平成17(わ)7238 弁護士法違反,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成19年2月7日 大阪地方裁判所
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判決文本文19,744 文字)

主文 被告人を懲役2年に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 本件公訴事実中,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反の点については,被告人は無罪。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,A弁護士会登録弁護士であるが,「弁護士『被告人』法律事務所事務局長」と称するBらが,弁護士でなく,かつ,法定の除外事由がないのに,報酬を得る目的で,業として,別表①(略)記載のとおり,平成10年6月23日ころから平成16年5月17日ころまでの間,45回にわたり,大阪市(以下略)所在のaのb号室の「『被告人』法律事務所」と称する事務所等において,Cらから,自動車による交通事故に関し,自動車損害賠償保障法に基づく保険会社に対する損害賠償金の支払請求及びその受領並びに任意保険契約に基づく保険会社との間の損害賠償額の示談交渉,その取りまとめ及び示談金の受領等を依頼されてこれを受任し,前記Cら依頼者を代理して,平成10年8月18日ころから平成16年7月21日ころまでの間,同区(以下略)所在のdビルe階D株式会社E部等において,損害賠償金の支払請求をし,あるいは示談交渉をしてこれを取りまとめ,同区(以下略)所在の株式会社F銀行(平成15年3月1日からは「株式会社G銀行」と名称変更。)H支店(平成16年4月19日からは同区(以下略)所在の同行I支店に統合。)に開設した「預り金口座弁護士『被告人』」名義の普通預金口座に損害賠償金又は示談金の振込送金を受けてこれを受領するなどした際,Jと共謀の上,前記Bらに対し,弁護士『被告人』の名義を利用させ,もって,法律事件に関して法律事務を取り扱うことを業とする者に自己の名義を利用させたものである。 (争点に対する判断)第1本件の争点 本件公訴事実の要旨本件公訴事実の要旨 名義を利用させ,もって,法律事件に関して法律事務を取り扱うことを業とする者に自己の名義を利用させたものである。 (争点に対する判断)第1本件の争点 本件公訴事実の要旨本件公訴事実の要旨は,既に判示した罪となるべき事実と同旨の事実に加え,「被告人は,Jらと共謀の上,法定の除外事由がないのに,(1)平成14年12月31日ころ,堺市(以下略)所在のfビル(以下「fビル」という。)g階の衆議院議員『被告人』事務所(以下「堺事務所」という。)において,Bらが財産上不正な利益を得る目的で犯した弁護士法違反(非弁護士による法律事務の取扱い,以下「非弁行為」という。)の報酬として依頼者Kらから得た犯罪収益等現金合計528万0100円を,その情を知りながら,Bからその妻L(以下「L」という。)を介して受領し,(2)別表②(略)記載のとおり,平成15年1月8日ころから平成16年10月4日ころまでの間,22回にわたり,(1)同様の犯罪収益等現金合計308万円を,その情を知りながら,Bから,堺市(以下略)所在の株式会社F銀行M支店(平成15年3月1日からは「株式会社G銀行M支店」と名称変更。)に開設した被告人管理の被告人名義の普通預金口座(以下「被告人口座」という。)に振込入金させて受領し,もって,それぞれ情を知って,犯罪収益等を収受した。」というものであり,被告人を,弁護士法77条,27条違反の罪(以下「名義貸し罪」という。)と共に,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)11条違反の罪(以下「犯罪収益等収受罪」という。)に問うものである。 当事者の主張等(1)名義貸し罪について(争点(1))弁護人は,同罪の成立は争わないとしつつも,被告人は,その法律事務所の事務員としてBを雇用していたが 受罪」という。)に問うものである。 当事者の主張等(1)名義貸し罪について(争点(1))弁護人は,同罪の成立は争わないとしつつも,被告人は,その法律事務所の事務員としてBを雇用していたが,Bに対する指導監督を十分に行えない状況に陥ったにもかかわらず,安易にその雇用を継続した結果,Bの行為が非弁行為となるとともに,被告人の行為も名義貸しと評価されるに至った旨主張し,また,それゆえに,被告人は自己の行為の違法性を意識していなか った(ただし,被告人が弁護士であることに鑑みて,違法性を意識する可能性がなかったとはいえないから,違法性の意識の欠如は情状面において考慮されるべきである。)などと主張する。 これに対し,検察官は,冒頭陳述において,政治活動資金に窮し,政治活動に専念しつつ収入を得る方策を模索していた被告人が,当初から,自らは法律事務を取り扱う必要もなく,弁護士名義をBに利用させるだけで多額の報酬が得られるとの考えの下に,Bに弁護士名義を利用させることを決め,本件犯行に及んだ旨の事実経過を述べており,弁護人とは異なる主張をしている。 被告人は,公判廷では,おおむね弁護人の主張に沿う供述をするが,捜査段階の被告人の供述調書の中には,検察官の主張に沿うかのような供述も存在する。 (2)犯罪収益等収受罪について(争点(2))弁護人は,法律解釈にもかかわる争点として,①本件には暴力団犯罪等の組織的な犯罪を誘発,助長する事情がないから,組織的犯罪処罰法の立法趣旨に照らして,同法は適用されない,②犯罪収益等収受罪の犯意が存在するというには,収受者が前提犯罪の本犯者の具体的な行為状況を認識しているだけでは足りず,それが違法な行為に当たることの認識も必要であると解されるところ,被告人は,Bの行為が違法な非弁行為であることを認識してい ,収受者が前提犯罪の本犯者の具体的な行為状況を認識しているだけでは足りず,それが違法な行為に当たることの認識も必要であると解されるところ,被告人は,Bの行為が違法な非弁行為であることを認識していなかったから,被告人には故意がなかった,③被告人は,Bを事務員として雇用した時点では,Bの被雇用者としての債務の履行が犯罪収益等によって行われることを知らなかったから,被告人の行為には組織的犯罪処罰法11条ただし書が適用される,④本件名義貸し罪は,社会的事象としてはBの非弁行為罪の共同正犯と同一視できるから,被告人が犯罪収益等を収受した行為は名義貸し罪(あるいは,実体的に成立している非弁行為罪の共同正犯)で評価し尽くされており,別途犯罪収益等収受罪は成立しない,⑤(④のよ うに社会的事象として名義貸し罪を非弁行為罪の共同正犯と同一視できないとしても,)被告人が収受した前記1記載の合計836万0100円(以下「本件金員」という。)は,Bが被告人に帰属する預金口座から引き出して交付したもので,この金員がBに帰属したことはないから,本件金員が犯罪収益性を帯びたことはないなどとして,いずれの理由からも被告人は無罪であるとし,さらに,専ら事実認定にかかわる問題として,⑥被告人は,平成15年4月以降は,Bが被告人口座に毎月14万円を振込んでいた事実を知らなかったとも主張している。 そこで,名義貸し罪については,その成否に争いはないものの,前記のような各当事者の主張に鑑み,以下,念のため,既に判示した事実を認定した理由と被告人の主観(認識)に関する当裁判所の判断を示すこととする。また,犯罪収益等収受罪については,前記2(2)④⑤の弁護人の主張(⑤についてはその一部)に理由があることから,被告人は無罪であると判断したので,その理由について説明する。 判断を示すこととする。また,犯罪収益等収受罪については,前記2(2)④⑤の弁護人の主張(⑤についてはその一部)に理由があることから,被告人は無罪であると判断したので,その理由について説明する。 第2前提となる事実関係被告人の捜査段階及び公判における供述,BやJを始めとする関係者の供述等の関係証拠によれば,本件に関し,以下の事実が認められる。 被告人の弁護士及び衆議院議員としての活動状況等被告人は,昭和60年4月4日,A弁護士会に弁護士登録を行うとともに,いわゆる勤務弁護士として業務を開始したが,その後独立し,昭和63年7月ころからは,大阪市(以下略)に開設した「『被告人』法律事務所」で,弁護士は被告人1名,事務員1名という体制で弁護士業務を行うようになった。独立の前後を通じて,交通事故にかかわる案件の処理に携わったのは数件程度であったが,その際には,被告人自身が直接依頼者と面談するなどしていた。 被告人は,平成5年に施行された衆議院議員総選挙で初当選し,その後も,平成8年,平成12年,平成15年及び平成17年にそれぞれ施行された同選 挙でいずれも当選し,その間の平成11年10月には防衛政務次官にも就任した。そのため,平成5年の初当選以降,活動の中心は衆議院議員としての業務,政治活動に移り,少なくとも平成9年秋までの間は弁護士としての業務は休業状態にあった。 被告人の政治活動等の拠点は,衆議院第2議員会館の事務所(以下「東京事務所」という。)と堺事務所であり,主に東京事務所にJ(平成7年ころから政治的信条等に共感し合って懇意にし始め,平成10年8月から公設第1秘書を,平成11年10月から政策担当秘書を務めている。)らが,堺事務所にN(平成6年ころから平成15年3月ころまで秘書等を務めていた。),O(平成13年3月中旬ころから事 成10年8月から公設第1秘書を,平成11年10月から政策担当秘書を務めている。)らが,堺事務所にN(平成6年ころから平成15年3月ころまで秘書等を務めていた。),O(平成13年3月中旬ころから事務職員として経理等を担当している。)らがおり,被告人の政治活動等を補佐していた。 Bが,被告人の法律事務所で,自動車等による交通事故による被害に関し,自動車損害賠償保障法あるいは任意保険契約に基づく損害賠償の請求や示談交渉等(以下,併せて「損害賠償請求等」という。)を行うようになった経緯Bは,昭和58年ころから,政治記事を掲載する雑誌を発行する「株式会社P社」(以下「P社」という。)を経営しており,議員会館等に出入りする一方,昭和57年ころから,弁護士資格がないのに交通事故当事者を代理して損害賠償請求や示談交渉をする非弁行為を行い,平成3年2月には,弁護士法違反罪等により懲役1年に処せられて服役した。出所後,Bは,P社の経営で生計を立てていたが,平成8年ころには,P社の経営がかなり苦しく,B自身が多額の負債を抱えていたことなどから,非弁行為を通じて得た知識を利用して,保険会社から依頼を受けて交通事故に関する医療調査等を行う調査会社を営むようになった。 なお,BとJとは,後記Qを介するなどして,Bの服役の前後を通じて,JがP社の出版に協力するなどの付き合いがあった。 そうした折の,平成8年末ないし平成9年初めころ,Bは,当時P社の東京 事務所を任せていたQから,その資金繰りについて相談されるとともに,交通事故関係の仕事の再開を提案され,さらに,同年6月ころには,「『被告人』は,本業の弁護士業が開店休業らしいですよ。Jさんの話では,向こうもお金が大変みたいです。一回『被告人』の事務所を再開する話をしてみたらどうですか。」などとも言われた。そ 6月ころには,「『被告人』は,本業の弁護士業が開店休業らしいですよ。Jさんの話では,向こうもお金が大変みたいです。一回『被告人』の事務所を再開する話をしてみたらどうですか。」などとも言われた。そこで,Bは,「弁護士『被告人』」の名前を前面に押し出せば,B自身が損害賠償請求等を行っても非弁行為とはならず,相応の報酬を得ることができる上,被告人にとっても,その収入が政治活動資金の足しになるのではないかと考え,QやJに被告人と面談する機会を作るよう頼んだ。 Bは,同月ころ,議員会館に被告人を訪ね,Jも同席する中,被告人に対し,「代議士は弁護士の資格を持っておられるのに,お忙しいために,法律事務所は開店休業状態とお聞きしましたが,それはもったいない話です。私は,交通事故のことでしたら精通しておりますし,自信がありますので,交通事故の事務処理はミスなくやれます。以前,保険会社から依頼を受けてリサーチをやっていたこともありますので,任せていただければ責任持ってできます。法律事務所をきちんと再開されませんか。依頼者からもらう報酬は,およそ1割程度と考えています。報酬の半分は,私の歩合ということで,経費はこちらで負担します。毎年,少なくとも500万円くらいは,代議士にお渡しできると考えています。」などと言った。すると,被告人は,「そうやな,分かった。交通以外は自分がやるわ。交通は,あんたに任せるという方向でやってみよか。」などと概括的な了解の意思を示した。また,その1ないし2週間後,被告人は,堺事務所において,Bから,損害賠償請求等の手続や,Bが後遺障害に関して的確な等級の認定を導くことができることなどを聞いた。そして,これら2回程度の面談を経て,被告人は,Bとの間で,依頼者から着手金は取らないこと,弁護士報酬は得られた損害賠償金等の1割程度とし 関して的確な等級の認定を導くことができることなどを聞いた。そして,これら2回程度の面談を経て,被告人は,Bとの間で,依頼者から着手金は取らないこと,弁護士報酬は得られた損害賠償金等の1割程度とし,その半分をBの歩合制の給料とすること,Bの執務場所は当時P社の事務員が使用していた判示aのb 号室に置き,その経費はBが負担することなどを合意した(以下,これを「本件合意」という。)。 Bによる損害賠償請求等の事務取扱状況等(1)概要Bは,同年秋ころ,「『被告人』法律事務所」と書かれたプレートや,被告人の認め印,自身がその事務員であることの身分証明書等を用意し,事務員を雇い入れるなどしてaのb号室に法律事務所の体裁を整えた。そして,主として知人等から紹介された交通事故の被害者等からの相談を受け,弁護士「被告人」の名前で損害賠償請求等の事務を受任し始めた。 その際,Bは,法律事務所の事務局長を名乗って相談者と面談し,取得できる損害賠償金等を予測してその案件を受任するかどうかを判断し,受任する案件については,依頼者に,調査表(依頼者の氏名・連絡先,事故状況や加入している損害保険の内容等を記入するもの),弁護士「被告人」に対する委任状等を作成させ,また,B自身が依頼者から交通事故の状況等を聴き取り,Bが雇用した事務員らが自賠責の支払請求に必要な交通事故証明書,自賠責用の診断書,被告人の弁護士会届出印(いわゆる職印)の印鑑登録証明書等を収集し,支払請求書類を準備した。そして,被告人の職印が必要な書類については,職印が保管されていた堺事務所に持参あるいは郵送し,堺事務所の職員に職印を押捺してもらう(堺事務所の職員らは,被告人から直接あるいはJを介して,その承諾を得て押捺した上,その文書等をコピーして,それを堺事務所に保管していた。)などし るいは郵送し,堺事務所の職員に職印を押捺してもらう(堺事務所の職員らは,被告人から直接あるいはJを介して,その承諾を得て押捺した上,その文書等をコピーして,それを堺事務所に保管していた。)などして,それらを保険会社に郵送等して支払請求や示談交渉等をしていた。さらに,平成11年夏ころからは,被告人も了解の上,Bの依頼を受けた医師が「相談医」としてBや事務員に対して助言したり,後遺障害の等級に関する検討会や講習会を行うようになったが,医師に対する謝礼は,Bの判断で支払われていた。そして,保険会社から問い合わせがあれば,単純な書類の不備の場合等は事務員が対応し, 後遺障害に関する複雑な問題の場合は,Bが相談医に連絡した上で,更に交渉するなどしていた。 (2)依頼者からの報酬の受領状況等Bは,平成10年3月26日ころ,被告人の了解を得て,保険会社からの損害賠償金等の入金専用口座として,「預り金口座弁護士『被告人』」名義の普通預金口座を株式会社F銀行H支店(平成15年3月1日からは株式会社G銀行H支店に名称変更,平成16年4月19日からは同行I支店に統合。)に開設し(以下「預り金口座」という。),更に同年6月26日ころ,依頼者から受領した損害賠償金等の一部を入金するための口座として,同支店に「『被告人』法律事務所『被告人』」名義の普通預金口座を開設して(以下「法律事務所口座」という。),これらの口座の通帳,キャッシュカード,届出印等は,BやLらが管理していた。 保険会社から預り金口座に損害賠償金等が振り込まれると,BやLらが出金し,Bの判断でその3割(場合によっては5割)程度を弁護士報酬や調査費の名目で取得していた。さらに,Bらは,振り込まれた損害賠償金等の一部(原則として1割相当額)を法律事務所口座に入金した上,折を見てその2分の1 の3割(場合によっては5割)程度を弁護士報酬や調査費の名目で取得していた。さらに,Bらは,振り込まれた損害賠償金等の一部(原則として1割相当額)を法律事務所口座に入金した上,折を見てその2分の1(5分相当額)を引き出し,堺事務所等に持参するなどして,被告人に直接,あるいは,その秘書ら代理の者を介して被告人に渡していた。このような金銭の授受は,平成12年ころまでは1か月から数か月に1回程度,平成13年と平成14年はいずれも大晦日にまとめてなされ,少なくとも,別表①記載の45件のうち29件(別表①番号1ないし28及び30)の弁護士報酬から千数百万円がBから被告人に渡された。 また,これとは別に,被告人は,後記のとおり,これらの報酬から,fビルh階i号室の賃料等相当金として合計638万円を受領している。 (3)執務場所等の移転状況前記のとおり,Bは,当初はaのb号室で事務を取り扱い始め,平成10 年3月ころには,被告人により,A弁護士会(以下「弁護士会」という。)に対しても同所が被告人の法律事務所として届け出られた。また,Bは,平成11年6月ころ,大阪市(以下略)所在のjのk号室に執務場所を移転し,そのころ,弁護士会にも同所に被告人の法律事務所を移転する旨の届け出がなされた。その後,被告人は,後述のような経緯から,弁護士会に対し,平成12年12月14日付けで法律事務所をfビルg階に移転する旨の届け出をしたが,Bは,引き続きjのk号室で事務を取り扱った。Bは,平成13年3月ころに至り,同市(以下略)所在のlビル(以下「lビル」という。)m階に執務場所を移転し,さらに,平成14年2月ころには,同ビルn階に移ったが,弁護士会に対して被告人の法律事務所を移転する旨の届け出はなされなかった。 (4)以上のような態様で,Bらは,別表①記載のとお 務場所を移転し,さらに,平成14年2月ころには,同ビルn階に移ったが,弁護士会に対して被告人の法律事務所を移転する旨の届け出はなされなかった。 (4)以上のような態様で,Bらは,別表①記載のとおり,平成10年8月18日ころから平成16年7月21日ころまでの間,45件の損害賠償請求等の事務を取り扱った。 被告人の関与状況等(1)Bが損害賠償請求等の事務を始めたころも,被告人の生活の中心は政治活動にあり,被告人がaのb号室に赴くことはなく,依頼者と面接することも全くなかった。もっとも,Bからは,電話やファックスで受任した案件の処理状況等の報告を受け,一部の事案については処理方針や問題点について確認を求められることもあったが,被告人の方からBに事案の報告を求めたり,具体的な指示をすることはなく,Bの処理方針に異を唱えることもなかった。そして,もともと被告人の損害賠償請求等の事務に関する知識が豊富でなかったこともあり,平成10年夏ころには,Bからの連絡も,事後報告的なものにとどまるようになっていった。Bがjのk号室に移ってからしばらくは,被告人は,4ないし5回程度そこに顔を出し,Bから,書面に基づいて報告を受けたり,示談書等を添削したことがあったほか,Jが大阪に赴 く際には,Bの様子を見に行くように指示し,Jを通じて受任案件に関する書類のコピーを入手するなどしたが,やはり依頼者と面談することはなく,案件の処理は基本的にBに委ねられていた。さらに,平成11年10月に防衛政務次官に就任して以降は多忙を極め,Bから送られてくる報告文書に目を通すことすらなくなった。 (2)平成12年以降,被告人は,JからBに非弁行為の前科があることを聞き(J及びLの検察官調書中にはこの認定に反する内容の供述部分があるが,本件に現れた事実経過に照らし 通すことすらなくなった。 (2)平成12年以降,被告人は,JからBに非弁行為の前科があることを聞き(J及びLの検察官調書中にはこの認定に反する内容の供述部分があるが,本件に現れた事実経過に照らして不自然であって信用できない。),さらに,他の弁護士らからも,Bが芳しくない人物であり,一緒に仕事をしないほうがいいなどと言われた。そこで,同年12月ころ,被告人は,Jも同席の上Bと会い,弁護士会に届け出ている法律事務所をfビルに移転させること,今後は新たな案件は受任せず,その時点ですでに受任している案件を処理したら法律事務所を閉鎖することなどの意向を伝えたところ,Bは,難色を示したものの,一応これを了承した。 (3)被告人は,同月14日付けで法律事務所をfビルg階に移転した旨を弁護士会に届け出たが,fビルの法律事務所にかかってきた電話は自動的にjのk号室に転送されるようにし,郵便物についても堺事務所の職員に転送させることを認めるなどして,Bが引き続きjのk号室で事務を取り扱うことを了承していた。そして,このころ以降,Bの執務場所(jのk号室,lビルm階及びn階)を訪れることはなくなり,Bとの間で案件について連絡を取り合うこともなくなった。もっとも,平成14年10月ころ,被告人は,自身の後援会幹部から,その内妻の交通事故に関する損害賠償請求等を依頼され,Bにその処理を指示したことがあり,Bは,その女性らと面談するなどして,別表①番号43のとおり,その処理を行ったが,この件に関しても,被告人が,その女性らと面談したり,保険会社とやり取りするなどして,直接その処理に関与したことはなかった。 (4)この間の平成13年3月29日ころ,被告人は,fビルh階i号室を新たに賃借し,その賃料(毎月14万円)等をBが依頼者から受け取った報酬のうちの 直接その処理に関与したことはなかった。 (4)この間の平成13年3月29日ころ,被告人は,fビルh階i号室を新たに賃借し,その賃料(毎月14万円)等をBが依頼者から受け取った報酬のうちの被告人の取り分から捻出しようと考え,J等を介してBに,その賃料等を被告人口座に振込入金するよう指示した。Bは,これに応じて,損害賠償請求等の報酬から,平成13年4月23日から平成16年10月4日までの間,42回にわたり,その賃料等相当金として合計638万円を被告人口座に振込入金した(別表②はその一部である。)。 (5)平成15年4月ころ,Bが突然堺事務所を訪れ,被告人の取り分として100万円を持参したが,被告人は,「お金はもうええんや。今扱っている案件を処理したら,この仕事も終わりや。」などと言って,その受領を拒否した。その後,Jに対しても,Bから金を受け取らなかったことを伝え,さらに,同年6月ころ,Jに命じてBの受任状況等を調べさせるなどした。一方,Bは,被告人のこのような対応を受け,新たな案件は受任せずに,それまでに受任していた案件の処理やR弁護士への引継ぎを行ったが,fビルh階i号室の賃料等相当金については,引き続き,毎月1回の振込入金を続けていた。 しかし,平成16年10月4日に至り,Bは,自身について非弁行為の捜査が行われていることを知り,そのことをJにも伝えた。同月8日,Jがlビルn階を訪れて,Bらの身分証明書,被告人名のゴム印,通帳,印鑑等をBの下から回収した。これにより,Bの損害賠償請求等の事務取扱いは完全に取りやめとなり,fビルh階i号室の賃料相当金の送金も止まった。 第3名義貸し罪の成否について(争点(1)) 被告人の行為に対する客観的評価(1)以上の認定事実によれば,Bとその事務員は,弁護士ではないにもかかわ 階i号室の賃料相当金の送金も止まった。 第3名義貸し罪の成否について(争点(1)) 被告人の行為に対する客観的評価(1)以上の認定事実によれば,Bとその事務員は,弁護士ではないにもかかわらず,平成9年秋以降,業として,交通事故被害に関する損害賠償請求等 という,法律上の権利義務に関して争いや疑義があり,新たな権利義務が発生し得る案件に関して,自賠責保険金を請求,受領し,あるいは任意保険契約の当事者である保険会社との交渉を行って示談契約を成立させるなどして,法律上の効果を発生,変更する事項を自ら処理していたのであるから,弁護士法72条所定の「法律事件」に関して「法律事務」を取り扱っていたものと認められる。そして,被告人は,そのようなBらに対し,「『被告人』法律事務所」等の名称を使わせ,あるいは弁護士たる被告人作成名義の自賠責保険支払請求書等の書面を作成することを許諾するなどして,弁護士としての自らの名義を利用させていたものである。 (2)もっとも,弁護士は,法律事務にかかわる行為の全てを自ら行わなければならないものではなく,法律事務所の事務員その他弁護士ではない者を補助者としてそれに当たらせることは当然許されると考えられるが,非弁護士の行為が弁護士の補助者としての適法行為であるというためには,法律事務に関する判断の核心部分が法律専門家である弁護士自身によってなされており,かつ非弁護士の行為が弁護士の判断によって実質的に支配されていることが必要である。しかるに,本件においては,被告人は,Bとの本件合意に至るまでは政治活動に専念し,弁護士業務は完全に休止していたものである。 本件合意に際しても,被告人はそれまでと同様ないしはそれ以上に政治家としての活動に携わることを前提としており,Bの執務場所で被告人自身が執務することは念頭 弁護士業務は完全に休止していたものである。 本件合意に際しても,被告人はそれまでと同様ないしはそれ以上に政治家としての活動に携わることを前提としており,Bの執務場所で被告人自身が執務することは念頭に置かれていなかったにもかかわらず,本件合意においては,被告人がどのような方法で案件の具体的内容を把握し,その判断をBらに伝達するかについて,何ら具体的な方法や準則は定められていなかった。 また,実際にBが依頼者からの相談を受け付け始めた後も,被告人は案件を受任するかどうかの判断そのものをBに委ねていた上,依頼者と面接して案件の内容を把握しようとしたことは1度もなく,Bが受任した案件に関する報告や連絡についても,その時期,内容,方法等を決めていたのはBであっ て,案件についてBが被告人に具体的な相談をすることがあったとしても,それは専らBがその処理に迷ったからであり,被告人の指示に基づくものではなかった。加えて,Bの報酬はその実態において出来高払いであり,Bは,被告人に相談することなく,自らの裁量で事務を補佐する者を雇い,相談医と提携し,それらに対する給料や報酬を支払っていたことなども考慮すると,Bが被告人の判断と指揮の下,その補助者として法律事務を取り扱っていたとは到底いえず,その事務は,当初から専らB自身の裁量と計算においてなされていたものというべきである。 (3)この点,弁護人は,本件合意において,Bが取り扱うのは交通事故による保険金請求等の事務のみに限られ,事実関係等に争いのある訴訟案件は除外されており,かつ,被告人の職印は,堺事務所で保管し,必要の都度被告人の指示に基づいて押捺することとされていたのであるから,これらにより,被告人は,Bに対して包括的な指導監督をしていたといえるなどと主張している。しかし,事実について争いがある 管し,必要の都度被告人の指示に基づいて押捺することとされていたのであるから,これらにより,被告人は,Bに対して包括的な指導監督をしていたといえるなどと主張している。しかし,事実について争いがあるか否かを見極め,あるいは訴訟を提起すべき案件かどうかを判断すること自体,まさに法律家としての専門性が求められる事柄であって,弁護士でないBにその判断をさせることが補助事務の範囲を逸脱するものであることは明らかであるし,Bと被告人との間の案件に関する報告や連絡の在り方が前記のようなものであって,被告人において案件の内容を確実に把握する機会が確保されていたとはいえない以上,職印が堺事務所に保管されており,その押捺自体は被告人の意思によりなされていたからといって,被告人の実質的判断に基づき法律事務がなされたことにはならない。したがって,弁護人の主張は採用することができない。 被告人の主観(認識)について(1)被告人は,検察官に対する供述の一部を除いて,自己の行為が名義貸し罪に該当するとの違法性の意識を有していなかった旨ほぼ一貫して供述している。 (2)たしかに,被告人は,少なくとも本件合意後しばらくの間は,Bの行う法律事務に対する関与を完全に放棄していたわけではなく,Bが受任した案件についても相応の関心を持っていたことがうかがわれ,被告人なりにBを指導し監督するつもりではあったと考えられる。また,被告人が報酬にも魅力を感じて本件合意に至ったことは間違いないとしても,そのころの被告人が格別経済的に困窮した状況にあったとは認められず,報酬の取り分や支払時期等について執着をみせた様子もうかがわれないことに加え,被告人の社会的地位も考慮すると,検察官の述べるように,被告人が違法な名義貸しであることを認識しつつそれを積極的に企図したとまでは考 や支払時期等について執着をみせた様子もうかがわれないことに加え,被告人の社会的地位も考慮すると,検察官の述べるように,被告人が違法な名義貸しであることを認識しつつそれを積極的に企図したとまでは考えにくい。さらに,違法な名義貸しと弁護士倫理違反にとどまる補助者利用の区別は必ずしも一義的に明白ではなく,多分に規範的な判断であることなども考慮すると,被告人が当初から確定的に自己の行為の違法性を意識していたとまでは認め難い。 (3)しかしながら,他方,被告人は,本件名義貸しにかかわる事実関係は十分認識していた上,自らの弁護士としての関与の形態が弁護士倫理上は好ましくないものであるとの認識があったことについても自認している。加えて,被告人が何らかの具体的な根拠に基づいて自身の行為が適法であると信じていたと認めるべき事情も存しないことからすると,弁護士である被告人が本件について違法性の意識を全く欠いていたとも考えられないところであり,これらによれば,被告人には,確定的ではないにせよ,違法性の意識があったものと認めるのが相当である。 結論 以上によれば,被告人につき判示の名義貸し罪が成立し,被告人がその責任を負うことは明らかである。 第4犯罪収益等収受罪について(争点(2)) 組織的犯罪処罰法(犯罪収益等収受罪)の適用が排除されるか否か(争点 (2)①)弁護人は,組織的犯罪処罰法は,犯罪収益等が,犯罪組織の維持・拡大に利用されたり,更に犯罪に再投資されるなど,暴力団犯罪等の組織的な犯罪を誘発,助長するおそれがある事案をその適用対象としているところ,本件にはそのようなおそれがないから,そもそも同法は適用されないと主張する。 しかしながら,同法11条の文言上,犯罪収益等収受罪の成立要件として組織犯罪を誘発ないし助長するおそれが生じたこ るところ,本件にはそのようなおそれがないから,そもそも同法は適用されないと主張する。 しかしながら,同法11条の文言上,犯罪収益等収受罪の成立要件として組織犯罪を誘発ないし助長するおそれが生じたことは必要とされていないこと,同法2条も,前提犯罪が組織的な形態で行われたことを犯罪収益が生じる要件とはしていないこと,さらに,同法が犯罪収益等の規制を設けた趣旨は,組織的な犯罪に経済的側面から対処するにとどまらず,合法的な経済活動に対する悪影響を防止するという目的も含まれると考えられること等に鑑みると,同法11条は,犯罪収益等にかかわる資金洗浄等の反社会性,法益侵害性の観点から,犯罪収益を収受する行為を一律に禁じたものであると解すべきである。したがって,暴力団等の組織的な犯罪を誘発,助長するおそれがないことが犯罪収益等収受罪の適用を排除すべき理由となるとは解されないから,弁護人の主張は採用できない。 被告人は犯罪収益等収受罪の故意を欠いていたか否か(争点(2)②)弁護人は,犯罪収益等収受罪が成立するためには,その収受に当たって「情を知って」いたことが必要であり,その意味は,収受者が前提犯罪の行為状況を認識していただけでは足りず,その行為が確定的に違法であることを認識していたことまで必要であるが,被告人は,Bの行為が違法な非弁行為であるという認識を欠いていたから,犯罪収益等収受罪の犯意(故意)を欠いていたと主張する。 しかし,同法11条所定の「情を知って」とは,その文言や,同条の趣旨に照らして,前提犯罪の行為状況及び収受に係る財産がその前提犯罪に由来することの認識を意味すると考えられ,その行為が違法であることの認識ま でも求めているものとは解されない上,すでに検討したとおり,被告人は,自己の行為について確定的ではないにせよ違法性の意識 来することの認識を意味すると考えられ,その行為が違法であることの認識ま でも求めているものとは解されない上,すでに検討したとおり,被告人は,自己の行為について確定的ではないにせよ違法性の意識を有していたことが認められ,したがってまた,Bの行為の違法性についてもその認識があったことが明らかである。そうすると,被告人には,犯罪収益等収受罪の故意に欠けるところはなく,弁護人のこの主張も理由がない。 被告人の行為に同法11条ただし書が適用されるか否か(争点(2)③)弁護人は,被告人とBとの間には雇用契約が存在し,被告人は,Bに対し,その給与として,Bが報酬として依頼者から受領した損害賠償金等の5分相当額から諸経費を控除した部分を提供していたのに対し,Bは,雇用契約の債務の履行として,被告人に対して損害賠償金等の5分相当額を提供していたのであるから,被告人の行為には同法11条ただし書が適用されると主張する。 しかしながら,すでに認定した事実によれば,本件合意等により形成された被告人とBとの関係は,その名目はともかく,実体において,Bが違法な非弁行為をするについて被告人が弁護士の名義を利用させ,Bはその対価として非弁行為で得た収益の5分相当額を支払うというものにほかならず,両者の間には,同条ただし書所定の法律関係は存在しない。したがって,弁護人の主張は前提を誤ったものというほかなく,採用できない。 犯罪収益等収受罪の成否(争点(2)④⑤)(1)弁護人は,名義貸し罪は非弁行為罪の共同正犯の一類型であり,被告人がその取り分を受領した行為は,名義貸し罪(あるいは,非弁行為罪の共同正犯)によって評価し尽くされており,別途犯罪収益等収受罪は成立しないし,被告人が受領した本件金員は,そもそも被告人に帰属するもので,Bに帰属したことはないから 義貸し罪(あるいは,非弁行為罪の共同正犯)によって評価し尽くされており,別途犯罪収益等収受罪は成立しないし,被告人が受領した本件金員は,そもそも被告人に帰属するもので,Bに帰属したことはないから,犯罪収益等には当たらないなどと主張する。 これに対し,検察官は,名義貸し罪は,名義貸し行為が非弁行為を直接又は間接に助長することから処罰対象とされたもので,非弁行為罪の共同正犯 的類型ではなく,幇助犯的類型であり,名義を貸した弁護士がその対価を受領する行為は,共同正犯者間の利得の分配とは同視できないし,本件における被告人とBの各行為は1つの社会的事象ではなく,被告人がその取り分を受領した行為は,新たな法益侵害を伴うもので,犯罪収益等収受罪が成立すると主張する。 (2)検討アまず,弁護人の主張のうち,被告人が受領した金員はBに帰属するものではないとの点は,預り金口座及び法律事務所口座が被告人に帰属するものであることを根拠として,犯罪収益等には該当しないというものであると解される。 しかしながら,前記の認定事実に鑑みれば,保険会社から預り金口座に入金された金員は,依頼者に交付されるべき損害賠償金等であって,本来依頼者に帰属すべきものであるから,それ自体は犯罪収益とはいえず,本件において犯罪収益となるのは,Bが依頼者から報酬等の名目で非弁行為の対価として取得した金員である。そして,Bが依頼者からそのような金員を取得した段階では,その金員がBに帰属することは明らかであるから,この点に関する弁護人の主張は直ちに採用できない(他面で被告人にも帰属すると解する余地があることは後述する。)。 イ次に,弁護人の主張のうち,被告人の加功態様にかかわる主張について検討するに,たしかに,検察官が主張するように,弁護士法27条は,弁護士が非弁行為者と結託 と解する余地があることは後述する。)。 イ次に,弁護人の主張のうち,被告人の加功態様にかかわる主張について検討するに,たしかに,検察官が主張するように,弁護士法27条は,弁護士が非弁行為者と結託して行う名義貸しが,直接又は間接に非弁行為を助長することから,それを禁止する趣旨で特別に処罰規定を設けていると解される上,同条は名義を貸した弁護士が有償の対価を受領することを要件とはしておらず,名義貸し罪は,直接にはその対価を受領する行為を処罰していない。また,形式的にみれば,被告人の行為は名義貸し罪に,Bの行為は非弁行為罪に該当し,それぞれ独立の犯罪が成立 することから,被告人が本件金員を受領した行為については,別途犯罪収益等収受罪が成立するようにも考えられる。 しかしながら,弁護士の非弁行為に対する加功について,より実質的に考えてみると,弁護士が名義貸し以外の態様によって非弁行為に加担し,その共同正犯となる場合が想定できる上,名義貸し罪に該当する場合においても,加功の具体的状況によっては,教唆犯・幇助犯的加功の態様を超え,社会的,事実的事象としては実質的に非弁行為者との共同正犯と評価すべき事案もありうるというべきである。 この観点から本件を改めて検討すると,被告人は,当初の合意の時点で,自らも利得を得る目的でBの申し出に応じて,Bに法律事務所事務員の身分証明書を取得させ,弁護士会にBの執務場所を法律事務所の所在地として届け出たり,その執務場所への電話の転送措置を了承したりしているばかりか,Bから報告を受けるなどしてその法律事務取扱状況の概要を知りつつ,自らの管理の及ぶ場所に職印を保管してその押捺を承諾するなどしている上,少なくとも被告人の認識の上では,Bと同程度の報酬を受領し続けていたものである。被告人自身も,当公判廷において,被 を知りつつ,自らの管理の及ぶ場所に職印を保管してその押捺を承諾するなどしている上,少なくとも被告人の認識の上では,Bと同程度の報酬を受領し続けていたものである。被告人自身も,当公判廷において,被告人の取り分は,弁護士たる被告人の名義で支払請求等をしたことに対する対価であると認識していた旨供述しており,また,検察官も,冒頭陳述及び論告において,被告人がBから支払いを受けていた金員は名義貸しの対価にほかならない旨を主張している。 これらの諸点や被告人の取得金額の大きさ等に照らすと,被告人の名義貸しは,それによって単にBの非弁行為を助けたのにとどまらず,自らの利益のためにBの非弁行為を継続的に利用した面があることは否定できず,社会的,事実的事象としては,名義貸しと引き換えに報酬の半額を対価として得るという有償の合意の下,共同正犯的に加功したものと認めざるを得ない。 ウところで,組織的犯罪処罰法11条の犯罪収益等収受罪の主体となりうるのは,犯罪収益の前提犯罪の本犯者以外の者であると解され,前提犯罪の共同正犯たる者は,同罪の主体とはならない。これは,同法は,前提犯罪の本犯者については,犯罪収益等隠匿罪などの犯罪収益等を資金洗浄するための具体的行為に出た場合に処罰する建前であるとみられること,実質的にも,本犯者間での利得の移転は,資金洗浄という新たな法益侵害又はそのおそれを伴わず,その前提犯罪の罪責において評価されるべき性質のものであること等から導かれることである。そうすると,同罪の主体から除外される前提行為の本犯者に当たるかどうかは,罪名等にかかわらず,実質的に前提犯罪の本犯(共同正犯)として加功した者であるかどうかにより決すべきである。 そうすると,Bの非弁行為に実質的に共同正犯として加功した被告人は,犯罪収益の前提犯罪たるBの非 かかわらず,実質的に前提犯罪の本犯(共同正犯)として加功した者であるかどうかにより決すべきである。 そうすると,Bの非弁行為に実質的に共同正犯として加功した被告人は,犯罪収益の前提犯罪たるBの非弁行為に関しては本犯者であり,そのような被告人が共犯者であるBから犯罪収益を収受したとしても,犯罪収益等収受罪は成立しないというべきである。このように解することは,弁護士が名義貸し以外の方法で非弁行為の共同正犯として加功して報酬を得た場合との実質的な権衡の見地からも妥当性を有するものと考える(なお,付言するに,金員の帰属に関する前記の弁護人の主張は,Bへの帰属を全面的に否定する点で直ちに採用できないものであるが,前記のような被告人の加功態様からすると,一面では被告人自身の犯罪による利得でもあって,Bが報酬として取得した金員は被告人にも帰属すると解する余地があるから,その限度では弁護人の指摘には理由があるといえる。)。 結論 以上の次第で,被告人が平成15年4月以降犯罪収益を収受したとの認識があったか否か(争点(2)⑥)については論ずるまでもなく,本件公訴事実中, 組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受罪)については,被告事件が罪とならないから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し,無罪の言渡しをする。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法60条,弁護士法77条1号,27条(72条本文)に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役2年に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予することとする。 (量刑の理由) 本件は,弁護士であり,衆議院議員でもある被告人が,弁護士資格のないBや,同人が雇った事務員が交通事故被害にかかわる損害賠償請求等の法律事務を取り 刑の執行を猶予することとする。 (量刑の理由) 本件は,弁護士であり,衆議院議員でもある被告人が,弁護士資格のないBや,同人が雇った事務員が交通事故被害にかかわる損害賠償請求等の法律事務を取り扱うに当たり,被告人の弁護士名義を利用させた弁護士法違反(名義貸し罪)の事案である。 犯行に至る経緯は,すでに(争点に対する判断)において認定したとおりであり,被告人は,被告人の弁護士名義を利用して損害賠償請求等の法律事務を取り扱いたいというBの申し出に応じて本件犯行に及んだものである。その動機について,被告人は,弁護士が代理人となれば,保険会社等により支払われる損害賠償金等の額が上がり,交通事故被害者等の救済につながるなどと考えた旨供述しているが,仮にそのような思いがあったとしても,自らが弁護士として事件処理に関与することができなかった以上,依頼者の利益が正当に守られる保障などないばかりか,依頼者以外の関係者に対しても,弁護士が関与しているとの信頼を踏みにじるものでもあり,法曹としての社会的使命を見失った無責任な発想というほかない。他方,被告人がBの申し出に応じた背景には,労せずして年間500万円程度の金員が手に入り,これを政治活動資金等に充てることができるとの利欲的な期待と計算があったことは否定できず,総じて,動機において酌むべきものは乏しい。また,犯行態様をみると,Bの非弁行為は,自ら事務員を雇い入 れ,医師とも緊密に連携するなどして組織的,職業的になされた本格的なものであるところ,被告人は,Bやその事務員が常時弁護士たる被告人の名義をほしいままに利用することを容認していたものであり,その犯情もまた到底軽視することができない。 これにより,Bは,約6年間という長期にわたって45件もの法律事務を取り扱って膨大な額の収益を上げ,それ しいままに利用することを容認していたものであり,その犯情もまた到底軽視することができない。 これにより,Bは,約6年間という長期にわたって45件もの法律事務を取り扱って膨大な額の収益を上げ,それに伴って,被告人にも,1500万円を超える利得がもたらされている。本件犯行の実体は,正に非弁行為の共同正犯と評価すべきものであって,被告人の刑事責任は,Bのそれに比肩する重大なものである。さらに,本件犯行が弁護士全体に対する社会的信頼を裏切るものであることはもとより,衆議院議員でもある被告人によりなされた犯罪であったことからしても,その社会的影響には大きなものがある。 しかしながら,他方,本件の発端はBが持ちかけたもので,被告人は,すすんで名義貸しを企図したものではなく,当初は,不十分ながらもBを指導監督するための行為に出ていたこと,被告人は,概ね事実関係を認めて反省の態度を示し,別表①記載の依頼者に対し,連絡が取れなかった2名を除いて,被告人の取り分に相当する額を返還(総額約1443万円)し,その依頼者の多くが寛大な処分を望む旨の嘆願書を提出していること,被告人は,弁護士を廃業する意向で,既にA弁護士会に退会届を提出し,日本弁護士連合会には弁護士名簿登録取消しを請求していること,贖罪寄付として,あしなが育英会に1000万円を寄付していること,本件にかかわる税金の処理についても,修正申告を行い,重加算税・延滞税等の納付(納付額合計約1650万円)を済ませていること,これまで衆議院議員として10年以上国政に携わり,その議員活動を評価する関係者からは嘆願書が提出されていること,他方で,所属していた政党からは除名処分を受け,本件がマスコミによって広く報道されるなどして,一定の社会的制裁を受けたといえること,被告人には養育すべき家族があり,妻が当 嘆願書が提出されていること,他方で,所属していた政党からは除名処分を受け,本件がマスコミによって広く報道されるなどして,一定の社会的制裁を受けたといえること,被告人には養育すべき家族があり,妻が当公判廷で今後も被告人を支えていく旨を述べていること,被告人には前科がないことなどの被告人のため に有利に酌みうる情状も認められる。 そこで,当裁判所は,これら諸事情を総合考慮の上,被告人を主文の刑に処した上,今回に限ってその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役2年及び罰金100万円,追徴)平成19年2月7日大阪地方裁判所第5刑事部中川博之裁判長裁判官丸田顕裁判官林扶友裁判官

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