平成13(わ)118 殺人,詐欺未遂被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年3月24日 広島地方裁判所
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判決文本文14,153 文字)

主文 被告人を懲役20年に処する。 未決勾留日数中600日をその刑に算入する。 理由 (犯行に至る経緯) 1 被告人は,かつて飲食店を経営したころに,旧姓aことbの元妻を従業員として雇っていたことがあったことからaと知り合い,平成11年4月ころから同人と交際するようになり,生活保護の受給手続や三女の面倒を見てもらうなどして親しくなり,同年11月ころには,肩書き住居地(以下「被告人方」という。)において同棲するようになった。その後,被告人は,平成12年12月に同人と婚姻したが,平成13年1月に離婚し,同年8月には再度婚姻し,aはb姓となった。 aは,かつて肉牛の取り込み詐欺によって有罪判決を受けたことがあったが,平成11年半ばころに,もう一度肉牛の取り込み詐欺を行って大金を得たいと考えるようになり,同年11月ころ,その取引資金として暴力団関係者から1000万円を借り入れ,肉牛の取引を始めたものの,市場関係者に不審を抱かれて肉牛を買い付けることができなくなり,上記暴力団関係者から,とりあえず元金の1000万円を返済するよう厳しく迫られるようになっていた。 このため,aは,上記暴力団関係者からの借金の返済資金を得るとともに,更に大金を得ようと思い,上記暴力団関係者から保険金殺人の話を聞いていたことに示唆を受け,会社を設立して,その役員にした者に多額の生命保険を掛けて殺害し,その保険金を騙取することを考えるに至った。 そして,平成12年3月ころ,aはこの計画を被告人に打ち明け,保険金が手に入れば,静岡県内や長崎県内に住む被告人の親族へも金銭的援助ができるし,二人で裕福な生活ができるなどと話して協力を求め,被告人も,aの窮状を理解するとともに,親族を援助し裕福な生活をす 保険金が手に入れば,静岡県内や長崎県内に住む被告人の親族へも金銭的援助ができるし,二人で裕福な生活ができるなどと話して協力を求め,被告人も,aの窮状を理解するとともに,親族を援助し裕福な生活をするためにはやむを得ないと考えて,aの申し出を了承し,ここに,いわゆる保険金殺人についての両名の共謀が成立した。 2 そこでまず,被告人は,自ら会社設立手続を調べるなどし,aと相談の上,設立手続きの簡便さから,設立する会社を合名会社とすることとした。 また,aは,かねて顔見知りであったcを保険金殺人の対象者とすることとし,同人に対し,一緒に産業廃棄物処理業を行う会社を設立し,役員となって仕事をしてもらいたい旨勧誘,説得し,同年4月上旬ころには,同人の承諾を得たので,被告人は,同月10日,本店所在地を被告人とaが同居していた肩書き住居地とし,商号を「d合名会社」,目的を衣料その他呉服用品の売買など,社員をa及びcとする旨の設立登記申請を行い,もって,d合名会社を設立した。 そして,被告人らは,cを保険に加入させるとともに,同人に怪しまれないよう,aを被保険者とする生命保険にも加入することとしたが,aには左手小指の欠損や入れ墨があり保険の加入が難しいと考え,同年4月下旬ころ,被告人は,被告人がかつて飲食店を経営していたころに客として知っていた保険代理店株式会社eを経営するfに保険契約加入手続を依頼した。fは,aに小指の欠損や入れ墨があることから,医師の診断を要する保険加入手続は難しいと考え,本人の申告のみによる「告知書扱い」と呼ばれる手続によることとし,かつ告知書扱いの手続では保険金の上限が低く設定されていることから,aについては,多数の保険会社に分散して保険契約を結ぶ必要があると考え,その一部を保険代理店有限会社gを経営するhに担当させること かつ告知書扱いの手続では保険金の上限が低く設定されていることから,aについては,多数の保険会社に分散して保険契約を結ぶ必要があると考え,その一部を保険代理店有限会社gを経営するhに担当させることとして,同年5月上旬ころ,その旨同人に依頼して了承を得た。そして,被告人らは,fを通じて,aの死亡保険金合計1億1000万円の生命保険契約とともに,cの同意を得て,保険契約者をd合名会社,被保険者をcとする死亡保険金合計3億円の保険契約を申し込んだ。 また,被告人らは,当面支払う保険料やcの殺害の準備のための資金を借入れることとし,同年5月2日ころ,d合名会社名義で金融会社から500万円を借り入れた。なお,aは,かねて知り合いの鳥取県在住の政治団体役員iに殺人の依頼をしており,同日ころ,その手付金として130万円を同人に手渡し,成功した場合には2000万円の報酬を支払う旨約束した。被告人は,そのころ,aから上記のようにiに依頼したことの説明を受け,残金については被告人が保管,管理した。 しかしながら,その後,事業が軌道に乗らないにもかかわらず高額の生命保険を申し込んだことに対して,cが不審を抱き,同年5月23日ころ,保険会社で審査中であった保険の加入を取り止めたことから,結局,同人の生命保険契約は不成立となり,aはcをd合名会社から退社させて,保険金殺人の計画も一時とん挫を余儀なくされた。 3 このころ,aの自動車が壊されることなどが度々あったため,aは,前記暴力団関係者が借金を返さないために行っているものと思い,早急に次の対象を探す必要があると考え,知人のjに対し,医療産業廃棄物処理業に関する営業ができる者の紹介を依頼し,同年6月初旬ころ,上記jらから,kを紹介された。aは,kに対し,医療産業廃棄物処理の事業を行う旨説明して,d合名会 と考え,知人のjに対し,医療産業廃棄物処理業に関する営業ができる者の紹介を依頼し,同年6月初旬ころ,上記jらから,kを紹介された。aは,kに対し,医療産業廃棄物処理の事業を行う旨説明して,d合名会社の社員となるように勧誘し,数日後,kもこれを了解したことから,その旨を被告人に告げ,被告人において登記申請書等を作成した上,同月20日,被告人とaは,広島法務局においてkを社員とする登記変更申請を行った。 次いで,同月下旬ころ,aは,kに対し,医療産業廃棄物を扱う業務の危険性などを理由に,同人を被保険者とする保険に加入する必要があると言葉巧みに話して,同人の了解を得,被告人がfにkの保険契約加入の手続を依頼して手続きを行った。この際,aと被告人は,前回の計画ではcが高額の保険金に不審を抱いたため失敗したと考え,保険金額を前回よりも低めにして,aと同額程度にしようと相談した。そして,aは,kの体に入れ墨があるのを知り,fに相談の上,kについてもa同様,告知書扱いにより,前記hの協力も得て,多数の保険会社と保険契約を結ぶこととして,同月29日,広島市○○区内の飲食店wで,k及びfと保険契約締結の手続を行い,後記のとおりm生命保険株式会社等8社との間で,保険金受取人d合名会社,被保険者k,保険金額合計1億4500万円の契約を成立させた。 次いでaは,同年7月1日ころには鳥取県内で,同月9日ころには広島市内で,iにkを引き合わせるなどして,iに殺害を促し,その旨被告人にも知らせていたが,iが近々殺害を実行するというので,aと被告人は,同月20日ころから24日ころまでの間,アリバイを作るため,静岡県熱海市に住む被告人の実母のもとを訪れた。しかしながら,aが,熱海からiに電話をかけて首尾を聞いたところ,iは,実行犯が検問に引っかかってけん銃所持 ら24日ころまでの間,アリバイを作るため,静岡県熱海市に住む被告人の実母のもとを訪れた。しかしながら,aが,熱海からiに電話をかけて首尾を聞いたところ,iは,実行犯が検問に引っかかってけん銃所持で逮捕されたために実行できなかったなどと弁解したため,aは次第にiにk殺害を実行する意思がないのではないかと思うようになった。そのため,このころから,aは,かつて平成10年ころに広島刑務所で服役した際,共に服役していて知り合った東京都在住のqことnに何度か電話をし,危険な仕事をする者がいないかなどと,殺人を実行する者がいないかどうかについて探りを入れていた。 4 このようにして,k殺害は実行されない一方,kに給料を支払う必要があったことから,a及び被告人は,平成12年8月5日,k方に赴き,aが同人に給料を手渡したが,この際,aは,kが妻と喧嘩をして,妻子は実家に帰ってk方にはいないことを知り,iに電話をかけ,kを殺害する絶好の機会だと言って,直ちにk殺害を実行するように促したが,iが,再びけん銃の入手に失敗したなどと,kの殺害を引き延ばすようなことを言ったため,iには殺害の意思がないと考えて同人に対して殺害の依頼を断り,ほかの者に殺害を依頼することとして,その旨被告人にも告げた。 そこでaは,nと何度か電話でやりとりをして,保険を掛けている男がいるので,これを殺害してほしい,その保険金のうち2000万円を報酬として,保険金が支払われた段階に一括で支払うなどと話して,nに対しkの殺害を依頼し,nも経済的に困窮していたことからaの申し出を了承した。そして,同月7日ないし8日ころ,nは,aに対し,電話で,二,三日のうちに広島に向かうと連絡し,aはこれを被告人に伝えて,被告人もこれを了承し,ここに,nとa及び被告人との三者の間で,k殺害についての て,同月7日ないし8日ころ,nは,aに対し,電話で,二,三日のうちに広島に向かうと連絡し,aはこれを被告人に伝えて,被告人もこれを了承し,ここに,nとa及び被告人との三者の間で,k殺害についての共謀が順次成立した。そして,nは,上記合意に従い,同月10日,短刀などを準備して,自己使用車両である普通乗用自動車を運転して,単身で東京の自宅を出発して広島に向かった。 5 同月11日朝,aは,nから,広島に向かって出発した旨の連絡を受け,午後5時30分ころには,広島に着いた旨の電話を受けたことから,aと被告人は自動車で○○インターへと向かい,午後6時ころ,nと同所で落ち合った。aは,とりあえず食事をするため,nとともに広島市○○区○○の焼肉店へ向かうこととしたが,その途中,自動車内で,被告人に対して,nが同日中に実行するかもしれないことを伝えた上,アリバイ作りのため,被告人の前夫の墓参りという名目で愛媛県に行くことを提案し,被告人は,車中から携帯電話でフェリーの代金や始発の時刻,しまなみ海道の通行料金などを確認した。そして,上記焼肉店で3人で食事をした後,aは,nを一時広島市○○区内のs公園に待たせておいて,午後8時ころ,被告人をt町の被告人方に送り届けるとともに,被告人に対して今からnをk方に案内してくるから,連絡があり次第いつでも動けるように準備しておくよう言いおき,被告人は出発の準備をしてaの帰りを待っていた。その後,aはnと合流してk方に向かい,k方を下見し,さらにはaがk方を訪ねたところ,人がおり,その後nがk方に赴いたところ留守であったため,nはk方近辺の自動車内で同人の帰りを待つこととした。 なお,この間,aは,nから,実際に保険が掛けてあることを確認するために保険証券を見せてほしいと求められ,これを承諾したものの,その際, め,nはk方近辺の自動車内で同人の帰りを待つこととした。 なお,この間,aは,nから,実際に保険が掛けてあることを確認するために保険証券を見せてほしいと求められ,これを承諾したものの,その際,すべての保険証券を見せるとnから報酬の引上げを求められるおそれがあると考え,被告人に電話して保険証券のうちの6000万円分だけを用意しておくよう伝え,nとともに一度被告人方に戻り,被告人から6000万円分の保険証券を受け取って,階下に駐車したa使用車両の中で,nにこれを見せたところ,nは6000万円の保険が掛かっているのであれば,自分の取り分はその半額である3000万円にしてほしいと報酬額を上げることを求めたが,aは,とっさに,犯行にはもう一人保険屋が関わっており,その者にも報酬を渡さなければならないため,6000万円を3等分した2000万円しか渡せないと架空の弁解をしてnを納得させた。 そして,aは,nから,どういう具合にやるか分からないから,できれば身をかわしておいてくれなどと言われたため,同月12日午前零時ころ被告人方に戻り,被告人に対し,朝にかけてkが戻ってきたらnが実行するから,午前3時ころ四国へ出発することや,nが刃物や黒のスウェットの上下を着替えとして持ってきていることを伝えた。そして,同日の午前3時に,aと被告人は,しまなみ海道を通って愛媛県に向かい,被告人の前夫の墓参りや前夫の母親を老人ホームに訪ねるなどした。しかしながら,結局nは8月11日の夜間から,同月12日の朝にかけて,k殺害を実行することはできなかった。 aは,12日の昼前,nからkの殺害を実行できなかった旨の連絡を受けたことから,nとの今後の打合せのため,被告人と一緒に広島に戻った。その際,aと被告人は,kの存在を確認するなどのため,午後8時ころk方へと赴き の昼前,nからkの殺害を実行できなかった旨の連絡を受けたことから,nとの今後の打合せのため,被告人と一緒に広島に戻った。その際,aと被告人は,kの存在を確認するなどのため,午後8時ころk方へと赴き,aがk方に入って同人が知人一人とともに在宅していることを確認して,nに連絡を取り,kが家にいることを伝えた。 そして,aと被告人は,午後9時ころ,同市○○区○○○○所在のラーメン店oに赴き,同日午後9時30分ころまで,同所で食事した後,aは,nに電話して同人の居場所を確認するなどした上,被告人を被告人方に送って行き,nと会って今後の話をする等のために自動車で出かけた。 その後,aとnは,電話によって連絡を取り,aはnから,同夜,k殺害を決行するからアリバイを作るよう連絡を受けた。 このため,aは,午後11時ころ,急きょ被告人方へ向かうとともに,その途中で被告人に電話をかけ,電話に出た被告人に対し,nがいよいよk殺害を実行するので,アリバイ作りのため外出の支度をするように伝えた。 aは,午後11時15分ころ,被告人方に到着し,直ちに被告人と広島市○○区所在のスナックrに向かうと同時に,被告人方を出たことをnに電話で伝え,同日午後11時30分ころには,上記スナックrに到着し,nからの連絡を待った。 (罪となるべき事実)被告人は,第1 aことb及びqことnと共謀の上,aが代表社員として経営するd合名会社の社員であるk(当時35歳)を殺害して,同人に掛けていた受取人を上記d合名会社とする死亡保険金(保険金額合計1億4500万円)を得ようと企て,上記nにおいて,平成12年8月12日午後11時30分ころ,広島市○○区○○○△丁目△番△△号上記k方において,就寝中の同人の頭部,顔面等を鉄パイプ様の棒で多数回殴打した上,その胸部等を所携の短 ,上記nにおいて,平成12年8月12日午後11時30分ころ,広島市○○区○○○△丁目△番△△号上記k方において,就寝中の同人の頭部,顔面等を鉄パイプ様の棒で多数回殴打した上,その胸部等を所携の短刀(刃渡り約18.3センチメートル)で十数回突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,同人を両肺,心臓,大動脈損傷により,失血死させて殺害し,第2 前記aと共謀の上,前記kを被保険者,前記d合名会社を保険金受取人とする別表記載のm生命保険株式会社等8社と締結していた生命保険契約の死亡保険金を騙し取ろうと企て,被告人において,真実は前記のとおり,被告人らが上記kを殺害していたのに,これを秘し,あたかも同人は,関係のない第三者に殺害されたもののように装い,別表記載のとおり,同年10月10日から同月30日までの間,前後9回にわたり,同市○○区○○△番△△号m生命保険株式会社広島○○支社等8か所において,交付又は郵送により,上記保険契約に基づく保険金の支払いを請求する旨の「支払請求書」等の書類を上記保険会社各社に提出して総額1億4500万円の死亡保険金を請求したが,上記aが上記k殺害容疑で逮捕されたことから,その目的を遂げなかったものである。 (証拠の標目)(省略)(事実認定についての補足説明)第1 殺人罪の共同正犯の成否について 1 弁護人は,殺人罪については,被告人の行為は正犯としての実質を有しておらず,幇助犯が成立するにとどまると主張するので,この点についての判断を示しておく。 まず,弁護人の主張は,以下のとおりである。 すなわち,被告人は,aから本件保険金殺人の計画を打ち明けられ,協力するよう求められたが,殺害の対象者をどのようにして見つけるのか,殺害の具体的方法をどうするのか,実行行為者をどのような方法で探すのか, わち,被告人は,aから本件保険金殺人の計画を打ち明けられ,協力するよう求められたが,殺害の対象者をどのようにして見つけるのか,殺害の具体的方法をどうするのか,実行行為者をどのような方法で探すのか,実行行為者にどのような方法で依頼するのか,実行行為者の報酬額はいかほどにするのか等の点については,aから相談を受けることもなく,それらはすべてaが独自に決定したのであり,被告人は,殺人の実行行為及びこれに関連する主要な部分には関わっておらず,被告人の加担行為は,殺害という結果発生に対する関わり方あるいは寄与としては,あまりに間接的かつ希薄であって,正犯としての実質を有しないというべきである。 また,被告人には特段の負債もなく,aの暴力団関係者からの借入について,被告人が深刻に思い悩むこともなく,被告人は,aが保険金殺人への協力を懇願してきたので,やむなく消極的にこれに応じたに過ぎないし,被告人と殺害の実行者であるnとの間には共謀は存在せず,さらに,本件の前にもaが同様の保険金殺人を行おうとしてうまくいかなかったことがあり,被告人は,本件についても成功はおぼつかないのではないかと思っていたし,aに計画の中止を申し入れたが,aがこれを聞かなかったという事情もある。 以上のように,被告人は,殺人の実行行為には全く加わっておらず,nやaの行為を利用して自己の犯罪を実現しようとしたものではなく,主観的には単に他人の犯罪を助成する程度の意思しかなく,正犯としての意思が欠如しているのであって,幇助犯の罪責を負うにとどまる。 以上のとおり主張するのである。 2 そこで,まず被告人が本件犯行に関与するに至った動機をみてみると,関係各証拠によれば,先に判示したように,被告人は,aと同棲するようになった後,aが肉牛の取込詐欺に失敗し,暴力団関係者 ある。 2 そこで,まず被告人が本件犯行に関与するに至った動機をみてみると,関係各証拠によれば,先に判示したように,被告人は,aと同棲するようになった後,aが肉牛の取込詐欺に失敗し,暴力団関係者からの1000万円の借金の返済に窮していたことを理解し,かつ,保険金殺人によって多額の金員を取得できれば,被告人の親族へ金銭的な援助をすることができるし,二人で裕福な生活をすることができると考えて,aから保険金殺人計画へ協力するように求められてこれを了承したことが認められるのであって,被告人は,保険金目的による殺人事件を敢行するに十分な動機を持っていたということができる。なお,関係各証拠によれば,被告人とaは,平成12年4月ないし5月ころには,保険金の使途として,上記暴力団関係者への借金の返済のほか,両名が被告人の母親と住むための家の購入,被告人の父親への資金援助,aと経営する焼肉店の開業,自動車の購入等を計画し,不動産屋に問い合わせをしたり,実際に物件を見たりしていることが認められるのであって,そのような事実関係によっても,被告人には本件保険金殺人についての十分な動機があったものであり,かつ,その動機は,両名共通のものであったということができる。 次に,本件保険金殺人に関する被告人の行為についてみると,前記事実関係のほか関係各証拠によれば,まず,d合名会社を設立することは,aと被告人の両名が相談して決めたものではあるが,書籍を購入する等して各種の会社設立手続の違いを調べ,合名会社とするのが一番簡便であるとの結論に達したのは被告人であり,aはそのような被告人の判断に従ったものといえ,また,会社設立登記や役員変更登記の申請書類等は,aと相談しながらではあるものの,被告人が作成したものである。そして,保険契約手続を行うための保険代理店として のような被告人の判断に従ったものといえ,また,会社設立登記や役員変更登記の申請書類等は,aと相談しながらではあるものの,被告人が作成したものである。そして,保険契約手続を行うための保険代理店としてfを選定して依頼したのは被告人であり,保険金額をいくらにするかは,被告人とaが,fとも相談の上,決めたものであり,ことにcが高額の保険金額に不審を抱いて保険加入を取り止めたことから,被告人とaとが相談して,kの保険金額をaのそれと同額程度にすることとしたことは,前記認定のとおりである。 また,保険金殺人計画のために平成12年5月2日ころd合名会社名義で借り入れた500万円のうち130万円を,aがiに支払っているのであるが,この点について被告人は,aから直ちに説明を受けていることや,残金については被告人が保管,管理していたことも,前記認定のとおりである。 そして,iやnが殺害を実行するという際に,被告人が,aとともに広島を離れ,あるいはスナック等に出かけてアリバイ工作を行ったこと,k殺害のために広島に来たnに対して,aの指示によってではあるが,kに掛けた保険のうち6000万円分の保険証券を用意したこと,これをaがnに示してk殺害の直接の動機付けを行ったことも,前記認定のとおりである。 さらに,pの警察官調書謄本(71)その他の関係証拠によれば,k殺害後,8月30日に,被告人はaとともに大阪に行き,aがnに対して報酬の一部として50万円を支払っているのであるが,被告人は,この資金を用意するために長女に頼んで金融会社から借金をしてもらったこと,また,被告人は,保険金請求のためにaとともに,fらと打合せをし,被害者の遺族方に赴いて保険金請求の同意書に署名を求め,これを拒まれるや,被告人の知り合いの弁護士に依頼して交渉をしてもらったもの ,また,被告人は,保険金請求のためにaとともに,fらと打合せをし,被害者の遺族方に赴いて保険金請求の同意書に署名を求め,これを拒まれるや,被告人の知り合いの弁護士に依頼して交渉をしてもらったものの,これがまとまらないため,遺族の同意書なしで各保険会社に保険金請求の手続を行っていることが明らかである。 3 以上の事実関係をもとに検討するに,まず,本件殺人の動機・目的についてみると,被告人は,aの協力依頼によってではあるが,aの内妻として,aと共通の利益を目的とし,動機として,aとともに保険金殺人を計画したものといえる。 次に,殺害行為に対する関わりという点から見ると,殺害の対象者を探し,実行行為者を探すという行為はaが行っており,殺害の具体的方法をどうするかという点について被告人が関与していないことは,弁護人が主張するとおりではあるが,被告人は,本件保険金殺人計画に不可欠かつ重要な要素であるd合名会社の設立手続やcとkについての保険契約手続及びこれと密接に関連するaの保険契約手続を行い,保険料支払のための金員を管理し,nが広島に来た後は,aと連絡を取りながら,nの動静に合わせてアリバイ工作のためにaと行動をともにし,k殺害後は,nに対する報酬の支払いに関与し,保険金請求手続に奔走しているといっていいのであって,そのような事実関係からすれば,被告人は,本件保険金目的殺人計画の重要部分を担当したものということができる。 そして,以上の事実関係からすれば,被告人は,本件殺人の実行行為には直接関与していないけれども,保険金目的でkを殺害するという犯罪について,a及びnと意思を相通じ,一体となって殺害行為を実行したものということができ,共謀共同正犯としての責任を負うものであることが明らかである。なお,被告人と殺害行為の実行行為者である いう犯罪について,a及びnと意思を相通じ,一体となって殺害行為を実行したものということができ,共謀共同正犯としての責任を負うものであることが明らかである。なお,被告人と殺害行為の実行行為者であるnとの間には,殺害行為に関しての直接の意思の連絡はないが,前記認定のとおり,被告人は,aを通じて,nとの間で順次共謀しているといえるのであって,この点が共謀共同正犯の成立の妨げになるものではない。 以上の次第であるから,被告人について殺人の共同正犯は成立せず,幇助犯が成立するにとどまるとの弁護人の主張は,採用することができない。 第2 責任能力について 1 次に弁護人は,以下のとおり,被告人は,平成12年初めから同年7月ころまでは,事物の是非を弁別する能力が欠如するか,著しくこれを欠いていたものであって,本件犯行当時,被告人には,刑事責任能力がなかったかもしくは限定的なものであったと主張する。 すなわち,被告人は,平成11年6月から同年12月まで,肝炎治療のためにインターフェロンの投与を受けており,インターフェロンの投与は,発熱,思考力低下,不眠,うつ症状,抜け毛等の副作用を伴うのが通例であるところ,被告人も,インターフェロンの投与により,うつ的な症状が生じ,幻覚,幻聴が生じ,抜け毛がひどく,精神的に落ち込んだ。また,インターフェロン投与の効果が判明するのは投与終了の6か月後であるところ,平成12年6月になって,その効果が出ていないことが判明したため,被告人の落ち込みの程度は増幅した。 また,被告人の三女は,解離性人格障害に罹患しており,平成11年には登校拒否となり,平成12年3月ころには自傷行為が激しくなって,ビルから飛び降りようとするパニック症状を起こしたために,5月に強制入院させる事態となり,被告人は母として,三女の病気に 平成11年には登校拒否となり,平成12年3月ころには自傷行為が激しくなって,ビルから飛び降りようとするパニック症状を起こしたために,5月に強制入院させる事態となり,被告人は母として,三女の病気に気を病んでいた。 さらに,被告人は,平成12年3月には稽留流産と診断され,4月に流産手術を受けているほか,同年3月ころから7月にかけて,aのもとへ,被告人と娘婿との関係や被告人の過去にまつわることに関する中傷電話がかかってきたことも,被告人には大きな衝撃となった。 以上の諸要素が重なって,被告人は,平成12年3月初旬から同年7月ころまでは,正常な精神状態でいることができず,是非弁別能力を欠如するか,著しくこれが減弱していたものである。 弁護人は,以上のように主張するのである。 2 よって検討するに,被告人は,公判廷において,弁護人の主張に沿う供述をし,また証人aことbの公判供述もこれに沿うものであるところ,被告人がC型肝炎に罹患し,インターフェロンの投与を受けたこと,被告人の三女が解離性人格障害に罹患していて,登校拒否や自傷行為等の問題行動があったこと,被告人が稽留流産によって手術を受けていたこと,被告人がうつ病に対する薬を投与されていたことについては,被告人の公判供述や証人aことbの公判供述のほか,医師作成の「照会並びに回答書」と題する書面(弁護人請求証拠番号16)等によって,これを認めることができる。 しかしながら,被告人の供述によっても,被告人は平成13年1月に逮捕されるまで医師の診察,治療を受けていたが,うつ症状が出ていたことについて,医師から指摘されたり被告人の方から相談したことはなく,うつ病の薬の投与を受けていたことは,拘置所の医師に指摘されてはじめて知ったというのであって,被告人にうつ症状があったとしても, ことについて,医師から指摘されたり被告人の方から相談したことはなく,うつ病の薬の投与を受けていたことは,拘置所の医師に指摘されてはじめて知ったというのであって,被告人にうつ症状があったとしても,これが重篤なものであったとは考えられないし,前記のとおり,被告人は,本件各犯行に積極的に加担し,書籍を購入する等して各種会社設立手続の違いを調べてd合名会社の設立手続を行い,fらと保険加入手続について具体的な折衝を行い,aとほぼ行動をともにしてアリバイ工作に協力し,k殺害後は,積極的に保険金請求手続を行い,遺族とも交渉するなど,保険金目的殺人という犯罪遂行のために合目的的な行動に終始しているといえるのであって,これらの行動からすれば,本件各犯行当時,被告人には十分な事理弁識能力及びこれに従って行動する能力があったものと認めることができる。 また,被告人は,捜査段階及び本件公判を通じ,第12回公判において弁護人から鑑定請求等がなされるまでそのような供述ないし主張をしていなかったのであり,被告人自身,犯行当時の精神状態に問題があったのではないかと考え始めたのは,平成14年6ないし7月ころであるという(第13回公判における被告人供述)のであって,前記事実関係のほか,そのような供述にも照らすと,本件犯行当時,被告人の精神状態に問題があったという趣旨の被告人や証人aことbの公判供述は信用し難いものというほかない。 3 以上の次第で,責任能力に関する弁護人の主張も採用することはできない。 (法令の適用)(省略)(量刑理由) 1 本件は,高額の保険金を得る目的のもとに会社を設立し,被害者をその役員にして保険に加入させた上,実行犯に殺害させたが,保険金の騙取は未遂にとどまったという保険金目的の殺人及び詐欺未遂の事案であるところ,本件犯行は共犯者であ 目的のもとに会社を設立し,被害者をその役員にして保険に加入させた上,実行犯に殺害させたが,保険金の騙取は未遂にとどまったという保険金目的の殺人及び詐欺未遂の事案であるところ,本件犯行は共犯者であり,内縁の夫であったaが発案したものであり,被告人は,aが協力を依頼したことによって犯行に加担したものではあるが,被告人も,内縁の夫であったaとともに安逸な暮らしをするための資金を得るため,他人の生命を手段として大金を得ようとしたものであって,その動機は全く身勝手というほかなく,酌量の余地はない。 2 また,本件殺害の態様は,深夜零時に,既に就寝していた被害者宅に押し入り,鉄パイプ様の凶器で被害者を殴打した後,短刀で刺して殺害するというものであって,被害者の遺体の胸部には14か所にも及ぶ刺創,顔面に頭骨骨折,脳損傷を伴う挫創などがあり,死因である失血死をもたらした胸部の刺創についても,約9センチメートルから約17センチメートルの深さにも及ぶものが11か所もあるという,執拗かつ残虐なものである。 3 被告人は,本件各犯行の発案者ではないとはいえ,会社設立手続や保険契約手続等の保険金目的の殺人に不可欠で重要な行為を担当し,aとともにアリバイ工作を行い,k殺害後はnに支払った報酬の一部について資金を用意し,また保険金請求手続や遺族との交渉等を積極的に行っているのであって,その果たした役割は重大である。 4 被害者kは,当時35歳の働き盛りであり,妻との間に3人の子供をもうけて,妻子のために安定した仕事に従事しようとして希望に燃えて就職したにもかかわらず,自宅で就寝中,就職先の社長であるaの指示を受けたnに襲われて,年若い妻と子を残して無惨な最期を遂げたものであり,その無念の情は察するに余りあるものがある。 被害者の妻は,予想だにしなかった被告人らの犯 で就寝中,就職先の社長であるaの指示を受けたnに襲われて,年若い妻と子を残して無惨な最期を遂げたものであり,その無念の情は察するに余りあるものがある。 被害者の妻は,予想だにしなかった被告人らの犯行によって一家の大黒柱ともいうべき被害者を失い,被告人らに対し,死をもって償ってもまだ足りないとの気持ちを公判廷で述べており,また,事件の真相を知らない被害者の3人の幼い子供達は,いまだ被害者が本当に死んだことを完全には理解できておらず,今後事件の真相を知ったときのことを考えると,その精神的な影響には計り知れない深刻なものがある。また,被害者をこれまで育て,今後の活躍を期待していた両親の悲嘆,悲憤の情にも甚だしいものがある。 さらに,本件は,会社役員に高額の保険金を掛けて殺害した事件として一般に広く報道され,社会の注目を集めた事件であって,社会に対する影響も大きい。 5 以上のような,本件犯行の罪質,動機の悪質さ,計画性,殺害方法の残虐性,結果の重大性,遺族らの被害感情や社会的影響等の情状に照らすと,被告人の罪責は甚だ重大というべきである。 6 他方で,被告人は,捜査段階の初期から全面的に罪責を認めて犯行状況等について詳細に供述し,nが死亡し,aが否認し,あるいは虚偽供述を行うなかで,被告人の供述を中心にして事案が解明されてきたこと,被告人は,現在でも自己の罪責を全面的に否定するものではなく,最終陳述においても遺族に対する謝罪の気持ちを表していること,被告人にはこれまで罰金前科しかないこと,精神的障害をもった未成年の女子の親権者であること等,斟酌すべき事情も認められる。 そのような事情をも考慮すると,被告人に対しては有期の懲役刑を選択することが相当であると考えられるけれども,前記のような本件事案の罪質や犯情等に照らすと,検察官の求刑が重き き事情も認められる。 そのような事情をも考慮すると,被告人に対しては有期の懲役刑を選択することが相当であると考えられるけれども,前記のような本件事案の罪質や犯情等に照らすと,検察官の求刑が重きに過ぎるとはいえないので,被告人を懲役20年に処することとした。 よって,主文のとおり,判決する。(求刑懲役20年)平成15年3月24日広島地方裁判所刑事第二部裁判長裁判官小西秀宣裁判官浅見健次郎裁判官中野智昭別表(省略)

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