主文 1 原告の本訴請求を棄却する。 2 原告は、被告に対し、220万円及びこれに対する令和2年2月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告のその余の反訴請求を棄却する。 4 訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを10分し、その9を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 本訴事件被告は、原告に対し、1100万円及びこれに対する令和元年11月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 反訴事件原告は、被告に対し、330万円及びこれに対する令和2年2月6日から支 払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、①本訴として、C大学のアイススケート部(以下、単に「部」という。)の監督であった原告(A)が、部のコーチであった被告(B)から無視や陰口等のハラスメント行為を受けて精神的苦痛を被ったなどと主張して、被告 に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料及び弁護士費用の合計1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和元年11月23日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、②反訴として、被告が、原告のブログにおける記事、週刊誌の記者によるインタビューにおけ る原告の発言及び記者会見における原告の発言は、いずれも被告が原告に対し てハラスメント行為を行ったかのような印象を抱かせ被告の社会的評価を低下させるものであるから、被告に対する名誉毀損に当たるなどと主張して、原告に対し、不法行為による損害賠償請求 原告に対し てハラスメント行為を行ったかのような印象を抱かせ被告の社会的評価を低下させるものであるから、被告に対する名誉毀損に当たるなどと主張して、原告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料及び弁護士費用の合計330万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である令和2年2月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事 案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実及び後掲各証拠(特に付記しない限り枝番号を含む。以下同じ。)により認定することができる事実)⑴ア原告は、プロのフィギュアスケーターであり、平成29年4月から令和元年9月まで部の監督を務めていた。 イ被告は、フィギュアスケーターのコーチであり、平成19年4月から令和3年6月まで部のコーチを務めていた。 (乙14、被告本人)⑵ 原告は、平成25年にプロに転向した後も出身大学であるC大学のキャンパス内に設置されたスケートリンク場である「aアイスアリーナ」(以下「a アリーナ」という。)を練習拠点とし、他方、被告は、aアリーナにおいて、原告の母であるDコーチや平成29年3月まで部の監督も務めていたEコーチと共に、コーチごとのチームに分かれてそれぞれ選手の指導に当っていた。 原告は、Eコーチが平成29年3月に定年により部の監督を退任したことに伴い、同年4月、同人の後任として、部の監督に就任した。 ⑶ 原告は、部の監督に就任する直前の平成29年3月22日、被告のアシスタントコーチ及び被告に対し、被告が指導するチームの選手がaアリーナで練習する際の滑走の人数や方法がルールに沿わない危険なものである旨指摘してそのような練習方法を止めるよう要望し、被告、Dコーチ及びEコーチも交えて話し合い 、被告が指導するチームの選手がaアリーナで練習する際の滑走の人数や方法がルールに沿わない危険なものである旨指摘してそのような練習方法を止めるよう要望し、被告、Dコーチ及びEコーチも交えて話し合いがされた結果、原告の要望を尊重する内容のルール等が確 認された(甲21、乙14、原告本人、被告本人、弁論の全趣旨)。 ⑷ 原告は、平成31年1月24日、被告、Fコーチ、部の顧問及び副顧問と意見交換をし、その席上において、部に所属する選手の学業とスケート活動の両立等を図ることを目的として、aアリーナにおける選手の練習時間帯等を変更する提案を行い、同年3月からは、同提案に基づき変更された練習時間帯等による選手の練習が行われるようになった。 また、原告は、部に所属する選手の学業とスケート活動の両立等を図ることを目的として、同年4月頃から、部の幹部部員と共に部則の改定について検討し、学業成績不良者に対する規定等を盛り込んだ改定案を作成するなどした。 (以上、甲4、7、21、原告本人) ⑸ 被告、Eコーチ、Fコーチ、部の顧問及び副顧問は、令和元年5月22日、原告及びDコーチが参加していないミーティングにおいて、前記⑷の練習時間帯等の変更に対する保護者の意見等を踏まえ、選手の練習時間帯等を変更前のものに戻すことを決めた(乙1の2)。 ⑹ 原告は、令和元年9月9日までに、C大学に部の監督を辞任する旨を申し 出、C大学は、これを了承し、同日、原告が部の監督を退任する旨を発表した(甲2)。 ⑺ 原告は、令和元年9月29日、自己のブログに「C大学アイススケート部監督辞任について」と題する記事(乙9。以下「本件ブログ記事1」という。)を掲載し、その記事中に、別紙発言等目録(以下「目録」という。)記載1の 29日、自己のブログに「C大学アイススケート部監督辞任について」と題する記事(乙9。以下「本件ブログ記事1」という。)を掲載し、その記事中に、別紙発言等目録(以下「目録」という。)記載1の 書込みをした(以下、当該書込みを「本件書込み1」という。甲15)。 ⑻ 原告は、週刊誌である「週刊新潮」(以下、単に「週刊新潮」という。)の記者によるインタビュー方式に基づく取材において部の監督を退任するに至る経緯等を説明する際に、目録記載3⑴ないし⑸の各発言をし(以下、併せて「本件各取材発言」という。)、令和元年10月31日、本件各取材発言を 含む「特集「A」初激白!僕は「C大の女帝」に排除された」と題する記事 (乙5。以下「本件インタビュー記事」という。)が同誌に掲載された(原告本人)。 ⑼ 原告は、令和元年11月18日、本訴を提起するのに合わせて開かれた記者会見において、訴えを提起するに至った経緯等について記者との間で質疑応答(以下「本件質疑応答」という。)をした際に、目録記載4⑴ないし⑻の 各発言をした(以下、併せて「本件各会見発言」という。乙6ないし8)。 ⑽ 原告は、令和元年11月18日、自己のブログに「嫌がらせ・モラハラ行為について」と題する記事(乙10。以下「本件ブログ記事2」という。)を掲載し、同記事中に、目録記載2⑴ないし⑸の書き込みをした(以下、当該各書込みを「本件書込み2」といい、本件書込み1と併せて「本件各書込み」 という。甲15)。 3 争点⑴ 原告に対するハラスメント行為の有無(本訴関係)⑵ 原告の損害(本訴関係)⑶ 被告に対する名誉毀損行為の有無(反訴関係) ⑷ 違法性阻却事由の有無(反訴関係)⑸ 被告の損害(反訴関係) 4 争 有無(本訴関係)⑵ 原告の損害(本訴関係)⑶ 被告に対する名誉毀損行為の有無(反訴関係) ⑷ 違法性阻却事由の有無(反訴関係)⑸ 被告の損害(反訴関係) 4 争点に対する当事者の主張⑴ 争点⑴(原告に対するハラスメント行為の有無(本訴関係))について(原告の主張) ア被告は、原告に対し、下記及び等の各ハラスメント行為(以下「本件各行為」という。)を行った。 被告は、平成29年3月22日、原告からの要望を受けて一旦は謝罪したものの、その後激昂して「あんたの考えは間違っている。」と発言するなどし、その後同月24日頃から約1か月間、aアリーナにおいて、 原告を睨みつけたり、挨拶に返答しないなどしてあからさまに原告を無 視したりしたほか、原告が近づくと露骨に嫌がる素振りを見せて遠ざかるなどし、原告が監督に就任した後には、aアリーナの関係者らに対して、原告が監督に就任してから偉そうになったなどと真実と異なることを述べたり、原告の陰口を叩いたりした。 被告は、平成31年1月24日に原告から練習時間帯等を変更する提 案を受け、その頃から令和元年9月頃までの間、aアリーナ等において、原告を睨みつけたり、挨拶に返答しないなどして原告を無視したり、原告が近づくと露骨に嫌がる素振りを見せて原告から遠ざかったり、原告の陰口を叩いたりするなどしたほか、以下の各ハラスメント行為を行った。 a 被告は、平成31年4月27日、原告に対し、原告の提案に基づく練習時間帯等の変更について、「あの貸切時間めちゃくちゃ評判悪いよ。」「あんなんさっさと変えなあかんねんから話し合いましょ。」などとあたかも原告が自分勝手に変更したかのような口ぶりで怒鳴るなどしたほか、部 帯等の変更について、「あの貸切時間めちゃくちゃ評判悪いよ。」「あんなんさっさと変えなあかんねんから話し合いましょ。」などとあたかも原告が自分勝手に変更したかのような口ぶりで怒鳴るなどしたほか、部の学生に対して「成績が悪いと試合に出れなくなる。」な どと真実とは異なる情報を伝えて不安や不満を煽るなどした。 b 被告は、令和元年5月14日頃、新たに開設するアイススケート場のオープニングイベントについての話し合いが持たれた席上で、C大学の前理事長が「Aくん(原告)もやけど、Gくんも出てね。」と発言したことを受けて、「Gくんは絶対必要。あの人はスーパースターやか ら。あの人やったら(オープニングイベントのチケットも)全部売れるわ。」とG選手を原告の比較対象とする発言をするなどして原告を攻撃した。 c 被告は、令和元年5月22日のミーティングにおいて、原告を除外して、原告の提案に基づき変更された選手の練習時間帯等について協 議し、原告に無断でこれを取りやめた。 d 被告は、令和元年5月28日、aアリーナの被告の更衣室内で「こんな部則ありえんわ。」などと外に漏れる大声で話をした上で、同アリーナのスケートリンクにおいて、原告の方を見ながらFコーチに対して原告の陰口を叩き、原告がその側を通ると、原告から離れて行きながら、原告に聞こえる声で「絶対ありえへんよねー。」と発言した。 イ原告は、本件各行為に対して不快感や嫌悪感、脅威、強い不安等を感じ、平成31年2月から同年3月にかけて、動悸や目眩、40度を超える発熱等が生じ、同月26日から同年4月2日まで入院して絶対安静の下での治療を受けざるを得なくなったほか(甲5)、令和元年5月28日以降、aアリーナに出向いて選手の指導をすることができなくな を超える発熱等が生じ、同月26日から同年4月2日まで入院して絶対安静の下での治療を受けざるを得なくなったほか(甲5)、令和元年5月28日以降、aアリーナに出向いて選手の指導をすることができなくなり、部の監督も退任 せざるを得なくなった。 したがって、本件各行為は、原告に対して精神的な害悪及び経済的な害悪を与えることを目的とし又はそのような結果を招き若しくはその可能性のあるものとして許容できない違法なハラスメント行為に当たる。 (被告の主張) ア原告の主張は否認又は争う。 イ被告は、原告を無視したり露骨に嫌がる素振りを見せて原告から遠ざかったりしたことや、原告に挨拶をしなかったことはないし、他人に対して原告の陰口となるようなことを口にしたことは一切なく、以下でも述べるとおり、被告は本件各行為をしていない。 被告は、平成29年3月22日、aアリーナにおける滑走方法等について原告とやりとりをした際、他のコーチをも呼び寄せて話し合った結果、原告の意見を尊重する内容で話をまとめ、原告と他のコーチとの仲裁を行ったのであり、「あんたの考えは間違っている。」などと発言したことはない。 被告は、平成31年1月24日、原告から練習時間帯等を変更する提 案を受けて、原告及び各コーチと話合いをした結果、とりあえず2か月間は同提案による練習時間帯等でテストをし、その結果を踏まえて改めて検討するということになったのであり、その後、令和元年5月22日のミーティングの前日に、原告に対し、同提案に係る練習時間帯等の変更は保護者の評判が悪いことを伝えてこれを元に戻す話をしたところ、 原告は、やや不満げではあったが、これを承諾している。 また、新たに開設するアイススケート場のオープニングイベントに 等の変更は保護者の評判が悪いことを伝えてこれを元に戻す話をしたところ、 原告は、やや不満げではあったが、これを承諾している。 また、新たに開設するアイススケート場のオープニングイベントについて各コーチによる話合いが持たれたのも同日であり、被告は、C大学の前理事長がEコーチに対してG選手の出演の依頼の話を受けて、同選手が出ると皆喜ぶ旨を発言したことはあるが、その発言時に原告のこと を意識したことはなく、原告の被害妄想にすぎない。 被告は、令和元年5月に一部の部員や他のコーチから部則の変更によりスケートができなくなるかもしれず不安である旨等の相談を受けて初めて部則の変更の動きがあることを知り、指導者間での相談がなく変更されることを疑問に思い、同月22日のミーティングの席上で部の顧問 に尋ねた際には、同顧問から勝手に変更することはない旨の返答があったにもかかわらず、同年6月2日、原告の指示を受けていた部のキャプテンが突然部則の変更を発表したため、部員間で一気に不安が広がったのであり、被告が不必要に不安を煽ったのではない。 ⑵ 争点⑵(原告の損害(本訴関係))について (原告の主張)前記⑴のとおり、被告の不法行為によって被った精神的苦痛の回復は著しく困難なものであり、その回復には少なくとも慰謝料1000万円が必要である。また、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は100万円である。 (被告の主張) 原告の主張は否認又は争う。 ⑶ 争点⑶(被告に対する名誉毀損行為の有無(反訴関係))について(被告の主張)本件各書込み、本件各取材発言及び本件各会見発言(以下「本件各表現行為」という。)は、それぞれ被告が原告に対してハラスメント行為や嫌がらせ を行った 反訴関係))について(被告の主張)本件各書込み、本件各取材発言及び本件各会見発言(以下「本件各表現行為」という。)は、それぞれ被告が原告に対してハラスメント行為や嫌がらせ を行ったという事実を摘示するものであり、読者や聴取者に被告があたかもハラスメント行為や嫌がらせを行う人物であるかのような誤った印象を抱かせるものである。そして、被告は、日本を代表するフィギュアスケーターを指導しており、その指導力は高く評価され、世間における知名度も高いところ、本件各表現行為は、被告を世間による非難の目に晒し、被告の社会的評 価を低下させるものであるから、被告の名誉を毀損する行為である。 なお、原告は、本件各取材発言に関し、本件インタビュー記事の掲載に当たっては週刊新潮の編集部にその権限があり、原告は本件インタビュー記事の作成、編集及び公開には一切関与していないなどと主張するが、本件各取材発言は、原告が語った内容がそのまま掲載されたもので週刊新潮による編 集等は行われていないから、原告の主張は不法行為の成立を妨げるものではない。 (原告の主張)ア被告の主張は否認又は争う。 イ本件ブログ記事1は、原告が、多忙を理由として部の監督を退任する に至ったわけではなく、ハラスメント行為や嫌がらせを受け体調を崩すなどしてスケートリンク場に行くことができなくなったという事実を摘示したものにすぎず、被告に関する記述は一切ないから、被告の社会的評価を低下させるものではない。 本件質疑応答も含め原告が記者会見において伝達した事実は、原告が 本訴を提起するとともにC大学に対してハラスメント調査を申し立てた こと、フィギュアスケート界の悪弊へ一石を投じる思いで被告のハラスメント行為を提訴するに至り 伝達した事実は、原告が 本訴を提起するとともにC大学に対してハラスメント調査を申し立てた こと、フィギュアスケート界の悪弊へ一石を投じる思いで被告のハラスメント行為を提訴するに至り、裁判を通じて事実を明らかにしていきたいと考えていること及び代理人弁護士の連絡先であり、いずれも被告の社会的評価を低下させるものではない。 ウ仮に、本件各表現行為が摘示する各事実を、被告が原告に対してハラス メント行為を行ったことであると解したとしても、被告は、これまでの指導歴の中で数多くの教え子に対して指導の域を超えた暴言や暴力を用いるなどしており、そのような事情から絶対的な力を持つに至った指導者であることは広く知れ渡っている。 したがって、本件各表現行為により、被告が原告に対してハラスメント 行為を行ったとの事実が伝達されたとしても、被告の社会的評価が低下することはない。 エまた、本件各取材発言について、原告は、週刊新潮が申し込んだ取材に応じて記者の問いに回答したにすぎず、本件インタビュー記事には原告の発言全てが文章化されているわけではないし、原告の発言のうちどの部分 を掲載するか、その配置、前後の文章の繋げ方、記事の全体の構成等は全て週刊新潮の編集部にその権限があり、原告は本件インタビュー記事の作成、編集及び公開には一切関与していないのであるから、取材対象者にすぎない原告が本件各取材発言について不法行為責任を負うことはない。 ⑷ 争点⑷(違法性阻却事由の有無(反訴関係))について (原告の主張)原告及び被告の言動はフィギュアスケートのファンらによって注目されていること、部は国内有数の名門であり、部内における選手の活動、監督等の就任及び退任、ハラスメント行為や不祥事の有無等は社会の関 原告及び被告の言動はフィギュアスケートのファンらによって注目されていること、部は国内有数の名門であり、部内における選手の活動、監督等の就任及び退任、ハラスメント行為や不祥事の有無等は社会の関心事であることなどからすれば、部において選手の指導方法等を巡ってハラスメント行為 が行われたことは国民及び社会の関心事であり、本件各表現行為の内容は公 共の利害に関するものである。 また、原告は、被告のハラスメント行為により精神的被害を受けたことを公にすることによってスポーツ界におけるハラスメント行為の根絶を目指したのであり、本件各表現行為が専ら公益を図る目的でされたものであることは明らかである。 そして、仮に、本件各表現行為が摘示する事実を被告の主張するとおりであると解したとしても、かかる事実は本訴において原告がその存在を主張しているハラスメント行為(本件各行為)と密接に関わるもので、真実であるし、たとえ真実ではなかったとしても、直接の体験者である原告がこれらを真実であると信じることは当然であり、摘示した事実を真実であると信じた ことにつき相当な理由があるから、違法性阻却事由(真実性の抗弁又は真実相当性の抗弁)が認められる。 (被告の主張)ア原告の主張は否認又は争う。 イ指導者と選手の関係であればまだしも、一大学のスケート部の監督に対 してハラスメント行為や嫌がらせを行っていたか否かなど世間が関心を寄せるのが正当であるとはいえないし、本件各表現行為は、専ら自己の利益を図り被告のコーチとしての信用を低下させるという目的をもって行われたもので、専ら公益を図る目的でされたものではない。 また、被告が原告に対してハラスメント行為や嫌がらせを行った事実は 一切存在しないし、原告 の信用を低下させるという目的をもって行われたもので、専ら公益を図る目的でされたものではない。 また、被告が原告に対してハラスメント行為や嫌がらせを行った事実は 一切存在しないし、原告は特段裏付けを取ることもなくこれらが存在し自己が被害を受けたと思い込んだにすぎないから、そう信じるにつき相当な理由もなく、違法性阻却事由は認められない。 ⑸ 争点⑸(被告の損害(反訴関係))について(被告の主張) 被告がした本件各書込み、本件各取材発言及び本件各会見発言はそれぞれ 別個の不法行為(名誉毀損行為)を構成するところ、これにより被告の名誉は著しく毀損され、世間から非難の目に晒されるなどして多大な精神的苦痛を被ることになったのであり、必要な慰謝料は各100万円の合計300万円を下らない。また、原告の各不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は合計30万円である。 (原告の主張)被告の主張は否認又は争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(原告に対するハラスメント行為の有無(本訴関係))について⑴ 原告は、第2の4⑴(原告の主張)のとおり、被告は、平成29年3月2 4日頃から約1か月間及び平成31年1月24日頃から令和元年9月頃までの間、違法なハラスメント行為(本件各行為)を行った旨主張し、本人尋問においてこれに沿う内容の供述をし、陳述書(甲21)等にも同旨の記載がある。 ⑵ この点、確かに、原告の供述等によれば、原告は、部の運営や選手の指導 方法等を巡り、被告と意見や考え方の相違が生じたことなどを契機として、被告の発言や態度に不快感、嫌悪感、不安感、恐怖心等を感じていたことがうかがわれる。 しかし、原告がハラスメント行為であると主張する本件各行為自体、原告 相違が生じたことなどを契機として、被告の発言や態度に不快感、嫌悪感、不安感、恐怖心等を感じていたことがうかがわれる。 しかし、原告がハラスメント行為であると主張する本件各行為自体、原告を無視したり、睨み付けたり、露骨に嫌がる素振りを見せて遠ざかったり、 面前又は陰で、原告自身又は原告による部の運営等を改善する提案等を誹謗・中傷し攻撃する発言をしたり、部の改善を妨げる行動をとったりしたというもので、多分に、原告が元々有している被告に対する印象や、その時々の原告自身の心理状態、主観的な捉え方及び受け止めにも左右されるおそれがあるものであるし、原告としても、部を総括する立場にある監督として、選手 を個別に指導するコーチとして監督とは異なる立場にある被告から、選手の 指導方針や部の運営方針等について批判的な意見や対応等を受けるのも、それらが社会通念上許容されるものである限り受忍すべきであるから、被告が主張及び供述等をするところを踏まえて考えたとしても、原告が主張する本件各行為は、違法なハラスメント行為に当たるとは直ちには認めることができないものというべきである。 むしろ、原告自身、本人尋問において、原告が要望した被告のチームの練習方法の問題については、その当時被告らと話をして円満に解決したと思った旨及び練習時間に係る原告の提案についても、被告が「学校も大切やもんね」と述べて同提案に同意したと思った旨等を供述していることに鑑みても、当時、原告と被告とが選手の指導方針や部の運営方針等を巡り激しく対立し ていたという状況まではうかがうことができず、被告が本件各行為を行う事情は見当たらないこと、被告が本件各行為を行った旨の原告の供述等を裏付ける客観的な資料が存在しないことのほか、原告の供述等の全内容や前 たという状況まではうかがうことができず、被告が本件各行為を行う事情は見当たらないこと、被告が本件各行為を行った旨の原告の供述等を裏付ける客観的な資料が存在しないことのほか、原告の供述等の全内容や前記第2の4⑴記載の双方の各主張内容に照らしても、被告の原告に対する対応や発言等の中に社会通念上許容される限度を超える違法なものがあったと認め るのは困難である。加えて、本件各行為については、その調査及び被告に対する処分等を求める原告の各申立てに基づき、同大学自ら又は同大学が設置したハラスメント調査委員会を通じて、原告、被告及び他のコーチを含む関係者に対するヒアリング調査等を行った結果、被告によるハラスメント行為は認定できないと結論付けたこと(乙1、13)などをも併せて考慮すると、 被告が本件各行為を行ったと認めることはできないというべきである。 ⑶ 以上のとおり、上記⑴の原告の供述等によっては被告が本件各行為を行ったと認めることはできず、その他原告が縷々主張するところを踏まえて一件記録を参照しても、被告が社会通念上許容される限度を超える違法なハラスメント行為を行ったと認めるに足りる的確な証拠や事情は見当たらないから、 被告の上記⑴の主張を採用することはできない。 ⑷ 以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、原告の本訴請求は理由がない。 2 争点⑶(被告に対する名誉毀損行為の有無(反訴関係))について⑴ ある表現が人の社会的評価を低下させるものか否かは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断すべきである(最高裁昭和29年(オ)第63 4号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。 また、問題とされている表現が、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に、当該表 すべきである(最高裁昭和29年(オ)第63 4号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。 また、問題とされている表現が、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものは、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解される(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月 9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。 ⑵ そこで検討するに、本件ブログ記事1における本件書込み1は、原告が監督を辞任するに至った理由として、原告に対する嫌がらせやハラスメント行為が存在したことを説明するものであり、本件ブログ記事1中には被告の氏名等は記載されていない(甲2)が、その1か月半余りで「嫌がらせ・モラ ハラ行為について」という表題の本件ブログ記事2が同じ原告のブログに掲載され、本件書込み2によって原告が嫌がらせやハラスメント行為を受けていたとする相手方が被告であることが明らかにされるに至ったこと、両記事の内容や使用された文言等が共通することになどに照らすと、当該ブログの読者であれば、本件書込み1が被告からの嫌がらせやハラスメント行為の存 在について説明するものであると理解することは十分に可能であり、そのように受け止めることが自然である。 したがって、本件各書込みは、一連一体のものとして被告が原告に対してハラスメント行為や嫌がらせを行ったという事実を摘示するものであり、その読者に被告がハラスメント行為や嫌がらせを行う人物であるかのような印 象を抱かせ、その社会的評価を低下させるものというべきであるから、被告 に対する名誉毀損行為に当たる。 ⑶アまた、本件各取材発言及び 為や嫌がらせを行う人物であるかのような印 象を抱かせ、その社会的評価を低下させるものというべきであるから、被告 に対する名誉毀損行為に当たる。 ⑶アまた、本件各取材発言及び本件各会見発言も、前記⑵と同様に、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にすれば、被告が原告に対してハラスメント行為や嫌がらせを行ったという事実を摘示するものであり、その読者に被告がハラスメント行為や嫌がらせを行う人物であるかのような印象 を抱かせ、その社会的評価を低下させるものというべきであるから、本件各取材発言及び本件各会見発言は、いずれも被告に対する名誉毀損行為に当たる。 イなお、原告は、前記第2の4⑶(原告の主張)エのとおり、本件インタビュー記事の掲載に当たっては週刊新潮の編集部にその権限があり、原告 は本件インタビュー記事の作成、編集及び公開には一切関与していないから、本件各取材発言について不法行為は成立しない旨主張するが、前記第2の2⑻によれば、本件各取材発言は、それ自体伝播性を有するものであり、かつ原告が発言した内容がそのまま本件インタビュー記事中に掲載されて週刊新潮による編集等は行われていないのであるから、原告の上記の 主張は、上記アの認定判断を左右するものではない。 3 争点⑷(違法性阻却事由の有無(反訴関係))について原告は、前記第2の4⑷(原告の主張)のとおり、被告が原告に対してハラスメント行為や嫌がらせを行ったことが本件各表現行為の摘示事実であったとしても、原告がハラスメント行為(本件各行為)を行ったことは真実であるし、 たとえ真実ではなかったとしても、上記摘示事実を真実であると信じたことにつき相当な理由があるから、本件各表現行為については違法性阻却事由がある旨(真実性の抗弁 )を行ったことは真実であるし、 たとえ真実ではなかったとしても、上記摘示事実を真実であると信じたことにつき相当な理由があるから、本件各表現行為については違法性阻却事由がある旨(真実性の抗弁又は真実相当性の抗弁)を主張する。 しかし、前記1で説示したとおり、被告が原告に対してハラスメント行為(本件各行為)を行ったと認めることはできないし、原告が被告からハラスメント 行為を受けているか否かについて客観的な裏付けを欠いていることなどからす れば、原告が被告からハラスメント行為を受けていることが真実であると信じたことにつき相当な理由があると認めることもできない。 したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件各表現行為について違法性阻却事由がある旨の原告の上記主張は採用することができない。 4 争点⑸(被告の損害(反訴関係))について 本件各表現行為の内容は、いずれも被告が原告に対してハラスメント行為や嫌がらせを行ったことを摘示するものであり、被告の社会的評価の低下の態様も共通するものと解されるから、本件各表現行為によって発生した損害額の算定に当たっても、これらの各名誉毀損行為を包括的に一体のものと評価してそれによる損害額を算定するのが相当である。 しかるに、本件各表現行為の方法及び態様等に加えて、それらが摘示する事実は長年アイススケート選手の育成に携わり実績を重ねてきた被告の指導者としての資質に対する信頼を損なわせる内容のものといえ、現に、著名人である原告による名誉毀損行為を契機として被告を誹謗中傷するコメントがインターネット上に多数寄せられる(乙11)など、被告が受けた被害の状況その他本 件に表れた一切の事情を考慮すると、原告の名誉毀損行為により被告が被った 契機として被告を誹謗中傷するコメントがインターネット上に多数寄せられる(乙11)など、被告が受けた被害の状況その他本 件に表れた一切の事情を考慮すると、原告の名誉毀損行為により被告が被った精神的苦痛に対する慰謝料の額としては、200万円が相当であると認められる。 また、本件の事案の性質、審理の経過、認容額その他本件に表れた諸事情を併せ考慮すると、被告の不法行為と相当因果関係のある損害としての弁護士費 用は、20万円が相当であると認められる。 第4 結論以上によれば、原告の本訴請求は理由がないから棄却し、被告の反訴請求は主文第2項掲記の限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第13民事部 裁判長裁判官松本明敏 裁判官伊澤大介 裁判官中川和俊 別紙発言等目録 1 本件ブログ記事1多忙を理由に監督を辞任したわけではなく、(中略)辞めた本当の理由は、リン ク内で私に対して嫌がらせやモラハラ行為があり、その影響で今年春頃から体調を崩すようになり、辞任するまでの3ヶ月間リンクに行く事が出来なくなった事とそれに対するC大学の対応が誠意あるものに思えなかったからです。 2 本件ブログ記事2⑴ 最初は全く目線を合わせず挨拶を無視され、私の見える場所から陰口を叩か れ、私が近くを通ると話すのをやめるような行動が続きました。 ⑵ リンク上で突然怒鳴られたり、また違う話し合いの場では意見を否定され続け、私を傷つける言葉も言われました。 ⑶ 事前にどこかから入手した部則の内 を通ると話すのをやめるような行動が続きました。 ⑵ リンク上で突然怒鳴られたり、また違う話し合いの場では意見を否定され続け、私を傷つける言葉も言われました。 ⑶ 事前にどこかから入手した部則の内容が気に入らず、嫌がらせがエスカレートしました。 ⑷ Bコーチからは以前にもリンク上での危険な練習について止めてほしいとお願いした所、激高された過去があった⑸ BコーチがC大学関係者に「Aが私を辞めさせようとしている」とお話された。 3 本件インタビュー記事 ⑴ 直接的な理由は“B先生”から受けた度重なるハラスメント行為、つまり嫌がらせです。(1頁目)⑵ Bチームの選手たちが高速で滑っていたこともあって、僕は正コーチであるB先生に“危ないのでやめてもらえませんか”と伝えました。しかし、“アンタは間違ってる!”と激昂されてしまった。(3頁目) ⑶ スケート場で僕とすれ違いそうになると、B先生は直前で“回れ右”をして しまう。僕とは口も利きたくない様子でした。B先生が僕の方を見ながら他のコーチとヒソヒソ話をすることも増えました。(3頁目)⑷ 陰では、“A君は監督になってエラそうになった”“監督の権力でスケート部の伝統を変えようとしている”などと嘘を言いふらされて精神的に追い込まれたのです。(3頁目) ⑸ B先生がイラ立つようになって“この練習時間は評判が悪い!”“これじゃ、子どもたちの練習ができない!”と僕を直接怒鳴るようになった。挨拶も無視され、これまで以上に陰口を叩かれました。(4頁目) 4 本件質疑応答⑴ (被告から人格を否定されるようなことを言われるなど決定的な何かがあっ たのかという記者の質問に対する原告の回答として)それはありました。(乙8の4頁目)⑵ Bコーチ 本件質疑応答⑴ (被告から人格を否定されるようなことを言われるなど決定的な何かがあっ たのかという記者の質問に対する原告の回答として)それはありました。(乙8の4頁目)⑵ Bコーチから、ま、氷上での危険な、ま、練習をされていたので。あの、すごく危なかったので、ま、やめていただきたいという風に伝えたところ、あの、ま、あんたの考えは間違っているって言われて、ま、激高されて、その後も、1ヶ月 間くらいは無視っていう形で。(乙8の6頁目)⑶ この数カ月間、こう、ま、理由もなく敵意をずっと向けられ続けてきた。(乙8の7頁目)⑷ そこから少ししてハラスメント行為っていうのが、また起こった。(乙8の7頁目) ⑸ 僕自身が、そのハラスメントの行為、こういう先生の、ま、こういう行為でちょっとリンクに行くのがすごい厳しいっていう時も、やっぱり謝罪の言葉っていうのはなかったです。(乙8の8頁目)⑹ 無視だったり、陰口だったり、ま、その、僕が好き勝手、リンクで色々やっているような、その、噂を流して、こうリンクに行きづらくなったりだとか。 (乙8の9頁目) ⑺ 氷上の上でも直接、ま、貸し切り時間について、みんなで決めたことなんですけど、怒鳴られることもあったし、違う話し合いの場でも、ま、僕があの、違う方と話していても、その意見をこう間に入って否定してきたりだとか、その場でも僕を直接傷つけるような言葉も言われましたし。(乙8の9頁目)⑻ 先生がやっぱりそういう、ま、態度であったりだとか、ま、なぜか分からな いですけど、僕に対して、敵意、敵意っていうのを、があるので、そういうあれではリンクに行きづらいっていうことをお話させてもらったんですけど、そこでも、ま、謝罪はなかったです。(乙8の9頁目) いですけど、僕に対して、敵意、敵意っていうのを、があるので、そういうあれではリンクに行きづらいっていうことをお話させてもらったんですけど、そこでも、ま、謝罪はなかったです。(乙8の9頁目)以上
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