7,566 文字
主文 原判決を破棄する。被告人を懲役一年六月に処する。ただしこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。原審および当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。理由 本件控訴の趣意は、弁護人土井永市作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対してつぎのとおり判断する。第一、 弁護人控訴趣意第一点の1(事実誤認)について。原判決挙示の証拠の外、当審証人A・同Bの証言および当審公判廷における被告人の供述記載をも参酌して、検討を加えるに、(1) 所論は、C株式会社のコミツシヨン・セールスマンである被告人の地位、身分は、原判決にいう、「会社の委託を受け、自動車の販売・代金の集金・保管等の業務に従事していたもの」ではなく、独立の個人的事業として、その営業を営んでいたものであるという。しかしながら、被告人の会社における地位、身分に関して原判決が認定するところは、その証明十分である。以下、その主要な理由を列挙すれば、(イ) Cには、自動車の販売外交員として、コミツシヨン・セールスマンとハウス・セールスマンがあり前者は、販売第一課に、後者は、販売第二課に所属している。ハウス・セールスマンが、月給制であるのに対してコミツシヨン・セールスマンが、歩合給であるという相違がある。被告人をふくむコミツシヨン・セールスマンの収入は、販売補助費と販売手数料の二つであつて、会社から、毎月、「給料支給明細書」という表題で、この販売補助費と販売手数料が支給されている。(当裁判所昭和四三年押六一六号の二六―六〇)(ロ) Cと被告人との間の基本契約は、「業務の委託に関する契約書」である。その第三条には、乙(被告人)は、本契約による受託事務の処理に当 されている。(当裁判所昭和四三年押六一六号の二六―六〇)(ロ) Cと被告人との間の基本契約は、「業務の委託に関する契約書」である。その第三条には、乙(被告人)は、本契約による受託事務の処理に当つては、甲(会社)に対し所定の業務報告をなし、かつ、受け取つた金銭書類および物品等があるときは、遅滞なくこれを甲(会社)に引き渡すべきものとする。 の第三条には、乙(被告人)は、本契約による受託事務の処理に当 されている。(当裁判所昭和四三年押六一六号の二六―六〇)(ロ) Cと被告人との間の基本契約は、「業務の委託に関する契約書」である。その第三条には、乙(被告人)は、本契約による受託事務の処理に当つては、甲(会社)に対し所定の業務報告をなし、かつ、受け取つた金銭書類および物品等があるときは、遅滞なくこれを甲(会社)に引き渡すべきものとする。と規定されている。(ハ) Cは、いわゆる代理店を原則として持たず、前記セールスマンとは別に、販売協力店というものを七〇社位おいていた。この販売協力店は、少くとも一つの店舗と認定工場を持つて、販売員を二名以上持つところという資格が要求され、販売協力店契約書(前同号の二四)が、取り交わされている。これらの事実からいつて、被告人の会社における地位、身分は、原判決認定のとおりであるというべきである。(2) 所論は、「「1」コミツシヨン・セールスマンに対しては、退職金も、失業保険も認められていないし、「2」被告人は、業務遂行にあつて、私的な使用人を使つていた」ことを挙げているが、これらの事実があつたとしても、右の結論に変更は来たさない。なお、所論指摘のとおり、会社当局が、コミツシヨン・セールスマンである被告人らに対して、時として「君達は代理店である。」とか、「君達は、労働者ではなく、独立の企業者である。」とか言明した事実も、うかがわれないではないが、これらの言辞は、あくまでも、自動車の販売を促進させるための、コミツシヨン・セールスマンに対するしつた激励の言葉として受け取るのが相当であつて、この事実があつたからといつて、右の結論が違つてくることはない。なお所論は、「所得税についても、給与所得としてでなく、個人の事業所得として納税していた」というが、被告人の原審第一〇回公判期日における供述(記録 つたからといつて、右の結論が違つてくることはない。なお所論は、「所得税についても、給与所得としてでなく、個人の事業所得として納税していた」というが、被告人の原審第一〇回公判期日における供述(記録二冊五六四丁以下)によれば、実は、そうではなく、「被告人は、所得税の確定申告をしていたのであり、個人事業税を納めていたのではない」ことが明らかである。(3) 被告人は、原審公判廷で、被告人は、代理店業務を、会社内で行つていたのである。 違つてくることはない。なお所論は、「所得税についても、給与所得としてでなく、個人の事業所得として納税していた」というが、被告人の原審第一〇回公判期日における供述(記録二冊五六四丁以下)によれば、実は、そうではなく、「被告人は、所得税の確定申告をしていたのであり、個人事業税を納めていたのではない」ことが明らかである。(3) 被告人は、原審公判廷で、被告人は、代理店業務を、会社内で行つていたのである。被告人は、主として業者から注文を受け、Cから被告人が新車を買い取つて、これを右の業者に売つたのである。被告人対右業者との取引条件と、被告人対Cとの取引条件との間には、相違がある。つまり、Cとの間の取引条件は、アレンジされている。そして、対Cだけの取引条件により、自動車がCから出庫されている。 被告人が、業者に販売して得た代金は、いつたん被告人の当座預金口座に入金され、Cとの間では被告人振出の小切手で、月二回清算していた。旨供述している。なるほど、本件自動車販売の実態を眺めるとき、Cでは、被告人の差し出す注文書を、或は被告人を、信用して、自動車を出庫し、被告人の販売代金納入方法も、被告人の供述するとおりであつたことが認められないではない。ことに、右注文書(前同号の七一、七二)たるや、被告人のいうとおり、いわゆる「アレンジ」されたものであり、かつ、注文者の氏名の押印のないものが多数あり、注文者の氏名も、被告人の使用人である谷地正成といつた、真実の注文書(買主)でない氏名が使われており、C側でも、これらのことを十分承知していたことも、またうかがわれないでもない。このように、Cの、コミツシヨン・セールスマンとしての被告人に対する取扱は、極めてルーズな、従つてまた、ある意味では、被告人を信頼した取扱 とを十分承知していたことも、またうかがわれないでもない。このように、Cの、コミツシヨン・セールスマンとしての被告人に対する取扱は、極めてルーズな、従つてまた、ある意味では、被告人を信頼した取扱がなされて来たために、コミツシヨン・セールスマンとしての被告人に、独立の個人事業的色彩が若干出て来たまでであるとみるべきである。この色彩の故をもつて、被告人の会社に対する立場の基本的性格が変つて来ているものと解するにはほど遠いのであつて、コミツシヨン・セールスマンとしての被告人が、独立の代理店業務を営んでいたものと解することはとうていできない。 ーズな、従つてまた、ある意味では、被告人を信頼した取扱がなされて来たために、コミツシヨン・セールスマンとしての被告人に、独立の個人事業的色彩が若干出て来たまでであるとみるべきである。この色彩の故をもつて、被告人の会社に対する立場の基本的性格が変つて来ているものと解するにはほど遠いのであつて、コミツシヨン・セールスマンとしての被告人が、独立の代理店業務を営んでいたものと解することはとうていできない。論旨は理由がない。第二、 同控訴趣意第一点の2、3(事実誤認)について。所論は、「被告人が集金した新車販売代金は、原判決にいうように、会社の所有に属する金員ではない」という。(1)、 被告人と会社との間の契約内容は、売買ではなく、販売の委託とみるべきことは、前段に詳しく述べたとおりである。本件の場合、被告人は集金した新車販売代金を、被告人のD名義のE信用金庫当座預金口座にいつたん入金し、会社に対しては、被告人振出の小切手で支払つていること、および、右販売代金は、本来遅滞なく会社に引き渡すべきもので、その性質上、当該事務処理の目的の場合を除いては、他に流用することは許されない種類の金員であることが、右証拠上明らかである。そこで、問題は、被告人名義の当座預金口座に入金された、右販売代金の帰属如何にある。本件の場合は、当座預金口座への入金および会社に対する支払等について、具体的事情を検討してみる必要がある。(2)、 原判決が、その判断過程の中で掲げる証拠によると、(イ) 被告人が、原判示六か月間に、右当座預金口座に入金した金員ならびに、合計額に対する比率を表にして示せば、「1」 売掛 ある。(2)、 原判決が、その判断過程の中で掲げる証拠によると、(イ) 被告人が、原判示六か月間に、右当座預金口座に入金した金員ならびに、合計額に対する比率を表にして示せば、「1」 売掛金(新車販売代金)二六五一万円余、五二%「2」 中古車(会社と関係ないものも含まれている) 二八〇万円余「3」 他車種一一二二万円余「4」 借入金七九五万円余一七%「5」 自己資金一〇八万円余「6」 雑一二五万円余「7」 合計五〇八三万円余であり、(ロ) 被告人の供述するところによれば、この期間に、被告人が、現実に新車を販売し、かつ集金しながら、実際には会社に納入しなかつた金額は、一二〇〇万円の多額に上るのである。ちなみに、被害届によるときには、被告人の会社に対する未納代金は、一四三一万円余になつている。 他車種一一二二万円余「4」 借入金七九五万円余一七%「5」 自己資金一〇八万円余「6」 雑一二五万円余「7」 合計五〇八三万円余であり、(ロ) 被告人の供述するところによれば、この期間に、被告人が、現実に新車を販売し、かつ集金しながら、実際には会社に納入しなかつた金額は、一二〇〇万円の多額に上るのである。ちなみに、被害届によるときには、被告人の会社に対する未納代金は、一四三一万円余になつている。(ハ) 被告人が、当座預金口座を利用していたのは、それなりの必要があつたからである。すなわち、被告人は、自動車販売店を対象とする、いわゆる「業販」という方法で、自動車を販売しており、月々の販売台数も多く、立替金のこともあつたり、被告人のやりくりもあり、その他の理由もあつて、当座預金口座を利用していたのであり、会社側も、被告人振出小切手による自動車販売代金の決済を認めて来た。この点、原判決が、「販売代金の保管方法の一として、これ(当座預金口座の利用、被告人振出小切手による会社への納金)を認めていたに過ぎないと認められる」とするのは、所論指摘のとおり、ことの真相を把握したものとは、いい難い。(ニ) 会社へ 一として、これ(当座預金口座の利用、被告人振出小切手による会社への納金)を認めていたに過ぎないと認められる」とするのは、所論指摘のとおり、ことの真相を把握したものとは、いい難い。(ニ) 会社への販売代金納入は、月二回、被告人振出小切手で、清算していたことが明らかである。(3)、 およそ、委託者である会社から新車販売という一定の事務の委託を受け、その事務処理の過程において、委託者のために集金した新車販売代金は、原則として、受領すると同時に、委託者の所有に帰し、受託者は、これを引き渡すまでは委託者のために占有するという関係に立つものであつて、これを、会社に無断で或は正当の理由なく、自己の預金に振り込むときは、そのこと自体によつて、すでに業務上横領罪が成立する筋合のものであると解すべきである。ところが、本件の場合には、前項に説示のとおり、集金した自動車販売代金を被告人の当座預金口座に入金すること、および会社に対するその引渡は、右口座を利用して被告人振出の小切手によることを、引き続き、会社が黙認してきたという特殊な事情が認められるのである。しかも、前記のとおり、原判示の六ケ月の間に、被告人の右当座預金口座に入金された合計金額のうち、会社のための新車販売代金の占める割合は五二%にすぎない(第二(2)(イ)「1」)。 前項に説示のとおり、集金した自動車販売代金を被告人の当座預金口座に入金すること、および会社に対するその引渡は、右口座を利用して被告人振出の小切手によることを、引き続き、会社が黙認してきたという特殊な事情が認められるのである。しかも、前記のとおり、原判示の六ケ月の間に、被告人の右当座預金口座に入金された合計金額のうち、会社のための新車販売代金の占める割合は五二%にすぎない(第二(2)(イ)「1」)。全く会社に関係のないものが少くとも四二%(同「3」ないし「6」)にも及ぶのである。(4)、 なお原判決は、弁護人の主張に対する判断の項において「被告人の当座預金口座には、「1」会社の金員、「2」会社とは関係のない取引に関する金員、「3」被告人の借入金等が入金されているのであるから、被告人が支払わせた原判示小切手金は、保管中の会社の金員から支出されたのか、被告人の金員から支出されたのか、分明でない。結局横領の証明がないこと 、「3」被告人の借入金等が入金されているのであるから、被告人が支払わせた原判示小切手金は、保管中の会社の金員から支出されたのか、被告人の金員から支出されたのか、分明でない。結局横領の証明がないことに帰する」という弁護人の主張に対して、結論として、被告人は、保管中の会社の金員より原判示小切手金を支出したものと認めるべきであるから、横領罪を構成すると判示しているが、その判断過程において掲げる証拠と、原判決添付の別紙犯罪一覧表とをし細に照らし合わせて検討すると、必ずしもそうとはいえない。例えば、別紙犯罪一覧表番号54、69に関する当座預金口座の出し入れと別紙犯罪一覧表の該当番号欄とを、かみ合わせてみると右番号54、69については、「被告人は、保管中の会社の金員から原判示小切手金を支出したものでない」ことが、明白である。<要旨>(5)、 以上詳記したような事情の認められる本件にあつては、被告人が集金した自動車の販売代金自体は、会社</要旨>の所有に帰するが、それが一旦被告人名義の当座預金に入金された暁には、その預金債権は被告人のものとなり、最早会社の所有に属するものではないと解するのが、相当である。そうしてみると、原判決が、被告人において販売代金を集金してD名義でE信用金庫に預金した当座預金をも被告人の占有する会社の所有物であると判示したのは、事実を誤認したか、法律の解釈適用を誤つたか、そのいずれかであり、この誤りが、判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は、破棄を免れない。 された暁には、その預金債権は被告人のものとなり、最早会社の所有に属するものではないと解するのが、相当である。そうしてみると、原判決が、被告人において販売代金を集金してD名義でE信用金庫に預金した当座預金をも被告人の占有する会社の所有物であると判示したのは、事実を誤認したか、法律の解釈適用を誤つたか、そのいずれかであり、この誤りが、判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は、破棄を免れない。論旨は、理由がある。第三、 破棄自判以上のとおり、本件控訴は、理由があるから、刑訴法三九七条一項、三八二条、三八〇条により原判決を破棄した上、同法四〇〇条但書に従い、当裁判所は、ただちに自判する。本位的訴因である業務上横領の犯罪事実について 、本件控訴は、理由があるから、刑訴法三九七条一項、三八二条、三八〇条により原判決を破棄した上、同法四〇〇条但書に従い、当裁判所は、ただちに自判する。本位的訴因である業務上横領の犯罪事実については、これを認めることができないことは、前記説示のとおりである。当裁判所の認める罪となるべき事実は、当審においてなされた訴因の予備的追加に基く、つぎのとおりの事実である。一、 罪となるべき事実被告人は、昭和四一年三月一日から東京都港区ab丁目c番d号所在C株式会社の販売外交員として、同会社の委託を受け、同会社のために自動車の販売、代金の集金等の事務を処理していたものであつて、顧客から受領した自動車販売代金を同都港区ef号地のgE信用金庫にD名義で一時当座預金していたのであるが、前記会社との契約により右販売代金を遅滞なく、同会社に納入すべき任務を有していたものであるところ、これを自己の飲食代金支払等に充てるときには、被告人の当時のひつぱくした金のやりくりからみて、右集金済の販売代金の納入に支障を来たして、同会社に損害が生ずることを認識しながら、昭和四一年三月一日頃から同年九月七日頃までの間、別紙一覧表記載のとおり、前後九三回にわたり、いずれも同都内において、自己の飲食代金支払等被告人の利を図る目的をもつて、右任務に背き、F、ほか一四名にあてて小切手合計九三通(額面合計二二六万〇六三〇円)を振り出して同人らに交付し、同年三月四日頃から同年九月一六日頃までの間その都度前記信用金庫の当座預金から小切手金の払渡を受けさせ、その小切手金の金額だけ会社に対するその納入を不能ならしめ、もつて前記会社に対し合計金二二六万〇六三〇円相当の損害を加えたものである。 いて、自己の飲食代金支払等被告人の利を図る目的をもつて、右任務に背き、F、ほか一四名にあてて小切手合計九三通(額面合計二二六万〇六三〇円)を振り出して同人らに交付し、同年三月四日頃から同年九月一六日頃までの間その都度前記信用金庫の当座預金から小切手金の払渡を受けさせ、その小切手金の金額だけ会社に対するその納入を不能ならしめ、もつて前記会社に対し合計金二二六万〇六三〇円相当の損害を加えたものである。二、 証拠の標目(省略)三、 法令の適用判示所為。刑法二四七条、懲役刑選択刑の執 するその納入を不能ならしめ、もつて前記会社に対し合計金二二六万〇六三〇円相当の損害を加えたものである。二、 証拠の標目(省略)三、 法令の適用判示所為。刑法二四七条、懲役刑選択刑の執行猶予。刑法二五条一項原審・当審の訴訟費用負担。刑訴法一八一条一項本文。(裁判長判事江里口清雄判事上野敏判事横地正義)
▼ クリックして全文を表示