神戸地方裁判所平成14年11月11日判決平成13年(わ)第1480号傷害被告事件 主文 被告人を懲役1年に処する。 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成12年5月16日ころの午後8時ころ,神戸市a区bc丁目d番e号先歩道上において,些細なことから口論となったA(当時49歳)に対し,手でその上腕部を押さえ,足でその左足甲部分を踏みつける暴行を加え,もって,同女に対し,加療約2か月間を要する左足第4中足骨骨折の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)ー括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号ー省略(補足説明)弁護人は,被告人は本件公訴事実記載の日時場所において被害者Aと口論になったことはあるが,同女に対し一切暴行は加えていないから無罪である旨主張し,被告人も当公判廷においてこれに沿う供述をするところ,前掲関係各証拠によれば,判示事実を認めることができるのであるが,その理由について補足して説明を加える。 被害者Aの当公判廷における供述中には,「平成12年5月15日午後8時ころ,判示歩道上において,被告人から手でその上腕部を押さえられ,足でその左足甲部分を踏みつけられる暴行を受け,判示の傷害を負わされた。」旨の供述部分(以下,「被害者供述核心部分」という。)があるところ,前掲捜査報告書2通(医師D作成の診療録及びその翻訳文付きの診療録各添付のもの。検察官証拠請求番号26,27。以下,同じ)によれば,平成12年5月17日AはD整形外科のD医師の診察を受けたこと,同医師作成の診療録には,「同女が,昨日(同月16日)午後9時30分ころ他人に左足背部を踏まれて受傷した」旨 27。以下,同じ)によれば,平成12年5月17日AはD整形外科のD医師の診察を受けたこと,同医師作成の診療録には,「同女が,昨日(同月16日)午後9時30分ころ他人に左足背部を踏まれて受傷した」旨の記載があること,同日撮影されたレントゲン写真には左足第4中足骨骨折(俗にいう骨のヒビ)を示す所見があることが認められ,これらの事実は,受傷した日時についてはともかくも,大筋で前記被害者供述核心部分の信憑性を強く裏付けていると評すべきである。また,Cは犯行現場付近で夫とともに理髪店を営む者であるが,同人は当公判廷において,平成12年5月中旬ころの午後7時ないし8時ころ,閉店後,犬の散歩に出掛けた夫を待つうち,被害者とBの二人が,「ちょっと入れさせてちょうだい,怖いから。」などと言いながら店に入ってきた,被害者は,「そこで男に足を踏まれた,足が痛い。」と言っていた旨供述するところ,同人の公判供述は,その供述内容,供述態度等に照らし,信用性の高い供述というべきであり,同証言もまた,被害者供述核心部分の信憑性を裏付けていると認められる。さらに,関係証拠によれば,被告人は本件犯行後の平成12年8月中旬ころ,被害者から本件犯行により受傷した旨なじられ追及されるや,その場で被害者に対し侘び料として2万円を支払い,その後の示談協議により金20万円を毎月1万円ないし5000円ずつ支払う旨約束し,同月22日に1万5000円,同年9月5日に1万円の支払をするなど,合計4万5000円を支払ったこと,その後,領収証を書いてくれないこと等を契機として,被告人が,暴力団員風の男を同道して金員を要求する被害者は当たり屋ではないか,どれだけ払えば気がすむのかなどと反撥して,約束した金員の支払を拒絶した経過が認められるところ,これらの事実は,被告人に少なくとも被害者の主張す を同道して金員を要求する被害者は当たり屋ではないか,どれだけ払えば気がすむのかなどと反撥して,約束した金員の支払を拒絶した経過が認められるところ,これらの事実は,被告人に少なくとも被害者の主張する被害事実を積極的に否定する材料のなかったことを示す事実であるとともに被害者供述核心部分の信憑性を裏付けるものである。また,前記事実に照らすと,被害者の足を踏みつけたことはない旨の明確な記憶があるとする被告人の公判供述は信用できない。さらに,被告人の前掲各供述調書中の「はっきり被害者にけがを負わせたという覚えがないのに金を払うのがばかばかしくなった。」旨の供述部分(17)や「被害者を追いかけた後のことは,被害者に対して怒りがこみ上げカッカしていたこと,酒を飲んでいたことで余計に気持ちが高ぶっていたこともあってよく覚えていないが,被害者がはっきり覚えているのであれば自分が暴力をふるったことは十分考えられる。もめた際にカッとなって足を踏みつけてしまったかもしれない。」旨の供述部分(16)の信用性はいずれも十分であるところ,これらの供述部分もまた,被害者供述核心部分の信憑性をある程度裏付けるものである。 弁護人はAの公判供述は信用性がない旨主張するところ,同人の公判供述全体を子細に検討すると,確かに,「3分から5分もの長い間ずっと足を踏まれ続けた」「同年8月12日に要求しないのに被告人は金をくれた」「平成10年2月6日の左足第5中足骨骨折は自然に折れたもので,医者が勝手にレントゲンを撮って判明した怪我である」とする供述部分など,随所に不自然な供述部分があり,その意味では,弁護人が主張するように,同人の公判供述には容易に信用し難い部分のあることは否定し難い。受傷した日時についての同人の供述について検討すると,同人は,平成12年5月15日に受傷し,一 ,その意味では,弁護人が主張するように,同人の公判供述には容易に信用し難い部分のあることは否定し難い。受傷した日時についての同人の供述について検討すると,同人は,平成12年5月15日に受傷し,一日我慢して,同月17日に前記診察を受けたと供述するが,前記診療録には明確に「昨日受傷した旨Aが訴えた。」旨の記載があることに照らすと,その信憑性は十分ではなく,受傷日は平成12年5月16日である可能性が高いと認められるのである。しかしながら,前記のとおり,被害者供述核心部分は,他の証拠によってその信憑性が支えられているというべきであるから,同人の被害届が受傷から約27日後に至ってはじめてなされたこと,D整形外科への通院が,5月17日の初診後,6月10日,同月12日,同月13日,同月14日の4回に止まっていること,被害者にはD整形外科への多数回にわたる多彩な通院歴があること,平成12年8月中旬以降,被害者が暴力団員風の男を同道し,あるいは虚言を弄するなどして示談金名下に被告人から多額の金員の支払を受けようとした経過等についても十分に吟味し,加えて,Aの公判供述の信用性判断の資料として採用した同人の捜査段階における供述調書(34ないし38)により認められるその供述経過を検討してもなお,被害者供述核心部分の信用性は揺るがないというべきである。 弁護人は,Bが公判供述において,犯行当日は被害者が被告人から足を踏まれたことに気付いていないと述べていることや,C公判供述によると被害者が足を踏まれて痛いとCに対し述べたというのに,Bがそのようなことはなかったと明言していることに照らすと,被害者供述核心部分の信用性はない旨主張するが,Bの公判供述はやや信憑性に欠ける部分が多いと評すべき供述であって,弁護人が指摘する前記供述部分の信用性も十分ではないから,弁 していることに照らすと,被害者供述核心部分の信用性はない旨主張するが,Bの公判供述はやや信憑性に欠ける部分が多いと評すべき供述であって,弁護人が指摘する前記供述部分の信用性も十分ではないから,弁護人の主張は採用できない。また,弁護人は,前記の,平成12年8月中旬以降,被害者が暴力団員風の男を同道して被告人に多額の金員の支払を要求した際に,被害者は友人から金員を借りて治療費を支払ったなどという明白な虚言を弄しているから,被害者の供述は信用性がないというが,前記のとおり,弁護人主張の虚言を被害者が弄した事実は認められるし,そのことが被告人にいったん約束した示談金の支払を拒絶させる契機となったものとは認められるものの,そのことにより被害者供述核心部分の信用性を失わせるものとはいえない。さらに,弁護人は,仮に被害者供述の信用性が認められるとしても,被告人に故意がないというが,前掲関係各証拠によれば,被告人に少なくとも暴行の故意のあったことは優に認められる。 以上のとおり,前掲関係各証拠によれば,判示犯罪事実は優にこれを認めることができるから,弁護人の主張は理由がない。 (法令の適用)罰条刑法204条刑種の選択懲役刑を選択宣告刑懲役1年刑の執行猶予刑法25条1項(3年間猶予)訴訟費用刑事訴訟法181条1項ただし書(負担させない。)(量刑の理由)本件は,被告人が突然初対面の女性被害者の肩に手を回したため同女と口論となり,その場を立ち去ろうとした被害者を追いかけ同女に対し判示の暴行を加え傷害を負わせた傷害の事案であるところ,その犯行の動機は身勝手なものであって斟酌すべき事情は認められず,その犯行態様も一方的かつ理不尽なものである上,傷害の結果も重く,前記のとおり4万5000円を支払った以外 せた傷害の事案であるところ,その犯行の動機は身勝手なものであって斟酌すべき事情は認められず,その犯行態様も一方的かつ理不尽なものである上,傷害の結果も重く,前記のとおり4万5000円を支払った以外被害弁償しておらず,加えて,公判段階に至っても,被害者が当たり屋であるとして,被害者にけがをさせたことはない旨主張するなど反省の態度が見られないこと,粗暴犯による罰金前科が4犯あることを併せ考慮すると,被告人の刑事責任は軽視しがたいが,前認定のとおり,被害者の犯行後の示談金要求は虚言を弄するなど不適切なものであり,それが契機となって被告人が前記のような態度をとるに至ったものと窺われること等被告人のために酌むべき事情も十分に考慮して,主文のとおり量定した上,その刑の執行を猶予することとした次第である。 よって,主文のとおり判決する。 平成14年11月11日神戸地方裁判所第11刑事係甲裁判官杉森研二
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