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主文 原判決を取消す。被控訴人は控訴人等に対し別紙目録(一)記載の不動産につき東京法務局北出張所昭和参拾参年五月弐日受付第壱〇七四壱号及同日受付第壱〇七四参号を以てなされある所有権移転登記、別紙目録(二)の不動産につき同出張所同日受付第壱〇七四壱号を以てなされある所有権移転登記及び別紙目録(三)の不動産につき同出張所同日受付第壱〇七四参号を以てなされある所有権移転登記の各抹消登記手続をなすべし。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。事実 控訴代理人は、主文第一ないし第三項と同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次に附加訂正するもののほかは原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。(控訴代理人の陳述)一亡Aの二男Bは昭和三十九年十二月十四日死亡し、その妻子である控訴人C、同D、同E及び同Fが相続により亡Bの権利義務一切を承継した。また、亡Aの四男Gも昭和四十三年十一月十日死亡し、その妻子である控訴人H、同I及び同Jが相続により亡Gの権利義務一切を承継した。二被控訴人は昭和三十年二月十六日付自筆遺言書に基き遺贈を受けてその所有権を取得したとして別紙目録(一)記載の不動産のうち区画整理による合筆前の(1)の不動産及び別紙目録(二)記載の不動産につき東京法務局北出張所昭和三十三年五月二日受付第一〇七四一号を以て、また別紙目録(一)記載の不動産のうち区画整理による合筆前の(2)ないし(4)の不動産及び別紙目録(三)記載の1ないし10の不動産につき同出張所同日受付第一〇七四三号を以て各所有権移転の登記手続を経由した。しかして、別紙目録(一)記載の(1)ないし(4)の不動産はその 4)の不動産及び別紙目録(三)記載の1ないし10の不動産につき同出張所同日受付第一〇七四三号を以て各所有権移転の登記手続を経由した。 また別紙目録(一)記載の不動産のうち区画整理による合筆前の(2)ないし(4)の不動産及び別紙目録(三)記載の1ないし10の不動産につき同出張所同日受付第一〇七四三号を以て各所有権移転の登記手続を経由した。しかして、別紙目録(一)記載の(1)ないし(4)の不動産はその 4)の不動産及び別紙目録(三)記載の1ないし10の不動産につき同出張所同日受付第一〇七四三号を以て各所有権移転の登記手続を経由した。しかして、別紙目録(一)記載の(1)ないし(4)の不動産はその後区画整理により合筆された。よつて、被控訴人に対し相続回復請求権に基き控訴の趣旨記載のとおり所有権移転登記の抹消登記手続をなすべきことを求める。三被控訴人主張の抗弁事実は争う。控訴人等が相続権を害された事実を知つたのは、被控訴人が昭和三十八年八月頃亡Aの遺産の一部を売却して豪勢な邸宅を新築したということであつたので、控訴人Gが同月七日管轄登記所において調査した結果、被控訴人が亡Aの遺産についてその単独名義による所有権移転登記を経由していることを発見した時であつて、その翌年本訴を提起したのであるから、相続回復請求権について消滅時効は完成していない。(被控訴代理人の陳述)一控訴代理人主張の事実中、B及びGが死亡し、その主張のように相続により権利義務の承継がなされたこと及び別紙目録(一)ないし(三)の各不動産につきその主張のように被控訴人のため所有権移転登記がなされ、別紙目録(一)記載の(1)ないし(4)の不動産が区画整理により合筆されたことは認める。別紙目録(一)記載の(2)ないし(4)の不動産及び別紙目録(三)記載の1ないし10の不動産についての所有権移転の登記原因が亡A死亡の日である昭和三十年七年七日遺贈ではなく、昭和三十三年二月十九日遺贈となつているのは農地法第三条による農地の所有権移転についての都知事の許可のあつた日が所有権移転の効力を生じた日となつていることによるものである。二仮に、被控訴人が被相続人である亡Aの遺言書を隠匿したものであるとしても、控訴人等の相続回復の請求権はすでに時効によつて消滅した。すな 転の効力を生じた日となつていることによるものである。二仮に、被控訴人が被相続人である亡Aの遺言書を隠匿したものであるとしても、控訴人等の相続回復の請求権はすでに時効によつて消滅した。すなわち、相続回復の請求権は相続権を害された事実を知つた時から五年間これを行わないときは、時効によつて消滅するものであるところ、被控訴人は昭和三十年七月七日亡Aが死亡してより本件遺言に基き遺産全部が自己の所有となつたものと信じ、その相続税、固定資産税を納付し地代を収取する等これを管理処分しているのであるが、右管処分はとりもなおさず控訴人等の相続権の侵害にほかならないものであるから、控訴人等は亡A死亡の日である右昭和三十年七月七日相続権侵害の事実を知つたものというべきである。 ないときは、時効によつて消滅するものであるところ、被控訴人は昭和三十年七月七日亡Aが死亡してより本件遺言に基き遺産全部が自己の所有となつたものと信じ、その相続税、固定資産税を納付し地代を収取する等これを管理処分しているのであるが、右管処分はとりもなおさず控訴人等の相続権の侵害にほかならないものであるから、控訴人等は亡A死亡の日である右昭和三十年七月七日相続権侵害の事実を知つたものというべきである。仮に控訴人等が右同日被控訴人による相続権侵害の事実を知なかつたとしても、昭和三十二年九月六日東京家庭裁判所において本件遺言書の検認がなされた際控訴人等は被控訴人が亡Aから全相続財産の遺贈を受け、右遺贈に基き遺産全部を管理処分するものであること及び被控訴人が右検認の日まで本件遺言書を隠匿したものであつて、受遺欠格者であるから、遺産全部について所有権を取得すべき理由がなく、被控訴人が控訴人等の相続権を侵害したことを知つたものというべきである。従つて、控訴人等の被控訴人に対する相続回復の請求権は、亡Aの死亡の日から起算し満五年を経過した昭和三十五年七月七日の終了とともに若しくは本件遺言書検認の日から起算し満五年を経過した昭和三十七年九月六日の終了とともに時効によつて消滅したものである。(証拠)控訴代理人は、甲第十六号証の一ないし三、第十七ないし第十九号証を提出し、甲第十六号証の一ないし三は昭和四十二年一月十四日被控訴人の居宅を撮影した写真であると附陳し、当審証人Kの証言及び当審 拠)控訴代理人は、甲第十六号証の一ないし三、第十七ないし第十九号証を提出し、甲第十六号証の一ないし三は昭和四十二年一月十四日被控訴人の居宅を撮影した写真であると附陳し、当審証人Kの証言及び当審での控訴人L本人尋問の結果を援用し、乙第三号証の一ないし四の成立を認めると述べた。被控訴代理人は、乙第三号証の一ないし四を提出し、当審証人Kの証言及び当審での被控訴本人尋問の結果を援用し、甲第十六号証の一ないし三が控訴代理人主張のような写真であること及び同十七ないし第十九号証の成立は認めると述べた。理由 一別紙目録(一)ないし(三)記載の各不動産(以下一括して本件各不動産という)がいずれも亡Aの所有であつたこと、亡Aは昭和三十年七月七日死亡し、Mはその妻、被控訴人はその長男、亡Bはその二男、控訴人Nはその長女、Oはその二女、控訴人Pはその三女、Qはその三男亡Rの子である代襲相続人、亡Gはその四男、控訴人Lはその五男、Kはその四女であつて、いずれも本件各不動産を含む亡Aの権利義務一切を承継すべき相続人であること、Bは本訴提起後の昭和三十九年十二月十四日死亡し、その子である控訴人C、控訴人D及び控訴人E並びに妻である控訴人Fが相続により亡Bの権利義務一切を承継したこと、またGは昭和四十三年十一月十日死亡し、その子である控訴人H及び控訴人I並びに妻である控訴人Jが相続により亡Gの権利義務一切を承継したこと、しかるところ、被控訴人は、遺言執行者S弁護士の手により、昭和三十年二月十六日付自筆遺言証書により亡Aから本件各不動産の遺贈を受けてその所有権を取得したとして別紙目録(一)記載の不動産のうち区画整理による合筆前の(1)の不動産及び別紙目録(二)記載の不動産につき東京法務局北出張所昭和三十三年五月二日受付第一〇七四一号 H及び控訴人I並びに妻である控訴人Jが相続により亡Gの権利義務一切を承継したこと、しかるところ、被控訴人は、遺言執行者S弁護士の手により、昭和三十年二月十六日付自筆遺言証書により亡Aから本件各不動産の遺贈を受けてその所有権を取得したとして別紙目録(一)記載の不動産のうち区画整理による合筆前の(1)の不動産及び別紙目録(二)記載の不動産につき東京法務局北出張所昭和三十三年五月二日受付第一〇七四一号 贈を受けてその所有権を取得したとして別紙目録(一)記載の不動産のうち区画整理による合筆前の(1)の不動産及び別紙目録(二)記載の不動産につき東京法務局北出張所昭和三十三年五月二日受付第一〇七四一号を以て、別紙目録(一)記載の不動産のうち区画整理による合筆前の(2)ないし(4)の不動産及び別紙目録(三)記載の1ないし10の各不動産につき同出張所同日受付第一〇七四三号を以て各所有権移転の登記手続を経由したこと、並びにその後別紙目録(一)記載の(1)ないし(4)の不動産が区画整理により合筆されたことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一ないし第十二号証及び乙第一号証並びに原審証人Sの証言によると、右第一〇七四一号を以て被控訴人のためなされある所有権移転登記は亡A死亡の日である昭和三十年七月七日遺贈を登記原因とするのに対し、第一〇七四三号を以て被控訴人のためなされある所有権移転登記は昭和三十三年二月十九日遺贈を登記原因とするものであるが、右は目的不動産が農地であつたため所有権移転につき東京都知事の許可のあつた日である昭和三十三年二月十九日を以て遺贈の効力発生の日としたがためであることが認められる。二そこで、被控訴人が亡Aの自筆遺言書を隠匿したものであるかどうかについて判断する。成立に争のない甲第十三号証の一、同号証の一の一ないし八、同号証の二ないし十、同第十四号証の一の一、二、同号証の二、三、同号証の四の一、二、同号証の五ないし八、同号証の十二、同第十五号証の一の一ないし三、同号証の二、三、乙第三号証の一ないし四、本件弁論の全趣旨により成立を認め得る甲第十九号証、亡B及び控訴人P作成部分の成立に争がなく原審での被控訴本人尋問の結果によりその余の部分の成立を認め得る乙第二号証、原審証人T、U(後記措信しない部分を除く)並びに原審及 立を認め得る甲第十九号証、亡B及び控訴人P作成部分の成立に争がなく原審での被控訴本人尋問の結果によりその余の部分の成立を認め得る乙第二号証、原審証人T、U(後記措信しない部分を除く)並びに原審及び当審証人K(後記措信しない部分を除く)の証言、原審での控訴人N及び死亡前の控訴人G並びに原審及び当審での控訴人L及び被控訴人(後記措信しない部分を除く)各本人尋問の結果をあわせると次のような事実を認めることができる。 甲第十九号証、亡B及び控訴人P作成部分の成立に争がなく原審での被控訴本人尋問の結果によりその余の部分の成立を認め得る乙第二号証、原審証人T、U(後記措信しない部分を除く)並びに原審及び当審証人K(後記措信しない部分を除く)の証言、原審での控訴人N及び死亡前の控訴人G並びに原審及び当審での控訴人L及び被控訴人(後記措信しない部分を除く)各本人尋問の結果をあわせると次のような事実を認めることができる。1 亡Aは昭和三十年二月十六日分家のV、W立会の上妻Mと連署で、住宅一棟物置一棟、宅地四百四十六坪、田地五千六百七十二坪からなる全財産を長男である被控訴人に無償譲渡する旨の「遺言証」を作成し、これを被控訴人に交付したこと、当時亡Aの四女Kは未だ神山家に嫁す前で亡A、M及び被控訴人と同居し、右「遺言証」が作成され、これが被控訴人に交付された事実を知つていたこと 2 ところで、被控訴人は父Aの死亡後、かねてから被控訴人の居住する近辺で長男のみが全相続財産を包括的に相続している例のあることを聞き知つていたので、昭和三十年十月六日項豊島簡易裁判所附近の司法書士のもとを訪れ、全遺産を単独で相続するにはどうしたらよいかを相談したところ、司法書士から右遺言書によらず被控訴人以外の全相続人に相続放棄をしてもらうのが一番簡便であるとの助言を受けたこと、しかるにその時はすでに亡Aの死亡から三箇月になんなんとし相続の承認又は放棄をなすべき期間満了の直前であつたので、被控訴人は右同日右司法書士の勧告に基き事後に了解を得ることとし、無断で有合わせ印を使用して急拠亡Gを除き当時存命の亡Aの相続人九名の名義を以て、相続放棄の期間伸長の審判申立書を作成してもらい、これを東京家庭裁判所に提出したこと、ところで、昭和三十年十一月十六日頃同家庭裁判所において右申 拠亡Gを除き当時存命の亡Aの相続人九名の名義を以て、相続放棄の期間伸長の審判申立書を作成してもらい、これを東京家庭裁判所に提出したこと、ところで、昭和三十年十一月十六日頃同家庭裁判所において右申立に基く調査がなされたところ、右申立は被控訴人が他の相続人には無断でその名においてしたものである上、その相続分の放棄に同意しているものとみられるのは、僅かに亡Aの妻Mと、亡B、控訴人P、Q及びKのみであつて、他の相続人、ことに亡Gは相続放棄をする意思はなく、相続分に応じて亡Aの遺産を分割すべきことを主張しており、かつまた相続放棄の申述期間の伸長をなすべき理由は全く存しないことが明らかとなつたので、東京家庭裁判所は被控訴人及び控訴人等相続人に対し右申立を取下げるよう勧告し、右申立は同日頃取下げられたこと 分の放棄に同意しているものとみられるのは、僅かに亡Aの妻Mと、亡B、控訴人P、Q及びKのみであつて、他の相続人、ことに亡Gは相続放棄をする意思はなく、相続分に応じて亡Aの遺産を分割すべきことを主張しており、かつまた相続放棄の申述期間の伸長をなすべき理由は全く存しないことが明らかとなつたので、東京家庭裁判所は被控訴人及び控訴人等相続人に対し右申立を取下げるよう勧告し、右申立は同日頃取下げられたこと 3 ところが、被控訴人は亡Aから、「遺言証」なる自筆遺言書の交付を受けて以来これを保管していたが、東京家庭裁判所において右の調査がなされた際にあつても本件遺言書の存在及びその内容を同じ相続人である控訴人等には一言も洩さず、これを知る末妹Kも他の相続人である控訴人等には被控訴人の保管する遺言書の存在については全く話をしなかつたこと、しかも、被控訴人は控訴人等なかでも亡G及び控訴人Lがしばしば亡Aの遺産の幾分かを分けてくれるよう頼んでも言を左右にしてこれを相手にせず遺産の分割をしようとしなかつたこと 4 しかるところ、昭和三十二年八月頃被控訴人は王子税務署から亡Aの遺産相続による相続税の納付の件につき呼出を受け、その相続の実情等について質問されたので、自己の保管する本件遺言書を持参してこれを示したところ、担当税務署員から右遺言書によつて遺産を包括承継するには法律専門家に相談するのが最も良策であろうとの示唆を得たこと、そこで、被控訴人は同区内に居住 己の保管する本件遺言書を持参してこれを示したところ、担当税務署員から右遺言書によつて遺産を包括承継するには法律専門家に相談するのが最も良策であろうとの示唆を得たこと、そこで、被控訴人は同区内に居住するS弁護士のもとに赴いて右遺言書によつて亡Aの遺産全体を承継する方途について相談したところ、同弁護士から右遺言書に基き本件各不動産につき被控訴人への所有権移転登記をする等これを執行するには、まず何よりも家庭裁判所の検認を受ける必要がある旨を教示され、その指示に従い昭和三十二年八月十二日東京家庭裁判所に対し本件遺言書による遺言の執行者選任の申立を、翌十三日本件遺言書検認請求の申立をし、同年九月六日同家庭裁判所においてS弁護士を遺言執行者に選任する旨の審判がなされるとともに、本件遺言書の検認期日が開かれ、相続人のうちM及び左眼緑内障等のため出頭できなかつた控訴人Lを除き他の相続人である被控訴人、亡B、控訴人N、O、控訴人P、控訴人Qの法定代理人X、亡G及びKが出頭し、その尋問陳述が行われ、検認の手続がなされたこと、ここにおいてはじめて亡B、控訴人N、O、控訴人P、X及び亡Gは亡Aがその所有してい九不動産を包括して被控訴人に遺贈する旨の遺言が存在していることを知つたこと、しかして、S弁護士はその後Aの遺産につき財産目録を九通調製したが、被控訴人が他の相続人に交付するというので、調製した財産目録を九通全部被控訴人に手交したところ、被控訴人は右財産目録全部を自らの手にとどめ、他の相続人には一通もこれを交付しなかつたこと以上のように認められる(以上認定の事実のうち、昭和三十年十月六日東京家庭裁判所に対し相続放棄の申述期間伸長の申立書が提出され、同年十一月十七日右申立が取下げられたこと及び被控訴人が昭和三十二年八月十二日同家庭裁判所に対し亡Aの本件 相続人に交付するというので、調製した財産目録を九通全部被控訴人に手交したところ、被控訴人は右財産目録全部を自らの手にとどめ、他の相続人には一通もこれを交付しなかつたこと以上のように認められる(以上認定の事実のうち、昭和三十年十月六日東京家庭裁判所に対し相続放棄の申述期間伸長の申立書が提出され、同年十一月十七日右申立が取下げられたこと及び被控訴人が昭和三十二年八月十二日同家庭裁判所に対し亡Aの本件 実のうち、昭和三十年十月六日東京家庭裁判所に対し相続放棄の申述期間伸長の申立書が提出され、同年十一月十七日右申立が取下げられたこと及び被控訴人が昭和三十二年八月十二日同家庭裁判所に対し亡Aの本件遺言書につき遺言執行者選任の申立を、翌十三日右遺言書検認請求の申立をなし、同年九月六日東京家庭裁判所においてS弁護士を遺言執行者に選任する旨の審判がなされるとともに本件遺言書検認の手続がなされたことは当事者間に争がない。)右認定に反する原審証人U、原審及び当審証人Kの証言並びに原審及び当審での被控訴本人尋問の結果は措信することができない。就中、被控訴人が亡Aの葬儀の行われた昭和三十年七月八日頃出棺直前に控訴人等相続人に対し本件遺言書の存在とその内容を知らしめたとする右各証言及び供述は前掲甲第十三号証の一の存在、同第十四号証の五及び八の記載に照らしとうてい措信することのできないものといわざるを得ない。<要旨>右認定の事実によつて考えると、被控訴人は「遺言証」なる本件自筆遺言書の交付を受けていながら、被相</要旨>続人である亡Aの生前はもとよりその死亡後も他の相続人である控訴人等ことに亡G及び控訴人Lから異議の出ることを恐れ、控訴人等に対しては右遺言書の存在を固く秘匿し、亡Aの死亡後相続の承認又は放棄をなすべき三箇月の期間満了間際の昭和三十年十月六日頃法律知識のある司法書士に本件遺言書のとおり亡Aの遺産全部を自分独りで承継取得する方法について相談した結果、控訴人等を含む他の相続人全員に相続の放棄をさせるよりほかによい方法がないとの結論に達し、時あたかも右相続放棄の申述をなすべき三箇月の期間の満了間際であつたので、同日取敢えず他の相続人の名義をも冒用して東京家庭裁判所に右期間伸長の請求をし他の相続人全員に相続放棄をさせようとしたが、亡G等が放棄 右相続放棄の申述をなすべき三箇月の期間の満了間際であつたので、同日取敢えず他の相続人の名義をも冒用して東京家庭裁判所に右期間伸長の請求をし他の相続人全員に相続放棄をさせようとしたが、亡G等が放棄を肯んじなかつたため右の方策は不成功に終り、そのまま亡Aの遺産相続については何等の処置もなされずに打ち過ぎていたところ、亡Aの死亡後二年余を経過した昭和三十二年八月頃相続税の納付の件で税務署に呼出されたことが契機となつてS弁護士に相談し、亡Aの遺言の内容の実現を図るため東京家庭裁判所に対し遺言執行者に同弁護士を選任すること及び本件遺言書の検認を請求し、ここにはじめて控訴人等を含む他の相続人に対しても本件遺言書の存在を公表するに至つたものであつて、被控訴人は亡Aの死亡後直ちに本件遺言書を公表するときは、控訴人等他の相続人から遺留分減殺請求権の行使を受け、本件遺言書のとおり亡Aの遺産全部を自分独りで取得できなくなることを恐れ、亡Aの遺産全部を何んとか独りで承継しようとして亡G及び控訴人L等の遺産分割請求を卻け、相続税納付の必要に迫まられて本件遺言書の検認請求をなすまでこれを公表せず、本件遺言書を隠匿していたものと判断するのが相当である。 つて、被控訴人は亡Aの死亡後直ちに本件遺言書を公表するときは、控訴人等他の相続人から遺留分減殺請求権の行使を受け、本件遺言書のとおり亡Aの遺産全部を自分独りで取得できなくなることを恐れ、亡Aの遺産全部を何んとか独りで承継しようとして亡G及び控訴人L等の遺産分割請求を卻け、相続税納付の必要に迫まられて本件遺言書の検認請求をなすまでこれを公表せず、本件遺言書を隠匿していたものと判断するのが相当である。そうとすると、被控訴人は本件遺言書により亡Aからその全遺産の遺贈を受けたが、相続に関する被相続人の遺言書を隠匿した者として、民法第八百九十一条第五号及び第九百六十五条の規定により、亡Aの遺産について受遺者たるの資格のみならず相続人たるの資格をも失つたものといわざるを得ない。三しかるに、被控訴人は控訴人等の相続回復請求権はすでに時効により消滅した、と主張する。相続回復の請求権が相続権を侵害された事実を知つた時から五年間これを行わないときは、時効によつて消滅するものであることは民法第八百八十四条の規定の明定 権はすでに時効により消滅した、と主張する。相続回復の請求権が相続権を侵害された事実を知つた時から五年間これを行わないときは、時効によつて消滅するものであることは民法第八百八十四条の規定の明定するところである。本件で問題となるのは、時効の起算点である「相続権を侵害された事実を知つた時」が何時であるかという問題であるが、右にいら「相続権を侵害された事実を知つた時」とは被相続人の遺産の全部又は一部について、無権利者により、明示的に又は黙示的に、真正の相続人を排除して相続、遺贈等によつて権利を取得したとの主張がなされた事実が存在し、真正の相続人がこの事実を知つた時をいうものと解するのが相当である。ところで、前掲乙第三号証の一ないし四、原審での控訴人N、当審での控訴人L並びに原審及び当審での被控訴人各本人尋問の結果に本件弁論の全趣旨をあわせると、被控訴人は亡Aの生前これと同居し、生計を一にしていたものであり、亡Aの死亡後も同人と同様にその遺産である本件各不動産について固定資産税の納付及び地代の収取をする等これを管理していたことを認めることができる。しかし、さきに認定したように、被控訴人は控訴人等に対し、亡Aの死亡後本件各不動産を被控訴人に遺贈する旨の前示遺言書の存在を秘匿し、控訴人等も本件遺言書の存在を知らず、従つて被控訴人が本件各不動産の全部を自己単独の所有に帰したものとして管理しているものとは考えていなかつたことが明らかであるから、被控訴人が亡Aの死亡後同人と同様その遺産である本件各不動産を管理しており、控訴人等がこの事実を知つていたからといつてこのことから直ちに控訴人等が被控訴人によつて自己の相続権を侵害された事実を知つたものということはできない。 存在を秘匿し、控訴人等も本件遺言書の存在を知らず、従つて被控訴人が本件各不動産の全部を自己単独の所有に帰したものとして管理しているものとは考えていなかつたことが明らかであるから、被控訴人が亡Aの死亡後同人と同様その遺産である本件各不動産を管理しており、控訴人等がこの事実を知つていたからといつてこのことから直ちに控訴人等が被控訴人によつて自己の相続権を侵害された事実を知つたものということはできない。次に、昭和三十二年九月六日東京家庭裁判所において行われた本件遺言書検認の際、出頭 いつてこのことから直ちに控訴人等が被控訴人によつて自己の相続権を侵害された事実を知つたものということはできない。次に、昭和三十二年九月六日東京家庭裁判所において行われた本件遺言書検認の際、出頭した亡B、控訴人N、O、控訴人P、X(相続人Qの法定代理人親権者)及び亡Gがはじめて本件遺言書の存在を知るにいたつたものと認められることはさきに説示したとおりであり、また、原審での死亡前の控訴人G並びに原審及び当審での控訴人L各本人尋問の結果からすると、控訴人Lは右検認期日に出頭しなかつたが、亡Gの隣家に居住していたことが認められるから、同控訴人もまた同じ頃本件遺言書の存在を知つたものと推認することができる(原審での控訴人L本人尋問の結果中には一部これに反する部分があるが、措信できない。)。しかし、原審証人Tの証言、原審での控訴人N及び死亡前の控訴人G並びに原審及び当審での控訴人L各本人尋問の結果に本件弁論の全趣旨をあわせれば、控訴人等(控訴人C、D、E及びFについては亡B、控訴人H、I及びJについては亡G)は、被控訴人から、同人がこれらの者を含む他の相続人を排除して本件各不動産の単独の所有者となつた旨を告げられたこともなく、また、前示のような内容の本件遺言書があるだけでは控訴人等の相続権が否定されて本件各不動産が被控訴人の単独所有となつたものとは考えず、本件各不動産は被控訴人及び控訴人等を含む相続人全員の共有となつているものと信じていたこと、しかるに亡G及び控訴人Lは昭和三十八年八月頃被控訴人が亡Aの遺産である不動産を売却して住居を新築していることを知り、被控訴人が他の相続人である自分達の同意を得ずして亡Aの遺産を売却できることに疑問を持ち、計理士のYとともに三名同道の上登記所に赴いて亡Aの所有であつた本件各不動産の登記簿を調査したところ、 ず、本件各不動産は被控訴人及び控訴人等を含む相続人全員の共有となつているものと信じていたこと、しかるに亡G及び控訴人Lは昭和三十八年八月頃被控訴人が亡Aの遺産である不動産を売却して住居を新築していることを知り、被控訴人が他の相続人である自分達の同意を得ずして亡Aの遺産を売却できることに疑問を持ち、計理士のYとともに三名同道の上登記所に赴いて亡Aの所有であつた本件各不動産の登記簿を調査したところ、 知り、被控訴人が他の相続人である自分達の同意を得ずして亡Aの遺産を売却できることに疑問を持ち、計理士のYとともに三名同道の上登記所に赴いて亡Aの所有であつた本件各不動産の登記簿を調査したところ、前記認定のように本件各不動産について昭和三十三年五月二日受付で被控訴人のため遺贈を原因とする所有権移転登記がなされていることを発見し、ここにはじめて控訴人等を含む被控訴人以外の相続人が本件各不動産について相続から排除されていることを覚知したことが認められる。原審証人Sの証言中には、同証人は本件遺言書検認の際東京家庭裁判所において遺言執行者として当日出頭していた亡G及び控訴人N等に対し本件各不動産全部を本件遺言書に基き被控訴人名義に所有権移転登記手続をなす旨述べ亡G等はこれを了承したとの部分があるが、前掲甲第一四号証の六ないし八、同号証の十一、十二、原審証人Tの証言、原審での死亡前の控訴人G並びに原審及び当審での控訴人L各本人尋問の結果によると、被控訴人を除く他の相続人のうち亡G等四名の相続人は相続分に応じて遺産の分割をなすべきことを強く主張していたことが明らかであるから、亡G等が本件各不動産につき被控訴人に対する所有権移転登記手続をなすことを了承したものとは到底信じ難く、従つて、右Sの証言部分は措信し難く、他に右認定の事実を覆すに足りる措信すべき証拠は存在しない。右認定の事実によれば、法律知識に乏しい控訴人等としては、本件遺言書の検認を機会に右遺言書の存在を知つたが、被控訴人が遺言書を隠匿したかどにより受遺者及び相続人たる資格を失つたことに気づかなかつたことはもとより、亡Aの遺産は被控訴人を含む相続人全員において共同相続をしたものと信じていたことも無理からぬことというべく、民法第八百八十四条の規定の適用の関係においては、控訴人等が本件遺言 かつたことはもとより、亡Aの遺産は被控訴人を含む相続人全員において共同相続をしたものと信じていたことも無理からぬことというべく、民法第八百八十四条の規定の適用の関係においては、控訴人等が本件遺言書検認の際遺言書の存在を知つたとの一事から直ちにその相続権を侵害された事実を知つたものということはできず、控訴人等が右事実を知つた時期を、昭和三十八年八月頃に行われた亡G及び控訴人Lによる本件各不動産の登記簿調査の時より以前に遡らせることはできないものと解するのが相当である。 相続をしたものと信じていたことも無理からぬことというべく、民法第八百八十四条の規定の適用の関係においては、控訴人等が本件遺言書検認の際遺言書の存在を知つたとの一事から直ちにその相続権を侵害された事実を知つたものということはできず、控訴人等が右事実を知つた時期を、昭和三十八年八月頃に行われた亡G及び控訴人Lによる本件各不動産の登記簿調査の時より以前に遡らせることはできないものと解するのが相当である。被控訴人は亡A死亡の時か、又は本件遺言書検認の時に控訴人等が相続権を侵害されたことを知つたものと主張するが、上に説示したとおり、右主張は採用し難いものといわなければならない。しかして、控訴人等が被控訴人に対し本件訴訟を提起したのが昭和三十八年八月から起算して五年以内であることは本件記録に徴し明らかであるから、控訴人等の相続回復請求権は時効により消滅したものとはいうことができず、被控訴人の消滅時効の主張は理由がない。四してみると、被控訴人は受遺欠格者として亡Aより遺贈を受けた本件各不動産はすべてこれを相続人である控訴人等に回復すべきである。従つて、被控訴人は本件各不動産につき右遺贈を原因としてなされある前記所有権移転登記はその登記原因を欠く無効なものであるから、控訴人等に対しその抹消登記手続をなすべき義務があるものといわなければならない。さすれば、控訴人等の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、これを排斥した原判決は不当であるから、民事訴訟法第三百八十一条の規定によりこれを取消して控訴人等の請求を認容することとし、訴訟費用の負担について同法第八十九条及び第九十六条の規定を適用して主文のとおり判決する。(裁判長判事平賀健太判事岡本元夫判事鈴木醇一) れを取消して控訴人等の請求を認容することとし、訴訟費用の負担について同法第八十九条及び第九十六条の規定を適用して主文のとおり判決する。(裁判長判事平賀健太判事岡本元夫判事鈴木醇一)(別紙)目録(一)東京都北区ab丁目c番d宅地九八六・六参坪(三二六二・四六平方メートル)〔区画整理による合筆前の表示〕(1) 東京都北区a町e番宅地四四六坪(一四七四・三七平方メートル)(2) 同所f番畑七畝弐五歩(七七六・八五平方メートル)(3) 同所g番畑八畝弐壱歩(八六二・八〇平方メートル)(4) 同所h番田八畝弐壱歩(八六二・八〇平方メートル)外畦畔七歩(二三・一四平方メートル)目録(二)東京都北区ab丁目c番地d家屋番号同町c番木造萱葺平家建居宅一棟床面積参〇・五型(一〇〇・八二平方メートル)附属(1) 木造瓦葺弐階建物置一棟床面積壱弐・弐五坪(四一・三二平方メートル)二階八坪(二六・四四平方メートル)(2) 木造萱葺平家建物置一棟床面積弐〇坪(六六・一一平方メートル)(3) 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建物置一棟床面積六坪(一九・八三平方メートル)(4)木造亜鉛メッキ鋼板葦平家建便所一棟床面積 〇・五坪(一・六五平方メートル)目録(三) 宅一棟床面積参〇・五型(一〇〇・八二平方メートル)附属(1) 木造瓦葺弐階建物置一棟床面積壱弐・弐五坪(四一・三二平方メートル)二階八坪(二六・四四平方メートル)(2) 木造萱葺平家建物置一棟床面積弐〇坪(六六・一一平方メートル)(3) 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建物置一棟床面積六坪(一九・八三平方メートル)(4)木造亜鉛メッキ鋼板葦平家建便所一棟床面積 〇・五坪(一・六五平方メートル)目録(三) 1 東京都北区a四丁目i番j畑四反参畝壱九歩(四三二七・二五平方メートル) 2 同所i番k畑壱畝弐〇歩(一六五・二八平方メートル) 3 同所l番m畑壱反弐畝〇 都北区a四丁目i番j畑四反参畝壱九歩(四三二七・二五平方メートル) 同所i番k畑壱畝弐〇歩(一六五・二八平方メートル) 同所l番m畑壱反弐畝〇七歩(一一一四・〇四平方メートル) 同所n番o畑壱反弐畝弐五歩(一二七二・七一平方メートル) 同所p番q畑六畝弐〇歩(六六一・一五平方メートル) 東京都北区ar1丁目r2番r3畑九畝壱弐歩(九三二・二一平方メートル) 同所s番t畑壱反七畝〇五歩(一七〇二・四七平方メートル) 同所u番v畑六畝壱弐歩(六三四・七〇平方メートル) 同所w番x宅地九六・五参坪(三一九・一〇平方メートル) 同所y番z畑壱反壱四歩(一〇三八・〇一平方メートル)
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