- 1 -主文原判決を破棄する。 本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人三澤隆行の上告受理申立て理由第3について 本件は,上告人が,その所有する車両の盗難により損害を被ったと主張して,保険会社である被上告人に対し,保険契約に基づき,車両保険金及び遅延損害金の支払を求める事案である。これに対し,被上告人は,上告人の保険金請求権が時効により消滅したと主張して争っている。 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。 (1)上告人は,被上告人との間で,平成14年2月7日,被保険自動車をメルセデスベンツ,車両保険金額を625万円,保険期間を同日から平成15年2月7日までとする自家用自動車総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結し,平成14年6月18日,本件保険契約の被保険自動車をランドクルーザー(以下「本件車両」という。)に,車両保険金額を490万円にそれぞれ変更する旨の合意をした。 (2)本件保険契約に適用される普通保険約款の第6章一般条項には,次のような各条項がある。 ア20条2項には,要旨,次のとおり定められている(以下,この条項が定める手続を「保険金請求手続」という。)。 被保険者が車両保険金の支払を請求する場合は,事故発生の時の翌日から60日以内又は保険会社が書面で承認した猶予期間内に,保険証券に添えて保険金の請求- 2 -書等の書類又は証拠を保険会社に提出しなければならない。 イ21条には,次のとおり定められている(以下「保険金支払条項」という。)。 「当会社は,被保険者が前条第2項の手続をした日からその日を含めて30日以内に保険金を支払います。ただし,当会社がこの期間内に必要な調査を終えることができない場合は,これを終えた後,遅滞なく保険金を支払います。」ウ24条には,次のとおり た日からその日を含めて30日以内に保険金を支払います。ただし,当会社がこの期間内に必要な調査を終えることができない場合は,これを終えた後,遅滞なく保険金を支払います。」ウ24条には,次のとおり定められている(以下,同条(2)に記載された時点の翌日から起算して2年を経過したときに完成する消滅時効を「本件消滅時効」という。)。 「保険金請求権は,次の時の翌日から起算して2年を経過した場合は,時効によって消滅します。 (1)(省略)(2)第20条第2項に定める手続が行われた場合には,当会社が同項の書類または証拠を受領した時の翌日から起算して30日を経過した時」(3)上告人は,平成14年8月11日,同月10日午後11時ころから翌11日正午ころまでの間に本件車両が盗難に遭った旨の被害届を警察に提出するとともに,保険金請求手続を行った(以下,上告人の行った保険金請求手続を「本件保険金請求手続」といい,同手続による上告人の被上告人に対する保険金請求を「本件保険金請求」という。)。 (4)被上告人は,本件保険金請求手続が行われた日から30日以内に必要な調査を終えることができなかった。そこで,同調査について被上告人から委任を受けた弁護士は,被上告人の代理人として,上告人に対し,平成14年11月5日付け- 3 -の「受任通知書兼調査協力のお願い」と題する書面(以下「本件協力依頼書」という。)を送付し,同書面は,そのころ上告人に到達した。本件協力依頼書には,「上告人から報告を受けた内容について,いくつか理解できない点があり,更に確認すべき点が残されていると判断した。ついては,これまでに十分に確認できなかった部分を改めてお尋ねしたいので,協力をお願いする。これらの調査は迅速に進め,その結果が出れば,保険金の支払に応ずるか否かについての最終判断を いると判断した。ついては,これまでに十分に確認できなかった部分を改めてお尋ねしたいので,協力をお願いする。これらの調査は迅速に進め,その結果が出れば,保険金の支払に応ずるか否かについての最終判断を速やかに連絡する。」旨の記載がされていた。 (5)上記弁護士は,上告人に対し,平成14年12月11日付けの「免責通知書」と題する書面(以下「本件免責通知書」という。)を送付し,同書面は,翌12日に上告人に到達した。本件免責通知書には,「上告人が被上告人の調査に種々協力したことについて謝意を表する。しかし,調査により確認された内容を慎重に検討した結果,上告人に対する保険金の支払には応じられないとの結論に達した。」旨の記載がされていた。 (6)上告人は,平成16年11月26日,本件訴訟を提起した。 (7)被上告人は,平成17年1月24日の第1審の第1回口頭弁論期日において,上告人の保険金請求権(以下「本件保険金請求権」という。)については,本件保険金請求手続が行われた時から30日を経過した時に本件消滅時効の進行が開始したので,本件保険金請求権は平成16年9月11日の経過により時効消滅しているとして,これを援用した。 原審は,本件保険金請求権については,本件保険金請求手続が行われた平成14年8月11日から30日を経過した日から2年の経過により本件消滅時効が完成し,本件保険金請求権は本件訴訟の提起時には既に時効消滅していたとして,上- 4 -告人の請求を棄却した。 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 上告人は,本件保険金請求権について,本件消滅時効の起算点を争い,上告人は本件免責通知書を受領するまでは本件保険金請求権を行使することができず,その履行期が到来していないのであるから,本件消滅時 。 上告人は,本件保険金請求権について,本件消滅時効の起算点を争い,上告人は本件免責通知書を受領するまでは本件保険金請求権を行使することができず,その履行期が到来していないのであるから,本件消滅時効は上告人が本件免責通知書を受領した平成14年12月12日から進行し,本件訴訟の提起時にはまだ本件消滅時効は完成していなかった旨主張する。 保険金支払条項による履行期は,同条項のただし書にかかわらず,保険金請求手続が行われた日からその日を含めて30日を経過した日に到来すると解すべきである(最高裁平成5年(オ)第1858号同9年3月25日第三小法廷判決・民集51巻3号1565頁参照)。しかし,前記事実関係によれば,本件保険金請求権については,保険金支払条項に基づく履行期が到来した後である平成14年11月5日付けで,被上告人の代理人である弁護士から上告人に対し,本件保険金請求についてはなお調査中であり,その調査に上告人の協力を求める旨記載した本件協力依頼書が送付され,その後1か月余り経過した同年12月11日付けで,同弁護士から上告人に対し,上告人の調査への協力には感謝するが,調査の結果,本件保険金請求には応じられないとの結論に達した旨記載した本件免責通知書が送付されたというのであるから,本件協力依頼書の送付から本件免責通知書の送付までの間は,被上告人が保険金を支払うことは考えられないし,上告人も,調査に協力してその結果を待っていたものと解されるので,訴訟を提起するなどして本件保険金請求権を行使することは考えられない。そうすると,被上告人の代理人による本件協力依- 5 -頼書の送付行為は,上告人に対し,調査への協力を求めるとともに,調査結果が出るまでは保険金の支払ができないことについて了承を求めるもの,すなわち,保険金支払条項に基づく履行期を調査 力依- 5 -頼書の送付行為は,上告人に対し,調査への協力を求めるとともに,調査結果が出るまでは保険金の支払ができないことについて了承を求めるもの,すなわち,保険金支払条項に基づく履行期を調査結果が出るまで延期することを求めるものであり,上告人は,調査に協力することにより,これに応じたものと解するのが相当である。したがって,本件保険金請求権の履行期は,合意によって,本件免責通知書が上告人に到達した同月12日まで延期されたものというべきである。そして,本件保険契約に適用される前記普通保険約款によれば,本件消滅時効の起算点は,保険金支払条項に基づく履行期の翌日とされているものと解されるところ,その履行期が同月12日まで延期されたのであるから,本件消滅時効の起算点は翌13日となる。上告人の上記主張は,このような履行期延期の主張を含むものと解される。 以上によると,本件消滅時効は,本件訴訟が提起された平成16年11月26日には,いまだ完成していなかったものというべきである。 これと異なり,本件消滅時効の起算点を平成14年8月11日から30日を経過した日とし,本件保険金請求権は本件訴訟の提起時には時効消滅していたとする原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官泉徳治裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官才口千晴裁判官涌井紀夫) 判官涌井紀夫
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