昭和56(う)378 所得税法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和58年1月26日 東京高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      本件控訴を棄却する。          理    由  本件控訴の趣意は、弁護人大山忠市、同佐野栄三郎連名の控訴趣意書に、これに 対する答弁は、検察官宮本喜光名義の答弁書にそれ

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主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は、弁護人大山忠市、同佐野栄三郎連名の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官宮本喜光名義の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用する。 控訴趣意第一点(法令適用の誤りの主張)について所論は、要するに、所得税法二三八条一項の規定は、偽りその他不正の行為により正当に納付すべき所得税の額につき所得税を免れたときに処罰するという趣旨のものであつて、その正当に納付すべき税額とは、法律の定めがなければ租税を課されないという実体的要請と租税を課すためには法律の定める手続によらなければならないという手続的要請とに則り、税法の定める所定の確定手続を経て計算された税額をいい、そのいずれかの要請に違反して計算された税額は正当税額とはいえないところ、被告人は、青色申告の承認を受けていたので、昭和四二年分の所得税につき、青色の確定申告書を提出したのに対し、八王子税務署長は、青色申告の承認を取り消すとともに、右申告所得額を更正したが、右青色申告承認の取消処分及び右更正処分はいずれも後に国税不服審判所長の裁決により取り消されたので、被告人の昭和四二年分の申告所得税額を更正するには所得税法一五五条所定の手続を要するのに、その更正がなされていない以上、同年分の所得税額は申告税額のとおりに確定したものというべく、したがつて、被告人は、昭和四二年分の所得税を免れていないことになるから、所得税法二三八条一項前段の規定により処罰されるいわれがないにもかかわらず、同条項を適用して被告人を有罪とした原判決には、法令の解釈、適用を誤つた違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。 そこで、検討するに、被告人は、青色申告の承認を受けて 項を適用して被告人を有罪とした原判決には、法令の解釈、適用を誤つた違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。 そこで、検討するに、被告人は、青色申告の承認を受けていたので、昭和四三年三月一四日、八王子税務署長に対し、昭和四二年分の課税総所得額が二〇九九万円で、これに対する所得税額が一〇一六万四六〇〇円である旨記載した青色の確定申告書を提出したところ、同署長は、昭和四五年一〇月一七日付で、被告人の昭和四〇年分以降における青色申告承認の取消処分をするとともに、同月二七日付で被告人の昭和四二年分の所得税につき増額の更正処分をした。ところが、右の各処分には具体的事実もしくは更正の理由を附記していない違法があるとして、右青色申告承認の取消処分については昭和五四年二月二三日付で、右更正処分については同月二七日付で、いずれも国税不服審判所長の裁決により取り消されていることは所論指摘のとおりである。 そして、八王子税務署長は、被告人の昭和四二年分の所得税につき、更正の期間制限内に所得税法一五五条所定の更正をしていないから、被告人の所得税額は申告税額のとおりに確定する結果になつた。 ところで、一般に国税は、税法の規定する課税要件を充足することにより、国と納税義務者との間で、法律上当然に、抽象的租税債権(正当税額)として成立し、これが賦課、徴収の対象となるのであるが、これを納付、徴収するためには、右租税債権の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を除いては、国税通則法等国税に関する法律の定める手続により、これを具体的租税債権(確定税額)として確定する必要がある(国税通則法一五条)。しかし、税法の定める確定申告、更正、決定等の確定手続制度そのものは徴税行政上の手段として設けられたものであつて、こ 、これを具体的租税債権(確定税額)として確定する必要がある(国税通則法一五条)。しかし、税法の定める確定申告、更正、決定等の確定手続制度そのものは徴税行政上の手段として設けられたものであつて、これが租税債権成立のため必要不可欠のものでないばかりか、確定手続を離れて課税要件を認定することは勿論、不正の手段等により抽象的租税債権を侵害することも十分可能であるから、税の確定手続を経なければ逋脱犯が成立しないというものではない。本来、正当税額と確定税額とは一致すべきものであつて、税法は、確定税額が正当税額のとおりに確定し、これが確実に履行されることを期待し、その実現を図るため、罰則を設けて、偽りその他不正の行為により税を免れた者に刑罰を科し、そのことにより国の抽象的租税債権(正当税額)の確保を間接的に強制するとともに、納税義務者相互間の税の均衡負担を図ることとしたのである。所得税のような申告納税方式を採用している国税は、その納付すべき税額が納税義務者の申告により確定することを原則とするが、その申告に係る税額等が国税に関する法律の規定に従つていなかつたときなどは、税務署長において、その申告税額を更正することができるけれども、その更正は徴収すべき国税を確定するための行政手続にすぎない。このように、逋脱犯は、一次的には国の課税権を保護法益とする犯罪であるから、偽りその他不正の行為により抽象的租税債権を侵害している以上、国において納税義務者の申告した申告税額を更正するなどの徴税行政上国税の確定手続を尽すことができなくなつたため、結局、徴収すべき税額が申告税額のとおりに確定したとしても、そのことから直ちに、その目的、性質を異にする刑事裁判の場において、罰則を発動することができなくなるものとは到底考えられない。 <要旨>以上考察したところに従つて検討 額のとおりに確定したとしても、そのことから直ちに、その目的、性質を異にする刑事裁判の場において、罰則を発動することができなくなるものとは到底考えられない。 <要旨>以上考察したところに従つて検討すると、所得税法二三八条一項前段の「税を免れた」とは、徴税手続で具</要旨>体的に確定する所得税の納付を免れる趣旨ではなく、逋脱行為当時存在した正当税額(抽象的租税債権)よりも過少な税額を記載した確定申告書を提出し、又は提出期限までに確定申告書を提出しないで納付すべき確定税額(具体的租税債権)をことさらに正当税額よりも過少に確定させ、その差額部分に対する納税義務を免れようとすることをいうものと解すべきである。そうだとすると、課税要件の充足により成立した抽象的租税債権につき、手続上の過誤により、これを具体的租税債権として確定することができなくなつたため、国において課税権の行使ができなくなつたとしても、偽りその他不正の行為により、その納期限当時存した抽象的租税債権そのものを免れた以上、直ちに所得税法二三八条一項前段の逋脱罪が成立し、その後の行政処分の如何によつて、その成否に消長を来たすものではないというべきである。してみると、右と同旨の見解に立脚して、被告人の本件所為が所得税法二三八条一項前段の罪に当るとした原判決には法令の解釈、適用を誤つた違法はないから、論旨は理由がない。 控訴趣意第二点(事実誤認の主張)について所論は、要するに、被告人は、A株式会社の代表取締役Bに対し、神奈川県a地区の用地買収を依頼し、その手数料として、同人に合計三七〇〇万円を支払つたにもかかわらず、そのうち三六〇〇万円について、その支払いを認めなかつた原判決は、事実を誤認したものであつて、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである(控訴趣意は審理不尽 払つたにもかかわらず、そのうち三六〇〇万円について、その支払いを認めなかつた原判決は、事実を誤認したものであつて、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである(控訴趣意は審理不尽による理由のくいちがいも主張するが、記録及び原判決を精査してもそのような違法は認められないのみならず、その実質は事実誤認の主張と解される。)。 そこで、検討するに、関係各証拠によると、次の事実を認めることができ、これに反するBの収税官吏に対する質問てん末書(昭和四四年六月一二日付、同年九月一六日付)、被告人の収税官吏に対する質問てん末書(同年一月二九日付、同年五月一六日付、同年一〇月二九日付)及び検察官に対する供述調書(昭和四五年一〇月七日付)並びに原審における供述は、他の関係各証拠に照らし、にわかに措信することができない。 すなわち、一不動産業を営んでいる被告人は、昭和四二年ころ、同じく不動産業を営んでいたAの代表取締役Bに対し、神奈川県a地区の用地買収を依頼したところ、Bは、同年九月ころから翌四三年末ころまでの間、右用地を買収すべく、その所有者らと種々交渉したが、結局、その間に用地の買収に成功したものは一件もなかつた。しかし、被告人は、架空の支払手数料を計上すべく、Bに対し、a地区の用地買収に関し、Aにおいて被告人から仲介手数料を受領した旨の計上方を依頼し、その承諾を得た。 二そこで、被告人は、昭和四一一年二月三〇日、Bとともに取引銀行であるC銀行D支店に赴き、まず、同支店にAの普通預金口座を新規に開設してもらい、以前から同支店に開設してあつた被告人名義の普通預金口座から現金二二〇〇万円を払い出し、その全額を一たんAの預金口座に預け入れた後、さらに六口に分けて合計二一〇〇万円を同口座から払い出し、そのうち一五〇〇万円を同支店に してあつた被告人名義の普通預金口座から現金二二〇〇万円を払い出し、その全額を一たんAの預金口座に預け入れた後、さらに六口に分けて合計二一〇〇万円を同口座から払い出し、そのうち一五〇〇万円を同支店に開設してあるE名義の預金口座(被告人の仮名預金)に預け入れた。なお、その際、Bは、右金員が正当な仲介手数料でないことは勿論、真実これを受領したものでもないことを十分承知のうえ、同日付でAが右金員を仲介手数料として受領した旨記載した領収証を作成し、これを被告人に手交した。そこで、被告人は、右一連の手続に協力した謝礼として、Bに対し、手元にあつた現金一〇〇万円を手渡すとともに、Aの前記預金口座に残した一〇〇万円を謝礼に充てるべく、Bにその処分を委ねた。 三次いで、被告人は、昭和四三年四月三日にも前同様の方法により、前記支店の被告人名義の預金口座から現金一五〇〇万円を払い出し、これを一たんA名義の預金口座に預け入れた後、同月五日、同口座から二口に分けて合計一五〇〇万円を払い出し、これに他の資金を合わせて、借入金の返済や無記名預金の資金に充てるなどした。そして、その謝礼として、Bに対し、現金二〇〇万円を支払つた。 四 Aの従業員で、経理事務を担当していたFは、昭和四三年一二月ころ、BからAがC銀行D支店に開設した前記普通預金の預金通帳のみを渡され、仲介手数料として、被告人から前記金員の合計額三七〇〇万円を受領した旨の経理処理をするよう命ぜられた。Fとしては、Aにおいて右金員に見合う金員を受領していなかつたので、その経理処理に疑問を抱いたが、Bから命ぜられたとおり経理処理をした。 以上認定した事実によれば、被告人がAに対し、a地区の用地買収に伴う仲介手数料を支払つていないことは明らかであるから、この点につき、原判決には何ら事実の誤認はない。論旨は とおり経理処理をした。 以上認定した事実によれば、被告人がAに対し、a地区の用地買収に伴う仲介手数料を支払つていないことは明らかであるから、この点につき、原判決には何ら事実の誤認はない。論旨は理由がない。 控訴趣意第三点(事実誤認の主張)について所論は、要するに、被告人が旅館G発行に係る領収証の金額を訂正したと認めるに足りる証拠がないうえ、これが認められるとしても、それは被告人の悪意によるものではないから、右訂正が改ざんに当らないことが明らかであるのに、これが改ざんに当ると認定した原判決は事実を誤認したものであつて、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである(控訴趣意は審理不尽による理由のくいちがいも主張するが、記録及び原判決を精査してもそのような違法は認められないのみならず、その実質は単なる事実誤認の主張と解される。)。 そこで、検討してみるのに、関係各証拠、特に原審における証人Hの供述、検察事務官I作成の昭和四六年二月一五日付報告書、押収してある経費明細帳及び売上明細書綴(当庁昭和五六年押第一三九号の一の4、二二の1ないし16)、被告人の検察官に対する昭和四六年二月一七日付供述調書によると、次の事実を認めることができ、これに反する原審における被告人の供述は、他の関係各証拠に対比すると、にわかに措信することができない。すなわち、一神奈川県秦野市所在の旅館Gでは、飲食した客から飲食代金の支払いを受けたときは、必ず領収した金額を明示した正規の公給領収証を発行していたが、被告人が同旅館で飲食した場合も全く同様に扱い、特に公給領収証の金額を過大あるいは過少に記載したようなことはなかつた。 二被告人は、昭和四二年一月六日ころから同年一二月二三日ころまでの間、同旅館で飲食し、その都度同旅館発行に係る公給領収証を 特に公給領収証の金額を過大あるいは過少に記載したようなことはなかつた。 二被告人は、昭和四二年一月六日ころから同年一二月二三日ころまでの間、同旅館で飲食し、その都度同旅館発行に係る公給領収証を受け取つていたが、他の店で飲食代金を支払つた場合には、必ずしも領収証を徴していないことがあつたので、昭和四二年分に係る所得計算をするに際し、右代金を含めた交際費を架空に計上しようと考え、無断で同旅館発行に係る公給領収証記載の金額の冒頭あるいは末尾に「1」を書き加えて、あたかも訂正された金額が実際に支払われたかの如く改ざんし、これを税理士に渡して同年中における交際費の計上を依頼したが、その架空計上分が五〇万四九七〇円にも達している。 以上認定したところによれば、被告人が旅館G発行の公給領収証を改ざんした事実は優に認められるところ、所論は、この点につき、被告人が悪意をもつて右領収証の金額を訂正したものではないから改ざんに当らない旨主張するけれども、被告人は、交際費の架空計上を意図して、その権限がないにもかかわらず、前記領収証の金額を訂正したものであつて、これが悪意によるものであることは明白であり、したがつて、被告人の右所為が改ざんに当ると認定した原判決には何ら事実の誤認はない。論旨は理由がない。 控訴趣意第四点(理由のくいちがいないしは事実誤認の主張)について所論は、要するに、被告人は、J株式会社から八王子b地区及び神奈川県c地区の用地買収を依頼されたので、被告人において右両地区の用地を買収した後、これをJに売り渡したものであつて、両地区の買収につき、被告人の果した役割は殆んど同一であるのに、同じような証拠から、b地区の用地買収については、被告人が各地主から一括して買い受けた旨、c地区の用地買収に関しては、被告人は仲介人であつて、売買契約の 、被告人の果した役割は殆んど同一であるのに、同じような証拠から、b地区の用地買収については、被告人が各地主から一括して買い受けた旨、c地区の用地買収に関しては、被告人は仲介人であつて、売買契約の当事者はJと各地主である旨それぞれ認定判示した原判決には、理由相互間にくいちがいがあるうえ、事実を誤認した違法があるので、原判決は到底破棄を免れないというのである。 そこで、まず、理由のくいちがいの主張について検討するに、原判決は、b地区の用地買収については、被告人が各地主から一括して買い受けた旨、c地区の用地買収に関しては、被告人は仲介人であつて、売買契約の当事者はJと各地主である旨、それぞれ認定判示していることは所論指摘のとおりである。 しかしながら、原判決は、b地区の用地買収につき、売買形式によるものである旨認定した証拠として、被告人の原審における供述、原審証人K、同L、同M、同Nの各供述、押収してある領収証一通を挙示しており、他方、c地区の用地買収につき、仲介形式によるものである旨認定した証拠として、被告人の検察官に対する昭和四六年二月一九日付供述調書、原審証人O、同L、同Pの各供述を挙示していることが判文上明らかである。このように、原判決は、別個の証拠に基づき、一方を売買形式とし、他方を仲介形式によるものと認定したのであるから、その結論が異なつても当然であつて、右のように認定したことをもつて、理由相互間にくいちがいがあるということはできない。 次に、事実誤認の主張について検討してみるに、所論は、帰するところ、原判決がc地区の用地買収協力金四〇〇〇万円の未払計上を認めなかつたことの不当をいうものと解されるが、原判決が右未払金の計上を認めなかつたのは、c地区の用地買収が仲介形式によるものであつて、被告人は売買契約の当事者ではないから、 四〇〇〇万円の未払計上を認めなかつたことの不当をいうものと解されるが、原判決が右未払金の計上を認めなかつたのは、c地区の用地買収が仲介形式によるものであつて、被告人は売買契約の当事者ではないから、右債務を負担すべきいわれがないとしたことのほか、その債務は昭和四四年に至つて確定したものであるから、被告人の昭和四二年の所得計算をする時点においては、未だ債務として確定していなかつたことを理由とするものであり、そして、右債務確定時期の認定は関係各証拠により十分肯認することができる。してみれば、仮りに所論のような事実の誤認があるとしても、その誤認は判決に影響を及ぼすものではないといわなければならない。のみならず、関係各証拠によると、被告人は、Jから両地区の用地買収を依頼されて、これに関与するようになつたこと、そして、c地区の用地につき、地主から直接買い受けたものも若干あること、しかし、c地区の用地で所論の主張する用地買収協力金四〇〇〇万円に関係する用地については、被告人は単にJと地主らとの売買契約を仲介したものにすぎないことが認められ、これに反する被告人の検察官に対する昭和四六年二月一七日付、同月一九日付供述調書の供述記載部分は、いずれも他の関係各証拠に対比し、措信することができない。右認定事実によれば、c地区の用地買収については、被告人は仲介人であつたと認めるのが相当である。 以上のとおり、原判決には、理由のくいちがいは勿論、事実の誤認もないから、論旨は理由がない。 控訴趣意第五点(理由のくいちがいないし事実誤認の主張)について所論は、要するに、原判決は、期中に存在したとされる多額の手持現金について、それは期首における他の資産が期中において現金に転化したか、所得秘匿行為によつて期中に発生した簿外の資産が現金に転化したかのいずれかであると 、原判決は、期中に存在したとされる多額の手持現金について、それは期首における他の資産が期中において現金に転化したか、所得秘匿行為によつて期中に発生した簿外の資産が現金に転化したかのいずれかであると考えざるを得ないが、本件においては、所得秘匿行為の一部が証拠上認められないことになるので、当該秘匿行為によつて生じたとされる期中の資産増加分は過年分からの持込みによるものと判断されるから、その分については、期首調整金勘定を設けて、これを当年分の所得から排除すべきであるとしている以上、その資産がいずれも期首に存したものと認められるQ及び被告人名義の定期預金、A及びE名義の普通預金、R、S、T及びU名義のV株式会社の株式についても、右と同様に扱うべきであるのに、これらについては期首における原資の存在を否定して、期首調整金勘定への計上を認めなかつた原判決には、その前提となる事実を誤認したばかりでなく、理由相互間にもくいちがいがあるので、到底破棄を免れないというのである。 右論旨のうち理由にくいちがいがある旨の主張は、原判決書自体に存する矛盾を指摘するものではないから、その前提を欠き、実質はすべて事実誤認の主張に帰するというべきである。 そこで、検討するに、原判決が所論指摘のとおり、所得秘匿行為の一部が証拠上認められないときは、当該秘匿行為によつて生じたとされる期中の資産増加分は過年分からの持込みによるものと判断されるから、その分については期首調整金勘定を設けて、それを当年分の所得から排除すべきである旨判示していることは判文上明らかであるが、本件は、期首における資産、負債及び資本並びに期末におけるそれらにつき実額をもつて確定し、その比較により、被告人の昭和四二年における事業所碍額を計算しているのであつて、このように財産増減法によつて所得を計算し における資産、負債及び資本並びに期末におけるそれらにつき実額をもつて確定し、その比較により、被告人の昭和四二年における事業所碍額を計算しているのであつて、このように財産増減法によつて所得を計算している場合には、同年中の事業所得に係る必要経費の支出が認められるとしても、直ちにその支出が所得額の計算に影響を及ぼすものとはいえないから、右支出に係る必要経費の原資が期首に存在したものと推論したうえ、それに見合う金額を期首調整金勘定に計上して、その所得額を縮少認定することには疑問があり、原審の右見解にはにわかに左袒することはできない。そうすると所論の各金額を期首調整金勘定に計上すべきことを前提とする所論は失当といわざるを得ない。 のみならず、原判決は、期中における所得秘匿行為が認められない場合、すなわち、所得秘匿行為として主張された必要経費の水増又は架空計上分のうち、証拠上実際に支払われたことが認められるもの及び水増又は架空計上であることの証明が不十分であるため、実際に支払われたとして取扱うべきものに限つて、その支出に見合う金額を期首調整金勘定に計上することを認めているものであるところ、関係各証拠によると、手広く不動産業を営み、多額の事業所得を上げていた被告人は、土地の買収が難航したような場合、地主らに裏金を支払つて歓心を買う必要があつたため、その資金を捻出し、併せて自己の事業欲を満たそうと考え、昭和四〇年ごろから昭和四二年にかけ、所得を過少に申告して脱税を図つていたこと、Q名義の定期預金一一〇〇万円(二口)は昭和四二年六月八日に設定されて、翌四三年九月二七日に解約されていること、被告人名義の定期預金中、四〇七万二六〇〇円については昭和四二年五月二九日に設定されて、翌四三年五月三〇日に解約されており、五〇万六一三七円については昭和四二年一二月 月二七日に解約されていること、被告人名義の定期預金中、四〇七万二六〇〇円については昭和四二年五月二九日に設定されて、翌四三年五月三〇日に解約されており、五〇万六一三七円については昭和四二年一二月二六日に設定されて、翌四三年一〇月一六日に解約されていること、E名義の普通預金は昭和四二年三月一日に設定されて、翌四三年三月一三日に解約されているが、その間の昭和四二年三月一日に五〇〇万円、同年七月二八日に一三〇万円、同年一〇月六日に三〇〇万円、同月七日に二〇〇万円、同月一一日に一〇〇万円、同年一二月三〇日に」五〇〇万円それぞれ預け入れられたので、同月三一日現在、合計一五三三万二八六五円の残高があること、R、S、T及びU名義の株式は、昭和四二年七月二六日から同年九月三〇日までの間に取得されたものであることがそれぞれ認められる。以上のような被告人の事業内容、高収入及び脱税の意図、各資産の設定、取得時期並びにその金額等からすると、所論のいう各資産の原資は期中に取得したものと推認されるので、それが期首に存したものとは認め難いところである。なお、A名義の普通預金については、原判決は右預金が被告人に帰属しない旨認定しているのであるから、この点についての所論は無意味な主張と解するほかはない。してみると、右と同旨の原判決には事実の誤認は存しないから、論旨は理由がないといわなければならない。 (なお、職権で調査すると、原判決は、原判決添付別紙(二)税額計算書中、納付すべき所得税額欄の実際額欄に「36,037,200」と、その通脱額欄に「25,872,600」とそれぞれ記載すべきところ、右各金額を脱落したため、理由中の罪となみべき事実(原判決三頁六行目から七行目にかけて)及び争点に対する判断等(同一〇三頁六行目)において、正規の所得税額と申告税額との差額を二 れ記載すべきところ、右各金額を脱落したため、理由中の罪となみべき事実(原判決三頁六行目から七行目にかけて)及び争点に対する判断等(同一〇三頁六行目)において、正規の所得税額と申告税額との差額を二五八七万二六〇〇円と認定判示すべきであるにもかかわらず、これを二五八七万九二〇〇円と認定した違法があるが、その誤認は判決に影響を及ぼさないものと解される。)よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官海老原震一裁判官杉山英巳裁判官新田誠志)

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