面の反対側に位置する同一面側に,一対の電極を金線によりワイヤボンド接続しており,一方の電極はn 型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極である」(構成要件E3)のに対し,本件発明では,「前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn電極をつけ,該n電極と第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続させてなる金線」(構成要件E)とされ,③-1 甲11発明では一対の電極が要件であるのに対し,本件発明ではn電極のみが要件となっている点③-2 甲11発明では一対の電極が「メタルに対抗する面(実装面)の反対側(発光面)に位置する同一面側」に位置するのに対し,本件発明ではn電極の方向は限定されていない点③-3 甲11発明では金線の接続方法がワイヤボンドに特定されているのに対し,本件発明では接続方法が特定されていない点③-4 本件発明ではn型層の露出方法が「エッチング」に特定されているのに対し,甲11発明では露出方法が特定されていない点③-5 甲11発明ではn電極が「オーミック電極」に特定されているのに対し,本件発明ではそのような特定がない点(4) したがって,本件発明が甲11発明と同一の発明 は露出方法が特定されていない点③-5 甲11発明ではn電極が「オーミック電極」に特定されているのに対し,本件発明ではそのような特定がない点(4) したがって,本件発明が甲11発明と同一の発明であるとはいえない。 6 以上によれば,本件特許は進歩性を欠き無効となるべきものであるから,原告の請求はいずれも理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官大須賀滋 裁判官小川雅敏 裁判官西村康夫

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る