平成18(ネ)5651 退職金等請求控訴事件(通称 中部カラー退職金請求)

裁判年月日・裁判所
平成19年10月30日 東京高等裁判所
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判決文本文15,590 文字)

- 1 -主文 原判決を次のとおり変更する。 被控訴人は,控訴人に対し,701万3016円及びこれに対する平成16年7月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 控訴人のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを10分し,その9を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 控訴人(1)原判決を取り消す。 (2)被控訴人は,控訴人に対し,786万4530円及びこれに対する平成16年7月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (3)訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。 (4)仮執行宣言 被控訴人控訴棄却申立て第2事案の概要等 事案の概要本件は,被控訴人を退職した元従業員である控訴人が被控訴人に対し,平成12年4月1日一部変更の就業規則及び同就業規則の委任を受けた退職年金規程に従って計算した退職金1074万6530円から支払を受けた288万2000円を控除した残額786万4530円及びこれに対する平成16年7月18日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。これに対し,被控訴人は,就業規則は平成- 2 -15年4月1日に一部変更され,この変更後の就業規則に従って計算された退職金を控訴人に支払済みであるなどと主張し争った。原審は,控訴人の請求を棄却した。 そこで,控訴人がこれを不服として控訴した。 基礎となる事実は,原判決「事実及び理由」の第2の2に記載のとおりであり(同3頁11行目の「イ」を「ウ」と,同14行目の「ウ」を「エ」と,各改める。),争点及び双方の主張は,当審 して控訴した。 基礎となる事実は,原判決「事実及び理由」の第2の2に記載のとおりであり(同3頁11行目の「イ」を「ウ」と,同14行目の「ウ」を「エ」と,各改める。),争点及び双方の主張は,当審における双方の補充的主張を後記3項のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」の第2の3,第3に記載のとおりであるから,これを引用する。 当審における双方の補充的主張(1)控訴人ア乙2就業規則が従業員に対し周知されていなかったこと(原判決の争点(2))(ア)乙2就業規則が被控訴人の休憩室の壁に掛けてあったとの原判決の事実認定は,誤りである。 (イ)原判決は,「退職金準備制度の移行に関し,被告においては,朝礼での説明等が行われ,Aが従業員代表として意見書を提出し,中退共の契約の申込書に全従業員の自筆の署名又は押印がされたことなど(前記1(6))からすると,制度の変更及びそれに伴う就業規則の変更については,従業員に周知が図られたものと認められる。」と判示した。しかし,朝礼での説明において,控訴人は被控訴人から退職金の額,各自の退職金の額などについてなんら説明を受けなかったし,退職金が場合によっては半分以下になることに関する説明も受けなかった。また,中退共の契約の申込書に全従業員が自筆の署名押印をしたとしても,従業員は,退職金の額の具体的な算定方法を何もわからなかった。 (ウ)以上から,乙2就業規則は従業員に対し周知されていなかったもの- 3 -で,効力を有しない。 イ乙2就業規則には「退職手当の計算に関する事項」(労基法89条3号の2)に関する定めがないこと(原判決の争点(3))乙2就業規則には73条という規定があるが,「退職手当の決定,計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」は規定されていない。したがっ 2)に関する定めがないこと(原判決の争点(3))乙2就業規則には73条という規定があるが,「退職手当の決定,計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」は規定されていない。したがって,乙2就業規則が効力を有するとしても,退職金の計算に関しては,乙29就業規則,同就業規則80条の委任を受けた退職年金規程(甲1の2)が効力を有する。 仮に,乙2就業規則が被控訴人の休憩室の壁に掛けてあったとしても,それと「退職金・解約手当金の計算」(原判決別紙1),「金額例表について」(同2)は別個の文書であり,上記2通の文書は壁に掛けられていなかったから,それらが従業員に周知された(なお,周知の方法については,労基法106条,同法施行規則52条の2を参照。)ものとは解せない。 ウ本件は,支給されるべき退職金が780万8730円(率にして約73%)もカットされた事案であり,控訴人に著しい不利益を及ぼす就業規則の不利益変更であり,そのような不利益を労働者に対し法的に受忍させることを許容できる高度の必要性に基づいた合理的な内容のものとは認められない。 以上から,就業規則の変更のうち退職金の減額部分は無効であり,退職金の計算に関しては,乙29就業規則の別冊である退職年金規程(甲1の2)が効力を有する。 エ被控訴人の後記主張エについて(ア)被控訴人の後記主張エ(ア)は否認する。労働者の権利を最大限に保障するため,乙2就業規則80条の規定する退職年金規程により算出された退職年金額が同73条の計算による退職金額を上回る場合には,- 4 -80条の規定する退職年金規程により算出された退職年金額が退職金の額となる。 (イ)被控訴人の後記主張エ(イ)は否認する。乙29就業規則73条の「基準内賃金」とは,基本給のほかに諸手当を含むことは学説上明らか する退職年金規程により算出された退職年金額が退職金の額となる。 (イ)被控訴人の後記主張エ(イ)は否認する。乙29就業規則73条の「基準内賃金」とは,基本給のほかに諸手当を含むことは学説上明らかである。本件において,基本給21万3420円,職務手当3万円,職能手当6万5000円,家族手当2万5500円,以上合計33万3920円が基準内賃金となる。 (2)被控訴人ア控訴人の上記主張ア(乙2就業規則が従業員に対し周知されていなかったこと)について控訴人の同主張は否認する。 (ア)乙2就業規則が被控訴人の休憩室の壁に掛けてあったとの原判決の事実認定は正当であり,これにより従業員に対し就業規則は周知されていた。乙2就業規則が被控訴人の休憩室の壁に掛けられていたからこそ,控訴人は被控訴人に退職を申し出た後2度にわたり休憩室に掛けてあった就業規則を持ち出したのであった。 (イ)乙2就業規則73条の規定により,一義的に従業員各自の退職金を計算することは可能である。 他方,各従業員により中小企業退職金共済制度(中退共)の掛金月額,第一生命への振込金は相違するところ,被控訴人は従業員に対し,朝礼等の場において,制度の改訂について縷々説明した上,同改訂により中途退職者は不利となる可能性があることを伝え,同改訂により具体的な退職金の額を知りたい者は個別にこれを明示するので申し出ることを案内した。現に,被控訴人は,上記申出をした従業員に対しては,個別に明示してきた。 イ控訴人の上記主張イ(乙2就業規則には「退職手当の計算に関する事- 5 -項」(労基法89条3号の2)に関する定めがないこと)について控訴人の同主張は否認する。 (ア)乙2就業規則には,「退職金・解約手当金の計算」(原判決別紙1),「金額例表について」(同2)が添付されていな 基法89条3号の2)に関する定めがないこと)について控訴人の同主張は否認する。 (ア)乙2就業規則には,「退職金・解約手当金の計算」(原判決別紙1),「金額例表について」(同2)が添付されていなかったことは認める。 (イ)しかし,以下の点から,控訴人の上記主張は理由がなく,乙2就業規則は,「退職手当の計算に関する事項」(労基法89条3号の2)に関する定めを有していたものといえる。 a乙2就業規則73条は,「中小企業退職金共済と第一生命保険相互会社の養老保険への加入を行い,その支払い金額とする」旨定めており,被控訴人の従業員の退職金を確保するため,中退共及び第一生命の養老保険への加入契約を締結すること,従業員の退職金は以上の2つの支払金の合計額とすることを規定している。 b中退共及び第一生命の養老保険からの各支払金は,各加入契約に基づき,「退職金・解約手当金の計算」(原判決別紙1),「金額例表について」(同2)に則り,払込金額,勤続年数に応じて一義的に算出される。 c各従業員に支払われる退職金の額は,各従業員の年齢,勤続年数,制度改訂に伴い中退共の掛金として組み込まれた適格年金解約返戻金の額などにより,相違する。したがって,各従業員に支払われる退職金の額を,当該従業員の個人名を明示することなく一律に表記することは不可能である。そのため,乙2就業規則は,73条のほか,退職金の具体的な支払金額についての記載,規定は存在しない。 dしかし,中退共及び第一生命の養老保険への払込金は,各加入契約の時点において,現実に従業員ごとに定められており,各従業員はそれらを承知している。 - 6 -ウ控訴人の上記主張ウ(本件は,控訴人に著しい不利益を及ぼす就業規則の不利益変更であり,高度の必要性に基づく合理性がなかったこと)は争う。 本件の ,各従業員はそれらを承知している。 - 6 -ウ控訴人の上記主張ウ(本件は,控訴人に著しい不利益を及ぼす就業規則の不利益変更であり,高度の必要性に基づく合理性がなかったこと)は争う。 本件の就業規則の変更は,高度の必要性があり,変更後の就業規則の内容は相当であり,従業員に対し説明をした上就業規則を休憩室に備え置くなどして周知徹底を図り,そのような手続を踏んだ上従業員代表から改訂に異議がない旨の意見書が提出され,控訴人自身も中退共の申込書に署名しており,他の従業員からはなんら異議が述べられていない。 エ乙29就業規則の73条と80条との関係など(ア)80条の規定する退職年金規程により算出された退職年金額が73条の計算による退職金額を上回る場合は,本則である73条の計算による退職金額が上限となる。なぜならば,被控訴人において,適格退職年金制度は被控訴人の就業規則に基づく退職金規程を補完するためのものであり,80条後段の文言(退職年金規定による給付を受ける者については,当該給付(年金では当該年金源資相当額,一時金では当該一時金額)を73条に定める退職金から控除する。)からも,そのことは明らかである。 (イ)乙29の73条の「基準内賃金」とは,基本給と職務手当を合算したものをいう。 第3当裁判所の判断 事実の経過事実の経過は,原判決7頁12行目から同14頁12行目まで,同18頁20行目から同20頁2行目までの各記載のとおりであるから,それぞれ引用する。ただし,次の(1),(2)のとおり補正する。 (1)原判決7頁14行目の「(ただし,)から16行目の「を除く。」」までの記載を削除し,同14頁9行目の「参照して計算される。」の次に,- 7 -「しかし,同別紙1ないし3のうち同1,2は平成17年10月4日付け被控訴人準備書 し,)から16行目の「を除く。」」までの記載を削除し,同14頁9行目の「参照して計算される。」の次に,- 7 -「しかし,同別紙1ないし3のうち同1,2は平成17年10月4日付け被控訴人準備書面(6)に添付されて初めて提出されるに至ったもので,被控訴人が控訴人を含む従業員に対し,新制度への変更に関する説明をするに際し,それらを見せたことはなかった。また,同別紙3は,乙7の一部であるが,同文書1枚目右肩に「平成15年7月16日第一生命保険相互会社」と作成者及び作成日と思われる記載があり,左上部に「専務15.7.18B」という印が押捺され,それはB専務が平成15年7月18日に同文書を受け取ったことを意味すると認められるから,時期的にいって,前記就業規則の変更後のことであり,同変更の際における従業員に対する周知の点に影響を及ぼすものではない。」を加え,同18頁20行目の「(9)」を「(8)」と,同19頁6行目の「(10)」を「(9)」と,それぞれ改める。 (2)原判決12頁7行目から同13頁26行目までの記載を,以下のとおり改める。 「(6)被控訴人における制度変更に伴う諸手続等(甲3,乙18ないし23(後記のとおり,信用できない点は除く。),証人A,同B,控訴人本人及び後掲証拠)ア平成15年3月14日,被控訴人の取締役会において,C社長が,退職金準備制度を適格退職年金制度から中退共及び第一生命の養老保険に移行すること(以下,新たな制度を「新制度」,それまでの制度を「旧制度」ということがある。),役職定年を55歳から60歳に変更すること,これらのために就業規則の変更が必要であること,これにより60歳の定年まで在職した場合の給料及び退職金の合計額が増額することなどを説明し,これらの事項は異議なく承認された。 イ平成15年3月 こと,これらのために就業規則の変更が必要であること,これにより60歳の定年まで在職した場合の給料及び退職金の合計額が増額することなどを説明し,これらの事項は異議なく承認された。 イ平成15年3月17日,被控訴人の課長以上により構成される経営会議において,C社長が,前記アの取締役会における説明と同様に,- 8 -就業規則中の退職金に関する規定変更の必要性とその内容などについて説明を行い,出席者からは異議が出されなかった。上記経営会議には,C社長,B専務,A総務課長,D課長のほか,営業課長であった控訴人も出席していた。 しかし,その経営会議について会議録が作成されているわけでもなく,C社長が説明した内容を正確に再現することは困難であるが,少なくとも,新制度において,中途退職した場合には,旧制度に比較して退職者に不利となることはなんら告げられていない(証人B)。 ウ翌平成15年3月18日,被控訴人の定例の全体朝礼において,C社長,B専務が,控訴人を含む全従業員に対し,初めて新制度への変更に関する話をした。その際全従業員に対し説明された内容については,前記イと同じく,何ら議事録などは作成されていない。 被控訴人は,退職金準備制度を適格退職年金制度から中退共及び第一生命の養老保険に移行すること,役職定年を55歳から60歳に変更すること,これらのために就業規則の変更が必要であること,これにより,中途退職すると退職金が現在より減額される場合があるが,60歳の定年まで在職した場合の給料及び退職金の合計額が増額することなどを説明した,質問のある者はB専務に問い合わせるように伝えたなどと主張し,それに符合する証拠(乙18ないし23,証人A,同B)を提出する(その評価については,後述する。)。 エ前記ウの全体朝礼における説明から2週間を経過するまで に問い合わせるように伝えたなどと主張し,それに符合する証拠(乙18ないし23,証人A,同B)を提出する(その評価については,後述する。)。 エ前記ウの全体朝礼における説明から2週間を経過するまでの間,A総務課長(同人は,現在,被控訴人の取締役に栄進している。)以外の従業員から,何ら問い合わせがなかった。これに対し,A課長は,直ちに退職した場合の自分の退職金の金額についての問い合わせを会社にしたとの証言(証人A)がある(その信用性については後述する。)。 - 9 -C社長は,平成15年4月1日,全体朝礼において,改めて就業規則中の退職金に関する規定の変更について質問等がないか控訴人を含む従業員に尋ね,質問があればその場で申し出るように述べたが,誰も質問等をしなかった。 そこで,C社長は,従業員に対し,「従業員全員が退職金に関する規定の変更に関する報告,説明を理解し,その変更に同意したと解釈する。ついては,代表者を選任してその旨の意見書を提出してほしい」旨述べた。D課長から,A総務課長を代表とするのが適当であるという推薦があり,出席者全員の挙手により,全員一致でA総務課長が代表に選ばれ,同人が従業員代表として意見書を提出することになった。 オA総務課長は,平成15年4月1日,従業員代表としてC社長宛に,就業規則中の退職金に関する規定の変更について異議がない旨の意見書(乙2の末尾に添付されたもの)を提出した。被控訴人は,同日,乙29就業規則を一部変更して乙2就業規則とした。 しかし,乙2就業規則は,第11章として「退職金及び退職功労金」に関する規定(73条から77条まで)を置いているが,退職金の金額の計算,算出に関しては,73条で,「中小企業退職金共済と第一生命保険相互会社の養老保険への加入を行い,その支払い金額とする。」という 関する規定(73条から77条まで)を置いているが,退職金の金額の計算,算出に関しては,73条で,「中小企業退職金共済と第一生命保険相互会社の養老保険への加入を行い,その支払い金額とする。」という規定を置いているだけである。また,乙2就業規則について,被控訴人は平成12年4月26日に行われた退職年金規程の制定(変更)の際とは異なり,労働基準監督署に対する届出をしなかった。 カ平成15年8月1日,従業員19名が中退共の契約である中小企業退職金共済契約申込書(勤労者退職金共済機構中小企業退職金共済事業本部宛)に自筆で署名又は押印した。控訴人も,同申込書に自筆で- 10 -署名した(乙4)。 キ平成15年8月26日,被控訴人は,第一生命との間で養老保険の契約を締結し,同月29日,適格退職年金制度による積立金が中退共の掛金に移行され,中退共への移行の手続が正式に完了した(乙18,証人B)。 ク被控訴人の就業規則の従業員への周知に関して,就業規則が被控訴人の休憩室の壁に掛けてあり,そのことを従業員は知っていた旨の陳述,証言(乙19ないし22,25ないし27,証人B,同A)がある一方,同就業規則が同休憩室の壁には掛けてなかったとの陳述,供述(甲3ないし7,控訴人本人)がある。 しかし,本件で問題となっているのは,平成15年4月1日に変更された乙2就業規則であり,同日以降のことが問題であるところ,乙2就業規則は,前記のとおり,退職金の金額の計算,算出に関して,73条という規定を置くだけである。それ以外,乙2就業規則(別文書を引用する場合も含む。)には,中退共から支給される退職金の金額,第一生命の養老保険の解約返還金の金額の計算を可能とする原判決の別紙(同1ないし3)に添付されたようなものは,存在しない。 したがって,被控訴人の就業規則が被 には,中退共から支給される退職金の金額,第一生命の養老保険の解約返還金の金額の計算を可能とする原判決の別紙(同1ないし3)に添付されたようなものは,存在しない。 したがって,被控訴人の就業規則が被控訴人の休憩室の壁に掛けてあったとしても,中退共から支給される退職金の金額,第一生命の養老保険の解約返還金の金額の計算,代表的な解約時期による返還金の各予測を可能とするものは含まれていなかった。」 以上の事実に基づき,争点について判断する。 (1)争点(1)(就業規則の変更の有無)についてア乙2,29号証によれば,乙29就業規則の末尾には,変更日が「平成6年4月1日一部変更」,「平成9年4月1日一部変更」,「平成12年4月1日一部変更」と記載されているのに対し,乙2就業規則の末尾には,- 11 -変更日が「平成6年4月1日一部変更」,「平成15年4月1日一部変更」と記載されているだけであり,乙2就業規則には,変更の経過がすべて記載されているわけではないことが認められる。 イしかし,平成14年4月1日に確定給付企業年金法が施行され,全国の企業に対して,退職金準備制度を適格退職年金制度から他の制度への移行することが求められ,被控訴人においても新制度を採用することとし,移行のための手続がとられ(引用にかかる原判決10頁1行目以下の第4,1(4)ないし(6)),平成15年4月1日に乙29就業規則を一部変更して乙2就業規則としたものである。 ウ以上から,被控訴人は,労働基準監督署に対する変更の届出はしていないが,乙29就業規則を一部変更して乙2就業規則を成立させたものと認められる(その有効性の点は,後述する。)。 (2)争点(2)(変更後の就業規則の有効性)についてア乙2就業規則が労働基準監督署への届出が行われなかったことは,前記のと 規則を成立させたものと認められる(その有効性の点は,後述する。)。 (2)争点(2)(変更後の就業規則の有効性)についてア乙2就業規則が労働基準監督署への届出が行われなかったことは,前記のとおりである。 イしかし,就業規則の変更について,労働基準監督署への届出がなかった場合であっても,従業員に対し実質的に周知されていれば,変更は有効と解する余地があるので,以下,乙2就業規則への変更が従業員に対し,実質的に周知されたかについて判断する。 (ア)まず,経営会議,全体朝礼における説明などについて検討する。 a引用にかかる前記1(6)イ記載のとおり,平成15年3月17日に行われた上記経営会議においては,新制度において,中途退職した場合には,旧制度に比較して退職者が不利となることはなんら告げられなかった。 b次に,翌平成15年3月18日に行われた全体朝礼における説明であるが,退職金準備制度を適格退職年金制度から中退共及び第一生命- 12 -の養老保険に移行すること,役職定年を55歳から60歳に変更すること,これらのために就業規則の変更が必要であること,これにより,中途退職すると退職金が現在より減額される場合があるが,60歳の定年まで在職した場合の給料及び退職金の合計額が増額することなどを説明した,質問のある者はB専務に問い合わせるように伝えたなどとの被控訴人の主張に符合する前記証拠については,以下のような疑問があり,被控訴人の前記主張,証拠を全面的に採用することはできず,中途退職した場合の退職金の額の問題の説明がされたという点は,採用できない。 (a)前記のとおり,上記説明の内容については何ら客観的に明らかにするものは作成されておらず,前記被控訴人の主張に符合する証拠は供述証拠(陳述,証言),それも,被控訴人の経営者,従業員 きない。 (a)前記のとおり,上記説明の内容については何ら客観的に明らかにするものは作成されておらず,前記被控訴人の主張に符合する証拠は供述証拠(陳述,証言),それも,被控訴人の経営者,従業員の供述にすぎず,それらの者の地位,立場等を考えると,その供述証拠の信用性を慎重に判断すべきである(控訴人の本訴請求が認容され,強制執行がされると,被控訴人の経営,存続に重大な影響が生じるおそれがあり,更には,控訴人以外にも,似たような立場にある退職者が複数おり,被控訴人は更に影響を受けるおそれがある。 乙23,証人A,弁論の全趣旨)。更に,A総務課長が被控訴人に対し,直ちに退職した場合の自分の退職金の金額について問い合わせをしたという同人の証言は,それについて客観的な証拠が残っているものではないこと,A総務課長の地位,立場(現在は,被控訴人の取締役に栄進している。)などから,直ちに信用することはできない。 (b)全体朝礼を開催するにあたり,被控訴人は全従業員に対し,制度変更の必要性,新制度の概要,従業員にとってのメリット,デメリットなどを記載した説明文書等を一切配付・回覧しておらず,そ- 13 -のことは,その後就業規則の変更の手続を取るまでの間も,同じであった。旧制度から新制度への変更は,一般の従業員からすると,その内容を直ちに理解することは困難であり,被控訴人が全従業員に対し,制度変更を周知させる意思があるならば,まずは説明文書(たとえば,乙16,17など,あるいは,少なくとも,それらの要点をわかりやすく摘記したもの)を用意した上それを配布するか回覧に供するなどし,更に必要に応じて説明会を開催することが使用者として当然要求されるところであり,それが特に困難であったというような事情はない。ところが,本件において,被控訴人はそのよう するか回覧に供するなどし,更に必要に応じて説明会を開催することが使用者として当然要求されるところであり,それが特に困難であったというような事情はない。ところが,本件において,被控訴人はそのような努力をなんら払っていない。 (c)被控訴人は,新制度は旧制度に比較して,中途退職すると退職金が減額される場合があることを説明したというが,どのように具体的に説明をしたのか(年齢,勤続年数,中途退職の時期などを基準にして具体的な説明をしたのかどうかなど。)は,本件証拠上全く不明である。 (d)かえって,始業前の全体朝礼という性格上,詳細な説明をしたとは考え難く,極めて概略的な説明だけしかしなかったと考えるのが素直である。 (e)全体朝礼の場で,従業員から被控訴人に対し,特に質問,意見は出されなかったが,このことは,新制度のうち従業員にとって不利となる可能性がある事項(中途退職した場合の退職金の額が少なくなるとの問題は,その主要なものである。)について,被控訴人から全従業員に対し,具体的に説明されなかったからであると考えるのが合理的である。たとえば,控訴人や他の従業員が比較的早期に中途退職した場合,新制度下では旧制度下と比べ,その退職金の額が大幅に少なくなることを具体的に告げられたならば,被控訴人- 14 -に対し,何らかの質問,意見が出されるのが自然である。 c次に,平成15年4月1日に行われた全体朝礼について検討する。 同日,C社長は,改めて,就業規則中の退職金に関する規定の変更について質問等がないか控訴人を含む従業員に尋ね,質問があればその場で申し出るように述べたが,誰も質問等をしなかったことは事実である。 しかし,同日までに被控訴人が従業員に対して行った説明内容が前記のとおりの不十分なものであったから,誰も質問等をしなかったか の場で申し出るように述べたが,誰も質問等をしなかったことは事実である。 しかし,同日までに被控訴人が従業員に対して行った説明内容が前記のとおりの不十分なものであったから,誰も質問等をしなかったからといって,実質的周知が図られたわけではない。 d以上から,経営会議,全体朝礼における説明などにより,控訴人を含む従業員に対し,実質的周知がされたものとはいえない。 (イ)次に,被控訴人の休憩室の壁に就業規則が掛けてあり,そのことを従業員は知っていたとの被控訴人の主張について検討する。 a前記のとおり,乙2就業規則には,退職金の金額の計算,算出に関して,73条という規定を置くのみであり,それ以外,中退共から支給される退職金の金額,第一生命の養老保険の解約返還金の金額の計算を可能とする原判決の別紙1ないし3として添付されたようなものが存在しない。したがって,被控訴人の就業規則が被控訴人の休憩室の壁に掛けてあったとしても,中退共から支給される退職金の金額,第一生命の養老保険の解約返還金の金額の計算を可能とするものが掛けられていたわけではなかった。 b労働基準法89条3号の2は,「退職手当の定めをする場合においては,適用される労働者の範囲,退職手当の決定,計算及び支払並びに退職手当の支払に関する事項」について就業規則を作成し,行政官庁に届け出ることを要求している。 ところが,本件において,届出の点は措くとしても,退職手当の決- 15 -定,計算に関して乙2就業規則には定められておらず,仮に,被控訴人の休憩室の壁に就業規則が掛けてあったとしても,それは退職手当の決定,計算に関する事項に関する規程を含まない就業規則にすぎない。 以上から,仮に,被控訴人の休憩室の壁に乙2就業規則が掛けてあったとしても,控訴人を含む従業員に対し,退職金の計算につ は退職手当の決定,計算に関する事項に関する規程を含まない就業規則にすぎない。 以上から,仮に,被控訴人の休憩室の壁に乙2就業規則が掛けてあったとしても,控訴人を含む従業員に対し,退職金の計算について実質的周知がされたものとはいえない。 なお,新制度は,退職金準備制度を適格退職年金制度から中退共及び第一生命の養老保険に移行することとしたが,このうち養老保険は運用利回りの変動に伴い配当,返戻金も変動するから,就業規則に確定額を記載することはできない。しかし,就業規則においては,被控訴人が退職者に対し,一定の条件を満たす従業員が退職した場合には退職金を支給すること,被控訴人は,退職金を,中小企業退職金共済制度による給付と第一生命の養老保険による保険金により支払うものとすること,中小企業退職金共済制度による給付(基本退職金及び付加退職金)は,従業員ごとに掛金月額を設定し,掛金納付月数により給付額が算定されるものであり,掛金納付月数が12月未満の場合は退職金は支給されず,12月以上24月未満の場合は,掛金納付額を下回ることなどを明示すること,被控訴人は従業員に対し,中小企業退職金共済事業団,第一生命から定期的に受け取る確定給付金企業年金又は養老保険の業務の運用状況等の情報(具体的には,中小企業退職金共済事業団については,掛金納付状況票及び退職金試算票(乙6)など)を事務所に備え付けるなどし,かつ,そのように備えつけてあることを速やかに従業員に対し周知させるものとすることなどの規定を設けることは,十分可能である。 (ウ)以上から,乙2就業規則への変更が従業員に対し実質的に周知され- 16 -たとは認められない。 そして,この結論は,控訴人が中退共の契約である中小企業退職金共済契約申込書(勤労者退職金共済機構中小企業退職金共済事業本部宛) 変更が従業員に対し実質的に周知され- 16 -たとは認められない。 そして,この結論は,控訴人が中退共の契約である中小企業退職金共済契約申込書(勤労者退職金共済機構中小企業退職金共済事業本部宛)に自筆で署名したこと(前記1(2)で引用する(6)カ),控訴人が退職願を提出した際,被控訴人の会長らが慰留したこと(引用にかかる原判決18頁23行目から26行目まで)により,影響を受けるものではない。 そして,乙2就業規則への変更が従業員に対し実質的に周知されたとは認められないことなどから,同変更は無効であり,乙29就業規則が効力を有するものと認める。 (3)乙29就業規則による退職金の額ア被控訴人の当審における主張エ(乙29就業規則の73条と80条との関係など)について(ア)乙29就業規則は,その第11章(73条ないし81条)において退職金及び退職功労金について定め,73条は,「退職金は退職直前の3ヶ月間の平均1ヶ月基準内賃金に別表の支給率を乗じた金額とする」旨定め,80条は,「退職金の支給については,第11章による外,別に定める退職年金規程に基づいてこれを支給する」旨,「退職年金規程による給付を受ける者については,当該給付(年金では当該年金源資相当額,一時金では当該一時金額)を第73条に定める退職金から控除する」旨定めていることは,引用にかかる前提事実記載のとおりである。 (イ)上記80条の「退職年金規程」として被控訴人において制定されたのが甲1の2の退職年金規程(平成12年4月26日に松本労働基準監督署へ届出済み)である(引用にかかる前提事実及び甲1の2,弁論の全趣旨)。同退職年金規程15条で規定する退職一時金について,同別表3に勤続年数に従い確定額が記載されている。控訴人は,勤続年数は- 17 -28年9か月である(引 る前提事実及び甲1の2,弁論の全趣旨)。同退職年金規程15条で規定する退職一時金について,同別表3に勤続年数に従い確定額が記載されている。控訴人は,勤続年数は- 17 -28年9か月である(引用にかかる前提事実)から,勤続年数は29年として計算すべきで(乙29の別表3の下部欄外の定めにより計算すると,勤続28年9か月の支給率は,勤続29年の支給率と同じ29.8となる。),1074万6530円となる。 (ウ)他方,乙29就業規則の73条に続けて,別表1ないし3が掲げられており,退職一時金の額は,平均退職直前の3か月間の平均1か月基準内賃金に別表の支給率を乗じた金額とするとされ,同別表3によると,控訴人の支給率は29.8となる。 (エ)ところで,後記のとおり,上記(ウ)の基準内賃金の意味をどのように解するかについては争いがあるが,上記(イ)記載の1074万6530円の方が(ウ)記載の退職一時金の額を上回ることとなるから,控訴人の退職一時金の額は,上記(イ)と(ウ)のいずれの条項に基づき算出すべきかが問題となる。 (オ)上記のような問題が生じたのは,乙29就業規則自体に矛盾があったことに直接の原因があるが,以下の理由から,乙29就業規則の73条,同支給率表に基づき,退職金が算出されるべきであり,同80条,それを受けた甲1の2の退職年金規程による金額の方がそれより高いからといって,同80条,それを受けた甲1の2の退職年金規程によることはできないものと認める。 a乙29就業規則は,その第11章(73条ないし81条)に退職金及び退職功労金について定めているが,その最初の規定である73条は,「(支給基準)」として「退職金は退職直前の3ヶ月間の平均1ヶ月基準内賃金に別表の支給率を乗じた金額とする。」と明快に定めており,それに続けて,別表 いて定めているが,その最初の規定である73条は,「(支給基準)」として「退職金は退職直前の3ヶ月間の平均1ヶ月基準内賃金に別表の支給率を乗じた金額とする。」と明快に定めており,それに続けて,別表1ないし3(支給率表)を掲げている。 以上のような条文の体裁,文言から,退職金の額の計算方法(支給基準)は73条によるものと解するのが素直である。 - 18 -b被控訴人は,昭和39年9月,E株式会社(以下「E」という。)の子会社として設立されたもので,両社間の退職年金規程の定め,支給率表の類似性からも明らかなように,被控訴人はEのものを参考にして退職年金規程を定めたようである(乙46ないし48,弁論の全趣旨)。そして,Eの退職年金規定(乙49)によれば,同社では,退職年金,退職一時金,遺族一時金という3種類の給付を定め,このうち退職一時金は基準給与に給与年別支給率を乗じた額とされ(16条前段),「第3章制度の運営」の冒頭の規定である19条において,会社は本制度の健全なる運営を計るため,加入者を被保険者とする企業年金保険契約を締結するとされている。すなわち,Eの退職年金制度は,退職年金,退職一時金,遺族一時金,以上3種類の給付をもうけ,その財源を確保する手段として,企業年金保険を採用したと見られる。被控訴人の退職年金規定も,それと同様と見るのが,被控訴人の設立経緯等から相当である。 c乙29就業規則の80条は,退職金と退職年金との関係,その調整に関する規定であるが,同条後段の規定(「退職年金規定による給付を受ける者については,当該給付(年金では当該年金源資相当額,一時金では当該一時金額)を第73条に定める退職金から控除する。」)は,退職年金規程による給付は本来の退職金の支払のための手段であることを意味すると解するが相当である。 d被 当該年金源資相当額,一時金では当該一時金額)を第73条に定める退職金から控除する。」)は,退職年金規程による給付は本来の退職金の支払のための手段であることを意味すると解するが相当である。 d被控訴人において,73条により算出された額より高い80条により算出された額の退職一時金を受領した退職者は,過去において見当たらない(弁論の全趣旨)。 イ次に,乙29就業規則73条の規定する基準内賃金の意義について検討する。 基準内賃金という言葉の意義は,一般に毎月決まって支給される賃金の- 19 -ことをいい,基本給と諸手当とからなるものである(甲9,10)。これに対して,被控訴人において,同社においてはそのような一般の用語例とは異なると前記のとおり主張するが,被控訴人において基準内賃金が定義されたような規程,被控訴人における過去の退職金支払の取扱例などを証拠として一切提出していない。 以上から,本件において,基準内賃金という言葉は,一般の用語の意義に従い解釈するのが相当である。 平成15年11月当時,控訴人は,被控訴人から,基本給として21万3420円,職務手当として3万円,職能手当として6万5000円,家族手当として2万5500円を支給されており,合計すると33万3920円となり,平均退職直前の3か月間の平均も同額と推認される。 ウ以上から,控訴人の退職一時金は,995万0816円(33万3920円×29.8)となる。 エ控訴人が被控訴人から退職金として受領した額は中退協の退職金288万2000円と第一生命の養老保険の解約返還金5万5800円である(乙10,11,弁論の全趣旨)から,不足額は701万3016円となる。 よって,以上の判断に従い,原判決を主文のとおり変更することとする。 東京高等裁判所第14民事部裁判長裁判官西田 ある(乙10,11,弁論の全趣旨)から,不足額は701万3016円となる。 よって,以上の判断に従い,原判決を主文のとおり変更することとする。 東京高等裁判所第14民事部裁判長裁判官西田美昭裁判官犬飼眞二- 20 -裁判官窪木稔

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