主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実の要旨及び争点について 1 本件公訴事実の要旨本件公訴事実の要旨は,「被告人は不動産の売買等を行う株式会社aの代表取締役を務めていたものであるが,学校法人b理事長としてその業務全般を統括し学校法人bの資産を適切に保管管理するなどの業務に従事していたc,不動産の管理等を行う株式会社d及び株式会社eの各代表取締役を務めていたf,不動産の仲介業等を行う株式会社gの代表取締役を務めていたh,前記g顧問の肩書きで活動していたi,不動産の売買等を行う株式会社jの代表取締役を務めていたk及び経営コンサルタント事業等を行う株式会社lの代表取締役を務めていたmらと共謀の上,平成29年7月6日頃,学校法人b所有の大阪市内の土地につき,学校法人bを売主,前記eを買主,売買代金を31億9635万1000円とする売買契約を締結し,同月6日,前記eから学校法人b名義の普通預金口座に,前記契約の手付金として21億円の振込入金を受け,これを前記cが学校法人bのために業務上預かり保管中,その頃,同人らの用途に充てる目的で,前記21億円を,同口座から前記g名義の普通預金口座に,同口座から前記l名義の普通預金口座に,同口座から前記d名義の普通預金口座に,順次,振込送金し,もって横領した。」というものである。 2 争点等公訴事実のうち,被告人以外の者が共謀の上で業務上横領を行ったことについては争いがなく,証拠上も認められる。本件の争点は,平成28年3月ないし4月に被告人が株式会社dに対して18億円を貸し付けた時点において,被告人に本件業務上横領の故意及び共謀があったか否かである。 検察官は,被告人が,株式会社dに18億円を貸し付けた時点において,そ れがc個人 dに対して18億円を貸し付けた時点において,被告人に本件業務上横領の故意及び共謀があったか否かである。 検察官は,被告人が,株式会社dに18億円を貸し付けた時点において,そ れがc個人に貸し付けられ,cらが学校法人bの理事に就任するための買収資金(その内訳は,5億円が寄付,10億円が辞める理事への支払,残りが仲介料)として使われることや,大阪市内にあった学校法人bの校地(以下「本件土地」という。)の売却時の手付金から返済されることを認識していた,つまり,c個人の貸金債務を学校法人bの資産によって返済しようとしていることを認識していたから,本件業務上横領の故意及び共謀が認められると主張する。一方,弁護人は,被告人が,株式会社dに貸し付けた18億円について再建費用として学校法人bに貸し付けられると認識していたから業務上横領の故意も共謀も認められないと主張し,被告人もこれに沿う供述をしている。 第2 当裁判所の判断当裁判所は,被告人が本件業務上横領事件について故意があったと認定するには合理的な疑いが残ると判断した。以下,その理由を述べる。 1 前提となる事実関係証拠によれば,次の事実を認めることができる。 ⑴ 被告人は,本件当時,不動産の売買等を行う株式会社aの代表取締役を務めており,同社のマンション用地の仕入れ業務等に関する決裁をする立場にあった。株式会社aは,平成25年頃から東証一部に上場しており,コンプライアンスの問題は当時から大きな関心事であった。なお,被告人は,学校経営に関わったことはなく,本件以外に学校法人の買収に携わったこともなかった。 kは,平成27年7月頃,fの推薦により別の不動産関連会社から株式会社aに転職し,マンション用地の仕入れ業務に携わっていた。 fは,不動産の管理等を行う 学校法人の買収に携わったこともなかった。 kは,平成27年7月頃,fの推薦により別の不動産関連会社から株式会社aに転職し,マンション用地の仕入れ業務に携わっていた。 fは,不動産の管理等を行う株式会社d及び株式会社eの各代表取締役を務めていた。 学校法人bは,n大学及びb高等学校から成り,本件土地を所有していた。 ⑵7年の日時である。), 株式会社aの当時の担当者が,当時の学校法人bの理事等との間で本件土地の取引に関する交渉を行ったが,学校法人bの理事長等にコンプライアンス上の問題があったため,一旦破談となった。被告人は,このことを知っていた。 一方,その頃,学校法人bの経営権を取得したいと考えていたcは,本件土地の資産価値に着目し,「金主から借り入れた買収資金で学校法人bの経営権を取得した後,本件土地を売却し,学校法人bが得る手付金で,金主からの借入金を返済する」というスキーム(以下「本件スキーム」という。)を知人と共に考え出し,このスキームを前提として,金主を探していた。 ⑶ 12月10日頃,kは,知人のiからcを紹介された。その際,cは,kに対し,「学校法人bM&Aについて」と題する書面や,「学校法人b 経営承継に関する覚書」などを手渡して説明した上,株式会社aから18億円を貸してもらえないかと頼んだが,kは,その場で断った。一方,cが,本件土地を61億円で買えるのであれば株式会社aで買付証明書を出してほしいと頼んだことに関しては,kは承認がもらえれば出せる旨伝えた。 なお,「学校法人bM&Aについて」と題する書面には,借入に関して,「22億円を借入」,「新役員の名義変更完了後,学校法人借入」,入金に関して,役員の交替等に関する手続的事項のほか「現金にて22億円をご持参。」 法人bM&Aについて」と題する書面には,借入に関して,「22億円を借入」,「新役員の名義変更完了後,学校法人借入」,入金に関して,役員の交替等に関する手続的事項のほか「現金にて22億円をご持参。」「受付と同時に,学校・元理事長会社へ手渡し。(新理事長にて時間差で,借入証書押印)」,返済方法に関して,「現用地の売却契約を遂行し,その手付金にて返済いたします」などの記載がある。 ⑷ 以上のようなcとのやり取りを受け,kは,12月中旬頃,被告人に対し,本件土地の案件について1回目の説明をした。その際,kは,学校法人bの理事長等のコンプライアンス上の問題については,理事長ら交替により解消する見込みとなったことを説明して本件土地の取引交渉を進めることを持ち掛け,被告人に⑶記載の「覚書」の標題部と署名部分を見せた。 これにより,12月15日,本件土地に関する株式会社a名義の買付証明書が作成された。 ⑸ 平成28年(以下,⒇まではいずれも平成28年の日時である。)1月上旬,kが,fにcらを紹介し,cが本件スキームについて説明した上,fにも金主探しを依頼した。その後,kは,1月16日付けの「学校法人b 取り組みについて」と題する書面を作成し,fと共に金主を探したが,見つからなかった。 「学校法人b 取り組みについて」と題する書面には,上部に三角形の図が書かれており,その右上の頂点には「A社」「M&Aの資金提供」,左上の頂点には「o(新理事長)」「c(新副理事長)」,左下の頂点には「株式会社a」と記載され,左上の頂点から更に左方に伸びた線の先に「学校法人b」との記載がある。三角形の図の下にはスケジュールが記載されており,M&Aによる新理事長就任や新役員の就任等の記載のほか,「新理事長の学校とA社とaにて協定締 更に左方に伸びた線の先に「学校法人b」との記載がある。三角形の図の下にはスケジュールが記載されており,M&Aによる新理事長就任や新役員の就任等の記載のほか,「新理事長の学校とA社とaにて協定締結」「新理事長とA社にて,金銭諸費貸借契約(公正証書)」「銀行からの借り入れ準備開始(土地購入および建替え費用等約20億)」「借入金返済学校法人b 21億→A社」などの記載がある。 また,その頃,kは,学校法人bが,金主となる者(空欄)より借り入れを行ったことを前提とする内容の協定書を作成した。 ⑹ kは,被告人に対し,1月初旬ないし中旬頃,本件土地の案件について,紙に三角形の図を書きながら,2回目の説明をした。 ⑺ 1月20日頃,学校法人bのp理事長への「見せ金」が必要であるとして,cがkとfに対応を依頼したところ,kらは,qを通じて株式会社dの銀行口座の残高証明書を偽造した上,cらに交付した。 ⑻ kは,被告人に対して,1月28日頃,本件土地の案件について,3回目の説明をした。その際,kは,fに18億円を貸すことを被告人に依頼するとともに,fが被告人への面会を希望していることを伝えた(日付の認定に 関しては,後記3⑷参照)。 ⑼ kは,1月29日午前11時頃,知人に対し,「学校法人がお金を借り入れし,学校と貸主が金銭消費貸借(公正証書)を締結しており,返済義務を履行できない場合に貸主が学校法人の所有物等に差し押さえなどを,行使するようなことが起こった場合にどのような対処を文部科学省は行うのか?」といった内容のメールを送った。 ⑽ 一方qは,1月28日の夜に株式会社dの顧問弁護士であるr弁護士に相談資料を送付した上で,翌29日午後3時頃,f及びr弁護士と打合せを行い,本件スキームにつき,株式会社 のメールを送った。 ⑽ 一方qは,1月28日の夜に株式会社dの顧問弁護士であるr弁護士に相談資料を送付した上で,翌29日午後3時頃,f及びr弁護士と打合せを行い,本件スキームにつき,株式会社dが金主として資金を提供することを前提として,その債権の保全方法等につき確認した。この打合せ時には,oが学校法人bを買収すること,株式会社dがその18億円を貸し付けること,貸付時期はoが新理事長に登記されることと同時決済になることなどが前提とされた。また,r弁護士から,oがM&Aに失敗した場合に備えて,18億円の貸付金は,学校法人の口座に入金し,学校法人の貸借対照表等に明記してもらうほか,公正証書の形にすることなどの助言があった。 この打合せの直後,qは,追加の報告として,「新理事長より,学校法人の口座に18億円を振り込んで下さいと回答を得て」いること,学校法人の財務諸表に記載が可能であることなどと記載したメールをr弁護士に送付し,さらに,別の顧問弁護士であるs弁護士からの質問に対し,「弊社関係者が役員にはいることは無理だと思います」「旧役員への退職金名目で出金(支払)致します」などとメールで回答した。 qらは,この打合せの内容を適宜kと共有した上,翌30日,k,q及びfで更に打合せを行った。 ⑾ 2月1日,c,f,q及びkらは,打合せを行い,その際,cが,kらに対し,cがp理事長から学校法人bを買収すること,18億円のうち5億円を寄付金として学校法人に入金するが,3億円はM&Aの手数料として業者 に支払い,10億円はpの会社へ支払うので,寄付金以外は,いずれも学校法人で会計処理はせず,学校法人名で預り証(借用書)を作成して交付することなどを説明した。また,2月15日の理事会でc派の理事が過半数を確保し,同日 pの会社へ支払うので,寄付金以外は,いずれも学校法人で会計処理はせず,学校法人名で預り証(借用書)を作成して交付することなどを説明した。また,2月15日の理事会でc派の理事が過半数を確保し,同日から株式会社dが上記の支払に必要な資金を出金することが協議された。 ⑿ qは,この打合せ後,顧問弁護士とメールで連絡を取り合い,以下のようなやり取りをした。 まず,qから,2月2日に,「2月15日が資金貸与着手ですので,2月14日までに公正証書・金消契約書の作成がMUSTになります」と記載した上で記載した議事録を添付して意見を聞いたところ,r弁護士からは「会計処理がないと厳しい」旨,s弁護士からは,13億円に関しては全くリスクが保全されておらず,全額を学校法人への貸付として会計処理するという前提が大きく崩れているため,本件を進めることには賛成できない旨の回答がなされた。 これに対し,qから,2月5日に「現在,dからの資金を学校法人への入金および会計処理を行うよう先方と交渉中です」と報告した上,2月17日には「先般,途中報告をさせて頂いた内容について,先方から2/22(月)回答受領予定です」「金消契約書・公正証書の作成をお願い致します」などと報告等をしたところ,2月18日に,r弁護士から,株式会社dを貸主,学校法人bを借主とする契約書案を添付した返信メールがあった。 ⒀ 2月22日,c,q,f及びkらは,再度打合せを行った際,qは,手帳に「4月からは(裏)Bを表に出す」などと記載した。 qは,2月23日,「本件の貸し付けに関わる大前提(学校法人への入金)には変更ありません」などと本文に記載したメールに,上記契約書案の支払方法や利息額等を変更した修正案を添付してr弁護士に送信したところ,r弁護士が,翌24日,同修正 関わる大前提(学校法人への入金)には変更ありません」などと本文に記載したメールに,上記契約書案の支払方法や利息額等を変更した修正案を添付してr弁護士に送信したところ,r弁護士が,翌24日,同修正案につき問題がない旨回答し,公証役場への連 絡を打診したが,qがもう少し待ってほしい旨回答した。なお,同契約書につき,qは,3月29日頃まで修正を行っている。 ⒁ fは,2月下旬頃,kと共に,株式会社aで被告人と面談し,被告人に対し,本件土地の案件に関して4回目の説明等を行った。その際,fは,被告人に対し,18億円の融資及びそれを15億円と3億円の2回に分けて送金することを依頼するとともに,fが学校法人bの理事になり,株式会社aに本件土地を売れるようにすること,18億円は本件土地売買の手付金で返済されることを説明した。 ⒂ kは,fに対し,3月16日,「今後のスケジュール」と題する書面を添付したメールを送り,このメールは,間もなくqらに転送された。 これに対し,qからkへ,「説明用スキーム案のご確認お願い致します」と本文に記載されたメールが送られ,上記のkのメールに添付されていた書面を基に作成された3月17日付けの「【学校法人bM&Aスキーム】」と題する書面が添付されていた。この書面は,3月17日に被告人と株式会社dとの間で18億円の金銭消費貸借契約を締結する際に,被告人に対する説明用に作成されたものであった。この書面につき,数回のやり取りがあった後,qがkに,「最終版の予定です」と記載したメールを送り,修正を加えた書面(以下,この最終版を「3月17日付けスキーム書面」という。)を添付した。 3月17日付けスキーム書面には,「dのs顧問弁護士にて金消契約書を公正証書にて締結」と記載の上,「4月11日までに5億円を 以下,この最終版を「3月17日付けスキーム書面」という。)を添付した。 3月17日付けスキーム書面には,「dのs顧問弁護士にて金消契約書を公正証書にて締結」と記載の上,「4月11日までに5億円を学校法人へ支払い(貸付金)」,新理事長名での「登記手続き完了後」「13億円を学校法人へ支払い(貸付金)貸付金合計18億円」という記載がされていた。 ⒃ 3月17日,被告人と株式会社dとの間で,3月22日付けの金銭消費貸借契約が締結され,同日,被告人から株式会社dに15億円が送金された。 ⒄ 4月1日,qとr弁護士の打合せの際,10億円の貸付につき学校法人に連帯保証をさせる旨の話が出たところ,qは,その話を進めたいとr弁護士 にメールで連絡した。それに対し,r弁護士は,「先日のfさんのお話であれば,『学校移設のための資金としての貸付であるために可能』という意見とのことでした。そのまま進めて頂いて良い様に思います」などと回答した。この後,学校法人に連帯保証させる方向で検討され,4月5日には,r弁護士は,qに対し,学校に入金する5億円につき株式会社dを貸主,学校法人を借主とする金銭消費貸借契約書の案を,残りにつき株式会社dを貸主,株式会社lを借主,学校法人bを連帯保証人とする案を,それぞれ添付して送信した。 その後も,qは,fと相談の上,r弁護士とのメールのやり取りを繰り返し,「4月上旬に5億円を学校法人の口座に預け入れ,4月下旬に理事改選後,13億円を株式会社lに貸し付けるが,18億円全額につき,株式会社lへの貸付けとし,学校法人が連帯保証する」というスキームにつき,4月7日,r弁護士の了解を得た。更にcとの交渉も踏まえて,修正を施し,4月10日頃,協定書の内容が確定した。 ⒅ 4月12日,株式会社l,t,c及 校法人が連帯保証する」というスキームにつき,4月7日,r弁護士の了解を得た。更にcとの交渉も踏まえて,修正を施し,4月10日頃,協定書の内容が確定した。 ⒅ 4月12日,株式会社l,t,c及び株式会社dの間で,株式会社dによる株式会社lへの貸付につき,学校法人bを連帯保証人とすることを確約する旨の協定書が締結され,株式会社dから学校法人bの口座に5億円が送金された。 ⒆ 被告人は,株式会社dに対し,4月25日,3億円を送金した。 4月26日には,cとfが理事に就任し,株式会社dから株式会社lに対しては,同日に10億円,翌27日に3億円がそれぞれ送金された。 ⒇ qは,r弁護士との間で,公正証書の作成に向けて準備を進め,4月下旬あるいは5月中旬頃まではcに必要な書類を催促するなどしていたが,結局作成までは至らなかった。 なお,8月中旬頃,合計18億円について,株式会社dを貸主,lを借主とし,学校法人bの理事長と副理事長をそれぞれ連帯保証人とする金銭消費 貸借契約書(4月12日付け)が作成された。 2 検察官の主張検察官は,被告人が,貸付目的について買収,つまり,学校法人bの理事会の議席の過半数を譲り受けることであると認識していれば,個人への貸付と認識していたと認められると主張する。そして,使途やその内訳の認識を,貸付目的や貸付先を認定する上での重要な間接事実と位置付けた上,被告人において,①貸付前に買収資金であるとの説明を受けたこと,②貸付後に買収資金としての貸付を前提とした言動がみられることから,被告人が貸付当時にその目的が買収であると認識し,買収者であるc個人への貸付と認識していたと主張している。 当裁判所は,これらの主張を採用できないと判断したので,その理由を説明する。 被告人が貸付当時にその目的が買収であると認識し,買収者であるc個人への貸付と認識していたと主張している。 当裁判所は,これらの主張を採用できないと判断したので,その理由を説明する。 3 貸付前の説明について(以下,この項では,特に断らない限り,日時は平成28年のものである。)被告人は,k及びfから説明や依頼を受けて,株式会社dに対して18億円を貸し付けたが(以下「本件貸付」という。),検察官は,被告人が,kやfから合計4回の機会に説明を受けており,その際,本件貸付が学校法人bの買収のための資金として使われることなどを説明された旨主張している。 この検察官の主張は,主にkの次のような公判供述に基づくものである。すなわち,kは,c個人が学校法人bの経営権を得るために金主を探しており,借りた金は学校への寄付,辞める人に払う金及び仲介料に使う旨,当初から被告人に説明しており,fも,借入を依頼する際に,被告人に対し,18億円のうち5億円を寄付,10億円を退職する理事への支払,残りを仲介料として使うこと,いずれもc個人への貸付であることを説明していた,学校法人の借入にするという説明はしたことがない旨の供述をしている。 そこで,kの上記供述の信用性について検討する。 ⑴ 学校法人の借入にするという説明はしていないという点についてkは,被告人に対する合計4回の説明を通じて,18億円を貸し付ける相手はc個人である旨説明したが,学校法人の借入にするという説明は行っていない旨供述している。 一方で,前記1⒂のとおり,k,f及びqは,3月16日に,メール等のやり取りを数回交わしながら,被告人への説明用の3月17日付けスキーム書面を作成しているが,この書面には,cに貸付を行う旨の記載は一切なく,むしろ のとおり,k,f及びqは,3月16日に,メール等のやり取りを数回交わしながら,被告人への説明用の3月17日付けスキーム書面を作成しているが,この書面には,cに貸付を行う旨の記載は一切なく,むしろ,「dのs顧問弁護士にて金消契約書を公正証書にて締結」し,「4月11日までに5億円を学校法人へ支払い(貸付金)」,「13億円を学校法人へ支払い(貸付金)貸付金合計18億円」という記載がある。そして,被告人との契約日である3月17日に被告人がこの書面を読んだかは証拠上明らかではないが,この書面は株式会社aの従業員に交付されている。 そこで検討すると,18億円の本件貸付を行うに当たり,その使途について従前と異なる説明を行えば,被告人が契約締結を拒む可能性は容易に想定できるから,3月17日付けスキーム書面は,被告人に対して従前行われた説明内容に沿う形で作成されていると考えるのが合理的である。しかも,この書面を作成する以前に被告人に対して本件土地の案件について説明を行っていたのはkとfだけであり,書面の作成に当たってはkの認識が相当重視されたはずである。実際に書面の作成過程ではqからkに対して短時間のうちに数回の修正案をメールで送信されているところ,そのメールの内容等を踏まえると,kの指示を受けるなどしてqが修文していることが認められるから,kが,この書面に,学校法人への貸付金という趣旨の記載があることを認識していなかったとは認められず,誤って認識とは違う内容が記載されたとは考えられない。そうすると,被告人に対して学校法人に対する貸付を行う旨の説明がなされていない限り,3月17日付けスキーム書面のような内容の書面が作成されるはずはないから,そのような説明をしたことを否定 するk供述は信用できない。この事項は,本件の争点を判断する上で非常に ていない限り,3月17日付けスキーム書面のような内容の書面が作成されるはずはないから,そのような説明をしたことを否定 するk供述は信用できない。この事項は,本件の争点を判断する上で非常に重要な点であるが,通常は勘違いするような事情でもないことから,kが故意に虚偽供述をしている可能性が高いといえる。それゆえ,他の事項に関するk供述の信用性を判断するに当たっては,より一層慎重に検討を行う必要があるというべきである。 ⑵ 被告人への1回目の説明について被告人が,平成27年12月中旬頃,kから,本件土地の取引交渉を進めることを持ち掛けられたこと,その際,学校法人bの理事長等に関するコンプライアンス上の問題は理事長等の交替により解消される旨の説明がされたことは,前記1⑷のとおりである。 kは,これに加えて,その説明の際に,本件土地を手に入れるためにはcが学校法人bを買収するための資金が必要であるから,株式会社aからcに18億円を貸してほしいと被告人に依頼し,併せて18億円の使途が学校への寄付,辞める方に支払う金,仲介料である旨説明したと供述している。 この点,株式会社aの社内で18億円を貸すことを検討したという点については捜査段階のf供述と整合しており,被告人も1回目の説明時に「新しい人が入り込むためのお金」といったフレーズを聞いた覚えがあると供述していることからすると,株式会社aから18億円を貸し付けることを依頼した点については信用することができる。 しかしながら,c個人が買収するための資金を必要としていることやその資金の使途について説明したという点は直ちに信用することができない。 すなわち,3月17日付けスキーム書面には,前記のとおり,学校に対する貸付を前提とする記載しかないことからすると,少なくともどこかの段階 途について説明したという点は直ちに信用することができない。 すなわち,3月17日付けスキーム書面には,前記のとおり,学校に対する貸付を前提とする記載しかないことからすると,少なくともどこかの段階でその旨の説明をkが被告人に対して行っているはずであり,1回目の説明からそのような説明を行っている可能性も否定できない。 また,被告人への1回目の説明がなされた頃のkやcの認識についてみる と,kは,cからの当初の説明の際,「学校法人bM&Aについて」という書面を交付され,その後,自身の認識を基に1月16日頃に「学校法人b 取り組みについて」という書面を作成しているが,これらの書面の記載をみると,学校法人bに債務を負担させることを前提とするように読める部分がある(前記1⑶⑸)。その上,kは,1月中旬から下旬にかけ,自身でも学校法人bを借主とする協定書を作成したり(前記1⑸),学校法人が借主となることを想定した内容の相談をしたり(前記1⑼)もしている。一方,cも,当初の説明について,自分も学校の借入にできると考えていたと公判で供述している。以上からすると,kは,1月下旬頃までは,18億円につき,学校が借り入れる,あるいは学校が債務を負担するものであると認識していた可能性があり,少なくとも,貸付先について明確に個人と学校を区別した上で個人に貸し付けると認識していたとは認められない。そして,そのようなkの認識や,上記のcの認識等を踏まえると,cが,kに対し,当初の説明の際に,学校ではなく個人に対しての貸付であると明確に説明したとは考えにくい。むしろcが,巨額の借入を依頼する立場だったことからすると,借入を実現する可能性を少しでも高めようとするのが自然であり,実現できるかはともかく,借入の主体を個人ではなく学校として説明することは十分あり しろcが,巨額の借入を依頼する立場だったことからすると,借入を実現する可能性を少しでも高めようとするのが自然であり,実現できるかはともかく,借入の主体を個人ではなく学校として説明することは十分あり得るし,あえて個人への貸付であると説明することは不自然ともいえる。そうすると,c個人への貸付であることを前提として被告人に説明したというkの供述は,当時のkやcの認識と整合するものではなく,信用できない。 また,kが初めての取調べの内容を記載したメモには「学校再建の為の売収資金を貸してほしい」と説明した旨の記載があり,1回目の説明時に学校再建の点を強調する形で資金が必要であることを説明していた可能性も否定できない。18億円の具体的な使途についても,説明したことを裏付ける証拠はなく,直ちに信用することはできない。 これに対し,検察官は,kが被告人に説明する際に「学校法人b経営承継 に関する覚書」を示したことによって,本件スキームの内容を被告人に説明したというk供述が裏付けられると主張するが,その覚書を示したのは,あくまで理事が交替してコンプライアンス上の問題がなくなったことを説明する前提として,標題部等を一瞥させたにすぎないとも言い得るから,検察官の主張は採用できない。 また,fの捜査段階の供述調書には,fが,株式会社aからcに買収資金を貸すことができないとkから説明された旨の記載があるが,前記のようにk自身が明確にc個人が借主と認識していたかに疑問がある上,事実としてはcがkに金主探しを依頼していることから,その旨を簡略にfに伝えただけとも考えられることからすると,fの上記供述がk供述の十分な裏付けになるとはいえない。 ⑶ 被告人への2回目の説明について被告人が,1月初旬ないし中旬頃,kから,紙に三角形の図を書きながら,本 とも考えられることからすると,fの上記供述がk供述の十分な裏付けになるとはいえない。 ⑶ 被告人への2回目の説明について被告人が,1月初旬ないし中旬頃,kから,紙に三角形の図を書きながら,本件土地の案件について説明を受けたことは前記1⑹のとおりである。kは,この三角形の図について,kの使用していたノートに記載したものであると供述しているところ(以下,この図を「ノートの図」という。),ノートの図は,3つの丸がそれぞれ何重かの線でつながれており,三角形の一番上の丸に「個」,左下の丸に「aの一文字目」の文字が書かれていて,右下の丸は空欄になっており,「個」の左横に「bの一文字目」の文字が書かれているほか,⑩,②,2人,3,1.5,1.5といった数字が記載されている。そして,kは,ノートの図の記載内容を踏まえながら,「個」はc個人を,「aの一文字目」は株式会社aを,「bの一文字目」は学校法人bをそれぞれ示しており,右下の丸は金主だがまだ見つかっていないので何も書かれていない,c個人が金主を探しているが,見つかれば学校法人bに入れるので,本件土地を株式会社aに売ってもらえるといった趣旨の説明を被告人にした旨供述している。 これに対し,被告人は,kから説明を受けた際の三角形の図は,ノートの図とは大きさや書きなぐっている点,数字が入っている点などが異なっている,図はノートではなくミーティングテーブルに置いてあるメモ用紙に書かれた記憶の方が強い,kに本件土地取引の進捗状況を尋ねたところ,スポンサーがまだ見つかっていないと説明したので,報告する以前の問題で案件として進める段階にもなっていないと考えたため,何のスポンサーなのか,その金額や使途なども聞かず,一,二分で話を終えた旨の供述をしている。 そこで検討すると,ノートの図には 報告する以前の問題で案件として進める段階にもなっていないと考えたため,何のスポンサーなのか,その金額や使途なども聞かず,一,二分で話を終えた旨の供述をしている。 そこで検討すると,ノートの図には,c個人とされる「個」と金主とされる空欄の丸を結ぶ線上に⑩及び②の記載があるほか,その右側には「3」,その下に「1.5」を二つ並べて丸で囲った記載があり,これらはcと金主とに関係する金額に関わるものと推測される。そして,2回目の説明がなされた日は,本件土地取引の進捗状況の確認が行われていたのであり,被告人に対して本件貸付を求めていたわけではないことからすると,kが被告人に対してこのようなcと金主との間の細かな数字を説明する必要があるとは考えられず,kも,これらの数字の意味について何ら説明ができていない。そうすると,ノートの図が2回目の説明時に用いられたとするk供述は疑問があるといわざるを得ない。 また,三角形の図を用いたという限りでは,kと被告人の供述は一致しているが,その図に「個」の記載があったかを含め,どの程度の記載がなされていたかは判然とせず,c個人の貸付である旨が説明されたことを裏付けるまでの事情ということはできない。 以上によれば,2回目の説明において,c個人が金主を探している旨説明したというk供述は直ちに信用することはできない。 もっとも,被告人は,2回目の説明時に,kから,スポンサーが見つかっていない旨の説明があったことを認めていることからすると,1回目の説明時に貸付を求めていた関係の金主が見つかっていないことを説明した限度で, k供述を信用することはできる。 ⑷ 被告人への3回目の説明について被告人が,2回目の説明の後,kから,fへの本件貸付を依頼されるとともに,fの面会希望を伝えられた点は前記1⑻のとおり k供述を信用することはできる。 ⑷ 被告人への3回目の説明について被告人が,2回目の説明の後,kから,fへの本件貸付を依頼されるとともに,fの面会希望を伝えられた点は前記1⑻のとおりである。 kは,この3回目の説明について,2月中旬頃,fから,見つかっていなかった金主に自分がなってcに貸し,cと共に学校法人bの理事になって本件土地の契約を必ずまとめるから,被告人からfに金を貸してもらえないかという提案があり,その後間もなく,被告人に対してそのことを伝えた旨供述している。 そこで検討すると,株式会社dは金主となるために必要な18億円の資産がなかったにもかかわらず,前記1⑼⑽のとおり,1月28日の夜以降,qがr弁護士らに相談するなどして株式会社dが金主となった場合の債権の保全方法等について急に検討を始め,その情報をkも共有していたこと,2月1日のc,f,q及びkらの打合せ(前記1⑾)では,その2週間後である2月15日に株式会社dが出金する前提で協議がなされており,2月2日にqからr弁護士に送られたメールにも,「2月15日が資金貸与着手ですので,2月14日までに公正証書・金消契約書の作成がMUSTになります」と記載されていることからすると,1月28日時点では株式会社dに対する資金提供者の目途がついていたとみるべきである。そして,この時点では,以前に金主となるよう打診していた知人の会社からも断られていたことからすると,株式会社dに対する資金提供者として被告人が想定されていたとしか考えられない。そうすると,3回目の説明の時期については,被告人が公判で述べていたように1月28日頃と考えられ,2月中旬頃というk供述は信用できない。 また,説明時期が1月28日頃であったとすると,その時点ではfが学校法人bの理事になるという話は は,被告人が公判で述べていたように1月28日頃と考えられ,2月中旬頃というk供述は信用できない。 また,説明時期が1月28日頃であったとすると,その時点ではfが学校法人bの理事になるという話は客観的証拠には何ら表れておらず,むしろ1 月29日にqがs弁護士らに送ったメールでは,株式会社dの関係者が学校法人bの役員に入るのは無理という内容の記載がある(前記1⑽)。そうすると,kが被告人に対してfへの融資を依頼した時点で,fが学校法人bの理事になるという話をしたというk供述も客観的事実と整合せず信用できない。 もっとも, 1回目及び2回目の説明の経過を踏まえると,3回目の説明時に,fがそれまで問題となっていた18億円の金主になった旨被告人に説明したことに限れば,k供述は信用することができる。 ⑸ 被告人への4回目の説明について被告人が,2月下旬頃,fから,本件貸付について,15億円と3億円に分けて送金を依頼されたことや,その際,fが学校法人bの理事になって本件土地を株式会社aに売れるようにし,18億円は本件土地売買の手付金で返済されると説明されたことは前記1⒁のとおりである。また,被告人,k及びfの供述を踏まえると,被告人が出す資金により理事が交替するとの説明を受けたことも認められる。 kは,これに加えて,4回目の説明の際,fが,被告人に対し,18億円の使途・内訳について,5億円が寄付,10億円が退職する理事への支払,残りが仲介料であることや,貸付先がcであることを説明した旨供述している。 そこで検討すると,検察官は,fが18億円の使途を説明したとの点が,15億円と3億円に分けて送金を依頼したことや3億円の送金時期が流動的であったことと整合すると主張する。しかしながら,そのような点から,kが供述するような3つの使途 8億円の使途を説明したとの点が,15億円と3億円に分けて送金を依頼したことや3億円の送金時期が流動的であったことと整合すると主張する。しかしながら,そのような点から,kが供述するような3つの使途が説明されたとみるのは,かなり飛躍があるといわざるを得ず,供述の信用性を裏付ける根拠としては十分といえない。 また,4回目の説明後にkやfらが作成した3月17日付けスキーム書面には,学校に対する貸付を前提とする記載しかなされていないが,この書面が,被告人への説明用として作成され,株式会社a側に交付もされているこ とからすると,その直近になされた被告人に対する4回目の説明は,3月17日付けスキーム書面の内容に沿う形で行われたものと考えられる。よって,株式会社dの貸付先がcであると説明したというk供述も信用できない。 これに対し,検察官は,貸付先をcと説明したことが,2月1日のcとの打合せを踏まえて学校貸付にできないとfが認識していたことと整合すると主張する。確かに,kにおいて,2月1日の打合せで,cから,貸付の目的や具体的な使途を知らされ,一旦は学校法人での会計処理をしないと伝えられたことからすると,それ以降は,fも含め,学校の債務にできない可能性を全く認識していなかったとはいい難い。一方で,kらは,当時18億円全額を学校に入金させるべく,cと交渉を続けていたとも認められる。とりわけ,fの会社で実務を担当していたqは,f及びkと情報を共有しながら,2月2日以降も株式会社dの顧問弁護士と相談等のやり取りを重ねており,その内容は2月4日頃cらに改めて学校法人bへの入金を申し入れたというfの供述と整合する。また,その申入れの回答期限とされた2月22日の打合せで「4月からは(裏)Bを表に出す」などとqが記載した内容は,本件貸付に係る資金を 改めて学校法人bへの入金を申し入れたというfの供述と整合する。また,その申入れの回答期限とされた2月22日の打合せで「4月からは(裏)Bを表に出す」などとqが記載した内容は,本件貸付に係る資金を今後学校法人bの債務として会計処理を行う予定である旨をcが説明したものとみても矛盾せず,cがこの時点でも学校法人bの債務負担を否定していなかった可能性が十分考えられる。そうすると,少なくとも,qが学校を債務者とする契約書を最終的に修文した3月29日頃までは,可能性の大小はともかく,fらが学校への入金を念頭に入れて行動していたというべきである(前記1⑿⒀)。なお,qは,2月1日以降は学校入金を諦めており,fの指示で顧問弁護士には嘘の報告をしていた旨を述べるが,その後の顧問弁護士とのやり取りの内容や頻度等の客観的な言動等とは整合しないというべきである。それに加えて,株式会社dの保全の観点も考慮すると,qは,顧問弁護士に嘘をついた理由や,形だけの契約書等が必要だった理由も合理的に説明できておらず,およそ入金ができないと認識していたと 述べる点は信用できない。qは,その後も,学校が連帯保証する旨の公正証書を作成するため,顧問弁護士に相談したり,cに必要な資料(理事会等の議事録)を提出させようと再三促したりもして,調整を続けていたと認められる(前記1⒄⒇)。このような客観的な言動を踏まえると,fらが,2月1日の打合せ後も,形式だけでなく,実質的に学校法人bに債務を負担させられると考えていたとしても決しておかしくなく,その実現に向けて尽力していたと認められる。よって,貸付先をcと説明したことが,学校貸付にできないとfが認識していたことと整合するという検察官の主張は採用できない。 さらに,kやfが個人貸付の可能性を認識した後でも,説明時に自身の められる。よって,貸付先をcと説明したことが,学校貸付にできないとfが認識していたことと整合するという検察官の主張は採用できない。 さらに,kやfが個人貸付の可能性を認識した後でも,説明時に自身の認識を被告人にそのまま伝えたとは限らないし,それまでの経緯を踏まえると,伝えていない可能性も十分考えられる。すなわち,kとfは,cからの依頼で,1月20日にp理事長らへの「見せ金」として株式会社dの残高証明書の偽造にまで及んでおり(前記1⑺),少なくともその頃以降は本件スキームの実現を強く欲していたと認められる。これは自己の利益のためには手段を選ばない姿勢の現れとみることができる。このように,kは自身の業績のため,fは巨額の報酬のために,それぞれの利益を優先して本件スキームを実現させようとして,被告人に説明をする場面でも,本件貸付が実現できなくなるような不利な情報,すなわちコンプライアンス違反が疑われかねない使途の詳細については,あえて知らせなかった可能性が十分に認められる。 ⑹ kの供述経過についてさらに,kの公判供述については,捜査段階からの経過をみると,その核心部分について看過できない変遷が認められる。 kは,逮捕前の任意取調べ(令和元年10月29日)では,被告人に対してcに貸し付ける旨の話をしたなどと述べたが,逮捕後の当初の取調べでは,そのような話は被告人にしておらず,その使途は再建費用と説明した旨供述した(1回目の変遷)。その後,同年12月10日以降,cに貸し付ける旨の 説明をしたと再び供述するようになり(2回目の変遷),公判でも同内容を述べている。 検察官は,kの当初の供述について,第三者の影響が皆無であり,客観証拠等とも整合するため,高度の信用性が認められるとし,その後の1回目の変遷は株式会社aの社内での口裏 判でも同内容を述べている。 検察官は,kの当初の供述について,第三者の影響が皆無であり,客観証拠等とも整合するため,高度の信用性が認められるとし,その後の1回目の変遷は株式会社aの社内での口裏合わせが原因であり,更に後の2回目の変遷は弁護人との接見等を踏まえて真実を話すこととして当初の供述に戻ったというものであるから,いずれの変遷理由も合理的で不自然なところはないと主張する。 しかし,当初の供述の内容が客観証拠等と整合しないものであることは前記のとおりであり,そもそも信用性が疑わしい。そうすると,1回目の変遷につき口裏合わせの圧力があったとの主張を踏まえても,2回目の変遷について合理的な理由があるとは認められない。 なお,kは,令和元年12月9日に取調べを受けた際,被告人には,c個人への貸付であることは言っておらず,移設という意味での建替え費用として18億円が学校に入りますとしか言っていないなどと供述していたが,このようなkに対し,取調べ担当検察官が,cに貸す金であることを隠し,あたかも学校に出すかのようにしているということだから確信的な詐欺である,今回の事件で果たした役割は,共犯になるのかというようなかわいいものではない,株式会社aの評判を貶めた大罪人である,今回の風評被害を受けて会社が被った損害を賠償できるのか,10億,20億では済まない,それを背負う覚悟で話をしているのか,などと発言したことが認められる。このような検察官の発言は,kに対し,必要以上に強く責任を感じさせ,その責任を免れようとして真実とは異なる内容の供述に及ぶことにつき強い動機を生じさせかねない。そうすると,検察官の上記発言が,その後にみられた変遷の一因になった可能性を否定することができず,2回目の変遷以降の供述内容の真実性については疑いが残る。 つき強い動機を生じさせかねない。そうすると,検察官の上記発言が,その後にみられた変遷の一因になった可能性を否定することができず,2回目の変遷以降の供述内容の真実性については疑いが残る。 ⑺ 小活以上を踏まえると,本件貸付前に,被告人に対し,本件貸付にかかる18億円が株式会社dからc個人に貸し付けられることや,その使途を具体的に説明したというk供述は信用できない。 4 貸付後の言動について検察官は,本件貸付後に,①被告人が18億円が費消されたことを前提とする言動をしていたこと,②平成29年6月にkが被告人に示した資料にlの記載があったこと,③学校貸付であれば,より簡便な回収方法があるのに迂遠な方法を選んだことをもって,被告人が貸付時点で,買収資金としてcに貸すと認識していたことを裏付ける旨主張していると解される。 ⑴ 18億円が費消されたことを前提とする言動について検察官は,被告人が,返済期限の延長依頼に応じたこと,学校移転がなくなった後も手付金の増額に応じるなどしたこと,反社会的勢力とのつながりを指摘されながら本件土地の取引を強行したことや,令和元年7月頃の報道について特に対応しなかったことを指摘している。 しかし,これらの事実は,貸付時点における被告人の認識に関する検察官の主張と整合し得るものではあるが,そのような被告人の認識を推認させたり,強く裏付けるものとまでは認められない(検察官も,主に被告人供述を排斥する理由として主張しているものと考えられる。)。 ⑵ kが示した資料にlの記載があったことについて検察官は,kが,平成29年6月頃,被告人らと打ち合わせた際に用いたk作成の資料(以下「パターン図」という。)には,cへの貸付を意味するlの記載があり,これを被告人に見せたのは,貸付時点 て検察官は,kが,平成29年6月頃,被告人らと打ち合わせた際に用いたk作成の資料(以下「パターン図」という。)には,cへの貸付を意味するlの記載があり,これを被告人に見せたのは,貸付時点で,被告人に対して,買収資金としてcに貸す旨説明していたことを裏付けると主張する。 「パターン図」は,「Y」,「f(d)」,「l・b」,「a」などがそれぞれ四角の枠で囲われ,上から順番に縦に並べられるなどした図が5つ(パターン 1から4までで,「パターン4」の図が2つある)書かれたものであり,その内容は,本件貸付及び本件土地の売買契約に関するものと認められる。そして,各図には,売買契約の手付金の保全方法に関する記載のほか,一番下には「銀行には分かる可能性がある」又は「銀行には分からない」との記載があること,この図を添付した報告のメールがkから株式会社aの顧問弁護士に送られていることからすると,kがこの「パターン図」を用い,風評被害の防止や保全方法の検討などを目的とする打合せが行われたことが認められる。 ところで,「パターン図」の「b」と「f(d)」との間に「l」の記載がある点については,fが学校法人bに直接貸し付けたことと整合しないようにも読めるし,貸付先が学校法人bであると被告人に説明し,株式会社lについて全く説明していなかった場合,それをあえて被告人が見ることになる資料に記載するのは不自然といえなくもない。 しかしながら,この打合せは,本件土地取引に関する風評被害や,学校法人bとの間に株式会社eを入れた場合の保全リスク等を検討することを主な目的にしていたところ,主なテーマに関わりのない株式会社dの貸付先につき,kが,被告人への従前の説明内容との整合性を深く考えず,当時の自身の認識をそのまま記載したにすぎないという可 討することを主な目的にしていたところ,主なテーマに関わりのない株式会社dの貸付先につき,kが,被告人への従前の説明内容との整合性を深く考えず,当時の自身の認識をそのまま記載したにすぎないという可能性も否定できない。また,図中の「l」は「b」と同じ四角の枠に収まっており,必ずしも異なる主体とは捉えられていないようにも理解し得る。そして,株式会社lはcの会社であり,本件貸付に係る資金は,後記のとおりc側から理事の交替に関連して必要となるものと説明がされていたと認められる以上,最終的には学校法人bの債務となるが,一旦は窓口としてcの会社が資金を受領するにすぎないなどと合理的に説明する余地は十分あることを踏まえて,実際にも株式会社lに貸し付けられていたことから,kが記載したとも考えられる。 一方,上記打合せでは,k供述を前提としても,本件貸付の返済について は返済されるか継続されるかという点に言及された程度で,返済方法が具体的に検討されたとは認められないから,被告人にとっても,打合せの主なテーマであった本件土地の売買契約に直接関係しないlの記載について,気にしなかった可能性は否定できない(パターン図には手書きで書き込まれた部分があるが,その記載内容からして全てが同じ機会に記載されたとは考え難いし,lの記載付近に手書きで線が引かれた部分についても,例えば,kがf等と話をしながら記載した可能性も時期的に十分考えられ,上記の打合せ時に記載されたものと認めるに足る証拠はない。)。また,被告人は,fを信頼して本件貸付を行っていたこと,パターン図が少なくとも最終的には学校法人bの債務になっているようにみえるものであることを踏まえると,lの記載を被告人が問題視しなくても不合理とまではいえない。 そうすると,パターン図に「l」と記載されている 少なくとも最終的には学校法人bの債務になっているようにみえるものであることを踏まえると,lの記載を被告人が問題視しなくても不合理とまではいえない。 そうすると,パターン図に「l」と記載されていることをもって,被告人の個人貸付の認識が裏付けられるということはできない。 ⑶ より簡便な回収方法があるのに迂遠な方法を選んだことについて前記のとおり,この打合せは,本件土地の売買契約に関わる風評被害の回避と保全方法について検討することを主なテーマとして実施されたものであり,本件貸金の回収方法を具体的に検討していたとは認められない(前記のとおり,パターン図の手書き部分は回収方法を検討した根拠にはなり得ない。)。したがって,被告人が本件貸金の回収方法について,検察官が主張するような簡便な方法を検討しなかったからといって,被告人の個人貸付の認識が裏付けられるものとはいえない。 5 以上を踏まえると,本件貸付前に,k又はfが,被告人に対し,本件貸付にかかる18億円が株式会社dからc個人に貸し付けられることや,その使途を具体的に説明したとする検察官の主張は採用できない。 もっとも,kが,当初から「学校法人bM&Aについて」に基づく説明をcから受けていたことや,本件土地取引を進めるに当たり問題とされていた理事 長らが交替することを説明する必要があったこと,1回目の説明時に被告人に対して株式会社aから18億円を貸し付けるよう依頼したことを踏まえると,kが,被告人に対し,cらが,理事長らの交替のために資金を必要としている程度の説明はしていたと考えるのが自然である。 6 故意の有無について以上のとおり,被告人は当時,本件貸付に係る資金が,学校法人bの理事が交替するために必要となることを認識していたが,その具体的な使途について ていたと考えるのが自然である。 6 故意の有無について以上のとおり,被告人は当時,本件貸付に係る資金が,学校法人bの理事が交替するために必要となることを認識していたが,その具体的な使途についての認識は立証されていない。これを前提として,被告人に故意が認められるかを検討する。 検察官は,この点に関し,「買収」とは「学校の理事会の議席の過半数を理事長から譲り受けること」であるから,そのための資金であればおよそ学校の債務になり得ず,したがって横領の故意が認められると主張する。 しかし,貸付に関し,理事が交替するために必要な費用を学校法人が債務負担することや,一旦個人に貸し付けた後に学校法人が債務を適法に負担することは,その貸付の具体的な使途次第であり得るといえ,これらの場合に学校法人の財産によって弁済することは何ら違法ではないと考えられる。そして,学校法人の関係者や学校法人の買収に詳しい法律の専門家等であればともかく,そうではない一般人としては,理事が交替するために必要な資金であることを認識していたとしても,具体的な使途が分からなければ,それだけで,およそ学校の債務になり得ないとまでは考えないであろうし,学校の債務にならない可能性を疑うべきというのも酷である。 この点,被告人においては,学校法人の買収に詳しい上記のような者ではなく,kらを通じて,理事が交替するために必要な資金であると説明されたにすぎず,検察官が主張するような「買収」の具体的な使途を正確に理解できていたと認めるに足る証拠はない。それに加えて,kらの説明時の認識に基づき,基本的には学校法人bへの貸付である,あるいは最終的に学校法人bに債務を 負担させる資金であるなどと説明されていたことがうかがわれるのである。 そうすると,被告人が本件貸付後の株式会社dの貸付 的には学校法人bへの貸付である,あるいは最終的に学校法人bに債務を 負担させる資金であるなどと説明されていたことがうかがわれるのである。 そうすると,被告人が本件貸付後の株式会社dの貸付につき,当時,学校法人bの債務になると認識していても何ら不合理ではなく,逆に,学校法人bの債務にならない可能性があると認識していたというには合理的な疑いが残る。 このような被告人については,本件の故意が認められないというべきである。 7 結論以上によれば,被告人に本件業務上横領事件についての故意があったと認めるには合理的な疑いが残り,前記公訴事実について犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。 令和3年10月28日大阪地方裁判所第14刑事部裁判長裁判官坂口裕俊裁判官湯川亮裁判官若園怜
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