平成24年10月2日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年第425号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成24年5月29日判決 主文 1 被告は,原告X1に対し,2544万2822円及びこれに対する平成19年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告X2に対し,2223万8025円及びこれに対する平成19年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告X3に対し,2223万8025円及びこれに対する平成19年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,これを10分し,その2を原告らの負担とし,その余は被告の負担とする。 6 この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,原告X1に対し,4447万6500円及びこれに対する平成19年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告X2に対し,2223万8250円及びこれに対する平成19年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告X3に対し,2223万8250円及びこれに対する平成19年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の運営するリハビリテーション施設で介護職に従事していたX4が自殺により死亡したことについて,X4の妻及び子である原告らが,X4は長時間 かつ過密な業務に従事していたにもかかわらず,被告がX4の心身の健康を損なうことがないよう配慮する措置を何ら X4が自殺により死亡したことについて,X4の妻及び子である原告らが,X4は長時間 かつ過密な業務に従事していたにもかかわらず,被告がX4の心身の健康を損なうことがないよう配慮する措置を何ら採らなかったため,うつ病エピソードを発症し,前記自殺をするに至ったと主張して,被告に対し,不法行為ないし債務不履行に基づき,合計8895万3000円(原告X1につき4447万6500円,原告X2及び同X3につき,各2223万8250円)の損害賠償及び各々の請求額に対するX4の死亡の日である平成19年4月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提となる事実(証拠を記載したもの以外は当事者間に争いがない。) 当事者等X4は昭和39年1月3日生まれの男性で,死亡当時43歳であった。 原告X1はX4の妻であり,原告X2及び同X3はX4の子である。なお,原告X1はX4が死亡した当時保険の外交員を勤めていた。(甲2の1,14,弁論の全趣旨) X4の経歴X4は,福祉系の大学を中途退学した後,ホテルやペンションの調理師並びにオランダ及びイタリアでの料理修行等を経て,平成5年8月1日,被告に雇用された。その後は被告の運営するY1病院(以下「被告病院」という。)の栄養課の調理師として勤務していたが,被告病院の調理部門が外部委託されることに伴い,平成17年8月1日,医療社会事業部医療社会事業課に異動し,以降,被告病院の療養型病棟である通所リハビリテーション施設「Y2」(以下「Y2」という。)において介護職の業務に従事していた。 なお,Y2は医療社会事業部医療社会事業課の管轄下にあり,平成15年に開設された施設である。(甲13,乙1,弁論の全趣旨) X 以下「Y2」という。)において介護職の業務に従事していた。 なお,Y2は医療社会事業部医療社会事業課の管轄下にあり,平成15年に開設された施設である。(甲13,乙1,弁論の全趣旨) X4の死亡X4は,平成19年4月24日午前7時ころ,Y2内の風呂場で縊頸の方法により自殺した(以下「本件自殺」という。)(甲1)。 労災認定等原告X1は,平成20年3月1日,都留労働基準監督署長に対し,本件自殺が業務上の災害であるとして,遺族補償年金等の支給請求をしたところ,同労働基準監督署長は,平成21年12月9日,これを認め,前記年金等の支給決定をした。 これに伴い,原告X1は,平成19年4月から本件口頭弁論終結時までの間に,遺族補償年金1619万6649円,葬祭料113万6580円の支給を受けた。 (甲4,11,30,弁論の全趣旨) 2 争点及び争点に関する当事者の主張 被告の義務違反の有無(原告らの主張)ア X4の労働時間 被告病院では職員の労働時間はタイムカードによって管理されていたところ,労働者の労働時間の把握はタイムカード等の客観的データによりなすことが原則的方法である。被告病院の時間外勤務命令書に記載された時間外・休日労働時間は,タイムカードにより把握される労働時間と比較して著しく過少なものとなっているが,タイムカードは労働者自らが始・終業時刻を打刻する客観的な記録であるから,これを基礎として労働時間を把握すべきは当然である。 本件自殺前6か月間のX4の労働時間は,タイムカードの始・終業時間を基準にすると以下のとおりである(括弧内は,同月までの月平均時間を示す。 以下本判決における同形式の表において同じ。)。 本件自殺前1か月 166時間21分 労働時間は,タイムカードの始・終業時間を基準にすると以下のとおりである(括弧内は,同月までの月平均時間を示す。 以下本判決における同形式の表において同じ。)。 本件自殺前1か月 166時間21分同2か月 83時間46分(125時間03分)同3か月 96時間05分(115時間24分)同4か月 54時間01分(100時間03分) 同5か月 81時間44分(96時間23分)同6か月 116時間33分(99時間45分)本件自殺前6か月間のX4の時間外労働時間は概ね100時間に及んでおり,本件自殺前1か月間においては166時間21分と常軌を逸した長時間労働となっている。本件自殺前1年間を見ても,X4の月当たり平均の時間外労働時間は93時間05分である。 Y2には,本件自殺前において,男性の常勤職員としてA及びBが在籍していたが,本件自殺前1年間の両者のタイムカードに基づく時間外労働時間は月100時間前後となっており,X4のみならず,他の男性職員についても,時間外労働による過大な心身の負荷が恒常的に生じていたものである。 さらに,X4はパソコン等を用いる作業を自宅に持ち帰って行っていた。 これらの持ち帰り残業の時間数については特定できないものの,X4の長時間労働による過重性の判断にあたっては少なくとも付加的に評価すべきである。 被告は,X4とBがつきあい残業をしていたと主張する。 しかし,Bは,労働基準監督署の聴取及び証人尋問において,X4がBに付き合って退勤時間が遅くなったときも,遊んでいたわけではなく仕事をしていた,X4はパソコンの前で書類を作成していた旨を供述しているのであって,X4がBの仕事が終わるのに合わせて帰宅したとしても,その間自分の仕事をしていた ったときも,遊んでいたわけではなく仕事をしていた,X4はパソコンの前で書類を作成していた旨を供述しているのであって,X4がBの仕事が終わるのに合わせて帰宅したとしても,その間自分の仕事をしていたことは明らかである。X4とBの退勤時間がほぼ同じ時刻であることが多いのは,2人とも長時間の時間外労働,更には休日労働をもってしても処理しきれない業務を抱えていたことの証左である。 イ X4の業務内容 X4は,調理師から介護職へと業務内容が大きく変化したことで,肉体的にも精神的にも大きな負荷を受けていた。また,介護業務を行うに際してはパソコン操作に習熟する必要があったところ,X4はパソコンが苦手だった ため,これも大きな負担であった。 被告は,平成19年5月に通所介護施設である「Y3」(以下「Y3」という。)を開設するため,Y2の職員の一部をY3に異動させる準備を進めていた。Y2では,常勤の介護職員のうち,X4,A及びBの3名が中心となってその介護事業の運営を行っていたが,Aは同年3月に会計課に異動し,Bは専らY3の業務に従事するようになったため,X4がY2の責任者に就任することになった。これにより,X4には,Aらとともに運営していたY2を,春以降は他に相談できる同僚のない中で自分が中心となって運営しなくてはならないとの心理的負荷が加わった。 Y2の100名超の利用者のうち,10名前後がY3に移り,その大部分がY2に残る予定であったため,Y2の責任者となることはY3の責任者になる以上に重い責任があった。また,Y2の職員は,多職種であり,幅広い年齢構成であった上,女性も多いなどの理由でまとめにくい職場であった。 同年4月には,新人のEがY2に配属されたが,同人は,資格はあるものの,介護の経験がなかった。また,介護のパート であり,幅広い年齢構成であった上,女性も多いなどの理由でまとめにくい職場であった。 同年4月には,新人のEがY2に配属されたが,同人は,資格はあるものの,介護の経験がなかった。また,介護のパート職員も4名加わったが,未だ研修中の段階で,X4がその指導を行っていたため,X4の負担は軽減されるどころか,かえって過重する結果となった。 Y3の新設オープンが近づくにつれ,Y2の責任者となるX4にも,その新設に伴う業務が加わった。すなわち,X4は,Y3の利用者送迎の際に通過するスクールゾーンについて通行許可を得る作業やY3での当直業務,オープン見学会の準備及びY3の清掃等に従事した。 さらに,同年4月からY2の土曜営業が開始することとなったため,その業務負担も加わった。 4月は送迎車両のタイヤを冬タイヤから通常タイヤに交換する時期であり,X4は多忙の中時間を割いてその作業に従事したほか,Y2利用者や病院の入院患者のために開催する花見行事の準備等の業務にも従事していた。 同年4月30日には被告本部の幹部との懇親パーティーが予定されていたが,X4は,被告病院における調理師としての勤務経験をかわれてその食事の調理業務を命じられており,打合せを重ねながら多忙の中その準備に従事していた。X4は,懇親パーティーの料理につき,メニュー考案から,仕入れ,調理,当日の配膳,接待方法まで全て任されるという重責を負い,上司のF課長から,重要なパーティーにつき失敗は絶対に許されないとプレッシャーをかけられ,メニュープランについてコスト面などで何度もやり直しを命じられていた。 このように,本件自殺前6か月間は,Y3の開設のためY2の中心的職員を削減され,従前にも増してX4の過重な負担が生ずるとともに,責任者に就任することによる心 り直しを命じられていた。 このように,本件自殺前6か月間は,Y3の開設のためY2の中心的職員を削減され,従前にも増してX4の過重な負担が生ずるとともに,責任者に就任することによる心理的負荷の増大と過労を生じる多くの出来事が並行的,複合的に生じていたものである。とりわけ,本件自殺直前の平成19年4月にはX4の負荷が一時的に集中して生じていたのであり,X4の業務は,長時間労働という量的に過重なものであることに加えて,質的にも過重な業務であった。 ウ被告の義務違反使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり,使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は,使用者の注意義務の内容に従って,その権限を行使すべきである。そして,業務上の疲労や心理的負荷が過度に蓄積した結果うつ病等精神障害に罹患し,死亡に至る場合には,危険な結果を生む原因たる状態,すなわち長時間労働等の労働実態が予見可能性の対象となる。 被告が本件自殺前にX4に従事させていた業務は,労働時間のみで心身の健康を損なうことが明らかであることに加え,労働密度も過密なものとなってい たにもかかわらず,被告は,Y2の運営をサポートできる人員体制を作らず,X4の業務量を軽減する措置を何らとらなかった。 Y2では係長以下の者はタイムカードを打刻していたが,F課長はタイムカードを見たことがなく,X4の業務量やその処理のためどの程度残業していたかについても把握していなかった。タイムカードによる労働時間の把握がなされていた以上,労働時間管理の職にある課長は,職員の時間外勤務命令 たことがなく,X4の業務量やその処理のためどの程度残業していたかについても把握していなかった。タイムカードによる労働時間の把握がなされていた以上,労働時間管理の職にある課長は,職員の時間外勤務命令申請書で申請されている時間が実態に反した過少なものであることを知悉し,あるいは容易に知悉し得た。タイムカードを確認しなかったのは,申請書で申請された時間外・休日労働と,タイムカードによる時間外・休日労働に大きな齟齬が生じているのを知りながら,それによる時間外・休日の割増賃金不払という刑事処罰の対象となる労基法違反を,管理者である課長が見て見ぬふりをしていたとの謗りを免れない。 X4に月100時間前後の長時間労働が日常的に継続していたことを管理者において認識し,あるいは容易に認識し得たにもかかわらず,労働時間の管理についても,恒常的に生じていた長時間労働の是正についても何ら措置が採られていなかったものであり,被告の責任は重大である。 したがって,被告の不法行為法上の注意義務及び安全配慮義務の懈怠は明らかである。 (被告の主張)争う。 ア X4の労働時間原告らの主張は,労働時間の認定はタイムカードに拠るべきであるとの証拠法則でもあるかのような発想であり,自由心証主義の該当する民事訴訟下においては誤りである。X4がどのような労務に服していたのかに関して,原告らは全く具体的な主張をしていないが,労働時間はタイムカードに拠るべきと唱えているだけでは,何らX4の労働実態は明らかにならない。 X4のタイムカードとBのそれとを比較すると,退勤時間が連日に渡りほぼ同じであり,これは,いわゆるつきあい残業が日常化していたことを示している。X4がタイムカードを打刻するまでの間,被告病院内に留まっていた イムカードとBのそれとを比較すると,退勤時間が連日に渡りほぼ同じであり,これは,いわゆるつきあい残業が日常化していたことを示している。X4がタイムカードを打刻するまでの間,被告病院内に留まっていたこと自体は事実であるとしても,常時労働に服していたものではない。 X4は全体ミーティングの後,Bらとともに喫煙休憩をし,午後5時30分ころから残業を開始しており,行っていた残業もどれだけ長く見積もっても1時間もあれば終わる程度の業務量であった。例えば,日報作成はA4版1枚程度の分量であるから所要時間は5~10分程度であるし,送迎の割り振りも原則として前の週の同じ曜日どおりに割り振りをすれば足りるものである。洗車や給油についても,スタッフで手分けをしてガソリンスタンドに車両を持ち込むだけの業務でしかない。 Bは,X4の死後,同人が担当していた業務を全面的に引き受け,更に新規利用者募集業務も担うことになったにもかかわらず,X4の死後のBの残業時間は1か月当たり40~50時間の範囲内に収まっており(すなわち,1出勤日当たり2時間程度である),X4の実質的な残業業務の内実が,前記指摘の程度のものでしかなかったことが明らかと言わなければならない。 X4がY2内に留まって行っていたことはパソコン業務であるが,実質的にはパソコンの練習というにすぎない。X4が平成19年3月ころにBから譲り受けたノートパソコン内のデータを見ると,X4が主要部分を作成したとみられるデータは13個にすぎず,同人がパソコンに向かっていた時間の大半については,Bの残業に付き合っている間の時間つぶしとしてパソコンの練習をしていたと評価せざるを得ない。 実態として,X4がタイムカードの打刻時刻ほどの残業をしていないことは明らかであり,タイムカ ,Bの残業に付き合っている間の時間つぶしとしてパソコンの練習をしていたと評価せざるを得ない。 実態として,X4がタイムカードの打刻時刻ほどの残業をしていないことは明らかであり,タイムカード上の残業時間と実質的な残業時間との差の部分について,X4が前記時間つぶしのようなことをしているのを被告が咎めなかったことが,労働者の自殺選択との関係性において事業所として安全配慮を欠い たと評価される余地はない。 イ X4の業務内容平成19年3月31日時点におけるY2の常勤スタッフは,A,B,X4,C及びDの5名であり,同年4月1日付けの人事でAが会計課に異動になったものの,代わりにEが加わっているため,同日以降もY2の人員に変更はない。 また,BはY2の業務を処理する傍らでY3の準備を行っており,Y3の準備に専従していたものではない。なお,Y2のパートタイム職員は同日付で8名から12名に増員されている。 Aが異動となり,BもY3での勤務を予定していたため,年齢的に,X4にY2のリーダー格としての役割が期待されていたことは事実であるが,職制上の役職が付与されていたわけではない。X4に期待されていたことは,常勤職員3名,パート職員8名の現場においてリーダー的な存在になることである。 原告らの主張によれば,X4はPTAの会長,少年野球の監督を引き受けるなどリーダー的な資質を備えていることが明らかであるから,Y2のリーダー格となることがX4にとって死を選択するほどの重大なストレスであったとはいえない。 X4は介護に関連する資格を有していないのに対し,C及びDは介護福祉士の有資格者で,Y2での勤務歴もX4より長かった上,新人として採用されたEも介護に関する資格を有していた。Y2ではスタッフ全員で意見を出し合い,かつ,話 を有していないのに対し,C及びDは介護福祉士の有資格者で,Y2での勤務歴もX4より長かった上,新人として採用されたEも介護に関する資格を有していた。Y2ではスタッフ全員で意見を出し合い,かつ,話し合いのうえで仕事を分担して業務が進められており,X4にリーダー格となることが期待されていても,それによる業務が過酷であったり,夜遅くまで残業をしなければならない程度に業務量が増えたことはなかった。むしろ,Y2のリーダー格であったAが異動するのに伴い,同人が担当していた統計業務はG係長が引き受けることとなったのであり,X4の業務としては減っているのである。 X4がパソコンの操作に不慣れであったことは事実であるが,既に出来上が っているフォームに入力するだけのことなので,過酷業務とはほど遠く,被告がX4に高度な操作を要求する作業を命じたこともない。 Y3の新設に伴う業務については,X4は掃除などの現場作業を除くほか行っておらず,Bは,X4にその補助的業務を依頼したこともなければ,相談すらしていない。 X4の手帳の記載はあくまでも予定が書かれているだけであり,現実にその日にその業務が行われたことを表すものではないのであって,実際にも,平成19年4月の段階ではまだY3の新規利用者の募集は行われておらず,スクールゾーンの通行許可申請を行う必要もなかった。 タイヤ交換については,リース車両は電話をすればリース業者が一旦引き揚げ,タイヤ交換後に車両を戻してくれるし,被告病院の所有車両についても,近隣のガソリンスタンドでタイヤを交換してもらうので,X4が自ら行うことはなかった。 また,花見行事の計画・立案はBの担当であって,X4に対して実施業務は行わせていなかった。Bの異動に伴って行事関係の業務はX4が引き受ける イヤを交換してもらうので,X4が自ら行うことはなかった。 また,花見行事の計画・立案はBの担当であって,X4に対して実施業務は行わせていなかった。Bの異動に伴って行事関係の業務はX4が引き受けることとされていたが,本件自殺前の時期においては,いまだ引き継ぎはなされていなかった。なお,係分けをするほどでもない,日常的な細々とした業務でBが担当していたものについても,同人は一つとしてX4に任せておらず,Dに引き継ぎを行っている。 被告本部との懇親パーティーについては,F課長は気の利いたオードブル程度の料理を想定していたところ,X4がイタリアンのフルコースのメニューを考案してきたことから,メニューを簡略化すること,出前を織り交ぜてもよいこと,病院に入っている給食業者に手伝わせてもよいことなどを伝えた。洋食のフルコースメニューを考案したのは専らX4の自由意思によるものであり,むしろ,料理人として腕を振るう機会を得たことで気持ち的にも充実していたことを表す事情というべきである。 以上のように,原告らの主張はいずれも針小棒大である。Y2は平成15年に開設されて以降のノウハウの蓄積があり,X4も平成17年8月から1年半以上の勤務歴があったのであるから,業務上の負荷が一時期に集中して生じていたとはいい難いのであって,X4の業務に量的及び質的な過剰は存在しない。 ウ被告の義務違反予見可能性の対象が自殺を遂げることに対して必要であることは既に論を俟たないところ,X4が被告における業務に起因してうつ病エピソードを発症したとしても,被告がこれを具体的に予見することは全く不可能であった。 すなわち,平成19年4月1日以降もY2の人員に変更はなく,Y3の開設準備も,X4は掃除の手伝いなどで関与していたにす したとしても,被告がこれを具体的に予見することは全く不可能であった。 すなわち,平成19年4月1日以降もY2の人員に変更はなく,Y3の開設準備も,X4は掃除の手伝いなどで関与していたにすぎない上,X4はY2の業務内容を熟知していたから,リーダー格となるからといって新たに業務を覚える必要もなかった。 加えて,X4は,平成19年4月ころ,自発的に当直をやりたいと申し出ており,本件自殺の直前にもF課長等と依然と変わらぬ日常的な会話を交わすなど,食欲及び仕事や野球における目標達成欲も有していた。 他方,X4が「疲れた。」などといった言葉を発することが多くなったとか,朝起きられずに遅刻を繰り返すようになったとか,業務上初歩的なミスを繰り返すといった精神的失調を示唆するようなエピソードを見受けたスタッフは一人もいない。 X4には,平均的あるいは多少の脆弱性を抱えた労働者がうつ病エピソードを発症するような過重労働は負荷されていないばかりか,健全な情動作用までも見られたのであって,被告に,うつ病エピソードを発症するべき予見可能性はなく,したがって安全配慮義務に欠けるところはない。 なお,Y2の業務が土曜日の半日勤務を前提に成り立っているにもかかわらず,X4が異動の直後に立て続けに土曜日に有給休暇を取得しようとしたため,F課長は,土曜日に限って有給休暇を取得することを認めるわけにはいかない 旨を述べた。また,X4がY2の送迎の帰りに野球の練習に立ち寄るなどした経緯があったことから,F課長がX4を叱責した経緯がある。 業務と本件自殺との間の因果関係の有無(原告らの主張)本件自殺直前のX4が従前に比して極端に痩せており,夜眠れなくなる,従前興味を持っていたスポーツニュース等 した経緯がある。 業務と本件自殺との間の因果関係の有無(原告らの主張)本件自殺直前のX4が従前に比して極端に痩せており,夜眠れなくなる,従前興味を持っていたスポーツニュース等に対して関心を示さなくなる,会話もあまりしなくなるなどの心身の変調が生じていたことからすれば,X4がうつ病エピソードを発症していたことは疑うべくもない。 被告はX4のうつ病エピソードの発症を否認するが,過労自殺に至る者の多くは自殺前に精神科医に受診せず,かつその症状が顕在化していないことが多い。 すなわち,家族,職場も気付かないようなうつ病が多く見られるのが過労自殺の特徴であり,自分の弱みを他人には見せず,誰にも相談することなく精根尽き果てて自死を決意するケースが多く見られる。職場の中でX4の前記症状に気付かない者がいたとしたら,X4が自己開示の少ない性格であり,かつ発症時においても職場において気付かれることのないよう自己統制のための努力をしていた結果である。 長時間労働と精神障害との関係に関する医学的知見については,極度の長時間労働,例えば数週間にわたる生理的に必要な最小限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労働は,心身の極度の疲労,消耗を来たし,うつ病等の原因となる場合があり,発病の6か月以上前から続く常態的な長時間労働も,それが過重性を増す傾向を示すような場合には,その変化の度合いが小さくても強いストレスと評価され,また,長時間労働は一般に精神障害の準備状態を形成する要因となっている可能性があることから,出来事の評価に当たって特に常態的な長時間労働が背景として認められる場合は,出来事自体のストレス強度はより強く評価される必要があるとされている。 X4の本件自殺前1か月間の時間外労働時間は,月100時間を大きく上回る 的な長時間労働が背景として認められる場合は,出来事自体のストレス強度はより強く評価される必要があるとされている。 X4の本件自殺前1か月間の時間外労働時間は,月100時間を大きく上回る 常軌を逸したものであり,数週間にわたる生理的に必要な最小限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労働であって,それ自体がうつ病等の発症原因となるおそれのあるものに該当するから,長時間労働と本件自殺との因果関係は明白である。 山梨労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会も,都留労働基準監督署長からの求意見に対し,X4には,平成19年2月上旬ころから興味と喜びの喪失の症状が,3月下旬ころから活動性の減退による易疲労感の増大や活動性の減少,食欲減退などの症状が,4月中旬ころには不眠の症状がそれぞれ出現したことが認められ,また,平成19年4月24日に縊死していることから自殺の観念もあったものと認められるから,X4に現れたこのような症状は,国際疾病分類第10改訂版(以下「ICD-10」という。)の診断ガイドラインに照らしてF32うつ病エピソードであったと判断できるのであって,本件自殺はうつ状態における自殺であったといえる旨の結論を出している。 (被告の主張)争う。 X4は,本件自殺直前である平成19年4月ころでも,昼食には持参の大きめの弁当に加え,売店でカップ麺もしくは菓子パンを購入して摂取しており,食欲は旺盛であった。同月22日には,F課長が注文した出前を食べ,「こういう業者の天ぷらも大きくて美味しくなりましたね。」との感想を述べていた。 Y3の夜間警備を外部に委託するか職員が交代で勤めるかが話題になった際には,X4は,「金が稼ぎたいから,ある程度は当直をやりたい。」と自発的に述べていた。 同 。」との感想を述べていた。 Y3の夜間警備を外部に委託するか職員が交代で勤めるかが話題になった際には,X4は,「金が稼ぎたいから,ある程度は当直をやりたい。」と自発的に述べていた。 同年1月ころには,X4がF課長に対して,「自由になる金が欲しい。」と述べ,宿直手当を現金支給できる方法はないかと尋ねたため,F課長は,財形貯蓄であれば給与から天引きされるから自由になるお金を貯められるのではないかと示唆したところ,X4は是非始めたいと述べていた。 同年4月22日のY3の掃除の際には,X4は,Y3に置かれていた冷蔵庫を被告病院の厨房で利用すべきだとF課長に進言し,Y2の業務に関しても,軽い筋肉トレーニングであるパワーリハをもっと取り入れるべきであるなどの意見を述べていた。また,掃除終了後には,野球経験者であるEとキャッチボールをし,F課長に対し,「有望な新人が入ってきた。」,「院長と事務長に遠征費のことを課長からも口添えをお願いします。」などと述べていた。 X4のスーツのズボンがブカブカであったことについては,同人の職務内容が体を動かすことによって成り立っているため,運動によって体重が減少することが十分にあり得る。 X4のうつ病エピソードを縷々証言するのはX4の家族のみであり,家族よりも長い時間を過ごしたY2のスタッフからはそのようなエピソードは1つも上がってきておらず,むしろ,X4には,本件自殺直前においても食欲,金銭欲,目標達成欲といった健全な情動があったのであって,うつ病エピソードの発症とは相容れない。 X4がうつ病エピソードを発症していたか否か疑わしいばかりか,仮に発症していたとしても業務外の事情に拠るものと判断するのが相当である。 損害額(原告らの主張)ア死亡による逸失利益 エピソードを発症していたか否か疑わしいばかりか,仮に発症していたとしても業務外の事情に拠るものと判断するのが相当である。 損害額(原告らの主張)ア死亡による逸失利益 5145万3000円平成18年のX4の年収は532万6845円であり,就労可能年齢67歳までの24年間のライプニッツ係数は13.799,一家の生計を支えていた者として生活費控除は30パーセントであるから,532万6845円×(1-0.3)×13.799=5145万3000円(千円未満切り捨て)となる。 イ死亡による慰謝料 2800万円 ウ葬祭料 150万円エ弁護士費用 800万円したがって,合計8895万3000円である。 (被告の主張)平成18年のX4の年収が532万6845円であることは認め,その余は不知。 過失相殺の適否(被告の主張)X4にかかった負荷は少なくとも著しく許容範囲を超えたものではなく,また,タイムカード上の帰宅時間が遅くなっているのもX4の事情・判断によるものが大きいというべきであるから,過失相殺の法理に照らし,相当程度の相殺がなされるべきである。 (原告らの主張)争う。 X4の性格傾向及びそれに基づく業務遂行態様は,Y2のみならず一般の企業等において社員として求められるものであり,同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったと認めることができないことは言うまでもない。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提となる事実に下記証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 X4の性格等 ることができないことは言うまでもない。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提となる事実に下記証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 X4の性格等X4は,真面目な人柄であり,入浴介助や手間のかかる送迎といった他の職員が敬遠する業務も進んで引き受けるなど責任感が強かった。 X4は幼少のころから野球をやっており,被告病院の野球部の監督や子供の少年野球の監督を務めていた。また,地域の消防団の班長や小学校のPTA会長等 も務めていた。(甲14,乙3,証人B,原告X1) X4の出退勤時間等ア Y2の所定労働時間は平日午前8時半から午後5時までで,休憩時間は1時間であった。所定休日は日曜日・祭日で,4週6休制となるように職員のシフトが組まれていた。 土曜日の勤務については,平成19年3月までは半日勤務で,第4土曜日は休みであったが,同年4月以降,Y2の土曜営業が開始されたことに伴い,土曜日の勤務時間も平日と同様の勤務態勢となった。(甲14,証人B)イ Y2において,職員は出退勤時にそれぞれタイムカードを押すこととされており,X4の本件自殺前6か月間のタイムカード上の出退勤時間は,別表1「X4の労働時間表」の「始業時間」及び「終業時間」欄記載のとおりであった(甲6の17~6の23,弁論の全趣旨)。 なお,別表1の「始業時間」欄に「0:00」,「終業時間」欄に「24:00:00」と表記されているものは,該当するタイムカード上の記載が空欄になっているものである。Y2においては職員の当直勤務が実施されていたため,それらのタイムカード上の表記はX4が当直勤務に従事していたことを示しているといえ,それぞれ始業時刻を0時,終業時刻を24時と表記している。 ある。Y2においては職員の当直勤務が実施されていたため,それらのタイムカード上の表記はX4が当直勤務に従事していたことを示しているといえ,それぞれ始業時刻を0時,終業時刻を24時と表記している。 Y2での業務内容等ア平成18年10月から平成19年3月まで,Y2の常勤職員は,A,B,X4並びに介護福祉士の資格を有するD及びCの5名であり,ほかにパート職員8名が在籍していた。Y2の職員構成には女性の比率が高いという特徴があった。 同年4月1日付けでAは会計課へ異動したが,その代替職員として,介護に関する資格を有している新人のEがY2の配属となった。 平成18年10月当時,被告病院の医療社会事業部医療社会事業課の役職者には,F課長及びG係長が配置されていたが,F課長は,医療社会事業課長と 事務部の会計課長を兼務しており,会計課長としての職務が多かったため,Y2の現場での責任者はG係長であった。もっとも,G係長は事務的な管理業務を担っており,利用者の送迎業務等のほかはY2での介護業務に従事していなかった。 平成19年3月までは,Y2の職員をまとめるリーダーの役割をAが担っており,施設の運営については,職員で意見を出し合って,F課長及びG係長の決裁の上で決められていた。(甲14,乙1,4,証人B,証人F課長,弁論の全趣旨)イ Y2の利用者は平成15年の開設以降,年々増加しており,平成19年4月ころの利用者数は1日30人強であった。 Y2においては利用者ごとに担当職員が決められているわけではなく,職員全員で協力して介護業務を行っていた。 送迎業務を担当する職員は,午前7時30分ころ出勤しており,送迎車両や施設の準備を整えた上で,午前8時から利用者の送迎に出発していた。送迎業務に向か く,職員全員で協力して介護業務を行っていた。 送迎業務を担当する職員は,午前7時30分ころ出勤しており,送迎車両や施設の準備を整えた上で,午前8時から利用者の送迎に出発していた。送迎業務に向かった職員がY2に帰還するのは午前9時ころであり,利用者の到着後,職員を2つの班に分けた上で,下表の内容及び手順で業務を行っていた。なお,Y2では,8台の車両を使用して利用者の送迎を行っており,そのうち3台の運転をA,B及びX4が毎日担当し,残りの5台の運転を被告病院の男性職員が交代で担当していた。 9:00利用者Y2到着予定時刻 お迎え,お茶だし,上着を脱がせる等,バイタルチェック A班 B班9:15排泄介助利用者とのコミュニケーション9:15入浴介助9:30全体体操,体操促し,体操補助 10:00全体のレクリエーションレクリエーション後の手洗い入浴後お茶だし畳の部屋の布団引き11:15健口体操11:15 休憩11:30昼食,食事介助口腔ケア,昼寝の介助・促し12:15 食事介助,口腔ケア,昼寝介助・促し食器類・テーブル等後片付け12:15休憩12:45 排泄介助,テーブルゲーム等13:30 全体体操,体操促し,体操補助全体のレクリエーションレクリエーション後の手洗い入浴後お茶だし畳の部屋の布団片付け13:15入浴介助15:00 おやつ介助,お茶だし,後片付け,自主トレーニング,簡単なレクリエーション15:30 トイレ・オムツ確認15:45 上着着用,乗車準備,帰り支度15:50 送迎車への移動介助,乗車16:00 送迎Y2の開業時間は午後4時までであった。送迎業務を担当する職員は,午後4時から再び利用者 確認15:45 上着着用,乗車準備,帰り支度15:50 送迎車への移動介助,乗車16:00 送迎Y2の開業時間は午後4時までであった。送迎業務を担当する職員は,午後4時から再び利用者の送迎を行い,それらの職員がY2に戻った後,午後5時 前後まで職員ミーティングを行っていた。職員ミーティングは,平成19年3月まではAが,同年4月以降はX4がそれぞれ主導していた。 職員ミーティングが終わると,パート職員は退勤するものの,常勤職員は,送迎車両への車椅子の積載,ガソリンの補給及び翌日の送迎担当者への出発時間の連絡等の翌日の準備並びにその他の事務作業などを行っていた。 日報作成の担当者は,職員ミーティングの後,パソコンを使用してA4版1枚程度の分量の日報を作成する必要があり,平成19年3月まではAが,同年4月以降はX4がそれぞれ作成していた。 そのほか,水曜日に実施されていたY2の浴槽の温泉を入れ替える作業,年5回程度設けられていた夏祭り,遠足及び花見等の利用者を対象としたイベントの準備作業なども時間外勤務時間を利用して行われていた。(甲12・855頁(以下甲12号証の頁数はその右下に付された通し番号を指すものとする。),14,乙1,3,証人B,証人F課長,弁論の全趣旨)ウ X4は,前記イの業務のほか,Y2での車両関係の業務を担っており,利用者をどの車両に乗せるか,送迎をどの職員が担当するかなどを割り振った利用者送迎表の作成並びに車両のタイヤ交換及び車検の手配等の業務を行っていた。 利用者の送迎については,その準備のため始業時間前に出勤することになっていたほか,利用者の要介護状態や送迎の距離等に応じて職員の労力や必要とされる時間が異なるため,その送迎表の作成に当たっては,職員間の公平性等に配慮する必要が 備のため始業時間前に出勤することになっていたほか,利用者の要介護状態や送迎の距離等に応じて職員の労力や必要とされる時間が異なるため,その送迎表の作成に当たっては,職員間の公平性等に配慮する必要があった。(甲14,乙1,証人B,弁論の全趣旨)エ Y2の業務のうち,利用者送迎表や日報はパソコンによって作成されていたが,X4はパソコンの操作を苦手としており,操作方法についてまとめた手控えを作成したり,他の若手職員に操作方法を尋ねたり,平成17年10月ころから同年12月ころまでパソコン教室に通うなどして技術の習得を試みていた。もっとも,パソコン教室については,予約していた時間までに業務を終え ることができず,授業の振替を要請することが度々あった。(甲12・256頁・379頁,証人B,原告X1)オ F課長は業務に関して厳しく部下に接しており,X4に対しても,Y2に異動してきたころ,送迎業務の帰りにグラウンドに寄って少年野球の指導をしたことについて,野球で食べているわけではない旨を述べて叱責したことがあった(証人F課長)。 時間外勤務申請書の記載等ア被告病院において,職員は,時間外勤務に従事した場合,その時間や用務等を記載した時間外勤務申請書を月末に提出することとされており,本件自殺前6か月間のX4の時間外勤務申請書の記載は以下のとおりであった(甲13,弁論の全趣旨)。 勤務日時間外勤務時間用務平成18年10月27日17時~20時翌月送迎スケジュール作成の為同月31日 17時~19時翌月業務準備の為同年11月2日 17時~20時月間レクレーション打ち合せ,準備の為同月7日 17時~21時秋の遠足,打ち合せ,準備の為同月8日 17時~19時秋の遠足,打ち合せ,準備の 月業務準備の為同年11月2日 17時~20時月間レクレーション打ち合せ,準備の為同月7日 17時~21時秋の遠足,打ち合せ,準備の為同月8日 17時~19時秋の遠足,打ち合せ,準備の為同月10日17時~19時30分秋の遠足,打ち合せ,準備の為同月15日 17時~20時秋の遠足,打ち合せ,準備の為同月20日 17時~20時月間レクレーション打ち合せ,準備の為同月24日17時~19時30分翌月レクレーション打ち合せの為同月27日 17時~翌月送迎スケジュール作成の為 21時30分同年12月18日17時~21時月間レクレーション,クリスマスイベントに使用するケーキ作成の為同月19日 17時~21時月間レクレーション,クリスマスイベントに使用するケーキ作成の為同月25日 17時~20時翌月の準備,送迎スケジュール作成の為平成19年1月4日17時~19時当月レクレーション準備の為同月12日 17時~20時車両管理資料整理等の為同月15日 17時~19時 Y2利用者情報整理の為同月16日 17時~19時送迎車両管理資料整理の為同月29日 17時~20時翌月送迎スケジュール作成の為同年2月5日17時~20時30分月間レクレーション準備の為同月8日 17時~19時通行許可申請書作成の為同月23日 17時~19時翌週業務準備の為同月26日17時~19時30分送迎スケジュール表作成の為同月28日 17時~20時翌月業務準備の為同年3月1日 17時~20時月間レクレーション準備の為同月26日 17時~21時送迎スケジュール作成の為同月27日 17時~20時新体制マニュアル,スケ 20時翌月業務準備の為同年3月1日 17時~20時月間レクレーション準備の為同月26日 17時~21時送迎スケジュール作成の為同月27日 17時~20時新体制マニュアル,スケジュール等作成の為同月28日 17時~20時新体制マニュアル,スケジュール等作成の為 同月29日 17時~19時事務送迎スケジュール表作成の為同月30日 17時~21時年度末締め業務の為同年4月7日12時30分~17時土曜日の出勤の為同月14日12時30分~17時土曜日の出勤の為同月21日12時30分~17時Y3説明会の為イ職員から提出された時間外勤務申請書は,G係長がとりまとめた上でF課長に報告していたが,タイムカードと照らし合わせてその記載内容の正誤及び当否等について当該職員に確認することはしていなかった。 また,F課長は,時間外勤務時間が突出している月については,G係長を通じて当該職員にその内容等を確認することがあったものの,職員に対して,時間外勤務時間を減らすよう指示したことはなかった。(証人B,証人F課長) A及びBの労働時間等ア本件自殺前6か月間のAの時間外労働時間は以下のとおりであった(甲25,乙5の10~5の16)。 本件自殺前1か月 146時間53分同2か月 79時間07分(113時間00分)同3か月 83時間15分(103時間05分)同4か月 71時間00分(95時間03分)同5か月 99時間05分(95時間52分)同6か月 98時間55分(96時間22分)イ 本件自殺前6か月間のBの退勤時間は別表2「Bの退勤時間一覧表」の「退勤時間」欄記載のと 同5か月 99時間05分(95時間52分)同6か月 98時間55分(96時間22分)イ 本件自殺前6か月間のBの退勤時間は別表2「Bの退勤時間一覧表」の「退勤時間」欄記載のとおりであり,時間外労働時間は以下のとおりであった(甲24,乙8の10~8の16)。 本件自殺前1か月 162時間47分同2か月 77時間15分(120時間01分)同3か月 78時間43分(106時間15分)同4か月 55時間35分(93時間35分)同5か月 97時間46分(94時間25分)同6か月 79時間28分(91時間55分) BはX4の死後,同人の担っていた車両関係等の業務を引き継ぐこととなった。平成19年5月から同年9月までのBの時間外労働時間は以下のとおりであった(乙8の17~8の21,証人B)。 平成19年5月 84時間00分同年6月 84時間11分(84時間05分)同年7月 96時間38分(88時間16分)同年8月 90時間52分(88時間55分)同年9月 55時間09分(82時間10分) Y3の開設に伴う体制の変更等ア同年4月1日付けでAが会計課へ異動したことに伴い,同人の担当していた統計業務はY2の職員の業務から外され,会計課の担当業務となった。 また,同日付けで新たに4名のパート職員が採用され,Y2に配属された。 パート職員については,採用後一定期間の研修が設けられており,X4を含むY2の男性職員がパート職員に付いて業務を指導する態勢がとられていた。 (証人B,弁論の全趣旨)イ Y2には,従来から寝たきり等リハビリテーションの適応のない利用者の利用希 られており,X4を含むY2の男性職員がパート職員に付いて業務を指導する態勢がとられていた。 (証人B,弁論の全趣旨)イ Y2には,従来から寝たきり等リハビリテーションの適応のない利用者の利用希望が多く寄せられており,これを受け入れていた。しかし,Y2はリハビリテーション施設であって,これらの者を多く受け入れると生活機能の改善が見込まれる利用者について,手厚いリハビリテーションをなし得なくなるという弊害が危惧されていた。そのような状況の中,平成18年秋ころ,被告の保 養施設として使用されていたZが廃止されることとなったため,この土地建物を利用して通所介護施設を開設し,Y2との適切な利用者の分配を図ることになった。 その後,通所介護施設であるY3が平成19年5月に開設されることが決まり,それに伴って,Y2の常勤職員のうち,B及びCがY3に異動し,Bがその責任者に就任する方針となった。 Y2の責任者にはX4が就任する方針となったが,X4にはY2の職員をまとめるリーダーとしての役割が期待されており,管理職としての地位が与えられていたわけではなかった。 Y3は,比較的小規模の施設の開設を予定しており,Y2の方が施設としての規模が大きいため,Y2の利用者の1割程度がY3へ移行し,その他の利用者は引き続きY2を利用する予定であった。 同年4月には,Y3の開設に伴い,施設の改良や告知文書の作成等の業務が生じたが,それらの業務は主にB及びCが担当しており,X4は,Y3の開設準備業務については掃除等の手伝いで関与していたのみであった。 なお,Y3の開設は延期されることとなり,実際に開業したのは同年9月であった。(甲14,乙1,証人B,証人F課長,弁論の全趣旨) 本件自殺前の介護業務以外のX4の業務ア なお,Y3の開設は延期されることとなり,実際に開業したのは同年9月であった。(甲14,乙1,証人B,証人F課長,弁論の全趣旨) 本件自殺前の介護業務以外のX4の業務ア X4は,平成19年2月から同年3月にかけて,スクールゾーンの書換業務に従事しており,同月1日に警察での申請手続及び道路の確認を行った。 これは,新規利用者を送迎するための車両が通る経路について,スクールゾーンの有無を調査し,スクールゾーンに該当すれば警察の指示を受けて申請書を提出し,その通行許可を受ける業務である。なお,この通行許可には有効期限があり,期間満了時には更新の手続をする必要があった。(甲5,13,乙3,証人B)イ X4は,同月から同年4月にかけて,Y2の送迎に利用する車両のタイヤ交 換業務に従事した。 送迎車両のうち,5台のリース車両についてはリース業者がタイヤ交換を行い,3台の所有車両についてはガソリンスタンドにタイヤ交換を依頼するため,タイヤ交換業務は,業者との連絡や日程調整等が主な業務内容であった。(甲5,証人B,弁論の全趣旨)なお,タイヤ交換業務について,X4が一人でタイヤ交換をさせられていた旨のHの聴取書(甲14・77頁)が存在するが,これはX4と職場を異にする者の聴取書であるから,X4の業務の実態を正確に把握できていたのか疑問であるし,Y2でともに勤務していた証人Bは,リース業者やガソリンスタンドにタイヤ交換を依頼するため自ら車両のタイヤ交換を行うことはない旨を証言しており,X4の手帳にも,例えば平成19年3月22日の記載欄の「タイヤ~オデ見積り」,同月31日の記載欄の「タイヤ交換~連絡」(甲5)など,X4がタイヤ交換のために業者と折衝していたことをうかがわせる記載がなされているから,X4自ら 9年3月22日の記載欄の「タイヤ~オデ見積り」,同月31日の記載欄の「タイヤ交換~連絡」(甲5)など,X4がタイヤ交換のために業者と折衝していたことをうかがわせる記載がなされているから,X4自ら車両のタイヤ交換作業を行ったものと認めることはできない。 ウ平成19年4月にはY2の花見行事が予定されていた。Y2の行事に関する業務についてはBの担当であったが,BはY3の開設準備業務で多忙だったため,その日程調整,利用者及びスタッフの調整等の準備作業をX4とともに行った。(証人B)エ同月30日には,Y2の職員と被告本部の幹部が参加する懇親会が開催される予定になっていた。F課長は,X4の調理師としての経験から,この懇親会の料理に関して仕入れから調理までをX4に任せることとし,同人に対し,折角の機会であるからきちんとした料理を出すよう指示した。 F課長は,懇親会の料理についてオードブルのような簡易なものを想定していたところ,X4が当初提案したメニューがイタリアンのフルコースであったため,同人に対し,メニューを簡略化すること,出前を織り交ぜても良いこと, 病院内の給食業者に手伝わせてもよいことなどを指示した。 X4は,メニュープランについて自宅に資料を持ち帰って検討し,費用等の関係を考慮して試行錯誤するとともに,食材の調達について業者と頻繁に連絡をとって段取りを調整するなどしていた。(甲5,12・328頁以下,証人B,証人F課長) 本件自殺前のX4の様子等ア平成19年1月ころ,X4がF課長に対して,自由になる金が欲しい,金を貯める方法はないかなどと尋ねたため,F課長は,財形貯蓄を利用すれば自由になる金銭を貯められるのではないかと示唆した。これに対し,X4は,是非始めたいなどと述べていた。 由になる金が欲しい,金を貯める方法はないかなどと尋ねたため,F課長は,財形貯蓄を利用すれば自由になる金銭を貯められるのではないかと示唆した。これに対し,X4は,是非始めたいなどと述べていた。 また,X4は,Y3の当直業務を職員で行う方針になった際,積極的に当直をやる意向を表明しており,宿直手当を現金でもらいたい旨を述べていた。(証人B,証人F課長)イ同年4月19日に新入社員歓迎会が実施された。X4は,通常業務の際はジャージ等の動きやすい衣服を着用しているため,それほど目立つことはなかったが,同日の歓迎会でスーツを着用したところ,スーツのサイズが当時の体型よりもはるかに大きく,周囲の人間が一目で認識できるほどに痩せていた(証人B)。 ウ同月22日,職員によってY3の掃除が実施されたが,X4はF課長に対して,Y2にもパワーリハビリを積極的に取り入れるべきである旨を述べていた。 また,食事の際には,宅配の弁当を食べ,このような業者の天ぷらも大きくて美味しくなった旨を述べていた。 同日の掃除の後には,X4はEとキャッチボールをし,F課長に対し,「これは有望な新人が入った。」,「今年の日赤の全国大会はなんとかいい線いけるんじゃないですか。」,「幹部に遠征の関係の費用とか遠征に参加できるような取り計らいをしてもらえないか。」などと述べていた。(証人F課長) エ平成19年4月ころから,X4は,原告X1に対してY2に持参する弁当の量を減らすよう指示したり,夜中に眠れない様子を見せるようになった。 従前のX4は,仕事から帰宅すると,原告X2らと野球の会話等を盛んに行い,テレビのスポーツニュースや新聞を読むことを日課としていたが,本件自殺の直前は子供との会話をほとんどしなくなり,スポーツニュース等にも関心を 事から帰宅すると,原告X2らと野球の会話等を盛んに行い,テレビのスポーツニュースや新聞を読むことを日課としていたが,本件自殺の直前は子供との会話をほとんどしなくなり,スポーツニュース等にも関心を示さなくなった。また,原告X1との会話に関しても上の空で,原告X1の問いかけに対してうるさいなどと怒るようにもなった。(原告X1) うつ病の病態に関する医学的知見ア ICD-10におけるうつ病エピソードの診断基準は,A項(①当該エピソードが少なくとも2週間続くこと,②対象者の人生のいかなる時点においても,軽躁病や躁病エピソードの診断基準を満たすほどに十分な躁病性症状がないこと,③当該エピソードが精神作用物質の使用,あるいは器質性精神障害によるものではないこと),B項(a 抑うつ気分,b 興味と喜びの喪失,c 活動性の減退による易疲労感の増大や活動性の減少),C項(d 集中力と注意力の減退,e 自己評価と自信の低下,f 罪責感と無価値感,g 将来に対する希望のない悲観的な見方,h 自傷あるいは自殺の観念や行為,i 睡眠障害,j 食欲不振)のうち,A項を満たし,B項のうち少なくとも2つがあること及びC項とB項の合計が少なくとも4つあることの要件を満たすものが軽症うつ病エピソードであり,A項を満たし,B項のうち少なくとも2つがあること及びC項とB項の合計が少なくとも6つあることの要件を満たすものが中等症うつ病エピソードであり,そして,A項を満たし,B項の3つ全てに該当すること及びC項とB項の合計が少なくとも8つあって,幻覚や妄想又は抑うつ性昏迷を欠くことの要件を満たすものが重症うつ病エピソードとされている(甲11,12・419頁)。 イ東邦大学佐倉病院精神医学研究室のI,自治医科大学精神医学教室のJは,うつ病の病態の特徴に 昏迷を欠くことの要件を満たすものが重症うつ病エピソードとされている(甲11,12・419頁)。 イ東邦大学佐倉病院精神医学研究室のI,自治医科大学精神医学教室のJは,うつ病の病態の特徴について,家族や職場等の周囲から見て仕事上も生活上も全く問題が見つからない事例や周囲からさして異常に気付かれず,突然の自殺 企図で初めて問題が発覚する事例が少なからず存在することを指摘している(甲28,29)。 精神障害発病と長時間労働との因果関係に関する調査研究アこうかん会鶴見保健センターKが,全国の精神科クリニック及び総合病院精神科に対して,診断名,発症と職場関連因子との関連等についての質問票を送付して調査をした結果,長時間労働が精神疾患の発症に関与したとみられる事例(271例)の平均残業時間の内訳は,4時間以上5時間未満が最多であった。この代表値を4.5時間として月労働日数20日を乗じると100時間となり,労災認定上,脳・心臓疾患の発症に関与するとみなされる発症前1か月間の平均残業時間と一致するため,Kは,長時間労働と精神疾患の発症との関係については,脳・心臓疾患の労災認定の判断で使用される目安とほぼ同程度と考えることができる旨の見解を示している。 また,精神疾患の発症と睡眠時間との関係については,発症前に十分な睡眠時間が確保されなかった例が約4割みられ,そのうち半数近くが仕事と強い関連があると判断され,その睡眠時間は4~5時間であった旨の研究結果が報告されている。(甲16)イなお,厚生労働省労働基準局長が平成13年12月12日付けで発した「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」では,長期間の過重業務について,恒常的な長時間労働等の負荷が長期間に渡って作用した場合 3年12月12日付けで発した「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」では,長期間の過重業務について,恒常的な長時間労働等の負荷が長期間に渡って作用した場合には,疲労の蓄積が生じ,これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ,その結果,脳・心臓疾患を発症させることがあるとされており,疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間については,発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合には,業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている(甲18)。 心理的負荷による精神障害の認定基準厚生労働省労働基準局長が平成23年12月26日付けで発した「心理的負荷による精神障害の認定基準について」は,ICD-10第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害を対象疾病とし(ただし,器質性のもの及び有害物質に起因するものを除く。),①対象疾病を発病していること,②対象疾病の発病前概ね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること,③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないことのいずれをも満たす対象疾病は,労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱うものとしている。 そして,判断要件の運用については,精神障害発病前6か月の間に対象疾病に関与したと考えられる業務によるどのような出来事があり,また,その後の状況がどのようなものであったかを具体的に把握し,3段階に分類して評価した上,業務以外の日常生活で起こる出来事の心理的負荷や個体側要因等についても検討して当該精神障害発病と業務との関係を判断 の後の状況がどのようなものであったかを具体的に把握し,3段階に分類して評価した上,業務以外の日常生活で起こる出来事の心理的負荷や個体側要因等についても検討して当該精神障害発病と業務との関係を判断することが示されている。(甲27) 山梨地方労災医員協議会の意見山梨地方労災医員協議会は,平成21年10月21日,山梨労働局長に対し,X4に現れた興味と喜びの喪失,食欲減退及び不眠等の症状がICD-10に照らして「F32うつ病エピソード」に該当し,本件自殺はうつ状態における自殺であったといえる旨の意見を述べた(甲11)。 2 争点(被告の義務違反の有無)について 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知のところである。 労働基準法は,労働時間に関する規制を定め,労働安全衛生法65条の3は,作業の内容等を特に限定することなく,事業者は労働者の健康に配慮して労働者 の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが,それは,前記のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。 これらのことからすれば,使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり,使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は,使用者の前記注意義務の内容に従って,その権限を行使すべきである(最高裁判所平成12年3月24日第2小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 X4の労働時間ア前記1 用者の前記注意義務の内容に従って,その権限を行使すべきである(最高裁判所平成12年3月24日第2小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 X4の労働時間ア前記1のとおり,被告病院においては,職員の勤務時間の管理はタイムカードによって行われており,X4の本件自殺前6か月間のタイムカードの出退勤時間は,別表1「X4の労働時間表」の「始業時間」及び「終業時間」欄記載のとおりであった。 タイムカードは,労働時間を把握する法的義務を負っている使用者が労働者の勤怠を管理するために労働者に打刻させる記録である以上,特段の事情がない限り,労働者がタイムカードに記載された始業時間から終業時間まで業務に従事していたものと事実上推定すべきであって,タイムカードの客観的記載と労働の実態との間に乖離が生じている旨を主張する使用者には,高度の反証が要求されるというべきである。 休憩時間については,前記1のとおり,Y2の職員は班ごとに休憩に入る時間が異なるものの,いずれも1時間の休憩時間が確保されており,X4も1時間の休憩を取得していたと考えられるから,8時間を超える労働に従事した平日については,休憩時間を1時間とするのが相当である。 また,土曜日の勤務については,前記1のとおり,平成19年3月までは半日勤務とされており,X4が勤務中に休憩を取得しなかったことをうかがわ せる事情も見受けられないから,8時間を超える拘束時間の日については1時間,6時間以上8時間未満の拘束時間の日については45分の休憩をそれぞれ取得したもの認めるのが相当である。 以上によれば,本件自殺前6か月間のX4の時間外労働時間は以下のとおりとなる。 本件自殺前1か月 166時間21分同2か月 得したもの認めるのが相当である。 以上によれば,本件自殺前6か月間のX4の時間外労働時間は以下のとおりとなる。 本件自殺前1か月 166時間21分同2か月 83時間01分(124時間41分)同3か月 95時間20分(114時間54分)同4か月 54時間01分(99時間40分)同5か月 81時間44分(96時間05分)同6か月 116時間33分(99時間30分)イ被告は,X4がBの残業に付き合って被告病院内に留まっていたにすぎず,X4の行っていた残業の業務量はどんなに多く見積もっても1時間程度で終わるものであったから,タイムカードに記載されている程の長時間労働の実態はない旨を主張する。 確かに,前記1及びのとおり,本件自殺前6か月間のBの退勤時間とX4のそれを比較すると,両者が一致ないし近接した時間であることが多く,X4及びBが互いにそれぞれの業務が終わるのを待って共に退勤していたことがうかがわれる。 しかしながら,前記1のとおり,X4は,午後5時までの職員ミーティングが終わった後に,送迎車両等の翌日の準備,日報の作成等の事務作業,利用者送迎表の作成及び車検の手配等の車両関係の業務などを行う必要があり,実際にこれらの業務を行っていたものであって,これらが1時間で終了する程度の業務量にすぎないと直ちにいうことはできない。証人Bの証言によれば,同人が残業をしている間,X4は,パソコンの前に座って日報の作成,利用者送迎表の作成,花見行事の配布物の作成,平成19年4月30日の懇親会のメニ ュー検討等の作業をしており,キャッチボールなどをして遊んでいたわけではないことが認められるのであって,X4が自身の業務がないにもかかわらず,あえて時間を 成19年4月30日の懇親会のメニ ュー検討等の作業をしており,キャッチボールなどをして遊んでいたわけではないことが認められるのであって,X4が自身の業務がないにもかかわらず,あえて時間を潰してBと共に退勤しなければならなかった事情も特段見受けられないから,X4が,業務上必要がないのにBに合わせてY2に留まっていたということはできない。 この点に関して,被告は,X4がパソコンに向かって行っていた作業はパソコンの練習にすぎない旨を主張するが,X4のパソコンに残されたデータ(甲12・443頁~1073頁)を見ても,X4は,前記の業務に関連する書類であって毎日作成されていた日報,送迎表,各行事の職員の配置・分担表,女性スタッフの業務分担表等を作成しており,単にパソコンの練習をしていたにすぎないということはできないし,パソコンに残されたデータのうち,X4が主に作成したデータが13個に留まる旨の被告の主張は多分に憶測を含むものであって,首肯することはできない。 また,前記1のとおり,BがX4の業務を引き継いだ平成19年5月以降のBの労働時間と本件自殺前6か月間のそれを比較しても,Y3の開設準備業務のためにBの業務量が平常時に比べて格段に多くなっていた本件自殺前1か月間を除外して対照するならば,同年5月以降の時間外労働時間が本件自殺前のそれに比して特段減少しているとは認められない。したがって,BがX4の担っていた業務を引き継いだにもかかわらず,Bの時間外労働時間が減っている旨の被告の主張には理由がなく,同人の労働時間の推移から,X4の残業の分量が少なかったということはできない。なお,Bの時間外労働時間が大幅に増えていないのは,前記1のとおり,X4の死亡によってY3の開設が延期され,それに伴い開設準備業務が減少したためと考えられる。 分量が少なかったということはできない。なお,Bの時間外労働時間が大幅に増えていないのは,前記1のとおり,X4の死亡によってY3の開設が延期され,それに伴い開設準備業務が減少したためと考えられる。 以上,被告の主張はいずれもタイムカードによる労働時間に関する事実上の推定を覆すには不十分というべきである。 なお,前記1のとおり,被告病院においては,職員が時間外労働に従事し た場合,その時間や用務等を記載した時間外勤務申請書を提出することとされており,X4の提出した本件自殺前6か月間の時間外勤務申請書の時間外勤務時間の記載内容は,タイムカード上の時間外労働時間より大幅に少なくなっている。しかし,この時間外勤務申請書は,月末に1か月分をまとめて提出することとされていたため,X4が現実の時間外労働時間を逐一正確に記載して提出していたか疑わしい上,このような申請書の性格上,労働者が使用者に遠慮して現実に従事した時間外労働時間よりも少なく申告する可能性があることも容易に推察されるところであるから,当該申請書はX4の時間外労働時間を客観的に反映したものとはいえないのであって,前記労働時間の認定を覆すに足りるものではない。 X4の業務の内容ア Y2における労働環境前記1のとおり,X4は,利用者の送迎,入浴,食事及び排泄の介助並びに利用者とのレクリエーションなどのY2における一般的な業務のほか,利用者送迎表の作成,車両の管理等の車両関係の業務に従事していた。 前記前提となる事実のとおり,X4は,平成17年8月1日にY2に異動してから約1年8か月の間,前記業務に従事していたため,これらの業務に対して一定程度の経験を獲得していたと考えられるものの,X4の行っていた業務は,利用者のリハビリテーションの補助や入浴介助など 動してから約1年8か月の間,前記業務に従事していたため,これらの業務に対して一定程度の経験を獲得していたと考えられるものの,X4の行っていた業務は,利用者のリハビリテーションの補助や入浴介助など,肉体的に大きな負荷がかかるものであった上,施設内で利用者が転倒するなどして怪我を負うことのないよう,常時利用者の生命・身体の安全にも配慮しなければならないものであって,精神的な負担も決して少なくないといえるものであった。 X4の担当していた利用者送迎表の作成業務について,被告は,毎週決まった割り振りをすれば済むので負担の大きい業務ではない旨を主張するが,X4が必ずしもパソコンの操作に習熟していなかったことに加えて,前記1のとおり,送迎業務は利用者の要介護状態や送迎の距離等に応じて担当する職員の 労力が異なる上,当該業務はX4の上司であるG係長も担当するから,送迎車両への利用者及び運転者の割り振りを決めるにあたっては,職員間の公平性や上司の負担軽減のための配慮が求められるのであって,Cの聴取書(甲14・49頁)のとおり,実際にも一部の者に送迎業務が集中しないようにX4が配慮していたことがうかがわれることに照らすと,決まったローテーションを機械的に割り振れば済むような単純なものであったとはいえない。 加えて,前記1のとおり,Y2の業務体制は,所定時間内は専ら利用者の介助等の業務に従事し,その余の事務作業等は所定外勤務時間に処理しなければならないなど,恒常的に時間外労働が生じる状況にあり,長時間の勤務は避けられないものであった。 前記1のとおり,本件自殺前6か月間のB及びY2在籍時のAの時間外労働時間が極めて多いことに照らしても,Y2は長時間勤務を余儀なくされる労働環境であったということができる。 イ本件自殺前の負担の のとおり,本件自殺前6か月間のB及びY2在籍時のAの時間外労働時間が極めて多いことに照らしても,Y2は長時間勤務を余儀なくされる労働環境であったということができる。 イ本件自殺前の負担の増大 前記1のとおり,本件自殺の直前である平成19年4月以降は,Y2のリーダーであったAが会計課に異動し,BもY3の責任者に就任する予定となっていたため,X4がY2の責任者に就任することが決まっていた。 この点に関して,被告は,Aの代わりにEがY2に配属されたためY2の人員に変動はなく,また,X4がY2の責任者になるといっても新たに業務を覚える必要もなかったから,これによってX4の負荷が増大したということはできない旨を主張する。 確かに,X4がY2の責任者になるに当たって,同人に管理職としての職制上の地位が付与されたものではなく,X4には,主にY2の職員をまとめる事実上のリーダーとしての役割が期待されていたにすぎない。また,前記前提となる事実のとおり,Y2は平成15年に開設されて以降,約4年間に渡って運営してきた実績があるから,施設の運営に関するノウハウも一定 程度蓄積されていたことがうかがわれ,責任者として一から運営方法等を構築しなければならないものではなかったといえる。さらに,X4がY2の責任者になるに当たって,統計業務等Y2職員の担当業務から除外されたものも存在し,Aの担っていた業務を全てX4が引き継いだものでもなかった。 しかしながら,X4がY2の責任者に就任しても同人の職務上の負担に変動がなかったということはできない。その理由は以下のとおりである。 Y2に配属されたEは,介護に関する資格を有しているとはいえ,新人であるから,Aが担っていた職務上の負担を全てEが引き受 動がなかったということはできない。その理由は以下のとおりである。 Y2に配属されたEは,介護に関する資格を有しているとはいえ,新人であるから,Aが担っていた職務上の負担を全てEが引き受けることができるとはおよそ考え難く,X4の負担が必然的に重くなるのは容易に推察されるところである。常勤の職員数が変わらなくても,個々の職員ごとの資質や能力には当然のことながら差があるから,その特性に応じた運営が求められ,従前と全く同様の方法で施設の運営を行えるものでないことは自ずから明らかであり,X4は,Y2の職員をまとめる責任者として,新体制の下でのY2の新たな運営方法を,BやAらからの助力もなく,自ら模索し,これを構築しなければならなくなったといえる。実際にも,X4は,前記1の時間外勤務申請書に新体制マニュアルに関する記載をしているように,新体制の下でY2の運営をより良くするためにマニュアルの改善を試みていたことがうかがわれる。 また,前記1のとおり,同月1日付けで新たに4名のパート職員が採用され,Y2に配属されたところ,Y2では採用後間もないパート職員についてはしばらく男性職員が付いて指導することになっており,X4も同月中はその指導に従事していたから,この点においても負担が増加しているのであって,人員が補充されたことでX4の負担に変動が生じないとは考えられない。 Y2はパート職員等の比率が高いから,これをまとめて円滑な施設の運営を図っていくのには多くの労力を要するといえ,証人Bも,職員が働きやす い環境を作ることや利用者のためにどうするかを職員に教えるのが難しかった,女性が多くて指導しづらいという面もあった旨を証言している。 また,Y3が開設されることで,Y2の利用者の一部がY3へ移行する予定になっていたものの,施 めにどうするかを職員に教えるのが難しかった,女性が多くて指導しづらいという面もあった旨を証言している。 また,Y3が開設されることで,Y2の利用者の一部がY3へ移行する予定になっていたものの,施設の規模はY2の方が大きく,移行する利用者もY2の利用者の1割程度にとどまるから,業務が大幅に軽減されるともいえず,この面からも,Y2の責任者に就任することによるX4の職務上の負担は大きいものであったと認められる。X4が,自身の手帳(甲5)末尾の余白に,「スタッフ,パート間のコンセンサス」,「パワーリハ,車両の記録」,「新規事業へのモチベーション」,「クレーム処理の治療費の負担分」,「人手の問題~送迎の問題,男手の問題」,「現場のリーダーとしての自覚,全ての仕事をハアクして人を回していく」,「現場の問題点はないか,常に考えて上に伝えて改善していく」という記載をするなどして,Y2の施設運営に関して日々改善点がないか意を尽くして苦慮していたことがうかがわれることに照らしても,このような業務内容や人的配置の変化がX4の業務を相当程度重くし,その精神的負担の一因となったのは明らかというべきである。 Y3の開設に伴う準備業務については,X4は掃除等の手伝いを除いて直接関与していなかったものの,Bがこれに従事するようになって,花見行事の準備など,間接的にX4の業務も少なからず増加したと認められるし,これと時期を同じくして,X4は,スクールゾーン書換作業,懇親会の料理の準備など,平常日課として処理する業務とは異なる業務に集中的に従事しており,業務量が更に増加したものと認められる。 懇親会の料理については,X4は,メニューを簡略化すること,病院内の給食業者に手伝わせても良いことなどの指示を出したF課長に対して,任せて欲しい旨を述べるなど( したものと認められる。 懇親会の料理については,X4は,メニューを簡略化すること,病院内の給食業者に手伝わせても良いことなどの指示を出したF課長に対して,任せて欲しい旨を述べるなど(証人F課長,弁論の全趣旨),これにやりがいを感じており,自ら積極的に取り組んでいたことがうかがわれるものの,コスト等を考慮してメニューを何度も試行錯誤するなど大変苦心していたとい えるし,調理師として長く稼働していたX4が,被告の幹部が参加する懇親会の調理で失敗することは許されないという重圧も少なからず存在したと考えられる。 業務の過重性前記アのとおり,本件自殺前6か月間のX4の時間外労働時間は99時間30分に及んでおり,特に本件自殺前1か月間の時間外労働時間は166時間を超えていた上,前記で指摘した業務内容自体の重さ及びY2の責任者に就任することによる業務量及び精神的負荷の増加も考慮すると,X4の担っていた業務は過重なものであったと評価することができる。 被告の義務違反ア長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険性のあることは周知の事実であり,うつ病等の精神障害を発症した者に自殺念慮が出現して自殺に至ることは社会通念に照らして異常な出来事とはいえないから,長時間労働等によって労働者が精神障害を発症し,自殺に至った場合において,使用者が,長時間労働等の実態を認識し,又は認識し得る限り,使用者の予見可能性に欠けるところはないというべきであって,予見可能性の対象として,うつ病を発症していたことの具体的認識等を要するものではないと解するのが相当である。 イ被告病院においては,職員の勤怠管理を上記のようにタイ ないというべきであって,予見可能性の対象として,うつ病を発症していたことの具体的認識等を要するものではないと解するのが相当である。 イ被告病院においては,職員の勤怠管理を上記のようにタイムカードで行っていた以上,X4の労働時間が長時間に上っていることや労働内容にも一定の配慮が必要な業務が多いことなどを認識し,あるいは容易に認識し得たにもかかわらず,被告病院では,前記1のとおり,タイムカードを確認してX4の労働時間を把握することすらしておらず,X4が適切な業務遂行をなし得るような人的基盤の整備ないし時間外労働時間の減少に向けた適切な指示等をせずに,漫然と放置していたものである。 したがって,被告は,X4に従事させる業務を定めて管理するに際して,同人が適切な業務遂行をなし得るような人的基盤の整備等を行うなど労働者の心身の健康に配慮し,十分な支援態勢を整える注意義務を怠ったものと認められる。 3 争点(業務と本件自殺との間の因果関係の有無)について うつ病エピソードの発症ア前記1のとおり,平成19年4月ころ,X4が原告X1に対してY2に持参する弁当の量を減らすよう指示したこと,同月19日の歓迎会で久々に着用したスーツがぶかぶかになるほどやせ細り,周囲から見てもX4の体重の減少が明らかであったことなどからすると,本件自殺直前の時期において,X4の食欲は相当程度減退していたものと認められる。 また,X4は,同月ころから,夜中に眠れない様子を見せるようになり,従前は興味を抱いていたスポーツニュース等にも関心を示さなくなった上,日課としていた子供との会話をしなくなったこと,原告X1の問いかけに対してうるさいなどと怒るようになったことなどの症状が発現している。 前記1のICD-10うつ病エピ にも関心を示さなくなった上,日課としていた子供との会話をしなくなったこと,原告X1の問いかけに対してうるさいなどと怒るようになったことなどの症状が発現している。 前記1のICD-10うつ病エピソード診断基準に照らせば,本件自殺直前のX4には,抑うつ気分,興味と喜びの喪失,睡眠障害及び食欲不振の症状が現れており,これらの症状が2週間以上継続していて,かつ,精神作用物質の使用,あるいは器質性精神障害によるものであるとは認められないから,X4には,少なくとも軽症うつ病エピソードが発症していたものと認められる。 前記認定は,前記1の,X4に現れた興味と喜びの喪失,食欲減退及び不眠等の症状がICD-10に照らして「F32うつ病エピソード」に該当する旨の山梨地方労災医員協議会の判断とも基本的に一致するものである。 イこれに対し,被告は,本件自殺直前においてもX4には食欲,金銭欲,目標達成欲といった健全な情動があったのであり,うつ病エピソードの発症とは相容れない旨を主張する。 確かに,前記1のとおり,X4は,平成19年1月ころ,F課長に対して,金を貯める方法はないかと尋ね,財形貯蓄を始めたいなどと述べており,また,Y3の当直業務についても積極的にやる意向を表明した上,同年4月22日のY3の掃除の際には,Y2にもパワーリハビリを積極的に取り入れるべきこと,宅配業者の弁当の天ぷらも大きくて美味しくなったこと,Eとキャッチボールをして,野球大会に参加するための費用補助をF課長から被告の幹部に頼んで欲しいことなどを述べていた。 しかしながら,X4が財形貯蓄に意欲を見せていたのは本件自殺の約3か月前のことであるから,これがうつ病エピソードの発症を判断するに当たって重視すべき事情とはいえない。その余の事実についても,前記 しかしながら,X4が財形貯蓄に意欲を見せていたのは本件自殺の約3か月前のことであるから,これがうつ病エピソードの発症を判断するに当たって重視すべき事情とはいえない。その余の事実についても,前記1のとおり,X4が真面目で責任感が強く,入浴介助や手間のかかる送迎など,他の職員が敬遠する業務も進んで引き受けていたことなどからすると,職場ではその胸の内にある弱みを見せずに,外面上は気丈に振る舞っていたとも考えられるのであって,前記1のとおり,うつ病の病態の特徴として,家族や職場等の周囲から異常に気付かれない事例が少なくないことが指摘されていることからすれば,いずれの事実もX4がうつ病を発症していたことと必ずしも矛盾するものではなく,上記認定を左右しない。 したがって,被告の前記主張は採用することができない。 業務と本件自殺との間の因果関係前記1のとおり,長時間労働と精神疾患の発症との関係については,脳・心臓疾患の労災認定の判断で使用される目安と同程度と考えることができる旨の調査研究がなされているところ,前記2のとおり,X4の本件自殺前1か月間の時間外労働時間は166時間を上回っており,脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準において業務と発症との関連性が強いとされている発症前1か月間に概ね100時間という時間外労働の基準を大きく超えるものであった。 X4とともにY2の業務に従事していたAが異動し,また,BもY3の責任者 になることで,X4が一人でY2の職員をまとめる役割を果たさなければならなかったこと,介護福祉士の資格を有するDや介護に関する資格を有するEと異なり,介護に関する資格を有しておらず,さらに,若い職員と異なり,パソコン操作についても習熟していないX4が責任者として彼らをまとめていかなければならなか を有するDや介護に関する資格を有するEと異なり,介護に関する資格を有しておらず,さらに,若い職員と異なり,パソコン操作についても習熟していないX4が責任者として彼らをまとめていかなければならなかったことなどからすれば,X4がY2の責任者を務めることに関して多くの不安を抱き,強度の精神的負荷を受けていたことが推察される。 前記の長時間に及ぶ過重な時間外労働,責任者を務めることによる強度の精神的負荷,これらが一時的な事態にすぎず近い将来解消される見込みがあったことをうかがわせる事情もないこと,さらには,証拠上,業務以外にX4のうつ病エピソードの発症及び本件自殺の原因となる事情(借財,病気,家族・交友関係のトラブルなど)が特段見受けられないことなどを総合すると,これらが一時期に重なったことでうつ病エピソードを発症したと考えるのが合理的であり,X4の業務と本件自殺との間に因果関係を認めることができる。 4 争点(損害額)について 死亡による逸失利益ア基礎収入 532万6845円X4の平成18年の年収が532万6845円であることは当事者間に争いがない。 イ生活費控除率 30パーセント前記前提となる事実のとおり,原告X1はX4の死亡当時,保険の外交員として稼働していたものの,一家の生計を支えていたのはX4であるから(甲14,原告X1),一家の支柱として原告ら3人を扶養していた者として,生活費控除率は30パーセントとするのが相当である。 ウライプニッツ係数前記前提となる事実のとおり,X4は死亡時43歳であり,67歳までの24年間就労可能であったと認められるから,ライプニッツ係数は13.79 86となる。 エ逸失利益 5145万2102円X おり,X4は死亡時43歳であり,67歳までの24年間就労可能であったと認められるから,ライプニッツ係数は13.79 86となる。 エ逸失利益 5145万2102円X4の逸失利益は以下のとおりとなる。 532万6845円×0.7×13.7986=5145万2102円(円未満切り捨て) 死亡による慰謝料X4が原告ら3人の生計を支えていたこと,事案の性質等にかんがみれば,X4の死亡による慰謝料は2800万円と認めるのが相当である。 葬祭料葬祭料は150万円とするのが相当であり,原告X1が支出した葬祭料がこれを下回るという事情も特段認められない。 以上のとおり,損害額は合計8095万2102円となり,原告らの法定相続分に応じた損害賠償請求権の額は次のとおりとなる。 ア原告X1 4047万6051円イ原告X2及び同X3 各2023万8025円(円未満切り捨て) 損益相殺前記前提となる事実のとおり,原告X1は平成19年4月から本件口頭弁論終結時までの間に,遺族補償年金として1619万6649円,葬祭料として113万6580円を受給している。 これにより,原告X1につき損害の填補がなされたと認められるから,その価格の限度で,被告は賠償責任を免れる。 したがって,原告X1の損益相殺後の損害は,2314万2822円となる。 弁護士費用事案の性質及び本件訴訟の経過並びに損害額等に照らすと,本件と相当因果関係の認められる弁護士費用は,原告X1につき,230万円,原告X2及び同X3につき,各200万円とするのが相当である。 原告らの各損害額ア原告X1 2544万2822円 係の認められる弁護士費用は,原告X1につき,230万円,原告X2及び同X3につき,各200万円とするのが相当である。 原告らの各損害額ア原告X1 2544万2822円イ原告X2及び同X3 各2223万8025円 5 争点(過失相殺の適否)について被告の主張の趣旨は必ずしも明確ではないが,前記事実関係の下では,X4が自ら適切な業務量を調節することは困難だったのであり,また,X4の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるもので,そのことが損害の発生又は拡大に寄与したといった事情も認められない。 さらに,X4は同年4月中旬ころには上記うつ病エピソードを発症していたと認められるところ,発症から自殺までは僅かな期間しかなく,X4本人又は家族が心療内科などの専門医の診察を受けることは容易ではなかったものといえる上,使用者たる被告は上記のように明らかに過大な労働時間と業務を抱えていたX4に対して何らこれを軽減,支援する態勢を整えなかったのであるから,この点でX4の本件自殺はその意思によるものとはいえ,上記の業務の加重によって自殺を思いとどまることが困難な状況に追い込まれていたものといえるのであって,これらをもってX4の過失を認める事情と解することはできない。そのほか本件全証拠をもっても,X4の過失を認めるべき事情を見いだすことができないから,過失相殺の適用はその前提を欠いて失当である。 6 結論以上によれば,原告らの請求は,前記4記載の各損害額及びこれに対する本件自殺日である平成19年4月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 したがって,原告らの請求を上記の限度で認容することとし, に対する本件自殺日である平成19年4月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。したがって、原告らの請求を上記の限度で認容することとし、主文のとおり判決する。 主文 甲府地方裁判所民事部 裁判長裁判官 林正宏 裁判官 三重野真 裁判官 小川惠輔 (別表省略)
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