主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、別紙1「控訴人ら目録」記載1及び3の各控訴人に対し、各10万円及びこれに対する同目録記載1の各控訴人らにつき平成29年3月27日から、同目録記載3の控訴人につき同年6月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は、控訴人Aに対し、5万円及びこれに対する平成29年3月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被控訴人は、控訴人B及び同Cに対し、各2万5000円及びこれに対する平成29年3月27日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(以下、略称は原判決の例による。) 1 事案等⑴ 控訴人らは、長崎市に投下された原子爆弾(原爆)による「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」(被爆者援護法)1条所定の「被爆者」の子(被爆二世)又はその訴訟承継人である。 ⑵ 本件は、控訴人らが、被控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝 料各10万円等及びこれに対する訴状送達の日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。控訴人らは、原爆の放射線による遺伝的(継世代)影響を否定できず、これにより被爆二世が抱く健康不安について、被爆者援護法による援護を受ける被爆者等と同等の国の援護を受ける権利が憲法13条によって保障され、ま た、被爆者等との差別的取扱いが憲法14条1項に違反するから、被控訴人には、 被爆二世を被爆者援護法1条所定の「被爆者 者等と同等の国の援護を受ける権利が憲法13条によって保障され、ま た、被爆者等との差別的取扱いが憲法14条1項に違反するから、被控訴人には、 被爆二世を被爆者援護法1条所定の「被爆者」に加えて援護の対象とするなどの立法措置を講ずべき義務があるにもかかわらず、これを怠った等の主張をしている。 なお、控訴人Dは、訴訟係属中に死亡し、妻のEがこれを承継した。 2 原審の判断及び控訴の提起原審は、控訴人ら主張に係る権利が憲法13条によって保障されているとはいえ ず、また、被爆二世を被爆者援護法の被爆者に含めず、同法による援護の対象としないことが合理的理由のない差別的取扱いに当たるとは認められないことから、控訴人ら主張に係る被爆二世に対する立法不作為が、憲法13条、14条1項に違反するとは認められないと判断して、控訴人らの請求をいずれも棄却し、控訴人らは、これを不服として控訴を提起した。 3 関係法令の定め等、前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張次のとおり補正し、4のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1から4まで(原判決2頁8行目から18頁6行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決7頁13行目の「被曝者」を「被爆者」に改める。 (2) 原判決11頁13行目の「放射線被爆」を「放射線被曝」に改める。 (3) 原判決12頁1行目の「延期」を「塩基」に、17行目の「被爆」を「被曝」にそれぞれ改める。 4 当審における当事者の補充主張(控訴人ら) 被爆者援護法1条1号ないし3号に該当する者とは被爆当時生存していた人を対象とするものであるとしても、同法は、「被爆者」について、原爆被爆による健康被害につ 事者の補充主張(控訴人ら) 被爆者援護法1条1号ないし3号に該当する者とは被爆当時生存していた人を対象とするものであるとしても、同法は、「被爆者」について、原爆被爆による健康被害について何らかの科学的知見を前提として具体的根拠が認められた人として定義付けをするものではなく、原爆放射線による健康被害の可能性が否定できない人をもって「被爆者」とするものである。そして、被爆二世は、原爆放射線による健 康被害の可能性を否定できない者であるから、被爆二世が被爆者援護法の援護対象 とされるべき「被爆者」にされていないことは、憲法14条1項に違反するというべきである(なお、控訴人らは、被爆二世について、被爆者援護法1条3号所定の「被爆者」に該当する旨を主張するものではない。)。 また、原爆投下の当時、被爆二世が一個体として実在していないことは間違いないことであるも、生物学・遺伝学・発生学的見地によれば、原爆被爆時には被爆者 (一世)の身体の一部であった生殖細胞(精子及び卵子ないしその元となる細胞であり、ゲノム〔遺伝子〕情報を次世代へ伝えることができる細胞)が直接に被爆し、その生殖細胞が受精して細胞分裂を繰り返して分化・発育し、子である被爆二世の身体(二世の生殖細胞・体細胞)が形成されていく以上、被爆二世も、被爆一世の身体の一部として直接被爆した可能性がないとはいえず、原爆投下時に置かれた状 況等について被爆一世のそれと変わるところはない。この意味においては、原爆投下の当時、一個体として独立して実存しない「胎児」が母胎の中でその体を透過して放射線の影響を受けている可能性があるものとして援護の対象とされていることと共通するものである。 (被控訴人) 争う。被爆二世については、親が原爆の放射線に被曝したこと でその体を透過して放射線の影響を受けている可能性があるものとして援護の対象とされていることと共通するものである。 (被控訴人) 争う。被爆二世については、親が原爆の放射線に被曝したことによってその健康に影響が生ずるか否かが主に問題になるも、親の放射線被曝により子供の健康に影響が生ずることは、現在に至るまで確認されておらず、最新の科学研究においても、親の放射線被曝による次世代への遺伝性影響が生じるという考え方は支持されていない。このような被爆二世(原爆投下の当時は実在しておらず、直接被爆した可能 性もない。)と、具体的な被爆態様や被爆が健康に影響を及ぼし得る機序等の個別具体的な検討の結果として被爆者援護法1条3号の「被爆者」に該当するものとされる者との間における事実関係の差異に照らせば、国民の租税負担という限られた財源の中で行われる法律に基づく援護施策として、両者で異なる取扱いをすることは、何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるとはいえず、憲法14条1項 に違反しないというべきである。また、たとえ一つの遺伝子異変が起こったとして も、その細胞が受精卵として成立する可能性は途方もなく低く、次世代にその影響が発現するために乗り越えなければならない多くの関門が存在するという遺伝の基本的知見や、ヒトにおいては、受精卵が成立しても、それが先天的な異常を持っていると、ほとんどが子宮内淘汰され、先天的な異常を持った子供は生まれにくくなるという知見を踏まえると、遺伝子異変が次世代に伝えられる可能性は極めて低い というべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人らの各請求は理由がないからいずれも棄却すべきであると判断する。その理由は、次のとおり補正し、2のとおり当審における控訴人らの補充主張に対 きである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人らの各請求は理由がないからいずれも棄却すべきであると判断する。その理由は、次のとおり補正し、2のとおり当審における控訴人らの補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 当 裁判所の判断」の1及び2(原判決18頁8行目から72頁16行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決26頁4行目、5行目及び7行目の各「被曝」を「被爆」に改める。 (2) 原判決29頁17行目の「乙A19」を「甲A19」に、18行目の「長﨑県等による被曝」を「長崎県等による被爆」に、21行目の「被曝」を「被爆」に それぞれ改める。 (3) 原判決36頁11行目の「懇親会(以下「基本問題懇談会」という。)」を「懇談会」に、14行目の「懇親会」を「懇談会」にそれぞれ改める。 (4) 原判決41頁9行目の「3条」を「3項」に改める。 (5) 原判決43頁12行目末尾を改行の上、次のとおり加え、19行目の「高率 の」を「高率に」に改める。 「 本件における放射線による遺伝的影響に関する知見は、以下のとおりである(なお、放射線が生殖細胞にDNA損傷〔突然変異〕を引き起こす場合、体細胞に起きた突然変異とは異なり、その損傷が次の世代に受け継がれることがあることについて、放射線被ばくによる次の世代への影響を「継世代影響」と呼ばれている (乙57〔参考文献:第3章の6〕)。」 (6) 原判決46頁13行目の「生命現象」から同行目末尾までを次のとおり改める。 「生命現象ではないということになる。Nomuraはこの現象を用いたマウスの系統に特異的かもしれないと述べている。」旨の記載がある(なお、野村大成の当該指摘は、自身の1982年の論 おり改める。 「生命現象ではないということになる。Nomuraはこの現象を用いたマウスの系統に特異的かもしれないと述べている。」旨の記載がある(なお、野村大成の当該指摘は、自身の1982年の論文に関するものと考えられる。)。(乙28、 57)」(7) 原判決46頁20行目から21行目にかけての「見られなかった。」の次に「野村がICRマウスで報告した父母ウレタン処理後の肺腫瘍の発生率と多発性の増加は確認することができなかった。」を加える。 (8)原判決47頁1行目の「特定材」を「特定座位」に改め、24行目の「拡大 させてきた。」の次に「これは両者の生活の仕方の違いを反映している。」を加える。 (9) 原判決47頁25行目の「「僅かな差」の前に「科学雑誌「Nature」に掲載された」を加える。 (10)原判決48頁11行目の「約9000年前」を「約9000万年前」に改め、 23行目末尾を改行の上、次のとおり加える。 「aUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会。我が国も委員会のメンバーである。)は、電離放射線源とそれによる人の健康及び環境への影響に関する広範囲評価の実施を委任されており、世界的、地域的に放射線被曝を徹底的に審査し評価しているほか、被曝人口における放射線による健康への影響のエ ビデンスを評価し、放射能による人の健康やヒト以外の生物相に影響をもたらす生物学的メカニズムの理解を深めている。これらの評価は、特に、電離放射線に対する一般大衆と作業員の保護のための国際基準を国連内の関連機構が策定する際の科学的根拠となっており、これらの基準は、同様に、重要な法的手段や規制手段へと繋がっている。(乙26)」 (11)原判決48頁24行目の「a」を「b」に改める。 (12 する際の科学的根拠となっており、これらの基準は、同様に、重要な法的手段や規制手段へと繋がっている。(乙26)」 (11)原判決48頁24行目の「a」を「b」に改める。 (12)原判決49頁4行目の「b」を「c」に改め、同行目末尾を改行の上、次のとおり加える。 「 第60回会合では、科学的文書2点が審議され、その一つが「放射線被曝の子どもへの影響」に関する文献であり、委員会において、「放射線被曝の子どもへの影響」が検討され、次のような結論が示されている。」 (13)原判決51頁19行目末尾を改行の上、次のとおり加える。 「 COMARE(環境における放射線の医学的側面に関する委員会)は、1985年に設立された英国の委員会であり、自然及び人工放射線の健康への影響について、政府及び地方行政機関に評価と助言を行い、利用可能なデータの妥当性とさらなる研究の必要性を評価することを職務権限としている。COMAREは、20 15年当時、過去30年間にわたり政府及び地方行政機関に助言を提供し、主に、ラドンとその子孫のような自然発生放射性核種への被ばく、又は主要原子力施設である運用の結果として生ずる人工放射線への被ばく等に関し、16の主要な報告書及びその他多数の声明や文書を発表してきている。(乙84)」(14)原判決53頁8行目の「(平成24年)、」の次に「長崎医学会雑誌におい て、」を加える。 (15)原判決56頁24行目末尾に「「AmericanJournalofEpidemiology」において、」を加える。 (16)原判決57頁5行目の「役立つであろう。」、」を「役立つであろう。」。 また、山田美智子らは、」に改め、20行目の「困難です。」」を次のとおり改め る。 「困難です。」、「原爆被 。 (16)原判決57頁5行目の「役立つであろう。」、」を「役立つであろう。」。 また、山田美智子らは、」に改め、20行目の「困難です。」」を次のとおり改め る。 「困難です。」、「原爆被爆者と被爆二世の方々からご提供いただいた生体試料で全ゲノム配列解析等を行うことにより、親の放射線被ばくの遺伝的影響に関してより明確な結果が出るものと期待されます。」などとの指摘もしている。」(17)原判決58頁25頁の「有意差が見られなかった旨発表した」を「突然変異 率の有意の増加が見られなかった旨の学位論文(主査は、野村大成)を発表した」 に改める。 (18)原判決59頁1行目の「全ゲノム解析」の次に「(全ゲノム塩基配列解析法)」を加え、同行目末尾を改行の上次のとおり加える。 「a 全ゲノム塩基配列解析法は、DNAの塩基配列をすべて解析することで、塩基変異を調べることができる解析法である(乙57)。」 (19)原判決59頁2行目の「a」を「b」に、3行目の「原爆被爆者」を「近距離被爆群の原爆被爆者」にそれぞれ改め、12行目末尾の次に以下のとおり加える。 「 なお、原爆被爆の距離に関しては、同じ放射性物質があったとしても、放射線の強さ(線量率)は、放射線を出しているもの(線源)から近ければ強く、遠ければ弱くなり、放射性物質が1か所にある(点線源)場合、距離の2乗に反比例し て線量率は低くなるなどと解されている(乙73)。」(20)原判決59頁13行目の「b」を「c」に改め、17行目の「「Science」」の次に「(放射線に関係する科学論文雑誌の平均的インパクトファクターは2~3であるのに対し、「Science」のそれは41.846であって、同誌は、当該分野内で持つ相対的影響力の大きい科学雑誌である。)」を加える 線に関係する科学論文雑誌の平均的インパクトファクターは2~3であるのに対し、「Science」のそれは41.846であって、同誌は、当該分野内で持つ相対的影響力の大きい科学雑誌である。)」を加える。 (21)原判決60頁1行目末尾に次のとおり加える。 「、「結論は、業務上もしくは環境からの放射線被ばくした人の子どもは、DNMの発生率が高まることはないように思われるということだ。従って、我々の調査結果は、放射線が人の生殖細胞のDNAに継世代的な影響を生じるという考えを支持しない。」 (ケ) 日本保健物理学会・日本放射線影響学会・低線量リスク委員会による「低線量リスクに関するコンセンサスと課題」(2020年〔令和2年〕4月)には、次の指摘がある(乙57〔参考文献:第3章の6〕)。 「人を対象とした疫学研究等からは、放射線による継世代影響を示す強い証拠は得られていないことがコンセンサスとして挙げられる。」 (コ) 放影研は、2022年(令和4年)5月現在、ホームページにおいて、 「現在までに分かったこと」として次の点を指摘している(乙74)。 ① これまでの研究では、被爆者の子供への遺伝的影響は認められていない。 ② 現時点までの観察では、被爆者の子供に死亡率、がん発症率の増加は認められていない。」(22)原判決60頁21行目から22行目にかけての「放射線被爆」を「放射線被 曝」に改める。 (23)原判決65頁11行目の「特殊な戦争被害を幅広く救済」を「特殊な戦争被害に対する救済を強化」に改め、23行目末尾を改行の上、次のとおり加える。 「 他方、原爆医療法2条は、1号ないし3号とは別に、4号において、原爆の被爆をした当時、受胎していたものを対象とするにとどめ、原爆の被爆後に受胎し たも 末尾を改行の上、次のとおり加える。 「 他方、原爆医療法2条は、1号ないし3号とは別に、4号において、原爆の被爆をした当時、受胎していたものを対象とするにとどめ、原爆の被爆後に受胎し たもの(被爆二世)を対象としないこととしている。その理由は、当時の医学的、科学的知見のほか、被爆者の被爆後の健康状態等を踏まえ、同条所定の「被爆者」については、原爆の放射能による影響があると認められるのに対し、遺伝学的に被爆後に受胎したものにつき放射線の影響があるかどうかについては当時の学会においても消極的な意見が占めていたことを踏まえたものであり、その当時の医学的、 科学的知見の状況等に照らすと、原爆医療法(昭和32年3月成立)の制定当時、被爆二世を対象としないことについては相当の根拠があったといえる。また、原爆医療法を引き継ぐ被爆者援護法制定までの間、国会においては被爆二世に関する議論が継続されるも、ヒトにおける放射線の遺伝的影響の証明はされておらず、出生後の健康状況は一般の人と変わらないなどとして、当時の医学的、科学的知見の状 況、被爆二世の出生後の健康状況等を踏まえ、被爆二世を被爆者としての対象とすることについて法律の手当がされず、被爆者援護法(平成6年12月成立)も、その制定当時の医学的、科学的知見の状況や被爆二世の出生後の健康状況等を踏まえ、上記のような議論の過程を経て、被爆二世を被爆者としての対象としないものとして、原爆医療法を引き継ぐ立法がされたものと認められ、被爆者援護法制定の当時 においても、被爆二世をその対象としないことについては相当の根拠があったとい える。」(24)原判決65頁26行目の「特殊な戦争被害を幅広く救済」を「特殊な戦争被害に対する救済を強化」に改め、66頁4行目末尾に「他方、被爆者 ことについては相当の根拠があったとい える。」(24)原判決65頁26行目の「特殊な戦争被害を幅広く救済」を「特殊な戦争被害に対する救済を強化」に改め、66頁4行目末尾に「他方、被爆者援護法は、制定当時における医学的、科学的知見の状況や被爆二世の出生後の健康状況等を踏まえ、「被爆者」の定義付けがされた原爆医療法を引き継ぎ、同様の定義の下に立法 化されたものである。」を加える。 (25)原判決66頁11行目の「事情の下にあった者」とは」の次に「、3号が、1、2号の次に置かれ、かつ、4号の前に置かれていることに照らすと、原爆投下の当時、既に出生している者であることを前提に、」を加える。 (26)原判決66頁15行目の「戦争損害の補償の要否及び在り方は」の前に次の とおり加える。 「原爆二法及びこれを引き継ぐ被爆者援護法は、原爆の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることに鑑みて制定されたものであることは、前記認定のとおりである。他方、第二次世界大戦によりほとんどすべての国民が様々な被害を受けたこと、その態様は多種、多様で あって、その程度において極めて深刻なものが少なくないことは公知のところである。戦争中から戦後にかけての国の存亡にかかわる非常事態にあっては、国民のすべてが、多かれ少なかれ、その生命、身体、財産の犠牲を堪え忍ぶことを余儀なくされていたのであって、これらの犠牲は、いずれも戦争犠牲ないし戦争損害として、国民のひとしく受忍しなければならなかったところであり、これらの戦争損害に対 する補償は憲法13条や14条の予想しないところというべきである。」(27)原判決66頁21行目の「上記のとおり」を次のとおり改める。 「そして、原爆二法及び被爆者援護 れらの戦争損害に対 する補償は憲法13条や14条の予想しないところというべきである。」(27)原判決66頁21行目の「上記のとおり」を次のとおり改める。 「そして、原爆二法及び被爆者援護法は、戦争損害に対する補償が憲法の上記条項の予想しないところであることを前提としつつも、原爆の被爆による損害が、特殊の戦争被害について戦争遂行主体であった国が自らの責任によりその救済を図る という一面も有するものとして、原爆の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者 の健康の保持及び増進並びに福祉を図ること(原爆二法)、あるいは、被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じること(被爆者援護法)を目的として制定されたと解され」(28)原判決67頁3行目の「被爆者援護法は、」の次に「飽くまで、同法1条1号、2号所定の際に既に出生していた者とは別に、3号において、当時既に出生し ていた者のうち、当時の医学的、科学的知見の状況等を踏まえつつ、」を加え、4行目から5行目にかけての「趣旨である」から8行目の「そして、」までを「こととして、国家補償及び社会保障的見地からその救済を強化したものであると解されることからすると、」に改める。 (29)原判決68頁9行目の「前提としても、」の次に「ヒトにおける」を加え、 11行目の「未だ」から12行目末尾までを次のとおり改める。 「未だ研究途上にあり、その知見が確立していないことは明らかである。すなわち、これまでの研究成果をみても、ヒトにおける放射線の遺伝的影響(継世代影響)は証明されておらず、これに肯定的な研究発表がみられるも、これに対しては批判的意見や研究上の課題等が指摘されている一方、ヒトに対する疫学的調査研究のみ ならず、DNA調査に加え、近時の全ゲノム は証明されておらず、これに肯定的な研究発表がみられるも、これに対しては批判的意見や研究上の課題等が指摘されている一方、ヒトに対する疫学的調査研究のみ ならず、DNA調査に加え、近時の全ゲノム解析による研究によっても、否定的な研究発表等が複数されている。そうすると、被爆二世については、原爆による放射線の遺伝的影響自体が証明されておらず、あるいは、これに肯定的な研究があるも、現時点における医学的、科学的知見の状況等として、これが確立、支配的な地位を占めているとも、少なくとも有力となりつつあるといった状況にあるとも認められ ないのであり(むしろ、現在の医学的、科学的な一般的な結論、コンセンサスは、UNSCEARにおける最近の報告書が指摘するとおり、放射線被曝による人間における遺伝的影響として明白に確認されたものは原爆被害の生存者の子孫の研究においては特にない、というものであると認められる。)、控訴人ら主張に係る被爆二世に対する原爆被爆の放射能により健康被害が生じる可能性といっても、その前 提となる原爆被爆による放射線の影響(被爆二世については遺伝的影響)自体につ いては、被爆二世と被爆者援護法所定の「被爆者」とを比べた場合、その基礎となる医学的、科学的知見の現状(現時点における到達点)等において顕著な差異があるものといわざるを得ない。このことは、証人Fの意見(甲72を含む。)を踏まえても、覆らない(上記意見は、単なる仮説の域を出るものではなく、これが国内外においてほかの研究者から多数の支持を得ているとも認められない。)。」 (30)原判決68頁13行目から26行目までを次のとおり改める。 「a 動物における放射線の遺伝的影響に関する知見とヒトにおけるそれへの推定等について前記認定に係る動物を用いた実験的 (30)原判決68頁13行目から26行目までを次のとおり改める。 「a 動物における放射線の遺伝的影響に関する知見とヒトにおけるそれへの推定等について前記認定に係る動物を用いた実験的研究により、動植物においては放射線による遺伝的影響があるものと一般的に理解されている(乙57)。そして、被爆者援護 法制定後に発表されたUNSCEARの2001年(平成13年)の報告においては、「ヒトはこの点に関して例外ではないだろう」と指摘されたほか、放射線による遺伝的影響に関するマウス実験による種々の研究発表があり、ヒトに対する放射線のリスク推定等のためにその実験結果が利用されていること等は、前記認定のとおりである。 しかし、動物を用いた実験結果による知見によって、ヒトにおける放射線による遺伝的影響自体が証明されたものではなく、後記bのとおり、現時点において、ヒトにおいては、動植物と同様、放射線による遺伝的影響自体を肯定する知見が確立、支配的となり、あるいは有力となりつつあるような状況にないことは明らかである。 UNSCEARにおいても、近時の報告(2013年〔平成25年〕)では、放射 線被曝による人間における遺伝的影響として明白に確認されたものは、原爆被害の生存者の子孫の研究においては特にない、というのが一般的な結論である旨、放射線に被曝した親の子孫において、染色体不安定性の増大、ミニサテライト変異の増加、世代間ゲノムの不安定性の増大、子孫における性比の変化、先天性異常あるいは癌の危険性の増大、といったエビデンスは基本的にはない旨を明らかにしている。 b ヒトにおける放射線の遺伝的影響に関する知見について」 (31)原判決69頁3行目の「両者の関係について否定的見解もある」を次のとおり改める。 い旨を明らかにしている。 b ヒトにおける放射線の遺伝的影響に関する知見について」 (31)原判決69頁3行目の「両者の関係について否定的見解もある」を次のとおり改める。 「両者の関係につき、COMAREによる近時のレポート(2015年〔平成27年〕)においては、高線量のPPI(受胎前照射)が次世代に観察可能な影響を与えるという細胞及び動物実験による証拠があるも、ヒトにおける健康影響は決定 的なものとして検出されていない、特に、ヒトにおけるPPIの影響に関する疫学的証拠は、健康に対する検出可能なリスクを裏付けるものではない旨の否定的な報告がされている。」(32)原判決69頁5行目の「広島の」から7行目末尾までを削り、8行目の「症例対照研究では、父親の放射線被爆」を「症例対照研究(1988年〔昭和63 年〕)では、父親の放射線被曝」に改め、9行目から10行目にかけての「他の要因による可能性が排除されていない」を次のとおり改める。 「放射線以外のほかの要因が排除されていないと指摘されているほか、上記発表後の2002年の報告においては、「今回の研究や過去の研究で見られた、受胎前の父親のX線被曝歴と幼児の白血病リスクとの間のわずかな正の関連性は、X線被 曝以外の要因によるものであることを示唆している」と指摘されている。」(33)原判決69頁11行目の「放影研による」の前に「広島の原爆被爆二世の白血病調査では、両親被爆群の片親被爆群に対する有意差が示されるも、」を加え、同行目から12行目にかけての「放射線被爆」を「放射線被曝」に改め、13行目の「1パターン」から15行目末尾までを次のとおり改める。 「1パターン(両親の合計線量と14日以内の周産期死亡)に統計上有意な関連性が認められたところ、 」を「放射線被曝」に改め、13行目の「1パターン」から15行目末尾までを次のとおり改める。 「1パターン(両親の合計線量と14日以内の周産期死亡)に統計上有意な関連性が認められたところ、先天性形成異常や周産期死亡が戦後の貧困等の社会・経済的要因の影響を受けるにもかかわらず、上記解析に当たっては、原爆による社会・経済的影響(放射線以外の要因が及ぼした重大な影響)を調整できておらず、解析手法上、放射線の関与が過大に推定されている可能性があり、線量の増加傾向が放 射線の直接的影響(遺伝的影響)によるものであると解釈することは困難であると 指摘されている。 この点について、控訴人らは、山田美智子らの研究発表(特に上記1パターンにおいて統計的に有意であることが初めて確認されたとする点)について、放射線の遺伝的影響の可能性を示唆する研究である旨の主張をする。上記研究発表は、解析結果について、親の被曝線量は、主要な先天性形成異常(奇形)、及び周産期死亡 のリスク増加と関連性が見られるも、推定値は放射線の直接効果として考えるには不正確であり、ほとんどの推定値は統計学的には有意ではないと結論付けた上で、父親被曝、母親被曝どちらの場合も、妊娠終結異常の推定値が総じて正の値を示したことは、リスク推定に役立つであろうと示唆するにとどまる。そして、上記研究発表は、ヒトにおける放射線の遺伝的影響を証明するものではないし、この研究発 表によりヒトにおける放射線の遺伝的影響自体を肯定する知見が確立、支配的となり、あるいは有力となりつつある状況にあるといったこともうかがわれない。むしろ、上記研究発表に関しては、その解析手法上、放射線の関与が過大に推定された可能性がある等の指摘もされているところである。また、山田美智子らは、上記研究 状況にあるといったこともうかがわれない。むしろ、上記研究発表に関しては、その解析手法上、放射線の関与が過大に推定された可能性がある等の指摘もされているところである。また、山田美智子らは、上記研究発表に関して、被爆者と被爆二世の全ゲノム解析により放射線被ばくの遺伝的影 響に関して明確な結果が出ると期待される旨の指摘をするところ、近時の全ゲノム解析においては、被爆二世に原爆放射線による有意な遺伝的影響を認めなかった旨、チェルノブイリ事故について調査対象とされた被曝範囲ではヒトの生殖細胞突然変異が実質的に生ずるというエビデンスはない旨の研究発表がされている。これらの事情を総合考慮すると、山田美智子らの研究発表に関する控訴人らの上記主張を踏 まえても、前記判断は覆らない。」(34)原判決69頁17行目の「全ゲノム解析の結果、放射線被爆」を「近距離被爆群の原爆被爆者、その妻及びその子並びにチェルノブイリ原発事故の除染作業者等の子供に係る全ゲノム解析の結果、放射線被曝」に改める。 (35)原判決69頁20行目の「被爆」を「被曝」に改め、23行目の「その可能 性」から26行目の「拡充して」までを次のとおり改める。 「医学的、科学的に証明されておらず、かつ、その旨の知見が確立、支配的となり、あるいは有力となりつつあるといった状況もみられず、原爆被爆者に対する近時の研究成果をみても、ヒトに対する症例的調査研究のみならず、DNA調査に加え、近時の全ゲノム解析による研究においても、否定的な研究発表が複数されている状況にある。 そうすると、控訴人ら主張に係る被爆二世に対する原爆被爆の放射能により健康被害が生じる可能性といっても、その健康被害の可能性の前提となるヒトにおける放射線の影響(被爆二世については遺伝的影響)自 そうすると、控訴人ら主張に係る被爆二世に対する原爆被爆の放射能により健康被害が生じる可能性といっても、その健康被害の可能性の前提となるヒトにおける放射線の影響(被爆二世については遺伝的影響)自体については、被爆二世と被爆者援護法所定の「被爆者」とを比較した場合、その基礎となる医学的、科学的知見の現状(現時点における到達点)等において顕著な差異があること、また、現時点 までの調査では、被爆者の子供に死亡率、がん発症率の増加は認められていないことなどを踏まえると、被爆二世を被爆者援護法の「被爆者」に含めず、同法による援護の対象としていないことについては、現時点においてもなお相当の根拠があると認められる。このような医学的、科学的知見の現状等や被爆二世と被爆者援護法所定の「被爆者」との上記差異を踏まえつつも、被爆二世の中に、原爆の放射線の 遺伝的影響の可能性があると考え、この可能性による健康被害の可能性に対する不安を現に抱く者がいることを考慮し、被爆者援護法の制定趣旨等に照らして更に援護の対象を拡充することとして」を加える。 (36)原判決70頁3行目から4行目にかけての「対象としないことが、」を「対象としていないことが、著しく合理性を欠くということはできず、上記被爆者に関 する区別が何ら」に改める。 (37)原判決70頁11行目の「知見」を「医学的、科学的知見」に改め、14行目の「これに該当しない場合であっても、」の次に「当時、既に出生していた者のうち、」を加える。 (38)原判決70頁18行目の「3条」を「3項」に、19行目の「同条」を「同 項に」にそれぞれ改める。 (39)原判決71頁3行目の「3条」を「3項」に、6行目の「被爆者」を「同法所定の「被爆者」」にそれぞれ改める。 (40)原判決 目の「同条」を「同 項に」にそれぞれ改める。 (39)原判決71頁3行目の「3条」を「3項」に、6行目の「被爆者」を「同法所定の「被爆者」」にそれぞれ改める。 (40)原判決71頁8行目の「原爆の」から10行目末尾までを次のとおり改める。 「健康状況が必ずしも把握されておらず、原爆医療法、これを引き継いだ被爆者援護法所定の「被爆者」に当たるというには疑問が残るものの、従来の一般被爆者 とほぼ同様に原爆の放射能による影響があると認められる、原爆投下の当時、被爆地域の隣接区域内にあった者又はその当時その者の胎児であった者について、原爆の放射能の影響を考慮して援護の対象を拡充したもの」(41)原判決71頁19行目の「その可能性」から、72頁4行目から5行目にかけての「これらを考慮して」までを次のとおり改める。 「現時点において、医学的、科学的に証明されておらず、かつ、その旨の知見が確立、支配的となり、あるいは有力となりつつあるといった状況もみられず、原爆被爆者等に対する近時の研究成果をみても、ヒトに対する症例的調査研究のみならず、DNA調査に加え、近時の全ゲノム解析による研究においても、否定的な研究発表が複数されている状況にあって、控訴人ら主張に係る被爆二世に対する原爆被 爆の放射能により健康被害が生じる可能性といっても、その健康被害の可能性の前提となる原爆被爆による放射線の影響(被爆二世については遺伝的影響)自体については、被爆二世と原爆投下の当時既に出生していた者又は胎児であった者に対する場合とを比較した場合、その基礎となる医学的、科学的知見の現状(現時点における到達点)等において顕著な差異があるものといわざるを得ないこと、また、現 時点までの調査では、被爆者の子供に死亡率、がん発症率の増 た場合、その基礎となる医学的、科学的知見の現状(現時点における到達点)等において顕著な差異があるものといわざるを得ないこと、また、現 時点までの調査では、被爆者の子供に死亡率、がん発症率の増加は認められていないことは、前記認定説示のとおりである。 そうすると、被爆二世について、被爆者援護法附則17条の「みなし被爆者」に含めず、被爆者援護法による健康診断の適用上の対象としていないことについては、現時点においても相当の根拠が認められること(このことは、控訴人らが求める立 法義務と同じ平成元年法案等が参議院では可決されたことに加え、控訴人らの指摘 する種々の研究発表等や証人Fの意見等を踏まえても、覆らない。)からすると」(42)原判決72頁8行目の「講じないことが、」を「講じていないことが、著しく合理性を欠くということはできず、上記「みなし被爆者」に関する区別が何ら」に改める。 2 当審における控訴人らの補充主張に対する判断 被爆二世については、原爆による放射線の遺伝的影響は証明されておらず、これに肯定的な研究があるも、現時点の医学的、科学的知見として、この見解が確立、支配的となり、あるいは有力となりつつあるといった状況にあるとは認められず、原爆被爆者等に対する近時の研究成果をみても、ヒトに対する症例的調査研究のみならず、DNA調査に加え、近時の全ゲノム解析による研究においても、否定的な 研究発表が複数されている状況にあること、そして、控訴人ら主張に係る被爆二世に対する原爆被爆の放射能により健康被害が生じる可能性といっても、その健康被害の可能性の前提となるべき原爆被爆による放射線の影響(被爆二世については遺伝的影響)自体については、被爆二世と被爆者援護法所定の「被爆者」又は被爆者援護法附則17条の「み 性といっても、その健康被害の可能性の前提となるべき原爆被爆による放射線の影響(被爆二世については遺伝的影響)自体については、被爆二世と被爆者援護法所定の「被爆者」又は被爆者援護法附則17条の「みなし被爆者」とを比較した場合、その基礎となる医学的、 科学的知見の現状(現時点における到達点)等において顕著な差異があるといわざるを得ないこと、また、現時点までの調査では、被爆者の子供に死亡率、がん発症率の増加は認められていないこと、したがって、被爆二世について、被爆者援護法の「被爆者」及び被爆者援護法附則17条の「みなし被爆者」に含めず、被爆者援護法による健康診断の適用上の対象としていないことについては、現時点において も相当の根拠が認められることは、補正後の原判決の認定説示のとおりである。そうすると、当審における控訴人らの種々の主張立証を踏まえても、上記判断を覆すものではなく、被爆二世について、被爆者援護法の「被爆者」及び被爆者援護法附則17条の「みなし被爆者」に含めず、被爆者援護法による健康診断の適用上の対象としていないことは、憲法13条、14条1項に違反しないというべきである。 控訴人らの主張は採用できない。 3 よって、原判決は相当であり、本件各控訴は理由がないからこれをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第1民事部 裁判長裁判官高瀬順久 裁判官野 々 垣隆樹 裁判官古川大吾 裁判官古川大吾
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