平成17年4月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成15年(行ウ)第29号遺族給付金等不支給処分取消し請求事件口頭弁論終結日平成16年12月2日 主文 1 被告が,平成13年8月21日に,原告に対してした労働者災害補償保険法に基づく遺族給付及び葬祭給付の支給をしないとした決定を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,原告の亡夫B(以下「B」という。)が自家用車で家族の住む帰省先住居から単身赴任先住居の社宅に向かう途中,事故によって死亡したのは,通勤によるものであるとして,遺族である原告が被告に対し,遺族給付及び葬祭給付の請求をしたところ,被告は,Bの死亡は,通勤によるものではないとして,いずれも支給しない旨の処分をしたことから,原告がこれらの処分の取消を求めた事案である。 1 争いのない事実等(争いのない事実のほかは,各項に掲記の各証拠に弁論の全趣旨を総合して認める。)(1) 原告の夫であったBは,C生命保険相互会社(以下「C」という。)に雇用され,平成11年4月1日から岐阜県高山市c町d所在のCの高山営業所(以下「高山営業所」という。)の所長として勤務していた。 Bは,岐阜県土岐市a町b番地に自宅を有していたが(以下,単に「本件自宅」という。),本件自宅と高山営業所が極めて遠距離であるため,高山営業所2階の社宅(以下「本件社宅」という。)に平日居住し,週末には本件自宅に帰省する単身赴任生活をしていた。 (2) Bは,平成11年7月30日(金曜日)の勤務終了後,本件自宅に帰宅し,同月31日(土曜日)及び同年8月1日(日曜日)の休日を過ごし,同日午後5時30分ころ,翌日の勤務のために本件自宅を出て,自家用車を運転して本件社宅に向かう途中,行方不明 終了後,本件自宅に帰宅し,同月31日(土曜日)及び同年8月1日(日曜日)の休日を過ごし,同日午後5時30分ころ,翌日の勤務のために本件自宅を出て,自家用車を運転して本件社宅に向かう途中,行方不明となった。 同年11月26日,Bは,岐阜県恵那郡e村f番地のg番地先の沢の中で死亡しているところを発見された。Bは,同年8月1日,車両を運転中誤って道路外に逸脱し,その後事故現場付近のブロック崖から沢に滑落し,胸骨骨折等若しくは墜落に伴う全身打撲によりショック死したものと推定される(以下,「本件事故」という。)。 原告は,Bの死亡により遺族となり,Bの葬祭を行った。 (3) 原告は,平成13年3月14日,被告に対し,Bの死亡は通勤災害によるものである旨主張して,労働者災害補償保険法(以下「法」という。)に基づく遺族給付及び葬祭給付の請求をしたところ,同年8月21日,被告は,原告に対し,本件事故は,通勤災害と認められないとの理由で,不支給処分の決定をした。 原告は,上記決定を不服として,岐阜労働者災害補償保険審査官に審査請求をしたが,審査官は,同年12月26日,その請求を棄却する旨の裁決をした。 そこで,原告は,平成14年2月19日,労働保険審査会に再審査請求をしたが,審査会は,平成15年11月5日,この再審査請求を棄却する旨の裁決をし,そのころ,原告に通知された。 2 争点(1) 原告の主張ア労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)の保険給付の対象となる「通勤」とは,「労働者が,就業に関し,住居と就業の場所との間を,合理的な経路及び方法により往復すること」をいい(法7条2項),単身赴任者などが,主として休日を利用して週末等に「就業の場所」から家族の住む自宅に帰り,週初め等に自宅から「就業の場所」へ出勤する行為(以 な経路及び方法により往復すること」をいい(法7条2項),単身赴任者などが,主として休日を利用して週末等に「就業の場所」から家族の住む自宅に帰り,週初め等に自宅から「就業の場所」へ出勤する行為(以下「週末帰宅型通勤」という。)を行う場合には,家族の住む自宅も法7条2項の「住居」に該当するところ,本件において,Bは,家族の住む本件自宅には,週末に毎月1回以上は戻っており,当該往復行為には反復・継続性が認められるから,本件自宅が,法7条2項の「住居」に該当し,高山営業所が「就業の場所」に該当する。 ところで,上記のとおり,通勤とは,住居と就業の場所を往復することであり,それが「就業に関して」行われるものであることが要件となるところ,Bのように,就労日は単身赴任先である社宅に居住し,週末には自宅に帰宅するといった週末帰宅型通勤においては,就労日の前日に自宅から社宅に向かう移動であっても,翌日の就労とは全く関係ない目的ではなく,業務に関連する合理的な理由が存在すれば,社宅に向かう移動は「就業の場所」への往復のための経過であるから,このような場合も「就業に関して」往復するものと解すべきである。 イ Bは,平成11年4月から高山営業所の所長となり,週末帰宅型通勤の単身赴任者となったが,同年5月頃から体調を崩し,高山営業所2階の本件社宅で寝込むことが頻繁にあり,特に同年6月,7月は,体調を著しく壊しており,同年6月に通院していた精神科医からはうつ病と診断されていた。 このような状況からすると,Bが,月曜日の就労日当日に,早朝に起床して,約3時間30分以上かけて,家族が住む本件自宅(岐阜県土岐市)から高山営業所(岐阜県高山市)に自動車通勤することは,極めて困難ないしは事実上不可能であった。 そのため,Bは,月曜日の朝 ,約3時間30分以上かけて,家族が住む本件自宅(岐阜県土岐市)から高山営業所(岐阜県高山市)に自動車通勤することは,極めて困難ないしは事実上不可能であった。 そのため,Bは,月曜日の朝礼(午前9時30分)にそなえて,就労日の前日(日曜日)に本件社宅に戻ることとしていた。この朝礼は,B以外の者が代替できる仕事ではなく,Bの真面目な性格,責任感の強さから,朝礼は欠席できないと考えていたためである。 上記のBの行動は,Bの立場(所長)・体調を考慮すれば,極めて常識的かつ合理的な行動である。そして,Bが,本件事故当時,翌日の就労とは全く関係ない目的で移動していたことなどを窺わせる事情はない。 従って,Bの本件事故当時の移動は,業務に密接に関連し,「就業に関して」行われたものというべきであり,相当程度の時間を要した高山営業所への移動であるから,「就業の場所」への移動といえる。 ウ被告は,週末帰宅型通勤で自宅と社宅を往復する行為を通勤に含める解釈をすることはできず,法改正が必要である旨主張する。 しかしながら,厚生労働省が発表した「労働保険制度の在り方に関する研究会中間とりまとめ」に示されたとおり,通勤災害保護制度の制度趣旨(①企業の都市集中,住宅立地の遠隔地化等により通勤難が深刻化しており,通勤途上の災害が増加していること,②通勤は,労働者が労務を提供するために不可欠な行為であり,単なる私的行為とは異なったものであること,③通勤災害は,社会全体の立場からみると,産業の発展,通勤の遠隔地化等のためにある程度不可避的に生ずる社会的な危険となっており,労働者の私生活上の損失として放置されるべきものではなく,何らかの社会的な保護制度の創設によって対処すべき性格のものであること)から,保護対象とすべき事案につ 可避的に生ずる社会的な危険となっており,労働者の私生活上の損失として放置されるべきものではなく,何らかの社会的な保護制度の創設によって対処すべき性格のものであること)から,保護対象とすべき事案については,法の正義・公平の理念から形式的な解釈をすべきではなく,被災者の実態に即した積極的・実質的な解釈をすべきである。現行の通達(「単身赴任者等の通勤災害の取扱いについて」)(平成7年2月1日労働省労働基準局長通達(基発第39号),以下「39号通達」という。)の趣旨についての事務連絡(「社宅等と自宅との間の行為について」)(同日労働省労働基準局補償課長事務連絡(第6号))においても,原則として社宅と自宅との往復を通勤に含めないとしながらも,「この取り扱いによることが不合理であると認められる事案については,本省と協議すること」との規定が存在し,通勤災害保護制度の趣旨に鑑みて,積極的・実質的な運用を実施することが予定されている。 そして,被災者が就労日の前日に社宅に向かう行為が,就労の場所への移動と解釈できることは上記のとおりであり,現行法の弾力的な法解釈が可能である。 エ仮に,上記主張が認められないとしても,本件においては,本件社宅が,実質的な「就業の場所」に該当すると解釈すべきである。 通勤災害保護制度は,損害の補填を目的とするものではなく,被災労働者とその家族が「労働者が人たるに値する生活」を営めるように保護することを目的とする制度と解するのが相当であり,通勤災害の認定もこのような制度の趣旨に沿って解釈されるべきである。 Bは,上記アのとおり,従前から本件自宅と本件社宅が極めて遠距離であり,就業場所当日に高山営業所に向かうのは事実上不可能であることから,当然の事柄として,就業日の前日に本件社宅に向かった 。 Bは,上記アのとおり,従前から本件自宅と本件社宅が極めて遠距離であり,就業場所当日に高山営業所に向かうのは事実上不可能であることから,当然の事柄として,就業日の前日に本件社宅に向かったのであり,Bの行為は一般常識に適合する行為である。仮に,本件の事案を通勤災害に該当しないとすれば,Bは,肉体的・精神的な負担を抱えて長時間の当日通勤を強いられるという社会常識上不合理な結論を招くこととなり,通勤災害保護制度の制度趣旨に反する結果となる。 しかも,本件社宅と高山営業所は同一の建物であり,1階の高山営業所の2階に本件社宅を設置したのは,事務遂行上合理的であるからに他ならない。2階部分の3分の1強のスペースはCの養成室として使用されてもいる。これらによれば,高山営業所と同一建物にある2階部分は,企業の事務遂行上必要な施設(附帯施設)と同一視できる。実際,Bは,体調を崩した際には,本件社宅で休息を取ったり,長時間寝込んでいたが,早退の帰宅扱いになったり,咎められたこともない(純粋の「社宅」であれば,社宅への「帰宅」であり,早退ないし欠勤扱いになるはずである)。 以上によれば,本件社宅がその機能において,「就業の場所」と機能的に一体となっており,実質的には本件社宅と就業場所は同視できる。 この点,被告は,出入り口が分離されていること,家族を同伴しての赴任も可能であり,他の住居を選択する自由もあったこと,強制的に入居させられたものではないこと,入居が無償でないこと等から,「就業の場所」と同視できないと主張する。 しかしながら,上記で述べたとおり,2階部分は,機能的には高山営業所と一体となっていること,Bには,3人の子供と高齢の父母がおり,長女は地元の高校に,長男は地元の中学に進学することを希望しており,当時 かしながら,上記で述べたとおり,2階部分は,機能的には高山営業所と一体となっていること,Bには,3人の子供と高齢の父母がおり,長女は地元の高校に,長男は地元の中学に進学することを希望しており,当時の家族の状況や生活状況から家族同伴で住居を移動することは事実上不可能であったこと,Bが高山営業所と同一建物の2階に居住したのは,Bの希望ではなく,CがBに特別の相談もなく2階の本件社宅を居住先と決定し,本件社宅の内装工事を進めていた状況にあり,いわば社命として本件社宅への居住を指示されたものであって,Bには事実上住居選択の自由はなかったというべきであり,被告の主張は失当である。 (2) 被告の主張ア Bは,高山営業所2階に所在する本件社宅に居住し,そこから高山営業所に通勤しており,本件社宅が就業のための拠点であって,住居に当たる。 なお,単身赴任者等が,法7条2項に規定する「就業の場所」と家族の住む帰省先住居を往復する場合において,当該往復行為に反復・継続性が認められるときは,帰省先住居を同項に規定する「住居」として取り扱うものとされている。この基準に照らせば,Bの本件自宅も「住居」と認められる可能性はある。 そして,Bが所長としての業務を行っていた高山営業所が「就業の場所」に該当する。 イところで,通勤とは,「就業に関し」行われる行為でなければならないことから,往復行為が通勤と認められるためには,業務に就くため,又は業務を終えたことにより住居と就業の場所との間を合理的な経路及び方法により往復することが必要であり,週末帰宅型通勤であっても,通勤が業務と密接な関連をもって行われる行為である以上,この場合の「就業に関し」の要件についても,業務に就くため又は業務を終えたことにより,「住居」である本件自宅と「就業の場所」 型通勤であっても,通勤が業務と密接な関連をもって行われる行為である以上,この場合の「就業に関し」の要件についても,業務に就くため又は業務を終えたことにより,「住居」である本件自宅と「就業の場所」とを往復する行為である必要がある。 本件では,Bが行方不明となった当時の状況は明らかではないが,原告主張のとおり,Bは,就労日の前日に当たる本件事故当日に,土岐市内の本件自宅を出発し本件社宅に向かったものであり,当日,午後5時半頃本件自宅を出発し,本件事故が発生しなかったと仮定した場合には,Bは午後9時頃には本件社宅に到着したはずである。しかし,本件事故当日は日曜日で事業場の休日であり,証拠上出勤の予定があったことは認められないこと,Bの業務は,本社や支社との連絡調整や営業の統括であり,翌日の出勤時刻である午前9時に出勤すれば足りるものであるから,午後9時に「住居」に戻る必要はなかったこと,また,午後9時以降はBが自由に使える時間となったはずであり,「住居」である本件社宅において,Bは使用者の指揮監督に服さない全く自由な時間を過ごすことができ,本件社宅からの外出の可能性も認められること等からすると,業務に就くために「住居」である本件自宅から「就業の場所」に移動した行為ということはできず,「通勤」には該当しない。 なお,単身赴任者等が自宅と就業の場所との間の往復行為中に,洗濯物を自宅に持ち帰るため,あるいは,着替え等のために通常の通勤の拠点となる社宅等の「住居」に立ち寄る行為は,最小限度のものに限り法施行規則8条に規定する日用品の購入その他これに準じる行為と認められる。しかし,本件の場合には,Bの勤務時間は午前9時から午後5時までであり(C相互保険株式会社就業規則,勤務規則第7条第1項1号・乙第30号証),所定始業時間である その他これに準じる行為と認められる。しかし,本件の場合には,Bの勤務時間は午前9時から午後5時までであり(C相互保険株式会社就業規則,勤務規則第7条第1項1号・乙第30号証),所定始業時間である午前9時より約16時間も早い前日の午後5時半頃本件自宅を出発しているもので,このような著しく所定時刻とかけ離れた時刻に出発することは,それが翌日の勤務のために本件社宅に向かったもので,途中に合理的経路からの逸脱・中断がなかったとしても,社宅での長時間の滞在が予定されているものであるから,通勤の途中で社宅に立ち寄る行為とは到底認められず,社会通念上,就業との関連性は認められるものではない。 次いで,「就業に関し」というためには,業務と密接な関連をもって行われること,本件に即していえば,被災当日において業務に従事することになっていたことが必要である。 Bが,本件事故当日である日曜日に業務に従事しなければならなかった事実は証拠上認められない。また,Bの帰省先から高山営業所までの通勤時間は約3時間30分であり,高山営業所の始業時刻は午前9時であるから,帰省先を午前5時過ぎに出発すれば高山営業所に到着できるのであり,高速道路を使用すれば若干の時間の短縮も可能であったのであるから,就労日当日の移動も不可能ではなかったこと,翌日の就労に備えて十分体調を整え休息を取ることは社会人として当然のことであるにしても,Bは,生命保険会社の営業所長であり,デスクワークが主たる業務であり,就労日の前日に本件社宅に戻る行為が,危険な業務に従事する労働者のように災害防止の観点から就業に不可欠な業務に密接に関連したものであるとはいえないこと,月に2,3回程度午前5時過ぎに帰省先を出発して高山営業所に向かう行為は,社会通念上苛酷なものとまではいえず,帰省先で 害防止の観点から就業に不可欠な業務に密接に関連したものであるとはいえないこと,月に2,3回程度午前5時過ぎに帰省先を出発して高山営業所に向かう行為は,社会通念上苛酷なものとまではいえず,帰省先で十分体調を整え休息を取ることは可能であり,実際にも,Bは,週末に本件自宅に向かうときには,1日の仕事を終えた状態で自家用自動車で通勤をしていたこと等からすれば,月曜日に朝礼があったことを踏まえても,本件自宅において睡眠による休養を十分取った上で,就労日の早朝に高山営業所へ向かうことは十分可能であったと考えられ,Bが就業日の前日に本件社宅に向かう行為は就業に不可欠な業務に密接に関連した行為とはいえない。 ウ通勤は,労働者が労務提供との密接な関連の中で行う行為であり,その特殊性から,業務に極めて密接な関連をもつ「通勤」について,法7条1項2号,3号及び同条2項において,その具体的基準を明確に規定して労働者の保護を図っているものであり,労災保険上の通勤災害保護制度で保護される通勤とは,人が仕事に就くため,又は帰宅のために行われるものというような一般的な意味における広い意味での通勤を指しているものではない。業務日の前日である日曜日に社宅に向かう行為まで通勤の範ちゅうに含めるとすれば,就業に不可欠な行為としての通勤の概念を大きく逸脱する結果になることは明らかである。原告の主張する単身赴任者の自宅と社宅の往復を通勤とするためには法改正が必要である。 エ原告は,本件社宅と高山営業所は同一の建物であり,実質的には本件社宅と就業場所は同視できると主張するが,「就業の場所」とは,業務を開始し又は終了する場所であり,本件社宅はそれに該当しない。 本件社宅は高山営業所と同一建物の2階にあるが,仮眠室のごとき付帯する施設といえるものでもなく,階段は るが,「就業の場所」とは,業務を開始し又は終了する場所であり,本件社宅はそれに該当しない。 本件社宅は高山営業所と同一建物の2階にあるが,仮眠室のごとき付帯する施設といえるものでもなく,階段は外付けとなっており,出入口を異にし,高山営業所とは分離されていたこと,設置目的も自宅から通勤し難い労働者の通勤の便宜を図るために高山営業所の2階に設置されているにすぎず,企業が自社社屋内に社宅を設けることは珍しいことではないこと,Bが入居するまで長期間使用されていなかったものであり,生命保険事業の運営上必要不可欠な施設でもないこと,Bの本件社宅での生活も何ら規制等を受けるものではなかったこと(Bは家族を同伴しての入居もできたこと),Bの業務の遂行について,本件社宅への入居を必要としておらず,他に住居を選択する自由もあり,入居の判断もBの意思によるものであり,事業主の強制にわたるものではなかったこと,Bの給与から社宅使用料が控除され,無料で提供されたものではないこと等からすれば,本件社宅は就業の場所とは同視できない。原告は家族の同伴が事実上不可能であったと主張するが,これらは労働者の個人的・主観的事情であり,社宅が就業の場所と同一視できるかどうかといった社宅の性質とは関係がない。また,Cが費用を支出して本件社宅の改装をしたことも,それまで使用されていなかった本件社宅を改装することは一般の企業にもあることであって,本件社宅を就業の場所と同一視する根拠にはならないし,本件社宅に居住するよう指示されたことについても,社会通念からすれば,Bが遠距離通勤を避けて単身赴任を選択し,本件社宅での居住を希望したに過ぎないものといえる。 原告は,通勤災害保護制度をもって,被災者とその家族の「労働者が人たるに値する生活」を営めるように保護することを目的と て単身赴任を選択し,本件社宅での居住を希望したに過ぎないものといえる。 原告は,通勤災害保護制度をもって,被災者とその家族の「労働者が人たるに値する生活」を営めるように保護することを目的とする制度であり,通勤災害の認定も同制度趣旨に沿って解釈されるべきである旨主張するが,労災保険による通勤災害保護制度は,事業主の無過失賠償責任の範囲外にある通勤災害の特殊性に着目して保護しているもので,法1条に規定する「公正な保護を図る」ため,法7条2項及び3項においてその具体的基準が定められ,その基準に基づき認定を行っているものであり,原告の主張はその前提である通勤災害保護制度の趣旨を正解していない。 また,原告は,就業前日に本件社宅に向かうのは一般常識にも適合するのであるから,当然被災者の行為は通勤と見るべきと主張するようであるが,実質的に見ても,Bが単身赴任するに当たって,就業の拠点を本件社宅にするか否かはBの自由に委ねられ,強制的に本件社宅に入居させられたものではなかったこと,家族の同伴も可能であったこと,本件自宅と本件社宅が遠距離であることは認めるとしても,そのために,Bが単身赴任をすることとしていたものであること,さらには休日を利用して帰宅していた本件自宅から就業当日である月曜日に高山営業所に向かうことも,本件自宅から高山営業所までの所要時間が3時間30分程度であり,始業時刻が午前9時であることから,事実上不可能などとはいえないこと等からすれば,前日に本件自宅から本件社宅に向かう行為が一般常識に適合する行為であり当然に通勤と見るべきであるとはいえない。 なお,仮に本件社宅を就業場所と同視したとしても,上記アのとおり,本件においては,Bは本件事故当日である日曜日に業務に従事しなければならなかった事実は証拠上認められないから あるとはいえない。 なお,仮に本件社宅を就業場所と同視したとしても,上記アのとおり,本件においては,Bは本件事故当日である日曜日に業務に従事しなければならなかった事実は証拠上認められないから,「就業に関して」移動したものとはいえず,「通勤」に該当しない。 第3 当裁判所の判断 1 前記争いのない事実等に,証拠(乙13,31,37,38の2,54)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 (1) Bは,本件自宅において,父E(昭和4年h月i日生),母F(昭和10年j月k日生),妻原告(昭和34年l月m日生),長女G(昭和60年n月o日生),長男H(昭和63年p月q日生),次男I(平成4年r月s日生)と同居し,自営業を営んでいたが,平成8年ころ,Cにおいて,所長待遇者の募集があり,地元で仕事ができるとの説明を受けたことから,同社に就職し,入社後は瑞浪営業所で副所長として勤務した。Bは,高齢の両親と妻子を抱え,単身赴任をすることは想定せず,瑞浪営業所の所長になることを想定していた。 その後,Cは,Bに対し,高山営業所所長としての勤務を命じた。Bは,当初のCの説明と異なり,不本意ではあったが,今更転職することもできず,やむを得ず転勤に応じることとし,平成11年4月から高山営業所へ転勤した。Bは,本件自宅から高山営業所までは遠距離であるため,高山営業所近辺に居住する必要があったが,長女の高校進学や長男の中学進学などの事情から,単身赴任することとし,高山営業所の2階にある本件社宅に居住することとした。Cは,Bが居住するに先立ち,本件社宅の改装工事を行った。なお,本件社宅は71.46平メートルの広さで,6畳間3部屋,ダイニングキッチン,風呂,トイレが付いている。 (2) 単身赴任以降,Bは,平成11年4月は3回(4月2日から4 社宅の改装工事を行った。なお,本件社宅は71.46平メートルの広さで,6畳間3部屋,ダイニングキッチン,風呂,トイレが付いている。 (2) 単身赴任以降,Bは,平成11年4月は3回(4月2日から4日,同月9日から11日,同月30日から5月5日),同年6月は2回(6月4日から6日,同月18日から20日),同年7月は4回(7月2日から4日,同月9日から11日,同月16日から18日,同月30日から8月1日)にわたり本件自宅に帰省したが,その際は,いずれも,高山営業所での勤務を終えた後,金曜日午後8時から午後9時ころまでには本件自宅へ帰宅し,日曜日の午後3時頃には風呂に入り,夕食を食べ,荷物(冷凍食品,ペットボトルの水)を自家用車に積み込み,午後5時から午後5時30分ころには本件自宅を出て,本件社宅に移動していた。 本件自宅から本件社宅までの経路は,①本件自宅から国道19号線(恵那市,中津川市経由)~国道257号線(加子母村経由)~本件社宅,②本件自宅~美濃加茂市~国道41号線(下呂市経由)~本件社宅の2経路があるが,Bは概ね①の経路をたどっていた。①の所要時間は約3時間30分である。なお,本件自宅から本件社宅を接続する鉄道は存在するものの,経路が迂遠であり,①,②の経路より移動時間が長い。 Bは,Cの執務開始時刻である午前9時前には高山営業所に出勤し,午前9時30分から約30分,15名の営業職員らに対して朝礼を行い,岐阜支社からの連絡や新商品等について説明,職員の業績報告などをし,その後は営業職員らに同行して挨拶回りを行ったり,営業所に残り取り付けた保険契約のとりまとめなどを行っていた。 (3) Bは,平成11年4月ころから同年5月中旬ころまでは通常に勤務していたが,同年5月中旬ころから下痢が続き体調を崩すようになり,朝礼後2階の本件 り付けた保険契約のとりまとめなどを行っていた。 (3) Bは,平成11年4月ころから同年5月中旬ころまでは通常に勤務していたが,同年5月中旬ころから下痢が続き体調を崩すようになり,朝礼後2階の本件社宅で休むようになり,やがて朝礼後にはほとんど2階の本件社宅で寝込むようになり,午後3時頃に起きてくることもあったが,寝込みっぱなしになることも多くなった。Bの顔色の悪さや体調の不良を心配した職員らは,岐阜支社長に連絡するかどうか相談していた。Bは,職員に勧められ,同年6月7日以降精神科医に通院し,うつ病と診断されていた。 (4) Bは,平成11年7月30日(金曜日)午後9時30分ころ,本件自宅に自家用車で帰宅した後,夕食,風呂などを済ませた後の同年8月1日(日曜日)午後5時30分ころ,原告ら家族に対し,「疲れているので30分遅く行く。」と言って,普段より30分遅く本件自宅を出発して,本件社宅に向かったが,行方不明となった。 Bは,同年11月26日,岐阜県恵那郡e村f番地のg番地先の沢の中で死亡しているところを発見された。現場は,国道256号線沿いにある。Bは,同年8月1日,同所を中津川市方面から高山市方面に向けて走行中,右カーブを曲がりきれずに誤って道路外に逸脱して竹藪に突っ込み,その後事故現場付近のブロック崖から沢に滑落し,墜落に伴う全身打撲によるショック死又は胸骨骨折等によりショック死したものと推定された。 (5) 被告は,原告からの遺族給付金の請求に対して,39号通達に基づく,単身赴任者が,就労日の翌日に社宅等から自宅に帰る,又は就労日の前日に自宅から社宅等に戻るという場合は,自宅と就業の場所との往復行為ではなく当該社宅等と自宅との間の往復行為とみられることから,通勤とは認められないとの取扱いに従い,本件は就労日の前日に自宅から社宅 に自宅から社宅等に戻るという場合は,自宅と就業の場所との往復行為ではなく当該社宅等と自宅との間の往復行為とみられることから,通勤とは認められないとの取扱いに従い,本件は就労日の前日に自宅から社宅に戻る場合に該当し,通勤災害と認められないとして,不支給処分をした。 (6) なお,厚生労働省は,近年子供の教育への配慮や持家の取得の増加,経営環境の変化に応じた企業の事業展開等により,単身赴任者の数も増加しているものと考えられていることから,労災保険制度が適切に対応していくことが重要であるとして,学識経験者等を参集した「労災保険制度の在り方に関する研究会」において検討を重ねた上,平成16年7月5日,「労災保険制度の在り方に関する研究会中間とりまとめ-通勤災害制度の見直し等について-」を発表したが,ここでも,単身赴任者の赴任先住居・帰省先住居間の移動については,単身赴任は事業主側・労働者側双方の事情を両立させるためやむを得ず行われるものであること,赴任先住居・帰省先住居間の移動は必然的に行われるものであり,ある程度不可避的に生ずる社会的危険であることから,通勤災害保護制度の対象とすることが適当であり,帰省先住居から赴任先住居への移動については,①勤務日当日又はその前日移動が行われることが大半であり,特に前日の移動が行われることが多いという実態があること,②単身赴任者の帰省先住居・赴任先住居間の移動は2時間以上かかる場合が大半であること等を踏まえ,原則として勤務日当日又はその前後の日に行われる移動については保護の対象とすることが適当である,とされている。 2 以上の事実の事実に基づいて,Bの本件事故当日における本件自宅から本件社宅への移動が,「通勤」に該当するものといえるかどうかについて,検討する。 (1) 「通勤」とは,労働者が,①就業に関し, 。 2 以上の事実の事実に基づいて,Bの本件事故当日における本件自宅から本件社宅への移動が,「通勤」に該当するものといえるかどうかについて,検討する。 (1) 「通勤」とは,労働者が,①就業に関し,②住居と就業の場所との間を,③合理的な経路及び方法により往復することをいい,④業務の性質を有するものを除くものとされており(法7条2項),まず,住居と就業場所との間の移動であることを要する。 これを本件についてみると,前記1の事実によれば,Bは平成11年4月以降,高山営業所の所長としてCの業務に従事していたのであるから,高山営業所が「就業の場所」となる。そして,Bは同月以降の平日は高山営業所における業務に従事するため,本件社宅を拠点とし,ここで日常生活を営んでいたのであるから,本件社宅が「住居」となることも疑いない。また,Bは金曜日の勤務終了後に高山営業所ないし本件社宅を出発して本件自宅に戻り,就労日前日の午後5時ころには本件自宅を出て本件社宅に向かうという帰省を月平均2回以上繰り返していたのであるから,本件自宅も「住居」に該当する。 ところで,前記1の事実のとおり,Bは同年8月1日(日曜日)に本件自宅を午後5時30分ころ自家用車で出発し,所用時間約3時間30分の本件社宅に向かったこと,翌日の勤務開始時刻は午前9時であり,移動日当日にBに課せられた職務は特段予定されていなかったことからすれば,Bの同日における移動は,住居から住居への移動ということになり,住居から就業の場所への移動という通勤の定義に直ちに当てはまるものではない。 しかし,男性の単身赴任者は,昭和62年には41万9000人であったものが平成9年には68万8000人に64%増加し,そのような社会の実情をふまえると,帰省先住居と赴任先住居との往復についても,翌日の勤務に 男性の単身赴任者は,昭和62年には41万9000人であったものが平成9年には68万8000人に64%増加し,そのような社会の実情をふまえると,帰省先住居と赴任先住居との往復についても,翌日の勤務に備えるためのもののように業務と密接な関連を有すると評価することができるものは,移動の際の災害の危険についても対処する必要があると考えられるようになってきたこと(乙61)に鑑みると,勤務前日に帰省先住居を出発して赴任先住居に到着し同所で一泊した後,翌日に就業の場所に移動する一連の移動を,住居から就業の場所への移動と捉え,これを「通勤」の概念に含まれうるものと解し,その上で,通勤の他の要件を満たす場合には,「通勤」に該当すると判断するのが相当である。(なお,こののように解し,帰省先住居を勤務前日に出発して赴任先住居における一泊を経て勤務当日就業の場所に移動することが通勤と認められる場合においては,帰省先住居から赴任先住居に到着した時点で,通勤は中断するものと解され,かつ,勤務当日の赴任先住居から就業の場所への移動は,法7条3項,労働者災害補償保険法施行規則で中断後の移動が通勤と認められる例外的場合に該当しないことから,勤務当日の赴任先住居から就業の場所への移動は,帰省先住居から赴任先住居を経由しての通勤としては保護されないといわざるを得ないが,別途,赴任先住居から就業の場所への移動としての「通勤」に該当するものとして保護することが可能であると解される。)よって,本件においても,Bの本件事故当日の本件自宅から本件社宅への移動は,翌日の本件社宅から高山営業所への移動と併せて「通勤」に該当しうるものとし,「通勤」のその余の要件に該当するか否かを検討することとする。 (2) そこで,Bの本件事故当日の本件自宅から本件社宅への移動が「就業に関し 山営業所への移動と併せて「通勤」に該当しうるものとし,「通勤」のその余の要件に該当するか否かを検討することとする。 (2) そこで,Bの本件事故当日の本件自宅から本件社宅への移動が「就業に関して」行われたかどうかについて検討する。 帰省先住居から赴任先住居への勤務前日における移動が「就業に関して」行われたと認められるためには,①当該帰省先住居から赴任先住居への移動を勤務前日に行うことが社会通念上相当と認められ,②当該労働者が帰省先住居から赴任先住居への勤務前日の移動を現に反復・継続して行い,又は反復・継続して行う意思を有しており,かつ,③当該移動が,他の目的のための移動ではなく,翌日の勤務のための移動であること,以上に該当することが必要であると解するのが相当である。 被告は,帰省先住居から赴任先住居への勤務前日の移動は,赴任先住居において長時間滞在することが予定されているから,社会通念上就業との関連性が認められず,「就業に関し」て行われたとはいえない旨主張する。しかし,前記のような社会の実情に照らすと,上記①ないし③の条件をすべて満たす場合においては,帰省先住居から赴任先住居への勤務前日の移動も,社会通念上就業との関連性があると認めるべきであって,被告の上記主張は採用できない。 これを本件についてみると,前記1の認定事実によれば,本件自宅から本件社宅及び高山営業所への移動には,最短の経路によっても所要時間が約3時間30分かかること,高山営業所におけるBの執務開始時刻は午前9時であることが認められるから,勤務当日に本件自宅から高山営業所に通勤しようとすれば,午前5時30分以前に本件自宅を出発しなければならないものであって,このことに鑑みると,本件自宅から本件社宅への移動を勤務前日に行うことは,社会通念上相当と認められる。 業所に通勤しようとすれば,午前5時30分以前に本件自宅を出発しなければならないものであって,このことに鑑みると,本件自宅から本件社宅への移動を勤務前日に行うことは,社会通念上相当と認められる。 次に,Bは,単身赴任以降平成11年4月に3回(4月30日から5月5日までの帰省を含む。),同年6月に2回,同年7月に4回帰省を繰り返し,同年8月1日に本件事故に遭ったことが認められるから,Bは,帰省先住居から赴任先住居への勤務前日の移動を現に反復・継続して行っていたものと認められる。 さらに,Bの本件事故当日の移動が他の目的のための移動であることを認めるに足りる証拠はなく,その出発時刻・移動経路その他の状況に照らし,翌日の勤務のための移動であると認められる。 よって,Bの本件事故当日における本件自宅から本件社宅への移動は,「就業に関して」行われたものと認めるのが相当である。 (3) そして,Bの本件事故当日の移動が「合理的な経路及び方法により」行われたことについては,前記1に認定したとおりであり,また,その移動が業務の性質を有するものではないことは明らかである。 さらに,Bは,本件自宅へ帰省する場合,金曜日の勤務終了後直接本件自宅へ帰宅していたことが認められるから,この移動と,日曜日の夜に本件自宅から本件社宅へ移動し,翌朝高山営業所に出勤することを併せると,自宅と就業の場所を「往復」するものといえることは,当然である。 そうすると,Bの本件事故当日の本件自宅から本件社宅への移動は,翌日の本件社宅から就業の場所への移動と併せて,「通勤」に該当するものということができる。 3 以上のとおり,本件事故は,被災者が就業に関して週末帰宅型通勤を行っていた途上に発生したものというべきであり,通勤災害に該当するから,これを通勤災害に該当しな 当するものということができる。 3 以上のとおり,本件事故は,被災者が就業に関して週末帰宅型通勤を行っていた途上に発生したものというべきであり,通勤災害に該当するから,これを通勤災害に該当しないと判断した本件処分は違法であり,取り消されるべきである。 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから認容することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 岐阜地方裁判所民事第1部裁判長裁判官筏津順子裁判官倉田慎也裁判官小林謙介は,転補につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官筏津順子
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